【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面は、分かり易くするために各部を強調して示してあり、実際のスケールとは異なることに留意すべきである。
【0018】
図3は、第1の実施例に係るロッカーアームの全体を示した斜視図、
図4は、第1の実施例に係るロッカーアームのボディの一部を除去した図である。第1の実施例に係るロッカーアームは、4ストローク内燃機関のロッカーアーム式動弁機構を構成する部品の一つであり、総すべりしながら摺動するロッカーアームに関する。
【0019】
第1の実施例に係るロッカーアーム100は、
図3および
図4に示すように、ボディ110と、ボディ110内に固定されるローラー軸120と、ローラー軸120の外周上に取付けられた内輪ローラー130と、内輪ローラー130の外周上に回転可能に取付けられた外輪ローラー140を含んで構成される。さらに、外輪ローラー140の内周面には、後述するように、樹脂製の環状のブッシュ150が取付けられている。
【0020】
ボディ110は、ローラー軸120、内輪ローラー130および外輪ローラー140を支持する金属部材であり、一方の端部112にはピボット部34(
図2を参照)を支持するための開口112Aが形成され、他方の端部114が吸排気バルブのバルブステムのキャップ38に当接される。ボディ110の一方の端部112と他方の端部114との間には、離間された一対の側壁116A、116Bが形成され、一対の側壁116A、116Bには、円形状の貫通孔118がそれぞれ形成される。一対の側壁116A、116Bの貫通孔118内には、ローラー軸120が取付けられる。
【0021】
ローラー軸120は、
図5(A)に示すように、一様な直径D1を有する円筒状の金属部材であり、上記したように一対の側壁116A、116Bの各貫通孔118内に挿入される。好ましくは、ローラー軸120の直径D1は、貫通孔118の直径とほぼ等しいかそれよりも幾分大きく形成され、ローラー軸120が貫通孔118内にカシメなどにより締結される。これにより、ローラー軸120がボディ110に固定される。
【0022】
内輪ローラー130は、一対の側壁116A、116B間で、ローラー軸120の外周122を覆うように取付けられる環状の金属部材である。内輪ローラー130は、
図5(B)に示すように、内径D2の内周面132と外径D3の外周面134とを有する。内径D2は、ローラー軸120の直径D1よりも幾分小さく、つまりD1>D2となるように形成され、ローラー軸120が内輪ローラー130内に圧入やカシメなどにより締結される。このようなD1>D2の関係であるとき、内輪ローラー130はローラー軸120に固定される。但し、D1<D2とすることにより、内輪ローラー130とローラー軸120との間にクリアランスを設け、内輪ローラー130がローラー軸120の外周面122を回転自在に摺動できるようにしてもよい。
【0023】
外輪ローラー140は、一対の側壁116A、116B間で、内輪ローラー130の外周134を覆うように取付けられる環状の複合部材である。すなわち外輪ローラー140は、金属製の外輪ローラー本体142と、外輪ローラー本体142の内周に締結または固定された樹脂製のブッシュ150とを有する。
【0024】
図6(A)は、外輪ローラー本体の斜視図、
図6(B)は、ブッシュの斜視図である。外輪ローラー本体142は、外周面146と、内径D4の内周面144とを有する。ブッシュ150は、
図6(B)に示すように、内径D5で規定される内周面152と、外径D6で規定される外周面154とを有する。ブッシュ150の外径D6は、外輪ローラー本体142の内径D4と等しいかあるいはそれよりも幾分大きく、つまりD6≧D4となるように形成される。好ましくは、ブッシュ150は、圧入などにより外輪ローラー本体142の内周に嵌め込まれる。これにより、ブッシュ150は、外輪ローラー本体142の内周に締結され、ブッシュ150と外輪ローラー本体142とが事実上一体化される。ブッシュ150の内径D5は、内輪ローラー130の外径D3よりも幾分大きく、つまりD5>D3となるように一定のクリアランスS1(
図7を参照)を持つように形成される。その結果、ブッシュ150の内周面152は、内輪ローラー130の外周面134上を回転自在に摺動することができる。外輪ローラー本体142の内周とブッシュ150の外周面は円筒形状以外でもよく、例えば外輪ローラー本体142の内周とブッシュ150の外周面とを相補的な凹凸形状等として嵌め合わせてもよい。
【0025】
