(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
生体器官内において吐出される流動状の吐出物が流通可能な軸方向に延在するルーメンと、前記ルーメンに連通する連通孔と、が形成された可撓性のある長尺状の本体部と、
前記連通孔を介して前記ルーメンに連通し、前記吐出物を貯留可能な貯留空間部と、前記貯留空間部に貯留した前記吐出物を前記本体部の軸方向の基端側へ向けて吐出可能な吐出部と、を備え、前記吐出物の導入および吐出に伴い拡張変形および収縮変形可能に構成された貯留部と、
前記本体部の基端部に設けられ、前記吐出物を供給するための供給装置に接続分離可能に構成されたハブと、を有し、
前記吐出部は前記貯留空間部の内外を連通する孔部により構成されており、
前記吐出部の開閉状態を切り替え可能な切り替え部をさらに有する、吐出装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、各図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
<第1実施形態>
図1〜
図4は、第1実施形態に係る吐出装置の各部の構成の説明に供する図であり、
図5は、吐出装置を使用した処置の適用対象となる生体(患者)を模式的に示す図であり、
図6は、吐出装置の使用例および作用の説明に供する図である。
【0013】
実施形態の説明では、尿路結石症の治療に適用した例を通じて実施形態に係る吐出装置を説明する。
【0014】
まず、
図5を参照して、尿路結石症およびその治療方法について説明する。
【0015】
尿路結石は、腎臓の腎盂腎杯540、尿管530、膀胱520、尿道510などの尿路に存在する結石である。尿路結石は、腎臓や尿管530に存在する上部尿路結石と、膀胱520から尿道510の出口(外尿道口)の間に存在する下部尿路結石とに大別される。
【0016】
尿路結石症とは、腎臓(腎盂腎杯540)内に形成された結石が尿管530に移動して、結石が尿管530の内面を傷つけることで痛みや血尿が生じたり、結石が尿管530を閉塞することで一過性の水腎症状態が引き起こされて、腰背から側腹部にかけて激しい痛み(疝痛)が生じたりする疾患である。尿路結石症の症状の緩和や治療を図る方法として、結石を除去することが有効な手段とされており、近年は、外科的な処置で積極的に結石の除去を図る積極的除去法が利用されている。
【0017】
積極的除去法には、主として、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、経尿道的結石破砕術(TULまたはURS)、および経皮的結石破砕術(PNLまたはPCNL)がある。また、TULには硬性腎盂尿管鏡(以下、「硬性鏡」とする)を用いるr−TUL(またはr−URS)と、軟性腎盂尿管鏡(以下、「軟性鏡」とする)を用いるf−TUL(またはf−URS)がある。
【0018】
上記のTULでは、硬性鏡や軟性鏡を用いて結石を破砕する装置(例えば、レーザ破砕装置等)を、尿道510、膀胱520、尿管530を経由させて、尿管530内や腎盂腎杯540内の結石に到達させて、生体内で結石を直接的に破砕することができる。このため、TULを採用することにより、ESWLやPNLを採用する場合と比較して、尿管530や腎臓等へのダメージを抑えると共に、高い結石除去率(stone free rate)を実現することが可能になる。
【0019】
しかしながら、細かく砕かれた結石破砕片をバスケット鉗子などで取り残しなく除去することは容易ではなく、また仮にバスケット鉗子を使用して除去を行う場合には手技時間の相当な長時間化を招くことにもなる。他方、内視鏡(軟性鏡または硬性鏡)の潅流水を利用して水流により結石破砕片を除去する方法も考えられるが、尿管は内腔が狭く、かつ、蛇行して体内に延在しており、そのうえ、手術中は患者が水平に近い角度で仰向けの姿勢で寝かせられるため、潅流水による自然排石を期待することはできない。
【0020】
本実施形態に係る吐出装置100は、尿管530内や腎臓内に存在する結石破砕片の効率的な除去を可能にする医療装置に関するものである。なお、以下の説明においては、尿路結石、およびその破砕片を結石破砕片Kと称する。
【0022】
図1、
図2(A)に示すように、吐出装置100は、生体器官(尿管530や腎盂腎杯540等)内に導入可能に構成された長尺状の本体部110と、本体部110の先端部に配置された貯留部130と、本体部110の基端部に配置されたハブ150と、を有している。
