特許第6461758号(P6461758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461758
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】円筒型タンクの構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 7/18 20060101AFI20190121BHJP
【FI】
   E04H7/18 301Z
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-179737(P2015-179737)
(22)【出願日】2015年9月11日
(65)【公開番号】特開2017-53185(P2017-53185A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】592009281
【氏名又は名称】IHIプラント建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】山田 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 成貴
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−045186(JP,A)
【文献】 特公昭63−055590(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/18
E04H 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内槽と外槽とを有する二重殻構造の円筒型タンクの構築方法であって、
前記外槽の内側において、ジャッキアップ装置による内槽側板の上昇と、前記上昇した内槽側板の下側への次の内槽側板の取り付けと、を交互に繰り返し、前記内槽の最下段を除く第1の構造物を組み立てる第1工程と、
前記外槽の底部に設けられた前記内槽を支持するためのアニュラー部の上に、前記内槽の最下段である第2の構造物を組み立てる第2工程と、
前記第1の構造物と前記第2の構造物とを接合し、前記内槽を組み立てる第3工程と、を有し、
前記第2工程は、
前記アニュラー部の上に、レールを設置する工程と、
前記レールに沿って走行する搬送装置によって、前記第2の構造物の内槽側板をタンク周方向に搬送する工程と、を有し、
前記搬送装置は、前記レールの上を走行するローラー装置と、前記ローラー装置に支持されてタンク径方向に延在する延在支持部と、前記内槽側板に着脱自在に固定されて前記延在支持部の上に前記内槽側板を縦に載置する転倒防止部材と、を備え、
前記内槽側板の曲率に応じて、前記延在支持部と前記転倒防止部材との固定位置を変更する、ことを特徴とする円筒型タンクの構築方法。
【請求項2】
前記レールは、前記アニュラー部を形成するアニュラー材料をタンク周方向に搬送する際に使用したレールである、ことを特徴とする請求項1に記載の円筒型タンクの構築方法。
【請求項3】
前記搬送装置は、前記内槽側板に着脱自在に固定されて前記内槽側板の上部を前記外槽の内周面に沿ってガイドする上部ガイド部材を備える、ことを特徴とする請求項1または2に記載の円筒型タンクの構築方法。
【請求項4】
前記上部ガイド部材は、前記内槽側板の曲率に応じて、前記内槽側板の上部から前記外槽の内周面までの長さを調節する長さ調節機構を備える、ことを特徴とする請求項3に記載の円筒型タンクの構築方法。
【請求項5】
前記搬送装置は、前記レールよりもタンク径方向内側を走行する第2のローラー装置を備え、
前記延在支持部は、前記ローラー装置と、前記第2のローラー装置とに支持される、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の円筒型タンクの構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒型タンクの構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内槽と外槽とを有する二重殻構造の円筒型タンクは、LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等の低温液体の貯蔵に用いられている。特許文献1には、金属製の内槽とコンクリート製の外槽とを有する円筒型タンクが開示されている。
