(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の実施形態では、トランスインピーダンス回路内の特徴的な構成および動作を中心に説明するが、トランスインピーダンス回路には以下の説明で省略した構成および動作が存在しうる。ただし、これらの省略した構成および動作も本実施形態の範囲に含まれるものである。
【0009】
図1は本発明の一実施形態によるトランスインピーダンス回路1のブロック図である。
図1のトランスインピーダンス回路1は、トランスインピーダンスアンプ(TIA)2と、基準電圧生成回路(ダミー回路)3と、電流源4と、ピークホールド回路5と、比較器6とを備えている。
【0010】
トランスインピーダンスアンプ2は、電流信号Ipdを電圧信号Vpd1に変換する。通常、トランスインピーダンスアンプ2は、フォトダイオード等の受光素子から出力された電流信号Ipdを電圧信号Vpd1に変換する。受光素子は、トランスインピーダンスアンプ2に内蔵される場合と、外付けされる場合とがある。受光素子は、受光された光信号の光強度に応じた大きさの電流信号Ipdを生成して出力する。
【0011】
基準電圧生成回路3は、トランスインピーダンスアンプ2と基本的には同じ回路構成になっており、基準電圧信号Vdm1を生成する。基準電圧生成回路3を設けるのは、コモンモードノイズ等の環境ノイズや、トランスインピーダンスアンプ2内の各回路素子の特性ばらつき等の影響を受けにくくするためである。より詳細には、トランスインピーダンスアンプ2が出力する電圧信号Vpd1は数十mV程度であり、環境ノイズや素子特性のばらつき等の影響を受けやすい。このため、トランスインピーダンスアンプ2から出力された電圧信号Vpd1を、トランスインピーダンスアンプ2と同じ回路構成の基準電圧生成回路3から出力された基準電圧信号Vdm1と比較することで、両信号に含まれる環境ノイズ等による変動分を相殺する。
【0012】
電流源4は、トランスインピーダンスアンプ2と基準電圧生成回路3とで共通して用いられる基準電流を生成する。電流源4の具体的な構成は問わないが、電流源4から供給される電流を調整できるようにするのが望ましい。
【0013】
ピークホールド回路5は、トランスインピーダンスアンプ2から出力された電圧信号Vpd1と基準電圧生成回路3から出力された基準電圧信号Vdm1とを用いて、中間電圧レベル信号を生成する。このような中間レベル信号を生成するのは、中間電圧レベルは最も信号歪みが少ないためである。また、ピークホールド回路5は、オフセット調整回路を内蔵している。オフセット調整回路は、トランスインピーダンスアンプ2内の受光素子が光信号を受光していないときの電圧信号Vpd1が基準電圧信号よりも大きいと誤って判断されないように、上述した新たな中間電圧レベル信号に所定のオフセット電圧を加算した信号を最終的な基準電圧信号Vatcとして出力する。
【0014】
基準電圧生成回路3とピークホールド回路5を合わせたものが基準電圧出力回路である。なお、ピークホールド回路5は場合によっては省略してもよく、この場合、基準電圧出力回路は基準電圧生成回路3と等価な回路となる。
【0015】
比較器6は、トランスインピーダンスアンプ2から出力された電圧信号Vpd1が、ピークホールド回路5が保持している基準電圧信号Vatcを上回っているか否かを示す2値信号であるパルス信号Voutを生成する。ここで、比較器6は、電圧信号Vpd1と基準電圧信号Vatcとを比較してもよいし、電圧信号Vpd1と基準電圧信号Vatcをともに相対的に変化させた電圧信号同士を比較してもよい。すなわち、比較器6は、電圧信号Vpd1に相関する電圧信号と、基準電圧信号Vatcに相関する電圧信号とを比較して、比較結果を示すパルス信号Voutを生成する。
【0016】
図2は
図1のトランスインピーダンスアンプ2の内部構成の一例を示す回路図である。以下では、内蔵または外付けされる光学素子がフォトダイオード10である例を説明する。
図2のトランスインピーダンスアンプ2は、フォトダイオード10からの電流信号Ipdを増幅する初段トランジスタ(第1のトランジスタ)11と、初段トランジスタ11で増幅された電流信号を電圧変換する電圧変換器12と、初段トランジスタ11のベース(制御端子)に流れる電流が所定値を超えると電流信号Ipdをバイパスさせるバイパス回路13と、電圧変換器12から出力された電圧信号を反転増幅する反転増幅器15と、を有する。