ブッシュ150を構成する樹脂材料は、好ましくは、金属材料との摺動特性に優れ、耐磨耗性があり、かつ潤滑油と親和性があるようなもの、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PES(ポリエーテルサルフォン)、PBI(ボリベンゾイミダゾール)、PI(ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)等である。このような樹脂材料を成型、加工することによりブッシュ150が形成される。
【0026】
さらに好ましくは、樹脂材料の機械的強度や耐摩耗性等を強化するため、樹脂材料に強化部材を混在させる。強化部材は、例えば、炭素繊維、CNT(カーボンナノチューブ)、CNC(カーボンナノコイル)、ガラス繊維などの強化繊維である。なお、前記強化繊維とともに、黒鉛や二硫化モリブデンなどの潤滑性材料、金属やセラミックなどの耐摩耗微粒子を混在させてもよい。さらに、このような強化繊維を樹脂材料に含ませる場合には、強化繊維は、内輪ローラー130の摺動方向(円周方向)に対して、略平行となるように配置され、これによりフリクションをさらに低減させる。ブッシュ150の径方向厚さを、外輪ローラー140の径方向厚さの25〜60%とすれば、外輪ローラー本体142に必要な剛性、強度を維持し、かつブッシュ150の強度も確保できるので好ましい。
【0027】
図7は、第1の実施例に係るロッカーアームの断面を示す図である。従来のロッカーアームでは、外輪ローラーの内周の金属面と内輪ローラーの外周の金属面とが摺動し、この金属間のすべりは、アイドリング時などの低回転域では境界潤滑状態となりフリクションが高くなる。これに対し、第1の実施例では、外輪ローラー本体142の内周にブッシュ150を締結することにより、外輪ローラー140と内輪ローラー130との間のすべりは、金属対樹脂となり、従来の金属対金属のすべりのときと比較して、低回転域でのフリクションを低減させることができる。さらに、ブッシュ150により、この容積分だけ金属から樹脂となるため、従来のロッカーアームより重量を軽くすることができ、外輪ローラーの始動トルク及び高回転域でのフリクションを低減させることができる。その結果、エンジンの低回転域から高回転域において低フリクションを実現することができる。
【0028】
次に、第2の実施例に係るロッカーアームについて説明する。第1の実施例は、外輪ローラーの内周に樹脂材料で形成されたブッシュを締結する例を示したが、第2の実施例は、外輪ローラーの内周に複数の溝を形成し、当該複数の溝内へ樹脂材料を充填するものである。
【0029】
図8(A)は、第2の実施例に係るロッカーアームの外輪ローラーの概略斜視図、
図8(B)は、第2の実施例に係るロッカーアームの断面図である。第2の実施例に係る外輪ローラー140Aは、第1の実施例と同様に、内周面144および外周面146を有し、さらに内周面144には、軸方向または摺動方向と直交する方向に複数の溝160が形成される。1つの溝160は、内周面144の円周方向に連続するように形成され、一定の幅および一定の深さを有する。溝160の断面形状は、例えば、図示するような矩形状に加工される。このような溝160は、外輪ローラー140の内周面144に、等しいピッチで複数形成される。また、溝160内には樹脂170が充填される。樹脂170は、第1の実施例のときと同様の樹脂材料から構成され、そのような樹脂材料を射出成形することにより溝160内に樹脂170が形成される。樹脂170は、好ましくは、外輪ローラー140の内周面144と同一平面を形成するように構成され、内周面144および樹脂170が内輪ローラー130の外周面134と回転自在に摺動する。
【0030】
図9は、第2の実施例に係る外輪ローラーの具体例を説明する断面図である。溝160は、
図9(A)に示すように、幅Lx、深さLyに加工される。深さLyは、外輪ローラー140Aの半径方向の肉厚Tに対して25〜60%が好ましい。1つの溝160は、隣接する溝160と隔壁162によって分離され、隔壁162は、幅Wを有する。図示する例では、幅Lx>Wの関係を有するが、Lx=WまたはLx<Wの関係であってもよい。また、外輪ローラー140Aの両端に位置する溝160は、その端部から隔壁162A、162Bで規定される位置に形成され、隔壁162A、162Bの幅は適宜選択される。溝160は、例えば、切削部材を用いた加工、レーザー加工により形成することができる。
【0031】
溝160には、
