(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検出器は、前記荷電粒子線が通過する軌道をふさがないように配置され、前記上部装置の最下部に取り付けられる、請求項1から6のいずれかに記載の荷電粒子線装置。
前記検出器は、半導体検出器、蛍光体の発光方式の検出器、またはマイクロチャンネルプレート検出器であり、前記荷電粒子線の軌道から3cm以内に配置される、請求項1から9のいずれかに記載の荷電粒子線装置。
前記対物レンズは、前記加速電源を−30kVから−10kVのいずれかにして加速された前記荷電粒子線を、前記対物レンズの磁極の前記試料に最も近いところから見て、0mmから4.5mmのいずれかの高さの位置に集束可能である、請求項1から11のいずれかに記載の荷電粒子線装置。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の図面は模式的なものであり、寸法や縦横の比率は現実のものとは異なることに留意すべきである。
【0037】
また、以下に示す本発明の実施の形態は、本発明の技術的思想を具現化するための装置や方法を例示するものである。本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0039】
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態であるSEMの概略構成を説明する。
【0040】
このSEMは、電子源(荷電粒子源)11と、加速電源14と、コンデンサレンズ15と、対物レンズ絞り16と、二段偏向コイル17と、対物レンズ18,26と、検出器20とを備えた電子線装置である。加速電源14は、電子源11から放出される一次電子線(荷電粒子線)12を加速する。コンデンサレンズ15は、加速された一次電子線12を集束する。対物レンズ絞り16は、一次電子線12の不要な部分を除く。二段偏向コイル17は、一次電子線12を試料23上で二次元的に走査する。対物レンズ18,26は、一次電子線12を試料23上に集束させる。検出器20は、試料23から放出された信号電子21(二次電子21a、反射電子21b)を検出する。
【0041】
SEMは、電磁レンズの制御部として、第1の対物レンズ電源41と、第2の対物レンズ電源42と、制御装置45とを備える。第1の対物レンズ電源41は、第1の対物レンズ18の強度を可変する。第2の対物レンズ電源42は、第2の対物レンズ26の強度を可変する。制御装置45は、第1の対物レンズ電源41と第2の対物レンズ電源42とを制御する。
【0042】
制御装置45は、第1の対物レンズ18の強度と第2の対物レンズ26の強度とを、独立に制御できる。制御装置45は、両レンズを同時に制御できる。また、図には示していないが、各電源は制御装置45に接続されることで調整できるようになっている。
【0043】
電子源11としては、熱電子放出型(熱電子源型)、電界放出型(ショットキー型、または冷陰極型)を用いることができる。第1の実施の形態では、電子源11に、熱電子放出型のLaB6などの結晶電子源、またはタングステンフィラメントが用いられている。電子源11とアノード板(接地電位)との間には、例えば加速電圧−0.5kVから−30kVが印加される。ウェーネルト電極13には、電子源11の電位よりも負の電位が与えられる。これにより、電子源11から発生した一次電子線12の量がコントロールされる。そして、電子源11のすぐ前方に、一次電子線12の一度目の最小径であるクロスオーバー径が作られる。この最小径が、電子源の大きさSoと呼ばれる。
【0044】
加速された一次電子線12は、コンデンサレンズ15により集束される。これにより、電子源の大きさSoが縮小する。コンデンサレンズ15により、縮小率および試料23に照射される電流(以下、プローブ電流と呼ぶ。)が調整される。そして、対物レンズ絞り16により、不用な軌道の電子が取り除かれる。対物レンズ絞り16の穴径に応じて、試料23に入射するビームの開き角αとプローブ電流とが調整される。
【0045】
対物レンズ絞り16を通過した一次電子線12は、走査用の二段偏向コイル17を通過した後、第1の対物レンズ18を通過する。汎用SEMは、第1の対物レンズ18を使って、一次電子線12の焦点を試料23上に合わせる。
図1のSEMはこのような使い方もできる。
【0046】
図1において、電子源11から第1の対物レンズ18までの構成により、一次電子線12を試料23に向けて射出する上部装置が構成される。また、電位板22と、それよりも下に配置される部材とにより下部装置が構成される。下部装置に試料23は保持される。上部装置は、その内部を通った荷電粒子線が最終的に放出される孔部18cを有している。第1の実施の形態ではその孔部18cは、第1の対物レンズ18に存在する。検出器20は、その孔部18cの下に取り付けられている。検出器20も、一次電子線12が通過する開口部を有している。検出器20は、孔部18cと開口部とが重なるように、第1の対物レンズ18の下部に取り付けられる。第1の対物レンズ18の下部に複数の検出器20が取り付けられてもよい。複数の検出器20は、一次電子線12の軌道をふさがないようにしつつ、検出器20の検出部を上部装置の孔部18c以外にはできるだけ隙間がないようにして、取り付けられる。
【0047】
図2に、第1の対物レンズ18を使って、一次電子線12の焦点を試料23上に合わせる場合の例を示す。特に、厚みのある試料23はこの方法で観察される。
【0048】
一方で、第2の対物レンズ26を主に使うときは、第1の対物レンズ18を通過した一次電子線12は、第2の対物レンズ26で縮小集束される。この第2の対物レンズ26は、試料23に近づくほど強い磁場分布をしているため(
図4(b)参照)、低収差レンズを実現している。また、第1の対物レンズ18は、見やすい画像になるように、開き角αをコントロールすること、ならびに縮小率やレンズの形状、および焦点深度を調整することに用いられる。すなわち、第1の対物レンズ18は、これらの各制御値を最適化するのに用いられる。また、第2の対物レンズ26のみで一次電子線12を集束しきれない場合には、第1の対物レンズ18で一次電子線12を集束させるための補助を行うこともできる。
【0049】
図3を参照して、リターディングをしない場合についての動作を説明する。
【0050】
リターディングをしない場合には、
図1の電位板22は取り外してもよい。試料23はできるだけ第2の対物レンズ26に近づくように設置するのが良い。より詳しくは、試料23は、第2の対物レンズ26の上部(上面)からの距離が5mm以下になるように、第2の対物レンズ26の上部に近づけて設置するのが好ましい。
【0051】
