(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461662
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】印刷装置および印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41F 15/08 20060101AFI20190121BHJP
B41F 15/40 20060101ALI20190121BHJP
B41M 1/12 20060101ALI20190121BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
B41F15/08 303E
B41F15/40 B
B41M1/12
H05K3/28 E
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-57143(P2015-57143)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-175276(P2016-175276A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2018年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】河村 知範
(72)【発明者】
【氏名】寺田 勝美
(72)【発明者】
【氏名】石塚 俊和
【審査官】
加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−106376(JP,A)
【文献】
特開平10−313015(JP,A)
【文献】
米国特許第05045117(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第10222874(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 15/00 − 15/46
B41M 1/00 − 3/18
H05K 3/28
H01L 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧より低い圧力P1雰囲気下で孔版印刷を行う一次印刷と、
大気圧より低く前記圧力P1より大気圧に近い圧力P2で孔版印刷を行う二次印刷とを行う印刷装置であって、
孔版上に印刷材を供給する印刷材供給手段と、
孔版上の印刷材を孔に押し込むスキージと、
前記印刷材供給手段と前記スキージを収納する真空チャンバーと、
前記前記真空チャンバーと連通した真空排気装置と、
前記真空チャンバーおよび前記真空排気装置と連通しており、前記真空チャンバー内を減圧調整する減圧容器とを備え、
一次印刷終了後に、前記真空チャンバーと前記減圧容器の間を開放して、真空チャンバー内の圧力をP1からP2に変化させることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
真空チャンバーの有効容積がV1、減圧容器の有効容積がV2であれば、
一次印刷実行中に減圧容器内の圧力PXを、
PX=P2+(P2−P1)×V1/V2
に調整することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷装置であって、
前記真空チャンバー内が大気圧状態の時に前記減圧容器内を真空排気し、
前記真空チャンバー内を真空排気を開始する際に、前記減圧容器により真空チャンバー内を真空排気する機能を有したことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷装置であって、
前記真空チャンバーの真空排気を開始した後に、前記真空チャンバー内の圧力と前記減圧容器内の圧力が等しくなった時点で、前記真空チャンバーと前記減圧容器の間を閉止する機能を有したことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
孔版上に印刷材を供給し、
大気圧より低い圧力P1雰囲気下で孔版印刷を行う一次印刷と、
大気圧より低く前記圧力P1より大気圧に近い圧力P2で孔版印刷を行う二次印刷とを、真空チャンバー内で行う印刷方法であって、