【0003】
特許文献1には、円筒型タンクの工期の短縮を図るため、金属製の内槽とコンクリート製の外槽とを同時に施工する手法が開示されている。具体的には、外槽の底部にジャッキ架台を立設させ、ジャッキアップ装置を所定高さに支持させる(特許文献1の図4(b)参照)。そして、外槽の側壁工事を行うときに、外槽の底部上で内槽屋根と外槽屋根とを組み立て、次いで、上記ジャッキアップ装置により内槽屋根と外槽屋根とを上昇させながら、内槽屋根に内槽側板を最上段のものから最下段のものへと順々に取り付けることで、金属製の内槽とコンクリート製の外槽との同時施工を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−62924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来手法は、内槽側板の最下段までの取り付けが終了したら、内槽をジャッキダウンし、外槽の底部に設けられたアニュラー部の上に降ろした後、内槽にアンカーストラップを溶接して、内槽を完成させ、その後、内外槽間の保冷工事を行うようになっている。このため、従来手法は、内槽側板の最下段までの取り付け後、内槽をアニュラー部の上に固定するまでの間がクリティカルパスとなっており、また、この施工に例えば1カ月程度かかるため、工期の短縮化の課題の一つとなっている。
【0006】
そこで、本願発明者らは、ジャッキアップ装置による内槽の最下段を除く第1の構造物の組み立てと並行して、外槽の底部において内槽の最下段である第2の構造物の組み立てを行い、その後、第1の構造物と第2の構造物とを接合し、内槽を組み立てる方法を考案した。この方法によれば、ジャッキアップ装置による内槽の組み立てから、内槽の最下段の組み立てを分離することで、内槽の最下段のアニュラー部への固定を前倒しで行うことができ、内槽のアニュラー部への固定がクリティカルパスとならず、工期の短縮化を図ることができる。
【0007】
しかしながら、この方法において、内槽の最下段である第2の構造物を組み立てるためには、上方において組み立てられる第1の構造物とは異なる内槽側板の搬送システムを構築する必要がある。内槽側板は、転倒防止のために水平若しくは斜めの姿勢でタンク周方向に搬送することが好ましいが、そうすると、所定位置に搬送した後、内槽側板を立て起こす必要がある。内槽側板を立て起こすために、立て起こし架台を用意すると、巨大な仮設となってコストが増え、また、この巨大な仮設をタンク内で解体する必要があるため、工程が逼迫する。
【0008】
本発明は、上記課題点に鑑みてなされたものであり、内槽のアニュラー部への固定がクリティカルパスとならずに、工期の短縮化を図ることのでき、また、内槽の最下段の内槽側板の搬送システムを小規模の仮設で済ませることができる円筒型タンクの構築方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、内槽と外槽とを有する二重殻構造の円筒型タンクの構築方法であって、前記外槽の内側において、ジャッキアップ装置による内槽側板の上昇と、前記上昇した内槽側板の下側への次の内槽側板の取り付けと、を交互に繰り返し、前記内槽の最下段を除く第1の構造物を組み立てる第1工程と、前記外槽の底部に設けられた前記内槽を支持するためのアニュラー部の上に、前記内槽の最下段である第2の構造物を組み立てる第2工程と、前記第1の構造物と前記第2の構造物とを接合し、前記内槽を組み立てる第3工程と、を有し、前記第2工程は、前記アニュラー部の上に、レールを設置する工程と、前記レールに沿って走行する搬送装置によって、前記第2の構造物の内槽側板をタンク周方向に搬送する工程と、を有し、前記搬送装置は、前記レールの上を走行するローラー装置と、前記ローラー装置に支持されてタンク径方向に延在する延在支持部と、前記内槽側板に着脱自在に固定されて前記延在支持部の上に前記内槽側板を縦に載置する転倒防止部材と、を備え、前記内槽側板の曲率に応じて、前記延在支持部と前記転倒防止部材との固定位置を変更する、という手法を採用する。
【0010】
また、本発明においては、前記レールは、前記アニュラー部を形成するアニュラー材料をタンク周方向に搬送する際に使用したレールである、という手法を採用する。
【0011】
また、本発明においては、前記搬送装置は、前記内槽側板に着脱自在に固定されて前記内槽側板の上部を前記外槽の内周面に沿ってガイドする上部ガイド部材を備える、という手法を採用する。