図2(A)等の一部の図面においては、本体部110およびハブ150の内部の構造を明瞭に示すために、本体部110やハブ150の外形線を二点鎖線で表している。
【0023】
明細書の説明においては、吐出装置100の生体内に挿入される側(貯留部130が配置される側)を先端側と称し、吐出装置100の手元側(ハブ150が配置される側)を基端側と称する。また、図中に示すX1軸は、吐出装置100の奥行き方向を示し、Y1軸は、吐出装置100の軸方向(延伸方向)を示し、Z1軸は、吐出装置100の高さ方向を示す。なお、先端部および先端側は、先端端部から基端側に亘る所定の範囲を意味するものであり、先端端部のみを意味するものではない。同様に、基端部および基端側は、基端端部から先端側に亘る所定の範囲を意味するものであり、基端端部のみを意味するものではない。
【0024】
図2(A)、
図2(B)に示すように、本体部110には、生体器官内において吐出される流動状の吐出物が流通可能な軸方向に延在するルーメン111と、ルーメン111に連通する連通孔115と、が形成されている。
【0025】
本体部110は、先端端面が貯留部130の基端面130aに対向して配置されており、当該本体部110の先端端面に形成された二つの連通孔115、116の各々を介して、二つのルーメン111、112が貯留空間部131と液密・気密に連通している。
【0026】
貯留部130は、連通孔115を介してルーメン111に連通され吐出物を貯留可能な貯留空間部131と、貯留空間部131に貯留した吐出物を本体部110の軸方向の基端側へ向けて吐出可能な吐出部133と、を備えている。貯留部130は、吐出物の導入および吐出に伴い拡張変形および収縮変形可能に構成している。なお、各図において貯留部130からの吐出物の吐出を矢印dで示す(例えば
図6(A)、(B)を参照)。
【0027】
ハブ150は、当該吐出装置100に吐出物を供給するための供給装置(図示省略)に接続分離可能な構成を有している。供給装置としては、例えば、医療分野において公知のインデフレーターやシリンジ等を使用することができる。
【0028】
吐出物は、供給装置によりハブ150内へ供給された後、ハブ150を経由して本体部110のルーメン111へ流れ込む。ルーメン111を経由した吐出物は、ルーメン111に連通する連通孔115を介して貯留部130の貯留空間部131内へ流入する。貯留部130は、貯留空間部131内への吐出物の流入に伴う内圧の増加により、拡張変形する。また、貯留部130は、吐出部133により貯留空間部131内に貯留(保持)した吐出物を吐出させると(
図6(B)を参照)、吐出に伴う内圧の減少により、収縮変形する。
【0029】
図6(B)に示すように、吐出部133は、貯留空間部131の内外を連通する孔部(貫通孔)により構成している。吐出部133は、貯留部130の基端面130aに形成している。また、吐出装置100は、孔部により構成された吐出部133の開閉状態を切り替え可能な切り替え部170を備えている。
【0030】
吐出装置100による吐出を実施する際には、切り替え部170を使用して、閉じた状態の吐出部133を開いた状態に切り替える操作が行われる。
【0031】
図2(A)に示すように、切り替え部170は、吐出部133を閉塞する閉塞部171と、閉塞部171から基端側へ延在し、閉塞部171による吐出部133の閉塞を手元の操作で解除可能にする延在部173と、を有している。また、本体部110には、
図2(A)、(B)に示すように、切り替え部170の延在部173が挿通される挿通ルーメン112と、挿通ルーメン112の基端側に形成され延在部173の一部(基端部)を導出する基端開口部112aと、貯留空間部131の内部と挿通ルーメン112とを連通する連通孔116と、が形成されている。
【0032】
切り替え部170により吐出部133を開く作業は、使用者が、本体部110から導出された延在部173を手指等で操作することにより行われる。
【0033】
図6(A)に示すように、閉塞部171は、吐出部133を構成する孔部に嵌合することにより、孔部を封止し、吐出部133を閉じた状態に維持する。また、
図6(B)に示すように、切り替え部170の延在部173を操作して、孔部から閉塞部171を移動させることにより、吐出物の吐出を開始させることができる。
【0034】
図2(A)に示すように、閉塞部171は、延在部の先端側の一部を本体部110の基端側に湾曲させた湾曲部172から基端側に向けて先細る略円錐形状に形成した突出部により構成している。
【0035】
図6(A)に示すように、閉塞部171が吐出部133に嵌合した状態においては、吐出部133が閉塞(封止)されて、吐出物の吐出が制限される。そして、
