(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電池制御装置によれば、放電時の電圧が下限電圧よりも下がらないように規制されることで二次電池の劣化が抑制されるようになる。
ただし近年、二次電池の蓄電量をより有効に利用することが求められている。このとき、必要以上に下限電圧を低く設定してしまうと、急激な放電などが生じたときなどに電池が急激に劣化してしまうおそれが高まる。そこで、放電をより適切に規制することが求められている。
【0006】
本発明は、こうした課題に鑑みなされたものであって、その目的は、電池の放電をより適切に規制することのできる電池制御装置、及び電池制御方法、及び前記電池の制御で用いられる下限電圧の決定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する電池制御装置は、二次電池の電圧が下限電圧未満にならないように当該二次電池の放電を制御する電池制御装置であって、前記二次電池の温度及び電圧をそれぞれ取得する状態取得部と、前記取得される各温度下で測定される電圧毎に当該電圧値に滞在した時間の累積値を取得する累積時間取得部と、前記取得される温度、電圧及び時間の累積値をパラメータとして用いて前記二次電池の劣化量を算出する劣化量算出部と、前記算出される劣化量に応じて前記二次電池の放電に関する制御を行う制御部とを備えることを要旨とする。
【0008】
上記課題を解決する電池制御方法は、二次電池の電圧が下限電圧未満にならないように当該二次電池の放電を制御する電池制御方法であって、前記二次電池の温度及び電圧をそれぞれ取得する状態取得工程と、前記取得した各温度下で測定される電圧毎に当該電圧値に滞在した時間の累積値を取得する累積時間取得工程と、前記取得した温度、電圧及び時間の累積値をパラメータとして用いて前記二次電池の劣化量を算出する劣化量算出工程と、前記算出した劣化量に応じて前記二次電池の放電に関する制御を行う制御部とを備えることを要旨とする。
【0009】
二次電池の劣化量を決定するときのパラメータとしては「電流」が考えられる。しかし、このような構成又は方法によれば、パラメータに「温度」、「電圧」、電圧値に滞在した「時間」の累積値を含み、「電流」を含まない構成によって劣化量の算出がなされて放電に関する制御が行われることにより、放電をより適切に規制することができる。これにより例えば、劣化量に応じて二次電池の放電に関する制御を行うことで、適切な制御が行えるので、電池の放電を過度に規制することが抑制され、電池性能が十分に発揮されるようになる。
【0010】
好ましい構成として、前記二次電池は、主活物質と添加物としての金属化合物とを含む正極を有し、前記劣化量は、前記金属化合物の還元反応に起因して算出される量である。
還元した金属化合物は不活性になり充放電に寄与できなくなるため電池の性能が劣化する。よって、このような構成によれば、二次電池の放電を、電池の発電要素の正極に含まれる金属化合物の還元反応に対応して制御することができる。
【0011】
好ましい構成として、前記二次電池はニッケル水素二次電池であり、前記主活物質がニッケル酸化物であり、前記金属化合物がコバルト化合物である。
このような構成によれば、二次電池の放電が制御されることにより、ニッケル水素二次電池において、正極のコバルト化合物の還元反応が抑制されるようになる。
【0012】
好ましい構成として、前記制御部は、前記下限電圧の高さを決定する下限電圧決定部を備え、前記下限電圧決定部は、前記劣化量が大きくなることに応じて前記下限電圧を高い値に決定する。
【0013】
このような構成によれば、電池の発電要素の劣化量が大きくなる、すなわち発電要素の発電能力が低下することに応じて下限電圧を高い値に決定することができる。これにより、劣化した二次電池については、より劣化しにくい下限電圧による制御を行い、電池の劣化の進行を遅らせて電池寿命を延ばすことができるようになる。
【0014】
好ましい構成として、前記下限電圧決定部は、前記下限電圧に決定する電圧として第1規制電圧と該第1規制電圧よりも高い電圧である第2規制電圧とを有し、前記劣化量が所定の閾値以下のときは前記第1規制電圧を前記下限電圧に決定し、前記第1規制電圧を前記下限電圧に決定しないときは前記第2規制電圧を前記下限電圧に決定する。
【0015】
このような構成によれば、下限電圧に決定される電圧として第1規制電圧及び第2規制電圧の2つを設けられ、これを劣化量の所定の閾値との比較に応じて選択するようにすることで、劣化量に適した下限電圧を決定することが容易になる。
【0016】
好ましい構成として、前記劣化量が前記所定の閾値になるまでに要すると予測される期間又は走行距離が予め定められており、前記下限電圧決定部はさらに、前記劣化量が前記所定の閾値になるまでに要した期間又は走行距離が、前記予測される期間又は走行距離よりも一定以上小さい場合、前記第1規制電圧を前記下限電圧に決定する。
【0017】
このような構成によれば、劣化量が所定の閾値を超えたとしても、上記条件の下で下限電圧が第1規制電圧に決定される。これにより、電池の放電が下限電圧によって過度に規制されることが抑制され、電池性能を十分に発揮できる状態での電池の使用範囲の拡大が図られるようになる。
【0018】
好ましい構成として、前記制御部は、前記劣化量と比較する通知用閾値を有し、前記劣化量が前記通知用閾値を超えるとき、その旨を示す情報を出力する。
このような構成によれば、劣化量が通知用閾値を超えることによって二次電池の劣化が通知されるため、二次電池の劣化への対応を可能にすることができる。
【0019】
上記課題を解決する下限電圧の決定方法は、二次電池の放電電圧の下限値とする下限電圧を決定する方法であって、前記二次電池の温度と、電圧と、各温度下で測定される電圧毎に当該電圧に滞在した時間を累積した時間の累積値とをパラメータとして用いて前記二次電池の劣化量を表す関係を作成する関係作成工程と、前記二次電池の電池状態の良否を前記作成した関係に基づいて算出した劣化量に基づいて区分する境界値を設定する境界値設定工程と、前記二次電池の電圧が特定の態様の充放電中に規定の制限電圧を下回る値に滞在していることが許容される時間を許容時間として推定する許容時間推定工程と、前記二次電池を前記許容時間だけ放電させたときに前記作成した関係に基づいて算出した劣化量が前記境界値に到達する電圧を温度毎に算出し、該算出した電圧をその都度の温度に対応する下限電圧として決定する下限電圧決定工程とを備えることを要旨とする。