真空チャンバー内の圧力をP1からP2に変化させるのに際して、真空チャンバーと別に設けた、減圧容器内の圧力を真空チャンバー内に開放して圧力調整することを特徴とする印刷方法。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷方法であって、
真空チャンバーの有効容積がV1、減圧容器の有効容積がV2であれば、
一次印刷実行中に減圧容器内の圧力PXを、
PX=P2+(P2−P1)×V1/V2
に調整することを特徴とする印刷方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の印刷方法であって、
前記真空チャンバー内が大気圧状態の時に前記減圧容器内を真空排気し、
前記真空チャンバー内を真空排気を開始する際に、前記真空チャンバー内の圧力と前記減圧容器内の圧力が等しくなるまで、真空チャンバー内の圧力を前記減圧容器内に開放することを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷により電子部品の樹脂封止や回路基板への樹脂充填を行う、印刷装置および印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回路基板上の電子部品の樹脂封止や回路基板の孔内に導電性ペースト等を充填するために、絶縁性樹脂ペーストや導電性ペースト等を印刷材とした孔版印刷が行われている。孔版印刷は、印刷材を孔版上に供給した後に、孔版上のスキージを動かすことにより、孔版の孔内に印刷材を押し込むものであるが、印刷材を押し込む際に空気を巻き込んで印刷材中にボイドを残存させることがある。
【0003】
回路基板上の電子部品の樹脂封止や回路基板への樹脂充填においては、電子機器の信頼性の観点から、封止樹脂および充填樹脂にボイドが存在することは好ましくない。そのため、孔版印刷を真空雰囲気下で行う真空印刷装置の普及も進んでいる。特に、真空雰囲気下での複数回の孔版印刷の間で真空度を下げる(大気圧に近づける)、真空差圧充填法を用いることにより、ボイドが少なく表面の平坦性に優れた樹脂封止および樹脂充填が可能になっている(特許文献1)。
【0004】
真空差圧充填の一例を
図4および
図5を用いて説明する。
図4および
図5は、回路基板B上に接合された半導体チップCおよび積層半導体チップCmを熱硬化性樹脂を主成分とする印刷材Rで樹脂封止する例を示しており、孔版6の孔部にスキージ4およびスキージ5を用いて印刷材Rを充填する。図において、半導体チップCは回路基板Bにバンプ電極により接合された半導体チップであり、積層半導体チップCmもバンプにより回路基板に接合さsれた積層された半導体チップであるが、積層半導体チップ間の接合にワイヤーも用いられている。
【0005】
図4(a)〜
図4(c)は一次印刷の状態を示す図であり、この一次印刷は圧力P1の真空下で行われる。まず、孔版6上に供給された印刷材Rをスキージ4が孔部側に移動させ(
図4(a))、孔部に印刷材Rを押し込んで行き(
図4(b))、孔部全体に印刷材Rを充填する(
図4(c))。しかし、半導体チップCおよび積層半導体チップCmと基板Bとのバンプ電極によって生じる隙間、積層半導体チップCmのワイヤ周りでは印刷材Rが充分に充填できずボイドが生じる。ただし、一次印刷は圧力P1の真空下で行われているため、周囲を圧力P1よりも高い圧力Pにすることで、P1とPの比に応じた分だけボイドが縮小するとともに、印刷材Rからボイドが抜ける(脱泡)こともある。これにより、孔部に一次印刷で充填された印刷材R内ではボイドが縮小し、その分だけ孔部内の印刷材Rの表面が凹む(
図4(d))。
【0006】
次に、孔部内の印刷材Rの平坦性を改善するために二次印刷を行う(
図5)。この二次印刷を行う時の圧力P2は、P1に比べて高い圧力である必要があるが、空気の巻き込み量を減らす点から大気圧以下で実施される。
図5において、二次印刷はスキージ5を用いて実施され、二次印刷の後(
図5(g))は、ボイドが少なく、表面の平坦性に優れた樹脂封止が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−40590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
真空差圧充填は
図6に示すような印刷装置100によって行われる。印刷装置100は、被印刷物W(例として
図4、
