【実施例】
【0038】
以下、本発明の各実施例について具体的に説明する。なお、第2実施例においては、第1実施例で説明する構成部材と同じ構成部材及び同様な機能を有する構成部材には、第1実施例と同じ符号を付すとともに説明を省略する。
【0039】
<第1実施例>
図1は、本発明の第1実施例に係る移動体用スピーカシステム1Aが設けられた移動体としての車両Cを示す側面図である。
図2(A)は
図1に示す車両Cを構成する車両ボディ11の斜視図であり、
図2(B)は車両ボディ11を構成するピラーの分解斜視図であり、
図2(C)は
図2(A)の概略断面図である。
図3は、
図1に示す車両内の概略正面図である。
図4(A)は
図1に示す車両内の概略側面図であり、
図4(B)は
図4(A)の部分拡大図である。
【0040】
まず、移動体用スピーカシステム1Aを説明する前に、移動体としての車両Cについて説明する。車両Cは、金属製の車両ボディ11と、車両ボディ11の前後方向前側に設けられたフロント開口11Aを覆うウインドシールド(フロントガラス)12と、車両ボディ11の幅方向両側に設けられたサイド開口11Bを覆うサイドドア13と、車両ボディ11の前後方向後ろ側に設けられたリア開口11Cを覆うリアドア14と、を有している。
【0041】
車両Cには、前後方向前側からエンジンルーム、車室が形成され、車室内の後ろにトランクルームが形成されている車もある。
【0042】
車室は、ウインドシールド12や、エンジンルーム及び車室を仕切るダッシュパネル(図示せず)などから構成される前面S1(
図4)と、車両ボディ11の上面(天面)S2及び下面(底面)S3と、車両ボディ11の幅方向側面やサイドドア13などから構成された一対の側面S4(
図3)と、車両ボディ11の後面やリアドア(トランクルームがある車であれば車室及びトランクルームを仕切るリアシェルフ、バルクヘッドやリアウインドウ)などから構成された後面S5(
図4)と、によって囲まれた箱状に形成されている。この車室内に、運転席、助手席、後部座席などの座席SHが複数配置されている。
【0043】
また、上記車両ボディ11は、例えば、
図2及び
図3に示すように、ピラーP1〜P3、サイドシル(図示せず)、リインフォースメント(図示せず)、クロスメンバー(図示せず)といった複数の長尺のフレームと、これらフレームに支持されるパネル11D、11E、11F、11Gやアウターパネルなどから形成されている。ピラーP1〜P3は、車両ボディ11のパネル11D及び11G間を支持する管状のフレームである。ここで、長尺のフレームとは、長手方向と短手方向を有する平面形状を有するフレームを言う。なお、パネル11Dの内面又はパネル11Dに取り付けられたインナーパネルの内面が、上述した上面(天面)S2となり、パネル11Gの内面又はパネル11Dに取り付けられたインナーパネルの内面が、上述した下面(底面)S3となる。
【0044】
ピラーP1〜P3は、サイド開口11Bの枠の一部をなしている。本実施例では、3つのピラーP1〜P3が左右それぞれに設けられている。ピラーP1は、前方側のサイド開口11Bの後枠及び後方側のサイド開口11Bの前枠をなしていて、上下方向に沿って設けられている。また、ピラーP2は、後方側のサイド開口11Bの後枠をなしていて、上下方向に沿っている。ピラーP3は、前方側のサイド開口11Bの前枠をなしていて、上下方向に沿っている。ここで、サイド開口11Bとは、車両ボディ11の側面に設けられた開口をいい、サイドドア13等で開閉される開口である。前枠とは、車両Cの前方側にある枠をいい、後枠とは、車両Cの後方側にある枠を言う。
【0045】
本実施例では、車両ボディ11には3つのピラーP1〜P3が左右それぞれに設けられているが、これに限ったものではなく、ピラーP1〜P3としては1以上設けられていればよい。ピラーP1〜P3は、
図2(C)に示すように、アウターピラーPo及びインナーピラーPiから構成された第1の管部材である。アウターピラーPo及びインナーピラーPiは、長尺状の中間部(板部)21と、中間部21の短手方向両側から延在する一対の端部22と、を有する断面略U字状に形成されている。中間部21は、長尺状で平板状に形成されている。端部22は、中間部21から延び、折り曲げられた又は湾曲した形状を備えている。アウターピラーPo及びインナーピラーPiは、互いの中間部21同士が対向するように一対の端部22の端部同士を重ねている。これにより、管状に形成される。なお、アウターピラーPoの外側にはアウターパネルが配置されるが、
図2(B)及び
図2(C)からは省略されている。
【0046】
本実施例では、アウターピラーPo及びインナーピラーPiは、両者とも断面略U字状に形成されていたが、これに限ったものではない。例えば、アウターピラーPo及びインナーピラーPiの何れか一方を断面略U字状に設け、他方を平板状に設けて、断面略U字状の一方の開口を平板状の他方で塞いで管状に設けるようにしてもよい。
【0047】
次に、移動体用スピーカシステム1Aについて説明する。移動体用スピーカシステム1Aは、
図1、
図3及び
図4に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット21A、22Aと、スピーカユニット21A、22Aを収容する収容部としてのエンクロージャ31A、32Aと、エンクロージャ31A、32Aにそれぞれ接続された音響管41A、42Aと、を備えている。車両Cの前方側には、スピーカユニット21A、エンクロージャ31A、音響管41Aが配置され、車両Cの後方側には、スピーカユニット22A、エンクロージャ32A、音響管42Aが配置されている。
【0048】
スピーカユニット21A、22Aは、振動板と、振動板に支持されるボイスコイルと、振動板をフレームに連結するエッジと、ボイスコイルを駆動(振動)させる磁気回路と、エッジ及び磁気回路を支持するフレームと、ボイスコイルをフレームに連結するダンパと、を備える。スピーカユニット21A、22Aは、中高音域(例えば1000〜10000Hz)の音域が低音域(例えば10〜1000Hz)の音圧よりも高くなるように音波を放射するものであっても構わない。
【0049】
エンクロージャ31A、32Aは、箱状に形成されるとともに車両ボディ11の上面(天面)S2近傍に設けられている。エンクロージャ31A、32Aは、前面に設けられた開口31A1、32A1を振動板が覆うように、その内部空間にスピーカユニット21A、22Aを収容している。このようなエンクロージャ31A、32Aにスピーカユニット21A、22Aが収容されることで、スピーカユニット21A、22Aは、前面に設けられた開口31A1、32A1から音波を放射する。また、スピーカユニット21A、22Aの背面で生じた音波は、エンクロージャ31A、32Aの内部空間に向けて放射される。
【0050】
音響管41A、42Aは、
図3及び
図4に示すように、エンクロージャ31A、32Aの内部空間に一端がつながり、他端が車両ボディ11の下面(底面)S3近傍に配置され、上述した箱状の車室(空間)内で開口されている。音響管41Aは、
図3に示すように、車両ボディ11を構成するピラーP1(第1の管部材)と、ピラーP1に一端がつながり、他端が当該音響管41Aの他端となる第2の管部材としての管部材41A1と、一端がエンクロージャ31Aの内部空間につながり、他端がピラーP1につながる第3の管部材としての管部材41A2と、から形成されている。
【0051】
音響管42Aは、
図4に示すように、車両ボディ11を構成するピラーP2(第1の管部材)と、ピラーP2に一端がつながり、他端が当該音響管42Aの他端となる第2の管部材としての管部材42A1と、一端がエンクロージャ32Aの内部空間につながり、他端がピラーP2につながる第3の管部材としての管部材42A2と、から構成されている。
【0052】
音響管41A、42Aは、両端のみが開口した管部材であり、両端開口以外の開口は塞がれている。このため、本実施例では、ピラーP1、P2は、管部材41A1、42A1につなげるための開口、管部材41A2、42A2につなげるための開口以外の開口は栓部材5(
図3)により塞がれている。管部材41A、42A1、41A2、42A2の一端又は他端が開口していれば栓部材5で閉じ、両端が閉じている場合には、管部材41A、42A1、41A2、42A2の長さを調整するために栓部材5を用いても構わない。なお、
図4には栓部材5は省略している。
【0053】
ピラーP1は、
図3に示すように、一端側(スピーカユニット21A側)の円相当径がr1となり、他端側の円相当径はr2(<r1)となるように形成されている。ピラーP1において円相当径r1と円相当径r2との間は、他端側に向かうに従って徐々に円相当径がr1からr2まで小さくなるように形成されている。ピラーP2も、図示はしないが、同様に形成されている。
【0054】
管部材41A1、42A1は、一端がピラーP1、P2に設けた開口につながり、他端が車室内で開口されるように設けられている。管部材41A1の他端は、
図3に示すように、車室を囲む下面(底面)S3と側面S4とが交わる交差部R1に向いて開口している。管部材42A1の他端は、
図4に示すように、車室を囲む下面(底面)S3と側面S4と後面S5とが交わる角部C1を向いて開口している。音響管42Aは、後述するように車室内に形成する定在波に応じた共鳴周波数(例えば30〜100Hz)を有するような長さに形成されている。上記管部材41A1、42A1の一端とピラーP1、P2とは、ゴムや接着剤等の接続部材を介して互いに接続してもよいし、溶接されていてもよい。また、管部材41A1、42A1の円相当径は、
図3に示すように、ピラーP1、P2の他端側の円相当径r2と等しくなるように形成されている。
【0055】
管部材41A2、42A2は、一端がエンクロージャ31A、32Aの背面側にある開口につながり、他端がピラーP1、P2に設けた開口につながるように設けられている。管部材41A2、42A2の一端とエンクロージャ31A、32Aとの接続、管部材41A2、42A2の他端とピラーP1、P2との接続は、ゴムや接着剤等の接続部材を介してもよいし、溶接されていてもよい。また、管部材41A2、42A2の円相当径は、
図3に示すように、ピラーP1、P2の一端側の円相当径r1と等しくなるように形成されている。
【0056】
以上のような移動体用スピーカシステム1Aにおいてスピーカユニット21A、22Aが音波を放射した際の音波の進行及び反射について説明する。まず、スピーカユニット21A、22Aの前面から放射された音波は、そのまま車室内に放射される。スピーカユニット21A、22Aの背面で生じた音波は、エンクロージャ31A、32Aの内部空間で反響するとともに、音響管41A、42A内に入り、上述した管部材41A2、42A2、ピラーP1、P2、管部材41A1、42A1の順で音響管41A、42A内を進行する。
