(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも1種のα−アミノ酸の有機陰イオンが、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、セレノシステイン、ピロリシン及びセレノメチオニンの有機陰イオンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
前記少なくとも1種のα−アミノ酸の有機陰イオンが、1種のアミノ基とそれに対してα位に位置するカルボン酸基に加え、更に他のアミノ基、他のカルボン酸基、水酸基、チオール基、ジスルフィド基及び/又は不飽和環状ラジカルを含むα−アミノ酸の有機陰イオンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
前記少なくとも1種のα−アミノ酸の有機陰イオンが、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン及びチロシンの有機陰イオンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
前記金属基板が、アルミニウム、アルミニウム合金、より好ましくはアルミニウム銅合金、並びに非合金鋼及び合金鋼からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
金属材料の腐食は現在でも十分に解決されていない問題として示されている。腐食は金属材料とその大気環境、より具体的には酸素及び水との、一般的な電気化学反応を意味し、腐食により、材料に著しい変化を生じる。腐食の損傷が、金属部材の機能に損傷を生じさせ、且つ最終的に部材を修理又は交換しなければならないことを生じさせる。したがって、腐食及び腐食に対する保護に相当する経済的重要性は高い関連性がある。
【0003】
これらの原因により、実際にすべての金属の産業部門(例えば、機械工学及び設備、自動車工業(車両製造)、航空機及び航空宇宙工業、造船工業、電気工業、精密機械工業)に渡って、特に自動車及び航空機工業部門において、腐食防止が重要視される。特に後者部門において、金属基板は大気条件に又は場合によって非常に極度な大気条件に暴露される部材として非常に広く使われている。
【0004】
車両の仕上げにおいても航空機工業においても、金属基板が通常高価で且つ複雑な多重被覆の被膜工程を受ける。自動車製造及び航空機工業の具体的な要求(例えば、有効的な腐食防止を含む)を満たすことができるために、この被膜工程が必要である。
【0005】
通常、まず金属基板の前処理の一部として、腐食に対して保護する化成被膜が作製される。例として、鋼板のリン酸塩処理、又はアルミニウム基板若しくはアルミニウム合金のクロメート処理を含み、アルミニウム合金の例としてはAA2024−T3合金のような特殊アルミニウム銅合金が挙げられる。後者は、その非常に良い処理特性、その低い密度及び同時に物理的なストレスに対する耐性の理由で、主に航空機工業において応用が見出される。しかし、同時に、材料は有害な糸状腐食に向かう傾向を有し、多くの場合高い大気湿度とともに基板被膜に物理的な損傷を発生後、腐食が基板の被膜の下に糸状で広がって金属基板に糸状腐食の損傷を引き起こす。したがって、有効な腐食防止が重要である。
【0006】
前処理及び適切な化成被膜の構築後、原則として腐食に対する保護を与えるプライマー被膜が製造される。該プライマー被膜は有機高分子のマトリクスをベースとし、且つ、下記で後述される防食顔料を更に含む。自動車工業において、該プライマー被膜が通常に電着塗装、より具体的に陰極電着塗装からなる。航空機工業において、特別なエポキシ樹脂系のプライマーが通常使用される。自動車の仕上げ部門において、一般的にその後に続くのはサーフェーサー被膜の製造であり、該サーフェーサー被膜の機能が、例えば、基板に未だ存在する任意の不均一を補い、且つ陰極電着塗装をはね石(ストーンチップ)損傷から保護するためである。最後のステップにおいて、最終的に上塗りが施され、特に自動車の仕上げの場合該上塗りが2つの別々に施される被膜(ベースコートとクリヤコート)を含む。
【0007】
金属基板の腐食防止の有効な態様で、且つ現在も未だに使われる態様の1つは、クロム酸塩の使用である。例えば、金属基板の表面前処理の一部とする化成被膜の作製(クロメート処理)において、クロム酸塩が使われる。同様に、有機ポリマー樹脂系の防食プライマーにおいて、クロム酸塩が防食顔料として直接によく使われる。したがって、これらのプライマーは、被膜材料又は塗料であり、該被膜材料又は塗料が、結合剤として有機樹脂などの既存の成膜成分に加え、クロム酸の塩(例えば、クロム酸バリウム、クロム酸亜鉛、クロム酸ストロンチウム)の形態で特定のクロム酸塩を更に含む。
【0008】
例えば、金属表面(例えばアルミニウム)のエッチング(食刻)と、それに続く三価クロムを生成するクロム酸塩の部分還元とによる化成被膜の形成において、並びに、アルミニウム(III)/クロム(III)/クロム(VI)の水和酸化物の低溶解性パッシベーション膜(不動態化膜)の製造においても、クロム酸塩の腐食コントロール効果は依然から知られていた。
【0009】
しかし、クロム酸塩の高い毒性の効果及び発がん効果、並びに人間及び環境に対して関連する負担という問題がある。したがって、自動車工業においてクロム酸塩を避ける一方で同時に腐食に対する適切な保護を保つことは、関連工業部門において長期間にわたって望まれたことである。
【0010】
クロム酸塩を避ける一方で同時に腐食に対する適切な保護を保つために、1つの可能なアプローチとして、例えばMoO
42−、MnO
4−及びVO
3−の種々の遷移金属のオキソ陰イオン(及び/又はその塩)の使用が挙げられる。また、ランタノイド陽イオン又は例えばベンゾトリアゾール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、キノリン誘導体及びフォスフェイト誘導体などの異なる有機種類の使用が知られている。その反応の根本的なメカニズムは複雑で、現在に至ってもまだ完全には解明されていない。それらは、不動態酸化/水酸化被膜の形成から、特定の金属陽イオン(例えば、Cu(II))の錯体形成とそれに関連する腐食の特定態様(例えば、アルミニウム‐銅合金の糸状腐食)の抑制までの間で変動する。
【0011】
更なるアプローチは、例えば有機シクロデキストリン又はゼオライト、アルミナナノチューブ及びスメクタイトのような無機材料等のナノ容器材料及び/又は層構造材料と呼ばれるものの使用にある。ハイドロタルサイト成分及び層状複水酸化物材料も使用されている。通常、後者は一般の技術文献において該当する略語「LDH」と共に言及される。文献においてこれらは理想的に示す一般式[M2
2+(1−x)M3
3+x(OH)
2]
x+[A
y−(x/y)nH
2O]又は類似の実験式で常に記載される。これらの化学式において、M2が二価金属陽イオンを表し、M3が三価金属陽イオンを表し、Aが原子価xの陰イオンを表す。天然に生成されるLDHの場合、これらは一般的に炭酸塩、塩化物、硝酸塩、水酸化物及び/又は臭化物のような無機陰イオンである。様々な更なる有機陰イオン及び無機陰イオンが、より具体的に下記で後述される合成LDHにも存在される。上記一般式が、存在する結晶水も計算に入れている。ハイドロタルサイトの場合、二価陽イオンはMg
2+であり、三価陽イオンはAl
3+であり、陰イオンは炭酸塩であり、後者は、少なくとも部分的に、水酸化物イオン又は他の有機及び無機陰イオンに置換されることもある。これは、特に合成ハイドロタルサイトにおいて起こる。したがって、ハイドロタルサイトは、LDHとして一般的に知られている層状構造の具体的な形態として見なされることができる。ハイドロタルサイト及びLDHは水滑石(Mg(OH)
2)の層状構造と類似する層状構造を有し、該層状構造において、三価金属陽イオンの部分的存在によって陽に帯電する金属水酸化物層の各ペアの間に、層間陰イオンの陰に帯電する層が存在し、この層が通常結晶水を更に含む。したがって、この系は、交互に正電荷と負電荷を持つ層の一種であり、対応するイオンの相互作用によって1つの層構造を形成する。上記一般式において、LDH層構造は括弧が配置された部分である。
