【実施例】
【0017】
本発明を実施するための形態を、
図1〜
図11を用いて詳細に説明する。
図1〜
図3は本発明の浮体式フラップゲートの概略構成を示した図である。
【0018】
図1〜
図3において、1は例えば防波堤や防潮壁に設けた開口部の路面rsに設置される本発明の浮体式フラップゲートである。この浮体式フラップゲート1は、海洋(或いは河川)から生活空間や地下空間に水wが流入しようとする際、流入する水wの水圧を利用して、基端側2aの回転軸2cを支点として扉体2の先端側2bを起立揺動させて前記開口部を水密状態に遮断するものである。
【0019】
本発明の浮体式フラップゲート1は、
図1(a)に示すように、倒伏状態にある扉体2の裏面2dにワイヤロープ4の一端を取付けている。この扉体2の裏面2dへのワイヤロープ4の取付け例として、
図1及び
図2に示した例では、扉体2の裏面2dの例えば扉体2の高さ方向中間部の両側にブラケット3を取付け、これらブラケット3にワイヤロープ4の一端を取付けている。このワイヤロープ4の他端は、倒伏した扉体2の先端側2bの、前記ブラケット3と相対する位置の扉体2の格納空間5に形成した地下スペース5aに引き込まれている。
【0020】
前記地下スペース5aの内部には、例えばカウンタウエイト6と、カウンタウエイトの上面の両側に設けた圧縮ばね10と、各2個の定滑車7a,7b及び動滑車8a,8bからなる滑車群が関連配置されている。そして、前記引き込まれたワイヤロープ4の他端を、この滑車群を介してカウンタウエイト6の上方に案内し、当該位置の地下スペース5aの天井部に固定することで、扉体2の幅より若干狭い幅のカウンタウエイト6を吊り下げている。
【0021】
前記滑車群のうち第1の定滑車7aは、地下スペース5aのワイヤロープ4の引込み部に、第2の定滑車7bは、カウンタウエイト6の吊下げ位置上部の地下スペース5aの天井部に、それぞれ設けている。
【0022】
一方、第1の動滑車8aは、前記第1の定滑車7aと第2の定滑車7bの間で昇降移動するプッシュアップロッド9の下端に回転自在に取り付けている。また、第2の動滑車8bは、カウンタウエイト6に取り付けている。
【0023】
なお、前記プッシュアップロッド9の昇降移動時、倒伏状態の扉体2の先端側2b及び基端側2aの方向への移動は、上部と下部のガイドローラ9a,9bによって規制されている。また、扉体2の幅方向への移動は、上下のサイドローラ9c、9dによって規制されている。また、このプッシュアップロッド9の上下方向の昇降移動は、上限ストッパ9eと下限ストッパ9fによって規制され、上端には押し上げローラ9gを取り付けている。
【0024】
地下スペース5aの内部に関連配置された、上記構成の第1、第2の定滑車7a,7b、第1、第2の動滑車8a,8b、カウンタウエイト6、プッシュアップロッド9からなる扉体2の開閉補助機構を備えた本発明の浮体式フラップゲート1は、扉体2の起立時、及び扉体2の倒伏時は、以下に説明するような作用を奏する。
【0025】
(扉体2の起立初期:
図4)
浸水が所定の水位に達したことにより扉体2に作用する浮力及びカウンタウエイト6により作用しているプッシュアップロッド9の押し上げ力による起立方向の旋回力が扉体2の重量Fmによる倒伏方向の旋回力より大きくなると扉体2は浮上を開始する。
【0026】
(扉体2の起立中期:
図5)
プッシュアップロッド9が上昇限に到達した後は、扉体2の裏面2dの没水部に作用する水圧Fwによる起立方向の旋回力が、扉体2の重量Fmとカウンタウエイト6によってワイヤロープ4に発生する張力Ftによる倒伏方向の旋回力に勝って、扉体2は起立方向に旋回して起立する。
【0027】
(扉体2の起立終期:
図6)
扉体2が起立限の近くまで起立した時には、カウンタウエイト6は上昇限位置近傍まで移動しており、圧縮ばね10が圧縮される。従って、カウンタウエイト6の重量Wと圧縮ばね10の圧縮力によってワイヤロープ4に発生する張力Ftが、扉体2の起立方向の旋回の制動力として倒伏方向に作用する。
【0028】
(扉体2の倒伏初期:
図7)
水位の低下により、扉体2の裏面2dの没水部に作用する水圧Fwによる起立方向の旋回力が減少すると、扉体2の重量Fmとカウンタウエイト6によってワイヤロープ4に発生する張力Ftによる倒伏方向の旋回力と釣り合う位置まで倒伏方向に旋回する。なお、起立上限付近では、ワイヤロープ4に発生する張力Ftには圧縮ばね力も加わる。
【0029】
(扉体2の倒伏中期:
図8)
扉体2の重量Fmとカウンタウエイト6によってワイヤロープ4に発生する張力Ftによる倒伏方向の旋回力と、扉体2の裏面2dの没水部に作用する水圧Fwによる起立方向の旋回力がバランスしながら倒伏方向に旋回する。扉体2の倒伏により、扉体2の重量Fmによる倒伏方向の旋回力が増大するが、扉体2の裏面2dにプッシュアップロッド9が当接した後は、プッシュアップロッド9の押し上げ力による起立方向の旋回力により倒伏動作は減速する。
