(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンからのトルクが伝達される入力要素および出力要素を含む複数の回転要素と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体と、前記複数の回転要素の何れかである第1回転要素と前記第1回転要素とは異なる第2回転要素との相対回転に応じて回転する質量体を有する回転慣性質量ダンパとを含むダンパ装置において、
前記回転慣性質量ダンパは、前記第1回転要素と一体に回転するサンギヤと、複数のピニオンギヤを回転自在に支持すると共に前記第2回転要素と一体に回転するキャリヤと、前記複数のピニオンギヤに噛合すると共に前記質量体として機能するリングギヤとを含む遊星歯車を有し、
前記サンギヤの外歯は、前記弾性体よりも前記ダンパ装置の径方向における外側に位置し、前記サンギヤ、前記複数のピニオンギヤおよび前記リングギヤは、前記径方向からみて前記弾性体と前記ダンパ装置の軸方向に少なくとも部分的に重なり、前記リングギヤの前記軸方向への移動は、前記複数のピニオンギヤにより規制されるダンパ装置。
エンジンからのトルクが伝達される入力要素および出力要素を含む複数の回転要素と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体と、前記複数の回転要素の何れかである第1回転要素と前記第1回転要素とは異なる第2回転要素との相対回転に応じて回転する質量体を有する回転慣性質量ダンパとを含むダンパ装置において、
前記回転慣性質量ダンパは、前記第1回転要素と一体に回転するサンギヤと、複数のピニオンギヤを回転自在に支持すると共に前記第2回転要素と一体に回転するキャリヤと、前記複数のピニオンギヤに噛合すると共に前記質量体として機能するリングギヤとを含む遊星歯車を有し、
前記サンギヤの外歯は、前記弾性体よりも前記ダンパ装置の径方向における外側に位置し、前記サンギヤ、前記複数のピニオンギヤおよび前記リングギヤは、前記径方向からみて前記弾性体と前記ダンパ装置の軸方向に少なくとも部分的に重なり、
前記ピニオンギヤの各々の前記軸方向における両側には、ワッシャが配置され、前記リングギヤの前記軸方向への移動は、前記ワッシャにより規制されるダンパ装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示のダンパ装置10を含む発進装置1を示す概略構成図であり、
図2は、発進装置1を示す断面図である。これらの図面に示す発進装置1は、駆動装置としてのエンジン(内燃機関)EGを備えた車両に搭載されるものであり、ダンパ装置10に加えて、エンジンEGのクランクシャフトに連結されて当該エンジンEGからのトルクが伝達される入力部材としてのフロントカバー3や、フロントカバー3に固定されるポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4、ポンプインペラ4と同軸に回転可能なタービンランナ(出力側流体伝動要素)5、ダンパ装置10に連結されると共に自動変速機(AT)あるいは無段変速機(CVT)である変速機TMの入力軸ISに固定される出力部材としてのダンパハブ7、ロックアップクラッチ8等を含む。
【0011】
なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10の中心軸(軸心)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の径方向、すなわち発進装置1やダンパ装置10の中心軸から当該中心軸と直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
【0012】
ポンプインペラ4は、
図2に示すように、フロントカバー3に密に固定されて作動油が流通する流体室9を画成するポンプシェル40と、ポンプシェル40の内面に配設された複数のポンプブレード41とを有する。タービンランナ5は、
図2に示すように、タービンシェル50と、タービンシェル50の内面に配設された複数のタービンブレード51とを有する。タービンシェル50の内周部は、複数のリベットを介してダンパハブ7に固定される。ポンプインペラ4とタービンランナ5とは、互いに対向し合い、両者の間には、タービンランナ5からポンプインペラ4への作動油(作動流体)の流れを整流するステータ6が同軸に配置される。ステータ6は、複数のステータブレード60を有し、ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ61により一方向のみに設定される。これらのポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、作動油を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータ(流体伝動装置)として機能する。ただし、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ61を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手として機能させてもよい。
【0013】
ロックアップクラッチ8は、油圧式多板クラッチとして構成されており、ダンパ装置10を介してフロントカバー3とダンパハブ7とを連結するロックアップを実行すると共に当該ロックアップを解除する。ロックアップクラッチ8は、フロントカバー3に固定されたセンターピース30により軸方向に移動自在に支持されるロックアップピストン80と、クラッチドラム81と、ロックアップピストン80と対向するようにフロントカバー3の側壁部33の内面に固定される環状のクラッチハブ82と、クラッチドラム81の内周に形成されたスプラインに嵌合される複数の第1摩擦係合プレート(両面に摩擦材を有する摩擦板)83と、クラッチハブ82の外周に形成されたスプラインに嵌合される複数の第2摩擦係合プレート84(セパレータプレート)とを含む。
【0014】
更に、ロックアップクラッチ8は、ロックアップピストン80を基準としてフロントカバー3とは反対側に位置するように、すなわちロックアップピストン80よりもダンパ装置10およびタービンランナ5側に位置するようにフロントカバー3のセンターピース30に取り付けられる環状のフランジ部材(油室画成部材)85と、フロントカバー3とロックアップピストン80との間に配置される複数のリターンスプリング86とを含む。図示するように、ロックアップピストン80とフランジ部材85とは、係合油室87を画成し、当該係合油室87には、図示しない油圧制御装置から作動油(係合油圧)が供給される。係合油室87への係合油圧を高めることで、第1および第2摩擦係合プレート83,84をフロントカバー3に向けて押圧するようにロックアップピストン80を軸方向に移動させ、それによりロックアップクラッチ8を係合(完全係合あるいはスリップ係合)させることができる。なお、ロックアップクラッチ8は、油圧式単板クラッチとして構成されてもよい。
【0015】
ダンパ装置10は、
図1および
図2に示すように、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11と、中間部材(中間要素)12と、ドリブン部材(出力要素)15とを含む。更に、ダンパ装置10は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11と中間部材12との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第1スプリング(第1弾性体)SP1と、それぞれ対応する第1スプリングSP1と直列に作用して中間部材12とドリブン部材15との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第2スプリング(第2弾性体)SP2と、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の内側スプリングSPiとを含む。
【0016】
すなわち、ダンパ装置10は、
図1に示すように、ドライブ部材11とドリブン部材15との間に、互いに並列に設けられる第1トルク伝達経路TP1および第2トルク伝達経路TP2を有する。第1トルク伝達経路TP1は、複数の第1スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2により構成され、これらの要素を介してドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する。本実施形態において、第1トルク伝達経路TP1を構成する第1および第2スプリングSP1,SP2として、同一の諸元(ばね定数)を有するコイルスプリングが採用されている。
【0017】
また、第2トルク伝達経路TP2は、複数の内側スプリングSPiにより構成され、互いに並列に作用する複数の内側スプリングSPiを介してドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する。本実施形態において、第2トルク伝達経路TP2を構成する複数の内側スプリングSPiは、ドライブ部材11への入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の閾値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の閾値)T1に達してドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になってから、第1トルク伝達経路TP1を構成する第1および第2スプリングSP1,SP2と並列に作用する。これにより、ダンパ装置10は、2段階(2ステージ)の減衰特性を有することになる。
【0018】
また、本実施形態では、第1および第2スプリングSP1,SP2並びに内側スプリングSPiとして、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用されている。これにより、アークコイルスプリングを用いた場合に比べて、第1および第2スプリングSP1,SP2並びに内側スプリングSPiを軸心に沿ってより適正に伸縮させることができる。この結果、ドライブ部材11(入力要素)とドリブン部材15(出力要素)との相対変位が増加していく際に第2スプリングSP2等からドリブン部材15に伝達されるトルクと、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対変位が減少していく際に第2スプリングSP2等からドリブン部材15に伝達されるトルクとの差すなわちヒステリシスを低減化することが可能となる。ただし、第1および第2スプリングSP1,SP2並びに内側スプリングSPiの少なくとも何れかとして、アークコイルスプリングが採用されてもよい。
【0019】
図2に示すように、ダンパ装置10のドライブ部材11は、ロックアップクラッチ8のクラッチドラム81に連結される環状の第1入力プレート部材111と、第1入力プレート部材111と対向するように複数のリベットを介して当該第1入力プレート部材111に連結される環状の第2入力プレート部材112とを含む。これにより、ドライブ部材11、すなわち第1および第2入力プレート部材111,112は、クラッチドラム81と一体に回転し、ロックアップクラッチ8の係合によりフロントカバー3(エンジンEG)とダンパ装置10のドライブ部材11とが連結されることになる。
【0020】
図2および
図3に示すように、第1入力プレート部材111は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)の外側スプリング収容窓111woと、それぞれ円弧状に延びると共に各外側スプリング収容窓111woの径方向内側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)の内側スプリング収容窓111wiと、各内側スプリング収容窓111wiの外側縁部に沿って延びる複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部111sと、複数(本実施形態では、例えば3個)の外側スプリング当接部111coと、複数(本実施形態では、例えば6個)の内側スプリング当接部111ciとを有する。各内側スプリング収容窓111wiは、内側スプリングSPiの自然長よりも長い周長を有する(
