特許第6461573号(P6461573)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461573
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】油水分離回収具、阻集器
(51)【国際特許分類】
   B01D 17/022 20060101AFI20190121BHJP
【FI】
   B01D17/022 502G
   B01D17/022 502F
   B01D17/022 502H
【請求項の数】7
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-238242(P2014-238242)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-64385(P2016-64385A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-155553(P2014-155553)
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-155554(P2014-155554)
(32)【優先日】2014年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-206782(P2014-206782)
(32)【優先日】2014年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幸生
(72)【発明者】
【氏名】魚谷 正和
(72)【発明者】
【氏名】腰山 博史
(72)【発明者】
【氏名】神谷 武志
(72)【発明者】
【氏名】本田 常俊
【審査官】 進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭45−002299(JP,B1)
【文献】 特開昭53−109266(JP,A)
【文献】 特開昭53−111569(JP,A)
【文献】 実公昭62−035738(JP,Y1)
【文献】 特開2003−267900(JP,A)
【文献】 特開2004−298711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/022
C02F 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と油とを含む混合液体から油分を分離して回収する油水分離回収具であって、
前記液体の流路を有する基材と、該基材に形成した油水分離層とを備え、
前記油水分離層は、撥油性付与基および親水性付与基とを有するフッ素系化合物を含み、
前記フッ素系化合物は、下記式(1)〜(4)で示される構造の化合物のうち、一種又は二種以上を含むことを特徴とする油水分離回収具。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
上記式(1)及び(2)中、Rf、Rfは、それぞれ同一または互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。
上記式(3)及び(4)中、Rf、Rfは、それぞれ同一または互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。また、Zは、酸素原子、窒素原子、CF基又はCF基である。
また、上記式(2)及び(4)中、Rは、2価の有機基であって、直鎖状又は分岐状の連結基である。
また、上記式(1)〜(4)中、Xは、アニオン型、カチオン型及び両性型からなる群から選択されるいずれか1の親水性賦与基である。
【請求項2】
前記油水分離層は、有機結合剤又は無機結合剤によって前記基材の表面に結合されていることを特徴とする請求項記載の油水分離回収具。
【請求項3】
前記基材は網状部材からなることを特徴とする請求項1または2記載の油水分離回収具。
【請求項4】
前記基材は多孔質体からなることを特徴とする請求項1または2記載の油水分離回収具。
【請求項5】
前記多孔質体は、上記式(1)〜(4)で示されるフッ素系化合物のうち、一種又は二種以上を含むことを特徴とする請求項記載の油水分離回収具。
【請求項6】
請求項1ないしいずれか一項記載の油水分離回収具を備えた阻集器であって、
水と油とを含む液体が流入する流入側から、分離された水が流出する流出側に向けて、少なくとも前段槽および後段槽が直列に配され、
前記油水分離回収具は、前記前段槽または前記後段槽の少なくとも一方に着脱可能に設けられ、油水分離回収ユニットが着脱可能なことを特徴とする阻集器。
【請求項7】
前記後段槽に設けられる前記油水分離回収具は支持部材によって支持され、前記後段槽内に保持されることを特徴とする請求項記載の阻集器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水と油とを含む混合液体から油分を分離して回収する油水分離回収具、およびこれを用いた阻集器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般家庭や営業用調理場、ビルの排水、公共事業体の汚水廃液処理施設への導管からの排水には、油・ラード類が混入しており、このような水と油が混合した混合液体である排水は、油分の固着による下水道管の詰まりや、油分の酸化による臭気などの原因となる。さらには、公共下水道施設の機能の著しい妨げとなるという問題や、大雨の後等に下水道施設からの油塊(白色固形物)が港湾に流出するという問題等もあった。このため、各地域では、飲食店事業者に対して、混合液体中の油脂類等を分離、回収する阻集器を設置させて、下水道への油・ラード類を流出させないという対策もとられている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
また、食品製造、繊維処理、機械加工、石油精製などの廃液処理、さらに事故などによる河川、海洋などへの油の流出による油回収作業として、油水混合液を油と水とに分離する処理が行われている。
【0004】
その他にも、例えば、原油採掘の際に海水を地層の油層に注入して、非水溶性油分の圧力を高め、生産量を確保することが一般的に行われているが、このような原油採掘に使用された排水である「油田随伴水」は非水溶性油分を多く含むため、非水溶性油分の除去処理がなされた後に廃棄されている。しかしながら、近年、海洋・湖沼等の汚染を引き起こす要因となることから、排水中の非水溶性油分含有量の規制が強化されてきており、最も厳格な国や地域では5mg/L未満の非水溶性油分含有量とすることが要求されている。
【0005】
ところで、従来の油水分離方法としては、凝集剤による分離、吸着分離、遠心分離、加圧浮上分離、電解浮上法、コアレッサーによる粗粒化分離(例えば、特許文献4を参照)、微生物分解による分離等が知られている。
【0006】
しかしながら、凝集剤を用いる分離方法の場合には、経費が日常的に掛かるばかりか濾過した凝集物の処理も手間と費用が掛かるという課題があった。また、遠心分離器のような機械によるもの、加圧浮上分離によるものは、多量に且つ大型の施設においては有効だが、限られたスペースに備え付けるには困難であるという課題があった。また、電解浮上法では、安定な油水分離を行うために、処理液の電気伝導度と処理量に応じて印加電力を変えるなど、制御が煩雑であるという課題があった。コアレッサー法では、超極細繊維の網目構造を有するフィルターを用いるため、保守管理上、常に目詰まりが問題になるという課題があった。さらに、微生物を用いる分離方法では、時間が掛かるとともに管理が煩雑であるという課題があった。
【0007】
一方で、従来から、多孔質膜を用いた分離膜による水処理が行われている。そして、油水分離においても、逆浸透法、限外濾過法、精密濾過法(例えば、特許文献5を参照)等が知られている。
【0008】
しかしながら、逆浸透法、限外濾過法、精密濾過法は、上記分離膜の孔径によって油水を分離するため、膜透過流束が小さいという課題があった。さらに、水処理を行う過程において、原水中に存在する油などの分離対象物質が分離膜に付着して起こるファウリング(目詰り)のため、定期的に逆圧洗浄、エアスクラビング等の物理洗浄を行う必要があるという課題があった。したがって、多孔質膜を用いた分離膜には、長期間継続して使用できるようにするために、油の吸着しにくさ(防汚性)や、吸着した油の除去し易さ(易洗浄性)の向上が望まれているのが実情であった。
【0009】
また、特許文献1〜3に開示された阻集器においては、単に比重差だけで水と油とを分離しているだけであり、こうした比重差による油水分離だけでは、油分の流出を確実に抑制することは困難であった。
さらに、工場等で油が周辺水域などに流出した際に、回収した水と油との混合液体は、ドラム缶などに貯留して油水分離を行うが、こうした混合液体を貯留したドラム缶などから油だけを確実に回収することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−133173号公報
【特許文献2】特開2010−201321号公報
【特許文献3】特開2000−189954号公報
【特許文献4】特開2006−198483号公報