図9(B)に示すように、樹脂170が充填される。好ましくは、樹脂170は、外輪ローラー140Aの内周面144、すなわち隔壁162、162A、162Bの表面と同一面を形成するように溝160内に充填される。樹脂170は、例えば、射出成形によって溝160内に充填される。
【0032】
図9(C)は、樹脂170の他の構成例を示す。樹脂170は、隔壁162、162A、162Bの表面から、高さhだけ突出するように形成されてもよい。高さhは、外輪ローラー140Aと内輪ローラー130とのクリアランスS1よりも小さく、外輪ローラー140Aと内輪ローラー130との初期ならし運転中に摩耗される大きさであることが好ましい。
【0033】
図9(D)は、樹脂170の他の構成例を示す。樹脂170は、外輪ローラー140Aの隔壁162、162A、162Bの表面が露出しないように、外輪ローラー140Aの内周面の全面を覆うように形成してもよい。
【0034】
次に、本発明の第2の実施例の変形例を説明する。
図10(A)は、第2の実施例の変形例の外輪ローラー140Bの斜視図である。同図に示すように、外輪ローラー140Bの内周面144には、外輪ローラー140Bの摺動方向と直交する方向に複数の溝166が形成される。各溝166は、等しい大きさであり、かつ等間隔で形成される。同図では、溝166は片端から他端へ連通しているが、端部に隔壁162を設けてもよい。
図10(B)は、溝166内に樹脂172が充填されたときの外輪ローラー140Bの断面図である。樹脂172は、外輪ローラー140Bの内周面144に、内周面144と同一面を構成するように溝166内に充填される。また、樹脂172は、
図9(C)、(D)に示したように、内周面144から高さhだけ突出するように形成されてもよい。
【0035】
このように第2の実施例によれば、外輪ローラーの内周面の溝内に樹脂を充填し、外輪ローラーと内輪ローラー間に樹脂対金属のすべりを実現することで、第1の実施例のときと同様に、低回転域のフリクションの低減を図ることができる。
【0036】
上記実施例では、外輪ローラーの内周に形成される溝の断面を矩形状にしたが、これは一例であり、他の形状、例えば円弧状であってもよい。さらに、外輪ローラーの内周に形成される溝の大きさ、数、ピッチ等は、所望の目的や要求に応じて適宜変更または選択され得る。さらに溝160は、摺動方向と平行になるように形成されたが、溝160は、摺動方向に対して一定の角度を持つように螺旋状に形成されてもよい。この場合、複数の溝160が連続する溝であってもよいし、1つ1つの溝が不連続であってもよい。また、
図10に示す溝166は、摺動方向と直交するように形成されたが、溝166は、摺動方向に対して一定の角度を持つように形成されてもよい。
【0037】
次に、本発明の第3の実施例について説明する。第3の実施例では、ブッシュ150または樹脂170と摺動する相手方の部材の摺動面、すなわち、内輪ローラー130の外周面に、非晶質硬質炭素被膜(以下、DLC(Diamond like carbon)被膜という)が形成される。このようなDLC被膜は、PVD法、CVD法、PACVD法などによって形成することができる。例えばPVD法、特にアークイオンプレーティング法により形成された水素含有量が0.5原子%以下であるものが硬度及び耐摩耗性の観点で好ましい。DLC被膜の膜厚は、例えば、PVD法であれば、0.3〜1.5μmであり、好ましくは1.0μm以下である。CVD法であれば、20μm程度の膜厚を有することができる。
【0038】
ブッシュ150または樹脂170と摺動する内輪ローラー130の外周面にDLC被膜を形成することで、内輪ローラー130と外輪ローラー140間のフリクションを軽減させることができる。
【0039】
なお、上記実施例では、外輪ローラー140と摺動する相手方の部材の摺動面にDLC被膜を形成する例を示したが、上記の構成以外にも、フリクションの軽減の効果を得ることができるのであれば、外輪ローラー140の内周面にDLC被膜を形成してもよく、外輪ローラー140の内周面と内輪ローラー130の外周面のそれぞれにDLC被膜を形成してもよい。さらに、DLC以外にも、ブラスト処理等の表面処理を付与することで、同様に低摩擦特性や潤滑油の保持性を向上させ、さらなるフリクションの低減を図っても良い。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は、特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、特許請求の範囲に基づき本発明の要旨を逸脱しない範囲で変形、変更が可能である。