特許第6462504号(P6462504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6462504過給機付き内燃機関の制御装置およびその制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462504
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】過給機付き内燃機関の制御装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/18 20060101AFI20190121BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   F02B37/18 A
   F02B37/24
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-123122(P2015-123122)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-8759(P2017-8759A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003333
【氏名又は名称】ボッシュ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 淳司
(72)【発明者】
【氏名】野口 賢
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−138830(JP,A)
【文献】 特開平04−241736(JP,A)
【文献】 特開平03−210023(JP,A)
【文献】 特開平05−272345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00−41/10
F02D 41/00−41/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの目標バルブ開度を、所定の開度範囲で設定する目標バルブ開度設定部と、
前記設定した目標バルブ開度に、前記排気流量調整バルブの実バルブ開度が追従するように、前記排気流量調整バルブを駆動させて、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御するバルブ駆動部と、
前記内燃機関の回転数が上昇する回転数上昇速度が閾値を超えたか否かを判断する回転数判断部と、を備え、
前記目標バルブ開度設定部は、前記回転数上昇速度が閾値を超えた場合には、前記所定の開度範囲における閉方向限界値を開方向に変化させて、変化させた開度範囲で、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気流量調整バルブの目標バルブ開度を設定することを特徴とする過給機付き内燃機関の制御装置。
【請求項2】
燃料噴射量が閾値を超えたか否かを判断する燃料噴射量判断部をさらに備え、
前記目標バルブ開度設定部は、前記回転数上昇速度が閾値を超え、かつ前記燃料噴射量が閾値を超えた場合には、前記所定の開度範囲における閉方向限界値を開方向に変化させて、変化させた開度範囲で、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気流量調整バルブの目標バルブ開度を設定することを特徴とする請求項1記載の過給機付き内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記タービン上流の排気圧が所定値を超えたか否かを判断する排気圧判断部をさらに備え、
前記目標バルブ開度設定部は、前記回転数上昇速度が閾値を超え、かつ前記タービン上流の排気圧が所定値を超えた場合には、前記所定の開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、変化させた開度範囲で、前記排気流量調整バルブの目標バルブ開度を設定することを特徴とする請求項1又は2記載の過給機付き内燃機関の制御装置。
【請求項4】
内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御方法において、
前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの目標バルブ開度を、所定の開度範囲で設定するステップと、
