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特許6462011コーティング部材及びコーティング部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462011
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】コーティング部材及びコーティング部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/89 20060101AFI20190121BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20190121BHJP
   C04B 35/80 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C04B41/89 A
   C04B41/87 J
   C04B35/80 600
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-574809(P2016-574809)
(86)(22)【出願日】2016年2月9日
(86)【国際出願番号】JP2016053802
(87)【国際公開番号】WO2016129591
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2017年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-23373(P2015-23373)
(32)【優先日】2015年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】松本 峰明
(72)【発明者】
【氏名】栗村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】西川 紘介
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−028015(JP,A)
【文献】 特開平11−012050(JP,A)
【文献】 特開2007−091504(JP,A)
【文献】 特開2011−046598(JP,A)
【文献】 特開2015−172243(JP,A)
【文献】 F. Monteverde et al., Structural data from X-ray powder diffraction for new high-temperature phases (Y1-xLnx)2Si2O7 with,Journal of the European Ceramic Society,2002年 5月,Volume 22, Issue 5,p. 721-730
【文献】 Q.Y. Zhang et al.,Effects of composition and structure on spectral properties of Eu3+-doped yttrium silicate transpare,Chemical Physics Letters,2002年 4月,Volume 356, Issues 1-2,p.161-167
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/89
C04B 35/80
C04B 41/87
C04B 41/90
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートと、トップコートが順次積層され、
前記トップコートが、希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層を含み、
前記希土類ダイシリケートが、(Y1−aLn1aSi固溶体(LnはNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、aは、LnがNd,Sm,Euの場合0.1以上0.5以下、LnがGdの場合0.2以上0.5以下)であり、
前記希土類モノシリケートが、YSiOまたは(Y1−bLnSiO固溶体(Ln’はNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、bは0より大きく0.5以下)であり、
前記ボンドコートが積層された前記基材の熱膨張係数と前記第1層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下であるコーティング部材。
【請求項2】
Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートと、トップコートが順次積層され、
前記トップコートが、希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層を含み、
