特許第6462095号(P6462095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6462095適応雑音消去システムの係数の動的バイアスを含む適応雑音消去のためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462095
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】適応雑音消去システムの係数の動的バイアスを含む適応雑音消去のためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20190121BHJP
   H04R 1/10 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   G10K11/178 120
   H04R1/10 101A
   H04R1/10 101Z
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-224090(P2017-224090)
(22)【出願日】2017年11月21日
(62)【分割の表示】特願2016-508932(P2016-508932)の分割
【原出願日】2014年2月20日
(65)【公開番号】特開2018-32046(P2018-32046A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2017年12月13日
(31)【優先権主張番号】61/811,915
(32)【優先日】2013年4月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/950,854
(32)【優先日】2013年7月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504371240
【氏名又は名称】シラス ロジック、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリクス、ジョン、ディー.
(72)【発明者】
【氏名】リ、ニン
(72)【発明者】
【氏名】オルダーソン、ジェフリー、ディー.
【審査官】 堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0308024(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/166388(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/166273(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/166320(WO,A2)
【文献】 国際公開第2012/075343(WO,A2)
【文献】 特表2012−533091(JP,A)
【文献】 特開2007−093962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/178
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リスナーへの再生のためのソース・オーディオ信号と、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオ音の影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含むオーディオ信号を再現するためのトランスデューサと、
前記周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を提供するためのリファレンス・マイクロホンと、
前記トランスデューサの前記音響出力と、前記トランスデューサにおける前記周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を提供するための、前記トランスデューサの近傍に位置するエラー・マイクロホンと
処理回路であって、
前記リスナーに聞こえる前記周囲のオーディオ音の存在を低減させるように、前記リファレンス・マイクロホン信号から前記アンチノイズ信号を生成する応答を有するフィードフォワード・フィルタと、
前記ソース・オーディオ信号の電気的及び音響的経路をモデル化し、前記ソース・オーディオから二次経路推定を生成する応答を有するように構成された二次経路推定適応フィルタと、
再生補正エラーを最小化するように、前記二次経路推定フィルタの前記応答を適応させることによって、前記ソース・オーディオ信号と前記再生補正エラーとに合わせて前記二次経路推定適応フィルタの前記応答を成形する係数制御ブロックであって、前記再生補正エラーが前記エラー・マイクロホン信号と前記二次経路推定との差に基づく、係数制御ブロックと、
前記ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において前記係数制御ブロックの係数をゼロの方にバイアスする係数バイアス制御ブロックと、
を実装する処理回路と、
を備えるパーソナル・オーディオ機器。
【請求項2】
前記周波数範囲が、前記トランスデューサの周波数応答の範囲内で、かつ、前記周囲のオーディオ音の周波数応答の範囲内である、請求項1に記載のパーソナル・オーディオ機器。
【請求項3】
前記トランスデューサがステレオ・オーディオ・ヘッドセットと一体である、請求項1に記載のパーソナル・オーディオ機器。
【請求項4】
前記係数バイアス制御ブロックが、初期係数の組であって、前記係数制御ブロックが前記二次経路推定適応フィルタの前記応答を成形する前の、前記ソース・オーディオ信号の可能性のある周波数応答に対応する最大周波数に帯域制限されている初期係数の組を係数制御ブロックによって適用させる、請求項1に記載のパーソナル・オーディオ機器。
【請求項5】
前記初期係数の組が、前記ソース・オーディオ信号の代わりに適用される帯域制限されたトレーニング信号に基づいて決定される、請求項4に記載のパーソナル・オーディオ機器。
【請求項6】
パーソナル・オーディオ機器のトランスデューサの近傍の周囲のオーディオ音を消去するための方法であって、
前記周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を受信するステップと、
前記トランスデューサの出力と、前記トランスデューサにおける前記周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を受信するステップと、
