特許第6461912号(P6461912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ピルキントン グループ リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6461912
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】熱処理可能な被覆ガラス板
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/36 20060101AFI20190121BHJP
   B32B 17/06 20060101ALI20190121BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20190121BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20190121BHJP
   C23C 14/06 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   C03C17/36
   B32B17/06
   B32B9/00 A
   B32B15/04 B
   !C23C14/06 N
【請求項の数】18
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-507047(P2016-507047)
(86)(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公表番号】特表2016-520506(P2016-520506A)
(43)【公表日】2016年7月14日
(86)【国際出願番号】GB2014051028
(87)【国際公開番号】WO2014167293
(87)【国際公開日】20141016
【審査請求日】2017年3月31日
(31)【優先権主張番号】1306611.3
(32)【優先日】2013年4月11日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100195556
【弁理士】
【氏名又は名称】柿沼 公二
(72)【発明者】
【氏名】ジョン アンドリュー リディアルフ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン バケット
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ウィリアム オールドフィールド
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ シェリダン
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2004−522677(JP,A)
【文献】 特表2011−504450(JP,A)
【文献】 特開2006−278878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 − 43/00
C03C 15/00 − 23/00
C23C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも次の層、すなわち、
ガラス基板と、
FeSi、FeSi(式中、nは1以上であるが2未満または2より大きいが9以下の任意の整数または端数である)、及び/もしくはFeSi(式中、mは1〜9の任意の整数または端数である)、ならびに/またはそれらの窒化物のうちの1つ以上に基づく少なくとも1つの吸収層と、
を備える、
被覆ガラス板。
【請求項2】
前記少なくとも1つの吸収層は、Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の少なくとも1つの層と接する、請求項に記載の前記被覆ガラス板。
【請求項3】
前記少なくとも1つの吸収層は、Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の2つの層間に埋め込まれ、かつそれらと接する、請求項に記載の前記被覆ガラス板。
【請求項4】
前記少なくとも1つの吸収層がFeSi及び/またはそれらの窒化物系である場合、nは、1〜1.95または2.05より大きいが9以下の任意の整数または端数である、請求項1〜3のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項5】
前記少なくとも1つの吸収層がFeSi及び/またはそれらの窒化物系である場合、nは、1〜1.90または2.10より大きいが9以下の任意の整数または端数である、請求項1〜3のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項6】
前記少なくとも1つの吸収層は、Alの窒化物系の少なくとも1つの層と接する、請求項1〜のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項7】
前記少なくとも1つの吸収層は、Alの窒化物系の2つの層間に埋め込まれ、かつそれらと接する、請求項1〜のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項8】
前記板は、銀系の機能層を更に備える、請求項1〜のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項9】
前記板は、
前記ガラス基板と前記銀系の機能層との間に位置する下位反射防止層と、
前記銀系の機能層の上に位置する上位反射防止層と、を更に備える、請求項に記載の前記被覆ガラス板。
【請求項10】
前記板は、1つより多い銀系の機能層を備え、各銀系の機能層は、隣接する銀系の機能層から中央反射防止層により離間される、請求項または請求項に記載の前記被覆ガラス板。
【請求項11】
前記少なくとも1つの吸収層は、前記上位反射防止層にかつ/または、請求項10に従属する場合は、中央反射防止層内に位置する、請求項または請求項10に記載の前記被覆ガラス板。
【請求項12】
前記少なくとも1つの吸収層は、少なくとも1nmはあるが最大でも10nmの厚さを有する、請求項1〜11のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項13】
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の前記層(複数可)は各々独立に、少なくとも5nmはあるが最大でも25nmの厚さを有する、請求項1〜12のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項14】
前記下位反射防止層は、次の層、すなわち、
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはTiの酸化物、ならびに/またはZrの酸化物系の基層と、
属酸化物系の層と、
金属酸化物ならびに/またはSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層と、
Znの酸化物系の最上層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを備え、
前記上位反射防止層は、次の層、すなわち、
NiCrの酸化物系の層と、
Znの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