前記設定した目標バルブ開度に、前記排気流量調整バルブの実バルブ開度が追従するように、前記排気流量調整バルブを駆動させて、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御するステップと、
前記内燃機関の回転数が上昇する回転数上昇速度が閾値を超えたか否かを判断するステップと、
前記回転数上昇速度が閾値を超えた場合には、前記所定の開度範囲における閉方向限界値を開方向に変化させて、変化させた開度範囲で、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気流量調整バルブの目標バルブ開度を設定するステップと、を有することを特徴とする過給機付き内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載される過給機付き内燃機関の制御装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の熱効率の向上を図るため、いわゆるターボチャージャー方式の過給機が広く用いられている。このようなターボチャージャー方式の過給機では、過給圧を制御するため、タービンに流れる排気ガスを迂回させるウエストゲートバルブ、タービンの排気ガス通過面積を変化させる可変ノズルターボバルブなどが排気経路に設けられ、これらバルブの開度に応じてタービンの仕事量を変化させている。
【0003】
例えば、特許文献1には、過給機の物理式(モデル)に基づいて調整要素として各種バルブの開度を変化させることにより、過給圧を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−504210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された発明など従来の過給圧制御系では、上述したウエストゲートバルブなどの排気流量調整バルブの開度を変化させることで、過給圧を制御している。しかしながら、たとえばオートマチックトランスミッション(AT)を搭載した自動車でアクセルペダルを急激に踏み込むことで低速ギアに切り替わるキックダウン、ローギア走行、タイヤスリップ加速時などの、エンジン回転数が急激に立ち上がる過渡運転では、排気流量調整バルブの実開度が目標開度に対して開くまでの遅延時間による排気圧力への影響が大きくなる。すなわち、当該遅延時間により、過給機のタービン上流の排気圧力が高くなってしまう虞がある。このようにタービン上流の排気圧力が高くなると、排気圧がハードウェアで許容される上限値(ハードウェアリミット)を超えてしまうことがある。このような問題に対して、例えば排気流量調整バルブの開度について閉方向の限界値(リミット)をより開き側に設定することで、排気圧がハードウェアで許容される上限値を超えないようにすることができる。しかし、過給圧の応答性が悪化したり定常運転時に達成できる過給圧の低下を招き、応答性能(ドライバビリティ)やエンジン性能が悪化してしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、過給機付き内燃機関において過給圧の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を上限値以下に抑制可能な過給機付き内燃機関の制御装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来の課題を解決するため、本発明は、以下の手段を有する。
【0008】
本発明は、内燃機関の排気経路を流れる排気ガスによりタービンを駆動し、該タービンに連結されたコンプレッサによって吸気経路に流れる空気を内燃機関に過給する過給機付き内燃機関の制御装置において、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気経路を流れる排気ガス流量を調整する排気流量調整バルブの目標バルブ開度を、所定の開度範囲で設定する目標バルブ開度設定部と、前記設定した目標バルブ開度に、前記排気流量調整バ
ルブの実バルブ開度が追従するように、前記排気流量調整バルブを駆動させて、前記内燃機関に空気を過給する過給圧を制御するバルブ駆動部と、前記内燃機関の回転数が上昇する回転数上昇速度が閾値を超えたか否かを判断する回転数判断部と、を備え、前記目標バルブ開度設定部は、前記回転数上昇速度が閾値を超えた場合には、前記所定の開度範囲における閉方向限界値を開方向に変化させて、変化させた開度範囲で、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気流量調整バルブの目標バルブ開度を設定することを特徴とする。
【0009】