【0012】
2つの隣接する金属水酸化物層の間に、非共有相互作用、イオン相互作用及び/又は極性相互作用によって、例えば上述された防食剤のような様々な化学剤を挿入可能である。例えば、ハイドロタルサイト及びLDHの場合、陰イオン形態の防食剤を陰イオン層に挿入する。これらは、ポリマー結合剤(例えば、プライマー)をベースとする対応する被膜材料に直接に組み入れられ、これにより腐食防止に寄与する。この場合、これらが腐食に対する保護を提供する化成被膜をサポートする。化成被膜を完全に代替するための試みも行われ、この場合、該当するプライマーが直接に金属に施される。このように、被膜工程はより簡易で、従って費用対効果がより高くなる。
【0013】
WO 03/102085には、交換可能な陰イオンを含む層状複水酸化物(LDH)及び合成ハイドロタルサイト成分、並びにアルミニウム表面の腐食防止を改善するための被膜材料におけるその使用が記載されている。ここで、層状複水酸化物が既に上記で先に提示された理想的に示す一般式[M2
2+(1−x)M3
3+x(OH)
2]
x+[A
x−nH
2O]で記載されている。好ましい金属陽イオンはハイドロタルサイト陽イオンであるマグネシウム(II)及びアルミニウム(III)である。陰イオンとして、例えば、硝酸、炭酸又はモリブデン酸だけではなく、クロム含有陰イオンクロム酸及び重クロム酸も記載されているが、有毒で発がん性のクロム酸が最も良い腐食防止を示す。
【0014】
更に、ハイドロタルサイト成分及びLDH、並びに有機高分子結合剤系の被膜材料における防食剤としてその使用が、例えば、EP0282619A1、WO2005/003408A2又は電気化学学会会報(ECS Transactions)24(1)67−76(2010)に記載されている。これらの場合、上述した無機陰イオンと同様に、例えば、サリチル酸塩、シュウ酸塩、DMTD(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)及びそれらの誘導体、EDTAから得られる陰イオン又はベンゾトリアゾラトなどの有機陰イオンも使われていた。
【0015】
上述されたアプローチにもかかわらず、現在までに腐食の問題が未だ十分に解決されていない。その結果として、依然として適切な腐食防止を確保するために防食剤とするクロム含有の化合物を広く使用する
ことが今なお必要である。
【0016】
Applied Clay Science(2012),55,88−93、Journal of Solid State Chemistry(2012),185,150−155及びJournal of Material Science(2008),42(2),434−439の科学出版物には、陰イオンとして種々のアミノ酸を含むLDHが記載されている。潜在的な使用分野が廃水処理及び生物医学の分析方法であると示されている。金属に対する被膜成分におけるアミノ酸を含むLDHの腐食防止の応用は記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の方法に用いる防食プライマーは、結合剤として下記で後述されるような少なくとも1種の有機ポリマー(A)を含む。公知のように、「結合剤」という用語は、被膜材料においてフィルム形成の原因である有機化合物に使われる。それらは顔料と充填剤を除いた被膜材料の非揮発性部分を構成する。したがって、防食プライマーが基板に施された後、ポリマーフィルムが形成され、このように被膜フィルムが有機ポリマーマトリクスをベースとする。
【0024】
本発明の方法に用いる防食プライマーは、例えば、物理的に、熱的に又は化学線的に、硬化可能である。このために、それは結合剤として下記で後述されるような少なくとも1種の有機ポリマー(A)を含み、該有機ポリマーは、例えば、物理的に、熱的に又は化学線で、硬化可能である。防食プライマーは好ましく物理的に又は熱的に硬化可能である。例えば、熱的に硬化可能である場合、防食プライマーが自己架橋及び/又は外部架橋であってもよい。好ましくは外部架橋である。また、使われる防食プライマーが熱的に及び化学線的に硬化可能であってもよい。このように、例えば、有機ポリマー(A)は熱的にも化学線的にも硬化可能である。その場合、両方の硬化方法は同時に又は連続的に(即ち二重硬化)使用されることも当然に可能である。
【0025】
本発明において、「物理的に硬化可能」又は「物理的硬化」という用語は、ポリマー溶液又はポリマー分散液からの溶剤の減少によりフィルムを形成することを意味する。
【0026】
本発明において、「熱的に硬化可能」又は「熱的硬化」という用語は、反応性官能基の化学反応によって開始される被膜材料層の架橋(被膜フィルムの形成)を意味し、熱エネルギーにより該化学反応のエネルギー活性化が可能である。このような場合において、互いに相補的な異なる官能基が互いに(相補的な官能基と)反応することが可能であり、及び/又はフィルムの形成が自己反応性基の反応に基づき、言い換えれば互いに反応する官能基が同種類の基と反応する。適切な相補的な反応官能基及び自己反応性官能基の例として、例えば、ドイツ特許出願DE 199 30 665 A1の7頁28行〜9頁24行から知られている。
【0027】
この架橋が自己架橋及び/又は外部架橋であってよい。例えば、相補的な反応官能基が既に結合剤として使われる有機ポリマー(A)に存在している場合、系が自己架橋である。外部架橋が存在し、例えば、ある官能基を含む1種の有機ポリマー(A)が下記で後述される架橋剤と反応する場合、そのために該架橋剤は、使われる有機ポリマー(A)に存在している反応官能基と相補的な反応官能基を含む。
【0028】
有機ポリマー(A)が結合剤として、自己架橋官能基と外部架橋官能基の両方を有し、そのため架橋剤と組み合わせることが可能である。
【0029】
本発明において、「化学線的に硬化可能」又は「化学線的硬化」という用語は、化学線の利用によって硬化が可能であることをいい、硬化のために該化学線が近赤外線(NIR)及び紫外線のような電磁放射線であり、より好ましくは紫外線で、電子線のような微粒子放射線も好ましい。紫外線による硬化は一般的にフリーラジカル又は陽イオン性の光開始剤によって開始される。典型的な化学線的に硬化可能な官能基は炭素−炭素二重結合であり、この場合、一般的にフリーラジカル光開始剤が使用される。エポキシ基を含む系も化学線的に硬化されることができ、この場合、硬化が一般的に陽イオン性の光開始剤により開始され、したがって同様に下記で後述されるエポキシ基を含む系に対して活性化したエポキシ基が典型的な架橋剤と反応することができる。よって、化学線的硬化が同様に化学的架橋をベースとし、当該化学反応のエネルギー活性化が化学線によって引き起こられる。
【0030】
本発明の方法の一部として使われる防食プライマーの第一の構成物質は、結合剤として少なくとも1種の有機ポリマー(A)である。公知のように、有機ポリマーは異なるサイズの分子の混合物であり、一連の同一の又は異なる有機モノマー単位(有機モノマーの反応形態とする)によってこれらの分子が区別される。従って、規定される有機モノマーは個別の分子量を指定されることができる一方で、ポリマーが常に分子量の異なる分子の混合物である。従って、ポリマーは、個別的な分子量で記載されることができないものの、公知のように、代わりに常に平均分子量、即ち数平均(Mn)分子量及び重量平均(Mw)分子量が指定される。公知のように、記載される特性は、必ず定義によって常にMwがMnより大きい、即ち多分散性(Mw/Mn)が常に1より大きいという関係になる。従って、係る樹脂は、例えば従来の重付加樹脂、重縮合樹脂及び/又は付加重合樹脂である。例としては、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル、ポリアミド樹脂及びポリエーテル樹脂が含まれる。高分子化合物が、例えば相補的な架橋及び/又は自己反応性架橋のための前述官能基を含む。
【0031】
防食プライマー中の結合剤である少なくとも1種の有機ポリマー(A)の含有量が、いずれの場合にも防食プライマーの固形分に基づいて、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは30〜70重量%、より特に好適的には40〜60重量%である。
