(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0014】
本発明は、BET比表面積が20〜80m
2/g、かつCTAB比表面積が10〜45m
2/gであり、(CTAB比表面積/BET比表面積)が0.3〜0.8であるシリカに係る。当該シリカは、歯牙研磨用として特に有用である。なお、当該シリカは、前記BET比表面積及びCTAB比表面積の条件を満たす限り、どのような製法で製造したシリカでもよく、例えば沈降シリカ、ゲル法シリカ、溶融シリカ等を挙げることができる。通常、前記BET比表面積及びCTAB比表面積の条件を満たすシリカは、沈降法によって得られうるので、沈降シリカが好適である。
【0015】
本発明のシリカのBET比表面積は、上述の通り20〜80m
2/gであり、好ましくは20〜75m
2/g、より好ましくは25〜70m
2/g、さらに好ましくは25〜65m
2/g、よりさらに好ましくは45〜65m
2/gである。
【0016】
BET比表面積は、JIS Z8830(気体吸着による粉体の比表面積測定法)に準じN
2吸着1点法により測定する。N
2分子(断面積0.16nm
2)の吸着量により比表面積を算
出するので、比較的小さな細孔の内部まで表面積の測定が可能である。このため、通常、BET比表面積が大きいシリカは、一次粒子が小さいシリカであると解釈することができる。
【0017】
本発明のシリカのCTAB比表面積は、上述の通り10〜45m
2/gであり、好ましくは15〜40m
2/g、より好ましくは20〜35m
2/gである。
【0018】
CTAB比表面積は、JIS K6430(ゴム用配合材 シリカ試験法:2008年)に準じ測定する。具体的には、CTAB比表面積の測定は、CTAB溶液中でシリカ表面にCTABを吸着させ、吸着せず溶液中に残ったCTAB量をAerosol OT(
スルホこはく酸ジ―2−エチルヘキシルナトリウム)溶液で滴定し定量することにより、シリカへ吸着したCTAB量を算出し、さらに、CTAB1分子あたりの吸着断面積を0.35nm
2として、シリカの比表面積を算出する。なお、CTABとは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド(Cetyl Tri-methyl Ammonium Bromide)の略である。
【0019】
CTAB比表面積は、CTAB分子(断面積約0.35nm
2)の吸着量を基に算出される比表面積であるため、気体であるN
2分子(断面積約0.16nm
2)の吸着量を基に算出されるBET比表面積に比べると、比較的小さな細孔の表面積を反映していないといえる。
【0020】
また、通常、CTAB比表面積が小さく、BET比表面積の大きなシリカは、比較的大きな細孔が少ないシリカであると解釈することができ、よって、緻密な凝集構造を持つ比較的硬いシリカであると考えることができる。
【0021】
本発明のシリカは、BET比表面積に対するCTAB比表面積の割合、すなわち(CTAB比表面積/BET比表面積)は、上述の通り0.3〜0.8あり、好ましくは0.35〜0.75であり、より好ましくは0.4〜0.7であり、さらに好ましくは0.4〜0.65である。
【0022】
本発明のシリカは、JIS K5101(顔料試験方法)吸油量測定法により測定した
アマニ油吸油量が、好ましくは100〜150(ml/100g)程度であり、より好ましくは100〜140(ml/100g)程度である。
【0023】
本発明のシリカは、コールターカウンター法による粒度分布測定において、平均粒子径が好ましくは8〜12μm程度であり、より好ましくは8.5〜11μm程度である。
【0024】
本発明のシリカは、水銀圧入法により測定した際、細孔容積が好ましくは1.4〜1.7(ml/g)程度であり、より好ましくは1.45〜1.65(ml/g)程度である。また、水銀圧入法により測定した際、平均細孔径が好ましくは2000〜3000Å程度である。
【0025】
また、本発明のシリカのpHは、7以下が好ましく、6.5以下がより好ましく、3〜6.5がさらに好ましい。本明細書において、シリカのpHとは、蒸留水50mLにシリカ2gを加えて十分にかき混ぜた後、ガラス電極pHメーターで測定したときの値をいう。シリカ表面のシラノール基の多くがSi−OHの形態であればシリカのpHは比較的低くなり、逆にシリカ表面のシラノール基にSi−Naの形態のものがあればシリカのpHは高くなる。
【0026】
限定的な解釈を望むものではないが、pHがアルカリ性のシリカではシラノール基にSi−Naの形態のものがある場合、このNaが遊離することでSi−O
−となるので、例えば、塩化セチルピリジニウムのような正に電荷し得る物質を吸着しやすくなるものと考えられる。
【0027】
