(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重合性単量体成分の全量100重量部中において、前記非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)を2〜30重量部、前記酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)を1〜40重量部、前記疎水性の架橋性重合性単量体(c)を30〜95重量部含有してなる請求項1又は2に記載の自己接着性歯科用コンポジットレジン。
重合性単量体成分の全量100重量部中において、親水性の単官能性重合性単量体(f)を1〜30重量部含有してなる請求項4に記載の自己接着性歯科用コンポジットレジン。
前記酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)の酸性基が、リン酸基又はカルボン酸基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の自己接着性歯科用コンポジットレジン。
【発明を実施するための形態】
【0012】
最初に、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンにおける重合性単量体成分について述べる。なお、この明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリルとメタクリルの総称であり、これと類似の表現についても同様である。
【0013】
本発明は、2つの重合性基を有し、その一方がメタクリル酸エステル基であり、他方が二級アミド基のアクリルアミド基である上記一般式(1)で表される非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)を使用することを特徴とする(以下、この明細書において、Xで表される基に結合する2つの重合性基を有し、その一方がメタクリル酸エステル基であり、他方が二級アミド基のアクリルアミド基である化合物を、便宜上、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物と呼ぶ。)。
【0014】
本発明において、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)を用いた自己接着性歯科用コンポジットレジンが象牙質に対して高い接着力を示し、且つ高い機械的強度を示す理由は定かではないが、以下の様に推定される。すなわち、本発明に用いられる非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)は、アミドプロトン由来の高い親水性を有し、象牙質のコラーゲン層へ浸透しやすく、且つ分子内の2つの重合性基であるアクリルアミド基とメタクリル酸エステル基双方の硬化速度が比較的類似しており、バランスがとれていることから十分な硬化性を発現し、浸透した自己接着性歯科用コンポジットレジン層が強固な層を形成しているためだと考えられる。一般的にアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとでは主骨格が同じであっても、アクリル酸エステルの方がメチル基が存在しない分、立体障害がないためにメタクリル酸エステルよりも反応性は高い。これは、アクリルアミド、メタクリルアミドについても同様のことがいえる。また、本発明者らが確認したところ、主骨格が同じである場合、メタクリルアミドとメタクリル酸エステルとでは、メタクリル酸エステルの方が硬化速度が早くなる傾向にあることが分かっている。そのため、分子内の2つの重合性基がメタクリル酸エステルとメタクリルアミドである場合は、エステル側の方が硬化速度が速くなり、バランスは悪くなる傾向にある。そこで、硬化速度が速いと予想されるエステル側は、メタクリルであり、硬化速度がエステルよりも遅いと予想されるアミド側はアクリルにすることにより、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)では、硬化速度のバランスが取れていると考えられる。すなわち、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)は、アミドプロトン由来の高い親水性と、硬化速度のバランスが取れた二つの重合性基による高い重合硬化性とを両立した化合物であると考えられる。
【0015】
上記の理由より、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)を配合した自己接着性歯科用コンポジットレジンは、象牙質に対する高い接着性と優れた機械的強度を示すものと考えられる。また、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)は、対称性が崩れた構造を有しているために結晶性が低く、性状がオイル状であり、また分子内にアクリルアミド基とメタクリル酸エステル基の双方を有することにより、他の重合性単量体との相溶性に優れる。
【0016】
本発明に用いられる非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)は、下記一般式(1)で表される。
【0017】
【化2】
式(1)中、Xは置換基を有していてもよいC
1〜C
6の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基又は芳香族基であって、当該脂肪族基には、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NR
1−、−CO−NR
1−、−NR
1−CO−、−CO−O−NR
1−、−O−CO−NR
1−及び−NR
1−CO−NR
1−からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基が挿入されていてもよい。すなわち、前記脂肪族基は少なくとも1個の前記結合基によって中断されていてもよい。R
1は、水素原子又は置換基を有していてもよいC
1〜C
6の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基を表す。
【0018】
Xは、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)の親水性を調整する部位である。Xで表される置換基を有していてもよいC
1〜C
6の脂肪族基は、飽和脂肪族基(アルキレン基、シクロアルキレン基(例えば、1,4−シクロへキシレン基等))、不飽和脂肪族基(アルケニレン基、アルキニレン基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキレン基)であることが好ましい。Xは、歯質に対する接着性と重合硬化性の観点から、置換基を有していてもよいC
1〜C
4の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基であることが好ましく、置換基を有していてもよいC
2〜C
4の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基であることがより好ましい。
【0019】
前記C
1〜C
6のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、トリメチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、2,2−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、3−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基、1−ブチルエチレン基、2−ブチルエチレン基、1−エチル−1−メチルエチレン基、1−エチル−2−メチルエチレン基、1,1,2−トリメチルエチレン基、1,2,2−トリメチルエチレン基、1−エチルトリメチレン基、2−エチルトリメチレン基、3−エチルトリメチレン基、1,1−ジメチルトリメチレン基、1,2−ジメチルトリメチレン基、1,3−ジメチルトリメチレン基、2,3−ジメチルトリメチレン基、3,3−ジメチルトリメチレン基、1−メチルテトラメチレン基、2−メチルテトラメチレン基、3−メチルテトラメチレン基、4−メチルテトラメチレン基、ペンタメチレン基、1−ブチルエチレン基、2−ブチルエチレン基、1−メチル−1−プロピルエチレン基、1−メチル−2−プロピルエチレン基、2−メチル−2−プロピルエチレン基、1,1−ジエチルエチレン基、1,2−ジエチルエチレン基、2,2−ジエチルエチレン基、1−エチル−1,2−ジメチルエチレン基、1−エチル−2,2−ジメチルエチレン基、2−エチル−1,1−ジメチルエチレン基、2−エチル−1,2−ジメチルエチレン基、1,1,2,2−テトラメチルエチレン基、1−プロピルトリメチレン基、2−プロピルトリメチレン基、3−プロピルトリメチレン基、1−エチル−1−メチルトリメチレン基、1−エチル−2−メチルトリメチレン基、1−エチル−3−メチルトリメチレン基、2−エチル−1−メチルトリメチレン基、2−エチル−2−メチルトリメチレン基、2−エチル−3−メチルトリメチレン基、3−エチル−1−メチルトリメチレン基、3−エチル−2−メチルトリメチレン基、3−エチル−3−メチルトリメチレン基、1,1,2−トリメチルトリメチレン基、1,1,3−トリメチルトリメチレン基、1,2,2−トリメチルトリメチレン基、1,2,3−トリメチルトリメチレン基、1,3,3−トリメチルトリメチレン基、2,2,3−トリメチルトリメチレン基、2,3,3−トリメチルトリメチレン基、1−エチルテトラメチレン基、2−エチルテトラメチレン基、3−エチルテトラメチレン基、4−エチルテトラメチレン基、1,1−ジメチルテトラメチレン基、1,2−ジメチルテトラメチレン基、1,3−ジメチルテトラメチレン基、1,4−ジメチルテトラメチレン基、2,2−ジメチルテトラメチレン基、2,3−ジメチルテトラメチレン基、2,4−ジメチルテトラメチレン基、3,3−ジメチルテトラメチレン基、3,4−ジメチルテトラメチレン基、4,4−ジメチルテトラメチレン基、1−メチルペンタメチレン基、2−メチルペンタメチレン基、3−メチルペンタメチレン基、4−メチルペンタメチレン基、5−メチルペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられ、メチレン基、メチルメチレン基、エチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、トリメチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、2,2−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、3−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基が好ましく、メチルメチレン基、エチレン基、1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基、トリメチレン基、1−エチルエチレン基、2−エチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、2,2−ジメチルエチレン基、1−メチルトリメチレン基、2−メチルトリメチレン基、3−メチルトリメチレン基、テトラメチレン基がより好ましい。
【0020】
Xで表される置換基を有していてもよい芳香族基としては、例えばアリール基、芳香族性ヘテロ環基が挙げられる。前記芳香族基としては、アリール基が、芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環又は6員環であることが好ましい。アリール基としては、例えば、フェニル基が好ましい。芳香族性ヘテロ環基としては、例えば、フラン基、チオフェン基、ピロール基、オキサゾール基、イソオキサゾール基、チアゾール基、イソチアゾール基、イミダゾール基、ピラゾール基、フラザン基、トリアゾール基、ピラン基、ピリジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、及び1,3,5−トリアジン基等が挙げられる。前記芳香族基のうち、フェニル基が特に好ましい。
【0021】
R
1における脂肪族基としては、飽和脂肪族基(アルキル基)、不飽和脂肪族基(アルケニル基、アルキニル基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキル基)であることが好ましい。R
1における前記C
1〜C
6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が好ましい。
【0022】
R
1としては、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖若しくは分岐鎖のC
1〜C
4のアルキル基がより好ましく、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖若しくは分岐鎖のC
1〜C
3のアルキル基がさらに好ましい。
【0023】
Xの前記脂肪族基が前記結合基によって中断されている場合、結合基の数は特に限定されないが、1〜10個程度であってもよく、好ましくは1個、2個又は3個であり、より好ましくは1個又は2個である。また、前記式(1)において、Xの脂肪族基は連続する前記結合基によって中断されないものが好ましい。すなわち、前記結合基が隣接しないものが好ましい。結合基としては、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−NH−、−CO−NH−、−NH−CO−、−CO−O−NH−、−O−CO−NH−及び−NH−CO−NH−からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基がさらに好ましく、−O−、−S−、−CO−、−NH−、−CO−NH−及び−NH−CO−からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基が特に好ましい。
【0024】
前記式(1)における置換基としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、C
1〜C
6アルキル基でモノ又はジ置換されたアミノ基、アシル基、アシルオキシ基、アミド基、C
1〜C
6アルコキシカルボニル基、C
1〜C
6アルコキシ基、C
1〜C
6アルキルチオ基、C
1〜C
6アルキル基等が好ましく、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、C
1〜C
6アルキル基等がより好ましい。前記C
1〜C
6アルコキシカルボニル基、前記C
1〜C
6アルコキシ基、前記C
1〜C
6アルキルチオ基及びC
1〜C
6アルキル基は、1、2又は3個のハロゲン原子で置換されていてもよい。前記アルキル基の具体例としては、R
1で述べたものと同様のものが挙げられ、直鎖若しくは分岐鎖のC
1〜C
4のアルキル基が好ましい。置換基の数は特に限定されず、1〜8個程度であってもよく、好ましくは1個、2個又は3個である。
【0025】
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)の具体例としては、特に限定されないが、以下に示すものが挙げられる。
【0027】
この中でも、歯質に対する接着性と重合硬化性の観点から、XがC
2〜C
4の直鎖又は分岐鎖の脂肪族基である非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物が好ましく、N−メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N−メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N−メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N−(1−エチル−(2−メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N−(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミドがより好ましく、象牙質のコラーゲン層への浸透に関わる親水性の高さの観点から、N−メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N−メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミドが最も好ましい。
【0028】
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)の配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、自己接着性歯科用コンポジットレジンの重合性単量体成分の全量100重量部中において、2〜30重量部が好ましく、5〜25重量部の範囲がより好ましく、8〜20重量部の範囲が最も好ましい。
【0029】
次に、本発明で用いられる酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)について説明する。本発明において、(メタ)アクリル系重合性単量体とは、(メタ)アクリレート重合性単量体及び/又は(メタ)アクリルアミド重合性単量体を意味する。
【0030】
酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)は、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンが接着性を発現するために必須の成分である。酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)は、歯質を脱灰する作用を有し、前記の非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)が象牙質に浸透するのを促進するとともに歯質と結合する。酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)は、リン酸基、ホスホン酸基、ピロリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基を少なくとも1個有する重合性単量体である。歯質に対する接着性の観点から、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)は、前記酸性基を少なくとも1個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基又はメタクリルアミド基のいずれか1個を重合性基として有する単官能性であることが好ましい。具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0031】
リン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)クリロイルオキシプロピル−(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0032】
