特許第6462822号(P6462822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462822
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】生分解性材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20190121BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20190121BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20190121BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20190121BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20190121BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20190121BHJP
【FI】
   C08L67/00ZBP
   A61L31/06
   A61L31/12 100
   A61L31/14 500
   C08K3/32
   !C08L101/16
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-198756(P2017-198756)
(22)【出願日】2017年10月12日
(62)【分割の表示】特願2015-516847(P2015-516847)の分割
【原出願日】2013年5月16日
(65)【公開番号】特開2018-12845(P2018-12845A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2017年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】509090601
【氏名又は名称】株式会社ソフセラ
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】小粥 康充
(72)【発明者】
【氏名】河邉 カーロ和重
(72)【発明者】
【氏名】山田 健二
【審査官】 岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−538688(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/030782(WO,A1)
【文献】 特開2008−156213(JP,A)
【文献】 特表2011−506619(JP,A)
【文献】 特表2011−506641(JP,A)
【文献】 特表2012−523853(JP,A)
【文献】 特開2008−143957(JP,A)
【文献】 特開2001−192337(JP,A)
【文献】 特開2011−184615(JP,A)
【文献】 特開2013−059550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/08
A61L 31/00−31/18
C08K 3/00−3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含有する生分解性材料を用いた体内留置型の部材であって、前記生分解性材料が、平均粒径が10〜500nmである焼成体リン酸カルシウム粒子を含み、前記焼成体リン酸カルシウム粒子が生分解性材料基材中に練り込まれていることを特徴とする部材。
【請求項2】
前記焼成体リン酸カルシウム粒子が焼成体ハイドロキシアパタイト粒子である、請求項1記載の部材。
【請求項3】
前記焼成体リン酸カルシウム粒子の含有量が、前記材料の総質量を基準として、0.1〜50質量%である、請求項1又は2記載の部材。
【請求項4】
ステントである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
生分解性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントや骨固定部材等の生体に適用するための望ましい部材として、生分解性のポリマーを基材とする生体材料が研究されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、L−体の光学純度を所定の範囲とし、重量平均分子量を所定の範囲としたポリ乳酸(PLLA)により形成されており、生体内に植え込まれた後、生体内で分解され消失する脈管用ステントが記載されている。
【0004】
しかし、このような生分解性のポリエステルを生体に適用した場合、ポリエステルが体内で分解された際に酸性を示す分解生成物が生じ、炎症を惹起し得ることが問題視されている。
【0005】
このような問題に対して、特許文献2では、生分解性ポリマーであるポリ乳酸と共に、水酸化カルシウムなどのアルカリ無機材料で処理されたリン酸カルシウム(例えばハイドロキシアパタイト等)を含有することで、酸性の生分解性ポリマー分解生成物を中和することが可能なステントが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−031064号公報