前記リファレンス・マイクロホン信号をフィルタすることによって、前記トランスデューサの音響出力での周囲のオーディオ音の影響を打ち消すアンチノイズ信号成分を、前記リファレンス・マイクロホン信号から生成するステップと、
ソース・オーディオ信号の電気的及び音響的経路をモデル化するように構成された二次経路推定適応フィルタで前記ソース・オーディオ信号をフィルタし、再生補正エラーを最小化するように、前記二次経路推定適応フィルタの応答を適応させることによって、ソース・オーディオ信号から二次経路推定を適応的に生成するステップであって、前記再生補正エラーが前記エラー・マイクロホン信号と前記二次経路推定との差に基づく、ステップと、
前記ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において前記二次経路推定適応フィルタの前記応答を制御するための係数をゼロの方にバイアスするステップと、
前記トランスデューサに提供されるオーディオ信号を生成するように、前記アンチノイズ信号を前記ソース・オーディオ信号と組み合わせるステップと、
を含む方法。
【請求項7】
前記周波数範囲が、前記トランスデューサの周波数応答の範囲内で、かつ、前記周囲のオーディオ音の周波数応答の範囲内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記トランスデューサがステレオ・オーディオ・ヘッドセットと一体である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
初期係数の組を前記係数として適用するステップであって、前記初期係数の組が、前記二次経路推定適応フィルタの前記応答を成形する前の、前記ソース・オーディオ信号の可能性のある周波数応答に対応する最大周波数に帯域制限されている、ステップをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記初期係数の組が、前記ソース・オーディオ信号の代わりに適用される帯域制限されトレーニング信号に基づいて決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
パーソナル・オーディオ機器の少なくとも一部を実装するための集積回路であって、
リスナーへの再生のためのソース・オーディオ信号と、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオ音の影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含む信号をトランスデューサへ提供するための出力部と、
前記周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を受信するためのリファレンス・マイクロホン入力部と、
前記トランスデューサの前記出力と、前記トランスデューサにおける前記周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を受信するためのエラー・マイクロホン入力部と、
処理回路であって、
前記リスナーに聞こえる前記周囲のオーディオ音の存在を低減させるように、前記リファレンス・マイクロホン信号から前記アンチノイズ信号を生成する応答を有するフィードフォワード・フィルタと、
前記ソース・オーディオ信号の電気的及び音響的経路をモデル化し、前記ソース・オーディオから二次経路推定を生成する応答を有するように構成された二次経路推定適応フィルタと、
再生補正エラーを最小化するように、前記二次経路推定フィルタの前記応答を適応させることによって、前記ソース・オーディオ信号と前記再生補正エラーとに合わせて前記二次経路推定適応フィルタの前記応答を成形する係数制御ブロックであって、前記再生補正エラーが前記エラー・マイクロホン信号と前記二次経路推定との差に基づく、係数制御ブロックと、
前記ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において前記係数制御ブロックの係数をゼロの方にバイアスする係数バイアス制御ブロックと、
を実装する処理回路と、
を備える集積回路。
【請求項12】
前記周波数範囲が、前記トランスデューサの周波数応答の範囲内で、かつ、前記周囲のオーディオ音の周波数応答の範囲内である、請求項11に記載の集積回路。
【請求項13】
前記トランスデューサがステレオ・オーディオ・ヘッドセットと一体である、請求項11に記載の集積回路。
【請求項14】
前記係数バイアス制御ブロックが、初期係数の組であって、前記係数制御ブロックが前記二次経路推定適応フィルタの前記応答を成形する前の、前記ソース・オーディオ信号の可能性のある周波数応答に対応する最大周波数に帯域制限されている初期係数の組を係数制御ブロックによって適用させる、請求項11に記載の集積回路。
【請求項15】
前記初期係数の組が、前記ソース・オーディオ信号の代わりに適用される帯域制限されたトレーニング信号に基づいて決定される、請求項14に記載の集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本開示は、2013年4月15日に出願された米国仮特許出願第61/811,915号に対する優先権を主張する2013年7月25日に出願された米国特許出願第13/950,854号に対する優先権を主張し、これらのそれぞれが参照によりその全体において本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、音響トランスデューサに関連する適応雑音消去、より詳細には、適応雑音消去システムの係数を動的にバイアスすることによる、音響トランスデューサの近傍に存在する周囲雑音の検出と消去に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル/携帯電話などの無線電話、コードレス電話、mp3プレーヤーなどの他の民生用オーディオ機器が、幅広く使用されている。明瞭度に関してのそのような機器の性能は、周囲の音響事象を計測するためにマイクロホンを使用し、次いで、周囲の音響事象を消去するように機器の出力にアンチノイズ信号を挿入するよう信号処理を使用して雑音消去を行うことによって改善することができる。無線電話などのパーソナル・オーディオ機器の周囲の音響環境は、存在する雑音源及び装置自体の位置に応じて劇的に変わる場合があるため、そのような環境の変化を考慮に入れた雑音消去を適応させることが望ましい。
【0004】