本発明において、閉方向限界値とは、排気流量調整バルブを閉めることができる開度の限界値(リミット値)である。本発明によれば、排気流量調整バルブの実バルブ開度が目標バルブ開度の変化に対して時間的に遅れて追従するという遅延特性を考慮し、回転数上昇速度が閾値を超えた場合には、排気圧が所定の許容値を超える虞があるものとして、目標バルブ開度における閉方向限界値を開方向に変化させる。つまり、排気圧が所定の許容値を超える虞がある場合に限って、排気流量調整バルブに係る目標バルブ開度の閉方向限界値を開方向に変化させることにより、実バルブ開度がより早く開き側になるように排気流量調整バルブを駆動して、排気圧の上昇を抑制することができる。
【0010】
このようにして回転数上昇速度が閾値を超えた場合に限って排気流量調整バルブの目標バルブ開度の閉方向限界値を開方向に変化させて、比較的開き側に設定される目標バルブ開度に追従するように排気流量調整バルブを駆動することにより、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【0011】
また、本発明の好ましい態様は、燃料噴射量が閾値を超えたか否かを判断する燃料噴射量判断部をさらに備え、前記目標バルブ開度設定部は、前記回転数上昇速度が閾値を超え、かつ前記燃料噴射量が閾値を超えた場合には、前記所定の開度範囲における閉方向限界値を開方向に変化させて、変化させた開度範囲で、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記排気流量調整バルブの目標バルブ開度を設定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の好ましい態様は、前記タービン上流の排気圧が所定値を超えたか否かを判断する排気圧判断部をさらに備え、前記目標バルブ開度設定部は、前記回転数上昇速度が閾値を超え、かつ前記タービン上流の排気圧が所定値を超えた場合には、前記所定の開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて、変化させた開度範囲で、前記排気流量調整バルブの目標バルブ開度を設定することを特徴とする。
【0013】
以上のような本発明は、過給機付き内燃機関の制御方法として捉えることも可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、過給機付き内燃機関において過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明を適用した過給機付き内燃機関の制御装置が組み込まれたエンジン制御系の全体構成を示す図である。
図2】エンジン制御ユニットを構成する処理部について説明するための図である。
図3】エンジン制御ユニットにより実行される処理フローを説明するためのフローチャートである。
図4】バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値に固定した状態で、過給圧制御部110により過給圧を制御したときの各種時間応答を示す図である。
図5】目標バルブ開度の閉方向限界値を可変にした一の実施例に係る各種時間応答を示す図である。
図6】目標バルブ開度の閉方向限界値を可変にした他の実施例に係る各種時間応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態(以下、本実施形態という。)について具体例を示して説明する。本実施形態は、車両等に搭載される過給機付き内燃機関の制御装置に関する。具体的に、当該制御装置は、例えば図1に示すような、エンジン制御系1に組み込まれるものである。以下では、図1を参照して、エンジン2に過給する空気の過給圧を制御する過給圧制御に着目して、エンジン制御系1の構成及びその動作について説明する。
【0017】
1.エンジン制御系
エンジン制御系1は、図1に示すように、エンジン2と、ターボチャージャー3と、エンジンコントロールユニット100(以下、ECU100という。)とを備える。
【0018】
エンジン2は、本発明に係る内燃機関であって、例えばディーゼル燃料を動力源とするディーゼルエンジン、ガソリン燃料を動力源とするガソリンエンジンなどのレシプロエンジンである。具体的に、エンジン2は、外気取込口と繋がった吸気経路である吸気管2aから外気(空気)を吸入し、燃料を燃焼させることにより動力を発生させる。そして、エンジン2は、燃焼後の排気ガスを排気経路である排気管2bに排気する。以下では、エンジン2はディーゼルエンジンであるものとして説明する。
【0019】
