特許第6461623号(P6461623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461623
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】気泡分離除去装置のパラメータ設定方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20190121BHJP
【FI】
   B01D19/00 102
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-12692(P2015-12692)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-137424(P2016-137424A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2018年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】503158475
【氏名又は名称】株式会社ティーエヌケー
(72)【発明者】
【氏名】坂間 清子
(72)【発明者】
【氏名】田中 豊
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−192990(JP,A)
【文献】 実開昭58−25660(JP,U)
【文献】 坂間 清子,外2名,気泡除去装置の設計と評価に関する研究(第2報 スパイラル係数を用いた放気口径と流出口径の選定),日本フルードパワーシステム学会論文集,日本,2014年 9月,第45巻/第5号,p.79−84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00−19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に径D2の流出口を有する円筒形のハウジングの他端に形成された流入口から気泡除去対象流体を前記ハウジングの接線方向に流入することにより、前記ハウジング内に前記気泡除去対象流体の旋回流を形成し、該旋回流により前記ハウジングの中心線付近に集められた気泡を前記流出口と反対側に設けられ径D3の放気口から排出する気泡分離除去装置のパラメータ設定方法であって、
前記流入口から流入される気泡除去対象流体に含まれる気泡の気泡径をDbとするとき、Db/D2で定義される無次元気泡径の値が0.008となり、かつ前記流出口の平均流速を代表速度とするレイノルズ数が1067となるように前記流出口の径D2を設定することを特徴とする気泡分離除去装置のパラメータ設定方法
【請求項2】
前記レイノルズ数が維持されるように、前記流出口の径D2を含む他の装置パラメータを設定することを特徴とする請求項1に記載の気泡分離除去装置のパラメータ設定方法
【請求項3】
前記レイノルズ数と前記無次元気泡径の2乗の積の値が維持されるように前記流出口の径D2を含む他の装置パラメータを設定することを特徴とする請求項1に記載の気泡分離除去装置のパラメータ設定方法
【請求項4】
前記流出口内のスパイラル係数をSo、前記放気口内のスパイラル係数をSνとするとき、0.59<Sν/So<2.66を満足するように、前記放気口の径D3を設定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の気泡分離除去装置のパラメータ設定方法
【請求項5】
前記ハウジングは、前記旋回流の前記流出口側に前記流出口に向かって径が小さくなる長さL2のテーパ管路部を有し、前記流入口から前記気泡除去対象流体が流入される部分の前記ハウジングの径をD1とするとき、前記ハウジング内部で四重旋回流から二重旋回流に変化する境界の値に前記D1および前記L2を設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の気泡分離除去装置のパラメータ設定方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流体中の気泡を分離除去する気泡分離除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧機械等においては、作動油中に気泡が発生すると、この作動油を利用する油圧機器、システム等に悪影響を及ぼすことがある。
【0003】
例えば、建設機械等の作業動力伝達に用いられる油圧システムにおいて、動力を伝達する作動油中に気泡が混在すると、作動油の剛性を低下させ、作動油の酸化劣化を促進させ、また、作動油の潤滑特性を低下させ、更には、機器の動力伝達特性や動作寿命を低下させる。
【0004】
そこで、作動油等に混入した気泡を有効に除去する装置若しくはシステムが要望されているが、従来この種の気泡分離除去装置としては、特許文献1に開示されたものが知られている。
【0005】
特許文献1に開示された「液体中の気泡除去装置」は、1端に少なくとも1個の流入口と他端に流出口とを有する流体室から構成され、前記流入口が液体に流体室の内壁に対して接線流れを生ぜしめる気泡除去装置において、前記流体室は前記流入口から流出口方向へ直径が漸次連続して減少する第1流体室と、該第1流体室に接続し、直径が他端方向へ漸次連続して増大する第2流体室とから形成されていることと、前記第1流体室の前記流入口側の端面から、前記第1流体室と前記第2流体室との接合位置付近までの間に開口する放気口、または前記位置までの間に開口する気体放気細管が、前記流体室の軸心に対して共軸に設けられて構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3261506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された「液体中の気泡除去装置」は、装置各部の形状のパラメータの設定が難しく、これらパラメータの設定は従来試行錯誤により行っているのが現状である。しかし、これらのパラメータの設定が最適でないと有効な気泡分離除去ができない。
