(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
画素電極とTFTとを備え、配向膜が形成されたTFT基板と、前記TFT基板に対向して配置され、前記TFT基板側に配向膜が形成された対向基板と、前記TFT基板の配向膜と前記対向基板の配向膜との間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記配向膜は偏光光照射により液晶配向規制力を付与された光配向膜であり、
前記光配向膜の最表面層は液晶配向規制力を有し、
前記表面層の酸素原子の割合が、前記配向膜の膜厚の1/2の位置における酸素原子の割合よりも大きく、
前記光配向膜の光学異方性がリタデーション値で1.0nmより小さいことを特徴とする液晶表示装置。
画素電極とTFTとを備え、配向膜が形成されたTFT基板と、前記TFT基板に対向して配置され、前記TFT基板側に配向膜が形成された対向基板と、前記TFT基板の配向膜と前記対向基板の配向膜との間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記配向膜は偏光光照射により液晶配向規制力を付与された光配向膜であり、
前記光配向膜の最表面層は液晶配向規制力を有し、
前記表面層の酸素原子の割合が、前記配向膜の膜厚の1/2の位置における酸素原子の割合よりも大きく、
前記光配向膜の光学的異方性がオーダパラメータで0.1以下であることを特徴とする液晶表示装置。
前記液晶表示装置において、前記光配向膜の表面凹凸の大きさが二乗平均平方根で1nm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
前記液晶表示装置において、前記光配向膜が前記TFT基板もしくは前記対向基板のうち、いずれか一方にのみ形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
前記液晶表示装置において、前記配向膜が2種類の積層した構造からなり、光配向が可能な光配向性の上層と前記光配向性の上層よりも抵抗率が小さい低抵抗性の下層からなる2層構造であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液晶表示装置。
画素電極とTFTとを備え、配向膜が形成されたTFT基板と、前記TFT基板に対向して配置され、前記TFT基板側に配向膜が形成された対向基板と、前記TFT基板の配向膜と前記対向基板の配向膜の間に液晶が挟持された液晶表示装置の製造方法であって、
前記画素電極と前記TFTとを含む前記TFT基板を準備する工程と、
前記TFT基板または前記対向基板の上に、前記配向膜を形成する工程と、
前記配向膜へ偏光した紫外線を照射し、その後前記配向膜を酸化処理する工程と、
配向規制力を付与された前記配向膜を有する配向膜付きの前記TFT基板および前記対向基板とを貼り合わせる工程と、
前記貼り合わせる工程中もしくは前記貼り合わせる工程後に前記TFT基板と前記対向基板との間に液晶を封入する工程と、を有することを特徴とする液晶表示装置の製造方法。
前記液晶表示装置において、前記配向膜中に架橋剤が添加され、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間に架橋処理を施したことを特徴とする請求項10に記載の液晶表示装置の製造方法。
前記液晶表示装置の製造方法において、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間に、180℃以上の温度で加熱処理しないことを特徴とする請求項10から11のいずれか1項に記載の液晶表示装置の製造方法。
前記液晶表示装置の製造方法において、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間に、120℃以上の温度で加熱処理しないことを特徴とする請求項12に記載の液晶表示装置の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
発明者等は、今後高品質、高精細の液晶表示装置を実現する上で光配向技術が重要になると考え、光配向技術を液晶表示装置に適用する際の課題について詳細な検討を行った。その結果、従来の光配向技術では光配向処理に用いる紫外線が、配向膜表面には液晶配向規制力を発生させる上で有効であるが、長期構造安定性を必要とする膜内部に対しても作用し、膜内部を光劣化させ、同時に配向膜自身に過度の光学的異方性が形成されるために、液晶表示装置としての視野角特性やコントラストに影響し、今後の製品対応で課題のあることが判った。
【0013】
本発明の目的は、光配向技術を用いた場合であって、良好な表示特性が安定して得られる液晶表示装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの構成を簡単に説明すれば、次のとおりである。すなわち、本発明の目的は、画素電極とTFTとを備え、画素の上に配向膜が形成されたTFT基板と、前記TFT基板に対向して配置され、前記TFT基板側の最表面上に配向膜が形成された対向基板と、前記TFT基板の配向膜と前記対向基板の配向膜の間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記配向膜は偏光光照射により液晶配向規制力を付与可能な材料であり、前記光配向膜の最表面層は液晶配向規制力を有すると共に、前記光配向膜には光学的異方性がほとんどないことを特徴とする液晶表示装置によって実現することが出来る。本発明の液晶表示装置のさらに詳細な構成は次のとおりである。
【0015】
すなわち、前記液晶表示装置において、前記光配向膜表面の配向規制力が光学ツイスト角から得られるアンカリング強度1.0×10
−3J/m
2以上であることを特徴とする液晶表示装置にある。
【0016】
また、前記液晶表示装置において、前記光配向膜の光学異方性がリタデーション値で1.0nmより小さいことを特徴とする液晶表示装置にある。
【0017】
また、前記液晶表示装置において、前記光配向膜の光学的異方性がオーダパラメータで0.1以下であることを特徴とする液晶表示装置にある。
【0018】
また、前記液晶表示装置において、前記光配向膜の表面凹凸の大きさが二乗平均平方根で1nm以下であることを特徴とする液晶表示装置にある。
【0019】
また、前記液晶表示装置において、前記光配向膜が前記TFT基板もしくは前記対向基板のうち、いずれか一方にのみ形成されていることを特徴とする液晶表示装置にある。
【0020】
また、前記液晶表示装置において、前記配向膜が光分解型の光配向膜であることを特徴とする液晶表示装置にある。
【0021】
また、前記液晶表示装置において、前記配向膜が(化1)で与えられるポリイミドを含む光分解型の光配向膜であることを特徴とする液晶表示装置にある。ここで、括弧[ ]の中が繰り返し単位の化学構造、添え字nは繰り返し単位の数を示す。また、Nは窒素原子、Oは酸素原子であり、Aはシクロブタン環を含む4価の有機基、Dは2価の有機基を示す。
【0022】
【化1】
【0023】
また、前記液晶表示装置において、前記配向膜が2種類の積層した構造からなり、光配向が可能な光配向性の上層と前記光配向性の上層よりも抵抗率が小さい低抵抗性の下層からなる2層構造であることを特徴とする液晶表示装置にある。
【0024】
また、前記液晶表示装置において、前記液晶表示装置がIPS方式の液晶表示装置であることを特徴とする液晶表示装置にある。
【0025】
また、画素電極とTFTとを備え、画素の上に配向膜が形成されたTFT基板と、前記TFT基板に対向して配置され、前記TFT基板側の最表面上に配向膜が形成された対向基板と、前記TFT基板の配向膜と前記対向基板の配向膜の間に液晶が挟持された液晶表示装置の製造方法であって、前記画素電極と前記TFTとを含む前記TFT基板を準備する工程と、 前記TFT基板または前記対向基板の上に、前記配向膜を形成する工程と、 前記配向膜への偏光した紫外線照射及び前記配向膜を酸化処理することにより、前記配向膜の最表面層は液晶配向規制力を有すると共に、前記光配向膜には光学的異方性がほとんどない状態にする工程と、
配向規制力を付与された前記配向膜を有する配向膜付きの前記TFT基板および前記対向基板とを貼り合わせる工程と、前記貼り合わせる工程中もしくは前記貼り合わせる工程後に前記TFT基板と前記対向基板との間に液晶を封入する工程と、を有することを特徴とする液晶表示装置の製造方法にある。
【0026】
また、前記液晶表示装置
の製造方法において、前記配向膜中に架橋剤が添加され、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間に架橋処理を施したことを特徴とする液晶表示装置の製造方法にある。
【0027】
また、前記液晶表示装置の製造方法において、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間に、180℃以上の温度で加熱処理しないことを特徴とする液晶表示装置の製造方法にある。
【0028】
また、前記液晶表示装置の製造方法において、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間に、120℃以上の温度で加熱処理しないことを特徴とする液晶表示装置の製造方法にある。