図6(B)に示すように、閉塞部171を本体部110の先端側へ移動させて、吐出部133から閉塞部171を退避させると、吐出部133が開いた状態となり、吐出物の吐出が開始される。この閉塞部171を開く作業は、例えば、手元の操作で延在部173を先端側へ押し込むことで行うことができる。
【0036】
図2(A)に示すように、延在部173の基端部には、使用者が切り替え部170を操作する際に、切り替え部170を把持し易くするための把持部175を設けている。把持部175は、例えば、図示するように、偏平な平板状の部材により構成することができる。把持部175の形状は、例えば、矩形や円形等に形成することができるが、特に制限はない。
【0037】
図2(A)に示すように、貯留部130は、その内部に形成された貯留空間部131内に所定の吐出物を貯留可能な容器により構成している。貯留部130は、例えば、内圧の変化に伴い拡張変形および収縮変形し得るような可撓性を有する材料で構成することができる。
【0038】
貯留部130を構成する材料としては、例えば、医療分野におけるバルーンカテーテルに用いられるバルーンと同様の材料で構成することができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂、ポリアミドエラストマー、ポリスチレンエラストマー、シリコーンゴム、ラテックスゴム等を用いることができる。
【0039】
貯留部130を可撓性が比較的高い材料で構成する場合、吐出部133に対して閉塞部171がしっかりと嵌合されず、封止性が低下する可能性がある。封止性の低下が発生するのを防止するために、例えば、吐出部133の周囲を他の部位よりも硬質に構成したり、他の部位よりも厚みを持つように構成したりすることができる。
【0040】
図2(A)には、貯留部130が拡張した状態が示されている。貯留部130は、拡張変形した際に、軸方向に所定の長さを有する略円筒形状を形成するように構成している。ただし、拡張変形時の形状は、特に限定されず、適宜変更することが可能である。
【0041】
貯留部130は、例えば、貯留空間部131内の圧力が所定の圧力に達した後、吐出物の導入に伴う軸方向への拡張変形量が径方向外方への拡張変形量よりも大きくなるように構成することができる。
図4(A)〜
図4(C)には、このように構成した貯留部130の拡張形状の変化の一例を示す。
【0042】
図4(A)に示すように、拡張変形の初期段階において、貯留部130は、径方向(図中の上下方向)および軸方向(図中の左右方向)にほぼ同一の拡張率で拡張する。
図4(B)、
図4(C)に示すように、貯留部130は、その外表面が尿管530の内壁に接した以降は、内圧の増加に伴う径方向の拡張量が大幅に減少する一方で、軸方向には所定の拡張率で継続して拡張する。
【0043】
生体器官(尿管530等)の損傷等を防止するために、貯留部130の最大拡張径を、生体器官の内腔の径を大きく超える寸法に設定することは好ましくないため、径方向の拡張変形量にはある程度の制限を持たせることが望ましい。一方で、吐出物により結石破砕片Kを押し流すような処置を行う場合、より多量の吐出物を貯留可能に構成される方が好ましいと言える。上記のように貯留部130の径方向と軸方向の拡張変形量を調整することにより、生体器官が損傷するのを防止するとともに、貯留可能な吐出物の量を増加させることが可能になる。
【0044】
貯留部130の径方向への拡張変形量を調整する方法としては、例えば、材料の材質により調整する方法、拡張変形を抑制する抑制具(例えば、貯留部130よりも硬質のゴムバンド等)により調整する方法、肉厚により調整する方法、材料の一部にコンプライアント特性を変化させる粒子等を含有させる方法、貯留部130を構成する素材を成形する際の拡張倍率により調整する方法などを採用することが可能である。
【0045】
尿路結石(結石破砕片K)の除去を目的とする医療装置として吐出装置100が構成される場合、貯留部130は、例えば、最大で0.3〜2.8mlの吐出物を貯留することが可能に構成することができる。また、最大拡張時における貯留部130の軸方向の長さは、例えば、50〜100mmに形成することができ、最大拡張時における貯留部130の外径は、例えば、3.0〜6.0mmに形成することができる。
【0046】
貯留部130は、所定量の吐出物を一時的に貯留して貯め込む機能に加えて、生体器官(尿管530、腎盂腎杯540)を部分的に閉塞する機能を備えている。
【0047】