【0008】
そこで、この発明は、この種の気泡除去装置の各種パラメータの設定に関する有効な手法を与え、流体中に含まれる気泡を有効かつ効率よく分離除去することができるようにした気泡離除去装置のパラメータ設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、一端に径D2の流出口を有する円筒形のハウジングの他端に形成された流入口から気泡除去対象流体を前記ハウジングの接線方向に流入することにより、前記ハウジング内に前記気泡除去対象流体の旋回流を形成し、該旋回流により前記ハウジングの中心線付近に集められた気泡を前記流出口と反対側に設けられ径D3の放気口から排出する気泡分離除去装置のパラメータ設定方法であって、前記流入口から流入される気泡除去対象流体に含まれる気泡の気泡径をDbとするとき、Db/D2で定義される無次元気泡径の値が0.008となり、かつ前記流出口の平均流速を代表速度とするレイノルズ数が1067となるように前記流出口の径D2を設定することを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記レイノルズ数が維持されるように、前記流出口の径D2を含む他の装置パラメータを設定することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1に記載の発明において、前記レイノルズ数と前記無次元気泡径の2乗の積の値が維持されるように前記流出口の径D2を含む他の装置パラメータを設定することを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記流出口内のスパイラル係数をSo、前記放気口内のスパイラル係数をSνとするとき、0.59<Sν/So<2.66を満足するように、前記放気口の径D3を設定することを特徴とする。
【0017】
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、前記ハウジングは、前記旋回流の前記流出口側に前記流出口に向かって径が小さくなる長さL2のテーパ管路部を有し、前記流入口から前記気泡除去対象流体が流入される部分の前記ハウジングの径をD1とするとき、前記ハウジング内部で四重旋回流から二重旋回流に変化する境界の値に前記D1および前記L2を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、流体中に含まれる気泡を有効かつ効率よく分離除去することができる気泡離除去装置のパラメータを容易に設定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、この発明が適用される気泡分離除去装置のモデルの一例を示す図である。
図2】この発明の気泡分離除去装置のパラメータ設定方法に関する装置パラメータの決定手法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明に係わる気泡分離除去装置のパラメータ設定方法の実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
まず、図1を参照してこの発明が適用される気泡分離除去装置のモデルについて説明する。図1において、(A)は、この気泡分離除去装置100の側面図、(B)は、流入管路部20の断面図である。
【0023】
本発明が適用される気泡分離除去装置100は、径がD1で気泡除去対象流体をその接線に沿って流入させる幅w、長さhの2つの流入口10を有する流入管路部20と、径がD2でこの気泡分離除去装置100により気泡を分離除去した流体を流出する流出口30と、流入管路部20から流出口30に向かう部分に設けられ長さL2のテーパ管路部40と、流出口30の反対側に設けられ、この気泡分離除去装置100により分離除去された気泡を含む流体を排出する径がD3の放気口50とを具備して構成される。
【0024】
なお、Lはこの気泡分離除去装置100の流入管路部20、テーパ管路部40流出口30を含むハウジングの全長、L1は、流入管路部20の長さ、L3は、テーパ管路部40の終端から流出口30までの長さ、Dは、2つの流入口10の間の長さである。
【0025】
この気泡分離除去装置100は、気泡除去対象流体が流入口10から気泡分離除去装置100の径の接線方向から流入されることで、気泡分離除去装置100の内部で、気泡除去対象流体の旋回流が形成される。
【0026】
この旋回流により、気泡除去対象流体に含まれる気泡は気泡分離除去装置100の中心線上に集められ、この気泡分離除去装置100の中心線上に集められた気泡は流体の一部とともに、背圧により放気口50から排出される。
【0027】
この発明では、図1に示した気泡分離除去装置100を用いて、この気泡分離除去装置100の最適形状パラメータを求める。
(1)流入口D2の最適化
一般に、気泡除去対象流体の動粘度νと流入流量Qiの条件が変化する場合、管内のレイノルズ数が等しければ、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能は等しくなる。しかし、流出口径D2が変化するとレイノルズ相似則が成り立たなくなることが確かめられている。
【0028】