【0032】
本発明における固形分の測定について、問題の成分、例えば対応する溶剤中のポリマー分散系又は防食プライマー全体などの1グラム量を、125℃で1時間加熱し、室温まで冷却し、その後改めて計量する。
【0033】
熱的に硬化可能の外部架橋防食プライマーの場合、結合剤とする上述された有機ポリマー(A)に加えて、架橋剤が一般的に使用される。架橋剤が、例えば当業者には公知で下記で後述されるポリアミン、又は例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、それらのイソシアヌレート三量体、及び一部又は完全にアルキル化メラミン樹脂などの、ブロック化及び/又は遊離化ポリイソシアネートである。
【0034】
結合剤とする適切な有機ポリマー(A)と任意の架橋剤の選択及び組み合わせが、製造される被膜系の所望及び/又は所要の特性に従って行われる。もう1つの選択基準は所望及び/又は所要の硬化条件であり、より好ましくは硬化温度である。当業者は、どのようにこのような選択をするべきかについて熟知し、したがってそれを適用させることができる。ただし、陰イオン安定化ポリマーが有機ポリマー(A)として使われないことが、有利である。陰イオン安定化ポリマーは、陰イオン基及び/又は中和剤によって陰イオン(例えば、カルボキシレート基及び/又はカルボン酸基)に転換可能な官能基で修飾されるポリマーとして知られ、水に分散されることができる。従って、このようなポリマーは、水性成分に、例えば水性被膜成分に、使われることができる。本発明において、ポリマー分子に対して下記で後述されるLDHに存在している有機陰イオンの一部の交換が生じる可能性があるので、このような陰イオン安定化ポリマー(A)の使用が不利になることが明らかになった。従って、好ましくは、本発明の防食プライマーは陰イオン安定化ポリマーを含まない。
【0035】
ここで、可能な系が従来の一成分(1C)系及び多成分系で、より具体的には二成分(2C)系である。
【0036】
一成分(1C)系において、架橋される成分(例えば、結合剤とする有機ポリマー(A)及び架橋剤)が互いに一緒に、即ち1つの成分で存在している。その必要条件は、架橋される成分が比較的高い温度及び/又は化学線への暴露だけで互いに架橋することである。
【0037】
二成分(2C)系において、架橋される成分(例えば、結合剤とする有機ポリマー(A)及び架橋剤)が少なくとも2つの成分で互いに別々に存在し、そのうち2つの成分が使用される直前まで組み合わされない。架橋される成分は、室温でも互いに反応する形態が選択される。(2C)系が好ましい。
【0038】
防食プライマーは、好ましくは有機ポリマー(A)として少なくとも1種のポリビニルブチラール樹脂及び/又はエポキシ樹脂(少なくとも1種のエポキシ樹脂が特に好ましい)を含む。
【0039】
ポリビニルブチラール又はポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールからブタナールと共にアセタール化によって作製されるポリマーに使われるものとして知られている。従って、これらはポリビニルアセタール群に属する。ポリビニルブチラールの作製に必要であるポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルを形成するための酢酸ビニルのラジカル重合、及び後続のアルカリ加水分解により、作製される。ポリビニルブチラールの実際の後続の作製は通常、酸性触媒の存在でブタナールとポリビニルアルコールの反応によって行う。この反応において、統計学的及び立体構造的原因が、約80%の最大達成可能な機能化(官能化)を決定する。上述のように、ポリビニルブチラールの作製に使われるポリビニルアルコールが基本的にポリ酢酸ビニルの加水分解によって作製され、且つこの反応において完全転換も全く期待されないので、ポリビニルブチラールは、一般的に少なくともわずかな一部のアセチル基(少なくとも約2%)を含む。本発明の防食プライマーにおいてポリビニルブチラールは、例えばアルコール、エーテル、エステル、ケトン若しくは塩素化炭化水素、又はそれらの混合物のような有機溶剤中で溶液又は分散系として好適に使われる。
【0040】
樹脂が、例えば物理的に硬化する防食プライマーにおいて、並びにフェノール基又はアミノ樹脂などとの組み合わせにおいて、唯一の結合剤として使われてもよい。ポリビニルブチラールの特徴は、例えば、ポリマーにおいてアセタール基部分(又は遊離で、反応していないヒドロキシル基の残存部分)又は(加水分解していない)アセチル基部分である。
【0041】
最終的に、本発明において、当業者に公知の全てのポリビニルブチラールが使われてもよい。ただし、20%〜60%のアセタール化度を有するポリビニルブチラールの使用が好ましく、30%〜45%のアセタール化度(例えば、GOST標準(GOST 9439 RU)に従って測られる)を有するポリビニルブチラールの使用がより好ましい。この種類のポリビニルブチラールは、例えば、商品名MowitalでKurary会社から、商品名PioloformでWacker会社から又は商品名ButvarでButvar会社から入手することができる。
【0042】
本発明の防食プライマーの有機ポリマー(A)として同様に好ましいエポキシ樹脂の場合、係る樹脂が、ベース分子において複数のエポキシ基を含む従来の重縮合樹脂である。好ましくは、係る樹脂がエピクロルヒドリンとビスフェノールA又はビスフェノールFとの縮合によって作製されるエポキシ樹脂である。これらの化合物は分子鎖に沿ってあるヒドロキシル基、及び端部にあるエポキシ基を含む。エポキシ樹脂のエポキシ基又はヒドロキシル基による架橋能力は、鎖長によって変化する。エポキシ基による架橋能力は鎖長及びモル質量の増加に従って下がるが、ヒドロキシル基による架橋能力は鎖長の増加に従って上がる。本発明において、最終的に、当業者に対して本来公知の全てのエポキシ樹脂の使用が可能であり、下記で詳細に記載され且つ市販されているエポキシ樹脂が挙げられ、該エポキシ樹脂は有機溶剤又は水の溶液又は分散系として入手することができる。ただし、上記された理由で、陰イオン安定化エポキシ樹脂を使用しないほうが有利である。
【0043】
本発明において好ましく使用されるエポキシ樹脂は、好ましくは樹脂1キロに800〜7000mmolのエポキシ基(mmol/kg)のエポキシ基含有量を有し、より特に好ましくは3500〜6000mmol/kgである。本発明において、樹脂1キロにエポキシ基の含有量がDIN EN ISO 3001に従って測定される。
【0044】
この種類のエポキシ樹脂は、有機溶剤又は水の溶液又は分散系のような形態で、例えば、商品名BeckopoxでCytec会社から又は商品名EpikoteでMomentive会社から入手することができる。
【0045】
エポキシ樹脂は一般的に単独で膜形成特性がないので、当該樹脂が使用される時、対応するエポキシ樹脂の架橋剤がさらに使われる。本発明において、より特に好ましくは、既に上記で確定されたポリアミンが、架橋剤又はエポキシ樹脂の架橋剤として使われる。公知のように、「ポリアミン」は有機化合物に対して2つ以上のアミノ基を有する有機化合物の総称であり、その例としてジアミン又はトリアミンが挙げられる。アミノ基以外には、この場合における化合物として、例えば、脂肪族の親構造又は芳香族の親構造(即ち、例えば、これらはアミノ基及び脂肪族基、又はアミノ基及び芳香族基(脂肪族ポリアミン又は芳香族ポリアミン)で構成される)を有する。ポリアミンは勿論脂肪族ユニット又は芳香族ユニットも、且つ任意の他の官能基も含有してもよい。脂肪族ポリアミンの例としてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、3,3‘,5−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,2−シクロヘキシルジアミン及びイソホロンジアミンが挙げられる。芳香族アミンの例としてはメチレンジアニリン及び4,4−ジアミノジフェニルスルホンが挙げられる。