特許第6461808号(P6461808)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6461808炎症および細菌感染症処置におけるモノクローナル抗体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461808
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】炎症および細菌感染症処置におけるモノクローナル抗体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20190121BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20190121BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20190121BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20190121BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190121BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190121BHJP
   C07K 16/24 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   A61K39/395 N
   A61P29/00
   A61K9/08
   A61K9/12
   A61P43/00 121
   A61K45/00
   !C07K16/24
【請求項の数】35
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-547130(P2015-547130)
(86)(22)【出願日】2013年12月17日
(65)【公表番号】特表2016-501272(P2016-501272A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】FR2013053120
(87)【国際公開番号】WO2014096672
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年9月12日
(31)【優先権主張番号】12/62178
(32)【優先日】2012年12月17日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】13/52362
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513186615
【氏名又は名称】ラボラトワール フランセ ドゥ フラクションマン エ デ バイオテクノロジーズ
【氏名又は名称原語表記】Laboratoire Francais Du Fractionnement Et Des Biotechnologies
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】ド ロムーフ,クリストフ
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−525037(JP,A)
【文献】 J Rheumatol.,2011年11月 1日,2012,39,p.63-72
【文献】 Biosimilars,2015年,5,p.1-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炎症初期段階の防止または処置に用いるための、循環炎症誘発性サイトカインに対するモノクローナル抗体を含む組成物であって、前記抗体が、FcγRIIIa受容体(CD16)に対して高い親和性を有する組成物。
【請求項2】
前記抗体が、Scatchard分析またはBiacore(登録商標)技術(標識なし表面プラズモン共鳴に基づく技術)により測定して、少なくとも2x106 M-1、少なくとも2x107 M-1、2x108 M-1または2x109 M-1に等しい、FcγRIIIa受容体(CD16)に対する親和性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物の全ての抗体のフコース量が、60%未満である、炎症初期段階の防止または処置用いるための、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
抗体のそれぞれが、重鎖の297位でのグリコシル化部位において下記の構造から選択される二分岐グリカン形の1つを有することを特徴とする、請求項3に記載の組成物:
【化1】
上記G0およびG1構造での
【化2】
で表されるGlcNAcはフコシル化が可能である。
【請求項5】
抗体のそれぞれが、重鎖の297位でのグリコシル化部位において下記の構造から選択される二分岐グリカン形の1つを有することを特徴とする、請求項3または4に記載の組成物。
【化3】
【請求項6】
前記組成物の抗体のG0F + G1F形が、重鎖の297位(Asn 297)でのグリコシル化部位が保持するグリカン構造の50%未満に相当する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物の抗体のG0 + G1+ G0F + G1F形が、重鎖の297位(Asn297)でのグリコシル化部位が保持するグリカン構造の60%より多くに相当する、請求項4から6のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物に含まれる各モノクローナル抗体が、前記循環炎症誘発性サイトカインに対する天然の抗体と比べて少なくとも1.5倍の大きさでFcγRIIIa受容体(CD16)に親和性を有する、請求項3から7のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項9】
前記炎症誘発性サイトカインが、下記の炎症誘発性サイトカインから選択される、請求項3から8のいずれか一つに記載の組成物:
a.TNF-α、
b.IL-1β、
c.IL-6、
d.IL-8、
e.IL-10、
f.IL-12、
g.IL-17、
h.IL-18、
i.GM-CSF。
【請求項10】
前記抗体が、循環炎症誘発性サイトカインの中和の特性を持たないことを特徴とする、請求項3から9のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項11】
前記抗体が、0.05mg/m2から2000mg/m2の範囲の投与量で使用されることを特徴とする、請求項3から10のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項12】
前記抗体が、注射可能な形態または噴霧の形態である、請求項3から11のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項13】
前記抗体が、医薬的に許容しうるビヒクルと併用される、請求項3から12のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項14】
少なくとも1つの抗炎症剤と併用した、請求項3から13のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項15】
集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルが、少なくとも60%である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項16】
集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルが、少なくとも70%である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルが、少なくとも80%である、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
集団の全ての抗体のフコシル化レベルが、少なくとも50%である、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
集団の全ての抗体のフコシル化レベルが、少なくとも60%である、請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
集団が、モノガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項21】
集団が、バイガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体を含む、請求項15から20のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項22】
集団の抗体のフコシル化レベルに対する集団の抗体のガラクトシル化レベルの比率が、1.0から1.4である、請求項15から21のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項23】
集団中の少なくとも35%の抗体が、バイガラクトシル化N-グリカンを含み、集団中の少なくとも25%の抗体が、モノガラクトシル化N-グリカンを含む、請求項15から22のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項24】
抗体が、非ヒト哺乳類の乳腺上皮細胞で産生される、請求項1から23のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項25】
抗体が、トランスジェニック非ヒト哺乳類、特に、ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウスまたはラマで産生される、請求項1から23のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項26】
ミルクも含む、請求項1から25のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項27】
医薬的に許容しうるビヒクルをも含む、請求項1から25のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項28】
抗体が、オリゴマンノースを含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項29】
少なくとも30%の抗体が、少なくとも1つのオリゴマンノースを含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
抗体の少なくとも1つの鎖が、オリゴマンノースを含み、フコシル化されていない、請求項28又は29に記載の組成物。
【請求項31】
抗体の40%未満のN-グリカンが、フコースを含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項32】
抗体が、フコースを含まない、請求項28に記載の組成物。
【請求項33】
抗体の少なくとも60%のN-グリカンが、フコシル化オリゴマンノースを含み、抗体の40%未満のN-グリカンが、フコースを含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項34】
前記組成物の全ての抗体のフコース量が、50%未満である、炎症初期段階の防止または処置に用いるための、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項35】
前記組成物の抗体のG0 + G1+ G0F + G1F形が、重鎖の297位(Asn297)でのグリコシル化部位が保持するグリカン構造の80%より多くに相当する、請求項4から6のいずれか一つに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は由来に関係なく、炎症処置でのモノクローナル抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
感染、火傷、アレルギーなどのストレス後に起こる正常な防御応答である炎症はステレオタイプ的免疫応答である。炎症は、ストレスの中心からトリガーされる細胞および分子、局所性および末梢性反応などを含む即時的かつ一時的な応答であるが、この目的はストレスの限定と消失である。従って、炎症は、後にストレスを受けた組織の正常な機能回復に必要な修復ステージを伴う予防プロセスである。
この炎症プロセスは、分子炎症性因子と呼ばれるメッセンジャー分子、または化学的炎症性因子と呼ばれる化合物放出により起こり、次に全身的シグナルである生体の一般的応答を動員する。感染性炎症応答(バクテリア、ウイルス、寄生生物)と肥満、高コレステロール血症などのメタボリックシンドローム由来の非感染性応答とは区別される。炎症強度は感染因子および病巣の所在に依存して、よって、組織の性質に依存する。反応は潜在的であり、他の因子で増幅する可能性がある。
【0003】
正常な炎症現象または急性炎症は、発生と進行の2つの主要相に分かれる。
発生相は、ウイルスまたは細菌で感染した細胞により、そして異物の存在または毒性分子(ラジカル、脂質、コレステロールなど)の蓄積により誘導される。第1反応は、細胞死シグナルまたは壊死さえ誘導させて拡散するメッセージの放出である。標的細胞は、血漿細胞を浸潤する走化性により形態学的な変化をする内皮細胞である。
事実として、末梢性炎症の進行する相は、細胞外空間への分子拡散を促進する血管拡張反応を起こさせる神経終末の活性化により特徴付けられる。
【0004】
浸潤細胞は、脱顆粒された肥満細胞、単球、マクロファージ、好中球、リンパ球である。これらの細胞は、化学誘引因子の高い産生レベルにより凝集する。走化性分子は、細胞の遊走特性の変化を誘導する受容体で捕捉される。
活性化マクロファージは、インターロイキン-1(IL-1)およびTNF(腫瘍壊死因子)またはカケクチンなどのサイトカインと呼ばれる小型糖タンパク質で構成される広域スペクトラムのメディエーターを放出する。作用が多面的であるこれらのメディエーターは、広げられた炎症性応答の確立に寄与する機構を調整する。IL-1およびTNFαは、間質細胞、線維芽細胞、平滑筋細胞に作用してサイトカインの第二波、および別の静止細胞の活性化により単球誘引分子の放出を引き起こす。
このことから、急性炎症は、変化が起こった際の生体における緊急プロセスであるが、しかし慢性的に活性化している場合には、この炎症は生体に有益でない。
【0005】
慢性炎症は、急性炎症の不全に対応する。炎症の持続は、慢性炎症疾患を重篤にする解剖学的および機能的後遺症の原因となる。
事実、炎症を維持しているTNFαまたは特定のインターロイキンなどの炎症誘発性サイトカインの分泌が持続されると、組織および細胞劣化を誘導する可能性が有る。