【0057】
このとき、スピーカユニット21A、22Aの背面側で生じた音波のうち、音響管41A、42Aの長さに応じた低音域の成分が音響管41A、42A内で共鳴する。従って、音響管41A、42Aの他端の開口、即ち管部材41A1、42A1の他端の開口からは、低音域の成分を主とする音波が車室内に放射される。即ち、音響管41A、42Aの他端から放射される音波は、中高音域の成分がカットされている。音響管41Aの他端の開口から放射された低音は、側面S4及び下面(底面)S3で反射され、車室内で反響する。
【0058】
音響管42Aの他端の開口から放射された低音は、角部C1及びその周辺の面S3〜S4によって反射され、角部C1と対向する対向角部C2(前面S1と下面(底面)S3と側面S4とが交わる角部)に向かって進行し、対向角部C2及びその周辺の面S1、S3、S4によって再び反射され、角部C1に向かって進行する。このように角部C1から対向角部C2に向かう音波と、対向角部C2から角部C1に向かう音波と、によって、角部C1と対向角部C2との間の距離に応じた波長の定在波が形成される。この定在波の周波数と、音響管42Aの共鳴周波数と、は略一致しており、音響管42Aによって増幅されて他端から放射された低音が、車室内において定在波を形成する。上述のように、音響管42Aは車室に形成される定在波に応じた共鳴周波数を有していることから、音響管42Aから放射される音波のうち共鳴した成分が定在波を形成する。
【0059】
以上のように音波が放射されることで、車室には、スピーカユニット21A、22Aの前面側から放射された中高音域の成分を主とする音波と、音響管41A、42Aの他端の開口から放射された低音域の成分を主とする音波と、が反響する。
【0060】
上述した第1実施例によれば、また、音響管41A、42Aの少なくとも一部が、車両ボディ11の一部を構成するピラーP1、P2を備えている。これにより、車両ボディ11の一部を構成するピラーP1、P2を、音響管41A、42Aの少なくとも一部にするため、省スペース化を図ることができる。
【0061】
また、上述した第1実施例によれば、音響管41A、42Aの一部が、ピラーP1、P2から構成され、音響管41A、42Aの他端が、スピーカユニット21A、22Aよりも箱状の車室を囲む下面(底面)S3に近い位置に配置されている。これにより、音響管41A、42Aの他端の開口を下面(底面)S3近くに設けることにより、低音を下面(底面)S3で反射でき、低音が反響する。
【0062】
また、上述した第1実施例によれば、音響管41A、42Aは、ピラーP1、P2に一端がつながり、他端が当該音響管41A、42Aの他端となる管部材41A1、42A1を有している。これにより、音響管41A、42Aの他端の開口の位置が制限されることなく、例えば上述したように下面(底面)S3及び側面S4が交わる交差部R1や角部C1など、音響特性の良い位置に音響管41A、42Aの開口を向けることができる。
【0063】
また、上述した第1実施例によれば、音響管41A、42Aは、エンクロージャ31A、32Aに一端がつながり、他端がピラーP1、P2につながる管部材41A2、42A2を有している。これにより、エンクロージャ31A、32Aの位置が制限されることなく、車両ボディ11を構成するピラーP1、P2を音響管41A、42Aの一部とすることができる。
【0064】
なお、上述した第1実施例によれば、ピラーP1、P2は、一端側の円相当径がr1、他端側の円相当径がr2(<r1)となるように形成されていたが、これに限ったものではない。例えば、ピラーP1、P2としては、同じ一端から他端まで同じ円相当径に形成してもよい。
【0065】
また、前記実施例1では、音響管41Aの他端が、下面(底面)S3と側面S4とが交わる交差部R1に向いて開口し、音響管42Aの他端が、下面(底面)S3と側面S4と後面S5とが交わる角部C1を向いて開口するものとしたが、これに限ったものではない。音響管の他端は、車内空間を囲む複数の面(ウインドシールドWの内面、上面(天面)S2、前面S1、下面(底面)S3、一対の側面S4、後面S5)のうち任意の3つが交わる角部(
図4(B)に示す角部C1〜C3)を向いて開口していればよい。また、音響管の他端は、これらの複数の面のうち任意の2つが交わる交差部(
図4(B)に示すR1〜R8)を向いて開口してもよいし、1つの面に対向するように開口してもよいし、面に沿っていてもよい。
【0066】
尚、角部C1は、車両Cの下面(底面)S3と側面S4と後面S5とが交わる角部であって、角部C2は、車両Cの前面S1と下面(底面)S3と側面S4とが交わる角部であって、角部C3は、車両の後面S5と上面(天面)S2と側面S4とが交わる角部である。また、交差部R1は、車両Cの下面(底面)S3と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R2は、車両Cの上面(天面)S2と後面S5とが交わる交差部であって、交差部R3は、車両の後面S5と下面(底面)S3とが交わる交差部であって、交差部R4は、車両Cの後面S5と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R5は、車両の前面S1と下面(底面)S3とが交わる交差部であって、交差部S6は、車両Cの前面S1と側面S4とが交わる交差部であって、交差部S7は、車両Cの前面S1と上面(天面)S2とが交わる交差部であって、交差部S8は、車両Cの上面(天面)S2と側面S4とが交わる交差部である。
【0067】
<第2実施例>
なお、上述した第1実施例では、車両ボディ11のピラーP1、P2を音響管41A、42Aの一部としていたが、これに限ったものではない。車両ボディ11を構成する長尺の管状のフレームであるサイドシルSSを音響管の一部とすることも考えられる。まず、サイドシルSSについて説明する。サイドシルSSは、上述した車両ボディ11のサイド開口11Bの下枠をなしている。サイドシルSSは、前後方向に沿った管状に設けられている。ここで上枠、下枠とは、車両の上側、下側にある枠をいう。
【0068】
図5は、本発明の第2実施例に係る移動体用スピーカシステムを示す斜視図及び側面図である。移動体用スピーカシステム1Bは、
図5に示すように、スピーカユニット2Bと、エンクロージャ3Bと、音響管4Bと、を備える。
【0069】
スピーカユニット2B及びエンクロージャ3Bの構成は第1実施例のスピーカユニット21A、22A及びエンクロージャ31A、32Aと同様であるためここでは詳細な説明を省略する。第1実施例と異なる点は、スピーカユニット2B及びエンクロージャ3Bの配置位置である。第2実施例では、
図5に示すように、スピーカユニット2B及びエンクロージャ3Bは、車両Cの上面(天面)S2と後面S5とが交わる交差部R2近傍に設けられている。
【0070】
エンクロージャ3Bは、幅方向の中央部且つ後部側の座席SHのヘッドレストの後方に向けて設けられ、エンクロージャ3Bの天面に開口が設けられ、当該開口から車両Cの上方に向かって音波を放射するようにスピーカユニット2Bを収容している。エンクロージャ3Bの下面に音響管4Bが音響管4Bの一端が接続されている。
【0071】
音響管4Bは、車両ボディ11を構成するサイドシルSSと、サイドシルSSに一端がつながり、他端が音響管4Bの他端となる第2の管部材としての管部材41Bと、一端がエンクロージャ3Bの内部空間につながり、他端がサイドシルSSにつながる第3の管部材としての管部材42Bと、から構成されている。
【0072】
管部材41Bは、エンクロージャ3Bの下面から下方かつ車両Cの一方の側面S4に向かって延び、車両Cのドアの下方において前後方向に延びるサイドシルSSの後端に接続されている。管部材42Bは、一端がサイドシルSSの前端に接続され、一旦上方側に向かった後に下方側に向かうことにより、他端が角部C2に向かって開口している。
【0073】
スピーカユニット2Bから放射された音波は、交差部R2に向かい、音響管4Bの他端から放音され音波は角部C2に向かう。尚、エンクロージャ3Bが、幅方向の左右いずれかに配置され、スピーカユニット2Bから放射された音波が上面(天面)S2と側面S4と後面S5とが交わる角部に向かう構成としてもよい。また、音響管4Bの他端は、少なくとも2面が交わる交差部に向いていればよく、例えば、前面S1と下面(底面)S3との2面が交わる交差部に向いていてもよいし、側面S4と下面(底面)S3との2面が交わる交差部に向いていてもよい。
【0074】
このような第2実施例の移動体用スピーカシステム1Bによれば、スピーカユニット2B及び音響管4Bの他端により放音された低音が車両Cの前後の角部又は交差部において反射され、低音域の音圧などの音響特性をより一層効果的に向上させることができる。
【0075】
なお、上述した第1、第2実施例によれば、車両ボディ11を構成するピラーP1〜P3やサイドシルSSなどの管状のフレームを音響管41A、42A、4Bの一部にしていたが、本発明はこれに限ったものではない。例えば、車両ボディ11を構成する長尺のフレームFのうちリインフォースメントやクロスメンバーなどは、
図6に示すように、底板61と、底板61の幅方向から立設した一対の立板62と、から構成された断面略U字状に設けられているものもある。このようなフレームFにその開口を覆う、車両ボディ11とは別に設けられた覆い部材7を取り付けて第1の管部材を形成し、音響管の一部としてもよい。即ち、第1の管部材が、車両ボディ11を構成する長尺のフレームFを少なくとも備えていればよい。
【0076】
また、上述した第1、第2実施例によれば、音響管の他端が、車室を構成する複数の面のうち2つが交わる交差部や3つが交わる角部に向けて開口していたが、これに限ったものではない。音響管の他端は車室を構成する複数の面のうち1つのみに向けられていてもよいし、どの面にも向けられていなくてもよい。
【0077】
また、上述した第1、第2実施例によれば、音響管は、車両ボディを構成するピラーやサイドシルの他にこれらピラーやサイドシルにつながる管部材を有していたが、これに限ったものではない。車両ボディの一部を構成する管状のフレームの形状によっては、管部材は必要ない。
【0078】
また、上述した第1、第2実施例によれば、エンクロージャは、ピラーやサイドシルなどの車両ボディとは別体に設けられていたが、これに限ったものではない。例えば、