【特許文献5】特開平05−137903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、水と油とを含む混合液体から、容易に、かつ低コストに油分を分離して回収することが可能な油水分離回収具を提供することを課題とする。また、前記油水分離回収具を含む阻集器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の油水分離回収具は、以下の構成を有する。
[1]水と油とを含む混合液体から油分を分離して回収する油水分離回収具であって、前記液体の流路を有する基材と、該基材に形成した油水分離層とを備え、前記油水分離層は、撥油性付与基および親水性付与基とを有するフッ素系化合物を含み、
前記フッ素系化合物は、下記式(1)〜(4)で示される構造の化合物のうち、一種又は二種以上を含むことを特徴とする。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0013】
このような構成の油水分離回収具によれば、基材によって形成された流路の表面に、撥油性賦与基と親水性賦与基とを分子中に含むフッ素系化合物が存在する。このため、水と油との混合液体を流した場合、水分は基材の流路を通過するのに対して、油分は通過できない。したがって、本実施形態の油水分離回収具は、混合液体を接触させることで水と油とを分離可能であり、水と油との混合液体から油分だけを容易に、かつ低コストに回収することができる。
【0015】
上記式(1)及び(2)中、Rf、Rfは、それぞれ同一または互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。
【0016】
上記式(3)及び(4)中、Rf、Rfは、それぞれ同一または互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。また、Zは、酸素原子、窒素原子、CF基又はCF基である。
【0017】
また、上記式(2)及び(4)中、Rは、2価の有機基であって、直鎖状又は分岐状の連結基である。
【0018】
また、上記式(1)〜(4)中、Xは、アニオン型、カチオン型及び両性型からなる群から選択されるいずれか1の親水性賦与基である。
【0019】
]前記油水分離層は、有機結合剤又は無機結合剤によって前記基材の表面に結合されていることを特徴とする。
【0020】
]前記基材は網状部材からなることを特徴とする。
【0021】
]前記基材は多孔質体からなることを特徴とする。
【0022】
]前記多孔質体は、上記式(1)〜(4)で示されるフッ素系化合物のうち、一種又は二種以上を含むことを特徴とする。
【0023】
]本発明の阻集器は、以下の構成を有する。
前項1から6に記載の油水分離回収具を備えた阻集器であって、水と油とを含む液体が流入する流入側から、分離された水が流出する流出側に向けて、少なくとも前段槽および後段槽が直列に配され、前記油水分離回収具は、前記前段槽または前記後段槽の少なくとも一方に着脱可能に設けられ、油水分離回収ユニットが着脱可能なことを特徴とする。
【0024】
このような構成の阻集器によれば、水と油とが混合した混合液体を油水分離回収具に接触させるだけで、油水分離層の親水撥油性によって、水分と油分とを容易に分離して、油分だけを選択的に回収することができる。阻集器に油水分離回収具を設けることによって、水と油とが混合した混合液体から、簡易な構成で容易に、かつ低コストに油分だけを分離、回収することが可能になる。
【0025】
[8]前記後段槽に設けられる前記油水分離回収具は支持部材によって支持され、前記後段槽内に保持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の油水分離回収具によれば、水と油とを含む混合液体から、容易に、かつ低コストに油分を分離して回収することが可能になる。
また、本発明の阻集器によれば、阻集器のメンテナンス性を向上させ、メンテナンスに係るコストを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の油水分離回収具の一例を示す構成図である。
図2】本発明の油水分離回収具を含む阻集器の一例を示す構成図である。
図3】本発明の油水分離回収具を含む阻集器の別な一例を示す構成図である。
図4】本発明の油水分離回収具を含む阻集器の別な一例を示す構成図である。
図5】本発明の油水分離回収具を含む阻集器の別な一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を適用した一実施形態である油水分離回収具、およびこれを阻集器について図面を参照して説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0029】
<油水分離回収具>
先ず、本発明を適用した一実施形態である油水分離回収具の構成について説明する。
図1(a)は、油水分離回収具の一例を示す斜視図、図1(b)は、油水分離回収具の要部を示す模式図である。
本実施形態の油水分離回収具10は、基材11と該基材11の例えば表面に形成された油水分離層12とを備えている。こうした油水分離回収具10は、例えば、全体がシート状に形成されている。そして、油水分離回収具10は、例えば、直方体に形成された籠状の支持部材15の内側底面に配され、油水分離回収ユニット16を構成している。こうした油水分離回収ユニット16は、後述する阻集器に適用することができる。油水分離回収ユニット16には、阻集器からの取り外しを容易にするための取っ手が備え付けられていてもよい。
なお、油水分離回収具10は、支持部材15の内側底面に配する以外にも、支持部材15の外側底面に配することも好ましい。
【0030】
本実施形態の油水分離回収具10は、水と油とを含む混合液体から油分を分離して回収するものであり、基材11には、液体の流路17が形成されている。こうした流路17は、基材11の一面11a側と他面11b側とを結ぶ。油水分離層12は、この流路17の内壁表面を含む基材11の表面全体を覆うように形成されている。
【0031】
こうした油水分離回収具10は、例えば基材11の一面11a側から混合液体を流入させると、油水分離層12の親水性および撥油性(以下、親水撥油性と称することがある)によって、基材11の一面11a側に混合液体から分離された油分が溜り、水分は流路17を介して基材11の他面11b側から流下する。
【0032】
油水分離層12は、撥油性付与基および親水性付与基とを有するフッ素系化合物を含む材料から構成されている。撥油性付与基は、油水分離層12の表面に例えば40°以上の接触角で油滴を形成させる官能基である。また、親水性付与基は、油水分離層12の表面に例えば20°以下の接触角で水分に対する濡れ性を付与する官能基である。
なお、こうした接触角は、例えば、自動接触角計(協和界面科学社製、「Drop Master 701」)により測定することができる。
【0033】
油水分離層12は、こうした撥油性付与基および親水性付与基の存在によって、親水撥油性を持つ。図1(b)の模式図に示すように、この油水分離層12に水と油とを含む混合液体(以下、単に液体と称することがある)が接触すると、油分は接触角の大きい油滴として凝集し、水分は接触角が小さい濡れ性を保ったままとなる。これによって、凝集して大きい油滴となった油分は流路17を通過することができずに油水分離層12の表面に留まる。一方、濡れ性を保った水分は凝集することなく流路17を通過することができる。こうした作用によって、油水分離層12は液体の油分だけを選択的に分離することができる。
【0034】
油水分離層12を構成するフッ素系化合物としては、例えば、下記式(1)〜(4)で示されるフッ素系化合物のうち、少なくとも一種又は二種以上を含む。
【0035】
【化5】
【0036】
【化6】
【0037】
【化7】
【0038】
【化8】
【0039】
ここで、上記式(1)及び(2)中、Rf、Rfは、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキル基、Rfは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。
【0040】
また、上記式(3)及び(4)中、Rf、Rfは、それぞれ同一または互いに異なる炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基、Rfは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また、Zは、酸素原子、窒素原子、CF基又はCF基である。また、Zが窒素原子又は炭素原子の場合、Zから分岐したペルフルオロアルキル基が当該Zに結合していてもよい。
【0041】
また、上記式(2)及び(4)中、Rは、2価の有機基であって、直鎖状又は分岐状の連結基であり、分子鎖中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合及びウレタン結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0042】
また、上記式(1)〜(4)中、Xは、アニオン型、カチオン型及び両性型からなる群から選択されるいずれか1の親水性賦与基である。
【0043】
