【実施例1】
【0010】
本実施例1のショベルは、始動許可装置1を有し、
図1に示すように、カメラ2と、エンジン3をキースイッチ4の選択位置(スタート、オン、オフ)に基づいて制御するコントローラ5とを含んで構成される。
【0011】
コントローラ5は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non-Volatile Random Access Memory)及びこれらを相互に接続するデータバスと入出力インターフェース等を備えたコンピュータである。
【0012】
本実施例1のコントローラ5は、例えば、本発明の始動許可方法を実行するプログラムをROMやNVRAMに記憶している。コントローラ5は、一時記憶領域としてRAMを利用しながら対応する処理をCPUに実行させることで、人検知手段5a、始動手段5b、判定手段5c、許可手段5dを構成する。
【0013】
本実施例1のショベルの始動許可装置1は、
図2に示すように、ショベル60(建設機械)に適用される。ショベル60は、クローラ式の下部走行体61の上に、旋回機構62を介して、上部旋回体63を旋回軸PVの周りで旋回自在に搭載している。
【0014】
また、上部旋回体63は、その前方左側部にキャビン(運転室)64を備え、その前方中央部に掘削アタッチメントE(ブーム、アーム、バケット)を備えている。さらに、上部旋回体63は、その左側面、右側面及び後面にそれぞれ対応する上述したカメラ2(カメラ2L、カメラ2R、カメラ2B)を備えている。
【0015】
図1に示したエンジン3は、上部旋回体63内部のいずれかの箇所に設置される。また、キースイッチ4は、キャビン64内のオペレーター(操作者)の操作可能な位置に設置される。キースイッチ4の選択位置はスタート、オン、オフの三つであり、選択位置がスタートである場合に、周知の始動回路に基づいて、コントローラ5に始動信号が出力される。
【0016】
なお、キースイッチ4の選択位置がオフの場合は、エンジン3を停止する停止指令をコントローラ5がエンジン3に出力するとともに、ショベル60内の電源をオフとする。また、キースイッチ4の選択位置がオンの場合は、スタートを経由している場合は、エンジン3の駆動が継続され、オフを経由している場合は、エンジン3は停止したままショベル60内の電源はオンとされる。なお、本実施例1のキースイッチ4は一例であり、上述した三つの選択位置の他に選択位置(例えば、エンジン3のグロープラグ予熱位置やアクセサリ電源位置等)を備えるものであってもよい。
【0017】
本実施例1のショベルの始動許可装置1においては、上述したキースイッチ4の選択位置がスタートとされ、かつ、以下に述べる実施例1の許可条件が成立した場合に、始動手段5bがエンジン3に対して始動指令を出力する。エンジン3はこの始動指令に基づいて始動されて、エンジン3の駆動軸に連結された図示しない油圧ポンプが駆動される。
【0018】
この図示しない油圧ポンプは、ショベル60が含む周知の油圧回路においてパイロット圧を生成している。キャビン64内の運転室に備えられる複数の操作レバー(操作部)がオペレーターにより操作されると、対応する複数の切削用、旋回用、前後進用の油圧アクチュエータのそれぞれにパイロット圧が送り込まれて動作される。つまり、ショベル60における掘削、旋回、前後進の動作が適宜、オペレーターにより選択される。
【0019】
カメラ2は、
図1に示したように、ショベル60の周囲を映し出す入力画像を取得するための装置である。ここで、カメラ2は単眼タイプであり、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を備える。実施例1におけるカメラ2は、
図3に示すオペレーターの死角となりやすい所定範囲CL、CR、CBをそれぞれ撮像する。
【0020】
カメラ2Lは左側面の一点鎖線で示す扇形状の所定範囲CLを撮像し、カメラ2Rは右側面の一点鎖線で示す扇形状の所定範囲CRを撮像し、カメラ2Bは後面の一点鎖線で示す扇形状の所定範囲CBを撮像する。なお、カメラ2の設置箇所は上述した三箇所に限られるものではなく、オペレーターの死角となる範囲をカバーできるものであればよい。例えばカメラ2は、上部旋回体63の右側面及び後面のみ、又は前面と右側面、後面と左側面の全てに取り付けられていてもよい。カメラ2は、撮像により取得した入力画像をコントローラ5に対して出力する。
【0021】
コントローラ5の人検知手段5aは、三つのカメラ2からの入力画像について、周知の画像処理により例えばオプティカルフローを求めて、ショベル60周辺の所定範囲CL、CR、CB内の人を検知する。コントローラ5の始動手段5bは、キースイッチ4の選択位置がスタートであって、本実施例1の判定手段5cによる許可条件を満たす場合に、エンジン3を始動する始動信号をエンジン3に対して出力する。
【0022】