図3参照)。また、外側スプリング当接部111coは、周方向に沿って互いに隣り合う外側スプリング収容窓111woの間に1個ずつ設けられる。更に、内側スプリング当接部111ciは、各内側スプリング収容窓111wiの周方向における両側に1個ずつ設けられる。
【0021】
第2入力プレート部材112は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)の外側スプリング収容窓112woと、それぞれ円弧状に延びると共に各外側スプリング収容窓112woの径方向内側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)の内側スプリング収容窓112wiと、各内側スプリング収容窓112wiの外側縁部に沿って延びる複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部112sと、複数(本実施形態では、例えば3個)の外側スプリング当接部112coと、複数(本実施形態では、例えば6個)の内側スプリング当接部112ciとを有する。各内側スプリング収容窓112wiは、内側スプリングSPiの自然長よりも長い周長を有する(
図3参照)。また、外側スプリング当接部112coは、周方向に沿って互いに隣り合う外側スプリング収容窓112woの間に1個ずつ設けられる。更に、内側スプリング当接部112ciは、各内側スプリング収容窓112wiの周方向における両側に1個ずつ設けられる。また、本実施形態では、第1および第2入力プレート部材111,112として、同一の形状を有するものが採用され、これにより、部品の種類の数を削減することが可能となる。
【0022】
中間部材12は、ドライブ部材11の第1入力プレート部材111よりもフロントカバー3側に配置される環状の第1中間プレート部材121と、ドライブ部材11の第2入力プレート部材112よりもタービンランナ5側に配置されると共に複数のリベットを介して第1中間プレート部材121に連結(固定)される環状の第2中間プレート部材122とを含む。
図2に示すように、第1および第2中間プレート部材121,122は、第1および第2入力プレート部材111,112をダンパ装置10の軸方向における両側から挟み込むように配置される
【0023】
図2および
図3に示すように、第1中間プレート部材121は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓121wと、それぞれ対応するスプリング収容窓121wの外側縁部に沿って延びる複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部121sと、複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング当接部121cとを有する。スプリング当接部121cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング収容窓121wの間に1個ずつ設けられる。第2中間プレート部材122は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓122wと、それぞれ対応するスプリング収容窓122wの外側縁部に沿って延びる複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部122sと、複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング当接部122cとを有する。スプリング当接部122cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング収容窓122wの間に1個ずつ設けられる。また、本実施形態では、第1および第2中間プレート部材121,122として、同一の形状を有するものが採用され、これにより、部品の種類の数を削減することが可能となる。
【0024】
ドリブン部材15は、板状の環状部材として構成されており、第1および第2入力プレート部材111,112の軸方向における間に配置されると共に、複数のリベットを介してダンパハブ7に固定される。
図2および
図3に示すように、ドリブン部材15は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)の外側スプリング収容窓15woと、各外側スプリング収容窓15woの径方向内側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)の内側スプリング収容窓15wiと、複数(本実施形態では、例えば3個)の外側スプリング当接部15coと、複数(本実施形態では、例えば6個)の内側スプリング当接部15ciとを有する。外側スプリング当接部15coは、周方向に沿って互いに隣り合う外側スプリング収容窓15woの間に1個ずつ設けられる。また、各内側スプリング収容窓15wiは、内側スプリングSPiの自然長に応じた周長を有する。更に、内側スプリング当接部15ciは、各内側スプリング収容窓15wiの周方向における両側に1つずつ設けられる。
【0025】
第1および第2入力プレート部材111,112の外側スプリング収容窓111wo,112woと、ドリブン部材15の外側スプリング収容窓15woとには、第1および第2スプリングSP1,SP2が互いに対をなす(直列に作用する)ように1個ずつ配置される。また、ダンパ装置10の取付状態において、第1および第2入力プレート部材111,112の各外側スプリング当接部111co,112coと、ドリブン部材15の各外側スプリング当接部15coとは、互いに異なる外側スプリング収容窓15wo,111wo,112woに配置されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者の端部と当接する。
【0026】
更に、第1および第2中間プレート部材121,122のスプリング当接部121c,122cは、それぞれ共通の外側スプリング収容窓15wo,111wo,112woに配置されて互いに対をなす第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者の端部と当接する。また、互いに異なる外側スプリング収容窓15wo,111wo,112woに配置されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2スプリングSP1,SP2は、第1および第2中間プレート部材121,122のスプリング収容窓121w,122wに配置される。更に、互いに対をなさない(直列に作用しない)第1および第2スプリングSP1,SP2は、フロントカバー3側で第1中間プレート部材121のスプリング支持部121sにより径方向外側から支持(ガイド)されると共に、タービンランナ5側で第2中間プレート部材122のスプリング支持部122sにより径方向外側から支持(ガイド)される。
【0027】
これにより、第1および第2スプリングSP1,SP2は、
図3に示すように、ダンパ装置10の周方向に交互に並ぶ。また、各第1スプリングSP1の一端は、ドライブ部材11の対応する外側スプリング当接部111co,112coと当接し、各第1スプリングSP1の他端は、中間部材12の対応するスプリング当接部121c,122cと当接する。更に、各第2スプリングSP2の一端は、中間部材12の対応するスプリング当接部121c,122cと当接し、各第2スプリングSP2の他端は、ドリブン部材15の対応する外側スプリング当接部15coと当接する。
【0028】
この結果、互いに対をなす第1および第2スプリングSP1,SP2は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で、中間部材12のスプリング当接部121c,122cを介して直列に連結される。従って、ダンパ装置10では、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する弾性体の剛性、すなわち第1および第2スプリングSP1,SP2の合成ばね定数をより小さくすることができる。なお、本実施形態において、それぞれ複数の第1および第2スプリングSP1,SP2は、
図3に示すように、同一円周上に配列され、発進装置1やダンパ装置10の軸心と各第1スプリングSP1の軸心との距離と、発進装置1等の軸心と各第2スプリングSP2の軸心との距離とが等しくなっている。
【0029】
また、ドリブン部材15の各内側スプリング収容窓15wiには、内側スプリングSPiが配置される。ダンパ装置10の取付状態において、各内側スプリング当接部15ciは、内側スプリングSPiの対応する端部と当接する。更に、ダンパ装置10の取付状態において、各内側スプリングSPiのフロントカバー3側の側部は、第1入力プレート部材111の対応する内側スプリング収容窓111wiの周方向における中央部に位置すると共に、第1入力プレート部材111のスプリング支持部111sにより径方向外側から支持(ガイド)される。また、ダンパ装置10の取付状態において、各内側スプリングSPiのタービンランナ5側の側部は、第2入力プレート部材112の対応する内側スプリング収容窓112wiの周方向における中央部に位置すると共に、第2入力プレート部材112のスプリング支持部112sにより径方向外側から支持(ガイド)される。
【0030】
これにより、各内側スプリングSPiは、
図2および
図3に示すように、流体室9内の内周側領域に配置され、第1および第2スプリングSP1,SP2により包囲される。この結果、ダンパ装置10ひいては発進装置1の軸長をより短縮化することが可能となる。そして、各内側スプリングSPiは、ドライブ部材11への入力トルク(駆動トルク)(あるいは車軸側からドリブン部材15に付与されるトルク(被駆動トルク)が上記トルクT1に達すると、第1および第2入力プレート部材111,112の対応する内側スプリング収容窓111wi,112wiの両側に設けられた内側スプリング当接部111ci,112ciの一方と当接することになる。
【0031】
更に、ダンパ装置10は、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転を規制する図示しないストッパを有する。本実施形態において、当該ストッパは、第2入力プレート部材112の内周部から周方向に間隔をおいてダンパハブ7に向けて径方向に突出する複数のストッパ部と、ドリブン部材15が固定されるダンパハブ7に周方向に間隔をおいて形成されて円弧状に延びる複数の切り欠きとより構成される。ダンパ装置10の取付状態において、第2入力プレート部材の各ストッパ部は、ダンパハブ7の対応する切り欠き内に当該切り欠きの両側の端部を画成するダンパハブ7の壁面と当接しないように配置される。これにより、ドライブ部材11とドリブン部材15とが相対回転するのに伴って第2入力プレート部材112のストッパ部とダンパハブ7の切り欠きの両側の端部を画成する壁面の一方とが当接すると、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転および第1および第2スプリングSP1,SP2および内側スプリングSPiのすべての撓みが規制される。
【0032】
加えて、ダンパ装置10は、
図1に示すように、複数の第1スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2を含む第1トルク伝達経路TP1と、複数の内側スプリングSPiを含む第2トルク伝達経路TP2との双方に並列に設けられる回転慣性質量ダンパ20を含む。本実施形態において、回転慣性質量ダンパ20は、ダンパ装置10の入力要素であるドライブ部材11と出力要素であるドリブン部材15との間に配置されるシングルピニオン式の遊星歯車21を有する。