慢性化の機構については、まだ十分な理解がされていない。これは病原性物質の持続に関連すると見られる。しかしながら、この炎症が病原体非存在下で自己永続的であることも可能である。
炎症反応には、数多くの主要な慢性疾患が伴っている。炎症の慢性化および複数の臓器での炎症の場所は、自己免疫が炎症の維持に重要な役割を果たす疾患である以下のような全身疾患概念の起源にある:全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、Gougerot-Sjogren病、クローン病、潰瘍性大腸炎、グレーブス病(甲状腺機能亢進症)、橋本慢性甲状腺炎(甲状腺機能亢進症)、グッドパスチャー症候群、天疱瘡、筋無力症、インスリン抵抗性によって引き起こされる糖尿病、自己免疫溶血性貧血、自己免疫血小板減少性紫斑病、強皮症、多発性筋炎および皮膚筋炎、ビールメル貧血、糸球体腎炎、ウェゲナー疾患、ホートン病、結節性多発動脈炎およびChurg−Strauss症候群、スティル病、萎縮性多発性軟骨炎、ベーチェット病、多発性硬化症、脊椎炎。
【0006】
細菌感染については毒素、つまり細菌、さらに、真菌類、原生動物または虫により産生される溶性毒性物質によって起こる。
細菌毒素は極めて低いレベルでも作用し、膜レベルか細胞内標的かのいずれかで作用し、かつ最も活性生物学的物質である。かかる毒素は、外毒素と内毒素の2つの主要なカテゴリーに区別できる。外毒素は、細菌により産生されるタンパク質であり周囲媒質の中に分泌される一方で、内毒素は、細菌溶解後に放出されたグラム陰性菌の壁の外膜の成分であるリポ糖類である。
かかる毒素に対する抗体による感染の予防または処置は当業者に周知である。第1の予防手段は、毒素放出が可能な細菌感染において活性化され、急速に介入できるメモリーBリンパ球を個体が産生できるようにするための、不活性な免疫原性毒素(トキソイド)を用いる個体の免疫化である。
【0007】
当業者は、かかる感染処置手段を周知している。例えば破傷風処置に関するFR55671号およびEP0 562 132号に記載の、またはボツリヌス症処置に関するUS7700738号およびUS20100222555号に記載の毒素に対する中和抗体がある。例えば、破傷風菌(Clostridium tetani)による細菌感染の現在実施されている処置は、患者自身の抗体を患者が産生するように患者の免疫系を刺激する破傷風トキソイドを用いて、また、抗生物質、筋弛緩剤、鎮痛剤を用いて、患者自身の抗体の産生を期待しての患者への抗体提供を目的とするヒト抗破傷風免疫グロブリンにより構成された抗破傷風血清の投与に基づいている。
特に、標的への結合および/または標的細胞への侵入などの毒素の効果を抗体が阻害する場合、抗体は中和性であるという。
しかしながら、かかる抗体は毒素を除去できないばかりでなく、毒素が標的細胞に結合している時には抗体は有効に働かない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、現在では、慢性炎症の効果を限定し、かつ、生体へ毒素を放出させる細菌感染の効果を限定する処置提供ニーズが存在している。
このことから、本発明の目的の1つは毒素に感染した生体処置または当該毒素の有害性防止手段の提供である。
本発明の別の目的は、汚染された生体から細菌毒素除去手段の提供である。本発明の別の目的は、毒素および毒素を産生する細菌または微生物の根絶ができる組成物の提供である。
これらから、本発明の目的の1つは、炎症を受ける生体の予防とケア手段の提供である。
本発明の別の目的は、炎症誘発性サイトカインの除去手段の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明は、炎症初期段階の防止または処置の関係で用いるための、循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対するモノクローナル抗体を含む組成物であって、当該抗体が、FcγRIIIa受容体(CD16)に対して高い親和性を有する組成物に関する。
【0010】
抗体は免疫系の細胞、形質細胞(分泌性Bリンパ球とも呼ばれる)から分泌され、血中の主要な免疫グロブリンを構成する。以後、用語「免疫グロブリン」と「抗体」とは同じ意味である。
抗体は、特異的な抗原に結合する。抗原は可溶性または膜結合性であり、生体に対して異質の要素(細菌、ウイルス抗原など)か生体の構成要素(自己抗原)のいずれかで構成される。
【0011】
本発明の一態様によると、抗原は、循環炎症誘発性サイトカインか循環細菌性毒素かのいずれかである。
免疫グロブリン(Ig)の構造は当業者に周知である。免疫グロブリンは、それぞれが約50kDaの2つの重鎖(H鎖と呼ばれる)と、それぞれが25kDaの2つの軽鎖(L鎖と呼ばれる)で構成され、イントラカテナリー(intracatenary)およびインターカテナリー(intercatenary)のジスルフィド架橋により互いにリンクしている四量体である。
各鎖は、軽鎖の場合はVL、かつ、重鎖の場合はVHと呼ばれる可変領域またはドメインによりN末端位で構成され、さらに軽鎖の場合はCLと呼ばれる単一ドメインにより、かつ、重鎖の場合はCH1、CH2、CH3、CH4と呼ばれる3つまたは4つのドメインにより構成される定常領域によりC末端位で構成される。
IgMおよびIgEのみがドメインCH4を有する。
定常ドメインはC遺伝子によりコードされ、可変ドメインは、軽鎖の場合はV-J遺伝子により、重鎖の場合はV-D-J遺伝子によりコードされる。
【0012】
抗体を構成する鎖の集合体は、特徴的Y形状三次元構造を形成することを可能にする。ここで、
分子のエフェクター機能を媒介するためにYのベースは、補体およびFc受容体(RFc)により認識される定常(Fc)領域に相当し、
Yの腕の端は,軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域のそれぞれの集合体に相当し、この腕の端が抗原に対する抗体の特異性を決定する。
【0013】
より詳しくは、5つの重鎖アイソタイプ(γ、α、μ、δ、ε)と2つの軽鎖アイソタイプ(κ、λ、ここでλ鎖はλ1とλ2の2つのタイプに分かれる)がある。免疫グロブリンのクラスを決定するのは重鎖である。従って、Igには、ガンマアイソタイプのIgG、アルファアイソタイプのIgA、ミューアイソタイプのIgM、デルタアイソタイプのIgD、イプシロンアイソタイプのIgEの5つのクラスがある。
カッパおよびラムダ軽鎖は全てのクラスおよびサブクラスによって共有される。ヒトにおける産生されたカッパおよびラムダの比率は2対1である。
【0014】
より詳しくは、VHおよびVLドメインのレベルでは配列可変性は均等に分散されていない。事実、可変領域は、間に3つの超可変領域または相補性決定領域(CDR1からCDR3まで)が挿入されたフレームワークと呼ばれる4つの(FR1からFR4)ごくわずかに可変な領域で構成されている。
VHとVLのそれぞれは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順でアミン末端(N末端)からカルボキシ末端(C末端)まで配置される3つのCDRと4つのFRから成っている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを有する。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および標準的な補体系の第1成分(C1q)を含めた宿主の組織または因子に対して免疫グロブリンの結合を媒介できる。2つのタンパク質が化学量論的量で表わされ、正しい構成で自発的に集合する時には成熟した機能的抗体分子の形成は達成可能である。
異なる免疫グロブリンのクラスの構造および特性に関する情報については、当業者はDaniel P. Stites et al., "Basic and Clinical Immunology", 8th edition, Appleton & Lange, Norwalk, Conn., 1994, page 71 and Chapter 6を参照する。
【0015】
ここで用語「抗体」とは、抗原結合断片をも言う。抗体および抗原結合断片を得るためのプロセスは当業者に周知である(例えば、Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual" (2nd Ed.), Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989); Lewin, "Genes IV", Oxford University Press, New York, (1990), and Roitt et al., "Immunology" (2nd Ed.), Gower Medical Publishing, London, New York (1989), WO2006/040153号、WO2006/122786号、WO2003/002609号を参照)。
【0016】
本発明においては、抗体の「抗原結合断片」は、抗原に特異的に結合する能力を持つ抗体の1つまたは複数の部分を言う。
抗体の抗原結合機能は、抗体の全長の断片により実施可能と示された。抗体の「抗原結合断片」との用語でカバーされる結合断片の例としては次が挙げられる。(i)VL、VH、CL、CH1ドメインから成る1価の断片であるFab断片、(ii)ヒンジ領域にジスルフィド架橋により結合された2つのFab断片を含む2価断片であるF(ab')2断片、(iii)VHおよびCH1ドメインから成るFd断片、(iv)抗体の単一の腕のVLおよびVHドメインから成るFab断片、(v)VHドメインから成るdaB断片(Ward et al., (1989) Nature 341:544-546)、(vi)単離した相補性決定領域(CDR)。また、Fv断片の2つのドメインであるVおよびVHは別々の遺伝子でコードされているが、これらは組み換え技術により、これらのドメインをタンパク質の単一鎖で構成することを可能にする合成リンカー経由で結合でき、ここでVHおよびVL領域は1価の分子を形成するために対になって結びついている(単鎖Fv(scFv)として知られており、例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423-426; and Huston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照)。また、抗体のかかる単鎖は抗体の「抗原結合部分」との用語でカバーされる。これらの抗体断片はJ. Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp 98-118 (N.Y. Academic Press 1983)(この文献は、参照により援用されている)に記載の、例えばタンパク質分解断片化プロセスなどの通常のプロセスおよび当業者に既知の他の技術で得られる。断片については、完全抗体と同様の方法で有効性を分析する。
【0017】
本発明の特定な態様によると、抗体はIgG、IgaまたはIgDアイソタイプの抗体である。
本発明のさらに別の態様によると、抗体はIgG1、IgG2、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgD、IgEから成る群から選択されるか、または、上記免疫グロブリンの定常/可変ドメインを有する。
本発明の別の態様によると、抗体は、二重特異性抗体または多特異性抗体である。
本発明の別の態様によると、本発明の抗体は、二重特異性抗体または多特異性抗体の形態において組み換えられる。
【0018】
本発明においては、用語「二重特異性抗体」は、(a)細胞表面抗原および(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体と結合するか相互作用する2つの異なる結合特異性を有する、例えばタンパク質、ペプチドまたはタンパク質複合体もしくはペプチド複合体などの因子を含む。
用語「多特異性抗体」は、(a)細胞表面抗原および(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体および(c)少なくとも1つの別の成分と結合するか相互作用する2つ以上の異なる結合特異性を有する例えばタンパク質、ペプチドまたはタンパク質複合体もしくはペプチド複合体などの因子を含む。このことから、本発明は、細胞表面抗原に対して、かつ、エフェクター細胞の受容体に対する二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体、別の多特異性抗体を含むが、それに限定されない。また、用語「二重特異性抗体」は二重抗体をも含む。二重抗体は、VHおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖に発現されるが、同一鎖の2つのドメインの間の関連付けを可能にするには短すぎる結合を使用するので、従って、当該ドメインを別の鎖の相補性ドメインと関連付けさせ、よって、2つの抗原結合部位を生成する二価二重特異性抗体である(Holliger, P., et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448; Poijak, R.J., et al. (1994) Structure 2:1121-1123を参照)。
さらに、抗体という用語は、組換え抗体、ネズミ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、モノクローナル抗体、またはこれらの抗体の混合などの異なるタイプの抗体をも含む。
【0019】
本発明の特定な態様によると、抗体は組換え抗体である。ここで使用される用語「組換え抗体」は、別の種からの免疫グロブリン遺伝子を遺伝子導入された動物から単離された抗体、宿主細胞にトランスフェクションした発現ベクターを使用して発現した抗体、組み合わせ組換え抗体ライブラリーから単離された抗体、または別のDNA配列への免疫グロブリン遺伝子配列のスプライシングを含む別の手段で調製、発現、生成もしくは単離された抗体などを含めて組換え手段で調製、発現、生成または単離された抗体を含む。
ここで「ネズミ抗体」とは、マウスの全ての種に属す配列のみを含む抗体という意味である。かかる抗体の例として、ヒトでの処置用途について許可された最初のネズミのモノクローナル抗体である抗CD3抗体(Orthoclone OKT3(登録商標)、ムロモナブCD3)が挙げられる。
ここで「キメラ抗体」とは、軽鎖および重鎖での可変領域の配列が軽鎖および重鎖での定常領域の配列の種とは異なる種に属する抗体という意味である。
【0020】
本発明の目的として、好ましくは、軽鎖および重鎖での可変領域の配列はネズミ種のものである一方、軽鎖および重鎖での定常領域の配列はネズミ以外の種に属する。これに関連して定常領域についてはネズミ以外の哺乳類の全ての科および種は利用可能であり、特にヒト、サル、ネズミ科(マウスを除く)、イノシシ類、ウシ科、ウマ科、ネコ科、イヌ科または鳥があるが、これは全てを網羅しているわけではない。