属酸化物系の層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを備える、請求項に記載の、または請求項10〜13が請求項に直接もしくは間接的に従属する場合には請求項10〜13のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項15】
前記下位反射防止層及び上位反射防止層における金属酸化物系の層が、ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物系である、請求項14に記載の前記被覆ガラス板。
【請求項16】
前記中央反射防止層(複数可)は、次の層、すなわち、
NiCrの酸化物系の層と、
Znの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層と、
属酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを備える、請求項10に記載の、または請求項11〜15が請求項10に直接または間接的に従属する場合には請求項11〜15のいずれかに記載の前記被覆ガラス板。
【請求項17】
前記中央反射防止層における金属酸化物系の層が、ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物系である、請求項16に記載の前記被覆ガラス板。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載の被覆ガラス板を組み込む複層ガラス窓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低放射率(low−e)及び/または太陽光制御被覆を有する熱処理可能な被覆ガラス板に関する。本発明はまた、該板を製造する方法に関する。
【0002】
安全特質を与えるように強化及び/または曲げられた熱処理ガラス板は、多数の適用領域、例えば、建築物または自動車両のガラス窓に必要とされる。ガラス板を熱強化及び/または曲げるために、使用されるガラスの軟化点の近傍またはそれより高い温度での熱処理によってガラス板を加工し、次いで、急冷によりそれらを強化するか、または曲げ手段の助けを借りてそれらを曲げることが必要であることは、既知である。ソーダ石灰シリカ型の標準フロートガラスに適切な温度範囲は通常、約580〜690℃であり、ガラス板は実際の強化及び/または曲げ工程の開始前に、この温度範囲に数分間維持される。
【0003】
以下の説明及び特許請求の範囲での「熱処理」、「熱処理された」、及び「熱処理可能な」とは、前述したような熱曲げ及び/または強化工程、ならびに他の熱工程を指すが、その工程中に被覆ガラス板は、数分の間、例えば、最大約10分間、約580〜690℃の範囲の温度に到達する。被覆ガラス板は、それが目立った損傷もなく熱処理を乗り切る場合、熱処理可能であると見なされるが、この熱処理により生じる典型的な損傷とは、高ヘイズ値、ピンホール、またはスポットである。
【0004】
本発明の発明者らは、低放射率及び/または太陽光制御被覆の熱処理性を特徴付けるときに通常言及されるパラメータである「ヘイズ」が、それが被覆ガラス板の被覆、熱処理、加工、及び/または取り扱い中に生じ得る全ての種類の欠陥を十分には反映しないので、しばしば不十分であることを見出した。既知の熱処理可能な被覆ガラス板のうちの一部は、熱処理中のそれらの光学的特質及び特にそれらの反射色の顕著かつ明らかに目立つ変化を示す。
【0005】
特定の需要を満たすためには、様々な被覆製品を種々の光及び/または伝熱値で製造できることが望ましい。この目的に対処するための一手法では、異なる製品の種類(例えば、低放射率及び太陽光制御、ならびに強化可能及び強化不可能な両方の製品)の各々に対し、共通の多層スタックまたはプラットフォームを使用し、その後、異なる厚さの吸収層をスタックの各々の中に追加することによりスタックの光学的特質を調整している。
【0006】
本発明の文脈で、層が「吸収層」といわれる場合、該層は、太陽エネルギースペクトル内で測定可能な吸収を有することを意味し、その場合、該太陽エネルギースペクトルには、スペクトルの可視部分が含まれるがこれに限定はされない。
【0007】
ある特定の吸収層は、先行技術で既知である。一例として、欧州特許出願第0718250A2号は、銀等の機能金属製層の直上に位置する保護金属製層(例えば、Nb、Ta、Ti、Cr、Ni、NbTa、TaCr、またはNiCr)を有する被覆スタックを記載している。この保護金属製層の厚さは、光透過を調節するように修正され得る。
【0008】
米国特許出願第4816054A号は、単一金属シリサイド機能層を有するガラスの被覆を記載し(請求項1を参照)、FeSi、NiSi、及びNiSiの使用に特定的に言及している。他の鉄シリサイド層、または多層スタック内の金属シリサイド層の具体的な場所については言及がなされていない(これらの例は、全て単一被覆である)。
【0009】
米国特許出願第2005196632A1号は、例えば、Zrシリサイドの、保護層を記載している。Fe及びNiのシリサイドが言及されているが、特定の実施例はない(段落「0031」を参照)。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも次の層、すなわち、
ガラス基板と、
少なくとも1つの金属シリサイド及び/または金属シリサイド窒化物系の少なくとも1つの吸収層と、を備え、少なくとも1つの吸収層は、Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の2つの層間に埋め込まれ、かつそれらと接する、被覆ガラス板、が提供される。
【0011】
本発明は、吸収層を含む多層被覆ガラス板を提供し、板の太陽エネルギー及び/または光透過率等の光学的特質が、吸収層の厚さに従って微調整されることを可能にする。本発明の配置は、比較的薄い吸収層が使用されるときであっても、高い太陽エネルギー及び/または光吸収を可能にする。より厚い吸収層は、カソードターゲットで高電力を使用する(これは高価である)、複数のカソードターゲットを使用する(これは高価で不都合である)、及び/またはライン速度を低減する(これは生産量に悪影響を及ぼす)必要があるため、製造の観点から望ましくない。
【0012】
本発明の板は、熱処理前後に、低ヘイズ及び、好ましくは、比較的中性の透過または反射色を呈する(試験では、4mm厚のサンプルを650℃で5分間加熱した)。実際、光学的特質は、熱処理中に全体的に最小の変化しか受けず、これは当然のことながら製造の観点で有利である。
【0013】
本発明の以下の検討で、反する記載がない限り、パラメータの許容範囲の上限または下限に対する代替値の開示は、該値の一方が他方よりも一層好ましいことの指示と相俟って、該代替物のより好ましい値とあまり好ましくない値との間にある、該パラメータの各中間値が、該あまり好ましくない値よりも、及び該あまり好ましくない値と該中間値との間にある各値よりも、それ自体好ましいことを暗示する記述として、解釈されるべきである。
【0014】
本発明の文脈で、層が特定の材料(単数または複数)「系」と言われる場合、このことは、層が、対応する該材料(単数または複数)で主に構成されることを意味し、これは通常、少なくとも約50at.%の該材料(単数または複数)を含むことを意味する。
【0015】
少なくとも1つの吸収層は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、及び/またはアルミニウムから選択された元素の金属または金属合金のシリサイド及び/またはシリサイド窒化物系の層を備え得る。