適応雑音消去は、ヘッドホンを含むパーソナル・オーディオ機器の多くの要素において使用されることがある。また、リスナーに適応雑音消去を提供するヘッドホンを使用して、様々な場合でヘッドホンへのオーディオ・コンテンツを再生することができる。例えば、通話では、オーディオ・コンテンツは、300Hz〜3.4kHz(両端を含む)の電話音声帯域を占有することがあり、又は高忠実度のオーディオ再生状況では、オーディオ・コンテンツは、一部のオーディオ・トラックに対しては20Hz〜20kHz(両端を含む)の、若しくは一部の圧縮されたオーディオ・コンテンツに対しては100Hz〜8kHzの周波数範囲を占有することがある。適応雑音消去システムは、周囲雑音の帯域幅又はソース・オーディオ信号の帯域幅には無関係にすべての条件下で安定していなければならない。トランスデューサを通るソース・オーディオ信号の電気的及び音響的経路のモデルに依存するいかなる適応システムも、例えば、フィルタードX最小2乗平均フィードフォワード適応システムも、適応における不安定性が回避されるように、含まれている様々な信号の周波数スペクトルを把握していなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0308024号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の教示によると、音響トランスデューサに関連付けられる周囲雑音の検出及び低減に関連付けられる欠点及び問題を低減し又はなくすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施例によると、パーソナル・オーディオ機器は、トランスデューサと、リファレンス・マイクロホンと、エラー・マイクロホンと、処理回路とを含むことができる。トランスデューサは、リスナーへの再生のためのソース・オーディオと、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオ音の影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含むオーディオ信号を再現することができる。リファレンス・マイクロホンは、周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を提供することができる。エラー・マイクロホンは、トランスデューサの近傍に位置することができ、トランスデューサの音響出力と、トランスデューサにおける周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を提供することができる。処理回路は、リスナーに聞こえる周囲のオーディオ音の存在を低減させるように、リファレンス・マイクロホン信号からアンチノイズ信号を生成する応答を有する適応フィルタと、エラー・マイクロホン信号中の周囲のオーディオ音を最小化するように、適応フィルタの応答を適応させることによって、エラー・マイクロホン信号及びリファレンス・マイクロホン信号に合わせて適応フィルタの応答を成形する係数制御ブロックと、ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において係数制御ブロックの係数をゼロの方にバイアスする係数バイアス制御ブロックと、を実装することができる。
【0008】
本開示のこれら及び他の実施例によると、パーソナル・オーディオ機器のトランスデューサの近傍の周囲のオーディオ音を消去するための方法は、周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を受信するステップを含むことができる。また、本方法は、トランスデューサの出力と、トランスデューサにおける周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を受信するステップを含むことができる。本方法は、エラー・マイクロホン信号中の周囲のオーディオ音を最小化するように、リファレンス・マイクロホンの出力をフィルタする適応フィルタの応答を適応させることによって、トランスデューサの音響出力での周囲のオーディオ音の影響を打ち消すアンチノイズ信号を、リファレンス・マイクロホンでの測定の結果から適応的に生成するステップをさらに含むことができる。本方法は、ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において適応フィルタの応答を制御するための係数をゼロの方にバイアスするステップをさらに含むことができる。加えて、本方法は、トランスデューサに提供されるオーディオ信号を生成するように、アンチノイズ信号をソース・オーディオ信号と組み合わせるステップを含むことができる。
【0009】
本開示のこれら及び他の実施例によると、パーソナル・オーディオ機器の少なくとも一部を実装するための集積回路は、出力部と、リファレンス・マイクロホン入力部と、エラー・マイクロホン入力部と、処理回路とを含むことができる。出力部は、リスナーへの再生のためのソース・オーディオ信号と、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオ音の影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含む信号をトランスデューサへ提供することができる。リファレンス・マイクロホン入力部は、周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を受信することができる。エラー・マイクロホン入力部は、トランスデューサの出力と、トランスデューサにおける周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を受信することができる。処理回路は、リスナーに聞こえる周囲のオーディオ音の存在を低減させるように、リファレンス・マイクロホン信号からアンチノイズ信号を生成する応答を有する適応フィルタと、エラー・マイクロホン信号中の周囲のオーディオ音を最小化するように、適応フィルタの応答を適応させることによって、エラー・マイクロホン信号及びリファレンス・マイクロホン信号に合わせて適応フィルタの応答を成形する係数制御ブロックと、ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において係数制御ブロックの係数をゼロの方にバイアスする係数バイアス制御ブロックと、を実装することができる。
【0010】