好ましくは、本発明のキメラ抗体は、ヒト抗体の軽鎖および重鎖での定常領域の配列およびマウス抗体の軽鎖および重鎖での可変領域の配列を含む。マウス/ヒトのキメラ抗体の例としては、リツキシマブ(Mabthera(登録商標))、抗CD20抗体、セツキシマブ(Erbitux(登録商標))、抗EGFRが挙げられる。
【0021】
本発明において、用語「ヒト化抗体」は、ヒトフレームワーク領域を併用した親抗体の抗原結合CDR領域だけを有する抗体を言う(Waldmann, 1991, Science 252:1657を参照)。特に、これは抗原認識に含まれる領域(超可変領域(CDR:相補性決定領域)と、時にはフレームワーク領域(FR)の特定のアミノ酸)の配列の全部または一部がヒト由来でない配列に属する一方で、抗原認識に含まれない定常領域および可変領域の配列がヒト由来である抗体を言う。かかる抗体の例としては、臨床用として初めてであるヒト化抗体のダクリズマブ(Zenapax(商標登録))が挙げられる。
ネズミ抗体に対して特異的な結合部位を含むかかるヒト化またはキメラ抗体は、本発明に従う診断適用、予防適用または処置適用でインビボで投与された場合には免疫原性の低減が期待される。
【0022】
ここで使用される用語「ヒト化抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリンの配列由来の可変および定常領域を有する抗体を含む。本発明のヒト抗体は、ヒト胚免疫グロブリンの配列でコードされないアミノ酸残基(例えば、ランダムに、または部位特異的インビトロ突然変異誘発で、またはインビボの体細胞変異で導入された変異)をも含む。ヒト抗体は、マウスのものではなく、ヒト免疫系の一部を保持する遺伝子導入マウスを使用して生成する。また、完全ヒトモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の大部分を用いて遺伝子導入マウスを免疫化して調製できる。ここで米国特許番号5,591,669号、5,598,369号、5,545,807号、6,150,584号およびその中で引用されている参考文献(後者の内容は、参照して本明細書に援用される)を参照。これらの動物は、内因性抗体の産生が機能的に欠失する方法で遺伝子改変が為されている(例えば、ネズミ)。また、動物の免疫化が、目的の抗原に対する完全ヒト抗体を産生するようにヒト胚免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含めるために動物を改変する。これらのマウスの免疫化(例えばゼノマウス(Xenomouse)(Abgenix社)、HuMAbマウス(Medarex/GenPharm社)によれば、モノクローナル抗体は標準的ハイブリドーマ法に基づき調製される。これらのモノクローナル抗体は、ヒト免疫グロブリンアミノ酸配列を有するので、ヒトに投与したときにヒトの抗マウス抗体(HAMA)応答を引き起こさない。本発明の抗体のように、ヒト抗体はモノクローナル抗体であり得る。
そのような抗体の例としては、臨床用として初めて承認されたヒト抗体である抗TNF-αのアダリムマブ(adalimumab)(Humira(登録商標))が挙げられる。
【0023】
本発明の目的として、抗体はモノクローナルである。モノクローナル抗体または「モノクローナル抗体の組成物」とは、単一エピトープへの抗原結合に相対してユニークな特異性を有する抗体を言う。これらは血清から分離した免疫グロブリンの混合であり、考慮する抗原上の一連の異なるエピトープを認識するポリクローナル抗体の反対である。
本発明の別の特定な態様によると、抗体は完全長抗体である。本発明の別の特定な態様によると、この完全長抗体は軽鎖と重鎖を含む。
【0024】
当該抗体の親和性は、BIAcore 2000型装置(Pharmacia Biosensor, Upsala, Sweden)を使用して表面プラズモン共鳴(SPR)などの複数の方法で測定可能である。このタイプの測定についてはMalmquist M., Current Opinion in Immunology, 5:282-286 (1993); Jonsson U et al., Biotechniques, 11:620-627 (1991) およびWu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95:6037-6042 (1998)などの文献に記載されている。
ここで「親和性」とは、エピトープとパラトープとの間の結合力と反発力との和という意味である。これは、抗体が抗原に対して結合する能力を表す。多くの場合、親和性は親和定数(Kdまたは平衡解離定数)で表される。
親和性定数は、解離定数(Koffまたはkd)に対して、および会合定数(Konまたはka)に対してKd = Koff / Kon = kd / kaの関係でリンクしている。
ここで、「解離定数」とは抗原-抗体複合体の解離に関連する反応定数を意味する。
ここで、「会合定数」とは抗原-抗体複合体の会合に関連する反応定数を意味する。
【0025】
免疫グロブリン(IgM、IgA、IgE、IgD、IgG)の異なるアイソタイプは、生物学的活性およびエフェクター機能に関して異なる。また、IgAサブクラス(IgA1、IgA2)とIgGサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)との間では活性が異なる。
これらの違いは免疫グロブリンのFc領域が結合する受容体に依存し、さらにエフェクター細胞の膜上の受容体分布に依存する。
【0026】
ここで、「受容体」とはFc断片(FcR)を有する受容体を意味する。かかる受容体とはFcαR (IgA); FcγRI、FcγRII、FcγRIII (IgG); FcεRI、FcεRII (IgE); FcμR (IgM); FcδR (IgD); pIgR (ポリIg受容体)、FcRn (新生児型Fc受容体)である。
IgG受容体はCD64 (FcγRI)、CD32 (FcγRII)およびCD16 (FcγRIII)とも呼ばれる。ヒトについてFcγRをコードする8つの遺伝子が同定されているが、5つのみが発現受容体をコードする(FcγRIa、 FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIb)。免疫細胞の活性化を阻害する受容体であるFcγRIIbを除いて、全ての受容体はエフェクター細胞を活性化する(Muta T et al., Nature, 1994, 368:70-73)。
より詳しくは、当該I型受容体は免疫グロブリンに対する高親和性(5 x 10-7〜10-10 MのKd)を特徴とする一方、IIおよびIII型は低親和性(10-7 M未満のKd)の受容体を特徴とする。
Fc受容体に関する詳しい情報についてはRavetch and Kinet, Annual Review of Immunology, vol 9:457-492 (1991)を参照する。
【0027】
ここで「エフェクター細胞」とは、リンパ球、単球、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞、好酸球、好塩基球、肥満細胞、樹状細胞、ランゲルハンス細胞、血小板などのFc受容体を有する細胞という意味である。
Fc領域は抗体のエフェクター機能、特に、細胞傷害性機能に関与する。
また、抗体の血清半減期を決定するはこの領域である。
用語「エフェクター機能」は、特にADCC(抗体依存性細胞傷害性)、CDC(補体依存性細胞傷害性)、ADCP(抗体依存性細胞食作用)を言う。かかる機能は、生体からの標的細胞除去用である。
【0028】
ここで「標的細胞」とは、抗原を有する細胞という意味である。抗原は、例えば自己免疫疾患での生体(病原体)または「自己」分子にとって異質な物質である。
ADCCは、エフェクター細胞により媒介される生体の防御機構である。かかる細胞は、特異的抗体でカバーされる標的細胞を認識する。RFc-Fc結合はエフェクター細胞を活性化し、エフェクター細胞は、次いで、細胞質顆粒によるパーフォリンおよびグランザイムの放出後にアポトーシスで標的細胞を破壊する(Raghavan et al., Annu Rev Cell Dev Biol 12:181-220, 1996; Ravetch et al., Annu Rev Immunol 19:275-290, 2001)。
【0029】
好ましくは、免疫グロブリンはIgG型であり、Fc受容体はFcγRIIIa受容体である。
CDCは、体の分子の存在下での標的細胞の溶解を言う。この機構は抗体から独立している古典的補体経路、代替経路、レクチン経路を言う。
補体系とは、炎症、食細菌細胞活動および細胞膜の溶解に関与する一組の血清タンパク質である。これはC1、C4、C5、C9などの異なる成分で構成されているが、これは全てを網羅しているわけではない。
【0030】
20余りのタンパク質を含む酵素反応のカスケードは、標的細胞上に存在する抗原と結合した抗体の異なるFcへの複数のC1q(C1成分の1つ)の結合後にトリガーされる。このことから得られる異なるタンパク質分解連鎖反応は標的細胞(CDC)の浸透圧ショックで溶解を行う。
好ましくは、免疫グロブリンはIgG型の免疫グロブリンであり、特に有効と考えらるのはIgG1およびIgG3であり、一方、古典的補体経路の活性化においてIgG2およびIgG4は僅かに活性か、また、不活性と考えられる(Shakib F, Basic and Clinical Aspects of IgG Subclasses, Karger, 1986)。
【0031】
ADCPは、食細胞(食作用が可能なエフェクター細胞、主として好中球とマクロファージ)により標的細胞の摂取を促進するために、抗体(そのFc断片経由で)がオプソニンとして作用する機構である。これに結合された食細胞はオプソニン化標的細胞を仮足で囲んで、これを摂取する。これらは融合し、次に、外来因子は食細胞で内在化(エンドサイトーシス)され、以後はファゴソームと呼ぶ。顆粒およびリソソームはファゴソームと融合し、ファゴリソソームとなったものに対して、標的細胞を消化する酵素を注ぐ。さらには、残渣は細胞外培地へエクソサイトーシスにより放出される(Munn DH et al., Cancer Research; 51:1117-1123, 1991)。
【0032】
一態様によれば、本発明は、炎症初期段階の防止または処置の関係で用いるための、循環炎症誘発性サイトカインに対するモノクローナル抗体を含む組成物であって、当該抗体が、FcγRIIIa受容体(CD16)に対して高い親和性をする組成物に関する。
本発明の循環炎症誘発性サイトカインとは、本発明の抗体によりその可溶性形態で固定された炎症誘発性サイトカインという意味である。FcγRIIIa受容体(CD16)に対しての本発明による抗体のFc領域の高親和性により、ポリクローナルIgG抗体、特に血清に存在するIgGで置換されない本発明の抗体が可能になる。
本発明の別の態様では、抗体のFc領域は変異されなくてよい。
【0033】
ここで高親和性とは、Scatchard分析またはBiacore技術(標識なし表面プラズモン共鳴に基づく技術)で測定して、少なくとも2x106 M-1に等しい親和性という意味である。
本発明のこの態様では、抗体はサイトカインのみに対する。このことから、抗体は、例えば5C5抗原(腎癌の細胞により発現した腫瘍抗原)、BCR(B細胞受容体)、抗FVIII阻害抗体のものなどのイディオタイプ、TCR(T細胞受容体)、CD2、CD3、CD4、CD8、CD14、CD15、CDl9、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD45、CD30、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD46、CD52、CD54、CD66 (a、b、c、d) 、CD74、CD80、CD86、CD126、CD138、CD154、MUCl (ムチン1)、MUC2 (ムチン2)、MUC3 (ムチン3)、MUC4 (ムチン4)、MUC16 (ムチン16)、HMl.24(多発性骨髄腫に過剰発現した形質細胞に特異な抗原)、テナシン(細胞外マトリックスタンパク質)、GGT(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)、VEGF(血管内皮増殖因子)などの別の抗原に対して向かわない。
特定の実施形態において、本発明の組成物は、Scatchard分析またはBiacore技術により測定して、少なくとも2x106 M-1に等しい、少なくとも2x107 M-1、2x108 M-1または2x109 M-1に等しい親和性を有する循環炎症誘発性サイトカインに対するモノクローナル抗体を含む。
【0034】
特に本発明は、炎症初期段階の防止または処置の関係で用いるための、当該組成物の全ての抗体のフコース量が60%未満、好ましくは、50%未満である循環炎症誘発性サイトカインに対するモノクローナル抗体を含む組成物に関する。
抗体の重鎖でのフコシル化量の減少が、抗体(Fc受容体)の定常部の受容体、特にNK細胞およびマクロファージの表面で発現したIII型のFcγ受容体(FcγRIII)に対する親和性を増加することについては当業者には周知である。
NK細胞およびマクロファージなどのエフェクター細胞による作用経由の標的細胞に対する抗体の細胞傷害性の能力増強時における抗体のFcγRIIIとの強い相互作用の影響を記述している文献がある一方で、本発明は、CD16に高い親和性を有する抗体に認識されるサイトカインが当該抗体により優先的に「捕捉され」、次いで、サイトカイン-抗体複合体の食作用後にマクロファージにより破壊されるという本発明者らの発見を基にしている。
かかる機構は、表面でFcγRIIIも発現するナチュラルキラー(NK)細胞と競合はせずに、また、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)は含まれていない。
本発明の抗サイトカイン抗体は、サイトカインの除去をするバイオスクラバーとして機能する。
【0035】
本発明に従う組成物の抗体は以下となる:
循環炎症誘発性サイトカインの異なるエピトープに対するか、または
全て、循環炎症誘発性サイトカインの同じエピトープに対するか、または
全て、同じCDR領域を有するか、または
全て、軽鎖および重鎖のアミノ酸配列が同一である。
【0036】
本発明では、組成物に含まれる抗体は同じ型か、異なる型かのいずれか一方である。
ここで、「同じ型の抗体」とは、同じアミノ酸配列を有する抗体を意味する。言い換えれば、同じ型の抗体は、全て重鎖および軽鎖のアミノ酸配列が同じである。しかしながら、本発明の同じ型の抗体は異なる翻訳後修飾を有することができ、例えば、同じ型の抗体は異なるグリコシル化を有することができる。