【0017】
図2のトランスインピーダンスアンプ2内の各トランジスタはバイポーラトランジスタである。例えば、初段トランジスタ11は、ダーリントン接続された2つのnpnトランジスタQ1、Q2を有する。トランジスタQ1のベースは、フォトダイオード10のアノードに接続されている。トランジスタQ1のコレクタは、抵抗素子R1を介して電源電圧ノードVccに接続されている。トランジスタQ1のエミッタは、抵抗素子R2を介して接地ノードVssに接続されている。また、トランジスタQ1のエミッタは、トランジスタQ1にダーリントン接続されたトランジスタQ2のベースに接続されている。トランジスタQ2のエミッタは接地されている。
【0018】
バイパス回路13は、トランジスタQ2のコレクタとフォトダイオード10のアノードとの間に接続されている。バイパス回路13は、ダイオード接続されたnpnトランジスタ(第2のトランジスタ)Q3と、このトランジスタQ3に直列接続される抵抗素子R3とを有する。抵抗素子R3は、電流制限用の抵抗素子であり、後述するように、トランスインピーダンスアンプ2をMOSトランジスタで構成する場合には、省略することができる。
【0019】
トランジスタQ3のベースおよびコレクタはフォトダイオード10のアノードに接続され、トランジスタQ3のエミッタは抵抗素子R3の一端に接続され、抵抗素子R3の他端はトランジスタQ2のコレクタに接続されている。
【0020】
フォトダイオード10をトランスインピーダンスアンプ2に外付けした場合、基準電圧生成回路3内には、ダミーのフォトダイオードの代わりに、フォトダイオード10の電気特性に合わせて、抵抗素子とキャパシタとを直列接続する。この場合の抵抗素子の抵抗値はフォトダイオード10の寄生抵抗程度に設定され、キャパシタの容量はフォトダイオード10の接合容量程度に設定される。
【0021】
トランジスタQ2のコレクタと
図1に示す電流源4との間には、レベルシフタ14が接続されている。このレベルシフタ14は、ダイオード接続されたnpnトランジスタQ4と抵抗素子R5とを直列接続した回路である。抵抗素子R5の一端側には電流源4とnpnトランジスタQ5のベースとが接続されている。トランジスタQ5のベース電圧の振幅変化が少ない方がトランジスタQ5は高速動作する上で望ましい。そこで、ダイオード接続されたトランジスタQ4を、抵抗素子R5の他端とトランジスタQ2のコレクタとの間に接続している。これにより、トランジスタQ5のベース電圧が持ち上げられ、トランジスタQ5は高速動作が可能となる。なお、レベルシフタ14は、必ずしも必要ではなく、場合によっては省略することも可能である。
【0022】
フォトダイオード10のアノードとトランジスタQ5のエミッタ(ノードz1)との間にはキャパシタC2と抵抗素子R6とが並列接続されている。この抵抗素子R6には、フォトダイオード10から出力された電流信号Ipdのほとんどが流れる。よって、抵抗素子R6は、フォトダイオード10から出力された電流信号Ipdを電圧変換する電圧変換器12として機能し、ノードz1には、電流信号を電圧変換した電圧信号が現れる。抵抗素子R6に並列接続されたキャパシタC2は、位相補償容量であり、トランスインピーダンスアンプ2の発振防止を図るためのものである。
【0023】
電圧変換器12の後段側には、反転増幅器15と電流源16とが設けられている。反転増幅器15は、npnトランジスタQ6〜Q8と、反転増幅器15のゲインを決める抵抗素子R7,R8と、抵抗素子R9〜R15と、ダイオード接続されたトランジスタQ9と、キャパシタC3とを有する。反転増幅器15は、R8/R7のゲインで、ノードz1の電圧信号Vpd1を反転増幅した信号Vpd1を生成する。
【0024】
次に、
