(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、本実の杉板やラーチ合板などの木質系の型枠(以下、木質系型枠という。)を用いて、木調表面を有する高級打放しコンクリート構造物を施工する事例が増えている。
【0003】
しかしながら、この木質系型枠を使用した場合、次の(1)〜(3)に示すような不具合が生じるおそれがあった。
【0004】
(1)
図11(1)に示すように、型面に剥離剤1が塗布された木質系型枠2にコンクリート3を打ち込むと、コンクリート3のアルカリの影響で、木質系型枠2から滲み出したリグニンなどの成分4がセメントの水和反応を阻害して、コンクリート3の表面の一部が剥がれる。この場合のコンクリートの外観の一例を
図12に示す。
【0005】
(2)
図11(2)に示すように、木質系型枠2に塗布した剥離剤1の影響でコンクリート3の表面に気泡5が残り、脱型後にコンクリート3の表面に生じる空気あばたが多くなる。この場合のコンクリートの外観の一例を
図13に示す。
【0006】
(3)
図11(3)に示すように、打放しコンクリート表面の美観を保護するために、コンクリート3の表面に撥水剤やクリア塗料6を塗ることがあるが、コンクリート3の表面に空気あばたや巣穴があると、ピンホール7を生じやすく、ここから雨水が内部に浸み込んで滲み(シミ)8の原因となり、外観が見苦しくなる。この場合のコンクリートの外観の一例を
図14に示す。
【0007】
なお、本出願人は、コンクリート成形用型枠およびその製造方法に関し、既に特願2014−069980号および特願2014−128481号に示すような技術を提案している。特願2014−069980号に示される技術は、型面の少なくとも一部に、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層を備え、優れた離型性能を持続的に発揮できるようにしたものである。また、特願2014−128481号に示される技術は、型面の少なくとも一部に水に対する接触角が130°以上の撥水層を備え、コンクリート表面の空気あばたの原因となる気泡をより確実に低減するようにしたものである。
【0008】
また、木調表面を有するコンクリートを施工するために用いる型枠に関する従来の技術として、例えば特許文献1〜8に示される技術が知られている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係るコンクリート成形用型枠およびその製造方法ならびに木調表面を有するコンクリートの製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0023】
(実施の形態1)
まず、実施の形態1について説明する。
図1(1)は、本実施の形態1の模式的な断面図である。この図に示すように、本実施の形態1に係るコンクリート成形用型枠10は、コンクリート3を成形するための型枠であって、型枠本体12と、型枠本体12の型面20に設けられた撥水層22とを備えるものである。撥水層22は、水に対する接触角αが130°以上の撥水性の表面を有する層であり、より望ましくは150°以上の超撥水性の表面を有する層である。型面20は、コンクリート3の表面に木調の外観を付与可能なものであり、この面には例えば木目調の凹凸模様等が形成されている。
【0024】
ここで、撥水性とは、水による濡れにくさを表す性質をいい、
図2に示すように、固体表面(本発明では撥水層22の表面)上に置かれた水滴の接触角αが撥水性の指標になっている。一般には接触角αが90°以上の場合には撥水性、110°から150°の場合には高撥水性、150°以上の場合には超撥水性とされる。材料の表面自由エネルギーを下げても接触角αは120°が限界といわれており、それ以上を実現するには後述するように表面形状を特殊なものに加工する必要がある。
【0025】
撥水層22は、例えば
図3に示すように、型枠本体12の上に設けた下地層14と、この下地層14の上に設けた充填粒子含有層16と、この充填粒子含有層16の上に設けた超撥水性の多孔質層18とにより構成することできる。多孔質層18は、例えば疎水性酸化物微粒子により形成され、型面20のコンクリート3と接する側の最表面に配置される。
【0026】
なお、下地層14や充填粒子含有層16は必要に応じて介在させればよく、下地層14を複数にしたり、下地層14以外の任意の層を介在させたりすることもできる。
【0027】
上記の構成によれば、型面20の表面張力が撥水層22によって著しく高くなることで、
図1(1)に示すように、打ち込み時に連行されたコンクリート3中の気泡5が撥水層22の表面に接した際に、この表面に沿って広がりやすくなり、コンクリート3の表面の気泡5は従来よりも表面に沿って薄く、平べったいものとなる。しかも、この気泡5は、