ここで、「異なる型の抗体」とは、異なるアミノ酸配列を有する抗体を意味する。これは、全てのアミノ酸配列において違いのある抗体か、いくつかのアミノ酸配列に違いがあるが、配列の残りが同一である抗体かのいずれか一方であり得る。
【0037】
従って、抗体が異なる型である本発明の抗体の組成物とは以下を含む:
ポリクローナル抗体の組成物、
同じ定常領域を有するが可変領域が異なる抗体の組成物、
同じ定常領域および可変領域の同じフレームワーク領域(FR)を有するが、超可変領域(CDR)が異なる組成物、任意の共通領域を有し、配列の残りが異なるキメラ抗体の組成物。
従って、本発明の組成物は炎症初期段階の防止または処置のために、同じ型の、または異なる型の抗体を含む。
【0038】
ここで、本発明においての「炎症初期段階」とは、炎症の第1段階、つまり炎症の始まり、特に通常の量と比べて1.5倍を超え、好ましくは3倍、または5倍さえ超える量のTNF-α、IFN-γ、IFN-α、IL-1、IL-6、IL-8、IL-12、IL-17、IL-18、GM-CSFなどの炎症誘発性サイトカインを放出する段階を意味する。
さらに別の有利な実施形態では、本発明は上記に定義した組成物に関するが、ここで、かかる組成物に含まれる各モノクローナル抗体は、循環炎症誘発性サイトカインに対する天然の抗体と比べて少なくとも1.5倍の大きさでFcγRIII受容体に親和性を有する。
【0039】
さらに別の実施形態では、本発明は上記に定義した組成物に関するが、ここで、かかる炎症誘発性サイトカインは下記の炎症誘発性サイトカインから選択される:
TNF-α、
IL-1β、
IL-6、
IL-8、
IL-12、
IL-17、
IL-18、
GM-CSF。
【0040】
より詳しくは、本発明は上記に定義した組成物に関するが、ここで、炎症誘発性サイトカインはTNF-αである。
有利には、本発明は上記に定義した組成物に関するが、ここで、かかる組成物に含まれる各抗体は循環炎症誘発性サイトカインの中和の特性を持たない。
従って、本発明に従う組成物の抗体は、循環炎症誘発性サイトカインの1つまたは複数のエピトープの認識が可能である。しかしながら、抗体が特異的に炎症誘発性サイトカインを認識するが、抗体-炎症誘発性サイトカイン相互作用は炎症誘発性サイトカインの活性を阻害しない。従って、本発明に定義されるマクロファージ系により除去されない場合には、抗体-炎症誘発性サイトカイン複合体は常に生体に存在する。
このことから、本発明の抗体は、その中和特性からではなく、FcγRIII受容体との高い相互作用能力のために有効性が高いので、汚染された生体の循環から炎症誘発性サイトカインを除去する。
【0041】
また、本発明は、少なくとも1つの抗炎症剤と併用した上記に定義した組成物に関する。
本発明の抗炎症剤の中でコルチコイド(グルココルチココイドまたはステロイド系抗炎症薬)および非ステロイド系抗炎症薬が挙げられる。当業者はこれらの抗炎症剤について周知している。
また、本発明は高度にガラクトシル化した抗体、特に抗TNF-α抗体、およびそれらを含む組成物に関する。
本発明の別の態様によると、本発明は、循環細菌性毒素の放出にリンクした細菌感染の初期段階段階の防止または処置の関係で用いるための、循環細菌性毒素に対するモノクローナル抗体の使用に関する。
【0042】
本発明の抗体は、可溶性形態で循環細菌性毒素を固定する。
ここで、「細菌感染」とは、病原性細菌株での感染という意味である。本発明の目的として、かかる細菌株は、グラム陽性細菌の株またはグラム陰性細菌の株を示す。グラム陽性/グラム陰性の二分法は、細菌の細胞壁の組成に基づくが、グラム陽性細菌のそれはペプチドグリカンで豊富であることはグラム陰性細菌のそれと対照的である。
例えばグラム陽性細菌は、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、乳酸菌(Lactobacillus)、クロストリジウム(Clostridium)、エンテロコッカス(Enterococcus)、リステリア(Listeria)などの属に属する細菌である。
例えばグラム陰性菌は、サルモネラ(Salmonella)、大腸菌(Escherichia Coli)、シュードモナス(Pseudomonas)などの属の細菌である。
【0043】
病原性細菌のみが細菌感染を起こす。病原性は細菌の毒性因子に、つまり(染色体または染色体外の)遺伝因子にリンクしている。実際、かかる因子は細菌の注入、その増殖、または、その有害作用(特に、毒素の放出にリンクした)に関係している。
細菌感染はいくつかの相に分けられる。第1相は(例えば、破傷風菌で汚染された物体により深い傷を負った時、損傷またはボツリヌス菌(Clostridium botulinum)で汚染された食物の消費による、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)による呼吸器によるなど)、細菌による宿主への定着であり、その後、細菌の対数増殖期が続くが、この相の期間中は細菌が免疫系と戦い、発達に必要な宿主の栄養を用いる。その後、毒素が放出されて標的に結合することで、宿主細胞の正常な機能が改変され(電解質交換の修飾、タンパク質合成の阻害など)、または宿主細胞の溶解にもなる。
本発明の細菌感染は、血流への(破傷風毒素、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素などの)外毒素の放出または内毒素の放出に関連する全ての感染を言う。
【0044】
本発明は、循環細菌毒素の放出にリンクした細菌感染の初期段階の防止または処置での関係で用いるための、FcγRIIIa受容体(CD16)に対して高い親和性を有し、細菌毒素に対する抗体に関して改善され、CHO株化細胞で産生される、循環細菌毒素に対するモノクローナル抗体の組成物に関する。
本発明の抗体は、感染の初期段階で上記のように作用する。
ここで、「細菌感染の初期段階」とは、細菌による毒素放出と膜受容体への結合との間の時間間隔または標的が細胞内である時の標的細胞への毒素浸透前に相当する相という意味である。言い換えれば、これら疾患の初期段階は、生体内で毒素が放出された時間、つまりは、抗体にアクセスできる時間に対応する。
【0045】
本発明のこの態様は、FcγRIIIa受容体に対して高い親和性を有する抗体を使用して、細菌により放出された直後の循環毒素の迅速なクリアランス(除去)の誘導が可能であるとする発明者らの発見に基づく。
このことから、本発明の抗体により認識される毒素は、かかる抗体により「捕捉」され、毒素と毒素に対する抗体とにより形成される免疫複合体の食作用によりマクロファージにより破壊される。
かかる機構は、表面でFcγRIIIも発現するナチュラルキラー(NK)細胞と競争はせずに、また、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)は含まれない。
【0046】
従って、本発明の抗毒素抗体は、毒素の除去をする「バイオスクラバー」として機能する。ここで、「バイオスクラバー」とは、血液からの循環毒素を除去できる抗体という意味である。
【0047】
有利な実施形態では、本発明は、当該モノクローナル抗体が生体中の細菌毒素の存在に反応して天然で産生される当該細菌毒素に対する抗体またはCHO株化細胞で産生される抗体と比較して少なくとも2倍大きなFcγRIIIa受容体に対する親和性を有する、上記に定義した組成物に関する。
【0048】
さらに別の実施形態では、本発明は、細菌毒素が下記の毒素から選択される、上記に定義した組成物に関する:
破傷風毒素(破傷風菌)、
ボツリヌス毒素(ボツリヌス菌)、
ジフテリア毒素(ジフテリア菌)、
炭疽毒素(炭疽菌(Bacillus anthracis))、
百日咳毒素(百日咳菌(Bordetella pertussis))、
コレラ毒素、
ブドウ球菌毒素、
サキシトキシン。
【0049】
有利には、本発明は、当該抗体が循環毒素を中和する特性を必ずしも有しない上記に定義した組成物に関する。事実、当該抗体はモノクローナルかポリクローナルであるかに依存して、循環毒素の1つまたは複数のエピトープの認識が可能であり、また、毒素を特異的に認識するが活性を阻害しない。このことから、本発明の抗体はその中和特性からではなく、FcγRIII受容体との高い相互作用能力により有効性が高いので、汚染された生体の循環から毒素を除去する。
【0050】
別の有利な実施形態では、本発明は、毒素の放出にリンクした細菌感染が破傷風菌、ボツリヌス菌、ジフテリア菌、百日咳菌、炭疽菌、コレラ菌、ブドウ球菌感染、およびサキトキシン中毒から選択される上記組成物に関する。
当業者は、破傷風毒素が破傷風の原因、ボツリヌス毒素がボツリヌス症の原因、ジフテリア毒素がジフテリアの原因、百日咳毒素が百日咳の原因、炭疽毒素が炭疽病の原因、コレラの原因であるコレラ毒素が急性呼吸促迫症候群を引き起こす肺水腫に繋がる可能性、ブドウ球菌毒素が特に食中毒の原因、サキシトキシンが呼吸障害および/または麻痺の原因であることを周知している。
また、抗生物質処置により生成される細菌溶解中に放出された毒素を循環から急速に除去するために、発明の抗体の組成物は抗生物質処置と連結することもできる。本発明の抗体の組成物は溶解中、壁に含まれた大量の内毒素を放出するグラム陰性菌での感染を狙った抗生物質処置において特に推薦される。
【0051】
また、本発明は、循環細菌毒素を産生する細菌の表面で発現したタンパク質の少なくとも1つのエピトープに対する少なくとも1つの抗体と併用した上記組成物に関する。
従って、本発明の組成物は下記を含む:
循環毒素を捕捉できて食作用で除去できる上記に定義の抗毒素抗体、ならびに
該毒素を発現する細菌の表面で発現するタンパク質の少なくとも1つのエピトープを認識可能な少なくとも1つの抗体(この第2の抗体は免疫系の刺激および細菌の溶解を可能にする)。
【0052】
事実、特定の細菌は、その毒素放出の理由だけでなく生体におけるその存在だけで病原性である。このことから、生体に有害である毒素の除去が可能であるだけでなく、毒素を産生する細菌の増殖または生存を防止するので当該組成物は非常に有利である。
好ましくは、毒素を産生する細菌の表面で発現したタンパク質の少なくとも1つのエピトープに対する抗体は、向上した細菌溶解能を有する抗体である。言い換えれば、かかる抗体はADCCを誘導する優れた能力を有する。
逆に、本発明は、循環細菌毒素に対する少なくとも1つの中和抗体と併用した上記組成物に関する。
【0053】
より有利には、本発明は、下記を併用した上記組成物に関する:
循環細菌毒素を産生する細菌の表面で発現したタンパク質の少なくとも1つのエピトープに対する少なくとも1つの抗体、および
循環細菌毒素に対する少なくとも1つの中和抗体。
このことから、上記組成物は下記の3つのタイプの抗体を含む:
循環毒素を捕捉できて食作用で除去できる上記に定義の抗毒素抗体、
循環毒素を除去しないが、循環毒素の有害作用の防止効果がある少なくとも1つの中和抗体、および
該毒素を発現する細菌の表面で発現するタンパク質の少なくとも1つのエピトープを認識可能な少なくとも1つの抗体(この第2の抗体は免疫系の刺激および細菌の溶解を可能にする)。
この組成物は毒素を中和し、食作用で除去し、かつ、毒素を産生する細菌の除去ができるので非常に有利である。
【0054】
別の有利な実施形態では、本発明は、かかる抗体および:
抗生物質、および/または
循環細菌毒素を産生する細菌の表面で発現したタンパク質の少なくとも1つのエピトープに対する少なくとも1つの抗体、および/または
循環細菌毒素に対する少なくとも1つの中和抗体
が同時、逐次的または経時的に別々に使用される、上記組成物に関する。
【0055】
さらに別の有利な実施形態では、本発明は、循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体を含み、組成物が約0.05mg/m2から2000mg/m2、特に10/m2から約2000mg/m2の範囲の投与量で使用され、投与する単位用量は患者当たり15mgから約3gの範囲で変わることができる上記組成物に関する。
投与する単位用量は、患者当たり100μgから約1gの範囲で変わることができる。
より有利には、本発明は、組成物が注射可能な形態または噴霧の形態である上記組成物に関する。
特に、注射可能な液体の形態である場合は、本発明の組成物は静脈経路で投与する。噴霧の形態である場合は、呼吸器経由で投与できる。
本発明の組成物は、特に、静脈経路、皮下経路、全身経路、局所的経路、浸潤または経口から投与できる。
【0056】
処置は、継続的または逐次的でもよく、すなわち継続的で場合によって一定的な組成物の注入によるか、または連続しているかもしくは投与の間に処置のない潜伏期間を有する、場合によって数日間の反復で一日一回もしくは複数回の摂取もしくは注射をする不連続な形態でのいずれでもよい。
組成物の投与は連続的でもよく、一定速度または可変速度で数時間から数日間、組成物を静脈注入することによる継続的手段でもよい。また組成物の投与は、場合によって数日間反復して、一日一回または複数回の摂取または注射により、不連続に、逐次的にも実施できる。
別の有利な実施形態では、本発明は、医薬的に許容しうるビヒクルと併用した上記組成物に関する。
【0057】
本発明の抗体は、循環炎症誘発性サイトカインに対するもの、または細菌性毒素に対するものであっても当業者が周知の多くの技術、特に下記に記載した技術で産生できる。
本発明のキメラ抗体は遺伝子組み換え技術で調製できる。例えばキメラ抗体は、ヒト抗体の重鎖の定常領域をコードする配列にリンカーにより連結されたネズミのモノクローナル抗体の重鎖の可変領域をコードする配列を含むキメラ遺伝子を構築し、ヒト抗体の軽鎖の定常領域をコードする配列にリンカーにより連結されたネズミのモノクローナル抗体の軽鎖の可変領域をコードする配列を含むキメラ遺伝子を構築することにより産生できる。例えば、かかるキメラ遺伝子をネズミ骨髄腫の細胞株にプロトプラスト融合または別の技術によりトランスフェクトすることで、形質転換細胞でのキメラマウス-ヒト抗体が産生される。かかる抗体の調製について初めて記述された文献としてはMorrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 81, pp. 6851-55 (1984)がある。また、当業者によりVerhoeven et al., BioEssays, 8:74, 1988, Boulianne, G. L. et al., Nature, 312:643 (1984)、Sun, L.K., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, 214-218、US 4,816,567号、US 6,331,415号、US 6,808,901号、 EP 125023号の文献も参照できる。さらに、ウサギFab断片およびヒトFc断片で形成される抗体を得るためにBobrzecka, K., et al., Immunology Letters 2, pp 151-155の文献は免疫グロブリンの鎖間ジスルフィド橋の分別手順、そして、その後のこれら同じジスルフィド橋の秩序再配列を記載している。
