【実施例】
【0012】
実施例に係るラベルにつき、
図1から
図7を参照して説明する。
【0013】
病院等の医療施設や自然科学等の研究施設において、生物の組織や細胞等の検体を長期保存するために、検体を保存容器2(容器)に収納した状態で液体窒素(−196℃)に浸漬させて不活性化した後、超低温フリーザー内において−80℃で長期間冷凍保存する方法が用いられている。また、このような低温環境における冷凍保存に使用される保存容器2としては、ポリプロピレン(以下、PPと略記する)等の樹脂素材からなるマイクロチューブ(
図1(a)参照)やスクリューキャップチューブ(
図1(b)参照)等のチューブ型の密閉容器が用いられている。
【0014】
本実施例におけるラベル1は、
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、後述する記載面3b(
図2参照)に検体の識別情報を記載し、保存容器2の外側面2aや蓋部分の天面2bに貼着させることにより、保存容器2に収納され低温環境において冷凍保存される検体をラベル1の識別情報を基に識別管理できるようになっている。
【0015】
尚、従来のラベルにおいては、保存容器2の外側面2aや蓋部分の天面2bに貼着させ、前述したような低温環境における冷凍保存を行った場合、冷凍保存されていた保存容器2を超低温フリーザーから取り出して低温環境から室温環境(常温とされる20℃±15℃の温度環境)に移した際に、保存容器2及びラベルが解凍されていく過程で保存容器2からラベルが剥離してしまい、ラベルを基とする検体の識別管理が煩雑になっていた。このようなラベルの剥離の原因としては、冷凍・解凍の温度変化による保存容器2及びラベルのそれぞれの熱膨張/収縮が関係していると考えられる。
【0016】
尚、一般的に保存容器2の筒状に湾曲した外側面2aに貼着されたラベル1は、平面状の天面2bに貼着されたものと比べて剥離しやすくなっているが、本実施例においては、剥離しやすい保存容器2の外側面2aに貼着されたラベル1の剥離耐性について確認するものとする。
【0017】
次いで、本実施例のラベル1について説明する。
図2に示されるように、ラベル1は、シート基材3(基材)と、該シート基材3の一方側の面である塗布面3aに形成される粘着層4(粘着部)と、該粘着層4の粘着面4aに貼着される剥離紙5と、から構成されている。ラベル1の使用時には、剥離紙5を粘着面4aから剥離して、被着体の表面に粘着層4を介してシート基材3を貼着させることができるようになっている。
【0018】
シート基材3は、粘着層4を構成する粘着剤40が塗布される塗布面3aと、該塗布面3aの反対側の面であり、文字、バーコード等の検体の識別情報を記載可能な記載面3bと、を備えている。本実施例では、シート基材3の素材として、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)の単層素材が使用されており、塗布面3aには、アルミニウムが蒸着されている。このアルミニウムが蒸着された塗布面3aに対してコロナ処理またはプラズマ処理が行われることにより、塗布面3aの濡れ性が向上し、塗布面3aに対して粘着剤40が塗りやすくなるとともに、塗布面3aに対する粘着層4の粘着力が高められている。尚、本実施例における単層素材とは、アルミニウムの蒸着等の加工が行われる前のフィルム基材(PET)が単層構造の素材であることを示している。
【0019】
粘着層4は、シート基材3の塗布面3aに対して粘着剤40が厚さ28μmで均一に塗布されることにより形成され、粘着面4aがシート基材3を介して外側から押圧されることにより保存容器2に貼着されるようになっている。また、前述したようにシート基材3の塗布面3aの濡れ性を向上させているため、粘着層4は、粘着面4aの保存容器2に対する粘着力に比べて、シート基材3の塗布面3aに対する粘着力の方が大きくなっており、保存容器2に貼着されたラベル1を剥がした場合には、シート基材3の塗布面3aに粘着層4が保持されるようになっている。尚、粘着層4は、シート基材3の塗布面3aに塗布された粘着剤40に対して加熱乾燥処理を行って水分を蒸発させ、粘着剤40をゲル状にして定着させたものである。
【0020】
剥離紙5は、紙等を素材とする剥離基材5aと、シリコーン樹脂等により表面に剥離加工が施され粘着層4の粘着面4aと接する剥離面5bと、を有している。剥離面5bは、ラベル1の使用時には、粘着層4の粘着面4aから剥離紙5を剥離しやすくなっており、ラベル1の未使用時には、粘着層4の粘着面4aに剥離紙5が貼着された状態を保持し、粘着面4aに塵や埃等が付着することによる粘着性能の低下を防いでいる。尚、剥離基材5a及び剥離面5bに使用される素材や加工方法等は、本実施例のものに限られず、自由に構成されてよい。