したがって、特定の条件下で気泡分離除去装置100の形状パラメータを最適化しても、使用環境が変わったときに、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能を維持することは困難になる。
【0029】
なお、Usoを流出口30から流出する流体の平均流速とすると、レイノルズ数Reは、次式で定義される。
【0030】
Re=D2・Uso/ν
そこで、まず、気泡径Dbと気泡分離除去装置100とのサイズ関係を明確にするために、D2=D1、すなわちテーパ管路部40を有さないストレート形状を用いて数値解析を実施する。また、ここでは、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能を相対的に比較するため、混相流モデルにはオイラー混相流モデルを使用した。
【0031】
表1に、上記数値解析で用いた気泡分離除去装置100の形状パラメータを示す。
【0032】
【表1】
表1では、形状パラメータを相似形で拡大、縮小した場合を示し、気泡除去対象流体の動粘度νは、32mm/s、気泡除去対象流体に含まれる気泡の混合率(気泡混合率)Robは、1%で一定とする。
【0033】
表1において、No.1と、No.2は気泡径Dbのみ異なる場合を示し、この場合、流出口30内の平均流速を代表速度として算出されるレイノルズ数は、いずれも667になる。
【0034】
No.1と、No.2とで、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能を比較してみると、気泡径Dbが小さいNo.2では、気泡除去対象流体に含まれる気泡が気泡分離除去装置100の中心線上に十分に集合せず、有効な気泡分離除去ができない。
【0035】
そこで、流出口径D2に対する気泡径Dbの比Db/D2を無次元気泡径として定義し、No.3では、気泡径DbをNo.2と同じ0.15mmに設定し、無次元気泡径がNo.1と同じになるように、形状パラメータD1、D2,D3,w、hを相似形で縮小する。そして、レイノルズ数がNo.1と同じ667になるように流入流量Qiを変更する。
【0036】
このNo.3の形状パラメータを用いた場合、気泡除去対象流体に含まれる気泡が気泡分離除去装置100の中心線上に有効に集合し、No.1と同じ気泡分離除去性能が得られた。
【0037】
この結果から、無次元気泡径が大きいほど、気泡除去対象流体に含まれる気泡は気泡分離除去装置100の中心線上に集合し、また、気泡除去対象流体の流体条件が異なる複数の条件を比較する場合、レイノルズ数と無次元気泡径のそれぞれが一致すれば、気泡分離除去性能は維持されることが分かる。
【0038】
以上の考察から無次元気泡径が大きいほど、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能は高くなることが明らかになったが、気泡径Dbが小さい場合には、無次元気泡径を大きくするためには、流出口径D2を小さくしなければならない。
【0039】
しかし、流出口径D2を小さくすると、流出口30での圧力損失が増大する。
【0040】
そこで、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能の最適化のための、最小無次元気泡径および最小レイノルズ数を求める。
【0041】
表2に、最小無次元気泡径および最小レイノルズ数を求めるための数値解析で用いた気泡分離除去装置100の形状パラメータを示す。
【0042】
【表2】
表2を用いた数値解析では、気泡分離除去装置100に流入した気泡の挙動を詳細に評価するために、ラグランジェ混相流モデルを使用した。ラグランジェ混相流モデルは局所的に分散相の体積占有率が高くなる条件に対応しておらず、また、ここでは集合する気泡の量ではなく、気泡分離除去装置100の中心軸上に向かう気泡の挙動に注目しているため、気泡混合率Robを0.1%とする、基準の条件Rob=1%より少ない条件で、数値解析を実施する。
【0043】
表2では、流入口10の幅wを3mm、長さhを6mm、気泡径Dbを0.1mm、流入流量Qiを30L/minに固定してその他のパラメータを変更した場合を解析する。
【0044】
なお、表2を用いた数値解析でも、気泡径Dbと気泡分離除去装置100とのサイズ関係を明確にするために、D2=D1、すなわちテーパ管路部40を有さないストレート形状を用いている。
【0045】
表2に示すパラメータを用いて気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能を解析すると、流出口径D2を小さくするほど、気泡分離除去性能は向上することが分かり、流出口径D2が、No.3のD2=12.5mm以下であれば良好な気泡分離性能が得られることが分かった。
【0046】
ただし、流出口径D2が小さいほど圧力損失は大きくなるので、ここでは、No.3の流出口径D2が12.5mmのパラメータを最適値として選択する。
【0047】
この場合の無次元気泡径は、0.008であり、レイノルズ数は、1067である。
【0048】
したがって、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能の最適化のための、最小無次元気泡径および最小レイノルズ数は、それぞれ、0.008、1067と決定する。
(2)流入管路部径D1とテーパ管路長L2の最適化
上記説明では、気泡径Dbと気泡分離除去装置100とのサイズ関係を明確にするために、D2=D1、すなわちテーパ管路部40を有さないストレート形状を用いて数値解析を実施したが、以下の説明では、D2<D1となるテーパ管路部40を有する形状を用いてこのテーパ管路部40の最適な形状について数値解析を実施する。
【0049】
そこで、ここでは流出口径D2は固定し、流入管路部径D1とテーパ管路長L2を変更することで、テーパ管路部40の最適な形状を求める。