なお、下述するように、本発明は、特定のオルガノシリコン第四級アンモニウム塩が固定化されたシリカを包含するところ、当該固定化シリカのpHは、当該固定化シリカ2gを蒸留水50mLに加えて十分にかき混ぜた後、ガラス電極pHメーターで測定したときの値をいう。
【0028】
本発明のシリカの製造方法は、特に制限されず、例えば一般的な沈殿法シリカの反応処方を用いて製造することができる。より具体的には、例えば、アルカリ珪酸塩水溶液(市販の珪酸ソーダ水溶液を用い得る)を鉱酸で中和して沈殿法シリカを析出させる方法に準じて調製することができる。例えば、まず、所定濃度の珪酸ソーダ水溶液を所定量反応容器に仕込み、これに鉱酸を添加する(片側添加反応)、あるいは予め一定量の温水を張り、これにpH及び温度を制御しながら珪酸ソーダおよび鉱酸を一定時間添加する(同時添加方式)方法等が採用出来る。つぎに、上記方法によって得られた沈殿シリカスラリーを
、ケーキ洗浄が可能な濾過機(例えば、フィルタープレス、ベルトフィルター等)により濾別、洗浄して副生電解質を除去する。
【0029】
なお、中和反応終了時点での反応液のpHを調整することにより、又は、当該洗浄の程度を変化させることにより、得られるシリカのpHの値を変化させることができる。
【0030】
洗浄により副生電解質を除去した後、さらに、得られたシリカケーキを、公知の乾燥機により乾燥する。一般的には、このシリカケーキをスラリー化し噴霧乾燥機により乾燥するが、ケーキのまま加熱オーブン等により静置乾燥をしてもよく、乾燥方法は特に限定はされない。なお、シリカスラリーを噴霧乾燥する場合には、シリカスラリーへ、苛性ソーダ等のアルカリ溶液または硫酸等の酸性溶液を加える事によっても、得られるシリカのpH値を調整することができる。
【0031】
乾燥されたシリカは、続いて粉砕機により所定の平均粒子径とされ、必要に応じさらに分級機によって粗粒のカットを行うことにより、沈殿法シリカ(沈降シリカ)の調製を行うことができる。この粉砕・分級操作は、平均粒子径調整・粗粒のカットを目的としており、粉砕方式(例えば、気流式粉砕機、衝撃式粉砕機等)は特に限定されるものではない。また、分級機においても同様に分級方式(例えば、風力式、篩い式等)は、特に限定されない。
【0032】
製造方法の好適な一態様を次に記載する。撹拌機および加熱用ジャケットの付いた250L(リットル)の反応槽に、水60Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2 160g
/L、SiO
2/Na
2Oモル比3.3)2.1Lを加え、95℃に加熱する。この溶液の温度を95℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を890mL/分、硫酸(18mol/L)を35mL/分の流量で同時に滴下する。流量を調整しながら反応溶液中のNa
2O濃度を0.015〜0.35mol/Lの範囲に維持しながら中和反応を行い、反応を停止する。ひき続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加して沈殿法シリカスラリーを得、当該スラリーをフィルタープレスで濾過、水洗を行って湿潤ケーキを得る。次いで当該湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し沈殿法シリカ粉末を得る。必要に応じて、当該沈殿法シリカ粉末を衝撃式粉砕機および風力式分級機にて粒子径を調整する。以上のようにして、本発明のシリカの好適な一態様を製造することができる。
【0033】
なお、上述のようにしてシリカを製造する場合、用いるケイ酸ナトリウム水溶液の濃度や量(ひいては反応液へのケイ酸ナトリウム水溶液の添加量や速度、反応溶液中のNa
2O濃度)を変化させることにより、得られるシリカのBET比表面積値やCTAB比表面積値を変化させることができる。よって、例えば、上記の具体的な製造条件において、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度や量、反応溶液中のNa
2O濃度等を若干変化させることにより、BET比表面積値やCTAB比表面積値を調整して、本発明のシリカを製造することができる。
【0034】
また、本発明は、上記シリカに特定のオルガノシリコン第四級アンモニウム塩を固定してなるオルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカを包含する。当該固定化シリカは歯牙研磨剤として用い得る。よって、本発明は、当該固定化シリカからなる歯牙研磨剤も包含する。
【0035】
当該特定のオルガノシリコン第四級アンモニウム塩は、下記式(I):
R
13N
+−R
2−SiR
3nX
3−n・Y
− (I)
で示される公知の化合物である。当該オルガノシリコン第四級アンモニウム塩は、通常、アルコール溶液として市販されている。
【0036】
