特許第6462166号(P6462166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 プラスコンフォートの特許一覧

<>
  • 特許6462166-樹脂形成部材 図000002
  • 特許6462166-樹脂形成部材 図000003
  • 特許6462166-樹脂形成部材 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6462166
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】樹脂形成部材
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20190121BHJP
【FI】
   B29C45/14
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-32063(P2018-32063)
(22)【出願日】2018年2月26日
【審査請求日】2018年5月21日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510066950
【氏名又は名称】株式会社 プラスコンフォート
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】赤石 彰
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−169668(JP,A)
【文献】 特開2011−110835(JP,A)
【文献】 特開平06−000839(JP,A)
【文献】 特開2004−202983(JP,A)
【文献】 特開2016−047646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/00−45/84
B29C33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窓部に向かって傾斜した樹脂製傾斜部と、
前記窓部に設けられたフィルムとを有し、
前記フィルムが、前記樹脂製傾斜部のおもて面と裏面との間に配置されたものであって、中心位置における厚さ方向の撓みが該フィルムの厚さの1/10以下に抑えられたものであることを特徴とする樹脂形成部材。
【請求項2】
前記樹脂製傾斜部と前記フィルムとによって円錐台形状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の樹脂形成部材。
【請求項3】
前記フィルムが、前記樹脂製傾斜部の厚みの1/4以下の厚みのものであることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂形成部材。
【請求項4】
前記樹脂製傾斜部が、0度より大きく90度未満の傾斜角度で傾斜したものであることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の樹脂形成部材。
【請求項5】
前記樹脂製傾斜部の外周縁部から前記フィルムが位置する側とは反対側に該フィルムの厚さ方向に沿って延在した樹脂製周壁部を有するものであることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項記載の樹脂形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムが設けられた樹脂形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂形成部材は、一般的に軽く、成形も安価で容易に行うことができることから、様々な分野で利用されている。
【0003】
例えば、射出成形によって樹脂形成部材を得る場合、予め成形した一次樹脂形成部材を金型に挿入し、その一次樹脂形成部材を、射出した樹脂によって固定する、いわゆるインサート成形が一般的に行われている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
しかしながら、一次形成部材がフィルムや薄膜といったような厚さが薄いものになればなるほど、一次形成部材をピンと張った状態で固定することが困難になる。すなわち、一次形成部材がフィルムや薄膜といったような厚さが薄いもの(以下、総称してフィルムと称する)であって、そのフィルムの周囲を射出した樹脂によって固定する場合、射出した樹脂が冷却される際の収縮によって、フィルムは中心方向に撓んでしまう。この状態で射出した樹脂が固化してしまうと、フィルムは撓んだままとなってしまう。
【0005】
