(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の収差成分は前記波面収差の3次球面収差成分を含み、かつ、前記第2の収差成分は、前記波面収差の5次球面収差成分を含む、請求項1に記載の位相変調デバイス。
前記複数の第1の電極及び前記複数の第2の電極は、それぞれ、前記光学系の光軸を中心とする同心円状の複数の輪帯電極であり、前記複数の第1の電極のうちの前記第1の位相変調素子が前記光束に与える前記位相変調量が極値となる電極のうちの前記光軸から最も近い電極と前記光軸間の距離が、前記複数の第2の電極のうちの前記第2の位相変調素子が前記光束に与える前記位相変調量が極値となる電極のうちの前記光軸から最も近い電極と前記光軸間の距離よりも大きくなるように前記複数の第1の電極及び前記複数の第2の電極が配置される、請求項1または2に記載の位相変調デバイス。
【背景技術】
【0002】
共焦点レーザ顕微鏡は、レーザ光を対物レンズにより試料上に集光し、試料より発生する反射光、散乱光または蛍光を光学系で伝送し、試料上の集光点と光学的に共役な位置に配置したピンホールを透過した光束を検出器で受光している。ピンホールを配置することにより、試料上の集光点以外から発生する光をフィルタリングできるので、共焦点レーザ顕微鏡は、SN比の良好な画像を取得することができる。
【0003】
また、共焦点レーザ顕微鏡は、レーザ光を光軸と垂直な面に沿った、互いに直交する二方向(X方向、Y方向)に沿って試料をスキャンすることにより、試料の平面画像を取得する。一方、共焦点レーザ顕微鏡は、光軸方向(Z方向)に沿った対物レンズと試料間の間隔を変えることで、Z方向の複数の断層像を取得し(Zスタック)、これにより試料の3D画像を生成している。
【0004】
生体試料を観察する場合、培養液に浸した状態でカバーガラス越しにその生体試料を観察することが多い。また一般に、対物レンズは、カバーガラス直下で結像性能が最も良くなるように設計されている。生体試料内部を観察する場合、培養液または生体組織を透過した奥行きを持つ観察位置の画像を取得する必要があり、カバーガラス直下から観察位置までの距離に比例して収差が発生し、その結果として解像度が低下する。
【0005】
さらに、カバーガラスの厚さも設計値(例えば0.17mm)から公差の範囲でばらつきを持っており、カバーガラス屈折率1.525と生体試料屈折率1.38〜1.39の差により、設計厚さからのカバーガラスの実際の厚さの差に比例して収差が発生する。また、対物レンズが水浸レンズの場合、同様に生体試料屈折率と水の屈折率(1.333)の違いにより、観察位置までの生体深さに比例して収差が発生する。そのため、生体深部を観察するときに解像度が低下する。
【0006】
この欠点を解決する手段の一つに補正環がある(例えば、特許文献1を参照)。補正環は、対物レンズに設けられたリング状の回転部材で、補正環を回すことにより、対物レンズを構成するレンズ群の間隔が変更される。これにより、カバーガラスの厚さの誤差または生体深部を観察する場合に発生する収差がキャンセルされる。補正環には、目盛りが振ってあり、例えば、カバーガラス厚さについて、0,0.17,0.23の様に大まかに数値が示されている。そして、実際に使用するカバーガラスの厚さに合わせて補正環の目盛りを合わせることで、その厚さにおいて最適化されるようにレンズ群の間隔が調整される。
【0007】
しかし、補正環の操作は、対物レンズについているリング状の調整機構を手で回転することで行われる。そのため、その調整機構を調整することによるフォーカスのズレまたは視野のズレが生じる。また、対物レンズの最適位置を決定するためには、補正環の操作とフォーカシングを繰り返す必要があり、最適化のためのプロセスが煩雑であるという問題がある。プロセスが煩雑であるため、最適位置への調整に手間取り、蛍光色素が褪色してしまうという問題もある。蛍光色素の褪色は、励起光を当て続けることにより、発生する蛍光強度が弱くなってしまうという問題である。
【0008】
また、補正環の操作はデリケートであり、その操作によるフォーカシングの調整結果の判断は画像を目視した人が判断しているのが現状で、最適位置かどうかの判断が非常に難しい。特に、Zスタックの撮影においては、この作業を奥行き方向の取得画像数分繰り返す必要があり、非常に煩雑である。そのため、補正環を十分に生かしているユーザーは少ないという現状がある。さらに、試料によっては、手を触れることによる振動が観察位置に影響を与えてしまうため、対物レンズに手を触れずに自動でフォーカスを調整することが望まれている。
【0009】
そこで、波面収差の位相分布をZernike多項式で分解したときの3次球面収差と5次球面収差の比と、対物レンズの開口数との関係式に従って表される、その位相分布の逆極性を有する位相変調プロファイルを表示する位相変調デバイスを対物レンズを含む光学系内に配置することで、ユーザーが対物レンズまたはその鏡枠に手を触れることなく、試料または観察条件に応じてその光学系により生じる波面収差を補正する技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる位相変調デバイス、また、位相変調デバイスを用いたレーザ顕微鏡の好適な実施の形態を詳細に説明する。
この位相変調デバイスは、対物レンズを含む光学系で発生する波面収差を補正するために、波面収差の位相分布を打ち消すような位相変調プロファイルを表示可能な位相変調素子を少なくとも二つ有する。そして各位相変調素子により表示される位相変調プロファイルは、3次球面収差成分と5次球面収差成分とを異なる比率で含み、その比率は、それぞれ、対物レンズからその対物レンズにより集光される光束の集光位置(以下では、単に集光位置と呼ぶ)、すなわち、観察対象となる試料の深さに対応している。そのため、この位相変調デバイスが対物レンズの瞳面に配置されず、かつ、対物レンズから集光位置までの距離が変わっても、この位相変調デバイスは、各位相変調素子に表示される位相変調プロファイルによる位相変調量の比率を調節することで、適切に波面収差を補正できる。
【0021】