式(I)中、Xは加水分解可能な基(加水分解基)であり、具体的にはハロゲン原子、アルコキシ基、アシル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、塩素原子又はフッ素原子が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜6(1、2、3、4、5又は6)のアルコキシ基が好ましく、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が例示できる。アシル基としては、炭素数1〜6(1、2、3、4、5又は6)のアシル基が好ましく、具体的にはメタノイル基、エタノイル基、プロパノイル基、ブタノイル基等が例示できる。Yは塩素または臭素である。R
1はそれぞれ独立して炭素数1〜22の1価の脂肪族炭化水素基
であり、炭素数1〜22のアルキル基が好ましく、炭素数8〜22のアルキル基がより好ましく、炭素数12〜20のアルキル基がさらに好ましい。また、直鎖のアルキル基であることが好ましい。
【0037】
なかでも、3つのR
1のうちの2つが独立して炭素数1〜4のアルキル基(好ましくは
直鎖アルキル基)で他の1つが炭素数8〜22のアルキル基(好ましくは直鎖アルキル基)であることが好ましく、3つのR
1のうちの2つが独立してメチル基又はエチル基で他
の1つが炭素数8〜22の直鎖アルキル基であることが特に好ましい。R
2は2価の炭化
水素基であり、特に炭素数2、3又は4のアルキレン基あるいは−CH
2CH
2CH
2NH
CH
2CH
2−であることが好ましい。R
3は炭素数1、2、3又は4のアルキル基、フェ
ニル基あるいはCF
3CH
2CH
2基である。nは0、1または2を表し、好ましくは0で
ある。なお、nが1のとき、2つのXはそれぞれ独立しており、またnが2のとき、2つのR
3はそれぞれ独立している。
【0038】
式(I)のオルガノシリコン第四級アンモニウム塩のうち、本発明においては、特に次式(II)で表されるものが好ましい。
【0040】
式(II)中では、R
1は炭素数8〜22のアルキル基を示し、好ましくは炭素数8〜22の直鎖アルキル基を示し、より好ましくは炭素数12〜20の直鎖アルキル基を示す。
【0041】
これらのオルガノシリコン第四級アンモニウム塩は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
なお、本発明の歯牙研磨剤は、上記シリカに上記式(I)で示されるオルガノシリコン第四級アンモニウム塩を固定してなるもの(すなわち、上記シリカに上記式(I)で示されるオルガノシリコン第四級アンモニウム塩を固定化してなるシリカ)であり、当該固定は、シリカ表面の水酸基と式(I)中の加水分解可能な基(加水分解基)であるXとを反応させて、当該シリカと当該オルガノシリコン第四級アンモニウム塩を結合させることで行い得る。このような固定化は、公知の方法により容易に行うことが出来る。例えば、オルガノシリコン第四級アンモニウムの溶液を浸漬または噴霧によってシリカに適用し、ついで、これを乾燥または加熱することにより固定できる。好ましくは、シリカをオルガノシリコン第四級アンモニウムの水性または有機溶媒溶液で被覆する。このような溶液は相当する加水分解可能シランを水または有機溶媒、例えば、メタノール、エタノールまたは
ヘキサンに添加することによって容易に調製される。処理溶液中のオルガノシリコン第四級アンモニウムの濃度は例えば0.25〜10重量%程度とすればよい。処理表面を乾燥
または加熱すると、オルガノシリコン第四級アンモニウム被膜がシリカの表面に固定化される。また、この処理済シリカをさらに65〜100℃で数分間加熱することで、オルガノシリコン第四級アンモニウム被膜が該シリカの表面により強固に固定化され得る。なお、
図1は、R
1が炭素数18の直鎖アルキル基である式(II)で表されるオルガノシリコン第四級アンモニウムがシリカに固定化されてなる固定化シリカの模式図に相当する。
【0043】
本発明のシリカ及び歯牙研磨剤は、口腔用組成物に好適に用いることができる。本発明は、上記のシリカ、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカ、又は歯牙研磨剤を含有する口腔用組成物も包含する。本発明の口腔用組成物における当該シリカ、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカ、又は歯牙研磨剤の含有量は、本願発明の効果が奏される限り特に制限されず、例えばシリカ換算で組成物全量に対して0.1〜
50重量%程度が例示できる。
【0044】
また、本発明の口腔用組成物は公知の方法により製造することができ、種々の剤形とすることができる。例えば、粉歯磨、練り歯磨、液状歯磨、液体歯磨、軟膏剤、パスタ剤、リニメント剤、クリーム、洗口剤などの剤形とすることができる。