【0016】
少なくとも1つの吸収層は、TiSi、TiSi、TiSi、VSi、VSi、VSi、CrSi、CrSi、CrSi、CrSi、MnSi、FeSi(式中、nは1〜9の任意の整数または端数である)、FeSi(式中、mは1〜9の任意の整数または端数である)、CoSi、NiSi、NiSi、NiSi、NiSi、NiCrSi、ZrSi、ZrSi、ZrSi、ZrSi、ZrSi、ZrSi、ZrSi、HfSi、HfSi、NbSi、NbSi、TaSi、TaSi、TaSi、TaSi、MoSi、MoSi、MoSi、WSi、WSi、AlSi、及び/もしくはAlSi、ならびに/またはそれらの窒化物系の層を備え得る。
【0017】
少なくとも1つの吸収層が、FeSi及び/またはその窒化物系である場合、nは、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4の任意の整数または端数である。例えば、少なくとも1つの吸収層は、FeSi系であり得る。
【0018】
少なくとも1つの吸収層が、FeSi及び/またはその窒化物系である場合、mは、例えば3等の、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4の任意の整数または端数である。例えば、少なくとも1つの吸収層は、FeSi系であり得る。
【0019】
少なくとも1つの吸収層は、22〜28の原子番号を有する元素の金属または金属合金のシリサイド及び/またはシリサイド窒化物系の層を備え得る。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、少なくとも次の層、すなわち、
ガラス基板と、
FeSi、FeSi(式中、nは1以上であるが2未満または2より大きいが9以下の任意の整数または端数である)、及び/もしくはFeSi(式中、mは1〜9の任意の整数または端数である)、ならびに/またはそれらの窒化物のうちの1つ以上に基づく少なくとも1つの吸収層と、
を備える、被覆ガラス板、が提供される。
【0021】
本発明の第2の態様は、鉄シリサイド吸収層を含む単一または多層被覆ガラス板を提供し、板の太陽エネルギー及び/または光透過率等の、エネルギー及び/または光学的特質が、吸収層の厚さに従って微調整されることを可能にする。本発明の第2の態様の配置は、比較的薄い吸収層が使用されるときであっても、高い太陽エネルギー及び/または光吸収を可能にする。本発明の第2の態様の板はまた、熱処理の前後で、低ヘイズ及び、好ましくは、比較的中性の透過または反射色を呈する。実際、光学的特質は、熱処理中に全体的に最小の変化しか受けない。
【0022】
本発明の第2の態様では、少なくとも1つの吸収層が、FeSi及び/またはそれらの窒化物系である場合、nは、好ましくは1〜1.95または2.05より大きいが9以下、より好ましくは1〜1.90または2.10より大きいが9以下、より一層好ましくは1〜1.8または2.2より大きいが9以下、より一層好ましくは1〜1.6または2.5より大きいが9以下の、任意の整数または端数である。nは、好ましくは最大でも6、より好ましくは最大でも5、より一層好ましくは最大でも4である。
【0023】
本発明の第2の態様では、少なくとも1つの吸収層がFeSi及び/またはその窒化物系である場合、mは、例えば3等の、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4の任意の整数または端数である。
【0024】
本発明の第2の態様では、少なくとも1つの吸収層は、好ましくはFeSi、FeSi(式中、nは1以上であるが2未満または2より大きいが9以下の任意の整数または端数である)、及び/もしくはFeSi(式中、mは1〜9の任意の整数または端数である)系である。試験では、これらの鉄シリサイドの薄層で被覆された板が、対応する鉄シリサイド窒化物、またはNiSiもしくはNiSiNのはるかにより厚い層で被覆された板に匹敵する、太陽エネルギー及び/または光吸収を呈することが示された。上に詳述したように、より厚い吸収層は、カソードターゲットで高電力を使用する(これは高価である)、複数のカソードターゲットを使用する(これは高価で不都合である)及び/またはライン速度を低減する(これは生産量に悪影響を及ぼす)必要があるため、製造の観点から望ましくない。
【0025】
本発明の第2の態様では、好ましくは、少なくとも1つの吸収層は、FeSi系である。
【0026】
本発明の第2の態様では、好ましくは、少なくとも1つの吸収層は、Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の少なくとも1つの層と接する。より好ましくは、少なくとも1つの吸収層は、Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の2つの層間に埋め込まれ、かつそれらと接する。この配置は、熱処理の前後で、低ヘイズを呈し、最も中性の透過または反射色を達成する可能性を有する点で有利である。
【0027】
以下の任意選択的特徴は、任意の組み合わせ及び任意の数で、本発明の全ての態様に適用可能である。
【0028】
好ましくは、少なくとも1つの吸収層は、Alの窒化物系の少なくとも1つの層と接する。より好ましくは、少なくとも1つの吸収層は、Alの窒化物系の2つの層間に埋め込まれ、かつそれらと接する。
【0029】
好ましくは、板は、銀系の機能層を更に備える。
【0030】
好ましくは、板は、ガラス基板と銀系の機能層との間に位置する下位反射防止層を更に備える。
【0031】
好ましくは、板は、銀系の機能層上に位置する上位反射防止層を更に備える。
【0032】
一部の実施形態では、ガラス板は、1つより多い銀系の機能層を備える。例えば、板は、2つ、3つまたはより多い銀系の機能層を備え得る。板が、1つより多い銀系の機能層を備えるとき、各銀系の機能層は、隣接する銀系の機能層から中央反射防止層により離間され得る。1つより多い銀系の機能層を提供することにより、機能層は、介在する誘電体層(=中央反射防止層)により離間されて、ファブリペロー干渉フィルタを形成し得、それにより、当該技術分野で周知であるように、低放射率及び/または太陽光制御被覆の光学的特質がそれぞれの適用に対して更に最適化され得る。
【0033】
少なくとも1つの吸収層は、下位反射防止層内に位置し得、被覆の上位反射防止層及び/または中央反射防止層が、2つ以上の銀系の機能層を備える。好ましくは、少なくとも1つの吸収層は、上位反射防止層及び/または中央反射防止層内に位置する。これらの場所は、熱処理後に、ヘイズを最小化し、最も中性の色を提供する点で有利である。より好ましくは少なくとも1つの吸収層が、中央反射防止層内に位置する。中央反射防止層は、熱処理後の低ヘイズで中性色である点で最良の場所にある。
【0034】
少なくとも1つの吸収層は、好ましくは少なくとも0.5nm、より好ましくは少なくとも1nm、より一層好ましくは少なくとも2nm、最も好ましくは少なくとも3nmはあるが、好ましくは最大でも12nm、より好ましくは最大でも10nm、より一層好ましくは最大でも9nm、最も好ましくは最大でも8nmの厚さを有し得る。上で詳述したように、より薄い吸収層が、多くの理由から望ましい。
【0035】
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の層(複数可)は各々独立に、好ましくは少なくとも3nm、より好ましくは少なくとも5nm、より一層好ましくは少なくとも6nm、最も好ましくは少なくとも7nmはあるが、好ましくは最大でも30nm、より好ましくは最大でも25nm、より一層好ましくは最大でも21nm、最も好ましくは最大でも19nmの厚さを有し得る。