図5における、半導体チップCと積層半導体チップCmを実装した回路基板B)に真空下で印刷材Rを孔版印刷する装置であり、スキージ4、スキージ5、孔版6等が真空チャンバー2内に収納されている。
【0009】
印刷装置100では、バルブSV2を閉じ、バルブSV1を開いた状態で真空排気装置10を稼働させることにより、真空チャンバー2内を圧力P1まで減圧した後に一次印刷を行う。その後、バルブSV1を閉じてからバルブSV2を開放することで外気を取り込んで、真空チャンバー内を圧力P2にしてからバルブSV2を閉じ、二次印刷を行う。
【0010】
ところで、一次印刷時の圧力P1と大気圧P0には大きな圧力差があることから、一次印刷後に外気(大気圧)を取り込んで真空チャンバー内の圧力をP2にしようとすると、圧力が安定する迄に時間を要する。すなわち、
図7に真空チャンバー2内の圧力をP1からP2に変更する際の圧力変化の様子を示すが、オーバーシュートを生じたりして高低変化を繰り返しながらP2に収束していく。真空チャンバー2内の圧力が高低変化している段階で2次印刷を行おうとすると、スキージの位置によって圧力が異なってしまい、印刷表面の平坦性等の印刷品質に影響を及ぼす。このため、
図7のように、二次印刷を開始するまでに真空チャンバー2内の圧力が安定する迄の安定化待ち時間を設けているが、タクトタイムにおいては好ましくない。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みて成されたものであり、真空差圧充填を行うのに際して、印刷品質を維持しつつタクトタイムを短縮することができる印刷装置および印刷方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
大気圧より低い圧力P1雰囲気下で孔版印刷を行う一次印刷と、大気圧より低く前記圧力P1より大気圧に近い圧力P2で孔版印刷を行う二次印刷とを行う印刷装置であって、
孔版上に印刷材を供給する印刷材供給手段と、孔版上の印刷材を孔に押し込むスキージと、前記印刷材供給手段と前記スキージを収納する真空チャンバーと、前記前記真空チャンバーと連通した真空排気装置と、前記真空チャンバーおよび前記真空排気装置と連通しており、前記真空チャンバー内を減圧調整する減圧容器とを備え
、
一次印刷終了後に、前記真空チャンバーと前記減圧容器の間を開放して、真空チャンバー内の圧力をP1からP2に変化させることを特徴とする。
【0014】
請求項
2に記載の発明は、請求項
1に記載の印刷装置であって、
真空チャンバーの有効容積がV1、減圧容器の有効容積がV2であれば、一次印刷実行中に減圧容器内の圧力PXを、PX=P2+(P2−P1)×V1/V2 に調整することを特徴とする。
【0015】
請求項
3に記載の発明は、請求項1
または請求項2のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記真空チャンバー内が大気圧状態の時に前記減圧容器内を真空排気し、前記真空チャンバー内を真空排気を開始する際に、前記減圧容器により真空チャンバー内を真空排気する機能を有したことを特徴とする。
【0016】
請求項
4に記載の発明は、請求項
3に記載の印刷装置であって、
前記真空チャンバーの真空排気を開始した後に、前記真空チャンバー内の圧力と前記減圧容器内の圧力が等しくなった時点で、前記真空チャンバーと前記減圧容器の間を閉止する機能を有したことを特徴とする。
【0017】
請求項
5に記載の発明は、
孔版上に印刷材を供給し、大気圧より低い圧力P1雰囲気下で孔版印刷を行う一次印刷と、大気圧より低く前記圧力P1より大気圧に近い圧力P2で孔版印刷を行う二次印刷とを、真空チャンバー内で行う印刷方法であって、真空チャンバー内の圧力をP1からP2に変化させるのに際して、真空チャンバーと別に設けた減圧容器内の圧力を真空チャンバー内に開放して圧力調整することを特徴とする。
【0018】
請求項
6に記載の発明は、請求項
5に記載の印刷方法であって、
真空チャンバーの有効容積がV1、減圧容器の有効容積がV2であれば、一次印刷実行中に減圧容器内の圧力PXを、PX=P2+(P2−P1)×V1/V2 に設定することを特徴とする。
【0019】
請求項
7に記載の発明は、請求項
5または請求項
6に記載の印刷方法であって、
前記真空チャンバー内が大気圧状態の時に前記減圧容器内を真空排気し、
