特許第6461581号(P6461581)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6461581-セメント混和剤 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461581
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】セメント混和剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/18 20060101AFI20190121BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20190121BHJP
   C08H 7/00 20110101ALI20190121BHJP
   C04B 103/40 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   C04B24/18 Z
   C04B28/02
   C08H7/00
   C04B103:40
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-247111(P2014-247111)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-108183(P2016-108183A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 和孝
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−036623(JP,A)
【文献】 特公平05−001810(JP,B2)
【文献】 米国特許第02863780(US,A)
【文献】 特開平07−224135(JP,A)
【文献】 特開2011−184230(JP,A)
【文献】 米国特許第04642336(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 24/00−24/42
C04B 28/02
C08H 7/00
C04B 103/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンと1級若しくは2級アミン化合物(但し、アミノ酸及びポリアミンを除く)又はアンモニア由来のアミノ基とが2価の連結基を介して結合した構造を有するリグニン誘導体(但し、スルホメチル化リグニンのアミンを除く)を含有することを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】
前記2価の連結基は、2価の炭化水素基であることを特徴とする請求項1に記載のセメント混和剤。
【請求項3】
リグニン、1級若しくは2級アミン化合物(但し、アミノ酸及びポリアミンを除く)又はアンモニア及びアルデヒド化合物を原料(但し、原料から硫黄原子と酸素原子とを含有する化合物を除く)する反応物を含有することを特徴とするセメント混和剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のセメント混和剤とセメントとを含むことを特徴とするセメント組成物。
【請求項5】
側鎖にアミノ基を有するリグニン誘導体(但し、スルホメチル化リグニンのアミンを除く)の製造方法であって、
該製造方法は、1級若しくは2級アミン化合物(但し、ポリアミンを除く)又はアンモニアとアルデヒド化合物とを反応させる工程と、1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応生成物とリグニンとを反応させる工程とを含むことを特徴とするリグニン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン誘導体を含有するセメント混和剤に関する。より詳しくは、セメントや石膏などのセメント組成物やその他の水硬性材料に有用なセメント混和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、木材等の植物系バイオマスの3大主成分のうちの一つ(3大主成分:セルロース、ヘミセルロース、リグニン)であり、天然の芳香族ポリマーとして地球上に最も豊富に存在している。リグニンの構造については、光合成(一次代謝)により同化された炭素化合物が更なる代謝(二次代謝)を受けることで合成されるフェニルプロパノイドのうち、p−クマリルアルコール・コニフェニルアルコール・シナピルアルコールという3種類の基本骨格であるリグニンモノマーが、ラッカーゼ・ペルオキシダーゼ等の酸化酵素により一電子酸化され、フェノキシラジカルとなり、これが不定形にラジカルカップリングすることにより、複雑な三次元網目構造をとっている。
【0003】
上述のように、リグニンの分子構造は複雑であり、また、植物体から単離する際の単離方法によりリグニンの化学的特性が大きく変化すること、及び、リグニンが基本的には疎水性物質であり、難水溶性であること等の理由により、これまでリグニンの工業材料としての利用は限られていた。
【0004】
しかし一方で、安価に入手可能なリグニンを工業的に利用すべく、種々の検討がなされており、例えば、リグニンとアミン化合物とを反応させて得られるリグニン誘導体を洗浄組成物やアスファルト乳剤として使用することが開示されている(特許文献1及び2参照。)。また、リグニンとアミノ酸とを反応させて得られるリグニン誘導体をセメント用分散剤として使用されることが開示されている(特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−522529号公報
【特許文献2】特開昭48−13307号公報