図1(1)に示すように、型枠本体12の外部からハンマー等によって加えられる小さな振動で上昇してコンクリート3の表面から容易に抜けやすい。したがって、本発明によれば、コンクリート表面の空気あばたの原因となる気泡を、より確実に低減することができる。
【0028】
また、撥水層22によって型枠本体12からの成分4(例えば型枠本体12が木質系型枠である場合にはリグニンなどの成分)のコンクリート3側への滲み出しを抑制することができる。さらに、
図1(2)に示すように、撥水層22の持つ超撥水効果によって、成形後のコンクリート3の表面に生じる空気あばた等の窪みの発生が大幅に低減し、コンクリート表面の意匠性を向上することができる。また、撥水層22の持つ超撥水効果によってコンクリート3と型枠10間の付着を防止し、綺麗に脱型することが可能となる。また、コンクリート表面性状が良好となるため、
図1(3)に示すように、コンクリート3の表面に塗布したクリア塗料6の層にピンホールは生じにくくなる。この結果、コンクリート表面における滲み(シミ)の発生を抑制することができる。
【0029】
次に、型枠本体12、下地層14、多孔質層18、充填粒子含有層16の具体的な構成および作用について説明する。
【0030】
[型枠本体]
型枠本体12の材質は、慣用されているものであれば制限を受けず、木材、金属、合成樹脂、天然樹脂、それらの複合材等から選択することができる。一般的には、コストや汎用性の点で木材や塗装合板を使用するのが好ましい。木調表面を有する高級打放しコンクリート構造物を施工する場合には、本実の杉板やラーチ合板などの木質材料からなる木質系型枠を使用するのがより好ましい。また、型枠本体12の形状や大きさ等についても、目的とするコンクリート成形体に応じて適宜設計することができ、成形体に溝を施したい場合は、目地棒を介在させることもできる。目地棒を介在させる場合には、目地棒は型枠本体12の一部を構成する。したがって、この場合の型枠本体12は目地棒も含む。なお、目地棒を介在させる場合には、目地棒の表面に疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層を設けてもよい。
【0031】
型枠本体12の表面には適宜、下塗り塗装や、目止め塗装、プライマー塗装、着色塗装などを施すこともできる。本発明では、これらの塗装による塗膜を下地層14と称する。型面20と多孔質層18との間に、下地層14を介在させることにより、型面20の凹凸矯正、多孔質層18や充填粒子含有層16の密着性向上、型枠本体12の耐久性向上を図ることができる。
【0032】
[下地層]
下地層14の形成は、公知の下塗り剤、目止め剤、プライマー、着色剤を用いて、公知の塗布(コート)方法を採用できるので、ここでは詳述しない。充填粒子含有層16については後述する。
【0033】
[多孔質層]
多孔質層18は、型面20の少なくとも一部(コンクリートと接する側の最表面)に形成されるものである。多孔質層18を形成する原料である疎水性酸化物微粒子としては、疎水性を有するものであれば特に限定されず、表面処理により疎水化されたものであってもよい。例えば、親水性酸化物微粒子をシランカップリング剤等で表面処理を施し、表面状態を疎水性とした微粒子を用いることもできる。酸化物の種類も、疎水性を有するものであれば特に限定されない。例えばシリカ(二酸化珪素)、アルミナ、チタニア等の少なくとも1種を用いることができる。これらは公知または市販のものを採用することができる。
【0034】
例えば、シリカとしては、製品名「AEROSIL R972」、「AEROSIL R972V」、「AEROSIL R972CF」、「AEROSIL R974」、「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RX300」、「AEROSIL NX90G」、「AEROSIL RY200」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R202」、「AEROSIL R805」、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」(以上、エボニック デグサ社製)、「サイロホービック−100」、「サイロホービック−200」、「サイロホービック−603」(以上、富士シリシア化学株式会社製)等が挙げられる。なお、AEROSIL、サイロホービックは登録商標である。
【0035】
チタニアとしては、製品名「AEROXIDE TiO2 T805」(エボニック デグサ社製)等が例示できる。アルミナとしては、製品名「AEROXIDE Alu C」(エボニック デグサ社製)等をシランカップリング剤で処理して粒子表面を疎水性とした微粒子が例示できる。なお、AEROXIDEは登録商標である。