総称「ポリアミン」は、化合物の反応性及び/又は溶解性などの様々な特性に影響を与えるために、及び/又は係る被膜成分から製造される被膜の特性(例えば、表面硬度)に対する影響を及ぼすために、少なくとも一部のアミノ基と他の有機化合物の反応によって上記のような脂肪族ポリアミン又は芳香族ポリアミン(いわゆるベースポリアミンとして)から作製される有機化合物を同様に含む。したがって、当該化合物は、付加物を構成し、2つ以上のアミノ基を未だに含む場合に、ポリアミン付加物又は修飾されたポリアミンとしてもよい。勿論、これらも前述したポリアミンより大きい分子量を有するので、健康に対するそれらの有害作用が下がる。当該ポリアミン付加物は、例えば上述されたエポキシ樹脂などのポリエポキシドと、又はビスフェノールAジグリシジルエーテルのような個別の二官能性化合物(この場合、エポキシ基と比べて化学量論的過剰量のアミノ基が使われる)と、脂肪族ポリアミン及び/又は芳香族ポリアミンとの反応生成物から構成される。したがって、これらの付加物は実際の被膜成分におけるエポキシ樹脂の硬化のために使われる。1つの既知の例として、エポキシ樹脂とするビスフェノールAジグリシジルエーテルと、ベースポリアミンとする3,3‘,5−トリメチルヘキサメチレンジアミンとの反応生成物が挙げられる。総称「ポリアミン」に同様に含むのは、例えば従来のポリアミノアミドであり、これらはベースポリアミン及びポリカルボン酸として、より好ましくはジカルボン酸として、上述されたようなポリアミンの縮合により作製されるポリマーである。
【0046】
本発明において、架橋剤として好ましく用いるポリアミンは、1モルの活性水素当たり15〜330g、より特に好ましくは35〜330g/mol、非常に好ましくは150〜250g/mol(ASTM D2073に従って第1級及び第2級アミン基の決定方法によって測られる)のポリアミンの活性水素の等価質量(当量、1モルの活性水素(N−H基)当たりのポリアミンの質量であり、例えば、第1級及び第2級アミノ基にある水素)を有する。
【0047】
エポキシ樹脂の反応物及び/又は架橋剤とする当該ポリアミン若しくはポリアミン付加物又は他のポリアミノアミドは、例えば、商品名BeckopoxでCytec会社から又は商品名Cardolite(例えば、Cardolite NC−562)でCardolite会社から入手することができる。
【0048】
本発明において、非常に特に好適には、有機樹脂(A)として少なくとも1種のエポキシ樹脂を、架橋剤として少なくとも1種のポリアミンと共に使用することである。
【0049】
防食プライマーの一部とするこれらのポリアミン部分は、可能な限り少なくとも1種のポリアミンの相補的な反応官能基(すなわち、第1級及び第2級アミノ基からの架橋可能のN−H基)の、少なくとも1種のエポキシ樹脂(A)のエポキシ基に対する比が好ましく0.4〜1.4の間、より好ましくは0.6〜1.0の間、最も好ましくは0.7〜0.9の間(エポキシ基含有量及び活性水素等価質量の決定について上記を参照)にあるように選択することが好ましい。
【0050】
本発明の防食プライマーは有機陰イオンを含む少なくとも1種の合成層状複水酸化物(B)を更に含む。LDHは少なくとも1種のα−アミノ酸の有機陰イオンを含む。
【0051】
α−アミノ酸が少なくとも1種のアミノ基及び少なくとも1種のカルボン酸基を含む有機分子である。その分子において、少なくとも1種のアミノ基が少なくとも1種のカルボン酸基に対してα位に配置される。つまり、ただ1つの架橋炭素原子が問題のアミノ基と、それに関連したカルボン酸基との間に配置されることをいう。したがって、該架橋炭素原子が2つの任意の他のラジカル基R
1及びR
2を有する。通常のα−アミノ酸において、この2つのラジカル基の少なくとも1つが、より好ましくはこれらのラジカル基の1つのみが、水素である。したがって、もう1つのラジカル基は任意の有機ラジカルでもよい。公知のように、この種類の有機ラジカルは1つ以上の線形脂肪族基、分枝状脂肪族基及び環状脂肪族基、複素環基、並びに芳香族基で構成され、又はそれは1つ以上の前述基を含み且つヘテロ原子若しくは他のヘテロ原子も有する。公知のように、ヘテロ原子又はヘテロ元素は、炭素及び水素以外に有機ラジカルにおいて生じる全ての元素であり、より具体的にこれらは窒素、酸素及び硫黄である。ヘテロ原子は、例えば芳香族基及び複素環基に存在しても、前述された線形脂肪族基、分枝状脂肪族基及び環状脂肪族基並びに芳香族基の2つ以上を架橋しても、末端でも、及び/又は他のアミノ基、他のヒドロキシル基又はチオール基のような官能基の一部として存在してもよい。
【0052】
本発明において、架橋炭素原子にある2つのラジカル基の少なくとも1つが水素であるα−アミノ酸の使用が好ましい。ラジカル基の1つのみが水素であることが好ましく、即ち、係るアミノ酸がキラルアミノ酸である。特に好ましくはキラルタンパク質原性のアミノ酸である。これらはα−アミノ酸のアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、セレノシステイン、ピロリシン及びセレノメチオニンを含む。同様に、例えば、システインの酸化二量化によって形成されるようなシスチンが、特に好ましい基に属する。
【0053】
本発明の同様に好ましい実施様態において、α位に配置された2つの基、即ちアミノ基及びカルボン酸基のヘテロ原子に加え、更に、他のヘテロ原子及び/又は不飽和環状ラジカル(特にフェニルラジカル、イミダゾイルラジカル及び/又はインドリルラジカル)をさらに含むアミノ酸が使用される。好ましいヘテロ原子は、より好ましくは他のアミノ基、他のカルボン酸基、ヒドロキシル基、チオール基及び/又は架橋ジスルフィド基の一部として存在している窒素、酸素及び硫黄である。勿論、ヘテロ原子、より好ましくは窒素が、不飽和環状ラジカルの1つの中に存在していることも可能である。
【0054】
本発明において、シスチン及びタンパク質原性アミノ酸(他のアミノ基、他のカルボン酸基、ヒドロキシル基、チオール基、ジスルフィド架橋及び/又は不飽和環状ラジカルを更に含む)からなる群より選択されるα−アミノ酸が既に証明された特に好ましいものである。したがって、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、シスチン、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン及びチロシンが特に好ましい。これらのうち、システイン、シスチン及びフェニルアラニンが更に好ましい。
【0055】
本発明において用いられるアミノ酸がキラル中心を有する場合、好適に、係る構造がL型又はD型構造のいずれかの1つであってもよい。両構造の混合物、例えばラセミ混合物も、勿論使用することができる。本発明においてL型構造のα−アミノ酸が好ましい。
【0056】
上記によって、α−アミノ酸の有機陰イオンが、特に、各α−アミノ酸の少なくとも1つのカルボン酸基の脱プロトン化によって得られることが明らかである。本発明において、好ましくは、当該脱プロトン化が各α−アミノ酸の水溶液又は懸濁液のpHの増大によって行われる。特に脱プロトン化が下記で後述されるLDH(B)の作製の一部として行われる。α−アミノ酸は少なくとも1種のアミノ基を含む。公知のように、これらのアミノ基は、塩基反応を呈する、換言すれば、プロトン受容体として反応することがあり、そしてカチオン性をもたらす。例えば、カルボン酸基及びアミノ基の存在により、pHによって分子の双性イオン性が生じる可能性もある。これは当該分子が異なる電荷を有する基を含むことを示すが、全体としては電気的中性である。公知のように、その分子が全体として即ち見かけ上電気的中性を示すpHは、等電点と呼ばれる。したがって、α−アミノ酸の有機陰イオンの形成に対して、原則として当該アミノ酸の等電点より大きいpHが設定される。
【0057】
LDHは下記の一般式(I)で記載することができる:
[M
2+(1-x) M
3+x(OH)
2][A
y-(x/y)]・nH
2O (I)
【0058】
ここで、M
2+が二価金属陽イオンを表し、M
3+が三価金属陽イオンを表し、且つA