【0033】
本実施形態において、遊星歯車21は、外周に外歯15tを含んでサンギヤとして機能するドリブン部材15と、それぞれ外歯15tに噛合する複数(本実施形態では、例えば3個)のピニオンギヤ23を回転自在に支持してキャリヤとして機能する第1および第2入力プレート部材111,112と、各ピニオンギヤ23に噛合する内歯25tを有すると共にサンギヤとしてのドリブン部材15(外歯15t)と同心円上に配置されるリングギヤ25とにより構成される。従って、サンギヤとしてのドリブン部材15、複数のピニオンギヤ23およびリングギヤ25は、流体室9内で、ダンパ装置10の径方向からみて第1および第2スプリングSP1,SP2(並びに内側スプリングSPi)と軸方向に少なくとも部分的に重なり合う。
【0034】
図2および
図3に示すように、外歯15tは、ドリブン部材15の外周面に周方向に間隔をおいて(等間隔に)定められた複数の箇所に形成される。従って、外歯15tは、外側スプリング収容窓15woおよび内側スプリング収容窓15wi、すなわちドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する第1スプリングSP1、第2スプリングSP2および内側スプリングSPiよりも径方向外側に位置する。なお、外歯15tは、ドリブン部材15の外周の全体に形成されてもよい。
【0035】
遊星歯車21のキャリヤを構成する第1入力プレート部材111は、
図2および
図3に示すように、外側スプリング当接部111coよりも径方向外側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)に配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のピニオンギヤ支持部115を有する。同様に、遊星歯車21のキャリヤを構成する第2入力プレート部材112も、
図2および
図3に示すように、外側スプリング当接部112coよりも径方向外側に周方向に間隔をおいて(等間隔に)に配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のピニオンギヤ支持部116を有する。
【0036】
第1入力プレート部材111の各ピニオンギヤ支持部115は、
図4に示すように、フロントカバー3に向けて軸方向に突出するように形成された円弧状の軸方向延在部115aと、当該軸方向延在部の端部から径方向外側に延出された円弧状のフランジ部115fとを有する。また、第2入力プレート部材112の各ピニオンギヤ支持部116は、タービンランナ5に向けて軸方向に突出するように形成された円弧状の軸方向延在部116aと、当該軸方向延在部の端部から径方向外側に延出された円弧状のフランジ部116fとを有する。第1入力プレート部材111の各ピニオンギヤ支持部115(フランジ部115f)は、第2入力プレート部材112の対応するピニオンギヤ支持部116(フランジ部116f)と軸方向に対向し、互いに対をなすフランジ部115f,116fは、それぞれピニオンギヤ23に挿通されたピニオンシャフト24の端部を支持する。また、本実施形態において、第1入力プレート部材111のピニオンギヤ支持部115(フランジ部115f)は、それぞれリベットを介してロックアップクラッチ8のクラッチドラム81に締結される。更に、本実施形態において、中間部材12を構成する第1中間プレート部材121はピニオンギヤ支持部115の軸方向延在部115aの内周面により調心される。また、中間部材12を構成する第2中間プレート部材122は、ピニオンギヤ支持部116の軸方向延在部116aの内周面により調心される。
【0037】
遊星歯車21のピニオンギヤ23は、
図4に示すように、外周にギヤ歯(外歯)23tを有する環状のギヤ本体230と、ギヤ本体230の内周面とピニオンシャフト24の外周面との間に配置される複数のニードルベアリング231と、ギヤ本体230の両端部に嵌合されてニードルベアリング231の軸方向における移動を規制する一対のスペーサ232とを含む。ピニオンギヤ23のギヤ本体230は、
図4に示すように、ギヤ歯23tの歯底よりも当該ピニオンギヤ23の径方向における内周側で当該ギヤ歯23tの軸方向における両側に突出すると共に円柱面状の外周面を有する環状の径方向支持部230sを含む。また、各スペーサ232の外周面は、径方向支持部230sと同径、若しくは当該径方向支持部230sよりも小径に形成されている。
【0038】
複数のピニオンギヤ23は、周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶようにキャリヤとしての第1および第2入力プレート部材111,112(ピニオンギヤ支持部115,116)により回転自在に支持される。更に、各スペーサ232の側面と第1および第2入力プレート部材111,112のピニオンギヤ支持部115,116(フランジ部115f,116f)との間には、ワッシャ235が配置される。また、ピニオンギヤ23のギヤ歯23tの両側の側面と、第1および第2入力プレート部材111,112のピニオンギヤ支持部115,116(フランジ部115f,116f)との軸方向における間には、
図4に示すように間隙が形成される。
【0039】
遊星歯車21のリングギヤ25は、内周に内歯25tが形成された環状のギヤ本体250と、それぞれ円環状に形成された2枚の側板251と、各側板251をギヤ本体250の軸方向における両側の側面に固定するための複数のリベット252とを含む。ギヤ本体250、2枚の側板251および複数のリベット252は、一体化されて回転慣性質量ダンパ20の質量体として機能する。本実施形態において、内歯25tは、ギヤ本体250の内周面の全体にわたって形成される。ただし、内歯25tは、ギヤ本体250の内周面に周方向に間隔をおいて(等間隔に)定められた複数の箇所に形成されてもよい。また、ギヤ本体250の外周面には、
図3に示すように、リングギヤ25の質量を調整するための凹部が周方向に間隔をおいて(等間隔に)複数形成されてもよい。
【0040】
各側板251は、凹円柱面状の内周面を有し、内歯25tに噛合する複数のピニオンギヤ23により軸方向に支持される被支持部として機能する。すなわち、2枚の側板251は、内歯25tの軸方向における両側で、それぞれ内歯25tの歯底よりも径方向内側に突出して少なくともピニオンギヤ23のギヤ歯23tの側面と対向するようにギヤ本体250の対応する側面に固定される。本実施形態において、各側板251の内周面は、
図4に示すように、内歯25tの歯先よりも僅かに径方向内側に位置する。
【0041】
各ピニオンギヤ23と内歯25tとが噛合した際、各側板251の内周面は、ピニオンギヤ23(ギヤ本体230)の対応する径方向支持部230sにより径方向に支持される。これにより、複数のピニオンギヤ23の径方向支持部230sによりリングギヤ25をサンギヤとしてのドリブン部材15の軸心に対して精度よく調心して当該リングギヤ25をスムースに回転(揺動)させることが可能となる。また、各ピニオンギヤ23と内歯25tとが噛合した際、各側板251の内面は、ピニオンギヤ23のギヤ歯23tの側面およびギヤ歯23tの歯底から径方向支持部230sまでの部分の側面と対向する。これにより、リングギヤ25の軸方向における移動は、少なくともピニオンギヤ23のギヤ歯23tの側面により規制されることになる。更に、そして、リングギヤ25の各側板251の外面と、第1および第2入力プレート部材111,112のピニオンギヤ支持部115,116(フランジ部115f,116f)との軸方向における間には、
図4に示すように間隙が形成される。
【0042】
上述のように構成される発進装置1では、ロックアップクラッチ8によるロックアップが解除されている際、
図1からわかるように、エンジンEGからフロントカバー3に伝達されたトルク(動力)が、ポンプインペラ4、タービンランナ5、ドリブン部材15、ダンパハブ7という経路を介して変速機TMの入力軸ISへと伝達される。これに対して、発進装置1のロックアップクラッチ8によりロックアップが実行されると、エンジンEGからフロントカバー3およびロックアップクラッチ8を介してドライブ部材11に伝達されたトルクは、入力トルクが上記トルクT1に達するまで、複数の第1スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2を含む第1トルク伝達経路TP1と、回転慣性質量ダンパ20とを介してドリブン部材15およびダンパハブ7に伝達される。また、入力トルクが上記トルクT1以上になると、ドライブ部材11に伝達されたトルクは、第1トルク伝達経路TP1と、複数の内側スプリングSPiを含む第2トルク伝達経路TP2と、回転慣性質量ダンパ20とを介してドリブン部材15およびダンパハブ7に伝達される。
【0043】
そして、ロックアップの実行時(ロックアップクラッチ8の係合時)にドライブ部材11がドリブン部材15に対して回転すると(捩れると)、第1および第2スプリングSP1,SP2が撓むと共に、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転に応じて質量体としてのリングギヤ25が軸心周りに回転(揺動)する。このようにドライブ部材11がドリブン部材15に対して回転(揺動)する際には、遊星歯車21の入力要素であるキャリヤとしてのドライブ部材11すなわち第1および第2入力プレート部材111,112の回転速度がサンギヤとしてのドリブン部材15の回転速度よりも高くなる。従って、この際、リングギヤ25は、遊星歯車21の作用により増速され、ドライブ部材11よりも高い回転速度で回転する。これにより、回転慣性質量ダンパ20の質量体であるリングギヤ25から、ピニオンギヤ23を介して慣性トルクをダンパ装置10の出力要素であるドリブン部材15に付与し、当該ドリブン部材15の振動を減衰させることが可能となる。なお、回転慣性質量ダンパ20は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で主に慣性トルクを伝達し、平均トルクを伝達することはない。
【0044】
次に、ダンパ装置10の設計手順について説明する。
【0045】
上述のように、ダンパ装置10では、ドライブ部材11に伝達される入力トルクが上記トルクT1に達するまで、第1トルク伝達経路TP1に含まれる第1および第2スプリングSP1,SP2と回転慣性質量ダンパ20とが並列に作用する。このように、第1および第2スプリングSP1,SP2と回転慣性質量ダンパ20とが並列に作用する際、中間部材12と第1および第2スプリングSP1,SP2とを含む第1トルク伝達経路TP1からドリブン部材15に伝達されるトルクは、中間部材12とドリブン部材15との間の第2スプリングSP2の変位(撓み量すなわち捩れ角)に依存(比例)したものとなる。これに対して、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達されるトルクは、ドライブ部材11とドリブン部材15との角加速度の差、すなわちドライブ部材11とドリブン部材15との間の第1および第2スプリングSP1,SP2の変位の2回微分値に依存(比例)したものとなる。これにより、ダンパ装置10のドライブ部材11に伝達される入力トルクが次式(1)に示すように周期的に振動していると仮定すれば、第1トルク伝達経路TP1を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相と、回転慣性質量ダンパ20を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相とは、180°ずれることになる。
【0047】
