【0006】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明は、多能性幹細胞を、(1)アクチビンAおよびGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程、(2)BMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含む培養液中で培養する工程、および(3)BMP4、レチノイン酸およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程を含む、多能性幹細胞から肺胞上皮前駆細胞(例えば、ヒト肺胞上皮前駆細胞)を製造する方法を提供する。
本発明において、肺胞上皮前駆細胞を製造するにあたり、工程(3)の後に、CPMが陽性であることを指標として肺胞上皮前駆細胞を抽出する工程を含んでも良い。
本発明において、肺胞上皮前駆細胞に製造するにあたり、工程(3)の後に、さらに、(4)FGF10を含む培養液中で培養する工程、および、(5)ステロイド剤、cAMP誘導体、ホスホジエステラーゼ阻害剤およびKGFを含む培養液中で培養する工程を含んでも良い。また、工程(5)の後に、CPMが陽性であることを指標として肺胞上皮前駆細胞を抽出する工程を含んでも良い。
本発明において、肺胞上皮前駆細胞とは、I型肺胞上皮細胞またはII型肺胞上皮細胞の前駆細胞を意味し、CPMまたはNKX2−1を発現している細胞である。本明細書において肺胞上皮細胞は、肺胞上皮前駆細胞と同等の細胞を意味し、特別の断りがなければ、この2つの細胞を区別しない。本発明において、CPMは、NCBIアクセッション番号:NM_001005502、NM−001874またはNM_198320で示されるポリヌクレオチドおよびこれらがコードするタンパク質である。本発明において、NKX2−1は、NCBIアクセッション番号:NM_001079668またはNM_003317で示されるポリヌクレオチドおよびこれらがコードするタンパク質である。
本発明において、肺胞上皮前駆細胞のマーカーとして、SFTPB(NCBIアクセッション番号:NM_000542またはNM_198843)、SFTPC(NCBIアクセッション番号:NM_001172357、NM_001172410またはNM_003018)およびCCSP(NCBIアクセッション番号:NM_003357)から成る群より選択されるポリヌクレオチドおよびこれらがコードするタンパク質が例示される。
<アクチビンAおよびGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程>
本発明の多能性幹細胞を培養する工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。より好ましくは、B27および抗生物質を添加したRPMI1640培地である。
本工程では、上記の基礎培地へアクチビンAおよびGSK3β阻害剤を添加して多能性幹細胞を培養することによって行われる。本工程では、さらにHDAC阻害剤を添加してもよい。
ここで、アクチビンAは、2つのベータA鎖のホモダイマーであり、アクチビンAのアミノ酸配列は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ネコのタンパク質で100%の相同性があるため、特に種の限定はされない。本発明において好ましくは、N末端ペプチドが切断された活性型であり、inhibin beta A鎖(例えば、NCBIアクセッション番号:NP_002183)のN末端ペプチドが切断されたGly311−Ser426断片がジスルフィド結合したホモダイマーである。このようなアクチビンAは、例えば、Wako社R&D Systems社から購入可能である。
培養液中におけるアクチビンAの濃度は、例えば、10ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/ml、150ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、400ng/ml、500ng/ml、600ng/ml、700ng/ml、800ng/ml、900ng/mおよび1mg/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、100ng/mlである。
ここで、GSK3β阻害剤とは、GSK−3βタンパク質のキナーゼ活性(例えば、βカテニンに対するリン酸化能)を阻害する物質として定義され、既に多数のものが知られているが、例えば、インジルビン誘導体であるBIO(別名、GSK−3β阻害剤IX;6−ブロモインジルビン3’−オキシム)、マレイミド誘導体であるSB216763(3−(2,4−ジクロロフェニル)−4−(1−メチル−1H−インドール−3−イル)−1H−ピロール−2,5−ジオン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物であるGSK−3β阻害剤VII(4−ジブロモアセトフェノン)、細胞膜透過型のリン酸化ペプチドであるL803−mts(別名、GSK−3βペプチド阻害剤;Myr−N−GKEAPPAPPQSpP−NH
2)および高い選択性を有するCHIR99021(6−[2−[4−(2,4−Dichlorophenyl)−5−(4−methyl−1H−imidazol−2−yl)pyrimidin−2−ylamino]ethylamino]pyridine−3−carbonitrile)が挙げられる。これらの化合物は、例えばCalbiochem社やBiomol社等から市販されており容易に利用することが可能であるが、他の入手先から入手してもよく、あるいはまた自ら作製してもよい。
本発明で使用されるGSK−3β阻害剤は、好ましくは、CHIR99021であり得る。本工程における、培養液中におけるCHIR99021の濃度は、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、1.5μM、2μM、2.5μM、3μM、3.5μM、4μM、4.5μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。本工程では、好ましくは、1μMである。
ここで、HDAC阻害剤とは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の酵素活性を阻害または失活させる物質として定義され、例えば、バルプロ酸(VPA)(Nat.Biotechnol.,26(7):795−797(2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム(NaB)、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例えば、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’−azacytidine)(Nat.Biotechnol.,26(7):795−797(2008))が挙げられる。
本発明で使用されるHDAC阻害剤は、好ましくは、酪酸ナトリウム(NaB)であり得る。培養液中における酪酸ナトリウム(NaB)の濃度は、例えば、1μM、10μM、50μM、100μM、250μM、500μM、750μM、1mM、2mM、3mM、4mM、5mMであるがこれらに限定されない。好ましくは、250μMである。
本工程において、コーティング処理された培養容器を用いて培養してもよい。コーティング剤としては、天然由来または人工的に合成された細胞外マトリックスでよく、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。
本工程において、多能性幹細胞を解離させる工程を含んでも良い。細胞を解離させる方法としては、例えば、力学的に解離する方法、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(例えば、Accutase(TM)およびAccumax(TM)など)またはコラゲナーゼ活性のみを有する解離溶液を用いた解離方法が挙げられる。好ましくは、プロテアーゼ活性とコラゲナーゼ活性を有する解離溶液(特に好ましくは、Accutase(TM))を用いてヒト多能性幹細胞を解離する方法が用いられる。