y−が平均原子価yの陰イオンを表す。本発明において、平均原子価は異なる層間陰イオンの原子価の平均値という意味である。当業者が容易に理解するように、陰イオン総量(重量因子)の中でのそれぞれの割合によって異なる原子価の異なる陰イオン(例えば、炭酸、硝酸、EDTAから得られる陰イオンなど)は、いずれの場合においても個々の平均原子価に寄与する。xについて、0.05〜0.5の値が知られているが、n=0〜10の値を有する結晶水部分は非常に異なる。二価金属陽イオン及び三価金属陽イオン、並びに水酸化物イオンも、陽に帯電する金属水酸化物層(一般式(I)の第1の括弧に表示)において、稜連結された八面体の規則的配列で存在し、層間陰イオンはそれぞれ陰に帯電した中間層(一般式(I)の第2の括弧に表示)で存在し、且つ結晶水が更に存在することができる。
【0059】
本発明において、有利に利用されるLDHは一般式(I)で記載される。
【0060】
[M
2+(1-x) M
3+x(OH)
2][A
y-(x/y)]・nH
2O (I)
【0061】
ここで、
二価金属陽イオンM
2+は、Zn
2+、Mg
2+、Ca
2+、Cu
2+、Ni
2+、Co
2+、Fe
2+、Mn
2+、Cd
2+、Pb
2+、Sr
2+及びこれらの混合物からなる群、好ましくはZn
2+、Mg
2+、Ca
2+及びこれらの混合物からなる群、非常に好ましくはZn
2+又はMg
2+からなる群、から選ばれ、
三価金属陽イオンM
3+は、Al
3+、Bi
3+、Fe
3+、Cr
3+、Ga
3+、Ni
3+、Co
3+、Mn
3+、V
3+、Ce
3+、La
3+及びこれらの混合物からなる群、好ましくはAl
3+、Bi
3+及び/又はFe
3+からなる群、より好ましくはAl
3+、から選ばれ、
陰イオンA
y−はα−アミノ酸の少なくとも1つの有機陰イオンを少なくとも一部として含み、
xは、0.05〜0.5の数値、より好ましくは0.15〜0.4の数値、非常に好ましくは0.25〜0.35の数値、を取り、及び
nは、0〜10の数値を取る。
【0062】
最も好ましいLDHは、下記陽イオン/陰イオンの組み合わせ、つまりZn
2+/Al
+シスチン及び/又はフェニルアラニン陰イオン、Mg
2+/Al
3+/システイン陰イオンを含む。
【0063】
LDHの作製は本来公知の方法に従って行い、該方法がE. Kanezaki, Preparation of Layered Double Hydroxides, in Interface Science and Technology, Vol. 1, Chapter 12, page 345 ff. - Elsevier, 2004, ISBN 0−12−088439−9に記載されている。LDHの合成に関する他の情報が、例えば、D.G. Evans et al., “Preparation of Layered Double Hydroxides”, Struct Bond (2006) 119, pages 89−119 [DOI 10.1007/430_006, Springer Berlin Heidelberg 2005] に記載されている。
【0064】
原則として金属陽イオンの無機塩の混合物からLDHの作製は、二価金属陽イオン及び三価金属陽イオンの所要及び/又は所望の比例(化学量論)を守りながら水相で、不変に維持される決まった塩基のpHレベルで行う。合成が二酸化炭素の存在下で行う場合、例えば大気環境で及び/又は炭酸塩の添加により、LDHは一般的に層間陰イオンとして炭酸塩を含む。これを引き起こす原因は、炭酸塩がLDHの層状構造に挿入して高い親和性を有するからである。二酸化炭素及び炭酸塩(例えば、窒素又はアルゴンの不活性ガス雰囲気、炭酸を含まない塩)を使用せずに反応を行う場合、LDHは塩化物イオンのような金属塩の無機陰イオンを層間陰イオンとして含む。
【0065】
合成は、炭酸塩及び/又は二酸化炭素を使用せず(不活性ガス雰囲気)、並びに例えば陰イオンとして金属塩に存在していない有機陰イオン又はそれらの酸性前駆体の存在下で行われてよい。この場合、生成物は、通常、挿入された対応する有機陰イオンを有する、混合された水酸化物である。
【0066】
したがって、上述された直接共沈法と呼ばれる方法により、所望のLDHが一段合成で得られる。
【0067】
本発明において、直接共沈法の使用が特に有利と考えられることが現れる。ここで、不活性ガス雰囲気で、金属塩を、本発明に従って挿入されるα−アミノ酸の有機陰イオンの水性塩基溶液の初期投入(initial charge)に滴下し、この滴下の間に、pHを水酸化ナトリウム溶液のような塩基溶液の制御添加によって、不変に維持することが、当該使用が有利である。制御される且つ効率的な結晶化を達成するために、金属塩を好適には徐々に滴下し、換言すれば初期投入として添加すべき溶液の濃度及び量に応じて約1〜10時間に渡って、より好ましくは2〜5時間にわたって添加する。完全転換を確保するために、有利には、約1時間〜10日間に渡り、より好ましくは2〜24時間、懸濁液のエイジング又はさらなる撹拌により、完全な滴下添加が続いて行われる。その後、遠心及び水で繰り返し洗浄した後、LDHがスラリーの形態で得られ、そのまま水性の防食プライマーに使われることができる。例えば20〜40℃の温度で乾燥後、LDHが粉末状で得られ、その後溶剤型防食プライマーに使われることができる。
【0068】
本発明において、1:1と10:1との間、より好ましくは1:1と5:1との間、の有機陰イオン/M
3+比となるように、測った三価金属陽イオンの量を選択することが有利である。
【0069】
LDHの作製の間のpHは、上記いずれの場合においても使われる各α−アミノ酸の等電点を選択し、全合成工程の間に好適に一定に維持する。7.5と11との間の最適pHは、例えば、所望の化合物(例えば、金属陽イオンM
2+/M
3+及び/又は有機陰イオンの選択、並びに/若しくはこれらの成分を生成するための各の出発物質の選択)に従って徐々に上がり、且つ当業者が容易に適合させることができる。金属陽イオンとしてZn
2+又はMg
2+及びAl
3+並びに上述された特に好ましいα−アミノ酸の有機陰イオンを含む特に好ましいLDHに対して、選択されるpHは、より好ましくは7.5と11との間であり、勿論合成の期間に渡って必ず同様に不変に維持される。
【0070】
本発明において、陰イオン交換反応法と呼ばれる方法が同様に利点を持って使われる。この場合、層間陰イオンが交換できるLDHの特性が利用される。LDHの陽イオン混合金属水酸化物層の層状構造が維持される。炭酸塩と比べて塩化物及び硝酸塩のような容易に交換可能な陰イオンを含む既に作製されたLDH(例えば、不活性ガス雰囲気での共沈法により作製されたLDH)は、不活性ガス雰囲気でアルカリ性水溶液に懸濁される。この懸濁液又はスラリーは、その後不活性ガス雰囲気で、挿入されるα−アミノ酸の有機陰イオンのアルカリ性水溶液に添加され、その後一定時間で、例えば、1時間〜10日間、より好ましくは1〜5日間撹拌される。遠心及び水で繰り返し洗浄の後、LDHはスラリーの形で再び得られ、そのまま水性の防食プライマーに使われることができる。例えば20〜40℃の温度で乾燥後、LDHは粉末状で得られ、その後溶剤型防食プライマーに使われることができる。
【0071】
陰イオン交換反応法において、有機陰イオン/M
3+比が1:1と10:1との間、より好ましくは1:1と5:1との間になるように、挿入される陰イオンの量を選択することが有利である。
【0072】
イオン交換溶液のpHは、その使われる各α−アミノ酸の等電点をとなるように、例えば、7.5と11との間で、再び調整される。金属陽イオンとしてZn
2+又はMg
2+及びAl
3+、並びに上述された特に好ましいα−アミノ酸の有機陰イオンを含む特に好ましいLDHに対して、選択されるpHは、より好ましくは7.5と11との間であり、勿論合成間一定に維持される。
【0073】
本発明において、上記された全ての反応ステップが、好ましくは10〜80℃の間、より好ましくは室温、すなわち約15〜25℃の間の温度で行われる(別途に示される場合を除く)。
【0074】