【特許文献2】特開2007−313009号公報
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のステントは、必ずしも十分とはいえない機械的強度であることに加え、ポリエステル分解生成物の酸性成分を中和する効果が十分ではない場合があり、生体内における炎症が十分に抑制されない場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、生体内への利用も考慮された十分な機械的強度を有すると共に、生分解性ポリマーの酸性分解生成物によるpH変化を抑えることが可能な生分解性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、生分解性のポリマーと、リン酸カルシウムを配合した生分解性材料において、リン酸カルシウムを特定の粒径とすることにより、長期にわたってポリマーが分解されることによる酸性成分の拡散を抑制し、十分な機械的強度を有する生分解性材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は下記構成を有するものである。
【0010】
本発明は、ポリエステルを含有する生分解性材料であって、平均粒径が10〜1000nmであるリン酸カルシウム粒子を含むことを特徴とする生分解性材料である。ここで、リン酸カルシウム粒子の平均粒径が10〜500nmであってもよい。また、リン酸カルシウムがハイドロキシアパタイトであってもよい。更に、リン酸カルシウム粒子が焼成体あってもよい。また、リン酸カルシウム粒子の含有量が、前記材料の総質量を基準として、0.1〜50質量%であってもよい。更に、当該生分解性材料が体内留置型生体材料用であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
生体内への利用も考慮された十分な機械的強度を有すると共に、生分解性ポリマーの酸性分解生成物によるpH変化を抑えることが可能な生分解性材料を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例及び比較例に係るフィルムの重量の経時変化を示した図である。
図2図2は、実施例及び比較例に係るフィルムの表面性状のSEM写真である。
図3図3は、実施例及び比較例に係る各サンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に浸漬し、37℃で静置し、回収したPLGAフィルムの重量平均分子量を測定した結果を示した図である。
図4図4は、実施例及び比較例に係る各サンプルを生理食塩水中に浸漬し、37℃で静置し、得られた溶液のpHを測定した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る生分解性材料は、特定粒径のリン酸カルシウムを生分解性ポリエステル基材に配合した材料である。以下、本実施形態に係る生分解性材料の、構成成分、組成、物性、製造方法及び用途に関して詳述する。尚、本実施形態は一例であり、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても、本発明の技術的範囲に属する。
【0014】
≪生分解性材料の構成成分≫
本実施形態に係る生分解性材料の構成成分に関して説明する。本実施形態に係る生分解性材料は、生分解性ポリエステルを基材とし、当該基材中にハイドロキシアパタイト粒子が練り込まれた材料である。以下に、本実施形態に係る生分解性材料の原材料である、ポリエステル(ポリエステル基材)及びリン酸カルシウム粒子に関して説明する。
【0015】
<ポリエステル基材>
本実施形態に係る生分解性材料は、ポリエステルを基材とする。当該ポリエステルを生分解性のポリエステルとすることで、このような材料を、例えば生体内に適用した場合には、経年により体内にて分解されることで、最終的には体内に残らない(異物として体内に残存しない)こととなる。ここで、生分解性ポリエステルとは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールを主成分として重縮合した脂肪族ポリエステル、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル、合成系脂肪族ポリエステル、菌体内で生合成される脂肪族ポリエステル等の結晶性樹脂等を例示出来る。脂肪族ポリエステル樹脂としては、例えばポリシュウ酸エステル、ポリコハク酸エステル、ポリヒドロキシ酪酸、ポリジグルコール酸ブチレン、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、例えば乳酸、リンゴ酸若しくはグルコール酸等のオキシ酸の重合体又はこれらの共重合体等のヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル樹脂等を例示出来る。中でも、成形性、耐熱性、耐衝撃性及び生分解性等の面から、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル樹脂(特にポリ乳酸)が好ましい。
【0016】
<リン酸カルシウム粒子>
次に、本実施形態に係る生分解性材料に用いられるリン酸カルシウム粒子の、種類、好適な態様としての焼成体、粒径、製造方法に関して説明する。