【0036】
少なくとも1つの銀系の機能層を備える被覆の下位反射防止層は、次の層、すなわち、
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはTiの酸化物、ならびに/またはZrの酸化物系の基層と、
ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
金属酸化物ならびに/またはSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層と、
Znの酸化物系の最上層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを備え得る。
【0037】
好ましくは、下位反射防止層は、少なくとも、ガラス基板から順に、
○ Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/もしくはTiの酸化物、ならびに/もしくはZrの酸化物系の基層と、
○ ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
○ Znの酸化物系の最上層と、
を備える。
【0038】
下位反射防止層は、3層で上述したような順に構成され得る。
【0039】
一部の実施形態では、下位反射防止層は、ガラス基板から順に、
○ Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはTiの酸化物、ならびに/またはZrの酸化物系の基層と、
○ ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
○ 金属酸化物ならびに/またはSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層と、
○ Znの酸化物系の最上層と、
を備える。
【0040】
下位反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはTiの酸化物、ならびに/またはZrの酸化物系の基層は、少なくとも5nm、好ましくは5〜60nm、より好ましくは10〜50nm、より一層好ましくは20〜45nm、最も好ましくは30〜40nmの厚さを有し得る。この基層は、数ある用法の中でもとりわけ、ガラス側拡散障壁として機能する。
【0041】
用語「Siの(酸)窒化物」はSi窒化物(SiN)及びSi酸窒化物(SiO)の両方を包含し、用語「Alの(酸)窒化物」はAl窒化物(AlN)及びAl酸窒化物(AlO)の両方を包含する。Si窒化物、Si酸窒化物、Al窒化物及びAl酸窒化物層は、好ましくは本質的に化学量論的(例えば、Si窒化物=Si、x=1.33)であるが、被覆の熱処理性がそのことにより悪影響を受けない限り、準化学量論的または、場合によっては、超化学量論的であり得る。下位反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の基層の好ましい一組成は、本質的に化学量論的な混合窒化物Si90Al10である。
【0042】
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金の層は、窒素及びアルゴンを含むスパッタリング雰囲中で、Si及び/またはAl系のターゲットからそれぞれ反応的にスパッタリングされ得る。Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の基層の酸素含有量は、スパッタリング雰囲気中の残留酸素または該雰囲気中の追加酸素の制御含有量に起因し得る。Si(酸)窒化物及び/またはAl(酸)窒化物の酸素含有量が、その窒素含有量より際だって低ければ、即ち、層内の原子比率O/Nが1より際だって小さく維持されるならば、概して好ましい。下位反射防止層の基層に対して、Si窒化物及び/またはAl窒化物を、極少酸素含有量で使用するのが、最も好ましい。この特徴は、該層の屈折率が、無酸素Si窒化物及び/またはAl窒化物の層の屈折率から際だっては異ならないことを確実にすることにより制御され得る。
【0043】
下位反射防止層の基層の必須の障壁及び保護特質が失われない限り、混合Si及び/またはAlターゲットを使用し、あるいは、金属または半導体をこの層のSi及び/またはAl成分に追加することは本発明の適用範囲内にある。AlをSiターゲットと混合することは周知で確立されているが、その場合、他の混合ターゲットが排除されることはない。追加成分は、通常は、最大で約10〜15重量%の量で存在し得る。Alは、通常、混合Siターゲットに約10重量%の量で存在する。
【0044】
少なくとも1つの吸収層は、下位反射防止層のSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の基層に埋め込まれ得る。
【0045】
下位反射防止層の基層は、TiO及び/またはZrO系であり得、式中、xは1.5〜2.0である。
【0046】
下位反射防止層のZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、密で熱的に安定な層を提供しかつ、熱処理後のヘイズの低減に寄与することにより、熱処理中の安定性を向上させるように機能する。下位反射防止層のZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、少なくとも0.5nm、好ましくは0.5〜10nm、より好ましくは0.5〜9nm、より一層好ましくは1〜8nm、より一層好ましくは1〜7nm、より一層好ましくは2〜6nm、より一層好ましくは3〜6nm、最も好ましくは3〜5nmの厚さを有し得る。約8nmの厚さ上限が、光干渉条件により好ましく、結果として生じる基層厚さの減少による熱処理性の低下により、これが、反射防止機能層に対する光干渉境界条件を維持するために必要であろう。
【0047】
下位反射防止層のZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の基層上に直接位置するのが好ましい。
【0048】
下位反射防止層のZnとSnの酸化物(略記:ZnSnO)系の層は、好ましくは、約10〜90重量%のZn及び90〜10重量%のSn、より好ましくは約40〜60重量%のZn及び約40〜60重量%のSn、好ましくは約50重量%のZn及びSnの各々、をその総金属含有量を重量%で含む。一部の好ましい実施形態では、下位反射防止層のZnとSnの酸化物系の層は、最大でも18重量%のSn、より好ましくは最大でも15重量%のSn、より一層好ましくは最大でも10重量%のSnを含み得る。ZnとSnの酸化物系の層は、Oの存在下で、混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングにより堆積され得る。
【0049】
金属酸化物ならびに/またはケイ素の(酸)窒化物及び/もしくはアルミニウムの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の分離層は、少なくとも0.5nm、好ましくは0.5〜6nm、より好ましくは0.5〜5nm、より一層好ましくは0.5〜4nm、最も好ましくは0.5〜3nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、熱処理時のヘイズの更なる改善を可能にする。分離層は、堆積工程中及び引き続く熱処理中に保護を提供する。分離層は、その堆積直後に本質的に完全に酸化されるか、または、酸化物層のその後の堆積中に、それが本質的に完全酸化された層に酸化するかのいずれかである。