上述したように、上記式(1)〜(4)で示されるフッ素系化合物は、分子中に撥油性賦与基と親水性賦与基とを含む親水撥油剤である。換言すると、本実施形態の油水分離回収具は、流路17が基材11によって形成されるとともに、この流路17の表面に親水撥油性の油水分離層12が存在するものである。また、上記式(1)〜(4)で示されるフッ素系化合物からなる群から選ばれる一種又は二種以上のフッ素系化合物を含む混合物を、油水分離層12として用いてもよい。
以下、油水分離層12を構成する親水撥油剤について、フッ素系化合物ごとに詳細に説明する。
【0044】
(親水撥油剤)
「直鎖状の含窒素フッ素系化合物」
上記式(1)又は上記式(2)に示す、直鎖状(又は分岐状)の含窒素フッ素系化合物では、RfとRfからなる含窒素ペルフルオロアルキル基およびRfからなる含窒素ペルフルオロアルキレン基が、撥油性賦与基を構成する。
また、上記式(1)又は上記式(2)に示す含窒素フッ素系化合物では、上記撥油性賦与基であるRf〜Rf中の、フッ素が結合した炭素数の合計が4〜18個の範囲であることが好ましい。フッ素が結合した炭素数が4未満であると、撥油効果が不十分であるために好ましくない。
【0045】
なお、上記式(2)中、Rは、分子鎖中において撥油性賦与基と親水性賦与基とを繋ぐ連結基である。連結基Rの構造は、直鎖状又は分岐状の、2価の有機基であれば特に限定されるものではない。また、連結基Rは、分子鎖中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合及びウレタン結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0046】
具体的には、例えば、連結基Rは、炭素数1〜20の炭化水素基であってもよいし、ポリオキシアルキレン基及びエポキシ基から選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0047】
また、連結基Rは、分子鎖中に、二元共重合体又は三元共重合体以上のポリマーを有していてもよい。
【0048】
なお、連結基Rは、親水撥油剤に賦与したい特性に応じて、適宜選択して導入することが好ましい。具体的には、例えば、水や有機溶媒への溶解性を調整したい場合、親水撥油剤を含む表面被覆材(コーティング剤)と基材との密着性を改善して耐久性を向上させたい場合、親水撥油剤と樹脂成分又は塗料成分との相溶性を向上させたい場合等が挙げられる。その方法としては、分子間相互作用に影響を及ぼす極性基の有無や種類を調整する、直鎖状又は分岐構造とした炭化水素基の鎖長を調整する、基材や樹脂成分又は塗料成分に含まれる化学構造の一部と類似の構造を導入する、などがある。
【0049】
また、上記式(1)又は上記式(2)中、Xは、アニオン型、カチオン型及び両性型からなる群から選択されるいずれか1の親水性賦与基である。
以下、親水性賦与基Xを場合分けして、親水撥油剤の構造を説明する。
【0050】
[アニオン型]
親水性賦与基Xがアニオン型である場合、上記Xは、末端に「−CO」、「−SO」、「−OSO」、「−OP(OH)O」、「−OPO」又は「=OPO」(Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mg、Al、R;R〜Rは水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)を有する。
【0051】
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)が挙げられる。また、アルカリ土類金属しては、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が挙げられる。
【0052】
また、第4級アンモニウム塩(R)としては、R〜Rが水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基であれば、特に限定されるものではない。より具体的には、Rが全て同じ化合物としては、例えば、(CH、(C、(C、(C、(C11、(C13、(C15、(C17、(C19、(C1021等が挙げられる。また、Rが全てメチル基の場合としては、例えば、Rが(C)、(C13)、(C17)、(C19)、(C1021)、(C1225)、(C1429)、(C1633)、(C1837)等の化合物が挙げられる。さらに、Rが全てメチル基の場合としては、例えば、Rが全て(C17)、(C1021)、(C1225)、(C1429)、(C1633)、(C1837)等の化合物が挙げられる。更にまた、Rがメチル基の場合としては、例えば、Rが全て(C)、(C17)等の化合物が挙げられる。
【0053】
ところで、油水分離濾材など、水と接触させて使用するような用途においては、水に対する耐久性や親水撥油効果の持続性を有することが望まれる。上記観点から、本実施形態の油水分離層12を構成する親水撥油剤、水への溶解性が低い難溶性化合物であることが望ましい。すなわち、本実施形態の油水分離層12を構成する親水撥油剤は、親水性賦与基Xがアニオン型である場合、対イオンである上記Mが、アルカリ土類金属やMg、Alであることが好ましく、特にCa、Ba、Mgが親水撥油性に優れ、水への溶解度が低いことから好ましい。
【0054】
[カチオン型]
親水性賦与基Xがカチオン型である場合、上記Xは、末端に「−N・Cl」、「−N・Br」、「−N・I」、「−N・CHSO」、「−N・NO」、「(−NCO2−」又は「(−NSO2−」(R〜Rは水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)を有する。
【0055】
[両性型]
親水性賦与基Xが両性型である場合、上記Xは、末端に、カルボキシベタイン型の「−N(CHCO」、スルホベタイン型の「−N(CHSO」又はアミンオキシド型の「−N」(nは1〜5の整数、R、Rは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)を有する。
【0056】
なお、本実施形態における油水分離層12を構成する親水撥油剤は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した含窒素フッ素系化合物の構造の具体例においては、含窒素ペルフルオロアルキル基からなる撥油性賦与基として、式(1)及び式(2)中に示すRf及びRfが対称である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、非対称であってもよい。
【0057】
「環状の含窒素フッ素系化合物」
上記式(3)又は上記式(4)に示す、環状の含窒素フッ素系化合物では、Rf、RfおよびRfからなる含窒素ペルフルオロアルキレン基、さらにはZが、撥油性賦与基を構成する。
また、上記式(3)又は上記式(4)に示す含窒素フッ素系化合物では、上記撥油性賦与基であるRf〜Rf及びZ中の、フッ素が結合した炭素数の合計が4〜18個の範囲であることが好ましい。フッ素が結合した炭素数が4未満であると、撥油効果が不十分であるために好ましくない。
【0058】
なお、上記式(4)中、Rは、分子鎖中において撥油性賦与基と親水性賦与基とを繋ぐ連結基である。連結基Rの構造は、直鎖状又は分岐状の、2価の有機基であれば特に限定されるものではない。また、連結基Rは、分子鎖中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合及びウレタン結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0059】
具体的には、例えば、連結基Rは、炭素数1〜20の炭化水素基であってもよいし、ポリオキシアルキレン基及びエポキシ基から選択される1種以上を含んでいてもよい。
【0060】
また、連結基Rは、分子鎖中に、二元共重合体又は三元共重合体以上のポリマーを有していてもよい。
【0061】
また、上記式(3)又は上記式(4)中、Xは、アニオン型、カチオン型及び両性型からなる群から選択されるいずれか1の親水性賦与基である。
以下、親水性賦与基Xを場合分けして、親水撥油剤の構造を説明する。
【0062】
[アニオン型]
親水性賦与基Xがアニオン型である場合、上記Xは、末端に「−CO」、「−SO」、「−OSO」、「−OP(OH)O」、「−OPO」又は「=OPO」(Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mg、Al、R;R〜Rは水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)を有する。
【0063】
アルカリ金属としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、セシウム(Cs)が挙げられる。また、アルカリ土類金属しては、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が挙げられる。
【0064】