【0021】
次いで、粘着層4を形成する粘着剤40について説明する。塗布前の粘着剤40は、常温で乳白色または乳黄白色の液体であり、組成・成分比は、
図3に示されるように、天然ゴムが約56.0%、アンモニアが約0.3%、界面活性剤及び酸化防止剤が約0.5%、水が約43.2%となっており、硫黄は含まれていない。尚、天然ゴムは、天然ゴムラテックスと合成樹脂(粘着付与剤としてのロジンエステルエマルジョン)との混合物を指す。さらに尚、ラベル1の製造工程においてシート基材3の塗布面3aに塗布された粘着剤40に対する加熱乾燥処理が行われ、粘着剤40に含まれる水のほとんどが蒸発して失われるため、乾燥後のラベル1の粘着層4における天然ゴム及び合成樹脂の組成・成分比は、全体の約98%となっている。
【0022】
粘着層4を形成する粘着剤40の主成分である天然ゴムは、主にパラゴムノキの樹液(ラテックス)から精製され、その化学的な主成分は、イソプレン(2‐メチル‐1,3‐ブタジエン)である。イソプレンの構造式を、以下の化1に示す。
【0023】
【化1】
【0024】
また、天然ゴム中においては、単量体であるイソプレンが付加重合した紐状のポリイソプレンとして存在している。イソプレンには、複数の付加重合パターンが存在しており、天然ゴムの場合は、複数のイソプレンがシス‐1,4結合により付加重合したシス‐1,4‐ポリイソプレン(以下、ポリイソプレンと略記する)の付加重合体の構造となっている。尚、天然ゴム中において、個々のポリイソプレンを構成するイソプレンの数は一定ではなく、それぞれ分子量が異なる状態で存在している。ポリイソプレンの構造式を、以下の化2に示す。
【0025】
【化2】
【0026】
尚、ラテックスとは、従来、パラゴムノキ等から採取される白色乳状の樹液を直接示すものであったが、乳化重合物の開発以来、水性媒体の中に高分子物質が安定して分散しているもののことを一般的にラテックスと総称するようになっており、前述した粘着剤40の主成分である天然ゴムラテックスは、ポリイソプレンが乳化剤等によって水性媒体の中で略球状の微粒子として分散している不均一系懸濁液のことを示している。さらに尚、本実施例における粘着剤40の主成分(50%以上)は、イソプレンを単量体として合成されたイソプレンゴムを使用したイソプレンゴムラテックスであってもよい。
【0027】
また、本実施例では、粘着剤40をシート基材3の塗布面3aに塗布しやすくするために、増粘剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩を所定量添加し、粘着剤40を所定の粘度に調整している。ポリアクリル酸アンモニウム塩は、粘着剤40中の水を吸着することにより粘度を高める増粘剤である。
【0028】
本実施例におけるラベル1の粘着層4は、蛍光X線分析により硫黄含有率が0質量%を示す粘着剤40がシート基材3の塗布面3aに塗布され、加熱乾燥処理されることにより形成されている。これにより、ポリイソプレンから成る天然ゴムあるいはイソプレンゴムが有する伸びの物性が保持されるので、冷凍・解凍時における保存容器2及びシート基材3の熱膨張/収縮に対して粘着層4が追従しやすくなっている。
【0029】
次いで、本実施例のラベル1に対して低温環境における剥離耐性評価試験を行った結果について説明する。剥離耐性評価試験の目的としては、実際の使用環境と同一環境下において保存容器2に貼着されたラベル1の剥離耐性の確認を行うものである。
【0030】
剥離耐性評価試験における評価手順としては、検体(ラベル1が貼着された保存容器2)を液体窒素(−196℃)に1時間浸漬した後、−80℃の超低温フリーザー内で7日間冷凍保存を行い、その間1日1回24時間置きに検体の表面が結露するまで室温環境(常温とされる20℃±15℃の温度環境)に放置して解凍し、結露が付着したままの状態で再び−80℃の超低温フリーザー内に戻すという作業を行い、室温環境における解凍状態の検体に対してラベル1の剥離状況の評価を行った。また、剥離耐性評価試験における評価方法としては、感覚的評価であるため同一人物がラベル1の剥離状況の評価を行い、○:接着維持、△:一部剥離、×:剥離の3段階評価とし、×になった時点でその検体は試験終了とした。尚、検体としては、ラベル1に対して全11種類の保存容器2(
図4参照)を3本ずつ、合計33本の検体に対して評価試験を行った。
【0031】