【0050】
分離層が、ケイ素の(酸)窒化物及び/もしくはアルミニウムの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系のとき、少なくとも1つの吸収層は、分離層に埋め込まれる。
【0051】
分離層は、Oの存在下でのTi系のターゲットの反応性スパッタリングにより、または後で酸化されるTi系の薄層を堆積することにより、例えば、僅かに準化学量論的なチタン酸化物系のセラミックターゲット、例えばTiO1.98ターゲット、からの非反応性スパッタリングを用いて、本質的に化学量論的または僅かに準化学量論的な酸化物として、堆積され得る。本発明の文脈では、「本質的に化学量論的な酸化物」とは、少なくとも95%、最大でも105%化学量論的な酸化物を意味し、「僅かに準化学量論的な酸化物」とは、少なくとも95%、100%未満化学量論的な酸化物を意味する。
【0052】
分離層が金属酸化物系のとき、該分離層は、Ti、NiCr、InSn、Zr、Al及び/またはSiの酸化物系の層を含む。
【0053】
分離層は、その金属酸化物ならびに/またはケイ素の(酸)窒化物及び/もしくはアルミニウムの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金に加えて、次の元素、すなわち、Ti、V、Mn、Co、Cu、Zn、Zr、Hf、Al、Nb、Ni、Cr、Mo、Ta、Siのうちの少なくとも1つのから、または、例えば、ドーパントまたはアロイアントとして使用される、これらの材料のうちの少なくとも1つに基づく合金から選択された、1つ以上の他の化学元素を更に含み得る。
【0054】
Znの酸化物系の最上層は、主に、その後堆積される銀系の機能層のための成長促進層として機能する。Znの酸化物系の最上層は、最大約10重量%(ターゲット金属含有量に関する重量%)の量のAlまたはSn等の金属と、任意選択的に混合される。AlまたはSn等の該金属の通常の含有量は、約2重量%であるが、Alが実際は好ましい。ZnO及び混合Zn酸化物は、成長促進層として極めて有効であることが判っており、その後堆積される銀系の機能層の所与の厚さで低シート抵抗を達成する助けになる。下位反射防止層の最上層を、Oの存在下でZnターゲットから反応的にスパッタリングするか、それを、酸素を含まないかまたは、概して約5体積%以下の、少量のみ含む雰囲気中で、セラミックターゲット、例えば、ZnO:Al系、をスパッタリングすることにより堆積すれば、好ましい。Znの酸化物系の最上層は、少なくとも2nm、好ましくは2〜15nm、より好ましくは4〜12nm、より一層好ましくは5〜10nm、より一層好ましくは5〜9nmの厚さを有し得る。
【0055】
銀系の機能層(複数可)は、低放射率及び/または太陽光制御被覆の分野で一般的であるように、何らの添加剤も無しに、銀を主成分とし得る。しかし、高透光性で低光吸収性の赤外線反射層(複数可)としてその(それらの)機能に必要な銀系の機能層(複数可)の特質がそのことにより実質的に損なわれない限り、ドープ剤、合金添加剤等を追加し、または場合によっては極薄金属または金属化合物層を追加することにより、銀系の機能層(複数可)の特質を修正することは、本発明の適用範囲内にある。
【0056】
銀系の機能層の厚さは、その技術上の目的により支配される。通常の低放射率及び/または太陽光制御被覆目的では、単一銀系の層の好ましい層厚は、5〜20nm、より好ましくは5〜15nm、より一層好ましくは5〜12nm、より一層好ましくは7〜11nm、最も好ましくは8〜10nmである。そのような層厚では、熱処理後の86%を上回る光透過率及び0.05未満の垂直放射率が、単一銀被覆に対して容易に達成され得る。より良好な太陽光制御特質を狙うのであれば、銀系の機能層の厚さを増大させれば十分であり、または数個の離間された機能層が提供されればよい。
【0057】
板が2つの銀系の機能層を備えるとき、ガラス基板から最も遠く位置する銀系の機能層は、好ましくは5〜25nm、より好ましくは10〜21nm、より一層好ましくは13〜19nm、より一層好ましくは14〜18nm、最も好ましくは15〜17nmの厚さを有し得る。
【0058】
板が3つの銀系の機能層を備えるとき、ガラス基板から最も遠く位置する2つの銀系の機能層は各々独立に、好ましくは5〜25nm、より好ましくは10〜21nm、より一層好ましくは13〜19nm、より一層好ましくは14〜18nm、最も好ましくは15〜17nmの厚さを有し得る。
【0059】
好ましくは、下位反射防止層内のZnの酸化物系の最上層は、銀系の機能層と直接接している。
【0060】
中央反射防止層(複数可)は、次の層、すなわち、
Znの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層と、
NiCrの酸化物系の層と、
ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを備え得る。
【0061】
一部の好ましい実施形態では、各銀系の機能層は、隣接する銀系の機能層から中央反射防止層により離間され、
各中央反射防止層は、少なくとも、
Znの酸化物系の障壁層と、
ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
Znの酸化物系の最上層と、
を、中央反射防止層が間に位置する銀系の機能層のうちのガラス基板に最も近く位置する銀系の機能層から順に含む。
【0062】
一部の他の好ましい実施形態では、各銀系の機能層は、隣接する銀系の機能層から中央反射防止層により離間され、
各中央反射防止層は、少なくとも、
NiCrの酸化物系の障壁層と、
Znの酸化物系の障壁層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
Znの酸化物系の最上層と、
を、中央反射防止層が間に位置する銀系の機能層のうちのガラス基板に最も近く位置する銀系の機能層から順に含む。
【0063】
少なくとも1つの吸収層は、中央反射防止層のSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の層に埋め込まれる。
【0064】
NiCrの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも0.3nm、より好ましくは少なくとも0.4nm、より一層好ましくは少なくとも0.5nm、最も好ましくは少なくとも0.6nmはあるが、好ましくは最大でも5nm、より好ましくは最大でも2nm、より一層好ましくは最大でも1nm、最も好ましくは最大でも0.9nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を保持しながら、堆積の更なる容易化、及びヘイズ等の光学的特性の改善を可能にする。
【0065】
中央反射防止層のZnの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層(複数可)は独立に、好ましくは少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nm、より一層好ましくは少なくとも3nm、最も好ましくは少なくとも3.5nmはあるが、好ましくは最大でも10nm、より好ましくは最大でも7nm、より一層好ましくは最大でも5nm、最も好ましくは最大でも4nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を保持しながら、堆積の更なる容易化、及びヘイズ等の光学的特性の改善を可能にする。