【0029】
ここでいう光配向膜の最表面層は液晶配向規制力を有すると共に、前記光配向膜には光学的異方性がほとんどない状態とは、光配向膜の表面と膜内部とで以下に示す2つの特徴を有する状態にあることである。すなわち、液晶配向規制力を有する配向膜の表面状態とは、液晶表示装置を形成した際に所定の配向画素領域においてはモノドメインの液晶配向状態を得ることが可能な状態のことを示す。その配向規制力の大きさは、例えば特許文献2に記載されているような光学ツイスト角の測定値から得られるアンカリング強度で定量化することも可能である。
【0030】
一方、光配向膜には光学的異方性がほとんどない状態とはその配向膜全体の膜面内における光学的異方性を測定した場合にほぼ異方性がない状態を指す。その光学的異方性の大きさは、例えば特許文献2に記されているようなリタデーション値から求めることができる。或いは、その光学的異方性の大きさは、例えば特許文献3に記されているような配向膜の偏光紫外線吸収スペクトルを測定し、紫外部の吸収極大波長における吸収二色比から求めることができる。
【0031】
一般に、液晶配向規制力が発生している配向膜表面には配向膜を形成する分子の膜面内における分子配向異方性が発生している状態であるが、配向膜全体で光学的異方性が発生していない状態は膜全体でその分子配向異方性を見た場合にはほとんど異方性がない状態である。このような状態は、例えば特許文献2に記載されているようにラビング法によって配向規制力を発生させた場合には容易に実現できるが、光配向法においては高液晶配向規制力と低光学的異方性の両立は困難であった。これはラビング法ではラビング布が直接触れる配向膜表面のみその分子配向異方性を誘起するのに対して、光配向法では配向に用いる偏光紫外線が膜内部にまで到達するために膜内部の分子配向分布にも異方性を発生させるためである。
【0032】
このように液晶配向規制力が弱いことは、例えば特許文献3に記載されているように、液晶表示装置の画面を同一画像で長時間表示させ、その画像の表示を停止して例えば全面グレー表示を行った場合に、前の画像が焼きついて表示される、いわゆる残像現象として確認される。また、配向膜に光学的異方性を持つと残留位相差を発生させ、視野角特性低下という表示特性悪化要因であり、その補償のための位相差板は、位相差が80nm以下となるような小さな位相差を持つ必要があり、一般的には困難で高コストな液晶表示装置になってしまう、等の問題がある。すなわち、光配向膜による液晶表示装置の画質をラビング膜による液晶表示装置の画質以上とするためには、配向膜最表面の液晶配向規制力と配向膜全体の光学的異方性の両方を少なくともラビング膜同等にする必要がある。
【0033】
発明者らは鋭意検討した結果、従来の製造方法では困難であったこの両特性を満たす光配向膜を実現した。特に、ラビング膜同等以上の液晶表示装置としての性能を確保する上で、アンカリング強度は1.0×10
−3J/m
2以上であることが望ましく、より望ましくはアンカリング強度3.0×10
−3J/m
2以上であることが望ましい。また、配向膜の光学的異方性については、例えばリタデーション値が1.0nmより小さいことが望ましく、より望ましくはリタデーション値が0.5nmより小さいことが望ましい。或いは、配向膜の光学的異方性については、例えばオーダパラメータで0.1以下であることが望ましく、より望ましくは0.05以下であることが望ましい。
【0034】
また、本発明の光配向膜を用いた液晶表示装置においては、例えば特許文献2に記載されているように、液晶が配向膜表面で垂直に配向するVA方式の表示装置よりは、水平に配向するTN方式やIPS方式の表示装置において、より残留位相差の影響が大きく、本発明のような配向膜全体の光学的異方性の低減による効果は、後者においてより顕著に実現することができる。
【0035】
更に、配向膜表面の平坦性の乱れによる配向膜表面と液晶層との界面での配向乱れが誘起する光漏れを低減するためには、その表面凹凸の大きさが二乗平均平方根で1nm以下であることが望ましく、より望ましくは0.5nm以下であることが望ましい。
【0036】
また、本発明の光配向膜は、液晶表示装置のTFT基板もしくは対向基板のうち、いずれか一方にのみ形成されていてもよい。その際他方の基板の配向膜には従来法によるラビング配向膜または光配向膜等、各種配向膜を用いることができる。これは、本発明の光配向膜の製造方法をそのまま適用してしまうと配向膜以外の部材にダメージを発生させてしまう場合、例えば光配向時の紫外線が下地のカラーフィルタの顔料を劣化させてしまう場合があり、そのような素子構造を有する側の基板に対しては本製造方法を適用せず、それ以外の基板に対してのみ本発明の製造方法を適用した場合にも画質改善の効果があることを勘案したものである。
【0037】
また、ここでいうポリイミドとは、(化1)で示される高分子化合物であり、ここで、括弧[ ]の中が繰り返し単位の化学構造、添え字nは繰り返し単位の数を示す。また、Nは窒素原子、Oは酸素原子であり、Aは4価の有機基、Dは2価の有機基を示す。Aの構造の一例として、フェニレン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族環式化合物、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族環式化合物、或いはそれら化合物に置換基を結合した化合物等を挙げることができる。また、Dの構造の一例として、フェニレン、ビフェニレン、オキシビフェニレン、ビフェニレンアミン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族環式化合物、シクロヘキセン、ビシクロヘキセン等の脂肪族環式化合物、或いはそれら化合物に置換基を結合した化合物等を挙げることができる。
【0038】
【化1】
【0039】
これらポリイミドは、ポリイミドの前駆体の状態で基板に保持された各種下地層の上に塗布される。また、ここでいうポリイミドの前駆体とは、(化2)で示されるポリアミド酸またはポリアミド酸エステル高分子化合物である。ここで、Hは水素原子であり、またR
1及びR
2は水素または−C
mH
2m+1のアルキル鎖であり、m=1または2である。
【0040】
【化2】
【0041】
このような配向膜を形成するためには、一般的なポリイミド配向膜の形成方法、例えば下地層をUV/オゾン法、エキシマUV法、酸素プラズマ法等の各種表面処理方法を用いて清浄化した後、配向膜の前駆体をスクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の各種印刷方法を用いて塗布し、所定の条件で均一な膜厚となるようなレベリング処理を施した後、例えば180℃以上の温度で加熱することで前駆体のポリアミドをポリイミドにイミド化反応を行わせることにより薄膜形成される。
【0042】
この際、あらかじめ下地層への濡れ性向上やイミド化反応促進等のために、各種添加剤を加えることも可能である。更に、所望の手段を用いて、偏光紫外線を照射し、適当な後処理をすることにより、ポリイミド配向膜表面に配向規制力を発生させることが可能である。このようにして形成された配向膜付きの基板を一定の間隔を保持して上下2枚貼り合わ
せ、その間隔を保持した部分に液晶を充填し、あるいは基板を貼り合わせる前に液晶を滴下してから貼り合わせた後、基板端部を封止することにより、液晶パネルが完成し、そのパネルに偏光板、位相差板等の光学フィルムを貼りつけ、駆動回路やバックライト等を併せて、液晶表示装置を得る。
【0043】
また、本発明の光配向膜には性能向上のため、複数の成分を含む材料を用いることができる。例えば、配向膜が2種類の積層した構造からなり、光配向が可能な光配向性の上層と前記光配向性の上層よりも抵抗率が小さい低抵抗性の下層からなる2層構造となるような配向膜材料を選ぶことで、配向膜全体の抵抗を下げることでの液晶表示装置駆動による電荷蓄積の防止と共に、下層の配向膜を光配向性ではないことにすることで、配向膜全体の光学的異方性の大きさを更に抑制することが可能である。
【0044】
また、本発明の光配向膜に架橋性の添加物、または架橋性の官能基を有する配向膜材料を加えることで、最終的に得られる光配向膜の力学的強度を高めて、配向規制力の長期安定性を向上させることも可能である。この際、配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間に架橋処理を施すことにより、配向規制力の大きさを高めつつ、安定性の確保が容易な配向膜に仕上げることが可能である。
【0045】
紫外線照射前の段階で架橋処理を施した場合には、例えばポリイミド前駆体のポリアミドが架橋構造化してしまうために偏光紫外線を照射しても光切断を受けた分子骨格部分を除去することができず、配向規制力を得ることができない。或いはTFT基板および対向基板を貼り合わせる工程後に架橋処理を施すと、架橋反応に伴う膜収縮応力が発生し、貼り合わせたシール部分に歪を生じさせ、特に長期間の保存試験を行った際にミクロなクラックをシールに生じさせ、外部からの水分が液晶層に侵入しやすくなる等の問題がある。
【0046】