【特許文献3】特開平7−224135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、リグニン誘導体の工業的利用が検討され、その用途の1つとしてセメント用分散剤としての利用も検討されている。セメント組成物は、中に空気が混入されることによって作業性が良好になる等の効果が得られる一方、空気量が多すぎると強度低下の原因となる。このため、セメント分散剤には、セメント分散性とともにセメント組成物中の連行空気量の増大を抑制する作用も求められるが、従来のリグニン誘導体を用いたセメント分散剤は、連行空気量抑制の点において充分に高い性能を有するとはいえず、性能面で改善の余地があるものであった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、良好なセメント分散性を発揮するとともに、連行空気量を低減する効果にも優れたセメント混和剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、リグニン誘導体について種々検討したところ、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基とが2価の連結基を介して結合した構造を有するリグニン誘導体をセメント混和剤として用いると、良好なセメント分散性を発揮し、かつ、セメント組成物の連行空気量を低減することもできることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基とが2価の連結基を介して結合した構造を有するリグニン誘導体を含有するセメント混和剤である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0010】
本発明のリグニン誘導体は、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基(以下、単にアミノ基ともいう)とが2価の連結基を介して結合した構造を有する。上記リグニン誘導体がアミノ基を有することにより、リグニンの親水性が向上し、セメント組成物の連行空気量を低減することができる。上記リグニン誘導体は、このような構造を有するものである限り、リグニンと2価の連結基が結合する位置は特に制限されない。リグニンの分子は、複雑な三次元網目構造を有する大きな分子であり、1つのリグニン分子中に2価の連結基を介してアミノ基と結合しうる反応サイトは複数存在する。このため、1つのリグニン分子中に複数のアミノ基が2価の連結基を介して結合しうるが、本発明のリグニン誘導体は、少なくとも1つのアミノ基が2価の連結基を介して結合していればよく、リグニンに結合するアミノ基の数は特に制限されない。また、リグニン分子中の反応サイトにおいて、2価の連結基を介してアミノ基が結合する位置も特に制限されず、全ての反応サイトにおいて、同じ位置で2価の連結基を介してアミノ基が結合していてもよく、異なる位置で結合していてもよい。
【0011】
本発明のリグニン誘導体の構造中の、2価の連結基を介してアミノ基が結合した反応サイトは、下記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、Rは、水素原子又はアルコキシ基を表し、ベンゼン環に複数結合していてもよい。Xは、2価の連結基を表す。Yは、1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基を表す。Zは、水素原子又は1価の官能基を表す。)
【0014】
上記式(1)において、リグニン誘導体の反応サイトのリグニン由来のベンゼン環とXで表される2価の連結基とが結合する位置は特に制限されないが、リグニン誘導体が有する複数の反応サイトのうち少なくとも1つは、水酸基のオルト位でXで表される2価の連結基と結合していることが好ましい。
【0015】
上記Rとしては、水素原子、炭素数1〜18のアルコキシ基のいずれかが好ましい。より好ましくは、水素原子、炭素数1〜2のアルコキシ基のいずれかである。
上記Zの1価の官能基としては、水酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等のアニオン性官能基;アミノ基等のカチオン性官能基のいずれかが好ましい。より好ましくは、水酸基、スルホン酸基、カルボン酸基のいずれかである。
【0016】
本発明のリグニン誘導体における2価の連結基は、特に制限されず、炭化水素基であってもよく、炭素、水素以外の原子を含む基であってもよい。炭素、水素以外の原子を含む基としては、窒素原子含有基等が挙げられる。窒素原子含有基としては、下記式(2−1)や(2−2);
【0017】
【化2】
【0018】
(R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基を表す。Qは、炭素数1〜5の3価の炭化水素基を表す。)で表される基が挙げられる。R、Rが1価の炭化水素基である場合、炭素数1〜5の炭化水素基が好ましい。
本発明のリグニン誘導体における2価の連結基は、これらの中でも2価の炭化水素基であることが好ましい。
2価の炭化水素基としては、炭素数1〜18の2価の炭化水素基が好ましい。より好ましくは、炭素数1〜4の2価の炭化水素基であり、更に好ましくは、炭素数1の2価の炭化水素基、すなわち、メチレン基である。
上記式(1)においてXで表される2価の連結基もこのような構造であることが好ましい。
【0019】
上記式(1)において、Yで表される1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基は、下記の1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基であることが好ましい。
【0020】
本発明において、1級又は2級アミン化合物(アミノ酸を除く)は、アミノ酸を除き、1級又は2級アミノ基を少なくとも1つ含有する化合物である限り特に制限されない。また、1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアとしては、1級アミン化合物、2級アミン化合物及びアンモニアのいずれを用いてもよいが、これらの中でも1級アミン化合物は、後述するアルデヒド化合物との反応性が高いため、それに伴い、連行空気量を低減させる効果も大きくなる。