図1は、本発明の一つの実施形態に係るレーザ顕微鏡100の概略構成図である。コヒーレント光源であるレーザ光源1から出射した光束は、コリメート光学系2により平行光に調整され、その平行光は、コリメート光学系2と対物レンズ4の間に配置された位相変調デバイス3を透過した後、対物レンズ4によって試料5上に集光される。試料5により反射または散乱した光束もしくは試料により発生した蛍光等、試料の情報を含んだ光束は、光路を逆にたどり、対物レンズ4及び位相変調デバイス3を再度透過した後、ビームスプリッター6で反射され、第2の光学系であるコンフォーカル光学系7で共焦点ピンホール8上に集光される。そして、共焦点ピンホール8が、試料の焦点位置以外からの光束をカットするので、検出器9でSN比の良好な信号が得られる。
【0022】
ここで、対物レンズ4は、レンズ系内部だけでなく、レンズ先端から観察面までの光路の屈折率と間隔、例えばカバーガラスの厚さまたはカバーガラスの有無を想定し、それらの想定値で結像性能が最適化されるように設計されている。そのため、観察対象となる生体試料の深さ、またはカバーガラスの製造誤差による厚さのずれ等により収差が発生し、その収差が結像性能の低下をもたらす。そこで、光路長の設計値からのずれに応じて、対物レンズ4を含む、レーザ光源1から光束の集光位置までの光学系により発生する波面収差を見積もり、その波面収差の位相分布を打ち消して、光束が平行光束となるところでその光束の波面が平面となるような位相分布を位相変調プロファイルとして位相変調デバイス3に表示することで、レーザ顕微鏡100は、結像性能を向上させる。
【0023】
本実施形態では、位相変調デバイス3は、対物レンズ4を含む光学系により形成される光路内の何れに配置されてもよいが、上記のように、コリメート光学系2と対物レンズ4の間のように、位相変調デバイス3を透過する光束が平行光束となる位置に位相変調デバイス3は配置されることが好ましい。これにより、光学系により生じる波面収差が重畳された波面を平面波の波面と比較することで位相変調プロファイルを求めることができるので、位相変調プロファイルの作成が簡単化される。また、本実施形態のように、ビームスプリッター6と対物レンズ4間に位相変調デバイス3を配置することで、レーザ光源1から出射した光束は、位相変調デバイス3を往路と復路との2回通過するので、位相変調デバイス3は、往路、復路ともに光束の位相を補正できる。また、顕微鏡の対物レンズは、一般的に、無限系で設計されており、対物レンズに入射する光束は平行光となっている。したがって、位相変調デバイス3は、対物レンズ4の光源側、なるべく対物レンズ4の近傍に配置されることが好ましく、このように位相変調デバイス3を配置することで、レーザ顕微鏡100は補正の効果をより効果的に得ることができる。
【0024】
発生する収差について、より詳細に説明する。
図2A及び
図2Bは、観察する試料の深さにより発生する収差を模式的に示した図である。説明を簡略化するため、対物レンズは、一様な屈折率の媒質を観察する場合に最適になるように設計されるとしている。
図2Aは、設計で用いた一様な屈折率の媒質を観察する場合の光束200を示している。光束200が収差無く1点に集光していることが示されている。これに対し
図2Bは、試料表面からの深さDの面を観察している場合の光束210を示している。対物レンズに接している媒質と試料との境界面211において、光束210は屈折し、発生する収差により光束210は1点に集光していない。
【0025】
このように試料表面でなく試料内部を観察するときに収差が発生する。発生する収差は、対物レンズ4を含む光学系の波面収差として表される。そこで、位相変調デバイス3が配置された位置における、波面収差による位相分布をキャンセルするような位相分布を、位相変調デバイス3が発生させる。これにより、レーザ顕微鏡は、レーザ光源1からの光束を試料表面または試料内部に設定される観察位置において1点に集光させることができる。同様に、試料より発生した光束も光路を逆にたどるので、レーザ顕微鏡は、その光束を平面波に変換することができる。
【0026】
波面収差は、成分ごとに分解可能であり、各成分の和として表現できる。このとき、波面収差をZernike多項式のような直交関数に分解し、各関数の和として波面収差を表現することが一般的に行われている。したがって、波面収差の補正量も、Zernike多項式の各関数の位相分布として表現し、各関数の相対的な位相変調量を変化させることで求める方法が考えられる。例えば、収差を標準Zernike多項式で分解したとき、13番目の係数(Z
13)は、3次球面収差を表し、25番目の係数(Z
25)は、5次球面収差を表しておりそれぞれの係数に対応する補正量の位相分布を適切に調節することにより、位相変調デバイス3は、3次と5次の球面収差を補正することができる。
【0027】
試料深部を見る場合などに発生する収差は、デフォーカスまたは低次、高次の球面収差が複合的に発生した収差であり、位相変調デバイス3が、例えば、Z
13のみを補正しても、結像性能の向上は十分でない。
【0028】
しかし、実際のところは、デフォーカスは、試料深さDにより非常に敏感に変わるため、試料の観察位置で決まり、また、Zernike多項式におけるZ
13、Z
25以外の収差は、非常に小さく無視することができる。従って、3次球面収差に対応するZ
13と5次球面収差に対応するZ
25の項を補正することで、結像性能の向上が図れる。さらに、デフォーカスと3次球面収差、5次球面収差、場合によっては7次球面収差までを考慮すれば、充分満足できる収差補正が可能である。
【0029】
3次球面収差と5次球面収差を補正するには、それぞれに対応する位相分布を考慮して位相変調プロファイルを作成する必要がある。
図3Aは、3次球面収差の位相分布を表したグラフ300を表し、
図3Bは、5次球面収差の位相分布を表したグラフ301を表す。ここで考えている収差は、点対称性の位相分布を持っており、それぞれのグラフは、位相分布の断面図を示している。また、縦軸は位相差の正の最大値を「1」として位相差を正規化した値を表し、横軸は有効径の最大値を「1」として有効径を正規化した値を表す。すなわち、横軸における「0」の位置は、光軸上であることを表す。
【0030】