前記希土類ダイシリケートが、(Y1−cLn2cSi固溶体(LnはSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、cは、LnがScの場合0.05以上0.5以下、LnがYbまたはLuの場合0.1以上0.5以下)であり、
前記希土類モノシリケートが、YSiOまたは(Y1−dLnSiO固溶体(Ln’はSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、dは0より大きく0.5以下)であり、
前記ボンドコートが積層された前記基材の熱膨張係数と前記第1層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下であるコーティング部材。
【請求項3】
前記トップコートが前記第1層上に第2層を有し、前記第2層が、ReSiO(Reは希土類元素)からなる請求項1または請求項2に記載のコーティング部材。
【請求項4】
前記第1層の熱膨張係数と前記第2層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下である請求項3に記載のコーティング部材。
【請求項5】
Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートが形成される工程と、前記ボンドコート上にトップコートが形成される工程とを含み、
前記トップコートを形成される工程が、
(Y1−aLn1aSi固溶体(LnはNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、aはLnがNd,Sm,Euの場合0.1以上0.5以下、LnがGdの場合0.2以上0.5以下)である希土類ダイシリケートの粉末と、YSiOまたは(Y1−bLnSiO固溶体(Ln’はNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、bは0より大きく0.5以下)である希土類モノシリケートの粉末とが混合されて溶射粒子が作製される工程と、
前記溶射粒子が前記ボンドコートの表面に溶射されて、前記希土類ダイシリケートと前記希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層が形成される工程とを含み、
前記ボンドコートが積層された前記基材の熱膨張係数と前記第1層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下となる比率で、前記希土類ダイシリケートの粉末と前記希土類モノシリケートの粉末とが混合されるコーティング部材の製造方法。
【請求項6】
Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートが形成される工程と、前記ボンドコート上にトップコートが形成される工程とを含み、
前記トップコートを形成される工程が、
(Y1−cLn2cSi固溶体(LnはSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、cはLnがScの場合0.05以上0.5以下、LnがYbまたはLuの場合0.1以上0.5以下)である希土類ダイシリケートの粉末と、YSiOまたは(Y1−dLnSiO固溶体(Ln’はSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、は0より大きく0.5以下)である希土類モノシリケートの粉末とが混合されて溶射粒子が作製される工程と、
前記溶射粒子が前記ボンドコートの表面に溶射されて、前記希土類ダイシリケートと前記希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層が形成される工程とを含み、
前記ボンドコートが積層された前記基材の熱膨張係数と前記第1層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下となる比率で、前記希土類ダイシリケートの粉末と前記希土類モノシリケートの粉末とが混合されるコーティング部材の製造方法。
【請求項7】
前記トップコートを形成する工程が、
ReSiO(Reは希土類元素)からなる粒子が前記第1層の表面に溶射されて、第2層が形成される工程を含む請求項または請求項に記載のコーティング部材の製造方法。
【請求項8】
前記第1層の熱膨張係数と前記第2層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下となる比率で、前記希土類ダイシリケートの粉末と前記希土類モノシリケートの粉末とが混合される請求項7に記載のコーティング部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング部材及び該コーティング部材の製造方法に関し、特に耐環境コーティングが施されたコーティング部材に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC及びSiなどのシリコン基セラミックス、またはSiC繊維強化SiC複合材料(CMC)は、高温での機械的特性が良好であることから、航空機エンジンまたは発電用ガスタービンなどの高温部材として有望な材料である。しかし、例えばガスタービン燃焼環境は水蒸気が存在する高温高圧の水蒸気酸化環境で運転されるため、シリコン基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料が酸化されるとともに水蒸気によって腐食減肉され、耐久性が著しく低下する。