【0012】
また、本発明においては、前記上部ガイド部材は、前記内槽側板の曲率に応じて、前記内槽側板の上部から前記外槽の内周面までの長さを調節する長さ調節機構を備える、という手法を採用する。
【0013】
また、本発明においては、前記搬送装置は、前記レールよりもタンク径方向内側を走行する第2のローラー装置を備え、前記延在支持部は、前記ローラー装置と、前記第2のローラー装置とに支持される、という手法を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ジャッキアップ装置による内槽の組み立てから、内槽の最下段の組み立てのみを分離することで、内槽の最下段のアニュラー部への固定を前倒しで行うことができ、内槽のアニュラー部への固定がクリティカルパスとならず、工期の短縮化を図ることができる。また、本発明によれば、内槽側板に転倒防止部材を装着し、縦の姿勢で延在支持部に載せ、ローラー装置によってアニュラー部の上に設置したレールに沿って搬送することで、内槽の最下段の内槽側板を縦の姿勢で安定して搬送することができる。このように、内槽側板を縦の姿勢で搬送することで、所定位置で立て起こす必要がなくなり、内槽の最下段の内槽側板の搬送システムを小規模の仮設で済ませることができる。このため、搬送システムのコストを下げ、解体作業にかかる工程を短縮できる。なお、内槽側板の曲率は、製品によってバラツキがあるため、内槽側板を縦の姿勢にすると、レールの上に乗らなくなる場合があるが、搬送装置にタンク径方向に延在する延在支持部を設け、内槽側板の曲率に応じて延在支持部と転倒防止部材との固定位置を変更可能とすることで、内槽側板の曲率のバラツキを許容しつつ縦の姿勢で内槽側板を安定して搬送することができる。
したがって、本発明では、内槽のアニュラー部への固定がクリティカルパスとならずに、工期の短縮化を図ることができ、また、内槽の最下段の内槽側板の搬送システムを小規模の仮設で済ませることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態における構築方法の第1工程を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態における構築方法の第2工程を示す説明図である。
図3】本発明の実施形態における構築方法の第3工程を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態における構築方法の第4工程を示す説明図である。
図5】本発明の実施形態における搬送装置を示す側面図である。
図6図5の矢視A図である。
図7】本発明の実施形態における搬送装置を示す平面図である。
図8】本発明の実施形態における延在支持部の(a)平面図と、(b)側面図である。
図9図8(b)に示す(a)矢視B図と、(b)矢視C図である。
図10】本発明の実施形態における構築方法の第2工程において搬送される内槽側板の平面図である。
図11】本発明の実施形態における構築方法の第2工程において所定位置に降ろされる内槽側板の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の円筒型タンクの構築方法について図面を参照して説明する。以下の説明では、円筒型タンクとして、LNGを貯蔵する地上式のPC(プレストレスコンクリート)二重殻貯槽を例示する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態における構築方法の第1工程を示す説明図である。
図1に示すように、本手法では、先ず、略円板状の基礎版1(外槽の底部)の工事を行う。基礎版1の外周縁部には、PC壁2(外槽)を組み立てる基礎部3を凸設する。また、基礎部3の内側に沿って内槽アンカーストラップ4を設置する。また、基礎部3上に、PC壁2を打設する。PC壁2を打設する際には、足場5を設け、不図示の型枠を設置する。
【0018】
次に、基礎版1上に底部ライナー6を敷設する。また、PC壁2の基端部に内槽側板9を一枚ずつ取り込むための工事口8を形成する。また、PC壁2の基端部の内側に沿って、内槽側板組立用の門型架台10を複数設置する。門型架台10は、内槽側板9が複数組み合わされてなる円筒状の内槽が基礎版1上に最終的に下ろされるべき領域であるアニュラー領域Xを跨ぐように設置する。
【0019】