【0036】
この中でも、疎水性シリカ微粒子を好適に用いることができる。とりわけ、より優れた撥水性が得られるという点において、表面にトリメチルシリル基を有する疎水性シリカ微粒子が好ましい。これに対応する市販品としては、例えば上記「AEROSIL RX200」、「AEROSIL RX300」、「AEROSIL NX90G」(以上、日本アエロジル株式会社製)、「AEROSIL R812」、「AEROSIL R812S」、「AEROSIL R8200」(以上、エボニック デグサ社製)等が挙げられる。
【0037】
疎水性酸化物微粒子の粒度は限定的ではないが、一次粒子平均径が3nm〜10μmであることが好ましく、より好ましくは3〜100nmであり、最も好ましくは5〜50nmである。一次粒子平均径を上記範囲とすることにより、その凝集体中にある空隙に空気等の気体を保持することができる結果、多孔質構造となり、優れた離型性を発揮することができる。この凝集状態は、型面20の少なくとも一部(コンクリートと接する側の最表面)に付着した後も維持されるので、優れた離型性を発揮することができる。特に、一次粒子平均径が3〜100nmの疎水性酸化物微粒子を用いることにより、三次元網目状の多孔質構造の表面を有するコンクリート成形用型枠10を得ることができる。
【0038】
型面20の最表面に形成される疎水性酸化物微粒子の多孔質層18は、三次元網目状構造を有する多孔質状であるのが好ましく、その厚みは0.1〜500μm程度が好ましく、0.5〜20μm程度がさらに好ましい。このようなポーラスな状態で形成することにより、当該層に空気を多く含むことができ、より優れた離型性を発揮することができる。
【0039】
なお、本発明において、一次粒子平均径の測定は、走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で実施することができ、走査型電子顕微鏡の分解能が低い場合には透過型電子顕微鏡等の他の電子顕微鏡を併用して実施してもよい。具体的には、粒子形状が球状の場合はその直径、非球状の場合はその最長径と最短径との平均値を直径とみなし、走査型電子顕微鏡等による観察により任意に選んだ50個分の粒子の直径の平均を一次粒子平均径とする。
【0040】
疎水性酸化物微粒子の比表面積(BET法)は特に制限されないが、通常50〜300m
2/gが好ましく、100〜300m
2/gがさらに好ましい。
【0041】
型面20の少なくとも一部(コンクリートと接する側の最表面)への塗布に際しては、疎水性酸化物微粒子をそのまま付与してもよいし(乾式方法)、あるいは疎水性酸化物微粒子を溶媒に分散してなる分散液を塗工することにより付与してもよい(湿式方法)。本発明では、工業的に均一な塗膜(疎水性酸化物微粒子層)が得られやすく、しかも三次元網目状構造が得られやすいという見地より、後者の湿式方法が好ましい。
【0042】
上記の分散液を用いる場合、分散液に用いる溶媒は、例えばアルコール(エタノール)、シクロヘキサン、トルエン、アセトン、IPA、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチルジグリコール、ペンタメチレングリコール、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ヘキシルアルコール等の有機溶剤を適宜選択することができる。この際、微量の分散剤、着色剤、沈降防止剤、粘度調整剤等を併用することもできる。溶媒に対する疎水性酸化物微粒子の分散量は通常10〜300g/L(リットル)程度、好ましくは30〜100g/L程度とすればよい。
【0043】
また、分散液を塗工する方法も制限されず、例えばスプレー、刷毛、ローラー、浸漬等による塗布方法のほか、印刷方法(インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷)、滴下法等も採用することができる。塗布後は、室温〜150℃程度で適宜乾燥させればよい。
【0044】
疎水性酸化物微粒子を型面20に付与する場合の付与量は、通常は所望の離型性等に応じて適宜設定することができるが、固形分基準で例えば0.1〜100g/m
2程度、好ましくは0.5〜20.0g/m
2程度とすればよい。上記範囲内に設定することによって、より優れた離型性を長期にわたって得ることができる上、疎水性酸化物微粒子の脱落抑制、コスト等の点でも一層有利となる。
【0045】
[充填粒子含有層]