アミノ酸に該当しない1級又は2級アミン化合物とは、1級又は2級アミン化合物がカルボキシル基を有しない化合物、又は、カルボキシル基を有する場合には、カルボキシル基のα炭素がアミノ基を有しない化合物を意味する。
上記1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアとしては、下記式(3);
【0021】
【化3】
【0022】
(R、Rは、同一又は異なって、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜8の主鎖を有する炭化水素基である。)で表される化合物であることが好ましい。
上記主鎖とは、式(3)における窒素原子に直接結合した炭素鎖であって、分岐がある場合には、最も炭素数の多い炭素鎖をいう。また、主鎖の炭素原子がヘテロ原子に置換されていてもよく、この場合、ヘテロ原子の数も主鎖の炭素の数として計算するものとする。
また、置換基とは、主鎖の炭素原子又はヘテロ原子に結合し、主鎖を構成しない基である。
【0023】
上記炭化水素基として好ましくは、アルキル基、アルケニル基である。より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基であり、更に好ましくはエチル基等の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0024】
上記置換基としては、特に制限されないが、水酸基、アミノ基、アミド基、チオール基等が挙げられる。置換基として好ましくは水酸基、アミノ基である。
また、本発明の1級又は2級アミン化合物は、置換基としてカルボキシル基を有しないものであることが好ましい。
【0025】
上記1級又は2級アミン化合物(アミノ酸を除く)としては、エチルアミン等の炭素数1〜8のモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン等の炭素数2〜16のジアルキルアミン;2−アミノエタノール、2−プロパノールアミン等の炭素数1〜8のモノアルカノールアミン;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等の炭素数2〜16のジアルカノールアミン;2−(メチル)アミノエタノール等の炭素数2〜16のアルキルアルカノールアミン;エチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン等の炭素数2〜16のアルキレンジアミン;ビス(2−アミノエチル)アミン等の炭素数2〜16のジアルキレントリアミン;尿素等の炭素数1〜8のカルバミド化合物;システアミン等の炭素数1〜8のアミノアルカンチオール等が挙げられる。これらを、1種のみ用いても、2種以上用いてもよい。
なお、上記炭素数は、化合物全体が有する炭素の数を意味するものとする。
【0026】
上記1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアとして、好ましくは、炭素数1〜3のモノアルカノールアミン、2〜6のジアルカノールアミン、アンモニア、尿素である。これらの化合物は、比較的安価であるため、リグニン誘導体の工業生産に好適に用いることができる。また、リグニンに対する導入効率の観点から、より好ましくは2−アミノエタノール、ジエタノールアミンであり、更に好ましくは2−アミノエタノールである。
【0027】
本発明のリグニン誘導体において、リグニン1000gに対して2価の連結基を介して結合する上記1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアの重量は、10〜10000gであることが好ましい。このような重量の上記1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアが付加することで、得られるリグニン誘導体が、上記1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来の構造を有することの効果をより充分に発揮することができる。上記1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアの重量は、より好ましくは、10〜5000gであり、更に好ましくは、10〜1000gである。
【0028】
本発明のリグニン誘導体は、重量平均分子量が1000〜100000であるものが好ましい。リグニン誘導体がこのような重量平均分子量を有するものであると、後述するセメント混和剤としてより好適なものとなる。リグニンの重量平均分子量は、より好ましくは、1500〜80000であり、更に好ましくは、2000〜60000である。
リグニンの重量平均分子量は、GPCを用い、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0029】
本発明のリグニン誘導体の原料となるリグニンは特に制限されず、針葉樹や広葉樹由来の木本系リグニンであってもよく、草本系リグニンであってもよい。また、蒸解方法も特に制限されず、アルカリ蒸解で得られるアルカリリグニン、クラフト蒸解で得られるクラフトリグニン、酢酸蒸解で得られる酢酸リグニン、サルファイト蒸解で得られるリグニンスルホン酸のいずれを用いてもよい。
本発明のリグニン誘導体においては、リグニン由来の水酸基、スルホン酸基等の官能基を利用してアミノ基を導入するのではなく、原料となるリグニン由来の官能基の種類や量に依存せず、アミノ基を導入することができるため、様々な蒸解方法により得られたリグニンを利用することができる。上記リグニン誘導体の原料となるリグニンとして好ましくは、アルカリリグニン、クラフトリグニン、酢酸リグニンである。