門型架台10には、アニュラー部13を形成するアニュラー材料をタンク周方向に搬送するレール200を吊設する。レール200は、アニュラー領域Xの上方に配置され、タンクを一周している。レール200には、アニュラー材料を搬送するための不図示のトロリー等を設ける。このトロリーによって、アニュラー材料をタンク周方向に搬送する。搬送したアニュラー材料は、タンク周方向の所定位置で門型架台10の下に載置する。
【0020】
門型架台10の下では、アニュラー部13の保冷工事を行う。アニュラー部13の保冷工事は、後述する図5に示すように、底部冷熱抵抗緩和材39の上にパーライトコンクリートブロック41A,41B、構造用軽量コンクリートブロック42を組み立て、その上にアニュラープレート43を取り付けることにより行う。アニュラー部13は、組み立てられた内槽側板9を最終的に支持するものであり、アニュラープレート43が厚く形成され、またその保冷構造もコンクリートブロック等の硬質なもので形成される。
【0021】
アニュラー部13の保冷工事が完了したら、図1に示すように、アニュラー部13よりもタンク内側に配置されていた脚部10aをアニュラー部13上に挿げ替える。このような挿げ替えによって、アニュラー部13よりもタンク内側には干渉物がなくなるため、基礎版1上の中央部の保冷工事を行うことができる。中央部の保冷工事では、底部冷熱抵抗緩和材39の上に泡ガラス40を載置する。そして、その上に不図示のパーライトコンクリートブロックと不図示の内槽底板を順に重ねて敷設する。
【0022】
また、本手法では、上記保冷工事と並行して、門型架台10上に内槽側板9を載置し、隣り合う内槽側板9同士を溶接し、全体で円筒状になるように周方向に繋ぎ合わせる。また、内槽側板9の上端部にナックルプレート11を組み付ける。また、中央部の保冷工事の前に基礎版1の中央部に建てた不図示の屋根架台上に内槽屋根14を組み立て、その外周縁部に、ナックルプレート11を介して内槽側板9を組み付ける。
【0023】
次に、本手法では、PC壁2にジャッキアップ装置18をタンク周方向で複数設置する。また、ナックルプレート11には、複数のジャッキアップ装置18に対応して複数のナックル補強材17を設置する。ナックル補強材17は、ナックルプレート11から内外槽間15に向けて突出する。また、このナックル補強材17は、被吊側の架台となる。ジャッキアップ装置18は、センターホールジャッキであり、ジャッキアップロッド19の下端部をナックル補強材17に取り付ける。
【0024】
このようにジャッキアップ装置18を設置したら、不図示の屋根架台を除去し、ジャッキアップ装置18によってナックルプレート11を吊り上げることで、内槽側板9を上昇させる。ジャッキアップ装置18によりジャッキアップロッド19の1ストローク分(本実施形態では内槽側板9単体の上下幅に相当)だけ上昇させたら、そのジャッキアップにより内槽側板9の下部にできた空間に、次の内槽側板9を搬入する。
【0025】
次の内槽側板9は、トロリークレーン21によって吊り上げられ、門型架台10に設置した不図示のローラーユニットの上を転がして所定の溶接位置まで搬送する。そして、門型架台10上では、環状に配置した複数の内槽側板9同士を溶接し、かつ上下に並ぶ内槽側板9同士を溶接することで、これら内槽側板9を一体の円筒状に形成する。このようにして、ジャッキアップ装置18による内槽側板9の上昇と、上昇した内槽側板9の下側への次の内槽側板9の取り付けとを、交互に繰り返し、内槽側板9を最上段のものから順々に取り付け、内槽側板9の最下段を除く第1の構造物9Aを組み立てる。
【0026】
図2は、本発明の実施形態における構築方法の第2工程を示す説明図である。
本手法では、図2に示すように、内槽側板9の最下段を、第1の構造物9Aとは別にアニュラー部13上に組み立てる。門型架台10の解体後、内槽側板9の最下段をアニュラー部13上に載置したら、隣り合う内槽側板9同士を溶接し、全体で円筒状になるように周方向に繋ぎ合わせ、第2の構造物9Bを組み立てる。第2の構造物9Bを組み立てたら、基礎版1に設置された内槽アンカーストラップ4を取り付ける。
【0027】
また、図2に示すように、内槽屋根14上で外槽屋根22を組み立てる。外槽屋根22は、内槽屋根14と不図示の連結材で連結され、内槽屋根14と一体的に組み立てられる。また、PC壁2の内周面に側ライナー2aを貼り付ける。また、PC壁2の外部に昇降階段23を設ける。また、PC壁2の内側に、ポンプバレル25を搬入する。