充填粒子含有層16は、型面20と多孔質層18との間に介在させるのが好ましい。充填粒子含有層16は、充填粒子がマトリックス中に分散した層である。この充填粒子含有層16を介在させることにより、コンクリート成形用型枠10の離型性をさらに長期間維持することができる。充填粒子としては、有機成分および無機成分の少なくとも1種を含む充填粒子を採用することができる。充填粒子含有層16を型面20と多孔質層18との間に介在させる場合の付与量は、固形分基準で例えば0.1〜100g/m
2程度、好ましくは1.0〜20.0g/m
2程度とすればよい。上記範囲内に設定することによって、疎水性酸化物微粒子のより優れた密着性を長期にわたって得ることができる上、充填粒子含有層16上に塗布された疎水性酸化物微粒子の脱落抑制、耐久性等の点でも有利となる。なお、充填粒子含有層16を付与する方法は、特に制限されるものではないが、例えばスプレー、刷毛、ローラー、浸漬等による塗布方法のほか、印刷方法、滴下法等も採用することができる。付与(塗工)の際は、下記マトリックスを適当な溶剤で希釈することもでき、付与後は、室温〜150℃程度で適宜乾燥させればよい。
【0046】
無機成分としては、例えば1)アルミニウム、銅、鉄、チタン、銀、カルシウム等の金属またはこれらを含む合金または金属間化合物、2)酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物、3)リン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム等の無機酸塩または有機酸塩、4)ガラス、5)窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素、窒化珪素等のセラミック等を好適に用いることができる。
【0047】
有機成分としては、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等の有機高分子成分(または樹脂成分)を好適に用いることができる。
【0048】
本発明の充填粒子は、無機成分からなる粒子あるいは有機成分からなる粒子のほか、無機成分および有機成分の両者を含む粒子を用いることができる。この中でも特に、アクリル系樹脂粒子、ポリエチレン系樹脂粒子、親水性シリカ粒子、リン酸カルシウム粒子、炭粉、焼成カルシウム粒子、未焼成カルシウム粒子、ステアリン酸カルシウム粒子等の少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0049】
充填粒子の平均粒子径(レーザー回折式粒度分布計による)は0.3〜100μm程度が好ましく、1〜50μmがさらに好ましく、5〜30μmがよりさらに好ましく、20〜30μmが最も好ましい。0.3μm未満では取扱い性、凹凸形成等の点で不向きである。他方、100μmを超える場合は、充填粒子の脱落、分散性等の点で不向きである。充填粒子の形状は限定的でなく、例えば球状、回転楕円体状、不定形状、涙滴状、扁平状、中空状、多孔質状等のいずれであってもよい。
【0050】
充填粒子含有層16を構成し、充填粒子を繋ぎとめるマトリックスとしては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、エラストマー、ワックスなどを採用できる。マトリックス中における充填粒子の含有量は、マトリックスの材質または充填粒子の種類、所望の物性等に応じて適宜変更できるが、一般的には固形分重量基準で1〜80重量%が好ましく、3〜50重量%がさらに好ましい。
【0051】
充填粒子を含有させる方法(充填粒子をマトリックス中に分散させる方法)は、特に限定されないが、一般的にはマトリックスを形成するための原料(例えば、熱可塑性樹脂を含む組成物)に充填粒子を配合する方法等が挙げられる。混合する方法は、乾式混合または湿式混合のいずれであってもよい。
【0052】
マトリックスが熱可塑性樹脂の場合、一般的に熱可塑性樹脂層の主成分は1)熱可塑性樹脂またはそれを構成するモノマーもしくはオリゴマー、2)溶剤、3)必要に応じて架橋剤等からなるため、それらの混合物中に充填粒子を添加混合すればよい。熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を採用することができる。例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、フッ素系樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル系樹脂等のほか、これらのブレンド樹脂、これらを構成するモノマーの組み合わせを含む共重合体、変性樹脂等を用いることができる。
【0053】
