(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462880
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】アセナピン含有貼付剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/407 20060101AFI20190121BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20190121BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20190121BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20190121BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20190121BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20190121BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20190121BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
A61K31/407
A61P25/18
A61K9/70 401
A61K47/02
A61K47/32
A61K47/18
B32B27/00 M
B32B27/18 F
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-530822(P2017-530822)
(86)(22)【出願日】2016年7月21日
(86)【国際出願番号】JP2016071449
(87)【国際公開番号】WO2017018321
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-147516(P2015-147516)
(32)【優先日】2015年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】園部 睦
(72)【発明者】
【氏名】安河内 崇
【審査官】
菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/027052(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/017595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/407
A61K 9/70
A61K 47/02
A61K 47/18
A61K 47/32
A61P 25/18
B32B 27/00
B32B 27/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、支持体上に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤の製造方法であって、
アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和し、粘着剤組成物を得る工程と、
粘着剤組成物を成形して粘着剤層を得る工程と、を含む、方法。
【請求項2】
アセナピンの酸付加塩における酸が、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、サリチル酸および安息香酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脱塩剤が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属塩および低分子アミンからなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体が、一種又は二種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー単位として含む重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を含む粘着剤組成物中におけるアセナピンを安定化する方法であって、
アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和して粘着剤組成物を得る工程を含む、方法。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体が、一種又は二種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー単位として含む重合体である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アセナピンを含む粘着剤層を備える貼付剤の製造過程において、アセナピンの分解を抑制する方法であって、
アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和して粘着剤組成物を得る工程と、
粘着剤組成物を成形して粘着剤層を得る工程と、を含む、方法。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体が、一種又は二種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルをモノマー単位として含む重合体である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセナピン含有貼付剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アセナピンは、中枢神経系疾患、特に統合失調症の治療薬として知られる化合物である。アセナピンを含有する貼付剤は、例えば、特許文献1〜4に記載されている。アセナピン遊離塩基を含有する貼付剤は、アセナピンの皮膚透過性に優れることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/127674号
【特許文献2】国際公開第2014/017593号