本工程において、解離させる工程を含む場合、解離により多能性幹細胞の細胞死を抑制するため、ROCK阻害剤を培養液に添加することで行うことができる。
ここで、ROCK阻害剤とは、Rhoキナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものである限り特に限定されず、例えば、Y−27632((+)−(R)−trans−4−(1−aminoethyl)−N−(4−pyridyl)cyclohexanecarboxamide dihydrochloride)(例えば、Ishizaki et al.,Mol.Pharmacol.57,976−983(2000);Narumiya et al.,Methods Enzymol.325,273−284(2000)参照)、Fasudil/HA1077(例えば、Uenata et al.,Nature 389:990−994(1997)参照)、H−1152(例えば、Sasaki et al.,Pharmacol.Ther.93:225−232(2002)参照)、Wf−536(例えば、Nakajima et al.,Cancer Chemother Pharmacol.52(4):319−324(2003)参照)およびそれらの誘導体、ならびにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。また、ROCK阻害剤としては他の低分子化合物も知られているので、本発明においてはこのような化合物またはそれらの誘導体も使用できる(例えば、米国特許出願公開第20050209261号、同第20050192304号、同第20040014755号、同第20040002508号、同第20040002507号、同第20030125344号、同第20030087919号、及び国際公開第2003/062227号、同第2003/059913号、同第2003/062225号、同第2002/076976号、同第2004/039796号参照)。本発明では、1種または2種以上のROCK阻害剤が使用され得る。
本発明で使用されるROCK阻害剤は、好ましくは、Y−27632であり得る。Y−27632の濃度は、例えば、100nM、500nM、750nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、10μMである。
培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。
培養期間は、長期の培養により特段の問題が起きないため、特に限定されないが、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、6日以上であり、特に好ましくは、6日である。また、ROCK阻害剤を添加する場合、その添加する期間は1日または2日であり、好ましくは1日である。さらに、HDAC阻害剤を添加する場合、本工程開始の翌日から添加して、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、またはそれ以上の日数、好ましくは、5日以上であり、特に好ましくは、5日間、HDAC阻害剤の存在下で培養する方法が例示される。
<BMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含む培養液中で培養する工程>
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましくは、Glutamax、B27、N2、3’−チオールグリセロールおよびアスコルビン酸を添加したDMEM培地およびHam’s F12培地の混合培地である。
本工程では、上記の基礎培地へBMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を添加して前記工程(多能性幹細胞をアクチビンAおよびGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程)により得られた細胞を培養することによって行われる。
ここで、BMP阻害剤とは、Chordin、Noggin、Follistatin、などのタンパク質性阻害剤、Dorsomorphin(すなわち、6−[4−(2−piperidin−1−yl−ethoxy)phenyl]−3−pyridin−4−yl−pyrazolo[1,5−a]pyrimidine)、その誘導体(P.B.Yu et al.(2007),Circulation,116:II_60;P.B.Yu et al.(2008),Nat.Chem.Biol.,4:33−41;J.Hao et al.(2008),PLoS ONE,3(8):e2904)およびLDN−193189(すなわち、4−(6−(4−(piperazin−1−yl)phenyl)pyrazolo[1,5−a]pyrimidin−3−yl)quinoline)が例示される。DorsomorphinおよびLDN−193189は市販されており、それぞれSigma−Aldrich社およびStemgent社から入手可能である。
本発明で使用されるBMP阻害剤は、好ましくは、Nogginであり得る。培養液中におけるNogginの濃度は、BMPを阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、1ng/ml、10ng/ml、50ng/ml、100ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、400ng/ml、500ng/ml、600ng/ml、700ng/ml、800ng/ml、900ng/ml、1μg/ml、2μg/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、200ng/mlである。
ここで、TGFβ阻害剤とは、TGFβの受容体への結合からSMADへと続くシグナル伝達を阻害する物質であり、受容体であるALKファミリーへの結合を阻害する物質、またはALKファミリーによるSMADのリン酸化を阻害する物質である限り特に限定されず、例えば、Lefty−1(NCBI Accession No.として、マウス:NM_010094、ヒト:NM_020997が例示される)、SB431542(4−(4−(benzo[d][1,3]dioxol−5−yl)−5−(pyridin−2−yl)−1H−imidazol−2−yl)benzamide)、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al.,Mol.Cancer,2003,2:20)、SB505124(GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208(Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276(Lilly Research Laboratories)、A−83−01(WO 2009146408)およびこれらの誘導体などが例示される。
本発明で使用されるTGFβ阻害剤は、好ましくは、SB431542であり得る。培養液中におけるSB431542の濃度は、TGFβを阻害する濃度であれば特に限定されないが、例えば、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、35μM、40μM、45μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM、200μM、300μM、400μMおよび500μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、10μMである。
本工程において、コーティング処理された培養容器を用いて培養してもよい。コーティング剤としては、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。
本工程は、前記工程により得られた細胞の培養液を上記培養液へと交換することによって行われても良い。また、細胞を解離させ、再度、培養容器に播種することによって行われてもよい。このように細胞を解離させる場合、特定の細胞を選択してもよく、例えば、SOX17および/またはFOXA2の陽性細胞を選択して、本工程に用いても良い。好ましくは、培養液を交換することによって行われる方法である。