【0020】
このような方法によれば、二次電池の温度、電圧、及び時間の累積値をパラメータとして用いて劣化量を算出するための関係式などの関係が作成され、この作成された関係に基づき取得される劣化量から下限電圧を決定することができるようになる。つまり、下限電圧を「電流」を用いないで得られる劣化量を示す関係から決定することができる。そして、劣化量に基づく制御によれば、適切な制御が行えるので電池の放電を過度に規制することを抑制し、電池性能を十分に発揮させることができるようにもなる。
【発明の効果】
【0021】
このような電池制御装置、及び電池制御方法、及び下限電圧の決定方法によれば、電池の放電をより適切に規制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1〜3を参照して、電池制御装置、電池制御方法、及び下限電圧の決定方法を具体化した一実施形態について説明する。ここで二次電池は、ニッケル水素二次電池であり、ニッケル水素二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両に搭載され、走行用モータの電源として用いられる。
【0024】
一般的に、ニッケル水素二次電池では、満充電された電池容量に対する残存容量が割合[%]で示される。そして一般に、ニッケル水素二次電池は、その充放電を、使用範囲として定められた残存容量の範囲内(例えば、40%〜80%の間)に規制されている。またニッケル水素二次電池では、電池性能の劣化を抑制させる電圧として下限電圧が設定されており、下限電圧を下回らないように放電が規制される。つまり、ニッケル水素二次電池は、電圧が下限電圧を下回ると劣化状態が早く進行するおそれ高まる。下限電圧は、その設定が低いほどニッケル水素二次電池の出力範囲が広がって出力できる電気量が増加するため出力性能が向上する。一方、下限電圧は、その設定値が低すぎると電池の出力特性の劣化(劣化状態)をより早く進行させるおそれが高まる。そこで、本実施形態では、ニッケル水素二次電池の性能劣化を招くおそれが低く、かつ、出力範囲が広げられる下限電圧が適切に設定される場合について説明する。
【0025】
図1に示すように、ニッケル水素二次電池は、複数の単電池100(第1〜第6セル101〜106)が直列に接続された電池モジュール10として構成されている。電池モジュール10は、各セル101〜106を電気的に直列接続させてなる正極端子11と、負極端子12とを充放電に用いる入出力端子として備える。正極端子11及び負極端子12にはそれぞれ、外部配線である正側配線PL及び負側配線NLが接続され、これら正側配線PL及び負側配線NLを介して負荷としての電動モータや電源等が接続されている。電池モジュール10は、一体電槽がその内側の空間を隔壁によって仕切ることにより6つの電槽が設けられ、各電槽が各セル101〜106に対応する。単電池100は、水素吸蔵合金を含む所定枚数の負極111と、水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)を含む所定枚数の正極112とを、耐アルカリ性樹脂の不織布から構成されるセパレータ(図示略)を介して積層した電極群113を備えている。そして、単電池100は、電極群113の負極111を負極側の集電板114に接続させ、電極群113の正極112を正極側の集電板115に接続させ、電解液(図示略)とともに樹脂製の電槽内に収容して構成される。
【0026】
正極112は、金属多孔体である発泡ニッケル基板と、発泡ニッケル基板に充填された水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等のニッケル酸化物を主成分とする正極活物質、添加剤(導電剤等)を有する。
【0027】
導電剤は、金属化合物であり、ここではオキシ水酸化コバルト(CoOOH)等のコバルト化合物であってニッケル酸化物の表面を被覆している。出荷時の電池モジュール10においては、ニッケル酸化物の表面を被覆するコバルト化合物は、3価のコバルト(Co
3+)を含む状態で存在している。導電性の高いオキシ水酸化コバルトは、正極内において導電性ネットワークを形成し、正極の利用率(「放電容量/理論容量」の百分率)を高めている。予め設定された単電池100毎の作動電圧範囲内では、オキシ水酸化コバルトは安定である。従って、単電池100が作動電圧範囲内で作動している限り、導電剤の大半が水酸化コバルト等に還元されることはない。しかし、単電池100において劣化状態を進行させるおそれが生じる正極電位(以下、状態区別電位と称する。)(例えば、「0.1V」)を下回っても放電を継続すると、その単電池100の電池電圧は、Co
3+/Co
2+の平衡電位である「0.1V」を下回り、オキシ水酸化コバルトから電気的に不活性な水酸化コバルトへの還元が生じることがある。オキシ水酸化コバルトの還元により導電性ネットワークを形成する3価のコバルトが減少して正極112の導電性が低下することになるため、放電容量の低下、直流内部抵抗等の内部抵抗の増大など正極の劣化が生じる。よって、金属化合物を含む正極の劣化状態が進行する。なお、本実施形態では、一般的に、単電池100の電圧と正極電位との間には、「電圧=正極電位+0.9」の関係があり、相互に変換可能である。
【0028】
ところで正極112は、その劣化状態を例えばdQ/dV値で示すことができる。dQ/dV値は、正極電位の変化率dV/dtに対する残存容量の変化率dQ/dtの割合であり、単位電圧あたりの残存容量の変化を示し、正極の劣化状態の判定、さらには二次電池の劣化状態の判定に用いられる。
【0029】