図7に示すように、スピーカユニット21AをピラーP1内に配置して、ピラーP1の一部をエンクロージャとしてもよい。ピラーP1は、第1実施例と同様に、一端側の円相当径がr1となり、他端側の円相当径はr2(<r1)となるように形成されている。
【0079】
図7に示す例では、ピラーP1の一端側(上方側)の側面に開口31A1が設けられている。この開口31A1を振動板が覆うように、スピーカユニット21AがピラーP1内に収容されている。ピラーP1のスピーカユニット21Aを収容する一部分がエンクロージャ31Aとなる。また、
図7に示す例では、音響管41Aは、ピラーP1のエンクロージャ31Aとなる部分よりも他端側(下方側)の部分と、管部材41A1と、で形成されている。管部材41A1については第1実施例と同様であるため詳細な説明を省略する。また、ピラーP1だけでなくサイドシルSSなど車両ボディの一部をエンクロージャとしてもよい。このように、車両ボディの一部をエンクロージャとすることにより、より省スペース化を図ることができる。
【0080】
また、スピーカユニットが放射する音波の周波数依存性は、適宜に設定されていればよい。スピーカユニットが前面側から放射する低音域の音圧が高い場合でも、音響管で共鳴して他端から放射される低音の音圧が十分に高ければ、全面側からの音波と他端からの音波とが弱め合ってしまっても低音の音圧を確保することができる。即ち、音響管による共鳴によって低音の音圧が十分に向上する場合には、低音域から中高音域まで同程度の音圧となるように音波を放射するスピーカユニットや、低音域の音圧が中高音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するスピーカユニットを用いてもよいし、中高音域用のスピーカユニット(ツイータ)を用いてもよい。また、スピーカユニットの形状は特に限定されず、コーン型であってもよしドーム型であってもよい。
【0081】
また、第1、第2実施例によれば、音響管の他端は、角部C1、C2の何れか一方のみに向けて開口するように設けられていたが、これに限ったものではない。移動体用スピーカユニットを一対設け、一方の音響管の他端を角部C1に向け、他方の音響管の他端を角部C2に向けるようにしてもよい。このとき一方のスピーカユニットによって形成される定在波の節の位置と、他方のスピーカユニットによって形成される定在波の節の位置と、がずれるように他端を配置することが好ましい。さらに、一方の定在波の節の位置と、他方の定在波の節の位置と、が略一致するように他端を配置することがより好ましい。このような構成によれば、2つの定在波の節同士をずらしたり節と腹とを略一致させたりすることにより、車室内において音圧の位置依存性を小さくすることができる。
【0082】
<第3実施例>
以下、本発明の第3実施例について具体的に説明する。
図8は、本発明の第3実施例に係る移動体用スピーカシステム1Cが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図9は、移動体用スピーカシステム1Cが設けられた車両Cを示す平面図であり、
図10は、移動体用スピーカシステム1Cの音響管304の要部を示す正面図であり、
図11は、音響管304を示す斜視図であり、
図12は、移動体用スピーカシステム1Cにおける後方側のスピーカ装置10C、10Dを示す背面図であり、
図13は、本発明の変形例に係る移動体用スピーカシステム1Cにおける音圧特性を示すグラフであり、
図14は、実施例の移動体用スピーカシステム1Cにおける音圧特性を示すグラフである。
【0083】
移動体用スピーカシステム1Cは、
図8、9に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、4つのスピーカ装置10A〜10Dを備える。
【0084】
車両Cは、ウインドシールド(フロントガラス)Wの内面と、車両ボディの上面(天面)S31と、下面(底面)S32と、車両Cの進行方向(前後方向)における前面S33と、幅方向に対向する一対の側面S34(車両の扉体を含む)と、車両Cの進行方向における後面S35と、によって囲まれた箱状の車内空間A1を形成している。また、前面S33にインストルメントパネルIが設けられ、インストルメントパネルIの後方側に対向するように前方座席としての運転席SH1及び助手席SH2が設けられている。また、運転席SH1及び助手席SH2の後方側に三人掛けのベンチ状の後方座席SH3が設けられている。運転席SH1及び助手席SH2に搭乗者が着座した際の頭部の位置をそれぞれ頭部位置H1及びH2とし、後方座席SH3の各着座位置に搭乗者が着座した際の頭部の位置を、運転席SH1側から順に頭部位置H3〜H5とする。
【0085】
スピーカ装置10Aは、車内空間A1において、前後方向の前方側且つ幅方向の運転席SH1側(図示例では、前方側を向いた際に右側)の隅部CR1に設けられている。スピーカ装置10Bは、車内空間A1において、前方側且つ幅方向の助手席SH2側(図示例では、前方側を向いた際に左側)の隅部CR2に設けられている。スピーカ装置10Cは、車内空間A1において、前後方向の後方側且つ運転席SH1側の隅部CR3に設けられている。スピーカ装置10Dは、車内空間A1において、後方側且つ助手席SH2側の隅部CR4に設けられている。即ち、4つのスピーカ装置10A〜10Dは、互いに異なる隅部CR1〜CR4に配置されている。4つのスピーカ装置10A〜10Dを車内空間A1内に配置することで、車両Cの前後方向及び幅方向に定在波を発生させ、車内空間A1における音響特性を向上させることができる。また、運転席SH1、助手席SH2、後方座席SH3に着座する搭乗者に向けてスピーカ装置10A〜10Dから音波が放射されるので、搭乗者は臨場感のある再生音を聴くことができ、車内空間A1を快適な空間とすることができる。
【0086】
スピーカ装置10A〜10Dは、それぞれ、スピーカユニット302A〜302Dと、スピーカユニット302A〜302Dを収容する収容部としてのエンクロージャ303A〜303Dと、エンクロージャ303A〜303Dに接続された音響管304A〜304Dと、を備える。幅方向に対向する前方側のスピーカ装置10Aとスピーカ装置10Bとは、幅方向に略直交する面を対称面として略面対称に構成されている。また、後方側のスピーカ装置10C及びスピーカ装置10Dも同様の対称性を有している。従って、以下においてスピーカ装置10A、10Bのうち一方についてのみ説明する場合は他方も同様の構成を有し、スピーカ装置10C、10Dのうち一方についてのみ説明する場合は他方も同様の構成を有するものとする。
【0087】
スピーカユニット302A〜302Dは、振動板と、振動板に支持されるボイスコイルと、振動板をフレームに連結するエッジと、ボイスコイルを駆動(振動)させる磁気回路と、エッジ及び磁気回路を支持するフレームと、ボイスコイルをフレームに連結するダンパと、を備える。スピーカユニット302A〜302Dは、中高音域(例えば1000〜10000Hz)の音圧が低音域(例えば10〜1000Hz)の音圧よりも高くなるように音波を放射するものであっても構わない。また、振動板は、スピーカユニット302A〜302Dが音波を放射する側(前面側)を車両Cの上方に向けるとともに、磁気回路側(背面側)を車両Cの下方に向けるように設置されている。また、前方側のスピーカユニット302A、302Bの振動板の振動方向(音放射方向)が、インストルメントパネルIの上面に対して所定の角度(例えば30°)だけ傾斜するように、インストルメントパネルIにスピーカユニット302A、302Bを設けてもよい。また、後方側のスピーカユニット302C、302Dは、その振動板の振動方向(又は音放射方向)が、上面S31に略直交するように設けられていてもよい。尚、インストルメントパネルIの上面に対して振動板が傾斜した状態でスピーカユニットがインストルメントパネルIに取り付けられている場合には、インストルメントパネルIの上面に対する各振動板の傾斜角度は、ウインドシールドWの角度や、スピーカユニット302A〜302Dと座席SHとの距離等に応じて、必要に応じて適宜に設定されていればよく、スピーカユニット302A〜302Dの中心軸又は振動板を傾斜させなくてもよい。スピーカユニット302の中心軸又は振動板を傾斜させない場合には、インストルメントパネルIの上面に沿って振動板が配置されるように、スピーカユニット302を取り付けても構わない。また、スピーカユニット302A〜302Dの中心軸又は振動板が各座席SH1、SH2(後方座席SH3においては各着座位置)に向けられていてもよい。
【0088】
エンクロージャ303A〜303Dは、箱状に形成されるとともにその天面に振動板が配置され、底面及び4つの側面によって形成された内部空間にスピーカユニット302A〜302Dを配置して、スピーカユニット302A〜302Dの背面側にある一部分がエンクロージャ303A〜303Dに収容される。前方側のエンクロージャ303A、303Bは、例えばインストルメントパネルI内に設けられ、後方側のエンクロージャ303C、303Dは、例えばトランクルームの上方に設けられている。また、エンクロージャ303A〜303Dは、振動板から放射された音波がエンクロージャ303の一部において反射することを抑止しつつ、この音波が車内空間A1に放射されるように、天面に傾斜面を有して設けても構わない。また、エンクロージャ303A〜303Dは、幅方向において、側面S34近傍に配置されており、それぞれ隅部CR1〜CR4に配置されている。
【0089】
前方側のスピーカユニット302A、302Bは、上記のようなエンクロージャ303A、303Bに収容されることで、インストルメントパネルIの上面において前面から音波を放射するように、インストルメントパネルI内に設けられる。また、後方側のスピーカユニット302A、302Bは、上面S31に向けて前面から音波を放射するように、トランクルームの上方に設けられる。また、スピーカユニット302A〜302Dの背面側で生じた音波は、エンクロージャ303A〜303Dの内部空間に向けて放射される。
【0090】
音響管304A〜304Dは、公知の金属や樹脂等を用いて両端が開口した筒状に形成され、その断面形状及び断面積は一端41側から他端42側にかけて略一定であり、適宜な共鳴周波数(例えば30〜100Hz)を有するような長さに形成されている。尚、前方側の音響管304A、304Bと、後方側の音響管304C、304Dと、は略等しい長さを有しており、スピーカユニット302A〜302Dが動作(振動板が振動)してから後述する他端42において音波が放射されるまでに要する時間は略等しいものとする。また、音響管304A〜304Dは、第1実施例と同様に、少なくとも一部が車両ボディ11を構成するピラーやサイドシル、リインフォースメントやクロスメンバーなどから構成されている。