【0028】
図3は、本発明の実施形態における構築方法の第3工程を示す説明図である。
次に、本手法では、図3に示すように、第1の構造物9Aをジャッキダウンし、第1の構造物9Aの下端部を第2の構造物9Bの上端部に降ろし、第1の構造物9Aと第2の構造物9Bとを溶接し、内槽30を組み立てる。本手法では、ジャッキアップ装置18による内槽30の組み立てから、内槽30の最下段の組み立てを分離し、内槽30の最下段である第2の構造物9Bのアニュラー部13上への固定を前倒しで行っている(図2参照)。したがって、本手法では、例えば1カ月程度かかる内槽30のアニュラー部13上への固定がクリティカルパスとならず、従来手法よりも工期の短縮化を図ることができる。
【0029】
内槽30が完成したら、外槽屋根22は、不図示の連結材による内槽屋根14との連結を解除し、最上段まで組み立てられたPC壁2の上端部に据え付ける。また、外槽屋根22に屋根階段24を設ける。また、ポンプバレル25を設置する。
その後、ナックル補強材17を切除してジャッキアップ装置18を撤去する。その後、PC壁2の緊張工事を行う。そして、工事口8の閉鎖後、水張りをして耐圧・気密試験を実施する。
【0030】
図4は、本発明の実施形態における構築方法の第4工程を示す説明図である。
最後に、図4に示すように、内外槽間15に保冷材44を配置し、また、内槽屋根14と外槽屋根22の間にも保冷材44を配置して保冷工事を行い、その後、塗装工事、配管保冷工事を経て円筒型タンク50が構築される。
【0031】
このように、上述の本実施形態によれば、内槽と外槽とを有する二重殻構造の円筒型タンク50の構築方法であって、PC壁2の内側において、ジャッキアップ装置18による内槽側板9の上昇と、上昇した内槽側板9の下側への次の内槽側板9の取り付けと、を交互に繰り返し、内槽30の最下段を除く第1の構造物9Aを組み立てる第1工程と、基礎版1に設けられた内槽30を支持するためのアニュラー部13の上に、内槽30の最下段である第2の構造物9Bを組み立てる第2工程と、第1の構造物9Aと第2の構造物9Bとを接合し、内槽30を組み立てる第3工程と、を有する、という手法を採用することによって、内槽30の最下段のアニュラー部13上への固定を前倒しで行うことができ、内槽30のアニュラー部13上への固定がクリティカルパスとならず、工期の短縮化を図ることができる。
【0032】
以下、第2工程における内槽側板9の最下段の搬送システムについて、図5図11に基づいて説明する。
【0033】
本手法では、ジャッキアップ装置18による内槽30の組み立てから、内槽30の最下段の組み立てを分離するため、第1の構造物9Aの組み立てと、第2の構造物9Bの組み立てとを並行して行う。そうすると、第1の構造物9Aの内槽側板9をタンク周方向に搬送する搬送システムとは別に、第2の構造物9Bの内槽側板9をタンク周方向に搬送するものが必要になる。そこで、本手法では、図5及び図6に示すように、レール200に沿って走行する搬送装置100を設け、第2の構造物9Bの内槽側板9をタンク周方向に搬送する。
【0034】
図5は、本発明の実施形態における搬送装置100を示す側面図である。図6は、図5の矢視A図である。図7は、本発明の実施形態における搬送装置100を示す平面図である。
図5に示すように、搬送装置100は、ローラー装置101A,101Bと、延在支持部110と、転倒防止部材120と、上部ガイド部材130と、を備える。この搬送装置100は、レール200に沿って走行する。レール200は、図1に示すように、前工程において、門型架台10に吊設され、アニュラー部13を形成するアニュラー材料をタンク周方向に搬送する際に使用したものである。
【0035】
すなわち、第2工程では、門型架台10は解体するが、レール200は解体せず、第2工程における内槽側板9の最下段の搬送システムに流用する。レール200は、タンクを一周しており、そのままアニュラー部13の上に設置することで、タンクを周回する軌道を容易に形成できる。これにより、レール200を別途用意する必要がなくなり、コストを極めて小さくすることができる。
【0036】
ローラー装置101Aは、図5及び図6に示すように、レール200の上を走行する構成となっている。ローラー装置101Aは、内槽側板9の直下に配置され、内槽側板9の荷重を支える。なお、ローラー装置101Aには、レール200両側をガイドする不図示のガイドローラを付設することが好ましい。