一次電子線12は、加速電源14で加速されたエネルギーで試料23上を走査する。そのとき二次電子21aは、第2の対物レンズ26の磁場により磁束に巻きついて螺旋運動をしながら上昇する。二次電子21aは、試料23表面から離れると、急速に磁束密度が低下することにより旋回から振りほどかれて発散し、二次電子検出器19からの引込み電界により偏向されて二次電子検出器19に捕獲される。すなわち、二次電子検出器19は、二次電子検出器19から発生する電界が、荷電粒子
線によって試料から放出される二次電子を引き付けるように、配置される。このようにして、二次電子検出器19に入る二次電子21aを多くすることができる。
【0052】
次に、
図4を用いてリターディングをする場合について概略を説明する。
図4において、(a)はリターディング時の等電位線を示し、(b)は第2の対物レンズの光軸上磁束密度分布B(z)を示し、(c)はリターディング時の荷電粒子の速度を示している。
【0053】
図4の(b)に示されるように、第2の対物レンズ26の光軸上磁束密度は試料に近いほど強い分布をしているので、対物レンズは低収差レンズになる。そして、試料23に負の電位を与えると、一次電子線12は試料23に近づくほど減速する(
図4(c)参照)。一次電子線12は速度が遅いほど磁場の影響を受けやすくなるため、試料23に近いほど第2の対物レンズ26が強いレンズになるといえる。そのため、試料23に負の電位を与えると、第2の対物レンズ26はさらに低収差のレンズとなる。
【0054】
また、信号電子21は、試料23のリターディング電圧による電界で加速され、エネルギー増幅して検出器20に入る。そのため、検出器20は高感度となる。このような構成にすることで、高分解能な電子線装置を実現できる。
【0055】
また、第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との距離は、10mmから200mmとされる。より好ましくは30mmから50mmとすることが望ましい。第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との距離が10mmより近いと、第1の対物レンズ18の直下に置いた検出器20で反射電子21bが検出できる。しかし、リターディング時に二次電子21aが第1の対物レンズ18の中に引きこまれやすくなる。第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との距離を10mm以上離すことで、二次電子21aは検出器20で検出されやすくなる。また、第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との隙間が30mm程度ある場合には、試料23の出し入れがとても行いやすくなる。
【0056】
次に、各部品の構成について詳細に説明する。まず第2の対物レンズ26の形状について、
図1を参照して説明する。
【0057】
第2の対物レンズ26を形成する磁極は、一次電子線12の理想光軸と中心軸が一致した中心磁極26aと、上部磁極26bと、筒形の側面磁極26cと、下部磁極26dとからなる。中心磁極26aは、上部ほど径が小さくなる形状である。中心磁極26aの上部は、例えば1段または2段の円錐台形状である。中心磁極26aの下部は、円柱形状である。中心磁極26aの下部の中心軸には、貫通孔がない。上部磁極26bは、中心に向かってテーパ状に中心磁極26aの重心に近い側が薄くなる、円盤形状である。上部磁極26bの中心には、開口径dの開口が空いている。中心磁極26aの先端径Dは、6mmより大きく14mmより小さい。開口径dと先端径Dとの関係は、d−D≧4mmとされる。
【0058】
次に、磁極の具体的な例を示す。中心磁極26aと上部磁極26bとの両者の試料側の上面は、同じ高さとされる。中心磁極26aの下部外径は60mmである。この外径が細いと、透磁率の低下を招くので好ましくない。
【0059】
中心磁極26aがD=8mmの場合、上部磁極26bの開口径dは、12mmから32mmとすることが好ましい。より好ましくは、開口径dは、14mmから24mmである。開口径dが大きいほど、光軸上磁束密度分布は山がなだらかになって幅が広がり、一次電子線12の集束に必要なAT(アンペアターン:コイル巻数N[T]と電流I[A]との積)を小さくすることができるというメリットがある。しかし、開口径dと先端径Dとの関係がd>4Dとなると、収差係数が大きくなる。ここでは上部磁極26bの開口径dは20mm、側面磁極26cの外径は150mmである。また、中心磁極26aの軸中心に貫通穴があってもよい。
【0060】
ここで、例えば厚みが5mmの試料23に対し、30kVの高加速電圧でも一次電子線12を集束させる場合には、先端径Dは6mmより大きく14mmより小さくするのがよい。Dを小さくしすぎると、磁極が飽和し、一次電子線12が集束しない。一方で、Dを大きくすると性能が悪くなる。また、dとDとの大きさの差が4mmより小さいと、磁極が近すぎて飽和しやすくなり、一次電子線12が集束しない。また、第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との距離が10mm以下になると、作業性が悪くなる。この距離が200mmより長すぎると、開き角αが大きくなりすぎる。この場合、収差を最適にするために、第1の対物レンズ18を使ってαを小さくする調整が必要になり、操作性が悪くなる。
【0061】
また例えば、5kV以下の加速電圧のみで使用し、試料23の厚みが薄い場合は、先端径Dは6mm以下にしてもよい。ただし、例えば加速電圧が5kVである場合において、Dを2mm、dを5mmにし、試料23の厚みを5mmにし、第2の対物レンズ26のみを用いると、磁極が飽和してしまい、一次電子線12が集束しない。しかし、試料23を薄いものに制限すれば、レンズはさらに高性能化できる。
【0062】
試料23に電位を与える方法として、第2の対物レンズ26の磁極の一部に電気的絶縁部を挟んで一部の磁極を接地電位から浮かし、試料23と磁極の一部にリターディング電圧を与えることもできる。ただし、この場合、磁気回路中に磁性体でないものを挟むと、磁気レンズが弱いものになる。また、リターディング電圧を高くすると放電が発生する。電気的絶縁部を厚くすると、さらに磁気レンズが弱いものになるという問題がある。
【0063】
図1に示されるように、上部磁極26bと中心磁極26aとの間に、非磁性体で成るシール部26f(例えば銅やアルミニウムまたはモネル)を置くことが望ましい。シール部26fは、上部磁極26bと中心磁極26aとの間を、Oリングまたはロウ付けで真空気密にする。第2の対物レンズ26では、上部磁極26bと、シール部26fおよび中心磁極26aとにより、真空側と大気側とが気密分離される。上部磁極26bと真空容器とは、図には示していないが、Oリングで気密になるように結合されている。このようにすることで、第2の対物レンズ26は、真空側の面を除いて、大気にさらすことができるようになる。そのため、第2の対物レンズ26を冷却しやすくなる。