図6(A)に示すように、貯留部130は、生体器官の内腔を押し広げるように径方向外方へ拡張し、外周面を生体器官の内壁に当接させて、生体器官の一部を閉塞する。このように生体器官の一部を閉塞した状態で、貯留部130内に貯留させた吐出物の吐出を開始させると、貯留部130の基端面130aに形成された吐出部133から本体部110の軸方向の基端側へ向けて吐出物が流出する。流出した吐出物は、貯留部130により、貯留部130の先端側への流れ込みが阻止されるため、主として貯留部130よりも基端側へ流れ込む。このように、貯留部130により吐出物の流出方向を基端側へ向けることができるため、吐出を開始する前に、貯留部130をある程度収縮させた状態で除去対象となる結石破砕片Kよりも先端側(生体器官の奥側)に配置することで、吐出物を利用して結石破砕片Kを効率的に除去または移動させることが可能になる。
【0048】
尿路結石(結石破砕片K)の除去に利用される流動状の吐出物としては、例えば、液体、気体、およびこれらの混合流体を使用することができる。一例として、生理食塩水、ヘリウムガス、CO
2ガス、O
2ガス、これらを適宜組み合わせた流体等を使用することができる。また、本実施形態における「流動状の吐出物」とは、吐出物全体が流れを形成し得るものを意味し、例えば、粉体、粒状物、ゲル状物質、泡状物質等を吐出物として用いることも可能である。
【0049】
図2(A)に示すように、本体部110の挿通ルーメン112と貯留空間部131の内部とを連通する連通孔116は、吐出部133を開く際の切り替え部170の移動動作を妨げることなく、かつ、切り替え部170が挿通された状態で当該連通孔116からの吐出物の漏洩が生じることのないように、切り替え部170の延在部173の外径と同程度の径で形成している。連通孔116からの吐出物の漏洩が発生するのをより確実に防止するために、連通孔116にOリング等の公知のシール部材を取り付けることも可能である。
【0050】
閉塞部171は、例えば、貯留空間部131の内圧の増加を利用して吐出部133を自動的に閉塞する(吐出部133を閉じる)ように構成することが可能である。
図2(A)に示すように、閉塞部171と吐出部133とを、互いに対向するような位置関係で配置しておくと、貯留空間部131の内圧が増加することで、閉塞部171が吐出部133に向かって移動する。このため、閉塞部171を手元で操作することなく吐出部133に対して嵌合させることが可能になる。なお、貯留部130の基端面130aに形成した連通孔116の径を切り替え部170の延在部173の外径と同程度の寸法で形成しておくと、切り替え部170が不用意に回転するのを防止することが可能になるため、閉塞部171と吐出部133とが対向した状態を維持することができ、閉塞部171による閉塞動作の自動化を比較的容易に実現することが可能になる。
【0051】
切り替え部170(閉塞部171、湾曲部172、延在部173)を構成する材料としては、手元側で操作した際の操作力(押し引き力)を先端側へ伝達することが可能であれば特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、あるいはそれらの共重合体、ナイロン、PETなどの熱可塑性樹脂、またはゴム、シリコーンエラストマーなどの熱硬化性樹脂、絹糸、木綿糸、セルロースファイバーなどの繊維材、SUS線、銅線、チタン線、ナイチノール線などの金属材、または、これらを適宜組み合わせたものを使用することができる。
【0052】
図3(A)、(B)に示すように、ハブ150には、貯留部130へ供給される吐出物の逆流を防止する逆流防止部160を設置している。
【0053】
逆流防止部160は、弁体161と、弁体161に付勢力を付与する付勢部材(スプリング)163と、を有している。付勢部材163は、先端部がハブ150の先端部の内壁151に固定されている。
図3(A)に示すように、弁体161は、吐出物を供給する供給装置の供給部(チューブ)200がハブ150に接続されていないときは、付勢部材163により付勢されて、ハブ150の傾斜壁153に押し付けられる。弁体161の基部163aと傾斜壁153とが当接した部分にシール部が形成されることにより、弁体161の基端側、つまりハブ150の基端開口部150a側へ吐出物が逆流するのを防止することができる。
【0054】