ターボチャージャー3は、エンジン2に空気を過給する過給機であって、例えば図1に示すような高圧段ターボチャージャー3aと低圧段ターボチャージャー3bとが直列接続された2ステージターボチャージャーである。具体的に、ターボチャージャー3は、吸気管2aの上流から下流(エンジン2側)に、低圧段コンプレッサ311と、高圧段コンプレッサ312と、インタークーラー313と、スロットルバルブ314と、過給圧センサ315と、温度センサ316と、を備える。また、ターボチャージャー3は、排気管2bの上流(エンジン2側)から下流に、高圧段タービン321と、低圧段タービン322とを備える。
【0020】
また、エンジン制御系1には、排気ガス中のNOx等の低減のため、排気再循環(EGR)経路330が設けられている。具体的に、EGR経路330は、エンジン2の排気口からエンジン2の吸気口へ排気ガスを還流させる経路であり、排気ガスの還流量を調整するためのEGRバルブ331が設けられている。
【0021】
高圧段コンプレッサ312と高圧段タービン321とは、同一回転軸上で支持するベアリング部341を介して機械的に結合され、高圧段タービン321の回転エネルギにより高圧段コンプレッサ312を回転させてエンジン2に空気を過給する高圧段ターボチャージャー3aを構成する。ここで、高圧段コンプレッサ312には、当該コンプレッサの迂回経路に流れる空気量を調整するコンプレッサバイパスバルブ312aが設けられている。また、高圧段タービン321には、当該タービンの排気ガス通過面積を変化させる可変ノズルターボバルブ321aと、当該タービンの迂回経路に流れる空気量を調整する高圧段ウエストゲートバルブ321bとが設けられている。
【0022】
低圧段コンプレッサ311と低圧段タービン322とは、同一回転軸上で支持するベアリング部342を介して機械的に結合され、低圧段タービン322の回転エネルギにより低圧段コンプレッサ311を回転させてエンジン2に空気を過給する低圧段ターボチャー
ジャー3bを構成する。ここで、低圧段タービン322には、当該タービンの迂回経路に流れる空気量を調整する低圧段ウエストゲートバルブ322aが設けられている。
【0023】
過給圧センサ315は、高圧段コンプレッサ312からエンジン2までの吸気経路に設けられた圧力センサであって、エンジン2に過給される空気の圧力(過給圧)を検出して、検出した過給圧(実過給圧)をECU100に通知する。
【0024】
温度センサ316は、高圧段コンプレッサ312からエンジン2までの吸気経路に設けられた温度センサであって、エンジン2に過給される空気の温度を検出して、検出した温度をECU100に通知する。
【0025】
以上のような構成からなるターボチャージャー3では、高圧段ターボチャージャー3aと低圧段ターボチャージャー3bとがそれぞれ仕事をすることによって、エンジン2により多くの空気を送り込むことができる。
【0026】
ECU100は、入出力装置と、各種演算処理を行う演算装置と、演算処理データを一時記憶するメインメモリと、演算プログラムを記憶する記憶装置とからなるマイクロコンピュータであって、当該記憶装置にエンジン制御系1を制御する制御用プログラムをインストールすることで、次のような処理を実現する。すなわち、ECU100は、アクセルポジションなどの運転手による操作情報および各種センサからの検出情報に基づいて、エンジン2に噴射する燃料噴射量、ターボチャージャー3が備える各種バルブ及びスロットルの開度を調整することにより、エンジン2及びターボチャージャー3の動作を制御する。つまり、本発明が適用される過給機付き内燃機関の制御装置は、ECU100の一機能として実現される。
【0027】
なお、ECU100は、上述したマイクロプロセッサに限らず、例えばプログラマブルロジックデバイスなど、エンジン制御系1を制御するために設計された専用ハードウェアであってもよい。
【0028】
2.過給機付き内燃機関の制御装置
(全体構成)
次に、ECU100の内部構成について図2を参照して具体的に説明する。
【0029】
ECU100は、エンジン2に空気を過給する過給圧を制御する過給圧制御部110と、エンジン2の回転数の変動を判断する回転数判断部120と、エンジン2に噴射する燃料噴射量および噴射タイミングを制御する燃料噴射制御部130と、排気圧を推測する排気圧推測部140と、を備える。
【0030】
過給圧制御部110は、排気経路を流れる排気ガスの流量を調整する排気流量調整バルブの開度に応じてエンジン2の過給圧を制御するため、図2に示すように、目標バルブ開度設定部111と、バルブ駆動部112とを有する。ここで、排気流量調整バルブとは、上述したターボチャージャー3において、可変ノズルターボバルブ321aと高圧段ウエストゲートバルブ321bと低圧段ウエストゲートバルブ322aに該当する。