【0064】
真空容器の中に第2の対物レンズ26を入れることもできるが、真空度が悪くなる。コイル部26eが真空側にあると、ガス放出源になるからである。また、このように真空側と大気側とを気密分離しないと、真空引きをしたときにガスが第2の対物レンズ26と絶縁板25とが接しているところを通り、試料が動いてしまうという問題がある。
【0065】
コイル部26eは、たとえば6000ATのコイル電流にすることができる。コイルが発熱して高温になると、それを原因として、巻線の被膜が融けてショートが発生することがある。第2の対物レンズ26が大気にさらすことができるようになることにより、冷却効率が上がる。例えば第2の対物レンズ26の下面の台をアルミニウム製にすることで、その台をヒートシンクとして利用することができる。そして、空冷ファンや水冷などで第2の対物レンズ26を冷却できるようになる。このように気密分離することで、強励磁の第2の対物レンズ26とすることが可能になる。
【0066】
図1を参照して、リターディング部を説明する。
【0067】
第2の対物レンズ26の上に、絶縁板25を置く。絶縁板25は、例えば0.1mmから0.5mm程度の厚みのポリイミドフイルムやポリエステルフイルム等である。そして、その上に、磁性のない導電性のある試料台24を置く。試料台24は、例えば底面が250μm厚のアルミニウム板で、周縁が周縁端に近づくほど絶縁板25から離れる曲面形状に加工されたものである。試料台24は、さらに曲面部と絶縁板25との間の隙間に絶縁材31が充填されたものであってもよい。このようにすると、第2の対物レンズ26と試料台24との間の耐電圧が上がり、安定して使うことができる。試料台24の平面形状は円形であるが、楕円、矩形など、どのような平面形状であってもよい。
【0068】
試料台24の上に試料23が載置される。試料台24は、リターディング電圧を与えるために、リターディング電源27に接続される。電源27は、例えば0Vから−30kVまで印加できる出力が可変の電源とする。試料台24は、真空外部から位置移動ができるように絶縁物でできた試料台ステージ板29に接続されている。これにより、試料23の位置は変更可能である。試料台ステージ板29は、XYステージ(図示せず)に接続されており、真空外部から動かすことができる。
【0069】
試料23の上には円形の開口部のある導電性板(以下、電位板22と呼ぶ)が配置される。電位板22は、第2の対物レンズ26の光軸に対し垂直に設置される。この電位板22は、試料23に対して絶縁して配置される。電位板22は、電位板電源28に接続される。電位板電源28は、例えば0Vおよび−10kVから+10kVの出力が可変の電源である。電位板22の円形の開口部の直径は、2mmから20mm程度までであればよい。より好ましくは、開口部の直径は、4mmから12mmまでであればよい。あるいは、一次電子線12または信号電子21が通過する電位板22の部分を導電性のメッシュ状にしてもよい。メッシュの網部が電子が通過しやすいように細くされ、開口率が大きくなるようにするとよい。この電位板22は、中心軸調整のために真空外部から位置を移動できるように、XYZステージ(図示せず)に接続される。
【0070】
試料台24の周縁は電位板22側に厚みがある。例えば電位板22が平らであると、電位板22は試料台24周縁で試料台24に近くなる。そうなると放電しやすくなる。電位板22が、試料23の近く以外の場所では導電性試料台24から離れる形状を有していることで、試料台24との耐電圧を上げることができる。
【0071】
電位板22は、試料23から1mmから15mm程度の距離を離すことで、放電しないように配置されている。しかし、離しすぎないように配置されるのがよい。その目的は、第2の対物レンズ26の作る磁場が強い位置に減速電界を重ねるためである。もし、この電位板22が試料23から遠くに置かれた場合、あるいは電位板22が無い場合、一次電子線12が第2の対物レンズ26で集束される前に減速してしまい、収差を小さくする効果が減少する。
【0072】
それについて
図4を参照して説明する(
図4は、後で述べるシミュレーションデータ4のときに対応した説明図である)。
図4の(a)は、リターディング時の等電位線を説明する図である。
【0073】
仮に電位板22の開口部が大きすぎ、試料23と電位板22との距離が近すぎる場合、等電位線が電位板22の開口部より電子銃側に大きくはみ出して分布する。この場合、一次電子が、電位板22に到着するまでに減速してしまうことがある。電位板22の開口径が小さいほど、電界のもれを減少させる効果がある。ただし、信号電子21が電位板22に吸収されないようにする必要がある。そのため、放電を起こさない範囲で試料23と電位板22との電位差を調整するとともに、試料23と電位板22との距離を調整することと、電位板22の開口径を適切に選ぶこととが大切となる。
【0074】
図4の(b)は、第2の対物レンズ26の光軸上磁束密度分布B(z)を説明する図である。縦軸はB(z)、横軸は座標であり、第2の対物レンズ26の表面が原点(−0)である。第2の対物レンズ26に近いほど急激にB(z)が大きくなっている様子が示されている。
【0075】
図4の(c)は、リターディング時の荷電粒子の速度を説明する図である。荷電粒子線の速度は、試料直前で減速していることが示されている。
【0076】
電位板22を試料23の近くに置くことにより、一次電子の速度は、電位板22近くまではあまり変わらない。そして、一次電子は、電位板22あたりから試料23に近づくほど速度が遅くなり、磁場の影響を受けやすくなる。第2の対物レンズ26の作る磁場も試料23に近いほど強くなっているので、両方の効果が合わさって、試料23に近いほどさらに強いレンズになり、収差の小さいレンズになる。
【0077】
加速電圧をできるだけ大きくしながら、リターディング電圧を加速電圧に近づけることができれば、照射電子エネルギーを小さくして、電子が試料23の中に入り込む深さを浅くすることができる。これによって、試料の表面形状の高分解能観察が可能になる。さらに収差も小さくできることで、高分解能でかつ低加速のSEMが実現できる。
【0078】
第1の実施の形態では、試料23と電位板22との耐圧を簡単に高くすることができる。第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との間は10mmから200mmの距離とすることができる。そのため、例えば平坦な試料23であれば、試料23と電位板22との間隔を5mm程度あければ、試料23と電位板22とに比較的簡単に10kV程度の電位差を印加することができる。尖った部分がある試料23の場合は放電しないように、距離や開口径を適切に選ぶ必要がある。
【0079】
図5に、試料の異なる配置例を示す。
