特許第6461640号(P6461640)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461640
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】ローラー式ロッカーアーム
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/18 20060101AFI20190121BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   F01L1/18 N
   F01L1/18 M
   F16C33/20
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-33587(P2015-33587)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-156298(P2016-156298A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】前原 光宏
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−030467(JP,A)
【文献】 特開2004−278322(JP,A)
【文献】 特開2000−266057(JP,A)
【文献】 特開昭60−069324(JP,A)
【文献】 特開2007−285456(JP,A)
【文献】 特開2006−194139(JP,A)
【文献】 実公平05−015524(JP,Y2)
【文献】 特開2011−026591(JP,A)
【文献】 特開平6−129432(JP,A)
【文献】 特開2013−29181(JP,A)
【文献】 特開2002−27703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/18
F16C 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムの回転動作を吸排気バルブに伝達する機能を備えたローラー式ロッカーアームであって、
ローラー軸と、前記ローラー軸の外周面上に取付けられた内輪ローラーと、前記内輪ローラーの外周面上に摺動可能に取付けられた外輪ローラーとを有し、
前記外輪ローラーは、外周面と内径d1の内周面とを有する環状の金属製のローラー本体と、内周面と外径d2の外周面とを有する環状の樹脂部材のブッシュとを有し、
内径d1よりも外径d2が大きい関係にある前記ブッシュと前記ローラー本体とを用いて、前記ブッシュが前記ローラー本体に圧入されている、ローラー式ロッカーアーム。
【請求項2】
前記樹脂部材は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ボリベンゾイミダゾール樹脂、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂から構成される、請求項に記載のローラー式ロッカーアーム。
【請求項3】
前記樹脂部材は、炭素繊維、CNT(カーボンナノチューブ)、CNC(カーボンナノコイル)、またはガラス繊維で強化した強化繊維を含む、請求項1または2に記載のローラー式ロッカーアーム。
【請求項4】
前記強化繊維は、前記内輪ローラーの摺動方向に対して略平行に配置される、請求項に記載のローラー式ロッカーアーム。
【請求項5】
前記外輪ローラーの内周面および当該内周面と摺動する相手方の部材の少なくとも一方には、非晶質硬質炭素被膜が形成される、請求項1ないしいずれか1つに記載のローラー式ロッカーアーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のロッカーアーム式動弁機構に関し、特に、フリクション性能を向上させたすべり式ローラーロッカーアームの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
4ストローク内燃機関の動弁機構において、吸排気バルブを開閉させるためのカムシャフトのリフト動作を、タペットを使用して伝達するものを直打式、ロッカーアームを使用して伝達するものをロッカーアーム式として分類している。タペット、ロッカーアーム共に、両者はカムシャフトと吸排気バルブの間に設置され、バルブ開時は、バルブスプリング反力に打ち勝ちながらリフトし、閉時はバルブスプリングによって押し戻されながら運動し、これと動弁系の慣性力を合成した荷重が常時生じている。
【0003】