【0031】
目標バルブ開度設定部111は、アクセルポジションセンサ202からのアクセルポジション情報、燃料噴射制御部130による燃料噴射量、エンジン回転数センサ201からの回転数などの運転状態に関する情報に基づいて過給圧の目標値(目標過給圧)を設定する。そして、目標バルブ開度設定部111は、実過給圧が目標過給圧となるように、バルブの絞り式、タービンとコンプレッサとの変換効率式などの物理式に基づいて、排気流量調整バルブの開度の目標値(以下、目標バルブ開度という。)を設定する。
【0032】
目標バルブ開度には、排気圧がハードウェア上許容される上限値を超えないようにするため、閉め側の限界値(閉方向限界値)が決められている。つまり、目標バルブ開度設定部111は、所定開度範囲内で排気流量調整バルブの目標バルブ開度を変化させる。
【0033】
バルブ駆動部112は、目標バルブ開度設定部111が設定した目標バルブ開度に、排気流量調整バルブの実バルブ開度が追従するように、排気流量調整バルブを駆動させることで、過給圧を制御する。具体的に、排気流量調整バルブが電流レベルに応じて開度を変更可能なソレノイド式バルブである場合、バルブ駆動部112は、目標バルブ開度の変化に応じた駆動電流を排気流量調整バルブのコイルに出力して流すことで、排気流量調整バルブの実開度を変化させる。排気流量調整バルブの実開度は、駆動電流の変化に応じて、目標バルブ開度に追従することとなる。
【0034】
以上のような構成からなる過給圧制御部110では、上述した3つの排気流量調整バルブのうち、エンジン2の負荷(回転数)により区分けした3種類の負荷領域に応じて、2つの排気流量調整バルブの開度を全開または全閉に固定にした状態で残り一つの排気流量調整バルブ(以下、開度可変対象バルブともいう。)に目標バルブ開度を設定し、目標バルブ開度に実開度が追従するように開度可変対象バルブを駆動する。
【0035】
まず、排気ガスが少ない低負荷領域において、過給圧制御部110は、高圧段ウエストゲートバルブ321bと低圧段ウエストゲートバルブ322aとを全閉に固定した状態で、可変ノズルターボバルブ321aを開度可変対象バルブとして駆動することにより、過給圧を制御する。続いてエンジン2の回転数が上昇して排気ガスが低負荷領域よりも多くなる中負荷領域において、過給圧制御部110は、可変ノズルターボバルブ321aの開度を全開状態に固定し、低圧段ウエストゲートバルブ322aを全閉状態に固定した状態で、高圧段ウエストゲートバルブ321bを開度可変対象バルブとして駆動することにより、過給圧を制御する。さらにエンジン2の回転数が上昇して排気ガスが中負荷領域よりもさらに多くなる高負荷領域において、過給圧制御部110は、可変ノズルターボバルブ321a及び高圧段ウエストゲートバルブ321bの開度を全開状態に固定し、低圧段ウエストゲートバルブ322aを開度可変対象バルブとして駆動することにより、過給圧を制御する。
【0036】
回転数判断部120は、エンジン回転数センサ201からの検出結果を用いてエンジンの回転数が単位時間(例えば1秒)当たりに上昇する回転数上昇速度[rpm/sec]を算出し、算出した回転数上昇速度が閾値を超えたか否かを判断する。当該判断結果は、目標バルブ開度設定部111に通知される。
【0037】
燃料噴射制御部130は、エンジン回転数センサ201から検出したエンジン回転数、アクセルポジションセンサ202から検出したアクセルポジションなどの情報に応じて、エンジン2に噴射する燃料噴射量およびタイミングを制御する。
【0038】
また、燃料噴射制御部130は、燃料噴射量の変動について判断する燃料噴射量判断部131を有する。具体的に、燃料噴射量判断部131は、燃料噴射量が閾値を超えたか否かを判断する。当該判断結果は、目標バルブ開度設定部111に通知される。
【0039】
排気圧推測部140は、バルブの絞り式、タービンとコンプレッサとの変換効率式などの物理式によって表現されたエンジン制御系1の物理モデル、及び各種センサの検出値に基づいて、高圧段タービン321の上流側の排気圧の推測値[hPa]、具体的にはエンジン2の排気口付近の排気圧の推測値を算出する。また、排気圧推測部140は、排気圧の変動について判断する排気圧判断部141を有する。具体的に、排気圧判断部141は、
排気圧の推測値が、ハードウェア上の許容値より低く設定した所定値を超えたか否かを判断する。例えば排気圧が所定値を超えた場合には、排気圧がハードウェア上の許容値に近づくほど上昇していると判断することができる。当該判断結果は、目標バルブ開度設定部111に通知される。
【0040】