このような架橋処理を行う上では、光や熱により架橋反応を行う必要があるが、既に形成された光配向性を損なうことなく施すことが必要であり、発明者らの鋭意検討の結果、180℃以上の温度で加熱処理しないことが望ましく、より望ましくは120℃以上の温度で加熱処理しないことが望ましいことが判明した。これは180℃以上に加熱した場合には光配向膜自身の熱変形等による新たな光学的異方性の出現を誘発するために本発明の目的とする高配向規制力と低光学的異方性の両立が困難となるためであり、120℃以上で加熱した場合には膜内部の分子配向は動かないが膜最上層の分子配向の緩和が発生して、液晶配向規制力の低下をもたらしていることが判明したためである。
【発明の効果】
【0047】
本発明により、高い液晶配向規制力と低光学的異方性の両立が確保され、広い視野角特性、高い表示コントラスト、安定性に優れた残像の少ない高品質な液晶表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明について、図面を参照して実施の形態(実施例)とともに詳細に説明する。なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは、同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0050】
図1には、本発明の液晶表示装置における光配向膜の基本的構成の概略図を示した。本発明の液晶表示装置では、下地層4の上に光配向膜3が形成され、その上に液晶層5が形成されており、特に図示はされていないが、同様の構成の配向膜が形成された対向基板が組み合わされている。その光配向膜3の液晶層側の表面には、液晶配向規制力層1が形成されており、その下には低光学異方性層2が形成されている。ここで、膜厚方向をz方向とし、液晶層に接する配向膜の最上位置をz
0、層1の下端位置をz
1、その下の層2の下端をz
2とする。本発明においてはかかる性質の異なる2つの層を有する光配向膜3が同じ組成の配向膜材料から形成されている。
【0051】
図2には、本発明の光配向膜における配向性形成過程の比較を模式的に示した。このような液晶配向規制力と低光学異方性を1つの光配向膜によって実現するためには、偏光UV光に反応する液晶配向規制力層1と反応しない低光学異方性層2を別の材料で形成することも可能であるが、通常の光配向膜は膜厚100nm前後であり、特に液晶配向規制力層1を更に薄く塗布する必要性と、2種類の材料が必要となり、2度の印刷が必要となるなどの課題がある。
【0052】
1種類の材料でこのような2つの特性を実現しようとすると、次のような方法がある。
図2Aに示すように、照射UV光の強度I(z)は配向膜3に侵入する直前までは一定強度であるが、侵入すると指数関数的に減衰し、膜を通り抜けると再び一定となる。従って、配向膜中の高分子の光分解は膜表面で速く、膜表面から深い方向に行く程遅くなる。この光切断量の違いを膜表面、膜内部で模式的に示したものがそれぞれ
図2Bと
図2Cである。まず、膜表面について考えると、初期の段階において、光分解前の高分子(ここでは非分解高分子6とする)を簡単のため縦横のメッシュ状に存在するとする。
【0053】
これに対して、偏光紫外線を横方向に照射すると、横方向の非分解高分子5が優先的に光分解され、分解された高分子7に変化する。(実際には偏光紫外線には偏光方向に対して垂直な方向の紫外線成分もわずかに混在するため、十分長時間の照射で縦方向の
非分解高分子6も少しずつ光分解されてくるが、ここでは簡便のため無視する。)表面の横方向の非分解高分子6がちょうど分解され、縦方向の非分解高分子6だけが残った状態が最適の偏光紫外線照射条件の状態となるが、このままでは分解された高分子7が多数残留するために、膜表面の異方性はほとんどなく、液晶配向規制力も乏しい。
【0054】
これに対して、熱処理を施すと、横方向の分解された高分子7は理想的には100%蒸発させることができれば、残された縦方向の非分解高分子のみとなり、膜表面に異方性が発生し、液晶配向規制力が最大となる。(実際には蒸発させることが大気中では困難な中程度の分子量の光分解物も存在し、それらは膜中に残留するが、ここでは無視する。)このような過程において、膜内部の特定の深さで膜表面に平行な断面位置での高分子の状態を見ると、初期において縦横に非分解高分子6のメッシュ構造があることは当然同じであるが、表面で最適な偏光紫外線を照射した時の膜内部の状態を考えると、横方向には分解された
高分子7と非分解高分子6が混在した状態となる。
【0055】
この状態では膜内部にも大きな異方性は生じていないが、熱処理を施すと膜表面の分解された高分子7の蒸発と共に膜内部の分解された高分子7も蒸発するため、表面ほどではないが膜内部にも一定の異方性が発生する。これが膜厚方向全体にわたって積算されているために、従来の光配向膜においては配向膜全体で光学的異方性が発生し、このためにリタデーションが発生し、残留光漏れ等の原因となってきた。本発明においては、内部の光分解された高分子には影響を与えずに表面のみの光分解物を除去して、表面には高い異方性と液晶配向規制力を発生させながら、膜内部には異方性を生じない光配向膜を提供する。
【0056】
具体的には、最表面のみに作用する雰囲気、または溶媒処理によって、光配向処理済みの配向膜表面の光分解された高分子は光分解されずに残った非分解高分子の分子配向を乱すことなく膜外部に完全除去されるが、膜内部の光分解された高分子に対しては膜表面から膜外部に拡散することを防止する被膜層も配向膜表面が兼ねることによって防止し、或いは表面の分解された高分子を除去した後に、内部に残留した光分解された高分子を化学的に結合させることによって、固定化する。
【0057】
このような極薄い被膜の形成は、例えば光配向処理済みの配向膜表面に適度な酸化処理を施すことによって得ることができる。そのような元素組成の変化は、各種薄膜表面分析、例えばX線光電子分光(XPS)、オージェ電子分光、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)等を用いて分析することができる。まず、対象となる液晶表示装置の液晶パネルを解体し、液晶をシクロヘキサン等のアルカン溶媒にて洗浄、乾燥させたものを試料として、各種分析を行う。特に、膜厚方向の深さ方向の分析を行うには、Ar等のガスイオンによってスパッタしながら各種分析を行うことによって評価することが可能である。
【0058】
このような配向膜表面の極薄い被膜形成状態にするためには、以下のような手順で作製することが可能である。すなわち、下地層上に光配向することが可能なポリイミドの前駆体を塗布し、加熱によってポリイミド薄膜となし、その薄膜表面に偏光紫外線を照射することによって、配向規制力を付与する。この偏光紫外線照射前、または照射中、または偏光紫外線照射後に、薄膜表面を酸化雰囲気に曝すことによって、薄膜表面から内部にかけて酸素原子の割合の多い層が形成される。
【0059】
酸化処理の手法には、紫外線光源による空気からのオゾンガスや、各種酸化剤(過酸化水素水、次亜塩素酸水、オゾン水、次亜ヨウ素酸水、過マンガン酸水、等)が用いられる。この際、薄膜表面から内部に向かってどのような分布で酸素原子の割合が変化するかは、用いる酸化雰囲気やその暴露条件によって異なる。また、偏光紫外線照射と酸化雰囲気への暴露に加えて、これら処理前後または処理最中に、加熱乾燥や赤外線を含む別の波長の光照射を行うことも可能であり、あるいはその前後に表面異物等の除去のための水を含めた各種溶媒処理を行うことも可能である。
【0060】
どの程度の割合で光配向膜表面に酸素原子割合を増加させた層を形成すべきかについては、光配向処理による液晶配向規制力を低下させない程度であることが望ましく、具体的には光配向することが可能な配向膜層の液晶に接する表面からの膜厚の半分以下であることが望ましく、より望ましくはその膜厚の10分の1以下であることが望ましく、更に望ましくはその膜厚の20分の1以下であることが望ましい。このような光配向膜表面に限定された酸素原子割合を増加させた層を形成することでは、それ以上の割合で酸素原子割合を増加させ、配向膜表面が過度に酸化されることによる弊害、例えば配向膜表面が親水性に変化して、水に対する接触角が20度以上低下し、配向膜と液晶分子の相互作用が変化してしまうことは抑制される。
【0061】
その一方で、未だその発現機構は解明されていないが、光配向によって液晶配向規制力の保持特性を向上させることが可能であり、例えば液晶表示装置形成直後には同じ液晶配向規制力を有していても、電場によって長時間液晶配向規制力が誘起する液晶配向方向とは異なる方向に液晶層を配向し続け、電場を除去した後に初期の配向方向に戻るまでの残像時間が短縮することが可能である。
【0062】
また、本発明の配向膜作製には、2種類以上の配向膜を重ねて塗布、イミド化したり、あるいは2種類以上のポリイミド前駆体をブレンドして塗布、イミド化したりして、その組成を調整することも可能である。このような処理を終えた配向膜は通常の手法によって、液晶表示装置に組み立てることができる。
【0063】
次に、本配向膜が作製された液晶表示装置について説明する。
図3A〜
図3Dは、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式図である。
図3Aは、本液晶表示装置の概略構成の一例を示す模式ブロック図である。
図3Bは、液晶表示パネルの1つの画素の回路構成の一例を示す模式回路図である。
