特許第6462142号(P6462142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6462142癌罹患危険度評価装置、プログラム、及び癌罹患危険度を試験する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462142
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】癌罹患危険度評価装置、プログラム、及び癌罹患危険度を試験する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/497 20060101AFI20190121BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20190121BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   G01N33/497 A
   G01N33/574 Z
   G01N33/48 Z
【請求項の数】20
【全頁数】48
(21)【出願番号】特願2017-542752(P2017-542752)
(86)(22)【出願日】2016年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2016004374
(87)【国際公開番号】WO2017056493
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2018年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-192241(P2015-192241)
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花田 真理子
(72)【発明者】
【氏名】香田 弘史
(72)【発明者】
【氏名】小村 啓
(72)【発明者】
【氏名】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】徳野 勝己
(72)【発明者】
【氏名】田中 克之
(72)【発明者】
【氏名】芦田 典子
(72)【発明者】
【氏名】児玉 裕三
(72)【発明者】
【氏名】千葉 勉
(72)【発明者】
【氏名】美馬 淳志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 正泰
(72)【発明者】
【氏名】戸井 雅和
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0143247(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0269632(US,A1)
【文献】 国際公開第2015/031617(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0127326(US,A1)
【文献】 特表2015−526732(JP,A)
【文献】 特表2015−507205(JP,A)
【文献】 特表2009−518654(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103940924(CN,A)
【文献】 特表2002−534697(JP,A)
【文献】 KUMAR S et al.,Selected ion flow tube mass spectrometry analysis of exhalted breath for volatile organic compound p,Anal Chem.,2013年 6月18日,85(12),6121-6128
【文献】 BUSZEWSKI B,Identification of volatile lung cancer markers by gas chromatography-mass spectrometry: comparison w,Anal bioanal Chem.,2012年 7月,404(1),141-146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象の人の呼気に含まれる複数種の対象成分のそれぞれの濃度を測定するように構成された測定装置と、
前記測定装置による前記濃度の測定結果に基づいて、前記評価対象の人が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出するように構成されているコントローラとを備え、
前記複数種の対象成分が、2−メチル−プロピオン酸を少なくとも含む
癌罹患危険度評価装置。
【請求項2】
評価対象の人の呼気に含まれる複数種の対象成分のそれぞれの濃度を測定するように構成された測定装置と、
前記測定装置による前記濃度の測定結果に基づいて、前記評価対象の人が膵癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出するように構成されているコントローラとを備え、
前記複数種の対象成分が、2−メチル−プロピオン酸を少なくとも含む
癌罹患危険度評価装置。
【請求項3】
前記複数種の対象成分が、更に1−メチルピロリジノン、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、トリメチルアミン、1−オクテン3−オール、メルカプトアセトン、アセトフェノン、アセトイン、二硫化炭素、2−メチル−酪酸、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、デカナール、プロピオン酸、ヘプタナール、2−メチルフラン、2,3−ブタンジオン、ノナナール、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、及びジメチルトリスルフィドからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項1又は2に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項4】
前記複数種の対象成分が、更にフェノール、ブタナール及びヘキサン酸からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項5】
前記複数種の対象成分が、更に1−メチルピロリジノン、二硫化炭素、アセトアルデヒド、2−メチル−酪酸、アセトン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、プロピオン酸、ヘプタナール、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オール、メルカプトアセトン、アセトフェノン、2−メチルフラン、アセトイン、2,3−ブタンジオン、メタノール、シクロヘキサノン、ジメチルトリスルフィド、2,4−ジメチルヘキサン、1−ペンタノール、1−ヘプテン、4−エチルシクロヘキサノール、酢酸メチルエステル、ニトロソメチルウレタン、2−メチル−1,3−ブタジエン、3−メチル−1−ブタノール、2,2,4−トリメチルヘキサン、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトニトリル、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、ヘキサナール、ノナナール、2,4−ジメチルヘプタン、1−オクテン、1,2−エタンジオール、1−ペンテン、ブチルベンゼン、5−メチル−1−ヘプテン、7,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エン、1−ヘキサノール、β−フェランドレン、メントール、2−プロペナール、プロパナール、D−リモネン、ジメチルジスルフィド、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ブテン、オクタナール、4−イソプロペニルトルエン、1,3−ジクロロベンゼン、1−ブタノール、メチルメルカプタン、及びジメチルスルフィドからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項1又は2に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項6】
前記複数種の対象成分が、更に1−プロパノール、1−ヘプタノール、フェノール、2−ブタノン、n−ヘキサン、デカン、ドデカン、2−エチル−1−ヘキサノール、ノナン、ブタナール、ヘキサン酸、エチルアセテート、o−キシレン、及び1,2,4−トリメチルベンゼンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項1、2又は5に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項7】
前記複数種の対象成分が、更にベンズアルデヒド、ヘプタナール、酢酸、2−メチル−酪酸、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、デカナール、酪酸、1−オクテン−3−オール、2−メチル−1−プロパノール、アセトイン、プロピオン酸、2,3−ブタンジオン、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、1,2−エタンジオール、1−ペンタノール、1−ブタノール、4−エチルシクロヘキサノール、ニトロソメチルウレタン、2,2,4−トリメチルヘキサン、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、3−メチル−1−ブタノール、2,4−ジメチルヘプタン、1−オクテン、2−メチルフラン、ノナナール、ブチルベンゼン、β−フェランドレン、2−プロペナール、D−リモネン、1−メトキシ−2−プロパノール、オクタナール、及び1,3−ジクロロベンゼンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項1に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項8】
前記複数種の対象成分が、更にフェノール、ブタナール、1−ヘプタノール、1−プロパノール、2−ブタノン、デカン、ドデカン、n−ヘキサン、ノナン、エチルアセテート、及びo−キシレンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項9】
前記複数種の対象成分が、更に1−メチルピロリジノン、二硫化炭素、アセトアルデヒド、アセトン、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、プロピオン酸、ヘプタナール、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オール、メルカプトアセトン、アセトフェノン、2−メチルフラン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、アセトイン、2,3−ブタンジオン、メタノール、ジメチルトリスルフィド、2,4−ジメチル−ヘキサン、1−ヘプテン、酢酸メチルエステル、2−メチル−1,3−ブタジエン、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトニトリル、ヘキサナール、ノナナール、1,2−エタンジオール、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン、7,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エン、1−ヘキサノール、メントール、プロパナール、ジメチルジスルフィド、2−ブテン、4−イソプロペニルトルエン、1−ブタノール、メチルメルカプタン、ヘキサノン、及びジメチルスルフィドからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項10】
前記複数種の対象成分が、更に1−プロパノール、フェノール、n−ヘキサン、2−エチル−1−ヘキサノール、ブタナール、ヘキサン酸、及び1,2,4−トリメチルベンゼンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含む
請求項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項11】
前記濃度が、前記呼気に含まれる前記対象成分以外の一の成分の割合を基準にした相対濃度である
請求項1から10のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項12】
前記一の成分が、水蒸気又は2−ブテンである
請求項11に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項13】
前記コントローラは、前記評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に前記評価対象の人が癌に罹患している可能性が高いと判定するように構成されている
請求項1から12のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項14】
前記コントローラは、前記濃度の測定結果と、前記複数種の対象成分それぞれの閾値とを比較した結果に基づいて、前記評価点を算出するように構成されている
請求項1から13のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項15】
前記コントローラは、前記濃度の測定結果を標準化して複数の標準化値を算出し、前記標準化値の測定結果と、前記複数種の対象成分それぞれの閾値とを比較した結果に基づいて、前記評価点を算出するように構成されている
請求項1から13のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項16】
前記コントローラは、前記濃度の測定結果を標準化して複数の標準化値を算出し、前記複数の標準化値と、前記複数の標準化値の寄与度とに基づいて、前記評価点を算出するように構成されている
請求項1から13のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項17】
前記複数の標準化値のうち二種以上の標準化値の組み合わせと、前記組み合わせの寄与度とに更に基づいて、前記評価点を算出するように構成されている
請求項16に記載の癌罹患危険度評価装置。
【請求項18】
前記コントローラは、下記式(1)によって、前記評価点を算出するように構成されている
請求項17に記載の癌罹患危険度評価装置、
【数1】
nは対象成分の種類数であり、Aiは第i番の対象成分の標準化値であり、Ajは第j番の対象成分の標準化値であり、kijは第i番の対象成分の標準化値と第j番の対象成分の標準化値との組み合わせの寄与度であり、Sは評価点である。
【請求項19】
前記コントローラは、下記式(3)によって、前記評価点を算出するように構成されている
請求項16に記載の癌罹患危険度評価装置、
【数2】
nは前記対象成分の種類数であり、Aiは第i番の対象成分の標準化値であり、αiは第i番の対象成分の標準化値の寄与度であり、Sは前記評価点である。
【請求項20】
コンピュータに、請求項1から19のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置が備えるコントローラの機能を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が癌に罹患している可能性を判定することで、癌診断を受ける前に補助的な情報を提供することができる評価装置、この評価装置のためのプログラム、及び癌罹患危険度を試験する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、癌を原因とする死亡率の上昇が問題となっている。癌の発見が遅いほど死亡率が上昇するため、癌を早期に発見することが求められている。
【0003】
癌の診断方法としては、コンピュータ断層撮影法、核磁気共鳴画像法、レントゲン検査、ポジトロン断層法、内視鏡検査、血液マーカー検査法等が挙げられる。
【0004】
しかしながら、これらの診断方法は、非侵襲でなく、煩雑であり、且つ高額な費用を要する。このため、これらの診断方法は一般の健康診断では実施されにくく、このことが癌の発見が遅れてしまう一因となっている。
【0005】
癌の罹患の可能性を判定する方法として、非侵襲で実施することができるとともに精密検査の要否を容易に判定できる方法が確立されれば、癌の早期発見に寄与することができる。そこで、近年、呼気を検査することで癌の罹患の可能性を判定しようという試みが多くの研究機関で進められている。
【0006】
例えば特許文献1では、人の呼気を採取し、呼気中のアセトン、アセトフェノン、酸化窒素、プロペナール、フェノール、ベンズアルデヒド、2−ブタノン、プロピオン酸エチル、イソブテン酸メチル、及びノナナールの濃度を測定し、この測定結果を蓄積した履歴記録と比較して、1〜5ppmの濃度増加が見られた場合に、肺癌と判定する方法が提案されている。
【0007】
しかし、特許文献1の方法は、長期に亘り、人の呼気を採取する必要があるため、煩雑且つ高額な費用が掛かるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特許公表公報第2009−518654号
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、人が癌に罹患している可能性を短期間で判定することができる評価装置、この評価装置のためのプログラム、及び癌罹患危険度を試験する方法を提供することである。
【0010】
本発明の癌罹患危険度評価装置は、評価対象の人の呼気に含まれる複数種の対象成分の各々の濃度を測定するように構成された測定装置と、前記測定装置による前記濃度の測定結果に基づいて、前記評価対象の人が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出するように構成されているコントローラとを備える。
【0011】
本発明のプログラムは、コンピュータに、癌罹患危険度評価装置が備えるコントローラの機能を実現させる。
【0012】
本発明の癌罹患危険度を試験する方法は、(a)評価対象の人の呼気を採取するステップと、(b)この呼気中の複数種の対象成分の各々の濃度を測定するステップと、(c)前記濃度の測定結果から評価点を算出し、前記評価点が基準点以上である場合に、前記評価対象の人が癌に罹患している可能性が高いという基準で、前記評価点と前記基準点とを比較するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態である癌罹患危険度評価装置の概略図である。
図2】本発明の一実施形態である癌罹患危険度評価方法において用いる気体成分吸着管の概略図である。
図3図2に示す気体成分吸着管を備えた気体成分採取装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明者らが、本発明の癌罹患危険度評価装置(以下、評価装置という)、癌罹患危険度評価方法(以下、評価方法という)、及び癌罹患危険度を試験する方法(以下、試験方法という)を発明するに至った研究結果について説明する。