再構成法として知られている方法によって有機陰イオンを含むLDHの合成が同様に可能である。この方法の場合、例えば、既存のLDHが粉末状で数百摂氏温度まで数時間(例えば、450℃で3時間)加熱される。LDH構造が崩壊し、且つ揮発性の層間陰イオン及び/又は熱的分解可能な層間陰イオン、及び結晶水が脱出可能となる。この極度な処理により、例えば、炭酸塩が分解され、且つ二酸化炭素及び水が脱出される。残されるのは金属酸化物の非晶質混合物である。挿入すべき陰イオンの水溶液を加えることによって、不活性ガス雰囲気で、LDH構造が再構築され、所望のLDHが製造される。合成及び保存の結果、高親和性で、十分に挿入した炭酸塩を煩雑に含む、商業的に得られるLDHを使用する場合、より好ましくは上記方法が使用される。
【0075】
ただし、本発明においては、直接共沈法によって及び/又は陰イオン交換反応法によって、非常に好ましくは直接共沈法によって、LDHを作製することが有利である。より好ましくは、各金属陽イオンの硝酸塩及び/又は塩化物塩を使って行われる。炭酸塩と比べると、これらの無機陰イオンは、良い交換特性を有し、従って高い所望の有機陰イオンの含有量でLDHを作製することができる。再構成法のように、LDHの親和力で炭酸塩を排出するために極端な熱的処理を行う必要がない。本発明における好ましい方法において、他の要因は、LDH構造の制限される形成が金属塩溶液の徐々に且つ制御可能な添加により可能とすること(直接共沈法)であり、又はLDH構造が合成の間に維持されること(陰イオン交換反応法)である。再構成法においてこれらの利点が全て存在しないので、故に作製されたLDHがこれらの結晶構造において頻繁な欠陥サイトを示し、且つMg
2+/Al
3+系の場合だけ、一般的な条件下で熱力学の自己再組織化に対する必要な能力を有するので、該方法は同じ結果を引き起こす。
【0076】
本発明において、作製されたLDHは、これらの合成及び保存により、α−アミノ酸の有機陰イオンに加えて、一定量の炭酸、硝酸、塩化物及び/又は水酸化物イオンのような無機陰イオンを含む。ただし、いずれの場合においても、α−アミノ酸の有機陰イオンがかなりの割合を占める。三価金属陽イオンによって生じる金属水酸化物層の陽層荷電の15%以上がこれらの陰イオン(15%以上の電荷補償度)により補償されるような割合で、α−アミノ酸の有機陰イオンが好ましく存在する。好ましい電荷補償度は、20%を超え、より好ましくは30%を超え、且つ最も好ましくは35%を超える。本発明において、電荷補償度は当業者が本来熟知している定量要素分析技術又は定量元素分析技術によって測定される。例えば、LDH層にある金属原子も特に硫黄のようなより重いヘテロ原子も、ICP−OES(誘導結合プラズマ発光分析)を利用して要素分析により測定されることができる一方で、C/H/N/O元素だけを含む有機陰イオンのLDHサンプルに対して、これらの陰イオン量の定量測定が元素分析より可能である。ICP−OESにおいて、上記により作製されたLDHサンプルが、洗浄及び乾燥後、硝酸のような無機酸と共に混合されて分解され、一方で、周知の燃焼法と、それに続く、酸化生成物及び還元生成物のガスクロマトグラフ分離及び定量(WLD)によって元素分析が行われる。有機陰イオンにおける元素分析(即ち、陰イオンに結合する特定の重いヘテロ原子、より好ましくはシステイン及びシスチンの場合の硫黄)によって測定される金属原子量、及びより重いヘテロ原子(より好ましくは硫黄)量から、該当する原子の重量又は分子量を考慮して、電荷補償度を確定するため、三価金属陽イオンの量、より好ましくはAl
3+の量、及び各の陰イオンの量が測定され、且つこれらの量の比が使われる。この場合、理論的最大値100%は、三価金属陽イオンの正電荷当量と1つのα−アミノ酸の有機陰イオンの負電荷当量との当量比に該当する。その有機イオンがICP−OESにより測定されることができる特定のヘテロ原子を含むまないLDH相の場合、既知の各有機陰イオンの実験式及び物理吸着水の量(熱による重量減少分析(TGA)において、150℃での重量減少により測定される)の実験式を考慮して、元素分析により測定された原子C、H、N及びOの量がLDHサンプルにあるこれらの陰イオンの量の計算を可能にする。
【0077】
問題の有機陰イオンの好ましい電荷補償度は、上述された好ましい条件(例えば、pH又は有機陰イオンと三価金属陽イオンとの比)で、特に好ましい作製方法、即ち直接共沈法及び陰イオン交換反応法の使用によって達することができる。
【0078】
LDH成分(B)は、いずれの場合にも本発明で使用される防食プライマーの総量に基づいて、例えば、0.1質量%〜30質量%、より好ましくは2質量%〜15質量%、特に好ましい実施態様において3質量%〜10質量%の割合で使用される。防食プライマーの固形物含有量(定義について上記を参照)に基づいて、LDH成分(B)の割合は、例えば0.2質量%〜60質量%、より好ましくは2質量%〜40質量%、最も好ましくは4質量%〜30質量%であり、特に好ましい実施態様においては6質量%〜20質量%である。
【0079】
本発明に従って用いる防食プライマーは、一般的に少なくとも1種の有機溶剤及び/又は水をさらに含む。本発明の防食プライマーの架橋を抑制しない及び/又は本発明の防食プライマーの他の構成物質と化学反応しない有機溶剤が使われる。従って、当業者はこれらの既知の溶解力及びこれらの反応性に基づいて適切な溶剤を簡単に選択することができる。そのような溶剤の例としては、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、Solvesso 100、若しくはHydrosol(登録商標)(ARALから)、アセトン、メチルエチルケトン若しくはアミルメチルケトンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ブチルグリコール、酢酸ペンチル若しくはエトキシプロピオン酸エチルなどのエステル、エーテル、アルコール、塩素化炭化水素などの脂肪族の炭化水素及び/又は芳香族の炭化水素又は前述溶剤の混合物である。
【0080】
本発明に従って用いる防食プライマーは少なくとも1種の添加物をさらに含んでもよい。当該添加物の例として、熱的に若しくは実質的に残留物がないように分解されることができる塩類、反応性希釈剤、顔料、充填剤、分子的分散可溶性染料、ナノ粒子、光安定剤、抗酸化剤、脱気剤、乳化剤、スリップ剤、重合防止剤、ラジカル重合開始剤、接着促進剤、流動制御剤、成膜助剤、増粘剤、垂れ防止剤(SCAs)、難燃剤、他の腐食防止剤、ワックス、バイオサイド(殺生物材)及び艶消し剤が挙げられる。これらは、慣行且つ既知の量で使用される。本発明に従って用いる防食プライマーは好ましくはクロム含有腐食防止剤を完全に含まないことに注目すべきである。より好ましくは本発明に従って用いる防食プライマーは、クロム及びクロム含有物質を完全に含まず、換言すれば、わずか微量及び不純のクロム及びクロム含有物質を含む。
【0081】
本発明に従って用いる防食プライマーの固形物含有量は、個々のケースの要求に応じて異なってもよい。固形物含有量は、主に使用に必要な粘度により導かれるので、当業者が各自の通常の技術常識に基づいて、任意で数回の範囲を求める試験により調整されるであろう。
【0082】
防食プライマーの固形物は、好ましくは20質量%〜90質量%、より好ましくは30質量%〜80質量%、最も好ましくは40質量%〜60質量%である。
【0083】
本発明に従って用いる防食プライマーは、被膜材料の製造に慣行且つ既知の混合ユニット及び混合方法を用いて製造されてもよい。
【0084】
本発明の方法において、本発明に従って用いる防食プライマーは、直接に金属基板に施される(塗布される)。直接に施されるとは、防食プライマーが施される前に、有機高分子のマトリクス又は化成被膜材料を形成できる他の被膜材料が施されないことをいう。よって、防食プライマーは、最初に施される被膜材料である。
【0085】
本発明に従って用いる防食プライマーの使用は、自動車工業及び航空機工業において通常の膜厚(湿膜層の厚さ)で、例えば、5〜400μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは15〜100μmの範囲で行う。例えば、スプレー塗装、ナイフ塗装、塗布(塗工)、流込、浸漬、含浸、かん液又はロール塗工などの既知の技術を用いて行われる。スプレー塗装又はナイフ塗装が好ましい。
【0086】