【0003】
そこで、シリコン基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料をガスタービン等に実用化させるために、シリコン基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料の表面に耐環境コーティングが施される。特許文献1は、イットリウムケイ酸塩からなるコーティングを開示する。特許文献2は、LuSiからなるコーティングを開示する。
【0004】
特許文献3は、Lu,Yb,Yといった希土類の一ケイ酸塩(希土類モノシリケート)、二ケイ酸塩(希土類ダイシリケート)またはこれらの組み合わせからなるコーティングを開示する。特許文献3の技術では、基板上に希土類一ケイ酸塩の皮膜を形成した後に酸素を含む環境で加熱処理することにより、部分的に希土類二ケイ酸塩へ変換させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3866002号公報
【特許文献2】特許第4690709号公報
【特許文献3】特開2006−28015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Siは希土類シリケートの中では比較的安価な材料であるので、航空機エンジン及び発電用ガスタービンなどの大型機械用のコーティング材料として有利である。YSiの熱膨張係数は3.7×10−6/Kであり、SiC繊維強化SiC複合材料(3.5×10−6/Kから4.5×10−6/K)に近い。そのため、高温での使用中における熱応力を緩和することが可能である。しかし、YSiは1300℃近傍で体積変化を伴う相変態(γ→β)があるため、高温での使用中にコーティングが破損する恐れがあった。
【0007】
一方、LuSi及びYbSiは1400℃以上の高温までβ相が安定して存在し相変態が起こらない。しかし、これらの希土類元素を含む原料は高価であるので、大面積部材にコーティング施行するには高コストになることが問題であった。
【0008】
特許文献3に記載される方法において、複数の希土類ダイシリケート(LuSi、YbSi、YSi)は単なる異結晶の混合状態となり、希土類元素が均一に分布し同一相として存在する状態(固溶体)とはなっていない。この場合、YSiの相安定性が向上しないという問題点があった。
【0009】
本発明は、高温環境で皮膜の損傷が抑制されて高い信頼性が得られ、かつ、低コストでコーティングを施工できるコーティング部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートと、トップコートが順次積層され、前記トップコートが、希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層を含み、前記希土類ダイシリケートが、(Y1−aLn1aSi固溶体(LnはNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、aは、LnがNd,Sm,Euの場合0.1以上0.5以下、LnがGdの場合0.2以上0.5以下)であり、前記希土類モノシリケートが、YSiOまたは(Y1−bLnSiO固溶体(Ln’はNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、bは0より大きく0.5以下)であるコーティング部材である。
【0011】
本発明の第2の態様は、Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートと、トップコートが順次積層され、前記トップコートが、希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層を含み、前記希土類ダイシリケートが、(Y1−cLn2cSi固溶体(LnはSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、cは、LnがScの場合0.05以上0.5以下、LnがYbまたはLuの場合0.1以上0.5以下)であり、前記希土類モノシリケートが、YSiOまたは(Y1−dLnSiO固溶体(Ln’はSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、dは0より大きく0.5以下)であるコーティング部材である。
【0012】
SiのYの一部を上記の割合でNd,Sm,Eu,Gdで置換することにより、α相の安定領域が広がる。YSiのYの一部を上記の割合でSc,Yb,Luで置換することにより、β相の安定領域が広がる。このため、第1及び第2の態様で規定される組成の希土類ダイシリケートは、1300℃から1400℃程度の高温であっても相変態が起こらない。従って、航空機エンジンまたはガスタービンのコーティングに適用した場合に、相変態に伴う体積変化による皮膜損傷が防止できる。