【0015】
日本国特許公表公報第2009−518654号に記載の方法には、長期に亘り、人の呼気を採取する必要があるため、煩雑、且つ高額な費用が掛かるという問題がある。
【0016】
そこで、本発明者らは、人が癌に罹患している可能性を短期間で判定することができる評価装置、この評価装置のためのプログラム、及び評価方法を提供すべく、次のように研究を行った。
【0017】
従来の呼気の分析では、濃度を測定可能な成分が限られていた。これは呼気の採取に用いられる機器に、呼気中の微量な成分が吸着してしまうことによる。
【0018】
しかし、本発明者らは、従来分析対象ではなかった成分を含む多数の成分を分析し、その結果に基づいて、癌に罹患している人と、癌に罹患していない人との間での呼気の組成が、相違することを解明した。そして、本発明者らは、人の呼気に含まれる二種以上の成分の濃度の組み合わせが、人が癌に罹患している可能性を評価することに大きく寄与することを見出し、本発明の完成に至った。
【0019】
本発明者らが解明した、癌に罹患している人と、癌に罹患していない人との呼気の組成の相違について、更に詳しく説明する。
【0020】
本発明者らは次の様にして、複数の被験者の呼気を分析した。尚、被験者には、乳癌に罹患していると診断されている人(以下、乳癌罹患者という)、膵癌に罹患していると診断されている人(以下、膵癌罹患者という)、及び乳癌、膵癌のいずれにも罹患していないと診断されている人(以下、非罹患者という)が含まれている。また、以下、乳癌罹患者と膵癌罹患者とを併せたものを癌罹患者ということがあり、膵癌罹患者と非罹患者とを併せたものを乳癌非罹患者ということがあり、乳癌罹患者と非罹患者とを併せたものを膵癌非罹患者ということがある。
【0021】
まず呼気中の成分を吸着する能力が高い活性炭を粒子状吸着剤として選定した。次に気体成分吸着管を備える気体成分採取装置(日本写真印刷株式会社製)を用意し、気体成分吸着管の内部に粒子状吸着剤を充填した。気体成分吸着管の構成を図2に示し、気体成分採取装置の構成を図3に示す。
【0022】
図2に示すように、気体成分吸着管6は、気体試料を通過させるための吸着管本体61と、吸着管本体61内に配され、通気性を有する一対の保持部材62、63と、一対の保持部材62、63間に形成される保持空間64と、保持空間64内に配され、気体試料中の特定成分を吸着する多数の粒子状吸着剤65とを備える。保持空間64では、吸着管本体61を起立させた状態で、多数の粒子状吸着剤65とその上側に位置する保持部材63との間に拡散用スペース67が形成されている。
【0023】
図3に示すように、気体成分採取装置8は、気体成分吸着管6と、気体成分吸着管6に気体試料を導入するための導入器具7とを備える。導入器具7は、両端の開口した非直線状の導入管を有する。具体的には、導入器具7は、主管73、主管73から分岐した複管74、主管73の下端に設けられた液受け部75を備える。複管74の開口71は、気体試料が導入される導入口であり、主管73の開口72は、起立姿勢にある吸着管本体61の下端の開口66が接続される接続口である。
【0024】
この気体成分採取装置8を用いて被験者の呼気を採取した。呼気の採取にあたっては、被験者がゆっくり放出した一回分の呼気を、気体成分吸着管6で速やかに捕集し、呼気に含まれる成分を粒子状吸着剤65に吸着させた。呼気の採取量は、被験者一人当たり2〜3Lの範囲内である。
【0025】
次いで、気体成分吸着管6にキャリアガスとしてヘリウムガスを流し込みながら、気体成分吸着管6を加熱することにより、吸着させた成分を粒子状吸着剤65から放出させ、これをガスクロマトグラフ質量分析装置に送り、分析した。
【0026】
また、ガスクロマトグラフ質量分析装置に代えて、マルチ反応リアルタイム質量分析計を用い、同様に分析した。
【0027】
本発明者らは、上記の方法により、被験者の呼気に含まれる多数種の成分及びその濃度を特定することができた。そして次のようにして、癌の罹患の有無と特に強く相関する成分を抽出した。
【0028】
採取した呼気を分析した結果、複数種の成分を検出すると共に、その濃度を特定した。検出した成分から、大気中の物質及び分析装置由来と考えられる物質を除外し、残りの各成分について、ガスクロマトグラフ質量分析装置で得られたクロマトグラムにおけるピーク強度を求めた。尚、実際に測定された値は成分の質量を示すピーク強度であるが、ピーク強度の値は成分の呼気中の濃度と相関する。本発明では、成分の濃度と相関する値を測定することは、成分の濃度の測定に含まれる。このため、成分のピーク強度を測定することも、成分の濃度の測定に含まれる。このピーク強度を乳癌罹患者、膵癌罹患者及び非罹患者で比較し、特に有意差が認められる成分を特定した。
【0029】
その結果、膵癌の罹患の有無との相関性が高いが乳癌の罹患の有無との相関性が低い成分は、1−メチルピロリジノン、アセトアルデヒド、アセトン、メタノール、ジメチルトリスルフィド、2,4−ジメチルヘキサン、1−ヘプテン、酢酸メチルエステル、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1−ヘキサノール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトニトリル、ヘキサナール、ヘキサン酸、1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン、7,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクト−2−エン、メントール、プロパノール、ジメチルジスルフィド、2−ブテン、4−イソプロペニルトルエン、1,2,4−トリメチル−ベンゼン、及び2−プロパノールであった。マルチ反応リアルタイム質量分析計を用いた分析によれば、メチルメルカプタン、ヘキサノン、及びジメチルスルフィドも、膵癌の罹患の有無との相関性が高い。なお、ヘキサノンは、2−ヘキサノンと3−ヘキサノンのうちの一方でもよく、双方でもよい。以下、これらの成分からなる群を、膵癌マーカー群という。
【0030】
乳癌の罹患の有無との相関性が高いが膵癌の罹患の有無との相関性が低い成分は、2−メチル−酪酸、1−ヘプタノール、2−メチル−1−プロパノール、シクロヘキサノン、1−ペンタノール、4−エチルシクロヘキサノール、ニトロソメチルウレタン、デカン、ドデカン、2,2,4−トリメチル−ヘキサン、ノナン、2,4−ジメチル−ヘプタン、1−オクテン、ブチルベンゼン、エチルアセテート、o−キシレン、β−フェランドレン、2−プロペナール、D−リモネン、1−メトキシ−2−プロパノール、オクタナール、1,3−ジクロロ−ベンゼン、1−デカノール、α,α−ジメチル−β−フェニルエチル=アセテート、2−メチルーフェノール、エチルアセテート、DL−アラニル−L−アラニン、及び3,3−ジメチル−(3H)インダゾールであった。以下、これらの成分からなる群を、乳癌マーカー群という。
【0031】
乳癌の罹患の有無と膵癌の罹患の有無の両方と相関性が高い成分は、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、ベンズアルデヒド、ヘプタナール、酢酸、2−メチル−プロピオン酸、デカナール、フェノール、ブタナール、酪酸、1−オクテン−3−オール、1−プロパノール、アセトイン、プロピオン酸、2,3−ブタンジオン、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、アセトフェノン、2−メチルフラン、1,2−エタンジオール、1−ブタノール、n−ヘキサン、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、3−メチル−1−ブタノール、ノナナール、1−ヘキサノール、2−ブタノン、及び二硫化炭素であった。尚、これらの成分は、乳癌及び膵癌の両方の罹患の有無と相関性が高いのであれば、乳癌及び膵癌以外の癌の罹患の有無とも相関性が高いと、合理的に類推できる。以下、これらの成分からなる群を、共通マーカー群という。
【0032】
上記の成分についての感度及び特異度を導出した。癌の罹患の可能性の評価においては、感度とは癌罹患者全員に対する癌に罹患している可能性が高いと判定された人の割合であり、特異度とは、非罹患者全員に対する癌に罹患している可能性が高いと判定されなかった人の割合である。乳癌の罹患の可能性の評価においては、感度とは乳癌罹患者全員に対する乳癌に罹患している可能性が高いと判定された人の割合であり、特異度とは、乳癌非罹患者全員に対する乳癌に罹患している可能性が高いと判定されなかった人の割合である。膵癌の罹患の可能性の評価においては、感度とは膵癌罹患者全員に対する膵癌に罹患している可能性が高いと判定された人の割合であり、特異度とは、膵癌非罹患者全員に対する膵癌に罹患している可能性が高いと判定されなかった人の割合である。
【0033】
膵癌マーカー群に含まれる成分、乳癌マーカー群に含まれる成分、及び共通マーカー群に含まれる成分のうち、癌の罹患の可能性の評価において、感度を特に高くできる成分、特異度を特に高くできる成分、及び感度と特異度の合計を特に高くできる成分を抽出した。その結果、1−メチルピロリジノン、二硫化炭素、アセトアルデヒド、2−メチル−酪酸、アセトン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、2−メチル−プロピオン酸、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、1−プロパノール、プロピオン酸、1−ヘプタノール、ヘプタナール、2−メチル−1−プロパノール、フェノール、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オール、メルカプトアセトン、2−ブタノン、アセトフェノン、2−メチルフラン、アセトイン、2,3−ブタンジオン、メタノール、シクロヘキサノン、ジメチルトリスルフィド、2,4−ジメチルヘキサン、1−ペンタノール、n−ヘキサン、1−ヘプテン、4−エチルシクロヘキサノール、酢酸メチルエステル、ニトロソメチルウレタン、2−メチル−1,3−ブタジエン、デカン、3−メチル−1−ブタノール、ドデカン、2−エチル−1−ヘキサノール、2,2,4−トリメチルヘキサン、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトニトリル、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、ヘキサナール、ノナン、ノナナール、ブタナール、2,4−ジメチルヘプタン、ヘキサン酸、1−オクテン、1,2−エタンジオール、1−ペンテン、ブチルベンゼン、5−メチル−1−ヘプテン、エチルアセテート、7,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エン、o−キシレン、1−ヘキサノール、β−フェランドレン、メントール、2−プロペナール、プロパナール、D−リモネン、ジメチルジスルフィド、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ブテン、オクタナール、4−イソプロペニルトルエン、1,3−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、及び1−ブタノールは、感度、特異度、又は感度と特異度の合計を特に高くできることを見出した。このため、これらの成分が癌の罹患の可能性の評価に特に有用であることが分かった。マルチ反応リアルタイム質量分析計を用いた分析によれば、メチルメルカプタン、及びジメチルスルフィドも、癌の罹患の可能性の評価に特に有用であることが分かった。これらの成分からなる群を、以下、高精度癌マーカー群という。
【0034】
また、乳癌マーカー群に含まれる成分及び共通マーカー群に含まれる成分のうち、乳癌の罹患の可能性の評価において、感度、特異度、又は感度と特異度の合計を、特に高くできる物質を抽出した。その結果、ベンズアルデヒド、ヘプタナール、酢酸、2−メチル−酪酸、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、2−メチル−プロピオン酸、デカナール、フェノール、ブタナール、酪酸、1−オクテン−3−オール、1−ヘプタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−プロパノール、アセトイン、プロピオン酸、2−ブタノン、2,3−ブタンジオン、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、1,2−エタンジオール、1−ペンタノール、1−ブタノール、4−エチルシクロヘキサノール、ニトロソメチルウレタン、デカン、ドデカン、2,2,4−トリメチルヘキサン、n−ヘキサン、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、ノナン、3−メチル−1−ブタノール、2,4−ジメチルヘプタン、1−オクテン、2−メチルフラン、ノナナール、ブチルベンゼン、エチルアセテート、o−キシレン、β−フェランドレン、2−プロペナール、D−リモネン、1−メトキシ−2−プロパノール、オクタナール、及び1,3−ジクロロベンゼンは、感度、特異度、又は感度と特異度の合計を特に高くできることを見出した。これらの成分からなる群を、以下、高精度乳癌マーカー群という。
【0035】
また、膵癌マーカー群に含まれる成分及び共通マーカー群に含まれる成分のうち、膵癌の罹患の可能性の評価において、感度、特異度、又は感度と特異度の合計を、特に高くできる物質を抽出した。その結果、1−メチルピロリジノン、二硫化炭素、アセトアルデヒド、アセトン、2−メチル−プロピオン酸、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、1−プロパノール、プロピオン酸、ヘプタナール、フェノール、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オール、メルカプトアセトン、アセトフェノン、2−メチルフラン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、アセトイン、2,3−ブタンジオン、メタノール、ジメチルトリスルフィド、2,4−ジメチル−ヘキサン、n−ヘキサン、1−ヘプテン、酢酸メチルエステル、2−メチル−1,3−ブタジエン、3−メチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトニトリル、ヘキサナール、ノナナール、ブタナール、ヘキサン酸、1,2−エタンジオール、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン、7,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エン、1−ヘキサノール、メントール、プロパナール、ジメチルジスルフィド、2−ブテン、4−イソプロペニルトルエン、1,2,4−トリメチルベンゼン、及び1−ブタノールは、感度、特異度、又は感度と特異度の合計を特に高くできることを見出した。マルチ反応リアルタイム質量分析計を用いた分析によれば、ジメチルスルフィドも、感度、特異度、又は感度と特異度の合計を特に高くできることを見出した。これらの成分からなる群を、以下、高精度膵癌マーカー群という。
【0036】
また、高精度癌マーカー群に含まれる成分から癌の罹患の可能性の評価において特に有効である成分を抽出した。その結果、1−メチルピロリジノン、2−メチル−プロピオン酸、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、フェノール、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オール、メルカプトアセトン、アセトフェノン、アセトイン、二硫化炭素、2−メチル−酪酸、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、デカナール、プロピオン酸、ヘプタナール、2−メチルフラン、2,3‐ブタンジオン、ノナナール、ブタナール、及びヘキサン酸は、感度、特異度、又は感度と特異度の合計を特に高くでき、且つ癌の罹患の可能性の評価において非常に有効であることを見出した。メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、及びジメチルトリスルフィドも、同様に非常に有効であることを見出した。これらの成分からなる群を、以下、最重要癌マーカー群という。
【0037】
しかし、如何なる成分を用いても、癌の罹患の可能性を実用上十分に高い精度で判定することは困難であり、ましてや乳癌、膵癌などの特定の癌の罹患の可能性を高い精度で判定するのは非常に困難であった。
【0038】
そこで、本発明者らは、癌の罹患の可能性の評価精度を向上すると共に、特定の癌の罹患の可能性を評価するための判定手法を鋭意研究した。その結果、二種以上の成分を選択すると、これらの成分の呼気中の濃度の測定結果の組み合わせが、一種のみの成分の濃度の測定結果と比べて、癌の罹患の有無に大きく相関し、しかも特定の癌の罹患の有無の可能性を選択的に判定することも可能となることが分かった。
【0039】
更に、本発明者らは、癌の罹患の有無の可能性を判定するにあたって、特に精度の高い判定を可能とする成分の組み合わせも見出した。
【0040】
<評価方法>
本発明の一実施形態に係る評価方法は、(a)評価対象の人(以下、対象者という)の呼気を採取するステップと、(b)呼気中の複数種の対象成分のそれぞれの濃度を測定するステップと、(c)濃度の測定結果に基づいて、対象者が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出するステップとを含む。例えば評価点が高い程、或いは低い程、癌に罹患している可能性が高いと、判定することができる。
【0041】
(c)のステップにおいては、更に、評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に、対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定してもよい。例えば評価点が高い程癌に罹患している可能性が高い場合には、評価点が所定の基準点以上であれば、対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定することができる。基準点は、例えば複数の被験者の呼気の分析結果に基づいて決定される。更に、(c)のステップにおいて、評価点が特定の範囲内又は特定の値ではない場合には、対象者が癌に罹患している可能性が低いと判定してもよい。
【0042】
本実施形態の評価方法では、対象者が癌に罹患している可能性を、対象者の呼気を分析するという簡便な方法によって、長期間のモニタリングを要さず評価することができる。更に、二種以上の対象成分の濃度の測定結果を利用して評価することで、高い確実性をもって評価することができる。
【0043】
更に、本実施形態では、二種以上の対象成分の濃度の測定結果を利用して評価することで、特に対象者が乳癌に罹患している可能性、並びに対象者が膵癌に罹患している可能性を、高い確実性をもって評価することができる。
【0044】
