(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、図中の矢印に基づいて、前後方向、左右方向及び上下方向を定義して説明を行う。
【0025】
まず、
図1から
図3までを用いて、本発明の実施の一形態に係る移乗支援装置1の概略について説明する。
【0026】
移乗支援装置1は、被介護者(介護を受ける者)Pを乗せて移動することにより、当該被介護者Pの移乗(例えば、ベッドとトイレ間の移乗、ベッドと車椅子間の移乗や、移乗支援装置自体への移乗等)を支援するものである。移乗支援装置1は、主として台車部2、支持部3及び上体保持部4を具備する。また、支持部3は、主として下腿駆動機構10、大腿駆動機構20及び上体駆動機構30を具備する。
【0027】
台車部2は、地面(床面)上を移動することができる。台車部2の上部には、支持部3が設けられる。支持部3の上部には、上体保持部4が設けられる。上体保持部4は、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pの身体(特に上体)を保持することができる。
【0028】
台車部2には、下腿駆動機構10の下腿フレーム11が前後に揺動可能に連結される。下腿フレーム11には、大腿駆動機構20の大腿フレーム21が前後に揺動可能に連結される。大腿フレーム21には、上体駆動機構30が連結される。上体駆動機構30には、上体保持部4が設けられる。下腿駆動機構10、大腿駆動機構20及び上体駆動機構30をそれぞれ任意に駆動させることで、上体保持部4の位置(高さ、傾き等)を細かく調節することができる。
【0029】
次に、
図1から
図5までを用いて、移乗支援装置1の各部の構成について説明する。
【0030】
図1から
図4までに示す台車部2は、移乗支援装置1の最下部を形成するものであり、地面(床面)上を移動可能なものである。台車部2は、主として台車部本体2a、車輪2b、ステップ2c、中央フレーム2d及び当接部2eを具備する。
【0031】
台車部本体2aは、台車部2の主たる構造体を形成するものである。台車部本体2aは、棒状の部材や板状の部材等を適宜組み合わせて形成される。台車部本体2aは、平面視略矩形状の範囲に亘るように形成される。
【0032】
車輪2bは、台車部本体2aの下部に複数設けられる。これによって、台車部本体2aは車輪2bを介して地面(床面)上を任意の方向に移動することができる。
【0033】
ステップ2cは、移乗支援装置1に搭乗する被介護者Pの足場を形成する平板状の部材である。ステップ2cは、板面を上下方向に向けた上体で、台車部本体2aの上部の略中央に固定される。
【0034】
中央フレーム2dは、略矩形断面を有する筒状の部材である。中央フレーム2dは、長手方向を略前後方向に向けた状態で、台車部本体2aの上部の左右中央(ステップ2cの左右中央)に固定される。
【0035】
当接部2eは、後述する下腿フレーム11の揺動を所定の位置で規制するものである。当接部2eは、略矩形断面を有する筒状に形成される。当接部2eは、長手方向を上下方向に向けた状態で、中央フレーム2dの後端上部に固定される。
【0036】
図1から
図5までに示す支持部3は、台車部2の上部に設けられ、上体保持部4を支持すると共に、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pの身体を保持するものである。支持部3は、主として下腿駆動機構10、大腿駆動機構20、上体駆動機構30及び着座部40を具備する。
【0037】
図1から
図3まで、並びに
図5に示す下腿駆動機構10は、支持部3の最下部を形成するものである。下腿駆動機構10は、主として下腿フレーム11及び下腿シリンダ12を具備する。
【0038】
下腿フレーム11は、台車部2に対して前後に揺動可能に設けられる部分である。下腿フレーム11は、主として下腿フレーム本体11a、下部連結部11b、揺動軸11c、当接部11d、前部連結部11e、膝受け部11f及び着座部連結部11gを具備する。
【0039】
下腿フレーム本体11aは、下腿フレーム11の主たる構造体を形成するものである。下腿フレーム本体11aは、側面視略U字状に形成された左右一対の棒状の部材により形成される。
【0040】
下部連結部11bは、下腿フレーム本体11aの下部に設けられる板状の部材である。下部連結部11bは、平板状の部材の左右両端部を下方に折り曲げて形成される。下部連結部11bは、下腿フレーム本体11aの下部に適宜固定される。
【0041】
揺動軸11cは、下腿フレーム本体11aと台車部2とを連結するものである。揺動軸11cは、軸線を左右方向に向けた状態で配置される。揺動軸11cは、下部連結部11bの下端部と台車部2の略中央部とを前後回動可能に連結する。これによって、下腿フレーム本体11a(下腿フレーム11)は、揺動軸11cを中心として、台車部2に対して前後に揺動することができる。