本開示のこれら及び他の実施例によると、パーソナル・オーディオ機器は、トランスデューサと、リファレンス・マイクロホンと、エラー・マイクロホンと、処理回路とを含むことができる。トランスデューサは、リスナーへの再生のためのソース・オーディオと、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオ音の影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含むオーディオ信号を再現することができる。リファレンス・マイクロホンは、周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を提供することができる。エラー・マイクロホンは、トランスデューサの近傍に位置することができ、トランスデューサの音響出力と、トランスデューサにおける周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を提供することができる。処理回路は、リスナーに聞こえる周囲のオーディオ音の存在を低減させるように、リファレンス・マイクロホン信号からアンチノイズ信号を生成する応答を有するフィードフォワード・フィルタと、ソース・オーディオ信号の電気的及び音響的経路をモデル化し、ソース・オーディオから二次経路推定を生成する応答を有するように構成された二次経路推定適応フィルタと、再生補正エラーを最小化するように、二次経路推定フィルタの応答を適応させることによって、ソース・オーディオ信号と再生補正エラーとに合わせて二次経路推定適応フィルタの応答を成形する係数制御ブロックであって、再生補正エラーがエラー・マイクロホン信号と二次経路推定との差に基づく、係数制御ブロックと、ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において係数制御ブロックの係数をゼロの方にバイアスする係数バイアス制御ブロックと、を実装することができる。
【0011】
本開示のこれら及び他の実施例によると、パーソナル・オーディオ機器のトランスデューサの近傍の周囲のオーディオ音を消去するための方法は、周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を受信するステップを含むことができる。また、本方法は、トランスデューサの出力と、トランスデューサにおける周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を受信するステップを含むことができる。本方法は、リファレンス・マイクロホンの出力をフィルタすることによって、トランスデューサの音響出力での周囲のオーディオ音の影響を打ち消すアンチノイズ信号成分を、リファレンス・マイクロホンでの測定の結果から生成するステップをさらに含むことができる。本方法は、ソース・オーディオ信号の電気的及び音響的経路をモデル化する二次経路推定適応フィルタでソース・オーディオ信号をフィルタし、エラー信号と二次経路推定との差に基づいて再生補正エラーを最小化するように、二次経路推定適応フィルタの応答を適応させることによって、ソース・オーディオ信号から二次経路推定を適応的に生成するステップをさらに含むことができる。加えて、本方法は、ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数において二次経路推定適応フィルタの応答を制御するための係数をゼロの方にバイアスするステップを含むことができる。本方法は、トランスデューサに提供されるオーディオ信号を生成するように、アンチノイズ信号をソース・オーディオ信号と組み合わせるステップをさらに含むことができる。
【0012】
本開示のこれら及び他の実施例によると、パーソナル・オーディオ機器の少なくとも一部を実装するための集積回路は、出力部と、リファレンス・マイクロホン入力部と、エラー・マイクロホン入力部と、処理回路とを含むことができる。出力部は、リスナーへの再生のためのソース・オーディオ信号と、トランスデューサの音響出力における周囲のオーディオ音の影響を打ち消すためのアンチノイズ信号との両方を含む信号をトランスデューサへ提供することができる。リファレンス・マイクロホン入力部は、周囲のオーディオ音を示すリファレンス・マイクロホン信号を受信することができる。エラー・マイクロホン入力部は、トランスデューサの出力と、トランスデューサにおける周囲のオーディオ音とを示すエラー・マイクロホン信号を受信することができる。処理回路は、リスナーに聞こえる周囲のオーディオ音の存在を低減させるように、リファレンス・マイクロホン信号からアンチノイズ信号を生成する応答を有するフィードフォワード・フィルタと、ソース・オーディオ信号の電気的及び音響的経路をモデル化するための、ソース・オーディオから二次経路推定を生成する応答を有する二次経路推定適応フィルタと、再生補正エラーを最小化するように、二次経路推定フィルタの応答を適応させることによって、ソース・オーディオ信号と再生補正エラーとに合わせて二次経路推定適応フィルタの応答を成形する係数制御ブロックであって、再生補正エラーがエラー・マイクロホン信号と二次経路推定との差に基づく、係数制御ブロックと、ソース・オーディオ信号の周波数応答の範囲外の周波数範囲において係数制御ブロックの係数をゼロの方にバイアスする係数バイアス制御ブロックと、を実装することができる。
【0013】
本開示の技術的な利点は、本明細書に含まれる図、説明、及び特許請求の範囲から当業者には容易に明らかになる可能性がある。実施例の目的及び利点は、特許請求の範囲において特に指摘される要素、特徴、及び組合せによって少なくとも実現され、達成されるであろう。
【0014】
前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は両方とも、実例であって説明のためのものであり、本開示で述べられた特許請求の範囲を限定しないことを理解されたい。
【0015】
本実施例及びその利点についてのより完全な理解は、同様の参照番号が同様の特徴を指す添付図面と併せて以下の説明を参照することによって得られる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】本開示の実施例による、例示的な無線携帯型電話の図である。
図1B】本開示の実施例による、ヘッドホン・アセンブリが結合された例示的な無線携帯型電話の図である。
図2】本開示の実施例による、図1に描かれた無線電話内部の選択された回路のブロック図である。
図3】本開示の実施例による、図2のコーダ・デコーダ(コーデック)集積回路の例示的な適応雑音消去(ANC:adaptive noise canceling)回路内部の選択された信号処理回路及び機能ブロックを描くブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、無線電話などのパーソナル・オーディオ機器において実装することができる雑音消去技法及び回路を包含する。パーソナル・オーディオ機器は、周囲の音響環境を計測し、周囲の音響事象を消去するためにスピーカ(又は他のトランスデューサ)出力部において注入される信号を生成することができるANC回路を含む。周囲の音響環境を計測するためにリファレンス・マイクロホンが設けられてもよく、並びに、周囲のオーディオ音を消去するアンチノイズ信号の適応を制御するために、及び処理回路の出力部からトランスデューサまでの電気的及び音響的経路を補正するためにエラー・マイクロホンが含まれてもよい。