図4の曲線L1に示すように、単電池100は、3価のコバルトが2価のコバルトに還元される際に電子が消費されることで、dQ/dV値が負の方向に増大するピークがみられる。このピークは、dQ/dV値の変化量が急速に増大していることを示し、ピークが出現する正極電位範囲は、Co
3+/Co
2+の平衡電位「0.1V」よりも小さい電位範囲である。
図4の曲線L1では、dQ/dV値の最小値、即ちdQ/dV値の変化量の最大値は、正極電位が「0.03V」付近にみられる。dQ/dV値の最小値が出現する正極電位は、還元反応の反応量が最も大きくなる電位である。本実施形態では、単電池100のdQ/dV値をその変化量が最大値であるピーク値として取得する。なお、dQ/dV値をその変化量が最大値であるピーク値以外の位置として定めて取得してもよい。
【0030】
負極111は、パンチングメタルなどからなる電極支持体と、電極支持体に塗布された水素吸蔵合金(MH)とを有する。
こうした単電池100は、出荷時の状態である初期状態では、負極容量が正極容量よりも大きい正極規制とされている。このため、負極容量には、正極容量に対して余分に設けられた容量としての充電リザーブ及び放電リザーブが含まれている。
【0031】
そして単電池100は、正極112の状態区別電位を下回っても放電が継続されると正極112の劣化の進行が早まる。状態区別電位を下回る放電による単電池100の劣化は正極の劣化を一因とするものであるため、正極が状態区別電位を下回るおそれの少ない電圧が下限電圧として設定され、単電池100の放電が規制される。ここで状態区別電位を下回る放電による単電池100の劣化(劣化状態の進行)は、上述したように、正極に添加剤として含まれる金属化合物(コバルト化合物)の非可逆的に進行する金属溶出反応(オキシ水酸化コバルトの還元)が進む正極の劣化(劣化状態の進行)に応じて進行する。
【0032】
ところで単電池100は、大電流の放電によってセルの出力電圧が急激に低下してしまうおそれがある。もし、正極112の正極電位が電位「0.1V」よりも低下することなどにより状態区別電位を下回る放電となると、正極112には金属溶出反応が生じるおそれが高まる。とりわけ、車両に搭載されたニッケル水素二次電池は、走行負荷の急激な上昇に応じて要求される大電流の放電により状態区別電位を下回る放電が生じるおそれがあるため、こうした状態区別電位を下回る放電を適切に規制する下限電圧の設定が望まれている。なお、状態区別電位、単電池100に対する下限電圧、電池モジュール10に対する下限電圧、組電池に対する下限電圧は相互に変換可能である。例えば、単電池100の下限電圧から電池モジュール10を構成するセルの数に応じて電池モジュール10用の下限電圧を算出することが可能である。よって以下では、説明の便宜上、状態区別電位、単電池100に対する下限電圧、電池モジュール10に対する下限電圧などを変換せずに説明することもある。
【0033】
電池制御装置における電池モジュール10の放電制御について説明する。
電池モジュール10には、電池の放電を制御する電池制御装置としての制御装置50が接続されている。制御装置50は、下限電圧を電池モジュール10の電池状態に応じて設定する。そして、制御装置50は、電動モータなどの放電回路(図示略)による大電流の放電によっても電池モジュール10の端子間電圧が、設定されている電池モジュール10用の下限電圧未満に低下することを抑制させるように電池モジュール10からの放電を規制する。
【0034】
電池モジュール10は、正極端子11と負極端子12との間に端子間電圧を測定する電圧計40が電気的に接続され、負側配線NLに入出力電流を測定する電流計41が電気的に直列接続されている。電圧計40は測定した電圧に応じた信号を、電流計41は測定した電流に応じた信号をそれぞれ制御装置50に出力する。
【0035】
制御装置50は、演算部や記憶部を有するコンピュータを含み構成されており、記憶部等に記憶されたプログラムの演算部での演算処理を通じて下限電圧決定処理などの各種処理を行う。制御装置50は、入力される各信号から電池モジュール10の端子間電圧、入出力電流及び電池温度を得る。また、制御装置50は、放電を規制する信号などを電動モータの駆動を制御する負荷制御装置などに出力する。
【0036】
制御装置50は、電池の状態を取得する状態取得部51と、所定の状態にある時間の累積値を取得する累積時間取得部52と、二次電池の劣化量を算出する劣化量算出部53と、下限電圧を決定する制御部としての下限電圧決定部54とを備えている。また、制御装置50は、記憶部等に記憶された下限電圧データ55を備えている。
【0037】
下限電圧データ55には、第1規制電圧としてのマップデータL11と,第2規制電圧としてのマップデータL12とが、
図3に示される各マップデータL11,L12が示すデータとして保持されている。マップデータL11,L12は、電池の温度から下限電圧を取得することができるマップデータを示すグラフである。詳述すると、マップデータL11は、電池の劣化状態が進んでいない(劣化度が低い)ときに設定するべき下限電圧を決定するためのマップデータであり、マップデータL12は、電池の劣化状態が進んでいる(劣化度が高い)ときに設定すべき下限電圧を決定するためのマップデータである。そして、マップデータL11から得られる下限電圧は、マップデータL12から得られる下限電圧よりも低い電圧となるようになっている。2つのマップデータL11,L12を算出される劣化量に応じて切り換えることで下限電圧の高さが決定されるようになる。よって、劣化量が大きくなることに応じて下限電圧が高い値に決定される。なお、これらのマップデータは、電池の任意の温度に基づいて対応する下限電圧を取得することができる関数や、同取得することができるグラフなどに代えることもできる。
【0038】
状態取得部51は、電圧計40からの信号を入力して電池の電圧を取得し、温度計20からの信号を入力して電池の温度を取得する(状態取得部工程)。なお、状態取得部51は、電流計41からの信号を入力して電池の電流を取得してもよい。
【0039】