【0045】
また例えば、所望の用途に応じて、本発明の口腔用組成物には、他の研磨剤、香味剤、粘稠剤、甘味剤、粘結剤、発泡剤および他の薬効成分など、他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。例えば、粘稠剤として、ソルビット、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエ
チレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチットなどを、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。配合量は、通常、組成物全量に対して1〜70重量%である。また、香味剤として、メントールカルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルビネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、ワニリン、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油などを、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%程度の割合で配合することができる。また、甘味剤として、サッカリンナトリウム、スクラロース、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p−メトキシシンナミックアルデヒドなどを、組成物全量に対して0.01〜1重量%、好
ましくは0.05〜0.5重量%の割合で配合することができる。また、粘結剤として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウムなどのセルロース誘導体、キサンタンガム、ジェランガムなどの微生物産生高分子、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、カラギーナン、デキストリン、寒天、アルギン酸ナトリウムなどの天然高分子または天然ゴム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成高分子、増粘性シリカ、ビーガムなどの無機粘結剤、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースなどのカチオン性粘結剤を単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%程度の割合で配合することができる。また、発泡剤として、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸石鹸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシアルキルエーテルス
ルホコハク酸塩などのアニオン界面活性剤、モノアルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などのカチオン界面活性剤、糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー、レシチンなどのノニオン界面活性剤、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインなどの両性界面活性剤を、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して0.01〜10重量%、好ま
しくは0.1〜5重量%程度の割合で配合することができる。
【0046】
さらに、本発明の口腔用組成物には、薬効成分として、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン塩類、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン性殺菌剤、トリクロサン、チモールなどの非イオン性殺菌剤、ドデシルジアミノエチルグリシンなどの両性殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)などの酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウムなどのアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫などのフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルリチン塩類、グリチルレチン酸、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、水溶性無機リン酸化合物などを、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0047】