また、第4級アンモニウム塩(R)としては、R〜Rが水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基であれば、特に限定されるものではない。より具体的には、Rが全て同じ化合物としては、例えば、(CH、(C、(C、(C、(C11、(C13、(C15、(C17、(C19、(C1021等が挙げられる。また、Rが全てメチル基の場合としては、例えば、Rが(C)、(C13)、(C17)、(C19)、(C1021)、(C1225)、(C1429)、(C1633)、(C1837)等の化合物が挙げられる。さらに、Rが全てメチル基の場合としては、例えば、Rが全て(C17)、(C1021)、(C1225)、(C1429)、(C1633)、(C1837)等の化合物が挙げられる。更にまた、Rがメチル基の場合としては、例えば、Rが全て(C)、(C17)等の化合物が挙げられる。
【0065】
なお、本実施形態の油水分離回収具10など油水分離層12が水と接触させて使用するような用途においては、水に対する耐久性や親水撥油効果の持続性を有することが望まれる。上記観点から、本実施形態の油水分離層12に用いられる親水撥油剤は、水への溶解性が低い難溶性化合物であることが望ましい。すなわち、本実施形態の油水分離層12に用いられる親水撥油剤は、親水性賦与基Xがアニオン型である場合、対イオンである上記Mが、アルカリ土類金属やMg、Alであることが好ましく、特にCa、Ba、Mgが親水撥油性に優れ、水への溶解度が低いことから好ましい。
【0066】
[カチオン型]
親水性賦与基Xがカチオン型である場合、上記Xは、末端に「−N・Cl」、「−N・Br」、「−N・I」、「−N・CHSO」、「−N・NO」、「(−NCO2−」又は「(−NSO2−」(R〜Rは水素原子またはそれぞれ独立した炭素数1〜20までの直鎖もしくは分岐状のアルキル基)を有する。
【0067】
[両性型]
親水性賦与基Xが両性型である場合、上記Xは、末端に、カルボキシベタイン型の「−N(CHCO」、スルホベタイン型の「−N(CHSO」又はアミンオキシド型の「−N」(nは1〜5の整数、R、Rは水素原子または炭素数1〜10のアルキル基)を有する。
【0068】
なお、本実施形態の油水分離回収具10を構成する油水分離層12に用いる親水撥油剤は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述した含窒素フッ素系化合物の構造の具体例においては、含窒素ペルフルオロアルキル基からなる撥油性賦与基として、式(3)及び式(4)中に示すRf及びRfがZを挟んで対称である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、非対称であってもよい。
【0069】
(結合剤)
本実施形態のにおける油水分離回収具10を構成する油水分離層12は、基材11によって形成された流路17の例えば表面に上記式(1)〜(4)で示される含窒素フッ素系化合物(親水撥油剤)が単独または結合剤と複合化されたものである。換言すると、基材11の表面に油水分離層12を構成する上記フッ素系化合物(親水撥油剤)が存在するものである。また、本実施形態の油水分離回収具10は、分離対象である液体によって上記フッ素系化合物が流失しないために、基材11の表面に当該フッ素系化合物が油水分離層12として固着されている。
【0070】
具体的には、本実施形態の油水分離回収具10は、基材11の表面の一部又は全部が、上記式(1)〜(4)で示される含窒素フッ素系化合物(親水撥油剤)を含む塗膜(塗布膜)、あるいは上記式(1)〜(4)で示される含窒素フッ素系化合物と結合剤とを含む塗膜(塗布膜)によって被覆されていてもよい。
【0071】
塗膜(塗布膜)は、上述したフッ素系化合物(親水撥油剤)のみからなる場合と、結合剤を含む場合とがある。結合剤を含む場合は、親水撥油剤と結合剤との質量組成比は、10対90から99.9対0.1の範囲であることが好ましい。ここで、親水撥油剤の質量組成比が10未満であると、十分な親水撥油性が得られないために好ましくない。基材11との密着性や塗布膜の耐久性を加味すると、10対90から90対10が特に好ましい。
【0072】
結合剤としては、具体的には、例えば、有機結合剤(樹脂)や無機結合剤(無機ガラス)が挙げられる。有機結合剤(樹脂)としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂等があり、具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリルポリオール系樹脂、ポリエステルポリオール系樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂や熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0073】
油水分離層12がもつ親水撥油性の特性を最大限に発揮させるためには、結合剤を用いることが望ましい。結合剤としては、親水性ポリマーを用いることが好ましい。また、親水性ポリマーとしては、ヒドロキシル基を含有しているものが好ましい。
【0074】
親水性ポリマーとしては、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、セルロースなどの多糖およびその誘導体などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。親水性ポリマーは、架橋剤により架橋してもよい。このような架橋により、塗膜の耐久性が向上する。
【0075】
架橋剤としては、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、紫外線架橋型化合物、脱離基含有化合物、カルボン酸化合物、ウレア化合物などが挙げられる。
【0076】
無機結合剤(無機ガラス)としては、具体的には、例えば、化学式[R14Si(OR15]で示されるトリアルコキシシラン、化学式[Si(OR16](R14〜R16はそれぞれ独立した炭素数1〜6までのアルキル基)で示されるテトラアルコキシシラン等のシラン化合物や、水ガラス等が挙げられる。これらの中でも、水ガラスは、耐久性の向上効果が高いために好ましい。
【0077】
(基材)
本実施形態の油水分離回収具10において、分離対象である液体の流路17は、基材11によって形成されている。具体的には、本実施形態の油水分離回収具10が、繊維状の基材11によって膜状に形成される場合、上記繊維どうしの空間が液体の流路17となる。また、本実施形態の油水分離回収具10が、粒子状の基材11が積層(あるいは充填)されて形成される場合、粒子どうしの隙間が液体の流路となる。また、基材11が多孔質体である場合、当該多孔質体の気孔内も液体の流路17となる。
また、基材11が網状の部材、例えば金属で形成された微細な孔径を持つ網体で形成する場合、網体の空孔が液体の流路17となる。
【0078】
また、上記基材11の材質としては、分離対象である液体の流路17を形成可能であれば特に限定されるものではなく、有機物であってもよいし、無機物であってもよい。更には有機物と無機物との複合物であってもよい。したがって、本実施形態の油水分離回収具10における基材11の態様としては、繊維状の有機物、粒子状の有機物、繊維状の無機物、粒子状の無機物、有機物の多孔質体及び無機物の多孔質体が挙げられる。
【0079】
ここで、基材11として利用可能な有機物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂等の各種樹脂、セルロースなどの天然高分子およびその誘導体などが挙げられる。具体的には、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリルポリオール系樹脂、ポリエステルポリオール系樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、熱可塑性アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂や熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂等、パルプや綿等が挙げられる。
【0080】
また、多孔質基材の場合には、上記式(1)〜(4)で示されるフッ素系化合物(親水撥油剤)を当該多孔質基材に担持させる。
【0081】
フッ素系化合物を多孔質基材に担持させる方法としては、上記フッ素系化合物(親水撥油剤)の溶解液または分散液に、担持させる多孔質体(多孔質基材)を添加し、乾燥により溶媒を除去する手法などが適用可能である。担持する割合としては、親水撥油剤と担持する多孔質体との質量組成比を1対99から50対50の範囲から選択するのが、親水撥油性の特性面で好ましい。
【0082】
なお、得られた多孔質体(多孔質基材)が多孔質粒子である場合には、ろ紙や不織布等の基材の表面に固着処理することによって、より優れた油水分離性能が得られるため、さらに好ましい。また、基材11への固着には、上述した樹脂やガラス質を用いることが可能である。
【0083】
また、本実施形態の油水分離回収具10における基材11としては、上述した有機物(樹脂)と上記式(1)〜(4)で示されるフッ素系化合物(親水撥油剤)のうち、一種又は二種以上とを含む樹脂組成物によって、繊維状又は粒子状に形成された態様であってもよい。すなわち、上述した親水撥油剤は、各種樹脂に親水撥油性の機能を付与するための添加剤として用いられている。
【0084】