【0030】
本発明のリグニン誘導体の原料となるリグニンの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量1000〜80000のリグニンを使用することが好ましい。より好ましくは、重量平均分子量1500〜60000のリグニンであり、更に好ましくは、重量平均分子量2000〜40000のリグニンである。
重量平均分子量は、GPC分析法を用い、後述する実施例に記載の条件により測定することができる。
【0031】
本発明はまた、リグニン、1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア及びアルデヒド化合物を原料として反応させて得られるリグニン誘導体を含有するセメント混和剤でもある。
リグニン、1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア及びアルデヒド化合物を原料として反応させることで、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基とが結合したリグニン誘導体を得ることができる。
上記反応は、アルデヒド化合物を用いた縮合反応により、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアとを結合させる反応であることが好ましい。
【0032】
本発明はまた、側鎖にアミノ基を有するリグニン誘導体の製造方法であって、上記製造方法は、1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物とを反応させる工程と、1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応生成物とリグニンとを反応させる工程とを含むリグニン誘導体の製造方法でもある。
このように、2段階の工程を経てリグニン誘導体を製造することにより、1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニアのリグニンへの導入効率をより向上させることができる。
本発明の製造方法で製造されるリグニン誘導体の反応サイトの構造は、上記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【0033】
上記2つの工程におけるアルデヒド化合物を用いた縮合反応により、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニア由来のアミノ基とが2価の連結基を介して結合した構造を有するリグニン誘導体を製造することができる。
このような製造方法は、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物(アミノ酸を除く)又はアンモニア由来のアミノ基とが2価の連結基を介して結合した構造を有するリグニン誘導体の好ましい製造方法である。
【0034】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物とを反応させる工程(以下、第一の工程ともいう。)において使用する1級又は2級アミン化合物は、1級又は2級アミノ基を少なくとも1つ含有する化合物である限り特に制限されない。
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとしては、下記式(4);
【0035】
【化4】
【0036】
(R、Rは、同一又は異なって、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜8の主鎖を有する炭化水素基である。)で表される化合物であることが好ましい。
【0037】
上記炭化水素基として好ましくは、アルキル基、アルケニル基である。より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜8のアルキル基であり、更に好ましくはエチル基等の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0038】
上記置換基としては、特に制限されないが、水酸基、アミノ基、アミド基、チオール基、カルボキシル基等が挙げられる。置換基として好ましくは水酸基、アミノ基である。
【0039】
上記1級又は2級アミン化合物としては、特に制限されず、上述の本発明のリグニン誘導体において挙げた1級又は2級アミン化合物及びグリシン、グルタミン酸等のアミノ酸が挙げられる。また、上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアの好ましい例は、本発明のリグニン誘導体において述べた好ましい例と同様である。
【0040】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物とを反応させる工程において使用する1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアの量は、アルデヒド化合物100モル%に対して、10〜300モル%であることが好ましい。より好ましくは、50〜200モル%であり、更に好ましくは、80〜120モル%ある。
【0041】
上記アルデヒド化合物は、下記式(5);
−CHO (5)
(式中、Rは水素原子又は1価の炭化水素基を表す。)で表されることが好ましい。アルデヒド化合物としてこのような構造の化合物を用いると、リグニン又は1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアに下記式(6);
【0042】
【化5】
【0043】
(式中、Rは、式(5)のRと同様である。)で表される基が導入された中間体を経て、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニア由来のアミノ基とが2価の炭化水素基を介して結合した構造を有するリグニン誘導体を製造することができる。