また、超音波溶着によってフィルムを肉厚部にスポット的に固定しようとしても、フィルムをピンと張った状態で固定することはなかなか困難であるのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−28863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、フィルムが設けられた樹脂形成部材にあっては、そのフィルムがピンと張られた状態で固定されていることが望まれる場合が多い。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、フィルムがピンと張られた状態で固定されている樹脂形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決する本発明の樹脂形成部材は、
窓部に向かって傾斜した樹脂製傾斜部と、
前記窓部に設けられたフィルムとを有し、
前記フィルムが、前記樹脂製傾斜部のおもて面と裏面との間に配置されたものであって、中心位置における厚さ方向の撓みが該フィルムの厚さの1/10以下に抑えられたものであることを特徴とする。
【0010】
すなわち、前記フィルムは、外周縁部が前記樹脂製傾斜部に厚さ方向から覆われているものである。
【0011】
前記樹脂製傾斜部は、熱可塑性樹脂製傾斜部であってもよいし、射出成形によって形成されたものであってもよい。例えば、本発明の樹脂形成部材は、インサート成形体であってもよい。また、本発明の樹脂形成部材は、前記フィルムを加飾フィルムとした加飾成形品に適用することもできるし、前記フィルムを投影フィルムとした光学部材に適用することもできる。
【0012】
前記樹脂製傾斜部が、冷却される際(例えば、固化する際)の収縮によって、外側に開く方向にテンションが付与され、そのテンションの付与によって、前記樹脂製傾斜部のおもて面と裏面との間に配置された前記フィルムが外側へ引っ張られ、該フィルムがピンと張ったものになる。
【0013】
前記窓部の形状(前記フィルムの形状)は真円であってもよいし楕円であってもよいし複数の角部を有する形状(例えば、三角形、四角形、六角形、十六角形等)であってもよい。
【0014】
また、前記フィルムは、樹脂製のものであってもよいし、それ以外の材質のものであってもよい。
【0015】
また、前記樹脂製傾斜部と前記フィルムは、同じ樹脂材料で形成されたものであってもよい。例えば、同じ熱可塑性樹脂で形成されたものであってもよい。あるいは、前記樹脂製傾斜部と前記フィルムは、異なる樹脂材料で形成されたものであってもよい。例えば、前記樹脂製傾斜部は熱可塑性樹脂で形成されたものであり、前記フィルムは熱硬化性樹脂で形成されたものであってもよい。
【0016】
本発明の樹脂形成部材において、
前記樹脂製傾斜部と前記フィルムとによって円錐台形状に形成されていてもよい。
【0017】
すなわち、前記フィルムが円錐の底面に平行なものとなるが、該底面を構成する部分は、あってもなくてもよい。また、前記樹脂製傾斜部のうち最も径が小さな部分となる先端縁は、前記フィルムよりも突出している。
【0020】
本発明の樹脂形成部材において、
前記フィルムが、前記樹脂製傾斜部の厚みの1/4以下の厚みのものであってもよい。
【0021】
前記フィルムが、前記樹脂製傾斜部の厚みの1/6以下の厚みのものであることが好ましく、1/20以下の厚みであることがより好ましい。すなわち、前記樹脂製傾斜部は、前記フィルムよりもかなり肉厚なものである。また、前記フィルムは、250μm以下の厚さのものであってもよく、170μm未満の厚さのものであることが好ましく、75μm未満の厚さのものであることがより好ましい。
【0022】
本発明の樹脂形成部材において、
前記樹脂製傾斜部が、0度より大きく90度未満の傾斜角度で傾斜したものであってもよい。
【0023】
ここにいう傾斜角度とは、前記フィルムに沿った水平線に対する前記樹脂製傾斜部の傾斜角度のことをいう。
【0024】
この傾斜角度は、2度以上であることが好ましい。この傾斜角度が2度未満であると、外側に開く方向へのテンションが弱くなりすぎ、前記フィルムに弛みが生じる場合がある。一方、この傾斜角度が90度以上になると、前記樹脂製傾斜部が外側に開きにくくなってしまい、前記フィルムに外側に開く方向へのテンション自体が付与されなくなってしまう。また、傾斜角度は、60度未満であることが好ましい。
【0025】
本発明の樹脂形成部材において、
前記樹脂製傾斜部の外周縁部から前記フィルムが位置する側とは反対側に該フィルムの厚さ方向に沿って延在した樹脂製周壁部を有するものであってもよい。
【0026】