また、単一の中間部材12を有するダンパ装置10では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ内側スプリングSPiが撓んでいない際に、第1トルク伝達経路TP1において2つの共振が発生する。すなわち、第1トルク伝達経路TP1では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ内側スプリングSPiが撓んでいない際に、ドライブ部材11とドリブン部材15とが互いに逆位相で振動することによるダンパ装置10全体の共振(第1共振)が発生する。また、第1トルク伝達経路TP1では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ内側スプリングSPiが撓んでいない際に、基本的に第1共振よりも高回転側(高周波側)で、中間部材12がドライブ部材11およびドリブン部材15の双方と逆位相で振動することによる共振(第2共振)が発生する。
【0048】
本発明者らは、上述のような特性を有するダンパ装置10の振動減衰効果をより向上させるべく鋭意研究・解析を行い、ダンパ装置10では、第1トルク伝達経路TP1における振動の振幅と、それと逆位相になる回転慣性質量ダンパ20における振動の振幅とを一致させることで、ドリブン部材15の振動を減衰させ得ることに着目した。そして、本発明者らは、ロックアップの実行によりエンジンEGからドライブ部材11にトルクが伝達された状態にあり、かつ内側スプリングSPiが撓んでいないダンパ装置10を含む振動系について、次式(2)のような運動方程式を構築した。ただし、式(2)において、“J
1”は、ドライブ部材11の慣性モーメントであり、“J
2”は、中間部材12の慣性モーメントであり、“J
3”は、ドリブン部材15の慣性モーメントであり、“J
i”は、回転慣性質量ダンパ20の質量体であるリングギヤ25の慣性モーメントである。また、“θ
1”は、ドライブ部材11の捩れ角であり、“θ
2”は、中間部材12の捩れ角であり、“θ
3”は、ドリブン部材15の捩れ角である。更に、“k
1”は、ドライブ部材11と中間部材12との間で並列に作用する複数の第1スプリングSP1の合成ばね定数であり、“k
2”は、中間部材12とドリブン部材15の間で並列に作用する複数の第2スプリングSP2の合成ばね定数である。また、“λ”は、回転慣性質量ダンパ20を構成する遊星歯車21のギヤ比(外歯15t(サンギヤ)のピッチ円直径/リングギヤ25の内歯25tのピッチ円直径)、すなわちドリブン部材15の回転速度に対する質量体としてのリングギヤ25の回転速度の比であり、“T”は、エンジンEGからドライブ部材11に伝達される入力トルクである。
【0050】
更に、本発明者らは、入力トルクTが上記式(1)に示すように周期的に振動していると仮定すると共に、ドライブ部材11の捩れ角θ
1、中間部材12の捩れ角θ
2、およびドリブン部材15の捩れ角θ
3が次式(3)に示すように周期的に応答(振動)すると仮定した。ただし、式(1)および(3)における“ω”は、入力トルクTの周期的な変動(振動)における角振動数であり、式(3)において、“Θ
1”は、エンジンEGからのトルクの伝達に伴って生じるドライブ部材11の振動の振幅(振動振幅、すなわち最大捩れ角)であり、“Θ
2”は、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って生じる中間部材12の振動の振幅(振動振幅)であり、“Θ
3”は、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って生じるドリブン部材15の振動の振幅(振動振幅)である。かかる仮定のもと、式(1)および(3)を式(2)に代入して両辺から“sinωt”を払うことで、次式(4)の恒等式を得ることができる。
【0052】
式(4)において、ドリブン部材15の振動振幅Θ
3がゼロである場合、ダンパ装置10によりエンジンEGからの振動が理論上完全に減衰されてドリブン部材15よりも後段側の変速機TMやドライブシャフト等には理論上振動が伝達されないことになる。そこで、本発明者らは、かかる観点から、式(4)の恒等式を振動振幅Θ
3について解くと共に、Θ
3=0とすることで、次式(5)に示す条件式を得た。式(5)は、入力トルクTの周期的な変動における角振動数の二乗値ω
2についての2次方程式である。当該角振動数の二乗値ω
2が式(5)の2つの実数解の何れか(または重解)である場合、ドライブ部材11から第1トルク伝達経路TP1を介してドリブン部材15に伝達されるエンジンEGからの振動と、ドライブ部材11から回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15に伝達される振動とが互いに打ち消し合い、ドリブン部材15の振動振幅Θ
3が理論上ゼロになる。
【0054】
かかる解析結果より、中間部材12を有することで第1トルク伝達経路TP1を介して伝達されるトルクに2つのピークすなわち共振が発生するダンパ装置10では、
図5に示すように、ドリブン部材15の振動振幅Θ
3が理論上ゼロになる反共振点を合計2つ設定し得ることが理解されよう(
図5におけるA1およびA2)。すなわち、ダンパ装置10では、第1トルク伝達経路TP1における振動の振幅と、それと逆位相になる回転慣性質量ダンパ20における振動の振幅とを第1トルク伝達経路TP1で発生する2つの共振に対応した2つのポイントで一致させることで、ドリブン部材15の振動を極めて良好に減衰させることが可能となる。
【0055】
更に、ダンパ装置10では、ドライブ部材11の回転数が低回転側(低周波側)の反共振点A1の振動数に対応した回転数よりもある程度高まった段階で中間部材12の共振が発生し、第2内側スプリングSP2からドリブン部材15に伝達される振動の振幅は、
図5において一点鎖線で示すように、ドライブ部材11(エンジンEG)の回転数が、比較的小さい中間部材12の固有振動数に対応した回転数に達する前に減少から増加に転じることになる。これにより、ドライブ部材11の回転数が増加するにつれて回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動の振幅が徐々に増加しても(
図5における二点鎖線参照)、当該回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動が第2内側スプリングSP2からドリブン部材15に伝達される振動の少なくとも一部を打ち消す領域を拡げることが可能となる。この結果、ドライブ部材11の回転数が比較的低い領域におけるダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることができる。
【0056】
ここで、走行用動力の発生源としてのエンジンEGを搭載する車両では、ロックアップクラッチのロックアップ回転数Nlup(エンジンEGの始動後に最初に当該エンジンEGとダンパ装置10とを連結する際の回転数であり、複数のロックアップ回転数の中で最も低いもの、すなわちドライブ部材11からトルク伝達経路TP1を介してドリブン部材15にトルクが伝達される回転数域の最小回転数)をより低下させて早期にエンジンEGからのトルクを変速機TMに機械的に伝達することで、エンジンEGと変速機TMとの間の動力伝達効率を向上させ、それによりエンジンEGの燃費をより向上させることができる。ただし、ロックアップ回転数Nlupの設定範囲となり得る500rpm〜1500rpm程度の低回転数域では、エンジンEGからロックアップクラッチを介してドライブ部材11に伝達される振動が大きくなり、特に3気筒あるいは4気筒エンジンといった省気筒エンジンを搭載した車両において振動レベルの増加が顕著となる。従って、ロックアップの実行時や実行直後に大きな振動が変速機TM等に伝達されないようにするためには、ロックアップが実行された状態でエンジンEGからのトルク(振動)を変速機TMへと伝達するダンパ装置10全体(ドリブン部材15)のロックアップ回転数Nlup付近の回転数域における振動レベルをより低下させる必要がある。
【0057】
これを踏まえて、本発明者らは、ロックアップクラッチ8に対して定められたロックアップ回転数Nlupに基づいて、エンジンEGの回転数Neが500rpmから1500rpmの範囲(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内にある際に低回転側(低周波側)の反共振点A1が形成されるようにダンパ装置10を構成することとした。上記式(5)の2つの解ω
1およびω
2は、2次方程式の解の公式から次式(6)および(7)のように得ることが可能であり、ω
1<ω
2が成立する。そして、低回転側(低周波側)の反共振点A1の振動数(以下、「最小振動数」という)fa
1は、次式(8)に示すように表され、高回転側(高周波側)の反共振点A2の振動数fa
2(fa
2>fa
1)は、次式(9)に示すように表される。また、最小振動数fa
1に対応したエンジンEGの回転数Nea
1は、“n”をエンジンEGの気筒数とすれば、Nea
1=(120/n)・fa
1と表される。
【0059】
従って、ダンパ装置10では、次式(10)を満たすように、複数の第1スプリングSP1の合成ばね定数k
1、複数の第2スプリングSP2の合成ばね定数k
2、中間部材12の慣性モーメントJ
2(一体回転するように連結されるタービンランナ5等の慣性モーメントを考慮(合算)したもの)、および回転慣性質量ダンパ20の質量体であるリングギヤ25の慣性モーメントJ
iが選択・設定される。すなわち、ダンパ装置10では、上記最小振動数fa
1(およびロックアップ回転数Nlup)に基づいて、第1および第2スプリングSP1,SP2のばね定数k
1,k
2,と、中間部材12の慣性モーメントJ
2と、リングギヤ25の慣性モーメントJ
iと、遊星歯車21のギヤ比λとが定められる。なお、ダンパ装置10の設計に際し、ピニオンギヤ23の慣性モーメントは上記式(2)〜(9)に示すように無視されても実用上差し支えないが、上記式(2)等において更にピニオンギヤ23の慣性モーメントが考慮されてもよい。そして、最小振動数fa
1(およびロックアップ回転数Nlup)に基づいて、第1および第2スプリングSP1,SP2のばね定数k
1,k
2,と、中間部材12の慣性モーメントJ
2と、リングギヤ25の慣性モーメントJ
iと、遊星歯車21のギヤ比λと、ピニオンギヤ23の慣性モーメントが定められてもよい。
【0061】
このように、ドリブン部材15の振動振幅Θ
3を理論上ゼロにし得る(より低下させ得る)低回転側の反共振点A1を500rpmから1500rpmまでの低回転数域(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内に設定することで、より低い回転数でのロックアップ(エンジンEGとドライブ部材11との連結)を許容することが可能となる。
【0062】
また、式(10)を満たすようにダンパ装置10を構成するに際しては、第1トルク伝達経路TP1で発生する低回転側(低周波側)の共振(共振点R1)の振動数が上記最小振動数fa
1よりも小さく、かつできるだけ小さい値になるように、ばね定数k
1,k
2と、慣性モーメントJ
2,J
iとを選択・設定すると好ましい。これにより、最小振動数fa
1をより小さくし、より一層低い回転数でのロックアップを許容することができる。
【0063】
更に、2つの反共振点A1,A2を設定できるようにすることで、単一の反共振点が設定される場合に比べて(
図5における破線参照)、当該2つの反共振点A1,A2のうち、振動数(fa
1)が最小となる反共振点A1をより低周波側にシフトさせることが可能となる。加えて、2つの反共振点A1,A2を設定できるようにすることで、
図5からわかるように、2つの反共振点A1,A2間の比較的広い回転数域で、ドライブ部材11から第1トルク伝達経路TP1を介してドリブン部材15に伝達されるエンジンEGからの振動(
図5における一点鎖線参照)を、ドライブ部材11から回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15に伝達される振動(
図5における二点鎖線参照)によって良好に減衰させることが可能となる。
【0064】
これにより、エンジンEGからの振動が大きくなりがちなロックアップ領域の低回転数域におけるダンパ装置10の振動減衰効果をより向上させることができる。なお、ダンパ装置10では、2つめの共振(