【0013】
一般に、希土類モノシリケートの方が希土類ダイシリケートよりも熱膨張係数が高い。希土類モノシリケートと希土類ダイシリケートとの混合相の熱膨張係数は、混合比率に依存して変化する。基材とトップコートとの熱膨張係数差が大きいと、トップコート内に歪みが発生してトップコートが損傷する恐れがある。本発明のようにトップコートを希土類モノシリケートと希土類ダイシリケートとの混合相とすることにより、熱応力によるコーティングの損傷を防止できる熱膨張係数に調整することが可能である。
【0014】
第1及び第2の態様において、前記トップコートが前記第1層上に第2層を有し、前記第2層が、ReSiO(Reは希土類元素)からなることが好ましい。
希土類モノシリケートは希土類ダイシリケートに比べてSiOの活量が小さい。このため、希土類モノシリケートは耐水蒸気性に優れる。第2層として希土類モノシリケートの層を形成することにより、トップコートの耐水蒸気性を更に向上させることが可能である。
【0015】
第1及び第2の態様において、前記ボンドコートが積層された前記基材の熱膨張係数と前記第1層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下である。
第1及び第2の態様において、前記第1層の熱膨張係数と前記第2層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下であることが好ましい。
【0016】
基材と第1層との熱膨張係数差が3×10−6/K以下であれば、熱応力を緩和することができ、第1層の損傷を防止することができる。トップコートを2層構成とした場合には、第1層と第2層との熱膨張係数差が3×10−6/K以下であれば、熱応力による第1層及び第2層の損傷を防止することが可能である。
【0017】
本発明の第3の態様は、Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートが形成される工程と、前記ボンドコート上にトップコートが形成される工程とを含み、前記トップコートを形成される工程が、(Y1−aLn1aSi固溶体(LnはNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、aはLnがNd,Sm,Euの場合0.1以上0.5以下、LnがGdの場合0.2以上0.5以下)である希土類ダイシリケートの粉末と、YSiOまたは(Y1−bLnSiO固溶体(Ln’はNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかであり、bは0より大きく0.5以下)である希土類モノシリケートの粉末とが混合されて溶射粒子が作製される工程と、前記溶射粒子が前記ボンドコートの表面に溶射されて、前記希土類ダイシリケートと前記希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層が形成される工程とを含むコーティング部材の製造方法である。
【0018】
本発明の第4の態様は、Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料からなる基材上に、ボンドコートが形成される工程と、前記ボンドコート上にトップコートが形成される工程とを含み、前記トップコートを形成される工程が、(Y1−cLn2cSi固溶体(LnはSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、cはLnがScの場合0.05以上0.5以下、LnがYbまたはLuの場合0.1以上0.5以下)である希土類ダイシリケートの粉末と、YSiOまたは(Y1−dLnSiO固溶体(Ln’はSc,Yb,Luのうちのいずれかであり、は0より大きく0.5以下)である希土類モノシリケートの粉末とが混合されて溶射粒子が作製される工程と、前記溶射粒子が前記ボンドコートの表面に溶射されて、前記希土類ダイシリケートと前記希土類モノシリケートとの混合相からなる第1層が形成される工程とを含むコーティング部材の製造方法である。
【0019】
上述したように、(Y1−aLn1aSi固溶体(Ln:Nd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれか)、または、(Y1−cLn2cSi固溶体(Ln:Sc,Yb,Luのうちのいずれか)で表される希土類ダイシリケートは高温での相安定性に優れる。
本態様では予め固溶体化された希土類ダイシリケート粒子を溶射粒子に用いているので、希土類の分布が均一なトップコートを形成することが可能である。この結果、希土類ダイシリケートの相安定性が向上して皮膜を長寿命化できる。
【0020】
第3及び第4の態様において、前記トップコートを形成する工程が、ReSiO(Reは希土類元素)からなる粒子が前記第1層の表面に溶射されて、第2層が形成される工程を含むことが好ましい。
第2層として希土類モノシリケートの層を形成することにより、耐水蒸気性を更に向上させることが可能である。