近年は、燃費向上を目的として、ロッカーアームにローラーを設けたものが多く採用されている。このローラー式は、ボディと称される本体、カムシャフトと摺動する外輪ローラー、外輪ローラーを支持する軸、軸と外輪ローラーとの間にコロと称する小径の軸あるいは内輪と称する中空のローラーの四部品を基本に構成される。前者のコロを用いた方式をころがり式、後者の内輪ローラーを用いた方式をすべり式と分類されている。
【0004】
図1(A)にすべり式のロッカーアームの概略斜視図を示し、図1(B)にころがり式のロッカーアームの概略斜視図を示す。但し、ここにはロッカーアームのボディが省略されている。すべり式のロッカーアーム10は、ローラー軸12と、ローラー軸12と回転可能に取付けられた内輪ローラー14と、内輪ローラー14の外周上に回転可能に取付けられた外輪ローラー16とを有する。ころがり式のロッカーアーム20は、ローラー軸22と、ローラー軸22の外周に回転可能に取付けられた複数のニードルコロ24と、ニードルコロ24の外周上を回転可能に取付けられたローラー26とを有する。
【0005】
図2は、カムシャフトのカム40と吸排気バルブ37のバルブステムとの間に設置されたころがり式のロッカーアームの一例を示す図である。ロッカーアームは、図1(B)に示すようなローラー26を回転可能に保持したボディ30を含み、ボディ30の一方の端部32がピボット部34によって支持され、他方の端部36が吸排気バルブ37のキャップ38に当接され、キャップ38の下方には、ロッカーアームの端部36を付勢するバルブスプリング39が取付けられる。こうして、ローラー26はカム40に当接され、カム40の回転運動がボディ30に伝達され、カム40の回転に応じて他方の端部36が吸排気バルブ37を上下動させる。すべり式のロッカーアームもまたこれと同様に用いられる。図2Aは、ロッカーアームが油圧式のラッシュアジャスタによって支持された他の例を示している。同図に示すように、ロッカーアームの一方の端部32が、頂部が半球状になっているプランジャ52に当接され、プランジャ52がラッシュアジャスタ50によって支持される。ラッシュアジャスタ50は、プランジャ52を軸方向に摺動可能に支持する。このようなラッシュアジャスタ式のロッカーアームは、特許文献1、2に開示され、ラッシュアジャスタを介して潤滑油をローラー軸の潤滑油孔に容易に供給することを可能にする。
【0006】
ころがり式は、エンジン運転時にコロが転がる状態で使用されるため、すべり式と比較してフリクション性能は良好となる。しかし、コロは、軸あるいは外輪と線接触に近い摺動状態となる。特にコロと軸は、コロの外径が小さく軸と凸R同士の接触となるため、ヘルツの接触理論より面圧が高くなる。
【0007】
一方、すべり式は、カムシャフトのリフト荷重を外輪ローラーの内周と内輪ローラーの外周、内輪ローラーの内周とローラー軸の外周の面で支持する。最も面圧が高くなる内輪ローラーとローラー軸は、コロと比較して内輪ローラーの内径が大きく、ローラー軸に対し凹Rと凸Rの接触となるため、ころがり式よりも面圧が低い状態で使用される。各摺動面には、クリアランスが存在し、すべりながら相対運動をするため、特に低回転域では境界潤滑状態となってフリクション性能は悪化する。
【0008】
燃費向上のためには、これら摺動部のフリクションを減ずることが必要である。また、長期にわたって円滑にリフト動作を伝達する機能を確保するためには、これらの摺動部は磨耗しないことや焼付かないことが必要である。このような従来のロッカーアームにおいて、磨耗を抑制したり(特許文献3)、潤滑油を効率的に供給したり(特許文献4、5)する技術が開示されている。また、内輪ローラーの周面に潤滑性皮膜を加工することにより、損傷や焼付を防止する技術が開示されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−1906号公報
【特許文献2】特開2012−154226号公報
【特許文献3】特開2008−255883号公報
【特許文献4】特開2007−23817号公報
【特許文献5】特開2007−263023号公報
【特許文献6】特開2000−34907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
すべり式ロッカーアームは、外輪ローラーの内周と内輪ローラーの外周、内輪ローラーの内周とローラー軸の外周がそれぞれ摺動面として機能し、これらの部分にクリアランスを設けてある。従来は、この摺動面の製作は、研磨で形状を作成した後、バレルにて面粗度の調整を行った加工仕上げとなっている。
【0011】