【0037】
延在支持部110は、ローラー装置101Aに支持される。この延在支持部110は、タンク径方向に延在する。詳しくは、延在支持部110は、図5に示すように、レール200の上からタンク中心に向かって、タンク径方向内側に延在する。延在支持部110のタンク径方向内側は、ローラー装置101B(第2のローラー装置)によって支持される。
【0038】
図8は、本発明の実施形態における延在支持部110の(a)平面図と、(b)側面図である。図9は、図8(b)に示す(a)矢視B図と、(b)矢視C図である。
図8(a)に示すように、延在支持部110は、本体部111と、本体部111に着脱自在に固定される延在部112と、を備える。本体部111は、ローラー装置101Aによって支持される。また、延在部112は、ローラー装置101Bによって支持される。
【0039】
本体部111は、内槽側板9の下端を支持する支持板113と、支持板113の裏面に固定された一対のフレーム114と、を備える。支持板113は、平面視矩形状に形成されている。一対のフレーム114は、所定形状の鉄鋼材(例えばH形鋼)からなり、支持板113に溶接等で平行に固定される。一対のフレーム114の間には、図9(a)に示すように、ローラー装置101Aが配置される。
【0040】
ローラー装置101Aは、支持板113の裏側に配置され、内槽側板9の荷重を支える。ローラー装置101Aとしては、耐久性に優れ超重量物を良好に搬送できるエンドレスコロ機構を採用することが好ましく、具体的には、チルタンク(登録商標)を好適に採用することができる。支持板113は、不図示のボルトを介して、ローラー装置101Aのトッププレート102Aに固定される。
【0041】
図8(a)及び図8(b)に示すように、一対のフレーム114の端部には、フランジ114aが設けられている。フランジ114aには、ボルト115が挿通可能な孔部が形成されている。ボルト115は、ナット116を締めることで、本体部111と延在部112とを締結固定する。なお、ボルト115とナット116の締結を解除すれば、本体部111から延在部112を分離できる。このように、延在支持部110は、延在部112の構成(延在長さ等)を変更可能な構成となっている。
【0042】
延在部112は、一対のフレーム114に固定される一対のフレーム117と、一対のフレーム117の間に架設されるもう一つの一対のフレーム118と、を備える。一対のフレーム117の端部には、フランジ117aが設けられている。フランジ117aには、ボルト115が挿通可能な孔部が形成されている。一対のフレーム117は、一対のフレーム114と同じ幅で平行に配置される。
【0043】
一対のフレーム118は、一対のフレーム117の間に架設される。一対のフレーム118は、一対のフレーム117と直交する方向に平行に配置され、一対のフレーム117に溶接等で固定される。一対のフレーム118のいずれか一方の下方には、図9(b)に示すように、ローラー装置101Bが配置される。ローラー装置101Bは、内槽側板9から離れた位置で荷重を支える。
【0044】
ローラー装置101Bは、図5に示すように、レール200よりもタンク径方向内側に位置するアニュラープレート43の上を走行する。ローラー装置101Bとしては、所定の操舵機能を有し、耐久性に優れ重量物を良好に搬送できるコロ機構を採用することが好ましく、具体的には、チルローラー(登録商標)を好適に採用することができる。図9(b)に示すように、一対のフレーム118の一方は、ボルト119を介して、ローラー装置101Bのトッププレート102Bに固定される。
【0045】
図5に示すように、転倒防止部材120は、内槽側板9に着脱自在に固定される。具体的に、内槽側板9には固定片9aが複数溶接されており、転倒防止部材120は、固定片9aに不図示のボルトを介して固定される。転倒防止部材120は、延在支持部110の上に内槽側板9を縦に載置する。転倒防止部材120は、トラス構造を有し、内槽側板9の転倒を防止する。
【0046】
具体的に、転倒防止部材120は、図5に示す側面視で三角形に組まれた三角フレーム121と、図7に示す平面視で三角形に組まれた三角フレーム122と、を備える。三角フレーム121,122は、図6に示すように、直角に組み合わされる。三角フレーム121,122は、所定形状の鉄鋼材(例えばH形鋼、C形鋼)からなり、溶接等で固定される。三角フレーム121,122のうち、タンク径方向に延在する底部フレーム123は、H形鋼からなる。