樹脂組成物は、親水撥油剤と樹脂とのほかに、流動性改善剤、界面活性剤、難燃剤、導電付与剤、防カビ剤等の親水撥油以外の機能を付与するために添加剤を任意成分としてさらに含んでもよい。
【0085】
樹脂組成物の形成方法としては、樹脂の種類にあわせて適切に選択された親水撥油剤が分散又は溶解できる方法であれば、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、熱可塑性樹脂への親水撥油剤の混合方法としては、押し出し法やロール法による練り込み等により混合する方法がある。
【0086】
樹脂組成物において、親水撥油剤と樹脂との質量組成比が、10対90〜99.9対0.1の範囲であることが好ましい。親水撥油剤の質量組成比が10未満であると、親水撥油機能を十分に発揮することができないために好ましくない。一方、親水撥油剤の質量組成比が99.9を超えると、樹脂物性を損ない、成形性を維持することが難しいために好ましくない。
【0087】
さらに、本実施形態の濾材における基材が多孔質体である場合、上記式(1)〜(4)で示される一種又は二種以上のフッ素系化合物(親水撥油剤)を多孔質体の態様で使用してもよい。これにより、優れた油水分離性能が得られるために、好ましい。
【0088】
多孔質体を得る方法としては、一般に知られている手法が適用可能である。具体的には、例えば、親水撥油剤の溶解液または分散液を、スプレードライ法で乾燥する手法が挙げられる。これによって得られる粒子は、多孔質体の形成とともに粒子径の制御が可能であり、そのまま濾過材として適用することができることから、特に好ましい。
【0089】
また、多孔質粒子を製造する際に、樹脂やガラス質などの結合剤を親水撥油剤の溶解液または分散液に加えることにより、多孔質粒子を結合させることで、多孔質体の物理的強度を高めることや、水への溶解性を制御して低減することが可能である。
【0090】
樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を、ガラス質としては、上述のシラン化合物や水ガラスを使用することができる、また、親水撥油剤に対する結合剤の使用量としては、特に限定されるものではなく、粒子を結合可能な範囲で適宜添加すればよい。典型的には、親水撥油剤と結合剤との質量組成比を10対90から99.9対0.1の範囲で使用するのが好ましい。
【0091】
以上説明したように、本実施形態の油水分離回収具10によれば、基材11によって形成された流路17の表面に、撥油性賦与基と親水性賦与基とを分子中に含むフッ素系化合物が一種又は二種以上存在する。このため、本実施形態の油水分離回収具10に、水と油との混合液体を流した場合、水分は基材11の流路17を通過するのに対して、油分は通過できない。したがって、本実施形態の油水分離回収具10は、重力のみで水と油とを分離可能であり、後述する阻集器の油水分離膜として好適に用いることができる。
【0092】
また、本実施形態の油水分離回収具10は、基材11によって形成された流路17の表面に親水撥油性が付与されているため、有機分子や土泥類が付着し難く、優れた耐ファウリング性が得られる。また、逆圧洗浄等の物理処理によって付着した汚れが除去され易く、易洗浄性にも優れる。
【0093】
また、本実施形態の油水分離回収具10は、上記式(1)〜(4)に示すフッ素系化合物のみを含む場合には、連続して結合している炭素数8以上のペルフルオロアルキル基を含有せず、生体蓄積性や環境適応性の点で問題となるPFOSまたはPFOAを生成する懸念がない化学構造でありながら、優れた親水撥油性を付与することが可能である。
【0094】
本実施形態の油水分離回収具10は、後述する阻集器の油水分離膜として用いる以外にも、基材11と該基材11の表面に形成された油水分離層12とからなる油水分離回収具10を、例えば、柄の付いた支持部材で支持した掬い網状のものにすることもできる。 こうした柄付きの油水分離回収具10を用いて、例えば、油と水が混合した混合液体(排水)を貯留する排水タンクの表面を浚うことによって、排水の表面に浮遊している油分だけを排液から選択的に分離し、容易に回収することができる。
【0095】
<阻集器>
次に、本発明を適用した一実施形態である阻集器の構成について説明する。
図2は、本発明の油水分離回収具を含む阻集器の一実施形態を示す断面図である。
本実施形態の阻集器(油阻集器:グリーストラップ)20は、例えば、営業用調理場など水、油、固形物等が混合した混合液体(以下、廃液と称する場合がある)が排出される場所などに設置され。油分や固形物を回収して水分だけを下水道等に排水させる装置である。
本実施形態の阻集器20は、廃液が流入する上流側から下流側に向けて、第1槽(前段槽)21、第2槽(後段槽)22、および第3槽23の順に直列に配置されている。これら各槽21〜23のそれぞれの間は、開口を備えた隔壁によって区画されている。
【0096】
第1槽(前段槽)21は、例えば、廃液が上部から直接流入する液槽であり、底部に向けて排液が流れる。第1槽(前段槽)21には、廃液に含まれる固形物、例えば食品カスを漉し取る固形物除去器28が設置されている。固形物除去器28は、例えば、廃液中を浮遊する固形物を濾別可能なサイズのメッシュを持つ金網などから形成されていればよい。
【0097】
こうした固形物除去器28は、第1槽21に着脱自在に設けられ、固形物が一定量以上溜った際に、第1槽21から取り外して堆積した固形物を廃棄する。固形物除去器28を通過した廃液は、固形物が除去され、水と油が混合した混合液体として第1槽(前段槽)21の底部から第2槽(後段槽)22に向けて流動する。
【0098】
第2槽(後段槽)22は、水と油が混合した液体から油分を分離、回収する油分離回収槽であり、上流側に第1槽21の底部から流入する混合液体を上部に誘導してオーバーフローさせる隔壁が形成されている。この第2槽(後段槽)22には、前述した実施形態の油水分離回収ユニット16が着脱自在に設置されている。
【0099】
第2槽(後段槽)22に設置される油水分離回収ユニット16は、図1に示すように、流路17が形成された基材11と、流路17を含むを基材11の表面全体を覆う油水分離層12とからなる本発明の油水分離回収具10と、この油水分離回収具10を支持する籠状の支持部材15とからなり、油水分離回収具10は支持部材15の底部に配される。また、支持部材15には、油水分離回収ユニット16全体を第2槽(後段槽)22に着脱させるための取っ手44が形成されている。
【0100】
第2槽(後段槽)22においては、混合液体が油水分離回収具10を構成する基材11の一面11a側(上部側)から流入し、他面11b側(下部側)から流出する。即ち、混合液体は、油水分離回収具10に接すると、油水分離層12の親水撥油性によって油分だけが凝集し、基材11の一面11a側に分離される。また、水分は油水分離層12の親水性によって、基材11の流路17を通過して他面11b側(下部側)から流出する。
【0101】
このように、第2槽(後段槽)22に流入した混合液体は、油水分離回収具10によって、油分と水分とに分離され、油分は油水分離回収具10によって回収される。油水分離回収具10によって分離された油分は、油水分離回収具10の表面や第2槽(後段槽)22の液面に貯められる。そして、油水分離回収ユニット16を第2槽(後段槽)22から取り外すことによって、分離した油分を取り出すことができる。
【0102】
第2槽(後段槽)22の油水分離回収具10によって、油分と分離された水分は、第2槽(後段槽)22の底部から第3槽に向けて流動する。
【0103】
第3槽23は、水分を排出させる排水槽であり、水分だけが排水管を経て阻集器20の外部に排水される。こうした排水は、阻集器20によって油分や固形物や分離、回収されているので、下水道に直接排出することができる。
【0104】
このように、本実施形態の阻集器20によれば、水と油とが混合した混合液体を油水分離回収具10に接触させるだけで、油水分離層12の親水撥油性によって、水分と油分とを容易に分離して、油分だけを選択的に回収することができる。阻集器20に油水分離回収具10を設けることによって、水と油とが混合した混合液体から、簡易な構成で容易に、かつ低コストに油分だけを分離、回収することを可能にする。
【0105】
図3は、阻集器の別な実施形態を示す断面図である。
この別な実施形態の阻集器(油阻集器:グリーストラップ)30は、廃液が流入する上流側から下流側に向けて、第1槽(前段槽)31、および第2槽(後段槽)32の順に直列に配置されている。これら各槽31、32の間は、開口を備えた隔壁によって区画されている。
【0106】
第1槽(前段槽)31は、廃液が上部から直接流入する液槽であり、底部に向けて排液が流れる。第1槽(前段槽)31には、水と油が混合した液体から油分を分離、回収する油水分離回収ユニット40が着脱自在に形成されている。本実施形態の阻集器30における油水分離回収ユニット40は、油水分離回収具41を備えている。油水分離回収具41は、図1に示す基材11と、油水分離層12とから構成される。油水分離回収ユニット40には、廃液に含まれる固形物、例えば食品カスを漉し取る固形物除去器42が、油水分離回収具41の上に設置される。固形物除去器42は、例えば、廃液中を浮遊する固形物を濾別可能なサイズのメッシュを持つ金網などから形成されていればよい。こうした固形物除去器42は、油水分離回収ユニット40に着脱自在に設けられる。
