【実施例】
【0036】
以降、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0037】
(実施例1)
アルミニウム塊189.49gと、スカンジウム塊210.51gとを真空アーク溶解炉(真空冶金社製、AME−300型)により溶解合金インゴット(原子パーセント比でAl:Sc=60:40)とした。次に、この合金塊をアトマイズ法による粉末製造装置(日新技研社製、NEV−GP5T型)に入れ、アルゴンガス雰囲気下にて、アルミニウム−スカンジウム合金粉末を作製した。この合金粉末は、150μm以下の粉末であり、SEMによる直接観察における平均粒子径は約20μmであった。次に、この合金粉末を黒鉛製金型に詰め、5MPaで予備加圧し圧粉体を作製した。この圧粉体を、金型とパンチで密閉されたまま、放電プラズマ焼結機(SPSシンテックス社製、SPS9.40MK−VIII型)に移し、放電プラズマ焼結を行った。焼結温度は950℃、加圧力は65MPa、焼結時の真空度は、5Pa以下とし、保持時間は無しとした。これにより、得られた焼結体の表面研摩を施して、合金ターゲットを得た。
【0038】
(比較例1)
アルミニウム塊22.88gと、スカンジウム塊25.42gとをそれぞれ秤量し、これを真空アーク溶解炉(真空冶金社製、AME−300型)に入れ、アルゴン雰囲気にて、溶解合金インゴット(原子パーセント比でAl:Sc=60:40)を得た。これを放電加工にて切り出し、表面を研摩して合金ターゲットを得た。
【0039】
実施例1と比較例1のターゲットは、いずれも原子パーセント比でAl:Sc=60:40の組成を有し、状態図から共晶組成であり、理論的には、Al
2Sc(原子パーセント比でAl:Sc=67:33)とAlSc(原子パーセント比でAl:Sc=50:50)が7:10(質量比)で混合されているターゲットである。
【0040】
図1は、実施例1の合金ターゲットの電子顕微鏡のSEM画像であり、(a)は倍率1000倍、(b)は倍率5000倍である。
図1(b)画像のAの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:59.4at%、Sc:40.6at%であり、Bの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:47.7at%、Sc:52.3at%であった。Aの四角印の部分(海島構造の島に相当、A相という。)は、元素の組成比から、Al
2Scであり、Bの四角印の部分(海島構造の海に相当、B相という。)は、元素の組成比から、AlScであると考えられる。また、
図2は、実施例1の合金ターゲットを300℃、10時間熱処理したものの電子顕微鏡のSEM画像であり、(a)は倍率1000倍、(b)は倍率5000倍である。熱処理後である
図2(b)画像のAの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:56.1at%、Sc:43.9at%であり、Bの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:49.2at%、Sc:50.8at%であった。EDS分析の結果を比較すると、熱処理前後の組織に顕著な変化は見られなかった。
【0041】
図3は、比較例1の合金ターゲットの電子顕微鏡のSEM画像であり、(a)は倍率50倍、(b)は倍率1000倍である。
図3(b)画像のAの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:62.7at%、Sc:37.3at%であり、Bの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:46.5at%、Sc:53.5at%であった。Aの四角印の部分(海島構造の島に相当、A相という。)は、元素の組成比から、Al
2Scであり、Bの四角印の部分(海島構造の海に相当、B相という。)は、元素の組成比から、AlScであると考えられる。また、
図4は、比較例1の合金ターゲットを300℃、10時間熱処理したものの電子顕微鏡のSEM画像であり、(a)は倍率50倍、(b)は倍率1000倍である。熱処理後である
図4(b)画像のAの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:62.6at%、Sc:37.4at%であり、Bの四角印の部分のEDS分析による組成は、Al:46.5at%、Sc:53.5at%であった。EDS分析の結果を比較すると、熱処理前後の組織に顕著な変化は見られなかった。
【0042】
図1〜
図4は、いずれも合金ターゲットの厚さ方向を通る断面である。
図1と
図3とを比較すると、実施例1のA相の長径は平均30μm以下であり、画像中の粒子の多くは10μm以下であり、30μmを超える粒子は含まれないのに対して、比較例1のA相の長径は70〜100μmである。また、EDSで測定した組成は、実施例1の方が、よりAl
2Sc(A相)及びAlSc(B相)の化学量論比に近い。
【0043】
次に、実施例1及び実施例1の熱処理品(300℃、10時間処理)と比較例1及び比較例1の熱処理品(300℃、10時間処理)について、X線回折を測定した。2θ=30〜40°の第1〜3メインピークの相対強度を比較し、表1にまとめた。
【0044】
【表1】
【0045】
メインピークであるA1
2Sc(311)の強度を基準とし、A1
2Sc(220)及びAlSc(121)の相対強度を比較した。溶解品(比較例1)は熱処理によりAl