実際に発生する収差位相分布は、これらの線形和と考えられる。そこで、球面収差成分を3次球面収差の成分と5次球面収差の成分の和とし、この位相分布に適当なデフォーカスによる位相分布成分を足した位相分布を求める。そして、その位相分布をキャンセルするように、得られた位相分布を逆極性化したプロファイルを位相変調プロファイルとする。例えば、開口数NAが1.0の水浸用対物レンズの場合、対物レンズ4の瞳面において発生する3次球面収差と5次球面収差の比は、おおよそ4対1になり、これら球面収差の線形和にデフォーカスによる位相成分を加えた位相分布の逆極性となるプロファイルを位相変調プロファイルとすることができる。
【0031】
前述したように、補正環により収差を補正する場合は、補正環の操作とフォーカシングを繰り返す必要があり、最適化のプロセスが長く複雑になっていた。しかし、フォーカシングにより残留する位相分布(デフォーカス成分)を位相変調プロファイルとして位相変調デバイス3で補正することを考えれば、最適化のための繰り返しプロセスを無くすことができ、効率良く収差補正を行うことができる。
【0032】
次に、位相変調デバイス3が実際に収差補正を行うために用いる位相変調プロファイルについて、例を挙げてより詳細に説明する。フォーカシングにより残留する位相分布は、その波面の2乗平均平方根(RMS)値が最小になる形状と一致すると考えることができる。よって、例えば、RMS収差が最小となるように、デフォーカス項を加えた複合収差の位相分布を求め、その位相分布から位相変調プロファイルを設定する方法がある。
図4に示されるグラフ400は、開口数NAが1.0の対物レンズで発生する球面収差と、そのRMS収差が最小となるようにデフォーカス成分を加えた場合における複合収差の位相分布を表す。
【0033】
また、デフォーカス成分の加え方として、位相分布の位相変調量(以下、PV値とする)が最小となるようにし、最小となる位相変調量に対応する位相分布を位相変調プロファイルとすることもできる。
図5に示されるグラフ500は、PV値が最小となるようにデフォーカス成分を加えた複合収差の位相分布を表す。PV値が最小となるようにした場合は、位相変調レンジ(位相変調量の幅)が小さくてすむ。そのため、位相変調デバイスが有する位相変調素子として液晶素子が用いられる場合には、液晶素子の液晶層が薄くてすむ。また、一般的に、液晶素子の応答時間は、液晶層の厚さの2乗に比例するので、位相変調レンジが小さければ応答速度が向上するというメリットがある。また、液晶層の厚さが薄いほど、面精度が向上するというメリットもある。
【0034】
さらに、フォーカシングにより残留する位相分布は、用いる顕微鏡または画像処理ソフトの仕様により異なることが考えられ、それぞれの固有の残存収差パターンと位相変調デバイスの位相変調プロファイルを合わせ込んで行くことで最適な収差補正が可能となる。
【0035】
また、3次球面収差の成分と、5次球面収差の成分は、それぞれ、対物レンズ4から集光位置までの距離に応じて変化する。
図6A及び
図6Bは、それぞれ、開口数1.1の水浸タイプの対物レンズから試料の配置側とは反対側に1mm離れた位置における、屈折率1.4の試料の表面からの深さと、対物レンズ4を含む光学系で生じる3次球面収差成分または5次球面収差成分との関係を示すグラフである。
図6A及び
図6Bにおいて、横軸は深さ[mm]を表す。また
図6Aにおいて、縦軸は、3次球面収差成分に相当するZernike係数(Z
13)を表し、
図6Bにおいて、縦軸は、5次球面収差成分に相当するZernike係数(Z
25)を表す。そして線601は、試料表面からの深さと3次球面収差成分に相当するZernike係数との関係を表し、線602は、試料表面からの深さと5次球面収差成分に相当するZernike係数との関係を表す。
【0036】
図6Cは、試料表面からの深さと、
図6A及び
図6Bに示される、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比との関係を示すグラフである。
図6Cにおいて、横軸は試料表面からの深さ[mm]を表し、縦軸は、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比を表す。そして線603は、試料表面からの深さと、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比との関係を表す。
【0037】
図6A及び
図6Bに示されるように、試料表面からの深さが増大するにつれて、3次球面収差成分と5次球面収差成分の何れも増加する。ただし、
図6Cに示されるように、試料表面からの深さが増大するにつれて、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比は略0.29から略0.26まで低下する。したがって、例えば、二つの位相変調素子の一方が、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が略0.29となる位相変調プロファイルを表示可能であり、二つの位相変調素子の他方が、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が略0.26となる位相変調プロファイルを表示可能であれば、その二つの位相変調素子に表示される位相変調プロファイルによる位相変調量の比率を調節することで、位相変調デバイス3は、任意の深さについての3次球面収差成分と5次球面収差成分を適切に補正することができる。
【0038】
次に、位相変調素子として液晶素子を採用し、波面収差をキャンセルするような位相分布を位相変調プロファイルとして液晶素子に表示させる位相変調デバイス3についてより詳細に説明する。
【0039】
図7Aは、位相変調デバイス3の概略構成図である。位相変調デバイス3は、対物レンズ4を含む光学系を通る光束中に、その光学系の光軸に沿って並べて配置される二つの位相変調素子11、12と、その二つの位相変調素子11、12に印加する電圧を調節することで、位相変調素子11、12を透過する光束に与える位相変調量を制御する制御回路13とを有する。なお、制御回路13は、例えば、プロセッサと、メモリと、プロセッサからの駆動信号に応じて出力する電圧を変更可能な駆動回路とを有する。
【0040】
図7Bは、位相変調素子11の平面図である。なお、位相変調素子11、12は、透明電極の配置パターンを除いて同一の構成とすることができる。そこで、透明電極の配置パターン以外についての位相変調素子の構造については、位相変調素子11についてのみ説明する。