図3(B)に示すように、供給装置の供給部200がハブ150の基端開口部150aに連結されると、供給部200により弁体161が先端側へ押し込まれて、弁体161の基部163aと傾斜壁153との間に吐出物が流通可能な流路(隙間g)が形成される。この状態で、供給部200のルーメン210を介して吐出物をハブ150へ供給すると、吐出物は、ハブ150の内部、ハブ150の先端開口部151aを経由して、ハブ150の先端に取り付けられた本体部110のルーメン111内へ流入する。供給部200をハブ150から取り外すと、付勢部材163が弁体161に付与する付勢力により、弁体161が
図3(A)に示す位置まで移動して、弁体161の基部163aと傾斜壁153とが当接した部分にシール部が形成される。
【0055】
なお、逆流防止部160は、貯留部130内へ吐出物を供給した状態において、吐出装置100から供給装置側へ吐出物が逆流するのを防止し得る限りにおいて、その構成は特に限定されない。また、逆流防止部160を設置する位置もハブ150内に限定されることはなく、例えば、本体部110内に設置したり、本体部110のルーメン111と貯留部130とを連通する連通孔115付近に設置したりすることも可能である。
【0056】
次に、吐出装置100の使用例および作用について説明する。
【0057】
ここでは、尿路結石症に罹患した患者500において、硬性鏡で到達可能な尿管530の下部尿管にあたる領域に結石が存在し、かつ、硬性鏡では到達困難であるが、軟性鏡では到達可能な尿管530の上部尿管にあたる領域にも結石が存在する患者500に対する処置例を説明する。このような症例では、先に下部尿管の結石を除去した後、上部尿管の結石を除去することが行われる。なお、
図5においては、下部尿管の結石を除去した後、上部尿管の結石を除去する際の状況を模式的に示している。
【0058】
まず、尿路結石症に罹患した患者500に対して、泌尿器系で一般的に用いられる膀胱鏡(軟性鏡または硬性鏡)を使用して、医療分野において広く知られたガイドワイヤを、尿道510および膀胱520を介して尿管530または腎盂腎杯540に導入する。
【0059】
次に、硬性鏡を挿入して、尿管530の内壁や尿管530内の結石を観察する。この際、硬性鏡とともにバスケット鉗子等の公知の抽石装置を併用して、結石を除去することが可能である。
【0060】
次に、硬性鏡とともにホルミウム・ヤグレーザー等の破砕装置を併用して、比較的大きく除去が困難な尿路結石を破砕して、結石破砕片Kを形成する。
【0061】
次に、
図5に示すように、吐出装置100の本体部110を生体内に導入する。図示省略するが、吐出装置100の本体部110は、例えば、硬性鏡の鉗子チャネル(ルーメン)を介して挿入することができる。
【0062】
そして、
図6(A)に示すように、吐出装置100の貯留部130を除去対象である結石破砕片Kよりも先端側(尿管530の奥側)へ配置する。その後、本体部110のルーメン111を介して吐出物を貯留部130へ供給する。貯留部130を拡張変形させて、貯留部130により尿管530が部分的に閉塞したのを確認した後、硬性鏡を膀胱520内、または体外まで引き抜き、
図6(B)に示すように、吐出部133を開いて、吐出物を流出させる。貯留部130よりも基端側にある結石破砕片Kは、吐出物により膀胱520側へ押し流される。
【0063】
次に、ガイトワイヤを介して、尿管アクセスシースを、尿道510および膀胱520を経由させて尿管530または腎盂腎杯540に挿入する。吐出装置100を使用して結石破砕片Kを尿管530から除去した後に尿管アクセスシースの導入を行うため、尿管アクセスシースと尿管530の内壁の間に結石破砕片Kの詰まり等が生じることがなく、尿管530の損傷、穿孔、断裂等が発生するのを好適に防止することができる。
【0064】
次に、尿管アクセスシースを介して軟性鏡を挿入し、結石破砕片Kを観察する。ガイドワイヤは、適宜抜去してもよい。結石破砕片Kが既に取り除かれた状態であるため、軟性鏡を挿入する際においても結石破砕片Kによる尿管530の損傷が発生するのを防止することができる。
【0065】
結石が尿管アクセスシースを通過困難な比較的大きなサイズであった場合、軟性鏡とともにホルミウム・ヤグレーザー等の破砕装置を併用して、結石を破砕して結石破砕片Kを形成する。結石破砕片Kを形成した後、吐出装置100を再度使用して、結石破砕片Kの除去を行う。
【0066】
以上説明した一連の処置を適宜繰り返し実施することにより、尿路結石の除去を完了させる。上記のように本実施形態に係る尿路結石症の治療方法において「尿路結石および結石破砕片Kを除去する処置」には、これらの結石を、生体内の発生した部位(腎盂腎杯540、尿管530)から生体外へ直接的に取り出す処置や、生体内の発生した部位から生体内の他の部位へ移動させる処置(リポジショニング)を含み得る。また、リポジショニングとしては、例えば、異なる腎盂腎杯540間での移動や、腎盂腎杯540および尿管530から膀胱520への移動が含まれる。