本発明の歯牙研磨剤(オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカ)は、優れた歯牙研磨力を奏するのみならず、口腔用組成物の薬効成分(殺菌剤)として頻用される塩化セチルピリジニウム(CPC)に対して、優れた相容性を示す。すなわち、本発明の歯牙研磨剤は、塩化セチルピリジニウムに対する吸着性が低い。このため、本発明の歯牙研磨剤及び塩化セチルピリジニウムを口腔に対して併用した場合、塩化セチルピリジニウムが歯牙研磨剤にあまり吸着されず、よって効率的に塩化セチルピリジニウムが口腔内に適用される。
【0048】
従って、本発明の口腔用組成物には、本発明の歯牙研磨剤および塩化セチルピリジニウムが含有されることが、特に好ましい。
【0049】
またさらに、本発明の歯牙研磨剤が奏する塩化セチルピリジニウムに対する優れた相容性は、当該歯牙研磨剤のpHにも依存している。すなわち、当該塩化セチルピリジニウムに対する相容性は、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカのpHが6.5以下では非常に優れるものの、pHが6.5より大きい場合(特にpH7以上の場合)には、それほど優れた相容性は得られない。
【0050】
従って、本発明の口腔用組成物の中でも、本発明の歯牙研磨剤及び塩化セチルピリジニウムを含有し、かつ当該歯牙研磨剤のpHが6.5以下(特にpH3〜6.5)の口腔用組成物が好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0052】
シリカの製造
[製造例1]
撹拌機および加熱用ジャケットの付いた250L(リットル)の反応槽に、水72Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2 160g/L、SiO
2/Na
2Oモル比3.3)5
.3Lを加え、95℃に加熱した。得られた溶液のNa
2O濃度は0.05mol/Lであった。この溶液の温度を95℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を790mL/分、硫酸(18mol/L)を30mL/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら反応溶液中のNa
2O濃度を0.04〜0.06mol/Lの範囲に維持しながら中和反応を行い、150分で反応を停止した。ひき続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加して沈殿法シリカスラリーを得、当該スラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄を行って湿潤ケーキを得た。次いで当該湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し沈殿法シリカ粉末を得た。次いで、当該沈殿法シリカ粉末を衝撃式粉砕機および風力式分級機にて粒子径を調整し、シリカ粉末(製造例1)を得た。
【0053】
[製造例2]
撹拌機および加熱用ジャケットの付いた250L(リットル)の反応槽に、水79Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2 160g/L、SiO
2/Na
2Oモル比3.3)1
.7Lを加え、95℃に加熱した。得られた溶液のNa
2O濃度は0.015mol/Lであった。この溶液の温度を95℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を790mL/分、硫酸(18mol/L)を30mL/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら反応溶液中のNa
2O濃度を0.005〜0.025mol/Lの範囲に維持しながら中和反応を行い、150分で反応を停止した。ひき続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加して沈殿法シリカスラリーを得、当該スラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄を行って湿潤ケーキを得た。次いで当該湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し沈殿法シリカ粉末を得た。次いで、当該沈殿法シリカ粉末を衝撃式粉砕機および風力式分級機にて粒子径を調整し、シリカ粉末(製造例2)を得た。
【0054】
[製造例3]