【0041】
図7A及び
図7Bに示されるように、位相変調素子11の液晶層は、透明基板21、22で挟まれており、シール部材23で、液晶が漏れないように周辺部が封止されている。透明基板21、22の互いに対向する側の面における、液晶を駆動するアクティブ領域24、すなわち、透過する光束の位相を変調できる領域には、光軸を中心とする同心円状の透明な輪帯電極が複数形成されている。なお、透明基板21、22の一方については、アクティブ領域24全体を覆うように透明電極が形成されていてもよい。アクティブ領域24は、対物レンズ4の瞳径に合わせて決定されたサイズを有する。そして位相変調デバイス3が有する制御回路13が、透明な輪帯状の輪帯電極に印加する電圧を制御することで、位相変調素子11を透過する光束に対して、光軸を中心とする同心円状の所望の位相分布を与えることができる。
【0042】
図8は、
図7の位相変調素子11のアクティブ領域24の一部における断面模式図を示している。位相変調素子11では、透明基板21、22間に液晶分子34が挟まれている。透明基板21、22の互いに対向する側の表面には透明電極33、33a、33bが形成されている。
図8では、右側半分の透明電極33aと透明電極33の間に電圧が印加され、一方、左側半分の透明電極33bと透明電極33の間には電圧が印加されていない状態が示されている。液晶分子34は、細長い分子構造を持ち、ホモジニアス配向されている。すなわち、2枚の透明基板21、22に挟まれた液晶分子34は、その長軸方向がお互いに平行となり、かつ、透明基板21、22と液晶層の界面と平行に並んでいる。液晶分子34は、その長軸方向における屈折率と長軸方向に直交する方向における屈折率とが異なり、一般に、液晶分子34の長軸方向に平行な偏光成分(異常光線)に対する屈折率n
eは、液晶分子の短軸方向に平行な偏光成分(常光線)に対する屈折率n
oよりも高い。そのため、液晶分子34をホモジニアス配向させた位相変調素子11は、1軸性の複屈折素子として振舞う。
【0043】
液晶分子は、誘電率異方性を持ち、一般に液晶分子長軸が電界方向に倣う方向に力が働く。つまり、
図8で示したように、液晶分子を挟む2枚の透明基板に設けられた電極間に電圧が印加されると、液晶分子の長軸方向は、透明基板に平行な状態から、電圧に応じて透明基板の表面に直交する方向に傾いてくる。このとき、液晶分子長軸に平行な偏光成分の光束を考えると、液晶分子の屈折率n
ψは、n
o≦n
ψ≦n
e(n
oは常光の屈折率、n
eは異常光の屈折率)となる。そのため、液晶層の厚さがdであると、液晶層のうち、電圧が印加された領域と印加されていない領域を通る光束の間に、光路長差Δnd(=n
ψd−n
od)が生じる。位相差は、2πΔnd/λとなる。なお、λは、液晶層に入射する光束の波長である。
【0044】
次に、液晶素子として構成された位相変調素子11を透過する光束に所望の位相分布を与える方法について詳細に述べる。まずは、表示したい位相分布プロファイルを決めて、それを等位相間隔で分割し、各輪帯電極に印加する電圧を決定する。
【0045】
図9Aは、二つの位相変調素子のそれぞれに表示される、光軸を通る面に対応する位相変調プロファイルの断面図を表す。この例では、位相変調素子11が表示する位相変調プロファイルにおける、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比(Z
25/Z
13)は、0.292であり、位相変調素子12が表示する位相変調プロファイルにおける、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比(Z
25/Z
13)は、0.24であるとする。
図9Aにおいて、横軸は光軸に直交する面における位置を表す。なお横軸において光軸の位置は0で表される。縦軸は位相変調量を表す。実線で示される曲線901は、位相変調素子11が表示する位相変調プロファイルを表す。一方、点線で示される曲線902は、位相変調素子12が表示する位相変調プロファイルを表す。この例では、位相変調プロファイル901における位相変調量の最大値及び最小値が、それぞれ、位相変調プロファイル902における位相変調量の最大値及び最小値と一致するようにしている。
【0046】
位相変調プロファイル901及び902に示されるように、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が大きくなるほど、位相変調プロファイルにおける、位相変調量が光軸に最も近い極値(この例では、最大値)となる位置が光軸から離れる。すなわち、光軸から、位相変調プロファイル901における、光軸に最も近い極値に相当する位置901aまでの距離d1は、光軸から、位相変調プロファイル902における、光軸に最も近い極値に相当する位置902aまでの距離d2よりも長くなる。
【0047】
ここで、互いに隣接する輪帯間での位相差が等間隔になるように、位相変調プロファイルを量子化することにより、位相変調素子11及び12の輪帯電極の配置パターンが決定される。互いに隣接する輪帯間での位相差が等間隔となる場合、後述するように、隣接する二つの輪帯電極ごとに、同じ抵抗値を持つ抵抗で接続することで位相変調プロファイルを離散的に近似する位相変調プロファイルを与えることができる。
【0048】
図9Bは、
図9Aに示された位相変調プロファイルを量子化して得られる、光軸を通る面に対応する位相変調プロファイルの断面図を表す。
図9Bにおいて、横軸は光軸に直交する面における位置を表す。なお横軸において光軸の位置は0で表される。縦軸は位相変調量を表す。実線で示される折線911は、位相変調プロファイル901を量子化して得られる位相変調プロファイルを表し、点線で示される折線912は、位相変調プロファイル902を量子化して得られる位相変調プロファイルを表す。
図9Aと同様に、光軸から、位相変調プロファイル911における、光軸に最も近い極値に相当する位置911aまでの距離d3は、光軸から、位相変調プロファイル912における、光軸に最も近い極値に相当する位置912aまでの距離d4よりも長くなる。
【0049】
図10は、
図9Bに示された、量子化された位相変調プロファイルに対応する、位相変調素子11及び12の輪帯電極の配置パターンを示す図である。上側が示された実線で示される折線911は、