複数種の対象成分には、例えば共通マーカー群から選択される少なくとも二種の成分が含まれる。この場合、癌の種類を問うことなく、対象者が癌に罹患している可能性を判定することができる。複数種の対象成分は、共通マーカー群から選択される少なくとも二種の成分のみを含んでもよい。
【0045】
複数種の対象成分には、高精度癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分が含まれてもよい。この場合、癌の種類を問うことなく、対象者が癌に罹患している可能性を高い感度及び特異度で判定することができる。複数種の対象成分は、高精度癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分のみを含んでもよい。複数種の対象成分が、共通マーカー群中の高精度癌マーカー群に含まれない成分のうち少なくとも一種の成分を更に含んでもよい。
【0046】
複数種の対象成分には、乳癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分が含まれてもよい。この場合、対象者が乳癌に罹患している可能性を判定することができる。複数種の対象成分は、乳癌マーカー群に含まれる成分のみを含んでもよい。
【0047】
複数種の対象成分には、高精度乳癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分が含まれてもよい。この場合、対象者が乳癌に罹患している可能性を高い感度及び特異度で判定することができる。複数種の対象成分は、高精度乳癌マーカー群に含まれる成分のみを含んでもよい。複数種の対象成分は、乳癌マーカー群中の高精度乳癌マーカー群に含まれない成分のうち少なくとも一種の成分を更に含んでいてもよい。
【0048】
複数種の対象成分には、膵癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分が含まれる。この場合、対象者が膵癌に罹患している可能性を判定することができる。複数種の対象成分は、膵癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分のみを含んでもよい。
【0049】
複数種の対象成分には、高精度膵癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分が含まれてもよい。この場合、対象者が膵癌に罹患している可能性を高い感度及び特異度で判定することができる。複数種の対象成分は、高精度膵癌マーカー群に含まれる成分のみを含んでもよい。複数種の対象成分は、膵癌マーカー群中の高精度膵癌マーカー群に含まれない成分のうち少なくとも一種の成分を更に含んでいてもよい。
【0050】
複数種の対象成分には、最重要癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分が含まれてもよい。この場合、癌の種類を問うことなく、対象者が癌に罹患している可能性を高い感度及び特異度で判定することができる。複数種の対象成分は、最重要癌マーカー群から選択される少なくとも二種の成分のみを含んでいてもよい。複数種の対象成分が、共通マーカー群中の最重要癌マーカー群に含まれない成分のうち少なくとも一種の成分を更に含んでもよい。
【0051】
複数の対象成分が、ベンズアルデヒド、2−メチル−プロピオン酸、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、1−メチルピロリジノン、アセトフェノン、2−メチルフラン、1−オクテン−3−オール、プロピオン酸、アセトイン、2−ブタノン、1,2−エタンジオール、2,3−ブタンジオン、アセトアルデヒド、2−メチル−酪酸、1−デカノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−プロペナール、エチルアセテート、及び3,3−ジメチル−(3H)インダゾールからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含むことも好ましい。これらの成分が用いられると、本実施形態のように対象成分が複数種である場合に、癌に罹患している可能性の評価の精度を特に向上させうる。特に乳癌に罹患している可能性を評価する場合には、対象成分に、2−メチル−酪酸、1−デカノール、1−ヘプタノール、2−プロペナール、エチルアセテート、3,3−ジメチル−(3H)インダゾール、ベンズアルデヒド、2−メチル−プロピオン酸、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、アセトフェノン、2−メチルフラン、1−オクテン−3−オール、プロピオン酸、アセトイン、2−ブタノン、1,2−エタンジオール、2,3−ブタンジオン、3−メチル−1−ブタノール、及び1−ヘキサノールからなる群から選択される少なくとも一種の成分が含まれることが好ましい。また、膵癌に罹患している可能性を評価する場合には、対象成分に1−メチルピロリジノン、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチル−プロピオン酸、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、アセトフェノン、2−メチルフラン、1−オクテン−3−オール、プロピオン酸、アセトイン、2−ブタノン、1,2−エタンジオール、2,3−ブタンジオン、3−メチル−1−ブタノール、及び1−ヘキサノールからなる群から選択される少なくとも一種の成分が含まれることが好ましい。
【0052】
本実施形態の評価方法では、例えば(c)のステップにおいて、評価点を算出するにあたり、複数種の対象成分の濃度の測定結果と、複数種の対象成分の各々に設定された閾値とを比較した結果に基づいて、評価点を算出する。
【0053】
対象成分の濃度は、例えば採取した呼気全体に対する、呼気中の対象成分の割合である。
【0054】
対象成分の濃度は、呼気に含まれる対象成分以外の一の成分(以下、基準成分という)の割合を基準にした相対濃度であってもよい。相対濃度は、例えば、呼気全体に対する呼気中の対象成分の割合を、呼気全体に対する呼気中の基準成分の割合で除した値である。対象成分の濃度が相対濃度であると、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。基準成分は、人体からの排出量に個人差が少ない成分から選択されることが好ましい。特に基準成分が、水蒸気又は2−ブテンであることが好ましい。この場合、癌に罹患している可能性の評価を、特に正確に行うことができる。
【0055】
本実施形態の評価方法では、例えば(c)のステップにおいて、評価点を算出するにあたり、複数種の対象成分の濃度をそれぞれ標準化して、複数種の対象成分の標準化値を算出し、この標準化値と、複数種の対象成分の各々に設定された閾値とを比較した結果に基づいて、評価点を算出してもよい。この場合、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0056】
標準化値は、例えば下記式(2)によって算出される。
【0057】
【数1】
【0058】
式(2)において、aiは第i番の対象成分の濃度の測定結果である。xiは複数の被験者の呼気中の第i番の対象成分の濃度の平均値である。yiは複数の被験者の呼気中の第i番の対象成分の濃度の標準偏差である。Aiは上記の通り第i番の対象成分の標準化値である。xi、及びyiは、上述の複数の被験者の呼気の分析結果から決定される。
【0059】
標準化値の算出にあたり、特にaiが第i番の対象成分の相対濃度の測定結果であれば、癌に罹患している可能性の評価を、特に正確に行うことができる。
【0060】
閾値は、複数の被験者の呼気の分析結果に基づいて決定される。複数の被験者の呼気の分析方法は既に説明した通りである。閾値は、複数の被験者の呼気中の対象成分の濃度分布を、癌に罹患している可能性が高い集合(以下、陽性集合という)と、癌に罹患している可能性が低い集合(以下、陰性集合)とに区分する値である。陽性集合には、癌に罹患している人のうち20%以上の人が属するように閾値が決定されることが好ましく、50%以上の人が属するように閾値が決定されることがより好ましく、80%以上の人が属するように閾値が決定されることがよりさらに好ましい。また、陰性集合には、癌に罹患していない人のうち75%以上の人が属するように閾値が決定されることが好ましく、85%以上の人が属するように閾値が決定されることがより好ましく、95%以上の人が属するように閾値が決定されることがよりさらに好ましい。
【0061】
癌の種類を問わない癌の罹患の可能性の評価では、陽性集合は癌罹患者の割合が相対的に高い集合であり、陰性集合は癌罹患者の割合が相対的に低い集合である。閾値は、この陽性集合と陰性集合とを区分するように決定される。この場合、閾値は、対象成分の濃度分布の状態に応じ、非罹患者の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される第3四分位値、非罹患者の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される中央値、被験者全体の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される中央値などに決定される。
【0062】
乳癌の罹患の可能性の評価では、陽性集合は乳癌罹患者の割合が相対的に高い集合であり、陰性集合は乳癌罹患者の割合が相対的に低い集合である。閾値は、この陽性集合と陰性集合とを区分するように決定される。この場合、閾値は、対象成分の濃度分布の状態に応じ、乳癌非罹患者の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される第3四分位値、乳癌非罹患者の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される中央値、被験者全体の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される中央値などに決定される。
【0063】
膵癌の罹患の可能性の評価では、陽性集合は膵癌罹患者の割合が相対的に高い集合であり、陰性集合は膵癌罹患者の割合が相対的に低い集合である。閾値は、この陽性集合と陰性集合とを区分するように決定される。この場合、閾値は、対象成分の濃度分布の状態に応じ、膵癌非罹患者の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される第3四分位値、膵癌非罹患者の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される中央値、被験者全体の呼気中の対象成分の濃度分布から算出される中央値などに決定される。
【0064】
以上は、濃度の閾値の決定方法に関するが、濃度の標準化値の閾値の決定方法の場合も同様である。
【0065】
評価点を算出する際、例えばまず対象成分の濃度の測定結果又はその標準化値と閾値とを比較して、各対象成分の点数を、測定結果が陽性集合に属する場合に所定の値に決定し、陰性集合に属する場合に別の所定の値に決定する。例えば陽性集合に属する場合では点数を「1点」と決定し、陰性集合に属する場合では点数を「0点」と決定する。
【0066】
感度、特異度、又は感度と特異度の合計が高い対象成分は、癌に罹患している可能性の判定に対する寄与が高いと評価できる。閾値を利用して各対象成分に関する点数を決定するにあたり、癌に罹患している可能性の有無の判定に対する寄与を考慮すれば、より高い精度で癌に罹患している可能性の有無を判定できる。例えば、複数の対象成分間で、感度、特異度、又は感度と特異度の合計に差がある場合、すなわち癌に罹患している可能性の判定に対する寄与に差がある場合には、その寄与に応じて、複数の対象成分間で点数に差をつけてもよい。寄与の程度は、例えば判定にあたって感度を重視する場合には感度の差によって決定され、特異度を重視する場合には特異度の差によって決定され、感度と特異度を共に重視する場合には感度と特異度の合計によって決定される。例えば寄与がより高い対象成分の場合には、陽性集合に属する場合での点数を「2点」、陰性集合に属する場合での点数を「0点」と決定し、寄与の程度が低い対象成分の場合には、陽性集合に属する場合での点数を「1点」、陰性集合に属する場合での点数を「0点」と決定する。
【0067】
複数の対象成分についてそれぞれ決定された点数から評価点を算出する場合、例えば全ての点数の合計を評価点とする。尚、例えば全ての点数の乗数を評価点とするなど、他の適宜の方法で評価点を算出してもよい。この場合、評価点が高い程、癌に罹患している可能性が高いと評価できる。
【0068】
癌に罹患している可能性の判定に対する対象成分間の寄与の相違を考慮する場合、対象成分を寄与の程度に応じて複数の群に分類し、対象成分の点数に基づいて寄与に応じた所定のルールで各群の点数を決定し、これらの群の点数に基づいて評価点を決定してもよい。対象成分の分類にあたっては、例えば、対象成分を、癌に罹患している可能性の判定に対する寄与がより大きい第一群と、癌に罹患している可能性の判定に対する寄与がより小さい第二群に分類することができる。この場合、例えば第一群の点数は第一群に含まれる対象成分の合計点数に決定し、第二群の点数は第二群に含まれる対象成分の合計点数が所定の点数(例えば1点)以上である場合に1点、合計点数が0点の場合は0点に決定することができる。評価点は、例えば複数の群の合計点数に決定できる。
【0069】
癌に罹患している可能性の判定にあたっては、評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定し、そうでない場合には対象者が癌に罹患している可能性が低いと判定することができる。例えば評価点が高いほど癌に罹患している可能性が高くなるように評価点を決定する場合には、評価点が基準点以上である場合に対象者が癌に罹患している可能性が高い判定し、評価点が基準点未満である場合には対象者が癌に罹患している可能性が低いと判定することができる。基準点は、複数の被験者の呼気の分析結果に基づき、感度及び特異度のうちの一方又は両方が高くなるように設定される。このため、癌に罹患している可能性を高い精度で判定することができる。
【0070】
評価方法は、利用する対象成分のセットが互いに異なる複数の評価を含んでもよい。この場合、例えば感度が高い判定が可能な評価と、特異度が高い判定が可能な評価とを組み合わせることで、非常に精度の高い判定が可能となる。
【0071】
例えば評価方法が、特異度が比較的高い判定が可能な第一の評価と、感度が比較的高い判定が可能な第二の評価とを含んでもよい。この場合、例えばまず第一の評価を行い、得られた評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定し、そうでない場合には判定を保留して第二の評価を行う。第二の評価を行う場合は、第二の評価で得られた評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定し、そうでない場合には癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0072】
評価方法が、感度が比較的高い判定が可能な第一の評価と、特異度が比較的高い判定が可能な第二の評価とを含んでもよい。この場合には、例えばまず第一の評価を行い、得られた評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に判定を保留して第二の評価を行い、そうでない場合には癌に罹患している可能性が低いと判定する。第二の評価を行う場合は、第二の評価で得られた評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定し、そうでない場合には癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0073】
本実施形態の評価方法では、評価点を算出するにあたり、(c)のステップにおいて、複数種の対象成分の濃度をそれぞれ標準化して、複数種の対象成分の標準化値を算出し、この複数の標準化値と、複数の標準化値のそれぞれの寄与度とに基づいて、評価点を算出してもよい。標準化値の寄与度とは、標準化値と癌の罹患の有無との相関性を定量化した値であり、複数の被験者の呼気の分析結果から、対象成分毎に決定される。この場合、特に精度のよい判定が可能である。
【0074】
また、本発明者らは、二種以上の対象成分の組み合わせと癌の罹患の有無との間に高い相関関係があることを、複数の被験者の呼気の分析結果から見出し、このことを利用して、非常に精度のよい判定が可能であることも見出した。具体的には、複数種の対象成分の標準化値とその寄与度を利用する場合、更に複数の標準化値のうち二種以上の標準化値の組み合わせと、この組み合わせの寄与度とに更に基づいて、評価点を算出すると、非常に精度のよい判定が可能である。すなわち、複数の標準化値と、複数の標準化値のそれぞれの寄与度と、複数の標準化値のうち二種以上の標準化値の組み合わせと、この組み合わせの寄与度とに基づいて、評価点を算出してもよい。
【0075】
標準化値及びその寄与度を利用した判定方法の、より具体的な例について説明する。評価点は、下記式(1)によって算出することができる。
【0076】
【数2】
【0077】
式(1)において、nは対象成分の種類の数である。Aiは、対象成分に第1番から第n番までの番号を付した場合の、第i番の対象成分の標準化値であり、Ajは第j番の対象成分の標準化値である。kijは第i番の対象成分の標準化値と第j番の対象成分の標準化値との組み合わせの寄与度である。Sは評価点である。尚、i=jである場合にはkijは一つの対象成分の標準化値の二乗値の寄与度(すなわち一種の対象成分の標準化値の寄与度)であり、i≠jである場合にはkijは互いに異なる二種の対象成分の標準化値の乗数の寄与度(すなわち二種の対象成分の標準化値の組み合わせの寄与度)である。
【0078】
標準化値は、例えば上記式(2)によって算出される。
【0079】
ijは、上述の複数の被験者の呼気の分析結果から決定される。
【0080】
ijの決定方法は例えば次の通りである。複数の被験者の呼気中の複数の対象成分の濃度を標準化することで、複数の対象成分の各々の標準化値の分布を得る。この結果に基づいて、癌の罹患の有無に関する対象成分間の相関行列と、その逆行列を算出する。この結果から、S=YAYT/nの式により、kijの値及び式(1)を導出できる。尚、Yは、各対象成分の濃度の標準化値であるY1、Y2・・・を行列にした値、すなわち、ベクトル値であり、Aは逆行列であり、nは対象成分の種類の数である。すなわち、非罹患者の集団と癌罹患者の集団との二つの集団を想定した場合の、非罹患者の集団の中心からみた癌罹患者の距離にあたるマハラノビス距離を、評価点として使用できる。
【0081】
式(1)を利用する場合、対象成分は3種類以上であることが好ましい。この場合、対象者が癌に罹患している可能性を高い感度及び特異度で判定することができる。
【0082】
式(1)を利用する場合、複数種の対象成分が、乳癌マーカー群から選択される少なくとも一種の成分を含有すると、対象者が乳癌に罹患している可能性を高い感度及び特異度で判定することができる。複数種の対象成分が、高精度乳癌マーカー群から選択される少なくとも一種の成分を含有すると、対象者が乳癌に罹患している可能性を更に高い感度及び特異度で判定することができる。