【0050】
また、上述した説明においては、気泡が気泡分離除去装置100の中心軸上に集まる様子に注目していたが、ここでは気泡分離除去率Ebを用いて気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能を評価する。
【0051】
したがって、単相流ではなく混相流モデルでの解析が必要となるが、ラグランジェ混相流では気泡の集合しやすい条件に対応しておらず、また、オイラー混相流モデルでは結果の妥当性に欠ける可能性があるため、ここでは以下の流れで数値解析の結果を評価する。
i.流出口径D2を基準の20mmとし、オイラー混相流モデル(κ−ε乱流モデル)で流入管路部径D1とテーパ管路長L2を種々変更して数値解析を実施する。
【0052】
A)各条件での気泡分離除去率Ebをもとめ、気泡分離除去装置100の形状と気泡除去率Ebとの関係を明らかにする。
【0053】
B)気泡分離除去装置100の断面のスパイラル係数の分布と気泡含有率分布を比較し、気泡分離除去装置100内部の流体の流れと気泡の挙動の関係を明らかにする。
【0054】
C)AとBの結果を比較し、スパイラル係数の分布から気泡を効率よく除去する条件を明らかにする。
ii.流出口径D2を最適径である12.5mmとし、単相流解析(レイノルズ応力乱流モデル)で流入管路部径D1とテーパ管路長L2を種々変更して数値解析を実施する。
【0055】
A)気泡分離除去装置100の断面のスパイラル係数の分布を比較し、i.−Cの結果を考慮して気泡分離除去性能の高い条件を予測する。
【0056】
B)ii.−Aの結果から最適な流入管路部径D1とテーパ管路長L2を求める。
【0057】
なお、上記解析において、旋回流の予測には不向きとされているκ−ε乱流モデルを使用したオイラー混相流モデルでの解析結果は、気泡分離除去装置100の相対的な気泡分離除去性能の比較と、気泡分離除去装置100内の流れの場の変化が気泡の挙動に及ぼす影響を明らかにするために用い、気泡分離除去装置100の最適形状の検討は乱流モデルにレイノルズ応力方程式モデルを使用して実施した単相流モデルの解析結果を用いて行った。
【0058】
はじめに、オイラー混相流モデルで数値解析を実施し、気泡分離除去装置100の内部の流体の流れと挙動の関係を比較した。
【0059】
表3にその解析条件を示す。
【0060】
【表3】
表3に示す解析条件においては、流入管路部径D1とテーパ管路長L2の2つ
のパラメータのみを変更し、その他の形状パラメータは基準の形状パラメータと
同じとしている。また、放気口50からの流出比Rνは20%とした。
【0061】
流入管路部径D1をパラメータにとったときの各テーパ管路長L2の気泡除去率Ebは、流入管路部径D1が異なると、テーパ管路長L2が気泡除去率Ebの値におよぼす影響も変化することがわかった。
【0062】
流入管路部径D1が24mmの条件ではテーパ管路長L2が変化しても気泡除去率Ebの変化は2.5%程度であり、テーパ管路長L2が気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能におよぼす影響は小さい。
【0063】
しかし、流入管路部径D1が大きくなると、テーパ管路長L2の変化に伴う気泡除去率Ebの変化は大きくなり、流入管路部径D1が28mmと32mmの条件では、テーパ管路長L2が変化することで、気泡除去率Ebは、5〜7%程度変化する。
【0064】
また、各条件で、気泡除去率Ebには、最大値が存在し、D1=28mmのときの気泡除去率Ebの最大値は、L2=30mmのとき、D1=32mmのときの気泡除去率Ebの最大値は、L2=40mmのときに現れ、流入管路部径D1によって最大の気泡除去率Ebを示すテーパ管路長L2は異なることがわかった。
【0065】
さらに、D1=28mm、L2=30mmのときが最も気泡分離除去性能が高いことがわかった。
【0066】
次に,流入管路部径D1とテーパ管路部長L2が気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能におよぼす影響を明らかにするために、気泡分離除去装置100の断面のスパイラル係数分布と気泡含有率分布を比較する。
【0067】
まず、流入管路部径D1が24mmの条件でテーパ管路部長L2の違いが気泡分離除去装置100内部の気泡の挙動と分離除去性能にあたえる影響を確認する。
【0068】
スパイラル係数の分布を比較すると、テーパ管路部長L2が変化しても気泡分離除去装置100内部の流れ挙動は大きく変化しないことがわかる。また、全ての条件で気泡分離除去装置100の側面側ではスパイラル係数は正の値を示し、中心軸付近では負の値を示す。
【0069】
したがって、気泡分離除去装置100の内部では、壁面側で流出口30に向かう流れ、中心軸付近では放気口50に向かう流れの2種類の流れに明確に分かれることが確認できた。
【0070】
また、テーパ管路部長L2の違いによる気泡含有率分布の変化は小さく、テーパ管路部長L2は気泡の挙動に大きく影響をおよぼしていなことがわかる。この条件は、流入管路部径D1が最も小さく、ストレート形状に近い条件である。
【0071】
すなわち、流入管路部径D1が24mmの条件において、テーパ管路部長L2の違いが気泡の挙動に大きく影響をおよぼさないのは、流出口径D2に対する流入管路部径D1の比が小さいためだと考えられる。また、流入管路部径D1が24mmの条件では、テーパ管路部長L2が変化しても気泡除去率Ebは全体に低い値を示し、テーパ管路部40を付加することによる気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能の向上を図る場合には、流入管路部径D1はある一定以上の大きさが必要である。