図9Bに示される位相変調プロファイル911に対応し、点線で示される折線912は、
図9Bに示される位相変調プロファイル912に対応する。
図10の下側には、位相プロファイル911に合わせて決定した位相変調素子11の輪帯電極パターン1001及び位相プロファイル912に合わせて決定した位相変調素子12の輪帯電極パターン1002が示される。簡単化のため、輪帯電極間のスペース及び引き出し電極等は図示していない。位相変調素子11が透過する光束に与える位相変調量と印加電圧の特性がほぼリニアな電圧範囲内で、隣接する輪帯電極間の電圧差が同一ステップとなるように、制御回路13が各輪帯電極に電圧を印加することで、位相変調素子11は、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が0.292となる、量子化された位相変調プロファイルを表示することができる。同様に、位相変調素子12が透過する光束に与える位相変調量と印加電圧の特性がほぼリニアな電圧範囲内で、隣接する輪帯電極間の電圧差が同一ステップとなるように、制御回路13が各輪帯電極に電圧を印加することで、位相変調素子12は、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が0.24となる、量子化された位相変調プロファイルを表示することができる。
【0050】
上述したように、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が大きくなるほど、位相変調プロファイルにおける、位相変調量が最大値、すなわち、光軸に最も近い極値となる位置が光軸から離れる。そのため、量子化された位相変調プロファイル911が与える位相変調量の最大値に相当する位置も、量子化された位相変調プロファイル912が与える位相変調量の最大値に相当する位置よりも光軸から離れた位置となる。したがって、光軸から、位相変調素子11における位相変調プロファイルが与える位相変調量の最大値(光軸に最も近い極値)に相当する透明電極1001aの位置までの距離d3は、光軸から、位相変調素子12における位相変調プロファイルが与える位相変調量の最大値(光軸に最も近い極値)に相当する透明電極1002aの位置までの距離d4よりも長くなる。
【0051】
隣接する輪帯電極間の電圧の差が同一ステップとなるように、各輪帯電極に電圧を印加するために、位相プロファイルから、位相変調量が最大となる位置及び最小となる位置に対応する輪帯電極が決定される。そして制御回路13が、最大位相変調量となる印加電圧と最小位相変調量となる印加電圧を、それぞれに対応する輪帯電極に加える。また、複数の輪帯電極は、それぞれ隣接する輪帯電極間を同一の電気抵抗を持つ電極(抵抗子)によって接続されているため、抵抗分割により隣接する輪帯電極間の電圧差は同一ステップとなる。また、このように印加電圧を制御することで、各輪帯電極に印加する電圧を独立に制御する際の回路よりも、制御回路13を単純な構成とすることができるというメリットがある。
【0052】
図11は、位相変調素子11及び12がn個の輪帯電極を有する場合の、各輪帯電極と印加される電圧との関係を示す図である。例えば、中心電極を輪帯電極1、最外周の輪帯電極を輪帯電極n、最大電圧を印加する輪帯電極を輪帯電極mとする。
【0053】
図11では、3レベル駆動の場合に制御回路13が電圧を印加する輪帯電極が示される。この例では、中心の1番目の輪帯電極に電圧V1が印加され、m番目の輪帯電極に電圧V2が印加され、最外周のn番目の輪帯電極に電圧V3が印加される。この場合、1番目の輪帯電極とm番目の輪帯電極の間に位置するk番目の輪帯電極に印加される電圧は、k番目の輪帯電極と1番目の輪帯電極間の抵抗値の合計R1と、1番目の輪帯電極とm番目の輪帯電極間の抵抗値の合計R2の比(R1/R2)を、(V2−V1)に乗じた値をV1に加算した値となる。同様に、n番目の輪帯電極とm番目の輪帯電極の間に位置するl番目の輪帯電極に印加される電圧は、l番目の輪帯電極とn番目の輪帯電極間の抵抗値の合計R3と、n番目の輪帯電極とm番目の輪帯電極間の抵抗値の合計R4の比(R3/R4)を、(V3−V2)に乗じた値をV3に加算した値となる。
【0054】
なお、発生した波面収差の位相分布における中心及び端部の位相変調量が等しくなるように、デフォーカス値を選ぶことで、中心電極での位相変調量と最外周電極での位相変調量が一致する。この場合、最外周の輪帯電極nに印加される電圧値V3は、中心電極に印加される電圧V1と同一となり、位相変調素子11及び12は、2レベルの電圧で駆動できる。また、このように電圧を印加すれば、PV値を最小にすることができる。そして2レベル駆動の例では、印加される電圧V1とV2の差で、位相変調プロファイルの相対比を変えずに位相変調量の振幅が可変される。
また、各輪帯電極は互い絶縁され、制御回路13から直接電圧が印加されてもよい。この場合には、制御回路13は、輪帯電極ごとに印加する電圧を調整することで、位相変調素子11、12に、輪帯電極の配置パターンに応じた所望の位相変調プロファイルを表示させることができる。
【0055】
表1は、試料表面からの深さと、対物レンズ4を含む光学系により発生する収差と、各位相変調素子による位相調整量との関係を表すテーブルである。この例でも、表1に示した観察深さに対する3次球面収差と5次球面収差、及び、3次球面収差に対する5次球面収差の比率は、前述の
図6A〜
図6Cに対応する。
ここで、発生収差を正の値で示し、この発生収差を打ち消す位相変調素子の各収差成分を負で示す。また、位相変調素子11が表す位相変調プロファイルにおける、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比は0.292であり、位相変調素子12が表す位相変調プロファイルにおける、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比は0.24であるとする。また、各位相変調素子が単独で与えられる3次球面収差成分についての位相調整量の最大値を1.8λ(λは、レーザ光源1から発するレーザ光の波長である)とする。
【表1】
表1に示されるように、観察深さが深くなるほど、発生する3次球面収差と5次球面収差はともに大きくなるが、3次球面収差に対する5次球面収差の比は低下する。