図5に示されるように、さらに、円筒形で上面がR加工された円筒放電防止電極30を、試料台24の上の試料23の周囲に設置して、放電しにくくするとよい。円筒放電防止電極30は、試料上の等電位線を滑らかにして、試料23のがたつきによる集束点のずれを緩和するのにも役立つ。
【0080】
第1の実施の形態における検出器20として、半導体検出器20、マイクロチャンネルプレート検出器20(MCP)、または蛍光体発光方式のロビンソン検出器20が用いられる。これらの少なくともいずれかが第1の対物レンズ18の直下に配置される。二次電子検出器19は、二次電子21aを集めるように、電界が試料23の上方にかかるように配置される。
【0081】
半導体検出器20、MCP検出器20またはロビンソン検出器20は、第1の対物レンズ18の試料側に接し、光軸から3cm以内に配置される。より好ましくは、検出部の中心が光軸におかれ、その中心に一次電子が通過する開口部が設けられている検出器20が使用される。光軸から3cm以内に設置するのは、リターディングをした場合、信号電子は光軸近くに進むからである。
【0082】
一次電子線12は、加速電源14(Vacc)で加速に用いられた加速電圧からリターディング電圧Vdecelを引いた値、すなわち−(Vacc−Vdecel)[V]に電子電荷をかけたエネルギーで、試料23上を走査する。そのとき、試料23から信号電子21が放出される。加速電圧とリターディング電圧との値によって、電子の影響の受け方は異なる。反射電子21bは、第2の対物レンズ26の磁場によって、回転する力を受けると同時に、試料23と電位板22との間の電界のために加速する。そのため、反射電子21bの放射角の広がりが狭まり、検出器20に入射しやすくなる。また、二次電子21aも第2の対物レンズ26の磁場によって、回転する力を受けると同時に、試料23と電位板22との間の電界のために加速して、第1の対物レンズ18の下にある検出器20に入射する。二次電子21aも反射電子21bも加速し、エネルギーが増幅されて検出器20に入射するため、信号が大きくなる。
【0083】
汎用SEMでは、第1の対物レンズ18のようなレンズで電子を集束するのが通常である。この第1の対物レンズ18は、通常、試料23を第1の対物レンズ18に近づけるほど高分解能になるように設計されている。しかし、半導体検出器20などには厚みがあり、その厚み分は第1の対物レンズ18から試料23を離す必要がある。また、試料23を第1の対物レンズ18に近づけすぎると、二次電子21aが、第1の対物レンズ18の外にある二次電子検出器19に入りにくくなる。そのため汎用SEMでは、第1の対物レンズ18直下の位置に配置され、一次電子が通過する開口部がある厚みの薄い半導体検出器20が用いられる。試料23は、検出器20にぶつからないように少し隙間をあけて置かれる。したがって、試料23と第1の対物レンズ18とは少し離れてしまい、高性能化が難しくなる。
【0084】
第1の実施の形態では、第2の対物レンズ26を主レンズとして使う場合、試料23を第2の対物レンズ26に近づけて設置することができる。そして、第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との間の距離を離すことができる。例えば30mm離せば、10mm程度の厚みのあるMCP検出器20を第1の対物レンズ18の直下に置くことが可能になる。また、ロビンソン型の検出器20や半導体検出器20を置くことも当然にできる。反射板を置いて、信号電子21を反射板にあてて、そこから発生または反射した電子を第2の二次電子検出器で検出する方法もある。同等の作用を持つ様々な信号電子の検出器20を設置することができる。
【0085】
次に、レンズ光学系の性能に関連する開き角αについて説明する。
【0086】
一次電子線12が試料23に当たるときのビーム径を、プローブ径と呼ぶ。プローブ径を評価する式として次の式を使う。なお、以下の数式において、「^」に続く数字は羃指数である。
【0087】
[数1]プローブ径Dprobe=sqrt[Dg^2+Ds^2+Dc^2+Dd^2] [nm]
【0088】
[数2]光源の縮小直径Dg=M1・M2・M3・So=M・So [nm]
【0089】
[数3]球面収差Ds=0.5Cs・α^3 [nm]
【0090】
[数4]色収差Dc=0.5Cc・α・ΔV/Vi [nm]
【0091】
[数5]回折収差:Dd=0.75×1.22×Lambda/α [nm]
【0092】
ここで、電子源の大きさがSo、一段目コンデンサレンズ15aの縮小率がM1、二段目コンデンサレンズ15bの縮小率がM2、第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26とが作るレンズの縮小率がM3、全縮小率M=M1×M2×M3、球面収差係数がCs、色収差係数がCc、試料面での一次電子線12の開き角がα、照射電圧(一次電子が試料23に衝突するときのエネルギーに対応する電圧)がVi、一次電子線12のエネルギー広がりに対応する電圧がΔV、電子の波長がLambdaである。
【0093】
熱電子放出型電子源を用いたSEMの性能の一例について、シミュレーションデータを使って説明する。
図1の第1の対物レンズ18はアウトレンズ型とする。
【0094】
第1の対物レンズ18で一次電子線12を集束する場合を示す。これは、汎用SEMに対応する。
【0095】
一次電子線12のΔVを1V、電子源の大きさSoを10μmとする。M1×M2=0.00282とする。穴径30ミクロンである対物レンズ絞り16を置いて、不用な軌道電子を取り除く。この対物レンズ絞り16の穴径によって、試料23に入射するビームの開き角αとプローブ電流が調整できる。WDを6mm、加速電圧Vacc=−30kV(Vi=30kV)とする。シミュレーション計算すると、
【0097】
Dprobe=4.4nm、Dg=1.59、Ds=3.81、Dc=0.916、Dd=1.25、
【0098】
Cs=54.5mm、Cc=10.6mm、α=5.19mrad、M3=0.0575となる。
【0099】
次に、第2の対物レンズ26で一次電子線12を集束する場合を示す。
【0100】
図1の構成で、第2の対物レンズ26と第1の対物レンズ18との距離を40mmとする。第2の対物レンズ26は、D=8mm、d=20mmとし、αを調整するため対物レンズ絞り16の穴径を21.8ミクロンとする。このとき、汎用SEMのときと比べてプローブ電流量が変化しないように、コンデンサレンズ15を弱めて調整する。その他の条件は同じとする。Z=−4mmの位置での性能をシミュレーションすると、
【0102】
Dprobe=1.44nm、Dg=0.928、Ds=0.657、Dc=0.503、Dd=0.729、
【0103】
Cs=1.87mm、Cc=3.391mm、α=8.89mrad、M3=0.0249となる。
【0104】
以上のように、第2の対物レンズ26を用いることで、SEMの性能が大幅によくなっていることがわかる。