【0107】
油水分離回収具41によって分離、回収された油分と固形物は、取っ手44を把持して油水分離回収ユニット40を第1槽(前段槽)31から取り外すことによって、分離した油分と固形物とを取り出して廃棄することができる。
【0108】
第1槽(前段槽)31に流入した廃液は油水分離回収具41によって固形物と油分とが分離、回収され、水分だけが排水として第2槽(後段槽)32に流入する。第2槽32は、水分を排出させる排水槽であり、水分だけが排水管を経て阻集器30の外部に排水される。こうした排水は、阻集器30によって油分や固形物や分離、回収されているので、下水道に直接排出することができる。
【0109】
このように、本実施形態の阻集器30によれば、水と油とが混合した混合液体を油水分離回収具41に接触、通過させるだけで、油水分離層12の親水撥油性によって、水分と油分とを容易に分離して、油分だけを選択的に回収し、また、食品カスなどの固形物も同時に回収することができる。即ち、本実施形態では、阻集器30に油水分離回収具41と固形物除去器42を設けることによって、水と油とが混合した混合液体から、簡易な構成で容易に、かつ低コストに油分だけを分離、回収し、同時に固形物も回収することを可能にする。また、油水分離と固形物回収とを1つの槽で行うことによって、阻集器30の小型化と、メンテナンス性の向上を実現することができる。
【0110】
図4は、阻集器の別な実施形態を示す断面図である。
この別な実施形態の阻集器(油阻集器:グリーストラップ)50は、従来から一般的に用いられている阻集器、即ち、後段槽で水と油との比重差によって油水分離を行う構成の阻集器に対して、本発明の油水分離回収具を設置することによって、本発明の阻集器50を構成したものである。
【0111】
この阻集器50は、廃液が流入する上流側から下流側に向けて、第1槽(前段槽)51、第2槽(後段槽)52、および第3槽53の順に直列に配置されている。第1槽(前段槽)51は、例えば、廃液が上部から直接流入する液槽であり、底部に向けて排液が流れる。第1槽(前段槽)51には、廃液に含まれる固形物、例えば食品カスを漉し取る固形物除去器58が設置されている。固形物除去器58は、例えば、廃液中を浮遊する固形物を濾別可能なサイズのメッシュを持つ金網などから形成されていればよい。こうした固形物除去器58は、第1槽51に着脱自在に設けられている。
【0112】
第2槽(後段槽)52は、水と油が混合した液体から油分を分離、回収する油分離回収槽であり、既存の阻集器では、ここで水と油との比重差によって油水分離を行っているが、この本発明の阻集器50では、油水分離回収ユニット61を追加設置することによって、本発明の油水分離回収具10で油水分離を行う構成としている。
【0113】
油水分離回収ユニット61は、油水分離回収具10と、この油水分離回収具10を第2槽(後段槽)52の内部で支持する支持部材63とからなる。支持部材63は、油水分離回収具10を第2槽52の上部で支持するとともに、第2槽52に流入した混合液体を水面方向に向けて上昇させて油水分離回収具10に誘導させる隔壁の役割を果たす。
【0114】
本実施形態の阻集器50における第2槽(後段槽)52も、混合液体が油水分離回収具10に接すると、油水分離層12(図1参照)の親水撥油性によって油分だけが分離、回収され、水分は油水分離層12の親水性によって、基材11の流路17を通過して流出する。
【0115】
このように、第2槽(後段槽)52に流入した混合液体は、油水分離回収具10によって、油分と水分とに分離され、油分は取っ手44を把持して油水分離回収ユニット61を第2槽(後段槽)52から取り外すことによって回収される。そして、第2槽(後段槽)52の油水分離回収具10によって、油分と分離された水分は、第2槽(後段槽)52の底部から第3槽53に向けて流動し、第3槽53から阻集器50の外部に排水される。こうした排水は、阻集器50によって油分や固形物や分離、回収されているので、下水道に直接排出することができる。
【0116】
このように、本実施形態の阻集器50によれば、水と油との比重差によって油水分離を行う既存の阻集器に対して本発明の油水分離回収具10を追加設置することで、油水分離層12によって混合液体の水分と油分とを分離して、油分だけを容易に回収することができる。また、比重差によって油水分離を行う阻集器と比べて、油分が流出する懸念がなく、油分を確実に回収することが可能になる。
【0117】
図5は、阻集器の別な実施形態を示す断面図である。
従来から一般的に用いられている阻集器に対して、本発明の油水分離回収具を設置した別な実施形態である阻集器70は、廃液が流入する上流側から下流側に向けて、第1槽(前段槽)71、第2槽(後段槽)72、および第3槽73の順に直列に配置されている。第1槽(前段槽)71は、例えば、廃液が上部から直接流入する液槽であり、固形物を漉し取る固形物除去器78が設置されている。
【0118】
第2槽(後段槽)72は、水と油が混合した液体から油分を分離、回収する油分離回収槽であり、既存の阻集器では、ここで水と油との比重差によって油水分離を行っているが、この本発明の阻集器70では、油水分離回収ユニット81を追加設置することによって、本発明の油水分離回収具10で油水分離を行う構成としている。
【0119】
油水分離回収ユニット81は、油水分離回収具10と、この油水分離回収具10を第2槽(後段槽)72の内部で支持する支持部材83とからなる。支持部材83は、油水分離回収具10を支持する四角形の底板83aと、この底板83aの四辺からそれぞれ延びる網板からなる側壁83bとを備える。こうした支持部材83全体は、例えば、金属板や金属網から形成されている。
【0120】
そして、支持部材83の互いに対向する側壁83bは、その上端どうしの間隔が、第2槽(後段槽)72の隔壁72aと中間壁72bとの間隔よりも僅かに広くなるように傾斜している。この第2槽72では、第1槽71から流入した混合溶液が油水分離回収具10に接すると、油水分離回収具10の親水撥油性によって水分と油分とが分離され、水分だけが傾斜した側壁83bから流出し、油分は油水分離回収具10を通過できず、油分と分離された水分は、第2槽(後段槽)72の底部から第3槽73に向けて流動し、第3槽73から阻集器70の外部に排水される。
【0121】
このような構成の阻集器70では、油水分離回収ユニット81の支持部材83を、取っ手44を把持して第2槽(後段槽)72の隔壁72aと中間壁72bとの間の空間に押し込むだけで、対向する側壁83bどうしの弾性力によって支持部材83が第2槽(後段槽)72の内部に係止される。こうした支持部材83の構成によって、既存の阻集器に、油水分離回収具10を係止するための係止具などを新たに設けなくても、本発明の油水分離回収具10を備えた阻集器70を実現することができる。
【0122】
以上、本発明の阻集器の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
上述した実施形態では、本発明の阻集器に油水分離回収具を1つだけ配置しているが、本発明の油水分離回収具を1つの阻集器に2つ以上配置した構成とすることもできる。これによって、より一層確実に油分の分離、回収を行うことができる。
【0123】
また、上述した実施形態では、液槽を2つないし3つ直列に設けた例を示しているが、4つ以上の液槽を配置することもできる。この場合、いずれか1つ以上の液槽に本発明の油水分離回収具を設置することによって、本発明の阻集器を実現することができる。
【実施例】
【0124】
本発明の油水分離回収具の効果を検証した。
検証にあたっては、不織布に対して、撥油性賦与基と親水性賦与基とを分子中に含むフッ素系化合物をコーティングしたフィルターを備えた、図1に示す構成の油水分離回収具を作成した。
具体的には、面積314cmのポリプロピレン不織布(目付:40g/m、厚さ:0.09mm)を、親水撥油剤として合成例1にて合成した含窒素フッ素系化合物2質量%、ポリビニルブチラール(積水化学社製エスレックBL−1)4質量%、エタノール94質量%の組成に調製した液(表面被覆材)に浸漬処理し、自然乾燥して(乾燥後の増量:0.5g)、図1に示す構成の油水分離回収具を作成した。
この油水分離回収具を備えた油水分離回収ユニットに、5Lの水と1Lのn−ヘキサデカンとを混合した模擬液をよくかき混ぜながら室温・常圧下で供給し、油水分離回収具を水が1L通過する毎に経過時間を測定して、透過流束(単位:cm/cm・min)を算出した。通過した水の積算量が3Lになった時点で模擬液の供給を停止し、通過した3Lの水を集積して、水中のn−ヘキサデカンをヘキサン抽出・ガスクロマトグラフィー法により濃度を定量分析した。この測定結果を表1に示す。
【0125】
【表1】
【0126】
表1に示す結果から、本発明の油水分離回収具を用いれば、水と油とが混合した混合溶液を、水分と油分に高精度に分離可能であることが確認され、例えば、分離された水分は、5mg/L未満(水質汚濁防止法・下水道法で定められた排水中の鉱油類の許容限度)の非水溶性油分含有量にすることができる。
【0127】
また、本発明の油水分離具に記載に形成された油水分離層のフッ素系化合物の種類を変えた場合の実験例及び効果をさらに詳細に説明する。本発明はこれら実験例によって、なんら限定されるものではない。
【0128】
(合成例1)