【0018】
ここで図1Aを参照すると、本開示の実施例により示されるような無線電話10が人間の耳5に近接して示されている。無線電話10は、本開示の実施例による技法が用いられてもよい機器の実例であるが、図示された無線電話10において又は後の図に描かれる回路において具現化される要素若しくは構成のすべてが、特許請求の範囲に規定された本発明を実施するために必要なわけではないことを理解されたい。無線電話10は、他のローカルなオーディオ事象、例えば、リングトーン、保存されたオーディオ・プログラム素材、バランスのとれた会話理解を行うための近端音声(すなわち、無線電話10のユーザの音声)の注入、並びに無線電話10による再現を必要とする他のオーディオ、例えば、無線電話10よって受信されたウェブ・ページ又は他のネットワーク通信からのソース、並びにバッテリ低下の指示や他のシステム事象の通知などのオーディオ指示などと共に、無線電話10によって受信された遠方の音声を再現するスピーカSPKRなどのトランスデューサを含むことができる。無線電話10から他の会話参加者(複数可)に送信される近端音声を捕らえるために近接音声マイクロホンNSが設けられてもよい。
【0019】
無線電話10は、スピーカSPKRによって再現される遠方の音声及び他のオーディオの明瞭度を改善するために、スピーカSPKRにアンチノイズ信号を注入するANC回路及び機能を含むことができる。リファレンス・マイクロホンRは、周囲の音響環境を計測するために設けられてもよく、近端音声がリファレンス・マイクロホンRによって生成される信号において最小化され得るように、ユーザの口の典型的な位置から離れて置かれてもよい。別のマイクロホンであるエラー・マイクロホンEは、無線電話10が耳5のすぐそばにあるときに、耳5に近いスピーカSPKRによって再現されるオーディオと組み合わされる周囲オーディオの尺度を提供することによって、ANCの動作をさらに改善するために設けられることがある。これら及び他の実施例では、追加のリファレンス・マイクロホン及び/又はエラー・マイクロホンが用いられてもよい。無線電話10内部の回路14は、リファレンス・マイクロホンR、近接音声マイクロホンNS、及びエラー・マイクロホンEからの信号を受信し、無線電話トランシーバを有する無線周波数(RF)集積回路12などの他の集積回路とインターフェースするオーディオコーデック集積回路(IC)20を含むことができる。本開示の一部の実施例では、本明細書に開示される回路及び技法は、例えばチップ上MP3プレーヤー集積回路のような、パーソナル・オーディオ機器全体を実現するための制御回路及び他の機能性を含む単一の集積回路に組み込まれてもよい。本開示の一部の実施例では、本明細書に開示される回路及び技法は、例えばチップ上MP3プレーヤー集積回路のような、パーソナル・オーディオ機器全体を実現するための制御回路及び他の機能性を含む単一の集積回路に組み込まれてもよい。これら及び他の実施例では、本明細書に開示される回路及び技法は、コンピュータ可読媒体において具現化され、コントローラ又は他の処理機器によって実行可能なソフトウェア及び/又はファームウェアにおいて部分的に又は完全に実施されてもよい。
【0020】
一般に、本開示のANC技法は、リファレンス・マイクロホンRに飛び込んでくる(スピーカSPKRの出力及び/又は近端音声とは対照的に)周囲の音響事象を計測し、また、エラー・マイクロホンEに飛び込んでくる同じ周囲の音響事象を計測することによって、無線電話10のANC処理回路が、エラー・マイクロホンEでの周囲の音響事象の大きさを最小化する特性を有するようにリファレンス・マイクロホンRの出力から生成されるアンチノイズ信号を適応させる。音響経路P(z)がリファレンス・マイクロホンRからエラー・マイクロホンEまで延在しているため、ANC回路は、コーデックIC20の音声出力回路の応答と、特定の音響環境におけるスピーカSPKRとエラー・マイクロホンEとの間の結合を含むスピーカSPKRの音響/電気伝達関数とを表わす電気的及び音響的経路S(z)の影響を除去しながら、音響経路P(z)を効果的に推定しており、この特定の音響環境は、無線電話10が耳5にしっかりと押し当てられていないときには、耳5及び他の物理的物体の近さ及び構造、並びに無線電話10に近接しているかもしれない人間の頭の構造によって影響を受け得る。図示する無線電話10は、第3の近接音声マイクロホンNSを有する2マイクロホンANCシステムを含んでいるが、本発明の一部の態様は、別個のエラー及びリファレンス・マイクロホンを含まないシステム、又はリファレンス・マイクロホンRの機能を行うために近接音声マイクロホンNSを使用する無線電話において実施されてもよい。また、オーディオ再生のためにのみ設計されたパーソナル・オーディオ機器では、近接音声マイクロホンNSは一般に含まれず、以下でさらに詳細に説明する回路の近接音声信号経路は、本開示の範囲を変更することなく省略されてもよい。
【0021】
ここで図1Bを参照すると、オーディオ・ポート15を介してヘッドホン・アセンブリ13が結合された無線電話10が描かれている。オーディオ・ポート15は、RF集積回路12及び/又はコーデックIC20に通信可能に結合されてもよく、したがってヘッドホン・アセンブリ13の構成要素と、RF集積回路12及び/又はコーデックIC20の1つ又は複数との間の通信を可能にしている。図1Bに示すように、ヘッドホン・アセンブリ13は、コンボックス(combox)16、左のヘッドホン18A、及び右のヘッドホン18Bを含むことができる。本開示において使用されるように、用語「ヘッドホン」は、あらゆるスピーカ、及びリスナーの耳もしくは外耳道に近接して適所に機械的に保持されることが意図された、スピーカに関連付けられた構造を幅広く含み、限定することなく、イヤホン、小型イヤホン、及び他の同様の機器を含む。より具体的で非限定的な実例として、「ヘッドホン」は、挿入型(intra-canal)イヤホン、イントラコンカ型(intra-concha)イヤホン、スープラコンカ型(supra-concha)イヤホン、及び耳載せ型(supra-aural)イヤホンを指すことがある。
【0022】