マトリックスが熱硬化性樹脂の場合、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂等を採用することができる。マトリックスがエラストマーの場合、例えば、PVC−NBRブレンドエラストマー、ウレタン系エラストマー等を採用することができる。
【0054】
上記のように構成した本発明に係るコンクリート成形用型枠10によれば、型面20の表面張力が撥水層22によって著しく高くなることで、打ち込み時に巻き込まれたコンクリート中の気泡が撥水層22の表面に接した際に、この表面に沿って広がりやすくなり、コンクリート表面の気泡は従来よりも表面に沿って薄く、平べったいものとなる。しかも、この気泡は、外部から加えられる小さな振動で上昇してコンクリート表面から抜けやすい。したがって、本発明によれば、コンクリート表面の空気あばたの原因となる気泡を、より確実に低減することができるという効果を奏する。このため、コンクリート表面の意匠性を向上することができる。また、本発明のコンクリート成形用型枠10によれば、優れた離型性能を長期間にわたって持続的に発揮でき、従来の型枠のように使用のたびに離型液を型面に塗布する必要がなく、コンクリート成形後の繰り返し使用(いわゆる転用)が可能となる。
【0055】
[実験による本発明の効果の検証]
次に、本発明の効果を検証するために行った実験および結果について説明する。
【0056】
本実験は、異なる接触角の型枠を用いてコンクリートを打ち込み、コンクリート表面の仕上がり状態に関して比較観察を行ったものである。本発明の実施例として、型面に撥水層を設けた型枠を用いたケース(撥水層がある場合)を設定する一方、比較例として、型面に市販の剥離剤を塗布した型枠を用いたケース(撥水層がない場合)を設定し、室内実験および模擬部材(壁)に対する実験を行った。比較例の市販の剥離剤としてはサムテックA−1(「サムテック」は登録商標)を使用した。なお、コンクリート表面にはいずれのケースもクリア塗料を塗布している。
【0057】
図4は室内実験における曝露前(脱型直後)、
図5は曝露後(脱型から所定時間経過後)のコンクリート表面の写真図である。それぞれ(1)は撥水層がある場合、(2)は撥水層がない場合である。なお、参考までに、コンクリート表面の微細な空気あばたを(1)と(2)で比較した写真を
図6に示す。また、
図7は、模擬部材(壁)に対する曝露後のコンクリート表面の写真図である。
【0058】
図4〜
図7に示すように、いずれも(1)の撥水層がある場合の方が、コンクリート表面の仕上がり具合が綺麗であり、滲み(シミ)も少ない傾向にあることが伺える。特に、
図6に示すように、(1)の撥水層がある場合の方が微細な空気あばたの発生量が少ないため、クリア塗料の層のピンホールの発生量も少なかったと考えられる。
【0059】
このため、本発明によれば、撥水層の持つ超撥水効果によって、成形後のコンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みの発生が大幅に低減し、コンクリート表面の意匠性を向上することができる。また、撥水層の持つ超撥水効果によってコンクリートと型枠間の付着を防止し、綺麗に脱型することが可能となる。また、コンクリート表面性状が良好となるため、コンクリート表面に塗布したクリア塗料の層にピンホールは生じにくくなる。この結果、コンクリート表面における滲み(シミ)の発生を抑制することができる。
【0060】
[コンクリート成形用型枠の製造方法]
次に、本発明に係るコンクリート成形用型枠の製造方法について説明する。
本発明に係るコンクリート成形用型枠の製造方法は、上述したコンクリート成形用型枠10を製造する方法であって、型面20の少なくとも一部に、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層18を設けることを特徴とするものである。したがって、
図1(1)や
図3に示される型枠を製作する際に、型枠本体12に対して多孔質層18や撥水層22を塗布等により施工することは、本発明の実施に相当する。
【0061】
なお、上記の型枠本体12に対する多孔質層18や撥水層22の施工は、型枠板の製作工場やプレキャストコンクリートの製造工場だけでなく、コンクリート打設現場における型枠組立の前後の工程で行うことが可能である。このように、本発明は、市販されている一般的な型枠板に対して適用することが可能であり、上記したのと同様な作用効果を奏することができる。
【0062】
[木調表面を有するコンクリートの製造方法]
次に、本発明に係る木調表面を有するコンクリートの製造方法について説明する。
本発明に係る木調表面を有するコンクリートの製造方法は、上述したコンクリート成形用型枠10を用いて木調表面を有するコンクリートを製造する方法であって、コンクリート成形用型枠10にフレッシュコンクリートを打ち込み、コンクリートが硬化した後で脱型することを特徴とするものである。したがって、コンクリート成形用型枠10を用いて