この場合、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニア由来のアミノ基とがRより炭素数が1多い2価の炭化水素基を介して結合した構造を有するリグニン誘導体となる。
【0044】
式(5)中、Rとしては、水素原子又は炭素数1〜17の炭化水素基が好ましい、より好ましくは、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子である。水素原子である場合、リグニンと1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニア由来のアミノ基とがメチレン基を介して結合した構造のリグニン誘導体を製造することができる。
式(5)のRが水素原子である場合、式(5)のアルデヒド化合物はホルムアルデヒドとなる。式(5)のRが炭素数1〜3の炭化水素基である場合、式(5)のアルデヒド化合物は、それぞれアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナールとなる。
【0045】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物とを反応させる工程に用いる溶媒は、反応が進行する限り特に制限されず、水の他、メタノール、プロパノール、エチレングリコール、ジオキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒も用いることができる。
【0046】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応は、反応が進行する限り酸性、塩基性のいずれの条件下で行ってもよいが、好ましくは塩基性条件下である。上記反応を塩基性条件下において行う場合、反応溶液のpHを8〜14として行うことが好ましい。より好ましくは、反応溶液のpHを9〜13として行うことである。
上記1級又は2級アミン化合物がグルタミン酸のような酸性の化合物である場合には、塩基性物質を用いてpHを調節することができる。
上記1級又は2級アミン化合物が塩基性の化合物である場合やアンモニアの場合、1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアを添加することにより反応溶液のpHを塩基性領域とすることができるが、1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニア以外の塩基性物質を用いてpHを調節してもよい。上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニア以外の塩基性物質としては、特に制限されないが、例えばナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。反応溶液のpHは、pHメーター(pHメーターD−51:堀場製作所製)により測定することができる。
【0047】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物とを反応させる工程の反応温度は、10〜60℃であることが好ましい。より好ましくは、20〜50℃である。
また反応時間は、0.5〜10時間であることが好ましい。より好ましくは、1〜4時間である。
【0048】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応生成物とリグニンとを反応させる工程(以下、第二の工程ともいう。)において使用するリグニンは上述したものと同様である。
上記工程において使用する1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応生成物の量は、リグニン1000gに対して、10〜15000gであることが好ましい。より好ましくは、10〜7500gであり、更に好ましくは、10〜1500gである。
【0049】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応生成物とリグニンとを反応させる工程に用いる溶媒は、反応が進行する限り特に制限されず、水の他、メタノール、プロパノール、エチレングリコール、ジオキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒も用いることができる。好ましくは、水である。
【0050】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応生成物とリグニンとを反応させる工程は、反応が進行する限り酸性、塩基性のいずれの条件下で行ってもよいが、好ましくは塩基性条件下で行うことである。上記反応を塩基性条件下において行う場合、反応溶液のpHを8〜14として行うことが好ましい。より好ましくは、反応溶液のpHを9〜13として行うことである。また、反応後に必要に応じて反応溶液を中和する工程を含んでいてもよい。
反応溶液のpH調整剤としては、特に制限されないが、例えば、ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物等が挙げられる。好ましくは、水酸化ナトリウムである。
【0051】
上記1級若しくは2級アミン化合物又はアンモニアとアルデヒド化合物との反応生成物とリグニンとを反応させる工程の反応温度は、20〜120℃であることが好ましい。より好ましくは、50〜90℃である。
また反応時間は、0.5〜40時間であることが好ましい。より好ましくは、1〜20時間である。
【0052】
本発明のセメント混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができ、このような本発明のセメント添加剤を含んでなるセメント組成物もまた、本発明の1つである。
【0053】
