特許第6461619号(P6461619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461619
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】電波透過型多層光学コーティング
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/08 20060101AFI20190121BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20190121BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20190121BHJP
   G01S 7/03 20060101ALI20190121BHJP
   G01S 13/93 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   C23C14/08 N
   C23C14/08 E
   C23C14/10
   B32B9/00 A
   G01S7/03 246
   !G01S13/93 220
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-9701(P2015-9701)
(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公開番号】特開2016-89266(P2016-89266A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月29日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0153896
(32)【優先日】2014年11月6日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162123
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 誠
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA MOTORS CORPORATION
(73)【特許権者】
【識別番号】515019490
【氏名又は名称】宇信産業株式会社
【氏名又は名称原語表記】WOOSHIN INDUSTRY CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162123
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ビョン、キュ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソン、ジン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、スン、チャン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジェ、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シム、ソ、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、スク、モ
(72)【発明者】
【氏名】シン、ヘ、ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、サン、ジュ
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−216924(JP,A)
【文献】 特開2010−248580(JP,A)
【文献】 特開2007−093241(JP,A)
【文献】 特開2008−183736(JP,A)
【文献】 特開2010−020047(JP,A)
【文献】 特開2003−215330(JP,A)
【文献】 特表2014−500956(JP,A)
【文献】 特開平07−003440(JP,A)
【文献】 特開2012−199627(JP,A)
【文献】 特開2014−174496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 − 14/58
B32B 9/00
G01S 7/03
G01S 13/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な第1レジン層と、
前記第1レジン層上にTiOとSiOを交互に蒸着させて金属調の質感が得られる多層構造の光学コーティングと、
前記光学コーティング上に形成された不透明な第2レジン層と、
前記光学コーティングと前記第2レジン層との間に形成され、前記光学コーティングの層からの光が前記第2レジン層に透過するのを防止する不透明な断熱層と、
を含んでなり、
前記光学コーティングの層からの光の反射率が、可視光線全領域(波長400〜700nm)にわたって30%以上であり、最大反射率と最小反射率の偏差が5%以内であることを特徴とする、電波透過型多層光学コーティング。
【請求項2】
前記光学コーティングは、一番目のTiO層が前記第1レジン層に接し、TiOとSiOがそれぞれ複数の層を有することを特徴とする、請求項1に記載の電波透過型多層光学コーティング。
【請求項3】
前記光学コーティングは、総厚さが500nm以上であり、それぞれのTiO層とSiO層の厚さが10〜200nmであることを特徴とする、請求項2に記載の電波透過型多層光学コーティング。
【請求項4】
前記第1レジン層と前記光学コーティングとの間に形成されたプライマー層をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電波透過型多層光学コーティング。
【請求項5】