図3Cは、液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式平面図である。
図3Dは、
図3CのA−A’線における断面構成の一例を示す模式断面図である。
【0064】
疎水性の状態を維持しつつ表面の酸素原子割合が高められた配向膜は、たとえば、アクティブマトリクス方式の液晶表示装置に適用される。アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、携帯型電子機器向けのディスプレイ(モニター)、パーソナルコンピュータ用のディスプレイ、印刷やデザイン向けのディスプレイ、医療用機器のディスプレイ、液晶テレビなどに用いられている。
【0065】
アクティブマトリクス方式の液晶表示装置は、たとえば、
図3Aに示すように、液晶表示パネル101、第1の駆動回路102、第2の駆動回路103、制御回路104、およびバックライト105を有する。
【0066】
液晶表示パネル101は、複数本の走査信号線GL(ゲート線)および複数本の映像信号線DL(ドレイン線)を有し、映像信号線DLは第1の駆動回路102に接続しており、走査信号線GLは第2の駆動回路103に接続している。なお、
図3Aには、複数本の走査信号線GLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル101には、さらに多数本の走査信号線GLが密に配置されている。同様に、
図3Aには、複数本の映像信号線DLのうちの一部を示しており、実際の液晶表示パネル101には、さらに多数本の映像信号線DLが密に配置されている。
【0067】
また、液晶表示パネル101の表示領域DAは、多数の画素の集合で構成されており、表示領域DAにおいて1つの画素が占有する領域は、たとえば、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLとで囲まれる領域に相当する。このとき、1つの画素の回路構成は、たとえば、
図3Bに示すような構成になっており、アクティブ素子として機能するTFT素子Tr、画素電極PX、共通電極CT(対向電極と呼ぶこともある)、液晶層LCを有する。またこのとき、液晶表示パネル101には、たとえば、複数の画素の共通電極CTを共通化する共通化配線CLが設けられている。
【0068】
また、液晶表示パネル101は、たとえば、
図3Cおよび
図3Dに示すように、アクティブマトリクス基板(TFT基板)106と対向基板107の表面に配向膜606および705をそれぞれ形成し、それら配向膜の間に液晶層LC(液晶材料)を配置した構造になっている。また、ここでは特に図示していないが、配向膜606とアクティブマトリクス基板106の間、または配向膜705と対向基板107の間に、適宜中間層(例えば位相差板や色変換層、光拡散層等の光学的中間層)を設けてもよい。
【0069】
このとき、アクティブマトリクス基板106と対向基板107とは、表示領域DAの外側に設けられた環状のシール材108で接着されており、液晶層LCは、アクティブマトリクス基板106側の配向膜606、対向基板107側の配向膜705、およびシール材108で囲まれた空間に密封されている。またこのとき、バックライト105を有する液晶表示装置の液晶表示パネル101は、アクティブマトリクス基板106、液晶層LC、および対向基板107を挟んで対向配置させた一対の偏光板109a、109bを有する。
【0070】
なお、アクティブマトリクス基板106は、ガラス基板などの絶縁基板の上に走査信号線GL、映像信号線DL、アクティブ素子(TFT素子Tr)、画素電極PXなどが配置された基板である。また、液晶表示パネル101の駆動方式がIPS方式などの横電界駆動方式である場合、共通電極CTおよび共通化配線CLはアクティブマトリクス基板106に配置されている。また、液晶表示パネル101の駆動方式がTN方式やVA(
Vertical Alignment)方式などの縦電界駆動方式である場合、共通電極CTは対向基板107に配置されている。縦電界駆動方式の液晶表示パネル101の場合、共通電極CTは、通常、すべての画素で共有される大面積の一枚の平板電極であり、共通化配線CLは設けられていない。
【0071】
また、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置では、液晶層LCが密封された空間に、たとえば、それぞれの画素における液晶層LCの厚さ(セルギャップということもある)を均一化するための柱状スペーサ110が複数設けられている。この複数の柱状スペーサ110は、たとえば、対向基板107に設けられている。
【0072】
第1の駆動回路102は、映像信号線DLを介してそれぞれの画素の画素電極PXに加える映像信号(階調電圧ということもある)を生成する駆動回路であり、一般に、ソースドライバ、データドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、第2の駆動回路103は、走査信号線GLに加える走査信号を生成する駆動回路であり、一般に、ゲートドライバ、走査ドライバなどと呼ばれている駆動回路である。また、制御回路104は、第1の駆動回路102の動作の制御、第2の駆動回路103の動作の制御、およびバックライト105の輝度の制御などを行う回路であり、一般に、TFTコントローラ、タイミングコントローラなどと呼ばれている制御回路である。また、バックライト105は、たとえば、冷陰極蛍光灯などの蛍光灯、または発光ダイオード(LED)などの光源であり、当該バックライト105が発した光は、図示していない反射板、導光板、光拡散板、プリズムシートなどにより面状光線に変換されて液晶表示パネル101に照射される。
【0073】
図4は、本発明の実施の形態に係る液晶表示装置のIPS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板106は、ガラス基板601などの絶縁基板の表面に、走査信号線GLおよびここでは図示していないが共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層602が形成されている。第1の絶縁層602の上には、TFT素子Trの半導体層603、映像信号線DL、および画素電極PXと、それらを覆う第2の絶縁層604が形成されている。半導体層603は、走査信号線GLの上に配置されており、走査信号線GLのうちの半導体層603の下部に位置する部分がTFT素子Trのゲート電極として機能する。
【0074】
また、半導体層603は、たとえば、第1のアモルファスシリコンからなる能動層(チャネル形成層)の上に、第1のアモルファスシリコンとは不純物の種類や濃度が異なる第2のアモルファスシリコンからなるソース拡散層およびドレイン拡散層が積層された構成になっている。またこのとき、映像信号線DLの一部分および画素電極PXの一部分は、それぞれ、半導体層603に乗り上げており、当該半導体層603に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。
【0075】
ところで、TFT素子Trのソースとドレインは、バイアスの関係、すなわちTFT素子Trがオンになったときの画素電極PXの電位と映像信号線DLの電位との高低の関係によって入れ替わる。しかしながら、本明細書における以下の説明では、映像信号線DLに接続している電極をドレイン電極といい、画素電極に接続している電極をソース電極という。第2の絶縁層604の上には、表面が平坦化された第3の絶縁層605(有機パッシベーション膜)が形成されている。第3の絶縁層605の上には、共通電極CTと、共通電極CTおよび第3の絶縁層605を覆う配向膜606が形成されている。
【0076】
共通電極CTは、第1の絶縁層602、第2の絶縁層604、および第3の絶縁層605を貫通するコンタクトホール(スルーホール)を介して共通化配線CLと接続している。また、共通電極CTは、たとえば、平面における画素電極PXとの間隙Pgが7μm程度になるように形成されている。配向膜606は以下の実施例に記載された高分子材料が塗布され、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(光配向処理)及び酸化処理が施され、疎水性が維持された状態で配向膜表面の酸素原子割合が高められている。
【0077】
一方、対向基板107には、ガラス基板701などの絶縁基板の表面に、ブラックマトリクス702およびカラーフィルタ(703R,703G,703B)と、それらを覆うオーバーコート層704が形成されている。ブラックマトリクス702は、たとえば、表示領域DAに画素単位の開口領域を設けるための格子状の遮光膜である。また、カラーフィルタ(703R,703G,703B)は、たとえば、バックライト105からの白色光のうちの特定の波長領域(色)の光のみを透過する膜であり、液晶表示装置がRGB方式のカラー表示に対応している場合は、赤色の光を透過するカラーフィルタ703R、緑色の光を透過するカラーフィルタ703G、および青色の光を透過するカラーフィルタ703Bが配置される(ここでは一つの色の画素について代表して示している)。
【0078】
