【0027】
(ウ) しかし、(イ)において、根固め部12に円環部14が存在することによって、杭穴10の狭底部15では、固化根固め液層23の下方を向いた円環段部(下方を向いている)24が根固め部12の円環部(上方を向いている)を押圧することにより、この押圧力が根固め部12の狭底部15の外周面側(すなわち地盤)に作用するので(
図2(a))、狭底部15の外周面(すなわち、固化根固め液層23の細径部25の外周面に向けて)に締め固め力が作用する。よって、水平方向の力P1、P2で、
P1(この発明)>P2(従来例)
となる。
よって、
図2(a)において、水平方向の力P1は、従来の設計方法によるものより増強されると考えられる。したがって、(イ)で述べたように「摩擦が作用する面積」についてはこの発明の方が狭いことを考慮し、かつ固化根固め液層23と地盤とが接する面の摩擦係数がほぼ同一としても、結果として、固化根固め液層23の外周面と地盤との摩擦力に起因する支持力(この発明の増強されたP1)は、P1が増強される前の数値(従来の設計方法であればP2と同様の値となる)である場合に較べて、大幅に増強される。
すなわち、円環部14(円環段部24)の面積A1の面には、
「円環部14の上方の固化杭穴充填物(固化杭周固定液層22、固化根固め液層23)の荷重」および
「既製杭1に作用する鉛直荷重が、既製杭1の外周面及びリブ3、3から固化杭穴充填物(固化杭周固定液層22、固化根固め液層23)に作用する荷重」
とが作用すると考えれる。これらの荷重により、固化根固め液層23の円環段部24の面積A1の面から下方に向けて押圧する力が作用し、この下方に向けて押圧する力の水平方向の成分が、P1に加算されることになる。この発明では、狭底部15(固化根固め液層23の細径部25)を外側から締め固めるように作用する。
よって、P1>P2 となり、前記(イ)と併せて考えれば、上記のように、固化根固め液層24の外周面と地盤との摩擦力に起因する支持力は、この発明の基礎杭構造20では、従来例の基礎杭構造20aと比較して、根固め部12を形成することにより付加される支持力を効率良く増強できると考えられる。
【実施例】
【0029】
図面に基づき、この発明の実施例を説明する。
【0030】
1.既製杭1の構成
【0031】
(1) この発明の既製杭1は、中空円筒型の軸部2に、長さ方向全長に渡り、環状のリブ3、3を形成したコンクリート製であり、
軸部2の外径D
00
リブ(突起部)3の外径D
01
で形成される。
【0032】
(2) 既製杭1は、通常、10m程度の単位既製杭1A、1B、・・・を上下に連結して、数十mの深さに対応するものであり、既製杭1の長さ方向(深さ方向)で、杭穴10の根固め部12に位置する部分(全体の下端部)にのみリブ3を有する構造として、他の長さ方向(深さ方向)の位置ではリブ3、3の無いストレートな構造とすることもできる。
さらに、杭穴10の根固め部12に位置する部分では、既製杭1はリブ3を有する構造が好ましい
。
【0033】
また、杭穴10の根固め部12に配置される以外の既製杭1(既製杭1の根固め部12に位置しない部分の構造)は、全く任意であり、従来使用される組合わせを適宜採用することができる。
【0034】
2.掘削ヘッド
【0035】
(1)この発明の実施に使用する掘削ヘッドは、地上からの回転させることができるヘッド本体に水平軸を形成して、水平軸の周りに揺動する掘削腕を形成して構成する(図示していない)。ヘッド本体の下端部に下方に向けて突出した固定掘削刃、掘削腕の先端部に先端側に突出した移動掘削刃を形成してある。ヘッド本体を掘削ロッドの周り(縦軸周り)に回転することにより杭穴の底部分を掘削し、ヘッド本体の回転により掘削腕が土圧などにより揺動して杭穴底の周囲と杭穴側面を削ぐように掘削できる。
【0036】
(2) また、掘削ヘッドは、掘削ロッドの正回転と逆回転に応じて、あるいは正回転で2種類のストッパーを設定することにより掘削腕の揺動角度を変更して、第1掘削径(小径)と第2掘削径(大径)とを設定できるようになっている。
【0037】
3.杭穴10の形成
【0038】
(1) 掘削ヘッドを第1掘削径(小径)に設定して、地面8から径D
10の杭穴10の軸部11を掘削し、支持地盤9に至ったならば(あるいは、支持地盤9のやや上方から)掘削ヘッドを第2掘削径(大径)に切り替えて、径D
11(D
11>D
10で、支持地盤9内に至る根固め部12を形成する。
通常、径D
10は、使用する既製杭1の最大外径D
01に対して、
D
10=D
01+3cm
程度に形成して、既製杭1の外周面が、埋設中に杭穴壁に当たらないような径を採用する。