各位相変調素子の列に記載の電圧(V)は位相変調量が最大となる輪帯電極と最小となる輪帯電極間に印加する電圧値であり、この例においては、
図10及び11に示すとおり電圧値Vは(V2−V3)に相当する。
【0056】
位相変調素子11の3次球面収差成分をa、5次球面収差成分をb、3次球面収差に対する5次球面収差の比率をα(表1では、α=0.292)とし、位相変調素子12の3次球面収差成分をc、5次球面収差成分をd、3次球面収差に対する5次球面収差の比率をβ(表1では、β=0.24)とする。また、各位相変調素子の3次球面収差成分の合計(発生収差の3次球面収差成分の逆符号)をxとし、5次球面収差成分の合計(発生収差の5次球面収差成分の逆符号)をyとすれば、a、b、c、dと、x、y、α、βの関係は、以下の式で示される。
a+c=x ・・・式1
b+d=y ・・・式2
b/a=α ・・・式3
d/c=β ・・・式4
【0057】
したがって、発生収差の各次数の球面収差成分の逆符号をそれぞれx及びyとして上記連立方程式を解くことにより、各位相変調素子11、12が与えるべき各次球面収差の位相変調成分a、b、c、dが算出される。
【0058】
各位相変調量素子に算出した位相変調成分と同等の位相変調量を与えるように電圧(V)を印加することで、位相変調デバイス3は、発生収差を補正することができる。なお、各位相変調素子11、12における3次球面収差成分と5次球面収差成分の比率はそれぞれ任意の値α、βに固定されるため、3次球面収差成分のa、cまたは5次球面収差成分のb、dのどちらか一方が決まれば、他方も算出するまでもなく一意的に決定される。
【0059】
図12Aは、各位相変調素子により表示される位相変調プロファイル及びその組み合わせに応じてキャンセルされる3次球面収差成分と試料表面からの深さとの関係の一例を示す図であり、表1に対応する。また
図12Bは、各位相変調素子により表示される位相変調プロファイル及びその組み合わせに応じてキャンセルされる5次球面収差成分と試料表面からの深さとの関係の一例を示す図であり、表1に対応する。
図12A及び
図12Bにおいて、横軸は試料表面からの深さを表し、縦軸は、波長単位の位相調整量を表す。
図12Aにおいて、線1201は、試料表面からの深さと、位相変調素子11がキャンセルする3次球面収差成分との関係を表す。また線1202は、試料表面からの深さと、位相変調素子12がキャンセルする3次球面収差成分の補正量との関係を表す。そして線1203は、試料表面からの深さと、位相変調素子11がキャンセルする3次球面収差成分と位相変調素子12がキャンセルする3次球面収差成分の合計との関係を表す。同様に、
図12Bにおいて、線1211は、試料表面からの深さと、位相変調素子11がキャンセルする5次球面収差成分との関係を表す。また線1212は、試料表面からの深さと、位相変調素子12がキャンセルする5次球面収差成分との関係を表す。そして線1213は、試料表面からの深さと、位相変調素子11がキャンセルする5次球面収差成分と位相変調素子12がキャンセルする5次球面収差成分の合計との関係を表す。
【0060】
表1及び
図12A及び
図12Bに示されるように、試料表面からの深さに応じて、3次球面収差成分と5次球面収差成分の比率が変化しても、位相変調素子11及び位相変調素子12が有する輪帯電極に印加する電圧を調整することで、各位相変調素子がキャンセルする各次数の球面収差成分の比率はそのままでも、全体として、位相変調量を可変にすることができる。そして位相変調デバイス3が全体として光束に与える位相変調量は、各電圧における、位相変調素子11が与える位相変調量と位相変調素子12が与える位相変調量の合計となる。その結果として、位相変調デバイス3は、試料表面からの深さによらずに、3次球面収差及び5次球面収差を良好に補正できることが分かる。
【0061】
なお、制御回路13は、例えば、制御回路13が有するメモリに、予め、試料表面からの深さと、位相変調素子11、12の各輪帯電極に印加する電圧との関係を表す参照テーブルを記憶しておく。そして制御回路13は、その参照テーブルを参照して、試料表面からの深さに対応する各輪帯電極に印加する電圧を決定し、その決定した電圧を対応する輪帯電極に印加すればよい。なお、試料表面からの深さだけでなく、試料の屈折率によっても、対物レンズから光束の集光位置までの光路長は変化する。そこで、参照テーブルは、対物レンズから光束の集光位置までの光路長と、位相変調素子11、12の各輪帯電極に印加する電圧との関係を表してもよい。そして制御回路13は、その参照テーブルを参照して、対物レンズから光束の集光位置までの光路長に対応する各輪帯電極に印加する電圧を決定し、その決定した電圧を対応する輪帯電極に印加すればよい。
【0062】
また本実施形態では、各位相変調素子が、予め、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の所定の比率(ただし、所定の比率は0及び∞の何れでもない比率、すなわち、3次球面収差成分と5次球面収差成分の両方を持つ)に応じた位相変調プロファイルを表示することで、二つの位相変調素子のそれぞれが与える位相変調量の合計を大きくすることができる。もし仮に、一方の位相変調素子が3次元球面収差成分の位相分布を打ち消す位相変調プロファイルを表示し、他方の位相変調素子が5次元球面収差成分の位相分布を打ち消す位相変調プロファイルを表示する場合、3次元及び5次元の球面収差成分に対する補正量のそれぞれは、一つの位相変調素子が与えることができる位相変調量の最大値以下に制限される。しかし本実施形態では、位相変調素子11、12のそれぞれが、3次球面収差成分と5次球面収差成分の両方を補正する位相変調量を通過する光束に与えることができるので、3次元及び5次元の球面収差成分の補正量のそれぞれは、一つの位相変調素子が与えることができる位相変調量の最大値(この例では1.8λ)よりも大きくなる。
【0063】