前記樹脂製傾斜部と前記樹脂製周壁部は、同じ樹脂材料で形成されたものであってもよい。例えば、前記樹脂製傾斜部と前記樹脂製周壁部は、射出成形によって一体的に形成されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、フィルムがピンと張られた状態で固定されている樹脂形成部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に相当するインサート成形体を示す図である。
図2図1(b)に示すインサート成形体の断面図である。
図3図1(a)とは異なる金型の左半分の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に相当するインサート成形体を示す図である。
【0031】
本実施形態のインサート成形体1は、射出成形によって形成されたものである。すなわち、インサート成形体1は、予め成形した一次樹脂形成部材であるフィルム11を金型に挿入し、そのフィルム11を、射出した熱可塑性樹脂によって固定する、いわゆるインサート成形によって得られたものである。フィルム11も、樹脂製(より具体的には熱可塑性樹脂製)のものであるが、それ以外の材質のものであってもよい。
【0032】
図1(a)は、型開きした金型にフィルム11を挿入した後、型閉めされた状態の金型の断面を示す図である。
【0033】
図1(a)に示す金型2は、図1(a)では下方に示す、右下がりのハッチングを施した固定型21と、上方に示す、左下がりのハッチングを施した可動型22を組み合わせて構成されている。なお、型構成を反対にし、固定型21を可動する型とし、可動型22を固定された型としてもよい。
【0034】
フィルム11は、固定型21に形成された中央突部211にセットされる。各図において、フィルム11を灰色で示す。この中央突部211は、可動型22側に突出している。固定型21では、中央突部211の外側がキャビティCの一部を構成する。一方、可動型22には、固定型21の中央突部211にセットされたフィルム11を挟み込む中央押さえ部221が設けられている。この中央押さえ部221は、固定型21側に突出している。フィルム11の厚さは、特に限定はされず、求められる特性に応じた厚さであればよい。ただし、本実施形態では、フィルム11とは、250μm以下の厚さのものをいいい、フィルム11が薄さを求められるものである場合には、170μm未満の厚さのものであることが好ましく、75μm未満の厚さのものであることがより好ましい。図1(a)に示す型閉めされた状態の金型2では、フィルム11が固定型21の中央突部211と可動型22の中央押さえ部221に挟み込まれており、フィルム11がズレたり動いてしまうことはない。また、中央突部211と中央押さえ部221との間に、金型2内に充填された熱可塑性樹脂が差し込むこともない。
【0035】
フィルム11は、溶融押出成型法(より具体的には、インフレーション法あるいはTダイ法)によって製造することができる。あるいは、溶融流延法、カレンダー法、延伸法等によっても製造することができる。
【0036】
固定型21のキャビティ形成壁は、中央突部211の立上がり壁21aと、第1傾斜壁21bと、外縁壁21cから構成されている。一方、可動型22のキャビティ形成壁は、中央押さえ部221の突出壁22aと、第2傾斜壁22bと、周壁形成外周壁22cと、周壁形成内周壁22dと、周壁厚み壁22eから構成されている。
【0037】
金型2内にセットされたフィルム11は、中央突部211の立上がり壁21aと、中央押さえ部221の突出壁22aの間に位置しており、フィルム11の外周縁部111は、キャビティC内に突出している。より詳しくは、フィルム11の外周縁部111は、可動型22の第2傾斜壁22bの外端(周壁形成内周壁22dと接する位置)よりも外側に位置しているが、固定型21の第1傾斜壁21bの外端(外縁壁21cと接する位置)よりは内側に位置している。なお、フィルム11の外周端111aが、可動型22の第2傾斜壁22bの外端の位置に一致していてもよいし、第2傾斜壁22bの外端よりも内側にあってもよい。また、フィルム11は、外周端111aが外縁壁21cに当接するほど大きなものであってもよい。
【0038】
キャビティCのうち、第1傾斜壁21bと第2傾斜壁22bに挟まれた部分は、フィルム11に対して傾斜している。また、キャビティCのうち、第1傾斜壁21bと第2傾斜壁22bに挟まれた部分は、中央突部211あるいは中央押さえ部221に向かって傾斜している。キャビティCに充填された熱可塑性樹脂が固化する際に、内側に向けて縮まろうとする熱収縮が生じる。しかしながら、上述した傾斜によって、内側に縮まろうとする力は外側へ開く方向(図1(a)に示す矢印参照)のテンションとなって作用し、このテンションによってフィルム11が外側へ引っ張られ、フィルム11がピンと張ったものになる。