【0083】
式(1)を利用する場合、複数種の対象成分が、膵癌マーカー群から選択される少なくとも一種の成分を含有すると、対象者が膵癌に罹患している可能性を高い感度及び特異度で判定することができる。複数種の対象成分が、高精度膵癌マーカー群から選択される少なくとも一種の成分を含有すると、対象者が膵癌に罹患している可能性を更に高い感度及び特異度で判定することができる。
【0084】
式(1)を利用する場合、特に複数種の対象成分が、ブタナール、酪酸、2−メチル−酪酸、ヘプタナール、2−メチル−プロピオン酸、アセトン、二硫化炭素、n−ヘキサン、フェノール、プロピオン酸、2−メチル−1,3−ブタジエン、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、5−メチル−1−ヘプテン、1−ペンタノール、1−ペンテン、2,3−ブタンジオン、アセトアルデヒド、アセトイン、4−メチル−ベンズアルデヒド、ブチルベンゼン、デカナール、デカン、二酸化炭素、2,4−ジメチル−ヘプタン、イソプロピルアルコール、ノナナール、オクタナール、2,3−ジメチル−ペンタン、及びウンデカンからなる群から選択される3種以上の成分を含むことが好ましく、この群に含まれる全ての成分を含めば更に好ましい。この場合、対象者が乳癌に罹患している可能性を特に高い感度及び特異度で判定することができる。
【0085】
式(1)を利用する場合、複数種の対象成分が、(2−アジリジニルエチル)アミン、3,3−ジメチル−(3H)インダゾール、1−ペンタノール、2−ブテン、3−メチル−2−ペンタノン、5−メトキシメトキシヘキサ−2,3−ジエン、酢酸、アセトニトリル、ブタナール、2−メチル−ブタン、二硫化炭素、[1S−(1α,2β,4β)]―2−クロロ−4−メチル−1−(1−メチルエチル)−シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ジアリルカーボネート、4,6−ジメチル−ドデカン、2,5−ジメチル−フラン、グリコールアルデヒドダイマー、ヘプタナール、2−メチル−ヘプタン、(S)−1−アラニンエチルアミド、オクタン、2,6,6−トリメチル−オクタン、2−エチルヘキシルヘキシルエステルシュウ酸、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、2−メチル−フェノール、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、スチレン、テトラヒドロフラン、及びβ−フェランドレンからなる群から選択される3種以上の成分を含むことも好ましく、この群に含まれる全ての成分を含めば更に好ましい。この場合も、対象者が乳癌に罹患している可能性を特に高い感度及び特異度で判定することができる。
【0086】
式(1)を利用する場合、複数種の対象成分が、デカナール、2−メチル−プロピオン酸、二硫化炭素、アセトン、1−プロパノール、2−メチル−1,3−ブタジエン、アセトアルデヒド、アセトイン、二酸化炭素、ノナナール、1,2−エタンジオール、1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−オクテン、2,3−ブタンジオン、メチル酢酸エステル、ベンゼン、酪酸、エタノール、エチルベンゼン、ユーカリプトール、ヘプタナール、o−シメン、酸素、フェノール、1−(メチルチオ)−プロパン、プロピオン酸、及びウンデカンからなる群から選択される3種以上の成分を含むことも好ましく、この群に含まれる全ての成分を含めば更に好ましい。この場合、被験者が膵癌に罹患している可能性を特に高い感度及び特異度で判定することができる。
【0087】
式(1)を利用する場合、複数種の対象成分が、1,2−エタンジオール、デカナール、メルカプトアセトン、ヘプタナール、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、シクロヘキサノン、ベンズアルデヒド、1−ペンタノール、デカン、2,2,4−トリメチル−ヘキサン、ドデカン、2−メチル−酪酸、1−ブタノール、n−ヘキサン、1−オクテン−3−オール、4−エチルシクロヘキサノール、二硫化炭素、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、ニトロソメチルウレタン、及びアセトインからなる群から選択される3種以上の成分を含むことも好ましく、この群に含まれる全ての成分を含めば更に好ましい。この場合、対象者が乳癌に罹患している可能性を特に高い感度及び特異度で判定することができる。
【0088】
式(1)を利用する場合、複数種の対象成分が、2−メチル−1,3−ブタジエン、1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−プロパノール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトアルデヒド、酢酸、メチル酢酸エステル、アセトン、アセトニトリル、ベンズアルデヒド、酪酸、ヘキサナール、イソプロピルアルコール、メタノール、ノナナール、プロパナール、及び2−メチル−プロピオン酸からなる群から選択される3種以上の成分を含むことも好ましく、この群に含まれる全ての成分を含めば更に好ましい。この場合、対象者が膵癌に罹患している可能性を特に高い感度及び特異度で判定することができる。
【0089】
本実施形態では、評価点を、下記式(3)によって算出してもよい。
【0090】
【数3】
【0091】
式(3)において、nは対象成分の種類の数である。Aiは、対象成分に第1番から第n番までの番号を付した場合の、第i番の対象成分の濃度の標準化値である。αiは第i番の対象成分の標準化値の寄与度である。上述の通り、標準化値の寄与度とは、標準化値と癌の罹患の有無との相関性を定量化した値であり、複数の被験者の呼気の分析結果から、対象成分毎に決定される。Sは評価点である。標準化値は、例えば上記式(2)によって算出される。この場合、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。標準化値が相対濃度の標準化値である場合、すなわち、式(2)において、aiが第i番の対象成分の相対濃度である場合は、癌に罹患している可能性の評価を、特に正確に行うことができる。また、複数の対象成分をそれぞれ閾値と比較する場合のような複数回の処理を必要とせず、標準化値に寄与度を乗じた値を加算するだけで、評価点を得ることができる。
【0092】
式(3)において、αiは1であってもよい。この場合でも、癌に罹患している可能性の評価の正確性を高めることができる。
【0093】
式(3)において、αiは正の数であっても負の数であってもよい。呼気中の濃度が高いほど癌に罹患している可能性が高いと評価される対象成分に対応するαiが正の数であり、呼気中の濃度が高いほど癌に罹患している可能性が低いと評価される対象成分に対応するαiが負の数であれば、癌に罹患している可能性の評価の正確性を更に高めることができる。
【0094】
式(3)に示す場合に限らず、寄与度は、正の数であっても負の数であってもよい。
【0095】
以上の通り、本実施形態では、癌に罹患している可能性の評価、並びに癌に罹患している可能性の判定のために、対象者の呼気に含まれる複数種の対象成分のそれぞれの濃度を測定し、この濃度の測定結果に基づいて、評価対象の人が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出する。評価点を算出する方法の具体例としては、上記の通り閾値を利用する方法と標準化値を利用する方法があるが、評価点を算出する方法はこれらに制限されない。
【0096】
本実施形態では、癌に罹患している可能性の評価のための閾値、並びに癌に罹患している可能性の判定のための基準点は、特に特異度と感度との合計が120%以上となるように、設定されることが好ましい。尚、閾値及び基準点は、評価及び判定の目的によっても適宜決定される。例えば癌に罹患している可能性が高いと判定された人に対して、癌の罹患の有無の診断のために比較的簡単な検査をおこなう場合には、特に感度が高くなるように閾値及び基準点を決定することが好ましい。一方、癌に罹患している可能性が高いと判定された人に対して、生検などの負担の大きい検査をする場合には、特に特異度が高くなるように閾値及び基準点を決定することが好ましい。
【0097】
尚、本実施形態では、対象者が癌に罹患している可能性の評価にあたって、癌に罹患していることに、前癌状態にあることが含まれていてもよい。この前癌状態とは、癌発生の危険性が有意に増加した一般的状態である。例えば、対象者が乳癌に罹患している可能性を評価する場合には、乳癌に罹患していることに、乳癌の前癌状態にあることが含まれていてもよい。例えば、対象者が膵癌に罹患している可能性を評価する場合には、膵癌に罹患していることに、膵癌の前癌状態にあることが含まれていてもよい。
【0098】
<試験方法>
本発明の一実施形態に係る試験方法は、(a)評価対象の人(以下、対象者という)の呼気を採取するステップと、(b)呼気中の複数種の対象成分のそれぞれの濃度を測定するステップと、(c)濃度の測定結果から評価点を算出し、評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に、対象者が癌に罹患している可能性が高いという基準で、前記評価点と前記特定の範囲又は特定の値とを比較するステップとを含む。
【0099】
この試験方法は、癌罹患危険度の判定までは行わないことを除けば、上記評価方法と同じである。
【0100】
<評価装置>
以下、本実施形態に係る評価装置の一例について説明する。
【0101】
本実施形態の評価装置1は、測定装置3とコントローラ4とを備える。測定装置3は、対象者の呼気に含まれる複数種の対象成分の各々の濃度を測定するように構成されている。コントローラ4は、測定装置3による濃度の測定結果に基づいて、対象者が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出するように構成されている。コントローラ4は、更に、評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に、対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定するように構成されていてもよい。コントローラ4は、例えば上述した評価方法によって評価点を算出し、或いは更に判定を行うように構成される。
【0102】
本実施形態の評価装置1を用いると、対象者が癌に罹患している可能性を、対象者の呼気を分析するという簡便な方法によって、長期間のモニタリングを要さず、且つ高い確実性をもって評価することができる。
【0103】
本実施形態に係る評価装置において、コントローラ4は、癌の種類を特定することなく、対象者が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出し、或いは更に評価点に基づいて対象者が癌に罹患している可能性が高いか否かの判定を行うように構成されていてもよい。
【0104】
また、上述の通り、本実施形態の評価方法では、上述の通り特に対象者が乳癌に罹患している可能性、並びに対象者が膵癌に罹患している可能性を、高い確実性をもって評価することができる。このため、本実施形態に係る評価装置において、コントローラ4は、対象者が乳癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出し、或いは更に評価点に基づいて対象者が乳癌に罹患している可能性が高いか否かの判定をするように構成されていてもよい。コントローラ4は、対象者が膵癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出し、或いは更に評価点に基づいて対象者が膵癌に罹患している可能性が高いか否かの判定をするように構成されていてもよい。癌の種類が特定される場合には、対象成分、評価点の算出方法、及び評価点に基づく判定方法は、癌の種類に応じて適切に設定されることが好ましい。
【0105】
本実施形態の評価装置1の一例について、より詳細に説明する。この評価装置1は、測定装置3及びコントローラ4に加えて、試料導入口2と、出力装置5とを備える。評価装置1には、キャリアガス源23が接続されている。
【0106】
試料導入口2は、対象者から採取した呼気を測定装置3へ導入するための入り口である。試料導入口2は流路21を介して測定装置3に通じている。試料導入口2は、例えば被験者の呼気が採取された気体成分吸着管6を着脱可能に保持するように構成されている。試料導入口2に保持された状態では、気体成分吸着管6の一方の開口が試料導入口2に接続される。更に、試料導入口2に保持された状態では、気体成分吸着管6の他方の開口は流路22を通じてキャリアガス源23に接続される。
【0107】
キャリアガス源23は、測定装置3へ流路21及び流路22を通じてキャリアガスを供給するように構成されている。キャリアガス源23は、例えばキャリアガスを貯蔵したガスボンベ又はガスポンプである。
【0108】
本実施形態では、測定装置3は、分離カラム31と質量分析計32とを備えるガスクロマトグラフ質量分析装置である。分離カラム31が流路を介して試料導入口2に接続され、更に質量分析計32が分離カラム31に接続されている。測定装置3による濃度の測定結果は、コントローラ4へ送信される。
【0109】
なお、測定装置3は、ガスクロマトグラフ質量分析装置以外の装置でもよい。例えば測定装置3は、マルチ反応リアルタイム質量分析計でもよい。マルチ反応リアルタイム質量分析計は、CIイオン選択型質量分析計とも呼ばれる。マルチ反応リアルタイム質量分析計を用いると、呼気中の複数種の対象成分の濃度を高速で測定することができ、しかも対象成分の濃度が非常に低くても高精度の測定が可能である。また、マルチ反応リアルタイム質量分析計を用いると、ガスクロマトグラフ質量分析装置では測定できない水蒸気などの成分の濃度の測定が可能である。
【0110】
コントローラ4は、例えばプログラムに従って機能を実現するコンピュータである。コンピュータは、主なハードウェア要素として、プログラムを処理するプロセッサと、インターフェース用のデバイスとを備える。この種のコンピュータは、メモリをプロセッサと一体に備えるマイコン、あるいはプロセッサとは別にメモリを備える構成など、どのような構成であってもよい。
【0111】
本実施形態では、プログラムが、コンピュータに接続されたコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。また、プログラムを、コンピュータ内に設けられたROM(Read Only Memory)にあらかじめ格納しておいてよい。また、コンピュータを介して、プログラムをロードし、コンピュータにコントローラとしての機能を実現させるプログラム命令を実行するコンピュータプログラムプロダクトが用いられてもよい。また、プログラム支援装置から記録媒体にプログラムを書き込むか、或いは、インターネットのような電気通信回路を通してプログラムをダウンロードすることによって、プログラムをコントローラ4に実装してもよい。
【0112】
本実施形態では、コントローラ4は、測定装置3による濃度の測定結果に基づいて、対象者が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出するように構成されている。コントローラ4は、更に評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に対象者が癌に罹患している可能性が高いと判定するように構成されていてもよい。コントローラ4は、評価点が特定の範囲内ではない場合又は特定の値ではない場合に対象者が癌に罹患している可能性が低いと判定するように構成されていてもよい。コントローラ4による評価点の算出方法及び判定方法は、上述の評価方法における(c)のステップの方法と同じである。コントローラ4は、更に評価結果と判定結果のうち少なくとも一方をコントローラ4の外部へ送信するように構成されている。本実施形態では、コントローラ4は、評価結果と判定結果のうち少なくとも一方を出力装置5へ送信するように構成されている。
【0113】
出力装置5は、コントローラ4から送信された評価結果と判定結果のうち少なくとも一方を出力するように構成されている。出力とは、評価装置1を操作する者(以下、操作者ともいう)等の人に、視覚、聴覚等の五感に訴える方法で報知することをいう。出力装置5の例として、モニター、プリンター、ランプ、及びこれらのうち二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0114】
本実施形態の評価装置1の動作について説明する。
【0115】
対象者の呼気が捕集された気体成分吸着管6が試料導入口2に保持された状態で、キャリアガス源23から流路22へキャリアガスが供給されると、気体成分吸着管6内の呼気は、キャリアガスと一緒に、試料導入口2から流路21内へ流入する。呼気は流路21から測定装置3の分離カラム31に送られ、分離カラム31中で呼気中の複数の対象成分が分離される。分離された複数の対象成分は分離カラム31から質量分析計32へと順次送られる。質量分析計32は対象成分の濃度の測定結果として例えばマス・スペクトルを作成し、この測定結果をコントローラ4へ送信する。コントローラ4は、測定結果に基づいて、対象者が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出し、或いは更に対象者が癌に罹患している可能性が高いか低いかを判定する。コントローラ4は評価結果及び判定結果のうち少なくとも一方を出力装置5へ送信する。出力装置5は、評価結果及び判定結果のうち少なくとも一方を出力する。
【0116】
尚、本実施形態において、評価装置1がメモリなどの記憶装置を備えてもよい。この場合、コントローラ4が評価結果及び判定結果のうち少なくとも一方を記憶装置へ送信して記憶装置に記録するように構成されていてもよい。評価装置1が記録媒体に記録を書き込むライターを備えてもよい。この場合、コントローラ4が評価結果及び判定結果のうち少なくとも一方をライターへ送信して、この評価結果及び判定結果のうち少なくとも一方をライターに記録媒体へ記録させるように構成されていてもよい。コントローラ4が、評価結果及び判定結果のうち少なくとも一方を、評価装置1の外部の装置へ送信するように構成されていてもよい。これらの場合、評価装置1は、出力装置5を備えなくてもよい。
【0117】
また、本実施形態では試料導入口2が気体成分吸着管6を保持するように構成されているが、試料導入口2は、対象者が呼気を試料導入口2へ直接吹き付けることが可能なように構成されていてもよい。
【0118】
また、本実施形態では測定装置3がガスクロマトグラフ質量分析装置であるが、測定装置3は呼気中の対象成分の濃度を測定することができる装置であれば特に制限されず、例えばガス検知管、試薬塗布水晶張動子、分離カラムと半導体ガスセンサからなるセンサー・ガスクロマトグラフィー(エフアイエス株式会社製)、又は赤外分光光度計であってもよい。
【0119】
以下、より具体的な、癌に罹患している可能性の評価及び判定の方法を提示すると共に、これらの方法を後掲の表1〜表8にまとめて示す。
【0120】
<乳癌罹患可能性評価(閾値利用)>