コンボックス16、又はヘッドホン・アセンブリ13の別の部分は、無線電話10の近接音声マイクロホンNSに加えて若しくはその代わりに、近端音声を捕らえるための近接音声マイクロホンNSを有してもよい。加えて、各ヘッドホン18A、18Bは、他のローカルなオーディオ事象、例えば、リングトーン、保存されたオーディオ・プログラム素材、バランスのとれた会話理解を行うための近端音声(すなわち、無線電話10のユーザの音声)の注入、並びに無線電話10による再現を必要とする他のオーディオ、例えば、無線電話10よって受信されたウェブ・ページ又は他のネットワーク通信からのソース、並びにバッテリ低下指示及び他のシステム事象通知などのオーディオ指示などと共に、無線電話10によって受信された遠方の音声を再現するスピーカSPKRなどのトランスデューサを含んでもよい。各ヘッドホン18A、18Bは、そのようなヘッドホン18A、18Bがリスナーの耳にかけられたときに、周囲の音響環境を計測するためのリファレンス・マイクロホンR、及びリスナーの耳近くのスピーカSPKRによって再現されるオーディオと組み合わされる周囲のオーディオを計測するためのエラー・マイクロホンEを含んでもよい。一部の実施例では、コーデックIC20は、各ヘッドホンのリファレンス・マイクロホンR、近接音声マイクロホンNS、及びエラー・マイクロホンEからの信号を受信し、本明細書に記載されるような各ヘッドホンに対する適応雑音消去を行うことができる。他の実施例では、コーデックIC又は別の回路は、ヘッドホン・アセンブリ13内部に存在し、リファレンス・マイクロホンR、近接音声マイクロホンNS、及びエラー・マイクロホンEに通信可能に結合され、本明細書に記載されるような適応雑音消去を行うように構成されてもよい。
【0023】
ここで図2を参照すると、他の実施例では、1つ又は複数のヘッドホン・アセンブリ13などの他の場所に全体又は一部が配置され得る、無線電話10の内部の選択された回路がブロック図で示されている。コーデックIC20は、リファレンス・マイクロホン信号を受信し、リファレンス・マイクロホン信号のディジタル表現refを生成するためのアナログ・ディジタル変換器(ADC)21Aと、エラー・マイクロホン信号を受信し、エラー・マイクロホン信号のディジタル表現errを生成するためのADC21Bと、近接音声マイクロホン信号を受信し、近接音声マイクロホン信号のディジタル表現nsを生成するためのADC21Cとを含むことができる。コーデックIC20は、増幅器AlからスピーカSPKRを駆動するための出力を生成することができ、この増幅器Alが結合器26の出力を受信するディジタル・アナログコンバータ(DAC)23の出力を増幅することができる。結合器26は、内部オーディオ・ソース24からのオーディオ信号iaと、慣例によりリファレンス・マイクロホン信号refの雑音と同一極性を有し、したがって結合器26によって減算される、ANC回路30によって生成されたアンチノイズ信号と、近接音声マイクロホン信号nsの一部とを組み合わせることができ、それによって、無線電話10のユーザは、無線周波数(RF)集積回路22から受信され得て、やはり結合器26によって組み合わされてもよいダウンリンク音声dsとの適切な関係において彼又は彼女自身の声を聞くことができる。また、近接音声マイクロホン信号nsは、RF集積回路22に提供されてもよく、アンテナANTを介してサービス・プロバイダーにアップリンク音声として送信されてもよい。
【0024】
ここで図3を参照すると、本開示の実施例によるANC回路30の詳細が示されている。適応フィルタ32は、リファレンス・マイクロホン信号refを受信し、理想的な状況下では、その伝達関数W(z)をP(z)/S(z)となるように適応させてアンチノイズ信号を生成することができ、これを、図2の結合器26によって例示されるように、アンチノイズ信号をトランスデューサによって再現されるオーディオと組み合わせる出力結合器に提供することができる。適応フィルタ32の係数は、信号の相関関係を用いて適応フィルタ32の応答を決定するW係数制御ブロック31によって制御されてもよく、この適応フィルタ32が、エラー・マイクロホン信号err中に存在するリファレンス・マイクロホン信号refのそれらの成分間の、最小2乗平均の意味での誤差を全体的に最小化する。W係数制御ブロック31によって比較される信号は、(以下でより詳細に説明されるように結合器35Aによるノイズ注入信号によって修正されるような)フィルタ34Bによって提供される経路S(z)の応答の推定のコピーによって成形されるようなリファレンス・マイクロホン信号refと、(以下でより詳細に説明されるように結合器37Aによるノイズ注入信号によって修正されるような)エラー・マイクロホン信号errを含む別の信号とであってもよい。経路S(z)の応答の推定のコピーである応答SECOPY(Z)によってリファレンス・マイクロホン信号refを変換し、結果として生じる信号とエラー・マイクロホン信号errとの差を最小化することによって、適応フィルタ32は、P(z)/S(z)の所望の応答に適応することができる。エラー・マイクロホン信号errに加えて、W係数制御ブロック31によってフィルタ34Bの出力と比較される信号には、応答SECOPY(Z)がそのコピーであるフィルタ応答SE(z)によって処理されたダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaの反転量が含まれてもよい。ダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaの反転量を注入することによって、適応フィルタ32が、エラー・マイクロホン信号err中に存在する比較的大きな量のダウンリンク・オーディオ信号及び/又は内部オーディオ信号に適応するのを防止することができ、ダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaのその反転コピー(inverted copy)を経路S(z)の応答の推定で変換することによって、エラー・マイクロホン信号errから除去されるダウンリンク・オーディオ及び/又は内部オーディオは、S(z)の電気的及び音響的経路が、ダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaがエラー・マイクロホンEに到達するために辿る経路であるため、エラー・マイクロホン信号errで再現されるダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaの予期されるバージョンと一致するはずである。フィルタ34Bは、それ自体適応フィルタでなくてもよいが、フィルタ34Bの応答が適応フィルタ34Aの適応に追従するように、適応フィルタ34Aの応答と一致するように調整される調節可能な応答を有することができる。