【0021】
第3及び第4の態様において、前記ボンドコートが積層された前記基材の熱膨張係数と前記第1層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下となる比率で、前記希土類ダイシリケートの粉末と前記希土類モノシリケートの粉末とが混合される。
【0022】
第3及び第4の態様において、前記第1層の熱膨張係数と前記第2層の熱膨張係数との差が3×10−6/K以下となる比率で、前記希土類ダイシリケートの粉末と前記希土類モノシリケートの粉末とが混合されることが好ましい。
【0023】
希土類モノシリケートと希土類ダイシリケートとの混合相の熱膨張係数は、混合比率に依存して変化する。本態様では、基材と第1層との熱膨張係数差が3×10−6/K以下となるように希土類モノシリケートと希土類ダイシリケートとの混合比率を調整して作製した粒子を用いて第1層を形成するので、第1層の損傷を防止することができる。
トップコートを2層構成とする場合には、第1層と第2層との熱膨張係数差が3×10−6/K以下となるように希土類モノシリケートと希土類ダイシリケートとの混合比率を調整して作製した粒子を用いて第1層を形成すれば、第1層及び第2層の損傷を防止することが可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明により得られるコーティング部材は、1300℃から1400℃程度の高温高圧の水蒸気酸化環境下で使用した場合であっても、トップコートの相変態を伴う体積変化及び水蒸気の侵食による損傷が防止される。トップコートの第1層の熱膨張係数を調整することにより、コーティング部材内に発生する熱応力を抑制して、トップコートの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係るコーティング部材の断面概略図である。
図2】希土類ダイシリケートの温度と結晶構造との関係を説明するグラフである。
図3】YSi溶射皮膜の熱処理による結晶構造の変化を示す図である。
図4】(Y0.8Gd0.2)Si固溶体溶射皮膜の熱処理による結晶構造の変化を示す図である。
図5】(Y0.8Yb0.2)Si固溶体溶射皮膜の熱処理による結晶構造の変化を示す図である。
図6】希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートとの混合割合と熱膨張係数との関係を説明するグラフである。
図7】第2実施形態に係るコーティング部材の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態に係るコーティング部材の断面概略図である。コーティング部材100は、基材101に、ボンドコート102とトップコート103とが順次積層されて構成される。
【0027】
基材101は、航空機エンジンのタービン部材、シュラウド、燃焼ライナなどの発電用のガスタービン部材である。基材101は、Si基セラミックスまたはSiC繊維強化SiC複合材料(CMC)で製造される。Si基セラミックスとは、SiC、SiなどのSiを含むセラミックスである。SiC繊維強化SiC複合材料は、SiC繊維を強化繊維とし、マトリックスとしてSiCを用いた複合材料である。
【0028】
基材101の表面上にボンドコート102が形成される。ボンドコート102は基材101とトップコート103との良好な密着性を確保するものである。ボンドコート102は、Si、MoSi,LuSiなどのシリサイド、ムライト(3Al−2SiO)、バリウムストロンチウムアルミノケイ酸塩(BSAS,(Ba1−xSr)O-Al-SiO)などからなる。ボンドコート102は上記材料のうち1種類で形成されていても良いし、複数の材料を積層して構成されていても良い。ボンドコート102の厚さは20μm以上200μm以下である。
ボンドコート102は、溶射法、焼結法などにより形成される。
【0029】
ボンドコート102上にトップコート103が形成される。本実施形態におけるトップコート103は、希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートとの混合相からなる。トップコート103の厚さは20μm以上400μm以下である。
【0030】
図2は、希土類ダイシリケートの温度と結晶構造との関係を説明するグラフである(グラフの出典は、A.J.F.Carrion et al.,“Structural and kinetic study of phase transitions in LaYSi2O7”,Journal of the European Ceramic Society,Vol.32 (2012) P.2477-2486、結晶構造の境界線は発明者が追記)。図2において、横軸は希土類のイオン半径、縦軸は温度である。
【0031】
3+のイオン半径は0.90Åであり、図2によると1280℃程度でγ相→β相の相転移が発生する。すなわち、コーティング部材の使用環境が1300℃を超える場合には、冷却及び加熱の繰り返しによって体積変化を伴い相変態が起こることになる。このため、YSiOの相変態によってトップコート103に割れが発生する。
