【文献】
本田一文, 他,がん転移・浸潤に対するアクチン結合タンパク質アクチニン−4の生物学的機能.,生化学,2007年 7月25日,Vol.79, No.7,P.643-654
【文献】
HONDA, K., et al.,Alternative splice variant of actinin-4 in small cell lung cancer.,Oncogene,2004年 7月 1日,Vol.23, No.30,P.5257-5262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または2に記載の抗体又は請求項3に記載の断片と生体試料とを反応させて、変異型α-アクチニン-4を検出することを特徴とする、変異型α-アクチニン-4の検出方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、α-アクチニン-4のアミノ酸配列の第245番目から第263番目の領域のアミノ酸残基の少なくとも1つが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を有する変異型α-アクチニン-4に対する抗体であり、本発明の抗体は、上記第245番目から第263番目の領域において置換されたアミノ酸残基(置換アミノ酸残基)の全部又は一部を認識するものである。本発明の一態様において、本発明の抗体が認識する変異型α-アクチニン-4は、α-アクチニン-4をコードするDNAのエキソン8’に由来するスプライスバリアントである。
【0019】
さらに、本発明は、ACTN4-Vaに反応し、ACTN4-Ubに反応しない、ACTN4-Vaを識別して結合する抗体に関するものである。
【0020】
1.本発明の抗体
本発明の抗体は、ACTN4分子中のアミノ酸残基が置換されたアミノ酸配列を含む変異型ACTN4(タンパク質またはポリペプチド)に対する抗体である。
【0021】
ここで、本明細書において、「α-アクチニン-4」、「ACTN4」、「変異型アクチニン-4」、「ACTN4-Va」、「スプライスバリアント」、「ACTN4-Ub」などの用語は、特に言及しない限り全長タンパク質、部分ポリペプチド及び部分ペプチドのいずれをも包含するものである。従って、例えば「本発明の抗体がACTN4-Vaを認識する」と表現した場合は、本発明の抗体はACTN4-Va(例えばACTN4のスプライスバリアント)の全長タンパク質を認識すること、あるいはACTN4-Vaの部分ポリペプチド(例えばACTN4のエキソン8’に由来するスプライスバリアントのアミノ酸置換が生じた領域を含む部分ポリペプチド)を認識することのいずれも意味するものである。
【0022】
本発明の好ましい態様においては、本発明の抗体は、以下の(i)〜(iii)から選択される少なくとも1つの性質を有するものである。
(i) ACTN4-Vaに対する抗体であって、新たに挿入されたエキソン8’由来のアミノ酸配列置換の全部あるいは何れかを認識する条件を満たす。
(ii) 上記アミノ酸置換がアミノ酸配列の248番目のグリシン(G:glycine)、250番目のロイシン(L:leucine)、あるいは263番目のシステイン(C:cysteine)である。
(iii) 抗原のアミノ酸配列がDIVGTLRPDEKAIMTYVSC(配列番号1)で示される。
【0023】
アミノ酸残基の置換部位及び置換後のアミノ酸残基は、第245番目のアスパラギン酸から第263番目のセリンまでのアミノ酸配列のうち少なくとも1つのアミノ酸残基である。好ましくは、ACTN4のアミノ酸配列の第248番目のグリシン、第250番目のロイシン及び第263番目のシステインであり、これらの1つ又は2つ以上の組み合わせの置換アミノ酸残基を有する。
【0024】
ここで、ACTN4のアミノ酸配列は配列番号2に示される。配列番号2において、エキソン8に由来するアミノ酸配列は第245番目のアスパラギン酸から第263番目のセリンまでのアミノ酸配列(DIVNTARPDEKAIMTYVSS(配列番号3))である。
【0025】
従って、本発明において、変異型ACTN4は、第245番目のアスパラギン酸から第263番目のセリンまでのアミノ酸配列のうち少なくとも1つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換したものである。好ましくは、野生型ACTN4のアミノ酸配列の第248番目のバリンがグリシンに、第250番目のアラニンがロイシンに、及び第263番目のセリンがシステインに変異しているか、あるいはこれらのいずれか1つ又は2つが変異したものをいう。この変異はエキソン8の代わりにエキソン8’が挿入することにより生じた変異、すなわちスプライスバリアント(非特許文献5)が含まれる。このような変異となるアミノ酸の置換を、本明細書では「ACTN4-Va特異的なアミノ酸配列置換」ともいう。
【0026】
従って、本発明のより好ましい態様において、本発明の抗体は、ACTN4-Vaのアミノ酸配列のうち、新たに挿入されたエキソン8’由来の新規スプライスバリアント部分のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を含む部分断片または全長に対し特異的に結合する高特異性抗体である。以下、本明細書においては、変異型ACTN4に対する抗体(スプライスバリアントに対する抗体を含む)を、「抗ACTN4-Va抗体」ともいう。
【0027】
本発明において、「特異的に結合する」又は「認識する」とは、変異型ACTN4(ACTN4-Va)、例えば置換されたアミノ酸残基の全部又は1つ(少なくとも1つ)には結合する(反応する)が、変異がないACTN4-Ubには結合しない(反応しない)ことを意味する。本発明の抗体が結合又は認識する領域は、置換されたアミノ酸残基のみというわけではなく、置換されたアミノ酸残基を含む限り他の領域も含まれる。すなわち、本発明の抗体が結合又は認識する領域は、置換されていないアミノ酸配列の領域が排除されるものではない。
【0028】
結合が特異的か否かであることの確認は、免疫学的手法、例えばELISA法、ウエスタンブロット法、又は免疫組織学的染色等によって確認することができる。
【0029】
2.抗体の製造
次に、本発明の抗体の製造方法について説明する。
【0030】
2−1.抗原の調製
ACTN4-Vaは小細胞肺癌患者組織、小細胞肺癌由来の細胞株、あるいは正常組織の精巣にしか発現しない。また、目的の抗原部位は新規スプライスバリアントに存在するアミノ酸配列置換に由来する上記3種類のアミノ酸のいずれかである。このため、目的の抗体を得るための免疫抗原を調製する場合、全長配列を含む組織又は細胞由来の抗原たんぱく質は免疫抗原として適当でない。そこで、アミノ酸置換がされた配列を含む免疫抗原を合成する必要がある。
【0031】
本発明においては、ACTN4-Vaの部分ペプチドを合成し免疫抗原として用いるが、合成ペプチドは低分子であり、そのままの状態でマウスに免疫しても抗体を得ることは困難である。そこで、合成ペプチドとキャリア蛋白質とをMBS法によりジスルフィド結合させ、免疫抗原を作製する。
【0032】
本発明において免疫抗原は、公知の方法に準じて作製することができる(Fmoc法、Kunio Fujiwara. et al., Journal of Immunological Methods, 61, 217-226(1983))。
【0033】
ペプチドの化学合成は、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の、当業者に公知の方法によって行うことができる。
【0034】
キャリア蛋白質は、BSA(Bovin serum albumin)の他、例えば、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、OVA(Ovalbumin)等を使用することができる。当業者であれば、免疫抗原を公知の方法によって作製することができる。
【0035】
抗原ペプチドを合成する基本となるアミノ酸配列はACTN4-Va中の部分配列であり、そのアミノ酸配列の中から任意に連続する10〜50個、好ましくは10〜30個、さらに好ましくは15〜20個の長さのアミノ酸配列を選択する。選択基準は、アミノ酸配列中に少なくとも1個のACTN4-Va特異的なアミノ酸配列置換が含まれていることが必要である。これらのアミノ酸残基を用いてペプチドを合成する。
【0036】
抗原として使用できるペプチドは、好ましくは配列番号2に示すアミノ酸配列の第245番目〜263番の領域のペプチドであり、ACTN4-Va特異的なアミノ酸配列置換を含むペプチドとして、上記領域のペプチドのアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたペプチドを用いることができる。好ましくは、上記領域の第248番目のバリン、第250番目のアラニン、及び第263番目のセリンのうち少なくとも1つが他のアミノ酸に置換されたペプチドを用いる。さらに、エキソン8’の挿入に基づく置換変異、すなわち、配列番号2に示すアミノ酸配列の第248番目のアスパラギンがグリシンに(N248G)、第250番目のアラニンがロイシンに(A250L)、そして第263番目のセリンがシステインに(S263C)変異したアミノ酸残基を含む、ACTN4-Vaの部分ペプチド(例えばDIVGTLRPDEKAIMTYVSC(配列番号4))を用いることが好ましい。