【0066】
中央反射防止層のZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層は、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも10nm、より一層好ましくは少なくとも13nm、最も好ましくは少なくとも14nmはあるが、好ましくは最大でも40nm、より好ましくは最大でも30nm、より一層好ましくは最大でも25nm、最も好ましくは最大でも21nmの厚さを有し得る。
【0067】
中央反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも15nm、より一層好ましくは少なくとも25nm、最も好ましくは少なくとも30nmはあるが、好ましくは最大でも60nm、より好ましくは最大でも50nm、より一層好ましくは最大でも45nm、最も好ましくは最大でも40nmの厚さを有し得る。
【0068】
上位反射防止層は、次の層、すなわち、
NiCrの酸化物系の層と、
Znの酸化物及び/またはTiの酸化物系の層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAl(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
のうちの1つ以上の少なくとも1つの組み合わせを備え得る。
【0069】
一部の好ましい実施形態では、上位反射防止層は、少なくとも
Znの酸化物系の障壁層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
を、ガラス基板から最も遠く位置する銀系の機能層から順に備える。
【0070】
一部の他の好ましい実施形態では、上位反射防止層は、少なくとも
NiCrの酸化物系の障壁層と、
Znの酸化物系の障壁層と、
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層と、
ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物等の、金属酸化物系の層と、
を、ガラス基板から最も遠く位置する銀系の機能層から順に備える。
【0071】
少なくとも1つの吸収層は、上位反射防止層のSiの(酸)窒化物及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金系の層に埋め込まれ得る。
【0072】
上位反射防止層のZnの酸化物及び/またはTiの酸化物系の障壁層は、好ましくは少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも2nm、より一層好ましくは少なくとも3nm、最も好ましくは少なくとも3.5nmはあるが、好ましくは最大でも10nm、より好ましくは最大でも7nm、より一層好ましくは最大でも5nm、最も好ましくは最大でも4nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を保持しながら、堆積の更なる容易化、及びヘイズ等の光学的特性の改善を可能にする。
【0073】
障壁層が混合金属酸化物ターゲットからスパッタリングされた混合金属酸化物の層を備える場合には、堆積工程中の銀系の機能層(複数可)の優れた保護及び熱処理中の高い光学的安定性が、達成され得ることを見出した。障壁層がZnの酸化物系であるとき、該酸化物は、ZnO:Al等の混合金属酸化物であり得る。ZnO:Al系の層が、導電性ZnO:Alターゲットからスパッタリングされる場合、良好な結果が特に達成される。ZnO:Alは、完全に酸化されて、または僅かに亜酸化物であるように堆積され得る。好ましくは、ZnO:Al障壁層は、本質的に化学量論的である。金属製または95%未満の化学量論的なZnO;Al障壁層ではなくむしろ本質的に化学量論的なZnO:Al障壁層の使用は、熱処理中の被覆物の高い光学的安定性及び熱処理中の光学的修正を小さく維持する上で効果的な助けになる。加えて、本質的に化学量論的金属酸化物系の障壁層の使用は、機械的堅牢性の点で利点を提供する。
【0074】
障壁層がNiCrの酸化物系であるとき、該層は準化学量論的な酸化物として堆積されて好ましい。このことは、該層が熱処理中に酸素捕捉体/吸収体として作用することを可能にする。
【0075】
銀系の機能層と直接接している障壁層の少なくとも一部分を、酸化物ターゲットの非反応性スパッタリングを用いて堆積して、銀損傷を回避するのが好ましい。
【0076】
好ましくは、障壁層は、非反応性スパッタリングにより堆積される。好ましくは、障壁層は、セラミックターゲットからスパッタリングされる。本発明の文脈で、用語「非反応性スパッタリング」は、本質的に化学量論的な酸化物を提供するための低酸素雰囲気(無酸素または最大で5体積%の酸素)中での酸化物ターゲットのスパッタリングを含む。
【0077】
障壁層がTiO系である場合、xは1.5〜2.0であり得る。
【0078】
上位反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも2nm、より好ましくは少なくとも5nm、より一層好ましくは少なくとも10nm、最も好ましくは少なくとも15nmはあるが、好ましくは最大でも40nm、より好ましくは最大でも35nm、より一層好ましくは最大でも30nm、最も好ましくは最大でも25nmの厚さを有し得る。そのような厚さは、被覆板の機械的堅牢性の点で更なる改善を提供する。Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の該層は、好ましくは障壁層と直接接している。
【0079】
Siの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、一部の場合には上位反射防止層の大部分を構成し得、安定性(熱処理中のより良好な保護)及び拡散障壁特質を提供する。該層は、好ましくは、N含有雰囲気中でのSi、Alまたは混合SiAlターゲット、例えばSi90Al10ターゲット、の反応性スパッタリングにより、Al窒化物及び/またはSi窒化物層として堆積される。Alの(酸)窒化物及び/またはSiの(酸)窒化物系の層の組成は、本質的に化学量論的Si90Al10である。
【0080】
上位反射防止層のZnとSnの酸化物等の、金属酸化物及び/またはSnの酸化物系の層は、好ましくは少なくとも1nm、より好ましくは少なくとも5nm、より一層好ましくは少なくとも7nm、最も好ましくは少なくとも9nmはあるが、好ましくは最大でも20nm、より好ましくは最大でも15nm、より一層好ましくは最大でも13nm、最も好ましくは最大でも11nmの厚さを有する。そのような厚さは、被覆板の機械的堅牢性の点で更なる改善を提供する。該層がZnとSnの酸化物であるとき、好ましくは約10〜90重量%のZn及び90〜10重量%のSn、より好ましくは約40〜60重量%のZn及び約40〜60重量%のSn、好ましくは約50重量%のZn及びSnの各々、をその総金属含有量の重量%で含む。一部の好ましい実施形態では、上位反射防止層のZnとSnの酸化物系の該層は、最大でも18重量%のSn、より好ましくは最大でも15重量%のSn、より一層好ましくは最大でも10重量%のSnを含む。該層は、Oの存在下での混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングにより堆積され得、上位反射防止層の反射防止特質に寄与する。
