特許第6461724号(P6461724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461724
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】圧電式発音体及び電気音響変換装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20190121BHJP
   H04R 7/04 20060101ALI20190121BHJP
   H04R 9/06 20060101ALI20190121BHJP
   H04R 1/24 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   H04R17/00
   H04R7/04
   H04R9/06 A
   H04R1/24 A
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-124514(P2015-124514)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-5666(P2017-5666A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年1月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-114482(P2015-114482)
(32)【優先日】2015年6月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(72)【発明者】
【氏名】土信田 豊
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−134956(JP,A)
【文献】 実開昭58−109797(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3196707(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/24
H04R 7/04
H04R 9/06
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板部材と、
前記板部材に振動可能に支持される振動板と、前記振動板に接合された圧電素子とをそれぞれ有する複数の圧電振動部と
を具備し、
前記振動板は、前記振動板の周縁部と前記圧電素子との間に設けられた単数又は複数の貫通孔からなる通路部を有する
圧電式発音体。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電式発音体であって、
前記複数の圧電振動部は、前記板部材の面内に各々間隔をあけて配置されている
圧電式発音体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電式発音体であって、
前記複数の圧電振動部は、前記板部材の中心に関して対称な位置に配置される
圧電式発音体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の圧電式発音体であって、
前記複数の圧電振動部は、
前記板部材の中心に配置された第1の圧電振動部と、
前記第1の圧電振動部の周囲に等角度間隔で配置された複数の第2の圧電振動部と、を含む
圧電式発音体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の圧電式発音体であって、
前記板部材は、前記複数の圧電振動部各々に電気的に接続される信号配線部をさらに有する
圧電式発音体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の圧電式発音体であって、
前記板部材は、有底又は無底の複数の凹部を有し、
前記複数の圧電振動部は、前記複数の凹部にそれぞれ配置される
圧電式発音体。
【請求項7】
請求項6に記載の圧電式発音体であって、
前記複数の凹部は、前記板部材を厚み方向に貫通する複数の貫通孔部と、前記板部材の一方の面にそれぞれ形成され前記複数の貫通孔部の周囲に凹設された複数の環状段部とを有し、
前記複数の圧電振動部各々の前記振動板は、前記複数の環状段部にそれぞれ支持される
圧電式発音体。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1つに記載の圧電式発音体であって、
前記圧電素子の平面形状は多角形状である
圧電式発音体。
【請求項9】
請求項に記載の圧電式発音体であって、
前記振動板は、略円形の平面形状を有し、
前記圧電素子の平面形状は多角形状であり、
前記通路部は、前記圧電素子の辺部と前記振動板の周縁部との間の領域に設けられる
圧電式発音体。
【請求項10】
板部材と、
前記板部材に振動可能に支持される第1の振動板と、前記第1の振動板に接合された圧電素子とをそれぞれ有する複数の圧電振動部と、