【0042】
当接部11dは、下腿フレーム本体11aの後下部に設けられる棒状の部材である。当接部11dは、長手方向を左右方向に向けた状態で、下腿フレーム本体11aの後下部の左右に亘るように固定される。
【0043】
前部連結部11eは、下腿フレーム本体11aの前部に設けられる板状の部材である。前部連結部11eは、平板状の部材の左右両端部を略前方に折り曲げて形成される。前部連結部11eは、下腿フレーム本体11aの前部に適宜固定される。
【0044】
膝受け部11fは、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pの膝を受ける部分である。膝受け部11fは、板面を略前後方向に向けた略矩形板状に形成される。膝受け部11fは、下腿フレーム本体11aの前上部に左右一対設けられる。
【0045】
着座部連結部11gは、後述する着座部40が連結される部分である。着座部連結部11gは、平板状の部材の左右両端部を略前方に折り曲げて形成される。着座部連結部11gは、下腿フレーム本体11aの後上部に適宜固定される。
【0046】
下腿シリンダ12は、下腿フレーム11を台車部2に対して前後に揺動させるものである。下腿シリンダ12は、長手方向に伸縮可能なアクチュエータである。下腿シリンダ12の下端部(前端部)は、台車部2の中央フレーム2dの前端部に前後回動可能に連結される。下腿シリンダ12の上端部(後端部)は、下腿フレーム11の前部連結部11eに前後回動可能に連結される。
【0047】
図1から
図4までに示す大腿駆動機構20は、支持部3の上下中途部を形成するものである。大腿駆動機構20は、主として大腿フレーム21及び大腿シリンダ22を具備する。
【0048】
大腿フレーム21は、下腿駆動機構10(下腿フレーム11)に対して前後に揺動可能に設けられる部分である。大腿フレーム21は、主として大腿フレーム本体21a、補助フレーム21b、後部連結部21c及び揺動軸21dを具備する。
【0049】
大腿フレーム本体21aは、大腿フレーム21の主たる構造体を形成するものである。大腿フレーム本体21aは、棒状の部材や板状の部材等を適宜組み合わせて形成される。大腿フレーム本体21aは、略前後方向に延びるように形成される。
【0050】
補助フレーム21bは、大腿フレーム本体21aを補強するものである。補助フレーム21bは、棒状の部材により形成される。補助フレーム21bの一端(前下端)は、大腿フレーム本体21aの前下部に固定される。補助フレーム21bの他端(後上端)は、大腿フレーム本体21aの後上部に固定される。
【0051】
後部連結部21cは、大腿フレーム本体21aの後上部に設けられる板状の部材である。後部連結部21cは、左右一対設けられる。後部連結部21cは、大腿フレーム本体21aの後部から下方に向かって延びるように、当該大腿フレーム本体21aに固定される。
【0052】
揺動軸21dは、大腿フレーム本体21aと下腿駆動機構10(下腿フレーム11)とを連結するものである。揺動軸21dは、軸線を左右方向に向けた状態で配置される。揺動軸21dは、左側面視(
図3参照)において、下腿フレーム11と台車部2とを連結する揺動軸11cの略上方に配置される。揺動軸21dは、大腿フレーム本体21aの前後中途部と、下腿フレーム本体11aの前上部とを前後回動可能に連結する。これによって、大腿フレーム本体21a(大腿フレーム21)は、揺動軸21dを中心として、下腿フレーム11に対して前後に揺動することができる。
【0053】
大腿シリンダ22は、大腿フレーム21を下腿フレーム11に対して前後に揺動させるものである。大腿シリンダ22は、長手方向に伸縮可能なアクチュエータである。大腿シリンダ22の下端部は、下腿フレーム11の下部連結部11bに前後回動可能に連結される。大腿シリンダ22の上端部は、大腿フレーム21の後部連結部21cに前後回動可能に連結される。
【0054】
図1から
図3まで、並びに
図5に示す上体駆動機構30は、支持部3の最上部を形成すると共に、後述する上体保持部4を大腿駆動機構20(大腿フレーム21)に対して相対的に移動させるものである。上体駆動機構30は、主として上体シリンダ31、補助スライダ32及び傾斜角度調節スライダ33を具備する。
【0055】
上体シリンダ31は、上体保持部4を大腿フレーム21に対して移動させるものである。上体シリンダ31は、長手方向に伸縮可能なアクチュエータである。上体シリンダ31は、前下方から後上方に向かって延びるように配置される。上体シリンダ31の前下部は、大腿フレーム本体21aの前下部に固定される。上体シリンダ31の後上端部は、揺動軸31aを介して上体保持部4(より詳細には、後述する上体フレーム4a)の上下中途部に前後回動可能に連結される。
【0056】