【0091】
前方側の音響管304A、304Bは、エンクロージャ303A、303Bにおけるスピーカユニット302A、302Bの背面側である下面に一端41が連結されることでエンクロージャ303A、303Bの内部空間につながるとともに、他端42が運転席SH1又は助手席SH2の足元(運転席SH1においてはアクセルペダルの近傍)に配置されている。また、他端42は、
図10、11にも示すように、インストルメントパネルIの下方において、前面S33と下面S32と側面S34とが交わる角部C31を向いて開口している。さらに、音響管304A、304Bは、一端41側においてインストルメントパネルI内を通過し、他端42側においてインストルメントパネルIの外側に突出している。また、運転席SH1側の音響管304Aは、幅方向において、一端41から他端42にかけて、運転席SH1側の側面S34から一旦離れるように延びた後、この側面S34に再び近づくように延びている。即ち、音響管304Aを前後方向から見ると、助手席側に向かって凸に湾曲した形状となっている。また、音響管304A、304Bは、前後方向において、一端41から他端42に向かうにしたがって前方側に向かうように延びている。
【0092】
後方側の音響管304C、304Dは、
図12に示すように、移動体の幅方向において、エンクロージャ303C、303Dにおける内側の側面に一端41が連結されることでエンクロージャ303C、303Dの内部空間につながるとともに、外側に向かって延びている。即ち、一端41から他端42にかけて、運転席SH1側の音響管304Cは、エンクロージャ303Cから助手席SH2側に向かって延び、助手席SH2側の音響管304Dは、エンクロージャ303Dから運転席SH1側に向かって延びている。また、音響管304C、304Dは、車両Cの前後方向において、一端41から他端42にかけて後方側に向かって延び、音響管304Cの他端42がエンクロージャ303Dの後方側に位置し、音響管304Dの他端42がエンクロージャ303Cの後方側に位置している。このように、音響管304C、304Dは、互いに交差するように延びている。また、音響管304C、304Dの他端42は、上面S31から離れているものの、上面S31と後面S35と側面S34と、が交わる角部C32を向いて開口している。尚、角部は、3つの面が交わるものであり、少なくとも2つの面が交わる交差部に含まれるものとする。即ち、前方側の角部C31が前方側交差部として機能し、後方側の角部C32が後方側交差部として機能する。
【0093】
以上のような移動体用スピーカシステム1Cにおいてスピーカユニット302A〜302Dが音波を放射した際の音波の進行及び反射について説明する。まず、前方側のスピーカユニット302A、302Bの前面側から放射された音波は、例えば振動板がコーン上又はドーム状の形状を有する場合には、振動板の傾斜に応じて斜め後方に進行し、前方側の頭部位置H1、H2に向かう。尚、前面側から放射された音波は、ウインドシールドWや上面S31において反射されて頭部位置H1、H2に向かってもよい。一方、後方側のスピーカユニット302C、302Dの前面側から放射された音波は、直接、又は、上面S31や後面S35で反射されて後方側の頭部位置H3〜H5に向かう。
【0094】
スピーカユニット302A〜302Dの背面側で生じた音波は、エンクロージャ303A〜303Dの内部空間で反響するとともに、一端41から音響管304A〜304D内に入り、音響管304A〜304D内を進行する。このとき、スピーカユニット302A〜302Dの背面側で生じた音波のうち、音響管304A〜304Dの長さに応じた低音域の成分が音響管304A〜304D内で共鳴する。従って、音響管304A〜304Dの他端42からは、低音域の成分を主とする音波が放射される。即ち、音響管304の他端42から放射される音波は、中高音域の成分がカットされる。カットされるとは、具体的には中高音域の成分の音圧が、低域の成分の音圧よりも低くなることをいう。前方側の音響管304A、304Bの他端42から放射された音波は、角部C31及びその周囲の面S32〜S34によって反射され、角部C31と対向する角部C32(即ち、幅方向において角部C31と反対側の角部C32)に向かって進行する。一方、後方側の音響管304C、304Dの他端42から放射された音波は、角部C32及びその周囲の面S31、S35、S34によって反射され、反対側の角部C31に向かって進行する。
【0095】
前方側の音響管304A、304Bの他端42から放射されて角部C32に向かう音波と、後方側の音響管304C、304Cの他端42から放射されて角部C31に向かう音波と、によって、車両Cの前後方向及び幅方向に対向する角部C31、C32同士の間に定在波が形成される。この定在波は、角部C31、C32を固定端とし、角部C31、C32同士の間隔に応じた波長を有する。
【0096】
以上のように音波が放射されることで、車内空間A1には、スピーカユニット302A〜302Dの前面側から放射された中高音域の成分を主とする音波と、音響管304A〜304Dの他端42から放射された低音域の成分を主とする音波と、が反響する。
【0097】
このとき、前方側のスピーカユニット302A、302Bと後方側のスピーカユニット302C、302Dとは、次に詳細に説明するように、定在波の節が前方側の頭部位置H1、H2から後方側に離れるように、所定の時間差を有して動作する。ここで、所定の時間差としては、例えば1ms〜9msが挙げられる。
【0098】
まず、変形例として、前方側の音響管304Aの他端42と、後方側の音響管304Cの他端42と、から略同時に(即ち同位相の)音波が放射された場合について考える。音響管304Aの角部C31、C32の間隔に略等しい波長を有する定在波では、
図8に二点鎖線で示すように、角部C31、C32同士の中間位置、即ち、車内空間A1における前後方向の中央部分が節となる。この節は頭部位置H1、H2の後方側且つ近傍に位置し、節に近い位置ほど、この周波数における音圧が低くなる。そこで、定在波の節が一点鎖線で示すような位置となるように、時間差をつけてスピーカユニット302Aとスピーカユニット302Cとを動作させる。
【0099】
ここで、前方側のスピーカユニット302Aと後方側のスピーカユニット302Cとの動作タイミングを異ならせることによる音圧特性の変化について説明する。まず、変形例の移動体用スピーカシステムとして、スピーカユニット302Aとスピーカユニット302Cとを略同時に動作させ、
図8に二点鎖線で示すような位置に定在波の節を形成した場合の音圧特性を
図13に示す。
図13の横軸は周波数を対数表示したものであり、縦軸は音圧を示し、音圧特性とは、音圧の周波数依存性を意味する。また、グラフ中の実線は前方側の頭部位置H1、H2における音圧を示し、破線は後方側の頭部位置H1〜H3における音圧を示す。尚、角部C31、C32同士の間隔は約1.7mとする。
【0100】
前方側の頭部位置H1、H2及び後方側の頭部位置H1〜H3の音圧は、200〜210Hzにおいて極小値(それぞれ約69dB、約82dB)となった。この周波数を波長に換算すると、角部C31、C32同士の間隔に略等しくなる。即ち、角部C31、C32同士の間隔に略等しい波長を有する定在波が形成され、この定在波の節によって音圧が低下したものと考えられる。
【0101】
次に、実施例の移動体用スピーカシステム1Cにおいて、時間差を有するように前後のスピーカユニット302A、302Cを動作させ、
図8に一点鎖線で示すような位置に定在波の節を形成した場合の音圧特性を
図14に示す。
図14における軸は
図13と同様であり、グラフ中の実線は前方側の頭部位置H1、H2における音圧を示し、破線は後方側の頭部位置H1〜H3における音圧を示す。
【0102】
前方側の頭部位置H1、H2の音圧は、200〜210Hzにおいて約91dBとなり、前後の周波数と比較してほとんど低下しておらず、他の周波数においても大きな低下は見られなかった。また、後方側の頭部位置H3〜H5の音圧は、200〜210Hzにおいて極小値(約82dB)となった。従って、時間差を有するように前後のスピーカユニット302A、302Cを動作させ、定在波の位置を前方側の頭部位置H1、H2から後方側に離すことにより、この定在波の波長に対応した周波数において、音圧特性が改善することが確認できた。
【0103】
上記の構成により、移動体用スピーカシステム1Cが4つのスピーカ装置10A〜10Dを備え、それぞれが車両Cの4つの隅部CR1〜CR4に配置されていることで、各隅部CR1〜CR4における空きスペースが狭小であっても、移動体用スピーカシステム1C全体の放射音の音圧を向上させ、音響特性を向上させることができる。
【0104】
また、エンクロージャ303A〜303Dの内部空間に音響管304A〜304Dの一端41がつながっていることで、スピーカユニット302A〜302Dの背面側で生じた音波のうち、音響管304A〜304Dの長さに応じた低音域の成分が音響管内で共鳴し、他端42から放射される。音響管304A〜304Dの他端42が、車内空間A1を囲む複数の面のうち3つが交わる角部C31、C32を向いて開口していることで、他端42から放射された低音が3つの面で反射されて車内空間A1で反響しやすく、移動体用スピーカシステム1Cにおける低音域の音響特性を向上させることができる。
【0105】
また、スピーカユニット302A〜302Dが、中高音域の音圧が低音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するものである場合には、スピーカユニット302A〜302Dの振動を小さくすることができ、車両ボディに振動が伝わって異音が発生することを抑制することができる。また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音域の音圧が低い小型のスピーカユニット302A〜302Dを用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができる。さらに、スピーカユニット302A〜302Dの前面から放射される低音の音圧が比較的低いことから、低音域において、スピーカユニット302A〜302Dの前面から放射された音波と音響管304A〜304Dの他端42から放射された音波とが弱め合いにくい。
【0106】
移動体用スピーカシステム1Cにおいて、スピーカユニット302A〜302Dの前面から主に中高音域の音波が放射され、音響管304A〜304Dの他端42から主に低音域の音波が放射される。中高音域と低音域とでは、最適な放射位置が異なる場合があるが、中高音域の音波が放射される位置と、低音域の音波が放射される位置と、が離れていることで、それぞれを最適な位置に配置し、極めて良好な音響特性を得ることができる。