累積時間取得部52は、各温度下で測定される電圧毎に当該電圧値に滞在した時間の累積値を取得する(累積時間取得工程)。つまり、使用により充放電が繰り返される環境下において、逐次変化する電圧が各電圧値に滞在している時間の累積値を電圧値の別に、かつ、電池の温度の別に取得する。
【0040】
劣化量算出部53は、電池から取得した電圧、温度、及び、当該取得した温度及び電圧に対応する時間の累積値に基づいて二次電池の劣化量を算出する(劣化量算出工程)。換言すると、劣化量を、パラメータに「温度」、「電圧」、「時間」を含む関係式に基づいて算出する。なお、本実施形態では、劣化量はdQ/dV値に基づくものである。具体的には、電池のdQ/dV値から、初期状態の電池のdQ/dV値(dQ/dV初期値)を減算した値である。このように、本実施形態では、パラメータに「温度」、「電圧」、「時間」を含み、「電流」を含まない構成に基づいてdQ/dV値を求めることができる。例えば、こうした劣化量を表す関係として、下記式(1),(2)に示される関係が得られる。また式(1)を適用して、劣化量を算出する例を式(3)に示す。式(3)は、温度35[℃]下で正極電位が0.2[V]に1秒間滞在した(時間1[s])場合の劣化量を示している。なお、充放電が繰り返される間に電位や温度が変化する場合、電位と温度との組み合わせ及びその状態に滞在した時間をもとに劣化量をそれぞれ算出し、足し合わせることでトータルの劣化量を算出する。こうして算出した電池モジュール10の劣化量に基づき算出されるdQ/dV値が下限電圧の決定に用いられる。また、式(2)及び(3)に含まれる係数「−bb」,「−cb」,「bc」,「cc」については、後に詳述する。
【0044】
下限電圧決定部54は、下限電圧データ55との照合に基づいて電池温度に対応する下限電圧を取得し、この取得した下限電圧を電池モジュール10の電池状態に対応する下限電圧として設定する。また、下限電圧決定部54は、算出したdQ/dV値に基づいて、下限電圧データ55に設定されているマップデータL11、又はマップデータL12のいずれか一方を選択し、選択したマップデータから電池温度に対応する下限電圧を取得する。すなわち、下限電圧決定部54は、算出したdQ/dV値を所定の閾値と比較することによって電池の劣化状態の進行度合い(劣化度の高低)を判定する。例えば、dQ/dV値が所定の閾値以下であるとき、劣化状態は進んでいない(劣化度が低い)と判定し、所定の閾値を超えるとき、劣化状態が進んでいる(劣化度が高い)と判定する。そして、下限電圧決定部54は、劣化度が低いとき、マップデータL11から下限電圧を決定し、劣化度が高いとき、マップデータL12から下限電圧を決定する。そして、下限電圧決定部54は、取得したセル(単電池100)用の下限電圧を制御に用いる態様、例えば、電池モジュール10に設けられているセル数倍、例えば6倍にした値に基づいて電池モジュール10用の下限電圧などとして設定する。また、電池モジュール10の各セル101〜106の電圧にばらつきがある場合、そのばらつきを考慮して補正した各セル101〜106の電圧を用いて電池モジュール10の電圧を求めてもよい。
【0045】
なお、本実施形態では、下限電圧決定部54には、所定の閾値としての第1閾値TH1と、第1閾値TH1よりも大きい値の通知用閾値としての第2閾値TH2とが設定されている。第1閾値TH1は、劣化度を判定するための閾値であり、dQ/dV値が第1閾値TH1以下であれば劣化度が低いと判定され、dQ/dV値が第1閾値TH1を超えていれば劣化度が高いと判定される。第2閾値TH2は、二次電池の劣化状態が進行している旨の信号の出力を判定するための閾値であり、dQ/dV値が第2閾値TH2以下であれば通知は行わず、dQ/dV値が第2閾値TH2を超えていれば二次電池の劣化度が進行している旨の信号を出力させる。
【0046】
そして、下限電圧決定部54により決定し、設定された下限電圧によって、制御装置50は二次電池の電圧が下限電圧を下回らないように放電を制御する。また、制御装置50は、dQ/dV値が第1閾値TH1以下のとき、下限電圧の決定にマップデータL11を用い、dQ/dV値が第1閾値TH1より大きいとき、下限電圧の決定にマップデータL12を用いる。これにより、二次電池は、劣化状態の進んでいないときには下限電圧が低くなり出力範囲が広く維持されるとともに、劣化状態の進んだときには下限電圧が高くなりその進行が抑えられるようになる。また制御装置50は、劣化状態が進行したときには、劣化度が進行している旨の信号を表示装置へ出力することで二次電池の劣化状態が進行している(劣化度が高い)ことを警告表示させることなどができる。こうした警告表示によれば、二次電池の交換などが適切に行われるようになる。
【0047】
図2を参照して、制御装置50が下限電圧を決定する動作について説明する。
電池モジュール10を充放電する制御が開始されると、制御装置50では、周期的又は所定の間隔で下限電圧を決定する処理が開始される。なお当初、マップデータL11が下限電圧の決定に用いるデータとして選択される。
【0048】
下限電圧を決定する処理が開始されると、制御装置50は、劣化量算出部53にdQ/dV値の初期値を設定し、下限電圧決定部54にdQ/dV値に対する第1閾値TH1と第2閾値TH2とを設定する(
図2のステップS10,S11,S12)。例えば、dQ/dV値の初期値として「−3.0」が設定され、第1閾値TH1として「−2.0」、第2閾値TH2として「−1.0」が設定される。そして、状態取得部51は、電池電圧を取得し、取得した電池電圧から正極電位を算出する(
図2のステップS13,S14)。また、状態取得部51は、電池温度を取得する(
図2のステップS15)。劣化量算出部53は、式(1)を用いて劣化量を算出するとともに、算出した劣化量と初期値とから現在のdQ/dV値を算出する(
図2のステップS16,S17)。そして、下限電圧決定部54は、算出されたdQ/dV値と第1閾値TH1とを比較して、dQ/dV値が第1閾値TH1を超えているか(大きいか)否かを判定する(