撹拌機および加熱用ジャケットの付いた250L(リットル)の反応槽に、水81Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2 160g/L、SiO
2/Na
2Oモル比3.3)0
.6Lを加え、95℃に加熱した。得られた溶液のNa
2O濃度は0.005mol/Lであった。この溶液の温度を95℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を790mL/分、硫酸(18mol/L)を30mL/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら反応溶液中のNa
2O濃度を0.01mol/L以下の範囲に維持しながら中和反応を行い、150分で反応を停止した。ひき続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加して沈殿法シリカスラリーを得、当該スラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄を行って湿潤ケーキを得た。次いで当該湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し沈殿法シリカ粉末を得た。次いで、当該沈殿法シリカ粉末を衝撃式粉砕機および風力式分級機にて粒子径を調整し、シリカ粉末(製造例3)を得た。
【0055】
[製造例4]
撹拌機および加熱用ジャケットの付いた250L(リットル)の反応槽に、水60Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2 160g/L、SiO
2/Na
2Oモル比3.3)2
.1Lを加え、95℃に加熱した。得られた溶液のNa
2O濃度は0.025mol/Lであった。この溶液の温度を95℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を890mL/分、硫酸(18mol/L)を35mL/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら反応溶液中のNa
2O濃度を0.015〜0.035mol/Lの範囲に維持しながら中和反応を行い、150分で反応を停止した。ひき続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加して沈殿法シリカスラリーを得、当該スラリーを
フィルタープレスで濾過、洗浄を行って湿潤ケーキを得た。次いで当該湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し沈殿法シリカ粉末を得た。次いで、当該沈殿法シリカ粉末を衝撃式粉砕機および風力式分級機にて粒子径を調整し、シリカ粉末(製造例4)を得た。
【0056】
[製造例5]
撹拌機および加熱用ジャケットの付いた250L(リットル)の反応槽に、水61Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2 160g/L、SiO
2/Na
2Oモル比3.3)1
.3Lを加え、95℃に加熱した。得られた溶液のNa
2O濃度は0.015mol/Lであった。この溶液の温度を95℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を890mL/分、硫酸(18mol/L)を35mL/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら反応溶液中のNa
2O濃度を0.005〜0.025mol/Lの範囲に維持しながら中和反応を行い、150分で反応を停止した。ひき続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加して沈殿法シリカスラリーを得、当該スラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄を行って湿潤ケーキを得た。次いで当該湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し沈殿法シリカ粉末を得た。次いで、当該沈殿法シリカ粉末を衝撃式粉砕機および風力式分級機にて粒子径を調整し、シリカ粉末(製造例5)を得た。
【0057】
[製造例6]
撹拌機および加熱用ジャケットの付いた250L(リットル)の反応槽に、水73Lとケイ酸ナトリウム水溶液(SiO
2 160g/L、SiO
2/Na
2Oモル比3.3)0
.5Lを加え、85℃に加熱した。得られた溶液のNa
2O濃度は0.005mol/Lであった。この溶液の温度を85℃に維持しながら、上記と同様のケイ酸ナトリウム水溶液を1015mL/分、硫酸(18mol/L)を40mL/分の流量で同時に滴下した。流量を調整しながら反応溶液中のNa