以下の方法では、複数の対象成分毎に決定された閾値を利用して、乳癌に罹患している可能性を評価すると共に、乳癌に罹患している可能性が高いか否かを判定する。なお、以下の方法における対象成分の濃度は、呼気全体に対する、呼気中の対象成分の割合である。
【0121】
(1)方法1
方法1では、対象成分は、2−メチル−酪酸、ベンズアルデヒド及びデカナールである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0122】
方法1で被験者に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、乳癌罹患者22人のうち7人が乳癌に罹患している可能性が高いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。乳癌非罹患者29人のうち全員が乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。つまり、方法1の感度は31.8%、特異度は100%であった。従って、方法1では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0123】
(2)方法2
方法2では、対象成分は2−メチル−酪酸、ベンズアルデヒド、デカナール、及びフェノールである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0124】
方法2で被験者に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、乳癌罹患者22人のうち15人が乳癌に罹患している可能性が高いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。乳癌非罹患者29人のうち28人が乳癌に罹患している可能性が低いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が高いと判定された。つまり、方法2の感度は68.2%であり、特異度は96.6%であった。従って、方法2では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度及び特異度が高く、特に特異度が非常に高い。
【0125】
(3)方法3
方法3では、対象成分は1−デカノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、α,α−ジメチル−ベンゼンエタノールアセテート、2−メチル−フェノール、2−プロペナール、ノナナール、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、2−メチル−酪酸、エチルアセテート、DL−アラニル−L−アラニン、3,3−ジメチル−(3H)インダゾール、及び1−メチルピロリジノンである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は7点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0126】
方法3で被験者に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、乳癌罹患者22人のうち15人が乳癌に罹患している可能性が高いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。乳癌非罹患者29人のうち全員が乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。つまり、方法3の感度は68.2%、特異度は100%であった。従って、方法3では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度及び特異度が高く、特に特異度が非常に高い。
【0127】
(4)方法4
方法4では、対象成分は3−メチル−1−ブタノール、ノナナール、ベンズアルデヒド、酢酸、及びエチルアセテートである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は4点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0128】
方法4で被験者に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、乳癌罹患者22人のうち12人が乳癌に罹患している可能性が高いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。乳癌非罹患者29人のうち28人が乳癌に罹患している可能性が低いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が高いと判定された。つまり、方法4の感度は54.5%、特異度は96.6%であった。従って、方法4では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0129】
(5)方法5
方法5では、対象成分は1−プロパノール、1−オクテン−3−オール、フェノール、ヘプタナール、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸、アセトイン、及びメルカプトアセトンである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は6点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0130】
方法5で被験者に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、乳癌罹患者25人のうち11人が乳癌に罹患している可能性が高いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。乳癌非罹患者29人のうち26人が乳癌に罹患している可能性が低いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が高いと判定された。つまり、方法5の感度は44.0%、特異度は90.0%であった。従って、方法5では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0131】
(6)方法6
方法6では、対象成分はアセトイン、酪酸、1−プロパノール、メルカプトアセトン、1−メチルピロリジノン、及び1−オクテン−3−オールである。方法6は、第一の評価と、第二の評価を含み、第一の評価に基づく判定が優先する。
【0132】
第一の評価における対象成分は、アセトイン、酪酸、及び1−プロパノールである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合には判定を保留して第二の評価を行う。
【0133】
第二の評価における対象成分は、メルカプトアセトン、1−メチルピロリジノン、及び1−オクテン−3−オールである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0134】
方法6で被験者に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、乳癌罹患者25人のうち21人が乳癌に罹患している可能性が高いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。乳癌非罹患者29人のうち18人が乳癌に罹患している可能性が低いと判定され、残りが乳癌に罹患している可能性が高いと判定された。つまり、方法6の感度は84.0%、特異度は62.1%であった。従って、方法6では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度及び特異度が高く、特に感度が非常に高い。
【0135】
(7)方法7
方法7では、対象成分は、酪酸、フェノール、トリメチルアミン、アセトイン、メルカプトアセトン、及び1−オクテン−3−オールである。対象成分は、酪酸、フェノール、トリメチルアミン及びアセトインからなる第一群と、メルカプトアセトン及び1−オクテン−3−オールからなる第二群とに分類される。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上である場合に1点であり、合計点数が0点の場合は0点である。評価点は、第一群と第二群の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0136】
方法7で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は77%、特異度は55%であった。従って、方法7では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度が非常に高い。
【0137】
(8)方法8
方法8では、対象成分は2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、フェノール、メルカプトアセトン、及び1−オクテン−3−オールである。方法8は、第一の評価と第二の評価とを含み、第一の評価に基づく判定が優先される。
【0138】
第一の評価の対象成分は、2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、及びプロピオン酸である。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は1点であり、評価点が基準点以上である場合は判定を保留して第二の評価を行い、基準点未満である場合には乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0139】
第二の評価の対象成分は、メルカプトアセトン及び1−オクテン−3−オールである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は1点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0140】
方法8で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は77%、特異度は42%であった。従って、方法8では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度が非常に高い。
【0141】
(9)方法9
方法9では、対象成分は、2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、トリメチルアミン、2−メチルフラン、1−プロパノール、ブタノン、及びアセトインである。方法9は、第一の評価と第二の評価とを含み、第一の評価に基づく判定が優先される。
【0142】
第一の評価の対象成分は、2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、及びプロピオン酸である。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は1点であり、評価点が基準点以上である場合に判定を保留して第二の評価を行い、評価点が基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0143】
第二の評価の対象成分は、トリメチルアミン、2−メチルフラン、1−プロパノール、ブタノン、及びアセトインである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0144】
方法9で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は93%、特異度は13%であった。従って、方法9では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0145】
(10)方法10
方法10の対象成分は2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、フェノール、及びベンズアルデヒドである。対象成分は、2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸及びプロピオン酸からなる第一群と、フェノール及びベンズアルデヒドからなる第二群に分類される。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上である場合に1点であり、合計点数が0点である場合に0点である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数である。評価点は、第一群と第二群の合計点数である。基準点は1点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0146】
方法10で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は93%、特異度は13%であった。従って、方法10では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度が非常に高い。
【0147】
(11)方法11
方法11では、対象成分は2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、フェノール、及びベンズアルデヒドである。対象成分は、2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸及びプロピオン酸からなる第一群と、フェノール及びベンズアルデヒドからなる第二群とに分類される。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数が2点以上である場合は1点であり、合計点数が1点以下である場合は0点である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数である。評価点は第一群と第二群の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0148】
方法11で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は87%、特異度は23%であった。従って、方法11では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度が非常に高い。
【0149】
(12)方法12
方法12では、対象成分は2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、フェノール、及びベンズアルデヒドである。対象成分は、2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸及びプロピオン酸からなる第一群と、フェノール及びベンズアルデヒドからなる第二群とに分類される。各対象成分の閾値は第一閾値と第二閾値とを含み、第一閾値は乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値であり、第二閾値は乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が第二閾値以上である場合に2点、第一閾値以上第二閾値未満である場合に1点、第一閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数が2点以上である場合は1点であり、合計点数が1点以下の場合は0点である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数である。評価点は、第一群と第二群の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0150】
方法12で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は70%であり、特異度は58%であった。従って、方法12では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度が非常に高い。
【0151】
(13)方法13
方法13では、対象成分は2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、フェノール、及びベンズアルデヒドである。対象成分は、2−メチル−プロピオン酸、酢酸、酪酸及びプロピオン酸からなる第一群と、フェノール及びベンズアルデヒドからなる第二群とに分類される。各対象成分の閾値は第一閾値と第二閾値とを含み、第一閾値は乳癌非罹患者の呼気中の濃度の中央値であり、第二閾値は乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。対象成分の点数は、呼気中の濃度が第二閾値以上である場合に2点、第一閾値以上第二閾値未満である場合に1点、第一閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数が4点以上である場合は1点であり、3点以下である場合は0点である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数である。評価点は、第一群と第二群の合計点数である。基準点は4点であり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0152】
方法13で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は60%であり、特異度は65%であった。従って、方法13では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度と特異度が高い。
【0153】
<膵癌罹患可能性評価(閾値利用)>
以下の方法では、複数の対象成分毎に決定された閾値を利用して、膵癌に罹患している可能性を評価すると共に、膵癌に罹患している可能性が高いか否かを判定する。なお、以下の方法における対象成分の濃度は、呼気全体に対する、呼気中の対象成分の割合である。
【0154】
(14)方法14
方法14では、対象成分は、1−プロパノール、1,2−エタンジオール、フェノール、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸、ヘプタナール、デカナール、ブタナール、2,3−ブタンジオン、及びアセトインである。対象成分は、1−プロパノール、1,2−エタンジオール及びフェノールからなる第一群と、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸及び酪酸からなる第二群と、ヘプタナール、デカナール及びブタナールからなる第三群と、2,3−ブタンジオン及びアセトインからなる第四群とに分類される。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数が2点以上である場合は1点であり、合計点数が1点以下である場合は0点である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数が2点以上である場合は1点であり、合計点数が1点以下である場合は0点である。第三群の点数は、第三群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上である場合は1点であり、合計点数が0点である場合は0点である。第四群の点数は、第四群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上である場合は1点であり、合計点数が0点である場合は0点である。評価点は、第一群、第二群、第三群及び第四群の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0155】