【0105】
また、第1の対物レンズ18で集束するときと比べて、第2の対物レンズ26で集束するときは、Dgが小さくなっている。このことはプローブ径を同等にする場合、第1の対物レンズ18で集束するときと比べて、コンデンサレンズ15を弱めることができることを示している。したがって、第2の対物レンズ26を使うことで、汎用SEMと比べてプローブ電流を大電流化できることがわかる。
【0106】
次に第1の対物レンズ18は使わずに、第2の対物レンズ26を使い、加速電圧Vaccを−1kV(Vi=1kV)とする場合を説明する(リターディング電圧は0Vとする)。プローブ電流が変化しないように、コンデンサレンズ15を調整する(ただし、電子銃からの軌道とビーム量は−30kVのときと同じとする)。その他の条件は同じとする。以下がシミュレーションデータである。
【0109】
Dprobe=15.6nm、Dg=0.928、Ds=0.657、Dc=15.1、Dd=3.99、
【0110】
Cs=1.87mm、Cc=3.39mm、α=8.89mrad、M3=0.0249である。
【0111】
この場合、Cs、Cc、α、M3、Dsはシミュレーションデータ2と変わらない。ΔV/Viが大きくなるため、プローブ径がとても大きくなる。
【0112】
次に、電位板22を試料23の上部に配置する例を説明する。電位板22の開口径はΦ5mm、試料23はΦ6mmとする。試料測定面をZ=−4mm(第2の対物レンズ26からの距離)とする。試料台24と電位板22との距離を8mm、試料測定面と電位板22との間隔を5mmとする。
【0113】
加速電圧Vaccは−10kV、電位板22を0V電位とし、試料23をVdecel=−9kVでリターディングし、Vi=1kVとした場合の数値をシミュレーションする。ここでは第1の対物レンズ18は使わず、第2の対物レンズ26のみで集束させる。
【0116】
Dprobe=5.72nm、Dg=0.924、Ds=2.93、Dc=4.66、Dd=1.26、
【0117】
Cs=0.260mm、Cc=0.330mm、α=28.2mrad、M3=0.0247である。
【0118】
リターディング電圧Vdecelを−9kVにすると、照射電子のエネルギーは1keVとなる。加速電圧が−1kVのときと比べて、プローブ径が大幅に改善している。
【0119】
次にこの条件に第1の対物レンズ18を追加して使用し、強度を適切に調整する(シミュレーションデータ1で必要なAT(アンペアターン)の約0.37倍としてみる)例を示す。
【0122】
Dprobe=4.03nm、Dg=1.60、Ds=0.682、Dc=2.92、Dd=2.17、
【0123】
Cs=0.312mm、Cc=0.357mm、α=16.3mrad、M3=0.0430である。
【0124】
ここでDprobeが減少していることがわかる。シミュレーションデータ4ではDc(=4.66)が飛びぬけて大きくなっていた。そこで、第1の対物レンズ18を少し加えることで、αを小さくすることができる。Dcは上記[数4]からCcとαに依存する。Ccは少し大きくなっているが、αは相当小さくなっている。そのためDcは小さくなっている。[数1]から、Dprobeは第1の対物レンズ18を使うことで小さくできることがわかる。
【0125】
図6(a)のα=8.89mradに対して、
図6(b)ではα=28.2mradであり、リターディングによって大きな値になっている。すなわち、強いレンズになっていることがわかる。また、そのためにDdも小さくなっていることがわかる。
図6(c)では第1の対物レンズ18でαを調整してαが小さくなっていることがわかる。
【0126】
ここで大切なことは、対物レンズ絞り16の穴径を小さくしてαを調整することも可能であるが、その場合はプローブ電流が減少してしまうということである。しかし、第1の対物レンズ18を使用してαを調整してもプローブ電流は減少しない。そのため、試料23から発生する二次電子21aと反射電子21bは減少しない。
【0127】
また、リターディング電圧の印加によって検出器20の感度がよくなると、プローブ電流を減らすことができる。さらに対物レンズ絞り16の穴径を小さくしてαを小さくすることもできる。また、コンデンサレンズ15による縮小率M1×M2を小さくすることも可能になる。そのため、Dg、Ds、Dc、およびDdとの兼ね合いがあるので調整が必要だが、プローブ径をさらに小さくできる場合がある。対物レンズ絞り16と第1の対物レンズ18とでプローブ径を最適化できる。
【0128】
また、試料23によっては焦点深度が浅いレンズだと、凸凹の上の面と底の面どちらかにしかピントが合わないことがある。このような場合、プローブ径が同じでもαが小さいほど焦点深度が深くなり、きれいに見えることもある。第1の対物レンズ18を使って、像を見やすいように最適化することもできる。
【0129】
次に、第1の実施の形態における装置の様々な使い方の具体例を示す。
【0130】
図6(b)では、加速電圧Vaccを−10kVとし、試料23を−9kVでリターディングするシミュレーションを示したが、例えば、加速電圧Vaccを−4kV、試料23を−3.9kVにして、Vi=100Vとすることもできる。加速電圧とリターディング電圧の比が1に近いほど、収差係数を小さくすることができる。また、上記では第2の対物レンズ26の磁極について、D=8mm、d=20mmとした場合を示したが、D=2、d=6等にすれば、試料高さや加速電圧の制限はあるが、より性能をよくすることができる。
【0131】
また、加速電圧を−10kVとしてリターディング無しの場合、二次電子検出器19で二次電子21aを検出できるが、半導体検出器20では検出できない。しかし、加速電圧を−20kVとし、リターディング電圧を−10kVとすれば約10keVのエネルギーで二次電子21aが半導体検出器20に入り、検出可能である。
【0132】
また、加速電圧を−10.5kVとし、リターディング電圧を−0.5kVとしたとき、二次電子21aは半導体検出器20では感度よく検出できない。しかしこのとき、二次電子検出器19で二次電子21aを検出することができる。すなわち、二次電子21aはリターディング電圧が低いときは二次電子検出器19で捕らえることができ、リターディング電圧を徐々に上げていくと半導体検出器20側で検出できる量が増えていく。このように、二次電子検出器19は、焦点を合わせながらリターディング電圧を上げていく調整時にも役立つ。
【0133】
第1の実施の形態の第2の対物レンズ26は、Z=−4.5mmで30keVの一次電子を集束できるように設計してある。試料位置が第2の対物レンズ26に近づけば、例えばZ=−0.5mmの位置では、100keVの一次電子も集束させることができる。リターディングをしない場合は、絶縁板25(絶縁フイルム)を第2の対物レンズ26の上に置かなくてもよい。そのため、この場合には、第2の対物レンズ26は、加速電圧が−100kVの一次電子線12を十分に集束できる。好ましくは第2の対物レンズ26は、加速電源を−30kVから−10kVのいずれかにして加速された荷電粒子線を、対物レンズの磁極の試料に最も近いところから見て、0mmから4.5mmのいずれかの高さの位置に集束可能であるように設計される。