図2のトランスインピーダンスアンプ2の回路動作を説明する。フォトダイオード10が光信号を受光すると、フォトダイオード10から光信号に応じた電流信号Ipdが出力される。この電流信号Ipdに応じて、トランジスタQ1にエミッタ電流が流れ、トランジスタQ2のベース電圧が高くなって、トランジスタQ2のコレクタ電圧が低下する。トランジスタQ2のコレクタには、電流源4からの一定電流が流れることから、トランジスタQ2のコレクタ電圧が低下すると、トランジスタQ5のベース電圧も低下し、それに応じてトランジスタQ5のエミッタ(ノードz1)の電圧も低下する。よって、フォトダイオード10からの電流信号Ipdの大部分は、抵抗素子R6に流れるとともに、トランジスタQ1のベース電圧の上昇が抑制されるという負帰還制御が行われる。電流信号Ipdの電流値が、負帰還制御を超える程大きくなり、トランジスタQ2のコレクタ電圧(ノードx1の電圧)が所定電圧レベルまで低下すると、フォトダイオード10からの電流信号Ipdは、バイパス回路13に流れるようになり、トランジスタQ1のベース電流が減少する。よって、初段トランジスタ11であるトランジスタQ1,Q2が飽和状態になるのが防止され、電圧信号Vpd1およびパルス信号に歪みが生じなくなる。
【0025】
このように、バイパス回路13内のダイオード接続されたトランジスタQ3は、トランジスタQ2のコレクタ電圧をモニターしており、トランジスタQ2のコレクタ電圧が所定電圧レベルまで下がると、フォトダイオード10からの電流信号Ipdをバイパス回路13側にバイパスさせる。
【0026】
トランジスタQ2のコレクタと電流源4との間には、レベルシフタ14を構成するダイオード接続されたトランジスタQ4と抵抗素子R5とが直列接続されている。これにより、トランジスタQ2のコレクタ電圧は、トランジスタQ5のベース電圧より、R5×I4+VBEだけ低下する。ここで、R5は抵抗素子R5の抵抗値、I4はトランジスタQ4のコレクタ−エミッタ間電流、VBEはトランジスタQ4のベース−エミッタ間電圧である。なお、以下では、トランスインピーダンスアンプ2内のすべてのトランジスタのベース−エミッタ間電圧が同じ電圧VBEとする。この場合、トランジスタQ2のコレクタ電圧(ノードx1の電圧)は、2VBE−R5×I4からVBEまで変化し、ノードx1の振幅はVBE−R5×I4である。一方、レベルシフタ14がなかったとすると、ノードx1の振幅は3VBEからVBEまでの2VBEであり、レベルシフタ14を設けた場合の方がノードx1の電圧振幅が抑制される。よって、レベルシフタ14を設けることで、トランジスタQ5の回復時間を短縮できる。
【0027】
トランスインピーダンスアンプ2内の後段側に配置された反転増幅器15は、電圧変換器12で変換された電圧信号を、抵抗素子R8の抵抗値を抵抗素子R7の抵抗値で割ったゲインで反転増幅する。電圧変換器12は、電流信号を反転して電圧信号に変換しているため、反転増幅器15でさらに反転することにより、フォトダイオード10の電流信号Ipdと同じ論理の電圧信号Vpd1が生成される。
【0028】
基準電圧生成回路3は、トランスインピーダンスアンプ2と同じ回路で構成されているが、基準電圧生成回路3内のフォトダイオードは、光信号を受光しないようになっている。よって、基準電圧生成回路3は、ロウレベルに対応する基準電圧信号Vdm1を生成する。基準電圧信号Vdm1には、コモンモードノイズ等の環境ノイズや、基準電圧生成回路3内の各回路素子の特性バラツキ等によるノイズが含まれている。
【0029】
図3は
図1および
図2のトランスインピーダンス回路1内の各部の電圧波形図、
図4は
図2のバイパス回路13を設けない一比較例のトランスインピーダンス回路1内の各部の電圧波形図である。
【0030】
図3および
図4の波形w1は
図2のトランスインピーダンスアンプ2内のトランジスタQ2のコレクタ電圧波形、波形w2はフォトダイオード10から出力される電流信号Ipdの波形、波形w3はトランスインピーダンス回路1から出力されるパルス信号Voutの波形である。
【0031】
トランスインピーダンスアンプ2内にバイパス回路13を設けないと、
図2のトランジスタQ2が飽和してしまい、フォトダイオード10から電流信号Ipdが出力されなくなっても、トランジスタQ2のコレクタ電圧は低い電圧レベルのままになる(
図4の波形w1)。これに対して、本実施形態のバイパス回路13を設けると、トランジスタQ2のコレクタ電圧が低くなると、フォトダイオード10からの電流信号Ipdをバイパス回路13に流すため、トランジスタQ2が飽和しなくなる。よって、