補助スライダ32は、上体シリンダ31を補強するものである。補助スライダ32は、長手方向に伸縮自在に構成される。補助スライダ32は、上体シリンダ31と平行に(すなわち、前下方から後上方に向かって延びるように)配置される。補助スライダ32は、上体シリンダ31のすぐ後方に配置される。補助スライダ32の前下部は、大腿フレーム本体21aの前下部に固定される。補助スライダ32の後上端部は、揺動軸32aを介して上体保持部4(より詳細には、上体フレーム4a)の上下中途部に前後回動可能に連結される。
【0057】
傾斜角度調節スライダ33は、上体シリンダ31による上体保持部4の移動に応じて当該上体保持部4の傾斜角度を変更するものである。傾斜角度調節スライダ33は、長手方向に伸縮自在に構成される。傾斜角度調節スライダ33は、略上下方向に延びるように配置される。傾斜角度調節スライダ33の下部は、揺動軸33aを介して補助フレーム21bの後部に前後回動可能に連結される。傾斜角度調節スライダ33の上端部は、上体保持部4(より詳細には、上体フレーム4a)の上端部近傍に回動不能に固定される。
【0058】
図1から
図3まで、並びに
図5に示す着座部40は、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pが着座可能なものである。着座部40は、主として着座部本体41及び連結部42を具備する。
【0059】
着座部本体41は、被介護者Pが着座する部分である。着座部本体41は、板面を略上下方向に向けた板状に形成される。着座部本体41は、適宜被介護者Pが着座しやすい形状に形成される。
【0060】
連結部42は、着座部本体41を下腿フレーム11に連結するための部分である。連結部42は、平板状の部材を適宜折り曲げて形成される。連結部42は、着座部本体41の前下部に固定される。連結部42の前端部には、平板を下方に向かって折り曲げることによってフック部42aが形成される。フック部42aを下腿フレーム11の着座部連結部11gに係合させることで、着座部本体41(着座部40)を下腿フレーム11に取り付けることができる。また、フック部42aと着座部連結部11gとの係合を解除することで、着座部40を下腿フレーム11から取り外すことができる。
【0061】
上体保持部4は、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pの身体(上体)を保持する部分である。上体保持部4は、主として上体フレーム4a、正面保持部4b及び側面保持部4cを具備する。
【0062】
上体フレーム4aは、上体保持部4の主たる構造体を形成するものである。上体フレーム4aは、棒状の部材や板状の部材等を適宜組み合わせて形成される。
【0063】
正面保持部4bは、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pの胸部から腹部に亘る部分を保持する部分である。正面保持部4bは、板面を略前後方向に向けた板状に形成される。正面保持部4bは、上体フレーム4aの上部から下部に亘って上下方向に延びるように配置される。
【0064】
側面保持部4cは、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pを左右両側方から保持する部分である。側面保持部4cは、板面を左右方向に向けた略矩形板状に形成される。側面保持部4cは、左右方向において正面保持部4bを挟むようにして左右一対設けられる。側面保持部4cは、上体フレーム4aから後方に向かって延びるように配置される。
【0065】
このような上体保持部4において、正面保持部4bが被介護者Pの胸部から腹部に亘る部分を支持すると共に、左右の側面保持部4cが当該被介護者Pの脇の下を支持する。これによって、上体保持部4は、被介護者Pの上体(上半身)を安定して保持することができる。
【0066】
このように構成された移乗支援装置1には、
図3に示すように、被介護者Pが着座部40に着座した状態で搭乗することができる。
【0067】
次に、
図3並びに
図6から
図8までを用いて、移乗支援装置1の各部が揺動又は移動する様子について説明する。
【0068】
下腿シリンダ12及び大腿シリンダ22をそれぞれ伸縮させることで、下腿フレーム11及び大腿フレーム21をそれぞれ前後に揺動させることができる。また、上体シリンダ31を伸縮させることで、上体保持部4を大腿フレーム21に対して移動させることができる。下腿シリンダ12、大腿シリンダ22及び上体シリンダ31は、図示せぬリモコン等の操作具を操作することにより、任意に伸縮させることができる。下腿シリンダ12、大腿シリンダ22及び上体シリンダ31は、互いに独立して駆動させることができる。
【0069】
具体的には、