【0032】
Yよりもイオン半径が大きい場合には、図2に示すようにα相とγ相との境界がある。図2を参照すると、1300℃におけるα相とγ相との境界線上のイオン半径は0.905Åである。すなわち、希土類のイオン半径が0.905Å以上であれば、希土類ダイシリケートは1300℃まで結晶安定性を確保することができる。1400℃におけるα相とγ相との境界線上のイオン半径は0.91Åである。すなわち、希土類のイオン半径が0.91Å以上であれば、希土類ダイシリケートは1400℃まで結晶安定性を確保することができる。
【0033】
Yよりも平均イオン半径を大きくするためには、Yよりイオン半径が大きい希土類元素で置換する。Yとのイオン半径差が大きいほど希土類元素の平均イオン半径を変動させる効果が高い。このことから、図2においてGdよりもイオン半径が大きい元素を選択することが有利である。一方、Pr,Ce,Laは水蒸気との反応性が高く、皮膜の耐水蒸気性が劣化する。従って、Yの置換元素としてはGd,Eu,Sm,Ndが適切である。
【0034】
表1は、(Y1−aLn1aSi固溶体における置換元素(Gd,Eu,Sm,Nd)の置換量と希土類元素の平均イオン半径である。
【0035】
【表1】
【0036】
表1より平均イオン半径が0.905Å以上になるのは、Nd,Sm,Euの場合aが0.1以上、Gdの場合aが0.2以上である。すなわち、上記aの範囲以上であれば、コーティング部材は1300℃までの運転温度に耐えることができる。
更に、表1より平均イオン半径が0.91Å以上となるのは、Nd,Smの場合aが0.2以上、Eu,Gdの場合aが0.3以上である。すなわち、上記aの範囲以上であれば、コーティング部材は1400℃までの運転温度に耐え得ることができる。
【0037】
一方で、aの値が大きいことは置換元素の量が多くなることから、原料コストを考慮すると高価な元素であるNd,Sm,Eu,Gdを用いることにより施行コストが高くなる。このことからNd,Sm,Eu,Gdの置換量には上限がある。具体的にはaの上限値は0.5であることが好ましい。
【0038】
図2を参照すると、1300℃におけるβ相とγ相との境界線上のイオン半径は0.897Åである。すなわち、希土類のイオン半径が0.897Å以下であれば、希土類ダイシリケートは1300℃まで結晶安定性を確保することができる。1400℃におけるβ相とγ相との境界線上のイオン半径は0.885Åである。すなわち、希土類のイオン半径が0.885Å以下であれば、希土類ダイシリケートは1400℃まで結晶安定性を確保することができる。
【0039】
Yを別の希土類元素で置換した(Y1−cLn2cSi固溶体の場合、置換量に応じて希土類元素(Y,Ln)の平均イオン半径が変化する。Yよりも平均イオン半径を小さくするためには、Yよりイオン半径が小さい希土類元素で置換する。図2によると、Yよりイオン半径が小さい元素はSc,Yb,Lu,Tm,Erである。特にSc,Yb,Luは、イオン半径がYに比べて小さく、高温までダイシリケートのβ相が安定して存在する。
【0040】
表2は、(Y1−cLn2cSi固溶体における置換元素(Sc,Yb,Lu)の置換量と希土類元素の平均イオン半径である。
【0041】
【表2】
【0042】
表2より平均イオン半径が0.897Å以下となるのは、Scの場合cが0.05以上、Yb,Luの場合cが0.1以上である。すなわち、上記cの範囲以上であれば、コーティング部材は1300℃の運転温度に耐えることができる。
更に、表2より平均イオン半径が0.885Å以下となるのは、Scの場合cが0.1以上、Yb,Luの場合はcが0.5以上である。すなわち、上記cの範囲以上であれば、コーティング部材は1400℃以上の運転温度に耐え得ることができる。
【0043】
一方で、cの値が大きいことは置換元素の量が多くなることから、原料コストを考慮すると高価な元素であるSc,Yb,Luを用いることにより施行コストが高くなる。このことからSc,Yb,Luの置換量には上限がある。具体的にはcの上限値は0.5であることが好ましい。
【0044】
本実施形態における希土類モノシリケートは、希土類ダイシリケートが(Y1−aLn1aSiである場合、YSiOまたは(Y1−bLnSiO固溶体(b>0)である。Yの置換元素であるLn’は、上記希土類ダイシリケートの置換基と同じであることが好ましい。具体的に、Ln1’はNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれかである。
希土類モノシリケートとしてYSiO(置換量b=0)を採用することができるが、混合相となったときに共存する希土類ダイシリケート(Y1−aLn1aSiとの相互拡散が起こり希土類元素の濃度変化が起こることを防止するため、置換量bは上記希土類ダイシリケートの置換量aと同じであることがより好ましい。従って、置換量bの上限値は0.5である。置換量bの下限値は、Nd,Sm,Euの場合0.1、Gdの場合0.2であることが好ましい。
【0045】