図1(1)〜(3)のような工程により木調表面を有するコンクリートを施工することは、本発明の実施に相当する。
【0063】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態2は、擬似木質コンクリート製品を製造する方法についてのものである。
【0064】
従来、木材(例えば杉板)で加工した型枠を用いてコンクリートを打設することで、コンクリート表面に木目の模様や天然成分由来の色を付けているが、例えば、木目調の模様を有するゴム製型枠を用いてコンクリート表面に木目模様を付け、コンクリート打設後に無機系顔料を塗布してコンクリート表面に着色することができる。
【0065】
ところで、木材で加工した型枠は、材料費や労務費がかかるため、この型枠を用いたコンクリートの製造コストは、例えば通常の型枠を用いて製造した普通の打放しのコンクリート壁と比べて2倍程度となる。また、コンクリート打設や管理が難しく、失敗した場合に、補修費も大きくかかることが指摘されている。さらに、無機系顔料を用いて着色する場合、色合いが単調になりやすく、温かみに欠けるといった問題がある。また、木目のような凹凸模様が型枠に存在すると、凹凸部分に空気あばたができやすく、見栄えのよくないコンクリートになりやすいといった問題もある。
【0066】
そこで、本実施の形態2では、
図8に示すように、上面が開口した直方体状の容器24の内側面に、型面に木目模様が付けられたゴム製のコンクリート成形用型枠26を貼り付け、コンクリートを通常通り縦打ちで打設し、壁状のコンクリートを製造する。ここで、本発明の実施例として、型面に接触角が約150°の撥水層がある場合、接触角が約120°の撥水層がある場合を設定する一方、比較例として、通常使用される市販の剥離剤を型面に塗布した場合を設定した。市販の剥離剤としてはサムテックA−1(「サムテック」は登録商標)を使用した。なお、コンクリート成形用型枠26としては、ゴム製に限らず、塩化ビニル製、鉄製、セラミック製などの様々な材質の型枠を使用することができる。
【0067】
コンクリート表面の仕上がり状況を
図9に示す。
図9(2)、(3)に示すように、壁のような箇所を普通に打設する場合、木目模様の段差の部位をはじめとして、全体に空気あばたができやすい。これに対し、
図9(1)に示すように、型面に接触角が約150°の撥水層がある場合には、コンクリート表面の空気あばたは大幅に低減される。なお、コンクリートの種類は問わない。
【0068】
コンクリートを材齢4日で脱型し、2日〜1週間程度乾燥させた後、一般的な着色剤を表面に塗布することにより、天然由来の温かみのある疑似木質コンクリートを製造することができる。なお、無機系顔料とは異なり、独特のムラができ、単調な色合いとならないことも大きな特徴である。
【0069】
本実施の形態2によれば、以下のような効果が得られる。
(1)木目の模様が付いた型面を有する型枠を用いることで転用が可能であり、従来の木材を組む労務費や補修費が不要となり、従来の木材で加工した型枠を用いてコンクリートを製造する場合よりもコストを低減することが可能である。
【0070】
(2)木目の模様が付いた型面に接触角130°以上、望ましくは150°以上の撥水層を設け、この型面を有する型枠を他の型枠や板材等に貼り付け、通常通りコンクリート打設することで、空気あばたを大幅に低減させたコンクリートを製造することができる。
【0071】
(3)脱型後のコンクリート表面に一般的な着色剤を塗布することで、例えば
図10に示すような色合いを表現することが可能である。この色合いは、塗布する着色剤の成分により調整可能である。
【0072】
以上説明したように、本発明に係るコンクリート成形用型枠によれば、コンクリート成形用の型枠であって、コンクリート表面に木調の外観を付与可能な型面と、この型面の少なくとも一部に設けられ、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層とを備えるので、この多孔質層によって型枠からの成分(例えばリグニンなどの成分)の滲み出しを抑制するとともに、疎水性酸化物微粒子から形成される多孔質層の持つ超撥水効果によって、成形後のコンクリート表面に生じる空気あばた等の窪みの発生が大幅に低減し、コンクリート表面の意匠性を向上することができるという効果を奏する。コンクリート表面性状が良好となるため、コンクリート表面に塗布したクリア塗料の層にピンホールは生じにくくなる。この結果、滲み(シミ)の発生を抑制することができる。また、多孔質層の持つ超撥水効果によってコンクリートと型枠間の付着を防止し、綺麗に脱型することが可能となる。