図6に示すように、下腿シリンダ12を伸縮させることで、下腿フレーム11を台車部2に対して前後に揺動させることができる。この場合、揺動軸11cが下腿フレーム11の揺動中心となる。大腿駆動機構20及び上体駆動機構30は下腿フレーム11に支持されているため、下腿フレーム11が揺動すると、当該下腿フレーム11と一体的に大腿駆動機構20及び上体駆動機構30も揺動する。
【0070】
ここで、左側面視(
図3参照)において下腿フレーム11の揺動軸11cは、被介護者Pの足関節J1(足首にある関節(内果点))の近傍(ステップ2cの近傍)に位置する。このように、揺動軸11cを足関節J1の近傍に配置することで、下腿フレーム11を揺動させる際に、被介護者Pの身体(足関節J1)を自然に曲げたり伸ばしたりすることができる。これによって、被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。
【0071】
また、
図7に示すように、大腿シリンダ22を伸縮させることで、大腿フレーム21を下腿フレーム11及び台車部2に対して前後に揺動させることができる。この場合、揺動軸21dが大腿フレーム21の揺動中心となる。上体駆動機構30は大腿フレーム21に支持されているため、大腿フレーム21が揺動すると、当該大腿フレーム21と一体的に上体駆動機構30も揺動する。
【0072】
ここで、左側面視(
図3参照)において大腿フレーム21の揺動軸21dは、被介護者Pの膝関節J2(膝にある関節(脛骨点))の近傍(揺動軸11cの上方)に位置する。このように、揺動軸21dを膝関節J2の近傍に配置することで、大腿フレーム21を揺動させる際に、被介護者Pの身体(膝関節J2)を自然に曲げたり伸ばしたりすることができる。これによって、被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。
【0073】
また、
図8に示すように、上体シリンダ31を伸縮させることで、上体保持部4を大腿フレーム21、下腿フレーム11及び台車部2に対して移動させることができる。この際、上体シリンダ31は長手方向に伸縮するため、上体保持部4は上体シリンダ31の長手方向に沿って直線的に移動する。当該上体保持部4の移動に伴って、傾斜角度調節スライダ33も伸縮する。ここで、傾斜角度調節スライダ33の上端部は、上体保持部4に対して回動不能に固定されている。このため上体保持部4は、上体シリンダ31によって直線的に移動されると同時に、傾斜角度調節スライダ33によって傾斜角度が変更される。
【0074】
具体的には、上体シリンダ31が収縮すると、上体保持部4は後上方から前下方に向かって直線的に移動する。これに伴って、上体保持部4の姿勢は前傾する。すなわち、上体保持部4の傾斜角度(正面保持部4bの垂直方向に対する前方向への傾斜角度A)は大きくなる。
【0075】
また、上体シリンダ31が伸長すると、上体保持部4は前下方から後上方に向かって直線的に移動する。これに伴って、上体保持部4の姿勢は後傾する。すなわち、上体保持部4の傾斜角度Aは小さくなる。
【0076】
このような上体駆動機構30において、上体保持部4を仮想の揺動中心C回りに揺動させたと仮定した場合に、当該上体保持部4が位置し得る範囲(円弧状の仮想可動範囲R)における、一の位置(例えば、
図8の位置P1)と他の位置(
図8の位置P2)との間で、上体保持部4を往復移動させることができるように、上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33等を配置する。
【0077】
当該上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33を用いて、上体保持部4を直線的に移動させると同時に傾斜角度Aを変更することで、上体保持部4を仮想の揺動中心C回りに揺動させた場合(
図8の白抜き矢印参照)と略同様に移動させることができる。
【0078】
ここで、左側面視(
図3参照)において仮想の揺動中心Cは、被介護者Pの股関節J3(大腿骨の関節(転子点))の近傍(揺動軸21dの後方)に位置するように設定される。このように、仮想の揺動中心Cを股関節J3の近傍に設定することで、上体保持部4を移動させる際に、被介護者Pの身体(股関節J3)を自然に曲げたり伸ばしたりすることができる。これによって、被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。
【0079】
また、本実施形態に係る移乗支援装置1においては、左側面視(
図3参照)における被介護者Pの股関節J3近傍に、上体保持部4の揺動中心となる軸部材や、当該上体保持部4を支持するフレーム等を配置する必要がない。このため、支持部3(特に、上体保持部4を移動可能に支持するための部分(上体駆動機構30))の設計の自由度を向上させることができる。したがって、被介護者Pの移乗を妨げないように支持部3を設計することで、当該被介護者Pを移乗する作業(移乗作業)の作業性を向上させることができる。