ホスホン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル−ホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル−ホスホノアセテート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0033】
ピロリン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体としては、例えば、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0034】
カルボン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、4−[2−〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エトキシカルボニル]フタル酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物;5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。これらの中でも4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸及びその無水物が好ましい。
【0035】
スルホン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0036】
上記の酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)の中では、リン酸基、ピロリン酸基、及びカルボン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体が歯質に対してより優れた接着力を発現するので好ましく、特に、リン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体、及びカルボン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体が好ましい。それらの中でも、分子内に主鎖として炭素数が6〜20のアルキル基又はアルキレン基を有する2価のリン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体;及び4−[2−〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エトキシカルボニル]フタル酸、4−[2−〔(メタ)アクリロイルオキシ〕エトキシカルボニル]フタル酸無水物、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸及び4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物からなる群から選ばれる1種以上のカルボン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体がより好ましく、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の分子内に主鎖として炭素数が8〜12のアルキレン基を有する2価のリン酸基含有(メタ)アクリル系重合性単量体が最も好ましい。
【0037】
酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)の配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、接着力がより高い点から、重合性単量体成分の全量100重量部中において、1〜40重量部の範囲が好ましく、1〜30重量部の範囲がより好ましく、2〜25重量部の範囲がさらに好ましく、4〜20重量部の範囲が特に好ましい。
【0038】
続いて、本発明で用いられる疎水性の架橋性重合性単量体(c)について説明する。疎水性の架橋性重合性単量体(c)は、分子内に酸性基を有さず少なくとも2個の重合性基を有する、疎水性の化合物である。ここで、疎水性とは25℃における水に対する溶解度が5質量%未満であることをいう。疎水性の架橋性重合性単量体(c)は、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンの取り扱い性や機械的強度を向上させる効果を有しており、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体等が挙げられる。
【0039】
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等が挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの、通称「D−2.6E」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0040】
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)が好ましい。
【0041】
三官能性以上の重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。これらの中でも、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
【0042】
上記の疎水性の架橋性重合性単量体(c)の中でも、機械的強さや取り扱い性の観点で、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、及び脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体が好ましく用いられる。芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、及び2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数が2.6のもの、通称「D−2.6E」)が好ましい。脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)が好ましい。
【0043】
上記の疎水性の架橋性重合性単量体(c)の中でも、Bis−GMA、D−2.6E、TEGDMA、UDMAがより好ましく、Bis−GMA、D−2.6E、TEGDMAがさらに好ましい。
【0044】
疎水性の架橋性重合性単量体(c)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。疎水性の架橋性重合性単量体(c)の配合量が過多な場合は、組成物の歯質への浸透性が低下して接着力が低下することがあり、同配合量が過少な場合は、機械的強度を向上する効果が十分に得られないおそれがある。そこで、疎水性の架橋性重合性単量体(c)の配合量は、自己接着性歯科用コンポジットレジンにおける重合性単量体成分の全量100重量部中において、30〜95重量部であり、40〜90重量部の範囲が好ましく、50〜85重量部の範囲がより好ましく、60〜80重量部の範囲が最も好ましい。
【0045】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンは、重合性単量体成分として、親水性の単官能性重合性単量体(f)を除いていてもよいが、親水性の単官能性重合性単量体(f)をさらに含むことが好ましい。親水性の単官能性重合性単量体(f)は、25℃における水に対する溶解度が5質量%以上の(a)、(b)以外の単官能性重合性単量体を意味し、同溶解度が10質量%以上のものが好ましく、同溶解度が15質量%以上のものがより好ましい。前記の親水性の単官能性重合性単量体(f)を含むことで、象牙質に対してより高い接着力が得られる。
【0046】
親水性の単官能性重合性単量体(f)は、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロプレン基、アミド基等の親水性基を有する。親水性の単官能性重合性単量体(f)としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリルクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)等の親水性の単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4−(メタ)アクリロイルモルホリン、N−トリヒドロキシメチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド及び下記一般式(2)で表される単官能(メタ)アクリルアミド系重合性単量体等の親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体等が挙げられる。
【0047】
【化4】
式(2)中、R
2及びR
3はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のC
1〜C
3のアルキル基であり、R
4は水素原子又はメチル基である。
【0048】
R
2及びR
3における前記置換基としては、式(1)の置換基を同様に使用できる。R
2及びR
3における前記C
1〜C
3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0049】
これら親水性の単官能性重合性単量体(f)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド及び親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が好ましく、一般式(2)で表される単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体がより好ましい。親水性の単官能性重合性単量体(f)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0050】