【0039】
(2) 根固め部10は、大径D
11の根固め部本体13と、根固め部本体13の下端に連続する小径D
12の狭底部15とから構成する。
【0040】
(3) すなわち、所定の長さ(深さ)H
1の根固め部本体13の掘削が完了したならば、掘削ヘッドを第1掘削径(小径)に設定して、長さH
1の杭穴底(根固め部本体13の底)から、軸を一致させて、径D
12の狭底部15を掘削する。径D
12の狭底部15は、長さ(深さ)H
2で形成する。
ここで、所定の長さ(深さ)H
1は、構造計算上、通常の先端支持力を発揮できる根固め部12の深さである。すなわち、この杭穴10は、「予め所定の支持力を満足するように、軸部11および根固め部本体13からなる仮根固め部を有する仮杭穴」として設計した仮杭穴で、さらに、仮根固め部の底に狭底部15を形成して構成したものである。したがって、仮根固め部(=根固め部本体13)と狭底部15とで、根固め部12を構成する。
【0041】
(4) 前記において、狭底部15の掘削外径D
11は、
通常、径D
11は、使用する既製杭1の最大外径(リブ3の外径)D
01に対して、
D
11>D
01+3cm
程度で設定する。
また、狭底部15の長さ(深さ)H
2は、既製杭の最大径D
01(軸部径D
00)に対して、
H
2>D
01×3
とすることが好ましい。また、この長さH
2は、後述するように、既製杭1の下面5を狭底部15の底16から若干上方に位置させても、少なくとも2つのリブ3、3を収納できる長さとなっている。
なお、大きな支持力を望まない場合には、少なくとも、
H
2>D
01×1
で形成される。
【0042】
(5) また、径D
10の根固め部本体13の下端(すなわち、径D
11の狭底部15の上端)に、外径D
10、内径D
11のドーナツ状の円環部14が形成され、円環部14が径D
10から径D
11への寸法調整部となっている。
【0043】
(6) 所定の杭穴10の掘削が完了したならば、掘削ヘッドからセメントミルクを吐出して、根固め部12内(狭底部15および根固め部本体13内)の掘削泥土をセメントミルクで置換して、セメントミルクからなる根固め層を形成する。
続いて、根固め部12の上方の杭穴の軸部11で、掘削ヘッドからセメントミルクを吐出して杭穴10内の掘削泥土と撹拌混合して、ソイルセメントを形成して、杭穴10の軸部11にソイルセメントからなる杭周固定液層を形成する。
続いて、掘削ヘッドを地上に引き上げる。
【0044】
(7) 前記において、杭穴10は、掘削ヘッドを第1掘削径(小径)としてD
10の杭穴10の軸部11を掘削し、続いて第2掘削径(大径)として根固め部12の根固め部本体13を掘削し、その後第1掘削径(小径)に戻して、根固め部12の狭底部15を掘削したが、他の掘削手順とすることもできる。
たとえば、掘削ヘッドを第1掘削径(小径)として、D
10で、先ず、杭穴10の軸部11の全体、根固め部本体13の中心側のみ、狭底部15の全体を底16まで掘削する。その後、掘削ヘッドを若干、上昇させて第2掘削径(大径)にして、高さH
1分だけ大径D
11で杭穴壁を削いで根固め部本体13の外周側を掘削することもできる。
【0045】
4.基礎杭構造20の形成
【0046】
(1) 続いて、杭穴10内に、既製杭1を埋設する。この際、単位既製杭1A、1B、・・・、1Dを連結しながら、必要長さの既製杭1を構成するように、埋設する。
既製杭1の最下端(最下端に位置する単位既製杭1A)では、先端部を狭底部15内に挿入する。この際、既製杭1の下面4は、狭底部15の底16(杭穴10の底16)から若干離して(例えば、既製杭1の軸部径D
00程度)、既製杭1の下面4と狭底部15の底16との間にセメントミルクが介在するように形成する。また、狭底部15には既製杭1のリブ3、3が2つ入るように埋設する。
既製杭1(総ての単位既製杭)の埋設が完了したならば、セメントミルク(根固め層)、ソイルセメント(杭周固定液層)が固化するまで、既製杭1の上端部(最上段の単位既製杭1Dの上端部)を地上で保持する。
【0047】
(2) セメントミルク(根固め層)、ソイルセメント(杭周固定液層)が固化したならば、この発明の基礎杭構造20(既製杭1の埋設構造)が完成する。その後、既製杭1の上端部に、通常の場合と同様に、地上構造物のフーチングを連結する。
【0048】
(3) この基礎杭構造20では、地上構造物の荷重は、フーチング(図示していない)を介して、既製杭1に伝達される。既製杭1の上端から下面5までの既製杭1の側面の表面積に応じて、根固め層、杭周固定液層の固化セメントミルク、固化ソイルセメントに摩擦力として伝達され、各周辺地盤に伝達される。