【0134】
加速電圧は−15kVとし、試料23は−5kVとし、電位板22に−6kVをかけた場合について説明する。一次電子は、試料23に当たるときには、10keVになる。試料23から放出される二次電子21aのエネルギーは、100eV以下である。電位板22の電位は試料23の電位よりも1kV低いため、二次電子21aは電位板22を超えることができない。そのため、二次電子21aは検出できない。試料23から放出された1keV以上のエネルギーを持っている反射電子21bは、電位板22を通過することができる。さらに電位板22と第1の対物レンズ18下の検出器20との間に6kVの電位差があり、反射電子21bは加速され検出器20に入る。このように電位板22の電圧を調整できるようにすることによって、電位板22をエネルギーフィルタとして使うこともでき、さらに信号電子21を加速させることで感度を上げることも可能になる。
【0135】
次に、試料の高さが例えば7mmある場合について説明する。
【0136】
このとき、リターディングをする場合でも、上部磁極26bから絶縁板25と試料台24の厚みを含めて、例えばZ=−7.75mm程度の位置において測定が行われる。この場合、第2の対物レンズ26のみでは30keVの一次電子線12を集束させることはできない。しかし、加速電圧を下げなくても第1の対物レンズ18の助けを借りれば、一次電子線12を集束可能である。
【0137】
また、試料23の高さによっては、第1の対物レンズ18のみで集束させた方が性能良く観察できる場合もある(
図2参照)。このように、試料23によって最適な使い方を選ぶことができる。
【0138】
上記では、第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との間隔を40mmとする場合について述べたが、この距離は固定式でも可動式にしてもよい。第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との距離を離すほど、縮小率M3は小さい値になる。そして開き角αは大きくできる。この方法でαを調整することができる。
【0139】
また、リターディング電圧が高いと信号電子21は光軸の近くを通って、検出器20の一次電子が通るための開口部に入りやすくなる。そのため検出器20の開口部は小さい程よい。検出器20の開口部はΦ1からΦ2mm程度にしておくと、感度がよい。電位板22の開口径や高さを調整し、電位板22の位置を光軸から少しずらすことで、信号電子21が検出器20に当たるように信号電子21の軌道を調整して感度をよくする方法がある。また、第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との間に電場と磁場を直行させて印加するイークロスビー(ExB)を入れ、信号電子21を少し曲げるのもよい。一次電子の進行方向と信号電子21の進行方向とは逆なので、少し信号電子21を曲げるのに、弱い電場と磁場とを設けてもよい。少し曲がれば検出器20中心の開口部に入らず、検出できるようになる。また、単に第1の対物レンズ18と第2の対物レンズ26との間に電界を光軸に対して横からかけてもよい。このようにしても、一次電子は影響を受けにくいし、横ずれだけであれば画像への影響は少ない。例えば二次電子検出器19のコレクタ電極などによる電界を使って、信号電子21の軌道をコントロールすることも可能である。
【0140】
図3では、第2の対物レンズ26を主レンズとして使っている。試料台24が接地電位の場合、二次電子21aは二次電子検出器19で検出される。反射電子21bは半導体検出器20またはロビンソン検出器20などで検出される。試料23と検出器20とが10mmから20mm程度離れているときは、感度よく検出できる。しかし、40mm程度離れると、検出器20に入らない反射電子21bが増え、反射電子21bの検出量が少なくなる。このときに試料23にリターディング電圧を与えると、二次電子21aは半導体検出器20またはロビンソン検出器20などで検出されるようになる。また、リターディング電圧を与えることで、反射電子21bの広がりは抑えられ、半導体検出器20またはロビンソン検出器20などにおいて高感度で検出できるようになる。このように電位板22がない場合もリターディングは使用可能である。
【0141】
図2では、試料23が分厚い場合で、対物レンズとして第1の対物レンズ18を使った場合を示した。
図2では、電位板22を動かすステージを活用して、試料ステージとして使用することができる。このXY移動ステージは、第1の対物レンズ18に近づける方向にも移動できる。これにより、汎用SEMのように装置が使用される。反射電子21bは半導体検出器20またはロビンソン検出器20などで検出され、二次電子21aは二次電子検出器19で検出される。通常、試料23は接地電位であるが、簡易的にリターディングもできる(電位板22なしでリターディングを行うことができる)。
【0142】
第2の対物レンズ電源42のみを使うときには、第1の対物レンズ18と試料測定面との距離よりも、第2の対物レンズ26と試料測定面との距離の方が近くなるように装置が構成され、第1の対物レンズ電源41のみを使うときには、第2の対物レンズ26と試料測定面との距離よりも、第1の対物レンズ18と試料測定面との距離の方が近くなるように装置が構成される。
【0143】
図1でリターディングをした場合、試料23の電位が負になる。試料23をGNDレベルにしたまま電位板22に正の電圧を印加することも可能である(この手法を、ブースティング法と呼ぶ)。試料23に負の電圧を印加して、電位板22に正の電位をかけて、低加速SEMとしてさらに性能をよくすることも可能である。例として、第1の対物レンズ18は接地電位とし、電位板22に+10kVを印加し、試料23は接地電位にする場合を説明する。加速電圧は−30kVとする。一次電子は第1の対物レンズ18を通過するときは30keVであり、第1の対物レンズ18から電位板22にむけて加速され、電位板22あたりから試料23にむけて減速する。以下にこの場合のシミュレーションデータを示す。試料23と電位板22の形は、シミュレーションデータ4の場合と同じ条件とする。
【0145】
Dprobe=1.31nm、Dg=0.904、Ds=0.493、Dc=0.389、Dd=0.710、
【0146】
Cs=1.29mm、Cc=2.56mm、α=9.13mrad、M3=0.0244である。
【0147】
以上の結果によると、ブースティングなしの場合(シミュレーションデータ2)と比べて、プローブ径が改善している。