前記板部材に対向し、第2の振動板を有する電磁式発音体と、
前記板部材と前記電磁式発音体を支持する支持体と
を具備する電気音響変換装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電気音響変換装置であって、
前記第1の振動板は、前記第2の振動板よりも小径の円盤形状を有し、
前記板部材は、前記第2の振動板と同一又はこれよりも大径の円盤形状を有する
電気音響変換装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の電気音響変換装置であって、
前記第1の振動板は、前記第1の振動板の周縁部と前記圧電素子との間に設けられた単数又は複数の貫通孔からなる通路部を有する
電気音響変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、イヤホン、ヘッドホン、携帯情報端末等の電子機器に適用可能な圧電式発音体及び電気音響変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電式発音体は、簡易な電気音響変換手段として、例えば、イヤホンやヘッドホンのような音響機器、携帯情報端末のスピーカなどとして広く利用されている。例えば、特許文献1には、金属材料からなる振動板に圧電素子が接合された構成を有する圧電式発音体が開示されている。
【0003】
また、近年における音響デバイスとして、ハイブリッド型の電気音響変換装置が知られている。例えば、特許文献2には、高音域を再生する圧電式発音体(ツイータ)と、低音域を再生する電磁式発音体(ウーハ)とを備えた電気音響変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−150305号公報
【特許文献2】特許第5711860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、圧電式発音体の音圧の向上が求められている。一般に、音圧の向上には、振動板の大径化が有利である。しかしながら、振動板を大径化すると、共振周波数の低下が避けられないため、所望とする高音特性を確保することが困難となる。したがって、ウーハの大径化にツイータが対応することができず、音圧の高いハイブリッド型の電気音響変換装置を実現することが困難であった。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、共振周波数を低下させることなく音圧を向上させることができる圧電式発音体及びこれを備えた電気音響変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る圧電式発音体は、板部材と、複数の圧電振動部とを具備する。
上記複数の圧電振動部は、上記板部材に振動可能に支持される振動板と、上記振動板に接合された圧電素子とをそれぞれ有する。
【0008】
上記圧電式発音体は、複数の圧電振動部が板部材に支持された構造を有する。これにより、個々の圧電振動部の共振周波数を低下させることなく、音圧の向上を実現することが可能となる。また、個々の圧電振動部の構成を各々独立して最適化することができるため、共振周波数等の音響特性を容易に調整することが可能となる。
【0009】
上記複数の圧電振動部は、典型的には、板部材の面内に各々間隔をあけて配置される。こにより、板部材上において複数の圧電振動部を広範囲にわたって分布させることができる。
上記複数の圧電振動部は、上記板部材の中心に関して対称な位置に配置されてもよい。これにより、板部材の中心に関して対称な音圧特性を有する音響を生成することが可能となる。
例えば、上記複数の圧電振動部は、上記板部材の中心に配置された第1の圧電振動部と、上記第1の圧電振動部の周囲に等角度間隔で配置された複数の第2の圧電振動部と、を含んでもよい。
【0010】
上記板部材は、上記複数の圧電振動体各々に電気的に接続される信号配線部をさらに有してもよい。これにより、個々の圧電振動部に対する配線作業が容易になる。
【0011】
本発明の一形態に係る電気音響変換装置は、板部材と、複数の圧電振動部と、電磁式発音体と、支持体とを具備する。
上記複数の圧電振動部は、上記板部材に振動可能に支持される第1の振動板と、上記第1の振動板に接合された圧電素子とをそれぞれ有する。
上記電磁式発音体は、上記板部材に対向し、第2の振動板を有する。
上記支持体は、上記板部材と上記電磁式発音体を支持する。
【0012】
上記電気音響変換装置は、複数の圧電振動部が板部材に支持された構造を有する。これにより、圧電式発音体の共振周波数を低下させることなく、音圧の向上を実現することが可能となる。また、音圧の向上に対応可能なハイブリッド型の電気音響変換装置を実現することができる。
【0013】
上記第1の振動板は、上記第2の振動板よりも小径の円盤形状を有し、上記板部材は、上記第2の振動板と同一又はこれよりも大径の円盤形状を有してもよい。このように第2の振動板が第1の振動板よりも大きい場合でも、高音域の周波数特性を損なうことなく所望とする音圧を得ることが可能となる。