運動時、この摺動面への潤滑は、シリンダーヘッド内部の雰囲気中に存在する飛沫状態の潤滑油を利用した飛沫給油を行っているため、元々潤滑油の供給量が少ない。故に、摺動面のフリクションが懸念されるところであった。特に、従来のすべり式ロッカーアームは、低回転域(主にアイドリング時などの1000rpm以下の低回転)においては、境界潤滑状態となってころがり式ロッカーアームよりもフリクションが大きいという課題があった。また、高回転域(主に2500rpm以上の高回転)においては、ロッカーアーム重量が軽いとフリクションが小さいため、軽くしなければならない課題があった。
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するため、エンジンの低回転域から高回転域までフリクションの低減を図るローラー式ロッカーアームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るローラー式ロッカーアームは、カムの回転動作を吸排気バルブに伝達する機能を備えたものであって、ローラー軸と、前記ローラー軸の外周面上に取付けられた内輪ローラーと、前記内輪ローラーの外周面上に摺動可能に取付けられた外輪ローラーとを有し、前記外輪ローラーの内周に樹脂部材が締結される。
【0014】
好ましくは前記樹脂部材は、前記外輪ローラーの内周に取付けられた環状部材である。好ましくは前記環状部材は、前記外輪ローラーの内周に圧入される。好ましくは前記外輪ローラーの内周に複数の溝が形成され、前記樹脂部材が前記複数の溝内に充填される。好ましくは前記複数の溝は、前記外輪ローラーの摺動方向と平行に形成された環状の溝である。好ましくは前記複数の溝は、前記外輪ローラーの摺動方向と直交する方向に形成された線状の溝である。好ましくは前記樹脂部材は、射出成形により前記複数の溝内に充填される。好ましくは前記樹脂部材は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂から構成される。好ましくは前記樹脂部材は、炭素繊維、CNT(カーボンナノチューブ)、CNC(カーボンナノコイル)、またはガラス繊維で強化した強化繊維を含む。好ましくは前記強化繊維は、前記内輪ローラーの摺動方向に対して略平行に配置される。好ましくは前記外輪ローラーの内周面および当該内周面と摺動する相手方の部材の少なくとも一方には、非晶質硬質炭素被膜が形成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外輪ローラーの内周に樹脂部材を取付けることで、エンジンの低回転域から高回転域までのフリクションの低減を図り、かつ外輪ローラーの強度を維持しつつその重量を軽くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)は、従来のローラー式ロッカーアーム(すべりタイプ)を示した概要斜視図、図1(B)は、従来のローラー式ロッカーアーム(ころがりタイプ)を示した概略斜視図である。
図2】ロッカーアームがカムによって動作される一例を示す模式図である。
図2A】ロッカーアームが内燃機関に適用された他の例を示す模式図である。
図3】本発明の実施例に係るローラー式ロッカーアームの模式的な外観斜視図である。
図4】第1の実施例に係るロッカーアームのボディの一部を除去したときの模式図である。
図5】第1の実施例に係るロッカーアームの各部構成部品を示した図であり、図5(A)はローラー軸の斜視図、図5(B)は内輪ローラーの斜視図、図5(C)はブッシュを含む外輪ローラーの斜視図である。
図6】第1の実施例に係る外輪ローラー本体とブッシュの構成を示す斜視図である。
図7】第1の実施例に係るロッカーアームの断面を示す図である。
図8図8(A)は、第2の実施例に係るロッカーアームの外輪ローラーの外観斜視図である。図8(B)は、第2の実施例に係る外輪ローラーを含むロッカーアームの断面図である。
図9】第2の実施例に係る外輪ローラーの構成を説明する断面図である。
図10図10(A)は、第2の実施例の変形例による外輪ローラーの斜視図、図10(B)は、その断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面は、分かり易くするために各部を強調して示してあり、実際のスケールとは異なることに留意すべきである。
【0018】
図3は、第1の実施例に係るロッカーアームの全体を示した斜視図、図4は、第1の実施例に係るロッカーアームのボディの一部を除去した図である。第1の実施例に係るロッカーアームは、4ストローク内燃機関のロッカーアーム式動弁機構を構成する部品の一つであり、総すべりしながら摺動するロッカーアームに関する。