【0047】
底部フレーム123は、図7に示すように、支持板113と、一対のフレーム118の少なくとも一方に載置可能な構成となっている。底部フレーム123は、支持板113からフレーム118までの離間距離よりも長く延在している。底部フレーム123の延在支持部110に対する載置位置は、少なくともタンク径方向に変更可能な構成となっている。底部フレーム123は、支持板113と、一対のフレーム118の一方に、図5に示す複数の万力124等を介して固定される。上記構成の転倒防止部材120によれば、延在支持部110との固定位置をタンク径方向に容易に変更可能である。
【0048】
上部ガイド部材130は、図5に示すように、内槽側板9の上部をPC壁2の内周面に沿ってガイドする。上部ガイド部材130は、本体部131と、ガイド部132と、を備える。本体部131は、一対のフレーム133と、一対のフレーム133が固定されるフレーム134と、を備える。一対のフレーム133は、内槽側板9の厚みよりも大きな距離をあけてフレーム134に溶接等で固定される。一対のフレーム133の一方には、ボルト135が螺合する。本体部131は、ボルト135によって内槽側板9を挟み込むことで、内槽側板9に着脱自在に固定される。
【0049】
ガイド部132は、フレーム136と、ガイドローラ137と、を備える。ガイドローラ137は、フレーム136の端部に回転自在に取り付けられる。フレーム136は、図6に示すボルト138、ナット139を介して、フレーム134に固定される。一対のフレーム133、フレーム134、フレーム136は、所定形状の鉄鋼材(例えばC形鋼)からなる。フレーム134とフレーム136は、C形鋼を背中合せにして固定される。
【0050】
上部ガイド部材130は、図5に示すように、内槽側板9の上部からPC壁2の内周面までの長さを調節する長さ調節機構140を備える。長さ調節機構140は、本体部131に設けられた長穴131aを含む。長穴131aは、タンク径方向に延在する。長穴131aは、ボルト138及びナット139(図6参照)によって本体部131に固定されるガイド部132のタンク径方向における固定位置を変更可能とさせる。長穴131aのタンク径方向における長さは、内槽側板9の曲率のバラツキに対応し得る長さに設定されている。
【0051】
続いて、上記構成の搬送システムを用いた第2工程における内槽側板9の搬送について、図10及び図11を追加参照して説明する。
図10は、本発明の実施形態における構築方法の第2工程において搬送される内槽側板9の平面図である。図11は、本発明の実施形態における構築方法の第2工程において所定位置に降ろされる内槽側板9の側面図である。
【0052】
上述したように、第2工程では、PC壁2の底部に設けられた内槽30を支持するためのアニュラー部13の上に、内槽30の最下段である第2の構造物9Bを組み立てる。第2工程は、アニュラー部13の上に、レール200を設置する工程を有する。上述したように、レール200は、図1に示す前工程において、門型架台10に吊設され、アニュラー部13を形成するアニュラー材料をタンク周方向に搬送する際に使用したものを流用する。これにより、コストを極めて小さくすることができる。
【0053】
第2工程では、次に、レール200に沿って走行する搬送装置100によって、第2の構造物9Bの内槽側板9をタンク周方向に搬送する。搬送装置100は、レール200の上を走行するローラー装置101Aと、ローラー装置101Aに支持されてタンク径方向に延在する延在支持部110と、内槽側板9に着脱自在に固定されて延在支持部110の上に内槽側板9を縦に載置する転倒防止部材120と、を備える。搬送装置100は、内槽側板9の長さに応じて複数設置する。
【0054】
先ず、図5に示すように、内槽側板9に転倒防止部材120を装着し、縦の姿勢で延在支持部110に載せる。次に、転倒防止部材120と延在支持部110とを万力124で固定する。また、内槽側板9の上部に上部ガイド部材130を固定し、PC壁2の内周面に沿ってガイドさせる。これにより、内槽30の最下段の内槽側板9を縦の姿勢で安定して搬送することができる。このように、内槽側板9を縦の姿勢で搬送することで、内槽側板9を所定位置で立て起こす必要がなくなり、内槽30の最下段の内槽側板9の搬送システムを小規模の仮設で済ませることができる。このため、搬送システムのコストを下げ、解体作業にかかる工程を短縮できる。