【0014】
上記第1の振動板は、上記第1の振動板の周縁部と上記圧電素子との間に設けられた単数又は複数の貫通孔を有してもよい。上記貫通孔は、電磁式発音体が発生した音響を通す通路部として機能する。これにより、電磁式発音体によって再生される音波の周波数特性を調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、共振周波数を低下させることなく、音圧を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る電気音響変換装置を備えた音響機器の構成を示す概略側面図である。
図2】上記電気音響変換装置の構成を示す概略側断面図である。
図3】上記電気音響変換装置における圧電式発音体の概略正面図である。
図4】上記圧電式発音体における圧電振動部の概略正面図である。
図5】上記圧電式発音体の要部の概略側断面図である。
図6】上記圧電式発音体の電気的接続形態を説明する等価回路図である。
図7】A,Bは、図5に示す構成の変形例をそれぞれ示す要部の概略側断面図である。
図8】A,Bは、図5に示す構成の変形例をそれぞれ示す要部の概略側断面図である。
図9】A,Bは、図8Aに示す構成の変形例をそれぞれ示す要部の概略側断面図である。
図10】A,Bは、図8Bに示す構成の変形例をそれぞれ示す要部の概略側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る音響機器としてのヘッドホン100の構成を示す概略側面図である。
図において、X軸、Y軸及びZ軸は、相互に直交する3軸方向を示している。
【0019】
[ヘッドホンの全体構成]
ヘッドホン100は、ヘッドバンド101と、ヘッドバンド101の両端に取り付けられた一対のハウジング102と、これらハウジング102の内側に各々取り付けられた一対のイヤパッド103等を有する。
【0020】
一対のイヤパッド103は、ヘッドホン100がユーザの頭部に装着されたとき、ユーザの両耳にそれらを覆うように配置される。一対のハウジング103には、電気音響変換装置としてのスピーカユニット104L,104Rがそれぞれ内蔵されている。
【0021】
スピーカユニット104Lは、左耳用の音響信号を再生し、スピーカユニット104Rは、右耳用の音響信号を再生する。ハウジング102には、スピーカユニット104L,104Rへ駆動信号(音響信号)を入力するための配線ケーブル105が接続されている。スピーカユニット104L,104Rはそれぞれ同一の構成を有する。以下、個別に説明する場合を除き、スピーカユニット104L,104Rをスピーカユニット104と総称する。
【0022】
[スピーカユニット]
次に、スピーカユニット104の詳細について説明する。図2は、スピーカユニット104の構成を示す概略側断面図である。
【0023】
スピーカユニット104は、支持体10と、電磁式発音体20と、圧電式発音体30とを有する。
【0024】
(支持体)
支持体10は、例えば合成樹脂材料等の絶縁材料で形成された、円形の浅皿形状を有する。支持体10は、電磁式発音体20と圧電式発音体30とを共通に支持する単一の部材で構成されるが、これに限られず、複数の部材で構成されてもよい。
【0025】
支持体10は、電磁式発音体20と圧電式発音体30との間に空間部15を形成する側壁部11を有する。側壁部11は、Z軸方向に平行な軸心を有する円筒形状に形成される。空間部15には、電磁式発音体20及び圧電式発音体30が収容される。
【0026】
(電磁式発音体)
電磁式発音体20は、低音域を再生するウーハ(Woofer)として機能し、本実施形態では、例えば7kHz以下の音波を主として生成するダイナミックスピーカで構成される。電磁式発音体20の構成は特に限定されず、本実施形態では、振動板21(第2の振動板)と、永久磁石22と、ボイスコイル23と、永久磁石22を支持するヨーク24とを有する。
【0027】
振動板21の外形状は円形で、その面内には、厚み方向(Z軸方向)に隆起する複数の環状の凹凸形状を有する。振動板21は、その周縁部が支持体10の底部13とこれに一体的に組み付けられる環状固定具14との間に挟持されることで、支持体10に支持される。振動板21は、金属材料、合成樹脂材料、繊維材、紙などの適宜の材料で構成される。振動板21の形状も特に限定されず、仕様等に応じて適宜設定可能である。
【0028】
ヨーク24は、支持体10の中心部に形成された貫通孔12aの内部に配置され、その周面が貫通孔12aの内周面に固定される。ヨーク24は、高透磁率材料で構成され、ボイスコイル23の少なくとも一部を収容可能な磁気ギャップ部を有する。
【0029】