図2のステップS18)。dQ/dV値は、値が高いほど二次電池の劣化状態が進行していることを示している。そして、dQ/dV値が第1閾値TH1を超えていないと判定した場合(
図2のステップS18でNO)、二次電池の劣化状態はそれほど進行していないため、下限電圧決定部54は、電池の劣化状態が進んでいない(劣化度が低い)ときに下限電圧の決定に用いるマップデータL11に基づいて下限電圧を決定する。そして、処理をステップS13に戻し、上に説明した処理を行う。
【0049】
一方、dQ/dV値が第1閾値TH1を超えている(大きい)と判定した場合(
図2のステップS18でYES)、二次電池の劣化状態が進行しているため、下限電圧決定部54は、電池の劣化状態が進んでいる(劣化度が高い)ときに下限電圧の決定に用いるマップデータL12を選択する。すなわち、下限電圧の決定に用いるマップデータが、マップデータL11からマップデータL12に変更される(
図2のステップS19)。そして、マップデータが変更されると、制御装置50は、状態取得部51により取得した電池電圧から正極電位を算出するとともに、電池温度を取得する(
図2のステップS20,S21,S22)。また、制御装置50は、劣化量算出部53にて算出した劣化量と、dQ/dV値の初期値とから現在のdQ/dV値を算出する(
図2のステップS23,S24)。なお、ここで、ステップS20〜S24にかかる処理は、上述のステップS13〜S17にかかる処理と同様であることから詳細な説明は省略する。そして、下限電圧決定部54は、算出されたdQ/dV値と第2閾値TH2とを比較して、dQ/dV値が第2閾値TH2を超えているか(大きいか)否かを判定する(
図2のステップS25)。そして、dQ/dV値が第2閾値TH2を超えていないと判定した場合(
図2のステップS25でNO)、二次電池の劣化状態は進行しつつあるものの、まだ使用可能であるため、下限電圧決定部54は、マップデータL12に基づいて下限電圧を決定する。そして、処理をステップS20に戻し、上に説明した処理を行う。
【0050】
一方、dQ/dV値が第2閾値TH2を超えていると判定した場合(
図2のステップS25でYES)、二次電池の劣化状態がかなり進行しているため、下限電圧決定部54は、二次電池が劣化している旨の信号を出力する。これにより制御装置50は、二次電池が劣化している旨のダイアグを点灯させるなど、二次電池が劣化していることを通知するようにする(
図2のステップS26)。そして、二次電池の使用が継続されている間、下限電圧決定部54は、マップデータL12に基づいて下限電圧を決定する。そして、処理をステップS20に戻し、上に説明した処理を行う。
【0051】
なお、制御装置50は、二次電池の使用が終了されるとき、下限電圧を決定する処理を終了する。
以上のように、本実施形態によれば、パラメータに「温度」、「電圧」及び「時間」を含み、「電流」を含まない構成によって劣化量を算出し、こうして算出した劣化量に基づいて二次電池の放電に関する制御について下限値電圧の決定及び劣化している旨の通知を行うことができる。
【0052】
(劣化量の関係式の作成)
図5〜
図12を参照して、劣化量を算出するための関係式の作成について説明する。
図5には、電池モジュール10から取得した「温度」、「電圧」及び「時間」と、劣化量との関係式を生成する測定装置30が示されている。測定装置30には、電池モジュール10の温度を測定する温度計20と、電池モジュール10の端子間電圧を測定する電圧計23と、電池を放電させる放電回路26及び該放電回路26に流れる電流を測定する電流計25を直列接続させた回路とが接続されている。
【0053】
測定装置30は、演算部や記憶部を有するコンピュータを含み構成されており、記憶部等に記憶されたプログラムの演算部での演算処理を通じて下限電圧マップデータの作成処理などの各種処理を行う。測定装置30は、入力される各信号から電池モジュール10の端子間電圧、入出力電流及び電池温度を得る。また、測定装置30は、放電回路26を制御可能であり、たとえばCV放電などを行わせることができる。
【0054】
測定装置30は、電池の状態を取得する状態取得部31と、電池の状態が所定の状態に維持されている時間の累積値を取得する累積時間取得部32とを備えている。また、測定装置30は、電池の劣化量を算出する関係式を作成する劣化量関係式作成部33と、下限電圧の取得に用いられるマップデータを作成する下限電圧マップ作成部34とを備えている。さらに、測定装置30は、マップデータを作成する際に用いられる各種データなどをマップ作成用パラメータ35として備えている。なお、状態取得部31と累積時間取得部32との機能はそれぞれ、上述した制御装置50の状態取得部51と累積時間取得部52と同様の機能である。
【0055】
図6に示すように、測定装置30は、劣化量関係式作成部33により二次電池の電池状態に基づき劣化量を算出する関係式を作成する処理を行うとともに、下限電圧マップ作成部34は、上記作成された劣化量を算出する関係式に基づき温度に応じた下限電圧の設定に用いられる温度マップ(マップデータ)を作成する処理を行う。こうした処理は、マップデータを作成する必要に応じて行われる。また、dQ/dV値は、劣化量とdQ/dV初期値の和として得られる。
【0056】
まず、測定装置30は、dQ/dV値において、CV放電させたとき、二次電池の正極電位が各電位に滞在する時間[hour]を電位毎に測定する。そして、測定装置30は、「dQ/dV値」とCV放電である特定の電位に滞在していることのできる「時間」との関係を電位毎に取得する(
図6のステップS30)。こうした関係は、温度毎に得られる。また、測定の都度、二次電池を交換するが、説明の便宜上、二次電池を交換することについての説明は割愛する。
【0057】
図7に示すように、「dQ/dV値」と、ある特定の電位に滞在する「時間」との関係は、グラフL20に示されるように反比例のような関係として得られる。ここでは特定の温度に対してグラフL20に示す関係を得た場合を示しており、こうした関係は温度毎に得ることができる。
【0058】
また、測定装置30は、「dQ/dV値」と、ある特定の電位に滞在する「時間」との関係を一次関数に近似する(