【特許文献3】国際公開第2014/017594号
【特許文献4】国際公開第2014/017595号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、貼付剤が(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を含有する粘着剤層を備える場合、貼付剤の製造時にアセナピン遊離塩基を用いると、アセナピンが分解され易いことがある。そこで、本発明の目的は、アセナピンが分解されにくい貼付剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、貼付剤の製造時において、アセナピンが分解されにくい方法を検討する過程で、粘着剤層にマレイン酸金属塩を含有させることにより、アセナピンの分解が低減されることを見出した。さらに、貼付剤の製造時に、アセナピン遊離塩基とマレイン酸金属塩を含有する粘着剤組成物を使用する場合よりも、アセナピンの酸付加塩と脱塩剤を含有する粘着剤組成物を使用する場合の方が、アセナピンの分解物の生成量を低減することが可能であることも見出した。
一方、本発明者らの検討によれば、ゴム系粘着剤を含有する粘着剤層を備えた貼付剤の製造においては、貼付剤の製造時にアセナピンの分解はほとんど観察されなかった。貼付剤の製造時におけるアセナピンの分解は、粘着剤組成物中の他の成分との接触、加熱または紫外線等の光への曝露によって生じやすくなるだろうと本発明者らは推測している。
【0006】
したがって、本発明は、支持体と、支持体上に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤の製造方法であって、アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和し、粘着剤組成物を得る工程と、粘着剤組成物を成形して粘着剤層を得る工程と、を含む、方法を提供する。
【0007】
アセナピンの酸付加塩における酸は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、サリチル酸および安息香酸からなる群から選択されることが好ましい。また、脱塩剤は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属塩および低分子アミンからなる群から選択されることが好ましい。
【0008】
本発明はまた、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を含有する粘着剤組成物中におけるアセナピンを安定化する方法であって、アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和して粘着剤組成物を得る工程を含む、方法を提供する。
【0009】
本発明は、アセナピンを含む粘着剤層を備える貼付剤の製造過程において、アセナピンの分解を抑制する方法であって、アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和して粘着剤組成物を得る工程と、粘着剤組成物を成形して粘着剤層を得る工程と、を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る貼付剤の製造方法によれば、貼付剤の製造時におけるアセナピンの分解物の生成量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】アセナピンの分解物の生成量を示すグラフである。
【
図2】アセナピンの分解物の生成量を示すグラフである。
【
図3】アセナピンの分解物の生成量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」との用語は、アクリル酸およびメタクリル酸のいずれか一方または両方を意味し、類似の表現についても同様に定義される。
【0013】
以下に、本発明の実施形態を示して、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明の一実施形態は、支持体と、支持体上に積層された粘着剤層と、を備える貼付剤である。貼付剤は、アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和して粘着剤組成物を得る工程と、粘着剤組成物を成形して粘着剤層を得る工程と、を含む方法によって製造することができる。
【0015】
支持体は、貼付剤、特に粘着剤層の形状を維持し得るものであればよい。支持体の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、カイロン等のポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体、ポリウレタンなどの合成樹脂が挙げられる。支持体の性状は、例えば、フィルム、シート、シート状多孔質体、シート状発泡体、織布、編布、不織布等の布、及びこれらの積層体などである。支持体の厚さは、特に制限されないが、通常、2〜3000μm程度であることが好ましい。
【0016】
粘着剤層は、アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和して得られる粘着剤組成物から形成される。粘着剤層は、好ましくは、ゴム系粘着剤を含有しない。ゴム系粘着剤としては、例えば、天然ゴム、ポリイソブチレン、アルキルビニルエーテル(共)重合体、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0017】
粘着剤層の厚みは、特に制限されず、30〜300μmであってもよい。粘着剤層の厚みが300μmを超えると、被服の着脱時等に貼付剤が脱落しやすくなる。
【0018】
アセナピンは、(3aRS,12bRS)−5−クロロ−2−メチル−2,3,3a,12b−テトラヒドロ−1H−ジベンゾ[2,3:6,7]オキセピノ[4,5−c]ピロールとも呼ばれる化合物であり、以下の化学式で表される。アセナピンは、複数の光学異性体を有しており、いずれの光学異性体であってもよく、ラセミ体等の光学異性体の混合物であってもよい。アセナピンに付加される酸としては、薬学的に許容可能な酸であれば、特に制限されない。アセナピンの酸付加塩は、無水物であってもよく、水和物であってもよい。
【0019】
酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、サリチル酸、安息香酸等が挙げられる。例えば、アセナピンマレイン酸塩は、統合失調症の治療薬として市販されている。
【化1】
【0020】
脱塩剤は、アセナピンの酸付加塩との塩交換反応により、アセナピンの酸付加塩をアセナピン遊離塩基に変換できるものであればよい。すなわち、脱塩剤とは、アセナピンの酸付加塩をアセナピン遊離塩基に変換する成分を意味する。脱塩剤としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属塩、低分子アミンなどが挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。アルカリ金属塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。低分子アミンは、分子量が30〜300であるアミンであり、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどが挙げられる。脱塩剤は、アセナピンに付加される酸のpKaを考慮して選択すればよい。脱塩剤が水酸化ナトリウムであると、貼付剤の製造時において薬物の分解がより少ない。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体は、粘着剤層に粘着性を付与する成分であり、例えば、1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの(共)重合体である。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシルなどが挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(主モノマー)とコモノマーから形成される(共)重合体であってもよい。コモノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合できる成分であればよい。コモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレン、プロピレン、スチレン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸アミドなどが挙げられる。コモノマーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものであってもよい。
【0023】
具体的な(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の例は、DURO−TAK(登録商標)87−900A、DURO−TAK 87−2510、DURO−TAK 87−4287、DURO−TAK 87−2194(商品名、Henkel社製)などが例示される。DURO−TAK 87−2510およびDURO−TAK 87−4287は、その化学構造にヒドロキシ基を有し、DURO−TAK 87−2194は、その化学構造にカルボキシ基を有する。
【0024】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の含有量は、粘着剤層の全質量を基準として50〜98質量%であり、70〜96質量%であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の含有量は、固形分の質量に基づいて計算する。
【0025】
粘着剤層は、その他の添加剤をさらに含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、粘着付与樹脂、可塑剤、吸収促進剤、溶解剤、安定化剤、充填剤、香料などが挙げられる。
【0026】
粘着付与樹脂は、粘着剤層の粘着性を調整する成分である。粘着付与樹脂としては、例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂;ロジン、ロジンのグリセリンエステル、水添ロジン、水添ロジンのグリセリンエステル、ロジンのペンタエリスリトールエステル、マレイン化ロジン等のロジン誘導体;テルペン系粘着付与樹脂;石油系粘着付与樹脂等が挙げられる。粘着付与樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
吸収促進剤は、アセナピンまたはアセナピンの酸付加塩の皮膚透過性を調整する成分である。吸収促進剤としては、従来皮膚への吸収促進作用が認められている化合物であれば特に限定されず、例えば、炭素数6〜20の脂肪族アルコール、炭素数6〜20の脂肪族エーテル、炭素数6〜20の脂肪酸、炭素数6〜20の脂肪酸エステル、炭素数6〜20の脂肪酸アミド、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ポリエチレングリコール及びポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、芳香族系有機酸、芳香族系アルコール、芳香族系有機酸エステル、芳香族系有機エーテル(以上の化合物は飽和及び不飽和のいずれであってもよく、直鎖状及び分岐状のいずれであってもよく、環状構造を含むものであってもよい。)、乳酸エステル類、酢酸エステル類、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン(Azone(商品名))およびその誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル類(Span(登録商標)系)ポリソルベート系(Tween(登録商標)系)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ショ糖脂肪酸エステル類、植物油が挙げられる。