図3の波形w1のように、フォトダイオード10からの電流信号Ipdに同期して、トランジスタQ3のコレクタ電圧も変化し、電流信号Ipdへの追随性がよくなる。また、トランスインピーダンス回路1から出力されるパルス信号の波形w3は、本実施形態では急峻になる。波形w3が急峻になるのは、バイパス回路13とレベルシフタ14を設けたことによるものである。一比較例では、パルス信号Voutの波形w3の立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジが急峻でなくなる上に、パルス信号Voutの論理も正常でなくなっている。
【0032】
また、
図3および
図4の波形w4はトランスインピーダンスアンプ2の出力電圧Vpd1の波形、波形w5は基準電圧生成回路3の出力電圧Vdm1の波形、波形w6はピークホールド回路5で生成される中間電圧Vdivの波形、波形w7はピークホールド回路5で保持される電圧Varcの波形である。本実施形態の波形w4〜w7のいずれもが、フォトダイオード10から出力される電流信号Ipdの電流値の変化に同期して電圧レベルが変化しており、波形歪みが小さい。一方、一比較例の波形w4〜w7は、電流信号Ipdの電流値の変化に正しく同期しておらず、波形歪みも大きい。
【0033】
図2のトランスインピーダンスアンプ2では、初段トランジスタ11をコレクタ接地型にしているが、エミッタ接地型にしてもよい。
図5はエミッタ接地型の初段トランジスタ11の回路構成の一例を示す回路図である。
図5の初段トランジスタ11は、npnトランジスタQ1の一つである。トランジスタQ1のエミッタは接地されており、コレクタは、ダイオード接続されたnpnトランジスタQ5を介して電流源4に接続されている。
【0034】
図5のバイパス回路13は、順方向電圧Vfが0.6V未満(例えば0.3V程度)のダイオード20を有する。
図5のダイオード20は、金属と半導体との接合により生じるショットキー障壁を利用したショットキーバリアダイオード20である。ショットキーバリアダイオード20は、順方向電圧降下が小さく、かつスイッチング速度が速いという特徴を有する。
図5のバイパス回路13では、
図2では必要であった抵抗素子R3は省略可能である。
【0035】
図5のダイオード20のアノードは、トランジスタのゲートおよびフォトダイオード10のアノードに接続され、ダイオード20のカソードは、トランジスタQ1のコレクタに接続されている。
【0036】
上述した
図2や
図5では、トランスインピーダンスアンプ2内のトランジスタとしてバイポーラトランジスタを用いる例を示したが、MOSトランジスタを用いてもよい。
【0037】
図6および
図7は初段トランジスタ11としてMOSトランジスタを用いる例を示す回路図であり、
図6はドレイン接地型の一例を示す回路図、
図7はソース接地型の一例を示す回路図である。
【0038】
図6および
図7では、トランスインピーダンスアンプ2内の各トランジスタとしてNMOSトランジスタを用いている。以下では、各NMOSトランジスタを単にトランジスタと呼ぶ。
図6の初段トランジスタ11は、ダーリントン接続されたトランジスタQ21,Q22を有する。トランジスタQ21は
図2のトランジスタQ1に対応し、トランジスタQ22は
図2のトランジスタQ2に対応している。
【0039】
図6および
図7のバイパス回路13は、ダイオード接続されたトランジスタQ23のみで構成されており、
図2における電流制限用の抵抗素子R3は省略されている。これは、MOSトランジスタに流れる電流は、ゲート幅Wとゲート長Lの比により任意に調整できるため、抵抗素子を設けなくても、電流制限が可能となるためである。
【0040】
また、バイパス回路13内のトランジスタQ23は、初段トランジスタ11よりも閾値電圧を低くしている。これにより、バイパス回路13により多くの電流が流れやすくなる。
【0041】
このように、本実施形態では、トランスインピーダンスアンプ2内の初段トランジスタ11のベースやゲートに流れる受光素子からの電流信号Ipdをバイパスさせるバイパス回路13を設けるため、初段トランジスタ11が飽和するおそれがなくなり、トランスインピーダンス回路1から出力されるパルス信号の歪みを抑制できる。
【0042】
また、バイパス回路13に加えて、初段トランジスタ11の出力側にレベルシフタ14を設けることで、初段トランジスタ11のオフ時の回復時間を短縮でき、後段側の反転増幅器15の動作を高速化でき、パルス信号をより急峻にすることができる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。