【0025】
上記を実装するために、適応フィルタ34Aは、(以下でより詳細に説明されるように結合器35Bによるノイズ注入信号によって修正されるような)ダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaを、エラー・マイクロホンEに送達される予期されるダウンリンク・オーディオを表わすように適応フィルタ34Aによってフィルタされており、結合器36によって適応フィルタ34Aの出力から除去される(及び以下でより詳細に説明されるように結合器37Bによるノイズ注入信号によって修正されてもよい)上記のフィルタされたダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaを除去した後のエラー・マイクロホン信号errと等しい再生補正エラーと比較するSE係数制御ブロック33によって制御される係数を有することができる。SE係数制御ブロック33は、実際のダウンリンク音声信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaをエラー・マイクロホン信号err中に存在するダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaの成分と相関させることができる。それによって、エラー・マイクロホン信号errから減算されたときにはダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaに起因しないエラー・マイクロホン信号errのコンテンツを含むことになる信号を、ダウンリンク・オーディオ信号ds及び/又は内部オーディオ信号iaから生成するように、適応フィルタ34Aを適応させることができる。
【0026】
図3に描かれるように、ANC回路30は、以下でさらに詳細に説明されるように、W係数制御ブロック31及びSE係数制御ブロック33の1つ又は複数の係数を1つ又は複数の特定の周波数範囲においてゼロへ向かってバイアスする係数バイアス制御ブロック40を含むことができる。一部の実施例では、係数バイアス制御ブロック40は、「Methods for Bandlimiting Antinoise in Earpiece Active Noise Cancel Headset」という題名の、参照により本明細書に組み込まれている、2011年12月21日に出願された米国特許出願第13/333,484号に開示されたものと同一若しくは同様の構造及び/又は機能性を有することができる。本開示の明瞭さ及び説明の目的のため、係数バイアス制御ブロック40の特定の機能性に関する米国特許出願第13/333,484号に開示されたレベルの詳細は本明細書では繰り返さないが、むしろ本開示に関する実装態様の詳細を説明するために要約することとする。
【0027】
図3に示すように、係数バイアス制御ブロック40は、ノイズ源42と、帯域通過フィルタ44と、周波数バイアス・セレクタ46と、適応フィルタ32の応答のコピーである応答を適用するように構成されたフィルタ32Aと、適応フィルタ34Aの応答のコピーである応答を適用するように構成されたフィルタ34Cとを含むことができる。動作において、ノイズ源42は、注入されるノイズ信号を生成するために帯域通過フィルタ44によってフィルタされるホワイト・ノイズ(例えば、対象とするすべての周波数、例えば、人間の聴覚範囲内のそれらの周波数にわたって一定振幅を有するオーディオ信号)を生成することができる。注入されるノイズ信号を生成するために帯域通過フィルタ44によって通過させられるホワイト・ノイズの周波数の帯域通過範囲は、周波数バイアス・セレクタ46によって制御されてもよく、この周波数バイアス・セレクタ46は、以下でより詳細に説明されるように、リファレンス信号ref、ソース・オーディオ信号(例えば、ダウンリンク音声信号ds及び/若しくは内部オーディオ信号ia)、並びに/又はソース・オーディオ信号を再生するためのトランスデューサ(例えば、スピーカーSPKR)の周波数限界に基づいて、帯域通過範囲の上限及び下限を選択することができる。一部の実施例では、注入されるノイズ信号は、フィルタ34Bによってフィルタされるようなリファレンス・マイクロホン信号refと(例えば、結合器35Aによって)組み合わされ、W係数制御ブロック31に伝達されてもよい。これら及び他の実施例では、注入されるノイズ信号は、ソース・オーディオ信号(ダウンリンク音声信号ds及び/又は内部オーディオ信号ia)と(例えば、結合器35Bによって)組み合わされ、SE係数制御ブロック33に伝達されてもよい。
【0028】
加えて、フィルタ32Aは、注入されるノイズ信号を、適応フィルタ32の応答W(z)のコピーである応答WCOPY(Z)でフィルタし、Wフィルタされたノイズ注入信号を生成することができる。フィルタ32Aは、それ自体適応フィルタでなくてもよいが、フィルタ32Aの応答が適応フィルタ32の適応に追従するように、適応フィルタ32の応答と一致するように調整される調整可能な応答を有することができる。一部の実施例では、Wフィルタされたノイズ注入信号及び注入されるノイズ信号は、(例えば、結合器37Aによって)再生補正エラー信号と組み合わされ、W係数制御ブロック31に伝達されてもよい。
【0029】
これら及び他の実施例では、フィルタ34Cは、注入されるノイズ信号を、適応フィルタ34Aの応答SE(z)のコピーである応答SECOPY2(Z)でフィルタし、SEフィルタされたノイズ注入信号を生成することができる。フィルタ34Cは、それ自体適応フィルタでなくてもよいが、フィルタ34Cの応答が適応フィルタ34Aの適応に追従するように、適応フィルタ34Aの応答と一致するように調整される調整可能な応答を有することができる。一部の実施例では、SEフィルタされたノイズ注入信号及び注入されるノイズ信号は、(例えば、結合器37Bによって)再生補正エラー信号と組み合わされ、SE係数制御ブロック33に伝達されてもよい。
【0030】