また、オーバーコート層704は、表面が平坦化されている。オーバーコート層704の上には、複数の柱状スペーサ110および配向膜705が形成されている。柱状スペーサ110は、たとえば、頂上部が平坦な円錐台形(台形回転体ということもある)であり、アクティブマトリクス基板106の走査信号線GLのうちの、TFT素子Trが配置されている部分および映像信号線DLと交差している部分を除く部分と重なる位置に形成されている。また、配向膜705は、たとえば、ポリイミド系樹脂で形成されており、表面に液晶配向能を付与するための表面処理(光配向処理)及び酸化処理が施され、疎水性が維持された状態で配向膜表面の酸素原子割合が高められている。
【0079】
また、
図4の方式の液晶表示パネル101における液晶層LCの液晶分子111は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、ガラス基板601、701の表面にほぼ平行に配向された状態であり、配向膜606、705に施された配向規制力処理で規定された初期配向方向に向いた状態でホモジニアス配向している。そして、TFT素子Trをオンにして映像信号線DLに加えられている階調電圧を画素電極PXに書き込み、画素電極PXと共通電極CTとの間の電位差が生じると、図中に示したような電界112(電気力線)が発生し、画素電極PXと共通電極CTとの電位差に応じた強度の電界112が液晶分子111に印加される。
【0080】
このとき、液晶層LCが持つ誘電異方性と電界112との相互作用により、液晶層LCを構成する液晶分子111は電界112の方向にその向きを変えるので、液晶層LCの屈折異方性が変化する。またこのとき、液晶分子111の向きは、印加する電界112の強度(画素電極PXと共通電極CTとの電位差の大きさ)によって決まる。したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える階調電圧を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行うことができる。
【0081】
図5は、本発明の実施の形態に係る他の液晶表示装置のFFS方式液晶表示パネルの概略構成の一例を示す模式図である。アクティブマトリクス基板106は、ガラス基板601などの絶縁基板の表面に、共通電極CT、走査信号線GL、および共通化配線CLと、それらを覆う第1の絶縁層602が形成されている。第1の絶縁層602の上には、TFT素子Trの半導体層603、映像信号線DL、およびソース電極607と、それらを覆う第2の絶縁層604が形成されている。このとき、映像信号線DLの一部分およびソース電極607の一部分は、それぞれ、半導体層603に乗り上げており、当該半導体層603に乗り上げた部分がTFT素子Trのドレイン電極およびソース電極として機能する。
【0082】
また、
図5の液晶表示パネル101では、第3の絶縁層605が形成されておらず、第2の絶縁層604の上に画素電極PXと、画素電極PXを覆う配向膜606が形成されている。ここでは図示していないが、画素電極PXは、第2の絶縁層604を貫通するコンタクトホール(スルーホール)を介してソース電極607と接続している。このとき、ガラス基板601の表面に形成された共通電極CTは、隣接する2本の走査信号線GLと隣接する2本の映像信号線DLで囲まれた領域(開口領域)に平板状に形成されており、当該平板状の共通電極CTの上に、複数のスリットを有する画素電極PXが積層されている。またこのとき、走査信号線GLの延在方向に並んだ画素の共通電極CTは、共通化配線CLによって共通化されている。一方、
図5の液晶表示パネル101における対向基板107は、
図4の液晶表示パネル101の対向基板107と同じ構成である。そのため、対向基板107の構成に関する詳細な説明は省略する。
【0083】
図6は、本発明の実施の形態に係る他の液晶表示装置のVA方式液晶表示パネルの主要部の断面構成の一例を示す模式断面図である。縦電界駆動方式の液晶表示パネル101は、例えば、
図6に示すように、アクティブマトリクス基板106に画素電極PXが形成されており、対向基板107に共通電極CTが形成されている。縦電界駆動方式の1つであるVA方式の液晶表示パネル101の場合、画素電極PXおよび共通電極CTは、たとえば、ITOなどの透明導電体によりベタ形状(単純な平板形状)に形成されている。
【0084】
このとき、液晶分子111は、画素電極PXと共通電極CTの電位が等しい電界無印加時には、配向膜606、705によりガラス基板601、701の表面に対して垂直に並べられている。そして、画素電極PXと共通電極CTとの間に電位差が生じると、ガラス基板601、701に対してほぼ垂直な電界112(電気力線)が発生し、液晶分子111が基板601、701に対して平行な方向に倒れ、入射光の偏光状態が変化する。またこのとき、液晶分子111の向きは、印加する電界112の強度によって決まる。
【0085】
したがって、液晶表示装置では、たとえば、共通電極CTの電位を固定しておき、画素電極PXに加える映像信号(階調電圧)を画素毎に制御して、それぞれの画素における光透過率を変化させることで、映像や画像の表示を行う。また、VA方式の液晶表示パネル101における画素の構成、たとえば、TFT素子Trや画素電極PXの平面形状は、種々の構成が知られており、
図6に示したVA方式での液晶表示パネル101における画素の構成は、それらの構成のいずれかであればよい。ここでは、その液晶表示パネル101における画素の構成に関する詳細な説明を省略する。なお、符号608は導電層、符号609は突起形成部材、符号609aは半導体層、符号609bは導電層を示す。
【0086】
本発明の実施の形態は、上記のようなアクティブマトリクス方式の液晶表示装置のうち、液晶表示パネル101、特に、アクティブマトリクス基板106および対向基板107において液晶層LCに接する部分およびその周辺の構成に関する。そのため、従来の技術をそのまま適用できる第1の駆動回路102、第2の駆動回路103、制御回路104、およびバックライト105の構成についての詳細な説明は省略する。
【0087】
これら液晶表示装置を製造するためには、既に液晶表示装置に用いられている各種配向膜材料や配向処理方法、各種液晶材料等を用いることが可能であり、それらを液晶表示装置に組立加工する際の各種プロセスを適用することも可能である。その一例を
図7に示す。まず、アクティブマトリクス基板と対向基板をそれぞれの製造プロセスを経て準備し、配向膜を形成する下地層表面をUV/オゾン法、エキシマUV法、酸素プラズマ法等の各種表面処理方法を用いて清浄化する。
【0088】
次に、配向膜の前駆体をスクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の各種印刷方法を用いて塗布し、所定の条件で均一な膜厚となるようなレベリング処理を施した後、例えば180℃以上の温度で加熱することで前駆体のポリアミドをポリイミドにイミド化反応を行わせる。更に、所望の手段を用いて、偏光紫外線を照射したり適度な後処理をすることにより、ポリイミド配向膜表面に配向規制力を発生させる(光配向)。この偏光紫外線照射や照射後処理の段階で加熱や別の波長の光を照射することも可能である。また、この偏光紫外線照射の前か後のいずれかの段階において、先に説明したような表面処理過程を加えることにより、表面の液晶配向規制力が高く、かつ膜全体の光学的異方性のない光配向膜が形成される。
【0089】
このようにして形成された配向膜付きのアクティブマトリクス基板と対向基板をその配向規制力の方向が所望の方位となるようにしつつ、一定の間隔を保持して上下2枚に貼り合わせ、しかる後、その間隔を保持した部分に液晶を充填し、基板端部を封止することにより、液晶パネルが完成し、そのパネルに偏光板、位相差板等の光学フィルムを貼りつけ、駆動回路やバックライト等を併せて、液晶表示装置を得る。なお、上記の説明ではアクティブマトリクス基板(TFT基板)に形成した配向膜と対向基板(CF基板)に形成した配向膜の両者とも酸化雰囲気に暴露したが、いずれか一方だけであっても残像特性に対する改善効果を得ることができる。但し、両者とも表面処理することにより、より残像特性が改善されることは言うまでもない。
【0090】
次に、得られた光配向膜が所望の特性を有する膜であり、それを組み立てて得られた液晶表示装置が所望の特性を有する装置となっていることを確認する方法の一例について説明する。
まず、配向規制力の大きさを表す液晶のアンカリング力は次の方法で測定できる。すなわち、2枚一組のガラス基板に配向膜を塗布して光配向処理を行い、その2枚の配向膜の配向方向が平行となるようにして、適当な厚みdのスペーサを介在させて、評価用ホモジニアス配向液晶セルを作製する。これに材料物性が既知のカイラル剤入りネマチック液晶材料(らせんピッチp、弾性定数K
2)を封入し、配向を安定化させるために一度液晶等方相に評価用セルを保持した後、室温に戻し、以下の方法でツイスト角φ
2を測定する。
【0091】
次に、空気の圧力または遠心力でセル内の大部分の液晶を除去し、セル内を溶媒洗浄、乾燥させてから、同じ液晶でカイラル剤のないものを封入し、同様に配向を安定化させてから、ツイスト角φ
1を測定する。この時、アンカリング強度は(数1)によって与えられる。なお、(数1)において、K2は使っている液晶の弾性係数である。
【0093】
また、ツイスト角は、