ボイスコイル23は、巻き芯となるボビンに導線を巻き付けて形成され、振動板21の中央部に接合される。また、ボイスコイル23は、永久磁石22の磁束の方向に対して垂直(図2においてZ軸に平行な軸まわり)に配置される。配線ケーブル105を介してボイスコイル23に交流電流(音声信号)が入力されると、ボイスコイル23に電磁力が作用し、ボイスコイル23は信号波形に合わせて図中Z軸方向に振動する。この振動がボイスコイル23に連結された振動板21に伝達され、空間部15内の空気を振動させることにより、上記低音域の音波を発生させる。
【0030】
(圧電式発音体)
圧電式発音体30は、高音域を再生するツイータ(Tweeter)として機能し、本実施形態では、例えば7kHz以上の音波を主として生成するように、その発振周波数が設定される。
【0031】
図3は、圧電式発音体30の概略正面図である。
【0032】
図3に示すように、圧電式発音体30は、複数の圧電振動部31と、これら複数の圧電振動部31を支持する板部材32とを有する。本実施形態において、各々の圧電駆動部31は、それぞれ同一の構成を有するとともに、相互に独立して振動することが可能に構成される。
【0033】
図4は、圧電振動部31の概略正面図である。
【0034】
圧電振動部31は、振動板311(第1の振動板)と、圧電素子312とを有する。
【0035】
振動板311は、金属(例えば42アロイ)等の導電材料または樹脂(例えば液晶ポリマー)等の絶縁材料で構成され、その平面形状は略円形に形成される。「略円形」とは、円形だけでなく、後述するような実質的に円形のものも意味する。
【0036】
振動板311の外径や厚みは特に限定されず、板部材32の大きさ、圧電振動部31の配置数、再生音波の周波数帯域などに応じて適宜設定される。典型的には、振動板311の外径が小さく、あるいは振動板311の厚みが大きくなるほど、再生音波の周波数帯域が高くなる傾向になる。振動板311は、電磁式発音体20の振動板21よりも小径の円盤形状を有し、本実施形態では、直径約12mm、厚み約0.2mmの振動板が用いられる。
なお、振動板311は、平板状のものである場合に限られず、ドーム形状等のような3次元構造体であってもよい。また、各振動板311の径、厚みは同一である場合に限られず、一部の振動板311が他の振動板311と異なる径、厚みで構成されてもよい。
【0037】
振動板311は、必要に応じて、その外周から内周側に向けてくぼむ凹状やスリット状などで形成された切欠き部を有していてもよい。振動板311の平面形状は、外形が円形であれば、上記切欠き部が形成されることなどにより厳密には円形でない場合にも、実質的に円形として扱うものとする。本実施形態では、図4に示すように、振動板311の周縁部に90度間隔で円弧状あるいは矩形状の切欠き部311aが設けられている。これらの切欠き部311aは、板部材32への振動板311の接合時に参照される基準点として用いられてもよいし、振動板311への圧電素子312の位置決めに参照される基準点として用いられてもよい。
【0038】
振動板311の少なくとも一方の表面には、圧電素子312が接合される。本実施形態において、圧電振動部31は、振動板311の一方の表面に圧電素子312が接合されたユニモルフ構造で構成されるが、振動板311の両面に圧電素子312が接合されたバイモルフ構造で構成されてもよい。
【0039】
図4に示すように、圧電素子312の平面形状(Z軸方向から見た形状)は多角形状に形成されており、本実施形態では矩形(長方形)とされる。なおこれに限られず、圧電素子312の平面形状は、正方形や平行四辺形、台形などの他の四角形、あるいは四角形以外の他の多角形、あるいは、円形、楕円形、長円形等であってもよい。圧電素子312の厚みも特に限定されず、例えば約50μmとされる。
【0040】
圧電素子312は、複数の圧電層と複数の電極層とが交互に積層された構造を有する。典型的には、圧電素子312は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、アルカリ金属含有ニオブ酸化物等の圧電特性を有する複数のセラミックシート(圧電体層)を、電極層を挟んで相互に積層した後、所定温度で焼成することで作製される。各電極層の一端部は、誘電体層の両端面に交互に引き出される。一方の端面に露出する電極層は第1の引出電極層に接続され、他方の端面に露出する電極層は第2の引出電極層に接続される。圧電素子312は、第1及び第2の引出電極層間に所定の交流電圧を印加することで、所定周波数で伸縮するとともに、振動板311は所定周波数で振動させることになる。圧電層及び電極層の積層数は特に限定されず、必要とされる音圧が得られる適宜の層数にそれぞれ設定される。
【0041】
さらに、図4に示すように、振動板311は、当該振動板311の周縁部と圧電素子312との間に設けられた複数の貫通孔からなる通路部311hを有する。通路部311hは、圧電素子312の辺部と振動板311の周縁部との間の領域に設けられる。通路部311hは、空間部15に面して設けられることで、電磁式発音体20が発生した音響を通す通路として機能する。これにより、電磁式発音体20によって再生される音波の周波数特性を調整することが可能となる。
【0042】