本発明に従って用いる防食プライマーが既に施された後、ポリマーフィルムがそれから形成される。施された防食プライマーが既知の技術によって硬化される。本発明において好ましくは物理的硬化系及び熱的硬化系であるので、好ましくは物理的硬化又は熱的硬化である。特に好ましくは外部架橋2C系の熱的硬化である。
【0087】
物理的硬化は、好ましく5〜160℃、より好ましくは10〜100℃、非常に好ましくは20〜60℃で行う。この場合、必要な期間は、用いる被膜系及び硬化温度に強く依存される。物理的に硬化可能の防食プライマーの中で、記載された温度で2時間内に重ね塗り可能なタックフリー被膜を製造するものが好ましい。
【0088】
熱的硬化は、好ましく10〜200℃、より好ましくは10〜100℃、非常に好ましくは10〜50℃で行う。これらの好適でかなり低い硬化温度は、低い硬化温度が好ましい二成分系、より好ましくはエポキシ樹脂/ポリアミン系に、必要と知られることの結果である。熱的硬化の期間は、特定のケースに応じて大きく異なってもよく、例えば5分〜5日の間であり、より好ましくは1時間〜2日の間である。
【0089】
個別のケース及び用いる結合剤/架橋剤系による前述の硬化は、例えば、室温(約15〜25℃)で1〜60分のフラッシュで、及び/又は例えば30〜80℃の微熱温度で1〜60分の乾燥で行ってもよい。本発明におけるフラッシュ及び乾燥は、被膜材料を乾燥したが、硬化又は完全に架橋したフィルムが未だに形成されないように、有機溶剤又は水の蒸発を意味する。
【0090】
そして、硬化が、同様に本発明によって提供される本発明の被膜された金属基板を製造する。
【0091】
防食材料が既に硬化された後、さらに、高分子のマトリクスをベースとする被膜層を形成できる通常のかつ公知の被膜材料は、通常のかつ公知の技術によって施されてもよい。各個別の被膜に関連する膜厚(湿膜層の厚さ)は、通常範囲の内にあり、例えば5〜400μmの間であり、より好ましくは20〜200μmの間である。従って、通常のかつ公知の技術に従って、被膜の硬化後に施される。個別の被膜は、毎回別々の被膜を完全硬化しなくてこれらを連続的に施すことによっても製造され、その後最後に、合同の硬化工程(ウエットオンウエット法)でこれらを硬化してもよい。勿論、各ケースにおいて別々の被膜を完全に硬化することも可能である。
【0092】
本発明の方法は、多層(多重)被覆被膜を形成するために、好適に少なくとも1種の他の被膜材料の使用及び硬化を含む。
【0093】
自動車工業において公知のように、他の被膜は、通常の表面被膜、ベースコート及びクリヤコートでもよい。従って、多層被覆被膜が、少なくとも1種の表面被膜、ベースコート及びクリヤコートも含む防食被膜も、又は記載された被膜で構成される防食被膜をも製造することは好ましい。航空機工業において、これらは、例えば(二成分)ポリウレタン系をベースとして、典型的な単一被覆のトップコート仕上げを構成してもよい。従って、本発明の同様に好ましい変型において、多層被覆被膜が、トップコートも含む防食被膜も、又はこの2つの被膜で構成される防食被膜も、製造される。
【0094】
勿論、任意の他の被膜材料も、防食材料の完全硬化の前に施されてもよい。つまり、防食材料が他の被膜材料の使用(ウエットオンウエット法)の前に単にフラッシュ及び/又は乾燥されることを意味する。
【0095】
想定される金属基板は、最終的に例えば金属工業(例えば、機械工学、機械設備、自動車工業(車両製造)、航空機及び航空宇宙工業、造船工業、電気工業、精密機械工業)に使用される全ての金属基板を含む。アルミニウム、より好ましくはアルミニウム銅合金のようなアルミニウム合金、非常に好ましくはAA2024−T3合金、並びに非合金鋼及び合金鋼を使用することが好適である。
【0096】
以下、実施例を参照して本発明を説明する。
【実施例】
【0097】
A)LDHの作製
亜鉛−アルミニウム及び/又はマグネシウム/アルミニウムをベースとする異なるLDHを、直接共沈法によって作製した。本発明に従って用いるLDHを、L−フェニルアラニン(Zn
2+/Al
3+の金属陽イオン組み合わせ)及びL−システイン(Mg
2+/Al
3+の金属陽イオン組み合わせ)を用いて得た。対照用に、高い効率で毒性の強い腐食防止剤として知られるクロム酸塩陰イオンを含むLDHを製造した。
【0098】
L−フェニルアラニンを含むLDH
3モルのNaOH溶液でpH8に調整された0.39モルのL−フェニルアラニン水溶液を、一定のメータ速度(計量添加速度)で室温窒素雰囲気でZnCl
2・6H
2O(0.52モル)及びAlCl
3・6H
2O (0.26モル)の水性混合物と、3時間以上連続撹拌しながら混合し、添加された陽イオンの量を、1.5:1のL−フェニルアラニンと三価Alとのモル比となるように選択した。pHを、3モルのNaOH溶液の添加により8に一定に維持した。金属塩の水性混合物を添加した後、室温で3時間、生成された懸濁液を撹拌し、且つエイジングした。生成された沈殿物を遠心分離し、且つ脱イオン水で4回洗浄した。生成された白い反応生成物のスラリーを、減圧下で30℃で24時間乾燥し、LDHを白い粉末として得た。
【0099】
L−システインを含むLDH
3モルのNaOH溶液でpH10に調整された0.52モルのL−システイン水溶液を、一定のメーター速度で室温で窒素雰囲気でMgCl
2・6H
2O(0.52モル)及びAlCl
3・6H
2O (0.26モル)の水性混合物と、3時間以上連続撹拌しながら混合し、添加された陽イオンの量を、2:1のL−システインと三価Alとのモル比となるように選択した。pHを、3モルのNaOH溶液の添加により10に一定に維持した。金属塩の水性混合物を添加した後、室温で3時間、生成された懸濁液を撹拌し、且つ老化した。生成された沈殿物を遠心分離し、且つ脱イオン水で4回洗浄した。生成された白い反応生成物のスラリーを、減圧下で30℃で24時間乾燥し、LDHを白い粉末として得た。LDH(一価L−システイン陰イオン:Mg
2Al(OH)
6(L−システイン)によって、100%の電荷補償度の理論的な最大値の場合の理論的な実験式)が41%の電荷補償度(計算中一価陰イオンと見なされるシステイン陰イオンで、ICP−OESによる定量要素分析によって測られた)を有した。
【0100】
クロム酸塩を含むLDH
0.52モルのクロム酸ナトリウム(Na
2CrO
4)の水性アルカリ溶液(pH = 9.6)を、一定のメーター速度で室温窒素雰囲気でMgCl
2・6H
2O(0.52モル)及びAlCl
3・6H
2O (0.26モル)の水性混合物と3時間以上連続撹拌しながら混合し、添加された陽イオンの量を、2:1のクロム酸塩と三価Alとのモル比となるように選択した。pHを、3モルのNaOH溶液の添加により10に一定に維持した。金属塩の水性混合物を添加した後、室温で3時間、生成された懸濁液を撹拌し、且つエイジングした。生成された沈殿物を遠心分離し、且つ脱イオン水で4回洗浄した。生成された白い反応生成物のスラリーを、減圧下で30℃で24時間乾燥し、LDHを白い粉末として得た。
【0101】
B)防食プライマーの製造
本発明の1つのLDH相(Zn
2Al(OH)
6(L−フェニルアラニン)及びMg
2Al(OH)
6(L−システイン)、並びに対照用LDH(Zn
2Al(OH)
6(1/2・CrO
4))をそれぞれ含む防食プライマーを製造した。いずれの場合にも、LDH部分は、本発明の防食プライマー総量に基づき4.7質量%(該腐食防止プライマーの固形物に基づいて、10質量%に対応する)とし、かつ、それを被膜材料を製造する前にプライマー成分(表1に参照)に組み込んだ。D2)で述べるように、耐腐食性を判定するために同様に参照被膜材料を製造した。該参照被膜材料において、LDHを使用しなかった。防食プライマーはエポキシ樹脂/ポリアミン基(2C)被膜材料であった。防食プライマーの構成物質、並びにそのポリマー成分の含有量及び架橋成分の含有量は表1及び表2に記載した。基板に施される直前に、成分は3:1(ポリマー成分:架橋成分)の比率で混合した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
C)被覆された基板の製造
AA2024−T3合金(アルミニウム銅合金)で製造された基板パネルを、作製された防食プライマーを用いて被覆した。
【0105】