2O濃度を0.01mol/L以下の範囲に維持しながら中和反応を行い、120分で反応を停止した。ひき続いて、上記と同様の硫酸を溶液のpHが3になるまで添加して沈殿法シリカスラリーを得、当該スラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄を行って湿潤ケーキを得た。次いで当該湿潤ケーキを乳化装置を用いてスラリーとして、噴霧式乾燥機で乾燥し沈殿法シリカ粉末を得た。次いで、当該沈殿法シリカ粉末を衝撃式粉砕機および風力式分級機にて粒子径を調整し、シリカ粉末(製造例6)を得た。
【0058】
各シリカの物性値測定
製造例1〜6の物性値を、以下のようにして測定した。なお、練歯磨きの研磨剤を用途の一つとして市販されているシリカ(以下「シリカA」とする)についても、同様に物性値を測定した。
【0059】
[BET比表面積]
JIS Z8830(気体吸着吸着による粉体の比表面積測定法)に従って、N
2吸着1点法によりBET比表面積を測定した。
【0060】
[CTAB比表面積]
JIS K6430(ゴム用配合材 シリカ試験法:2008年)に準じ測定した。具体的には、CTAB溶液中でシリカ表面にCTABを吸着させ、吸着せず溶液中に残ったCTAB量をAerosol OT(スルホこはく酸ジ―2−エチルヘキシルナトリウム
)溶液で滴定し定量することにより、シリカへ吸着したCTAB量を算出し、さらに、CTAB1分子あたりの吸着断面積を0.35nm
2として、シリカの比表面積を算出することで、CTAB比表面積を求めた。
【0061】
[平均粒子径]
コールターカウンター法により各製造例の平均粒子径を求めた。具体的には、次のようにして求めた。
【0062】
50mLトールビーカーに電解液(ISOTON−2;ベックマン・コールター(株)社製)を約30mL入れ、各製造例をスパーテルで少量入れ、超音波分散器で40秒間分散させた。 コールターマルチサイザー(ベックマン・コールター(株)社製)により、70μアパチャーチューブを用いて粒度分布を測定し、平均粒子径(μm)を求めた。
【0063】
[アマニ吸油量]
JIS K5101(顔料試験方法)吸油量測定法により、各製造例のアマニ油吸油量
を測定した。具体的には、次のようにして測定した。
【0064】
各製造例(試料)2gをガラス板(約250×250×5mm)にとり、アマニ油をビューレットから少量ずつ試料の中央に滴下し、その都度全体を鋼ベラ(パレットナイフ)で充分練り合わせた。滴下及び練り合わせ操作を繰り返し、全体が初めてかたいパテ状のひとつのかたまりとなったときを終点とし、それまでに使用したアマニ油の量を求め、次式により吸油量(mL/100g)を算出した。
【0065】
吸油量(mL/100g)=(アマニ油の量(mL)/試料重量(g))×100
【0066】
[細孔容積及び平均細孔径]
水銀圧入法に基づき、水銀ポロシメーター(PASCAL 440;Thermo Fisher Scientific Inc.)を用いて、0.1〜380Mpaまで圧力を上昇させ、各製造例のシリ
カの細孔分布および容積を測定し、細孔容積及び平均細孔径を求めた。
【0067】
以上の測定結果を、表1に示す。表1において、製造例5が本発明の実施例であり、その他は比較例である。
【0068】
【表1】
【0069】
各シリカの研磨力の検討
牛歯象牙質を、各製造例のシリカのスラリーでブラッシングし、表面粗さ計にて平均深さを測定した。平均深さが深いほど研磨力が強いものとした。
【0070】
平均深さの具体的な測定方法は次の通りである。まず、各製造例のシリカ4gと希釈溶液56gを混合し、シリカスラリーを調製した。(用いた希釈溶液は、濃グリセリン9.5%、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.5%、水90%である。)次に、得られた各シリカスラリーをハブラシ(ガムデンタルブラシ#211〔かたさ:ふつう〕)にのせ、速さ:150rpm、荷重:160g、1500往復、の条件で牛歯象牙質をブラッシングした。そして、表面粗さ計(東京精密製 サーフコム1400)を用い、測定長
さ:4mm、カットオフ値:0.80mm、縦倍数:2000倍、速度:0.30mm/
sの条件下で、ブラッシング後の牛歯象牙質について平均深さ(HAV値)を測定した。この平均深さを研磨力の指標とした。
【0071】
図2に、シリカAの研磨力を100とした場合の各製造例のシリカの研磨力の相対値を示す。
図2から、製造例5のシリカが、非常に優れた研磨力を有することがわかった。
【0072】
なお、
図2に記載される各シリカのpHは、シリカAは8.0、製造例1は7.1、製造例2は6.9、製造例3は7.4、製造例4は6.9、製造例5は7.0、製造例6は7.6であった。当該pHは、蒸留水50mLにシリカ2gを加えて十分にかき混ぜた後、ガラス電極pHメーターで測定したときの値である。
【0073】