また、一般式(2)で表される単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体の中でも、貯蔵安定性の観点から、N,N−ジメチルアクリルアミド及びN,N−ジエチルアクリルアミドがより好ましく、N,N−ジエチルアクリルアミドが最も好ましい。
【0051】
本発明における親水性の単官能性重合性単量体(f)の配合量は、過少な場合は接着力向上効果が十分に得られないおそれがあり、過多な場合には機械的強度が低下することがある。そこで親水性の単官能性重合性単量体(f)の配合量は、自己接着性歯科用コンポジットレジンにおける重合性単量体成分の全量100重量部中において、1〜30重量部の範囲が好ましく、2〜28重量部の範囲がより好ましく、5〜25重量部の範囲がさらに好ましく、7〜20重量部の範囲が特に好ましい。
【0052】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンには、接着力、取り扱い性、及び機械的強度の向上等のために、前記の非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)、疎水性の架橋性重合性単量体(c)、及び親水性の単官能性重合性単量体(f)以外の重合性単量体を配合してもよい。また、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンは、本発明の効果を妨げない範囲で、重合性単量体として、親水性の多官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体及び/又は対称型(メタ)アクリルアミド化合物等を含んでいてもよいが、除く(実質的に含まない)ほうが好ましい。本明細書において「実質的に含まない」とは、対象の成分を全く含まないこと又は本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンの作用効果に影響を与えない程度の極微量の対象の成分を含むことを意味する。親水性の多官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体としては、例えば、ペンタエリスリトールジメタクリレート、エリスリトールジメタクリレート、マンニトールジメタクリレート、キシリトールジメタクリレート、ソルビトールジメタクリレート、グリセロールジメタクリレート等が挙げられる。対称型(メタ)アクリルアミド化合物としては、例えば、ビスアクリルアミドエチレン、N,N−ジエチル−1,3−プロピレン−ビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0053】
光重合開始剤(d)
光重合開始剤(d)は、自己接着性コンポジットレジンの重合硬化を促進する成分である。光重合開始剤(d)は、一般工業界で使用されている光重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている光重合開始剤が好ましく用いられる。光重合開始剤は、単独で又は2種以上適宜組み合わせて使用される。
【0054】
光重合開始剤としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類、水溶性アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、α−ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、α−アミノケトン系化合物等が挙げられる。
【0055】
これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、α−ジケトン類、及びクマリン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す自己接着性コンポジットレジンが得られる。
【0056】
上記光重合開始剤として用いられるアシルホスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート等が挙げられる。これらの中でも2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドが好ましい。
【0057】
上記光重合開始剤として用いられるビスアシルホスフィンオキサイド類としては、例えば、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの中でもビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。
【0058】
上記光重合開始剤として用いられるα−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
【0059】
上記光重合開始剤として用いられるクマリン化合物としては、例えば、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリン、3−ベンゾイル−5,7−ジメトキシクマリン、3−ベンゾイル−7−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイルクマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3,5−カルボニルビス(7−メトキシクマリン)、3−ベンゾイル−6−ブロモクマリン、3,3’−カルボニルビスクマリン、3−ベンゾイル−7−ジメチルアミノクマリン、3−ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3−カルボキシクマリン、3−カルボキシ−7−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−6−メトキシクマリン、3−エトキシカルボニル−8−メトキシクマリン、3−アセチルベンゾ[f]クマリン、7−メトキシ−3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−(p−ニトロベンゾイル)クマリン、3−ベンゾイル−8−メトキシクマリン、3−ベンゾイル−6−ニトロクマリン、3−ベンゾイル−7−ジエチルアミノクマリン、7−ジメチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、7−ジエチルアミノ−3−(4−ジエチルアミノ)クマリン、7−メトキシ−3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−(4−ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3−(4−エトキシシンナモイル)−7−メトキシクマリン、3−(4−ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3−(4−ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3−[(3−ジメチルベンゾチアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3−[(1−メチルナフト[1,2−d]チアゾール−2−イリデン)アセチル]クマリン、3,3’−カルボニルビス(6−メトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−アセトキシクマリン)、3,3’−カルボニルビス(7−ジメチルアミノクマリン)、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジブチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾイミダゾイル)−7−(ジエチルアミノ)クマリン、3−(2−ベンゾチアゾイル)−7−(ジオクチルアミノ)クマリン、3−アセチル−7−(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)、3,3’−カルボニル−7−ジエチルアミノクマリン−7’−ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10−[3−[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1−オキソ−2−プロペニル]−2,3,6,7−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン、10−(2−ベンゾチアゾイル)−2,3,6、7−テトラヒドロ−1,1,7,7−テトラメチル1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]キノリジン−11−オン等の特開平9−3109号公報、特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。中でも、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)及び3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0060】
水溶性アシルホスフィンオキサイド類、チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩、ケタール類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物類、及びα−アミノケトン系化合物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものを挙げることができる。