方法14で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、膵癌罹患者31人のうち、17人が膵癌に罹患している可能性が高いと判定され、残りが膵癌に罹患している可能性が低いと判定された。膵癌非罹患者58人のうち、57人が膵癌に罹患している可能性が低いと判定され、残りが膵癌に罹患している可能性が高いと判定された。つまり、判定方法14の感度は55%、特異度は98%であった。従って、方法14では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度及び特異度が高く、特に特異度が非常に高い。
【0156】
(15)方法15
方法15では、対象成分は1−プロパノール及びフェノールのうちの一方と、ヘプタナール及びデカナールのうちの一方と、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸及び酪酸からなる群から選択される一種と、2,3−ブタンジオン及びアセトインのうちの一方とである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0157】
方法15で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、膵癌罹患者31人及び膵癌非罹患者58人を含む被験者を、19〜32%の感度、91〜100%の特異度で判定することができた。従って、方法15では膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0158】
対象成分が1−プロパノール、デカナール、プロピオン酸及び2,3−ブタンジオンである場合、対象成分が1−プロパノール、デカナール、2−メチル−プロピオン酸及び2,3−ブタンジオンである場合、対象成分がフェノール、ヘプタナール、2−メチル−プロピオン酸及び2,3−ブタンジオンである場合、並びに対象成分がフェノール、デカナール、2−メチル−プロピオン酸及び2,3−ブタンジオンである場合には、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が特に高かった。
(16)方法16
方法16の対象成分は、フェノールと、酪酸と、アセトインと、ヘプタナール及びデカナールのうちの一方と、二硫化炭素、1−オクテン−3−オール、ベンズアルデヒド、アセトアルデヒド、酢酸及び2−メチルフランからなる群から選択される一種とである。対象成分は、ヘプタナール及びデカナールを含まなくてもよい。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0159】
方法16で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、膵癌罹患者31人と膵癌非罹患者58人とを含む被験者を、39〜58%の感度、84〜100%の特異度で判定することができた。従って、方法16では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0160】
対象成分がフェノール、酪酸、アセトイン、デカナール及び二硫化炭素である場合、対象成分がフェノール、酪酸、アセトイン、デカナール及びベンズアルデヒドである場合、対象成分がフェノール、酪酸、アセトイン、デカナール及び2−メチルフランである場合、並びに対象成分がフェノール、酪酸、アセトイン、ヘプタナール及び2−メチルフランである場合には、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が特に高かった。
【0161】
(17)方法17
方法17では、対象成分は、フェノールと、デカナールと、2,3−ブタンジオンと、プロピオン酸及び2−メチル−プロピオン酸のうちの一方と、二硫化炭素、1−オクテン−3−オール、ベンズアルデヒド、アセトアルデヒド、酢酸及び2−メチルフランからなる群から選択される一種とである。対象成分は、プロピオン酸及び2−メチル−プロピオン酸を含まなくてもよい。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0162】
方法17で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、膵癌罹患者31人と膵癌非罹患者58人とを含む被験者を、16〜48%の感度、86〜98%の特異度で判定することができた。従って、方法17では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0163】
対象成分がフェノール、デカナール、2,3−ブタンジオン及び二硫化炭素である場合、対象成分がフェノール、デカナール、2,3−ブタンジオン及び2−メチルフランである場合、対象成分がフェノール、デカナール、2,3−ブタンジオン、プロピオン酸及び二硫化炭素である場合、並びに対象成分がフェノール、デカナール、2,3−ブタンジオン、プロピオン酸及び1−オクテン−3−オールである場合には、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が特に高かった。
【0164】
(18)方法18
方法18では、対象成分は、1−メチルピロリジノンと、2−プロパノール及び1−オクテン−3−オールのうちの一方と、ヘプタナール及びデカナールのうちの一方と、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸及び酪酸からなる群から選択される一種と、ブタノン及びアセトインのうちの一方とである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は4点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0165】
方法18で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、膵癌罹患者31人と膵癌非罹患者58人とを含む被験者を、26〜39%の感度、93〜96%の特異度で判定することができた。従って、方法18では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0166】
対象成分が1−メチルピロリジノンと、2−プロパノール、デカナール、酪酸及びアセトインである場合、対象成分が1−メチルピロリジノン、2−プロパノール、デカナール、プロピオン酸及びブタノンである場合、対象成分が1−メチルピロリジノン、2−プロパノール、ヘプタナール、酪酸及びブタノンである場合、並びに対象成分が1−メチルピロリジノン、2−プロパノール、ヘプタナール、プロピオン酸及びブタノンである場合には、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が特に高かった。
【0167】
(19)方法19
方法19では、対象成分は、1−メチルピロリジノンと、フェノールと、ヘプタナール及びデカナールのうちの一方と、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸及び酪酸からなる群から選択される一種と、ブタノン及びアセトインのうちの一方とである。各対象成分の閾値は、乳癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は4点であり、第一の評価〜第五の評価のそれぞれから一種の対象成分を選択し、各評価の評価点の合計が、基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0168】
方法19で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、膵癌罹患者31人と膵癌非罹患者58人とを含む被験者を、19〜32%の感度、91〜100%の特異度で判定することができた。従って、方法19では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0169】
対象成分が1−メチルピロリジノン、フェノール、デカナール、プロピオン酸及びアセトインである場合、対象成分が1−メチルピロリジノン、フェノール、ヘプタナール、2−メチル−プロピオン酸及びブタノンである場合、対象成分が1−メチルピロリジノン、フェノール、ヘプタナール、酪酸及びアセトインである場合、並びに対象成分が1−メチルピロリジノン、フェノール、デカナール、プロピオン酸及びブタノンである場合には、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が特に高かった。
【0170】
(20)方法20
方法20では、対象成分は、トリメチルアミン、デカナール、アセトフェノン、酢酸、メルカプトアセトン、2−メチル−プロピオン酸、1−メチルピロリジノン及びフェノールである。対象成分は、トリメチルアミン、デカナール、アセトフェノン、酢酸、及びメルカプトアセトンからなる第一群と、2−メチル−プロピオン酸、1−メチルピロリジノン及びフェノールからなる第二群とに分類される。各対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上であれば1点であり、合計点数が0点であれば0点である。評価点は、第一群及び第二群の合計点数である。基準点は3点であり、第一の評価と第二の評価の評価点のと合計が、基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0171】
方法20で膵癌患者34名、膵癌非罹患者45名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定をおこなうと、感度は67%であり、特異度は89%であった。
【0172】
従って、方法20では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0173】
(21)方法21
方法21では、対象成分は、トリメチルアミン、デカナール、アセトフェノン、酢酸、メルカプトアセトン、2−メチル−プロピオン酸、1−メチルピロリジノン、及びフェノールである。対象成分は、トリメチルアミン、デカナール、アセトフェノン、酢酸及びメルカプトアセトンからなる第一群と、2−メチル−プロピオン酸、1−メチルピロリジノン及びフェノールからなる第二群とに分類される。各対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気中の各対象成分の濃度を呼気中の二硫化炭素の濃度で割った値の中央値である。対象成分の濃度から対象成分の点数を決定する際は、まず対象成分の濃度を呼気中の二硫化炭素の濃度で割ることで、換算値を得る。各対象成分の点数は、各対象成分の換算値が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上である場合は1点、合計点数が0点である場合は0点である。評価点は、第一群及び第二群の合計点数である。基準点は4点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0174】
方法21で膵癌患者34名、膵癌非罹患者45名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定をおこなうと、感度は67%であり、特異度は83%であった。従って、方法21では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0175】
また、方法21のように、対象成分の濃度から対象成分の点数を決定する際に対象成分の濃度を二硫化炭素の濃度で割った換算値を利用すると、被験者が吹き込む呼気の量と相関すると考えられる二硫化炭素によって、対象成分の濃度を規格化することができる。
【0176】
(22)方法22
方法22では、対象成分は、トリメチルアミン、アセトフェノン、1−メチルピロリジノン、メルカプトアセトン、2−メチルフラン、フェノール、1−プロパノール、アセトイン、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸、及び酢酸を含む。対象成分は、トリメチルアミン、アセトフェノン、1−メチルピロリジノン、及びメルカプトアセトンからなる第一群と、2−メチルフラン、フェノール、1−プロパノール及びアセトインからなる第二群と、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸及び酢酸からなる第三群とに分類される。各対象成分の閾値は、被験者(すなわち膵癌罹患者及び膵癌非罹患者)の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数である。第三群に含まれる対象成分の合計点数が0点である場合は、第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の点数にかかわらず、0点である。第三群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上である場合は、第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上であれば1点であり、第二群に含まれる対象成分の合計点数が0点であれば0点である。評価点は、第一群及び第二群の合計点数である。基準点は3点であり、各評価の合計点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、各評価の合計点が基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0177】
方法22で膵癌患者34名、膵癌非罹患者45名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は27%、特異度は100%であった。従って、方法22では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0178】
また、方法22のように第三群の点数に従って第二群の点数を決定するルールを変更することで、特異度を大幅に改善することができる。
【0179】
(23)方法23
方法23では、対象成分は、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸、酢酸、アセトフェノン及びベンズアルデヒドである。方法23は、第一の評価と、第二の評価を含み、第一の評価に基づく判定が優先する。
【0180】
第一の評価における対象成分は、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸、及び酢酸である。各対象成分の閾値は、被験者(すなわち膵癌罹患者及び膵癌非罹患者)の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は1点であり、評価点が基準点以上である場合には判定を保留して第二の評価を行い、基準点未満である場合には膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0181】
第二の評価における対象成分は、アセトフェノン及びベンズアルデヒドである。各対象成分の閾値は、被験者(すなわち膵癌罹患者及び膵癌非罹患者)の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は1点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0182】
方法23で膵癌患者34名、膵癌非罹患者45名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は52%であり、特異度は89%であった。従って、方法23では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0183】
(24)方法24
方法24では、対象成分はプロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸、酢酸、アセトフェノン、及びベンズアルデヒドである。対象成分は、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸及び酢酸からなる第一群と、アセトフェノン及びベンズアルデヒドからなる第二群との分類される。各対象成分の閾値は、被験者(すなわち膵癌罹患者及び膵癌非罹患者)の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上であれば1点、合計点数が0点であれば0点である。評価点は、第一群と第二群の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0184】
方法24で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は67%、特異度は86%であった。従って、方法24では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0185】
(25)方法25
方法25では、対象成分は、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸、酢酸、アセトフェノン、ベンズアルデヒド、及びトリメチルアミンを含む。対象成分は、プロピオン酸、2−メチル−プロピオン酸、酪酸及び酢酸からなる第一群と、アセトフェノン、ベンズアルデヒド及びトリメチルアミンからなる第二群とに分類される。ベンズアルデヒド及びトリメチルアミンを除く各対象成分の閾値は、被験者(すなわち膵癌罹患者及び膵癌非罹患者)の呼気中の濃度の中央値であり、ベンズアルデヒド及びトリメチルアミンの閾値は、被験者(すなわち膵癌罹患者及び膵癌非罹患者)の呼気中の濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。第一群の点数は、第一群に含まれる対象成分の合計点数が1点以上であれば1点であり、合計点数が0点であれば0点である。第二群の点数は、第二群に含まれる対象成分の合計点数である。評価点は、第一群と第二群の合計点数である。基準点は3点であり、第一の評価と第二の評価の評価点の合計が、基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0186】
方法25で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は67%、特異度は89%であった。従って、方法25では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0187】
(26)方法26
方法26では、対象成分は、アセトフェノン、ベンズアルデヒド及びフェノールである。各対象成分の閾値は、被験者(すなわち膵癌罹患者及び膵癌非罹患者)の呼気中の濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0188】