上述したように、周波数バイアス・セレクタ46は、リファレンス信号ref、ソース・オーディオ信号(例えば、ダウンリンク音声信号ds及び/若しくは内部オーディオ信号ia)、並びに/又はソース・オーディオ信号を再生するためのトランスデューサ(例えば、スピーカーSPKR)の周波数限界に基づいて、帯域通過フィルタ44の帯域通過範囲の上限及び下限を選択することができる。一部の実施例では、周波数バイアス・セレクタ46は、ソース・オーディオ信号の周波数コンテンツのほぼ上限と等しい帯域通過範囲の下限を選択することができる。そのような実施例では、周波数バイアス・セレクタ46は、ソース・オーディオ信号の周波数コンテンツの上限の直近の傾向(例えば、周波数コンテンツの上限の移動平均(trailing average))に基づいて帯域通過範囲の下限を決定するために、ソース・オーディオ信号の周波数コンテンツを動的に追跡することができる。これら及び他の実施例では、周波数バイアス・セレクタ46は、帯域通過範囲が、ソース・オーディオ信号を再生するためのトランスデューサ(例えば、スピーカーSPKR)の周波数応答の範囲内に、及びリファレンス・マイクロホン信号refによって示されるような周囲のオーディオ音の周波数応答の範囲内にあるように、帯域通過範囲に対する上限及び下限を選択することができる。そのような実施例では、周波数バイアス・セレクタ46は、トランスデューサの周波数応答のほぼ上限と等しい、又は周囲のオーディオ音の周波数応答のほぼ上限と等しい、帯域通過範囲に対する上限を選択することができる。
【0031】
したがって、ソース・オーディオ信号の周波数コンテンツ、周囲のオーディオ音の周波数コンテンツ、及びトランスデューサの周波数応答が「重複(intersect)」しない周波数範囲、言いかえれば、ソース・オーディオ信号、周囲のオーディオ音、及びトランスデューサのうちの少なくとも1つがコンテンツ/応答を有するが、ソース・オーディオ信号、周囲のオーディオ音、及びトランスデューサのうちの少なくとも1つがコンテンツ/応答を有さない周波数範囲に対して、周波数バイアス・セレクタ46が、帯域通過フィルタ44に、ノイズ源42によって生成されたホワイト・ノイズをそのような周波数範囲内で帯域通過フィルタさせ、したがって、そのような周波数範囲にあるコンテンツのみを有する、注入されるノイズ信号を生成することができる。このようにして、W係数制御ブロック31がリファレンス・マイクロホン信号refを再生補正エラーと比較するとき、リファレンス・マイクロホン信号refと再生補正エラーとの周波数コンテンツが重複しない周波数範囲が存在する限りにおいて、係数バイアス制御ブロック40は、そのような周波数範囲内でホワイト・ノイズをリファレンス・マイクロホン信号ref又は再生補正エラーに(例えば、結合器35A及び37Aのそれぞれによって)注入し、それによって、これらの比較される信号が、同じ重複する周波数スペクトル全体にわたってコンテンツを有するようになり、したがってその周波数範囲において適応係数をゼロの方にバイアスする。同様に、SE係数制御ブロック33がソース・オーディオ信号を再生補正エラーと比較するとき、ソース・オーディオ信号と再生補正エラーとの周波数コンテンツが重複しない周波数範囲が存在する限りにおいて、係数バイアス制御ブロック40は、そのような周波数範囲内でホワイト・ノイズをソース・オーディオ信号又は再生補正エラーに(例えば、結合器35B及び37Bのそれぞれによって)注入し、それによって、これらの比較される信号が、同じ重複する周波数スペクトル全体にわたってコンテンツを有するようになり、したがってその周波数範囲において適合係数をゼロの方にバイアスする。本明細書に記載されるようなノイズの注入がない場合は、W係数制御ブロック31及び/又はS係数制御ブロック33は、比較信号の周波数コンテンツが重複しない周波数範囲において、それにもかかわらずそのような周波数範囲においてフィルタ応答を適応させようとすることがあり、このことは、適応不安定性につながる可能性がある。
【0032】
図3及び前述の説明は、W係数制御ブロック31及びSE係数制御ブロック33の両方へのノイズ信号の注入を企図している。しかしながら、一部の実施例では、ANC回路30は、係数バイアス制御ブロック40が、W係数制御ブロック31及びSE係数制御ブロック33の両方ではなく、そのうちの1つにノイズを注入することができるように構成されてもよい。W(z)応答が適応するように、W係数制御ブロック31にノイズ注入が施される場合、W(z)応答適合係数がそのような周波数範囲においてゼロの方にバイアスされることになるため、SE(z)応答が、ノイズが注入される周波数範囲において二次経路の良好なモデルであることは問題とならない可能性がある。同様に、SE係数制御ブロック33にノイズ注入が施される場合、SE(z)応答は、ノイズが注入される周波数範囲において二次経路をモデル化しようとはせず、そのような周波数範囲におけるSE(z)応答が小さいため、SE(z)応答は、最小2乗平均適応システムにおけるW(z)応答の適応の安定性に害を及ぼさない。
【0033】
一部の実施例では、SE係数制御ブロック33の係数は、SE(z)の応答について、帯域制限された周波数応答で初期化することができ、したがって、SE(z)応答がいかなる可能性のある当初の再生帯域幅をも超えて真の二次経路をモデル化しようとしないように、SE(z)応答をトレーニングするためのいかなるソース・オーディオ信号も現われる前のSE(z)応答の適応のための開始点を考慮に入れることとなる。このようにして、ソース・オーディオ信号が狭帯域(例えば、電話音声帯域におけるダウンリンク音声)の場合、不安定性につながる可能性のある、W係数制御ブロック31への入力としてフィルタ34Bを通過する、より高い周波数の有意の周囲のコンテンツがなくなる。
【0034】
本開示は、当業者が理解する本明細書の例示的な実施例に対するすべての変更形態、置換形態、変形形態、代替形態及び修正形態を包含する。同様に、適切な場合は、添付された特許請求の範囲は、当業者が理解する本明細書の例示的な実施例に対するすべての変更形態、置換形態、変形形態、代替形態及び修正形態を包含する。さらに、特定の機能を行うように適合され、配置され、能力を有し、構成され、可能にされ、動作可能であり、又は作用効果がある、添付された特許請求の範囲における装置若しくはシステム又は装置若しくはシステムの構成要素への言及は、その装置、システム、若しくは構成要素、又はその特定の機能が、活性化され、電源投入され、若しくは解除されるか否かにかかわらず、その装置、システム、若しくは構成要素が、そのように適合され、配置され、能力を有し、構成され、可能にされ、動作可能であり又は作用効果がある限り、その装置、システム、若しくは構成要素を包含する。
【0035】
本明細書に列挙された実例及び条件付き文言はすべて、本発明及び発明者が技術の推進に貢献した概念を読者が理解する手助けとなる教育的な目的が意図されており、そのような特別に列挙された実例及び条件に限定しないものとして解釈される。本発明の実施例について詳細に記載したが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱せずに、本発明に対する様々な変更、置換え、及び代替を行うことができることを理解されたい。
図1A
図1B
図2
図3