【0019】
第1の実施例に係るロッカーアーム100は、図3および図4に示すように、ボディ110と、ボディ110内に固定されるローラー軸120と、ローラー軸120の外周上に取付けられた内輪ローラー130と、内輪ローラー130の外周上に回転可能に取付けられた外輪ローラー140を含んで構成される。さらに、外輪ローラー140の内周面には、後述するように、樹脂製の環状のブッシュ150が取付けられている。
【0020】
ボディ110は、ローラー軸120、内輪ローラー130および外輪ローラー140を支持する金属部材であり、一方の端部112にはピボット部34(図2を参照)を支持するための開口112Aが形成され、他方の端部114が吸排気バルブのバルブステムのキャップ38に当接される。ボディ110の一方の端部112と他方の端部114との間には、離間された一対の側壁116A、116Bが形成され、一対の側壁116A、116Bには、円形状の貫通孔118がそれぞれ形成される。一対の側壁116A、116Bの貫通孔118内には、ローラー軸120が取付けられる。
【0021】
ローラー軸120は、図5(A)に示すように、一様な直径D1を有する円筒状の金属部材であり、上記したように一対の側壁116A、116Bの各貫通孔118内に挿入される。好ましくは、ローラー軸120の直径D1は、貫通孔118の直径とほぼ等しいかそれよりも幾分大きく形成され、ローラー軸120が貫通孔118内にカシメなどにより締結される。これにより、ローラー軸120がボディ110に固定される。
【0022】
内輪ローラー130は、一対の側壁116A、116B間で、ローラー軸120の外周122を覆うように取付けられる環状の金属部材である。内輪ローラー130は、図5(B)に示すように、内径D2の内周面132と外径D3の外周面134とを有する。内径D2は、ローラー軸120の直径D1よりも幾分小さく、つまりD1>D2となるように形成され、ローラー軸120が内輪ローラー130内に圧入やカシメなどにより締結される。このようなD1>D2の関係であるとき、内輪ローラー130はローラー軸120に固定される。但し、D1<D2とすることにより、内輪ローラー130とローラー軸120との間にクリアランスを設け、内輪ローラー130がローラー軸120の外周面122を回転自在に摺動できるようにしてもよい。
【0023】
外輪ローラー140は、一対の側壁116A、116B間で、内輪ローラー130の外周134を覆うように取付けられる環状の複合部材である。すなわち外輪ローラー140は、金属製の外輪ローラー本体142と、外輪ローラー本体142の内周に締結または固定された樹脂製のブッシュ150とを有する。
【0024】
図6(A)は、外輪ローラー本体の斜視図、図6(B)は、ブッシュの斜視図である。外輪ローラー本体142は、外周面146と、内径D4の内周面144とを有する。ブッシュ150は、図6(B)に示すように、内径D5で規定される内周面152と、外径D6で規定される外周面154とを有する。ブッシュ150の外径D6は、外輪ローラー本体142の内径D4と等しいかあるいはそれよりも幾分大きく、つまりD6≧D4となるように形成される。好ましくは、ブッシュ150は、圧入などにより外輪ローラー本体142の内周に嵌め込まれる。これにより、ブッシュ150は、外輪ローラー本体142の内周に締結され、ブッシュ150と外輪ローラー本体142とが事実上一体化される。ブッシュ150の内径D5は、内輪ローラー130の外径D3よりも幾分大きく、つまりD5>D3となるように一定のクリアランスS1(図7を参照)を持つように形成される。その結果、ブッシュ150の内周面152は、内輪ローラー130の外周面134上を回転自在に摺動することができる。外輪ローラー本体142の内周とブッシュ150の外周面は円筒形状以外でもよく、例えば外輪ローラー本体142の内周とブッシュ150の外周面とを相補的な凹凸形状等として嵌め合わせてもよい。
【0025】
ブッシュ150を構成する樹脂材料は、好ましくは、金属材料との摺動特性に優れ、耐磨耗性があり、かつ潤滑油と親和性があるようなもの、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PES(ポリエーテルサルフォン)、PBI(ボリベンゾイミダゾール)、PI(ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)等である。このような樹脂材料を成型、加工することによりブッシュ150が形成される。
【0026】