【0039】
しかも、図1(a)に示す第1傾斜壁21bは、第2傾斜壁22bよりも周壁厚み壁22e分だけ長い。また、第2傾斜壁22bの、フィルム11に対する角度(傾斜角度)の方が、第1傾斜壁21bの、フィルム11に対する角度(傾斜角度)よりも大きい。すなわち、第1傾斜壁21bの方が、第2傾斜壁22bよりも緩やかな傾斜角である。この結果、キャビティCの厚さ(図1(a)では上下方向の長さ)は、中央突部211あるいは中央押さえ部221に近いほど、言い換えれば、中心に近いほど、薄いことなる。したがって、キャビティC内に熱可塑性樹脂が充填されると、厚さが薄い中心側から先に固化していき、厚さが厚い外側が最後に固化することになる。よって、立上がり壁21aと突出壁22a近傍の熱可塑性樹脂が先に固化して位置が決定される。一方、外側の熱可塑性樹脂ほど固化が遅れ、外側の熱可塑性樹脂が内側に向けて縮まろうとする熱収縮の作用が生じ、外側へ開く方向(図1(a)に示す矢印参照)のテンションが大きくなりやすい。このため、フィルム11が外側へ引っ張られやすくなり、フィルム11がピンと張ったものになりやすい。
【0040】
加えて、キャビティCのうち、可動型22における周壁形成外周壁22cと、周壁形成内周壁22dと、周壁厚み壁22eによって形成された部分は、フィルム11が位置する側(図1(a)では下側)とは反対側(図1(a)では上側)に延在した部分であり、内側に倒れこむように熱収縮する。そのため、フィルム11が外側へより強く引っ張られやすくなり、フィルム11が一段とピンと張ったものになりやすい。
【0041】
本実施形態では、キャビティCの厚さ、すなわち図1(b)や図2に示す傾斜部12の厚み(熱容量)を調整することで、内側に縮まろうとする力を、外側へ開く方向(図1(a)に示す矢印参照)のテンションとして利用しているが、金型の冷却構造を工夫し、内側の方を外側よりも強冷却するようにして、内側に縮まろうとする力を、外側へ開く方向のテンションとして利用することもできる。ただし、金型の冷却構造で対応する場合には、抜型後は効果を期待することができない。一方、本実施形態のように、傾斜部12の厚み(熱容量)を調整しておけば、抜型後にも効果を十分に得ることができる。
【0042】
図1(b)は、同図(a)に示す金型2を用いインサート成形によって完成したインサート成形体を示す斜視図である。また、図2は、図1(b)に示すインサート成形体の断面図である。
【0043】
図1(b)及び図2に示すインサート成形体1は、窓部10に向かって傾斜した傾斜部12と、窓部10に設けられた円形のフィルム11と、傾斜部12の外周縁部から立ち上がった円筒状の周壁部13を有する。傾斜部12と周壁部13は一体成形されたものであるが、別体で成形され接着剤等で貼り合わされたものであってもよい。ただし、本実施形態のインサート成形体1は、フィルム11の固定からして接着剤等の異種材料を一切用いずに、熱可塑性樹脂一種類で成形されている。
【0044】
窓部10は、図1(a)に示す中央突部211と中央押さえ部221に挟まれた領域に相当し、この領域には、フィルム11が配置されている。上述したように、金型2内にセットされたフィルム11は、中央突部211の立上がり壁21aと、中央押さえ部221の突出壁22aの間に位置しており、そのままインサート成形されることで、フィルム11は、傾斜部12のおもて面12a(図2参照)と裏面12bとの間に配置されたものになる。図2に示す傾斜部12のおもて面12aは、図1(a)に示す固定型21の第1傾斜壁21bによって形成された面に相当する。一方、傾斜部12の裏面12bは、図1(a)に示す可動型22の第2傾斜壁22bによって形成された面に相当する。フィルム11の外周縁部111(図1(a)参照)は、傾斜部12に厚さ方向から覆われていることになる。図2に示すフィルム11は、窓部10の厚さ方向のちょうど中央付近に位置しているが、おもて面12a側に寄っていてもよい。あるいは、裏面12b側に寄っていてもよい。
【0045】
窓部10の形状は真円の他、楕円であってもよいし複数の角部を有する形状(例えば、三角形、四角形、六角形、十六角形等)であってもよい。
【0046】
また、フィルム11については、窓部10よりも大きなものであればよく、その形状は限定されない。すなわち、真円であってもよいし、楕円であってもよいし、複数の角部を有する形状(例えば、三角形、四角形、六角形、十六角形等)であってもよい。
【0047】