【0037】
但し、ACTN4-Va特異的なアミノ酸配列置換は、上記N248G、A250L及びS263Cに限定されるものではなく、置換後のアミノ酸残基が、第248番目ではN及びGを除く他の18種類のアミノ酸残基(A、R、D、C、Q、E、H、I、L、K、M、F、P、S、T、W、Y又はV)、第250番目ではA及びLを除く他の18種類のアミノ酸残基(R、N、D、C、Q、E、G、H、I、K、M、F、P、S、T、W、Y又はV)、そして第263番目ではS及びCを除く他の18種類のアミノ酸残基(A、R、N、D、Q、E、G、H、I、L、K、M、F、P、T、W、Y又はV)であってもよい。
【0038】
2−2.ポリクローナル抗体の製造
前記のようにして作製した部分ペプチドをそれ自体で、あるいは担体、希釈剤と共に非ヒト哺乳動物に投与することにより免疫し、抗体価を測定する。
【0039】
免疫する非ヒト哺乳動物の種類は特に限定されるものではなく、例えばマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ヤギ等などが挙げられ、マウスが好ましい。
【0040】
本発明の好ましい態様において、本発明の抗体を作製するために、免疫する動物として、高特異性抗体産生能を有する「GANP(登録商標)」と呼ばれるトランスジェニック非ヒト哺乳動物(WO2004/040971)を用いることもできる。
【0041】
GANP(登録商標)トランスジェニック非ヒト哺乳動物とは、胚中心結合核タンパク質(Germinal center-associated nuclear protein)をコードする遺伝子が導入された非ヒト哺乳動物であり、当該動物を所定の抗原で免疫することにより、当該抗原に対して高親和性あるいは高特異性抗体を産生することができる動物である(WO00/50611号公報、Sakaguchi N. et al., J Immunol. 2005 Apr 15;174(8):4485-94.)。
【0042】
例えばGANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物(例えばマウス)は、上記公報又はSakaguchiらの文献に記載の方法により作製することが可能であり、あるいは、市販品のGANP(登録商標)マウス(株式会社トランスジェニック)として得ることができる。
【0043】
抗原の動物1匹あたりの投与量は、全体で10〜2000μgである。抗原を免疫する際は、アジュバントと抗原溶液を混ぜることが一般的であり、アジュバントの種類としては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内、筋中、足蹠皮下等に注入することにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは2〜3週間間隔で、1〜10回、好ましくは2〜5回免疫を行う。
【0044】
免疫により抗体価が吸光度レベルで2以上上昇したのち、抗体価が吸光度レベルで0.05〜1、好ましくは0.05〜0.5、より好ましくは0.05まで低下するまで、2〜6ヶ月間、好ましくは4〜6ヶ月間、より好ましくは6ヶ月間動物を放置する。なお、上記吸光度レベルを示す血清の希釈率は、例えば27,000倍である。
【0045】
GANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物に免疫する場合は、吸光度レベルが低下するまで放置する必要がなく、一般的なモノクローナル抗体作製法の免疫間隔に従って、最終免疫まで行えばよい。
【0046】
抗体価は、免疫した動物から採取した血液を用いて調べることができる。採取した血液は、採血後低温下で保管せずに、速やかに遠心し血清を分離することが好ましい。得られた血清を段階希釈し、酵素免疫測定法(ELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)又はEIA(enzyme immunoassay))、放射性免疫測定法(RIA(radioimmuno assay))等で抗体価を測定することができる。ELISA又はEIAで抗体価を測定する場合、吸光度は、分光光度計で測定することができる。
【0047】
測定の結果、ACTN4-Vaに対する抗体価の高い動物に最終免疫を施す。但し、抗原の免疫と抗体価の測定に関しては上記測定法に限定するものではない。
【0048】
その後、最終免疫日から数日後に、好ましくは3〜5日後に免疫担当細胞(脾臓細胞等)を摘出する。また、動物の足蹠皮下に抗原を注入した場合には、最終免疫の回数は1回で、免疫から7〜13日後に、好ましくは8〜10日後に脾臓細胞などの免疫担当細胞又は所属リンパ節を摘出する。採血の間隔は、免疫して1〜4週間後、好ましくは1〜2週間後に行う。
【0049】
本発明において、ポリクローナル抗体を取得する場合は、上記所望の抗体価を示した日に採血して、抗血清を得る。抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより、精製することができる。その後は、抗血清中のポリクローナル抗体の反応性をELISA法などで測定する。
【0050】
2−3.ACTN4-Vaに対するモノクローナル抗体の作製
以下に、ACTN4-Vaに対するモノクローナル抗体の作製方法について説明するが、これに限定するものではない。
【0051】
本発明のモノクローナル抗体(「抗ACTN4-Va抗体」)を得る方法としては、まず、新規スプライスバリアントのアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列ペプチドをGANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物などの動物に免疫し、免疫動物から抗体産生細胞(例えばB細胞)を採取し、この抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させ、ハイブリドーマ(融合細胞株)を作製する。そして、このハイブリドーマから産生される抗体を採取することにより、目的のモノクローナル抗体を得ることができる。
【0052】
抗ACTN4-Va抗体は、いわゆるハプテン抗体と呼ばれるものであるが、そのようなハプテン抗体を作製する場合、ハプテン-キャリア複合体の分子構造デザインは、特異抗体の性能に対して非常に大きな影響を与える。
【0053】
(1)抗体産生細胞の調製
抗体産生細胞は、免疫した非ヒト哺乳動物等の動物の脾臓細胞等又は所属リンパ節等から調製する。GANPトランスジェニック非ヒト哺乳動物を用いた場合でも、上記と同様に脾臓細胞やリンパ節から抗体産生細胞を採取することができる。
【0054】
リンパ節は、例えば鼠径部リンパ節、縦隔リンパ節などがあげられる。採取した細胞集団から特に抗体産生細胞の分離操作を行わなくてもよいが、細胞集団の中から抗体産生細胞のみを分離することが望ましい。また、抗体産生細胞を調製する際には、組織の残骸や赤血球をできる限り除いておくことが好ましい。赤血球除去の方法は、一般的に市販されている赤血球除去液を使用するか、塩化アンモニウムとトリスで調製した中性の緩衝液を作製して使用する方法が好ましく採用される。調製した抗体産生細胞は、調製後直ちに次の作業に取りかからないと細胞の状態が悪化する場合があるので、調製後次の作業までに時間がかかる場合は、氷上に静置させておくことが好ましい。
【0055】
(2)細胞融合
細胞融合は、上記の抗体産生細胞と骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)とを融合させ、抗体を産生しながら半永久的に増え続ける細胞(ハイブリドーマ)を作製するために行う作業である。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な細胞株を使用することができる。使用する細胞株としては、HAT選択培地(ヒポキサンチン、チミジン、アミノプテリンを含む培地)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばP3X63-Ag.8.U1(P3U1)やP3/NS I/1-Ag4-1(NS I)等が挙げられる。
【0056】
細胞融合は、ウシ胎児血清(FCS)等を含まないDMEMやRPMI1640培地などの一般に市販されている培地で、1×10
6〜1×10
7個/mLの脾臓細胞及び/又はリンパ節細胞と1×10
5〜1×10
6個/mLのミエローマ細胞とを混合し(脾臓細胞及び/又はリンパ節細胞とミエローマ細胞との細胞比は5:1が好ましい)、細胞融合促進剤存在下で融合を行う。細胞融合促進剤として、平均分子量200〜20000ダルトンのポリエチレングリコールを使用することができる。
【0057】
また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて、融合させることもできる。さらに、センダイウイルスを用いて細胞を融合させることもできる。当業者であれば、公知の細胞融合方法を用いて、上記の抗体産生細胞とミエローマ細胞を融合させることができる。
【0058】