【0072】
それぞれ流入管路部径D1が28mmの条件における気泡分離除去装置100の断面のスパイラル係数の分布を比較すると、テーパ管路部長L2が大きい条件では、D2=24mmの条件と同じように気泡分離除去装置100の壁面側で流出口30に向かう流れ、中心軸付近では放気口50に向かう流れの2種類の流れに明確に分かれることが確認できる。便宜的に、この流れを二重旋回流と呼ぶ。
【0073】
テーパ管路部長L2が短くなると、中心軸上の放気口50に向かう流れを示す領域は細く、流出口30に向かう流れを示す領域は広くなり、さらに中心軸から離れた領域で放気口50に向かう流れが生じることがわかる。この領域において、気泡分離除去装置100の中心軸から壁面までの流速のz軸方向成分の正負の変化を見ると、流れの正負が負→正→負→正と変化することがわかる。便宜的にこの流れを四重旋回流とする。
【0074】
流入管路部径D1が28mmの条件では、テーパ管路部長L2が短くなることで、旋回流の挙動が二重旋回流から四重旋回流へと変化する。気泡含有率分布を比較すると、テーパ管路部長L2が50mmの条件に比べてテーパ管路部長L2短い40mmの条件では放気口50の入口付近の気泡含有率が向上することがわかる。
【0075】
テーパ管路部長L2が40mmの条件は、気泡除去率Ebも最も高い値を示し、気泡の分離除去性能が最も高いと評価できる。テーパ管路部長L2が40mmよりも短くなると、放気口50入口付近の気泡含有率は低下し、L2=10mmのとき気泡含有率は最も低くなる。また、この条件では気泡除去率Ebも最も低い値を示す。スパイラル係数の分布と併せて比較すると、気泡含有率が低下するテーパ管路部長L2が短い条件では、気泡分離除去装置100の内部の旋回流は四重旋回流に遷移していることがわかる。
【0076】
以上のことから、テーパ管路部長L2が短くなると気泡分離除去性能は向上するが、テーパ管路部長L2がある値を下回ると、旋回の挙動が二重旋回流から四重旋回流に遷移し、装置の気泡分離性能は低下すると推察できる。
【0077】
流入管路部径D1が32mmの条件でもテーパ管路部長L2の違いでスパイラル係数と気泡含有率の分布を比較する。
【0078】
スパイラル係数の分布から、流入管路部径D1が32mmの条件においてもテーパ管路部長L2が短くなることで、気泡分離除去装置100の内部の旋回流は二重旋回流から四重旋回流に変化することがわかる。また、二重旋回流から四重旋回流に変化する境となるL2=50mmのときに、気泡除去率Ebと放気口50入口付近の気泡含有率は最も高い値を示す。
【0079】
以上のことから、流入管路部径D1とテーパ管路部長L2にはそれぞれ最適値があり、旋回流の挙動変化に注目することでこれらの値を導くことが可能である。具体的には以下の方法でそれぞれのパラメータを決定する。
i.テーパ管路部長L2が短い条件で流入管路部径D1を種々変更して数値解析を実施し、気泡分離除去装置100の内部で四重旋回流が生じる条件の中で最も値が小さい流入管路部径D1を最適な流入管路部径D1とする。
ii.テーパ管路部長L2を短い条件から徐々に長くしていき、気泡分離除去装置100の内部の旋回流が四重旋回流から二重旋回流に変化するテーパ管路部長L2を最適なテーパ管路部長L2とする。
【0080】
次に、上記方法で単相流モデルの解析結果から流出口径D2が12.5mmの条件における流入管路部径D1とテーパ管路部長L2の最適値を求める。
【0081】
なお、ここでは、気泡分離除去装置100の内部の旋回の挙動の変化から流入管路部径D1とテーパ管路部長L2を決定するため,混相流解析ではなく流体の単相流解析結果を用いて比較する。
【0082】
表4に、この場合の解析条件を示す。
【0083】
【表4】
ここで、放気口50からの流出比Rνは30%としている。
【0084】
はじめに、L2を5mmとしてD1のみを変更し、No.1〜No.3の条件で解析を実施した。この場合、D1=18mmの条件では気泡分離除去装置100の内部の流れは二重旋回流の挙動を示しており、テーパ管路部長さL2が変化しても気泡分離除去性能は向上しないと考えられる。しかし、D1は小さいほど気泡分離除去性能が向上することが明らかになっているため、本条件ではD1=20mmを最適な流入管路部径D1とする。
【0085】
次にテーパ管路部長L2の最適値を検討するために、テーパ管路部長をL2=5mmからL2=10、15mmと長くしていき,スパイラル係数の分布を比較した。
【0086】
上述の解析結果と同じように、テーパ管路部長L2を長くしていと、気泡分離除去装置100の内部の旋回挙動は、四重旋回流から二重旋回流に変化することがわかる。この旋回の挙動の変化が生じる境界で気泡除去率Ebは最大の値を示すため、L2=10mmを最適なテーパ管路部長L2とする。
(3)放気口径D3の最適化
流出口径D2と放気口径D3は相互に影響をおよぼし合うので、放気口径D3の選定には流出口径D2の値を考慮する必要がある。
【0087】
また,装置断面のスパイラル係数の分布の比較結果から、これらのパラメータは装置内部の旋回流速と軸方向流速の変化に大きく影響をおよぼすことが明らかになっており、旋回方向と軸方向の流速の変化を考慮することでパラメータの選定が可能になると考えられる。
【0088】
流出口30と放気口50内の旋回方向と中心軸方向の流れの影響を考慮して放気口径D3を最適化するために、装置内部の液体を剛体と仮定して放気口50と流出口30の管路内のスパイラル係数を計算する。
【0089】
このときの放気口50内のスパイラル係数Sνと流出口30内のスパイラル係数Soは,それぞれ以下の式で表される。
【0090】
Sν=Uzv/Usv
So=Uzo/Uso