方法26で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は73%、特異度は71%であった。従って、方法26では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度及び特異度が非常に高い。
【0189】
(27)方法27
方法27では、対象成分は、デカナール及び酪酸である。各対象成分の閾値は、被験者の呼気中の濃度の3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は2点であり、評価点が基準点である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0190】
方法27で膵癌患者34名、疾病罹患者18名、膵癌にも他の疾病にも罹患していない者27名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は44%、特異度は93%であった。従って、方法27では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0191】
また、方法27では、被験者のうち、膵癌罹患者、並びに非膵癌罹患者のうち膵炎、大腸ポリープ、又は癒着性イレウスに罹患している者(以下、疾病罹患者ともいう)を対象者として、膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、特異度は83%であった。従って、方法27では、膵癌以外の疾病に罹患している人を含む対象者の膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0192】
(28)方法28
方法28では、対象成分は、デカナール、酪酸、及び2−メチル−プロピオン酸である。各対象成分の閾値は、被験者の呼気中の濃度の3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0193】
方法28で膵癌患者34名、疾病罹患者18名、膵癌にも他の疾病にも罹患していない者27名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は29%、特異度は96%であった。従って、方法28では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0194】
また、方法28で、被験者のうち、膵癌罹患者並びに疾病罹患者を対象者として、膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、特異度は89%であった。従って、方法28では、膵癌以外の疾病に罹患している人を含む対象者の膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0195】
(29)方法29
方法29では、対象成分は、デカナール、酪酸、及びトリメチルアミンである。各対象成分の閾値は、被験者の呼気中の濃度の3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0196】
方法29で膵癌患者34名、疾病罹患者18名、膵癌にも他の疾病にも罹患していない者27名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は18%、特異度は100%であった。従って、方法29では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0197】
また、方法29で、被験者のうち、膵癌罹患者並びに疾病罹患者を対象者として、膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、特異度は100%であった。従って、方法30では、膵癌以外の疾病に罹患している人を含む対象者の膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0198】
(30)方法30
方法30では、対象成分は、1−オクテン−3−オール、2−メチルフラン、デカナール、酪酸、及びトリメチルアミンである。各対象成分の閾値は、被験者の呼気中の濃度の3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0199】
方法30で膵癌患者34名、疾病罹患者18名、膵癌にも他の疾病にも罹患していない者27名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は44%、特異度は96%であった。従って、方法30では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0200】
また、方法30で、被験者のうち、膵癌罹患者並びに疾病罹患者を対象者として、膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、特異度は94%であった。従って、方法30では、膵癌以外の疾病に罹患している人を含む対象者の膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての特異度が非常に高い。
【0201】
<乳癌罹患可能性評価(標準化値及びその寄与度利用)>
以下の方法では、複数種の対象成分の標準化値とその寄与度を利用して、乳癌に罹患している可能性を評価すると共に、乳癌に罹患している可能性が高いか否かを判定する。なお、以下の方法における対象成分の濃度は、呼気全体に対する、呼気中の対象成分の割合である。
【0202】
(31)方法31
方法31では、対象成分は1,2−エタンジオール、デカナール、メルカプトアセトン、ヘプタナール、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、シクロヘキサノン、ベンズアルデヒド、1−ペンタノール、デカン、2,2,4−トリメチル−ヘキサン、ドデカン、2−メチル−酪酸、1−ブタノール、n−ヘキサン、1−オクテン−3−オール、4−エチルシクロヘキサノール、二硫化炭素、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、ニトロソメチルウレタン、及びアセトインである。評価点は、上記の式(1)から算出する。式(1)を利用する場合の標準化値の算出方法、寄与度の決定方法及び基準点の決定方法は、既に説明した通りであり、評価点が基準点以上である場合に乳癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に乳癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0203】
方法31で乳癌患者39名、乳癌非罹患者56名に対して乳癌に罹患していることの可能性の評価及び判定を行うと、乳癌罹患者全員が乳癌に罹患している可能性が高いと判定され、乳癌非罹患者全員が乳癌に罹患している可能性が低いと判定された。つまり、方法31の感度は79%、特異度は93%であった。従って、方法31では、乳癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度及び特異度が非常に高い。
【0204】
<膵癌罹患可能性評価(標準化値及びその寄与度利用)>
以下の方法では、複数種の対象成分の標準化値とその寄与度を利用して、膵癌に罹患している可能性を評価すると共に、膵癌に罹患している可能性が高いか否かを判定する。なお、以下の方法においては、対象成分の濃度は、呼気全体に対する、呼気中の対象成分の割合である。
【0205】
(32)方法32
方法32では、対象成分は、2−メチル−1,3−ブタジエン、1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−プロパノール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトアルデヒド、酢酸、メチル酢酸エステル、アセトン、アセトニトリル、ベンズアルデヒド、酪酸、ヘキサナール、イソプロピルアルコール、メタノール、ノナナール、プロパナール、及び2−メチル−プロピオン酸である。評価点は、上記の式(1)から算出する。式(1)を利用する場合の標準化値の算出方法、寄与度の決定方法及び基準点の決定方法は、既に説明した通りであり、評価点が基準点以上である場合に膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合に膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0206】
方法32で被験者に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、膵癌罹患者31人全員が膵癌に罹患している可能性が高いと判定され、膵癌罹患者を除く被験者36人のいずれも膵癌に罹患している可能性が低いと判定された。つまり、判定方法32の感度は88%、特異度は100%であった。従って、方法32では、膵癌に罹患している可能性を判定するにあたっての感度及び特異度が非常に高い。
【0207】
<膵癌罹患可能性評価(相対濃度の利用、標準化値の利用等)>
以下の方法では、測定装置3がマルチ反応リアルタイム質量分析計である。以下の方法では、相対濃度を利用する場合、標準化値を利用する場合等と、そうでない場合とを比較する。
【0208】
(33−1)方法33−1
方法33−1では、対象成分は、2−メチル酪酸、酪酸、プロピオン酸、メチルメルカプタン、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、ベンズアルデヒド、ジメチルスルフィド、2,3−ブタンジオン、3−ヘキサノン、及び1−オクテンー3−オールである。方法33−1における対象成分の濃度は、採取された呼気全体に対する呼気中の対象成分の割合を、呼気全体に対する呼気中の水蒸気の割合で除した値である。
【0209】
方法33−1は、第一の評価と、第二の評価を含み、第一の評価に基づく判定が優先する。
【0210】
第一の評価における対象成分は、2−メチル酪酸、酪酸、プロピオン酸、メチルメルカプタン、メルカプトアセトン、及びトリメチルアミンである。各対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気における濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。第一の評価では第一基準点と第二基準点という二つの基準点を用いる。第一基準点は4点であり、評価点が第一基準点以上である場合には膵癌に罹患している可能性が高いと判定する。第二基準点は2点であり、評価点が第二基準点以下である場合には膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。評価点が第一基準点より低いとともに第二基準点よりも高い場合(すなわち3点の場合)、判定を保留して第二の評価を行う。
【0211】
第二の評価における対象成分は、ベンズアルデヒド、ジメチルスルフィド、2,3−ブタンジオン、3−ヘキサノン、及び1−オクテン−3−オールである。各対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気における濃度の中央値である。各対象成分の点数は、呼気中の濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。基準点は3点であり、評価点が基準点以上である場合には膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、基準点未満である場合には膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0212】
方法33−1で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者28名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は75%、特異度は86%、精度(陽性的中率)は83%であった。
【0213】
(33−2)方法33−2
方法33−2における対象成分の濃度は、採取された呼気全体に対する呼気中の対象成分の割合である。それ以外は、方法33−2は方法33−1と同一である。
【0214】
方法33−2で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者28名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は42%、特異度は86%、精度(陽性的中率)は73%であった。
【0215】
この結果、相対濃度を利用しない方法33−2の場合よりも、相対濃度を利用する方法33−1の場合の方が、感度が高いことが明らかになった。
【0216】
(34−1)方法34−1
方法34−1では、対象成分は、メチルメルカプタン、メルカプトアセトン、ジメチルスルフィド、ジメチルトリスルフィド、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチル酪酸、2,3−ブタンジオン、ブタナール、及びヘキサナールである。方法34−1における対象成分の濃度は、採取された呼気全体に対する呼気中の対象成分の割合を、呼気全体に対する呼気中の2−ブテンの割合で除した値である。
【0217】
方法34−1は、第一の評価と、第二の評価を含み、第一の評価に基づく判定が優先する。
【0218】
第一の評価における対象成分は、メチルメルカプタン、メルカプトアセトン、ジメチルスルフィド、ジメチルトリスルフィド、酢酸、プロピオン酸、酪酸、及び2−メチル酪酸である。
【0219】
第一の評価では、メチルメルカプタン、メルカプトアセトン、ジメチルスルフィド、及びジメチルトリスルフィドの濃度の測定結果に基づき、評価点を、上記の式(2)及び式(3)から算出する。なお、本方法での式(3)におけるαiは1である。基準点は、膵癌非罹患者の評価点の第3四分位値である。
【0220】
第一の評価では、更に、酢酸、プロピオン酸、酪酸、及び2−メチル酪酸の濃度の測定結果に基づき、評価点を、上記の式(2)及び式(3)から算出する。なお、本方法での式(3)におけるαiは1である。基基準点は、膵癌非罹患者の評価点の第3四分位値である。
【0221】
第一の評価において得られた二種類の評価点のうち、両方が基準点以上である場合は膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、両方が基準点未満である場合は膵癌に罹患している可能性が低いと判定し、一方のみが基準点以上である場合は判定を保留して第二の評価を行う。
【0222】
第二の評価における対象成分は、2,3−ブタンジオン、ブタナール、及びヘキサナールである。第二の評価では、対象成分の濃度の測定結果に基づき、評価点を、上記の式(2)及び式(3)から算出する。なお、本方法での式(3)におけるαiは1である。基基準点は、膵癌非罹患者の評価点の第3四分位値である。評価点が基準点以上である場合は膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、評価点が基準点未満である場合は膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0223】
方法34−1で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は83%、特異度は79%、精度(陽性的中率)は80%であった。
【0224】
(34−2)方法34−2
方法34−2では、評価点を、対象成分の濃度の測定結果の和とした。それ以外は、方法34−2は方法34−1と同一である。
【0225】
方法34−2で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は83%、特異度は52%、精度(陽性的中率)は61%であった。
【0226】
この結果、式(3)によって評価点を算出しない方法34−2の場合よりも、式(3)によって評価点を算出する34−1の場合の方が、特異度が高いことが明らかになった。
【0227】
(35−1)方法35−1
方法35−1では、対象成分は、ジメチルスルフィド、酢酸、及び2,3−ブタンジオンである。方法35−2における対象成分の濃度は、採取された呼気全体に対する呼気中の対象成分の割合である。
【0228】
方法35−1は、第一の評価と、第二の評価を含み、第一の評価に基づく判定が優先する。
【0229】
第一の評価における対象成分は、ジメチルスルフィド、及び酢酸である。第一の評価では、各対象成分の濃度と閾値とを比較する。各対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気における濃度の第3四分位値である。各対象成分の点数は、濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。評価点が2点である場合には膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、評価点が0点である場合には膵癌に罹患している可能性が低いと判定し、評価点が1点である場合には判定を保留して第二の評価を行う。
【0230】
第二の評価における対象成分は、2,3−ブタンジオンである。第二の評価でも、対象成分の濃度と閾値とを比較する。対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気における濃度の第3四分位値である。対象成分の点数は、濃度が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の点数に等しい。評価点が1点である場合には膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、評価点が0点である場合には膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0231】
方法35−1で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は8%、特異度は86%、精度(陽性的中率)は63%であった。
【0232】
(35−2)方法35−2
方法35−2における対象成分の濃度は、採取された呼気全体に対する呼気中の対象成分の割合を、呼気全体に対する呼気中の水蒸気の割合で除した値である。それ以外は、方法35−2は、方法35−1と同一である。
【0233】
方法35−2で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は83%、特異度は79%、精度(陽性的中率)は80%であった。
【0234】
(35−3)方法35−3
方法35−3では、対象成分は、ジメチルスルフィド、酢酸、及び2,3−ブタンジオンである。方法35−3における対象成分の濃度は、採取された呼気全体に対する呼気中の対象成分の割合を、呼気全体に対する呼気中の水蒸気の割合で除した値である。
【0235】
方法35−3は、第一の評価と、第二の評価を含み、第一の評価に基づく判定が優先する。
【0236】