【0067】
上述した尿路結石症の治療方法は、(i)除去対象となる尿路結石を破砕して結石破砕片を形成し、(ii)吐出装置の貯留部を結石破砕片よりも生体の奥側(先端側)まで送達し、(iii)貯留部へ所定量の吐出物を供給することにより、貯留部を拡張変形させて、(iv)貯留部に貯留させた吐出物を、貯留部から流出させることにより、結石破砕片を生体の末梢側(基端側)へ移動させる、ことを含む。
【0068】
以上、本実施形態に係る吐出装置100によれば、本体部110のルーメン111を介して貯留部130へ供給した所定量の吐出物を貯留空間部131内において一時的に貯留し、貯留した吐出物を貯留空間部131内から一気に吐出させることができる。貯留空間部131内に貯留した量に応じて吐出物の吐出量および吐出時の流速を調整することができるため、吐出物を流通させるルーメン111の断面積の大きさに関わらず、所望の吐出量および流速での吐出を実現することができ、結石破砕片Kの除去を効率良く行うことができる。
【0069】
また、吐出部133が貯留空間部131の内外を連通する孔部により構成されており、当該吐出装置100に吐出部133の開閉状態を切り替え可能な切り替え部170が備えられているため、切り替え部170を使用して吐出部133を開く簡単な操作により、吐出部133による吐出を開始することができる。
【0070】
また、切り替え部170が、吐出部133を構成する孔部を閉塞する閉塞部171と、閉塞部171から基端側に延在し、閉塞部171による孔部の閉塞を手元の操作で解除可能にする延在部173とを有するため、延在部173を手元で操作するだけの簡単な作業により、吐出部133による吐出を実施することができる。
【0071】
また、閉塞部171が、吐出部133を構成する孔部に嵌合することにより孔部を封止可能に構成されており、延在部173を操作して孔部から閉塞部171を移動させることにより吐出物の吐出を開始することが可能に構成されているため、閉塞部171を手元の操作で孔部から移動させる簡単な作業で吐出物の吐出を実施することができる。
【0072】
また、貯留部130が、貯留空間部131内の圧力が所定の圧力に達した後における吐出物の導入に伴う軸方向への拡張変形量が径方向外方への拡張変形量よりも大きくなるように構成されることにより、拡張変形時に尿管530等の管状組織が損傷するのを防止するとともに、貯留可能な吐出物の量を増加させることが可能になる。
【0073】
また、吐出装置100が、尿管530や腎盂腎杯540に存在する尿路結石および/または結石破砕片Kを除去するための医療装置として構成されており、吐出物が液体であるため、尿路結石や結石破砕片Kを効率良く除去することが可能な医療装置を提供することが可能になる。
【0074】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る吐出装置を説明する。第2実施形態の説明においては、既に説明した部材と同一の部材、また同様に構成し得る点等についてはその説明を適宜省略する。
【0075】
図7には、第2実施形態に係る吐出装置300を示す。
図7(A)は、吐出装置300の斜視図、
図7(B)は、
図7(A)に示す矢印7B−7B線に沿う断面図である。
【0076】
吐出装置300には、貯留部130の先端部の内面138を基端側へ向けて移動させる移動部材311が備えられている。
【0077】
移動部材311は、貯留部130の先端部の内面138に固定された固定部312と、固定部312から基端側へ延在する延在部313と、を備える長尺状の部材により構成している。延在部313は、本体部110に形成された挿通ルーメン112に挿通している。また、延在部313の基端部314は、本体部110の基端開口部112aを介して外部に導出している。
【0078】
延在部313の基端部314には、使用者が移動部材311を操作する際に、移動部材311を把持し易くするための把持部315を設けている。把持部315は、例えば、図示するように、移動部材311を操作する際に、使用者が移動部材311を移動させる方向(牽引方向)を目視により確認することができるように、移動させる方向を示す矢印型の形状で構成することができる。
【0079】
移動部材311の延在部313は、例えば、金属線やピアノ線などの比較的耐久性の高い細径な部材により構成することができる。移動部材311と貯留部130の固定は、融着や接着などの公知の方法で行うことができる。