本工程において、解離させる工程を含む場合、解離により多能性幹細胞の細胞死を抑制するため、ROCK阻害剤を培養液に添加することで行うことができる。
培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。
培養期間は、長期の培養により特段の問題が起きないため、特に限定されないが、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、4日である。
<BMP4、レチノイン酸およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程>
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましくは、Glutamax、B27、N2、3’−チオールグリセロールおよびアスコルビン酸を添加したDMEM培地およびHam’s F12培地の混合培地である。
本工程では、上記の基礎培地へBMP4、レチノイン酸およびGSK3β阻害剤を添加して前記工程(BMP阻害剤およびTGFβ阻害剤を含む培養液中で培養する工程)により得られた細胞を培養することによって行われる。
ここで、BMP4とは、NCBIのアクセッション番号NM_001202、NM_130850またはNM_130851で示されるポリヌクレオチドによってコードするタンパク質であり、プロテアーゼによる切断を受けて活性化された形態であってもよい。
培養液中におけるBMP4の濃度は特に限定されないが、例えば、10ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、400ng/ml、500ng/ml、600ng/ml、700ng/ml、800ng/ml、900ng/ml、1μg/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、100ng/mlである。
ここで、レチノイン酸とは、全トランスレチノイン酸(ATRA)が例示されるが、天然のレチノイン酸が有する機能を保持しながら人工的に修飾されたレチノイン酸であってもよく、例えば、4−[[(5,6,7,8−tetrahydro−5,5,8,8−tetramethyl−2−naphthalenyl)carbonyl]amino]−Benzoic acid(AM580)(Tamura K,et al.,Cell Differ Dev.32:17−26(1990))、4−[(1E)−2−(5,6,7,8−tetrahydro−5,5,8,8−tetramethyl−2−naphthalenyl)−1−propen−1−yl]−Benzoic acid(TTNPB)(Strickland S,et al.,Cancer Res.43:5268−5272(1983))、パルミチン酸レチノール、レチノール、レチナール、3−デヒドロレチノイン酸、3−デヒドロレチノール、3−デヒドロレチナールもしくは、Abe,E.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)78:4990−4994(1981);Schwartz,E.L.et al.,Proc.Am.Assoc.Cancer Res.24:18(1983);Tanenaga,K.et al.,Cancer Res.40:914−919(1980)に記載されている化合物が挙げられる。
培養液中におけるレチノイン酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、1nM、5nM、10nM、15nM、20nM、25nM、30nM、40nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、50nMである。
本工程におけるGSK3β阻害剤は、上述したGSK3β阻害剤を用いることができ、好ましくは、CHIR99021であり得る。本工程における、培養液中におけるCHIR99021の濃度は、例えば、1nM、10nM、50nM、100nM、500nM、750nM、1μM、1.5μM、2μM、2.5μM、3μM、3.5μM、4μM、4.5μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、15μM、20μM、25μM、30μM、40μM、50μMであるがこれらに限定されない。本工程では、好ましくは、2.5μMである。
本工程において、コーティング処理された培養容器を用いて培養してもよい。コーティング剤としては、天然由来または人工的に合成された細胞外マトリックスでよく、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。
本工程は、前記工程により得られた細胞の培養液を上記培養液へと交換することによって行われても良い。また、細胞を解離させ、再度、培養容器に播種することによって行われてもよい。このように細胞を解離させる場合、特定の細胞を選択してもよく、例えば、SOX2および/またはSOX17および/またはFOXA2の陽性細胞を選択して、本工程に用いても良い。好ましくは、培養液を交換することによって行われる方法である。
本工程において、解離させる工程を含む場合、解離により多能性幹細胞の細胞死を抑制するため、ROCK阻害剤を培養液に添加することで行うことができる。
培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。
培養期間は、長期の培養により特段の問題が起きないため、特に限定されないが、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、4日以上であり、より好ましくは4日である。
<FGF10を含む培養液中で培養する工程>
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましくは、Glutamax、B27、N2、3’−チオールグリセロールおよびアスコルビン酸を添加したDMEM培地およびHam’s F12培地の混合培地である。
本工程では、上記の基礎培地へFGF10を添加して前記工程(BMP4、レチノイン酸およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程)により得られた細胞を培養することによって行われる。
ここで、FGF10とは、NCBIのアクセッション番号NM_004465で示されるポリヌクレオチドによってコードするタンパク質であり、プロテアーゼによる切断を受けて活性化された形態であってもよい。このようなFGF10は、例えば、Life Technologies社またはWako社から入手可能である。
培養液中におけるFGF10の濃度は特に限定されないが、例えば、10ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、400ng/ml、500ng/ml、600ng/ml、700ng/ml、800ng/ml、900ng/ml、1μg/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、100ng/mlである。
本工程において、コーティング処理された培養容器を用いて培養してもよい。コーティング剤としては、天然由来または人工的に合成された細胞外マトリックスでよく、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。
本工程は、前記工程により得られた細胞の培養液を上記培養液へと交換することによって行われても良い。また、細胞を解離させ、再度、培養容器に播種することによって行われてもよい。このように細胞を解離させる場合、特定の細胞を選択してもよく、例えば、NKX2−1および/またはFOXA2の陽性細胞を選択して、本工程に用いても良い。好ましくは、培養液を交換することによって行われる方法である。
本工程において、解離させる工程を含む場合、解離により多能性幹細胞の細胞死を抑制するため、ROCK阻害剤を培養液に添加することで行うことができる。