図6のステップS31)。本実施形態では、ある特定の電位に滞在する時間である「滞在時間」を平方根の値とすることで「dQ/dV値」と、ある特定の電位に滞在する「時間」との関係を一次式に近似する。こうした関係も、温度毎に得られる。
【0059】
図8に示すように、「dQ/dV値」と、ある特定の電位に滞在する「時間」との関係がグラフL21に示されるような一次式に近似される関係として得られる。そして、グラフL21からグラフの傾きaが「劣化速度a」として得られ、「dQ/dV値」を算出する式が下記式(4)として得られる。但し、「劣化速度a」の単位は[Ah/V/h
1/2]である。また、ここでも特定の温度に対してグラフL21のような関係を得るが、こうした関係は温度毎に得ることができる。
【0061】
測定装置30は、複数の測定電位を設定し、各測定電位まで放電させたとき、各測定電位と劣化速度との関係を取得する(
図6のステップS32)。こうした関係も、温度毎に得られる。
【0062】
図9に示すように、測定電位を「0V」に設定して放電させた二次電池の「dQ/dV値」と特定の電圧に滞在する時間「滞在時間」との関係、すなわち「劣化速度a」はグラフL22に示すように大きい。また、測定電位を「0.1V」に設定して放電させた二次電池の「劣化速度a」はグラフL23に示すようにグラフL22に比べて小さい。さらに、測定電位を「0.15V」に設定して放電させた二次電池の「劣化速度a」はグラフL24に示すようにグラフL23に比べて小さい。また、測定電位を「0.2V」に設定して放電させた二次電池の「劣化速度a」はグラフL25に示すようにグラフL24に比べて小さい。さらに、測定電位を「0.25V」に設定して放電させた二次電池の「劣化速度a」はグラフL26に示すようにグラフL25に比べて小さい。なお、ここでの設定する測定電位は、単電池100の正極の電位の値である。これらのグラフL22〜L26には、測定電位が低いほど時間当たりの劣化量が大きくなる(劣化が進行する)こと、及び、測定電位が低いほど短時間で放電量が多くなる(深放電になる)ことが示されている。ここでも、特定の温度に対してグラフL22〜L26のような関係を得ることを示したが、こうした関係は温度毎に得ることができる。
【0063】
さらに、測定装置30は、測定電位と劣化速度との関係を一般的な式として定式化する(
図6のステップS33)。こうした関係も、温度毎に得られる。
図10に示すように、測定電位と劣化速度との関係がグラフL30に示される。このグラフL30は、次式(5)のように表される。グラフL30に示すように、測定電位が低いほど深放電になる、及び、測定電位が低いほど劣化に要する時間が短くなり劣化が早まる。ここでも特定の温度に対してグラフL30のような関係を得ることを示したが、こうした関係は温度毎に得ることができる。
【0065】
また、測定装置30は、温度毎に得られた「測定電位と劣化速度との定式」をまとめて取得する(
図6のステップS34)。
図11には、温度が「0℃」のときの測定電位と劣化速度との定式がグラフL31として示され、温度が「25℃」のときの測定電位と劣化速度との定式がグラフL32として示され、温度が「45℃」のときの測定電位と劣化速度との定式がグラフL33として示されている。例えば、上記式(4)において、グラフL31の傾きを「b1」、切片を「c1」とし、グラフL32の傾きを「b2」、切片を「c2」とし、グラフL33の傾きを「b3」、切片を「c3」とする。このとき、温度が異なる各グラフL31〜L33における傾きはマイナスの値であり、各傾きの大きさの関係は「b1>b2>b3」の関係となり、絶対値の大きさでは「|b1|<|b2|<|b3|」の関係となる。また、同じく各グラフL31〜L33における切片はプラスの値であり、各切片の大きさの関係は「c1<c2<c3」の関係となる。
【0066】
そして、測定装置30は、各温度と「測定電位と劣化速度との定式」との関係を一般化した式を定式化する(
図6のステップS35)。
図12(a)は、温度とグラフL31〜L33の切片との関係をグラフL34として示し、
図12(b)は、温度とグラフL31〜L33の傾きの関係をグラフL35として示す。よって、グラフL34によれば切片cの温度との関係が下記式(6)として得られ、グラフL35によれば傾きbの温度との関係が下記式(7)として得られる。
【0069】
こうして得られた切片と傾きを式(5)に適用することで、劣化速度aを表す下記式(8)が得られる。
【0071】
続いて、測定装置30は、劣化量を「温度」、「電圧」、「時間」の関数として定式化(一般化)する(
図6のステップS36)。定式は、式(4)に式(8)から得られる劣化速度aを適用することで劣化量を算出する下記式(9)として得られる。式(9)によれば、「温度」、「電圧」、「時間」の関係に基づいてdQ/dV値が算出できるようになる。
【0073】
(下限電圧のマップデータ作成)
続いて、
図13〜
図15を参照して、下限電圧の決定に用いるマップデータの作成について説明する。測定装置30は、式(9)に基づいて各温度に対応する下限電圧を決定できるマップデータを下限電圧マップ作成部34にて作成する。マップ作成用パラメータ35には、上記算出された各種データなどが含まれている。
【0074】
測定装置30は、dQ/dV値と電池特性との関係を取得する(
図6のステップS37)。そして、取得された関係から電池としての特性が良好に維持されているdQ/dV値の境界値を決定する(
図6のステップS38)。
【0075】
図13は、二次電池のdQ/dV値と、二次電池を単電池の電圧(セル電圧)が「0V」になるまで、車両制御上最大の電流値で放電したときの残存容量とを測定した結果のグラフである。単電池の電圧が「0V」になったとき、残存容量が少ないほど、電池特性としては良好である。
図13のグラフによれば、電池温度の違いによらず、dQ/dV値が「0」から離れて小さくなるほど電池特性は良好であり、逆に、dQ/dV値が「0」に近づき大きくなるほど電池特性は悪化する。そこで、