ここで、UzvとUzoは放気口50と流出口30の軸方向平均流速、UsvとUsoは装置内部の流体を剛体と仮定したときの放気口50と流出口30の内壁面上の周速度であり、流入口10からの流入流速Usiで剛体が回転するとすれば、UsvとUsoはそれぞれ以下の式で表される。
【0091】
Usv=(D3/D1)Usi
Uso=(D2/D1)Usi
上記式よりSν/Soは、以下のように表される。
【0092】
Sν/So=(D2/D3)・(Qν/Qo)
ここで、Qνは放気口50から流出する流体の体積流量、Qoは流出口30から流出する流体の体積流量である。スパイラル係数Sν/Soの比は,流出口径D2と放気口径D3の比と各ポートから流出する流体の積量比で求められる。
【0093】
表5に、各条件の流出口30と放気口50内のスパイラル係数SoとSν、また放気口50と流出口30のスパイラル係数比また放気口と流出のスパイラル係数比Sν/Soを示す。
【0094】
【表5】
なお、表5の気泡除去率Ebは、可視化実験でコリオ式流量センサのデータから算出されたものであり、流出口と放気口のそれぞれの下側に取付けたコリオ式流量センサの密度データから気泡量をもとめて算出している。
【0095】
この結果からSo大きく、Sνが小さいほど、気泡は合体しやすいが、これらの条件では、集合した気泡が流出口30方向に移動しやすいことがわかる。この二つのスパイラル係数を合わせて評価するためにSν/Soで比較する。可視化実験において、気泡除去率Ebが大幅に減少したNo.8(D2=10mm、D3=8mm)、No.9(D2=10mm、D3=10mm)の条件では、Sν/Soは、0.59、0.37と低い値を示した。一方、気柱の形成が確認されなかったNo.1〜3(D2=20mm)の条件、No.4(D2=15mm、D3=6mm)の条件では、Sν/Soは、2.66以上の値を示した。
【0096】
以上の検討からSν/So<0.59の条件では、気泡除去率Ebが大幅に低下すること、Sν/So>2.66の条件では流入管路部とテーパ管路部内で気泡が合体しづらいことが確認された。したがって、流入管路部とテーパ管路部内で気泡合体させ放気口50から効率よく除去させる条件は0.59<Sν/So<2.66の範囲に存在することがわかる。気泡を流体から効率よく分離除去するためには、気泡分離除去装置100内で気泡を合体させて大きな気泡をつくること、また、集合させ気泡を可能な限り多く放気口50から流出させる必要がある。すなわち、気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能を向上されるには0.59<Sν/So<2.66の範囲の値を示すように流出口径D2と放気口径D3を選定することが望ましい。
【0097】
次に、スパイラル係数比Sν/Soを用いて放気口径D3を決定する。なお、ここでは気泡分離除去装置100に流入する気泡分離除去対象液体と気泡の流入量に対する放気口50からの流出量比Rνは、可変絞り等で調整能な状態を想定している。
【0098】
スパイラル係数の比Sν/Soの算出には、流口径D2と放気口径D3と流出口のほかに放気口からの流出比Rν(=Qν/Qi=Qν/(Qo+Qν))が必要となり、Sν/SoからD3を選択するには、先にRνを決定する必要がある。そこで、装置に流入する混気泡量を考慮し、Rνを決定する。ここで、気泡分離除去装置100内部で十分に気泡を集合させことがきれば、放気口50からの流出量が少なくても高い気泡除去率Ebを維持すること可能である。本条件では、気泡混入率1%の条件を想定しているため、まず、Rνを1%と仮定してD3を決定する。
【0099】
上述したように、0.59<Sν/So<2.66の範囲に最適なスパイラル係数比が存在することを示したが、Rνをこの範囲内で調整可能な状態にすることで、気泡分離除去装置100は高い分離除去性能を維持することが可能になると考えられる。
【0100】
0.59<Sν/So<2.66の範囲でRνを調整可能にするために、Sν/Soの下限となるSν/So=0.59となるようにD3を決定する。D2を12.5mm、Rνを1%とすると、D3は3.2mmとなり、Rνは約4%(Sν/So=2.5)まで変更可能となる。
【0101】
ここで、形状パラメータの変更を行う前の基準形状パラメータとこの発明で最適な形状として示した形状で気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能を比較する。この性能の比較にはラグンジェ混相流モデルで実施した数値解析の結果を用いる。
【0102】
表6に、この解析の条件を示す。
【0103】
【表6】
ここで、No.1が基準の形状、No.2がこの発明で最適形状として示した形状である。ラグンジェ混相流モデルを使用する場合、分散相である気泡の体積占有率が高い条件に対応していなため、流入流量Qi、流体粘度ν、気泡 径Dbは基準の流体条件と同じQi=20L/min、ν=32mm/s、Db=0.1mmとしているが、気泡混入率RQBを0.1%と少なくして解析を実施している。また、放気口50からの流出比Rνも4%とし、スパイラル係数の比を大きくすることで気泡の体積占有率が局所的に高くなることのないように設定した。
【0104】
基準の条件であるNo.1の形状では、気泡分離除去装置100の中心軸上に集合せず、気泡除去率Ebも低い値を示している。一方、No.2の条件では、気泡は装置の中心軸上に集合しており、気泡除去率Ebも高い。したがって、気泡分離除去装置100の最適形状は、流入量Qi=20L/min、液体粘度ν=32mm/s、気泡径Db=0.1mmの条件において基準形状よりも高い気泡分離除去性能を示すことが明らかになった。
【0105】