前記断熱層は不透明な耐熱性塗料から構成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電波透過型多層光学コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波透過型多層光学コーティングに係り、より詳しくは、高温状態でも電波透過性を保つことが可能な電波透過型多層光学コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートクルーズコントロール(smart cruise control、SCC)カバーの取り付けにおいて、ラジエーターグリル中央部に透過カバーを位置させる場合、ラジエーターグリルとの連続性(審美性)およびレーダー送受信性の確保を図るために、レーダー透過経路内に酸化物材質の光学多層コーティングを処理する。
【0003】
図4に示すように、従来では、ラジエーターグリル部の外観飾りおよび電波透過性の確保のためにインジウムコーティングまたはフィルムを適用している。ところが、インジウムまたは錫を用いたコーティングの際に、高価素材の使用によりレーダーユニット全体の価格が高くなるという問題と、素材自体の低い融点および高温における電気的特性によりレーダー透過性能を低下させるため苛酷な高温条件でのSCCカバーの耐久性を低下させるおそれがあるという欠点がある。
【0004】
かかる問題点を改善するために、本発明では、TiO/SiO多層光学コーティングを適用して、ツヤ有り/ツヤ無し金属調の質感を実現し且つ電波透過性を確保した。また、プラスチック母材にUVまたは熱硬化プライマーを適用した後、真空状態で低屈折/高屈折を繰り返した蒸着によってツヤ有り/ツヤ無し金属調の質感を実現したとともに、純粋金属ではなく酸化物の適用によって透過カバーの最も重要なレーダー送受信性を満足させた。さらに、300℃以上の高温でも抵抗を高く維持することにより電波送受信特性の低下を防止するから、高温への露出時に問題となる透過性能低下特性を克服することができた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前述した従来の技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、金属調の質感を有しながらも電波透過性を有し、高温状態でもこのような特性を保つことが可能な電波透過型多層光学コーティングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施例に係る電波透過型多層光学コーティングは、透明な第1レジン層と、前記第1レジン層上にTiOとSiOを交互に蒸着させた多層構造の光学コーティングと、前記光学コーティング上に形成された不透明な第2レジン層とを含んでなることを特徴とする。
【0007】
ここで、前記光学コーティングは、一番目のTiO層が前記第1レジン層に接し、TiOとSiOがそれぞれ複数の層を有することを特徴とする。
【0008】
前記光学コーティングは、総厚さが500nm以上であり、それぞれのTiO層とSiO層の厚さが10〜200nmであることを特徴とする。
【0009】
前記第1レジン層と前記光学コーティングとの間に形成されたプライマー層をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
前記光学コーティングと前記第2レジン層との間に形成された断熱層をさらに含むことを特徴とする。
【0011】
前記断熱層は不透明な耐熱性塗料から構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電波透過型多層光学コーティングによれば、次の効果がある。
第一に、電波を透過させてレーダー作動を円滑にすることができる。
第二に、高温でも電波透過性を保つことができる。
第三に、金属調の質感を示すため、周辺の金属部品と調和をなして審美的な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例に係る電波透過型多層光学コーティングを示す図である。
図2】周波数による電波の損失量を比較して示すグラフである。
図3】平均電波損失量を比較して示すグラフである。
図4】従来の電波透過型インジウム蒸着コーティングを示す図である。
図5】高温環境で多層光学コーティングとインジウムコーティングの表面抵抗とを比較して示すグラフである。
図6】本発明の実施例に係る多層光学コーティングの層の個数による電波透過量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで使用される専門用語は、特定の実施例を言及するためのもので、本発明を限定しようとするものではない。ここで使用される単数の形態は、文脈上これと明白に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。明細書で使用される用語「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分および/またはこれらの組み合わせの存在または付加を除外させるものではない。
【0015】
特に他に定義しない限り、ここで使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を持つ。一般的に使われる辞典に定義されている用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を持つものと追加解釈され、本明細書で明らかに定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味に解釈されない。
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例に係る電波透過型多層光学コーティングについて説明する。
【0017】
図1に示すように、本発明に係る電波透過型多層光学コーティングは、透明な第1レジン層、該第1レジン層上にTiOとSiOを交互に蒸着させた多層構造の光学コーティング、および該光学コーティング上に形成された不透明な第2レジン層を含んでなる。
【0018】