【0080】
次に、
図9を用いて、上体駆動機構30(特に、上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33)の設計方法(側面視における配置位置等の決定方法)について説明する。
【0081】
まず、側面視において、被介護者Pの股関節J3の位置近傍に仮想の揺動中心Cを設定する。ここで、被介護者Pの股関節J3の位置は、移乗支援装置1の各部(下腿駆動機構10、大腿駆動機構20及び上体駆動機構30)が駆動することによって変化する。このため、仮想の揺動中心Cは被介護者Pの股関節J3と一致するように設定することが望ましいが、実際には股関節J3の位置近傍に適宜設定することになる。
【0082】
次に、上体保持部4を仮想の揺動中心C回りに適宜の範囲で上下(前後)に揺動させたと仮定した場合の上端位置と下端位置を設定する。本説明においては、当該上端位置及び下端位置の一例として、位置P1及び位置P2を示している。
【0083】
次に、位置P1及び位置P2における上体保持部4上の適宜の位置(本説明では、上体シリンダ31の揺動軸31aが設けられる位置)を結ぶ直線L1と、上体シリンダ31の長手方向(伸縮方向)が一致するように、当該上体シリンダ31(
図3等参照)を配置する。
【0084】
次に、位置P1及び位置P2における上体保持部4上の適宜の位置Q1(本説明では、傾斜角度調節スライダ33の上端が固定される位置)から、略下方に向かって直線L2及び直線L3をそれぞれ引く。この際、位置P1における上体保持部4と直線L2とが成す角度と、位置P2における上体保持部4と直線L3とが成す角度が同じ角度になるように、当該直線L2及び直線L3を引く。
【0085】
次に、直線L2と直線L3とが交わった点(位置Q2)を、傾斜角度調節スライダ33の揺動中心(すなわち、傾斜角度調節スライダ33の揺動軸33aの位置)とする(
図3等参照)。
【0086】
最後に、位置P1における上体保持部4上の位置Q1から位置Q2までの距離と、位置P2における上体保持部4上の位置Q1から位置Q2までの距離と、の差の分だけ伸縮可能な傾斜角度調節スライダ33(
図3等参照)を支持部3に設ける。
【0087】
このようにして上体駆動機構30(上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33)の位置を決定することで、上体保持部4を仮想の揺動中心C回りに揺動させた場合と略同様に移動させることが可能な上体駆動機構30を構成することができる。
【0088】
次に、
図10から
図13までを用いて、上述の如く構成された移乗支援装置1を用いた移乗作業の一例について具体的に説明する。なお、以下の説明では、便宜上、移乗支援装置1を操作する者(介助者)の図示は省略している。
【0089】
図10から
図13までには、移乗作業の一例として、前方を向いて便器に着座した状態の被介護者Pを、移乗支援装置1に搭乗させる様子を示している。以下、順に説明する。
【0090】
まず、
図10(a)に示すように、介助者は、移乗支援装置1を前方から被介護者Pに近づける。この際、介助者は、着座部40を移乗支援装置1から取り外しておく。またこの際、介助者は、下腿シリンダ12を伸長させ、下腿フレーム11の当接部11dを台車部2の当接部2eに当接させる(
図3等参照)。これによって、被介護者Pを支持部3で保持する際の荷重を、当接部11d及び当接部2eを介して台車部2で受けることができ、安定して被介護者Pを保持することができる。またこの際、介助者は、大腿シリンダ22及び上体シリンダ31の長さを調節し、正面保持部4bの鉛直方向に対する前方向への傾斜角度a1を、約5度(5度〜10度程度)に調節しておく。以下では、この状態の移乗支援装置1を、初期姿勢と称する。
【0091】
次に、
図10(b)に示すように、介助者は、側面保持部4cを被介護者Pの脇の下に挿通する。この状態で、介助者は、被介護者Pの上体を正面保持部4bにもたれさせる。この際、正面保持部4bは傾斜角度a1だけ前方向に傾斜しているため(
図10(a)参照)、被介護者Pは正面保持部4bに楽にもたれることができる。
【0092】
次に、
図11(a)に示すように、介助者は、上体シリンダ31を収縮させ、上体保持部4を大腿フレーム21に対して前下方に移動(揺動)させる。この際、正面保持部4bの水平方向に対する傾斜角度a2は、約45度になるように調節される。このように上体保持部4を揺動させると、当該上体保持部4と共に被介護者Pの上体も前方に傾く。これによって、被介護者Pの上体部分の体重を正面保持部4bに預けることができる。
【0093】
次に、