【0017】
(種類)
リン酸カルシウムは、カルシウムイオンと、リン酸イオンからなる塩であり、具体的には、リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム(α−リン酸三カルシウムやβ−リン酸三カルシウム)、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、ハイドロキシアパタイト(HAp)、フルオロアパタイト(FAp)、炭酸アパタイト(CAp)、銀アパタイト(AgHAp)等が例示出来る。これらの内、リン酸カルシウム粒子をハイドロキシアパタイト粒子とすることにより、酸中和能を向上することが可能なため、特に好適である。尚、ここでいうハイドロキシアパタイト(HAp:Hydroxyapatite)とは、化学式Ca10(PO(OH)で示される塩基性のリン酸カルシウムを示す。
【0018】
(焼成体)
リン酸カルシウム粒子としては、焼成されたリン酸カルシウム粒子(以下、焼成リン酸カルシウム粒子等とする。)を用いることが好適である。リン酸カルシウム粒子を焼成(例えば、800℃で1時間)することにより、粒子の結晶性が高くなり、且つ複数の一次粒子の凝集体が熱により融着して、より強固で安定な粒子となる。尚、リン酸カルシウム粒子が焼成されているか否かは、当該粒子の結晶性の度合いにより判断することができる。リン酸カルシウム粒子の結晶性の度合いは、X線回折法(XRD)により測定することが出来、各結晶面を示すピークの半値幅が狭ければ狭いほど結晶性が高いといえる。例えば、リン酸カルシウムがハイドロキシアパタイトである場合には、本形態における焼成ハイドロキシアパタイト粒子とは、d=2.814での半値幅が0.8以下(好適には、0.5以下)の高結晶性のハイドロキシアパタイト粒子をいう。
【0019】
リン酸カルシウム粒子は、焼成されることによって、より強固で安定な粒子となる。従って、焼成リン酸カルシウム粒子は、酸性成分との中和反応において、穏やかに溶解しながらも所望の酸中和能を発揮すると共に、酸性成分によって粒子が溶解された際にも粒子が崩壊し難いため、より長時間にわたる酸中和能を発揮することが可能となる。
【0020】
(粒径)
本実施形態に係る生分解性材料に用いられるリン酸カルシウム粒子の粒径は、10nm以上1000nm以下である。本実施形態に係る生分解性材料を生体内に適用した場合、ポリエステル基材の分解に伴い、一部のリン酸カルシウム粒子がポリエステル基材から脱落し、生体内へと放出される。ここで、リン酸カルシウム粒子の粒径を10nm未満とした場合には、生体内へと放出されたリン酸カルシウム粒子は、リン酸カルシウム粒子が小さ過ぎることに起因し、生体における血管内皮細胞間の隙間(一般に、15〜20nmと言われている。)を容易に透過し拡散する可能性がある。対して、リン酸カルシウム粒子の粒径を10nm以上(血管内皮細胞間に存在する隙間の大きさに近いかそれ以上となる粒径)とすることにより、血管内皮細胞間の隙間を介したリン酸カルシウム粒子の拡散が行われ難くなる(換言すれば、リン酸カルシウム粒子が、ポリエステル基材が分解することにより生じる酸性成分の存在領域に留まり易くなる)。そのため、ポリエステル基材内部(又は表面)に存在するリン酸カルシウム粒子と合わせ、ポリエステル基材から放出されたリン酸カルシウム粒子をも、酸中和成分として寄与させることが可能となる。他方、リン酸カルシウム粒子の粒径を1000nm超とした場合には、リン酸カルシウム粒子は、ポリエステル基材に分散された際に、当該ポリエステル基材における欠陥となり得るため、生分解性材料の機械的強度が大幅に低下され得る。また、リン酸カルシウム粒子径が大き過ぎる場合には、ポリエステル基材からリン酸カルシウム粒子が脱落し易くなり、ポリエステル基材が分解することにより生じる酸性成分に対する中和能が低下してしまう(生分解性材料全体のpH安定性が保たれなくなる)。このような、リン酸カルシウム粒子の機能を十分に発揮させつつも、分解性材料の機械的強度の低下を防ぐ、という効果をより高めるために、リン酸カルシウム粒子の粒径は、10nm以上500nm以下であることがより好適である。
【0021】
更に、リン酸カルシウム粒子の粒径が大きい場合(例えば、粒径を1000nm以上とした場合)には、ポリマーが分解される際に、粒子全てが酸の中和によって消費される前に、粒子形状のままポリエステル基材から脱落され易い(酸の中和によって消費される前に、ポリエステル基材から脱落してしまうような粒子が多くなる)と考えられる。更に、このように粒径の大きな粒子がポリエステル基材から脱落した際には、当該脱落箇所に形成される孔等により、表面性状(例えば、クラックやホール等の存在量)が大きく変化するものと考えられる。このように、リン酸カルシウム粒子の粒径が大きい場合、ポリマーが分解される際に、生分解性材料の性状(生分解性材料の重量や特に生分解性材料の表面性状等)が変化し易くなり、当該生分解性材料に接触する箇所の血流において乱流が発生し易くなる(血流を乱し易くなる)、といったことも予想される。
【0022】