本実施例1の許可条件は以下の通りである。つまり、コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートである場合に、人検知手段5aが人を検知するか否かを判定し、この判定手段5cが否定と判定する場合にエンジン3の始動手段5bによる始動を許可する。
【0023】
以下に本実施例1のショベルの始動許可装置1の制御内容について
図4に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。ステップS1に示すように、コントローラ5の判定手段5cは、キースイッチ4の選択位置がスタートであるか否かを判定し、肯定であればステップS2にすすみ、否定であればENDにすすむ。
【0024】
ステップS2において、コントローラ5の人検知手段5aは、三つのカメラ2からの入力画像を上述した所定の画像処理を行って、所定範囲CL、CR、CBのいずれかに位置する人を検出する。つづいて、ステップS3において、コントローラ5の判定手段5cは、人検知手段5aにより人が検出されて「人有り?」の状態であるか否かを判定する。
【0025】
ステップS3において、判定手段5cにより否定と判定される場合、つまり、所定範囲CL、CR、CBに人がいない場合には、ステップS4にすすむ。ステップS4において、コントローラ5の許可手段5dはエンジン3の始動を許可する。この許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、エンジン3に対して始動信号を出力し、エンジン3が始動される。
【0026】
ステップS3において、判定手段5cにより肯定と判定される場合、すなわち、所定範囲CL、CR、CBに人がいる場合には、ステップS5にすすんで、コントローラ5の許可手段5dは、エンジン3の始動を不許可とする。この不許可に基づいて、コントローラ5の始動手段5bは、ステップS1において、キースイッチ4の選択位置がオペレーターによりスタートとされた条件でも、始動信号をエンジン3に対して出力しない。
図4に示したフローチャートはコントローラ5の制御周期毎に繰り返し実行されて、本発明のショベルの始動許可方法が実行される。
【0027】
上述した本実施例1に示したショベルの始動許可装置1は、ショベル60の周辺の所定範囲CL、CR、CBにおいて人が存在する場合には、キースイッチ4の選択位置がオペレーターによりスタートとされた条件でも、エンジン3の始動を不許可とすることができる。
【0028】
つまり本実施例1は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在する条件を、エンジン3の始動の不許可条件とすることができる。これとともに本実施例1は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在しない条件を、エンジン3の始動の許可条件とすることができる。
【0029】
本実施例1は、この不許可条件と許可条件の切り分けにより、ショベル60に人が存在する場合にはエンジン3の始動を禁止して、人特に作業者の安全を確保することができる。特にオペレーターがキャビン64に乗り込む前の周囲の目視確認と乗り込んだ後の警笛による警報を失念した場合でも、本実施例1によれば安全を確保できる。これとともに、本実施例1は、ショベル60の周辺に人が存在しない場合には、キースイッチ4の選択位置がスタートであることに基づいて速やかにエンジン3の始動を行うことができる。
【実施例2】
【0030】
上述した実施例1の許可条件については、オペレーターの実際の操作手順に併せて適宜変更することが可能である。以下それについての本実施例2のショベルの始動許可装置11について述べる。既述した実施例1で示したショベルの始動許可装置1と共通する構成については同一の符号を付し、以下、相違点を主に説明する。
【0031】
通常、ショベル60等の建設機械のエンジン3の始動の前には、オペレーターはキャビン64に乗り込む前に周囲を目視確認し、キャビン64に乗り込んだ後、警笛を鳴らして周囲に人がいる場合には退避を促してからエンジン3を始動させる。
【0032】
ここで
図5に示すように、キャビン64内の座席Sの左方には通常、油圧ロックレバー6が設置されている。この油圧ロックレバー6を手前側に引き
図5中「L」で示す位置まで移動させると「油圧ロック状態」が選択される。「油圧ロック状態」においては、ショベル60内の油圧回路内に設けられたシャット弁が、キャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を遮断する。つまり、操作レバーをオペレーターが操作しても対応する油圧アクチュエータが動作しない。
【0033】
油圧ロックレバー6を前方側に倒して
図5中「U」で示す位置まで移動させると「油圧ロック解除状態」が選択される。「油圧ロック解除状態」においては、シャット弁はキャビン64内の操作レバーと油圧アクチュエータとの間の油圧回路を連通させる。つまり、操作レバーをオペレーターが操作した場合に対応する油圧アクチュエータは動作される。
【0034】
ここでオペレーターがキャビン64に乗り込むときには、