【0107】
また、スピーカユニット302A、302B及びエンクロージャ303A、303BがインストルメントパネルI内に設けられるとともに、音響管304A、304BがインストルメントパネルI内を通過することで、移動体用スピーカシステム1Cを車両Cに設けた場合に外観を良好に保つことができる。
【0108】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0109】
例えば、前記実施例では、定在波の節が前方側の頭部位置H1、H2から後方側に離れるように、前方側のスピーカユニット302A、302Bと後方側のスピーカユニット302C、302Dとが時間差を有して動作するものとしたが、この時間差は、時間差がない場合の節の位置と、頭部位置H1〜H5と、の関係に応じて適宜に設定されればよい。例えば、時間差がない場合に節が頭部位置H1、H2よりも前方側に位置する場合には、節が頭部位置H1、H2からさらに車両Cの前方側へ離れるような時間差としてもよい。また、時間差がない場合に節が後方側の頭部位置H3〜H5近傍に位置する場合には、節が頭部位置H3〜H5からさらに車両Cの前方側へ離れるような時間差としてもよい。さらに、車両が前後方向に1列又は3列以上の座席を有する場合には、時間差がない場合の節の位置と各列の頭部位置との関係に応じて時間差を設定すればよい。また、頭部位置と節の位置とが充分に離れている場合や、節による音圧の低下が小さい場合には、このような時間差を設けずに車両Cの前方及び後方のスピーカユニットを略同時に動作させてもよい。
【0110】
また、前記実施例では、角部C31、C32同士の間隔に略等しい周波数の定在波について節の位置を変化させるものとしたが、他の周波数を有する定在波について節の位置を変化させてもよい。例えば、上記の間隔の約2/3の波長を有する定在波では、角部C31、C32同士の間に2つの節が形成されるが、この節が各座席の頭部位置H1〜H5のいずれかから車両Cの前方側又は後方側へさらに離れるように時間差を設定してもよい。
【0111】
また、前記実施例では、車両Cの後方側に設けられたスピーカ装置10C、10Dにおいて、音響管304Cが幅方向の運転席側から助手席側に向かって延び、音響管304Dが幅方向の助手席側から運転席側に向かって延び、音響管304Cと音響管304Dとが交差するものとしたが、
図15、16に示すように、音響管304C及び音響管304Dが車両Cの進行方向の後方側に向かって延び、音響管304Cと音響管304Dとが交差しない構成としてもよい。
【0112】
また、前記実施例では、移動体用スピーカシステム1Cが、車両Cにおける4つの隅部CR1〜CR4に設けられる4つのスピーカ装置10A〜10Dを備えるものとしたが、移動体用スピーカシステムは、少なくとも2つのスピーカ装置を備えていればよい。例えば、2つのスピーカ装置が車両Cの前後方向の前方及び後方の隅部にそれぞれ設けられていてもよいし、幅方向の一方側及び他方側の隅部にそれぞれ設けられていてもよい。
【0113】
また、前記実施例では、音響管304A〜304Dの断面形状及び断面積が略一定であるものとしたが、音響管は、断面積が略一定であるとともに断面形状が変化するものであってもよい。また、前記実施例では前方側の音響管304A、304Bと後方側の音響管304C、304Dとの長さが略等しいものとしたが、これらの長さは互いに異なっていてもよい。
【0114】
また、前記実施例では、収容部としてのエンクロージャ303と音響管304とが別部材であるものとしたが、エンクロージャと音響管とが一体に形成された構成としてもよい。例えば、収容部が1つの管状の部材であり、この管状の部材がエンクロージャと音響管とを兼ねていることなどが挙げられる。
【0115】
また、スピーカユニットが放射する音波の周波数特性は、適宜に設定されていればよい。スピーカユニットが前面側から放射する低音域の音圧が高い場合でも、音響管で共鳴して他端から放射される低音の音圧が充分に高ければ、前面側からの音波と他端からの音波とが弱め合ってしまっても低音の音圧を確保することができる。即ち、音響管における共鳴によって低音の音圧が充分に向上する場合には、低音域から中高音域まで同程度の音圧となるように音波を放射するスピーカユニットや、低音域の音圧が中高音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するスピーカユニットを用いてもよいし、中高音域用のスピーカユニット(ツイータ)を用いてもよい。また、スピーカユニットの形状は特に限定されず、コーン型であってもよいしドーム型であってもよい。
【0116】
また、前記実施例では、インストルメントパネルIの上面において前方側のスピーカユニット302A、302Bの前面側から音波を放射するものとしたが、スピーカユニットは、例えばインストルメントパネルIの下面(運転席と対向する面)においてスピーカユニットの前面側から音波を放射してもよい。また、スピーカユニット302A、302BがインストルメントパネルI内に設けられるものとしたが、スピーカユニットがインストルメントパネルIの外側に設けられる(例えばインストルメントパネルIの上面に載置される)構成としてもよい。このとき、音響管はインストルメントパネルI内を通過せずに外側に沿うように設けられていてもよい。このような構成によれば、移動体用スピーカシステムを車両に対して後付により設置する際に、設置作業を容易に実施することができる。
【0117】
また、前記実施例では、音響管304A〜304Dの他端42が、3つの面が交わる角部C31、C32を向いて開口するものとしたが、他端は、車内空間A1を囲む複数の面(ウインドシールドWの内面、上面S31、下面S32、前面S33、一対の側面S34、後面35)のうち2つが交わる交差部(
図10に示すR31〜R38)を向いて開口していてもよいし、交差部を向いていなくてもよい。また、後方側の音響管304C、304Dの他端42が、車両Cの後面S35と上面S31と側面S34とが交わる角部C33を向いて開口していてもよい。尚、交差部R31は、車両Cの前面S33と下面S32とが交わる交差部であって、交差部R32は、車両Cの下面S32と側面S34とが交わる交差部であって、交差部R33は、車両Cの前面S33と側面S34とが交わる交差部であって、交差部R34は、車両Cの後面S35と下面S32とが交わる交差部であって、交差部R35は、車両Cの後面S35と側面S34とが交わる交差部であって、交差部R36は、車両Cの前面S33と上面S31とが交わる交差部であって、交差部R37は、車両Cの上面S31と側面S34とが交わる交差部であって、交差部R38は、車両Cの後面S35と上面S31とが交わる交差部である。
【0118】
また、前記実施例では、前後方向だけでなく幅方向にも(即ち斜めに)対向する角部C31、C32同士の間に定在波が形成されるものとしたが、他端42が交差部を向いて開口している場合には、前後方向においてのみ対向する交差部同士の間に定在波が形成されることもある。この場合には、前後方向に対向する交差部同士の間隔に応じた波長を有する定在波について、節を移動させればよい。
【0119】
<第4実施例>
以下、本発明の第4実施例について具体的に説明する。
図17は、本発明の第4実施例に係る移動体用スピーカシステム1Dが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図18は、移動体用スピーカシステム1Dの音響管404の要部を示す正面図であり、
図19は、音響管404を示す斜視図であり、
図20は、車両Cに移動体用スピーカシステム1Dが設けられた様子を示す斜視図であり、
図21は、比較例に係る移動体用スピーカシステムの音響インピーダンスの周波数特性を示すグラフであり、
図22は、実施例に係る移動体用スピーカシステム1Dの音響インピーダンスの周波数特性を示すグラフであり、
図23は、実施例及び比較例の移動体用スピーカシステムにおける音圧の周波数特性を示すグラフである。
【0120】
移動体用スピーカシステム1Dは、
図17に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット402と、スピーカユニット402を収容する収容部としてのエンクロージャ403と、エンクロージャ403に接続された音響管404と、エンクロージャ403に接続された閉管部材405と、を備える。
【0121】
車両Cは、ウインドシールド(フロントガラス)Wの内面と、車両ボディの上面(天面)S41と、下面S42と、車両Cの進行方向における前面S43と、幅方向に対向する一対の側面S44(車両の扉体を含む)と、車両Cの進行方向における図示しない後面と、によって囲まれた箱状の車内空間A1を形成している。また、前面S43にインストルメントパネルIが設けられ、インストルメントパネルIの後方側に対向するように座席(運転席及び助手席)SHが設けられている。本実施例では、移動体用スピーカシステム1Dが運転席の前方側に設けられるものとするが、助手席の前方側に設けられていてもよいし、両方に設けられていてもよい。
【0122】
スピーカユニット402は、振動板と、振動板に支持されるボイスコイルと、振動板をフレームに連結するエッジと、ボイスコイルを駆動(振動)させる磁気回路と、ボイスコイルをフレームに連結するフレームと、振動板の固有振動を抑制するダンパと、を備える。スピーカユニット402は、中高音域(例えば1000〜10000Hz)の音圧が低音域(例えば10〜1000Hz)の音圧よりも高くなるように音波を放射するものであっても構わない。また、振動板は、スピーカユニット402が音を放射する側(前面側)を車両Cの上方に向けるとともに、磁気回路側(背面側)を車両Cの下方に向けるように設置されている。また、スピーカユニット402の振動板の振動方向(又は音放射方向)が、インストルメントパネルIの上面に対して所定の角度(例えば30°)だけ傾斜するように、インストルメントパネルIにスピーカユニット402を設けてもよい。尚、インストルメントパネルIの上面に対して振動板が傾斜した状態でスピーカユニットがインストルメントパネルに取り付けられている場合には、インストルメントパネルIの上面に対する振動板の傾斜角度は、ウインドシールドWの角度や、スピーカユニット402と座席SHとの距離等に応じて、必要に応じて適宜に設定されていればよく、スピーカユニット402の中心軸又は振動板を傾斜させなくてもよい。スピーカユニット402の中心軸又は振動板を傾斜させない場合には、インストルメントパネルIの上面に沿って振動板が配置されるように、スピーカユニット402を取り付けても構わない。また、スピーカユニット402の中心軸又は振動板が運転席又は助手席に向けられていてもよい。