【0080】
移動部材311は、手元の操作で延在部313の基端部314が牽引されると、貯留部130の先端部の内面138を基端側へ移動させる。貯留部130から吐出物を吐出させる際に、貯留部130の先端部の内面138を基端側へ移動させると、吐出部133から吐出される吐出物の勢いが増す。その結果、単位時間当たりに吐出される吐出物の吐出量を増加させることが可能になるため、結石破砕片Kの除去をより一層効率良く実施することが可能になる。
【0081】
なお、後述する変形例に示す貯留部440などのように(
図10(A)、(B)を参照)、吐出部133を開く操作が、閉塞部441を軸方向に沿ってある程度の距離だけ基端側へ移動させて行われるものについては、移動部材311と閉塞部441とを接続等して一体化させることにより、吐出部133を開く操作と、移動部材311により貯留部130の先端部の内面138を基端側へ移動させる操作とを、共通の操作で同時に行うように構成することができる。
【0082】
<貯留部の変形例>
次に、貯留部の変形例を説明する。各変形例の説明においては、既に説明した部材と同一の部材、また同様に構成し得る点等についてはその説明を適宜省略する。また、各変形例の説明においては、貯留部の要部のみについて図示するが、特に説明のない構成等については、前述した各実施形態と同様の構成を採用することが可能である。
【0083】
図8(A)には、変形例1に係る貯留部410の要部を示す。
【0084】
吐出部133は、貯留部410の基端面130aの周方向の異なる位置に複数設けることができる。このように吐出部133を配置することにより、吐出量を増加させることが可能になるうえに、尿管530の内壁の周方向に沿わせて吐出物を吐出させることが可能になるため、結石破砕片Kをより一層効率良く除去することが可能になる。なお、図示するように、各吐出部133を、貯留部410の基端面130aの周方向に均等な間隔を空けて配置することにより、尿管530の内壁の周方向に沿って均一に吐出物を吐出することができ、結石破砕片Kの除去効率をさらに向上させることができる。
【0085】
図8(B)には、変形例2に係る貯留部420の要部を示す。
【0086】
吐出部133は、その形状が円形に限定されることはなく、例えば、図示するように、扇型の形状に形成することが可能である。また、矩形や楕円等の扇型以外の形状で形成してもよいし、複数の吐出部133を設ける場合には、吐出部133ごとに形状を異ならせるようにしてもよい。また、貯留部420の基端面130aのいずれの部位に形成してもよく、例えば、図示するように基端面130aの上部側のみに形成することも可能である。結石破砕片Kは、重力の影響により、本体部110上や、本体部110と尿管530の内壁との隙間に堆積することがある。このような場合、上述したような複数の吐出部133を基端面130aの上部側のみに形成した吐出装置を用いることにより、吐出物を結石破砕片Kに向けて吐出させ、結石破砕片Kを浮き上がらせて押し流すことが可能となるため、結石破砕片Kの除去効率をさらに向上させることができる。
【0087】
なお、上述した変形例1、2のように、一つの貯留部に複数の吐出部133を形成する場合に、前述した切り替え部170を吐出部133の個数と同数設けてしまうと、ルーメン111の増設に伴い本体部110の大径化を招いてしまう。また、装置構成が複雑にもなる。このような場合は、例えば、本体部110のルーメン111内に挿通させることなく設置が可能な切り替え部(後述する変形例3、4、6、7等に示す構成のもの)を貯留部に設けることが好ましい。
【0088】
図9(A)、(B)には、変形例3に係る貯留部430の要部を示す。
【0089】
貯留部430には、貯留空間部131内の圧力の増減に伴って開閉し、吐出物の吐出の開始と吐出の停止を切り替える開閉弁431が備えられている。この貯留部430によれば、貯留空間部131内に貯留された吐出物の量に応じて、吐出の開始と吐出の停止とを自動的に切り替えることが可能になるため、吐出操作に要する手間を省くことができる。この開閉弁431としては、例えば一般的に逆止弁として広く用いられるような、ダックビル弁等を用いることができる。吐出の開始および停止の切り替え機構の一例としては、貯留空間部131内に吐出物を供給し続け、貯留空間部131の内圧が、ダックビル弁の上限耐圧値よりも高くなった時点で、互いに押し付け合うように設置されたダックビル弁の2つの弁が開き、貯留空間部131内の吐出物が排出され、吐出開始状態となる。一度開いたダックビル弁の2つの弁は、吐出物が排出される勢いにより、所定量の吐出物が排出される間は、開いた状態のままとなる。その後、再度ダックビル弁の2つの弁は互いを押し付け合うようになり、開閉弁431は閉じた状態となり、吐出停止状態となる。