【0055】
ところで、内槽側板9の曲率は、製品によってバラツキがある。このため、内槽側板9を縦の姿勢にすると、図10に示すように、レール200の上に完全に乗らなくなる場合がある(図10の内槽側板9の両端部参照)。このため、搬送装置100にタンク径方向に延在する延在支持部110を設け、内槽側板9の曲率に応じて、延在支持部110と転倒防止部材120との固定位置を変更可能とする。これにより、内槽側板9の曲率のバラツキを許容しつつ縦の姿勢で内槽側板9を安定して搬送することができる。延在支持部110と転倒防止部材120は、別構造体であるため、固定位置の変更は任意に行うことができる。
【0056】
また、本実施形態においては、搬送装置100は、図5に示すように、レール200よりもタンク径方向内側を走行するローラー装置101Bを備え、延在支持部110は、ローラー装置101Aと、ローラー装置101Bとに支持される。この手法によれば、延在支持部110と転倒防止部材120との固定位置が変更され、レール200(ローラー装置101A)の上に乗らなくなった内槽側板9の荷重を、ローラー装置101Bで支持することができる。また、ローラー装置101Bは、操舵機能を有するコロ機構であり、レール200がないアニュラープレート43の上を良好に走行できる。
【0057】
また、本実施形態においては、上部ガイド部材130は、内槽側板9の曲率に応じて、内槽側板9の上部からPC壁2の内周面までの長さを調節する長さ調節機構140を備える。この手法によれば、延在支持部110と転倒防止部材120との固定位置が変更されても、ガイド部132を確実にPC壁2の内周面に当接されることができる。このため、内槽側板9の曲率のバラツキを許容しつつ、内槽側板9のタンク径方向外側(PC壁2側)への転倒を確実に防止することができる。
【0058】
図11に示すように、搬送装置100によって、内槽側板9を所定位置まで搬送したら、不図示の爪ジャッキで内槽側板9を持ち上げて、内槽側板9の下にアンコ150を入れる。内槽側板9をアンコ150へ載せ替えたら、ローラー装置101A,101B、延在支持部110、及び転倒防止部材120を取り外す。また、上部ガイド部材130のガイド部132をタンク径方向内側に折り畳み、ボルト135を回して本体部131を取り外す。取り外した各構成部材は、次に搬送される内槽側板9に取り付けられることとなる。
【0059】
このように、上述の本実施形態によれば、内槽30とPC壁2とを有する二重殻構造の円筒型タンク50の構築方法であって、PC壁2の内側において、ジャッキアップ装置18による内槽側板9の上昇と、上昇した内槽側板9の下側への次の内槽側板9の取り付けと、を交互に繰り返し、内槽30の最下段を除く第1の構造物9Aを組み立てる第1工程と、PC壁2の底部に設けられた内槽30を支持するためのアニュラー部13の上に、内槽30の最下段である第2の構造物9Bを組み立てる第2工程と、第1の構造物9Aと第2の構造物9Bとを接合し、内槽30を組み立てる第3工程と、を有し、第2工程は、アニュラー部13の上に、レール200を設置する工程と、レール200に沿って走行する搬送装置100によって、第2の構造物9Bの内槽側板9をタンク周方向に搬送する工程と、を有し、搬送装置100は、レール200の上を走行するローラー装置101Aと、ローラー装置101Aに支持されてタンク径方向に延在する延在支持部110と、内槽側板9に着脱自在に固定されて延在支持部110の上に内槽側板9を縦に載置する転倒防止部材120と、を備え、内槽側板9の曲率に応じて、延在支持部110と転倒防止部材120との固定位置を変更する、という手法を採用することによって、内槽30の最下段の内槽側板9の搬送システムを小規模の仮設で済ませることができる。
【0060】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
2 PC壁(外槽)
9 内槽側板
9A 第1の構造物
9B 第2の構造物
13 アニュラー部
18 ジャッキアップ装置
30 内槽
50 円筒型タンク
100 搬送装置
100A ローラー装置
100B ローラー装置(第2のローラー装置)
110 延在支持部
120 転倒防止部材
130 上部ガイド部材
140 長さ調節機構
200 レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11