図5における共振点R2:上記第2共振)が発生すると、中間部材12がドリブン部材15と逆位相で振動するようになり、
図5において一点鎖線で示すように、第1トルク伝達経路TP1を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相と、回転慣性質量ダンパ20を経由してドライブ部材11からドリブン部材15に伝達される振動の位相とが一致することになる。
【0065】
また、上述のように構成されるダンパ装置10においてロックアップ回転数Nlup付近での振動減衰性能をより向上させるためには、当該ロックアップ回転数Nlupと共振点R2に対応したエンジンEGの回転数とを適切に離間させる必要がある。従って、式(10)を満たすようにダンパ装置10を構成するに際しては、Nlup≦(120/n)・fa
1(=Nea
1)を満たすように、ばね定数k
1,k
2と、慣性モーメントJ
2,J
iとを選択・設定すると好ましい。これにより、変速機TMの入力軸ISへの振動の伝達を良好に抑制しながらロックアップクラッチ8によるロックアップを実行すると共に、ロックアップの実行直後に、エンジンEGからの振動をダンパ装置10により極めて良好に減衰することが可能となる。
【0066】
上述のように、反共振点A1の振動数(最小振動数)fa
1に基づいてダンパ装置10を設計することにより、当該ダンパ装置10の振動減衰性能を極めて良好に向上させることが可能となる。そして、本発明者らの研究・解析によれば、ロックアップ回転数Nlupが例えば1000rpm前後の値に定められる場合、例えば900rpm≦(120/n)・fa
1≦1200rpmを満たすようにダンパ装置10を構成することで、実用上極めて良好な結果が得られることが確認されている。
【0067】
一方、上述の反共振点A1,A2付近でのドリブン部材15の実際の振動振幅をより小さくするためには、中間部材12、第1および第2スプリングSP1,SP2を含む第1トルク伝達経路TP1および回転慣性質量ダンパ20の双方のヒステリシスをできるだけ低減化する必要がある。すなわち、ダンパ装置10では、第1および第2スプリングSP1,SP2のヒステリシスに起因した第1トルク伝達経路TP1を経由してドリブン部材15に伝達される振動の位相のずれと、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスに起因した当該回転慣性質量ダンパ20を経由してドリブン部材15に伝達される振動の位相のずれとの双方をできるだけ小さくする必要がある。
【0068】
このため、ダンパ装置10では、回転慣性質量ダンパ20の遊星歯車21のサンギヤとして機能するドリブン部材15に、ドライブ部材11とドリブン部材15との間でトルクを伝達する第1および第2スプリングSP1,SP2よりも径方向外側に位置するように外歯15tが形成される。すなわち、第1および第2スプリングSP1,SP2は、回転慣性質量ダンパ20の遊星歯車21よりも径方向内側に配置される。これにより、第1および第2スプリングSP1,SP2に作用する遠心力を低下させ、当該遠心力により第1および第2スプリングSP1,SP2がスプリング支持部121s,122sに押し付けられることで発生する摩擦力(摺動抵抗)を小さくすることができる。従って、ダンパ装置10では、第1および第2スプリングSP1,SP2のヒステリシスを良好に低減化することが可能となる。
【0069】
また、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスによるエネルギ損失を“Jh”とし、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対変位が増加していく際に回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15(サンギヤ)に伝達されるトルクと、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対変位が減少していく際に回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15に伝達されるトルクとの差(以下、「トルク差」という)を“ΔT”とし、ドリブン部材15に対するドライブ部材11の捩れ角を“θ”とすれば、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスによるエネルギ損失Jhは、Jh=ΔT・θと表される。また、リングギヤ25とピニオンギヤ23との間の動摩擦係数を“μ”とし、例えば流体室9内の圧力等に応じてリングギヤ25に作用する垂直荷重(軸方向の力)を“Fr”とし、リングギヤ25のピニオンギヤ23に対する摺動距離を“x”とすれば、エネルギ損失Jhは、Jh=μ・Fr・xと表される。
【0070】
従って、ΔT・θ=μ・Fr・xという関係が成立し、この関係式の両辺を時間微分すれば、ΔT・dθ/dt=μ・Fr・dx/dtという関係が成立するので、トルク差ΔTすなわち回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスを、ΔT=μ・Fr・(dx/dt)/(dθ/dt)と表すことができる。トルク差ΔTを示す関係式の右辺における摺動距離xの時間微分値dx/dtは、リングギヤ25とピニオンギヤ23との相対速度Vrpを示す。従って、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスは、リングギヤ25とその支持部材であるピニオンギヤ23との相対速度Vrp、つまり、質量体と、当該質量体の軸方向の移動を規制する支持部材との相対速度が小さいほど小さくなる。
【0071】
質量体としてのリングギヤ25が遊星歯車21のキャリヤとしてのドライブ部材11を構成する第1および第2入力プレート部材111,112により両側から支持される場合、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスは、リングギヤ25とドライブ部材11との相対速度Vrcに依存することになる。そして、ドライブ部材11がドリブン部材15に対して角度θだけ捩れた際のリングギヤ25とドライブ部材11との相対速度Vrcは、
図6に示すように表され、相対速度Vrcは、当該リングギヤ25の内周付近においても比較的大きく、リングギヤ25の内周から外周に向かうにつれて更に大きくなる。従って、質量体としてのリングギヤ25が第1および第2入力プレート部材111,112により両側から支持される場合、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスを良好に低減化し得なくなってしまう。
【0072】
これに対して、ピニオンギヤ23は、キャリヤとしての第1および第2入力プレート部材111,112の周速度に一致する周速度Vpで公転すると共にピニオンシャフト24の周りに自転するが、リングギヤ25の内歯25tとピニオンギヤ23のギヤ歯23tとの噛み合い位置付近(
図7における破線上の点、
図6も同様)では、リングギヤ25とピニオンギヤ23との相対速度Vrpは概ねゼロになる。これにより、リングギヤ25とピニオンギヤ23との相対速度Vrpは、
図7において白抜矢印で示すように、リングギヤ25とドライブ部材11(キャリヤ)との相対速度Vrcに比べて大幅に小さくなり、リングギヤ25とドリブン部材15(サンギヤ)との相対速度(図示省略)よりも小さくなる。従って、質量体としてのリングギヤ25の軸方向の移動が遊星歯車21のピニオンギヤ23により規制されるダンパ装置10では、
図8において実線で示すように、リングギヤ25が第1および第2入力プレート部材111,112により両側から支持されるとした場合(
図8における破線参照)に比べて、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスすなわちトルク差ΔTを良好に低減化することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態において、リングギヤ25は、内周面が内歯25tの歯先よりも僅かに径方向内側に位置するようにギヤ本体250の両側の側面に固定される2枚の側板(被支持部)251を含む。そして、リングギヤ25の軸方向における移動は、少なくともピニオンギヤ23のギヤ歯23tの側面により規制される。これにより、リングギヤ25とピニオンギヤ23との相対速度Vrpが概ねゼロになる両者(内歯25tおよびギヤ歯23t)の噛み合い位置付近で、ピニオンギヤ23によりリングギヤ25の軸方向の移動を規制することができるので、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスを極めて良好に低減化することが可能となる。
【0074】
上述のように、ダンパ装置10では、第1トルク伝達経路TP1におけるヒステリシスと、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスとの双方を良好に低減化し、上記反共振点A1,A2付近でのドリブン部材15の実際の振動振幅を良好に小さくすることができる。従って、低回転側の反共振点A1の振動数fa
1を上述のような範囲内で減衰すべき振動(共振)の振動数に一致させたり(より近づけたり)、高回転側の反共振点A2の振動数fa
2を他の減衰すべき振動(共振)の振動数に一致させたりすることで、回転慣性質量ダンパ20を含むダンパ装置10の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。そして、回転慣性質量ダンパ20のヒステリシスを上述のようにして低減化することは、当該回転慣性質量ダンパ20による振動減衰効果をより向上させる上で極めて有効である。
【0075】
また、ダンパ装置10において、サンギヤとしてのドリブン部材15、複数のピニオンギヤ23およびリングギヤ25は、ダンパ装置10の径方向からみて第1および第2スプリングSP1,SP2(並びに内側スプリングSPi)と軸方向に少なくとも部分的に重なり合う。これにより、ダンパ装置10の軸長の増加を抑制すると共に、回転慣性質量ダンパ20の質量体として機能するリングギヤ25の重量の増加を抑制しつつ、リングギヤ25をダンパ装置10の外周側に配置して当該リングギヤ25の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくし、慣性トルクをより効率よく得ることができる。
【0076】
更に、ダンパ装置10では、遊星歯車21の作用により、質量体としてのリングギヤ25の回転速度をドライブ部材11(キャリヤ)よりも増速させることができる。従って、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に付与される慣性トルクを良好に確保しつつ質量体としてのリングギヤ25の軽量化を図ると共に、回転慣性質量ダンパ20やダンパ装置10全体の設計の自由度を向上させることが可能となる。ただし、リングギヤ25(質量体)の慣性モーメントの大きさによっては、回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車21)は、リングギヤ25をドライブ部材11よりも減速させるように構成されてもよい。また、遊星歯車21は、ダブルピニオン式の遊星歯車であってもよい。更に、ドリブン部材15の外歯15t、ピニオンギヤのギヤ歯23tおよびリングギヤ25の内歯25tは、弦巻線状の歯筋を有するはすば歯であってもよく、軸心と平行に延びる歯筋を有するものであってもよい。
【0077】
なお、上述のように、2つの反共振点A1,A2を設定できるようにすることで、反共振点A1をより低周波側にシフトさせることが可能となるが、ダンパ装置10が適用される車両や原動機等の諸元によっては、式(5)の重解(=1/2π・√{(k
1+k
2)/(2・J
2)}を上記最小振動数fa
1としてもよい。このように、式(5)の重解に基づいて第1および第2スプリングSP1,SP2のばね定数k