【0123】
エンクロージャ403は、天面、底面及び4つの側面を有して箱状に形成される。このエンクロージャ403は、インストルメントパネルI内に設けられ、その天面に振動板を支持するフレームが取り付けられ、底面及び4つの側面によって形成された内部空間にスピーカユニット402を配置して、スピーカユニット402の背面側にある一部分がエンクロージャ403に収容される。また、エンクロージャ403は、振動板から放射された音波がエンクロージャ403の一部において反射することを抑止しつつ、この音波が車内空間A1に放射されるように、天面に傾斜面を有して設けても構わない。また、エンクロージャ403は、幅方向において、側面S44近傍に配置されている。このようなエンクロージャ403にスピーカユニット402が収容されることで、スピーカユニット402は、インストルメントパネルIの上面において前面から音波を放射するように、インストルメントパネルI内に設けられる。また、スピーカユニット402の背面側で生じた音波は、エンクロージャ403の内部空間に向けて放射される。
【0124】
音響管404は、公知の金属や樹脂等を用いて両端が開口した筒状に形成され、エンクロージャ403におけるスピーカユニット402の背面側である下面に一端41が連結されるとともに、他端42が運転席の足元(アクセルペダルの近傍)に配置されている。音響管404の断面形状及び断面積は一端41側から他端42側にかけて略一定であり、後述するように車内空間A1に形成される定在波に応じた共鳴周波数(例えば30〜100Hz)を有するような長さに形成されている。音響管404は、エンクロージャ403の底面に一端41が連結されていることで、一端41においてエンクロージャ403の内部空間につながっている。また、他端42は、
図18、19にも示すように、インストルメントパネルIの下方において、前面S43と下面S42と運転席側の側面S44とが交わる角部C41を向き、車内空間A1に向けて開口している。
【0125】
音響管404は、一端41側においてインストルメントパネルI内を通過し、他端42側においてインストルメントパネルIの外側に突出している。また、音響管404は、幅方向において、一端41から他端42にかけて、運転席側の側面S44から一旦離れるように延びた後、側面S44に再び近づくように延びている。即ち、音響管404を前後方向(車両Cの進行方向)から見ると、助手席側に向かって凸に湾曲した形状となっている。また、音響管404は、前後方向において、一端41から他端42に向かうにしたがって前方側に向かうように延びている。また、音響管404は、第1実施例と同様に、少なくとも一部が車両ボディ11を構成するピラーやサイドシル、リインフォースメントやクロスメンバーなどから構成されている。
【0126】
閉管部材405は、適宜な金属や樹脂等を用いて一端51が開口するとともに他端52が閉塞された筒状に形成され、一端51がエンクロージャ403の側面のうち車両Cの進行方向の前方側を向いた面(前面)に連結されるとともに、他端52が車両CのピラーP内に配置されている。閉管部材405の断面形状及び断面積は一端51側から他端52側にかけて略一定となっている。閉管部材405の長さは、後述するように、音響管404及び閉管部材405の開口端補正を考慮した長さの略半分となっている。尚、音響管404及び閉管部材405に定在波が形成される場合、その開口が自由端となって腹となるが、この腹の位置は開口した端部よりもやや外側に位置し、端部と腹との位置のずれを開口端補正という。閉管部材405は、エンクロージャ403の前面に一端51が連結されていることで、一端51においてエンクロージャ403の内部空間につながっている。閉管部材405は、一端51からインストルメントパネルI内を通過して運転席側の側面S44(即ち扉体)側に向かって延び、ピラーP内に入り込むとともにピラーPに沿って延びる。このように、ピラーP内の内部空間を利用して、エンクロージャ403の小型化を図ることができる。
【0127】
以上のような移動体用スピーカシステム1Dにおいてスピーカユニット402が音波を放射した際の音波の進行及び反射について説明する。まず、スピーカユニット402の前面側から放射された音波は、振動板の傾斜に応じて斜め後方に進行し、運転席のヘッドレスト(運転者の頭部)近傍に向かう。尚、前面側から放射された音波は、車両CのウインドシールドWや上面(天面)S41において反射されてヘッドレストに向かってもよい。
【0128】
スピーカユニット402の背面側で生じた音波は、エンクロージャ403の内部空間で反響するとともに、一端41から音響管404内に入り、音響管404内を進行する。このとき、スピーカユニット402の背面側で生じた音波のうち、音響管404及び閉管部材405の長さに応じた低音域の成分が音響管404内で共鳴する。従って、音響管404の他端42からは、低音域の成分を主とする音波が放射される。即ち、音響管404の他端42から放射される音波は、中高音域の成分がカットされる。カットされるとは、具体的には中高音域の成分の音圧が、低域の成分の音圧よりも低くなることをいう。他端42から放射された音波は、角部C41及びその周囲の面S42〜S44によって反射され、角部C41と対向する対向角部(上面S41と後面と助手席側の側面とが交わる角部)に向かって進行し、対向角部及びその周囲において再び反射され、角部C41に向かって進行する。このように角部C41から対向角部に向かう音波と、対向角部から角部C41に向かう音波と、によって、角部C41と対向角部との間の距離に応じた波長の定在波が形成される。この定在波の周波数と、音響管404の共鳴周波数と、は略一致しており、音響管404によって増幅されて他端42から放射された低音が、車内空間A1において定在波を形成する。上述のように、音響管404は車内空間A1に形成される定在波に応じた共鳴周波数を有していることから、他端42から放射される音波のうち共鳴した成分が定在波を形成する。
【0129】
また、スピーカユニット402の背面側で生じてエンクロージャ403の内部空間で反響した音波は、一端51から閉管部材405内にも入り込む。一端51から閉管部材405内に入り込んだ音波は、他端52側に向かって進行し、閉塞された他端52において固定端反射されて一端51側に向かう。従って、他端52に向かう進行波と、一端51に向かう反射波と、が強め合ったり弱め合ったりする。
【0130】
以上のように音波が放射されることで、車内空間A1には、スピーカユニット402の前面側から放射された中高音域の成分を主とする音波と、音響管404の他端42から放射された低音域の成分を主とする音波と、が反響する。
【0131】
ここで、実施例の移動体用スピーカシステム1Dの音響特性について、比較例の移動体用スピーカシステムも参照しつつ具体的に説明する。まず、比較例及び実施例の移動体用スピーカシステムについて、音響インピーダンスの位相特性をシミュレーションにより求めた。このときの計算条件は下記の通りである。即ち、比較例の移動体用スピーカシステムは、スピーカユニットが容積(内部空間の体積)1Lの箱状のエンクロージャに収容され、エンクロージャにおいてスピーカユニットの背面に対向する側面に、開口端補正を考慮した長さが500mmの音響管が接続され、閉管部材が設けられていないものとした。一方、実施例の移動体用スピーカシステム1Dでは、開口端補正を考慮した長さが500mmの音響管404と、容積が1L且つ長さが250mmの閉管部材405と、が接続され、この接続部分がエンクロージャとして機能してスピーカユニットを収容し、エンクロージャ403の容積が充分に小さいものとした。
【0132】
比較例の移動体用スピーカシステムでは、
図21に示すような音響インピーダンスの周波数特性が得られた。
図21における横軸は周波数を対数表示したものであり、縦軸は音響インピーダンスを対数表示したものである。エンクロージャのみの音響インピーダンスは、破線で示すように周波数の上昇に伴って単調減少した。一方、音響管のみの音響インピーダンスは、一点鎖線で示すように、固有振動における基本振動の周波数fo(約340Hz)の整数n倍(n≧1)において極小値となり、−fo/2+nfoにおいて極大値となった。即ち、fo/2毎に極大値と極小値とを繰り返した。
【0133】
比較例におけるエンクロージャと音響管との合成音響インピーダンス(移動体用スピーカシステム全体の音響インピーダンス)は、実線で示すように、約61Hzにおいて極大値となり、約320Hzにおいて極小値となり、約340Hzにおいて極大値となり、以後同様に極小と極大とを繰り返した。また、約61Hzの極大値は音響管のfo/2における極大値に起因し、320Hzの極小値は音響管のfoにおける極小値に起因し、約340Hzの極大値は音響管の3fo/2における極大値に起因するものと考えられる。
【0134】
実施例の移動体用スピーカシステムでは、
図22に示すような音響インピーダンスの周波数特性が得られた。
図22における横軸及び横軸は
図21と同様のものである。閉管部材のみの音響インピーダンスは、破線で示すように、固有振動における基本振動の周波数fc(約340Hz)の奇数k倍(k≧1)において極小値となり、fcの偶数m倍(m≧2)において極大値となった。即ち、fc毎に極大値と極小値とを繰り返した。音響管の音響インピーダンスは、比較例と同様となった。
【0135】
実施例の移動体用スピーカシステムにおいて、音響管における基本振動の周波数foと、閉管部材における基本振動の周波数fcと、が略等しくなった。また、音響管における2倍振動の周波数2foが、閉管部材における基本振動と3倍振動との中間の周波数2fcに略等しくなった。即ち、周波数2fo(2fc)において、音響管における音響インピーダンスが極大値となり、閉管部材における音響インピーダンスが極小値となった。
【0136】
閉管部材の音響インピーダンスが上述のような特性を示すことで、実施例における合成音響インピーダンスは、実線で示すように、比較例における合成音響インピーダンスとは異なる特性を示した。即ち、実施例における合成音響インピーダンスは、約61Hzにおいて極大値となり、約340Hz(fo、fc)において極小値となり、約600Hzにおいて極大値となり、約680Hzにおいて極小値となり、約740Hzにおいて極大値となり、以後同様に極小と極大とを繰り返した。また、約61Hzの極大値は音響管のfo/2における極大値に起因し、約340Hzの極小値は音響管及び閉管部材のfo、fcにおける極小値に起因し、約600Hzの極大値は音響管の3fo/2における極大値及び閉管部材の2fcにおける極大値に起因し、約680Hzの極小値は音響管の2foにおける極小値に起因し、約740Hzの極大値は音響管の5fo/2における極大値及び閉管部材の2fcにおける極大値に起因するものと考えられる。