【0030】
(扉体2の倒伏終期:
図9)
水位の低下により扉体2の裏面2dの没水部に作用する水圧Fwによる浮上力がなくなると、扉体2の重量Fmによる倒伏方向の旋回力により扉体2は格納空間5に着床する。この時、カウンタウエイト6によるプッシュアップロッド9の押し上げ力は、扉体2の重量Fmによる倒伏方向の旋回力に勝るほどの起立方向の旋回力はないものの、プッシュアップロッド9の押し上げ力により着床時の衝撃は緩和される。
【0031】
(プッシュアップロッド9の昇降移動の上限ストロークStの設定:
図10)
起立初期、倒伏終期に上記作用を奏するため、プッシュアップロッド9の昇降移動の上限ストロークSt、すなわち当該上限ストロークStとなる扉体2の起立角度θは、以下のように設定する。
【0032】
図10に示すように、扉体2の高さ方向の長さをL、扉体2の厚さをD、プッシュアップロッド9による上昇力の作用位置(扉体2の回転軸2cからの距離)をLpとすると、プッシュアップロッド9の昇降移動の上限ストロークStは、下記(1)式で求めることができる。
St=(Lp−D・sinθ)tanθ+D(1−cosθ)…(1)
【0033】
プッシュアップロッド9の上限ストロークStにおける扉体2の先端標高H(=L・sinθ+D)の4/5の水深hの時に、下記(2)式のように、扉体2の裏面2dに作用する水圧Fwにより発生する起立方向の旋回力(=Fw×Lw)が、扉体2の重量Fm及びワイヤロープ4の張力Ftにより発生する倒伏方向の旋回力(=Fm×Lm+Ft×Lt)に勝るようにする。
【0034】
Fw×Lw(=Ph
1×L×B×L/2+1/2・(Ph
2−Ph
1)×L×B×L/3)
≧Fm×Lm+Ft×Lt…(2)
但し、Fw:扉体2の裏面2dに作用する水圧
Lw:扉体2の裏面2dに作用する水圧力の重心距離
(扉体2の回転軸2cからの距離)
Ph
1:扉体2の裏面2dの先端の水深h
1(=D・cosθ−H/5)の作用水圧
Ph
2:扉体2の裏面2dの基端の水深h
2(=h1+L・sinθ)の作用水圧
Fm:扉体2の空中重量
Lm:扉体2の回転軸2cの中心から重心までの水平距離(≒1/2・cosθ)
Ft:ワイヤロープ4の張力(=W/2×α、α:滑車などの機械効率)
Lt:ワイヤロープ4の引張り位置までの距離
(扉体2の回転軸2cの中心から引張方向への垂直距離)
B:扉体2の幅
【0035】
(カウンタウエイト6の重量Wの設定:
図11)
図11に示すように、扉体2が浮上を開始する水深をhとした場合、水深がhの時に扉体に作用する浮力Fwは、下記(3)式で求めることができる。
【0036】
Fw=Ph×L×B…(3)
【0037】
起立時、倒伏時に上記作用を奏するため、前記水深hが倒伏状態にある扉体2の厚さDの2/3〜4/5の時に扉体2の起立が開始するよう、下記(4)式で求めることができるプッシュアップロッド9の押し上げ力Fpを設定する。すなわちカウンタウエイト6の重量Wを設定する。
【0038】
Fp=W×α−w
2…(4)
但し、w
2:プッシュアップロッド9の重量
【0039】
そして、前記水深hが倒伏状態にある扉体2の厚さDの2/3〜4/5の時の扉体2の裏面2dに作用する水圧Fwにより発生する起立方向の旋回力及びプッシュアップロッド9の押し上げ力Fpによる起立方向の旋回力(=Fw×Lw+Fp×Lp)と、扉体2の重量Fmにより発生する倒伏方向の旋回力(=Fm×Lm)が等しくなるように、カウンタウエイト6の重量Wを決定する。
【0040】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0041】
例えば、本発明の浮体式フラップゲート1の扉体2は径間の長いものに限らず、径間の短いものであってもよい。
【0042】
また、第1、第2の定滑車7a,7bや第1、第2の動滑車8a,8bの設置位置やカウンタウエイト6の形状やレイアウトは、カウンタウエイト6の昇降に伴ってプッシュアップロッド9を昇降できるものであれば、実施例の設置位置やレイアウトに限らない。
【0043】
また、圧縮ばね10は扉体2の起立限でクッションの役割を果たすものであれば、設置する個数やレイアウトは実施例で説明したものに限らない。また、同様の作用を奏するものであれば、圧縮ばね10に限らない。また、圧縮ばね10は設置しなくてもよい。
【0044】
また、実施例のように、扉体2の起立時の荷重をワイヤロープ4でのみ支持せず、起立時の荷重を支持する部材を別途設ける場合は、ワイヤロープ4の必要強度を下げることができる。