傾斜部12は、フィルム11より厚い部位であって、フィルム状のものではなく、肉厚状のものである。傾斜部12の厚さとフィルム11の厚さとを比較すると、傾斜部12は、フィルム11の厚さの4倍以上の厚さのものであり、フィルム11に比べて強度も高い。傾斜部12は、フィルム11をピンと張った状態に固定する固定部である。なお、傾斜部12は、フィルム11の6倍以上の厚さのものであることが好ましく、20倍以上の厚さのものであることがより好ましい。すなわち、フィルム11からみれば、フィルム11の厚みは、傾斜部12の厚みの、1/4以下であればよく、1/6以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましい。また、図2に示すように、傾斜部12の傾斜角度は、おもて面12aと裏面12bとで異なっている。ここにいう傾斜角度とは、フィルム11に沿った水平線に対して傾斜した角度のことをいう。おもて面12aの傾斜角度θ1は、0度より大きく90度未満の角度(例えば、4度あるいは8度)であり、2度以上60度未満の角度であることが好ましい。一方、裏面12bの傾斜角度θ2も、0度より大きく90度未満の角度(例えば、5度あるいは10度)であり、2度以上60度未満の角度であることが好ましい。ただし、裏面12bの傾斜角度θ2の方が、おもて面12aの傾斜角度θ1よりも急角度であることが好ましい。図2に示すおもて面12aの傾斜角度θ1は、図1(a)に示す第1傾斜壁21bの傾斜角度に対応し、図2に示す裏面12bの傾斜角度θ2は、図1(a)に示す第2傾斜壁22bの傾斜角度に対応する。図1(a)で明らかなように、フィルム11の外周縁部111から第2傾斜壁22bまでの厚さの方が、フィルム11の外周縁部111から第1傾斜壁21bまでの厚さよりも厚く、傾斜部12における、フィルム11の外周縁部111より上方の容積の方が、その外周縁部111より下方の容積よりも多いことになる。傾斜部12における、フィルム11の外周縁部111より上方の容積が多いことによって、熱収縮の作用が大きく作用し、また、重くなることから、外側へ開く方向(図1(a)に示す矢印参照)のテンションが大きくなりやすい。しかも、裏面12bの傾斜角度θ2の方が急角度であることによっても、傾斜部12が外側へ開きやすくなっている。ただし、裏面12bの傾斜角度θ2が90度以上であると、反対に傾斜部12が外側に開きにくくなってしまう。一方、裏面12bの傾斜角度θ2が2度未満であると、外側に開く方向へのテンションが弱くなりすぎ、フィルム11に弛みが生じる場合がある。
【0048】
図2に示すように、本実施形態のインサート成形体1では、フィルム11は、中心位置における厚さ方向(図2では上下方向)の撓みが、フィルム11の厚さの1/10以下に抑えられている。図2では、フィルム11が、厚さ方向のうちの一方向になる上方向に最大限撓んだ状態を1点鎖線で表し、厚さ方向のうちのもう一方の方向になる下方向に最大限撓んだ状態を2点鎖線で表す。例えば、フィルム11が50μmの厚みのものであれば、厚さ方向のうちの一方向(上方向)の撓み(矢印+Y参照)は最大で2.5μm(厚さの1/20以下)、他方向(下方向)の撓み(矢印−Y参照)も最大で2.5μm(厚さの1/20以下)となるように抑えられている。
【0049】
インサート成形に用いたり、あるいはフィルム11の材料となる熱可塑性樹脂の一例としては、アイオノマー樹脂、EEA樹脂、AAS(ASA)樹脂、AS樹脂、ACS樹脂、エチレン酢ビコポリマー、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン、酢酸繊維素樹脂、ふっ素樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性エラストマー、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂、メチルペンテンポリマー等があげられる。あるいは、熱可塑性樹脂に限らず、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂であってもよい。また、インサート成形に用いる樹脂、すなわち傾斜部12を形成する樹脂と、フィルム11の材料となる樹脂は、同じ樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。例えば、傾斜部12は熱可塑性樹脂で形成されたものであり、フィルム11は熱硬化性樹脂で形成されたものであってもよい。
【0050】
続いて、図3を用いて本実施形態の変形例について説明する。ここでの変形例の説明では、これまで説明した構成要素と同じ名称の構成要素にはこれまで用いた符号と同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略することがある。
【0051】