図8に示すような光学系を用いて測定した。すなわち、可視光源6とフォトマル10を同一直線上にコリメートし、その間に偏光子7、評価用セル8、検光子9の順に配置する。可視光源9にはタングステンランプを用い、まず偏光子7の透過軸と検光子9の吸収軸を評価用セル8の配向膜の配向方向(L−L’)とほぼ平行に合わせる。次に、偏光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。次に、検光子のみを回転し、透過光強度が最小になるように角度を変化させる。
【0094】
以下、同様に偏光子のみの回転、検光子のみの回転を繰り返し、角度が一定になるまで繰り返す。最終的に収束した時点での偏光子の透過軸回転角度φ
偏光子と、検光子の吸収軸回転角度φ
検光子に対して、ツイスト角φ=φ
検光子−φ
偏光子と定義する。ここで、測定の読み取り誤差は用いる液晶の屈折率異方性Δnと液晶セルの厚みdとを調節することで低減できる。
【0095】
次に、リタデーションの測定方法について説明する。
図9は、本発明におけるリタデーションを測定するための配向膜微小複屈折測定系の説明図である。光源から出力された単一波長の光は、光軸と略直交に配置された入射側偏光板、位相差板、測定試料、透過側偏光板を通過して光検出器に入力される構成となっている。光源および光検出器には市販の分光光度計が使用可能であり、本実施例では日立製作所製ダブルビーム型分光光度計U−3310(波長スリット幅2nm)を用いた。測定サンプルは基板SUB1および基板SUB2について隣り合う場所から各2枚採取した。
【0096】
分光光度計の試料側には上記微小複屈折光学系を、参照側にはもう1 枚の同一仕様の測定サンプルのみを配置した。偏光板には偏光度が高いものが必要で、位相差板には波長分散の小さいものが望ましい。本実施例では偏光板に日東電工社製SEG1425DUを、位相差板としてJSR社製のアートンフィルム(1/2波長板)をコーニング社製ガラスCorning7059に張り合わせたものを用いた。入射側偏光板の偏光軸と透過側偏光板の
偏光軸は略直交となるように配置され(
図9においては45°と135°)、位相差板は入射側偏光軸と透過側偏光軸それぞれに対し約45°の角度となるように配置される(
図9においては0°)。
【0097】
測定サンプルは光路上で光軸に垂直な面で自由に回転可能なステージ( 例えば、シグマ光機製回転ステージ)に取り付けられ、位相差板に対し配向軸が約0°の角となるように配置して波長範囲400nmから700nmの間1nmきざみで分光透過率を測定し、さらに位相差板に対し配向軸が約90°の角となるように配置して同様に波長範囲400nmから700nmの間1nmきざみで分光透過率を測定し、それぞれの場合について分光透過率が極小となる波長を求めた。上記の微小複屈折測定系で測定した、位相差板に対して0°方向に配置したときの分光透過率が極小となる波長、
および位相差板に対して90°方向に配置したときの分光透過率が極小となる波長を用いて測定基板のリタデーションを求める方法を次に説明する。
【0098】
光軸がy軸に平行な一軸性薄膜を2枚の偏光板で挟んだ場合、透過光強度は(数2)で現される。
【0100】
但し、I
0は入射光強度、dは膜厚、πは円周率、λは測定光の波長で、δ=2πΔn・d/λである。
【0101】
図9に示されるように、上下の偏光軸を直交、かつ光軸とそれぞれ45°の角度をなすように配置すると、Ψ=90°、φ=45°となり、(数2)は(数3)ように簡略化される。
【0103】
透過光強度が極小になるのは(数4)の条件が成立する場合である。
【0105】
(数4)の関係を用いると、透過率極小波長(λmin)の測定からΔndが求められる。本発明で使用した位相差板は波長550nm近辺において三次の極小(m=3)となるものを使用したので、(数4)は(数5)となる。
【0107】
二枚の一軸性フィルムを用いた位相差板の合成位相差は、光軸を平行にして積層した場合は両者の和で、また光軸を直交して積層した場合は差で与えられる。ここで、位相差板のΔndをR、測定基板のリタデーションをrとする。測定基板を位相差板の光軸と配向方向を平行にした場合の透過率極小波長をλ
p、位相差板の光軸と配向方向を直交させた場合の透過率極小波長をλ
Tとすると、上記式5から次の(数6)、(数7)が得られる。
【0110】
(数6)から(数7)を引くことにより、(数8)が得られる。
【0112】
つまり、分光光度計を用いてλ
pとλ
Tを測定すれば、式8から測定基板のリタデーションrが求められる。なおRとrは波長依存性を持つため式8は厳密には正しくない。しかし、微小位相差の測定ではλ
pとλ
Tの値は接近しており(大きくても50nm程度)、位相差板に波長分散の小さいアートンフィルムを使用しているため、50nm程度の波長差でのリタデーションの波長依存はほぼ考慮する必要がなく、式8は適用可能である。
【0113】
次に光学異方性を評価する他の方法として配向膜の膜面内の吸収異方性を測定する方法の一例について説明する。
図10には得られた光配向膜の偏光紫外可視吸収スペクトルの測定系の一例を示した。紫外可視分光光源16から出た光はビームスプリッタ14で2つの光路に分けられる。一つは参照光としてそのままフォトマル12’に導かれ、紫外可視分光光源16の光量を計測する。もう一つの光路はミラー15で反射され、偏光子9で直線偏光の光に変えられ、試料10を通過した後、もう一つのフォトマル12に導かれ、その透過光量が計測される。
【0114】
事前に試料10をセットしない状態で2つの光路の透過光量を測定し、試料を測定した時の光量との比から透過率または吸光度を求めることができる。ここで特に図示はしていないが、試料はこの光路に対して垂直な面内で自由に回転できるホルダに固定されている。光配向処理を施していない配向膜を試料とした場合、配向膜には光学的異方性がないため、このホルダの回転角度を変えても、その透過光量は一定であるが、光配向処理等で光学的異方性がある配向膜では、その透過光量がホルダの回転角度によって変化する。偏光子の偏光軸を0°とすると、試料ホルダの回転角度が偏光子と平行となる0°の時と、垂直となる90°の時で透過光の吸光度は最大または最小を示す。
【0115】
多くの場合、最小となる方向は光配向処理時の偏光紫外線の照射角度に平行な時であり、最大となるのはそれに対して垂直な時である。最大の吸光度をA
max、最小の吸光度をA
minとすると、試料の光学的異方性を示す二色比Dは、(数9)で表わされる。
【0117】
あるいは、オーダパラメータSは、(数10)で表わされる。
【0119】
例えば、後に示す実施例のように、高分子主鎖にフェニレン環とシクロブタン環を有するポリイミドの場合、フェニレン環のπ−π
*吸収に対応する特徴的光吸収が波長220〜300nm付近に現れる。この中で吸収が最大となる波長での二色比またはオーダパラメータをその試料薄膜の二色比またはオーダパラメータとして特徴づけることにした。このように、膜単独での吸収スペクトルが測定可能な時は、その吸光度の異方性からオーダパラメータを求めることができる。
【0120】
次に、輝度緩和定数は以下の方法で測定できる。先に詳細に述べたような手順によって、配向膜を含む各種液晶表示素子を作製する。この液晶表示装置に、白黒のウィンドウパターンを所定時間連続表示後(これを焼付け時間と称する)、直ちに全画面中間調のグレーレベルの表示電圧に切り替え、ウィンドウパターン(焼き付き、残像ともいう)が消失する時間を計測する。
【0121】
理想的には配向膜においては、液晶表示装置のいずれの部分にも残留電荷が発生せず、配向規制力方向も乱されることがないため、表示電圧の切り替えと共に、直ちに全画面グレーレベルの表示になるが、駆動の伴う残留電荷の発生や配向規制力方向の乱れ等によって、明領域(白パターンの部分)は実効的な配向状態が理想的なレベルからずれるために、輝度が異なって見えてしまうが、この中間調表示の電圧で更に長時間保持すると、この電圧での残留電荷や配向規制力方向にやがて落ち着くことになり、均一表示に見えてくる。液晶表示素子の面内輝度分布をCCDカメラによって測定し、均一表示になるまでの時間を焼き付き時間とし、この焼き付き時間をもって、その液晶表示素子の輝度緩和定数とした。但し、480時間経過しても緩和しない場合には、そこで評価を打切り、≧480と記載した。
【0122】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0123】
最初に、画素電極とTFTとを備え、画素の上に配向膜が形成されたTFT基板と、前記TFT基板に対向して配置され、前記TFT基板側の最表面上に配向膜が形成された対向基板と、前記TFT基板の配向膜と前記対向基板の配向膜の間に液晶が挟持された液晶表示装置であって、前記配向膜は偏光光照射により液晶配向規制力を付与可能な材料であり、前記光配向膜の最表面層は液晶配向規制力を有すると共に、前記光配向膜には光学的異方性がほとんどないことを特徴とする液晶表示装置を作製した結果について、図表を用いて説明する。
【0124】
基板には溶融石英、及び無アルカリガラス(旭硝子AN−100)を用い、更にガラス上にスパッタ法で酸化インジウムスズ(ITO)薄膜を形成したものの3種を用いた。このようにして準備した下地基板は、配向膜の前駆体を塗布する前に中性洗剤等の薬液で洗浄後、UV/O
3処理にて表面を清浄化した。
試験用の配向膜には、以下のようなものを用いた。(化2)のポリイミドの前駆体となるポリアミド酸の骨格について、第1の配向膜の成分として