融合後、例えば10〜20%(好ましくは20%)FCS含有RPMI1640培地などで作製したHAT培地で細胞を希釈後、96穴培養プレートの各ウェルに0.5〜3×10
5個ずつ細胞を播き込み、CO
2インキュベーターで培養する。
【0059】
(3)ハイブリドーマの樹立
次に、細胞融合処理後の細胞から目的とする抗体を産生するハイブリドーマを選別する。細胞融合から10〜14日後に、前記したようにHAT培地で選択された細胞がコロニーを形成する。そのコロニー陽性96穴培養プレートの各ウェルの培養上清を採取して、ACTN4-Vaに対する抗体価を確認する。確認方法としては、酵素免疫測定法(ELISA)や放射性免疫測定法(RIA)等で行う。このとき、細胞から産生される抗体にはキャリア蛋白質であるKLHやBSAに対する抗体も含まれるので、KLH等に対する抗体価を測定することで、KLH等に対する抗体価の高いKLH抗体陽性ウェルを除くことができる。ACTN4-Vaに対する抗体産生陽性ウェルを確認できた後は、24穴や12穴培養プレートに細胞を移す。
【0060】
ここで、培地はアミノプテリンを除いたHT培地(ヒポキサンチン、チミジン含有培地)に置き換えることが好ましい。HT培地は、細胞内に残留したアミノプテリンの影響がある間、サルベージ経路にプリンおよびピリミジンの前駆体を供給し続けるハイブリドーマの回復用培地として用いる。HT培地中でしばらく培養後、再度培養上清中の抗体価を確認する。ハイブリドーマは融合細胞であるために不安定であり、すぐに抗体産生能が消失する可能性が高いため、2度目の抗体価の確認を行っておくことが好ましい。前記したように、本発明においてはACTN4-Ubとは交差反応せず、ACTN4-Vaに対して高い特異性を有するハイブリドーマを取得することが必要であるため、ここで重要なことは、培養上清レベルで他のACTN4-Ubとの交差反応性をELISAやRIA等で確認することである。
【0061】
最終的に選択されたウェルの細胞は、単一の細胞にするためにクローニングを行う。クローニングは、例えば細胞懸濁液を10〜20%のFCS含有(好ましくは20%)RPMI1640培地などで適当に希釈後、96穴培養プレートの各ウェルに0.3〜2個入るように細胞を播き込む。96穴培養プレートの各ウェルに入れる細胞の数は、1つのウェルに入る細胞が1個である確率が高くなるようにするため、好ましくは各ウェルに1個入るように細胞を播く。細胞播き込み後、7〜10日後にコロニー陽性ウェルの培養上清を回収する。このとき、3〜5日後にシングルコロニーであることを確認することが好ましい。回収した培養上清は、抗体価を確認する。ここでもACTN4-Vaに対して高い特異性を有し、かつACTN4-Ubに対する交差反応性が低いクローンを選択する。さらに選択されたウェルの細胞をある程度増やしてハイブリドーマ株を樹立する。クローニングは必要に応じて数回行っても良い。
【0062】
(4)モノクローナル抗体の調製
樹立したハイブリドーマ株から以下の方法でACTN4-Va特異的なモノクローナル抗体を精製及び採取する。すなわち、血清の濃度を抑えた培地で培養した培養上清から抗体を調製する方法、市販の無血清培地で培養した培養上清から抗体を調製する方法、動物の腹腔内にハイブリドーマを注入して、腹水を採取し、その腹水から抗体を調製する方法等がある。培養上清は、細胞を0.1〜4×10
5個/mLで調製し、1〜2週間培養したものから採取する。腹水の場合は、ミエローマ細胞由来の哺乳動物と同種系動物の腹腔内にハイブリドーマを0.1〜1×10
7個投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。そして、1〜2週間後に腹水を採取する。
【0063】
培養方法としては、培養フラスコを用いる方法、スピナーフラスコを用いる方法、シェーカーフラスコを用いる方法、バイオリアクターを使用する方法等がある。抗体の精製方法は、プロテインGアフィニティカラム又はプロテインAアフィニティカラムで精製する方法、ACTN4-Vaアフィニティカラムで精製する方法、硫安塩析分画からゲルろ過クロマトグラフィーで精製する方法、イオン交換クロマトグラフィーで精製する方法等があり、これら公知の方法を適宜選択し、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。なお、プロテインAアフィニティカラムを用いてマウスのIgG
1を精製する場合は、結合条件を至適化したバッファーなどを用いることが有効であり、当業者であれば至適条件を適宜選択して、精製することができる。
【0064】
(5)微生物の寄託
本発明のモノクローナル抗体を産生する細胞株(ハイブリドーマ)は、「Anti ACTN4-Va MAb (Clone No.15H2)」と称し、2011年8月31日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒 292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター)に国際寄託した。その受付番号を示す受領番号(受領書に記載)は、NITE ABP-1140である。NITE ABP-1140は、実施例1で「15H2」として樹立したクローンである。
【0065】
(6)モノクローナル抗体の性質
本発明のモノクローナル抗体は、ACTN4-Vaに対して特異的に結合し、高特異性を示すものである。その特異性は、ウェスタンブロッティングにおけるACTN4-Vaと抗体との反応系において、ACTN4-Vaが特異的に発現したヒト小細胞肺癌由来癌細胞株H69の細胞抽出液を用いた際の抗原抗体反応系が、非発現株のヒト膵臓腺癌由来細胞株BxPC-3、ヒト乳癌由来細胞株MCF7の細胞抽出液を用いた際の抗原抗体反応系と比較して、目的の分子量の位置にACTN4-Vaのバンドを検出することによって、特異性を示すことができる条件を満たすものである。
【0066】
例えば、
(i)まず、新たに挿入されたエキソン8’由来のアミノ酸配列置換が存在するACTN4-Vaを含む、ヒト小細胞肺癌由来癌細胞株H69の抽出液(これを「抗原1」という)をウェスタンブロッティングに供する。同様に、新たに挿入されたエキソン8’由来のアミノ酸配列置換が存在しないACTN4-Ubを含むヒト膵臓腺癌由来細胞株BxPC-3、ヒト乳癌由来細胞株MCF7の細胞抽出液(これらをそれぞれ「抗原2」および「抗原3」という)をウェスタンブロッティングに供する。
(ii) 次に、当該抗原に対する抗体をそれぞれの抗原に対して同一濃度で反応させる。
上記(i)の抗原抗体反応における抗原分子(抗原1)は、そのアミノ酸配列において新たに挿入されたエキソン8’由来のアミノ酸配列置換が存在し、本発明のモノクローナル抗体は新たに挿入されたエキソン8’由来のアミノ酸配列置換を含む固相化抗原1と特異的に結合する。そのため、ウェスタンブロットでは分子量約100KDaのたんぱく質バンドとして検出が出来る。
【0067】
また、上記反応系において、固相化抗原が抗原2および抗原3の場合は新たに挿入されたエキソン8’由来のアミノ酸配列置換を有しないため、この固相化抗原2および3と、本発明のモノクローナル抗体とは特異的に結合できない。そのため、ウェスタンブロットでは分子量約100KDaのたんぱく質バンドとして検出が出来ない。
【0068】
本発明の抗体は、上記抗原抗体反応試験を行なったときに、抗原1、2および3の泳動量が10μg/laneの場合、抗ACTN4-Va抗体の検出濃度が少なくとも10μg/ml以下、好ましくは5μg/ml以下、より好ましくは2.5μg/ml以下、特に好ましくは1μg/ml以下となる検出条件を満たすものであり、抗原1に対して極めて高い特異性を有する。
【0069】
あるいは、ACTN4-Vaを遺伝子導入した発現細胞由来抗原を用いたウェスタンブロッティングにより、本モノクローナル抗体の特異性を示してもよい。
【0070】
その特異性は、以下のようにして検出することができる。
【0071】
ウェスタンブロッティングにおけるACTN4-Vaと抗体との反応系において、ACTN4-Va のN末端にGFP(green fluorescent protein)を付加したプラスミドベクターを作製し、ヒト腎上皮細胞株HEK293(HEK293という)に遺伝子導入した発現細胞由来の抽出液を用いた際の抗原抗体反応系を実施する(反応系1という)。一方、ACTN4-Ub のN末端にGFP(green fluorescent protein)を付加したプラスミドベクターを作製し、HEK293に遺伝子導入した発現細胞由来の抽出液を用いた際の抗原抗体反応系を実施する(反応系2という)。
【0072】
次に、反応系1と反応系2とを比較して、反応系1において目的の分子量の位置にACTN4-Vaのバンドが現れるかを検出する。
【0073】
(7)抗体断片
上記抗体の断片も、本発明の抗体に含まれる。ここで、本発明の抗体断片は、本発明の抗体と同様に、ACTN4-Vaに対する抗体であって、新たに挿入されたエキソン8’由来のアミノ酸配列置換の全部あるいは何れかを認識する上記性質を有するものである。
【0074】
抗体の断片としては、本発明の抗体の一部分の領域を意味し、例えば、Fab(antigen - binding fragment)、Fab'、F(ab')