さらに好ましくは、樹脂材料の機械的強度や耐摩耗性等を強化するため、樹脂材料に強化部材を混在させる。強化部材は、例えば、炭素繊維、CNT(カーボンナノチューブ)、CNC(カーボンナノコイル)、ガラス繊維などの強化繊維である。なお、前記強化繊維とともに、黒鉛や二硫化モリブデンなどの潤滑性材料、金属やセラミックなどの耐摩耗微粒子を混在させてもよい。さらに、このような強化繊維を樹脂材料に含ませる場合には、強化繊維は、内輪ローラー130の摺動方向(円周方向)に対して、略平行となるように配置され、これによりフリクションをさらに低減させる。ブッシュ150の径方向厚さを、外輪ローラー140の径方向厚さの25〜60%とすれば、外輪ローラー本体142に必要な剛性、強度を維持し、かつブッシュ150の強度も確保できるので好ましい。
【0027】
図7は、第1の実施例に係るロッカーアームの断面を示す図である。従来のロッカーアームでは、外輪ローラーの内周の金属面と内輪ローラーの外周の金属面とが摺動し、この金属間のすべりは、アイドリング時などの低回転域では境界潤滑状態となりフリクションが高くなる。これに対し、第1の実施例では、外輪ローラー本体142の内周にブッシュ150を締結することにより、外輪ローラー140と内輪ローラー130との間のすべりは、金属対樹脂となり、従来の金属対金属のすべりのときと比較して、低回転域でのフリクションを低減させることができる。さらに、ブッシュ150により、この容積分だけ金属から樹脂となるため、従来のロッカーアームより重量を軽くすることができ、外輪ローラーの始動トルク及び高回転域でのフリクションを低減させることができる。その結果、エンジンの低回転域から高回転域において低フリクションを実現することができる。
【0028】
次に、第2の実施例に係るロッカーアームについて説明する。第1の実施例は、外輪ローラーの内周に樹脂材料で形成されたブッシュを締結する例を示したが、第2の実施例は、外輪ローラーの内周に複数の溝を形成し、当該複数の溝内へ樹脂材料を充填するものである。
【0029】
図8(A)は、第2の実施例に係るロッカーアームの外輪ローラーの概略斜視図、図8(B)は、第2の実施例に係るロッカーアームの断面図である。第2の実施例に係る外輪ローラー140Aは、第1の実施例と同様に、内周面144および外周面146を有し、さらに内周面144には、軸方向または摺動方向と直交する方向に複数の溝160が形成される。1つの溝160は、内周面144の円周方向に連続するように形成され、一定の幅および一定の深さを有する。溝160の断面形状は、例えば、図示するような矩形状に加工される。このような溝160は、外輪ローラー140の内周面144に、等しいピッチで複数形成される。また、溝160内には樹脂170が充填される。樹脂170は、第1の実施例のときと同様の樹脂材料から構成され、そのような樹脂材料を射出成形することにより溝160内に樹脂170が形成される。樹脂170は、好ましくは、外輪ローラー140の内周面144と同一平面を形成するように構成され、内周面144および樹脂170が内輪ローラー130の外周面134と回転自在に摺動する。
【0030】
図9は、第2の実施例に係る外輪ローラーの具体例を説明する断面図である。溝160は、図9(A)に示すように、幅Lx、深さLyに加工される。深さLyは、外輪ローラー140Aの半径方向の肉厚Tに対して25〜60%が好ましい。1つの溝160は、隣接する溝160と隔壁162によって分離され、隔壁162は、幅Wを有する。図示する例では、幅Lx>Wの関係を有するが、Lx=WまたはLx<Wの関係であってもよい。また、外輪ローラー140Aの両端に位置する溝160は、その端部から隔壁162A、162Bで規定される位置に形成され、隔壁162A、162Bの幅は適宜選択される。溝160は、例えば、切削部材を用いた加工、レーザー加工により形成することができる。
【0031】
溝160には、図9(B)に示すように、樹脂170が充填される。好ましくは、樹脂170は、外輪ローラー140Aの内周面144、すなわち隔壁162、162A、162Bの表面と同一面を形成するように溝160内に充填される。樹脂170は、例えば、射出成形によって溝160内に充填される。
【0032】
図9(C)は、樹脂170の他の構成例を示す。樹脂170は、隔壁162、162A、162Bの表面から、高さhだけ突出するように形成されてもよい。高さhは、外輪ローラー140Aと内輪ローラー130とのクリアランスS1よりも小さく、外輪ローラー140Aと内輪ローラー130との初期ならし運転中に摩耗される大きさであることが好ましい。
【0033】