希土類ダイシリケートが(Y1−cLn2cSiである場合、希土類モノシリケートはYSiOまたは(Y1−dLnSiO固溶体(d>0)である。Yの置換元素であるLn’は、上記希土類ダイシリケートの置換基と同じであることが好ましい。具体的に、Ln’はYb,Lu,Scのうちのいずれかである。
希土類モノシリケートとしてYSiO(置換量d=0)を採用することができるが、混合相となったときに共存する希土類ダイシリケート(Y1−LnSiとの相互拡散による希土類元素濃度変化が起こるのを防止するため、置換量dは上記希土類ダイシリケートの置換量cと同じであることがより好ましい。従って、置換量dの上限値は0.5である。置換量dの下限値は、Scの場合0.05、Yb,Luの場合0.1であることが好ましい。
【0046】
トップコート103は溶射法により形成される。本実施形態では、溶射粒子として希土類ダイシリケートの粉末と希土類モノシリケートの粉末とを混合したものを用いる。
【0047】
溶射粒子は以下の方法により作製される。
まず、上記組成の希土類ダイシリケート固溶体の粒子を作製する。原料粉末として、SiO粉末、Y粉末、[Ln(LnはNd,Sm,Eu,Gdのうちのいずれか)粉末、[Ln(LnはSc,Yb,Luのうちのいずれか)粉末を、所定の組成となるように秤量し、混合する。あるいは、YSi粉末、LnSi(LnはSc,Yb,Luのいずれか、または、Nd,Sm,Eu,Gdのいずれか)粉末を、所定の組成となるように秤量し、混合する。
【0048】
原料粉末には粒径1μm以下の微粉末を使用することにより、熱処理による固溶体化を促進することができる。このため、未反応粒子をなくすとともに熱処理時間を短縮することができる。
【0049】
混合粉末を熱処理し、固溶体化させた粉末を得る。固溶体化させた粉末を作製する方法としては、電気炉を用いて1300℃以上で熱処理する方法、プラズマ加熱処理する方法、原料粉末を溶融した後粉砕する方法がある。
【0050】
SiO、(Y1−bLnSiO(固溶体)及び(Y1−dLnSiO(固溶体)であらわされる希土類モノシリケートも、上記と同様の方法で作製される。
【0051】
上記方法で作製された希土類ダイシリケート粉末及び希土類モノシリケート粉末を、所定の組成比となるように秤量し、造粒する。こうして得られた粒子を分級し、10μmから200μmの粒子を溶射粒子に用いる。
【0052】
上記方法で、YSi、(Y0.8Gd0.2Si固溶体、(Y0.8Yb0.2Si固溶体の溶射粉末を作製した。さらに、それらの粉末を用いて溶射皮膜を作製した。
【0053】
作製した溶射皮膜を1300℃×100h、1400℃×100hで熱処理し、結晶相の変化をX線回折(XRD)により求めた。図3に示すように、YSiの場合、溶射まま(As sprayed)の状態では皮膜は非晶質であり、1300℃×100hの熱処理後はβ−YSi相とX−YSiO相からなる。1400℃×100hの熱処理後は、γ−YSi相とX−YSiO相の2相になり、1300℃以上でβ−YSiからγ−YSiへの相変態がおこることがわかる。
【0054】
一方、Yの一部をGdで置換した(Y0.8Gd0.2Si固溶体溶射皮膜を1300℃×100h、1400℃×100hで熱処理した結果を図4に示すが、1300℃×100hと1400℃×100hで熱処理した場合の回折ピークにほとんど変化がなく、相変態が抑制されていることがわかる。
【0055】
一方、Yの一部をYbで置換した(Y0.8Yb0.2Si固溶体溶射皮膜を1300℃×100h、1400℃×100hで熱処理した結果を図5に示すが、1300℃×100hと1400℃×100hで熱処理した場合の回折ピークにほとんど変化がなく、この場合も相変態が抑制されていることがわかる。
【0056】
希土類ダイシリケート粉末と希土類モノシリケート粉末の混合比率は、トップコートの熱膨張係数を考慮して決定される。積層体である本実施形態のコーティング部材100では、トップコート103とその下地との熱膨張係数の差が大きい場合には、トップコート103内に熱応力が発生する。機器(航空機エンジンまたはガスタービン)の運転と停止とを繰り返すことにより、トップコート103内に発生する熱応力が原因でトップコート103に亀裂などが発生する。
【0057】
トップコート103内の熱応力を緩和するためには、トップコート103の熱膨張係数と、トップコート103の下地であるボンドコート102を含む基材101との熱膨張係数との差(室温から1200℃)が、3×10−6/K以下であることが好ましい。上記熱膨張係数差を達成するように、基材の種類、希土類ダイシリケートの種類、及び、希土類モノシリケートの種類に応じて、希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートの混合比率が決定される。溶射粉末の作製では、この混合比率となるように、原料粉末が秤量・混合される。
【0058】