通路部311hの形状は特に限定されず、図示する円形のほか、楕円、長円等の略円形であってもよいし、矩形等の多角形状であってもよい。通路部311hの大きさも特に限定されず、振動板311の大きさや圧電素子312の形状・大きさ等に応じて適宜設定可能である。また、通路部311は、複数の貫通孔で構成される場合に限られず、大きさや形状に応じては、通路部311は、単一の貫通孔で構成されてもよい。
【0043】
一方、板部材32は、図3に示すように円盤形状を有し、図2に示すように支持体10の側壁部11の内周面11aに装着される。板部材32は、電磁式発音体20の振動板21と同一又はこれよりも大径の円盤形状を有する。これにより、電磁式発音体20は、空間部15を挟んで板部材32で被覆される。板部材32の厚みは特に限定されないが、典型的には、圧電振動部31の振動時の反力や電磁式発音体20で発生した音波などを受けても振動しない適度な剛性が得られる厚みで形成される。これにより、電磁式発音体20及び圧電式発音体30の双方について安定した周波数特性を確保することができる。なおこれに限られず、仕様により、所定の周波数範囲で振動可能に構成されてもよい。
【0044】
なお、板部材32は、支持体10の側壁部内周面11aに装着される例に限られず、側壁部11の開口端部を覆うように装着されてもよい。この場合、側壁部11の開口端部に板部材32の周縁部が嵌合する環状の段部(切り込み)が設けられてもよいし、上記開口端部を被覆するように板部材32が支持体10に装着されてもよい。
【0045】
本実施形態において、電磁式発音体20の振動板21と板部材32は、支持体10の側壁部11の内径と略同一の外径を有する。一方、電磁式発音体20の振動板21は、環状固定具14によってその周縁部が固定されているため、振動板として機能する有効径は、環状固定具14の内径と略一致する。したがって、板部材32は、当該振動板21の有効径よりも大きな外径を有することになる。
なおこれに限られず、板部材32は、振動板21の有効径と同一径で構成されてもよい。また、板部材32の周縁部を支持する側壁部11の内周面11aが径内方へ突出している場合には、板部材32は、振動板21よりも小さい径で構成されてもよい。
【0046】
図5は、板部材32に対する圧電振動部31の固定構造を示す要部断面図である。
【0047】
板部材32は、複数の圧電振動部31を1つずつ支持する複数の凹部321を有する。本実施形態において各凹部321は、板部材32をその厚み方向に貫通する無底の貫通孔で構成されるが、後述するように、板部材32の一方の表面に形成された有底の非貫通孔で構成されてもよい。各凹部321は、各圧電振動部31を収容可能な大きさに形成され、その形状は、振動板311よりも大径の円形とされる。凹部321の平面形状は円形に限られず、多角形状であってもよい。
【0048】
本実施形態において、凹部321は、図5に示すように、貫通孔部32hと、環状段部32cとを有する。貫通孔部32hは、板部材32を厚み方向に貫通する。環状段部32cは、板部材32の一方の面に形成され、貫通孔部32hの周囲に凹設される。振動板311は、環状段部32cに支持される。当該構成は、すべての凹部321及び圧電振動部31について共通とされる。
【0049】
環状段部32cに対する振動板311の支持形態は特に限定されず、典型的には、振動板311の周縁部がその全周にわたって環状段部32cに接合される。接合材料は特に限定されないが、弾性変形可能な粘着材料を用いることが好ましく、これにより振動板311の共振のぶれが抑制され、振動板311の安定した共振動作を確保することが可能となる。
【0050】
また、振動板311は、その全周にわたって環状段部32cに接合される場合に限られず、振動板311をその周縁部の複数の領域で支持するように構成されてもよい。このように振動板311の周縁部が部分的に保持されるように構成されることで、当該周縁部の振動が許容され、高周波域における不要な音圧ピークの低減を図ることが可能となる。振動板311周縁部の多点構造としては、例えば、環状段部32cに振動板311の周縁部を支持する複数の突起が設けられてもよいし、環状段部32cに支持される複数の突出片が振動板の周縁部から放射状に設けられてもよい。
【0051】
板部材32の構成材料は、金属等の導電性材料で構成されてもよいし、プラスチック等の絶縁性材料で構成されてもよいし、導電層と絶縁層との積層構造であってもよい。上記積層構造には、配線基板も含まれる。
【0052】
板部材32が配線基板で構成されることにより、個々の圧電振動部31に対する配線作業を容易に行うことが可能となる。この場合、板部材32の表面には、配線ケーブル105に電気的に接続される信号配線部32s1,32s2が設けられる。信号配線部32s1,32s2は、図5に示すように、配線部材313を介して圧電振動部31各々に電気的に接続される。
【0053】