培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。
培養期間は、長期の培養により特段の問題が起きないため、特に限定されないが、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上、14日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、7日以上あり、より好ましくは7日である。
<ステロイド剤、cAMP誘導体、ホスホジエステラーゼ阻害剤およびKGFを含む培養液中で培養する工程>
本工程において用いる培養液は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えばIMDM培地、Medium199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、ITSプレミックス、コラーゲン前駆体、微量元素、2−メルカプトエタノール、3’−チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L−グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。好ましくは、アルブミン、緩衝剤(例えば、HEPES)、塩化カルシウム、ITSプレミックスおよび抗生物質を含有するHam’s F12培地である。
本工程では、上記の基礎培地へステロイド剤、cAMP誘導体、ホスホジエステラーゼ阻害剤およびKGFを添加して前記工程(FGF10を含む培養液中で培養する工程)により得られた細胞を培養することによって行われる。
ここで、ステロイド剤とは、ステロイド系抗炎症薬であり、グルココルチコイドあるいはその合成誘導体であり、例えば、ヒドロコルチゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、コハク酸メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、デキサメタゾン、ベタメタゾンが例示される。
本発明で使用されるステロイド剤は、好ましくは、デキサメタゾンであり得る。培養液中におけるデキサメタゾンの濃度は特に限定されないが、例えば、1nM、5nM、10nM、20nM、30nM、40nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、800nM、900nM、1μMであるがこれらに限定されない。好ましくは、50nMである。
ここで、cAMP誘導体とは、cyclic AMPへ置換基が修飾された化合物であり、例えば、cyclic adenosine monophosphate(cAMP)、8−bromo cyclic adenosine monophosphate(8−Br−cAMP又は8Br−cAMP)、8−chloro cyclic adenosine monophosphate(8−Cl−cAMP)、8−(4−Chlorophenylthio)cyclic adenosine monophosphate(8−CPT−cAMP)およびDibutyryl cyclic adenosine monophosphate(DB−cAMP)が例示される。
本発明で使用されるcAMP誘導体は、好ましくは、8−Br−cAMPであり得る。培養液中における8−Br−cAMPの濃度は特に限定されないが、例えば、1μM、5μM、10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM、200μM、300μM、400μM、500μM、600μM、700μM、800μM、900μM、1mMであるがこれらに限定されない。好ましくは、100μMである。
ここで、ホスホジエステラーゼ阻害剤とは、ホスホジエステラーゼ(PDE)を阻害することにより、cAMPあるいはcGMPの細胞内濃度を上昇させる化合物であり、例えば、1,3−Dimethylxanthine、6,7−Dimethoxy−1−(3,4−dimethoxybenzyl)isoquinoline、4−{[3’,4’−(Methylenedioxy)benzyl]amino}−6−methoxyquinazoline、8−Methoxymethyl−3−isobutyl−1−methylxanthineおよび3−Isobutyl−1−methylxanthine(IBMX)が例示される。
本発明で使用されるホスホジエステラーゼ阻害剤は、好ましくは、IBMXであり得る。培養液中におけるIBMXの濃度は特に限定されないが、例えば、1μM、5μM、10μM、20μM、30μM、40μM、50μM、60μM、70μM、80μM、90μM、100μM、200μM、300μM、400μM、500μM、600μM、700μM、800μM、900μM、1mMであるがこれらに限定されない。好ましくは、100μMである。
ここで、KGFとは、NCBIのアクセッション番号NM_002009で示されるポリヌクレオチドによってコードするタンパク質であり、プロテアーゼによる切断を受けて活性化された形態であってもよい。このようなKGFは、例えば、Wako社から入手することができる。
培養液中におけるKGFの濃度は特に限定されないが、例えば、10ng/ml、20ng/ml、30ng/ml、40ng/ml、50ng/ml、60ng/ml、70ng/ml、80ng/ml、90ng/ml、100ng/ml、200ng/ml、300ng/ml、400ng/ml、500ng/ml、600ng/ml、700ng/ml、800ng/ml、900ng/ml、1μg/mlであるがこれらに限定されない。好ましくは、100ng/mlである。
本工程において、コーティング処理された培養容器を用いて培養してもよい。コーティング剤としては、天然由来または人工的に合成された細胞外マトリックスでよく、例えば、マトリゲル(BD)、コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、またはエンタクチン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。好ましくは、マトリゲルである。
本工程は、前記工程により得られた細胞の培養液を上記培養液へと交換することによって行われても良い。また、細胞を解離させ、再度、培養容器に播種することによって行われてもよい。このように細胞を解離させる場合、特定の細胞を選択してもよく、例えば、NKX2−1の陽性細胞を選択して、本工程に用いても良い。好ましくは、培養液を交換することによって行われる方法である。
本工程において、解離させる工程を含む場合、解離により多能性幹細胞の細胞死を抑制するため、ROCK阻害剤を培養液に添加することで行うことができる。
培養条件について、培養温度は、以下に限定されないが、約30〜40℃、好ましくは約37℃であり、CO
2含有空気の雰囲気下で培養が行われ、CO
2濃度は、好ましくは約2〜5%である。
培養期間は、長期の培養により特段の問題が起きないため、特に限定されないが、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、4日以上であり、特に好ましくは、4日である。
<3次元培養>
本発明において、肺胞上皮前駆細胞をさらに成熟化させるために、肺胞上皮前駆細胞を3次元培養する方法を提供する。本発明において、3次元培養とは、細胞を塊(スフェロイド)として浮遊状態で培養することを意味する。本発明の3次元培養では、例えば、BD社が提供するセルカルチャーインサートを使用して行うことができる。
本発明の3次元培養では、他の細胞種と共培養しても良く、この時用いる他の細胞種としては、ヒト肺線維芽細胞、およびヒト胎児肺線維芽細胞が例示され、このような細胞は、例えば、American Type Culture Collection(ATCC)およびDVbiologics社などから入手可能である。