尚、本実施形態に係る生分解性材料に用いられるリン酸カルシウム粒子の粒径とは、以下の方法によって得られた数値を示す。リン酸カルシウム粒子を撮影したSEM画像において、粒子上にその両端が粒子の外周上に位置する2本の線分を引く。このとき、一方の線分は、その長さが最大となるものとする。更に、当該線分の中点で、互いに直交するようにもう一方の線分を引く。このようにして引かれた2本の線分のうち、短い方の線分の長さを短径、長い方の線分の長さを長径とした。更に、長径の大きなものから順に選んだ150個の粒子における当該長径の平均値を求め、粒径とした。
【0023】
(製造方法)
本実施形態に係るリン酸カルシウム粒子としては、一般的なリン酸カルシウム粒子の製造方法によって製造されたリン酸カルシウム粒子を用いればよい。溶液法(湿式法)、乾式法又は熱水法等が挙げられ、特に工業的に大量生産する際には、溶液法(湿式法)が用いられる。溶液法(湿式法)とは、中性若しくはアルカリ性の水溶液中でカルシウムイオンとリン酸イオンとを反応させることにより合成する方法であり、中和反応によるものや、カルシウム塩とリン酸塩を反応させるものがある。また、一次粒子を焼成する等し、粒子を凝集させたより粒径の大きい粒子としたり、より緻密な粒子としたりすることも可能である。また、例えば、micro−SHAp(IHM−100P000、ソフセラ社)等のように、種々のハイドロキシアパタイト粒子が市販されており、その製造法や形状・特性等も様々なものが入手可能である。
【0024】
<その他の成分>
尚、本実施形態に係る生分解性材料は、その他の成分として、更に抗生剤、抗癌剤、免疫抑制剤、細胞増殖抑制剤、抗血栓剤、抗血小板薬、抗炎症薬、カルシウム拮抗剤、抗アレルギー剤、抗高脂血症剤、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質、タンパク質、サイトカイン、ビタミン類、糖類、生体由来材料、無機塩等を含んでいてもよい。
【0025】
≪組成≫
<配合量>
ポリエステルとリン酸カルシウム粒子との合計含有量は、本実施形態に係る生分解性材料の質量を基準として、1〜100質量%が好適であり、10〜100質量%がより好適であり、50〜100質量%がより好適である。
【0026】
<配合比>
リン酸カルシウム粒子とポリエステルとの配合量比(リン酸カルシウム粒子:ポリエステル)としては、質量比で0.01:99.99〜70:30であることが好適であり、0.05:99.95〜60:40であることがより好適であり、0.1:99.9〜50:50であることが特に好適である。ポリエステルとリン酸カルシウム粒子の配合量比をこのような範囲とすることにより、機械的強度を保持しつつ、分解生成物に由来する酸の中和効果発現が期待できる。
【0027】
≪生分解性材料の物性≫
次に、本実施形態に係る生分解性材料の、各物性に関して詳述する。
【0028】
<機械的強度>
本形態に係る生分解性材料は、少なくとも数週間程度の形状保持性及び表面性状保持性を有する程度の機械的強度を有する。
【0029】
<pH安定性>
測定対象となる生分解性材料を生理食塩水溶液中に浸漬し、適当な温度にて適当な時間静置した後、当該水溶液のpH値を調べることで、pH安定性を測定可能である。ポリエステル基材が浸漬された生理食塩水溶液では、ポリエステル基材の分解(酸性成分の放出)が進行し、pH値が低くなる方へ変化するが、当該試験にて測定されたpH値が7に近い程、生分解性材料のpH安定性が高く、生体内に生分解性材料を適用しても、炎症等を抑制することが可能であるといえる。本実施形態に係る生分解性材料は、リン酸カルシウム粒子による酸中和能が発揮され易いように構成されているため、pH安定性も高いものとなる。
【0030】
≪生分解性材料の製造方法≫
以上、本実施形態に係る生分解性材料の構造及び物性等について説明したが、続いて、上述した構造及び物性を有する生分解性材料の製造方法について説明する。
【0031】
<原料>
本実施形態に係る生分解性材料の製造方法における原料である、リン酸カルシウム粒子の種類や製造方法、ポリエステル基材のポリエステルの種類、並びにリン酸カルシウム粒子やポリエステルの配合量等に関しては上述した通りであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0032】
<製造工程>
上記に示した配合量にて配合したポリエステル及びリン酸カルシウム粒子を混練することで、生分解性材料を製造する。尚、当該混練方法としてはどのような方法であってもよいが、例えばポリマーを各種溶媒へ溶解しリン酸カルシウム粒子を混合する、ポリマーを加熱溶融しリン酸カルシウム粒子を混合する、等とすればよい。次に、当該混合物を所望の用途に合わせた形状として成形する。このような成形方法としては、既存の方法(例えば、射出形成、押出成形、ブロー成形等)を適宜用いればよい。
【0033】
≪生分解性材料の用途≫
本実施形態に係る生分解性材料は、高いpH安定性と、十分な機械的強度と、を有する生分解性材料であり、様々な用途に使用することが可能である。例えば、生体材料等として用いることが出来、特に体内留置型生体材料用(例えばステント等)としても好適に用いることが出来る。
【0034】
≪実施例≫
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。尚、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【0035】
<製造例>