図6は、圧電式発音体30における配線接続形態を説明する等価回路図である。図6に示すように、信号配線部32s1は配線ケーブル105に、信号配線部32s2はグランドにそれぞれ接続されている。すなわち、各圧電振動部31は、信号供給源(配線ケーブル105)に対して並列的に接続され、典型的には、それぞれが同期して駆動されるように構成される。
【0054】
圧電駆動部31と信号配線部32s1,32s2との間に接続される配線部材313に関して、振動板311が電気絶縁材料で構成される場合には、圧電素子312の上記第1及び第2の引出電極層に各配線部材313が接続される。一方、振動板311が金属等の導電材料で構成される場合には、上記第1及び第2の引出電極層のうち一方の引出電極層を振動板311に電気的に接触させてもよい。これにより、振動板311を介して当該一方の引出電極層に配線部材313を接続することが可能となる。
【0055】
圧電素子312は、振動板311の各面のいずれに接合されてもよい。図5は、空間部15(図2)と対向しない側の振動板311の表面に圧電素子312が接合された構成例を示す。これに対して、図7Aに示すように、空間部15と対向する側の振動板311の表面に圧電素子312が接合されてもよい。同様に、凹部321の貫通孔部32hは、空間部15と対向する側の板部材32の表面に設けられる例に限られず、空間部15と対向しない側の板部材32の表面に設けられてもよい。
【0056】
本実施形態の圧電式発音体30において、複数の圧電振動部31は、図3に示すように、板部材32の面内に各々間隔をあけて(等間隔又は不等間隔に)配置されている。これにより、板部材32上において複数の圧電振動部31を広範囲にわたって分布させることができる。複数の圧電振動部31は、板部材32の中心に関して対称な位置にそれぞれ配置されてもよい。これにより、板部材32の中心に関して対称な音圧特性を有する音響を生成することが可能となる。複数の圧電振動部31は、板部材32上において同一円周上に配置されてもよいし、格子状に配置されてもよい。
【0057】
本実施形態では、複数の圧電振動部31は、板部材32の中心に配置された第1の圧電振動部31Aと、第1の圧電振動部31Aの周囲に等角度間隔で配置された複数の第2の圧電振動部31Bとを含む。第2の圧電振動部31Bの数は、特に限定されず、本実施形態では、60度間隔で配置された6個の圧電振動部で構成される。
【0058】
第1の圧電振動部31Aは、第2の圧電振動部31Bよりも大径の振動板を有していてもよい。これにより、板部材32の中心部に音圧のピークレベルを有する音響特性を実現することができる。
【0059】
また、第2の圧電振動部31Bは、板部材32の中心に関して等角度間隔で配置される場合に限られず、所望とする音響特性に応じて、配置間隔が部分的に変更されてもよい。さらに、各圧電振動部31の振動板311の径や厚みは、個々に最適化されてもよい。これにより、板部材32の面内において所望とする共振分布をもたせることも可能となり、音圧レベル(SPL:Sound Pressure Level)の平滑性を高めることができる。
【0060】
[スピーカユニットの動作]
次に、以上のように構成されるスピーカユニット104において、電磁式発音体20及び圧電式発音体30には、配線ケーブル105を介して音響信号(再生信号)が入力される。本実施形態では、電磁式発音体20は、主として7kHz以下の低音域の音波を生成し、圧電式発音体30は、主として7kHz以上の高音域の音波を生成する。圧電式発音体30の各圧電振動部31は、典型的には同時に駆動され、各圧電振動部31において同一の音響特性を有する音波が生成される。
【0061】
本実施形態においては、圧電式発音体30は、複数の圧電振動部31が板部材32に共通に支持された構造を有する。これにより、個々の圧電振動部31の共振周波数を低下させることなく、高音域の音圧の向上を実現することが可能となる。したがって、電磁式発音体20(振動板21)の大口径化にも十分に対応することが可能となる。
【0062】
本実施形態によれば、複数の圧電振動部31が、板部材32の複数の凹部321にそれぞれ配置されているため、板部材32の表面からの各圧電振動部31の突出が抑制され、これにより圧電式発音体30の薄型化を図ることが可能となる。また、凹部321には貫通孔部32hが設けられているため、各振動板311の振動空間を確保することができる。
【0063】
また、本実施形態によれば、個々の圧電振動部31の構成を各々独立して最適化することができるため、共振周波数等の音響特性を容易に調整することが可能となる。
【0064】
さらに、各圧電振動部31は、板部材32の中心に関して対称な位置に配置されているため、板部材の中心に関して対称な音圧特性を有する音響を生成することが可能となる。このとき、各圧電駆動部31の音響特性を最適化することで、上述のように、板部材32の面内において所望とする共振分布をもたせることが可能となり、例えば、音圧レベルの平滑性を高めることができる。
【0065】
さらに、各圧電振動部31の振動板311に設けられた通路部311hは、電磁式発音体20で発生した低音域の音響を通過させる。これにより、電磁式発音体によって再生される音波の周波数特性を調整することが可能となる。