本発明の3次元培養において、用いる培養液は、上述のステロイド剤、cAMP誘導体、ホスホジエステラーゼ阻害剤およびKGFを含む培養液中で培養する工程で用いる培養液を用いることができ、好ましくは、培養液に細胞外基質を添加して用いてもよい。細胞外基質と培養液の比率は特に限定されないが、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4および1:5の比率で混合することが例示される。本発明において、細胞外基質とは、細胞の外に存在する超分子構造体であり、天然由来であっても、人工物(組換え体)であってもよい。例えば、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、テネイシン、エンタクチン、エラスチン、フィブリリン、ラミニンといった物質またはこれらの断片が挙げられる。これらの細胞外基質は、組み合わせて用いられてもよく、例えば、BD Matrigel(TM)などの細胞からの調製物であってもよい。人工物としては、ラミニンの断片が例示される。
3次元培養での培養期間は、長期の培養により特段の問題が起きないため、特に限定されないが、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、またはそれ以上の日数が挙げられる。好ましくは、10日以上であり、特に好ましくは、10日、11日または12日である。
<多能性幹細胞>
本発明で使用可能な多能性幹細胞は、生体に存在する全ての細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、それには、例えば胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(「GS細胞」)、胚性生殖細胞(「EG細胞」)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)などが含まれる。本発明では、胚の破壊を行わずに得られると意味では、iPS細胞またはMuse細胞を用いることが好ましい。
(A)胚性幹細胞
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。
ES細胞は、受精卵の8細胞期、桑実胚後の胚である胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚由来の幹細胞であり、成体を構成するあらゆる細胞に分化する能力、いわゆる分化多能性と、自己複製による増殖能とを有している。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J.Evans and M.H.Kaufman(1981),Nature292:154−156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された(J.A.Thomson et al.(1998),Science282:1145−1147;J.A.Thomson et al.(1995),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:7844−7848;J.A.Thomson et al.(1996),Biol.Reprod.,55:254−259;J.A.Thomson and V.S.Marshall(1998),Curr.Top.Dev.Biol.,38:133−165)。
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor(LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor(bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUSP5,843,780;Thomson JA,et al.(1995),Proc Natl.Acad.Sci.U S A.92:7844−7848;Thomson JA,et al.(1998),Science.282:1145−1147;H.Suemori et al.(2006),Biochem.Biophys.Res.Commun.,345:926−932;M.Ueno et al.(2006),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:9554−9559;H.Suemori et al.(2001),Dev.Dyn.,222:273−279;H.Kawasaki et al.(2002),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:1580−1585;Klimanskaya I,et al.(2006),Nature.444:481−485などに記載されている。
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1mM 2−メルカプトエタノール、0.1mM非必須アミノ酸、2mM L−グルタミン酸、20%KSRおよび4ng/ml bFGFを補充したDMEM/F−12培養液を使用し、37℃、5%CO
2、湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(H.Suemori et al.(2006),Biochem.Biophys.Res.Commun.,345:926−932)。また、ES細胞は、3〜4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1mM CaCl
2および20%KSRを含有するPBS中の0.25%トリプシンおよび0.1mg/mlコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct−3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal−Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT−3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E.Kroon et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:443−452)。
ヒトES細胞株(例えばWA01(H1)およびWA09(H9))は、WiCell Reserch Instituteから、KhES−1、KhES−2およびKhES−3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。
(B)精子幹細胞
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M.Kanatsu−Shinohara et al.(2003)Biol.Reprod.,69:612−616;K.Shinohara et al.(2004),Cell,119:1001−1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line−derived neurotrophic factor(GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41〜46頁,羊土社(東京、日本))。
(C)胚性生殖細胞
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立しうる(Y.Matsui et al.(1992)Cell,70:841−847;J.L.Resnicket al.(1992),Nature,359:550−551)。
(D)人工多能性幹細胞