文献FR2 641 468号に記載されているキメラ抗体を調製する別のアプローチは、例えばジイミドなどのカップリング剤を使用してヒトポリクローナル免疫グロブリン、特にIgG、または、Fc断片に対するマウスのモノクローナル抗体のFab'断片のグラフト化である。これらから、Ig-Fab'型(Fab'-Igともいう)、Fc-Fab'、または(Fab')2のキメラ抗体が得られる。かかるキメラ抗体は可変部分だけでなく、Fab'断片全体のグラフト化により特徴付けされる。
【0058】
代わりに、他の著者はIgGまたはFc断片に対してポリクローナル抗体のFab'断片をグラフト化した一価キメラ抗体の取得法を記述している(G.T. Stevenson et al., Med. Oncol. & Tumor, 1985, Pharmacother, vol. 1, No.4, 275-278, 1984)。
また、ヒト免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の定常領域をコードする遺伝子の部分とネズミ免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の定常領域をコードする遺伝子の部分とのインビボの相同組換えは、かかる抗体を得るために使用できる手段である(US 5,204,244号またはUS 5,202,238号)。
このリストは全てを網羅しているわけではない。
【0059】
本発明のヒト化抗体はJones et al., Nature, 1986, 321-522-525の文献に初めて記載されたような周知の技術でも調製できる。これは軽鎖と重鎖との両方においてネズミ由来の超可変領域(CDR)でのヒト抗体の超可変領域の置換に関する。現在、「CDRグラフト化」として当業者に周知のこの技術はSinger et al., J. Immun. 150:2844-2857 (1993)、Riechman et al., Nature 323:326 (1988)、Verhoeyen et al.、Science 239:1534 (1988)、さらにはUS 5,225,539号; US 5,585,089号; EP 0682040号など特許を含め多くの文献に記載され、これらは参照として用いることもできる。
それにもかかわらず、CDR領域に隣接する領域であるフレームワーク領域における特定のアミノ酸の主要な役割が原因でCDR領域のグラフト化で産生される大半のヒト化抗体は、ネズミ抗体に関しては親和性が低下する。このことから、現在では多くの場合、当業者はCDRだけでなく抗原の結合部位に貢献できるフレームワーク領域の残基をも置換している(Studicka et al., 1994)。
【0060】
抗原ヒト化が可能な別の技術としては、全てのCDR領域をグラフト化せずにヒト可変領域に対して非ヒト抗体の特異性決定領域(SDR)のみをグラフト化するSDRグラフト化技術がある(Tamura et al., J Immunol. 2000; 164: 1432-41)。SDR領域は、抗原に直接的に接触するCDRの領域として定義する(Padlan et al. (1995), FASEB J. 9: 133-139)。このことから、この技術はSDRの同定を必要とする。例えば、このことは既に同定されたSDRのデータベース(http://paradox.harvard.edu/sdr)を活用して抗原-抗体複合体の3D構造決定をすることにより、またはCLUSTALW2、CLUSTALX、BLASTもしくはFASTAなどのコンピュータソフトウエアを使用してヒト可変配列と非ヒト種とを比較することにより可能である。
ヒト化抗体の別の取得方法は「簡易CDR」として知られる領域のグラフト化である。これはSDR領域、および配列の上流と下流でのいくつかの近接残基のグラフト化に関係する。文献としてDe Pascalis et al., The Journal of Immunology, 2002, 169: 3076-3084およびKashmiri Syed V.S et al., Humanized Antibodies and their Applications, Volume 36, Issue, May 2005, Pages 25-34を参照として用いることができる。
また、ImmunoGen社(US 5,639,641号)により開発された「上張り(veneering)」として知られる「可変領域の再表面化」技術も使用できる。この技術は、マウス抗体のフレームワーク領域にある表面に露出した残基をヒト抗体表面に通常見られる残基で置換してヒト「プロファイル」をマウス可変ドメインに与えることである。文献としてRoguska et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994およびMark G. E. et al. (1994) in Handbook of Experimental Pharmacology vol. 113: The pharmacology of monoclonal Antibodies, Springer-Verlag, pp 105-134も参照できる。
また、AvantGen社が開発したGermliner(商標)も使用できる(http://www.avantgen.com/AvantGensTechnologiesandServices.pdf)。これにより、CDR3のみが非ヒト由来であるヒト化抗体が取得できる。
このリストは全てを網羅しているわけではない。
【0061】
さらには、本発明の抗体取得は、親和性成熟のプロセスと連結されていることが好ましい。
抗体の親和性向上のために、業界に周知のランダムまたは定方向の種々の変異技術を使用する。後者はインビトロでの親和性変異のプロセスを模倣する。従って、産生された抗体は特にファージディスプレイ法を使用して選択する。
Clakson et al., (1991)、Marks et al., (1992)、S.G. Park et al. (2000)の文献にある鎖シャッフリングでの変異導入は使用可能な第1技術の1つである。高親和性を有するVLとVHドメインは異なるドメインライブラリーから独立して選択され、次いで融合される。選択により、親和性がほぼ、インビボでの二次応答の間に単離される抗体程度である高親和性のクローン単離が可能である。変異したものがドメイン全体ではない場合には、用語「DNAシャッフリング」を使用する(Crameri et al., Nature medicine, 2(1):100-2 (1996))。
別の技術としてはHawkins et al., 1992; Gram et al., 1992に記載のエラープローンPCRがある。このPCRはPCR増幅中の標準酵素と比べてかなり多くの誤りを誘導(平均で、可変ドメイン当たり1.7塩基変更)するポリメラーゼの使用によって特徴付けされる。従って、数多くのランダム変異が配列の中に挿入される。次に、得られたデータベースは高親和性のクローンを選択するために抗原を用いて選択する。
【0062】
さらに、定方向突然変異誘発による変性により抗体の親和性を高めることができる。これは超可変ループに位置するアミノ酸での変異に関係する。この技術は順々に全てのCDRに応用可能であり、かつ、親和性増加は付加的であり得る(Barche et al., 1994; Balint et al., 1993)。CDRウオーキングと呼ぶこの技術の変形は最高でもCDRが6個のみである抗体を変異させることから成る(Yang et al., J. Mol. Biol. 254, 392-403 (1995)。特許文献FR 2 924 431号は、かかる技術による高親和性の抗体取得方法を記述している。
免疫グロブリンの可変ドメインで高レベルな体細胞変異誘導能力において予め選択された変異原性の株の使用は、高親和性の抗体を得る手段でもある。Holliger et al., (1995)の文献はこの例に当たる。この文献は、特にscFv遺伝子に沿って点突然変異を誘導するmutD5株の使用を記述している。従って、産生された抗体は抗原に対して選択され、選択に関する厳密性は各選択ラウンドで増加する。S.J. Cumbers, et al., Nature Biotechnology, 20, 1129-1134 (2002)の文献も参照として用いることができる。
【0063】
WO 2007/074496号文献に記載の修飾ベクターを使用したファージディスプレイ法、または、後にバイオパニングの方法を伴うファージディスプレイ法による選択(Krebber et al., (1997); WO 2006/117699)も高親和性の抗体を得る別の方法である。
本発明の目的として、かかる技術はリボソームディスプレイ(Irving., R.A et al., (2001))または酵母ディスプレイ(Chao, G et al., J. Mol. Biol. 342(2):539-50, 2004)などのファージディスプレイ法に由来する方法と併せて使用できる。
【0064】
当業者に周知の別の方法としては、Millegen社が開発してUS 7,670,809号に記述されている分子進化に関するMutaGen(商標)技術の使用がある。この技術により、インビボでの抗体の成熟で観られる自然現象である体細胞超変異の模倣が可能になる。
Biomethodes社が開発したMassive Mutagenesis(登録商標)法(EP 1311670号)は可能な解決法である。これは定方向突然変異誘発とランダム変異変異誘発との中間の技術である。かかる技術で得られた高親和性を有する抗体の産生はWO 2009/050388号の文献に記述されている。
また、これらの異なる技術は全てを網羅しているわけではない。
【0065】
本発明の組成物に含まれる循環炎症誘発性サイトカインに対するか、または循環細菌毒素に対するかのいずれかの抗体はFcγRIIIに対して高親和性を有する。特に、この高親和性は抗体が保持するグリカン鎖での少量のフコースに関連する可能性がある。フコースの量またはフコースレベルは、グリカン鎖が担うことができるフコースの最大量に対する全ての抗体が保持するフコースの平均的な比率として定義する。
【0066】
フコースレベルには2種類の定義がある:
1つの抗体でのフコシル化に関して、その抗体が組成物の代表であると推論して、組成物の全ての抗体は、同じ様式でフコシル化されていると考えるか、または
各抗体は違うようにでフコシル化され、また、フコースレベルは本発明の組成物を構成する各抗体の個々のフコシル化の平均であると考える。
【0067】
上記の第1のケースでは、抗体は重鎖当たり1つのN-グリコシル化部位を含み、また、各グリコシル化部位がフコースを保持するグリカン鎖と結合できる場合には、かかる抗体は最大2つのフコースを含む可能性がある。従って、平均で1つのフコースを含む抗体の集団は50%(つまり、1x100/2)のフコースレベルを有する。
上記の第2のケースでは組成物が10個の抗体で構成され、例えば3つの抗体はフコシル化されておらず、3つの抗体は1つのフコースを保持し、4つの抗体は2つのフコースを保持する(各抗体が最大で2個までのフコースを含むことができる)場合、組成物のフコシル化レベルは55%、つまり、可能性の有る20の内の11個のフコースである。
好ましくは、本発明に従う組成物の抗体は、Vero(ATCC No. CCL 81)、YB2/0(ATCC No. CRL 1662)またはCHO Lec-1(ATCC No. CRL 1735)などの細胞株由来のクローンにより産生できる。
【0068】
有利な実施形態では、本発明は上記に定義した組成物に関するが、ここで、循環炎症誘発性サイトカインに対するか、または循環細菌毒素に対するかのいずれかの抗体それぞれが、重鎖の297位でのグリコシル化部位において、下記の構造から選択される二分岐グリカン形の1つを有する。
【化1】
【0069】
上記G0およびG1構造での
【化2】
で表されるGlcNAcはフコシル化が可能である。
本発明の組成物の抗体は各重鎖の297位にあるアミノ酸において、FcyRIIIに依存するエフェクター活性を与える特定のグリカン構造を保持する。
【0070】
かかる抗体はWO 01/77181号に記載されるように当業者に周知の方法で得ることができ、かつ、グリコシル化部位(Asn 297)において、短鎖および低シアリル化の二分岐型グリカン構造を有する。好ましくは、グリカン構造は末端マンノースおよび/または非介在(non-intercalary)末端N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する。
【0071】
このことから、構造G0およびG1での
【化3】
で表されるGlcNAcは非フコシル化であるか、1つのフコース分子を保持するかである。
【0072】
別の有利な実施形態では、本発明は上記組成物に関するが、ここで、抗体のそれぞれは重鎖の297位でのグリコシル化部位において下記の構造から選択される二分岐グリカン形の1つを有する。
【化4】
【0073】
従って、本発明の組成物に含まれる抗体は、グリコシル化部位Asn 297に下記を有することを特徴とする:
短鎖の二分岐型グリカン構造、
低シアリル化、
非介在末端マンノースおよび/またはGlcNAc。
【0074】
有利には、本発明の組成物に含まれる抗体は25%、20%、15%、10%、好ましくは5%、4%、3%、2%未満の平均シアル酸含有量を有する。シアリル化レベルは上記のフコースレベルと同様に定義される。
さらに別の有利な実施形態では、本発明は、組成物の抗体のG0F + G1F形が、重鎖の297位(Asn 297)でのグリコシル化部位が保持するグリカン構造の50%未満に相当する上記組成物に関する。
従って、本発明の組成物に含まれる半数未満はフコースを保持する二分岐グリカン鎖を297位で有する。
より有利には、フコースレベルは約20%から約45%までである。
【0075】
本発明の別の有利な実施形態は、組成物の抗体のG0 + G1+ G0F + G1F形が、重鎖の297位でのグリコシル化部位が保持するグリカン構造の60%より多く、好ましくは、グリカン構造の80%より多くに相当する上記組成物に関する。
【0076】
さらに、本発明は、循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体の集団であって、抗体が高いガラクトシル化レベルを有する集団、およびそれらを含む組成物に関する。
さらに、本発明は、循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体の集団を産生するプロセスであって、抗体が高いガラクトシル化レベルを有するプロセスに関する。
さらに、本発明は、循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体に関し、ここで抗体は高度にガラクトシル化している。
【0077】
本発明は、集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルが、少なくとも60%である上記組成物に関する。