2Sc(220)の相対強度が増し、理論値に近い数値となった。焼結品(実施例1)では熱処理前から理論値に近い値であり、熱処理による相対強度の変化は小さかった。この結果から、溶解品(比較例1)はスパッタリング中の加熱により結晶配向性が変化しやすい。一方、焼結品(実施例1)は安定な状態(XRDでの理論値に近い状態)となっているから、結晶粒もランダムに配向していることにより、スパッタも安定する。さらに、メインピークの結晶子サイズが溶解法では、熱処理前・後のいずれも700Åを超えている。一方、焼結法では、熱処理前・後のいずれも250Å以下であり、結晶子サイズが溶解法の場合と比較してかなり小さいことが確認できた。
【0046】
(実施例2)
アルミニウム塊230.48gと、スカンジウム塊180.74gとを真空アーク溶解炉(真空冶金社製、AME−300型)により溶解合金インゴット(原子パーセント比でAl:Sc=68:32)とした。次に、この合金塊をアトマイズ法による粉末製造装置(日新技研社製、NEV−GP5T型)に入れ、アルゴンガス雰囲気下にて、アルミニウム−スカンジウム合金粉末を作製した。この合金粉末は、150μm以下の粉末であり、SEMによる直接観察における平均粒子径は約16μmであった。次に、この合金粉末を黒鉛製金型に詰め、5MPaで予備加圧し圧粉体を作製した。この圧粉体を、金型とパンチで密閉されたまま、放電プラズマ焼結機(SPSシンテックス社製、SPS9.40MK−VIII型)に移し、放電プラズマ焼結を行なった。焼結温度は1000℃、加圧力は65MPa、焼結時の真空度は、5Pa以下とし、保持時間は無しとした。これにより、得られた焼結体の表面研摩を施して、合金ターゲットを得た。
【0047】
(実施例3)
焼結温度を1200℃とした以外は実施例2と同様に行い、合金ターゲットを得た。
【0048】
実施例2及び実施例3のターゲットは、原子パーセント比でAl:Sc=68:32の組成を有し、状態図から共晶組成であり、理論的には、Al
2Sc(原子パーセント比でAl:Sc=67:33)とAl
3Sc(原子パーセント比でAl:Sc=75:25)が7:1(質量比)で混合されているターゲットである。
【0049】
図5は、実施例2の合金ターゲットの電子顕微鏡のSEM画像である。
図6は、焼結温度を1200℃とした実施例3の合金ターゲットの電子顕微鏡のSEM画像である。倍率はいずれも1000倍である。
図5及び
図6において両者とも濃灰色部(海島構造の島に相当、A相)は元素の組成比から、Al
3Scであり、薄灰色部(海島構造の海に相当、B相)は、元素の組成比から、Al
2Scであると考えられる。
【0050】
図5及び
図6は、いずれも合金ターゲットの厚さ方向を通る断面である。いずれもA相の長径は平均30μm以下であり、画像中の粒子の多くは10μm以下であり、30μmを超える粒子は含まれない。
【0051】
次に、実施例2及び実施例3について、X線回折を測定した。2θ=30〜40°の第1、2メインピークの相対強度を比較し、表2にまとめた。
【0052】
【表2】
【0053】
メインピークであるA1
2Sc(311)の強度を基準とし、A1
2Sc(220)の相対強度を比較した。いずれの焼結温度においても、Al
2Sc(220)の相対強度は理論値の±15%以内に含まれる。また、これらのいずれのピークの結晶子サイズも500Å以下となっている。
【0054】
(実施例4)
アルミニウム塊230.48gと、スカンジウム塊180.74gとを真空アーク溶解炉(真空冶金社製、AME−300型)により溶解合金インゴット(原子パーセント比でAl:Sc=68:32)とした。次に、この合金塊をアトマイズ法による粉末製造装置(日新技研社製、NEV−GP5T型)に入れ、アルゴンガス雰囲気下にて、アルミニウム−スカンジウム合金粉末を作製した。アトマイズ法で得た合金粉末のうち、SEMによる直接観察による平均粒径が約117μmの粉末を得た。次に、この合金粉末を黒鉛製金型に詰め、5MPaで予備加圧し圧粉体を作製した。この圧粉体を、金型とパンチで密閉されたまま、放電プラズマ焼結機(SPSシンテックス社製、SPS9.40MK−VIII型)に移し、放電プラズマ焼結を行なった。加圧力は65MPa、焼結時の真空度は、5Pa以下とし、焼結温度は1000℃で行い、保持時間は無しとした。これにより、得られた焼結体の表面研摩を施して、合金ターゲットを得た。
【0055】
実施例4のターゲットは、原子パーセント比でAl:Sc=68:32の組成を有し、状態図から共晶組成であり、理論的には、Al
2Sc(原子パーセント比でAl:Sc=67:33)とAl
3Sc(原子パーセント比でAl:Sc=75:25)が7:1(質量比)で混合されているターゲットである。
【0056】
図7は、実施例4の合金ターゲットの電子顕微鏡のSEM画像である。倍率は1000倍である。濃灰色部(海島構造の島に相当、A相)は元素の組成比から、Al
3Scであり、薄灰色部(海島構造の海に相当、B相)は、元素の組成比から、Al
2Scであると考えられる。
【0057】
図7は、合金ターゲットの厚さ方向を通る断面である。A相の長径は平均30μm以下であり、画像中の粒子の多くは10μm以下であり、30μmを超える粒子は含まれない。
【0058】
次に、実施例4について、X線回折を測定した。2θ=30〜40°の第1、2メインピークの相対強度を比較し、表3に示した。
【0059】
【表3】
【0060】
メインピークであるAl
2Sc(311)の強度を基準とし、Al
2Sc(220)の相対強度を比較した。Al
2Sc(220)の相対強度は理論値の±15%以内に含まれる。また、これらのいずれのピークの結晶子サイズも500Å以下となっている。