図3は、型開きした金型2にフィルム11を挿入した後、型閉めされた状態の金型の左半分の断面を示す図である。したがって、インサート成形体自身を示すものではないが、図1(a)と図2の関係と同様に、インサート成形体の傾斜部の形状は、図3(a)〜同図(c)に示す各キャビティCの形状と一致する。なお、図3(a)〜同図(c)に示す各金型を用いて射出成形されたインサート成形体には、周壁部13は形成されず、固定型21のキャビティ形成壁は、中央突部211の立上がり壁21aと、第1傾斜壁21bから構成されている。一方、可動型22のキャビティ形成壁は、中央押さえ部221の突出壁22aと、第2傾斜壁22bと、傾斜厚み壁22fから構成されている。
【0052】
図3(a)に示すキャビティCのうち、第1傾斜壁21bと第2傾斜壁22bは平行関係を保っている。したがって、第1傾斜壁21bの傾斜角θ1’と、第2傾斜壁22bの傾斜角θ2’は等しい。また、フィルム11の外周端111aは、第1傾斜壁21bに当接しているが、第2傾斜壁22bの外端(傾斜厚み壁22fと接する位置)よりは内側に位置している。
【0053】
図3(b)に示すキャビティCでは、第2傾斜壁22bの傾斜角θ2’の方が、第1傾斜壁21bの傾斜角θ1’よりも大きな角度である。また、フィルム11の外周端111aは、第1傾斜壁21bから離間した位置にある。図3(b)に示すキャビティCも、図1(b)に示すキャビティCと同じく、厚さ(図3(b)では上下方向の長さ)が、中心に近いほど薄いことなる。したがって、キャビティC内に熱可塑性樹脂が充填されると、厚さが薄い中心側から先に固化していき、外側の熱可塑性樹脂ほど固化が遅れ、外側の熱可塑性樹脂が内側に向けて縮まろうとする熱収縮の作用が生じ、外側へ開く方向のテンションが大きくなりやすい。このため、フィルム11が外側へ引っ張られやすくなり、フィルム11がピンと張ったものになりやすい。
【0054】
図3(c)に示すキャビティCでも、第2傾斜壁22bの傾斜角θ2’の方が、第1傾斜壁21bの傾斜角θ1’よりも大きな角度である。また、フィルム11の外周端111aは、第2傾斜壁22bの外端(傾斜厚み壁22fと接する位置)に一致している。図3(c)に示すキャビティCの厚さ(上下方向の長さ)も、中心に近いほど薄く、外側との固化タイミングの差によって、外側へ開く方向のテンションが大きくなり、フィルム11がピンと張ったものになりやすい。
【0055】
以上説明した図3(a)〜同図(c)に示す各金型2を用いて射出成形されたインサート成形体では、フィルム11を上方に位置した姿勢にすると、そのフィルム11と傾斜部12によって円錐台形状が形成される。すなわち、フィルム11が円錐の底面に平行なものとなる。なお、インサート成形体において、その底面を構成する部分は、あってもなくてもよい。また、傾斜部12の先端縁は、厳密にはフィルム11よりも上方に突出している。
【0056】
図3(d)に示す金型2を用いて射出成形されたインサート成形体には、周壁部13が形成される。固定型21には、第1傾斜壁21bの他に、外縁壁21cおよび平坦壁21dが設けられている。また、可動型22には、第2傾斜壁22bの他に、周壁形成外周壁22c、周壁形成内周壁22dと、周壁厚み壁22eが設けられている。さらに、可動型22には、変更傾斜壁22gも設けられている。この変更傾斜壁22gは、第2傾斜壁22bの傾斜角度θ2’とは異なる傾斜角度の傾斜壁であり、図3(d)に示す変更傾斜壁22gの傾斜角度θ3’は、第2傾斜壁22bの傾斜角度θ2’よりも大きい。変更傾斜壁22gによって、図3(d)に示すキャビティCの厚さ(上下方向の長さ)が、途中から外側にいくほど厚くなり、しかも、周壁部13を形成する部分(外縁壁21c,平坦壁21d,周壁形成外周壁22c,周壁形成内周壁22d,周壁厚み壁22eで囲まれた部分)の容積によって、固化タイミングは内側よりも大きく遅れ、外側へ開く方向のテンションがより大きくなり、フィルム11がさらにピンと張ったものになりやすい。なお、第2傾斜壁22bの傾斜角度θ2’は、第1傾斜壁21bの傾斜角度θ1’と同じであるが、第1傾斜壁21bの傾斜角度θ1’よりも大きくてもよい。また、第2傾斜壁22bと変更傾斜壁22gとの1段階の傾斜角度の変更の他、複数段階の傾斜角度の変更を行ってもよい。この場合、外側へ向かうほど傾斜角度が大きくなる方が好ましい。
【0057】
図3(d)に示す金型2を用いて射出成形されたインサート成形体でも、フィルム11を上方に位置した姿勢にすると、そのフィルム11と傾斜部12によって円錐台形状が形成される。さらに、図3(d)に示す金型2を用いて射出成形されたインサート成形体では、傾斜部12に周壁部13が一体成形されている。
【0058】
以上、図1(a)および図3を用いて説明した金型2では、壁と壁をつなぐ箇所(例えば、第2傾斜壁22bと傾斜厚み壁22fをつなぐ箇所)がいずれも角部で表されているが、R部であってもよい。