本発明は、集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルが、少なくとも70%である上記組成物に関する。
本発明は、集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルが、少なくとも80%である上記組成物に関する。
本発明は、集団の全ての抗体のフコシル化レベルが、少なくとも50%である上記組成物に関する。
本発明は、集団の全ての抗体のフコシル化レベルが、少なくとも60%である上記組成物に関する。
【0078】
本発明は、集団がモノガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体を含む上記組成物に関する。
本発明は、集団がバイガラクトシル化N-グリカンを含む抗体を含有する上記組成物に関する。
本発明は、集団の抗体のフコシル化レベルに対する集団の抗体のガラクトシル化レベルの比率が1.0から1.4である上記組成物に関する。
本発明は、集団中の少なくとも35%の抗体がバイガラクトシル化N-グリカンを含み、集団中の少なくとも25%の抗体がモノガラクトシル化N-グリカンを含む上記組成物に関する。
【0079】
本発明は、抗体が非ヒト哺乳類の乳腺上皮細胞で産生される上記組成物に関する。
本発明は、抗体がトランスジェニック非ヒト哺乳類、特にヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウスまたはラマで産生される上記組成物に関する。
本発明は、ミルクをさらに含む記組成物に関する。
本発明は、医薬的に許容しうるビヒクルをさらに含む記組成物に関する。
さらに、本発明は、マンノシル化レベルが高い抗体の集団およびこれらを含む組成物に関する。
さらに、本発明は、マンノシル化レベルが高い抗体を産生するプロセスに関する。
さらに、本発明は、高度にマンノシル化された抗体に関する。
【0080】
循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体の集団
本発明の抗体は、個々の重鎖のアスパラギン297(Asn297、Kabat番号付け)それぞれにオリゴ糖鎖を保持する。
フコースをほとんどまたは全く含まないオリゴ糖鎖を有する抗体は、免疫系のエフェクター細胞に存在するCD16(FcγRIIIa)に対してより高い親和性があることは当業者に周知である。
従って、Asn297が保持するオリゴ糖鎖レベルにおいてフコース含有量が65%未満である抗体の組成物は特に好ましい。フコース含有量は例えば、MALDI-TOF、HPCE-LIF、またはHPLC法などの周知の技術で測定できる。
有利には、本発明は、抗体のフコースレベルまたは抗体のフコース含有量が60%未満、50%未満、40%未満、または少なくとも30%、または0%でもありえる上記の組成物に関する。0%に等しいフコース含有量はフコースが無いAsn297が保持するオリゴ糖鎖の100%に相当すると理解される。代わりに、フコース含有量は0%から50%の間、10%から50%の間、20%から50%の間に含まれ得る。
【0081】
特定の実施形態において、さらに、本発明の抗体は、バイセクション(bisection)を有するオリゴ糖鎖を含んでよい。
ここで、本発明の意味においての「バイセクション」とは、特にβ1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII)の活性によりβ1.4(介在GlcNac)にグラフト化した介在N-アセチルグルコサミン残基という意味である。
【0082】
特定の実施形態において、本発明の抗体の組成物は、少なくとも20%、例えば少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%のバイセクション含有量を有する。
例えば、免疫グロブリンの少なくとも1つのFcドメインを含み、かつ、介在N-アセチルグルコサミン残基(介在GlcNac)を有する本発明の抗体産生方法はEP 1 071 700号およびUS 6,602,684号またはEP 1 692 182号およびUS 2005/123546号に記述されているが、これに限定されない。例えば、本発明の抗体は、かかる抗体のFcドメインが保持するグリコシル化を修飾する十分な量でβ-(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの核酸を発現する宿主細胞で産生できる。
【0083】
別の実施形態において、本発明の抗体は、フコシル化が低い、つまり、グリカン構造のフコース含有量が65%未満である。特定の実施形態において、本発明の抗体は、G0F + G1F形の場合には50%未満の含有量のグリカン構造を有する。特定の実施形態において、抗体の含有量は、G0 + G1+ G0F + G1F形の場合には60%を超える含有量であるが、G0F + G1F形の場合には50%未満である。別の特定の実施形態において、抗体は、G0 + G1+ G0F + G1F形の場合には60%を超える含有量であるが、フコース含有量は65%未満である。これらの形は本出願に記載のG0、G0F、G1およびG1Fの形から選択される。
この別の実施形態において、抗体は、Asn297グリコシル化部位において末端マンノースおよび/または非介在末端N-アセチルグルコサミンを有するグリカン構造も含む。
【0084】
特定の実施形態において、抗体は、Asn297グリコシル化部位において短鎖で低シアリル化の、G0 + G1+ G0F + G1F形の場合には60%を超える含有量であるが、G0F + G1F形の場合には50%未満である二分岐型グリカン構造を含む。
特に抗体は、25%、20%、15%、10%、好ましくは5%、4%、3%または2%未満のシアル酸含有量を有する。
特定の実施形態において、本発明の抗体はWO 01/77181号に記載のグリカン構造を有する。
【0085】
特に、抗体は、CD16受容体に対して高親和性の抗体を産生可能な細胞株の選択で選択される。例えば、抗体はハイブリドーマで産生でき、特に融合パートナーK6 H6-B5(ATCC CRL 1823)、または当該抗体を産生する動物かヒト細胞、特に、Vero株(ATCC CCL-81)由来の細胞、ラットのハイブリドーマ株YB2/0(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されているATCC CRL-1662、YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞)などのラットのハイブリドーマ細胞株、またはCHO株Lec-1 (ATCC CRL-1735)、CHO-Lec10、CHO dhfr- (例えば、CHO DX BIl、CHO DG44)、CHO Lec13、SP2/0、NSO、293、BHK、COS、IR983F、Namalwaのようなヒト骨髄腫、あるいはPERC6、CHO Pro-5、CHO dhfr- (CHO DX BIl、CHO DG44) 、Wil-2、Jurkat、Vero、Molt-4、COS-7、293- HEK、BHK、K6H6、NSO、SP2/0-Ag 14、P3X63Ag8.653等のヒト由来の別の細胞を用いて得られたヘテロハイブリドーマで産生できる。
有利には、抗体は、YB2/0、Vero、CHO-lec10、CHO-lec13、CHO-lec1、CHOK1SV、FUT8フコシルトランスフェラーゼの場合はCHOノックアウト、GnTIIIを発現するCHOから選択される細胞株で産生できる。
特に有利には、本発明の抗体はラットのハイブリドーマ細胞株で産生される。好ましい態様では、抗体は、CD16に対して高親和性の抗体を産生する能力で選択されたラットハイブリドーマYB2/0(番号ATCC CRL-1662としてアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションに寄託されているYB2/3HL.P2.G11.16Ag.20)で産生する。
【0086】
最適化グリコシル化で抗体を産生する他の方法は当業者に周知である。例えばUS 7,700,321号に記載される方法に従う、本発明の抗体を産生する細胞の培地に添加することができるキフネンシン(αマンノシダーゼII阻害剤)などのグリコシル化阻害剤の使用。さらに、フコース類似体は、US 20090317869号に記載の抗体を産生する細胞の培地に導入できる。
最適化グリコシル化で抗体産生する別の方法は、例えばUS 2010291628号、US 20090228994号、EP 1 500 698号、EP 1 792 987号、またはUS 7,846,725号等に記述されているが、これに限定されることなく、フコース産生サイクルの少なくとも1つの酵素の阻害によりGDP-フコース産生経路が阻害されている細胞の使用である。さらに、US 7,393,683号またはWO 2006133148号に記載される1,6-フコシルトランスフェラーゼを阻害するRNA干渉(RNAi)の使用も可能である。
【0087】
トランスジェニック動物でグリコシル化が最適化された抗体を調製する別の方法はWO 200748077号に記載されている。WO 0200879号が示すように、抗体は酵母でも産生される。
Asn297が保持するグリコシル化レベルでのフコースが完全に欠如している100%非フコシル化オリゴ糖を有する抗体を産生するために、EP 1 176 195号、US 7,214,775号、US 6,994,292号、US 7,425,446号、US2010223686号、WO2007099988号、EP 1 705 251号等に記述されている調製方法を実行できるが、これに限定されない。特定の実施形態において、抗体は、α1,6-フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の欠失により、またはα1,6-フコシルトランスフェラーゼ活性を無くすためにこの遺伝子の変異の添加により修飾された細胞で産生される。
【0088】
本発明の別の態様によると、本発明は循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体の集団を含む組成物に関し、ここで、集団の抗体のガラクトシル化レベルは少なくとも60%である。
本発明のさらに別の態様によると、集団の抗体のガラクトシル化レベルは少なくとも70%である。
本発明のさらに別の態様によると、集団の抗体のガラクトシル化レベルは少なくとも80%である。
本発明の別の特定な態様によると、集団の抗体のフコシル化レベルは少なくとも50%、特に少なくとも60%である。
本発明の別の特定な態様によると、集団はモノガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体を含む。
本発明の別の特定な態様によると、集団はバイガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体を含む。
【0089】
本発明の別の特定な態様によると、集団の抗体のフコシル化レベルに対する集団の抗体のガラクトシル化レベルの比率が1.0から1.4である。
本発明の別の特定な態様によると、集団中の少なくとも35%の抗体はバイガラクトシル化N-グリカンを含み、集団中の少なくとも25%の抗体はモノガラクトシル化N-グリカンを含む。
本発明の別の特定な態様によると、抗体のシアリル化レベルは少なくとも50%である。
本発明の別の特定な態様によると、抗体のシアリル化レベルは少なくとも70%である。
本発明の別の特定な態様によると、抗体のシアリル化レベルは少なくとも90%である。
本発明の別の特定な態様によると、抗体は完全にシアリル化されている。
【0090】
N-グリカンの生合成は、タンパク質の場合のようにコード化で調節されないが、細胞内における特異的グルコシルトランスフェラーゼの発現および活性に主として依存する。従って、通常は、抗体のFc断片などの糖タンパク質は、同一タンパク質骨格上の異なるグリカンを保持するグリコフォームの不均一集団として存在する。
高度にガラクトシル化した抗体の集団は、集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルが少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最高で100%のガラクトシル化である抗体の集団である。
高度にガラクトシル化した抗体の集団の特定の実施形態によると、集団の全ての抗体のガラクトシル化レベルは少なくとも60%である。
【0091】
ガラクトシル化レベルは下記の式で測定できる。
【数1】
【0092】
式中、
「n」は、例えば順相高速液体クロマトグラフィー(NP HPLC)スペクトルなどのクロマトグラムで分析したN-グリカンピークの数を表す。
「Galの数」は、ピークに対応するグリカンのアンテナ上のガラクトースの数を表す。
「Aの数」は、ピークに対応するグリカン形のN-アセチルグルコサミンアンテナの数を表す。
「%、相対表面積」は、対応するピーク下面積のパーセンテージに対応する。
【0093】
抗体の集団の抗体のガラクトシル化レベルは、例えば抗体からN-グリカンを放出し、クロマトグラム上のN-グリカンを分解し、特異的ピークに対応するN-グリカンのオリゴ糖単位を同定し、ピーク強度を測定してデータを上記の式に適用して測定できる。
ガラクトシル化した抗体は、モノガラクトシル化N-グリカンおよびバイガラクトシル化N-グリカンを有する抗体を含む。
【0094】
高度にガラクトシル化した抗体の集団の特定な態様によると、集団は、シアリル化されたりシアリル化されなかったりするモノガラクトシル化N-グリカンを含有した抗体を含む。高度にガラクトシル化した抗体の集団の特定な態様によると、抗体のN-グリカンの少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最高で100%はモノガラクトシル化N-グリカンを含む。本発明の別の特定の実施形態によると、高度にガラクトシル化した抗体の集団では、少なくとも25%の抗体はモノガラクトシル化N-グリカンを含む。
【0095】
高度にガラクトシル化した抗体の集団の特定な態様によると、集団は、シアリル化されたりシアリル化されなかったりするバイガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体を含む。高度にガラクトシル化した抗体の集団の特定な態様によると、抗体のN-グリカンの少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最高で100%はバイガラクトシル化N-グリカンを含む。本発明の別の特定の実施形態によると、高度にガラクトシル化した抗体の集団では、少なくとも35%の抗体はバイガラクトシル化N-グリカンを含む。
【0096】