「2−[3−[ペルフルオロ(2−メチル−3−ジブチルアミノプロパノイル)]アミノプロピル−ジメチル−アンモニウム]アセテートの合成」
2−メチル−3−ジブチルアミノプロピオン酸メチルの電解フッ素化により得られたペルフルオロ(2−メチル−3−ジブチルアミノプロピオン酸)フルオリド120gを、ジメチルアミノプロピルアミン39gをIPE溶媒500mlに溶解した溶液に、氷浴下滴下した。室温で2時間撹拌した後にろ過を行い、ろ液のIPE層をNaHCO水溶液と、NaCl水溶液とで洗浄処理し、分液した後に水洗を行った。その後、IPEを留去し、さらに蒸留して粗生成物として、(CNCFCF(CF)CONHCN(CHを64g得た(収率47%)。
【0129】
次いで、得られた(CNCFCF(CF)CONHCN(CHを8g、エタノール中で撹拌下モノクロル酢酸ナトリウムと一晩還流させ、ろ過、濃縮後、ジメチルベタイン体を9g得た(収率99%)。
【0130】
(合成例2)
「2−[3−[ペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロパノイル)]アミノプロピル−ジメチル−アンモニウム]アセテートの合成」
3−ジブチルアミノプロピオン酸メチルの電解フッ素化により得られたペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)フルオリド20gを、ジメチルアミノプロピルアミン4gをIPE溶媒50mlに溶解した溶液に、氷浴下滴下した。室温で2時間撹拌した後にろ過を行い、ろ液のIPE層をNaHCO水溶液と、NaCl水溶液とで洗浄処理し、分液した後に水洗を行った。その後、IPEを留去したところ、粗生成物として、(CNCCONHCN(CHを14g得た(収率60%)。
【0131】
次いで、得られた(CNCCONHCN(CH3gを、エタノール中で撹拌下モノクロル酢酸ナトリウムと一晩還流させて、ジメチルベタイン体を3g得た(収率92%)。
【0132】
(合成例3)
「2−[3−[ペルフルオロ(2−メチル−3−ピペリジノプロパノイル)]アミノ]プロピル−ジメチル−アンモニウム]アセテートの合成」
電解フッ素化により得られたペルフルオロ(2−メチル−3−ピペリジノプロピオン酸)フルオリド20gを、ジメチルアミノプロピルアミン9gをIPE溶媒110mlに溶解した溶液に氷浴下で滴下した。室温で2時間撹拌した後にろ過を行い、ろ液のIPE層をNaHCO水溶液と、NaCl水溶液で洗浄処理し、分液した後に水洗を行った後、IPEを留去したところ、粗生成物として、CF(CFCFNCFCF(CF)CONHCN(CHを18g得た(粗収率76%)。
【0133】
次いで、得られた粗成生物CF(CFCFNCFCF(CF)CONHCN(CH10gを、エタノール中で撹拌下モノクロル酢酸ナトリウム3gと一晩還流させて、ジメチルベタイン体を11g得た(収率99%)。
【0134】
(合成例4)
「2−[3−[[ペルフルオロ(2−メチル−3−モルホリノプロパノイル)]アミノ]プロピル−ジメチル−アンモニウム]アセテートの合成」
電解フッ素化により得られたペルフルオロ(3−メチル−3−モルホリノプロピオン酸)フルオリド21gを、ジメチルアミノプロピルアミン10gをIPE溶媒100mlに溶解した溶液に氷浴下で滴下した。その後、室温下で2時間撹拌した後にろ過を行い、ろ液のIPE層をNaHCO水溶液と、NaCl水溶液で洗浄処理し、分液した後に水洗を行った後、IPEを留去したところ、粗生成物として、O(CFCFNCFCF(CF)CONHCN(CHを22g得た(粗収率88%)。
【0135】
得られた粗成生物 O(CFCFNCFCF(CF)CONHCN(CHを10g、エタノール中で撹拌下モノクロル酢酸ナトリウム3gと一晩還流させて、ジメチルベタイン体を11g得た(収率99%)。
【0136】
(合成例5)
「ペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)カルシウムの合成」
2Lガラスフラスコに12.5%の水酸化ナトリウム水溶液352gを仕込み、3−ジブチルアミノプロピオン酸メチルの電解フッ素化により得られたペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)フルオリド837gを滴下して反応を行った。滴下後、酢酸エチル500mLを加え、ペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)ナトリウムを抽出した。酢酸エチル層を水と分離後、ロータリーエバポレーターにて酢酸エチルを留去して、淡黄色固体のペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)ナトリウム488gを得た。
【0137】
次いで、1Lのガラスフラスコにペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)ナトリウム488gと95%硫酸280gとを仕込んで混合し、減圧蒸留を行い、常温で固体のペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)436gを得た(ナトリウム塩からの収率93%)。
【0138】
ペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)23.5gを、メタノール/水混合液中で水酸化カルシウム1.5gによって中和した。析出した結晶をろ過にて分離し、100℃で乾燥して、ペルフルオロ(3−ジブチルアミノプロピオン酸)カルシウム23.5gを得た(収率97%)。なお、本化合物の水に対する室温での溶解度は0.02質量%であった。
【0139】
(基材)
基材として、直径47mmの市販のPTFEメンブレンフィルター(ADVANTEC
T100A−:孔径1μm、空隙率79%、厚さ75μm)、目付72g/m、厚さ0.26mmのポリプロピレン製不織布および目付60g/m、厚さ0.40mmのポリエチレン/ポリプロピレン複合不織布を、各々直径47mmの円形のフィルター状に切り取ったものを使用した。
【0140】
(結合剤)
結合剤として、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製エスレックB BL−1、同BL−S、同BM−2、エスレックK KS−10)、アクリル樹脂(東亜合成(株)製アルフオンUC−3000)、テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル(株)YSポリスターN125)を使用した。
【0141】
<油水分離具の作製>
先ず、親水撥油剤と結合剤および溶媒であるメタノール又はエタノールを所定の割合で配合し、表面被覆材を作製した。
【0142】
次に、この表面被覆材に上記基材をディップし、溶液を十分に含浸させたのち、引き揚げて自然乾燥により溶媒を除去した。このようにして、油水分離具を作製した。
【0143】
<油水分離具浸透試験による評価>
作成した油水分離具に、水とn−ヘキサデカンをそれぞれ滴下し、その浸透性を下記定義に基づき目視判定して、親水撥油性を評価した。
【0144】
なお、水及びn−ヘキサデカンの滴下方法としては、下記の条件を用いた。
滴下容量:(40〜45)μL/滴(水)
滴下容量:(20〜25)μL/滴(n−ヘキサデカン)
滴下高さ:油水分離具の表面から5cm
滴下冶具:ポリスポイト
【0145】
また、油水分離具浸透試験において、評価結果の定義は以下の通りである。
直ちに浸透:浸透試験用の油水分離具に液滴を滴下後、30秒以内に浸透するもの
徐々に浸透:液滴を滴下後、30秒超過〜5分以内に浸透するもの
浸透しない:液滴を滴下後、30分間浸透しないもの
【0146】
<超音波洗浄による耐久性の評価>
さらに、浸透試験用の油水分離具を50ml純水に浸漬し、アズワン製超音波洗浄器USK−5R(240W,40kHz)を用いて室温下で超音波洗浄を行った。
超音波照射開始から6時間後までは90分毎に、6時間以降は60分毎に純水の入替えを行った。
超音波照射3時間後、同6時間後、同8時間後に油水分離具を取り出し、上記油水分離具浸透試験と同様な方法で親水撥油性を評価した。
【0147】
(実験例1)
親水撥油剤として合成例1にて合成した含窒素フッ素系化合物を2質量%、結合剤としてエスレックB BL−Sを4質量%、溶媒としてメタノールを94質量%の割合で配合して溶解させた表面被覆材を作製した。
次いで、基材として目付72g/m、厚さ0.26mmのポリプロピレン製不織布を用い、当該基材に作製した表面被覆材を上述した方法によってコーティングして、実験例1の浸透試験用の油水分離具を作製した。なお、作製条件を下記表2に示す。
【0148】
実験例1の浸透試験用油水分離具に水とn−ヘキサデカンをそれぞれ滴下し、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。評価結果を下記表3に示す。
【0149】
(実験例2)
結合剤としてエスレックB BL−1、溶媒としてエタノールを用いた以外は実験例1と同様にして、実験例2の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0150】
(実験例3)