【0059】
加えて、抜型後の冷却が完了したインサート成形体1、すなわち、熱収縮を終えたインサート成形体1のフィルム11を加熱してもよい。この場合、フィルム11の中心部分を加熱することが好ましいが、フィルム11のうち、外周縁部111を除く、窓部10を覆う部分全体を加熱してもよい。加熱方法としては、例えば、温風を吹き付けること等があげられる。スチレン系樹脂のフィルム11である場合、加熱することで1%程度中心部分に向かって縮み、フィルムがより一段とピンと張られた状態になる。ここで説明したフィルム11は、熱で縮む作用を特に意識していない一般的なフィルムであったが、熱で縮む作用を意識したシュリンクフィルムを用いてもよい。
【0060】
以上の説明したインサート成形は、種々の樹脂成形部材に適用することができる。例えば、フィルム11に加飾フィルムを用い、加飾成形品を成形することもできるし、フィルム11に投影フィルムを用い、光学部材を成形することもできる。さらに、何種類もの投影フィルムを一つの樹脂成形部材に配置しておくものも成形可能であるし、フィルムは投影フィルムに限らず、複数のフィルムを一列に、あるいはマトリックス状に配置した樹脂成形部材も成形可能である。複数のフィルムを配置する場合は、1枚のフィルムごとに厚肉の傾斜部で固定し、各フィルムに外側に開く方向のテンションを付与するようにする。
【0061】
また、以上の説明では、射出成形(インサート成形)を例にあげて説明したが、射出成形に代えて、押出成形、圧縮成形等であってもよい。
【0062】
なお、本実施形態のインサート成形体1では、フィルム11が、傾斜部12のおもて面12aと裏面12bとの間に配置されたものであったが、フィルム11としてシュリンクフィルムを用いると、フィルム自身の収縮だけで弛みをなくすことができる場合がある。この場合には、フィルムの外周縁部を固定する固定部が傾斜していないくてもよく、水平であってもよい。すなわち、傾斜による、外側へ開く方向(図1(a)に示す矢印参照)へのテンションがなくとも、フィルム11自身の収縮だけで弛みをなくすことができる場合がある。したがって、シュリンクフィルムを、固定部のおもて面に超音波溶着してもよいし、固定部の裏面に超音波溶着してもよい。ただし、フィルムの収縮度合いが大きくなればなるほど、フィルムの厚さに影響が出たり、フィルムが破れることがあるため、注意が必要である。
【実施例】
【0063】
図1(a)に示す金型2と同様な構成の金型を用いて、図1(b)および図2に示すインサート成形体1と同様なインサート成形体を製造した。
【0064】
射出成形に用いた樹脂は、市販のポリスチレン(GPPS)であった。また、フィルムとしては、市販のポリスチレン(GPPS)を材料とし、インフレーション法によって成形した、直径62mm、厚さ50μmのものを使用した。
【0065】
固定型21には、中央突部211の立上がり壁21aが1.5mmであり、第1傾斜壁21bの幅(図1(a)では左右方向の長さ)が10mmであって、傾斜角が8度のものを用いた。可動型22には、中央押さえ部221の突出壁22aが1.6mmであり、第2傾斜壁22bの幅(図1(a)では左右方向の長さ)が9mmであって、傾斜角が10度のものを用いた。窓部の直径は43mmである。
【0066】
完成したインサート成形体では、フィルム11の加熱を行わなくても、フィルムの中心位置における厚さ方向(図2おける矢印+Y方向及び矢印−Y方向の両方向)の撓みが5μm以下に抑えられていることが確認された。
【0067】
一方、比較例1として、フィルムの外周縁部を挟み込んで固定する固定部が傾斜していないものを形成した。また、比較例2として、筒状の周壁部の端面にフィルムの外周縁部を超音波溶着したものも形成した。比較例1にしても比較例2にしても、フィルムの中心位置における厚さ方向の撓みが5μmをゆうに超えていた。また、超音波溶着に比べて、実施例のインサート成形の方が、生産性が高いことも確認することができた。さらに、超音波溶着では、溶着の均一性を保つことが困難であることがわかった。
【符号の説明】
【0068】
1 インサート成形体
2 金型
10 窓部
11 フィルム
12 傾斜部
12a おもて面
12b 裏面
13 周壁部
21 固定型
21b 第1傾斜壁
22 可動型
22b 第2傾斜壁
C キャビティ
【要約】      (修正有)
【課題】フィルムが設けられた樹脂形成部材に関し、フィルムがピンと張られた状態で固定されている樹脂形成部材を提供する。
【解決手段】窓部10に向かって傾斜した樹脂製傾斜部12と、窓部10に設けられたフィルム11とを有し、フィルム11が、樹脂製傾斜部12のおもて面と裏面12bとの間に配置されたものである。
【選択図】図1
図1
図2
図3