1,k
2,と中間部材12の慣性モーメントJ
2とを定めても、
図5における破線で示すように、エンジンEGからの振動が大きくなりがちなロックアップ領域の低回転数域におけるダンパ装置10の振動減衰効果を向上させることができる。
【0078】
また、上記ダンパ装置10では、第1および第2スプリングSP1,SP2として、同一の諸元(ばね定数)を有するものが採用されているが、これに限られるものではない。すなわち、第1および第2スプリングSP1,SP2のばね定数k
1,k
2は、互いに異なっていてもよい(k
1>k
2、またはk
1<k
2)。これにより、式(6)および(8)における√の項(判別式)の値をより大きくすることができるので、2つの反共振点A1,A2の間隔をより大きくして、低周波域(低回転数域)におけるダンパ装置の振動減衰効果をより向上させることが可能となる。この場合、ダンパ装置10には、第1および第2スプリングSP1,SP2のうちの一方(例えば、より低い剛性を有する一方)の撓みを規制するストッパが設けられるとよい。
【0079】
更に、上記回転慣性質量ダンパ20のリングギヤ25は、内周面が内歯25tの歯先よりも僅かに径方向内側に位置するようにギヤ本体250に固定される2枚の側板251を含むが、これに限られるものではない。すなわち、リングギヤ25の各側板251(被支持部)は、内周面が内歯25tの歯底よりも径方向内側に位置すると共に、ピニオンギヤ23を支持するピニオンシャフト24よりも径方向外側に位置するように、ギヤ本体250に固定されればよく、ピニオンギヤ23(ギヤ本体230)の径方向支持部230sは、上述のものよりも縮径化されてもよい。すなわち、リングギヤ25の各側板251の内周面をピニオンシャフト24により近接させることで、ピニオンギヤ23によってリングギヤ25の軸方向の移動を極めて良好に規制することが可能となる。
【0080】
また、ピニオンギヤ23によりリングギヤ25の軸方向の移動を規制するためには、リングギヤ25から側板251を省略すると共に、ピニオンギヤ23に、ギヤ歯23tの両側で径方向外側に突出する例えば環状に形成された一対の支持部を設けてもよい。この場合、ピニオンギヤ23の支持部は、少なくともリングギヤ25の内歯25tの側面と対向するように形成されるとよく、ギヤ本体250の側面の一部と対向するように形成されてもよい。
【0081】
更に、
図9に示す発進装置1Xのダンパ装置10Xのように、ドリブン部材15Xをタービンランナ5に一体回転するように連結する代わりに、中間部材12Xをタービンランナ5に一体回転するように連結してもよい。これにより、中間部材12Xの実質的な慣性モーメントJ
2(中間部材12Xやタービンランナ5等の慣性モーメントの合計値)をより大きくすることができる。この場合、式(8)からわかるように、反共振点A1の振動数fa
1をより一層小さくして当該反共振点A1をより低回転側(低周波側)に設定することが可能となる。
【0082】
また、ダンパ装置10,10Xにおいて、ドライブ部材11に遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)すると共に、ドリブン部材15を遊星歯車21のキャリヤとして構成してもよい。更に、ダンパ装置10,10Xにおいて、中間部材12,12Xに遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)すると共に、ドライブ部材11またはドリブン部材15を遊星歯車21のキャリヤとして構成してもよい。また、ダンパ装置10,10Xにおいて、中間部材12,12Xを遊星歯車21のキャリヤとして構成すると共に、ドライブ部材11またはドリブン部材15に遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)してもよい。
【0083】
図10は、本開示における他の変形態様のダンパ装置10Yを含む発進装置1Yを示す概略構成図である。なお、発進装置1Yやダンパ装置10Yの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0084】
図10に示すダンパ装置10Yは、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11Yと、中間部材(中間要素)12Yと、ドリブン部材(出力要素)15Yとを含む。更に、ダンパ装置10Yは、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11Yと中間部材12Yとの間でトルクを伝達する複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1と、それぞれ対応する第1スプリングSP1と直列に作用して中間部材12Yとドリブン部材15Yとの間でトルクを伝達する複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2とを含む。複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1、中間部材12Y、複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2は、ドライブ部材11Yとドリブン部材15Yとの間でトルク伝達経路TPを構成する。更に、中間部材12Yは、図示するように、タービンランナ5に一体回転するように連結される。ただし、タービンランナ5は、
図10において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11およびドリブン部材15の何れか一方に連結されてもよい。
【0085】
また、回転慣性質量ダンパ20Yは、上記回転慣性質量ダンパ20と同様にシングルピニオン式の遊星歯車21により構成され、ドライブ部材11Yとドリブン部材15Yとの間にトルク伝達経路TPと並列に設けられる。回転慣性質量ダンパ20Yにおいて、ドライブ部材11Y(第1および第2入力プレート部材111,112)は、複数のピニオンギヤ23を回転自在に支持して遊星歯車21のキャリヤとして機能する。また、ドリブン部材15Yには、外歯15tを有し、遊星歯車21のサンギヤとして機能する。そして、回転慣性質量ダンパ20Yにおいても、ピニオンギヤ23によって質量体としてのリングギヤ25の軸方向の移動が規制される。
【0086】
更に、ダンパ装置10Yは、ドライブ部材11Yと中間部材12Yとの相対回転、すなわち第1スプリングSP1の撓みを規制する第1ストッパST1と、中間部材12Yとドリブン部材15Yとの相対回転、すなわち第2スプリングSP2の撓みを規制する第2ストッパST2とを含む。第1および第2ストッパST1,ST2の一方は、ドライブ部材11Yへの入力トルクがダンパ装置10Yの最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2よりも小さい予め定められたトルクT1に達してドライブ部材11Yのドリブン部材15Yに対する捩れ角が所定角度θref以上になると、ドライブ部材11Yと中間部材12Yとの相対回転、または中間部材12Yとドリブン部材15Yとの相対回転を規制する。また、第1および第2ストッパST1,ST2の他方は、ドライブ部材11Yへの入力トルクがトルクT2に達すると、中間部材12Yとドリブン部材15Yとの相対回転、またはドライブ部材11Yと中間部材12Yとの相対回転を規制する。
【0087】
これにより、第1および第2ストッパST1,ST2の一方が作動するまで、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、第1および第2ストッパST1,ST2の一方が作動すると、第1および第2スプリングSP1,SP2の一方の撓みが規制される。そして、第1および第2ストッパST1,ST2の双方が作動すると、第1および第2スプリングSP1,SP2の双方の撓みが規制される。従って、ダンパ装置10Yも、2段階(2ステージ)の減衰特性を有することになる。なお、第1または第2ストッパST1,ST2は、ドライブ部材11Yとドリブン部材15Yとの相対回転を規制するように構成されてもよい。
【0088】
このような構成を有するダンパ装置10Yにおいても、上述のダンパ装置10と同様の作用効果を得ることが可能となる。また、ダンパ装置10Yでは、第1および第2スプリングSP1,SP2の何れか一方が他方の径方向外側で周方向に間隔をおいて並ぶように配設されてもよい。すなわち、例えば複数の第1スプリングSP1が流体室9内の外周側領域に周方向に間隔をおいて並ぶように配設されてもよく、例えば複数の第2スプリングSP2が複数の第1スプリングSP1の径方向内側で周方向に間隔をおいて並ぶように配設されてもよい。この場合、第1および第2スプリングSP1,SP2は、径方向からみて少なくとも部分的に重なるように配置されてもよい。
【0089】
更に、ダンパ装置10Yにおいて、ドライブ部材11Yに遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)すると共に、ドリブン部材15Yを遊星歯車21のキャリヤとして構成してもよい。更に、ダンパ装置10Yにおいて、中間部材12Yに遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)すると共に、ドライブ部材11Yまたはドリブン部材15Yを遊星歯車21のキャリヤとして構成してもよい。また、ダンパ装置10Yにおいて、中間部材12Yを遊星歯車21のキャリヤとして構成すると共に、ドライブ部材11Yまたはドリブン部材15Yに遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)してもよい。
【0090】
図11は、本開示における更に他の変形態様のダンパ装置10Zを含む発進装置1Zを示す概略構成図である。なお、発進装置1Zやダンパ装置10Zの構成要素のうち、上述の発進装置1やダンパ装置10等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0091】
図11に示すダンパ装置10Zは、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11Zと、第1中間部材(第1中間要素)13と、第2中間部材(第2中間要素)14と、ドリブン部材(出力要素)15Zとを含む。更に、ダンパ装置10Zは、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11と第1中間部材13との間でトルクを伝達する複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′と、第1中間部材13と第2中間部材14との間でトルクを伝達する複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′と、第2中間部材14とドリブン部材15Zとの間でトルクを伝達する複数の第3スプリング(第3弾性体)SP3とを含む。複数の第1スプリング(第1弾性体)SP1′、第1中間部材13、複数の第2スプリング(第2弾性体)SP2′、第2中間部材14、複数の第3スプリング(第3弾性体)SP3は、ドライブ部材11Zとドリブン部材15Zとの間でトルク伝達経路TPを構成する。また、回転慣性質量ダンパ20Zは、上記回転慣性質量ダンパ20,20Yと同様にシングルピニオン式の遊星歯車21により構成され、ドライブ部材11Zとドリブン部材15Zとの間にトルク伝達経路TPと並列に設けられる。更に、第1中間部材13は、タービンランナ5に一体回転するように連結される。ただし、タービンランナ5は、
図11において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11およびドリブン部材15Zの何れか一方に連結されてもよい。
【0092】