【0061】
光重合開始剤(d)の配合量は特に限定されないが、得られる自己接着性コンポジットレジンの硬化性等の観点からは、重合性単量体の全量100重量部に対して、0.001〜20重量部が好ましく、0.05〜10重量部がより好ましく、0.1〜5重量部がさらに好ましい。光重合開始剤(d)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着強さの低下を招くおそれがあり、より好適には0.01重量部以上である。一方、光重合開始剤(d)の配合量が20重量部を超える場合、光重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強さが得られなくなるおそれがあり、さらには自己接着性コンポジットレジンからの析出を招くおそれがあるため、より好適には10重量部以下であり、さらに好適には5重量部以下である。
【0062】
本発明の自己接着性コンポジットレジンは、さらに化学重合開始剤を含有することができ、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、例えば、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これら有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものを挙げることができる。
【0063】
フィラー(e)
フィラー(e)は、自己接着性コンポジットレジンのマトリックスとしての強度あるいはペースト操作性を向上させるための成分である。
【0064】
フィラー(e)としては、歯科用コンポジットレジンに使用される公知のフィラーが何ら制限なく使用される。当該フィラーとしては、各種ガラス類〔シリカを主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する。例えば、溶融シリカ、石英、ソーダライムシリカガラス、Eガラス、Cガラス、ボロシリケートガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)等の一般的な組成のガラス粉末;バリウムガラス(GM27884、8235、ショット社製、E2000、E3000、ESSTECC社製)、ストロンチウム・ボロシリケートガラス(E4000、ESSTECC社製)、ランタンガラスセラミックス(GM31684、ショット社製)、フルオロアルミノシリケートガラス(GM35429、G018−091、G018−117、ショット社製)等の歯科用ガラス粉末〕、各種セラミック類、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト等が挙げられ、これらは、それぞれ単独で又は2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、シリカを主成分として含むもの(シリカを25質量%以上、好ましくは40質量%以上含むもの)が好適である。
【0065】
フィラー(e)の平均粒子径としては、0.1〜50.0μmが好ましく、0.2〜20.0μmがより好ましく、0.4〜10.0μmがさらに好ましく、0.5〜4.5μmが特に好ましい。これらの範囲内であれば、十分な機械的強度が得られ、ペーストにべたつきを生じず、操作性に問題を生じない上、硬化物の研磨滑沢性や滑沢耐久性にも優れる。なお、本明細書においてフィラーの平均粒子径とは、フィラーの一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を意味する。
【0066】
なお、フィラー(e)の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により、求めることができる。具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
【0067】
前記フィラー(e)は、重合性単量体成分との親和性を改善したり、重合性単量体成分との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させるために、予め表面処理剤で表面処理を施しておくことが望ましい。
【0068】
かかる表面処理剤として、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、及び有機アルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機金属化合物が挙げられる。有機金属化合物を2種以上使用する場合は、2種以上の有機金属化合物の混合物の表面処理層としてもよいし、複数(2以上)の有機金属化合物層が積層した複層構造の表面処理層としてもよい。
【0069】
有機ケイ素化合物としては、(R
6)
nSiX
4-nで表される化合物が挙げられる(式中、R
6は、炭素数1〜12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは、0、1、2又は3である。R
6及びXが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。)。
【0070】
具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル−3,3,3−トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等)、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12、例、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等)等が挙げられる。
【0071】
この中でも、前記の重合性単量体成分と共重合し得る官能基を有するカップリング剤、例えばω−(メタ)アクリロキシアルキルトリメトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)、ω−(メタ)アクリロキシアルキルトリエトキシシラン((メタ)アクリロキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が特に好ましく用いられる。
【0072】
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート等が挙げられる。
【0073】
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn−ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニルアセテート等が挙げられる。
【0074】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等が挙げられる。
【0075】
フィラー(e)の形状としては特に制限されることなく、歯科用コンポジットレジンとして高めたい特性に応じて適宜選択すればよく、具体的には、不定形又は球形の粒子の粉末として用いることができる。不定形のフィラー(e)を用いると、機械的強度及び耐磨耗性に特に優れ、球形のフィラー(e)を用いると、研磨滑沢性及び滑沢耐久性に特に優れる。本発明におけるフィラー(e)は、市販品を使用してもよい。
【0076】
フィラー(e)の配合量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、重合性単量体100重量部に対して、100〜900重量部の範囲が好ましく、150〜600重量部の範囲がより好ましく、200〜450重量部の範囲が特に好ましい。これらの範囲内であれば、硬化物の十分な機械的強度が得られるとともに、十分なペースト操作性が得られる。また、フィラー(e)の配合量は、自己接着性歯科用コンポジットレジンの全重量において、50〜90重量%が好ましく、60〜86重量%がより好ましく、65〜85重量%が特に好ましい。
【0077】
本発明の歯科用コンポジットレジンでは、上記のように、フィラーとして平均粒子径0.1〜50.0μmのフィラーのみを含有していてもよく、ペースト操作性等の向上を目的として、平均粒子径0.1μm未満のフィラー(以下、超微粒子フィラーと呼ぶ)を、平均粒子径0.1〜50.0μmのフィラーと併用してもよい。超微粒子フィラーとしては、歯科用組成物に使用される公知の無機超微粒子が何ら制限なく使用される。好ましくは、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の無機酸化物粒子、又はこれらからなる複合酸化物粒子、燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フッ化イットリウム、フッ化イッテルビウム等が挙げられる。好ましくは、火炎熱分解法で作製されるシリカ、アルミナ、チタニア等の粒子であり、例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル、アエロキサイドAluC、アエロキサイドTiO
2P25、アエロキサイドTiO
2P25S、VP Zirconium Oxide 3−YSZ、VP Zirconium Oxide 3−YSZ PHが挙げられる。
【0078】
超微粒子フィラーの平均粒子径としては、1〜50nmが好ましく、5〜40nmがより好ましい。超微粒子フィラーの平均粒子径は、電子顕微鏡観察により求めることができる。電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Macview(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0079】