2、Fv、diabody(dibodies)、dsFv、線状抗体、scFv(single chain Fv)、相補性決定領域(complementarity determining region:CDR)を少なくとも一部に含むペプチド等などが挙げられる。上記抗体断片は、本発明の抗体を目的に応じて各種タンパク質分解酵素で切断することにより得ることができる。
【0075】
例えば、Fabは、抗体分子をパパインで処理することにより、F(ab')
2は、抗体分子をペプシンで処理することによりそれぞれ得ることができる。また、Fab'は、上記F(ab')
2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することで得ることができる。
【0076】
scFvの場合は、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、scFvを製造することができる。
【0077】
diabodyの場合は、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるようにscFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、diabodyを製造することができる。
【0078】
dsFvの場合は、抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、dsFvを製造することができる。
【0079】
CDRを含むペプチドの場合は、抗体のVHおよびVLのCDRをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、CDRを含むペプチドを製造することができる。CDRを含むペプチドは、Fmoc法及びtBoc法等の化学合成法によって製造することもできる。
【0080】
抗体のアミノ酸配列が改変されたとしても、上記変異型ACTN4と特異的に結合することができる限り、そのような抗体は本発明の範囲内に含まれる。
【0081】
(8)遺伝子組換え抗体
本発明のACTN4-Vaに対する抗体の好ましい態様の一つとして、遺伝子組換え抗体が挙げられる。遺伝子組換え抗体としては、限定はされないが、例えば、キメラ抗体、ヒト型化抗体及びヒト化抗体等が挙げられる。
【0082】
キメラ抗体(すなわちヒト型キメラ抗体)は、マウス由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に連結(接合)した抗体であり(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855, (1984) 等を参照)、キメラを作製する場合は、そのように連結した抗体が得られるよう、遺伝子組換え技術によって構築できる。
【0083】
ヒト型化抗体を作製する場合は、いわゆるCDRグラフティング(CDR移植)と呼ばれる手法を採用することができる。CDRグラフティングとは、マウス抗体の可変領域から相補性決定領域(CDR)をヒト可変領域に移植して、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものでCDRはマウス由来のものからなる、再構成した可変領域を作製する方法である。次に、これらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。このようなヒト型化抗体の作製法は、当分野において周知である(例えばNature, 321, 522-525(1986);J. Mol. Biol., 196, 901-917(1987)等を参照)。
【0084】
ヒト化抗体(完全ヒト抗体)は、一般にV領域の抗原結合部位である超過変領域(Hyper Variable region)、V領域のその他の部分及び定常領域の構造が、ヒトの抗体と同じ構造を有するものである。但し、超可変部位は他の動物由来であってもよい。ヒト化抗体を作製する技術も公知であり、ヒトに共通の遺伝子配列については遺伝子工学的手法によって作製する方法が確立されている。ヒト化抗体は、例えば、ヒト抗体のH鎖及びL鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka, K.et al., Nature Genetics, (1977)16, 133-143; Kuroiwa, Y.et.al., Nuc. Acids Res., (1998)26, 3447-3448; Yoshida, H.et.al., Animal Cell Technology: Basic and Applied Aspects,(1999)10, 69-73 (Kitagawa, Y.,Matuda, T. and Iijima, S. eds.), Kluwer Academic Publishers; Tomizuka, K.et.al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (2000)97, 722-727等を参照)や、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone, I. M.et.al, Investigative Ophthalmology & Visual Science., (2002)43 (7), 2301-8; Carmen, S. et.al., Briefings in Functional Genomics and Proteomics,(2002)1 (2), 189-203; Siriwardena, D. et.al., Opthalmology, (2002)109 (3), 427-431等を参照)により取得することができる。
【0085】
また、本発明においては、本発明のハイブリドーマ(例えば受領番号NITE ABP-1140のハイブリドーマ)又は当該ハイブリドーマから抽出したDNA若しくはRNAなどを原料として、上述した周知の方法に準じてキメラ抗体、ヒト型化抗体、ヒト化抗体を作製することができる。
【0086】
(9)本発明の抗体が結合する抗原決定基に結合する抗体
さらに、本発明の抗ACTN4-Va抗体としては、例えば、受領番号がNITE ABP-1140であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体が結合(認識)する部位(例えばエピトープ)に結合する抗体も好ましく挙げられる。エピトープとしては、以下に例示するものが挙げられる。
【0087】
本発明の抗ACTN4-Va抗体のエピトープ(抗原決定基)は、抗原であるACTN4-Vaの少なくとも一部であればよく限定はされないが、例えば、ACTN4のアミノ酸配列の第245番目から第263番目のアミノ酸配列を含む領域であり、第248番目、第250番目及び第263番目が他のアミノ酸残基、好ましくはそれぞれグリシン、ロイシン、システインに置換されたアミノ酸配列を含むものである。このようなエピトープのアミノ酸配列は、D IVGTLRPDEKAIMTYVSC(配列番号4)で示されるものである。
【0088】
3.検出方法
ACTN4-Vaは、癌の臨床マーカー(腫瘍マーカー)として利用することができるため、本発明の抗体を生体試料と反応させ、生体試料中のACTN4-Vaを測定することにより、その測定結果を指標として腫瘍を検出または診断することができる。
【0089】
従って、本発明は、本発明の抗体又はその断片と生体試料とを反応させて、変異型α-アクチニン-4を検出することを特徴とする、変異型α-アクチニン-4の検出方法を提供する。
【0090】
また、本発明は、本発明の抗体と生体試料とを反応させて、ACTN4-Vaに反応し、ACTN4-Ubに反応しない、ACTN4-Vaを検出することを特徴とする、癌の検出または診断方法を提供する。検出の対象となるタンパク質としては、例えばACTN4-Vaが挙げられ、検出の対象は、ACTN4-Vaの全長タンパク質、あるいはACTN4-Vaの部分ポリペプチド(例えば下記のアミノ酸配列を含むポリペプチド)が挙げられる。
DIVGTLRPDEKAIMTYVSC(配列番号4)
ACTN4-Vaの測定は、一般に行われる免疫組織染色(IHC:
Immuno
histo
chemical stainingという)、あるいはハプテン免疫測定法として知られている方法のいずれの方法(例えば、ELISA、EIA)等によっても行うことができ、特に限定されない。
【0091】
癌としては、特に限定されるものではなく、例えば脳腫瘍、唾液腺がん、食道癌、咽頭癌、口腔がん、肺癌、胃癌、小腸又は十二指腸癌、大腸癌、尿路悪性腫瘍(例えば前立腺癌、腎癌、膀胱癌、精巣腫瘍)、肝臓癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌、胆嚢癌、胆道癌、膵がん、神経内分泌腫瘍、肉腫(例えば骨肉種、筋肉種など)及びメラノーマからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、好ましくは、肺原発高悪性度神経内分泌腫瘍(HGNT)である。HGNTには、小細胞肺癌(SCLC)及び大細胞神経内分泌癌(LCNEC)が含まれ、これらの中から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。検出対象となる癌の種類は、1種類でもよく2種類以上が併発したものでもよい。癌の状態は、癌の有無、癌の悪性度、癌の転移の有無及び癌の再発の有無からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0092】