図11(b)に示すように、介助者は、下腿シリンダ12を収縮させ、下腿フレーム11を台車部2に対して角度a3だけ前方に揺動させる。角度a3は、具体的には約15度になるように調節される。このように下腿フレーム11を揺動させると、当該下腿フレーム11と共に大腿フレーム21及び上体保持部4も一体的に揺動する。このため、被介護者Pの身体全体が前方に揺動する。これによって、被介護者Pの重心位置が前方(移乗支援装置1側)に移動し、当該被介護者Pは身体を完全に移乗支援装置1に預けることができる。なお、この状態では、正面保持部4bの水平方向に対する傾斜角度a4は、約30度になる。
【0094】
次に、
図12(a)に示すように、介助者は、大腿シリンダ22を伸張させ、大腿フレーム21を下腿フレーム11に対して角度a5だけ前方に揺動させる。これによって、被介護者Pの膝が伸ばされる。このように大腿シリンダ22を伸張させる際には、介助者は、被介護者Pの上体の傾斜角度が維持されるように、すなわち正面保持部4bの水平方向に対する傾斜角度a4が一定(約30度)に保たれるように、上体シリンダ31を同時に伸張させる。なお、この際の角度a5は、後述するように着座部40を下腿フレーム11に取り付ける際(
図12(b)参照)に、被介護者Pの臀部が当該着座部40と干渉しない程度の角度(例えば、約20度)に調節される。
【0095】
次に、
図12(b)に示すように、介助者は、着座部40の連結部42を下腿フレーム11の着座部連結部11gに係合させ、当該着座部40を下腿フレーム11に取り付ける。
【0096】
次に、
図13(a)に示すように、介助者は、大腿シリンダ22を収縮させて、被介護者Pが着座部40に着座するまで大腿フレーム21を下腿フレーム11に対して後方に揺動させる。このように大腿フレーム21を揺動させると、当該大腿フレーム21と共に上体保持部4も一体的に揺動する。
【0097】
次に、
図13(b)に示すように、介助者は、下腿シリンダ12を伸長させ、下腿フレーム11の当接部11dが台車部2の当接部2eに当接するまで(
図3等参照)、すなわち角度a3(約15度)だけ、下腿フレーム11を台車部2に対して後方に揺動させる。
【0098】
介助者は、この状態からさらに上体シリンダ31を伸張させ、上体保持部4を大腿フレーム21に対して後上方に移動(揺動)させ、移乗支援装置1を初期姿勢に戻す。初期姿勢に戻った移乗支援装置1を移動させることで、被介護者Pを任意の場所に容易に移動させることができる。
【0099】
このように、移乗支援装置1を用いることで、力のない介助者でも容易に被介護者Pの移乗作業を行うことができる。また、大がかりな装置等も必要ないため、室内等の限られたスペースであっても移乗作業を行うことができる。
【0100】
また、移乗支援装置1が
図12に示す状態にある場合には、被介護者Pの膝が伸ばされて腰がやや浮いた状態(中腰)になっている。したがって、介助者は、この状態で被介護者Pのズボンの上げ下げを容易に行うこともできる。
【0101】
なお、被介護者Pを移乗支援装置1から降ろす場合には、
図10から
図13までに示した手順とは逆の手順で移乗作業を行えば良い。
【0102】
以上の如く、本実施形態に係る移乗支援装置1は、
移動可能な台車部2と、
搭乗した被介護者Pの上体を保持する上体保持部4と、
上体保持部4を台車部2に対して移動可能に支持する支持部3と、
を具備し、
支持部3は、
上体保持部4を移動させる上体シリンダ31(上体駆動部)、及び上体シリンダ31による上体保持部4の移動に応じて上体保持部4の傾斜角度Aを変更する傾斜角度調節スライダ33(傾斜角度調節部)を有する上体駆動機構30を具備するものである。
このように構成することにより、支持部3の設計の自由度を向上させ、ひいては被介護者Pの移乗作業の作業性を向上させることができる。すなわち、被介護者Pの移乗を妨げないように上体駆動機構30(上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33)の配置等を設計することで、被介護者Pの移乗作業の作業性を向上させることができる。
特に本実施形態においては、上体駆動機構30(上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33等)は被介護者Pの股関節J3よりも前方に配置されている。すなわち、被介護者Pの腰部の左右に上体駆動機構30を配置する必要がない。このため、当該上体駆動機構30が移乗作業の妨げになるのを防止することができる。
【0103】
また、上体駆動機構30は、
側面視において被介護者Pの股関節J3の近傍に設定される仮想の揺動中心C(仮想揺動中心)回りに上体保持部4を揺動させたと仮定した場合において当該上体保持部4が位置し得る位置P1(一の位置)と位置P2(他の位置)との間で、上体保持部4を往復移動させることが可能なものである。