また、剥離耐性評価試験において保存容器2に貼着されるラベル1は、寸法が10mm×25mm、粘着層4の厚さが28μmのものとし、シート基材3の素材として、単層素材のPET系アルミニウム蒸着シートを使用し、検体である保存容器2の外側面2aの外周がラベル1よりも短いもの(外周25mm以下のもの)についてはラベル1の端部が重ならないように切り、粘着面4aが保存容器2の外側面2aに対して全て貼着された状態とした。
【0032】
図5に示されるように、剥離耐性評価試験の結果として、粘着層4の硫黄含有率が0質量%のラベル1は、−80℃冷凍7日後において、○が30本、△が2本、×が1本となり、約90%の検体が接着維持することができた。
【0033】
この結果から、粘着層4の硫黄含有率が0質量%を示すラベル1は、ポリイソプレン分子同士の硫黄を介する分子間の結合がないため、粘着層4の弾性が高まっておらず、天然ゴムあるいはイソプレンゴムが有する伸びの物性が保持され、冷凍・解凍時における保存容器2及びシート基材3の熱膨張/収縮に対して粘着層4が追従しやすくなることによって、低温環境において高い剥離耐性を有するラベルとなっていることが分かる。
【0034】
ここで、一般的に流通している天然ゴムあるいはイソプレンゴムを主成分とする粘着剤は、製造工程において各種添加剤が加えられることにより硫黄を含有した状態となっているものもあることから、粘着層4の硫黄含有率によるラベルの剥離耐性への影響を調べるために粘着層4の硫黄含有率を段階的に調整した複数種類の粘着層を有する各ラベルについて、前述した剥離耐性評価試験と同様の評価手順及び評価方法で評価試験を行った。
【0035】
図6に示されるように、硫黄含有率の増加に伴って接着維持することができた検体の割合は漸次減少していき、硫黄含有率が約0.1質量%のラベルにおいて接着維持することができた検体は約75%となっている。また、硫黄含有率が約0.12質量%のラベルにおいては、接着維持することができた検体の割合が約60%となっており、約0.1質量%のラベルに比べて接着維持することができた検体の割合が大きく低下していることから、硫黄含有率が約0.1質量%よりも高い各ラベルにおいては、剥離耐性の低下が確認できる。また、硫黄含有率が約0.1質量%以下の各ラベルにおいては、接着維持することができた検体の割合が75%を上回っており、剥離耐性が確認できる。
【0036】
この結果から、ラベル1の粘着層4は、硫黄含有率が高くなるにつれてポリイソプレン分子同士の間における硫黄原子を媒体とした結合が増え、剥離耐性が徐々に低下していくが、硫黄含有率が0.1質量%以下の粘着層4を有するラベル1においては、ポリイソプレン分子同士の間における硫黄原子を媒体とした結合により粘着層4の弾性が高まってしまっていても、天然ゴムあるいはイソプレンゴムが有する伸びの物性が保持されており、低温環境において剥離耐性を有するラベルとなっていることが分かる。従って、ラベル1の粘着層4における硫黄含有率は0〜0.1質量%が好ましい。
【0037】
また、
図7に示されるように、硫黄含有率が0質量%の天然ゴムと硫黄含有率が0.45質量%の天然ゴムに対して皮膜強度測定を行うと、伸びが100〜700%の状態における各応力は、硫黄含有率が0質量%の天然ゴムに比べて硫黄含有率が約0.45質量%の天然ゴムはそれぞれ大きな値を示しており、伸びの最大値は、硫黄含有率が0質量%の天然ゴムが1100%、硫黄含有率が約0.45質量%の天然ゴムが960%となっている。さらに、天然ゴムが限界まで伸びた状態における最大点応力は、硫黄含有率が0質量%の天然ゴムが7.43MPa、硫黄含有率が約0.45質量%の天然ゴムが33.20MPaとなっており、ポリイソプレン分子同士の間における硫黄原子を媒体とした結合により粘着層4の弾性が高まってしまい、天然ゴムが有する伸びの物性が損なわれていることが分かる。尚、天然ゴムあるいはイソプレンゴムの伸びの物性は、略同一であり、他のゴムに比べて優れた伸びの物性を有しており(例えば、アクリルゴムの伸びの最大値は約600%である)、低温環境で使用されるラベル1の粘着層4の主成分として適している。
【0038】
また、シート基材3として、単層素材のポリ塩化ビニル系シートや多層構造のPP系合成シートを使用した各ラベル(粘着層4の硫黄含有率は0〜0.1質量%)について、前述した剥離耐性評価試験と同様の評価手順及び評価方法で評価試験を行った結果、接着維持することができた検体は10%前後の割合となったことから、本実施例における単層素材のPET系アルミニウム蒸着シートを使用したラベル1に優れた剥離耐性が確認できた。
【0039】
本実施例のラベル1のシート基材3に使用されるPET系アルミニウム蒸着シートの素材であるPETと、11種類の保存容器2の素材であるPPの熱膨張率は、それぞれ6〜8.5×10