【0148】
信号電子21は、試料23と電位板22との間では加速されるが、電位板22と検出器20との間では減速される。検出器20が半導体検出器20である場合に反射電子21bを検出できるが、半導体検出器20は接地電位であるため、二次電子21aは減速し、検出できない。二次電子21aは二次電子検出器19で検出できる。リターディング電圧を試料23に印加すれば、半導体検出器20で二次電子21aも検出可能になる。
【0149】
次に
図7を参照して、二段偏向コイル17の調整によって偏向軌道の交点を移動させることについて説明する。二段偏向コイル17で試料23上を二次元的に走査する。二段偏向コイル17の電子源側を上段偏向コイル17a、試料側を下段偏向コイル17bと呼ぶ。
【0150】
図1に示されるように、この二段偏向コイル17は、上段偏向コイル17aの強度を可変する上段偏向電源43と、下段偏向コイル17bの強度を可変する下段偏向電源44と、上段偏向電源43と下段偏向電源44とを制御する制御装置45とにより制御される。
【0151】
上段偏向コイル17aと下段偏向コイル17bは、第1の対物レンズ18の内部から見て一次電子線12が飛来してくる側に設置される(第1の対物レンズ18のレンズ主面より上流に設置、またはレンズ主面の位置に下段の偏向部材を置く場合には外側磁極18b(
図7参照。なお、
図7の符号18aは内側磁極を示す。)より上流に設置される)。上段偏向電源43と下段偏向電源44との使用電流比は、制御装置45によって可変となっている。
【0152】
図7(a)では、二段の偏向コイル17によって、電子は光軸と第1の対物レンズ18の主面の交点近くを通過する軌道になっている。第1の対物レンズ18を主レンズとして使う場合(
図2)には、このように設定される。第2の対物レンズ26を主レンズとして使うときに、
図7(a)のようにすると偏向収差が大きくなり、低倍率の画像ほど歪んでしまう。第2の対物レンズ26を主レンズとして使うときは、
図7(b)のように、上段偏向コイル17aと下段偏向コイル17bの強度比が、電子が第2の対物レンズ26の主面と光軸との交点近くを通過する軌道になるように調整される。調整は、上段偏向電源43と下段偏向電源44の使用電流比を調整する制御装置45によって行われる。このようにすることで、画像の歪は減少する。なお、使用電流比を調整することで偏向軌道の交点(クロス点)をずらすのではなく、巻き数の異なるコイルをリレーなどで切り替える方式(巻数の異なるコイルを複数設け、用いるコイルを制御装置で選ぶ方式)や、静電レンズの場合は電圧を切り替える方式(使用電圧比を可変する方式)を採用してもよい。
【0153】
図7に示されるように、偏向コイル17は第1の対物レンズ18内の隙間に配置してもよい。偏向コイル17は、第1の対物レンズ18内にあってもよいし、
図1のようにそれよりもさらに荷電粒子線の上流側に位置してもよい。静電偏向を採用する場合には、偏向コイルに代えて偏向電極が採用される。
【0155】
図8を参照して、第1の対物レンズ18のない簡易的な装置構成を説明する。
【0156】
ここでは半導体検出器20を下段偏向コイル17bの下に置いている。第1の対物レンズ18がない場合、その分下段偏向コイル17bと第2の対物レンズ26との距離を短くすることができる。このような装置構成は、小型化に適している。第1の実施の形態と比較して、第2の実施の形態でも第1の対物レンズ18を使用することを除いて、同様に装置を使用することができる。検出器20と第2の対物レンズ26との距離は、10mmから200mm離して設置されている。
【0157】
図8の装置においては、電子源11から下段偏向コイル17bまでの構成により、一次電子線12を試料23に向けて射出する上部装置が構成される。また、電位板22と、それよりも下に配置される部材とにより下部装置が構成される。下部装置に試料23は保持される。上部装置は、その内部を通った荷電粒子線が最終的に放出される孔部を有している。その孔部は、下段偏向コイル17bに存在する。検出器20は、その孔部の下に取り付けられている。検出器20も一次電子線12が通過する開口部を有しており、孔部と開口部とが重なるように、検出器20は下段偏向コイル17bよりも下部に取り付けられる。
【0159】
第3の実施の形態では、電子源11に電界放出型のものを用いる。電界放出型は、熱電子放出型と比べて輝度が高く、光源の大きさは小さく、一次電子線12のΔVも小さく、色収差の面でも有利である。第3の実施の形態では第1の実施の形態との比較のために、第1の実施の形態の二段目コンデンサレンズ15bから下を第1の実施の形態と同じものとし、電子源部を電界放出型にし、一段目コンデンサレンズ15aをなくしている。一次電子線12のΔVを0.5eVとし、電子源の大きさSo=0.1μmとする。Z=−4mmとし、加速電圧Vaccを−30kV、第1の対物レンズ18はOFFとした性能を計算すると、以下のようになる。
【0161】
Dprobe=0.974nm、Dg=0.071、Ds=0.591、Dc=0.248、Dd=0.730、
【0162】
Cs=1.69mm、Cc=3.36mm、α=8.88mrad、M3=0.0249
【0163】
電界放出型電子源は熱電子放出型と比べて輝度が高い。さらにコンデンサレンズ15が一段になっているので、プローブ電流は熱電子放出型のときと比べて多くなっている。それにもかかわらず、プローブ径が小さくなっていることがわかる。Ddが一番大きな値を示している。
【0164】
次の例では、加速電圧Vaccを−1kV(Vi=1kV)とする。第1の対物レンズ18は使わすに、第2の対物レンズ26を使い、電子を集束する。プローブ電流は変化しないようにコンデンサレンズ15を調整する。その場合は、以下のようになる。
【0166】
Dprobe=8.48nm、Dg=0.071、Ds=0.591、Dc=7.45、 Dd=4.00、
【0167】
Cs=1.68mm、Cc=3.36mm、 α=8.88mrad、M3=0.0249
【0168】
以上のように、熱電子放出型(シミュレーションデータ3)では、Dprobe=15.6nmなので、電界放出型電子源の方がよいことがわかる。
【0169】
次に、電位板22と試料23を
図1のように配置する例について説明する。試料測定面をZ=−4mmとする。
【0170】
加速電圧Vaccは−10kVとし、電位板22を0V電位にし、試料23を−9kVにした場合(Vi=1kV)について計算結果を以下に示す。ここでは第1の対物レンズ18は使わず、第2の対物レンズ26のみで集束させている。
【0172】
Dprobe=3.92nm、Dg=0.071、Ds=2.90、Dc=2.32、Dd=1.26、
【0173】
Cs=0.260mm、Cc=0.330mm、α=28.1mrad、M3=0.0248
【0174】