また、前述したように、位相差は、液晶層に入射する光の波長に依存する。一般的なレーザ顕微鏡のレーザ光源1は、レーザ光の複数の波長のなかから選択された波長のレーザ光を照射することができる。しかしながら、使用するレーザ光の波長によって、必要な位相変調量が異なるため、位相変調デバイス3の制御回路13は、位相変調素子11、12のそれぞれによる位相変調量を補正することが必要となる。制御回路13は、波長の違いによる位相変調量のずれを、位相変調デバイス3の液晶層に印加する電圧を変化させることで補正することができる。さらに、制御回路13は、温度変化等による位相変調量のずれも、位相変調素子11、12のそれぞれの液晶層に印加する電圧を調整することでキャンセルすることができる。
【0064】
ここで、レーザ光の波長の違いによる最適な位相変調量を得る方法について説明する。
図13に示されるグラフ1300は、上述した実施例における位相変調デバイス3の液晶層に封入された液晶の波長分散特性を示している。横軸は波長を表し、縦軸は位相変調デバイス3の位相差(Δnd)を、550nm時の位相差の値が1となるよう正規化した値を示している。グラフ1300に示されるように、例えば488nmのレーザ光では、波長分散の度合いは1.057であり、405nmのレーザ光では、波長分散の度合いは1.200となる。これは、液晶層の厚さdが一定値であるため、Δn(=n
e−n
o)が、レーザ光の波長により異なることを示している。したがって、
図1に図示した同じ試料5の同じ位置を観察しても、使用するレーザ光源1の波長によって、最適な位相変調プロファイルは異なる。そこで、位相変調素子11及び12が、最適な位相変調プロファイルを透過する光束に与えるには、その波長に最適な、波長分散の度合いをパラメーターとして、位相変調プロファイルの算出式に加味して、位相変調プロファイルを最適化することが好ましい。
【0065】
具体的には、使用するレーザ光源1の波長をパラメーターとして位相変調プロファイルの作成に用いることが必要である。つまり、前述のように作成した位相変調プロファイルに、
図13で図示したように波長分散の度合いを係数として乗じれば、レーザ光源からのレーザ光の波長を考慮した最適化された位相変調プロファイルが得られる。そして、制御回路13は、最適化された位相変調プロファイルに基づいて、位相変調素子11及び12の各電極に印加する電圧を調整すればよい。
【0066】
以上に説明してきたように、この位相変調デバイスは、複数の位相変調素子を有し、各位相変調素子が、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比率が互いに異なる位相変調プロファイルを表示可能なように、互いに異なる輪帯電極配置パターンを有している。そのため、この位相変調デバイスは、各位相変調素子の輪帯電極に印加する電圧を調整することで、対物レンズから集光位置までの距離によらずに3次球面収差成分及び5次球面収差成分を良好に補正できる。
【0067】
なお、変形例によれば、各位相変調素子が表示する位相変調プロファイルは、3次球面収差成分と5次球面収差成分の組み合わせに相当する位相分布を補正するものに限られない。例えば、その位相変調プロファイルは、3次球面収差成分と7次球面収差成分の合計と、5次球面収差成分とデフォーカス成分の合計との組み合わせに相当する位相分布を補正するものであってもよい。
【0068】
図14Aは、変形例による、二つの位相変調素子のそれぞれに表示される、光軸を通る面に対応する位相変調プロファイルの断面図を表す。この変形例では、位相変調素子11及び12が表示する位相変調プロファイルは、3次球面収差成分と7次球面収差成分の合計と、5次球面収差成分とデフォーカス成分の合計との組み合わせに相当する位相分布を補正するものである。位相変調素子11が表示する位相変調プロファイルにおける、3次球面収差成分、7次球面収差成分、5次球面収差成分、デフォーカス成分の比は、1:0.084:0.292:-0.292である。一方、位相変調素子12が表示する位相変調プロファイルにおける、3次球面収差成分、7次球面収差成分、5次球面収差成分、デフォーカス成分の比は、1:0.084:0.24:-0.24である。
図14Aにおいて、横軸は光軸に直交する面における位置を表す。なお横軸において光軸の位置は0で表される。縦軸は位相変調量を表す。実線で示される曲線1401は、位相変調素子11が表示する位相変調プロファイルを表す。一方、点線で示される曲線1402は、位相変調素子12が表示する位相変調プロファイルを表す。この例では、位相変調プロファイル1401における位相変調量の最大値及び最小値が、それぞれ、位相変調プロファイル1402における位相変調量の最大値及び最小値と一致するようにしている。
【0069】
位相変調プロファイル1401及び1402に示されるように、この変形例でも、3次球面収差成分と7次球面収差成分の合計に対する、5次球面収差成分とデフォーカス成分の合計の比が大きくなるほど、位相変調プロファイルにおける、位相変調量が最大値となる位置(すなわち、位相変調量が光軸に最も近い極値となる位置)が光軸から離れる。すなわち、光軸から、位相変調プロファイル1401における、光軸に最も近い極値に相当する位置1401aまでの距離d11は、光軸から、位相変調プロファイル1402における、光軸に最も近い極値に相当する位置1402aまでの距離d12よりも長くなる。
【0070】
図14Bは、
図14Aに示された位相変調プロファイルを互いに隣接する輪帯間での位相差が等間隔になるように量子化して得られる、光軸を通る面に対応する位相変調プロファイルの断面図を表す。
図14Bにおいて、横軸は光軸に直交する面における位置を表す。なお横軸において光軸の位置は0で表される。縦軸は位相変調量を表す。実線で示される折線1411は、位相変調プロファイル1401を量子化して得られる位相変調プロファイルを表し、点線で示される折線1412は、位相変調プロファイル1402を量子化して得られる位相変調プロファイルを表す。
【0071】
図15は、
図14Bに示された、量子化された位相変調プロファイルに対応する、位相変調素子11及び12の輪帯電極の配置パターンを示す図である。上側が示された実線で示される折線1411は、
図14Bに示される位相変調プロファイル1411に対応し、点線で示される折線1412は、
図14Bに示される位相変調プロファイル1412に対応する。