前記真空チャンバー内を真空排気を開始する際に、前記真空チャンバー内の圧力と前記減圧容器内の圧力が等しくなるまで、真空チャンバー内の圧力を前記減圧容器内に開放することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、真空差圧充填で一次印刷の圧力から二次印刷に変化させる際の圧力変化にオーバーシュートが発生することなく短時間で二次印刷の圧力に収束することができる。このため、真空差圧充填を行うのに際して、印刷品質を維持しつつタクトタイムを短縮することができる。さらに、印刷雰囲気を一次印刷の圧力に減圧する際の時間も短縮できることによるタクトタイム短縮効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る印刷装置の装置構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る印刷装置による真空差圧充填工程における各ステップ毎のバルブ開閉を説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る印刷装置による別の真空差圧充填工程における各ステップ毎のバルブ開閉を説明する図である。
【
図4】(a)真空差圧充填の一次印刷の印刷開始段階の状態を示す図である(b)同一次印刷の印刷途中の状態を示す図である(c)同一次印刷の印刷終了段階の状態を示す図である。(d)同一次印刷終了後に圧力を上げた状態を示す図である。
【
図5】(e)真空差圧充填の二次印刷の印刷開始段階の状態を示す図である(f)同二次印刷の印刷途中の状態を示す図である(g)同二次印刷の印刷終了段階の状態を示す図である。
【
図6】真空差圧充填を行う印刷装置の装置構成の一例を示す図である。
【
図7】従来の印刷装置による真空差圧充填で、一次印刷から二次印刷の圧力に変更する際の圧力変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る実施形態である印刷装置1である。
図1に示す印刷装置1は被印刷物Wに印刷材Rを印刷するものである。ここで、被印刷物Wとしては、半導体チップを搭載した配線基板や、貫通孔または/および非貫通孔を有する配線基板(主に多層配線基板)等が用いられる。また、印刷材Rとしては、フィラーを混入したエポキシ樹脂等の液状樹脂、エポキシ樹脂をバインダーとして金属微粒子を分散させた導電性ペースト、ハンダペースト等が用いられる。
【0023】
印刷装置1では、真空チャンバー2、印刷材供給手段3、往路用スキージ4、復路用スキージ5、孔版6、孔版ホルダ7、テーブル8、スキージ走行軸9、真空ポンプ10、真空チャンバー圧力計11、減圧容器13、減圧容器圧力計14、バルブSV1、バルブSV2、バルブSV3、バルブSV4、バルブSV5、および制御装置12を備えている。 真空チャンバー2は、印刷材供給手段3、往路用スキージ4、復路用スキージ5、孔版6、孔版ホルダ7、テーブル8およびスキージ走行軸9を収納可能な密閉空間を形成するものである。真空チャンバー2は、内部を真空状態にした時の、内外の圧力差に耐える構造、材料によって構成されるが、内部を目視観察できる透明な樹脂やガラスから成る窓部を備えていることが望ましい。
【0024】
印刷材供給手段3は、孔版6上に印刷材Rを供給するものであり、印刷材Rを貯留した貯留タンク、貯留タンク内の印刷材Rを圧送する圧送ポンプ、及び圧送された印刷材Rを吐出するシリンジを備えているが、
図1ではシリンジ部分を図示している。
【0025】
往路用スキージ4および復路用スキージ5は、孔版6上の印刷材Rを孔版6の孔部に押し込む機能を有しており、往路用スキージ4が印刷材Rを孔版6の孔部に押し込む工程を往路印刷、復路用スキージ5が印刷材Rを孔版6の孔部に押し込む工程を復路印刷とする。往路印刷と復路印刷は同じスキージ走行軸9に沿って行われるが、往路印刷と復路印刷では進行方向が180度異なる。なお、本明細書においては、印刷材供給手段3が所定位置で供給した状態の印刷材Rを孔版6の孔部に押し込む孔版印刷を往路印刷としている。また、印刷装置1は、往路印刷で復路用スキージ5が印刷材Rに接触しない高さに待避し、復路印刷で往路用スキージが印刷材Rに接触しない高さに待避する機能を有している。
【0026】
往路用スキージ4および復路用スキージ5の材質は、ともに、印刷材Rの粘度等の特性に応じて適したものを選ぶが、硬度としては60〜90度の範囲になる。