前記超微粒子フィラーは、重合性単量体成分との親和性を改善したり、重合性単量体成分との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させるために、予め前述の表面処理剤で表面処理を施しておいてもよい。
【0080】
超微粒子フィラーを平均粒子径0.1〜50.0μmのフィラーと併用する場合、超微粒子フィラーの配合量は、重合性単量体100重量部に対し、好ましくは0.1〜15重量部、より好ましくは1〜10重量部である。配合量が0.1重量部以下の場合、良好なペースト操作性が得られない可能性があり、10重量部以上の場合、ペーストが固くなりすぎ、良好な操作性が得られない可能性がある。
【0081】
次に、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンの任意成分について説明する。
【0082】
重合促進剤(g)
他の実施態様では、光重合開始剤(d)及び/又は化学重合開始剤とともに重合促進剤(g)が用いられる。本発明に用いられる重合促進剤(g)としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物等が挙げられる。
【0083】
重合促進剤(g)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミン等が挙げられる。これらの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジンの硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN−メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
【0084】
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジンに優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0085】
スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、及びチオ尿素化合物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものを挙げることができる。
【0086】
上記の重合促進剤(g)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。本発明に用いられる重合促進剤(g)の配合量は特に限定されないが、得られる自己接着性コンポジットレジンの硬化性等の観点からは、重合性単量体の全量100重量部に対して、0.001〜30重量部が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましく、0.1〜5重量部が最も好ましい。重合促進剤(g)の配合量が0.001重量部未満の場合、重合が十分に進行せず、接着性の低下を招くおそれがあり、より好適には0.05重量部以上である。一方、重合促進剤(g)の配合量が30重量部を超える場合、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着性が得られなくなるおそれがあり、さらには自己接着性コンポジットレジンからの析出を招くおそれがあるため、より好適には20重量部以下である。
【0087】
フッ素イオン放出性物質(h)
本発明の自己接着性コンポジットレジンは、さらにフッ素イオン放出性物質(h)を含んでいてもよい。フッ素イオン放出性物質(h)を配合することによって、歯質に耐酸性を付与することができる自己接着性コンポジットレジンが得られる。かかるフッ素イオン放出性物質としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物類等が挙げられる。上記フッ素イオン放出性物質(h)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0088】
この他、本発明の自己接着性コンポジットレジンには、本発明の効果を阻害しない範囲でpH調整剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、増粘剤、着色剤、抗菌剤、香料等を配合してもよい。
【0089】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンは、好ましい材型として1材型、分包型のいずれの材型であってもよい。その中でも、操作の簡便性の観点から1材型がより好ましい。
【0090】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンの好ましい実施態様としては、重合性単量体成分の全量100重量部中において、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)を2〜30重量部、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)を1〜40重量部、及び疎水性の架橋性重合性単量体(c)を30〜95重量部、さらに必要に応じて親水性の単官能性重合性単量体(f)を1〜30重量部含み、かつ重合性単量体成分の全量100重量部に対して、光重合開始剤(d)を0.001〜20重量部、及びフィラー(e)を100〜900重量部、さらに必要に応じて重合促進剤(g)を0.001〜30重量部含む自己接着性歯科用コンポジットレジンが挙げられる。
【0091】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンのより好ましい実施態様としては、重合性単量体成分100重量部中において、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)を5〜25重量部、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)を2〜25重量部、及び疎水性の架橋性重合性単量体(c)を40〜90重量部、さらに必要に応じて親水性の単官能性重合性単量体(f)を2〜28重量部含み、かつ重合性単量体成分の全量100重量部に対して、光重合開始剤(d)を0.05〜10重量部、及びフィラー(e)を150〜600重量部、さらに必要に応じて重合促進剤(g)を0.01〜10重量部含む自己接着性歯科用コンポジットレジンが挙げられる。
【0092】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンのさらに好ましい実施態様としては、重合性単量体成分100重量部中において、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)を8〜20重量部、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)を4〜20重量部、及び疎水性の架橋性重合性単量体(c)を50〜85重量部、さらに必要に応じて親水性の単官能性重合性単量体(f)を5〜25重量部含み、かつ重合性単量体成分の全量100重量部に対して、光重合開始剤(d)を0.1〜5重量部、及びフィラー(e)を200〜450重量部、さらに必要に応じて重合促進剤(g)を0.1〜5重量部含む自己接着性歯科用コンポジットレジンが挙げられる。
【0093】
前記好適な実施態様の自己接着性歯科用コンポジットレジンにおける各成分の種類、含有量等の条件は、本明細書で別途説明した範囲において適宜選択、変更できる。
【0094】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンは、例えば、歯質の欠損部分を修復する際に充填材料として用いることができる。このとき、エッチング材、プライマー、セルフエッチングプライマー、接着材等の前処理材を用いることなく、直接、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンを歯質に充填して用いることができる。本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンによれば、歯質との接着性と機械的強度に優れる。また、硬化したコンポジットレジンの歯の修復部からの脱落や辺縁漏洩を防止することができる。
【0095】
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンは、象牙質に対する引張接着強さが、9.5MPa以上のものが好ましく、9.6MPa以上のものがより好ましく、9.8MPa以上のものがさらに好ましく、10.0MPa以上のものが特に好ましい。また、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンは、硬化物の曲げ強さが、110MPa以上のものが好ましく、115MPa以上のものがより好ましく、119MPa以上のものがさらに好ましく、120MPa以上のものが特に好ましい。本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジンとしては、象牙質に対する引張接着強さが9.5MPa以上であって、硬化物の曲げ強さが115MPa以上のものが特に好ましい。
【0096】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例】
【0097】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下で用いる略称及び略号については次の通りである。
【0098】
〔非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(a)〕