【0081】
上位反射防止層のSiの(酸)窒化物、及び/もしくはAlの(酸)窒化物ならびに/またはそれらの合金、ならびに/またはAl、Si、Ti、及び/もしくはZrの酸化物系の層は、本明細書に定義付けられるように、更なる誘電体層を何ら介在することなく、上位反射防止層の金属の酸化物系の層と直接接し得る。
【0082】
好ましくは、上位反射防止層の金属酸化物系の層は、ZnとSnの酸化物及び/またはSnの酸化物系の層を備える。
【0083】
上位反射防止層は、20〜60nm、好ましくは25〜50nm、より好ましくは30〜50nm、より一層好ましくは35〜45nmの総厚を有し得る。
【0084】
保護層を、上位反射防止層の最上層(最外層)として堆積させて、機械的及び/または化学堅牢性、例えば、耐ひっかき性、を高めてもよい。該保護層は、Al、Si、Ti、及び/またはZrの酸化物系の層であり得る。
【0085】
熱処理中の光透過率上昇を低減するために、上位、中央及び下位反射防止層の全ての個々の層を、本質的に化学量論的な組成で堆積するのが好ましい。
【0086】
被覆板の光学的特質を更に最適化するために、上位及び/または下位反射防止層は、低放射率及び/または太陽光制御被覆の誘電体層に対して概して既知の、特に、Sn、Ti、Zn、Nb、Ce、Hf、Ta、Zr、Al及び/もしくはSiの酸化物ならびに/またはSi及び/もしくはAlの(酸)窒化物、もしくはそれらの組み合わせのうちの1つ以上から選択された、好適な材料で構成される更なる部分層を含み得る。しかし、そのような更なる部分層を追加するときは、そのことにより本明細書で目標とする熱処理性が損なわれないことが確証されるべきである。
【0087】
任意の更なる部分層は、その特質を修正しかつ/またはその製造を容易にする添加剤、例えば、ドープ剤または反応性スパッタリングガスの反応生成物、を含み得ることが理解される。酸化物系の層の場合、窒素をスパッタリング雰囲気に追加して、酸化物よりはむしろ酸窒化物の形成に至るようにし得る。窒化物系の層の場合、酸素をスパッタリング雰囲気に追加して、窒化物よりはむしろ酸窒化物の形成に至るようにし得る。
【0088】
本発明の板の基本的な層の順序に何らかのそのような更なる部分層を追加するときには、適当な材料、構造及び厚さの選択を行うことによって、例えば、高い熱的安定性を主に目標にした特質がそのことにより顕著に損なわれることがないように、注意を払うべきである。
【0089】
本発明は、被覆に対する特定の生産工程に限定されない。しかし、層のうちの少なくとも1つ、最も好ましくは全ての層、がマグネトロンカソードスパッタリングを、DCモード、パルスモード、中間周波数モードまたは他の任意の好適なモードで適用されれば特に好ましく、それにより金属製または半導体ターゲットが、好適なスパッタリング雰囲気中で反応的にまたは非反応的にスパッタリングされる。スパッタリングされる材料に応じて、平面状または回転管状ターゲットが用いられ得る。
【0090】
被覆工程は、被覆の反射防止層の任意の酸化物(または窒化物)層のいかなる酸素(または窒素)欠損も低く維持されて、熱処理中に光透過率及び被覆ガラス板の色の高い安定性を達成するように、好適な被覆条件を設定することにより行われるのが好ましい。
【0091】
本明細書でいう光透過率値とは、概して、被覆無しで89%の光透過率Tを有する4mm厚標準フロートガラス板を備える被覆ガラス板に関して特定される。
【0092】
本発明による被覆ガラス板の熱安定性は、熱処理された被覆ガラス板が、許容不能なヘイズレベルを呈さないことが反映される。大幅なヘイズ値の増加が、熱処理中に検出された場合、被覆が損傷され始めていることを示しているであろう。
【0093】
本発明の別の態様によれば、本発明に従って被覆ガラス板を組み込む複層ガラス窓が提供される。例えば、複層ガラス窓は、層状ガラスまたは絶縁ガラスであり得る。
【0094】
本発明の一態様に適用可能な任意選択的特徴は、任意の組み合わせ、任意の数で使用され得ることが理解されるであろう。しかも、それらはまた、任意の組み合わせ、任意の数の本発明の他の態様のいずれかと共に使用され得る。このことは、本出願の特許請求の範囲の任意の他の特許請求の範囲に対し従属項として使用されている任意の特許請求の範囲の従属項を含むが、それらに限定されない。
【0095】
読者の留意は、本明細書に関連してそれと同時にまたは先だって提出され、本明細書と共に公開される全ての書類及び文献が対象になり、それらの書類及び文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0096】
本明細書に開示される特徴の全て(添付の任意の特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む)、及び/またはそのように開示される任意の方法または工程の全ては、そのような特徴及び/またはステップの少なくとも一部が相互に排除し合うような組み合わせを除いて、任意の組み合わせに組み合わされ得る。
【0097】
本明細書に開示される各特徴(添付の任意の特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む)は、他に明記されない限り、同一、均等、または類似の目的に機能する代替的特徴により置き換えられ得る。したがって、他に明記されない限り、開示される各特徴は、一連の包括的な均等または類似の特徴のうちの一例に過ぎない。
【0098】
本発明を、図解を与えるが限定的にはならない、以下の特定の実施形態により、更に説明する。
【0099】
全ての実施例に関して、AC及び/またはDCマグネトロンスパッタリングデバイスを用い、適合する場合には中間周波数スパッタリングを適用して、約89%の光透過率を有する4mm厚の標準フロートガラス板(10cm×10cm)上に、被覆を堆積させた。被覆に先立って、ガラスをBenteler(RTM)洗浄機で2回洗浄した。
【0100】
ZnとSnの酸化物(ZnSnO、重量比Zn:Sn≒50:50)の全ての誘電体層は、Ar/Oスパッタ雰囲気中で亜鉛−錫ターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【0101】
下位反射防止層のZnO:Al成長促進最上層は、Ar/Oスパッタ雰囲気中でAlドープZnターゲット(約2重量%のAl含有量)からスパッタリングを行った。
【0102】
全実施例での本質的に純銀(Ag)で構成される機能層は、なんらの酸素も追加しない10−5mbar未満の残留酸素分圧のArスパッタ雰囲中で銀ターゲットからスパッタリングを行った。
【0103】
Alドープ亜鉛酸化物(ZnO::Al、ZAO)の障壁層は、酸素を追加しない純粋Arスパッタ雰囲中で導電性ZnO:Alターゲットからスパッタリングを行った。
【0104】
混合ケイ素アルミニウム窒化物(Si90Al10)の層は、残留酸素のみを含むAr/Nスパッタ雰囲気中で混合Si90Al10ターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
Al窒化物の層は、残留酸素のみを含むAr/Nスパッタ雰囲気中でAlターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【0105】
FeSiの層は、酸素を追加しない純粋Arスパッタ雰囲気中で、FeとSiのターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【0106】