【0027】
孔版6は、ステンレス鋼等の金属を材質として厚さ0.05mm〜2mmを有する金属薄板からなり、目的とする印刷パターンに応じた孔部を備える。
【0028】
孔版ホルダ7はステンレス鋼等の金属を材質として、高さ1cm〜2cm程度の堰を形成するように孔版6にに取り付けられ、被印刷物W上に孔版6を固定している。
【0029】
テーブル8は、被印刷物Wを水平に載置する載置面を有しており、載置面は充分な平面度を有するように加工されている。また、必要に応じて被印刷物Wを吸着保持するための微小な吸着孔を多数備えてもよい。
【0030】
スキージ走行軸9は、往路用スキージ4および復路用スキージ5の移動方向を一定方向に規制するものであり、剛性の高い材質によって構成されている。また、往路用スキージ4および復路用スキージ5は、図示しない駆動機構により、スキージ走行軸9に沿って移動するとともに上下移動も行う。
【0031】
減圧容器13は、真空チャンバー2内の圧力を一次印刷時の圧力P1から二次印刷時の圧力P2に変更する際に用いられるものである。一次印刷後に減圧容器13内の圧力を真空チャンバー2内に開放することで、真空チャンバー2内の圧力が圧力P2に調整することができる。すなわち、真空チャンバー2に直接大気を取り込む場合に比べて、瞬時に圧力P1から圧力P2への圧力調整を行うことができる。なお、減圧容器13内の圧力が真空チャンバー2内の圧力よりも低ければ、真空チャンバー2内を減圧する際に利用することもできる。減圧容器13には内部を減圧状態の一定圧力に維持する機能が求められるので、密閉性を有し、内部を真空状態にした時の内外の圧力差に耐える材料構造から成っている。
【0032】
真空ポンプ10は、真空チャンバー2内および減圧容器13内を真空にするための真空排気装置である。ここで、印刷装置1では精密な電子部品等が被印刷物Wとなることから、真空チャンバー2内を水や油で汚染しない性能が真空ポンプ10には不可欠であるが、真空チャンバー2内および減圧容器13内を素早く真空状態にする排気能力と、真空チャンバー2内および減圧容器13内を高真空にする到達真空度の高さも求められる。これらの性能および用途等により真空ポンプの種類が選定される。具体的には、ドライ真空ポンプやルーツポンプが実用的な性能を備えているが、これに限定されるものではない。
【0033】
真空チャンバー圧力計11は真空チャンバー2内の圧力を測る圧力計であり、減圧容器圧力計14は減圧容器13内の圧力を測る圧力計である。真空チャンバー圧力計11、減圧容器圧力計13は、何れも大気圧から真空領域の圧力測定に用いられる真空計あるが、大気圧付近と真空領域で異なる真空計を組み合わせたものであってもよい。例えば、大気圧付近では静電容量等の変化を利用した電気式圧力計を用い、真空領域ではピラニー式真空計を用いるような組み合わせである。
【0034】
バルブSV1は、真空チャンバー2と真空ポンプ10の間の配管を開通状態あるいは閉止状態にするものである。バルブSV2は、真空チャンバー2と大気に通じる配管を開通状態あるいは閉止状態にするものである。バルブSV3は真空チャンバー2と減圧容器12の間の配管を開通状態あるいは閉止状態にするものである。バルブSV4は、減圧容器12と空ポンプ10の間の配管を開通状態あるいは閉止状態にするものである。バルブSV5は、減圧容器12と大気に通じる配管を開通状態あるいは閉止状態にするものである。
【0035】
なお、本明細書において真空チャンバー2の有効容積V1とは、真空チャンバー2本体の容積から、真空チャンバー2内に収納した、印刷材供給手段3、往路用スキージ4、復路用スキージ5、孔版6、孔版ホルダ7、テーブル8、スキージ走行軸9等の体積を引いた値に、バルブSV1、バルブSV2およびバルブSV3の各バルブまでの配管内の容積を加えたものである。また、減圧容器13の有効容積V2とは、減圧容器13本体の容積にバルブSV3およびバルブSV4までの配管内の容積を加えたものである。
【0036】
また、真空チャンバー2の有効容積V1に対して、減圧チャンバー13の有効容積V2の容積比は、小さすぎると本発明の効果が現れにくく、大きすぎると装置体積が大きくなり過ぎて好ましくないことから、0.1〜3倍、望ましくは0.3〜1.5倍である。
【0037】