図9(D)は、樹脂170の他の構成例を示す。樹脂170は、外輪ローラー140Aの隔壁162、162A、162Bの表面が露出しないように、外輪ローラー140Aの内周面の全面を覆うように形成してもよい。
【0034】
次に、本発明の第2の実施例の変形例を説明する。図10(A)は、第2の実施例の変形例の外輪ローラー140Bの斜視図である。同図に示すように、外輪ローラー140Bの内周面144には、外輪ローラー140Bの摺動方向と直交する方向に複数の溝166が形成される。各溝166は、等しい大きさであり、かつ等間隔で形成される。同図では、溝166は片端から他端へ連通しているが、端部に隔壁162を設けてもよい。図10(B)は、溝166内に樹脂172が充填されたときの外輪ローラー140Bの断面図である。樹脂172は、外輪ローラー140Bの内周面144に、内周面144と同一面を構成するように溝166内に充填される。また、樹脂172は、図9(C)、(D)に示したように、内周面144から高さhだけ突出するように形成されてもよい。
【0035】
このように第2の実施例によれば、外輪ローラーの内周面の溝内に樹脂を充填し、外輪ローラーと内輪ローラー間に樹脂対金属のすべりを実現することで、第1の実施例のときと同様に、低回転域のフリクションの低減を図ることができる。
【0036】
上記実施例では、外輪ローラーの内周に形成される溝の断面を矩形状にしたが、これは一例であり、他の形状、例えば円弧状であってもよい。さらに、外輪ローラーの内周に形成される溝の大きさ、数、ピッチ等は、所望の目的や要求に応じて適宜変更または選択され得る。さらに溝160は、摺動方向と平行になるように形成されたが、溝160は、摺動方向に対して一定の角度を持つように螺旋状に形成されてもよい。この場合、複数の溝160が連続する溝であってもよいし、1つ1つの溝が不連続であってもよい。また、図10に示す溝166は、摺動方向と直交するように形成されたが、溝166は、摺動方向に対して一定の角度を持つように形成されてもよい。
【0037】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。第3の実施例では、ブッシュ150または樹脂170と摺動する相手方の部材の摺動面、すなわち、内輪ローラー130の外周面に、非晶質硬質炭素被膜(以下、DLC(Diamond like carbon)被膜という)が形成される。このようなDLC被膜は、PVD法、CVD法、PACVD法などによって形成することができる。例えばPVD法、特にアークイオンプレーティング法により形成された水素含有量が0.5原子%以下であるものが硬度及び耐摩耗性の観点で好ましい。DLC被膜の膜厚は、例えば、PVD法であれば、0.3〜1.5μmであり、好ましくは1.0μm以下である。CVD法であれば、20μm程度の膜厚を有することができる。
【0038】
ブッシュ150または樹脂170と摺動する内輪ローラー130の外周面にDLC被膜を形成することで、内輪ローラー130と外輪ローラー140間のフリクションを軽減させることができる。
【0039】
なお、上記実施例では、外輪ローラー140と摺動する相手方の部材の摺動面にDLC被膜を形成する例を示したが、上記の構成以外にも、フリクションの軽減の効果を得ることができるのであれば、外輪ローラー140の内周面にDLC被膜を形成してもよく、外輪ローラー140の内周面と内輪ローラー130の外周面のそれぞれにDLC被膜を形成してもよい。さらに、DLC以外にも、ブラスト処理等の表面処理を付与することで、同様に低摩擦特性や潤滑油の保持性を向上させ、さらなるフリクションの低減を図っても良い。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、特許請求の範囲に基づき本発明の要旨を逸脱しない範囲で変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0041】
100:ロッカーアーム
110:ボディ
120:ローラー軸
122:外周面
130:内輪ローラー
132:内周面
134:外周面
140:外輪ローラー
142:外輪ローラー本体
144:内周面
146:外周面
150:ブッシュ
152:内周面
154:外周面
160:溝
162:隔壁
170:樹脂
S1:クリアランス
図1
図2
図2A
図3
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図8
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図10