また、この場合、根固め部12では、既製杭1の下面4から、さらに既製杭1の各リブ3、3の下方に向かう面から、根固め層内へ下方に向けて押圧力が伝達され、根固め層のセメントミルクの固化強度を、5〜20N/mm
2 程度で、かつ根固め部12の周辺の地盤強度より大きな値を採用すれば、リブ3の外径D
01に応じて、より大きな先端支持力を負担できる。
また、円環部14では、円環部14が段差となり、固化した根固め部12の円環部14が支持地盤9の円環部14に係止し、既製杭1を下方に押さえる力を負担できる。この際、円環部14で支持地盤9を押圧することにより、円環部14の直下で、狭底部15の周壁が支持地盤9から締め固められ、強固な狭底部15が形成され、不慮の大きな外力を受けた場合であっても、狭底部15の破壊を遅らせることができ、結果として、根固め部12の全体の破壊を遅らせることができる。
また、締め固めによって、前記のように、狭底部15の外側面に作用する摩擦力の増強が図れるので、小径ながら大きな支持力を発揮できる。
【0049】
(4)具体的な構成
【0050】
図1において、この発明の基礎杭構造20は、例えば、以下のような寸法などで構成する。
・支持地盤9のN値:30以上
・既製杭1 軸部2外径D
00 =100cm
リブ3外径(最大外径)D
01 =120cm
上下のリブ3の間隔(中心距離)=100cm
・既製杭1の強度=105Nmm
2
・杭穴10 軸部11の掘削径D
10 =120+3=123cm
根固め部本体13の掘削径D
11(=D
10)=200cm
根固め部本体13の長さ(深さ)H
1 =200cm
狭底部15の掘削径D
12 =170cm
狭底部15の長さ(深さ)H
2 =200cm
・根固め部12の根固め部液の固化強度=5〜20N/mm
2
・軸部11の杭周固定液の固化強度=0.5〜5N/mm
2
【0051】
5.他の構成
【0052】
(1) 前記実施例において、全長に亘り、リブ3、3が形成された既製杭1を使用したが、少なくとも根固め部12内に埋設される単位既製杭1のみ(既製杭1の根固め部12内に位置する部分にのみ)必要なリブ3、3が形成されていれば良く、それ以外の上方の単位既製杭1は、ストレート状とすることもできる(図示していない)。
また、前記実施例において、既製杭1の軸部2の径を全長に渡り同径としたが、最上段の既製杭を水平耐力上大径とし、あるいは途中の地盤強度の大きな層に対応する部分の径を大きくするなど、任意である(図示していない)。また、最上段の既製杭を大径とする代わりに、鋼管被覆コンクリート杭(SC杭)からなる既製杭とすることもできる(図示していない)。
【0053】
(2) また、前記実施例において、杭穴10の掘削手順について、径D
10(=D
11)の軸部11及び径D
11根固め部本体13を掘削した後で下方に径D
12の狭底部15を掘削したが、掘削手順は任意である。例えば、掘削ヘッドを第1掘削径(小径)に設定して、軸部11の中心側、根固め部本体13の中心側、狭底部を径D
11で掘削した後に、掘削ヘッドを第2掘削径(大径)に設定して、狭底部15の底16からH
2上方から地上8まで、杭穴壁を削ぐようD
11に拡大して、根固め部本体13の外周側、軸部11の外周側を掘削することもできる(図示していない)。
【0054】
(3) また、前記実施例において、根固め部本体13の下端部(すなわち、狭底部15に接続した付近)は径D
11(D
12<D
11)で形成する必要があるが、根固め部本体13の上部および中間部、杭穴の軸部11の径は、既製杭1が納まれば任意である。
例えば、杭穴1の軸部11の径D
10と、根固め部12の根固め部本体13(高さH
1)の径D
11とを同一に形成し(D
11=D
10)、根固め部本体13の下方に同様に、狭底部15(高さH
2)を形成して、基礎杭構造20とすることもできる(
図3)。
【0055】
(4) また、前記実施例において、既製杭1の2つのリブ3、3を狭底部15に配置することが望ましいが(
図1、
図2(a)、
図3)、少なくとも1つのリブ3が狭底部15内に配置され、かつ少なくとも1つのリブが根固め部本体13内に配置されている構成とすることもできる(図
4)。
【0056】
(5) また、前記実施例で、円環部14は、水平に形成したが、鉛直に対してθ(=45度程度)の傾斜面とすることもでき(
図5(a)、また、θ(=20度程度)の傾斜面とすることもできる(
図5(b))。また、円環部14は、平坦な面に限らず、傾斜面でかつ凹凸面とすることもできる(
図5(c))。また、水平面の場合(
図1)でも凹凸面とすることもできる(図示していない)。