制御装置12は、タッチパネル等の入出力装置、メモリチップやマイクロプロセッサなどを主体としたハードウエア、このハードウエアを動作させるためのコンピュータプログラムを組み込んだハードディスク装置、及びデータ通信を行うインターフェイスなどから構成される。制御装置12は、印刷材供給手段3、往路用スキージ4と復路用スキージを移動させる駆動部、真空ポンプ10、バルブSV1、バルブSV2、バルブSV3、バルブSV4およびバルブSV5に接続して、各々の制御を行う。また、制御装置12は、真空チャンバー圧力計11および減圧容器圧力計14に接続し、真空チャンバー圧力計11および減圧容器圧力計14が測定した圧力値を読み込む機能を有している。
【0038】
図1の印刷装置1を用いて、真空差圧充填を用いた孔版印刷を行うのに際して、一次印刷の圧力をP1、二次印刷の圧力をP2とする。一次印刷時の圧力P1は、真空チャンバー2内の到達真空度に近い値であり、選定する真空ポンプ10の種類によっても異なるが10〜500Pa程度である。一方、二次印刷時の圧力P2は、圧力P1の10〜1000倍程度が選定され、具体的な数値としては500〜20000Paの範囲内である。
【0039】
以下、
図1の印刷装置1を用いた真空差圧充填の例を
図2の表にしたがって説明する。
【0040】
まず、STEP1は、真空チャンバー2が大気開放された状態であり、この状態で被印刷物Wや孔版6の交換作業を行う。このステップでは、バルブSV1およびバルブSV3は閉止され、バルブSV2は開かれているので、真空チャンバー2内は大気圧状態となっている。また、バルブSV4が開かれて、バルブSV5は閉止されているので、減圧容器13内は真空ポンプ10により減圧され、圧力が低下していく。STEP1の状態において、制御手段12は減圧容器圧力計14が減圧容器13内の圧力値を監視する。
【0041】
STEP1で、被印刷物Wや孔版6の交換作業が完了し、減圧容器圧力計14が測定する圧力値がPV(およびPV以下)になっていたら、STEP2に進む。ここで、PVは、真空ポンプ10による減圧容器13の減圧が限界に近いと見なせる圧力として、事前に設定した値である。
【0042】
STEP2では、制御装置12はバルブSV2及びバルブSV4を閉止し、真空チャンバー2内を減圧すべくSTEP3に進む。
【0043】
STEP3において、制御装置12はバルブSV3を開く。バルブSV3を開くことにより、真空チャンバー2内はバルブSV3を経由して真空状態の減圧容器13によって減圧される。このため、真空チャンバー2内の減圧を開始した段階において、真空チャンバー2内の大気を減圧容器13に開放することで、素早く圧力を低下させることができる。ただし、真空チャンバー2内の圧力と減圧容器13の圧力が等しくなった段階で、真空チャンバー2と減圧容器13の圧力が平衡するため、減圧容器13による真空チャンバー2内の減圧は停止する。このため、STEP3において、制御装置12は、真空チャンバー圧力計11および減圧容器圧力計14が測定する圧力値を監視している。
【0044】
制御装置12は、真空チャンバー圧力計11と減圧容器圧力計14が測定する圧力値が等しく(圧力値はPE)なった段階で、STEP4としてバルブSV3を閉止する。
【0045】
次のSTEP5で、制御装置12はバルブSV1を開き、真空チャンバー2内は真空ポンプ10によって減圧され、制御手段12は真空チャンバー圧力計11が真空チャンバー2内の圧力値を監視する。
【0046】
STEP6として、真空チャンバー圧力計11の測定する真空チャンバー2内の圧力値が一次印刷を行う行う圧力P1になった段階で、制御装置12は一次印刷開始可能と判断し、STEP7に進む。
【0047】
STEP7では、真空チャンバー2内で、圧力がP1の状態で一次印刷が実施される。STEP7では、一次印刷と併行して、減圧容器13内の圧力調整を行う。すなわち、後述のSTEP9で、(バルブSV1を閉じた後に)バルブSV3を開くことで、真空チャンバー2内の圧力が二次印刷を行う圧力P2となるような圧力PXに調整する。
ここで、圧力P1、P2、PXの関係は、真空チャンバー2の有効容積をV1、減圧容器13の有効容積をV2とすると、
P1×V1+PX×V2=P2×(V1+V2) ・・(1)
となるので、(1)式を変形して以下のようにPXが求まる。
【0048】
PX=P2+(P2−P1)×V1/V2 ・・(2)