以上のような構成を備えるECU100では、例えば図3に示すようなフローチャートに従って、過給圧を制御するとともに、回転数判断部120、燃料噴射量判断部131、および排気圧判断部141による判断結果に基づいて、目標バルブ開度設定部111が、排気流量調整バルブにおける目標バルブ開度の閉方向限界値を変化させる。
【0041】
ステップS301において、目標バルブ開度設定部111は、目標バルブ開度の閉方向下限値を、第1閉方向限界値に決めて、ステップS302に進む。ここで、第1閉方向限界値とは、後述する第2閉方向限界値に比べて閉め側の値である。
【0042】
ステップS302において、目標バルブ開度設定部111は、エンジン2の運転状態に基づいて、排気流量調整バルブの目標バルブ開度を、第1閉方向限界値以下の開度範囲で設定して、ステップS303に進む。
【0043】
ステップS303において、バルブ駆動部112は、ステップS302で設定した目標バルブ開度に追従するように、駆動電流を変化させて排気流量調整バルブに出力して、ステップS304に進む。
【0044】
ステップS304において、回転数判断部120は、エンジン回転数上昇速度が閾値を超えたか否かを判断する。エンジン回転数上昇速度が閾値を超えた場合(S304:Yes)にはステップS305に進む。一方、エンジン回転数上昇速度が閾値を超えていない場合(S304:No)、すなわちエンジン回転数上昇速度が閾値以下である場合にはステップS305乃至ステップS307に進むことなくステップS308に進む。
【0045】
ステップS305において、燃料噴射量判断部131は、燃料噴射量が閾値を超えたか否かを判断する。燃料噴射量が閾値を超えた場合(S305:Yes)にはステップS306に進む。一方、燃料噴射量が閾値を超えていない場合(S305:No)、すなわち燃料噴射量が閾値以下の場合にはステップS306乃至ステップS307に進まずステップS308に進む。
【0046】
ステップS306において、排気圧判断部141は、排気圧推測部140により推定した排気圧の推定値が、閾値を超えたか否かを判断する。そして、排気圧の推定値が閾値を超えた場合(S306:Yes)にはステップS307に進む。一方、排気圧の推定値が閾値を超えていない場合(S306:No)、すなわち排気圧の推定値が閾値以下である場合(S306:No)にはステップS307に進まずにステップS308に進む。
【0047】
ステップS307において、目標バルブ開度設定部111は、目標バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値から第2閉方向限界値に変更して、図3に示す処理を終了する。ここで、第2閉方向限界値とは、上述したようにバルブの閉め側の開度限界値であって、第1閉方向限界値と比べてより開き側の値である。つまり、目標バルブ開度設定部111は、バルブ開度を第2閉方向限界値に変更することで、第1閉方向限界値に設定した場合に比べて開き側に制限した開度範囲で目標バルブ開度を設定することとなる。
【0048】
ステップS308において、目標バルブ開度設定部111は、目標バルブ開度を、第2閉方向限界値に変更することなく、第1閉方向限界値に維持して、図3に示す処理を終了する。つまり、目標バルブ開度設定部111は、目標バルブ開度を第1閉方向限界値に維
持することで、第2閉方向限界値に設定した場合と比べて、目標バルブ開度をより閉方向の範囲まで設定することとなる。
【0049】
上記図3に示した処理によれば、ステップS304乃至ステップS305を満たす場合には、排気経路の排気ガスの圧力が所定の上限値を超える虞があるものとして、ステップS306に進む。さらに、ステップS306において排気圧が所定値を超えた場合にはステップS307に進み、目標バルブ開度設定部111が排気流量調整バルブにおける目標バルブ開度の閉方向限界値を、第1閉方向限界値から第2閉方向限界値に変化させる。つまり、上記図3に示す処理によれば、排気経路の排気ガスの圧力が所定の上限値を超える虞がある場合に限って、排気流量調整バルブにおける目標バルブ開度の閉方向限界値を開方向に変化させる。なお、第1閉方向限界値から第2閉方向限界値への変化は、ステップ状に変化させてもよく、時間軸方向に緩やかに変化させてもよい。
【0050】
このようにして所定条件に限って排気流量調整バルブにおける目標バルブ開度の閉方向限界値を開方向に変化することにより、比較例として目標バルブ開度の閉方向限界値を固定した場合に比べて、過給圧を制御する過給圧制御系の応答性ないし追従性を損なうことなく、排気経路の排気圧を所定上限値以下に抑制することができる。
【0051】