このように構成することにより、上体保持部4を移動させる際の被介護者Pの負担を軽減することができる。すなわち、上体保持部4を、仮想の揺動中心C(ひいては、股関節J3)回りに揺動させた場合と略同様に移動させることができる。これによって、被介護者Pの関節を自然に曲げたり伸ばしたりすることができるため、当該被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。
【0104】
また、支持部3は、
上体駆動機構30を支持すると共に、側面視において被介護者Pの足関節J1の近傍に設けられた揺動軸11c(下腿揺動軸)を中心として前後に揺動可能な下腿フレーム11(下腿揺動部)、及び下腿フレーム11を前後に揺動させる下腿シリンダ12(下腿駆動源)を有する下腿駆動機構10を具備するものである。
このように構成することにより、容易に上体保持部4の位置を細かく調節することができる。すなわち、上体駆動機構30に加えて下腿駆動機構10を駆動させることで、上体保持部4の位置の細かい調節を容易に行うことができる。これによって、被介護者Pの移乗作業の作業性を向上させることができる。また、下腿フレーム11が揺動する際に、被介護者Pの関節を自然に曲げたり伸ばしたりすることができるため、当該被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。
【0105】
また、支持部3は、
上体駆動機構30を支持すると共に、側面視において被介護者Pの膝関節J2の近傍に設けられた揺動軸21d(大腿揺動軸)を中心として前後に揺動可能な大腿フレーム21(大腿揺動部)、及び大腿フレーム21を前後に揺動させる大腿シリンダ22(大腿駆動源)を有する大腿駆動機構20を具備するものである。
このように構成することにより、容易に上体保持部4の位置を細かく調節することができる。すなわち、上体駆動機構30に加えて大腿駆動機構20を駆動させることで、上体保持部4の位置の細かい調節を容易に行うことができる。これによって、被介護者Pの移乗作業の作業性を向上させることができる。また、大腿フレーム21が揺動する際に、被介護者Pの関節を自然に曲げたり伸ばしたりすることができるため、当該被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。
【0106】
また、支持部3は、
上体駆動機構30を支持すると共に、側面視において被介護者Pの膝関節J2の近傍に設けられた揺動軸21dを中心として前後に揺動可能な大腿フレーム21、及び大腿フレーム21を前後に揺動させる大腿シリンダ22を有する大腿駆動機構20と、
大腿駆動機構20を支持すると共に、側面視において被介護者Pの足関節J1の近傍に設けられた揺動軸11cを中心として前後に揺動可能な下腿フレーム11、及び下腿フレーム11を前後に揺動させる下腿シリンダ12を有する下腿駆動機構10と、
を具備するものである。
このように構成することにより、容易に上体保持部4の位置を細かく調節することができる。すなわち、上体駆動機構30に加えて大腿駆動機構20及び下腿駆動機構10を駆動させることで、上体保持部4の位置の細かい調節を容易に行うことができる。これによって、被介護者Pの移乗作業の作業性を向上させることができる。また、大腿フレーム21及び下腿フレーム11が揺動する際に、被介護者Pの関節を自然に曲げたり伸ばしたりすることができるため、当該被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。
【0107】
また、支持部3は、
着脱可能に設けられ、被介護者Pが着座可能な着座部40を具備するものである。
このように構成することにより、移乗支援装置1に搭乗した被介護者Pを着座させることができ、当該被介護者Pの身体に加わる負担を軽減することができる。また、上体駆動機構30等を適宜駆動させることで、被介護者Pを着座部40から浮かせることができ、着座部40の着脱や移乗作業等を容易に行うことができる。
【0108】
なお、本実施形態に係る下腿フレーム11は、本発明に係る下腿揺動部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る揺動軸11cは、本発明に係る下腿揺動軸の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る下腿シリンダ12は、本発明に係る下腿駆動源の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る大腿フレーム21は、本発明に係る大腿揺動部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る揺動軸21dは、本発明に係る大腿揺動軸の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る大腿シリンダ22は、本発明に係る大腿駆動源の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る上体シリンダ31は、本発明に係る上体駆動部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る傾斜角度調節スライダ33は、本発明に係る傾斜角度調節部の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る仮想の揺動中心Cは、本発明に係る仮想揺動中心の実施の一形態である。