高度にガラクトシル化した抗体の集団のさらに別の態様によると、集団は、シアリル化されたりシアリル化されなかったりするモノガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体と、シアリル化されたりシアリル化されなかったりするバイガラクトシル化N-グリカンを含有する抗体とを含む。
【0097】
高度にガラクトシル化した抗体の集団の特定な態様によると、抗体のN-グリカンの少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最高で99%はモノガラクトシル化N-グリカンを含み、抗体のN-グリカンの少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最高で99%はバイガラクトシル化N-グリカンを含む。
【0098】
高度にガラクトシル化した抗体の集団の別の特定な態様によると、少なくとも25%の抗体はモノガラクトシル化N-グリカンを含み、少なくとも35%の抗体はバイガラクトシル化N-グリカンを含む。
高度にガラクトシル化した抗体の集団のさらに別の態様によると、集団は高度にフコシル化した抗体を含む。高度にフコシル化した抗体の集団は、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルが少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最高で100%フコシル化である抗体の集団である。高度にガラクトシル化した抗体の集団の特定な態様によると、抗体のN-グリカンのフコシル化レベルは少なくとも50%である。
【0099】
フコシル化レベルは下記の式を用いて測定できる。
【数2】
【0100】
式中、
「n」は、例えば順相高速液体クロマトグラフィー(NP HPLC)スペクトルなどのクロマトグラムで分析したN-グリカンピークの数を表す。
「フコースの数」は、ピークに対応するグリカン構造上のフコースの数を表す。
「%、相対表面積」は、フコースを含む対応するピーク下面積のパーセンテージに対応する。
フコシル化される抗体は、N-グリカンの1つに少なくとも1つのフコース単糖類を有する抗体を含む。フコシル化される抗体は、N-グリカンのそれぞれに少なくとも1つのフコース単糖類を有する抗体を含む。
【0101】
本発明の特定な態様によると、抗体の集団とは、集団の抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルが少なくとも60%であり、集団の抗体のフコシル化レベルが少なくとも50%である集団を言う。
本発明の特定な態様によると、抗体の集団とは、集団における抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルが少なくとも50%であり、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルが少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最大で100%である集団を言う。
本発明のさらに特定な態様によると、本明細書に記載の抗体の集団とは、集団における抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルが少なくとも60%であり、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルが少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最大で100%である集団を言う。
【0102】
本発明のさらに特定な態様によると、本明細書に記載の抗体の集団とは、集団における抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルが少なくとも70%であり、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルが少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最大で100%である集団を言う。
本発明のさらに特定な態様によると、本明細書に記載の抗体の集団とは、集団における抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルが少なくとも80%であり、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルが少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最大で100%である集団を言う。
本発明のさらに特定な態様によると、本明細書に記載の抗体の集団とは、集団における抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルが少なくとも90%であり、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルが少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最大で100%である集団を言う。
【0103】
本発明のさらに特定な態様によると、本明細書に記載の抗体の集団とは、集団における抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルが最大で100%であり、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルが少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、最大で100%である集団を言う。
本発明のさらに別の態様によると、本発明は、Fcガンマ断片のガラクトシル化部位上でガラクトシル化した集団の抗体のN-グリカンのパーセンテージと、Fcガンマ断片のグリコシル化部位上でフコシル化した集団の抗体のN-グリカンのパーセンテージとの間の特定の比率を有する循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体の集団を含む組成物に関する。
【0104】
本発明の特定な態様によると、本発明は、集団の抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルと、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルとの間の比率が0.5〜2.5、0.6〜2.0、0.7〜1.8または1.0〜1.4である、循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体の集団を含む組成物に関する。
本発明のさらに特定な態様によると、本発明は、集団の抗体のN-グリカンのガラクトシル化レベルと、集団の抗体のN-グリカンのフコシル化レベルとの間の比率が1.0〜1.4、例えば1.2である抗体の集団を含む組成物に関する。
【0105】
本発明のさらに別の態様によると、オリゴマンノースまたは追加のオリゴマンノースを含めるために循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する本発明の抗体は修飾されている。別の実施形態において、抗体は修飾され、少なくとも30%の抗体は少なくとも1つのオリゴマンノースを含む。別の実施形態において、抗体は修飾され、抗体の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%は少なくとも1つのオリゴマンノースを含む。別の実施形態において、抗体は修飾され、抗体の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満は少なくとも1つの抗体鎖上にフコースを含む。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体の少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%は少なくとも1つのオリゴマンノースを含み、抗体の少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%は少なくとも1つの抗体鎖上にフコースを含む。
【0106】
別の実施形態では、高度にマンノシル化されたグリコシル化プロファイルを得るために、循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体のN-グリカンは修飾されている。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、少なくとも1つの抗体鎖がオリゴマンノースを含み、かつ、非フコシル化されている。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体の主要なN-グリカンは非フコシル化されている。1つの実施形態では、主要な炭水化物は非フコシル化オリゴマンノースである。別の実施形態では、主要なN-グリカンは非フコシル化Man5である。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体の炭水化物の40%未満がフコースを含む。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体の炭水化物の30%未満、20%未満、10%未満がフコースを含む。1つの実施形態では、フコースは1,6-フコースである。別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体のN-グリカンの少なくとも60%は非フコシル化オリゴマンノースであり、炭水化物の40%未満はフコースを含む抗体である。
【0107】
さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体のN-グリカンは高度にマンノシル化されたグリコシル化プロファイルを有する。1つの実施形態では、抗体は修飾され、少なくとも1つの抗体鎖はオリゴマンノースを含み非フコシル化されている。別の実施形態では、抗体は修飾され、1つの抗体鎖がオリゴマンノースを含み非フコシル化されている。別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体の主要なN-グリカンは非フコシル化されている。1つの実施形態では、主要なN-グリカンは非フコシル化オリゴマンノースである。別の実施形態では、主要なN-グリカンは非フコシル化Man5である。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体のN-グリカンの40%未満はフコースを含む。1つの実施形態では、抗体は修飾され、30%未満、20%未満、10%未満、またはさらに少ない%の炭水化物がフコース抗体を含む。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、少なくとも30%の抗体は少なくとも1つのオリゴマンノースを有する。1つの実施形態では、抗体は修飾され、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の抗体は少なくとも1つのオリゴマンノースを有する。さらに別の実施形態では、抗体は修飾され、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%の抗体は少なくとも1つのオリゴマンノースを含み、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満の抗体は少なくとも1つの鎖にフコースを含む。別の実施形態では、抗体は修飾され、抗体の少なくとも60%のN-グリカンは非フコシル化オリゴマンノースであり、抗体の40%未満のN-グリカンはフコースを含む。
【0108】
ここで用語「高度にマンノシル化されたグリコシル化プロファイル」とは、少なくとも1つオリゴマンノースを含む抗体、または少なくとも30%の抗体が少なくとも1つのオリゴマンノースを含有する抗体の組成物を示すことを意図している。ある種の実施形態では、抗体の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%のN-グリカンはオリゴマンノースである。ある種の実施形態では、抗体の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%のN-グリカンは非フコシル化オリゴマンノースである。別の実施形態では、抗体の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満のN-グリカンはフコースを含む。別の実施形態では、抗体は低フコースで、かつ、オリゴマンノースが豊富である。結果として、別の実施形態では、抗体の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%のN-グリカンはオリゴマンノースであり、かつ、抗体の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満のN-グリカンはフコースを含む。結果として、さらに別の実施形態では、抗体の少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%のN-グリカンは非フコシル化オリゴマンノースであり、かつ、抗体の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満のN-グリカンはフコースを含む抗体である。本発明の実施形態は、重鎖上に1,6フコース糖を有しない、単球、マクロファージ、増強されたナチュラルキラー細胞に見られるFcガンマRIII受容体に結合する抗体に関する。
【0109】
さらに、本発明は、抗体がオリゴマンノースを含む循環炎症誘発性サイトカインか、循環細菌性毒素かのいずれかに対する抗体の組成物に関する。
さらに、本発明は、少なくとも30%の抗体が少なくとも1つのオリゴマンノースを含む組成物に関する。
さらに、本発明は、抗体のN-グリカンが高度にマンノシル化されたグリコシル化プロファイルを有する組成物に関する。
さらに、本発明は、抗体の少なくとも1つの鎖がオリゴマンノースを含み、フコシル化されていない組成物に関する。
さらに、本発明は、抗体の主要なN-グリカンがフコシル化されていない組成物に関する。
【0110】
さらに、本発明は、抗体の主要なN-グリカンが非フコシル化オリゴマンノースである組成物に関する。
さらに、本発明は、抗体の主要なN-グリカンが非フコシル化Man5である組成物に関する。
さらに、本発明は、抗体の40%未満のN-グリカンがフコースを含む組成物に関する。
さらに、本発明は、抗体がフコースを含まない組成物に関する。
さらに、本発明は、抗体の少なくとも60%のN-グリカンがフコシル化オリゴマンノースを含み、抗体の40%未満のN-グリカンがフコースを含む組成物に関する。
【0111】
本発明の抗体は、参照により本明細書中に援用される国際出願WO/2007/048077号または米国仮出願61,065号、2013年2月13日に記載の技術で産生できる。