特に、HGNT患者由来のACTN4-Vaには、上記配列番号4に示すペプチド(アミノ酸が置換されているペプチド)のアミノ酸配列が含まれているため、このアミノ酸配列に特異的に結合する本発明の抗体は、前述の癌を検出するのに特に好ましい。
【0093】
癌患者、癌が疑われる患者、あるいは健康診断受診者等の被験者から生体試料を採取し、ACTN4-Va測定試料を調製する。生体試料としては、組織、細胞等が挙げられる。組織は、採取した後に組織切片として調製したものを用いることが好ましい。
【0094】
次いで、前記測定試料と本発明の抗体とを反応させる。ACTN4-Vaの検出は、一般に行われるIHCにより行うことができる。ここでは、説明の便宜上、本発明の抗体にはマウス由来の抗体を用いる。
【0095】
IHCでの測定には、切片上のパラフィンを除去したのち、内因性のペルオキシダーゼ活性の阻止を行い、熱処理にて抗原を賦活させる。2%の豚血清で非特異的なタンパク質結合のブロッキングを行い、1次抗体(抗ACTN4-Va抗体)を4度、16時間以上でハイブリダイゼーションを行う。1次抗体を洗浄し、2次抗体としてビオチン化抗マウスIgGで室温1時間でハイブリダイゼーションをおこない、さらに洗浄後アビジンペルオキダーゼ標識3次抗体で反応させ、DAB(3,3'-Diaminobenzidine, tetrahydrochlorideという)を基質として発色を行う。
【0096】
また、本発明の別の態様においては、ACTN4-VaのmRNA量を検出し、その検出結果から腫瘍を検出することができる。
【0097】
従って、本発明は、ACTN4のアミノ酸配列の第245番目から第263番目の領域のアミノ酸残基の少なくとも1つが他のアミノ酸残基に置換されたアミノ酸配列を含む変異型ACTN4をコードする遺伝子を検出する方法を提供する。その方法は、上記置換アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに対するプローブ又は該ポリヌクレオチドの増幅用プライマーと生体試料とを反応させて前記遺伝子を検出するというものである。検出の遺伝子としては、ACTN4をコードするDNAのエキソン8’に由来するスプライスバリアントのmRNA であることが好ましい。
【0098】
mRNAの測定は、例えばノーザンブロッティング、RT-PCR、Real-time PCR、マイクロアレイ等により行なうことができる。
【0099】
ACTN4-Vaをコードする遺伝子は、前記N248G、A250L若しくはS263C、又はこれらの組み合わせの置換変異を有するように配列番号1に示される塩基配列が置換されている。すなわち、V248Gでは配列番号1に示す塩基配列の第861〜863番の「aac」(Asnのコドン)が「ggc」(Glyのコドン)に、A250Lでは配列番号1に示す塩基配列の第867〜869番の「gcc」(Alaのコドン)が「cug」(Leuのコドン)に、そしてS263Cでは配列番号1に示す塩基配列の第906〜908番の「agc」(Serのコドン)が「ugc」(Cysのコドン)に置換されている。
【0100】
従って、ノーザンブロッティングを行う場合は、ACTN4-Vaをコードする遺伝子のうち、上記変異部位を含むヌクレオチド(エキソン8’に由来するヌクレオチド)にハイブリダイズするプローブを設計し、合成する。
【0101】
また、RT-PCRやReal-time PCRを行う場合は、上記変異部位を含むヌクレオチド(エキソン8’に由来するヌクレオチド)が増幅されるようにプライマーを設計する。
【0102】
mRNAの解析では、例えば、アクセッション番号NM_00004924.4に示すACTN4遺伝子(配列番号1)に対応したスプライスバリアント、すなわちエキソン8’の挿入に基づく塩基の置換を網羅的に検出することができる。
【0103】
そしてACTN4が変異型であることの判断、あるいは腫瘍であるかどうかの判断は、プローブによるハイブリダイゼーション、PCRによる増幅反応又はシークエンシングの結果、目的のバンドが検出された場合、あるいは変異型の塩基配列が得られた場合は、ACTN4が変異型であると判断することができる。
【0104】
その際、健常者由来のmRNA発現量と比較することが好ましい。例えば、被験者由来の試料中のmRNA発現量(試験値)と、健常人由来の被検試料中におけるmRNAの発現量(対照値)との比を比較し、基準値以上であれば癌であると判定する。
【0105】
ところで、本発明の方法では、複数の被験者由来の生体試料を用いてACTN4-Va又はそのmRNAのレベルを測定する場合がある。従って、予め規定された数の被験者(1次母集団)において上記ACTN4-Va又はそのmRNA量を測定し、得られた測定値を基本データとして、この基本データと、検出の対象となる個々の被験者由来の生体試料由来のACTN4-Va又はそのmRNA量とを比較することができる。
【0106】
さらに、上記測定された被験者のデータが所定値以上のときは前記母集団の値に組み込んでACTN4-Va又はそのmRNA量のレベルを再度データ処理し(平均値化等)、対象となる被験者(母集団)の例数を増やすこともできる。例数を増やすことにより、ACTN4-Va又はそのmRNA量の臨界値の精度を高め、場合により臨界値を適宜修正することにより、癌の検出又は診断精度を高めることができる。
【0107】
さらに、患者又は健康診断受診者等の被験者から個別に採取した生体試料に対し、本発明の方法を用いて、実際に治療を開始する前などに当該被験者の癌の検出を行うことができる。即ち、当該生体試料からmRNAを採取してそのレベル又は塩基配列を検査し、その検査結果が陽性である場合又は目的の塩基配列が解析された場合には、当該被験者が癌である確率(リスク)が高いものと判断することができる。
【0108】
上記検出結果は、例えば癌の確定診断を行う場合の主要資料又は補助資料とすることができる。より詳細には癌の検査又は確定診断を行う場合には、上記検出結果に加えて、その他の検査結果、例えば生検、他の癌マーカーのレベルから選択される少なくとも1つと組み合わせて、総合的に判断すればよい。
【0109】
4.癌の評価方法
本発明においては、前記3に示す検出方法により得られた検出結果を指標として癌の状態を評価することができる。検出結果が所定の基準値を超えるものをACTN4-Va陽性、所定の基準値以下のものをACTN4-Va陰性とし、陽性の場合には、癌を発症している可能性があると判断し、癌の状態を評価することができる。所定の基準値は、癌の種類によって適宜設定される。
【0110】
癌の状態とは、癌または腫瘍の罹患の有無又はその進行度を意味し、癌発症の有無、癌の悪性度、癌の転移の有無及び癌の再発の有無等が挙げられる。上記評価に際し、これらの癌の状態は1つを選択してもよく、複数個を適宜組み合わせて選択してもよい。癌の有無を評価するには、癌に罹患しているか否かを判断する。癌の悪性度は、癌がどの程度進行しているのかを示す指標となるものであり、病期(Stage)を分類して評価を行ったり、いわゆる早期癌、進行癌を分類して評価することも可能である。癌の転移は、原発巣の位置から離れた部位に新生物が出現しているか否かにより評価する。再発は、間欠期又は寛解の後に再び癌が現れたか否かにより評価する。
【0111】
5.本発明の抗体を含むキット、試薬
本発明においては、ACTN4-Vaに対する抗体をACTN4-Vaの検出用試薬又はキットとして使用することができる。本発明の試薬又はキットは、上記腫瘍の検出等に使用することができる。
【0112】
本発明の抗体(例えばモノクローナル抗体)を癌の検出又は診断薬として用いる場合には、このモノクローナル抗体を他の溶媒や溶質と組み合わせて組成物とすることができる。例えば、蒸留水、pH緩衝試薬、塩、タンパク質、界面活性剤などを組み合わせることができる。また、モノクローナル抗体を酵素標識し、使用することができる。標識酵素として、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)の他に、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、金コロイドなどを用いることができる。
【0113】
本発明をキットに用いる場合には、本発明の抗体の他に、上記の溶媒、溶質、酵素標識試薬、抗原固相化マイクロプレート、抗体希釈溶液、OPD(オルトフェニレンジアミン)錠、基質液、反応停止液、濃縮洗浄液、使用説明書などを含めることができる。また、反応の至適条件を与える緩衝液、反応生成物質の安定化に有用な緩衝液、反応物質の安定化剤などの反応媒体も本発明のキットに含まれ得る。
【0114】
本発明において、ACTN4-VaのmRNAを検出するためのプローブ及びプライマーは、本発明の試薬又はキットに含めることができる。プローブ又はプライマーの設計の基礎とする領域はエキソン8’を検出し得る限り、特に限定されるものではない。
【0115】
シーケンスプライマーの長さは、18〜24塩基、好ましくは20〜22塩基である。シーケンスプライマーの塩基配列としては以下のものを例示することができる。
CCGTATAAGAACGTCAATGTGC(配列番号5)