MAEA:N−メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(下記の一般式で表される非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物)
【化5】
【0099】
MAPA:N−メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド(下記の一般式で表される非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物)
【化6】
【0100】
MAEEA:N−(1−エチル−(2−メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド(下記の一般式で表される非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物)
【化7】
【0101】
MAEGA:N−(2−(2−メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミド(下記の一般式で表される非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物)
【化8】
【0102】
親水性の多官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体
MDMA:マンニトールジメタクリレート〔3,4−ジ−O−メタアクリロイル−D−マンニトール〕
GDMA:グリセロールジメタクリレート
【0103】
対称型(メタ)アクリルアミド化合物
BAAE:ビスアクリルアミドエチレン
DEPBAA:N,N−ジエチル−1,3−プロピレン−ビスアクリルアミド
【0104】
〔酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体(b)〕
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
4−META:4−[2−(メタクリロイルオキシ)エトキシカルボニル]フタル酸無水物
【0105】
〔疎水性の架橋性重合性単量体(c)〕
Bis−GMA:2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
D−2.6E:2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン{エトキシ基の平均付加モル数=2.6}
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
【0106】
〔親水性の単官能性重合性単量体(f)〕
親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体
DEAA:N,N−ジエチルアクリルアミド
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
親水性の単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
GLM:2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート
【0107】
〔重合開始剤(d)〕
光重合開始剤
CQ:dl−カンファーキノン
BAPO:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
【0108】
〔重合促進剤(g)〕
DABE:4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル
【0109】
〔フィラー(e)〕
無機フィラー1:シラン処理珪石粉
珪石粉(株式会社ニッチツ製、商品名:ハイシリカ)をボールミルで粉砕し、粉砕珪石粉を得た。得られた粉砕珪石粉の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、型式「SALD−2100」)を用いて測定したところ、2.2μmであった。この粉砕珪石粉100重量部に対して、通法により4重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理珪石粉を得た。
無機フィラー2:シラン処理バリウムガラス粉
バリウムガラス(エステック社製、商品コード「E−3000」)をボールミルで粉砕し、バリウムガラス粉を得た。得られたバリウムガラス粉の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、型式「SALD−2100」)を用いて測定したところ、2.4μmであった。このバリウムガラス粉100重量部に対して常法により3重量部のγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理バリウムガラス粉を得た。
【0110】
〔その他〕
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(安定剤(重合禁止剤))
【0111】
(合成例1)
MAEAの合成
10L4つ口フラスコにヒドロキシエチルアクリルアミド(興人フィルム&ケミカルズ社製、172.7g、1.5mol)、トリエチルアミン(167g、1.65mol)、p−メトキシフェノール(38mg、0.3mmol)、無水テトラヒドロフラン1500mLを仕込み、攪拌し、内温−10℃まで冷却した。メタクリル酸クロライド(172.5g、1.65mol)の無水テトラヒドロフラン溶液700mLを5℃以下で2時間かけて滴下した。滴下後、室温条件下で24時間攪拌した。反応液をろ過、不溶物を酢酸エチルで洗浄した。ろ液を減圧下で濃縮し、残留部を酢酸エチルに溶解した。少量の不溶物をセライトでろ過除去後、ろ液を飽和食塩水:精製水(1:1)で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、減圧下35℃以下で濃縮した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)を用いて精製した。カラム精製後、溶媒をロータリーエバポレーターを用いて減圧留去することで、淡黄色の液体が得られた。LC/MS分析及び
1H−NMR測定を行い、シグナルの位置及び積分値から、得られた淡黄色の液体が目的とする化合物であることを確認した。収量は201.2g、収率は73.3%であった。
【0112】
MS m/z:184(M+H)
+
1H−NMR(270MHz CDCl
3):δ1.94(m, 3H), 3.62(m, 2H), 4.28(m, 2H), 5.58(m, 1H), 5.66(m, 1H), 6.08(s, 1H), 6.10(m, 1H), 6.11(m, 1H), 6.28(m, 1H) (ppm)
【0113】
(合成例2)
MAPAの合成
1L4つ口フラスコに3−アミノプロパノール(東京化成社製、23.9g、0.318mol)、無水テトラヒドロフラン400mLを仕込み、攪拌し、内温−10℃まで冷却した。アクリル酸クロライド(14.4g、0.159mol)の無水テトラヒドロフラン溶液70mLを5℃以下で30分かけて滴下した。滴下後、室温条件下で1時間攪拌した。反応後、不溶物をろ過除去後、ろ液を減圧下で濃縮することで淡黄色の液体が得られた。
【0114】
500mL4つ口フラスコに上記の操作で得られたヒドロキシプロピルアクリルアミド(12.9g、0.1mol)、無水テトラヒドロフラン200mL、トリエチルアミン(15.2g、0.15mol)を仕込み、攪拌し、内温−10℃まで冷却した。メタクリル酸クロライド(15.7g、0.15mol)の無水テトラヒドロフラン溶液50mLを5℃以下で30分かけて滴下した。滴下後、室温条件下で3時間攪拌した。反応後、トリエチルアミン塩酸塩をろ別し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/1)を用いて精製した。カラム精製後、溶媒をロータリーエバポレーターを用いて減圧留去することで、白色の固体が得られた。LC/MS分析及び
1H−NMR測定を行い、シグナルの位置及び積分値から、得られた白色の固体が目的とする化合物であることを確認した。収量は11.1g、収率は56.3%であった。
【0115】
MS m/z:198(M+H)
+
1H−NMR(270MHz CDCl
3):δ1.93(m, 2H), 1.97(m, 3H), 3.42(m, 2H), 4.27(m, 2H), 5.58(m, 1H), 5.65(m, 1H), 6.11(s, 1H), 6.10(m, 1H), 6.13(m, 1H), 6.30(m, 1H) (ppm)
【0116】
(合成例3)
MAEEAの合成
1L4つ口フラスコにDL−2−アミノ−1−ブタノール(東京化成社製、28.3g、0.318mol)、無水テトラヒドロフラン400mLを仕込み、攪拌し、内温−10℃まで冷却した。アクリル酸クロライド(14.4g、0.159mol)の無水テトラヒドロフラン溶液70mLを5℃以下で30分かけて滴下した。滴下後、室温条件下で1時間攪拌した。反応後、不溶物をろ過除去後、ろ液を減圧下で濃縮することで淡黄色の液体が得られた。
【0117】
500mL4つ口フラスコに上記の操作で得られたN−(1−エチル−(2−ヒドロキシ)エチル)アクリルアミド(14.3g、0.1mol)、無水テトラヒドロフラン200mL、トリエチルアミン(15.2g、0.15mol)を仕込み、攪拌し、内温−10℃まで冷却した。メタクリル酸クロライド(15.7g、0.15mol)の無水テトラヒドロフラン溶液50mLを5℃以下で30分かけて滴下した。滴下後、室温条件下で3時間攪拌した。反応後、トリエチルアミン塩酸塩をろ別し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/1)を用いて精製した。カラム精製後、溶媒をロータリーエバポレーターを用いて減圧留去することで、淡黄色の液体が得られた。LC/MS分析及び