図15の下側には、位相プロファイル1411に合わせて決定した位相変調素子11の輪帯電極パターン1501及び位相プロファイル1412に合わせて決定した位相変調素子12の輪帯電極パターン1502が示される。簡単化のため、輪帯電極間のスペース及び引き出し電極等は図示していない。位相変調素子11が透過する光束に与える位相変調量と印加電圧の特性がほぼリニアな電圧範囲内で、隣接する輪帯電極間の電圧差が同一ステップとなるように、制御回路13が各輪帯電極に電圧を印加することで、位相変調素子11は、3次球面収差成分、7次球面収差成分、5次球面収差成分、デフォーカス成分の比が1:0.084:0.292:-0.292となる、量子化された位相変調プロファイルを表示することができる。同様に、位相変調素子12が透過する光束に与える位相変調量と印加電圧の特性がほぼリニアな電圧範囲内で、隣接する輪帯電極間の電圧差が同一ステップとなるように、制御回路13が各輪帯電極に電圧を印加することで、位相変調素子12は、3次球面収差成分、7次球面収差成分、5次球面収差成分、デフォーカス成分の比が1:0.084:0.24:-0.24となる、量子化された位相変調プロファイルを表示することができる。そしてこの変形例においても、制御回路13が各位相変調素子の各輪帯電極に印加する電圧を対物レンズから集光位置までの距離に応じて調節することで、位相変調デバイスは、その距離に応じた比率を持つ各収差成分を良好に補正できる。
【0072】
上述したように、3次球面収差成分と7次球面収差成分の合計に対する5次球面収差成分とデフォーカス成分の合計の比が大きくなるほど、位相変調プロファイルにおける、位相変調量が最大値(すなわち、光軸に最も近い極値)となる位置が光軸から離れる。そのため、量子化された位相変調プロファイル1411が与える位相変調量の最大値に相当する位置も、量子化された位相変調プロファイル1412が与える位相変調量の最大値に相当する位置よりも光軸から離れた位置となる。したがって、位相変調素子11における位相変調プロファイルが与える位相変調量の最大値に相当する透明電極1501aの位置は、位相変調素子12における位相変調プロファイルが与える位相変調量の最大値に相当する透明電極1502aの位置よりも光軸から離れた位置となる。
【0073】
また他の変形例によれば、位相変調デバイスが有する位相変調素子の数は2個に限られない。例えば、位相変調デバイスは、対物レンズを有する光学系の光路上に並べて配置される、3個以上の位相変調素子を有していてもよい。この場合も、各位相変調素子は、何れかの収差成分に対する他の収差成分の比に応じた位相変調プロファイルを表示し、かつ、位相変調素子ごとに、その比が異なっていることが好ましい。
【0074】
さらに他の変形例によれば、位相変調素子は、液晶層を挟んで対向するように形成される二つの透明電極が、それぞれ、互いに異なる何れかの収差成分に対する他の収差成分の比に応じた位相変調プロファイルに対応する配置パターンを有する複数の輪帯電極を有していてもよい。この場合、位相変調デバイスが有する位相変調素子は一つでもよい。
【0075】
図16は、この変形例による、位相変調素子1600の光軸を通る面における側面断面における、輪帯電極の配置パターンの概略を示す図である。なお、この変形例においても、位相変調素子1600の構成は、輪帯電極の配置パターンを除いて、
図7A及び
図7Bに示した位相変調素子11、12と同一とすることができる。そのため、輪帯電極の配置パターン以外の位相変調素子1600の構成の詳細については、位相変調素子11、12についての説明を参照されたい。この例では、位相変調素子1600の液晶層1610の一方の面に設けられた輪帯電極の配置パターン1601は、例えば、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が0.292となる位相変調プロファイルを表示するものである。一方、液晶層1610の他方の面に設けられた輪帯電極の配置パターン1602は、例えば、3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比が0.24となる位相変調プロファイルを表示するものである。この場合、制御回路13は、配置パターン1601に含まれる各輪帯電極に印加する電圧と、配置パターン1602に含まれる各輪帯電極に印加する電圧とを、対物レンズから集光位置までの距離に応じて調節することで、位相変調素子1600は、その距離に応じた3次球面収差成分に対する5次球面収差成分の比に相当する位相変調プロファイルを表示することができる。
【0076】
この変形例によれば、位相変調素子が一枚でよいので、液晶層及び透明電極の透過率及び吸収率などに応じた光のロスが軽減される。またこの変形例によれば、位相変調素子の数が一枚でよいので、光路内において位相変調素子を配置可能なスペースが小さく、位相変調素子を複数枚配置することができない場合にも適用できる。
【0077】
また、上記の実施形態及び各変形例では、位相変調デバイスの位相変調素子として液晶素子を用いたが、位相変調素子は、液晶素子に限られない。例えば、ポッケルス効果に代表される電気光学効果を持つ光学結晶素子を、位相変調素子として用いることもできる。この場合にも、液晶素子が利用される場合と同様に、光軸を中心とする複数の輪帯電極が、平板上の光学結晶素子の一方の面に取り付けられ、光学結晶素子の他方の面には、その面全体を覆うように電極が取り付けられる。各電極は、上記の実施形態と同様に、透明電極とすることが好ましい。この変形例でも、上記の実施形態と同様に、制御回路は、各輪帯電極に印加する電圧を調節することで、対物レンズを含む光学系の収差を補正する位相変調プロファイルを光学結晶素子に表示させ、光学結晶素子を透過する光束にその位相変調プロファイルに応じた位相分布を与えることができる。
【0078】
また他の変形例では、反射型になるというデメリットはあるが、デフォーマブルミラーを、位相変調素子として用いてもよい。この場合には、デフォーマブルミラーに、光軸を中心とする複数の輪帯電極が取り付けられる。そして制御回路は、各輪帯電極に印加する電圧を調節することで、対物レンズを含む光学系の収差を補正する位相変調プロファイルをデフォーマブルミラーで表し、デフォーマブルミラーにより反射される光束に、その位相変調プロファイルに応じた位相分布を与えることができる。
【0079】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。