第一の評価における対象成分は、ジメチルスルフィド、及び酢酸である。第一の評価では、各対象成分の濃度の標準化値と閾値とを比較する。標準化値は、上記式(2)から算出される。各対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気における濃度の標準化値の第3四分位値である。各対象成分の点数は、濃度の標準化値が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の合計点数である。評価点が2点である場合には膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、評価点が0点である場合には膵癌に罹患している可能性が低いと判定し、評価点が1点である場合には判定を保留して第二の評価を行う。
【0237】
第二の評価における対象成分は、2,3−ブタンジオンである。第二の評価でも、対象成分の濃度の標準化値と閾値とを比較する。標準化値は、上記式(2)から算出される。対象成分の閾値は、膵癌非罹患者の呼気における濃度の標準化値の第3四分位値である。対象成分の点数は、濃度の標準化値が閾値以上である場合に1点、閾値未満である場合に0点である。評価点は、対象成分の点数に等しい。評価点が1点である場合には膵癌に罹患している可能性が高いと判定し、評価点が0点である場合には膵癌に罹患している可能性が低いと判定する。
【0238】
方法35−3で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は83%、特異度は86%、精度(陽性的中率)は85%であった。
【0239】
(36−1)方法36−1
方法35−1において、対象成分のうち、ジメチルスルフィドを、メルカプトアセトンと入れ替えた。それ以外は、方法36−1は、方法35−1と同一である。
【0240】
方法36−1で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は50%、特異度は59%、精度(陽性的中率)は56%であった。
【0241】
(36−2)方法36−2
方法35−2において、対象成分のうち、ジメチルスルフィドを、メルカプトアセトンと入れ替えた。それ以外は、方法36−2は、方法35−2と同一である。
【0242】
方法36−2で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は48%、特異度は92%、精度(陽性的中率)は61%であった。
【0243】
(36−3)方法36−3
方法35−3において、対象成分のうち、ジメチルスルフィドを、メルカプトアセトンと入れ替えた。それ以外は、方法36−3は、方法35−3と同一である。
【0244】
方法36−3で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は83%、特異度は79%、精度(陽性的中率)は80%であった。
【0245】
(37−1)方法37−1
方法35−1において、対象成分のうち、ジメチルスルフィドを、ジメチルトリスルフィドと入れ替えた。それ以外は、方法37−1は、方法35−1と同一である。
【0246】
方法37−1で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は17%、特異度は90%、精度(陽性的中率)は68%であった。
【0247】
(37−2)方法37−2
方法37−2において、対象成分のうち、ジメチルスルフィドを、ジメチルトリスルフィドと入れ替えた。それ以外は、方法37−2は、方法35−2と同一である。
【0248】
方法37−2で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は92%、特異度は76%、精度(陽性的中率)は80%であった。
【0249】
(37−3)方法37−3
方法35−3において、対象成分のうち、ジメチルスルフィドを、ジメチルトリスルフィドと入れ替えた。それ以外は、方法37−3は、方法35−3と同一である。
【0250】
方法37−3で膵癌患者12名、及び膵癌非罹患者29名に対して膵癌に罹患している可能性の評価及び判定を行うと、感度は92%、特異度は83%、精度(陽性的中率)は85%であった。
【0251】
【表1】
【0252】
【表2】
【0253】
【表3】
【0254】
【表4】
【0255】
【表5】
【0256】
【表6】
【0257】
【表7】
【0258】
【表8】
【0259】
評価装置1が上記構成を備えることにより、容易且つ短時間に、被験者が癌に罹患している可能性を判定した結果を提供することができる。
【0260】
特に、上記の癌罹患危険度評価装置は、被験者が乳癌又は膵臓癌に罹患している可能性を判定することができるが、その他の癌、例えば、肺癌、胃癌、食道癌等の各種の癌に罹患している可能性を判定することにも応用可能と考えられる。
【0261】
以上述べた実施形態から明らかなように、第1の態様に係る癌罹患危険度評価装置は、評価対象の人の呼気に含まれる複数種の対象成分のそれぞれの濃度を測定するように構成された測定装置と、前記測定装置による前記濃度の測定結果に基づいて、前記評価対象の人が癌に罹患している可能性と相関する評価点を算出するように構成されているコントローラとを備える。
【0262】
第1の態様によれば、評価点を利用して、容易且つ短時間に、人が癌に罹患している可能性を判定することができる。
【0263】
第2の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1の態様において、前記濃度が、前記呼気に含まれる前記対象成分以外の一の成分の割合を基準にした相対濃度である。
【0264】
第2の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0265】
第3の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第2の態様において、前記一の成分が、水蒸気又は2−ブテンである。
【0266】
第3の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0267】
第4の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第3のいずれか一の態様において、前記コントローラは、前記評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に前記評価対象の人が癌に罹患している可能性が高いと判定するように構成されている。
【0268】
第4の態様によれば、容易且つ短時間に、人が癌に罹患している可能性を判定することができる。
【0269】
第5の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第4のいずれか一の態様において、前記コントローラは、前記濃度の測定結果と、前記複数種の対象成分それぞれの閾値とを比較した結果に基づいて、前記評価点を算出するように構成されている。
【0270】
第5の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0271】
第6の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第4のいずれか一の態様において、前記コントローラは、前記濃度の測定結果を標準化して複数の標準化値を算出し、前記標準化値の測定結果と、前記複数種の対象成分それぞれの閾値とを比較した結果に基づいて、前記評価点を算出するように構成されている。
【0272】
第6の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0273】
第7の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第4のいずれか一の態様において、前記コントローラは、前記濃度の測定結果を標準化して複数の標準化値を算出し、前記複数の標準化値と、前記複数の標準化値の寄与度とに基づいて、前記評価点を算出するように構成されている。
【0274】
第7の態様によれば、このため、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0275】
第8の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第7の態様において、前記複数の標準化値のうち二種以上の標準化値の組み合わせと、前記組み合わせの寄与度とに更に基づいて、前記評価点を算出するように構成されている。
【0276】
第8の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0277】
第9の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第7の態様において、前記コントローラが、下記式(1)によって、前記評価点を算出するように構成されている。
【0278】
【数4】
【0279】
nは対象成分の種類数であり、Aiは第i番の対象成分の標準化値であり、Ajは第j番の対象成分の標準化値であり、kijは第i番の対象成分の標準化値と第j番の対象成分の標準化値との組み合わせの寄与度であり、Sは評価点である。
【0280】
第9の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0281】
第10の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第4のいずれか一の態様において、前記コントローラが、下記式(3)によって、前記評価点を算出するように構成されている。
【0282】
【数5】
【0283】
nは前記対象成分の種類数であり、Aiは第i番の対象成分の標準化値であり、αiは第i番の対象成分の標準化値の寄与度であり、Sは前記評価点である。
【0284】
第10の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0285】
第11の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第10のいずれか一の態様において、前記複数種の対象成分が、1−メチルピロリジノン、2−メチル−プロピオン酸、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、フェノール、トリメチルアミン、1−オクテン3−オール、メルカプトアセトン、アセトフェノン、アセトイン、二硫化炭素、2−メチル−酪酸、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、デカナール、プロピオン酸、ヘプタナール、2−メチルフラン、2,3−ブタンジオン、ノナナール、ブタナール、ヘキサン酸、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィド、及びジメチルトリスルフィドからなる群から選択される少なくとも二種の成分を含む。
【0286】
第11の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0287】
第12の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第10のいずれか一の態様において、前記複数種の対象成分が、1−メチルピロリジノン、二硫化炭素、アセトアルデヒド、2−メチル−酪酸、アセトン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、2−メチル−プロピオン酸、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、1−プロパノール、プロピオン酸、1−ヘプタノール、ヘプタナール、2−メトキシ−1−プロパノール、フェノール、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オール、メルカプトアセトン、2−ブタノン、アセトフェノン、2−メチルフラン、アセトイン、2,3−ブタンジオン、メタノール、シクロヘキサノン、ジメチルトリスルフィド、2,4−ジメチルヘキサン、1−ペンタノール、n−ヘキサン、1−ヘプテン、4−エチルシクロヘキサノール、酢酸メチルエステル、ニトロソメチルウレタン、2−メチル−1,3−ブタジエン、デカン、3−メチル−1−ブタノール、ドデカン、2−エチル−1−ヘキサノール、2,2,4−トリメチルヘキサン、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトニトリル、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、ヘキサナール、ノナン、ノナナール、ブタナール、2,4−ジメチルヘプタン、ヘキサン酸、1−オクテン、1,2−エタンジオール、1−ペンテン、ブチルベンゼン、5−メチル−1−ヘプテン、エチルアセテート、7,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エン、o−キシレン、1−ヘキサノール、β−フェランドレン、メントール、2−プロペナール、プロパナール、D−リモネン、ジメチルジスルフィド、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ブテン、オクタナール、4−イソプロペニルトルエン、1,3−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1−ブタノール、メチルメルカプタン、及びジメチルスルフィドからなる群から選択される少なくとも二種の成分を含む。
【0288】
第12の態様によれば、癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0289】
第13の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第10のいずれか一の態様において、前記複数種の対象成分が、ベンズアルデヒド、ヘプタナール、酢酸、2−メチル−酪酸、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、2−メチル−プロピオン酸、デカナール、フェノール、ブタナール、酪酸、1−オクテン−3−オール、1−ヘプタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−プロパノール、アセトイン、プロピオン酸、2−ブタノン、2,3−ブタンジオン、メルカプトアセトン、トリメチルアミン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、1,2−エタンジオール、1−ペンタノール、1−ブタノール、4−エチルシクロヘキサノール、ニトロソメチルウレタン、デカン、ドデカン、2,2,4−トリメチルヘキサン、n−ヘキサン、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、ノナン、3−メチル−1−ブタノール、2,4−ジメチルヘプタン、1−オクテン、2−メチルフラン、ノナナール、ブチルベンゼン、エチルアセテート、o−キシレン、β−フェランドレン、2−プロペナール、D−リモネン、1−メトキシ−2−プロパノール、オクタナール、及び1,3−ジクロロベンゼンからなる群から選択される少なくとも二種の成分を含む。
【0290】
第13の態様によれば、特に膵癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0291】
第14の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第10のいずれか一の態様において、前記複数種の対象成分が、1−メチルピロリジノン、二硫化炭素、アセトアルデヒド、アセトン、2−メチル−プロピオン酸、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、酪酸、1−プロパノール、プロピオン酸、ヘプタナール、フェノール、トリメチルアミン、1−オクテン−3−オール、メルカプトアセトン、アセトフェノン、2−メチルフラン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、アセトイン、2,3−ブタンジオン、メタノール、ジメチルトリスルフィド、2,4−ジメチル−ヘキサン、n−ヘキサン、1−ヘプテン、酢酸メチルエステル、2−メチル−1,3−ブタジエン、3−メチル−1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3−メチル−3−ブテン−1−オール、アセトニトリル、ヘキサナール、ノナナール、ブタナール、ヘキサン酸、1,2−エタンジオール、2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−フェノール、1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン、7,8−ジオキサビシクロ[3.2.1]オクタ−2−エン、1−ヘキサノール、メントール、プロパナール、ジメチルジスルフィド、2−ブテン、4−イソプロペニルトルエン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1−ブタノール、メチルメルカプタン、ヘキサノン、及びジメチルスルフィドからなる群から選択される少なくとも二種の成分を含む。
【0292】
第14の態様によれば、特に乳癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0293】
第15の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第13のいずれか一の態様において、前記評価点が、前記評価対象の人が乳癌に罹患している可能性と相関する。
【0294】
第15の態様によれば、特に乳癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0295】
第16の態様に係る癌罹患危険度評価装置では、第1から第12及び第14のいずれか一の態様において、前記評価点が、前記評価対象の人が膵癌に罹患している可能性と相関する。
【0296】
第16の態様によれば、特に膵癌に罹患している可能性の評価を、より正確に行うことができる。
【0297】
第17の態様に係るプログラムは、請求項1から16のいずれか一項に記載の癌罹患危険度評価装置が備えるコントローラの機能を実現させるためのプログラムである。
【0298】
第17の態様によれば、このプログラムを利用することで、容易且つ短時間に、人が癌に罹患している可能性を判定することができる。
【0299】
第18の態様に係る癌罹患危険度を試験する方法は、(a)評価対象の人の呼気を採取するステップと、(b)前記呼気中の複数種の対象成分のそれぞれの濃度を測定するステップと、(c)前記濃度の測定結果から評価点を算出し、前記評価点が特定の範囲内又は特定の値である場合に、対象者が癌に罹患している可能性が高いという基準で、前記評価点と前記基準点とを比較するステップとを含む。
【0300】
第18の態様によれば、容易且つ短時間に、人が癌に罹患している可能性に関する試験をすることができる。
【符号の説明】
【0301】
1 癌罹患危険度評価装置
3 測定装置
4 コントローラ
図1
図2
図3