上述したように、気泡分離除去装置100の最適な形状パラメータを検討し、流入管路部径D1、流出口径D2、放気口径D3、テーパ管路部長L2を最適化した。しかし、これらの条件は、気泡分離除去装置100に流入する流体の条件を固定しており、流体の条件が異なれば性能も気泡分離除去装置100の気泡分離除去性能も変化する。
(4)装置パラメータの決定手法
次に、気泡分離除去装置100に流入する流体の条件の違いを考慮した気泡分離除去装置100の装置パラメータの決定手法を示す。
【0106】
流体条件の違いを考慮して気泡分離除去装置100を設計するために、はじめに基準の流体条件を設定する。ここでは流入量Qi=20L/min、液体動粘度ν=32mm/s、気泡径Db=0.1mm、気泡混合率RQB=1%を流体の基準の流体条件とし、この基準の流体条件のもとに最適化された基準の装置形状を決定する。
【0107】
表7にこの発明で最適化された基準の装置形状の形状パラメータを示す。
【0108】
【表7】
なお、装置の最適形状は、以下の流れで数値解析を実施し、気泡の挙動やスパイラル係数の分布を比較することで
決定する。
I.テーパ管路部のないストレー形状の気泡分離除去装置100で流出口径D2を種々変更して数値解析を実施し、気泡径Db=0.1mmの気泡を装置の中心軸上に集合させることが可能な最大流出口径D2を最適な流出口径D2とした。このとき、流出口径D2を代表長さ、流出口の平均流速を代表速度とする場合のレイノルズ数は1067、流出口径D2に対する気泡径に対する気泡径Dbの比で表される無次元気泡径は0.008である。
II.ストレー形状から流入管路部径D1を大きくしていき、装置断面のスパイラル係数の分布から、四重旋回流が生じる最小流入管路部径D1を最適な流入管路部径とした。
III.テーパ管路部長L2を長くしていき、流入管路部とテーパ管路部付近の旋回挙動が四重旋回流から二重旋回流に変化するときのテーパ管路部長L2を最適なテーパ管路部長L2とした。
IV.気泡混入率RQB=1%から放気口50から流出する流体の流体比を決定し、スパイラル係数の比が0.59<Sν/So<2.66の値を示すように放気口径D3を決定した。
【0109】
前述のように、流体の条件の違いを考慮して装置の選定を行うには、レイノルズ数と無次元気泡径を考慮する必要がある。基準の流体条件に対する気泡分離除去装置100の形状パラメータの最適化手法のI.において、気泡を装置の中心軸上に集合させるため必要な無次元気泡径Db/D2とレイノルズ数は、それぞれ0.008と1067であることがわかっている。基準の流体条件と異なる条件で装置を使用する場合には、無次元気泡径Db/D2とレイノルズ数のそれぞれの値が、0.008と1067以上となるように流出口径D2を決定する。流出口径D2の選定は以下流れで行う。
i.気泡径Dbを基準に、無次元気泡径Db/D2が0.008以上となるように流出口D2を決定する。
ii.レイノルズ数Reを算出し、Re<1067となる場合にはレイノルズ数Reが1067以上となるように流出口径D2を設定し直す。
【0110】
なお、ii.のレイノルズ数Reを考慮して流出口径D2を決定するとき、流入量Qiを変更することが可能な場合には、流出口径D2ではなく、流入量Qiを変更しても良い。また、流入量Qiが変化する条件で使用する場合には、最低流入流量、あるいは平均流入量を用いてレイノルズ数Reが1067以上となる条件に設定する。
【0111】
次に、流出口径D2以外の形状パラメータを設定する。前述したように、無次元気泡径が一致していれば、レイノルズ相似則成り立つので、基準の流体条件で最適化された形状から相似形状で装置各部のパラメータを設定することで高い気泡分離除去性能を得ることができる。
【0112】
したがって、無次元気泡径とレイノルズ数から決定した流出口径D2を基準に、表7のパラメータから相似形状で装置の寸法を拡大あるいは縮小することで、流出口径D2以外の形状パラメータを決定することが可能である。
【0113】
レイノルズ数と無次元気泡径を考慮すること装置に流入する流体の流入量Qi、動粘度ν、気泡径Dbを考慮することが可能であるが、流体に含まれる気泡の混入率RQBを考慮することはできない。したがって、混入気泡量が明らかになっている場合は、放気口50からの流体の流出比Rνと放気口径D3を設定し直すことでさらに効率よく気泡を除去することができる。
【0114】
これらのパラメータは、基準の流体条件における装置形状の最適化の方法で示したIV.と同じ方法で設定することが可能ある。しかし、実際には流体に混入する気泡量を測定することは困難である。今回設定した気泡の混入率RQB=1%は気泡量が非常に多い条件であるため、気泡の混入を測定すること困難な場合にはこの作業を行う必要はない。
【0115】
図2は、上記気泡分離除去装置100に関する装置パラメータの決定手法をフローチャートで示したものである。
【0116】
図2において、この気泡分離除去装置100に関する装置パラメータの決定に際して、まず、この気泡分離除去装置100で気泡の分離除去を行う気泡除去対象流体の基準の流体条件を設定する(ステップ101)。ここで設定される基準の流体条件は、例えば、流入量Qi=20L/min、動粘度ν=32mm/s、気泡径Db=0.1mm、気泡混合率RQB=1%である。
【0117】
次に、上記基準の流体条件に基づきこの発明に係る気泡分離除去装置100の流出口径D2の最適化を行う(ステップ102)。この流出口径D2の最適化は、テーパ管路部40のないD1=D2のストレート形状の気泡分離除去装置100を用いて流出口径D2の値を種々変更して数値解析を行い、気泡除去対象流体に含まれる気泡を装置の中心軸上に有効に集合させることが可能な最大流出口径D2を基準の最適な出力口径D2として決定する。ここで決定された基準の最適な出力口径D2は12.5mmである。また、このときのレイノルズ数は1067、無次元気泡径は0.008である。