図4は、比較例として、目標バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値に固定した状態で、過給圧制御部110により過給圧を制御したときの各種時間応答を示した図である。具体的に、図4(A)はエンジン回転数の時間応答を示し、縦軸上側が、回転数が高いことを表している。また、図4(B)は目標過給圧(破線)と実過給圧(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、過給圧が高いことを表している。また、図4(C)は目標バルブ開度(破線)と、目標バルブ開度に追従するように変化する実バルブ開度(実線)との時間応答を示し、縦軸下側がバルブの開き側(open)を表すとともに縦軸上側がバルブの閉まり側(close)を表している。図4(D)は高圧段タービン321上流側の排気圧の許容値(破線)と実測値(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、排気圧が高いことを表している。
【0052】
図4(A)乃至図4(D)から明らかなように、比較例では、目標バルブ開度の変化に対して実バルブ開度の動きが遅れることにより、高圧段タービン321上流側の排気圧が高い状態でも実バルブ開度が比較的長い時間に亘って閉め側となるため、排気圧が上昇してハードウェア上の許容値を超えてしまうこととなり、望ましくない。
【0053】
次に、上記図3に示す処理により目標バルブ開度の閉方向限界値を可変にした実施例について、その時間応答を図5および図6を参照して説明する。
【0054】
図5は、時点T1から時点T2に亘って第1閉方向限界値を第2閉方向限界値に変化した場合の時間応答である。具体的に、図5(A)はエンジン回転数(実線)とエンジン回転数上昇速度(一点鎖線)と燃料噴射量(破線)との時間応答を示し、縦軸上側が各種の値が高いことを表している。図5(B)は、目標過給圧(破線)と実過給圧(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、過給圧が高いことを表している。また、図5(C)は目標バルブ開度(破線)と、目標バルブ開度に追従するように変化する実バルブ開度(実線)との時間応答を示し、縦軸下側がバルブの開き側(open)を表すとともに縦軸上側がバルブの閉まり側(close)を表している。図5(D)は高圧段タービン321上流側の排気圧の許容値(破線)と実測値(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、排気圧が高いことを表している。
【0055】
図5(A)乃至図5(D)から明らかなように、本実施例では、時点T1から時点T2に亘って、エンジン回転数上昇速度、燃料噴射量、排気圧の推定値のそれぞれが閾値より
も大きい場合、急激な過渡状態であるものとして、目標バルブ開度の閉方向限界値を開き側に変化させる。このように閉方向限界値を開き側に変化させることにより、例えば図4を用いて説明した比較例に比べて実バルブ開度がより早く開き側に変化するため、高圧段タービン321上流側の圧力がハードウェア上の許容値に収まることとなる。
【0056】
一方、図6は、急激な過渡状態がなくステップS308に進んで第1閉方向限界値に維持された場合の時間応答である。図6(A)はエンジン回転数(実線)とエンジン回転数上昇速度(一点鎖線)と燃料噴射量(破線)との時間応答を示し、縦軸上側が各種の値が高いことを表している。図6(B)は、目標過給圧(破線)と実過給圧(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、過給圧が高いことを表している。また、図6(C)は目標バルブ開度(破線)と、目標バルブ開度に追従するように変化する実バルブ開度(実線)との時間応答を示し、縦軸下側がバルブの開き側(open)を表すとともに縦軸上側がバルブの閉まり側(close)を表している。図6(D)は高圧段タービン321上流側の排気圧の許容値(破線)と実測値(実線)との時間応答を示し、縦軸上側が、排気圧が高いことを表している。
【0057】
図6(A)乃至図6(D)から明らかなように、エンジン回転数上昇速度と燃料噴射量と排気圧の推定値のうち少なくとも一つのパラメータが閾値よりも小さい場合、急激な過渡状態ではなく通常の過渡状態であるものとして、目標バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値に維持する。つまり、通常の過渡時であれば、目標バルブ開度に対する実バルブ開度の開き遅れに応じたタービン上流圧力の上昇が限定的であるものとして、目標バルブ開度の閉方向限界値を第1閉方向限界値に維持する。このようにして、高圧段タービン321上流の圧力がハードウェア上の許容値から遠い場合には目標バルブ開度を第2閉方向限界値で制限しないことにより、目標過給圧に対する実過給圧の追従不良を防ぐことができる。つまり、不必要に閉方向限界値を開き側に制限することによって、目標過給圧に対する実過給圧の追従不良が発生することを防ぐことができる。