上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含むものが好適であり、セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、耐硫酸塩、及びそれぞれの低アルカリ形);各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント);白色ポルトランドセメント;アルミナセメント;超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント);グラウト用セメント;油井セメント;低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント);超高強度セメント;セメント系固化材;エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の1種以上を原料として製造されたセメント)等の他、これらに高炉スラグ、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、シリカヒューム、シリカ粉末、石灰石粉末等の微粉体や石膏を添加したもの等が挙げられる。
上記骨材としては、砂利、砕石、水砕スラグ、再生骨材等以外に、珪石質、粘土質、ジルコン質、ハイアルミナ質、炭化珪素質、黒鉛質、クロム質、クロマグ質、マグネシア質等の耐火骨材等が挙げられる。
【0054】
上記セメント組成物の1mあたりの単位水量、セメント使用量及び水/セメント比(質量比)としては、例えば、単位水量100〜185kg/m、使用セメント量200〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.1〜0.7とすることが好適である。より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、使用セメント量250〜800kg/m、水/セメント比(質量比)=0.2〜0.65とすることである。
【0055】
本発明のセメント混和剤をセメント組成物に使用する場合、その配合割合としては、本発明のセメント混和剤の必須成分であるリグニン誘導体が、固形分換算で、セメント質量の全量100質量%に対して、0.01〜10質量%となるように設定することが好ましい。0.01質量%未満では性能的に充分とはならないおそれがあり、逆に10質量%を超えると、その効果は実質上頭打ちとなり経済性の面からも不利となるおそれがある。より好ましくは0.02〜8質量%であり、更に好ましくは0.05〜6質量%である。
【発明の効果】
【0056】
本発明のリグニン誘導体は、上述の構成よりなり、従来のリグニン誘導体を用いたセメント混和剤よりも連行空気量を低減することができ、セメント混和剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】実施例1で得られたリグニン誘導体1のキャピラリー電気泳動の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0059】
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)>
リグニン誘導体の重量平均分子量は、以下の測定方法により測定した。
装置:Waters Alliance 2695(Waters社製)
解析ソフト:Empowerプロフェッショナル+GPCオプション(Waters社製)
カラム:TSKgel ガードカラムα(内径6.0×40mm)+α5000+α4000+α3000(各内径7.8×長さ300mm)(東ソー社製)
カラム温度:40℃
溶媒:100mMホウ酸水溶液14371gに水酸化ナトリウム29gとアセトニトリル3600gを混合した溶液
流速:1.0ml/min
試料導入量:100μl
試料濃度:0.5質量%
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters社製、Waters 2414)
較正曲線:標準物質として東ソー社製ポリエチレングリコール(Mp=300000、200000、107000、50000、27700、11840、6450、1470、1010、400)を使用し、Mpと溶出時間を基礎に3次式で作成
【0060】
<キャピラリー電気泳動>
得られたリグニン誘導体の電荷特性は、以下の測定方法により測定した。
装置:P/ACE システムMDQ(ベックマン・コールター社製)
解析ソフト:32Karat(ベックマン・コールター社製)
カラム:フューズドシリカキャピラリーカラム P/N=338454(内径75μm×長さ500mm)(ベックマン・コールター社製)
カラム温度:25℃
電圧:20kV
溶媒:50mMホウ酸水溶液
試料濃度:2質量%
検出器:UV、Hgランプ210nm
【0061】
<高速液体クロマトグラフィー(LC)>
反応原料として用いたアミン化合物の残存量の確認は、以下の測定方法により測定した。
装置:Waters Alliance 2695(Waters社製)
解析ソフト:Empowerプロフェッショナル(Waters社製)
カラム:CAPCELL PAK SCX UG80 5μm(内径4.6mm×長さ250mm、資生堂社製)
カラム温度:40℃
溶媒:100mMリン酸水溶液にリン酸二水素ナトリウム二水和物156gを溶解させた溶液
流速:1.0ml/min
試料導入量:100μl
検出器:示差屈折率計(RI)検出器(Waters 2414)
【0062】
<実施例1>
(第一の工程)
2−アミノエタノール73.7g及び脱イオン水28.3gをセパラブルフラスコへ仕込み、セパラブルフラスコを40℃に昇温し、撹拌しながら37%ホルムアルデヒド液98.0gを1時間かけて滴下した。反応系のpHは10.8であった。滴下終了後、40℃でさらに1時間撹拌し、2−(ヒドロキシメチル)アミノエタノールを得た。
(第二の工程)