図13に示すグラフに基づいて、第1境界値BR1と、第1境界値BR1よりも大きい第2境界値BR2を決定する。第2境界値BR2は、dQ/dV値がその閾値を超えて大きくなると電池特性の悪化が急激に進むと判断される値である。また、第1境界値BR1は、電池性能が良好である可能性が高く維持される値である。本実施形態では、例えば、第1境界値BR1は「−2.0」に決定され、第2境界値BR2は「−1.0」に決定される。
【0076】
また、測定装置30は、特定の態様の充放電中に既定の制限電圧を下回る値に滞在していることが許容される時間を許容時間として決定する(
図6のステップS39)。
図14には、二次電池を特定の態様で充放電したとき、その二次電池に対して変化する電圧について各電圧範囲に滞在した時間を割合で示すグラフである。本実施形態では、特定の態様の充放電とは、特定の試験用の走行パターンで特定時間走行する車両に搭載された二次電池に生じる充放電である。この充放電によれば、二次電池の電圧が各電圧範囲に滞在した時間の累計の分布が得られる。まず、この特定の態様での充放電を、現実に許容し得る充放電であるとする。そして、この充放電中に既定の制限電圧を下回ることになった時間を、当該既定の制限電圧未満の電圧への滞在が許容される時間である許容時間として取得する。例えば、既定の制限電圧を電圧分布の「−3δ」に対応する電圧としてもよいし、単電池の端子間電圧「1」[V]としてもよい。本実施形態では、許容時間を、例えば「10」[時間]として取得する。
【0077】
さらに、測定装置30は、dQ/dV値の初期値を決定する(
図6のステップS40)。dQ/dV値の初期値は、新品の二次電池に対する測定結果に基づいて得る。本実施形態では、dQ/dV値の初期値を「−3.0」とするが、この値は、二次電池の種類によって相違するとともに、同種の二次電池であっても構造や電極などへの使用材料の種類、製造方法などによっても相違するものであるため、dQ/dV値の算出対象となる二次電池ごとに適切な値が決定される。
【0078】
また、測定装置30は、各温度で下限電圧(正極の下限電位)となる電圧閾値を決定する(
図6のステップS41)。測定装置30は、上記式(9)に、dQ/dV値の境界値(ここでは第1境界値BR1)、許容時間、dQ/dV値の初期値を適用することで、温度に対する下限電圧を求める。すなわち、上記式(9)において、dQ/dV値が境界値になるようなときの電圧を下限電圧として算出する。例えば、dQ/dV値を算出する式(9)に、dQ/dV値に第1境界値BR1の「−2.0」、滞在時間に許容時間の「10時間」、dQ/dV初期値にdQ/dV値の初期値「−3.0」を適用したとき、下記式(10)に示されるような、「温度」と「電圧」との関係式になる。
【0080】
図15には、温度に対する正極の下限電位の値をマップデータL41(
図3のグラフL11に対応)として示す。温度に対する正極の下限電位の値は、上記式(10)を正極電位を求める式に変形し、この変形した式に各温度を代入することにより得られる(
図6のステップS42)。また、図示しないが、dQ/dV値の境界値として、第1境界値BR1よりも大きい第2境界値BR2「−1.0」を採用することで、マップデータL41よりも高い正極の下限電位からなるマップデータ(
図3のグラフL12に対応)を得ることができる。これにより、劣化量が大きくなるなどして、電池モジュール10をあまり劣化させたくないときのマップデータも取得することができる。なお、負極電位を考慮することによって、正極の下限電位を単電池100等の下限電圧に変換することができる。
【0081】
ところで、
図15のグラフL40に示すように、正極の下限電位を温度ごとに細かく設定しない場合、どの温度になっても正極の下限電位に到達するおそれの少ない高い値に正極の下限電位が設定される。このため、正極の下限電位を低く設定できる温度であれ高い正極の下限電位によって出力範囲が規制される。その一方、本実施形態では各温度に対応して正極の下限電位が設定されるため、正極の下限電位を低く設定できる温度に対しては低い正極の下限電位が設定されて出力範囲の規制が少なく抑えられる。また、正極の下限電位を高く設定しなければならない温度に対しては高い正極の下限電位が適切に設定されて劣化状態を進行させるおそれのある正極電位(状態区別電位)を下回る放電による電池の劣化が抑えられる。
【0082】
また、従来、単電池100等に適用する下限電圧を温度ごとに設定できる技術も知られているが、下限電圧を設定するために「積算電気量」、つまり「電流」を利用している。一方、本実施形態では、パラメータとして「温度」、「電圧」及び「時間」を利用して下限電圧を決定するものであるため、単電池100等に適用する下限電圧の算出に「電流」をパラメータとして含まない。つまり、「温度」、「電圧」及び「時間」をパラメータとして劣化量が算出され、ここからdQ/dV値、及び下限電圧が算出される。例えば、「電流」は回路を構成する経路全体の抵抗による電圧降下の影響を受けるため、「電流」をパラメータに含み算出される下限電圧にもその影響が含まれる。そこで、パラメータに「電流」を含まないことにより経路全体の抵抗の影響が低減されて、発電要素の劣化を直に示す起電圧の影響をそのまま表す「電圧」に基づき適切な劣化量を算出することができる。
【0083】
以上説明したように、本実施形態の電池制御装置、及び、電池制御方法、及び、下限電圧の決定方法によれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
(1)二次電池の劣化状態を決定するときのパラメータとしては「電流」が考えられる。しかし、本実施形態によれば、パラメータに「温度」、「電圧」、ある電圧に滞在することができた「時間」の累積値を含み、「電流」を含まない構成によって劣化量の算出がなされて放電に関する制御が行われることにより、放電をより適切に規制することができる。また、劣化量に応じて二次電池の放電に関する制御を行うことで、適切な制御を行えるので、電池の放電を過度に規制することが抑制され、電池性能が十分に発揮されるようになる。
【0084】