CTGGCCAGCTTCTCGTAGTC(配列番号6)
【0116】
また、RT-PCRやリアルタイムPCRを行ってACTN4-VaのmRNAを増幅するためのプライマーとしては、エキソン8’を増幅する限り特に限定されるものではなく、エキソン8’の上流領域及び下流領域から15〜24塩基、好ましくは16〜22塩基の長さのヌクレオチドを設計及び合成し、これをプライマーとして使用することができる。
【0117】
例えば、プライマーの塩基配列としては以下のものを例示することができる。
フォワード:TGGGCACTCTGAGGCCA(配列番号7)
リバース:CTTCTGAGCCCCCGAGAAA(配列番号8)
【0118】
また、ハイブリダイゼーションを行うプローブ(TaqMan プローブ)としては、以下のものを例示することができる。
TGAGAAGGCCATCATG(配列番号9)
ハイブリダイゼーションやPCRに使用される試薬や反応条件は、当業者に周知である。
【0119】
6.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、変異型α-アクチニン-4(ACTN4-Va)の機能を阻害する物質、好ましくは本発明の抗体を有効成分として含有するものであり、腫瘍の予防、治療に有効である。
【0120】
従って、本発明は、変異型α-アクチニン-4の機能を阻害する物質を患者に投与することを特徴とする腫瘍の治療方法を提供する。
【0121】
「変異型α-アクチニン-4の機能を阻害する物質」とは、低分子化合物若しくは機能阻害性抗体であることを意味し、好ましくは本発明のACTN4-Vaに対する抗体、及びACTN4-Vaをコードする遺伝子の阻害性核酸である。
【0122】
ACTN4-Vaをコードする遺伝子(ACTN4-Va遺伝子ともいう)の阻害性核酸は、その遺伝子機能又は遺伝子発現を抑制する核酸を意味し、例えば、アンチセンス核酸、デコイ核酸、マイクロRNA、shRNA又はsiRNAなどが挙げられる。これらの阻害性核酸は、上記遺伝子の発現を抑制することが可能であり、腫瘍の遺伝子治療用医薬組成物として使用することができる。
【0123】
<アンチセンス核酸>
アンチセンス核酸は、ACTN4-Va遺伝子(標的遺伝子)のmRNA(センス)又はDNA(アンチセンス)配列に結合できる一本鎖核酸配列(RNA又はDNAのいずれか)である。アンチセンス核酸配列の長さは、少なくとも14ヌクレオチドであり、好ましくは14〜100ヌクレオチドである。アンチセンス核酸は、上記遺伝子配列に結合して二重鎖を形成し、転写又は翻訳を抑制する。
【0124】
アンチセンス核酸は、当分野で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、遺伝子組換え技術として一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。アンチセンス核酸は、例えば、各種DNAトランスフェクション又はエレクトロポレーション等の遺伝子導入方法により、あるいはウイルスベクターを用いることにより、細胞に導入される。
【0125】
<デコイ核酸>
本発明において、デコイ核酸は、転写因子の結合部位を含む短いおとり核酸を意味し、ACTN4-Va遺伝子の転写因子に結合し、プロモーター活性を抑制することができる。この核酸を細胞内に導入し、転写因子がこの核酸に結合することにより、転写因子の本来のゲノム結合部位への結合が競合的に阻害され、その結果、その転写因子の発現が抑制される。具体的には、デコイ核酸は、標的結合配列に結合しうる核酸又はその類似体である。本発明のデコイ核酸は、上記遺伝子のプロモーター配列をもとに、1本鎖、又はその相補鎖を含む2本鎖として設計することができる。長さは特に限定されるものではなく、15〜60塩基、好ましくは20〜30塩基である。
【0126】
核酸は、DNAでもRNAでもよく、あるいは、その核酸内に修飾された核酸及び/又は擬核酸を含んでいてもよい。またこれらの核酸は1本鎖又は2本鎖であってもよく、また環状でも線状でもよい。
【0127】
本発明で用いられるデコイ核酸は、当分野で公知の化学合成法又は生化学的合成法を用いて製造することができる。例えば、遺伝子組換え技術として一般的に用いられるDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる塩基配列を単離又は合成した後に、PCR法又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を使用することもできる。さらに、これらの方法により得られた核酸を、制限酵素等を用いて切断し、DNAリガーゼを用いて結合することにより所望の核酸を製造してもよい。さらに、細胞内でより安定なデコイ核酸を得るために、塩基等にアルキル化、アシル化等の化学修飾を付加することができる。
【0128】
デコイ核酸を使用した場合のプロモーターの転写活性の解析は、一般的に行なわれるルシフェラーゼアッセイ、ゲルシフトアッセイ、ウェスタンブロッティング法、FACS解析法、RT-PCR等を採用することができる。これらのアッセイを行なうためのキットも市販されている(例えばpromega dual luciferase assay kit)。
【0129】
<RNA干渉>
本発明においては、細胞においてRNA干渉(RNAi)により遺伝子発現を調節しうる合成小核酸分子、例えばsiRNA、マイクロRNA(miRNA)及びshRNA分子を使用することができる。
【0130】
siRNA(small interfering RNA)分子を用いる場合は、ACTN4-Va遺伝子に対応する種々のRNAを標的とすることができる。そのようなRNAとしては、mRNA、ACTN4-Va遺伝子の転写後修飾RNA等が挙げられる。本発明において標的とする遺伝子は、選択的スプライシングによって生じたスプライスバリアントであるため、siRNA分子を用いてエキソン部分(エキソン8’)の発現を阻害することができる。
【0131】
siRNA分子は、当分野において周知の基準に基づいて設計できる。例えば、標的mRNAの標的セグメントは、好ましくはAA(最も好ましい)、TA、GA又はCAで始まる連続する15〜30塩基、好ましくは19〜25塩基のセグメントを選択することができる。siRNA分子のGC比は、30〜70%、好ましくは35〜55%である。
【0132】
siRNAは、二本鎖部分を生成するために自身の核酸上で折り畳む一本鎖ヘアピンRNA分子として生成することができる。siRNA分子は、通常の化学合成により得ることができる。
本発明において使用される好ましいsiRNAの塩基配列は、例えば以下の通りである。
CCAUCAUGACUUACGUGUC (配列番号10)
UUACGUGUCCUGCUUCUAC (配列番号11)
AGAUGAGAAGGCCAUCAUG (配列番号12)
【0133】
本発明においては、RNAi効果をもたらすためにshRNAを使用することもできる。shRNA とは、ショートヘアピンRNAと呼ばれ、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。
【0134】
shRNAは、その一部がステムループ構造を形成するように設計することができる。例えば、ある領域の配列を配列Aとし、配列Aに対する相補鎖を配列Bとすると、配列A、スペーサー、配列Bの順でこれらの配列が一本のRNA鎖に存在するように連結し、全体で45〜60塩基の長さとなるように設計する。配列Aは、標的となる遺伝子の一部の領域の配列であり、標的領域は特に限定されるものではなく、任意の領域を候補にすることが可能である。そして配列Aの長さは19〜25塩基、好ましくは19〜21塩基である。
【0135】
さらに、本発明は、マイクロRNAを用いて上記遺伝子の発現を抑制することができる。マイクロRNA(miRNA)とは、細胞内に存在する長さ20〜25塩基ほどの1本鎖RNAであり、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているncRNA(non coding RNA)の一種である。miRNAは、RNAに転写された際にプロセシングを受けて生じ、標的配列の発現を抑制するヘアピン構造を形成する核酸として存在する。
【0136】
miRNAも、RNAiに基づく阻害性核酸であるため、shRNA又はsiRNAに準じて設計し合成することができる。
【0137】
本発明において治療の対象となる疾患は癌患者であり、癌の種類は前記した通りであるが、中でも神経内分泌腫瘍、好ましくは肺原発高悪性度神経内分泌腫瘍(小細胞肺癌又は大細胞神経内分泌)である。
【0138】
本発明の抗体又はACTN4-Va遺伝子の阻害性核酸は、単独で、あるいは薬学的に許容される担体または希釈剤等と共に医薬組成物として投与することができ、またその投与は1回または数回に分けて行うことができる。
【0139】
ここで「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。これらの医薬組成物は、経口又は非経口的に投与することができる。
【0140】