(SHApの製造)
(SHAp/PLGAフィルムの製造)
PLGA(シグマアルドリッチ社製RG 752 H/乳酸:グリコール酸=75:25)とSHAp(IHM−100P000、ソフセラ社製、焼成ハイドロキシアパタイト、平均粒径43nm)とを、質量比(SHAp/PLGA)で、0/100,1/99,5/95,10/90及び30/70にて混合し、当該混合物をシート状のサンプル(約400mg)に形成した。
【0036】
<試験方法>
リン酸生理食塩水(PBS)を充填させたサンプル管に前記サンプルを浸して蓋をし、37℃でインキュベートした。その後、異なるインキュベーション時間{0日(インキュベーション前)、1週間、3週間}にて前記サンプルを取り出し(それぞれn=7)、乾燥させた後の前記サンプルの質量を測定した。その後、重量変化及び表面性状(SEMで観察)及び重量平均分子量変化を評価した。尚、比較のため、SHApを含有しないものについての引張強度と、PBSでのインキュベーション前のサンプルの分子量と、も測定した。
【0037】
<結果>
(重量変化)
図1は、実施例及び比較例に係るフィルムの重量の経時変化を示した図である。この結果から、SHApの有無によらず、いずれのサンプルも同様の重量減少傾向が確認された。尚、当該結果から、21日を経ても重量減少が10%程度であるため、材料の「形」自体はほとんど変化を生じていないことが分かる。言い換えれば、分解によって表面が粗造になることも無く、ポリマー分解による血流の乱流発生が起こりにくいことが分かる。
【0038】
(表面性状)
図2は、実施例及び比較例に係るフィルムの表面性状のSEM写真である。当該写真から分かるように、SHApの有無による差異は見出せず、また、21日後でも表面の性状はほとんど変化しなかった。この結果から、SHApが多く含まれている系でも、表面に大きなクラックやホールを確認できず、21日経過では、分解が進んでいたとしても表面の性状が大きく変化しないことが判明した。
【0039】
(分子量変化)
図3は、実施例及び比較例に係る各サンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に浸漬し、37℃で静置し、回収したPLGAフィルムの重量平均分子量を測定した結果を示した図である。ここで、縦軸は分子量(表記した数字は、実際の値の千分の一)、横軸は経過時間を表す。当該図から分かるように、スタート時は、約21万の分子量であったが、7日目には、当初の1/3程度まで分解が促進した。尚、7日経過の段階で、SHApの有無による差異は無かった。言い換えれば、SHApの有無がポリマーの分解速度に大きな影響を及ぼさないことが判明した(21日目でも同傾向)。尚、別実験にて、粒子径が大きいと、粒子の脱落が生じ、材料と媒体(生体内の水)との接触面積が大きくなるため、加水分解が促進され、分子量低下が加速し、十分な機械的強度が保てる期間が短くなってしまうことも確認された。
【0040】
(pH変化)
図4は、実施例及び比較例に係る各サンプルを生理食塩水中に浸漬し、37℃で静置し、得られた溶液のpHを測定した結果を示した図である。スタート時点の溶液はpH:6.37であった。尚、縦軸数値が小さくなるほど、酸性に偏っていることを示し、逆に、数値が大きくなるほど、中性(7)、それ以上であれば、アルカリ性に偏っていることを表している。7日後、生理食塩水中に何も浸していないコントロール群(Saline;破線)は、ほぼ横ばいの6.32であった(若干、経時的に酸性よりに変化しているが、大気中の二酸化炭素の溶存量の差による影響であり、誤差範囲)。また、SHApを含んでいないPLGAシートを浸したコントロール群(PLGA;破線)は、少し中性よりに変化し、6.55であった。他方、SHApを含むPLGAシートを浸した群では、すべて中性よりに変化した。特に、SHAp含有量が5重量%以上の実施例について特に大きく中性よりに変化した。尚、21日経過後は、生理食塩水中に何も浸していないコントロール群は、若干酸性に偏ったもののほぼ横ばいであった。また、SHApを含んでいないPLGAシートを浸したコントロール群は、顕著に酸性に偏った。一方、SHApを含むPLGAシートを浸した系は、いずれも、スタート時点よりも中性よりに液性が変化していることが明らかとなった。このように、SHApの有無で比較すると、SHApを含まない系と比べ歴然とした差を見出すことが出来た。
【0041】
尚、比較として、粒径が1〜5μmについても検証したが、溶媒除去中に粒子が沈降し、材料中の均一性が保てないという点で実用上問題があることが判明した。また、焼成しないものについては、焼成したものと対比し、溶解性が若干早く、適応可能時間が短期間になってしまうという点で効果に劣るものの実用上問題無いことが確認された。加えて、ハイドロキシアパタイトでないものα-TCPについては、ハイドロキシアパタイトと対比し、水と反応し、一旦カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトへ変化し、若干反応速度が遅くなるという点で効果に劣るものの実用上問題無いことが確認された。
【0042】
<結果>
以上のデータより、従来より生分解性ポリマーの分解生成物が酸性を示すことにより炎症を惹起することが指摘されてきた問題をSHApが緩和できることが判明した。
図1
図2
図3
図4