吸収促進剤の具体例としては、カプリル酸、カプリン酸、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウリン酸メチル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸イソプロピル、サリチル酸、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、ケイ皮酸、ケイ皮酸メチル、クレゾール、乳酸セチル、乳酸ラウリル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ゲラニオール、チモール、オイゲノール、テルピネオール、l−メントール、ボルネオロール、d−リモネン、イソオイゲノール、イソボルネオール、ネロール、dl−カンフル、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ショ糖モノラウレート、ポリソルベート20、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ニッコール(登録商標)HCO−60、ピロチオデカン(登録商標)、オリーブ油及びソルビタンモノオレエートが挙げられる。吸収促進剤としては、アセナピンの皮膚透過性を顕著に向上させる点から、プロピレングリコールモノラウレート、パルミチン酸イソプロピルが好ましく、パルミチン酸イソプロピルがより好ましい。吸収促進剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
粘着剤層が吸収促進剤を含有する場合、吸収促進剤の含有量は、粘着剤層全体の質量を基準として2〜40質量%であることが好ましい。吸収促進剤の含有量が2質量%以上であると、アセナピンの皮膚透過性がより高まり、充分な薬理作用を示す傾向がある。また、吸収促進剤の含有量が40質量%以下であると、皮膚刺激性を示さない傾向がある。
【0029】
溶解剤は、アセナピンおよびその酸付加塩を粘着剤組成物中に溶解させやすくする成分である。
【0030】
安定化剤は、紫外線等の光線、熱または活性化学種の作用により発生するフリーラジカルの生成およびその連鎖反応の進行を抑制できるものであればよい。安定化剤を含有することにより、貼付剤の製造時におけるアセナピンの安定性をより向上させることができる。安定化剤としては、例えば、トコフェロール及びそのエステル誘導体、アスコルビン酸及びそのエステル誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。安定化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。安定化剤としては、貼付剤としての物性(成形性、外観など)が適切となる点、および、アセナピンがより安定化される点から、ジブチルヒドロキシトルエンが好ましい。
【0031】
粘着剤層が安定化剤を含有する場合、安定化剤の含有量は、粘着剤層全体の質量を基準として0.1〜3質量%であることが好ましい。安定化剤の含有量が0.1〜3質量%であると、貼付剤における各成分の安定性が優れる傾向がある。
【0032】
貼付剤は、さらに剥離ライナーを備えていてもよい。剥離ライナーは、粘着剤層に対して、支持体と反対側の面に積層されている。剥離ライナーを備えていると、保管時において、粘着剤層へのゴミ等の付着を低減することができる傾向がある。
【0033】
剥離ライナーの素材としては、特に限定されず、当業者に一般的に知られているライナーを用いることができる。剥離ライナーの材質としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のフィルム;上質紙とポリオレフィンとのラミネートフィルム;ナイロン(商品名)、アルミニウム等のフィルム等が挙げられる。剥離ライナーの材質としては、ポリプロピレンまたはポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0034】
<貼付剤の製造方法>
本発明の貼付剤は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を混和し、必要に応じて、溶剤、その他の添加剤等を加えて混和し、均一な粘着剤組成物を得る。次いで、得られた粘着剤組成物を支持体の片方の面上に所定の厚みで塗布した後、必要に応じて加温して溶剤を乾燥除去し、所望の大きさに裁断することにより、貼付剤を得る。なお、加温の条件としては、前記溶剤に応じて適宜選択することができ、温度条件としては、60〜120℃であることが好ましく、加温時間は、例えば、2〜30分間である。
【0035】
剥離ライナーを備える貼付剤を製造する場合には、粘着剤組成物を支持体に塗布した後、溶剤を乾燥除去した後に剥離ライナーを積層してもよい。また、剥離ライナーを備える貼付剤を製造する場合には、粘着剤組成物を剥離ライナーの片方の面上に所定の厚みで塗布した後、必要に応じて加温して溶剤を乾燥除去し、支持体を積層させ、所望の大きさに裁断することにより、貼付剤を得てもよい。
【0036】
上記製造方法で使用する粘着剤組成物は、アセナピンの酸付加塩、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体及び脱塩剤を含有し、必要に応じて、溶剤、その他の添加剤等をさらに含有する。
【0037】
溶剤は、粘着剤組成物に含有される他の成分と反応しないものであればよく、粘着剤組成物の粘性を調整するために添加される。溶剤としては、例えば、卜ルエン、エタノール、メタノール、酢酸エチル等が挙げられる。溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の含有量は、粘着剤組成物の粘性を考慮して、調整すればよい。
【0038】
粘着剤組成物におけるアセナピンの酸付加塩の含有量は、粘着剤組成物全体の質量を基準として0.5〜50質量%であることが好ましく、4.2〜21質量%であることがより好ましい。
【0039】
粘着剤組成物における(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の含有量は、粘着剤組成物全体の質量を基準として50〜98質量%であることが好ましく、70〜96質量%であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の含有量が50質量%以上であると、凝集力が低下せず、粘着力が低下しない傾向がある。
【0040】