【0058】
以上のように、上記図3に示す処理を行うECU100では、排気流量調整バルブの実バルブ開度が目標バルブ開度の変化に対して時間的に遅れて追従するという時間特性を考慮し、図5の時点T1〜T2のように急激な過渡状態である場合など、回転数上昇速度が閾値を超えた場合には、排気圧が所定の許容値を超える虞があるものとして、目標バルブ開度における閉方向限界値を開方向に変化させる。つまり、排気圧が所定の許容値を超える虞がある場合に限って、排気流量調整バルブに係る目標バルブ開度の閉方向限界値を開方向に変化させることにより、実バルブ開度がより早く開き側になるように排気流量調整バルブを駆動して、排気圧の上昇を抑制することができる。
【0059】
なお、図3に示した処理のうち、ステップS304の条件を満たした場合には、ステップS305乃至S306を行わずにステップS307に進んでもよい。つまり、エンジン回転数上昇速度が閾値を超えた場合には、排気圧が所定の許容値を超える虞があるものとして、目標バルブ開度について、所定の開度範囲の閉方向限界値を開方向に変化させて過給圧を制御するなどの変更をしてもよい。
【0060】
上記の通り変更が可能であるが、特にステップS305およびS306における判断処理を行うことが好ましい。これは、本来であれば排気圧が許容値を超えないような場合まで不要に閉方向限界値を開き側に変化させることを抑制し、過給圧制御系の応答性ないし追従性の悪化を防ぐことができるからである。
【0061】
また、上述した図5(B)に示す例では、時点T1を境界として第1閉方向限界値から第2閉方向限界値にステップ状に切り替えているが、当該ステップ状の変化に対して適切なフィルタを掛けて緩やかに閉方向限界値を変化させてもよい。同様に、時点T2を境界
として第2閉方向限界値から第1閉方向限界値にステップ状に切り替えているが、当該ステップ状の変化に対して適切なフィルタを掛けて緩やかに閉方向限界値を変化させてもよい。このように緩やかに閉方向限界値を変化させることにより、ノイズや外乱によって閉方向限界値がチャタリングすることを防止し、耐ノイズないし耐外乱特性がある、言い換えればロバストのある過給圧制御を実現することができる。
【0062】
3.その他
なお、実過給圧は、上述した過給圧センサ315に限らず、エンジン制御系1に設けられた各種センサの値から推定した値を用いてもよい。また、本発明が適用される過給機は、上述したような2ステージターボチャージャー3に限らず、1基の過給機であっても適用可能である。
【0063】
さらに、本発明は、上記の実施形態の機能を実現するエンジン制御用プログラムが記録された非一時的な記録媒体をECUに提供し、当該ECUの演算処理装置(CPU、MPU)に対して、当該記録媒体に記録されたエンジン制御用プログラムを読み出して実行させることによって実現してもよい。
【0064】
この場合、当該非一時的な記録媒体から読み出されたエンジン制御用プログラムは、上述の実施形態の機能を実現する。したがって、当該エンジン制御用プログラム及びこのプログラムが記録された非一時的な記録媒体も、本発明の一態様である。
【0065】
当該エンジン制御用プログラムを提供する非一時的な記録媒体は、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RWなどの光ディスク、磁気テープ、不揮発性メモリカード、及びROMを含む。或いは、当該プログラムは、通信ネットワークを介してダウンロード可能であってもよい。
【0066】
典型的な実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は、ここに開示する典型的な態様に限定されないことはもちろんである。特許請求の範囲は、このような変更と、同等の構造及び機能とをすべてを含むように最も広く解釈することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
2 エンジン
321a 可変ノズルターボバルブ
321b 高圧段ウエストゲートバルブ
322a 低圧段ウエストゲートバルブ
111 目標バルブ開度設定部
112 バルブ駆動部
120 回転数判断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6