【0125】
【化3】
【0126】
(化3)で示すような化学構造を選んで、既存の化学合成方法に従って、原料となる酸二無水物とジアミンからポリアミド酸を合成した。また、第2の配向膜の成分として
【0127】
【化4】
【0128】
(化4)で示す構造を選んだ。
【0129】
これらの各ポリアミド酸の分子量はGPC(ゲル浸透クロマトグラフ分析) によってポリスチレン換算分子量から求め、それぞれ16000、14000であった。ブチルセロソルブ、N−メチルピロリドン、γ―ブチロラクトン、等の各種溶媒を混合したものに第1の配向膜:第2の配向膜=1:1の比率で溶解させた。これを所定の下地基板にフレクソ印刷で薄膜化し、40℃以上の温度で仮乾燥した後、150℃以上のベーク炉にてイミド化を行った。この時の膜厚が概ね100nmとなるように、薄膜化条件は事前に調整した。
【0130】
次に、偏光した光によって高分子化合物の一部分子骨格が切断されることにより液晶配向規制力を付与するために、紫外線ランプ(低圧水銀灯)とワイヤグリッド偏光子、干渉フィルタにて、偏光化した紫外線(主波長280nm)を集光照射した。この後、紫外線ランプ周辺で発生するオゾンガスのみを30分間強制的に吹き付けたもの(これをUV後処理と称する)と、通常のように紫外線のみを照射したものを作製した。しかる後、加熱乾燥等の表面の異物を除去したもの(これを加熱処理と称する)と、特に何も施さなかったものとを作製した。
【0131】
図11に示す表1には、得られた膜の特性値(アンカリング力Aφ、リタデーションRD、オーダパラメータOP)を示した。3種類の基板による特性値の差はほとんど見られず、UV後処理=無、加熱処理=無の時はAφ=0.5〜0.6mJ/m
2であるが、UV後処理=無、加熱処理=有の時はAφ=2.0〜2.1mJ/m
2とアンカリング力が高くなる。また、UV後処理=有、加熱処理=無の時はAφ=2.0〜2.1mJ/m
2であり、UV後処理=有、加熱処理=有の時はAφ=2.5〜2.6mJ/m
2であり、いずれもアンカリング力が高くなる。これに対して、リタデーション値を見ると、UV後処理=無、加熱処理=無の時はRD=0.4〜0.5であるが、UV後処理=無、加熱処理=有の時はRD=2.8〜2.9であり、リタデーションが高くなり、すなわち配向膜全体の光学的異方性が大きくなる。
【0132】
また、UV後処理=有、加熱処理=無の時はRD=0.5であるが、UV後処理=有、加熱処理=有の時はRD=2.8〜2.9であり、加熱処理によってリタデーションが高くなり、すなわち配向膜全体の光学的異方性が大きくなる。同様に、基板が溶融石英の場合のみとなる(その他の基板では基板の吸収が配向膜の吸収と波長が重なるため)がオーダパラメータを見ると、UV後処理=無、加熱処理=無の時はOP=0.07であるが、UV後処理=無、加熱処理=有の時はRD=0.31であり、オーダパラメータが高くなり、すなわち配向膜全体の光学的異方性が大きくなる。
【0133】
また、UV後処理=有、加熱処理=無の時はOP=0.07であるが、UV後処理=有、加熱処理=有の時はOP=0.30であり、加熱処理によってリタデーションが高くなり、すなわち配向膜全体の光学的異方性が大きくなる。以上の組み合わせを振り返ると、液晶配向規制力に比例するアンカリング力が高く、かつ膜全体の光学的異方性の小さい膜となったのは、UV後処理=有、加熱処理=無の時だけであった。
【0134】
また、この4通りの組み合わせで作製した配向膜を用いて、IPS方式の液晶表示装置を作製し、液晶表示素子としての特性(輝度緩和定数RT、コントラストCR)を測定した。その結果を
図12の表2に示す。まず輝度緩和定数を見ると、UV後処理=無、加熱処理=無の時はRT=205分であるが、UV後処理=無、加熱処理=有の時はRT=54分となって残像特性が向上し、更にUV後処理=有、加熱処理=無の時はRT=40分となり、またUV後処理=有、加熱処理=無の時はRT=42分であり、残像特性が向上した。
【0135】
一方、コントラスト(1:X比のX値)を見ると、UV後処理=無、加熱処理=無の時はCR=650であるが、UV後処理=無、加熱処理=有の時はCR=700となって残像特性が向上し、更にUV後処理=有、加熱処理=無の時はCR=840となり、またUV後処理=有、加熱処理=無の時はCR=800であり、コントラスト特性が向上した。以上の組み合わせを振り返ると、残像時間が短く、コントラストも高い表示性能を示したのは、UV後処理=有、加熱処理=無の時であった。
【0136】
以上のことから、光配向処理時にオゾンガスを用いることで、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られると共に、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
【実施例2】
【0137】
次に、別の作製条件で、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られると共に、液晶表示装置としての性能も高まることを確認した結果について、図表を用いて説明する。
【0138】
配向膜材料には実施例1と同じ材料を用い、同様の作製条件で、配向膜の塗布、イミド化焼成を行い、同じ偏光紫外線光源を用いて配向処理、あるいは加熱処理を行った。実施例1と異なる点は、UV後処理として、この薄膜に対して、過酸化水素水(3%)に1分間浸漬し、純水シャワー洗浄を施すことにしたことにある。物性特性用の基板はガラスのみとし、同一条件で液晶表示装置も作製した。
【0139】
図13に示す表3には、得られた膜の特性をまとめた。このうち、UV後処理=無、加熱処理=無の時及びUV後処理=無、加熱処理=有の時の値は、実施例1と同じである。実施例2におけるUV後処理の効果はUV後処理=有、加熱処理=無の時及びUV後処理=有、加熱処理=有の時の値を見ると比較できる。これらを見ると、実施例1と同様の傾向が認められ、液晶配向規制力に比例するアンカリング力が高く、かつ膜全体の光学的異方性の小さい膜となったのは、UV後処理=有、加熱処理=無の時だけであった。更に、残像時間が短く、コントラストも高い表示性能を示したのも、UV後処理=有、加熱処理=無の時であった。
【0140】
以上のことから、光配向処理時に過酸化水素水を用いることで、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られると共に、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
【実施例3】
【0141】
次に、別の作製条件で、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られると共に、液晶表示装置としての性能も高まることを確認した結果について、図表を用いて説明する。
【0142】
配向膜材料には実施例1と同じ材料を用い、同様の作製条件で、配向膜の塗布、イミド化焼成を行い、同じ偏光紫外線光源を用いて配向処理、あるいは加熱処理を行った。実施例1と異なる点は、UV後処理として、この薄膜に対して、次亜塩素酸水(20ppm)に30秒間浸漬し、純水シャワー洗浄を施すことにしたことにある。物性特性用の基板はガラスのみとし、同一条件で液晶表示装置も作製した。
【0143】
図14に示す表5には、得られた膜の特性をまとめた。このうち、UV後処理=無、加熱処理=無の時及びUV後処理=無、加熱処理=有の時の値は、実施例1と同じである。実施例4におけるUV後処理の効果はUV後処理=有、加熱処理=無の時及びUV後処理=有、加熱処理=有の時の値を見ると比較できる。これらを見ると、実施例1と同様の傾向が認められ、液晶配向規制力に比例するアンカリング力が高く、かつ膜全体の光学的異方性の小さい膜となったのは、UV後処理=有、加熱処理=無の時だけであった。更に、残像時間が短く、コントラストも高い表示性能を示したのも、UV後処理=有、加熱処理=無の時であった。
【0144】
以上のことから、光配向処理時に次亜塩素酸水を用いることで、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られると共に、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
【実施例4】
【0145】
次に、別の作製条件で、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られることを確認した結果について、図表を用いて説明する。
【0146】
配向膜材料には実施例1と同じ材料を用い、同様の作製条件で、配向膜の塗布、イミド化焼成を行い、同じ偏光紫外線光源を用いて配向処理、あるいは種々の温度(100〜240℃、20分)加熱処理を行った物を比較例とした。これに対して、配向処理後に実施例3と同様に次亜塩素酸水(1ppm)処理を施した場合と、配向処理後に加熱処理を施した後に実施例3と同様に次亜塩素酸水(1ppm)処理を施した場合を比較した。物性特性用の基板は石英基板を用い、それら配向膜を用いた時のアンカリング力Aφ(mJ/m
2)、リタデーションRD(単位nm)、オーダパラメータOP、表面粗さ(二乗平均平方根、単位nm)を評価した。
【0147】
図15に示す表6Aは加熱処理のみの場合、