−5/℃の範囲内の値となっており、冷凍・解凍による保存容器2及びシート基材3のそれぞれの熱膨張/収縮を略均一にすることができるので、粘着層4に働く外力が特定箇所に集中せず、外力の集中点から剥離が起こることを防ぐことができる。また、本実施例のラベル1のシート基材3に使用されるPET系アルミニウム蒸着シートは、PETの単層素材から構成されているので、冷凍・解凍時においてシート基材3全体が略均一に熱膨張/収縮し、粘着層4を追従させることができるので、シート基材3と粘着層4の歪みを抑えることができる。
【0040】
以上説明したように、本実施例におけるラベル1は、シート基材3と、シート基材3の少なくとも一方側の面に塗布される粘着層4と、を備え、粘着層4は、安価であり、且つ伸びの物性に優れた天然ゴムあるいはイソプレンゴムを主成分とし、さらに硫黄の含有率が0〜0.1質量%であるため、粘着層4は、天然ゴムあるいはイソプレンゴムのポリイソプレン分子同士が硫黄を介して分子間で結合されていても天然ゴムあるいはイソプレンゴムが有する伸びの物性が保持され、冷凍・解凍時における保存容器2及びシート基材3の熱膨張/収縮に対して粘着層4が追従しやすくなり、粘着層4を保存容器2から剥離し難くすることができ、低温環境における使用に適したラベルとすることができる。
【0041】
さらに、一般的に架橋されたゴムは、分子内における構造的な絡まりが増加しているため、低温環境において、ゴムとしての伸びの性質を維持することができず、硬化するガラス転移点の温度が未架橋のゴムに比べて高くなる。対して、本実施例の粘着層4は、硫黄の含有率が0〜0.1質量%であるため、伸びの性質が損なわれることなく、ガラス転移点の温度が架橋されたゴムに比べ低くなる。すなわち、本実施例におけるラベル1は、特に、解凍時において粘着層4が変形し始めるタイミングが早くなっており、保存容器2及びシート基材3の熱膨張に合わせて粘着層4を確実に追従させることができる。
【0042】
また、ラベル1のシート基材3は、保存容器2の素材であるPPと略同一の熱膨張率を示すPETから構成されており、冷凍・解凍時における保存容器2及びシート基材3の熱膨張/収縮を略均一にすることができるので、粘着層4に働く外力が特定箇所に集中せず、粘着層4が保存容器2から剥離する可能性をより低くすることができる。
【0043】
また、ラベル1のシート基材3は、PETの単層素材から構成されており、冷凍・解凍時においてシート基材3全体が略均一に熱膨張/収縮し、粘着層4を追従させることができるので、シート基材3と粘着層4の歪みを抑え、シート基材3の熱膨張/収縮によって粘着層4に対して働く応力が特定箇所に集中することがなくなり、粘着面4aを保存容器2から剥離し難くすることができ、低温環境における使用に最適なラベルとすることができる。
【0044】
尚、本実施例では、粘着剤40に対して増粘剤としてポリアクリル酸アンモニウム塩が所定量添加される態様として説明したが、これに限らず、ポリイソプレン分子同士の間における結合に影響がない、あるいは影響が極めて小さいものであれば、ポリアクリル酸アンモニウム塩以外の増粘剤が添加されてもよい。さらに尚、粘着剤40を組成している合成樹脂(粘着付与剤)、界面活性剤、酸化防止剤等の添加剤についても、ポリイソプレン分子同士の間における結合に影響がない、あるいは影響が極めて小さいものが使用されるものとし、ポリイソプレン分子同士の間における結合を促進する架橋剤、架橋促進剤等はできる限り添加しないものとする。
【0045】
また、本実施例では、粘着層4は、シート基材3の塗布面3aに対して粘着剤40が厚さ28μmで均一に塗布されることにより形成された態様として説明したが、粘着層4の態様はこれに限られず、ラベル1の大きさや使用条件等によって厚さや形状を変更する等、自由に構成されてよい。
【0046】
また、本実施例では、シート基材3の素材として、PETが使用され、塗布面3aに形成されたアルミニウム蒸着層に対してコロナ処理あるいはプラズマ処理が行われているが、ラベル1を構成するシート基材3の態様はこれに限られず、シート基材3の素材や塗布面3aに対する加工方法(例えば、シリカ蒸着)等は自由に構成されてよい。
【0047】
また、本実施例では、ラベル1が貼着される保存容器2として、ポリプロピレン等の合成樹脂素材からなるチューブ型の密閉容器を使用したが、ラベル1が貼着される保存容器2はこれに限られず、金属等の素材から成る袋型あるいは箱型の密閉容器等、自由に構成されてよい。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。