シリカへのオルガノシリコン第四級アンモニウム塩の固定
シリカA、製造例2及び製造例5のシリカについて、下記式で示されるオルガノシリコン第四級アンモニウム塩を固定した。これがシリカへ固定化された模式図を
図1に示す。なお、別の市販シリカであるNipsil E75(東ソー・シリカ株式会社製)についても、同様の処理を行った。Nipsil E75に下記式で示されるオルガノシリコン第四級アンモニウム塩を固定したものを、以下「Nipsil DSS」と表記する。
【0074】
【化3】
【0075】
また、Nipsil E75について上記のようにしてBET比表面積及びCTAB比表面積を計測したところ、BET比表面積は約53m
2/g、CTAB比表面積は約44m
2/gであった。また、上記のようにして研磨力を検討したところ、シリカAの研磨力を100とした場合のNipsil E75の研磨力は6であった。
【0076】
オルガノシリコン第四級アンモニウム塩のシリカへの固定は、シリカ製造時においてシリカスラリーを得た段階で、当該シリカスラリーとオルガノシリコン第四級アンモニウム塩とを混合し、約1時間撹拌した後に乾燥させることで行った。また、用いるシリカスラリーのpHを調整することにより、得られるオルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカのpHを調整した。当該固定化シリカのpHは、蒸留水50mLに固定化シリカ2gを加えて十分にかき混ぜた後、ガラス電極pHメーターで測定したときの値である。
【0077】
オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカとCPCとの相容性の検討
上述のようにして得られた、各シリカ又は各オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカと、塩化セチルピリジニウム(CPC)との相容性を検討した。具体的には、各シリカ又は各オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカ2g及びCPC0.004gを水28mLに加え、撹拌して測定サンプルを調製し、これを遠心した後、上澄み中のCPC量を測定した。なお、当該CPC量の測定は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって行った。
【0078】
Nipsil DSS(pH6.4)を用いた際の上澄み中のCPC量を100としたときの相対値を求めた結果を、
図3に示す。なお、Nipsil DSS(pH6.4)のBET比表面積は約49m
2/g、CTAB比表面積は約42m
2/gであった。また、上記のようにして研磨力を検討したところ、シリカAの研磨力を100とした場合のN
ipsil DSSの研磨力は6であった。
【0079】
図3のシリカ名の下に記載したpHは、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカのpHを示す。なお、図及び下記においては、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカを、単に固定化シリカA、固定化製造例3、固定化製造例5などと表記することがある。
【0080】
また、pHの異なる各固定化製造例5についても同様の検討を行い、結果を
図4にまとめた。なお、当該結果も、Nipsil DSS(pH6.4)を用いた際の上澄み中のCPC量を100としたときの相対値を示す。
【0081】
さらにまた、各シリカ又は各オルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカについて、CPC相容性を検討した結果をまとめて
図5に示す。
図5も、Nipsil DSS(pH6.4)を用いた際の上澄み中のCPC量を100としたときの相対値を示す。なお、
図5に示す各シリカ又は固定化シリカのpHは、シリカAは8.0、固定化シリカAは8.1、製造例2は6.9、固定化製造例2は6.6、製造例5は7.0、固定化製造例5は6.4、Nipsil E75は6.9、Nipsil DSSは6.4である。
【0082】
上澄み中のCPC量が多いほど、シリカ又はオルガノシリコン第四級アンモニウム塩固定化シリカにはCPCが吸着しにくいことを示しており、従ってCPCとの相容性が良好であることを示す。よって、
図2〜
図5から、固定化製造例5は、優れた研磨力のみならず優れたCPC相容性をも示すこと、及びpHが6.5以下の時にCPC相容性が特に優れること、がわかった。また、
図5からは、オルガノシリコン第四級アンモニウム塩を固定化することにより、CPC相容性が優れるシリカとほとんど変化しないシリカがあり、特に製造例5はオルガノシリコン第四級アンモニウム塩を固定化することで優れたCPC相容性を示すシリカであることもわかった。