親水撥油剤として合成例1にて合成した含窒素フッ素系化合物を2質量%、結合剤としてエスレックB BL−1を20質量%、エタノールを78質量%の割合で配合して溶解させた表面被覆材を作製した。
次いで、実験例1と同様にして、実験例2の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0151】
(実験例4)
結合剤としてエスレックB BM−2を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例4の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0152】
(実験例5)
結合剤としてエスレックK KS−10を用いた以外は実験例1と同様にして、実験例5の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0153】
(実験例6)
結合剤としてアルフオンUC−300、溶媒としてエタノールを用いた以外は実験例1と同様にして、実験例2の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0154】
(実験例7)
結合剤としてYSポリスターN125、溶媒としてエタノールを用いた以外は実験例1と同様にして、実験例7の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0155】
(実験例8)
親水撥油剤として合成例1にて合成した含窒素フッ素系化合物を2質量%、結合剤としてエスレックB BL−1を4質量%、溶媒としてメタノールを94質量%の割合で配合して溶解させた表面被覆材を作製した。
次いで、基材として目付60g/m、厚さ0.40mmのポリエチレン/ポリプロピレン複合不織布を用い、当該基材に作製した表面被覆材を上述した方法によってコーティングして、実験例8の浸透試験用油水分離具を作製した後、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0156】
(実験例9)
親水撥油剤として合成例2にて合成した含窒素フッ素系化合物を2質量%、結合剤としてエスレックB BL−1を4質量%、溶媒としてメタノールを94質量%の割合で配合して溶解させた表面被覆材を作製した。
次いで、基材として目付72g/m、厚さ0.26mmのポリプロピレン製不織布を用い、当該基材に作製した表面被覆材を上述した方法によってコーティングして、実験例9の浸透試験用油水分離具を作製した後、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0157】
(実験例10)
親水撥油剤として合成例3にて合成した含窒素フッ素系化合物を用いた以外は実験例9と同様にして、実験例10の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0158】
(実験例11)
親水撥油剤として合成例4にて合成した含窒素フッ素系化合物を用いた以外は実験例9と同様にして、実験例11の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0159】
(実験例12)
親水撥油剤として合成例5にて合成した含窒素フッ素系化合物を用いた以外は実験例9と同様にして、実験例12の浸透試験用油水分離具を作製し、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0160】
(比較実験例1)
分子内に直鎖状の含窒素ペルフルオロアルキル基と、親水基としてポリオキシアルキレン基を持つ化合物をメタノールに溶解させて、2.0質量%メタノール溶液を作製した。
これを比較実験例1の表面被覆材とした。この溶液に目付72g/m、厚さ0.26mmのポリプロピレン製不織布にコーティングして、比較実験例1の浸透試験用油水分離具を作製した後、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0161】
(比較実験例2)
分子内に環状の含窒素ペルフルオロアルキル基と、親水基としてポリオキシアルキレン基を持つ化合物をメタノールに溶解させて、2.0質量%メタノール溶液を作製した。これを比較実験例2の表面被覆材とした。この溶液に目付72g/m、厚さ0.26mmのポリプロピレン製不織布にコーティングして、比較実験例2の浸透試験用油水分離具を作製した後、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0162】
(比較実験例3)
市販のペルフルオロヘプタン酸カルシウム2質量%に、溶媒としてメタノール98質量%を加えて溶解させた溶液を、比較実験例3の表面被覆材とした。
次いで、基材として直径47mmの市販のPTFEメンブレンフィルター(ADVANTEC T100A−:孔径1μm、空隙率79%、厚さ75μm)を用い、当該基材に作製した表面被覆材を上述した方法によってコーティングして、比較実験例3の浸透試験用油水分離具を作製した後、実験例1と同様の方法で、初期性能と超音波洗浄後の浸透性を評価した。作製条件を下記表2に、評価結果を下記表3にそれぞれ示す。
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
表3に示すように、実験例1,3の浸透試験用油水分離具は、浸透性の初期性能が親水撥油性であり、超音波洗浄8時間後も親水撥油性を維持した。
【0166】
また、実験例2,4,5の浸透試験用油水分離具は、浸透性の初期性能が親水撥油性であり、超音波洗浄6時間後も親水撥油性を維持した。
【0167】
また、実験例6,8,9の浸透試験用油水分離具は、浸透性の初期性能が親水撥油性であり、超音波洗浄3時間後も親水撥油性を維持した。
【0168】
一方、実験例7,10,11,12の浸透試験用油水分離具は、浸透性の初期性能が親水撥油性であったものの、超音波洗浄3時間後には親水親油性を示した。
【0169】
これに対して、比較実験例1〜2の浸透試験用油水分離具では、水の浸透結果が「直ちに浸透」であり、n−ヘキサデカンの浸透結果が「直ちに浸透」であることから、親水親油性であることが確認された。
また、比較実験例3の浸透試験用油水分離具では、水の浸透結果が「浸透しない」であり、n−ヘキサデカンの浸透結果が「徐々に浸透」であることから、撥水親油性であることが確認された。
【0170】
<油水分離試験による評価>
(実験例13)
ポリプロピレン不織布(目付:15g/m、厚さ:0.16mm、平均気孔径:7μm、最大気孔径14μm)を直径60mmの円形フィルター状に切り取り、親水撥油剤として合成例1にて合成した含窒素フッ素系化合物2g、ポリビニルブチラール(積水化学社製エスレックBL−1)4gをメタノール94gに溶解した液(表面被覆材)に浸漬処理し、自然乾燥後(乾燥後の増量:0.0141g)、室温下、常圧濾過装置にて油水分離試験を行った。
なお、試験液には、水30mLとn−ヘキサデカン10mLとの混合液を用いた。
試験液をよくかき混ぜながら常圧濾過装置に供給したところ、水は不織布を通過したものの(透過流束:1.2cm/min)、n−ヘキサデカンは不織布を通過することができず、油水が完全に分離された。
【0171】
(実験例14)
ポリプロピレン不織布(目付:20g/m、厚さ:0.21mm、平均気孔径:14μm、最大気孔径23μm)を直径60mmの円形フィルター状に切り取り、実験例13と同じ組成の表面被覆材に浸漬処理し、自然乾燥後(乾燥後の増量:0.0298g)、室温下、常圧濾過装置にて油水分離試験を行った。
なお、試験液には、水30mLとn−ヘキサデカン10mLとの混合液を用いた。
試験液をよくかき混ぜながら常圧濾過装置に供給したところ、水は不織布を通過したものの(透過流束:2.4cm/min)、n−ヘキサデカンは不織布を通過することができず、油水が完全に分離された。
【0172】
(実験例15)
ポリプロピレン不織布(目付:20g/m、厚さ:0.24mm、平均気孔径:21μm、最大気孔径37μm)を直径60mmの円形フィルター状に切り取り、実験例13と同じ組成の表面被覆材に浸漬処理し、自然乾燥後(乾燥後の増量:0.0216g)、室温下、常圧濾過装置にて油水分離試験を行った。
なお、試験液には、水30mLとn−ヘキサデカン10mLとの混合液を用いた。
試験液をよくかき混ぜながら常圧濾過装置に供給したところ、水は不織布を通過したものの(透過流束:6.3cm/min)、n−ヘキサデカンは不織布を通過することができず、油水が完全に分離された。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明の油水分離回収具は、基材の表面に親水撥油性が付与されており、透水性や耐ファウリング性、易洗浄性に優れているため、油水分離を目的とした各種機器、治具への適用が可能である。また、本発明の阻集器は、例えば、一般家庭、商業施設、公共施設、工場等から排出される油を含む排水の処理、事故などによる河川、海洋などへの油の流出に伴う油回収作業、石油採掘時の含油排水の一種である油田随伴水から非水溶性油分を除去する際の油水分離用器具として使用することが可能である。
【符号の説明】
【0174】
10 油水分離回収具
11 基材
12 油水分離層
15 支持部材
16 油水分離回収ユニット
17 流路
図1
図2
図3
図4
図5