【0118】
次に、出口径D2を最適な12.5mmとして、テーパ管路部40のある気泡分離除去装置100を用いて、流入管路部径D1とテーパ管路長L2の最適化を行う(ステップ103)。この流入管路部径D1とテーパ管路長L2の最適化は、流入管路部径D1とテーパ管路長L2を種々変更して数値解析を行い、装置の気泡分離除去性能が向上する流入管路部径D1とテーパ管路長L2を基準の最適な流入管路部径D1とテーパ管路長L2として決定する。ここで決定された基準の最適な流入管路部径D1は20mm、テーパ管路長L2は、10mmである。
【0119】
次に、放気口径D3の最適化を行う(ステップ104)。この放気口径D3の最適化は、装置内部の液体を剛体と仮定して放気口50と流出口30の管路内のスパイラル係数SνとSoを計算し、スパイラル係数の比Sν/Soが0.59<Sν/So<2.66の値を示すように基準の最適な放気口径D3を決定する。ここで決定された基準の最適な放気口径D3は、3.2mmである。
【0120】
他のパラメータL1、L3、w、hは、レイノルズ数Reが1067となるように決定され、ここで、決定された基準の最適なパラメータL1、L3、w、hは、それぞれ、L1=10mm、L3=140mm、w=3mm、h=6mmである。
【0121】
以上のパラメータがこの発明によって決定された基準の最適なパラメータで、その値は前掲した表7に示される。
【0122】
次に、上記基準の最適なパラメータで作成される気泡分離除去装置100のサイズはその使用環境等により容認できるか否かを調べる(ステップ105)。ここで、容認できない場合は(ステップ105でNO)、上記基準の最適なパラメータで示される装置の各部の寸法をレイノルズ数Reを維持するように相似形状で拡大あるいは縮小することで所望の装置サイズに変更する(ステップ106)。この場合、装置サイズを変更しても、レイノルズ数Reが維持されているので、上記基準の最適なパラメータで作成された基準の装置の気泡分離除去性能は維持される。
【0123】
次に、作成された装置が、0.59<Sν/So<2.66の条件を満足するかを調べる(ステップ107)。ここで、0.59<Sν/So<2.66の条件を満足していない場合は(ステップ107でNO)、次に、この装置の流入量Qiは変更可能かを調べ(ステップ108)、変更可能でない場合は(ステップ108でNO)、これ以上の手順を終了するが、変更可能な場合は(ステップ108でYES)、0.59<Sν/So<2.66の条件を満足するように流入量Qiを変更して(ステップ109)、この手順を終了する。
【0124】
ところで、上記説明では、レイノルズ数と無次元気泡径を一致させることで装置の気泡分離除去性能を維持できることを示した。しかし、レイノルズ数と無次元気泡径を個々に一致させる場合、気泡径と作動油の動粘度が既知であれば流入流量と流出口径が決まってしまうため、流入流量が調整できない条件では装置の性能を最適化することが困難になる。
【0125】
そこで、気泡径を考慮した指標を設定するために、気泡にかかる向心力に注目すると、旋回する流体中の粒子は半径方向に向心力を受ける。そのときの加速度は中心からの距離rに依存し、rω2で与えられる。さらに粒子は流体粘性力を受け、向心力と流体粘性力がつりあうと等速度(終端速度Utc)で移動する。そのときの気泡分離除去装置100内の気泡の終端速度Utcは以下の式で与えられる。
【0126】
Utc=(ρ−ρ)Drω/18μ
ここで、ρとρはそれぞれ液体と気泡の密度、Dは気泡径、μは流体の粘性係数である。本発明に係る気泡分離除去装置100においては、r=D2/2で、各速度ωは、装置内部の流体を剛体として仮定すると、流入口10の流入速度Usiと流入管路部半径rから求められる。また、ρはρに比べて極めて小さいため、上式は、以下の式に書き換えることができる。
【0127】
Utc=(1/9)・(D2Usi/ν)・(Db/D2)・Usi
ここで、νは流体の動粘度である。
【0128】
上記式から、Utcは、レイノルズ数とUsiを代表速度をとしたときのレイノルズ数と無次元気泡径の2乗に比例し、特に無次元気泡径の影響が大きいことがわかる。
【0129】
そこで、レイノルズ数と無次元気泡径の2乗の積Re(Db/D2)を気泡の集合を表す指標とし、この値が等しいときの気泡の挙動を表8で比較する。
【0130】
【表8】
表8で、No.1〜3に表1で示した各条件のRe(Db/D2)の値を示す。気泡含有率分布が一致したNo.1とNo.3の条件では、Re(Db/D2)も一致することがわかる。ここで、流入流量Qi動粘度νをNo.1と同じ条件とし、気泡径Dbのみを小さくしたときの装置の選定法を検討する。No.4は、Re(Db/D2)がNo.1と一致するようにD2を決定したときの条件であり、D2以外の形状パラメータもNo.1の相似形状で縮小している。ここで、No.1とNo.3の条件だけでなく、No.4の条件でも、装置の中心軸上に気泡を有効にあつめることができる。
【0131】
したがって、レイノルズ数と無次元気泡径を個々に一致させる代わりに、レイノルズ数と無次元気泡径の2乗の積Re(Db/D2)の値を維持するようにしても、装置の気泡分離除去性能を維持することができる。
【0132】
以上がこの発明の代表的な実施形態の一例であるが、本発明は、上記実施例及び図面に示す実施例に限定することなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。
【符号の説明】
【0133】
10 流入口
20 流入管路部
30 流出口
40 テーパ管路部
50 放気口
100 気泡分離除去装置
図1
図2