【0090】
図10(A)には、変形例4に係る貯留部440の要部を示す。
【0091】
貯留部440は、基端側への牽引操作に伴って吐出部133から抜け出ることにより吐出物の吐出を開始させる閉塞部441と、閉塞部441から基端側に延びる紐状の長尺部材443とにより構成された切り替え部を備えている。
【0092】
貯留部440を可撓性のある材料で構成している。このため、閉塞部441が引っ張られた際に、閉塞部441が吐出部133を押し広げて、容易に抜け出る。また、閉塞部441を伸縮性のある材料で構成しているため、閉塞部441が吐出部133から抜け出し易くなっている。なお、長尺部材443は、細径化された紐状の部材により構成されるため、本体部110のルーメン111などを挿通させずに、尿管530を介して、生体外へ導出させることが可能である。また、このような構成によれば、閉塞部441が吐出部133にしっかりと嵌合した状態となるため、貯留部440の封止性を高めることができる。
【0093】
図10(B)には、変形例5に係る貯留部450の要部を示す。
【0094】
貯留部450は、本体部110のルーメン111に連通する連通孔116に引っ掛けられる紐状の長尺部材453を利用して、閉塞部451を吐出部133から貯留空間部131内へ引き込むように構成された切り替え部を備えている。
【0095】
連通孔116に対して引っ掛けられた長尺部材453が、閉塞部451を貯留空間部131内へ引き込む支点を形成するため、手元の操作で長尺部材453を基端側へ牽引する操作により、閉塞部451を移動させて吐出部133を開くことが可能になる。なお、本変形例に示すように、本体部110の配置は、貯留部130への吐出物の供給が可能な限りにおいて、適宜変更することが可能である。
【0096】
図11(A)には、変形例6に係る貯留部460の要部を示す。
【0097】
貯留部460は袋状の部材により構成されており、当該貯留部460の基端面130aを開放する開口部(孔部)により吐出部463が形成されている。切り替え部は、吐出部463を閉じた状態に維持するように結び目を形成する紐状の長尺部材461により構成している。長尺部材461の結び目を解くことにより、吐出部463からの吐出を開始させることが可能になる。長尺部材461は、細径化された紐状の部材により構成されるため、本体部110のルーメン111などを挿通させずに、尿管530を介して、生体外へ導出させることが可能である。
【0098】
図11(B)には、変形例7に係る貯留部470の要部を示す。
【0099】
貯留部470は袋状の部材により構成されており、当該貯留部470の基端面130a側を開放する開口部(孔部)により吐出部473が形成されている。切り替え部は、吐出部463を閉じた状態に維持するように貯留部470の一部を縫合(波縫い)する紐状の長尺部材471により構成している。長尺部材471による縫合を解くことにより、吐出部473からの吐出を開始させることが可能になる。長尺部材471は、細径化された紐状の部材により構成されるため、本体部110のルーメン111などを挿通させずに、尿管530を介して、生体外へ導出させることが可能である。
【0100】
その他の変形例として、例えば、切り替え部のような部材を使用することなく、ワイヤーや針等の鋭利な部材を使用して、吐出を開始する際に貯留部に孔部を形成するようにしてもよい。なお、このように構成する場合は、例えば、穿孔を容易に行うことが可能となるような薄肉な部位や破断が容易になされる脆弱部等を設けておくことが好ましい。
【0101】
以上、複数の実施形態および変形例を通じて本発明に係る医療用長尺部材および医療器具を説明したが、本発明は実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0102】
例えば、本発明に係る吐出装置は、実施形態において説明した用途のみに限定されることはなく、腎臓や尿管以外の他の生体器官(例えば、食道、気道、腸、膵管、胆管、耳などの体腔)に存在する各種の異物の除去や、生体器官内への薬剤の吐出、生体器官の保護や塞栓などを目的と用いられるゲル状物質等の吐出を行うための装置などに広く適用することが可能である。
【0103】
また、各実施形態および各変形例において説明した構成は、その機能が損なわれない限りにおいて、他の実施形態や他の変形例に係る吐出装置や貯留部に適宜組み合わせることが可能である。