図16に示す表6Bは次亜塩素酸水処理後に加熱処理を施した場合、
図17に示す表6Cは加熱処理の後に次亜塩素酸水処理を施した場合である。これを見ると、加熱処理のみの膜の場合、アンカリング力1.0mJ/m
2以上の高配向規制力状態の膜とするためには180℃以上の加熱が必要であるが、この時のリタデーションは1.0μm、オーダパラメータは0.19、表面粗さは1.05nmであり、膜内部の異方性が発生すると共に、一定の表面粗さがある。
【0148】
特に良好なアンカリング力を示すのは加熱温度240℃の場合であり、この時のアンカリング力は2.3mJ/m
2であるが、リタデーションは1.7μm、オーダパラメータは0.34、表面粗さは1.50となり、一層膜内部の異方性が増加し、表面粗さも増加する。これに対して、次亜塩素酸水処理を施した場合、加熱処理の有無に関わらず、アンカリング力は2.2〜2.3mJ/m
2の高配向規制力状態となっているが、加熱温度が180℃以下では表面粗さが1.0nm以下の平坦性の高い膜となっており、加熱温度160℃以下ではリタデーションが1.0μmよりも小さな膜内部の異方性の小さな膜となっており、更に加熱温度120℃以下ではオーダパラメータが0.10以下の一層膜内部の異方性の小さな膜となっている。
【0149】
以上のことから、適宜加熱処理と次亜塩素酸水を組み合わせて用いることで、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られると共に、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
【実施例5】
【0150】
次に、別の作製条件で、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られることを確認した結果について、図表を用いて説明する。
【0151】
ここで、配向膜材料には実施例1と同じ第1の配向膜の成分と第2の配向膜の成分を用いた。但し、ここでは両者を混合して1回の塗布で配向膜を形成するのではなく、各配向膜の成分をそれぞれ別に塗布、イミド化することで重ね塗りを行い、その際各配向膜溶液の濃度を調整して各配向膜の成分の膜厚を変化させた。事前に各配向膜の成分単独で、溶液濃度や印刷条件を検討し、2種類の配向膜の総膜厚は100nmになるようにし、その比率が設定膜厚の3%以内に入るような条件で作製した。これら各配向膜の成分単独での比抵抗を測定したところ、第1の配向膜の成分は7.0×10
15Ωcm、第2の配向膜の成分は2.4×10
14Ωcmであった。
【0152】
具体的な薄膜作製条件は以下の通りである。基板には石英基板を用い、実施例1と同様の基板洗浄後、まず第2の配向膜の成分の前駆体を下地基板にフレクソ印刷で薄膜化し、40℃以上の温度で仮乾燥した後、150℃以上のベーク炉にてイミド化を行った。しかる後、第1の配向膜成分の前駆体をその上にフレクソ印刷で薄膜化し、40℃以上の温度で仮乾燥した後、150℃以上のベーク炉にてイミド化を行った。次に、偏光化した紫外線(主波長280nm)を集光照射した。この後、実施例3と同じ次亜塩素酸水処理を施した。
【0153】
図18に示す表7には、得られた配向膜のアンカリング力Aφ(単位:mJ/m
2)とオーダパラメータOPを示した。これを見ると、第1の配向膜の成分が20〜100%の範囲ではアンカリング力2.1〜2.2mJ/m
2の高い値が得られているが、10%では0.8mJ/m
2に低下し、0%では配向規制力が検知されなかった。一方、オーダパラメータを見ると、いずれの割合でも0.07以下の小さな値であり、膜全体の光学的異方性は小さいことが確認できる。
【0154】
次に、実施例1と同様にIPS方式の液晶表示装置を作製し、液晶表示素子としての特性(輝度緩和定数RT、コントラストCR)を測定した。その結果を同じく表7に示す。これを見ると、第1の配向膜の成分が100%から下がるにつれて輝度緩和定数は低下し、30〜70%の範囲では34〜52時間の低残像特性を示した。これに対して、第1の配向膜の成分が100%から下がるにつれてコントラストは低下し、40〜70%の範囲では820〜890のコントラストを示した。ちなみに、第1の配向膜の成分が20%以下では一様な液晶配向表示装置が作製できず、パネル特性が測定できなかった。なお、表7において、NGは一様な配向膜が形成できず、パネル特性が測定できなかったものである。
【0155】
以上のことから、配向膜が2種類の積層した構造からなり、光配向が可能な光配向性の上層と光配向性の上層よりも抵抗率が小さい低抵抗性の下層からなる2層構造からなる光配向膜においても、液晶配向規制力が高く、膜全体の光学的異方性が小さい膜が得られると共に、液晶表示装置としての性能も高まることが確認された。
【実施例6】
【0156】
次に、液晶表示装置を作製する全工程を精査し、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間での加熱処理温度と表示特性について検討した結果を、図表を用いて説明する。
【0157】
図7には、本発明の液晶表示装置を作製する工程を示しているが、この中で加熱処理を必要とするのは、レベリング処理、イミド化反応、照射後処理(加熱が必要な場合)、上下基板貼り合わせ(液晶パネル周辺部にシール剤を描画して貼り合わせ、加熱によって熱硬化させる工程)、液晶充填(液晶粘度を下げるために加熱が必要な場合)、端部封止(上下基板貼り合わせ同様、シール剤の熱硬化のため。及び充填された液晶と配向膜をなじませるために一度液晶の液晶−等方相転移温度以上に加熱してから徐冷するセルエージング処理)である。
【0158】
前実施例で示した液晶表示装置を作製した場合にはこの作製工程を経る必要があり、これまでは液晶配向膜作製部分について種々の作製条件を変えた時の特性変化しか示していなかった。つまり、照射後処理(加熱が必要な場合)について加熱条件を変化させた時しか見ておらず、その他の工程については標準的な条件を用いていた。
【0159】
ここでいう実施例で用いた標準的な条件とは、レベリング処理は40〜80℃の温度で1〜5分程度であり、イミド化反応は210〜230℃の温度で10〜20分程度であり、上下基板貼り合わせ及び端部封止でのシール剤にはアクリルエポキシ系シール剤を用いて紫外線硬化とその後の120℃60分のポストベークを施して硬化する工程であり、セルエージングは用いたネマチック液晶の相転移点以上となる100℃60分加熱する工程である。
【0160】
この中で前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後における加熱処理温度として、上下基板貼り合わせ及び端部封止でのシール剤加熱処理温度、及びセルエージング温度と表示特性との関係を検討していたところ、新たな表示不良が発生することが明らかとなった。具体的には、実施例1で示したUV後処理有り、加熱処理無しの条件で作製した液晶表示パネルを用いて、シール剤加熱処理温度、及びセルエージング温度と表示特性との関係を検討した。
【0161】
図19に示す表8はその評価結果である。表8において、N1は表示画素内部の配向状態に不均一なムラが
偏光顕微鏡で観察される不良である。N2はパネル全面が薄明るく産卵したようなムラが目視で観察される不良である。N3は、パネル周辺が薄明るく散乱したようなムラが目視で観察される不良である。
【0162】
まず、シール硬化温度(以下Ts)を標準条件に固定して、セルエージング温度(以下Ta)を60℃から20℃刻みで200℃まで上げた時、Taが80℃以下では表示画素内部の配向状態に不均一なムラが偏光顕微鏡で観察される不良が認められたが、Taが100℃から160℃では特段表示不良はなく(以下良好G)、Taが180℃以上ではパネル全面が薄明るく散乱したようなムラが目視で観察される不良(以下不良N2)が観察された。この不良N2は200℃の方が180℃よりも程度が悪かった。
【0163】
そこで、シール硬化温度(Ts)の方も90℃から10℃刻みで140℃まで変え、Taについては同様に60〜200℃の範囲で変えた時の表示特性を評価した。これらの結果を表8に示した。これを見ると、Tsが90℃では、60〜80℃では不良N1が見られたが、100〜160℃ではパネル周辺が薄明るく散乱したようなムラが目視で観察される不良(以下不良N3)が発生し、180〜200℃では不良N2が見られ、いずれの温度でも良好な表示特性を得ることができなかった。Tsが100℃では、Taが100〜120℃では良好Gを示したが、その他のTaではTsが90℃と同じであった。Tsが110〜140℃では、Tsが120℃の時と同じようなTa温度と表示特性を示した。
【0164】
このような表示特性の不良が発生する原因については明確ではないが、不良N1はいわゆる液晶セルエージングが不足することによる液晶配向不良と考えられ、不良N3はパネル周辺に発生することからシール剤から液晶への不純物の拡散が影響しているのではないかと考えられる。不良N2はかなり高温にならないと発生しない不良であるが、その原因は不明である。
【0165】
以上のことから、前記配向膜への偏光した紫外線照射する工程後から、前記TFT基板および前記対向基板を貼り合わせる工程までの間での加熱処理温度が180℃以上においては原因不明の表示不良が発生し、100℃よりも低い温度においては良好な液晶表示装置を得ることができないことがわかった。