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K.Takahashi and S.Yamanaka(2006)Cell,126:663−676;K.Takahashi et al.(2007),Cell,131:861−872;J.Yu et al.(2007),Science,318:1917−1920;Nakagawa,M.ら,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);国際公開WO2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon−cording RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon−coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c−Myc、N−Myc、L−Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15−2、Tcl1、beta−catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al.(2008),Nat.Biotechnol.,26:795−797、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,2:525−528、Eminli S,et al.(2008),Stem Cells.26:2467−2474、Huangfu D,et al.(2008),Nat Biotechnol.26:1269−1275、Shi Y,et al.(2008),Cell Stem Cell,3,568−574、Zhao Y,etal.(2008),Cell Stem Cell,3:475−479、Marson A,(2008),Cell Stem Cell,3,132−135、Feng B,et al.(2009),Nat Cell Biol.11:197−203、R.L.Judson et al.,(2009),Nat.Biotech.,27:459−461、Lyssiotis CA,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci U S A.106:8912−8917、Kim JB,et al.(2009),Nature.461:649−643、Ichida JK,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:491−503、Heng JC,et al.(2010),Cell Stem Cell.6:167−74、Han J,et al.(2010),Nature.463:1096−100、Mali P,et al.(2010),Stem Cells.28:713−720、Maekawa M,et al.(2011),Nature.474:225−9.に記載の組み合わせが例示される。
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標)(Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1(OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase−3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、5−azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX−01294等の低分子阻害剤、Suv39h1、Suv39h2、SetDB1およびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L−channel calcium agonist(例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA−83−01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR−291−3p、miR−294、miR−295およびmir−302などのmiRNA、Wnt Signaling(例えばsoluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell,126,pp.663−676,2006;Cell,131,pp.861−872,2007;Science,318,pp.1917−1920,2007)、アデノウイルスベクター(Science,322,945−949,2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science,322:949−953,2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5−メチルシチジンおよびpseudouridine(TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L,(2010)Cell Stem Cell.7:618−630)。
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10〜15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX−WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)]などが含まれる。
培養法の例としては、たとえば、37℃、5%CO
2存在下にて、10%FBS含有DMEM又はDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。
あるいは、37℃、5%CO
2存在下にて、フィーダー細胞(たとえば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10%FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L−グルタミン、非必須アミノ酸類、β−メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K,et al.(2009),PLoS One.4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin−5(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N,et al.(2009),Proc Natl Acad Sci U S A.106:15720−15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y,et al.(2009),Cell Stem Cell.5:237−241またはWO2010/013845)。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm
2あたり約5×10
3〜約5×10
6細胞の範囲である。
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。
本明細書中で使用する「体細胞」なる用語は、卵子、卵母細胞、ES細胞などの生殖系列細胞または分化全能性細胞を除くあらゆる動物細胞(好ましくは、ヒトを含む哺乳動物細胞)をいう。体細胞には、非限定的に、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、および成熟した健全なもしくは疾患性の体細胞のいずれも包含されるし、また、初代培養細胞、継代細胞、および株化細胞のいずれも包含される。具体的には、体細胞は、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞などが例示される。
また、iPS細胞を移植用細胞の材料として用いる場合、拒絶反応が起こらないという観点から、移植先の個体のHLA遺伝子型が同一もしくは実質的に同一である体細胞を用いることが望ましい。ここで、「実質的に同一」とは、移植した細胞に対して免疫抑制剤により免疫反応が抑制できる程度にHLA遺伝子型が一致していることであり、例えば、HLA−A、HLA−BおよびHLA−DRの3遺伝子座あるいはHLA−Cを加えた4遺伝子座が一致するHLA型を有する体細胞である。
(E)核移植により得られたクローン胚由来のES細胞