経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシン等の種々の賦形剤を、崩壊剤、結合剤等とともに使用することができる。崩壊剤としては、澱粉、アルギン酸、ある種のケイ酸複塩などが挙げられ、結合剤としては、例えばポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムなどが挙げられる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤は錠剤形成に非常に有効である。経口投与用として水性懸濁液又はエリキシルにする場合は、必要により乳化剤、懸濁化剤を併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
【0141】
非経口投与のためのその他の形態としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される注射剤などが含まれる。
【0142】
注射剤の場合には、例えば生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に5mg/ml〜500mg/mlの抗体濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において体表面積あたり、250mg/m
2〜375mg/m
2の割合で、好ましくは250mg/m
2〜400mg/m
2の割合で、1週間あたり1回として、数回投与することができる。
【0143】
但し、投与量はこの範囲に限定されるものではなく、患者の体重および症状や個々の投与経路によって変動し得る。治療する患者の薬物に対する感受性の差異、薬剤の処方の仕方、投与期間および投与間隔によっても投与量に変動が生じてくるので、場合によっては前記範囲の下限より低い投与量が適当なこともある。
【0144】
投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。そのような注射剤の無菌化は、バクテリア保留フィルターを通す濾過滅菌、殺菌剤の配合または照射により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体又は粉末組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0145】
siRNA、shRNA又はmiRNAを投与する場合は、その有効量は、標的mRNAのRNAi媒介分解を引き起こすのに十分な量であれば特に限定されるものではない。当業者は、患者に投与すべき有効量を、身長及び体重、年齢、性別、投与経路、又は局所若しくは全身投与などの処方を考慮して決定することができる。例えば、siRNA、shRNA又はmiRNAは、非経口投与(例えば静注)の場合約1pM〜約20pM、好ましくは5pM〜10pMの細胞内濃度である。
【0146】
以下、実施例および実験例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例および実験例に限定されるものではない。
【0147】
〔実施例1〕ACTN4-Vaに特異的なモノクローナル抗体の作製
(1)抗原の作製
ACTN4-Vaは小細胞肺癌患者組織又は小細胞肺癌由来の細胞株、あるいは正常組織の精巣にしか発現しない。また、それらより免疫抗原を調製しようとしても、目的の抗原部位は新規スプライスバリアントに存在するアミノ酸配列置換に由来するアミノ酸3種類のいずれかである。よって、目的の抗体を得るための抗原として、全長配列を含む組織あるいは細胞由来の抗原たんぱく質は免疫抗原として適当でない。そこで、アミノ酸置換された配列を含む免疫抗原(配列番号4)を部分ペプチドとして化学合成した。
次に、合成されたACTN4-Va部分ペプチドを免疫抗原として用いた。
合成ペプチドとキャリア蛋白質であるKLHとをMBS法によりジスルフィド結合させ、免疫抗原を作製した。
【0148】
(2)マウスへの免疫
免疫方法の概略を
図1に示す。免疫は以下の方法で行った。1.25mg/mLに調製した免疫抗原をFCAと等量混合し、エマルジョンを形成させたものを160μLずつマウスの背部皮下に投与し、その後2週間間隔で1.25mg/mLの免疫抗原とFIAと等量混合し、エマルジョンを形成させたものを80μLずつマウスの背部皮下に投与した。最終的に合計5回抗原を投与し、ELISAにより抗体価を確認し、抗体価の高かったものに対して、1.25mg/mLの免疫抗原40μLと生理食塩水460μLを混合したものをマウスの腹腔内に最終投与し、その3日後に細胞融合用に脾臓を摘出した。
【0149】
(3)脾臓細胞の調製と細胞融合
摘出した脾臓をすりつぶし、ACTN4-Va抗体産生細胞を含む脾臓細胞を調製したところ、1匹あたり約1×10
8個の脾臓細胞を調製できた。一方で、ミエローマ細胞であるP3U1を培養し、細胞融合当日に生細胞率が95%以上のP3U1を調製した。これら脾臓細胞とP3U1を5:1で混ぜ、50%濃度の分子量1,450のポリエチレングリコールにより細胞融合を行った。融合後、培地で洗浄し、HAT培地に懸濁したものを、96穴培養プレートの各ウェルに1×10
5個/ウェルとなるように細胞を播きこんだ。
【0150】
(4)抗体産生陽性ウェルのスクリーニング
細胞融合後、10日目の培養上清を回収し、抗体産生陽性ウェルのスクリーニングを後述の実験例1の方法で行った。1264ウェル中31ウェルでACTN4-Va陽性、ACTN4-Ub陰性であった。これらの選択したウェルの培養上清で、再度実験例2の方法でスクリーニングを行ったところ、最終的に、17ウェル分がACTN4-Va陽性であった。
【0151】
(5)クローニング
ACTN4-Vaに対する特異性の高かった17ウェル分を限界希釈法でクローニングを行った。すなわち、細胞を10%のFCSを含むRPMI培地で5個/mLに調製し、96穴培養プレート2枚分の各ウェルに200μLずつ添加した。10日後、後述の実験例1および2の方法で培養上清中のACTN4-Vaに対する抗体価および特異性を測定し、陽性であることを確認し、それぞれのウェルに由来するクローンを5クローン得た。それぞれの樹立クローンを「13G9」、「11H2」、「9B3」、「15H2」、「10E10」とした。
【0152】
<実験例1>
抗体のスクリーニング法
96穴マイクロタイタープレートの各ウェルに、固相化抗原としてPBS(pH7.0)で1μg/mLに調製したACTN4-Vaペプチドを50μLずつ添加し、25℃で1時間放置した。また、同時に特異性確認のためACTN4-UbペプチドDIVNTARPDEKAIMTYVSS(配列番号3)を同様に50μLずつ添加し、25℃で1時間放置した。次に、0.05% Tween20を含むPBS(pH7.0)(PBST)で3回洗浄後、0.5%ゼラチンを含むPBST(ブロッキング液)を各ウェルに200μLずつ添加し、25℃で1時間静置した。洗浄後、培養上清を原液のまま各ウェルに50μLずつ添加し、25℃で1時間静置した。次に、PBSTで3回洗浄後、各ウェルに2500倍希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(KPL社)を50μLずつ添加し、25℃で1時間静置した。次に、PBSTで3回洗浄後、各ウェルに0.02%の過酸化水素を含む0.1Mクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)で0.5mg/mLに調製したo-フェニレンジアミン溶液100μLを添加し、25℃で10分間静置した後に、1M硫酸溶液100μLを各ウェルに添加し、呈色反応を停止した。その後490nmの吸光度をELISAリーダーによって測定した。
【0153】
<実験例2>
ウェスタンブロッティングによるスクリーニング法および特異性確認法
以下の方法で、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGEという)を行った後、セミドライブロッティングによる、ウェスタンブロッティング(WBという)を行い、特異性確認試験を行った。
【0154】
特異性評価用のサンプルは癌細胞株由来の抽出液を用いる場合は、ACTN4-Vaが特異的に発現しているヒト小細胞肺癌由来癌細胞株H69および非発現株のヒト膵臓腺癌由来細胞株BxPC-3、ヒト乳癌由来細胞株MCF7の計3種類の細胞抽出液を用いた。発現細胞由来の抽出液を用いる場合はACTN4-Vaを遺伝子導入したHEK293 GFP-ACTN4-VaおよびACTN4-Ub を遺伝子導入したHEK293 GFP-ACTN4-Ubの2種類と、HEK293 およびHEK293 GFPの計4種類を用いた。
【0155】
また、培養上清でのスクリーニングの際は、H69抽出液のみを用いて評価を行い、精製抗体での確認試験には癌細胞由来あるいは発現細胞由来の抽出液を用いて評価した。
【0156】
調製にはそれぞれ、1×10
7cell以上の細胞を用意し、T-PER抽出液(Thermo社)に100倍希釈でプロテインインヒビター(ナカライテスク社)を加えた抽出液500ul以下で混和し、取扱説明書に従って抽出を行いサンプルとした。また、各サンプルはBCA法(Thermo社)により濃度を測定した。
【0157】