また、本実施形態に係る位置P1及び位置P2は、それぞれ本発明に係る一の位置及び他の位置の実施の一形態である。
【0109】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0110】
例えば、本実施形態においては下腿フレーム11及び大腿フレーム21をそれぞれ揺動可能な構成としたが、下腿フレーム11及び大腿フレーム21のいずれか一方のみ揺動可能な構成(例えば、下腿フレーム11が台車部2に揺動不能に支持されると共に、大腿フレーム21が下腿フレーム11に揺動可能に支持される構成)とすることも可能である。
【0111】
また、本実施形態においては、上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33を用いて上体保持部4を移動させる構成としたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、本発明に係る上体駆動部及び傾斜角度調節部は、上体保持部4を移動させると共に当該上体保持部4の傾斜角度を変更することができるものであれば、その構成を限定するものではない。特に、本発明に係る上体駆動部及び傾斜角度調節部は、側面視において被介護者の股関節近傍に軸(揺動軸)やフレーム等の部材を配置しない構成とすることが望ましい。
【0112】
また、本実施形態においては、上体保持部4の仮想の揺動中心C、位置P1及び位置P2を例示したが(
図3及び
図8参照)、本発明に係る仮想揺動中心、一の位置及び他の位置はこれに限定するものではない。すなわち、当該仮想揺動中心、一の位置及び他の位置は、任意の位置に設定することが可能である。この場合、上体駆動部及び傾斜角度調節部(上体シリンダ31及び傾斜角度調節スライダ33)の構成(配置等)を適宜変更することで、当該仮想揺動中心等を任意の位置に設定することができる。
【0113】
また、本実施形態においては、本発明に係る下腿駆動源、大腿駆動源及び上体駆動部の実施の一形態として下腿シリンダ12、大腿シリンダ22及び上体シリンダ31を例示したが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、本発明に係る下腿駆動源、大腿駆動源及び上体駆動部は、下腿揺動部、大腿揺動部及び上体保持部をそれぞれ揺動又は移動させることができるものであれば、その構成を限定するものではない。例えば、下腿駆動源、大腿駆動源及び上体駆動部としては、各種シリンダ(電動シリンダ、空圧シリンダ、油圧シリンダ等)やモータ等を用いることも可能である。
【0114】
また、本実施形態においては、上体保持部4は被介護者Pを前方及び左右両側方から保持するものとしたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、本発明に係る上体保持部は、被介護者Pの上体の少なくとも一部分を保持することができるものであれば、その構成(形状、大きさ、被介護者Pの保持方法)を限定するものではない。
【0115】
また、本実施形態においては、本発明に係る下腿揺動部及び大腿揺動部の実施の一形態として下腿フレーム11及び大腿フレーム21を例示したが、本発明に係る下腿揺動部及び大腿揺動部の構成はこれに限定するものではない。すなわち、本発明に係る下腿揺動部及び大腿揺動部は、上体駆動機構(ひいては上体保持部)を台車部に対して支持することができるものであれば、その構成(形状、大きさ等)を限定するものではない。
【0116】
また、本実施形態においては、着座部40の連結部42を下腿フレーム11の着座部連結部11gに係合させることで、当該着座部40を下腿フレーム11に取り付ける構成としたが、本発明はこれに限るものではない。すなわち、本発明に係る着座部は、支持部に対して着脱可能であれば、当該着脱を行うための構成を限定するものではない。また、着座部を台車部に対して着脱可能に設けることも可能である。
【0117】
また、本実施形態においては、傾斜角度a1、傾斜角度a2、角度a3、傾斜角度a4及び角度a5の値を具体的に例示して、移乗支援装置1を用いた移乗作業について説明したが、本発明はこれらの角度を限定するものではない。すなわち、これらの角度は、被介護者の体格や移乗作業の内容(場所や目的等)に応じて任意に調節することが可能である。