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T.Wakayama et al.(2001),Science,292:740−743;S.Wakayama et al.(2005),Biol.Reprod.,72:932−936;J.Byrne et al.(2007),Nature,450:497−502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B.Cibelli et al.(1998),Nature Biotechnol.,16:642−646)とES細胞作製技術との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),47〜52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
(F)Multilineage−differentiating Stress Enduring cells(Muse細胞)
Muse細胞は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA−3およびCD105が陽性である。
<多能性幹細胞から肺胞上皮前駆細胞への分化誘導用キット>
本発明は、多能性幹細胞から肺胞上皮前駆細胞を分化誘導(又は製造)するためのキットを提供する。本キットには、上述した分化誘導に用いる増殖因子、化合物、培養液、解離溶液および培養容器のコーティング剤を含んでもよい。本キットには、さらに分化誘導の手順を記載した書面や説明書を含んでもよい。
<肺胞上皮前駆細胞を選択する方法>
本発明において、肺胞上皮前駆細胞とは、肺胞上皮前駆細胞を含有する細胞集団であればよく、好ましくは、本発明において、肺胞上皮前駆細胞を含有する細胞集団とは、肺胞上皮前駆細胞を50%、60%、70%、80%または90%以上含有する細胞集団である。
従って、本発明は、肺胞上皮前駆細胞を抽出する方法を提供する。抽出される細胞集団は、上述の方法で得られた肺胞上皮前駆細胞であってもよく、その製造工程((3)BMP4、レチノイン酸およびGSK3β阻害剤を含む培養液中で培養する工程の終了後または(4)FGF10を含む培養液中で培養する工程の終了後)において得られる細胞集団であってもよい。肺胞上皮前駆細胞の抽出は、CPMに特異的親和性を有する試薬を用いて行うことができる。CPMはこれまで成人のI型の肺胞上皮細胞のマーカーとして知られていたが、発生過程の前駆細胞で発現していることは知られておらず、肺胞上皮前駆細胞のマーカーであるNKX2−1と同等に表面マーカーとして用いることが本発明により初めて見出されたものである。
ここで、特異的親和性を有する試薬とは、抗体、アプタマー、ペプチドまたは特異的に認識する化合物などを用いることができ、好ましくは、抗体もしくはその断片である。
本発明において、抗体はポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってよい。これらの抗体は、当業者に周知の技術を用いて作成することが可能である(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley and Sons.Section11.12−11.13)。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌または哺乳類細胞株等で発現し精製したCPMがコードするタンパク質、部分アミノ酸配列を有するオリゴペプチドあるいは糖脂質を精製して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、上述の免疫された非ヒト動物から得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit.Ausubel et al.(1987)Publish.John Wiley and Sons.Section11.4−11.11)。抗体の断片としては、抗体の一部(たとえばFab断片)または合成抗体断片(たとえば、一本鎖Fv断片「ScFv」)が例示される。FabおよびF(ab)2断片などの抗体の断片もまた、遺伝子工学的に周知の方法によって作製することができる。例えば、CPMに対する抗体をLeica microsystems社より入手することができる。
CPMを発現する細胞を認識または分離することを目的として、当該親和性を有する試薬は、例えば、蛍光標識、放射性標識、化学発光標識、酵素、ビオチンまたはストレプトアビジン等の検出可能な物質またはプロテインA、プロテインG、ビーズまたは磁気ビーズ等の単離抽出を可能とさせる物質と結合または接合されていてもよい。
当該親和性を有する試薬はまた、間接的に標識してもよい。当業者に公知の様々な方法を使用して行い得るが、例えば、当該抗体に特異的に結合する予め標識された抗体(二次抗体)を用いる方法が挙げられる。
肺胞上皮前駆細胞を抽出する方法には、当該親和性を有する試薬へ粒子を接合させ沈降させる方法、磁気ビーズを用いて磁性により細胞を選別する方法(例えば、MACS)、蛍光標識を用いてセルソーターを用いる方法、または抗体等が固定化された担体(例えば、細胞濃縮カラム)を用いる方法等が例示される。
<肺胞疾患治療剤>
本発明で得られた肺胞上皮前駆細胞は、製剤として肺胞の破壊される疾患患者に投与することができる。得られた肺胞上皮前駆細胞をシート化して、患者の肺胞上皮に貼付してもよく、生理食塩水等に懸濁させ、患者の肺胞に直接移植することによって行われ得る。従って、本発明では、上記の方法で多能性幹細胞より得られた肺胞上皮前駆細胞を含む肺胞疾患治療剤を提供する。
本発明において、肺胞疾患治療剤に含まれる肺胞上皮前駆細胞の細胞数は、移植片が投与後に生着できれば特に限定されなく、患部の大きさや体躯の大きさに合わせて適宜増減して調製されてもよい。
【実施例】
【0007】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
<iPS細胞培養>
ヒトiPS細胞(201B7)は、京都大学の山中教授より受領し、従来の方法で培養した(Takahashi K,et al.Cell.131:861−872,2007)。また、Mae S,et al,Nat Commun.4:1367,2013に記載された方法と同様の方法を用いてヒトiPS細胞(201B7)のSFTPCの開始コドンの下流にEGFP配列をKnock−inさせたSFTPC−reporter 201B7を作製した。
<肺胞上皮前駆細胞誘導>
iPS細胞等の多能性幹細胞から肺胞上皮前駆細胞を製造するスキームを
図1に示す。
肺胞上皮前駆細胞は、ヒトiPS細胞をAccutaseにより解離させ、マトリゲルコーティングした24ウェルプレートに1ウェルあたり2.0x10
5個、またはマトリゲルコーティングした6ウェルプレートに1ウェルあたり9.6x10
5個を播種し、次の条件で培養することによって誘導した(
図1AおよびB)。
(Step1)
播種した細胞(Day0)を100ng/ml Activin A(R&D Systems)、1μM CHIR99021および10μM Y−27632を添加した基礎培地1(2%B27(Life technologies)および0.5%Penicillin/streptomycin stock soliution(Life technologies)を含有するRPMI1640(Nacalaitesque))中で培養した。翌日(Day1)、100ng/ml Activin A、1μM CHIR99021および0.25mM NaBを含有する基礎培地1へ培地を交換し、翌日(Day2)および3日後(Day4)に同じ条件の培地へ培地を交換し、5日間培養した。
もしくは、播種した細胞(Day0)を100ng/ml Activin A、1μM CHIR99021および10μM Y−27632を添加した基礎培地1中で培養した。翌日(Day1)、100ng/ml Activin A、1μM CHIR99021、10μM Y−27632および0.125mMまたは0.25mM NaBを含有する基礎培地1へ培地を交換し、翌日(Day2)、100ng/ml Activin A、1μM CHIR99021、および0.125mMまたは0.25mM NaBを含有する基礎培地1へ培地を交換し、3日後(Day4)に同じ条件の培地へ培地を交換した。
(Step2)
Step1で得られた細胞(Day6)を200ng/mlまたは100ng/ml hNoggin(R&D Systems)および10μM SB−431542を添加した基礎培地2(1%Glutamax supplement(Life technologies)、2%B27 supplement、1%N2 supplement(Life technologies)、0.8% StemSure