1H−NMR測定を行い、シグナルの位置及び積分値から、得られた淡黄色の液体が目的とする化合物であることを確認した。収量は7.7g、収率は36.3%であった。
【0118】
MS m/z:212(M+H)
+
1H−NMR(270MHz DMSO−d
6):δ0.81(m, 3H), 1.44(m, 2H), 1.94(m, 3H), 3.75(m, 1H), 4.42(m, 2H), 5.57(m, 1H), 5.65(m, 1H), 6.11(m, 1H), 6.13(m, 1H), 6.28(m, 1H), 8.04(s, 1H) (ppm)
【0119】
(合成例4)
MAEGAの合成
1L4つ口フラスコに2−(2−アミノエトキシ)エタノール(東京化成社製、33.4g,0.318mol)、無水テトラヒドロフラン400mLを仕込み、攪拌し、内温−10℃まで冷却した。アクリル酸クロライド(14.4g,0.159mol)の無水テトラヒドロフラン溶液70mLを5℃以下で30分かけて滴下した。滴下後、室温条件下で1時間攪拌した。反応後、不溶物をろ過除去後、ろ液を減圧下で濃縮することで淡黄色の液体が得られた。
【0120】
500mL4つ口フラスコに上記の操作で得られたN−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)アクリルアミド(15.9g,0.1mol)、無水テトラヒドロフラン200mL、トリエチルアミン(15.2g,0.15mol)を仕込み、攪拌し、内温−10℃まで冷却した。メタクリル酸クロライド(15.7g,0.15mol)の無水テトラヒドロフラン溶液50mLを5℃以下で30分かけて滴下した。滴下後、室温条件下で3時間攪拌した。反応後、トリエチルアミン塩酸塩をろ別し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル/ヘキサン=2/1)を用いて精製した。カラム精製後、溶媒をロータリーエバポレーターを用いて減圧留去することで、淡黄色の液体が得られた。LC/MS分析及び
1H−NMR測定を行い、シグナルの位置及び積分値から、得られた淡黄色の液体が目的とする化合物であることを確認した。収量は10.4g、収率は45.8%であった。
【0121】
MS m/z:228(M+H)
+
1H−NMR(270MHz DMSO−d
6):δ1.93(m, 3H), 3.28(m, 2H), 3.43(m, 2H), 3.49(m, 2H), 4.34(m, 2H), 5.59(m, 1H), 5.63(m, 1H), 6.09(m, 1H), 6.12(m, 1H), 6.30 (m, 1H), 8.17 (s, 1H)
【0122】
BAAE
N,N’−エチレンビスアクリルアミド(Alfa Aesar社製)を用いた。
DEPBAA
N,N−ジエチル−1,3−プロピレン−ビスアクリルアミドは、特開2002−212019号公報の実施例2に記載の方法に基づいて合成した。具体的には、36.3g(0.40mol)のアクリル酸塩化物および4mgのヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)を、2.5Lのスルホン化フラスコ中で1.2Lのアセトニトリルに溶解し、そして−5℃まで冷却した。次いで、46.9g(0.36mol)のN,N’−ジエチルプロピレンジアミンのアセトニトリル(1.2L)溶液を、温度が−5℃と0℃との間に維持されるように攪拌しながら滴下した。1.5時間後、この混合物を室温まで昇温させ、そしてさらに4時間攪拌し、次いで形成した沈澱を濾別し、そして0.5Lのアセトニトリルで洗浄した。アセトニトリル相を合わせ、そして減圧下(10mbar、40℃)で濃縮した。粗生成物を150mLのアセトンに溶解し、50gのシリカゲル60を含むフリットを通して濾過し、そして再び濃縮した。このプロセスを繰り返した後、32.7g(収率76%)の淡黄色液体(η(23℃)=270mPa・s)が残った。
【0123】
(実施例1〜22、比較例1〜4、6)
上記した各合成例等の材料を用いて、表1〜表3に記載の各成分の内、フィラー(e)(粉末)以外の成分を常温で混合し、均一な液状成分とした後、得られた液状成分とフィラー(e)(粉末)と混練することにより、自己接着性歯科用コンポジットレジンを調製した。次いで、これらの自己接着性歯科用コンポジットレジンを用い、後述の方法に従って、象牙質に対する引張接着強さ、及び硬化物の曲げ強さを測定した。表1〜表3に、この自己接着性歯科用コンポジットレジンの配合比(重量部)及び試験結果を示す。
【0124】
(比較例5)
実施例1におけるMAEAの代わりに、対称型(メタ)アクリルアミド化合物であるBAAEを用い、フィラー(e)(粉末)以外の表3に記載の各成分を常温で混合したが、BAAEが溶解せず、均一な組成物を調製することができなかった。
【0125】
[象牙質に対する引張接着強さの測定]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させたサンプルを得た。得られたサンプルを流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定した。
【0126】
上記のようにして作製した自己接着性コンポジットレジンを上記の丸穴内に充填し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記自己接着性コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記自己接着性コンポジットレジンに対して歯科用可視光線照射器「ペンキュア2000」(モリタ社製)を用いて10秒間光照射を行い、前記自己接着性コンポジットレジンを硬化させた。
【0127】
得られた自己接着性コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレノリタケデンタル社製、商品名「パナビア21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。接着試験供試サンプルは計5個作製し、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。
【0128】
上記の接着試験供試サンプルの引張接着強さを、万能試験機(島津製作所社製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強さとした。
【0129】
[硬化物の曲げ強さの測定]
前記自己接着性コンポジットレジンを、ポリエステル製フィルムを載置したスライドガラス上に置いたステンレス製の型枠(縦2mm×横25mm×深さ2mm)に充填し、上からポリエステル製フィルムを置いて、さらにガラス板を用いて軽く押し当てた。歯科技工用光照射器(モリタ製、「アルファーライトII」)で両面から各2分間ずつ光を照射して硬化させた。硬化物を5本ずつ作製し、型枠から取り出した後、蒸留水に浸漬し、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。万能試験機(島津製作所製)を用いて、スパン:20mm、クロスヘッドスピード:1mm/分の条件下で曲げ強さを測定した。測定サンプルは計5個作成し、各試験片の測定値の平均値を算出し、曲げ強さとした。
【0130】
[自己接着性歯科用コンポジットレジンの液成分の混合状態の試験方法]
自己接着性歯科用コンポジットレジンの各ペーストを調製する際、フィラー(e)(粉末)以外の成分を常温で混合して調製した液成分をガラス瓶に入れ、目視により外観を観察し、その混合状態が白濁若しくは一部でも相分離が生じているかどうかを確認した。白濁若しくは一部でも相分離が生じている場合を「不均一」、生じていない場合を「均一」と判定し、「不均一」であるものを×、「均一」であるものを◎とした。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
上記表1及び表2に示すように、本発明に係る自己接着性歯科用コンポジットレジン(実施例1〜22)は、均一な組成物を調製することができ、象牙質に対して8.8MPa以上の引張接着強さを発現し、109MPa以上の硬化物の曲げ強さを有していた。
【0135】
表3に示すように、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体を配合しない比較例1では象牙質に対する接着性を示さなかった。また、非対称型アクリルアミド・(メタ)アクリル酸エステル化合物(a)を配合しない比較例2では象牙質に対する引張接着強さは5.6MPaであった。
【0136】
また、実施例1におけるMAEAの代わりに、親水性の多官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体であるGDMAを配合した比較例3では、象牙質に対する引張接着強さは6.6MPaであった。MDMAを配合した比較例4では、硬化性が不十分であり、硬化物の曲げ強さは80MPaであった。
【0137】
実施例1におけるMAEAの代わりに、対称型(メタ)アクリルアミド化合物であるBAAEを用い、フィラー(e)(粉末)以外の表3に記載の各成分を常温で混合したが、BAAEが溶解せず、均一な組成物を調製することができず、象牙質に対する引張接着強さと硬化物の曲げ強さは測定できなかった(比較例5)。対称型(メタ)アクリルアミド化合物であるDEPBAAを配合した比較例6では、DEPBAAの親水性が低いために象牙質に対する引張接着強さは6.5MPaであった。