FeSiの層は、残留酸素のみを含むAr/Nスパッタ雰囲気中で、FeとSiのターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【0107】
NiSiの層は、酸素を追加しない純粋Arスパッタ雰囲気中で、NiとSiのターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【0108】
NiSiの層は、残留酸素のみを含むAr/Nスパッタ雰囲気中で、NiとSiのターゲットから反応的にスパッタリングを行った。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【0109】
表1:多数の比較例の被覆ガラス板及び本発明による被覆ガラス板に対するヘイズスコア、光透過率及び反射特質。式中、AD=堆積時、HT=熱処理後、色T=透過時の色、色Rc=板の被覆側から見たときの反射時の色、色Rg=板の非被覆(ガラス)側から見たときの反射時の色、及び%T=光透過率百分率。表1のデータを収集するために使用した技法を以下に示す。表1中、各実施例で、層は、示した第1の層から始まる順にガラス板上に、堆積させた。
【0110】
熱処理性試験
実施例1〜29の被覆の堆積後、T及び色Rgを測定し、サンプルを約650℃で約5分間加熱した。その後、ヘイズ、T、色T、色Rc、及び色Rgを測定した。結果を上の表1に列記する。
【0111】
実施例1〜29での被覆ガラス板の%光透過率%Tに対して記した値は、EN140による測定値から得た。
【0112】
色特性は、確立されたCIE LABa、b座標(例えば、WO2004−063111A1の[0030]及び[0031]を参照)を使用して測定及び報告を行った。
【0113】
それぞれの中性色に対して、色特性の各々が−15≦(aまたはb)≦15であることが概して好ましい。
【0114】
主観可視ヘイズ採点システムを実施例に適用した。以下に説明する品質評価システムは、ASTM D 1003−61に従って測定された標準ヘイズ値によっては完全に反映されない特質である、明るい光条件下での被覆の目視品質を上手く見分けるために必要であることが分かった。
【0115】
評価システムは、被覆が損傷しまたは不完全な場合に局部的な色のばらつきを生じる被覆の可視欠陥のより巨視的効果を考察する(表1のヘイズスコア)。熱処理後の被覆の可視欠陥の巨視的効果(全ての実施例は熱処理前にはヘイズを呈さない)を、サンプルを明るい光下で見ることにより主観的に評価した。評価は、0(完全、無欠陥)から3(多い数のはっきり見える欠陥及び/またはスポット)を介して最高の5(濃いヘイズ、裸眼で見えることが多い)のスコアを用いた完全性採点(格付け)システムに基づいており、熱処理後の被覆ガラスサンプルの目視外観を各付ける。
【0116】
目視評価は、2.5ミリオンカンデラのパワービーム(トーチ)を用いて、これを2つの直交面内(即ち、トーチを先ず水平面内で次いで垂直面内で回転させる)の(直角入射に対して)約−90°〜約+90°間の入射角で、ブラックボックスの前に配置した被覆ガラス板上に向けて行った。ブラックボックスは、数個の被覆ガラスを同時に評価できるように、十分に大きいサイズを有する。観察者から被覆ガラス板を通して光ビームを向けることにより、被覆ガラス板を、観察してそれらの目視品質を上記の説明を記す際に入射角を変えることにより評価した。被覆ガラス板は、それらの被覆が観察者に向くように、ブラックボックスの前に配置した。3以上の任意のスコアを有する熱処理された被覆ガラス板は、試験で不合格であったと見なされる。
【0117】
結果の概要
比較例1及び2は、本発明に要される吸収層を含まないスタックで被覆した板である。したがって、これらの2つの比較例は、他の実施例より大分高い光透過率を呈する。
【0118】
実施例3及び4は、中央反射防止層のAlN層間に埋め込まれたFeSiの層を含むスタックで被覆した板である。高い視光吸収を達成するために、FeSiの薄層だけは必要である。ヘイズは許容可能で、色特性は比較的中性である。
【0119】
実施例5は、中央反射防止層内でAlNと接するFeSiの層を含むスタックで被覆された板である。やはり、高い視光吸収を達成するために、FeSiの薄層だけは必要である。ヘイズは許容可能で、色特性は比較的中性である。
【0120】
実施例6及び8は、それぞれ、中央反射防止層及び上位反射防止層のAlN層間に埋め込まれたFeSiを含むスタックで被覆された板である。FeSiの層の使用で達成されるものに匹敵する可視光吸収を達成するために、より厚いFeSiの層が必要である。
【0121】
実施例7は、上位反射防止層内のAlN層間に埋め込まれたFeSiの層を含むスタックで被覆された板である。やはり、高い視光吸収を達成するために、FeSiの薄層だけは必要である。ヘイズは許容可能で、色特性は概して比較的中性である。
【0122】
比較例9は、中央反射防止層内のAgとZAOの層間に位置するNiSiの層を含むスタックで被覆された板である。この実施例は、許容不能なヘイズを呈している。
【0123】
比較例10は、中央反射防止層内のAlZ及びZAOの層間に位置するNiSiの層を含むスタックで被覆された板である。本実施例も許容不能なヘイズを呈している。
【0124】
実施例11〜16は、中央反射防止層内のAlN層間に埋め込まれたNiSiの層を含むスタックで被覆された板である。実施例11及び12は、異なる厚さのNiSi層を用い、実施例13〜16の各々は、互いに異なる厚さの2つのAlN層間にNiSiの層を埋込んでいる。全てにおいて、ヘイズは許容可能で、色特性は比較的中性である。これらの実施例は、AlN層の厚さは、機能性に決定的ではないことを示す。
【0125】
実施例17及び18は、中央反射防止層内のAlN層間に埋め込まれたNiSiを含むスタックで被覆された板である。実施例18は、互いに異なる厚さの2つのAlN層間にNiSiの層を埋込んでいる。NiSiの層の使用で達成されるものに匹敵する可視光吸収を達成するために、より厚いNiSiの層が必要である。ヘイズは許容可能で、色特性は概して比較的中性である点で許容可能である。
【0126】
比較例19及び20は、上位反射防止層内に位置するNiSiの層を含むスタックで被覆された板である。比較例19では、NiSiの層がAg及びZAOの層間に位置し、比較例20では、NiSiの層がZAOの層間に埋め込まれている。これらの比較例の両方共、許容不能なヘイズを呈している。
【0127】
実施例21〜23は、原子比率を変化させたFe/Siの単一層で被覆された板である。これらの被覆板は、熱処理前の高光吸収、及び優れたヘイズを呈している。これらの被覆板はまた、本質的に中性色を呈し、これらのFe/Si層がそれ自体、多層被覆板の中性色性に悪影響を与えないであろうことを明示する。
【0128】
実施例24〜29は、AlN層間に原子比率を変化させたFe/Siの単一層で被覆された板である。これらの被覆板は、高光吸収、許容可能ヘイズ特性、及び概して本質的に中性色を呈している。
【0129】
実施例3〜20のスタック内の層の厚さは、吸収層の包含に対しては最適化されていないこと、即ち、誘電体層の厚さを変更することにより、より多い中性色値を取得し得ることは注目に値する。
【0130】
本発明は、上述の実施形態の詳細事項に制限されることはない。本発明は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約書、及び図面を含む)に開示された特徴の任意の新規な1つ、または任意の新規な組み合わせ、またはそのように開示された任意の方法または工程のステップの任意の新規な1つ、または任意の新規な組み合わせに及ぶ。