粘着剤組成物における脱塩剤の含有量は、粘着剤組成物全体の質量を基準として0.05〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例と比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。なお、DURO−TAK 87−2516、DURO−TAK 87−4287、DURO−TAK 87−2194、DURO−TAK 87−900A及びDURO−TAK 87−2510は固形分の質量に基づいて計算した。
【0042】
(1)貼付剤の製造
表1に記載の成分をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物をポリエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去することにより、粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断して、所望の貼付剤を得た。なお、表1中の数字は、質量%を意味する。
【表1】
【0043】
(2)分解物の生成量測定
得られた貼付剤の粘着剤層をテトラヒドロフラン(高速液体クロマトグラフィー用グレード)10mLに浸漬して抽出し、下記移動相として記載の溶媒40mLを加えてろ過した後、以下の分析条件で高速液体クロマトグラフィーにより、アセナピンの分解物の生成量を測定した。アセナピンの分解物の生成量は、得られたクロマトグラムにおいて、アセナピンに対応するピークの曲線下面積に対する、アセナピンの分解物に対応するピークの曲線下面積の値で示した。アセナピンの分解物の生成量は、アセナピンに対応するピークの曲線下面積を100として算出した。
<分析条件>
カラム:TSK−gel ODS−80Ts
移動相:メタノール:0.1%リン酸(10mMドデシル硫酸ナトリウム添加)=75:25
測定波長:210nm
流速:1.0mL/分
カラム温度:40℃
試料注入量:10μL
アセナピンの保持時間よりも短い保持時間を有するピークを「アセナピンの分解物1」といい、アセナピンの保持時間よりも長い保持時間を有するピークを「アセナピンの分解物2」という。
【0044】
結果を表2及び
図1に示す。実施例1及び2の貼付剤では、比較例1〜5の貼付剤と比較して、アセナピンの分解物が顕著に低減した。
【表2】
【0045】
(3)貼付剤の製造
表3に記載の成分をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物をポリエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去し、厚みが約100μmである粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断して、所望の貼付剤を得た。なお、表3中の数字は、質量%を意味する。
【表3】
【0046】
(4)分解物の生成量測定
得られた貼付剤の粘着剤層をテトラヒドロフラン(高速液体クロマトグラフィー用グレード)10mLに浸漬して抽出し、上記移動相として記載の溶媒40mLを加えてろ過した後、上述の分析条件で高速液体クロマトグラフィーにより、アセナピンの分解物の生成量を測定した。
【0047】
結果を表4及び
図2に示す。実施例3及び4の貼付剤では、比較例6〜11の貼付剤と比較して、アセナピンの分解物が顕著に低減した。
【表4】
【0048】
(5)貼付剤の製造
表5に記載の成分をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物をポリエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去することにより、粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断して、所望の貼付剤を得た。なお、表5中の数字は、質量%を意味する。
【表5】
【0049】
(6)分解物の生成量測定
得られた貼付剤の粘着剤層をテトラヒドロフラン(高速液体クロマトグラフィー用グレード)10mLに浸漬して抽出し、上記移動相として記載の溶媒40mLを加えてろ過した後、上述の分析条件で高速液体クロマトグラフィーにより、アセナピンの分解物の生成量を測定した。
【0050】
結果を表6及び
図3に示す。実施例5及び6の貼付剤では、比較例12〜17の貼付剤と比較して、アセナピンの分解物が顕著に低減した。
【表6】
【0051】
(7)脱塩剤の検討
実施例1の貼付剤において、水酸化ナトリウムに代えて、等モル量の水酸化カリウムを用いた貼付剤(実施例7)を調製した。実施例7の貼付剤について、アセナピンの分解物の生成量を測定したところ、分解物の生成量は低下した。さらに、実施例1の貼付剤において、水酸化ナトリウムに代えて、等モル量の炭酸ナトリウム(実施例8)、炭酸水素ナトリウム(実施例9)、炭酸カリウム(実施例10)、炭酸水素カリウム(実施例11)を用いた貼付剤を調製した。
【0052】
(8)貼付剤の製造
表7に記載の成分をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物をポリエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去し、厚みが約100μmである粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断して、所望の貼付剤を得た。なお、表7中の数字は、質量%を意味する。
【表7】
【0053】
(9)分解物の生成量測定
結果を表8に示す。実施例12〜14の貼付剤では、比較例18の貼付剤と比較して、アセナピンの分解物が顕著に低減した。表8中、「N.D.」とは検出限界未満であることを意味する。
【表8】
【0054】
(10)貼付剤の製造
表9に記載の成分をそれぞれ秤取し、必要に応じて溶剤を加えて混和し、粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物をポリエステル製の剥離ライナーに塗布し、溶剤を乾燥除去し、厚みが約100μmである粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層に、ポリエステルフィルム(支持体)を積層し、適宜裁断して、所望の貼付剤を得た。なお、表9中の数字は、質量%を意味する。
【表9】
【0055】
(11)分解物の生成量測定
結果を表10に示す。実施例15〜20の貼付剤では、アセナピンの分解物が顕著に少なかった。
【表10】