ここで、後述のとおり、P2はP1の数十倍の圧力であるので、PXは(3)式のように近似してもよい。
【0049】
PX≒P2(1+V1/V2) ・・(3)
なお、減圧容器12内の圧力はSTEP4でバルブSV4を閉じた時のPEが一次印刷開始時点でも維持されている。このため、PXがPEよりも高圧力(大気圧に近い)であれば、制御装置12はバルブSV5を開けて大気を取り込んで、減圧容器13内の圧力をPXに調整する(STEP7a)。一方、PXがPEよりも低圧力(真空側)であれば、制御装置12は、バルブSV1を閉じた後にバルブSV4を開け、真空ポンプ10で減圧することにより減圧容器13内の圧力をPXに調整する(STEP7b)。
【0050】
一次印刷が完了したらSTEP8に移行し、制御装置12はバルブSV1を閉じて、真空チャンバー2内の圧力をP2に上げることに備える。
【0051】
次のSTEP9で、制御装置12はバルブSV3を開き、減圧容器13内の空気を真空チャンバー2に開放するとともに、真空チャンバー圧力計11で真空チャンバー2内の圧力を監視する。
【0052】
制御装置12は、真空チャンバー圧力計11により真空チャンバー2内の圧力が二次印刷を行うP2となった時点で、STEP10としてバルブSV3を閉じ、二次印刷開始を行うSTEP11に進む。
【0053】
STEP11では、真空チャンバー2内で、圧力がP2の状態で二次印刷が実施される。二次印刷終了後には、STEP12に進む。
【0054】
二次印刷終了後に制御装置12は、STEP12として、被印刷物Wや孔版6の交換作業を行えるよう、バルブSV2を開けて、真空チャンバー2内を大気圧に戻す。真空チャンバー2内が大気圧になった後は、STEP1に戻る。
【0055】
以上の手順において、例えば、真空チャンバー2の有効容積をV1と減圧容器13の有効容積をV2が等しく、一次印刷時の圧力P1が130Pa、二次印刷時の圧力が5000Pa(5kPa)という条件で真空差圧充填を行う場合、PXは式(3)より約10000Pa(10kPa)となる。このため、バルブSV2を開けることで大気(100kPa)を取り込む場合に比べて、一次印刷時の圧力P1との圧力差が小さく、真空チャンバー内の圧力をP1からP2に変化させる際に
図7に示したようなオーバーシュートが発生することなく圧力P2に収束し、一次印刷後に二次印刷を開始するまでの時間が短縮できる。さらに、STEP3のように減圧容器13を真空チャンバー12の減圧に用いることによるタクトタイム短縮効果もある。
【0056】
なお、真空チャンバー2の有効容積V1と減圧容器13の有効容積V2は厳密に知る必要はなく、式(2)および式(3)に示す様に圧力PXを知るためには、V1/V2の比が判ればよい。更に、暫定的に設定したV1/V2により求めたPXを用いて得られたP2と既知のP1により、式(2)を変形した、
V1/V2=(PX−P2)/(P2−P1) ・・(4)
によりV1/V2を補正すれば良い。更に、P2とP1の比が大であれば、(3)式を変形した、
V1/V2=PX/P2−1 ・・(5)
によりV1/V2を補正しても良い。
【0057】
また、STEP7において、減圧容器13内の圧力はPXの2倍程度の範囲なら、式(2)で求めたPXより高くても良い。ただし、STEP7で減圧容器13内の圧力をPXより高い場合は、STEP10で、真空チャンバー2内の圧力がP2に達した時点で即座にバルブSV3を閉じる必要がある。
【0058】
図3には、本発明による真空差圧充填の別実施形態の例を示す。
図3の例では、
図2の例と異なり、真空チャンバー2内の減圧開始時点でバルブSV1を開けて、真空ポンプ10による減圧を行い、真空チャンバー2内の圧力がPYとなった段階でバルブSV1を閉じてバルブSV3を開けている。ここでPYが、
PY×V1+PV×V2=PX×(V1+V2) ・・(6)
を満たせば、真空チャンバー2内と減圧容器13内の圧力がPXで平衡するので、その段階でバルブSV3を閉じれば(STEP5)、減圧容器13内の圧力をPXに維持することができ、一次印刷中(STEP7)に減圧容器13内の圧力調整を行う必要がなくなる。
【符号の説明】
【0059】
1 印刷装置
2 真空チャンバー
3 印刷材供給手段
4 往路用スキージ
5 復路用スキージ
6 孔版
7 孔版ホルダ
8 テーブル
9 スキージ走行軸
10 真空ポンプ
11 真空チャンバー圧力計
12 制御装置
13 減圧容器
14 減圧容器圧力計