次に、クラフトリグニン(重量平均分子量17700、ALDRICH製)50.0g、脱イオン水364.7g、30%NaOH水溶液17.5g及び第一の工程で得られた2−(ヒドロキシメチル)アミノエタノールの溶液67.8gをセパラブルフラスコへ仕込み、セパラブルフラスコを70℃に昇温し、6時間撹拌した。反応系のpHは11.1であった。その後、冷却し、本発明のリグニン誘導体1を得た。
リグニン誘導体1の重量平均分子量は19000であった。リグニン誘導体1のキャピラリー電気泳動の結果を図1に示す。図1には、得られたリグニン誘導体1の他、リグニンの電気泳動の結果も示した。チオ尿素は電荷のない基準物質である。電気泳動測定で保持時間が長いほど陰イオン性が高いことを意味する。得られた生成物は反応前のリグニンよりも陰イオン性が低い側へシフトしており、この結果から、電荷のない2−アミノエタノールがリグニンに付加していることが確認された。また、LCにより2−(ヒドロキシメチル)アミノエタノールの残存量を定量した結果から、上記反応における2−(ヒドロキシメチル)アミノエタノールの消費率は、82%であった。
【0063】
<比較例1>
実施例1で使用したリグニンと同様のリグニンを比較例1のリグニンとした。
【0064】
<参考例1>
(第一の工程)
グルタミン酸水素ナトリウム12.0g、30%NaOH水溶液7.3g及び、脱イオン水15.5gをセパラブルフラスコへ仕込み、セパラブルフラスコを40℃に昇温し、撹拌しながら37%ホルムアルデヒド液5.2gを1時間かけて滴下した。滴下終了後、40℃でさらに1時間撹拌し、グルタミン酸とホルムアルデヒドの反応溶液を得た。反応系のpHは9.27であった。
(第二の工程)
次に、クラフトリグニン(重量平均分子量17700、ALDRICH製)9.6g、脱イオン水63.7g、30%NaOH水溶液3.2g及び第一の工程で得られた反応溶液15.3gをセパラブルフラスコへ仕込み、セパラブルフラスコを70℃に昇温し、6時間撹拌した。反応系のpHは11.3であった。その後、冷却し、リグニン誘導体2を得た。リグニン誘導体2の重量平均分子量は27100であった。
【0065】
実施例1、参考例1で製造したリグニン誘導体及び比較例1のリグニンについて、以下の方法によりモルタル試験及びモルタル空気量の測定を行った。結果を表1に示す。
【0066】
<モルタル試験>
モルタル試験は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±15%の環境下で行った。
モルタル配合は、C/S/W=500/1350/250(g)とした。
ただし、
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
S:セメント強さ試験用標準砂(セメント協会製)
W:試料と消泡剤のイオン交換水溶液
とし、Wについては消泡剤MA−404(BASFジャパン社製)を各試料の固形分に対して40質量%加え、更にイオン交換水を加えて所定量とし、充分に均一溶解させた。表1において、各試料の添加量は、セメント質量に対する各試料の固形分の質量%で表されている。
モルタルの調製はJIS−R5201−1997に準拠して次のように行った。ホバート型ミキサー(型番N−50;ホバート社製)を用い、C、Wを投入し、1速で30秒間混練した。更に1速で混練しながら、Sを30秒かけて投入した。
S投入終了後、2速で30秒間混練した後、ミキサーを停止し、15秒間モルタルの掻き落としを行い、その後、75秒間静置した。75秒間静置後、更に2速で60秒間混練を行い、モルタルを調製した。
得られたモルタルを混練容器からポリエチレン製1L容器に移し、スパチュラで左右各10回かき混ぜた後、直ちにフロー測定板(30cm×30cm)に置かれたミニスランプコーン(JISマイクロコンクリートスランプコーン、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mm)に半量詰めて15回突き棒で突き、更にモルタルをミニスランプコーンのすりきりいっぱいまで詰めて15回突き棒で突き、最後に不足分を補い、ミニスランプコーンの表面をならした。その後、最初にミキサーを始動させてから5分30秒後にミニスランプコーンを垂直に引き上げ、広がったモルタルの直径(最も長い部分の直径(長径)及び前記長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値をモルタルフロー値とした。なお、モルタルフロー値は、数値が大きいほど分散性能が優れていることを示す。
【0067】
<モルタル空気量の測定>
上記モルタル空気量(初期空気量)の測定は、JIS−A−1128(2005年改正)の方法により行った。モルタルを500mLのガラス製メスシリンダーに約200mL詰め、径8mmの丸棒で突き、手で軽く振動させて粗い気泡を抜いた。更にモルタルを約200mL加えて同様に気泡を抜いた後、モルタルの体積と質量を測り、各材料の密度から空気量を計算した。
【0068】
【表1】
【0069】
<参考例2>
クラフトリグニンに対する2−アミノエタノール及び37%ホルムアルデヒド液のモル比率が、実施例1の第二の工程におけるクラフトリグニンに対する2−(ヒドロキシメチル)アミノエタノールのモル比率と同様となるように、クラフトリグニン、2−アミノエタノール及び37%ホルムアルデヒド液をセパラブルフラスコに一括して仕込みを行った。上記仕込み以外の条件は、実施例1の第二の工程と同条件にて反応を行った。
得られたリグニン誘導体の重量平均分子量は19400であった。また、LCにより、2−アミノエタノールの残存量を定量した結果から、上記反応における2−アミノエタノールの消費率は、64%であった。
【0070】
実施例1及び参考例2の結果より、リグニン誘導体の製造を、2段階の工程を経て行った場合の方が、1段階の工程で行った場合よりも、アミン化合物の消費率、すなわちアミン化合物のリグニンへの導入効率において優れることが明らかとなった。
図1