国際出願WO/2007/04807号または2013年2月13日の米国仮出願61,065号に記載の抗体のプロファイルも参照により援用される。
有利には、抗体は、高レベルの補体依存性細胞傷害活性(CDC)および/または高レベルの抗体依存性細胞傷害性(ADCC)活性を有する。
【0112】
本発明は、実施例および図により詳しく説明される。下記の実施例は、本発明の主題の明確化と有利な実施様態の図示を意図しており、本発明の範囲をいかなる形でも制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0113】
図1】ヤギ#1由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンを表すクロマトグラム。
図2】授乳7日目のヤギ#1由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンを表すクロマトグラム。
図3】授乳17日目のヤギ#1由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンを表すクロマトグラム。
図4】授乳32日目のヤギ#1由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンを表すクロマトグラム。
図5】複数の授乳日でのヤギ#1由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンのオリゴ糖のパーセンテージ要約。
図6】授乳3日目のヤギ#2由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンを表すクロマトグラム。
図7】授乳11日目のヤギ#2由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンを表すクロマトグラム。
図8】授乳21日目のヤギ#2由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンを表すクロマトグラム。
図9】複数の授乳日でのヤギ#2由来の高度にガラクトシル化したアダリムマブ抗体の集団のN-グリカンのオリゴ糖のパーセンテージ要約。
図10】可溶性TNF-αに結合するトランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体。
図11】抗CD16 3G8抗体との競合後にNK細胞に発現したCD16に結合するトランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体。
図12】可溶性TNF-αとJurkat細胞により発現されたCD16とに結合するトランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体。トランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体の脱グリコシル化バージョンは結合しない。
図13】CD16+マクロファージによる可溶性TNFの食作用誘導能力を示す。
【実施例】
【0114】
実施例1と2に関する材料および方法
アダリムマブを産生するトランスジェニックヤギの作出:
トランスジェニックヤギは、アダリムマブ抗体をコードする核酸配列をゲノムに導入して作出された。通常の微量注入技術(US 7,928,064号を参照)を使用して、アダリムマブを産生するヤギを作出した。重鎖および軽鎖をコードするcDNA(配列番号3および配列番号4)は、既報アミノ酸配列(米国特許6,090,382号)をベースに合成される。BC2601HCおよびLC BC2602構築物を産生するために、これらのDNA配列はベータカゼイン発現ベクターにライゲーションした。これらのプラスミドでは、アダリムマブをコードする核酸配列は、ヤギの乳腺でのアダリムマブ発現を促進するプロモーターの制御下にある。原核生物配列を除去してDNAを着床前ヤギ胚に微量注入した。続けて、これらの胚は偽妊娠(pseudo gravides)雌性に移植した。得られた仔は、トランスジーンの存在についてスクリーニングした。両方の鎖を有するものはトランスジェニックファウンダーとして同定した。
【0115】
ファウンダー動物は適切な年齢まで育てた。妊娠および分娩後にミルクを与えた。授乳の動態は分娩からの日数で認識した(例えば3日目、7日目、11日目)。アダリムマブ抗体は、各時点でミルクから精製して本明細書記載のように特徴付けられた。
【0116】
ELISA法によるトランスジェニックに作製したアダリムマブの結合力測定:
TNF-αは濃度を5μg/mlとして100μlのPBS下で96-ウエルプレートにおいて4℃で一晩、コーティングした。非特異的部位を阻害した(室温で、200μlのPBS/1%BSAを用いて1時間、インキュベーション)後で、トランスジェニックに作製したアダリムマブまたは脱グリコシル化アダリムマブをPBS/1%BSA中にて20分間、(0から10μg/mlまでの)複数の濃度で添加した。洗浄後、TNF-αに対するトランスジェニックに作製したアダリムマブの結合を、ペルオキシダーゼと連結したヤギ抗ヒトIgG抗体(H+L)と、その後に伴う基質(H2O2およびテトラメチルベンジジン)の添加により評価した。20分間のインキュベーション後、50μlの希釈H2SO4を用いて反応を停止させて450nmでODを読んだ。トランスジェニックに作製したアダリムマブに関する結果は図10に示す。
【0117】
CD16への結合、3G8抗体との競合
CD16に対するトランスジェニックに作製したアダリムマブの結合を評価するために、抗CD16抗体3G8(Santa Cruz Biotech)を用いて結合置換試験を実施した。この置換試験により、NK細胞の膜の表面で発現するCD16受容体に対するトランスジェニックに作製したアダリムマブの結合の有効性が測定できた。
ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は健康なドナーの末梢血液からの負の枯渇(appauvrissement negatif) (Miltenyi社)により精製した。次に、NK細胞をトランスジェニックに作製したアダリムマブの種々の濃度(0から83μg/mlまで)で、および蛍光色素(3G8-PE)に共役した抗CD16抗体3G8の固定した濃度でインキュベーションした。洗浄後、NK細胞上のCD16受容体に対しての3G8-PEの結合はフローサイトメトリーで評価した。観察した平均蛍光値(MFV)は結合パーセンテージで表現した:100%の値は、トランスジェニックに作製したアダリムマブ無しで観察された値に対応し、よって、3G8の最大結合に対応する。0%の値は、抗体3G8の非存在下でのMFVに対応する。PRISMソフトウエアを使用して、IC50、つまり、3G8結合に関してImaxの50%の阻害誘導に必要な抗体濃度を計算した。その結果を図11に示す。
【0118】
トランスジェニックに作製したアダリムマブのFc断片経由の、可溶性TNF-αとトランスジェニックに作製したアダリムマブとのJurkat細胞上に発現したCD16に対する結合:
Jurkat-CD16細胞は10μg/mlのトランスジェニックに作製したアダリムマブまたは後者の脱グリコシル化バージョンと4℃で20分間、インキュベーションした。洗浄後、最終濃度を1μg/mlとして4℃で20分間、100μlのTNF-αを細胞ペレットに添加した。追加洗浄後、4℃で20分間、細胞を5μg/mlのビオチン化ヤギ抗ヒトTNF-α抗体とインキュベーションした。また別の洗浄サイクル後4℃で20分間、TNF-αの結合をPE蛍光色素に連結したストレプトアビジンの添加により可視化した。サンプルはフローサイトメトリーで分析した。その結果を図12に示す。
【0119】
結果:
実施例1:トランスジェニックに作製したアダリムマブ
トランスジェニックヤギのミルクに産生されたアダリムマブ抗体のグリコシル化プロファイルは、抗体からのN-グリカンの放出および放出されたオリゴ糖のカラム分析で測定した。
図1〜4および6〜8はヤギ#1(図1〜4)およびヤギ#2(図6〜8)由来のトランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体から放出されたオリゴ糖(N-グリカン)を示す。単糖類の群は下記のように表す。
黒色四角:N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)
三角形:フコース
灰色円形:マンノース
白色円形:ガラクトース
灰色ダイヤモンド:N-グリコリルノイラミン酸(NGNA):シアル酸
白色ダイヤモンド:N-アセチルノイラミン酸(NANA):シアル酸
【0120】
図1は、ヤギ#1のミルクにトランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体から放出されたオリゴ糖(N-グリカン)を表すクロマトグラムを示す。このクロマトグラムは、産生された14の主要なオリゴ糖(N-グリカン)の中では、12はN-グリカン鎖に少なくとも1つのガラクトースを有し、このうち4つのオリゴ糖は2つのガラクトースを有することを示す。2つのオリゴ糖のみが純粋なオリゴマンノースである(ピーク1とピーク3を参照)。さらに、図1は、産生された14の主要なオリゴ糖の中では9つはフコシル化していることを示す。全てのフコシル化したオリゴ糖はガラクトシル化している。
図2〜4は、授乳7日(図2)、授乳17日(図3)、授乳32日(図4)後に回収したヤギ#1のミルクにトランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体から放出されたオリゴ糖(N-グリカン)のクロマトグラムを示す。
【0121】
ヤギ#1のミルクに産生したアダリムマブ抗体から単離された全てのN-グリカンの相対パーセンテージを、図5に図示する。さらに、図5は、モノガラクトシル化の全般的なパーセンテージ、バイガラクトシル化のパーセンテージ、ガラクトシル化の合計パーセンテージ(モノガラクトシル化+バイガラクトシル化)の表を示しているが、フコシル化に対するガラクトシル化の比率と少なくとも1つのシアル酸を有するグリカン構造のパーセンテージ(%、シアリル化)とから、ガラクトシル化のパーセンテージは上記の式に基づいて計算し、フコシル化のパーセンテージは上記の式に基づき計算した。これらの結果は下記の表1にも要約する。
【0122】
【表1】
【0123】
図6〜8は、授乳3日(図6)、授乳11日(図7)、授乳21日(図8)後に回収したヤギ#2のミルクにトランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体から放出されたオリゴ糖(N-グリカン)のクロマトグラムを示す。
ヤギ#2のミルクに産生したアダリムマブ抗体から単離された全てのオリゴ糖(N-グリカン)の相対パーセンテージを、図9に図示する。
さらに、図9は、モノガラクトシル化の全般的なパーセンテージ、バイガラクトシル化のパーセンテージ、ガラクトシル化の合計パーセンテージ(モノガラクトシル化+バイガラクトシル化)の表を示しているが、フコシル化に対するガラクトシル化の比率と少なくとも1つのシアル酸を有するグリカン構造のパーセンテージ(%、シアリル化)とから、ガラクトシル化のパーセンテージは上記の式に基づいて計算し、フコシル化のパーセンテージは上記の式に基づき計算した。これらの結果は下記の表2に要約する。
【0124】
【表2】
【0125】
実施例2:トランスジェニックに作製したアダリムマブの結合に関する試験
図10は、トランスジェニックに作製したアダリムマブが96ウエルプレートにコートした可溶性TNF-αと結合できることを示す。非グリコシル化のトランスジェニックに作製したアダリムマブも可溶性TNF-αと結合が可能である(データは示していない)。
図11は、トランスジェニックに作製したアダリムマブがナチュラルキラー(NK)細胞により発現したCD16を結合することを示す。結合は、抗CD16抗体3G8を用いた競合実験で示された。CD16に対するトランスジェニックに作製したアダリムマブの結合は、CD16に対する弱くガラクトシル化された抗体の結合と比べると強い(データは示さず)。
図12は、トランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体が可溶性TNF-αとCD16を発現するJurkat細胞との両方と結合することを示す一方、トランスジェニックに作製したアダリムマブ抗体の非グリコシル化バージョンは結合できないことを示す。
【0126】
実施例3:食作用試験
実施例3の材料
以下の試薬を使用した。
トランスジェニック抗TNF Humira
非脱グリコシル化(つまり、グリコシル化)
脱グリコシル化
抗TNF Humira(アダリムマブ、Abbott)
多価免疫グロブリンIVIg(Tegeline、LFB)
【0127】
末梢血液から単離された単球は解凍してRPMI 1640 + 10% FCS + 50ng/ml M-CSF中で3日間、マクロファージへ分化させた。
TNF-αは、製造元の指示書に基づきInnova Biosciences Lightning-Link Rapid Conjugation Systemキット(緑色蛍光)で標識し、次いで、10μg/mlの抗TNFα抗体と20分間、インキュベーションした。
食作用は、1mg/mlの免疫グロブリンIVIgの存在下または非存在下でマクロファージ(1.105細胞/ウエル)と標識TNF-αとをインキュベーションして4℃および37℃で3時間、実施した。
フローサイトメトリーで分析した食作用指数は、次の式に従って推定した:MFI 37℃ - MFI 4℃(任意の単位)。
その結果を図13に示す。
【0128】
マクロファージのみ(陰性対照)が4℃および37℃での蛍光の非存在を示す。
非脱グリコシル化トランスジェニックアダリムマブ抗体(TG-Humira)、TNF-αおよびマクロファージの存在下では食作用の値が15(MFI)である。
同一条件下でIVIg(1mg/ml)の添加がマクロファージ(FcR)に対するTG-Humira抗体の結合阻害を誘導する。これは4℃および37℃で観察される。食作用は13.3(MFI)と推定した。
Abbott社からのHumira抗体(市販のHumira)、TNF-αおよびマクロファージの存在下では食作用の値は12.5(MFI)である。
同一条件下でIVIg(1mg/ml)の添加がマクロファージ(FcR)に対するAbbott社からのHumira抗体の結合阻害を誘導する。これは4℃および37℃で観察される。食作用は6.72(MFI)と推定される。
従って、これらの結果は、TG-Humira抗体が、販売されているアダリムマブ抗体(Humira、Abbott社)により誘導されるより大きいTNF-αの食作用をCD16+マクロファージの存在下で誘導することを示す。
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