(2)還元した金属化合物は不活性であることから充放電に寄与できなくなるため電池の性能が劣化する。よって、本実施形態によれば、二次電池の放電に関する制御に用いられる下限電圧を、電池の発電要素の正極に含まれる金属化合物の還元反応に対応して決定し、その決定された下限電圧に基づいて電池の放電を制御することができる。
【0085】
(3)二次電池はニッケル水素二次電池であり、主活物質がニッケル酸化物であり、金属化合物がコバルト化合物であることから、二次電池の放電に関する制御用に決定される下限電圧により、ニッケル水素二次電池において、正極のコバルト化合物の還元反応が抑制されるようになる。
【0086】
(4)電池の発電要素の劣化量が大きくなる、すなわち発電要素の発電能力が低下することに応じて下限電圧を高い値に決定する。これにより、劣化した二次電池については、より劣化しにくい下限電圧による制御を行い、電池の劣化の進行を遅らせて電池寿命を延ばすことができるようになる。
【0087】
(5)下限電圧に決定される電圧として第1規制電圧(マップデータL11)及び第2規制電圧(マップデータL12)の2つを設けられ、これを劣化量の所定の閾値との比較に応じて選択するようにすることで、劣化量に適した下限電圧を決定することが容易になる。
【0088】
(6)劣化量が通知用閾値を超えることによって二次電池の劣化が通知されるため、二次電池の劣化への対応を可能にすることができる。
(7)二次電池の温度、電圧、及び時間の累積値をパラメータとして用いて劣化量を算出するための関係式などの関係が作成され、この作成された関係に基づき取得される劣化量から下限電圧を決定することができるようになる。つまり、下限電圧を「電流」を用いないで得られる劣化状態を示す関係から決定することができる。
【0089】
(その他の実施形態)
なお上記実施形態は、以下の態様で実施することもできる。
・上記実施形態では、2つのマップデータL11,L12が第1閾値TH1により切り換えられる場合について例示した。しかしこれに限らず、dQ/dV値以外の要素を考慮して2つのマップデータの切り換えを判断してもよい。
【0090】
例えば、
図14の走行パターンを考慮して、予め、劣化量が第1閾値TH1になるまでに要すると予測される期間又は走行距離を予測値として定めておく。そして、使用しながら算出される実際の劣化量が第1閾値に達するまでに要した期間又は走行距離が、予め定められた予測値よりも小さい(又はある一定の値以上小さい)場合、マップデータが切り換えられないようにする。予測値を、電池の保証走行距離や保証期間等を考慮して設定すると、実際の劣化量が第1閾値に達するまでの期間又は走行距離が予測値より小さい場合、その保証走行距離や保証期間等を十分に満足するような走行を行っていることになる。このように、下限電圧を切り換えないことによって、電池の放電が下限電圧によって過度に規制されることが抑制されるようになる。
【0091】
・上記実施形態では、2つのマップデータL11,L12が第1閾値TH1により切り換えられる場合について例示した。しかしこれに限らず、マップデータを3つ以上にし、これに合わせてマップデータを切り換えるための閾値を2つ以上にしてもよい。これにより、算出される劣化量に応じて下限電圧の高さが決定されるようになる。
【0092】
・上記実施形態では、dQ/dV値が第2閾値TH2を超える場合にダイアグ表示をさせる場合について例示した。しかしこれに限らず、警報出力用の閾値を2つ以上設けて複数のレベルの警報を出力できるようにしてもよい。
【0093】
・上記実施形態では、金属化合物を含む正極の劣化量はdQ/dV値に基づいて算出される場合について例示した。しかしこれに限らず、劣化量は、XPS(X線光電子分光)やXAFS(X線吸収微細構造)などに基づいて、計測し、算出するようにしてもよい。このような方法で、正極の劣化量を算出しても、劣化量を、電圧、温度、時間をパラメータとして求めることができ、dQ/dV値から劣化量を算出した場合と同様の効果を得ることができる。
【0094】
・上記実施形態では、電池モジュール10は6つの単電池100が直列接続されて構成される場合について例示した。しかしこれに限らず、電池モジュールは5つ以下の単電池、又は、7つ以上の単電池が直列接続された構成されていてもよい。また、電池モジュールは単電池であってもよい。いずれにしろ、電池モジュールを構成している直列接続される単電池の数に応じて下限電圧を設定するようにすればよい。また、電池モジュールが複数直列又は並列に接続された電池ブロック毎に下限電圧を設定してもよい。
【0095】
・上記実施形態では、下限電圧は金属溶出反応が生じる電位である場合について例示した。しかしこれに限らず、下限電圧は、金属溶出反応を生じさせない電圧であれば、金属溶出反応を生じる電圧よりも所定のマージンなどが加算されてより高く設定されてもよい。
【0096】
・上記実施形態では、劣化速度を取得する温度が「0℃」、「25℃」、「45℃」である場合について例示した。しかしこれに限らず、劣化速度を取得する温度は、「0℃」未満、「45℃」より大きくてもよいし、「25℃」を除く「0℃」以上「45℃」未満であってもよい。また、劣化速度を取得する温度は、3つの場合に限らず、2つでもよいし、4つ以上でもよい。2つとすれば劣化量の関係式の作成が容易になり、4つ以上とすれば劣化量の関係式の精度の向上が図られる。
【0097】
・上記実施形態では、制御装置50は、劣化量に応じて下限電圧の高さを決定する場合について例示した。しかしこれに限らず、制御装置は、劣化量に応じて警告を通知するだけでもよいし、劣化量に応じて電流などの充電や放電に影響を及ぼす下限電圧以外のパラメータを調整するようにしてもよい。これによっても、二次電池の放電に関する制御が行われて二次電池の放電が適切に制御されるようになる。
【0098】
・上記実施形態では、ニッケル水素二次電池は自動車の電源として用いられる場合について例示した。しかしこれに限らず、ニッケル水素二次電池は、電源として用いられるものであれば、各種の移動体や固定体など自動車以外の電源として用いられてもよい。