このような第1および第2中間部材13,14を有するダンパ装置10Zでは、第1〜第3スプリングSP1′,SP2′およびSP3のすべての撓みが許容されている際に、トルク伝達経路TPにおいて3つの共振が発生する。すなわち、トルク伝達経路TPでは、第1〜第3スプリングSP1′〜SP3の撓みが許容されている際に、ドライブ部材11Zとドリブン部材15Zとが互いに逆位相で振動することによるダンパ装置10Z全体の共振が発生する。また、トルク伝達経路TPでは、第1〜第3スプリングSP1′〜SP3の撓みが許容されている際に、第1および第2中間部材13,14がドライブ部材11Zおよびドリブン部材15Zの双方と逆位相で振動することによる共振が発生する。更に、トルク伝達経路TPでは、第1〜第3スプリングSP1′〜SP3の撓みが許容されている際に、第1中間部材13がドライブ部材11Zとは逆位相で振動し、第2中間部材14が第1中間部材13とは逆位相で振動し、かつドリブン部材15Zが第2中間部材14とは逆位相で振動することによる共振が発生する。従って、ダンパ装置10Zでは、ドライブ部材11Zからトルク伝達経路TPを介してドリブン部材15Zに伝達される振動と、ドライブ部材11Zから回転慣性質量ダンパ20Zを介してドリブン部材15Zに伝達される振動とが理論上互いに打ち消し合うことになる反共振点を合計3つ設定することが可能となる。
【0093】
そして、ドリブン部材15Zの振動振幅を理論上ゼロにし得る(より低下させ得る)3つの反共振点のうち、最も低回転側の第1の反共振点を500rpmから1500rpmまでの低回転数域(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内に設定することで、トルク伝達経路TPで発生する共振のうち振動数が最小の何れかをロックアップクラッチ8の非ロックアップ領域に含まれるように、より低回転側(低周波側)にシフトさせることができる。この結果、より低い回転数でのロックアップを許容すると共に、エンジンEGからの振動が大きくなりがちな低回転数域におけるダンパ装置10Zの振動減衰性能を極めて良好に向上させることが可能となる。また、ダンパ装置10Zでは、第1の反共振点よりも高回転側(高周波側)の第2の反共振点を例えば変速機TMの入力軸ISの共振点(の振動数)に一致させたり(より近づけたり)、第2の反共振点よりも高回転側(高周波側)の第3の反共振点を例えばダンパ装置10Z内の共振点(の振動数)に一致させたり(より近づけたり)することで、これらの共振の発生をも良好に抑制することができる。
【0094】
なお、ダンパ装置10Zは、3つ以上の中間部材をトルク伝達経路TPに含むように構成されてもよい。また、タービンランナ5は、第2中間部材14に連結されてもよく、
図11において二点鎖線で示すように、ドライブ部材11Zおよびドリブン部材15Zの何れか一方に連結されてもよい。更に、ダンパ装置10Zにおいて、ドライブ部材11Zに遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)すると共に、ドリブン部材15Zを遊星歯車21のキャリヤとして構成してもよい。また、ダンパ装置10Zにおいて、例えば第1中間部材13に遊星歯車21のサンギヤを連結(一体化)してもよく、例えば第1中間部材13を遊星歯車21のキャリヤとして構成してもよい。
【0095】
図12は、上述のダンパ装置10,10X,10Y,10Zに適用可能な他の回転慣性質量ダンパ20Bを示す要部拡大図である。なお、回転慣性質量ダンパ20Bの構成要素のうち、上述の回転慣性質量ダンパ20と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0096】
回転慣性質量ダンパ20Bの遊星歯車21Bは、外周に外歯15tを含んでサンギヤとして機能するドリブン部材15と、それぞれ外歯15tに噛合する複数のピニオンギヤ23Bを回転自在に支持してキャリヤとして機能する第1および第2入力プレート部材111,112と、各ピニオンギヤ23Bに噛合する内歯25tを有すると共にサンギヤとしてのドリブン部材15(外歯15t)と同心円上に配置されるリングギヤ25Bとにより構成される。ドリブン部材15の外歯15tは、第1および第2スプリングSP1,SP2や図示しない内側スプリング等よりも径方向外側に位置する。また、サンギヤとしてのドリブン部材15、複数のピニオンギヤ23Bおよびリングギヤ25Bは、流体室内で、ダンパ装置の径方向からみて図示しない第1および第2スプリングSP1,SP2等と軸方向に少なくとも部分的に重なり合う。
【0097】
遊星歯車21Bのピニオンギヤ23Bは、
図12に示すように、外周にギヤ歯(外歯)23tを有する環状のギヤ本体230と、ギヤ本体230の内周面とピニオンシャフト24の外周面との間に配置される複数のニードルベアリング231とを含む。遊星歯車21Bのリングギヤ25Bは、上述のリングギヤ25から2枚の側板251および複数のリベット252を省略したものに相当し、質量体としての環状部250Bと、環状部250Bの内周に形成された内歯25tとを含む。
【0098】
図12に示すように、各ピニオンギヤ23Bの軸方向における両側には、大径ワッシャ238が配置され、大径ワッシャ238とフランジ部115fまたは116f(キャリヤとしての第1または第2入力プレート部材111,112)との間には、当該大径ワッシャ238よりも小径の小径ワッシャ239が配置される。大径ワッシャ238の外径は、各ピニオンギヤ23Bと内歯25tとが噛合した際に、当該大径ワッシャ238がピニオンギヤ23B(ギヤ本体230)の側面と対向すると共にリングギヤ25Bの内歯25tの側面と対向するように定められている。より詳細には、本実施形態の大径ワッシャ238の外周部は、リングギヤ25Bの内歯25tの歯底よりも径方向外側に突出して、当該内歯25tの歯底よりも径方向外側に位置する環状部250Bの側面の一部(内周部)と対向する。また、本実施形態において、小径ワッシャ239の外径は、ピニオンギヤ23Bのギヤ歯23tの歯底円よりも小径であり、小径ワッシャ239の外周は、ニードルベアリング231よりも径方向外側に位置する。
【0099】
上述のように構成される回転慣性質量ダンパ20Bにおいても、ドリブン部材15の外歯15tが、第1および第2スプリングSP1,SP2よりもダンパ装置の径方向における外側に位置する。これにより、第1および第2スプリングSP1,SP2に作用する遠心力を低下させ、当該第1および第2スプリングSP1,SP2のヒステリシスを良好に低減化することが可能となる。また、回転慣性質量ダンパ20Bでは、質量体として機能するリングギヤ25Bの軸方向の移動が各ピニオンギヤ23Bの軸方向における両側に配置される大径ワッシャ238により規制される。これにより、例えばリングギヤ25Bが第1および第2入力プレート部材111,112により両側から支持されるとした場合に比べて、回転慣性質量ダンパ20Bのヒステリシスすなわち上記トルク差ΔTを良好に低減化することができる。従って、第1および第2スプリングSP1,SP2を含むトルク伝達経路におけるヒステリシスと、回転慣性質量ダンパ20Bのヒステリシスとの双方を良好に低減化し、上記反共振点A1,A2付近でのドリブン部材15の実際の振動振幅を良好に小さくすることが可能となる。この結果、低回転側の反共振点A1の振動数fa
1を上述のような範囲内で減衰すべき振動(共振)の振動数に一致させたり(より近づけたり)、高回転側の反共振点A2の振動数fa
2を他の減衰すべき振動(共振)の振動数に一致させたりすることで、回転慣性質量ダンパ20Bを含むダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることができる。すなわち、回転慣性質量ダンパ20Bを含むダンパ装置においても、上述のダンパ装置10等と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【0100】
更に、各ピニオンギヤ23Bと第1、第2入力プレート部材111,112との間に上述のような大径ワッシャ238および小径ワッシャ239を配置することで、各ピニオンギヤ23Bと大径ワッシャ238との相対速度を小さくして回転慣性質量ダンパ20Bのヒステリシスを低減化しつつ、大径ワッシャ238によりリングギヤ25Bの軸方向への移動を規制することが可能となる。また、回転慣性質量ダンパ20Bでは、リングギヤ25Bから側板や複数のリベットを省略することができるので、部品点数を削減すると共に当該回転慣性質量ダンパ20Bひいてはダンパ装置のコンパクト化(軸長の短縮化)および軽量化を図ることが可能となる。なお、大径ワッシャ238と小径ワッシャ239とは、一体化されてもよい。
【0101】
以上説明したように、本開示のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11,11Y,11Z)および出力要素(15,15Y,15Z)を含む複数の回転要素と、前記入力要素(11,11Y,11Z)と前記出力要素(15,15Y,15Z)との間でトルクを伝達する弾性体(SP1,SP1′,SP2,SP2′,SP3)と、前記複数の回転要素の何れかである第1回転要素と前記第1回転要素とは異なる第2回転要素との相対回転に応じて回転する質量体(25)を有する回転慣性質量ダンパ(20,20Y,20Z)とを含むダンパ装置(10,10X,10Y,10Z)において、前記回転慣性質量ダンパ(20,20Y,20Z)は、前記第1回転要素と一体に回転するサンギヤ(15,15t,15Y,15Z)と、複数のピニオンギヤ(23)を回転自在に支持すると共に前記第2回転要素と一体に回転するキャリヤ(11,111,112)と、前記複数のピニオンギヤ(23)に噛合すると共に前記質量体として機能するリングギヤ(25)とを含む遊星歯車(21)を有し、前記サンギヤの外歯(15t)は、前記弾性体(SP1,SP1′,SP2,SP2′,SP3)よりも前記ダンパ装置(10,10X,10Y,10Z)の径方向における外側に位置し、前記サンギヤ(15,15t,15Y,15Z)、前記複数のピニオンギヤ(23)および前記リングギヤ(25)は、前記径方向からみて前記弾性体と前記ダンパ装置の軸方向に少なくとも部分的に重なり、前記リングギヤ(25)の前記軸方向への移動は、前記複数のピニオンギヤ(23)により規制されるものである。
【0102】
このダンパ装置において、弾性体を経由して出力要素に伝達されるトルクは、出力要素にトルクを伝達する弾性体の変位に依存(比例)したものとなる。また、回転慣性質量ダンパは、第1回転要素と第2回転要素との間に配置される弾性体と並列に作用し、回転慣性質量ダンパを経由して出力要素に伝達されるトルクは、第1回転要素と第2回転要素との角加速度の差、すなわち第1回転要素と第2回転要素との間に配置される弾性体の変位の2回微分値に依存(比例)したものとなる。従って、ダンパ装置の入力要素に伝達される入力トルクが周期的に振動していると仮定すれば、弾性体を介して出力要素に伝達される振動の位相と、回転慣性質量ダンパを経由して入力要素から出力要素に伝達される振動の位相とは、180°ずれることになる。すなわち、このダンパ装置では、出力要素の振動振幅が理論上ゼロになる反共振点を設定することができる。
【0103】
また、このダンパ装置では、回転慣性質量ダンパを構成するサンギヤの外歯は、入力要素と出力要素との間でトルクを伝達する弾性体よりもダンパ装置の径方向における外側に位置する。このように、ダンパ装置の弾性体を回転慣性質量ダンパの遊星歯車よりも径方向内側に配置することで、弾性体に作用する遠心力を低下させて、当該弾性体のヒステリシスを低減化することが可能となる。更に、このダンパ装置では、回転慣性質量ダンパの質量体として機能するリングギヤの軸方向への移動が複数のピニオンギヤによって規制される。これにより、互いに噛合するリングギヤとピニオンギヤとの相対速度は、リングギヤとキャリヤとの相対速度よりも小さくなることから、例えば遊星歯車のキャリヤとして機能する部材によりリングギヤの軸方向の移動を規制する場合に比べて、回転慣性質量ダンパのヒステリシスを良好に低減化することができる。
【0104】