第1レジン層は、最外郭層であって、光学コーティングを保護し且つ光学コーティングに現れる金属調の質感を外部に表出することができるように透明な材質のレジンから形成される。第2レジン層は、内側の基地層であって、光学コーティングを保護する役割も果たしながら、レーダーなどの電波装備がその後ろに取り付けられる。第2レジン層は、通常、不透明な黒色に製作され、光がその内部に透過しないようにする。このように第2レジン層を不透明にすることにより、光学コーティングから光が反射される量を増やすことができる。
【0019】
TiOとSiOを第1レジン層に蒸着させることは、一般な蒸着コーティング装置を用いて行う。まず、コーティング装置のチャンバーの内部に第1レジン層を固定させ、チャンバーを真空に減圧させた後、Arガスを注入する。その後、Arガスを放電させてプラズマ化することにより電荷を帯びるようにし、ここに電気力を加えてArイオンを第1レジン層の表面に衝突させる。これにより、第1レジン層の表面を洗浄すると同時に活性化させて第1レジン層と蒸着コーティング層、すなわち光学コーティングとの密着力を高める前処理を行う。その後、電子ビームをTiO試料およびSiO試料に交互に照射することにより揮発させ、これを第1レジン層に誘導して蒸着させる。この際、TiOの接着力がSiOに比べて高いため、TiOを一番目に蒸着させる。接着力が高いというのは、分子が第1レジン層に衝突した後、さらに分離されることなく接着される確率がさらに高いという意味である。
【0020】
第1レジン層および第2レジン層の成分は、特に制限しないが、ポリカーボネートまたはアクリル樹脂などを使用することができる。第1レジン層は、光学コーティングの金属性光沢を外部へ伝達することができるように透明な材質を使用し、第2レジン層は不透明な、より好ましくは黒色の材質を使用する。これにより、外部の光が第2レジン層より内側に透過することを最大限防止することができる。
【0021】
光学コーティングは、一番目のTiO層が第1レジン層に接し、TiOとSiOがそれぞれ複数の層を有し、総厚さが500nm以上となるように形成されるが、それぞれのTiO層とSiO層の厚さが10〜200nmであることが好ましい。
【0022】
表1に示すように、TiO層とSiO層から形成された光学コーティングの総厚さを500nm以上にするためには、多層光学コーティングの層数を9層以上にする必要がある。このように500nm以上の光学コーティングを形成させると、可視光線全領域にわたって30%以上の反射率を有しながら最大反射率と最小反射率の偏差が5%以内となり、これにより金属調の質感を得ることができる。
【0023】
図6に示すように、光学コーティングの層数が多くなって厚さが厚くなるほど吸収および反射率が高くなるが、実際使用中のレーダー電波の波長長さである36万〜40万nmの範囲では層数を問わずに99%以上の透過率を維持した。
【0024】
したがって、光学コーティングの最大厚さは、特に制限しないが、蒸着機器の限界、使用する原料およびエネルギーを考慮するとき、10μm以内とすることが好ましい。
【0025】
【表1】
【0026】
第1レジン層と光学コーティングとの間に形成されたプライマー層をさらに含むことが好ましい。
【0027】
プライマー層は、光学コーティングの金属性の光沢を強化または抑制する役割を果たす。本発明では、このようなプライマーとして、UVまたは熱によって硬化する材質、例えばウレタンまたはアクリルなどを使用することができる。
【0028】
プライマーの成分によってツヤ有り効果またはツヤ無し効果などを奏することができ、このようなプライマーは従来から様々な構成が公知になっているため、本発明ではこれについての詳細な説明を省略する。
【0029】
光学コーティングと第2レジン層との間に形成された断熱層をさらに含むが、この断熱層は不透明な耐熱性塗料から構成されることが好ましい。
【0030】
第1レジン層を射出し、光学コーティングを蒸着させた後、第2レジン層を射出するが、第2レジン層の付着過程中に伝達される熱が第1レジン層を変形させることがある。よって、第2レジン層を射出する前に断熱層を形成させて熱を遮断する。また、第2レジン層は、完全な黒色ではないため、その後方に可視光線が透過できる。よって、このような現象を防止することができるように、断熱層を形成するときに黒色の耐熱性塗料を使用する。このように光の透過を防止する機能を持つので、断熱層はブラックマスキングとも呼ばれる。
【0031】
図3および図5に示すように、本発明は、従来のインジウムコーティングまたはツヤ有りコーティングに比べてより低い電波吸収性を持っており、300℃以上の高温でも高い電波透過性、すなわち高い抵抗を保つことができる。
【0032】
実験のために2つのガラス基板にインジウムとTiO/SiO多層光学コーティングをそれぞれコーティングさせ、10分間300℃で熱処理した後、表面抵抗値を確認した。その結果、多層光学コーティングは20MΩの高い表面抵抗を示したが、インジウムコーティングは5MΩの低い表面抵抗を示すことを確認した。低い表面抵抗を持つ物質は、自由電子の多い金属のように電波を捕獲する性質を示す。このような性質によって電波透過性能が低下する。よって、表面抵抗の低い物質は、電波を捕獲して電波の透過性を低下させるおそれがある。本発明が適用できる自動車ラジエーターグリル部位の特性上、エンジンなどによって高温に晒される危険は常に存在する。従来のインジウムコーティングとは異なり、本発明は高温でもさらに安定した電波透過性を保つことができる。
【0033】
以上、添付図面を参照して本発明の実施例について説明したが、 本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想または必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解することができるであろう。
【0034】
よって、上述した実施例は、あらゆる面で例示的なもので、限定的なものではないと理解すべきである。本発明の範囲は前記の詳細な説明よりは後記の特許請求の範囲によって定められるもので、特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその均等概念から導出されるすべての変更または変形形態も本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6