このために、該基板パネルを、予めイソプロパノールを用いて洗浄し、60℃で乾燥炉で乾燥した。次に、パネルを、4モルのNaOH溶液に浸漬によって3分間食刻し、その後水で洗浄した。この後に、パネルを、水/硝酸(70%強度)の混合物(2:1、(v/v))に2分間浸漬し、さらに水ですすぎ、且つ最後に60℃乾燥炉で乾燥した。
【0106】
(Zn
2Al(OH)
6(L−フェニルアラニン)、Mg
2Al(OH)
6(L−システイン)及び対照用LDH(Zn
2Al(OH)
6(1/2・CrO
4)を含む防食プライマーは、作製された基板パネルに、いずれの場合にも50μmのワイヤードクターを用いて塗布され、その後、被覆されたパネルを25℃で24時間乾燥した。その後、従来の二成分ポリウレタンのトップコート材料は175μmのワイヤードクターを用いて塗布され、その後に25℃で24時間硬化した。このようにして、製造された被覆金属基板を25℃で7日間保存し、且つD2)に記載されたように続いて調べた。
【0107】
D)耐腐食性テスト
D1)直流分極測定
α−アミノ酸の陰イオンの腐食抑制効率又は耐腐食性のテストは直流分極測定(DC分極)によって行った。公知のように、腐食過程の原理は、材料(一般的には金属表面)と、その環境との間の、金属酸化と、それによる金属陽イオンの固体材料からの出願(言い換えれば、腐食電流)を伴う電気化学反応である。DC分極測定は電気化学測定技術であり、該技術自体は公知で、例えばProgress in Organic Coatings,61 (2008) 283−290に記載されている。該方法は、電位の変化に対して持続的な走査速度で、系の電流応答を測定する。そして、腐食電流は得られる測定データから算出される。
【0108】
腐食抑制効率(I.E.)が下記式に基づいて測定された。
【0109】
I.E. (%) = ((i
0 - i
inh) / (i
0)) ・ 100%
【0110】
式中、パラメーターは参照サンプル(i
0、基板、電解質)若しくは各抑制剤含有サンプル(i
inh、基板、L−フェニルアラニン/L−システイン/K
2CrO
4を含む電解質)の腐食電流又は腐食電流密度(例えば、単位が1平方センチメートル当たりのアンペアである)に関する。従って、パラメーターI.E.(%)を、いずれの場合にも参照系の耐腐食性に対して修正した。図は、参照サンプルに関する耐腐食性又は腐食抑制性への改善を示す。
【0111】
腐食電流密度が低くなるほど、基板が腐食からより有効的に保護される。言い換えれば、低いi
inh値及び対応する良い腐食抑制効率で、パラメーターI.E.は高い値を取る。参照サンプル(定義上、i
0が必ず=i
inh)に対して、パラメーターI.E.は定義上0%を取る。
【0112】
測定はBioLogicのVSP多重チャンネルのポテンシオスタット/ガルバノスタットを用いて、同様にBioLogicからの対応するユーザーソフトウェアEC Lab V9.95を用いて、行われた。測定に使用された電解質溶液は0.5 MのNaCl溶液であった。全ての測定が25℃で行われた。(陰イオンの)抑制剤の含有量は0.5 Mの塩化ナトリウム溶液(容積30 ml;60.4 mgのL−システイン、60.3 mgのL−フェニルアラニン、100.4 mgのK
2CrO
4)において2000 ppmで、対応する濃度が0.017 MのL−システイン、0.012 MのL−フェニルアラニン及び0.017 Mのクロム酸塩であった。金属基板の金属以外に用いた電極は、甘汞電極(参照電極とする)であった。電解質に曝される表面積は19.6 cm
2(被覆された表面に接着接合するPVCチューブの対応する内径=電解質溶液の容器)であった。
【0113】
表3は調べた系(組成物)に対して、対応する測定結果を示す。
【0114】
【表3】
【0115】
データは、本発明の方法に用いたα−アミノ酸の有機陰イオンの腐食抑制効率が既知で毒性の強い六価クロム酸塩と同程度であることを証明する。金属基板は、毒性の強い抑制剤に頼る必要がなく、優れた腐食防止効果を有していた。
【0116】
D2)電気化学インピーダンス分光法(EIS)
EISは、例えば電解質溶液で覆われた表面被膜のような、異なる系のさまざまな電気化学特性を分析する(先と同様に既知)方法である。分析される系は、低振幅で周波数が連続的に変化する正弦波交流電圧に曝され、その後交流抵抗(インピーダンス量)だけではなく、付与交流電圧と、系の合成交流電流との間の相シフトも周波数の関数として測定される。評価のために、測られた周波数スペクトルは理論上の等価回路図とマッチされる。該等価回路図は、オーム性抵抗器、容量抵抗器及び誘導性抵抗器又はいわゆる「定位相」要素のような異なるインピーダンス要素の直列回路及び/又は並列回路からなる。測られたスペクトルと等価回路図(理論上のスペクトル)から得られる理論上の数学関数との間に適切な合致がある場合、実際の測定系に存在する要素は等価回路図の(理論上の)インピーダンス要素に当たる。
【0117】
室温で1 MHzから50 mHzまでの周波数範囲で、10進数当たり10回測定の密度で、ソフトウェアZedScopes Version 40を備えるMaterial Mates Italia 7260 - AMEL 7200周波数応答分析機(FRA)によって、インピーダンススペクトルを記録した。ここでは、無電流測定セットアップ(無電流測定装置、開回路電圧の条件)を振幅20 mVの正弦波交流電圧を用いて中断(妨害)した。2電極のセットアップを使用し、該セットアップにおいてD1)に記載されたような被覆されたアルミニウム基板を作用電極として使用し、且つ白金線を対向電極として使用した。測定にも用いる電解質溶液は0.005 MのNaCl溶液であった。全ての測定は25℃で行われた。
【0118】
傷を付けた(引っかき傷)被膜を調べた。このために、被覆された基板パネル(C)を参照)を測定の直前に刃物で傷を付けた(2mmの切り幅)。先ず長さ2cmの2本の平行な傷を付け、次いで最初の2本と交差する平行な2本の傷をつけた。従って、電解質に曝された金属表面は約1.6 +/− 0.2 cm
2である。同様に傷を付けた参照被膜、言い換えれば該参照被膜がB)に記載された二成分被膜材料から製造されたLDHを含まない被膜を測定した。
【0119】
インピーダンススペクトルはZView(登録商標)のソフトウェアのバージョン2.9cを用いて分析した。測定される系は、電解質、被膜及び基板上酸化不動態層(
図1−等価回路図)について、容量性抵抗(容量抵抗、他の抵抗も定位相要素も)と直列に接続されるオーム抵抗の等価回路図により、(周波数に依存しない)オーム抵抗R
eが電解質溶液示し、(周波数に依存する)容量性抵抗R
cがポリマー被膜(低い誘電率で被覆する)を示すことで、適切に示されることができることがわかった。
【0120】
表4は、1 MHzの周波数で、傷形成後に異なる時点で測定した、交差する傷を有する被膜の個々の容量性抵抗R
cを示す。
図2は、キャパシタンスの時間座標図の形で、先と同様に表4に示す結果も、他の時点で測定された他の結果も表示した。個々の容量性抵抗が高いほど、金属表面の保護がより強い。従って、容量性抵抗が高いほど、腐食防止がより良い。結果は、クロメート化LDHを含む被膜と比べると、本発明に従って製造された被膜が同等な又はさらにより高い容量性抵抗を有することを示した。参照被膜(LDHを使用せずに被覆する)と比べると、著しくより強い容量性抵抗が達された。参照被膜の場合特に時間と共にキャパシタンスの著しい減少が明らかであった。従って、本発明の系は優れた腐食防止を付与することがわかった。
【0121】
【表4】
【0122】
図3は、表4で特定した、交差した傷を有する被膜の写真を表示する。先と同様に、クロム酸塩含有系と比べると、本発明に従って製造された系が同等な又はさらによりよい腐食防止を示すことが明らかであった。よって、本発明の系は同等な又はさらにより少ない腐食損害部の基板を有する。参照系(LDHを使用せずに被覆する)は最も劣る結果を明らかに示した。
【0123】
概して、本発明によって製造された本発明の被膜は、優れた耐腐食性を示すことが明らかであり、該優れた耐腐食性はクロム酸塩含有系と同等又はさらによりよい耐腐食性である。同時に、有毒物質を使用する必要がない。