SDS-PAGEは10%単一濃度のポリアクリルアミドゲル(ATTO社)を使用し、1×SDS-PAGE用Running Bufferを用いて電気泳動を行った。また、サンプルは9.3% DTT(dithiothreitol)を含む6×Sample Bufferで希釈し、95℃、5分の熱反応処理を行った後、10ug/laneで電気泳動に供した。その際の泳動条件は20mA、定電流であり、泳動はゲルの下端まで可視化用に添加された、サンプル中のブロモフェノールブルーのラインが移動した時点で終了した。
【0158】
次にWBを行った。前処理として、泳動が終了するまでに9×8.5cmのPVDFメンブレン(メンブレンという)(ミリポア社)をメタノールで1分処理した後、20%メタノールを含むBlotting bufferへ再度浸透させた。同様にメンブレンと同サイズにカットしたろ紙6枚をBlotting bufferへ浸透させた。
【0159】
次にメンブレンへのブロッティングを行った。セミドライブロッティングシステム(GE社:旧Amersham社)にろ紙3枚、PVDFメンブレン、サンプルの泳動が終了したSDS-PAGEゲル、ろ紙3枚の順に重ね、1cm
2/2mAでメンブレンに終圧15V〜30Vがかかるように定電流で50分泳動した。
【0160】
次にBlokingを行った。サンプルがH69の場合は1laneごとに、BxPC-3、MCF7を含む3種類の場合は3種類を1組としてメンブレンを切断した後、ミリQ水で3倍希釈したN101Blocking buffer(日油社)を用いて25℃で1時間の振とう反応を行った。
【0161】
次に、1次反応を行った。培養上清を用いるスクリーニングの場合は、培養上清をPBSTで10倍希釈したブロッキング液(抗体希釈液という)を用いて3倍に希釈してメンブレンと反応させた。精製抗体を用いて特異性を確認する場合は、同様に抗体希釈液を用いて1μg/mlに調製し、メンブレンと反応させた。それぞれ25℃で1時間の振とう反応を行った。
【0162】
次に2次反応を行った。PBSTでメンブレンを3回洗浄後、抗体希釈液を用いて20000倍希釈したHRP標識抗マウスIgG抗体(KPL社)を調製し、25℃で1時間の振とうによりメンブレンと反応させた。
【0163】
次に発色反応を行った。PBSTでメンブレンを3回洗浄後、ケミルミワン(ナカライ社)を用いて発色反応を行った。方法は取扱説明書に従った。発色反応の後、LAS-3000を(GE社)を用いて、Chemiluminescence(化学発光)を検出した。
【0164】
(6)抗体の精製
上記(5)で樹立した5つのクローンから目的のモノクローナル抗体を以下の方法で精製した。まず、樹立クローンを市販の無血清培地(Hybridoma SFM:Invitrogen社)に懸濁し、4×10
5個/mLになるように調製した。T225フラスコにその細胞懸濁液を50mL入れ、37℃、5.0% CO
2環境下で約1週間培養した。培養後、培養上清を回収した。回収した培養上清をプロテインGカラムにアプライし、グリシンバッファー(pH3.0)で溶出し、モノクローナル抗体を精製した。
【0165】
その後、精製抗体を用いて、再度実験例1および2の方法でACTN4-Vaに対する特異性確認試験を行った。
【0166】
その結果、5クローンで培養上清の場合と同様な結果が得られた(
図2、
図3および
図4)。
【0167】
(7)樹立クローンの免疫組織染色による診断適応試験
上記の5クローンに関して、生体組織中のACTN4-Vaを認識する抗体の免疫組織染色による診断適応試験を下記実験例3の方法で行った。診断には肺原発HGNTおよびAd、Sqの切除病理検体(n=557)を用いた。その結果、癌組織における免疫染色がACTN4-Vaに対する特異的モノクローナル抗体「15H2」を用いて可能であった(
図5)。
【0168】
また、ACTN4-Va陽性率は実験例3の評価法を基に診断を行った。その結果、LCNECで47.5%(58/122)、SCLCで60.0%(42/70)となり擬陽性率はAd (0/158), Sq(0/158)ともに0%であった。肺原発低悪性度神経内分泌腫瘍であるカルチノイド(carcinoid)の陽性率は9.8%(5/51)となり高悪性度神経内分泌腫瘍に比べて陽性率が低かった(表1)。
【表1】
【0169】
表1は、クローン「15H2」由来のモノクローナル抗体を用いた免疫組織染色による各癌の陽性率診断結果を示す表である。
【0170】
<実験例3>
免疫組織染色による診断適応試験
以下の方法で免疫染色を行い、診断適応を確認した。
サンプルには、国立がん研究センター中央病院で切除されホルマリン固定パラフィンブロックとして保存されていた症例から作製された組織マイクロアレイ(tissue microarray, TMAという)を使用した。
【0171】
TMAの切片厚は4μmで作製した。ベンタナディスカバリー(ロッシュ社)を用いて自動免疫染色をした。TMAはベンタナディスカバリー内のプログラムに従い脱パラフィンを行った後、熱処理にて抗原賦活をし、その後に内因性のペルオキシダーゼ活性阻害を行った。
【0172】
次いて2%の豚血清(ベクター社)でブロッキングを行った。
1次反応は抗ACTN4-Va抗体を5 μg/mlに調製し37℃、60分でハイブリダイゼーションを行った。
【0173】
2次抗体としてビオチン化抗マウスIgG(ベクター社)を100倍に調製し37度30分でハイブリダイゼーションをおこなった。
発色はTMAをベンタナディスカバリーDABキットプロトコールに従い染色した。
【0174】
その後免疫組織化学染色の評価は、二人の観察者が別々に評価し、細胞膜全周性に強発現する症例を(3+)、細胞質内に顆粒状に強発現する症例を(2+)、細胞質に弱く染色性を有する症例を(1+)、全く染色されないものを(0)と定義し、このうち(3+)と(2+)の症例を陽性、(1+)と(0)の症例を陰性とそれぞれ定義した。
【0175】
(8)免疫組織診断結果を用いた全生存率解析
(7)の結果を用いてHGNTとそのサブクラス解析としてSCLCとLCNECのそれぞれ腫瘍で、ACTN4-Vaの発現と予後の関連について、カプランマイヤー法とCox比例ハザード法を用いて検討した。全生存期間をカプランマイヤー法で解析したところHGNT、SCLC、LCNECともにACTN4-Va陽性患者が陰性患者に比べて、陽性患者の生存期間が有意に短かった(
図6)。Cox比例ハザード法を用いて死亡に関する危険率を評価したところ、HGNT、SCLC、LCNECのそれぞれでACTN4-Vaの発現は予後を予測する独立因子になり得ることが示された(表2)
【表2】
【0176】
表2は、Cox比例ハザード法を用いてACTN4-Vaの発現におけるHGNT、SCLC、LCNEC患者の死亡に関する危険率を評価した結果を示す表である。表2において、ACTN4-Vaのタンパク質発現が多変量解析で有意性を持つことから、HGNT、SCLC、LCNECに対する独立した予後因子であると言える。
【0177】
〔実施例2〕siRNAによるACTN4-Vaの発現阻害
(1)siRNAの作製
本発明において使用される好ましいsiRNA(配列番号10、11、12)を化学合成により生成した。陰性対照には、Silencer(登録商標) Negative Control #1 siRNAおよびSilencer(登録商標) Negative Control #2 siRNA (Ambion社)を用いた。
【0178】
(2)細胞への導入
ACTN4-Vaを発現するヒト肺小細胞癌細胞株SBC-3に対して、遺伝子導入用カチオン性脂質を用いたsiRNAの導入を行った。
【0179】
SBC-3は、6穴培養プレートの1ウェルに対して3x10
5個/2mlで播き、24時間CO2インキュベーターで培養した。
【0180】
siRNAの導入に用いる複合体は、2種類の混合液を反応させることで調製した。第1の混合液は、10μMの各siRNA 1μl (10pmol)とOpti-MEM I (Invitrogen社) 250μlを混合して作製した。第2の混合液は、Lipofectamine2000 (Invitrogen社) 5μlとOpti-MEM I 250μlを混合して作製した。これら2種類の混合液を室温で20分間静置した。また、陰性対照の混合液作製では、10μMの陰性対照siRNA 0.5μl (20pmol)を用いた。
【0181】
次に、複合体 500μlをSBC-3培養ウェルへ添加し、37℃で72時間CO2インキュベーターで培養した。
【0182】
(3)ウェスタンブロッティング
導入反応後のSBC-3の抽出液を用いてウェスタンブロッティングを行い、精製抗体15H2によるACTN4-Vaの検出を行った。
【0183】
(4)結果
結果を
図7に示す。
図7において、各レーンは以下のsiRNA又は対照を使用したときのバンドを表す。
lane 1: CCAUCAUGACUUACGUGUC (配列番号10)
lane 2: UUACGUGUCCUGCUUCUAC(配列番号11)
lane 3: AGAUGAGAAGGCCAUCAUG(配列番号12)
lane 4: 陰性対照 (Silencer(R) Negative Control #1 siRNA)
lane 5: 陰性対照 (Silencer(R) Negative Control #2 siRNA)
【0184】
レーン1〜3ではACTN4-Vaのバンドが消失していることから、本発明のsiRNAを用いることによりACTN4-Vaの発現を抑制できることが示された。従って、本発明のsiRNAは腫瘍、特に神経内分泌腫瘍の治療に有用である。