収差の中でDsが一番大きな値になっている。これは、試料23に近くほど電子の速さが遅くなり磁場の影響を受けやすくなることと、磁束密度が試料23に近いほど大きな値であることから試料23に近いほど強いレンズになっているため、αが大きくなりすぎたこととによる。Dsは、αの3乗に比例することから、大きくなっている。第1の対物レンズ18を使うことで改善するのがよい。
【0175】
次に、第1の対物レンズ18を使用し、強度を最適調整した場合(シミュレーションデータ1のAT(アンペアターン)の約0.31倍にした場合)のデータを示す。
【0177】
Dprobe=2.68nm、Dg=0.103、Ds=1.03、Dc=1.68、Dd=1.82、
【0178】
Cs=0.279mm、Cc=0.344mm、α=19.5mrad、M3=0.0358
【0179】
収差係数だけを見ると悪化しているが、プローブ径はαを調節したことにより、さらに改善している。
【0180】
ここでは第1の実施の形態と比較するため、対物レンズ絞り16の穴径を21.8ミクロンと同じにした。電界放出型の場合は、輝度が明るいため、そしてコンデンサレンズ15が一段になっているため、さらに穴径を小さくできる。そのため、回折収差が主な収差になる。
【0181】
以上のように本実施の形態によると、第2の対物レンズ26を使い、リターディングすることで、αが大きくなるレンズ系になり、回折収差を減らせるレンズ系となっている。すなわち、荷電粒子線装置において低収差の第2の対物レンズを実現することができる。信号電子を高感度で検出し、安価に高分解能化を実現することができる。
【0182】
本実施の形態によれば、信号電子が第1の対物レンズの中を通過しないため、検出部を簡単な構造にすることができる。第2の対物レンズの光軸上磁束密度は、試料に近いほど強い分布をしているので、対物レンズは低収差レンズになる。試料に負の電位を与えると、試料に近いほど強いレンズになり、対物レンズはさらに低収差レンズになる。試料のリターディング電圧による電界で、信号電子は加速され、エネルギー増幅して検出器に入るため、検出器は高感度となる。以上の構成によって、高分解能な荷電粒子線装置を実現することができる。
【0184】
次に、第4の実施の形態におけるSEM(荷電粒子装置の一例)の装置構成について説明する。以下の説明において、上述の実施の形態と同様の構成(各構成の変形例も含む)については、上述と同じ符号を付し、それらの構成についての詳細な説明については省略する。
【0185】
上記の第1の実施の形態の大まかな構成は、次のように、第4の実施の形態においても同様である。上部装置には、電子源11から第1の対物レンズ18までの構成が配置されている。上部装置から試料23に向けて一次電子線12が射出される。下部装置には、第2の対物レンズ26が配置されている。下部装置に試料23が保持される。二次電子検出器19及び検出器20も、同様に設けられる。二次電子検出器19は、二次電子21aの信号電子21を検出するために設けられる。
【0186】
図9は、本発明の第4の実施の形態に係るSEMの装置構成の一例を示す断面図である。
【0187】
図9に示されるSEMでは、
図1に示されるものと同様に、上部装置や、第2の対物レンズ26や、二次電子検出器19や、電位板22等が設けられている。このSEMでは、リターディングが行われる。このように、第4の実施の形態において、SEMは、基本的には
図1に示されるものと同様の構成を有している。第4の実施の形態において、SEMは、電位板22の下面(試料23側の面)に、反射電子21bを検出する検出器720が配置されている点で
図1に示されるものとは異なっている。
【0188】
検出器720には、一次電子線12や二次電子21aが通過する孔部が設けられている。検出器720としては、例えば、マイクロチャンネルプレートや、ロビンソン検出器や、半導体検出器等が用いられる。
【0189】
このように、
図9に示される装置では、比較的試料23に近い位置に、検出器720が配置される。入射する反射電子21bの立体角が大きく、反射電子21bの検出感度が向上するので、より高い感度で試料23の観察を行うことができる。
【0190】
第4の実施の形態において、電位板22の上方に、検出器20が配置されていてもよい。検出器720の孔部720aの寸法は、一次電子線12が通過する程度に小さくてもよい。例えば、孔部720aは、円形の貫通孔であって、その直径がたとえば1ミリメートルから2ミリメートル程度が好ましい。このように孔部720aを小さくすることにより、反射電子21bのほとんどは電位板22より上方に通過することができなくなる。したがって、二次電子検出器19または検出器20に入射する信号電子21のほとんどが二次電子21aとなるため、反射電子像との混合でない、鮮明な二次電子像を得ることができる。
【0192】
本発明は上記実施形態によって記載したが、この開示の記述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。例えば荷電粒子源から試料23までの荷電粒子線の軌道を図では直線に描いてある。しかし、エネルギーフィルタなどを入れると軌道が曲げられる。荷電粒子線の軌道が曲がっている場合もある。このような場合も特許請求の範囲に記載された技術的範囲内に含まれる。また、イオンビーム顕微鏡では負イオンの荷電粒子の場合、電子と同様の考え方ができ第1の実施の形態と同様に適用できることがわかる。イオンの場合、電子と比べて質量が重いので、コンデンサレンズ15を静電レンズに、偏向コイル17を静電偏向に、第1の対物レンズ18を静電レンズにしてもよい。また、対物レンズ26は磁気レンズを用いる。
【0193】
上記説明によって本発明は、荷電粒子線装置であるEPMA、電子線描画装置などの電子ビーム装置、またはイオンビーム顕微鏡などのイオンビーム装置に容易に適用できることが理解できる。He+イオン源のようにプラスイオンの荷電粒子を用いる場合には、イオン源の加速電源として正の加速電源14を用いる。リターディングを行わない場合は、第1の実施の形態と同様に装置を構成することができる。リターディングを行う場合は、リターディング電源27をプラス電源に切り替えるほか、上述の実施の形態と同様に装置を構成することができる。このとき、電位板22が接地電位であれば、試料23から放出した信号電子21は、負電荷であるため、試料23に引き戻されてしまう。この場合、電位板22の電位が試料23の電位よりも高くなるように電位板電源28を調整すればよい。たとえば、荷電粒子線の加速電源14を+7kVとし、上部装置を接地電位とし、電位板22を+6kVとし、試料23を+5kVとすればよい。そうすると、電位板22の位置に置いた検出器720で信号電子21を検出することができる。
【0194】
上述の実施の形態および変形例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。