TM 50mmol/l Monothioglycerol Solution(Wako)、50μg/ml L−ascorbic acid(Sigma Aldrich)および0.5%Penicillin/streptomycin stock soliutionを含有するDMEM/F12(Life technologies))中で4日間培養した。この時、2日に一度同じ条件の培地へ培地を交換した。
(Step3)
Step2で得られた細胞(Day10)を100ng/ml hBMP4(HumanZyme,Inc.)、0.05μM all−trans retinoic acid(ATRA)および2.5μM CHIR99021を含有する基本培地2中で4日間培養した。この時、2日に一度同じ条件の培地へ培地を交換した。
(Step4)
Step3で得られた細胞(Day14)を100ng/ml FGF10(Wako)を含有する基本培地2中で7日間培養した。この時、2日に一度同じ条件の培地へ培地を交換した。
(Step5)
培地交換後、Step4で得られた細胞(Day21)を50nM Dexamethasone(Sigma Aldrich)、0.1mM 8−Br−cAMP(Biolog Life Science Institute)、0.1mM 3−Isobutyl−1−methylxanthine(IBMX)(Wako)および100ng/mlまたは50ng/ml KGF(Wako)を含有する基礎培地3(3.33%BSA Fraction V Solution(7.5%)(Life technologies)、15mM HEPES(Sigma Aldrich)、0.8mM CaCl
2(Nacalai tesque)、1%ITSプレミックス(BD)および0.5%Penicillin/streptomycin stock soliutionを含有するHam’s F12 media(Wako))中で培養し、以後2日に一度同じ条件の培地へ培地を交換した。4日後(Day25)、得られた肺胞上皮前駆細胞について解析を行った。
<細胞解析>
(1)Step3終了後
Step3終了後(Day14)の細胞を免疫染色にてCPMおよびNKX2−1の発現を確認したところ、これらのマーカーの共陽性細胞が確認された(
図2AおよびB)。さらに、Day14の細胞からMACS(ミルテニー社)を用いてCPM陽性細胞を採取し(
図3AおよびB)、得られた細胞をサイトスピンにてスライドグラスに張り付けて、免疫染色を行ったところ、その多くがNKX2−1も陽性であることが確認された(
図4AおよびB)。この時の細胞をフローサイトメーターを用いて解析したところ、MACSにより得られたCPM陽性細胞のうち92%の細胞がNKX2−1陽性であることが確認された(
図5AおよびB)。また、MACSにより得られたCPM陽性細胞を定量RT−PCRを用いてCPMおよびNKX2−1のmRNA量を測定したところ、CPM陽性細胞をソーティングすることで、顕著にCPMおよびNKX2−1のmRNA量が増加していることが確認された(
図6)。
(2)Step4終了後
Step4終了後(Day21)の細胞からMACSを用いてCPM陽性細胞を採取し、定量RT−PCRを用いてCPMおよびNKX2−1のmRNA量を測定したところ、CPM陽性細胞をソーティングすることで、顕著にCPMおよびNKX2−1のmRNA量が増加していることが確認された(
図7)。
(3)Step5終了後
Step5終了後(Day25)の細胞からMACSを用いてCPM陽性細胞を採取し、得られた細胞をサイトスピンにてスライドグラスに張り付けて、免疫染色を行ったところ、その多くがNKX2−1も陽性であった(
図8A)。さらに、SFTPC−reporter 201B7を用いて同様に分化誘導した細胞についても免疫染色をおこなったところ、CPM陽性細胞においてSFTPCまたはproSPB陽性の細胞が混在することが確認できた(
図8B)。このSFTPC陽性細胞の含有率をフローサイトメーターにより解析したところ、0.9%程度であることが確認された(
図8C)。
続いて、Step5終了後のDay25の細胞(201B7)について免疫染色を行ったところ、CPM、NKX2−1、SFTPB、SFTPCおよびCCSPが陽性の細胞を確認した(
図9AおよびB)。このとき、各マーカー遺伝子は、CPMと共陽性であることが確認できた。さらにMACSにより得られたCPM陽性細胞を定量RT−PCRを用いてCPM、NKX2−1、SFTPA2、SFTPB、DCLAMP、SFTPC、CCSPおよびNGFRのmRNA量を測定したところ、CPM陽性細胞をソーティングすることで、顕著にCPMおよびNKX2−1のmRNA量が増加していることが確認された(
図10)。
以上より、本方法を用いることで、iPS細胞から肺上皮細胞またはその前駆細胞が誘導できることが確認された。
<CPMのマーカーの効果>
ヒト胎児由来の肺組織(
図11)およびマウス胎児由来(E12.5、E15.5およびE17.5)の肺組織(
図12)において、CPMの発現を確認したところNKX2−1、SFTPCおよびT1αと共陽性であることが確認された。従って、CPMは、肺発生の管状期(ヒト:胎生16〜24週、マウス:胎生16.5〜17.5日)および腺様期(ヒト:胎生7〜16週、マウス:胎生14.0〜16.5日)のみならず胎生期(ヒト:胎生3〜7週、マウス:胎生9〜14日)といった初期の段階における肺胞上皮前駆細胞を認識できることが確認された。
以上より、CPMを指標とすることで肺胞上皮前駆細胞を認識し、抽出できることが確認された。
<3次元培養>
上述のSFTPC−reporter 201B7におけるStep3終了後に得られた細胞をMACSにて抽出したCPM陽性細胞2×10
4個を、2×10
6個のヒト胎児由来の肺線維芽細胞(DV Biologics:PP002−F−1349)と共に、マトリゲルと50nM Dexamethasone、0.1mM 8−Br−cAMP、0.1mM IBMXおよび10ng/ml KGFを含有する基礎培地3を1:1で混合した培地を400μlを加えた12wellのCell Culture Inserts(BD Biosciences)に移し、下層には、10μM Y−27632、50nM Dexamethasone、0.1mM 8−Br−cAMP、0.1mM IBMXおよび10ng/ml KGFを含有する基礎培地3を加えてスフェロイド(細胞塊)を形成し、10日から12日間培養した(
図13)。得られたスフェロイドを透過電子顕微鏡で調べたところ、層状体様構造を有する細胞群となっていることが確認された(
図14A)。
さらに、ヘマトキシリン−エオシン染色をおこなったところ、淡い色の細胞質を有するCPM(−)細胞由来のスフェロイドに比べ、CPM(+)細胞由来のスフェロイドではダークピンク色に染まる細胞質を有するシスト状(嚢胞状)の偽層状、円柱状、または立方状の細胞が観察された(
図15A)。これらの細胞は、NKX2−1とCPMの両陽性細胞であり、さらにSFTPC陽性である細胞を含有していた(
図15B)。このとき、I型肺胞上皮細胞マーカーであるAQP5の陽性細胞は、SFTPC陽性細胞と隣り合って存在することが確認された。
肺胞上皮細胞マーカーの発現を調べたところ、SFTPA、SFTPB、SFTPCおよびSFTPDが、CPMとNKX2−1陽性細胞において陽性であることが確認された(
図16)。これらの遺伝子は、定量PCRにおいても3次元培養することでその発現が高くなることが確認された。さらに、いくつかのスフェロイド中のCPMおよびNKX2−1の陽性細胞には、末梢気道誘導の指標であるSOX9およびID2を発現しているものも見受けられた(
図16)。
また、PDPNおよびCAV1は、スフェロイド周辺に存在する線維芽様細胞で陽性であった(arrows)が、スフェロイドにも発現していた(arrowheads)(
図17)。
以上より、肺胞上皮細胞は、CPM陽性細胞から誘導できることが見出され、CPMは肺胞上皮細胞の前駆細胞のマーカーとして有用であることが示された。さらに、得られたCPM陽性細胞は、ヒト胎児由来の肺線維芽細胞との3次元共培養によって、成熟した肺胞上皮細胞へと誘導できることが示された。