【0066】
具体的には、電磁式発音体20による低音域の特性曲線と圧電式発音体30による高音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における合成周波数をフラットにするなど、所望とする周波数特性を容易に実現することができるようになる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0068】
例えば以上の実施形態では、いわゆるハイブリッド型の電気音響変換装置を例に挙げて説明したが、圧電式発音体30単独で電気音響変換装置が構成されてもよい。この場合にも、見掛け上において振動板の大口径化を図ることができるため、所望とする高周波特性を確保しつつ、音圧レベルの向上を実現することが可能となる。
【0069】
また、圧電式発音体30に関して、以上の実施形態では各圧電振動部31の振動板311に音響通路部としての通路部311hが設けられたが、通路部311hが板部材32の面内に設けられてもよい。
【0070】
また、以上の実施形態では、板部材32の各凹部321は、図5に示すように板部材32をその厚み方向に貫通する無底の貫通孔で構成されたが、これに限られず、例えば図7Bに示すように有底の凹部322で構成されてもよい。この場合、振動板311は、凹部322の底部322cに支持される。
底部322cに対する振動板311の支持形態は特に限定されず、典型的には、振動板311の周縁部のその全周にわたって、接合材料33を介して接合される。接合材料33は特に限定されないが、弾性変形可能な粘着材料を用いることが好ましく、これにより振動板311の共振のぶれが抑制され、振動板311の安定した共振動作を確保することが可能となる。接合材料33の厚みは特に限定されないが、振動板311の振動空間を確保できる厚みで形成されるのが好ましい。
【0071】
なお、板部材32の各凹部は、図8Aに示すように単純な貫通孔で構成されてもよいし、図8Bに示すように凹部そのものが板部材32に設けられていなくてもよい。
図8Aに示す凹部323は、板部材32をその厚み方向に貫通する貫通孔で構成され、その内径は、振動板311の外径よりも小さく形成される。振動板311は、凹部323を覆うように板部材32の一方の表面に配置され、その周縁部が接合材料33を介して板部材33に振動可能に支持される。
一方、図8Bに示すように板部材32に凹部が設けられていない場合は、各圧電振動部21は、板部材32上の任意に位置あるいは予め設定された所定の位置に配置される。この場合も、接合材料33を介して各振動板311の周縁部が板部材32の一方の表面に支持されることで、振動板311の振動空間が確保される。
【0072】
あるいは、板部材32の各凹部が単純な貫通孔323で構成される場合、図9A,Bに示すように、板部材32に対する各振動板311の接合位置を規定するための凸部324,325が貫通孔323の周囲に設けられてもよい。図9Aに示す凸部324は、振動板311の外径よりも大きな内径を有する環状体で構成されており、振動板311を内部に収容することで板部材32に対する振動板311の接合位置を規定する。一方、図9Bに示す凸部324は、振動板311の外径と略同一の外径を有する環状体で構成されており、振動板311の周縁部に接合されることで板部材32に対する振動板311の接合位置を規定する。凸部324,325は、環状体で構成される例に限られず、振動板311の周囲に間欠的に設けられた複数の突出部で構成されてもよい。
【0073】
凹部を有しない板部材32についても同様に、図10A,Bに示すように、板部材32に対する各振動板311の接合位置を規定するための突部324,325が板部材32の表面に設けられてもよい。図10Bに示す例では、凸部325を介して振動板311が板部材32に接合されるため、振動板311の振動空間の確保が容易となり、接合材料33の厚みの最適化が図れるようになる。
【0074】
さらに以上の実施形態では、電磁式発音体30の各圧電振動部31をそれぞれ同時に駆動することで高音域の音響を再生するように構成されたが、任意の圧電振動部31を任意の順序で駆動してもよいし、任意の圧電振動部31を他の任意の圧電振動部31と非同期で駆動してもよい。このように駆動される圧電振動部31を任意に選択することで、デジタル的な音響再生を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0075】
10…支持体
20…電磁式発音体
21…振動板(第2の振動板)
30…圧電式発音体
31…圧電振動部
32…板部材
100…ヘッドホン
104…スピーカユニット
311…振動板(第1の振動板)
312…圧電素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
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図10