この結果、弾性体のヒステリシスと、回転慣性質量ダンパのヒステリシスとの双方を良好に低減化し、上記反共振点付近での出力要素の振動振幅を良好に小さくすることが可能となる。従って、反共振点の振動数をダンパ装置により減衰すべき振動(共振)の振動数に一致させる(より近づける)ことで、回転慣性質量ダンパを含むダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることができる。そして、回転慣性質量ダンパのヒステリシスを低減化することは、当該回転慣性質量ダンパによる振動減衰効果をより向上させる上で極めて有効である。加えて、このダンパ装置において、サンギヤ、複数のピニオンギヤおよびリングギヤは、ダンパ装置の径方向からみて弾性体と軸方向に少なくとも部分的に重なり合う。これにより、ダンパ装置の軸長の増加を抑制すると共に、回転慣性質量ダンパの質量体として機能するリングギヤの重量の増加を抑制しつつ、当該リングギヤの慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくして慣性トルクをより効率よく得ることが可能となる。
【0105】
また、前記遊星歯車(21)の前記リングギヤ(25)は、該リングギヤ(25)の内歯(25t)の前記軸方向における両側で、それぞれ少なくとも前記ピニオンギヤ(23)の側面と対向するように前記径方向における内側に突出する一対の被支持部(251)を含んでもよい。これにより、リングギヤとピニオンギヤとの相対速度が概ねゼロになる両者(内歯およびギヤ歯)の噛み合い位置付近で、ピニオンギヤによりリングギヤの軸方向への移動を規制することができるので、回転慣性質量ダンパのヒステリシスを極めて良好に低減化することが可能となる。
【0106】
更に、前記リングギヤ(25)の前記被支持部(251)の内周面は、前記内歯(25t)の歯底よりも前記径方向における内側に位置すると共に、前記ピニオンギヤ(23)を支持するピニオンシャフト(24)よりも前記径方向における外側に位置してもよい。これにより、ピニオンギヤによってリングギヤの軸方向への移動を良好に規制することが可能となる。
【0107】
また、前記ピニオンギヤ(23)は、前記ギヤ歯(23t)の歯底よりも該ピニオンギヤ(23)の前記径方向における内周側で、該ギヤ歯(23t)の前記軸方向における両側に突出する環状の径方向支持部(230s)を含んでもよく、前記リングギヤ(25)の前記被支持部(251)の前記内周面は、前記ピニオンギヤ(23)の前記径方向支持部(230s)により前記径方向に支持されてもよい。これにより、回転慣性質量ダンパの質量体として機能するリングギヤをピニオンギヤにより精度よく調心して当該リングギヤをスムースに回転させることが可能となる。
【0108】
本開示の他のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11,11Y,11Z)および出力要素(15,15Y,15Z)を含む複数の回転要素と、前記入力要素(11,11Y,11Z)と前記出力要素(15,15Y,15Z)との間でトルクを伝達する弾性体(SP1,SP1′,SP2,SP2′,SP3)と、前記複数の回転要素の何れかである第1回転要素と前記第1回転要素とは異なる第2回転要素との相対回転に応じて回転する質量体(25B)を有する回転慣性質量ダンパ(20B)とを含むダンパ装置(10,10X,10Y,10Z)において、前記回転慣性質量ダンパ(20B)は、前記第1回転要素と一体に回転するサンギヤ(15)と、複数のピニオンギヤ(23B)を回転自在に支持すると共に前記第2回転要素と一体に回転するキャリヤ(11,111,112)と、前記複数のピニオンギヤ(23B)に噛合すると共に前記質量体として機能するリングギヤ(25B)とを含む遊星歯車(21B)を有し、前記サンギヤの外歯(15t)は、前記弾性体(SP1,SP1′,SP2,SP2′,SP3)よりも前記ダンパ装置(10,10X,10Y,10Z)の径方向における外側に位置し、前記サンギヤ(15,15t,15Y,15Z)、前記複数のピニオンギヤ(23B)および前記リングギヤ(25B)は、前記径方向からみて前記弾性体と前記ダンパ装置の軸方向に少なくとも部分的に重なり、前記ピニオンギヤ(23B)の各々の前記軸方向における両側には、ワッシャ(238)が配置され、前記リングギヤ(23B)の前記軸方向への移動が、前記ワッシャ(238)により規制されるものである。
【0109】
このダンパ装置においても、出力要素の振動振幅が理論上ゼロになる反共振点を設定することができる。また、このダンパ装置においても、回転慣性質量ダンパを構成するサンギヤのギヤ歯が、入力要素と出力要素との間でトルクを伝達する弾性体よりもダンパ装置の径方向における外側に位置する。これにより、弾性体に作用する遠心力を低下させて、当該弾性体のヒステリシスを低減化することが可能となる。更に、このダンパ装置では、回転慣性質量ダンパの質量体として機能するリングギヤの軸方向の移動が各ピニオンギヤの軸方向における両側に配置されるワッシャにより規制される。これにより、例えば遊星歯車のキャリヤとして機能する部材によりリングギヤの軸方向の移動を規制する場合に比べて、回転慣性質量ダンパのヒステリシスを良好に低減化することができる。この結果、弾性体のヒステリシスと、回転慣性質量ダンパのヒステリシスとの双方を低減化し、上記反共振点付近での出力要素の振動振幅を良好に小さくすることが可能となる。従って、反共振点の振動数をダンパ装置により減衰すべき振動(共振)の振動数に一致させる(より近づける)ことで、回転慣性質量ダンパを含むダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることができる。
【0110】
また、前記ワッシャは、前記ピニオンギヤの側面と対向すると共に前記リングギヤのギヤ歯の側面と対向するように配置される大径ワッシャと、前記大径ワッシャと前記キャリヤとの間に配置される該大径ワッシャよりも小径の小径ワッシャとを含んでもよい。これにより、各ピニオンギヤと大径ワッシャとの相対速度を小さくして回転慣性質量ダンパのヒステリシスを低減化しつつ、大径ワッシャによりリングギヤの軸方向への移動を規制することが可能となる。
【0111】
更に、前記複数の回転要素は、中間要素(12,12X,12Y)を含んでもよく、前記弾性体(SP1,SP2)は、前記入力要素(11,11Y)と前記中間要素(12,12X,12Y)との間でトルクを伝達する第1弾性体(SP1)と、前記中間要素(12,12X,12Y)と前記出力要素(15,15X,15Y)との間でトルクを伝達する第2弾性体(SP2)とを含んでもよく、前記第1回転要素は、前記入力要素(11,11Y)および前記出力要素(15,15X,15Y)の一方であってもよく、前記第2回転要素は、前記入力要素(11,11Y)および前記出力要素(15,15X,15Y)の他方であってもよい。かかるダンパ装置では、第1および第2弾性体すべての撓みが許容されている際に、中間要素と第1および第2弾性体とにより構成されるトルク伝達経路において2つの共振が発生する。従って、このダンパ装置では、上述の反共振点を2つ設定することが可能となる。これにより、2つの反共振点の振動数を当該ダンパ装置により減衰すべき振動(共振)の振動数に一致させる(より近づける)ことで、ダンパ装置の振動減衰性能を極めて良好に向上させることができる。加えて、反共振点を2つ設定可能にすることで、複数の反共振点のうち、振動数が最小となる反共振点をより低周波側にシフトさせると共に、より広い回転数域で振動減衰性能を向上させることが可能となる。
【0112】
また、前記入力要素(11,11Y)は、前記軸方向に沿って互いに対向すると共に前記複数のピニオンギヤ(23)を回転自在に支持して前記キャリヤとして機能する2枚の入力プレート部材(111,112)を含んでもよく、前記出力要素(15,15X,15Y)は、前記2枚の入力プレート部材(111,112)の前記軸方向における間に配置されると共に、外周に前記外歯(15t)を含んで前記サンギヤとして機能する1枚の出力プレート部材であってもよく、前記中間要素(12,12X,12Y)は、前記入力要素(11,11Y)および前記出力要素(15,15X,15Y)のうちの少なくとも何れか一方を前記軸方向における両側から挟み込むように配置される2枚の中間プレート部材(121,122)を含んでもよい。これにより、回転慣性質量ダンパや中間要素の設置に伴うダンパ装置の軸長の増加を良好に抑制することが可能となる。
【0113】
更に、前記出力要素(15,15X,15Y)の振動振幅がゼロになる反共振点の振動数のうちの最小振動数(fa
1)に基づいて、少なくとも、前記第1および第2弾性体(SP1,SP2)のばね定数(k
1,k
2)と、前記中間要素(12,12X,12Y)および前記リングギヤ(25)の慣性モーメント(J
2,J
i)とが定められてもよい。
【0114】
また、前記入力要素(11,11Y)には、内燃機関からの動力が伝達されてもよく、前記反共振点の最小振動数(fa
1)と前記内燃機関の気筒数(n)とに基づいて、少なくとも、前記第1および第2弾性体(SP1,SP2)のばね定数(k
1,k
2)と、前記中間要素(12,12X,12Y)および前記リングギヤ(25)の慣性モーメント(J
2,J
i)とが定められてもよい。
【0115】
更に、前記ダンパ装置(10,10X,10Y)は、前記反共振点(A1)の前記最小振動数を“fa
1”とし、前記内燃機関の気筒数を“n”としたときに、500rpm≦(120/n)・fa
1≦1500rpmを満たすように構成されてもよい。
【0116】
このように、出力要素の振動振幅をより低下させ得る反共振点を500rpmから1500rpmまでの低回転数域内に設定することで、より低い回転数での内燃機関と入力要素との連結を許容すると共に、内燃機関からの振動が大きくなりがちな低回転数域におけるダンパ装置の振動減衰効果をより向上させることが可能となる。そして、トルク伝達経路で発生する共振のうち、振動数が最小となる共振の振動数が反共振点の振動数fa
1よりも小さく、かつできるだけ小さい値になるようにダンパ装置を構成することで、反共振点の振動数fa
1をより小さくし、より一層低い回転数での内燃機関と入力要素との連結を許容することができる。
【0117】
また、前記ダンパ装置(10,10X,10Y)は、前記内燃機関と前記入力要素(11,11Y)とを連結するロックアップクラッチ(8)のロックアップ回転数を“Nlup”としたときに、Nlup≦(120/n)・faを満たすように構成されてもよい。これにより、ロックアップクラッチにより内燃機関と入力要素とを連結する際や両者の連結直後に、内燃機関からの振動をダンパ装置により極めて良好に減衰することが可能となる。
【0118】
更に、前記ダンパ装置(10,10X,10Y)は、900rpm≦(120/n)・fa≦1200rpmを満たすように構成されてもよい。
【0119】
また、前記反共振点(A1)の前記最小振動数fa
1は、上記式(8)により表されてもよい。なお、式(8)において“γ=1/λ(1+λ)”とすれば、“γ”は、入力要素、中間要素および出力要素に対する遊星歯車の回転要素の接続態様と、当該遊星歯車のギヤ比とから定まる定数となる。
【0120】
更に、前記第1弾性体(SP1)のばね定数(k
1)と、前記第2弾性体(SP2)のばね定数(k
2)とが同一であってもよい。
【0121】
また、前記第1弾性体(SP1)のばね定数(k
1)と、前記第2弾性体(SP2)のばね定数(k
2)とが互いに異なっていてもよい。これにより、2つの反共振点の間隔をより大きくして、低周波域(低回転数域)におけるダンパ装置の振動減衰効果をより向上させることが可能となる。
【0122】
更に、前記ダンパ装置(10,10X,10Y,10Z)は、前記入力要素(11,11Y,11Z)に伝達される入力トルク(T)が予め定められた閾値(T1)以上になるまで、前記弾性体(SP1,SP1′,SP2,SP2′,SP3)の撓みが規制されないように構成されてもよい。この場合、閾値は、ダンパ装置の最大捩れ角に対応したトルク値であってもよく、それよりも小さいトルク値であってもよい。
【0123】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。