【0137】
実施例の合成音響インピーダンスでは、周波数2fo(2fc)において極大値と極小値とが重なっていることから、比較例の合成音響インピーダンスの約340Hzにおける極大値が高域側にシフトしたと考えられる。
【0138】
このような実施例及び比較例の移動体用スピーカシステムにおける音圧の周波数特性(音圧特性)を
図23に示す。比較例の移動体用スピーカシステムにおける音圧特性では、一点鎖線で示すように、約380Hzにおいて極小値となった。これは、合成音響インピーダンスの約340Hzにおける極大値に起因するものと考えられる。一方、実施例の移動体用スピーカシステムにおける音圧特性では、合成音響インピーダンスにおいて比較例のような約340Hzの極大値が高域側にシフトしていることで、380Hz前後において極小値とはならず、緩やかに変化した。
【0139】
従って、閉管部材を設けるとともに上記のような長さに設定することにより、実施例の移動体用スピーカシステムでは、特定の周波数において音圧が低下してしまうことを抑制することができる。さらに、比較例の移動体用スピーカシステムでは、380Hz前後における音圧の低下を抑制しようとすると、スピーカユニットへの入力信号を補正する必要があるのに対し、実施例の移動体用スピーカシステムでは、380Hz前後において音圧がほとんど変化せず、入力信号を補正しなくても良好な音響特性を得ることができる。
【0140】
上記の構成により、スピーカユニット402の背面を収容するエンクロージャ403に閉管部材405の一端51が接続されていることで、エンクロージャ403の容積だけでなく閉管部材405の容積もスピーカユニット402の背面側の容積として利用することができ、スピーカユニット402の背面側の容積を確保しつつエンクロージャ403を小型化することができる。このとき、閉管部材405は設置の自由度が高く、他端52側をピラー内に設けることにより、車両Cにおける空きスペースを有効に利用することができる。エンクロージャ403を小型化するとともに空きスペースを利用して閉管部材405を配置することで、移動体用スピーカシステム1Dを車両Cに容易に設置することができる。
【0141】
さらに、音響管404の他端42が、車内空間A1を囲む複数の面のうち3つが交わる角部C41を向いて開口していることで、他端42から放射された低音が3つの面で反射されて車内空間A1で反響しやすく、移動体用スピーカシステム1Dにおける低音域の音響特性を向上させることができる。
【0142】
また、スピーカユニット402が、中高音域の音圧が低音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するものである場合には、スピーカユニット402のボイスコイル又は振動板の振幅を小さくすることができ、車両ボディに振動が伝わって異音が発生することを抑制することができる。また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音域の音圧が低い小型のスピーカユニット402を用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができる。さらに、スピーカユニット402の前面から放射される低音の音圧が比較的低いことから、低音域において、スピーカユニット402の前面から放射された音波と音響管404の他端42から放射された音波とが弱め合いにくい。
【0143】
移動体用スピーカシステム1Dにおいて、スピーカユニット402の前面から主に中高音域の音波が放射され、音響管404の他端42から主に低音域の音波が放射される。中高音域と低音域とでは、最適な放射位置が異なる場合があるが、中高音域の音波が放射される位置と、低音域の音波が放射される位置と、が離れていることで、それぞれを最適な位置に配置し、極めて良好な音響特性を得ることができる。
【0144】
また、音響管404の他端42が角部C41を向いて開口することで、他端42から放射された音波によって角部C41と対向角部との間に定在波が形成される。このとき、角部C41と対向角部との間の距離は、対向する一対の面(上面S41と下面S42、前面S43と後面、一対の側面S44)間の距離よりも長いことから、波長の長い定在波を形成することができ、車内空間A1において低音を効率よく反響させることができる。
【0145】
また、スピーカユニット402及びエンクロージャ403がインストルメントパネルI内に設けられるとともに、音響管404がインストルメントパネルI内を通過することで、移動体用スピーカシステム1Dを車両Cに設けた場合に外観を良好に保つことができる。
【0146】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0147】
例えば、前記実施例では、箱状のエンクロージャ403に対して音響管404及び閉管部材405が接続されるものとしたが、エンクロージャが音響管又は閉管部材と一体に形成されていてもよい。例えば、1つの管状の部材によって音響管と閉管部材とが形成され、この管状の部材の一部(中間部)にスピーカユニットが収容されていてもよい。また、
図24(A)に第1の変形例と示すように、一端が開口して他端が閉塞された1本の管状の部材にスピーカユニット402が収容された移動体用スピーカシステム1Dとしてもよい。移動体用スピーカシステム1Dでは、スピーカユニット402から見て開口端側(図中右側)が音響管404となり、閉塞端側(図中左側)が閉管部材405となり、音響管404と閉管部材405との境界部分が収容部となる。即ち、音響管404と閉管部材405と収容部とが一体に形成され、1本の管状となっている。このような構成によれば、収容部が音響管や閉管部材と別体に形成される構成と比較して、部品点数を削減することができる。
【0148】
また、前記実施例では、エンクロージャ403に1本の閉管部材405が接続されるものとしたが、エンクロージャ403に複数の閉管部材が接続される構成としてもよい。例えば、第3の変形例として
図24(B)に示すように、エンクロージャ403に2本の閉管部材406、407が接続される移動体用スピーカシステム1Dとしてもよい。このような構成によれば、2本の閉管部材406、407の両方の容積をスピーカユニット402の背面側の容積として利用することができる。従って、車両において1箇所に大きな空きスペースがなくても、2箇所に小さな空きスペースがあれば、それぞれに閉管部材406、407を配置することができ、スピーカユニット402の背面側の容積を確保しつつ、車両への設置の自由度をより一層向上させることができる。
【0149】
また、前記実施例では、スピーカユニット402及びエンクロージャ403がインストルメントパネルIに設けられるものとしたが、スピーカユニット402及びエンクロージャ403は、その他の場所に設けられていてもよい。
【0150】
例えば、第4の変形例として
図25に示すように、スピーカユニット402及びエンクロージャ403が車両Cの座席SHの下方に設けられた移動体用スピーカシステム1Eとしてもよい。移動体用スピーカシステム1Eが設けられた車両Cには、空調用ダクトDが設けられている。空調用ダクトDは、前方側(例えばインストルメントパネル内)に設けられた空調機から、後部座席の足元に冷風又は温風を送るために前後方向に沿って延びるものであって、
図25(C)に示すように、管状の通路部D0を有する。通路部D0は、仕切り部D3によって仕切られることにより、冷風又は温風が通過する第1通路D1と、第2通路D2と、を有する。第2通路D2は例えば第1通路D1の補強用に設けられたものである。
【0151】
移動体用スピーカシステム1Eの音響管404は、エンクロージャ403の前面に一端41が接続されて前方側に向かって延び、第2通路D2に接続され、第2通路D2が音響管として機能して前方側に向かって延び、他端側において第2通路D2とは別体となり、前方側の交差部又は角部を向いて開口している。即ち、音響管404の一端41と他端との間の部分が空調用ダクトDと一体に形成されている。また、閉管部材405は、エンクロージャ403の後面に一端51が接続されて後方側に向かって延び、音響管404とは独立に第2通路D2に接続され、第2通路D2が閉管部材として機能して後方側に向かって延び、図示しない他端が閉塞されている。尚、空調用ダクトDに第2通路D2が形成されず、音響管404及び閉管部材405の一部が第1通路D1と一体に形成された構成としてもよい。
【0152】
このような第4の変形例の移動体用スピーカシステム1Eによれば、空調用ダクトDを音響管404及び閉管部材405として利用して低コスト化するとともに、空調用ダクトDを通すために車両Cに形成された空間を利用することができる。さらに、座席SHの下方におけるスピーカユニット402の設置スペースが狭くても、音響管404の他端が角部又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0153】
また、第5の変形例として
図26(A)に示すように、スピーカユニット402及びエンクロージャ403Fが、車両CのインストルメントパネルIに設けられた箱部としてのグローブボックスGの一部として形成された移動体用スピーカシステム1Fとしてもよい。移動体用スピーカシステム1Fが設けられた車両CのインストルメントパネルIには、幅方向に沿った回動軸が設けられ、この回動軸周りに回動することで内部を開閉可能とする(二点鎖線で図示)グローブボックスGが設けられている。グローブボックスGの下方側の空間が他の部分G0(被収容物を収容することができる空間)と区画されることにより、エンクロージャ403Fが形成されている。スピーカユニット402は、その前面をグローブボックスGの外側に向けるとともに、前面を前方側且つ下方側に向けるようにエンクロージャ403Fに収容されている。音響管404は、一端41がエンクロージャ403Fの下方側に接続され、他端42が角部C41を向いて開口している。閉管部材405は、一端51が例えばエンクロージャ403Fのうち車両Cにおける上方側且つ前方側に位置する部分に接続され、グローブボックスG内に収容されている。
【0154】
尚、音響管404の他端42は、前面S43と下面S42とが交差する交差部を向いて開口していてもよい。また、