図5に示す油圧ロックレバー6は位置「L」に位置している。オペレーター自身がキャビン64に乗り込み、座席Sに座ったときに、油圧ロックレバー6を位置「L」そのままとして「油圧ロック状態」を保持した後、キースイッチ4の選択位置を操作して、適宜エンジン3の始動を行う。始動を行った後は、油圧ロックレバー6を位置「U」とし「油圧ロック解除状態」として、操作レバーによる油圧アクチュエータの動作を可能とする。
【0035】
そこで本実施例2のショベルの始動許可装置11では、
図5に示すように、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」か「油圧ロック解除状態」のいずれであるかを、例えばポテンショメータなどの位置検出スイッチを用いてコントローラ5に入力する構成とする。
【0036】
コントローラ5の許可手段5dは、実施例1で述べたものと同様の所定範囲CL、CR、CBに人がおらず、キースイッチ4の選択位置がスタートとされ、かつ、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である許可条件にて、エンジン3の始動を許可する。
【0037】
つまり本実施例2のショベルの始動許可装置11が含むコントローラ5の制御内容は、
図7に示すように、
図4に示したフローチャートに比べて、ステップS6が追加される。ステップS3にて、判定手段5cにより所定範囲CL、CR、CBに人がいないと判定され、かつ、ステップS6において、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である場合に、ステップS4にすすんで、許可手段5dにより、エンジン3の始動が許可される。
【0038】
ステップS3において、判定手段5cにより、所定範囲CL、CR、CBに人がいないと判定され、ステップS6にて、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」でないと判定される場合には、ステップS5にすすむ。ステップS5において、許可手段5dが、エンジン3の始動を不許可とする。
【0039】
なお、本実施例2においても、ステップS3において、所定範囲CL、CR、CBに人がいると判定手段5cにより判定される場合には、ステップS5にすすんで、許可手段5dにより、エンジン3の始動は不許可とされる。
図7に示したフローチャートもコントローラ5の制御周期毎に繰り返し実行され、本発明のショベルの始動許可方法が実行される。
【0040】
上述した本実施例2に示したショベルの始動許可装置11においても、建設機械であるショベル60の周辺の所定範囲CL、CR、CBにおいて、人が存在する場合には、キースイッチ4の選択位置がオペレーターによりスタートとされた条件でも、エンジン3の始動を不許可とすることができる。
【0041】
さらに本実施例2は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在する場合、又は、人がショベル60に存在せずかつ油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」でない場合の双方を、エンジン3の始動の不許可条件とする。また、本実施例2は、キースイッチ4の選択位置がスタートであって人がショベル60の周辺に存在せず、かつ、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」である場合を、エンジン3の始動の許可条件とする。
【0042】
本実施例2は、この不許可条件と許可条件の切り分けにより、ショベル60の周辺に人が存在する場合にはエンジン3の始動を禁止して、人特に作業者の安全を確保することができる。
これとともに、本実施例2は、ショベル60の周辺に人が存在しない場合には、油圧ロックレバー6が「油圧ロック状態」であることを追加条件として、キースイッチ4の選択位置がスタートであることに基づいて速やかにエンジン3の始動を行うことができる。
【0043】
本実施例2では特に、万一オペレーターが操作レバーに触れた状態で、キースイッチ4の選択位置をスタートとした場合でも、意図しないショベル60の掘削、旋回、前後進の動作を禁止できる。加えて、本実施例2ではエンジン3の始動直後の、ショベル60の掘削、旋回、前後進の急激な動作を禁止できる。これにより本実施例2では、周囲の人の安全を確保できる。
【0044】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0045】
例えば上述した実施例では、所定範囲の入力画像から人検知手段5aが人を検知するにあたり画像処理を用いることを例示したが人を検知する手法はこれに限られない。つまり、パターンマッチングによる手法や、ステレオカメラを用いた立体物検出の手法を用いることも可能である。また、アクティブ型の赤外線センサやパッシブ型の赤外線センサ(例えば焦電型赤外線センサ)を用いてもよく、レーザレーダや超音波センサを用いてもよい。