図6は、希土類ダイシリケートと希土類モノシリケートとの混合割合と熱膨張係数との関係を説明するグラフである。図6は、希土類ダイシリケートとして(Y0.8Yb0.2Si、希土類モノシリケートとしてYSiOを用いた例である。図6において、横軸は固溶体((Y0.8Yb0.2Si+YSiO)中の(Y0.8Yb0.2Siの割合、縦軸は固溶体の熱膨張係数(室温から1200℃)である。
【0059】
希土類モノシリケートの方が希土類ダイシリケートよりも熱膨張係数が大きい。このため、図6に示すように希土類ダイシリケートの混合割合が大きくなるほど熱膨張係数が減少する。ボンドコート(Si)を含むSiC繊維強化SiC複合部材の熱膨張係数は4×10−6/K(室温から1200℃)であるので、希土類ダイシリケートの割合は0.05から0.85の範囲内であれば熱膨張係数差が3×10−6/K以下を達成することができる。
【0060】
このように、熱膨張係数が比較的基材に近い希土類ダイシリケートと、耐水蒸気性に優れる希土類モノシリケートとを混合して固溶体化させることにより、優れた耐水蒸気性、熱サイクル耐久性に優れたトップコート103を得ることができる。予め固溶体とされた溶射粒子を用いてトップコート103を形成することにより、トップコート103内の組成を均一にすることができる。トップコート103内に希土類ダイシリケートが未反応のまま残留することがないため、優れた耐水蒸気性を確保することが可能である。
【0061】
<第2実施形態>
図7は第2実施形態に係るコーティング部材の断面概略図である。第2実施形態のコーティング部材200は、基材201に、ボンドコート202とトップコート203とが順次積層されて構成されており、トップコート203が2層構成である。
【0062】
基材201及びボンドコート202は、第1実施形態と同じ材質である。トップコート203の第1層204は、第1実施形態のトップコート103と同じ材質であり、同じ膜厚である。
【0063】
トップコート203の第2層205は、ReSiOで表される希土類モノシリケートである。Reは、希土類元素の中の1つであっても良いし、複数の希土類元素が選択されても良い。例えば、第2層205は、YSiO,YbSiO,LuSiO、または、(Y,Yb)SiO、(Y,Lu)SiOなどである。原料コストを考慮すると、第2層205は、YSiO、または、Yの一部が他の希土類元素に置換された複合酸化物(Y,Re’)SiO(Re’はY以外の希土類元素)であることが好ましい。置換元素Re’としては、第1層204との相互拡散による希土類元素濃度変化を防ぐとの観点から、Yb,Lu、Sc、Nd,Sm,Eu,Gdの中から選択されることが好ましい。置換元素Re’は、第1層204に含まれる希土類元素と同一であることが特に好ましい。原料コストを考慮すると、Re’の置換量は0.5以下であることが好ましい。
【0064】
第2層205は第1層204と同様に溶射法で形成される。第2層205の厚さは50μm以上300μm以下である。
複数の希土類元素から選択した複合酸化物を第2層205に適用する場合、溶射粒子としては、所定の置換割合となるように原料粉末が秤量され混合されたのち、熱処理により固溶体化された粒子を用いることができる。こうすることにより、第2層205内での組成の均一性が確保される。
【0065】
本実施形態においても、第1層204と下地(ボンドコート202を含む基材201)との熱膨張係数の差(室温から1200℃)は3×10−6/Kであることが好ましい。第1層204と第2層205との熱膨張係数の差(室温から1200℃)は3×10−6/Kであることが好ましい。
第1実施形態で説明したように、各層が上記熱膨張係数差を達成するように、基材201(及びボンドコート202)の材質、第1層204の希土類モノシリケート及び希土類ダイシリケートの種類並びに混合比率、第2層205の材質が選択される。
【0066】
本実施形態のようにトップコート203を2層構成として最表層に耐水蒸気性に優れる希土類モノシリケートの層を形成することにより、高温環境での水蒸気の侵食による損傷を防止することができる。
【実施例】
【0067】
表3及び表4に、基材としてSiC繊維強化SiC複合材料(宇部興産(株)製チラノヘックス、熱膨張係数:4×10−6/K(室温から1200℃))を用いたコーティング部材の例を示す。
更に表3及び表4に、第1層と下地(ボンドコートを含む基材)との熱膨張係数差(室温から1200℃)、及び、第1層と第2層との熱膨張係数差(室温から1200℃)を示す。
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
表3及び表4に示すように、実施例1から8は各層の熱膨張係数差が3×10−6/K以下であるので、トップコート内の熱応力が緩和される。このため、熱膨張係数差が3×10−6/Kを超える比較例1,2に比べて熱サイクル耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0071】
100,200 コーティング部材
101,201 基材
102,202 ボンドコート
103,203 トップコート
204 第1層
205 第2層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7