図26(B)に示すように、スピーカユニット402の前面が車両Cの進行方向における後方側を向いていてもよい。また、車両Cに取り付けられている既存のグローブボックスGにエンクロージャ403Fを形成してスピーカユニット402を収容してもよいし、移動体用スピーカシステム1Fがあらかじめ設けられたグローブボックスGを作製してもよい。また、グローブボックスGを複数の空間に区画せず、グローブボックスGを閉じた際に形成される閉空間又は密閉空間がエンクロージャとして機能する構成としてもよい。また、閉管部材405はエンクロージャ403Fの適宜な位置に接続されるとともに適宜な方向に延びていればよい。
【0155】
このような第5の変形例の移動体用スピーカシステム1Fによれば、エンクロージャ403FがグローブボックスGの一部であることで、角部C41に対して音響管404の他端を向けやすい。また、グローブボックスG内の空間の狭小化を抑制するためにスピーカユニット402を小型化しても、音響管404の他端42が角部C41又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。さらに、閉管部材405をグローブボックスGの外側に配置してもよく、このような構成によれば、スピーカユニット402の背面側の容積を確保しつつ、グローブボックスGの狭小化を抑制することができる。
【0156】
また、第6の変形例として
図27に示すように、スピーカユニット402及びエンクロージャ403Gが、車内空間A1に収容されたスペアタイヤTのホイールT1内に設けられた移動体用スピーカシステム1Gとしてもよい。スペアタイヤTは、例えば車両Cの進行方向における後方側に形成されたタイヤ収容部に収容され、ホイールT1とタイヤT2とを有する。ホイールT1には、車両Cに取り付けられて使用される際に幅方向内側を向く面に、凹部T0が形成されている。凹部T0の内周面は円筒状に形成されており、エンクロージャ403Gは外周寸法が凹部T0と同程度かやや小さい円筒状に形成されている。エンクロージャ403Gは、この凹部T0内に収容される。
【0157】
また、エンクロージャ403Gの高さは凹部T0の深さよりも大きく、エンクロージャ403Gの一部分(下方部分)が凹部T0に収容され、他の一部分(上方部分)が凹部T0から突出している。尚、車両Cの上下方向においてエンクロージャ403G全体が凹部T0に収容される構成としてもよい。エンクロージャ403Gには音響管404の一端41及び閉管部材405の一端51がそれぞれ接続されている。音響管404の他端42は、車両Cの一方の側面S44と下面S42と後面とが交わる角部C42を向いて開口しているものとするが、側面S44と上面と後面とが交わる角部を向いて開口していてもよいし、後面と他の面(側面S44、下面S42又は上面)とが交わる交差部を向いて開口していてもよい。閉管部材405は、他方の側面S44側に向かって延びている。
【0158】
尚、車両の下面S42の表面には、前後方向又は幅方向に延びる補強用のリブRBによって凹凸が形成され、この表面上に平板状のカバー部が設けられることがある。この凹凸とカバー部との間に形成される隙間を音響管や閉管部材として利用してもよい。
【0159】
このような第6の変形例の移動体用スピーカシステム1Gによれば、スペアタイヤTの凹部T0に収容するためにスピーカユニット402を小型化しても、音響管404の他端42が角部C42又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。また、閉管部材405が設けられていることで、スピーカユニット402の背面側の容積を確保することができる。
【0160】
また、第7の変形例として
図28(A)に示すように、スピーカユニット402及びエンクロージャ403Hが車両Cにおける幅方向の中央部に設けられた移動体用スピーカシステム1Hとしてもよい。スピーカユニット402及びエンクロージャ403Hは、前方側の2つの座席SHの間且つ下方に設けられ、エンクロージャ403Hの前面に2本の音響管404の一端41が接続されるとともに、幅方向の両面に閉管部材405が接続されている。2本の音響管404は、一方が進行方向に対して右側に延びて他方が左側に延び、即ち、幅方向において互いに反対側に向かって延びている。また、2本の音響管404の他端42は、それぞれ、左右の角部C41を向いて開口している。閉管部材405は、幅方向に沿って延びるものとするが、閉管部材405がエンクロージャ403Hに接続される位置や延在方向は適宜に設定されていればよい。
【0161】
尚、音響管404の他端42は、車両Cの側面S44と下面S42とが交わる交差部を向いて開口していてもよい。また、
図28(B)に示すように、エンクロージャ403Fに2つのスピーカユニット402が収容され、一方のスピーカユニット402が前方側に音波を放射し、他方のスピーカユニット402が後方側に音波を放射する構成としてもよい。このような構成によれば、2つのスピーカユニット402が背面側から放射する音波同士が弱め合い、音放射時にエンクロージャ403が振動することを抑制することができる。
【0162】
このような第7の変形例の移動体用スピーカシステム1Hによれば、前方側の2つの座席SHの間且つ下方の空間を利用することができる。また、この空間における設置スペースが狭くても、音響管404の他端42が角部C41又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。また、閉管部材405が設けられていることで、スピーカユニット402の背面側の容積を確保することができる。さらに、幅方向の両側において音響管404の他端42から放射された低音が反響し、搭乗者にとって迫力のある再生音とすることができる。
【0163】
また、第8の変形例として
図29に示すように、低音再生用のスピーカユニット402I及びエンクロージャ403Iが、車両Cの進行方向における後方側に設けられるとともに、車両Cの上面S41と後面S5とが交わる交差部CR1近傍に設けられ、音響管404が車両CのサイドシルSSの内側を通過して前方側の角部C41に向かって延びる移動体用スピーカシステム1Iとしてもよい。エンクロージャ403Iは、幅方向の中央部且つ後部側の座席SHのヘッドレストの後方に設けられ、前面を上方に向けてスピーカユニット402Iが収容され、エンクロージャ403Iの下面に音響管404の一端41及び閉管部材405の一端51が接続されている。音響管404は、スピーカユニット402Iの下面から下方且つ車両Cの一方の側面に向かって延び、車両Cの扉体の下方において前後方向に延びるサイドシルSSの内側を通過して前方側に向かって延びる。さらに、音響管404は、サイドシルSSよりも前方側において、一旦上方側に向かった後に下方側を向かうことにより、他端42が角部C41に向かって開口している。また、閉管部材405は、下方側に向かって延びている。
【0164】
スピーカユニット402Iから放射された音波は交差部CR1に向かい、音響管404の他端から放射された音波は角部C41に向かう。尚、エンクロージャが幅方向の左右いずれかに配置され、スピーカユニットから放射された音波が上面S41と側面S44と後面S5とが交わる角部に向かう構成としてもよい。また、音響管404の他端42は、サイドシルSSよりも前方側の交差部を向いて開口していればよく、前面S43と下面S42とが交わる交差部を向いていてもよいし、側面S44におけるサイドシルSSよりも前方側の部分と下面S42とが交わる交差部を向いていてもよい。
【0165】
このような第8の変形例の移動体用スピーカシステム1Iによれば、スピーカユニット402I及び音響管404の他端42により放射された低音が前後の角部又は交差部において反射され、低音域の音圧等の音響特性をより一層向上させることができる。
【0166】
また、前記実施例では、音響管における基本振動の周波数foと、閉管部材における基本振動の周波数fcと、が略等しく、各合成音響インピーダンスが周波数2fo(2fc)において極大値と極小値とが重なるように、閉管部材の長さが音響管の長さの略半分に設定されているものとしたが、音響管及び閉管部材の長さは適宜に設定されていればよい。例えば、音響管の基本振動の周波数foと閉管部材における基本振動の周波数fcとが多少異なるように、音響管及び閉管部材の長さが設定されていてもよい。閉管部材における基本振動の周波数fcが、音響管における基本周波数foの0.75倍よりも大きく、且つ、1.25倍よりも小さい値であれば、特定の周波数における音圧の低下を抑制することができる。
【0167】
また、音響管の音響インピーダンスが極大となる他の周波数に起因する音圧の低下を抑制するように、音響管における基本振動の周波数foと閉管部材における基本振動の周波数fcとが設定されていてもよい。また、音響管の音響インピーダンスが極小となることによる音圧の上昇を抑制するように、周波数foと周波数fcとが設定されていてもよい。
【0168】
また、前記実施例では、音響管404の他端42が、前面S43と下面S42と運転席側の側面S44とが交わる角部C41を向いて開口するものとしたが、他端は、車内空間A1を囲む複数の面(ウインドシールドWの内面、上面S41、下面S42、前面S43、一対の側面S44、後面)のうち任意の3つが交わる角部(
図19に示す角部C41〜C43)を向いて開口していればよい。また、管部材の他端は、これらの複数の面のうち2つが交わる交差部(
図19に示すR41〜R48)を向いて開口していてもよいし、1つの面に対向するように開口していてもよいし、面に沿っていてもよい。
【0169】
尚、角部C41は、車両Cの前面S43と下面S42と側面S44とが交わる角部であって、角部C42は、車両Cの後面S5と下面S42と側面S44とが交わる角部であって、角部C3は、車両Cの後面S5と上面S41と側面S44とが交わる角部である。また、交差部R41は、車両Cの前面S43と下面S42とが交わる交差部であって、交差部R42は、車両Cの下面S42と側面S44とが交わる交差部であって、交差部R43は、車両Cの前面S43と側面S44とが交わる交差部であって、交差部R44は、車両Cの後面S5と下面S42とが交わる交差部であって、交差部R45は、車両Cの後面S5と側面S44とが交わる交差部であって、交差部R46は、車両Cの前面S43と上面S41とが交わる交差部であって、交差部R47は、車両Cの上面S41と側面S44とが交わる交差部であって、交差部R48は、車両Cの後面S5と上面S41とが交わる交差部である。
【0170】
また、前述した実施例は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。