特許第6462981号(P6462981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6462981ケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体の製造方法及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6462981
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】ケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体の製造方法及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/18 20060101AFI20190121BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20190121BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C04B28/18
   C04B16/06 A
   C04B16/06 B
   C04B40/02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-272648(P2013-272648)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127271(P2015-127271A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 豪
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一誠
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 竜彦
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−291707(JP,A)
【文献】 特開2000−247721(JP,A)
【文献】 特開2003−221268(JP,A)
【文献】 特開2008−120641(JP,A)
【文献】 特開2004−051425(JP,A)
【文献】 斎藤豪 他,Ca-Mg-Si系材料を混和し、オートクレーブ養生および水中養生したセメント系材料の硫酸塩抵抗性に関する基礎的研究,第40回セメント・コンクリート研究討論会 発表用資料,2013年11月15日,第1-36頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰質材料と、ケイ酸質材料と、モンチセライト(CaO・MgO・SiO)、アケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、前記石灰質材料とモンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種との総量を100質量部としたとき、モンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種の含有率が10質量部〜90質量部である水硬性組成物を調製する工程、及び、
調製された水硬性組成物を型枠に流し込み、型枠ごと、又は、脱型した成形体を、温度110℃〜170℃のオートクレーブ内で加熱して、水硬性組成物内に結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成させる工程、
を含む、ケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体の製造方法。
【請求項2】
前記水硬性組成物が、さらに有機繊維を含有する、請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記有機繊維が、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維及びビニロン繊維からなる群より選択された少なくとも1種の有機繊維である、請求項に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記有機繊維の水硬性組成物に対する含有量が0.1容量%〜10容量%である、請求項又は請求項に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記水硬性組成物内において生成した結晶性のケイ酸カルシウム水和物がトバモライトである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
石灰質材料と、ケイ酸質材料と、モンチセライト(CaO・MgO・SiO)、アケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、前記石灰質材料とモンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種との総量を100質量部としたとき、モンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種の含有率が10質量部〜90質量部である水硬性組成物の硬化物であり、結晶性のケイ酸カルシウム水和物を含有する、オートクレーブ軽量気泡コンクリートである成形体。
【請求項7】
前記水硬性組成物がさらにポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維及びビニロン繊維からなる群より選択された少なくとも1種の有機繊維を補強繊維として含み、前記有機繊維が溶融しない状態で含まれる、請求項6に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体の製造方法及び該製造方法により得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料、断熱材、保温材、耐火被覆材、人造木材などに利用さているポルトランドセメントなどの石灰質材料を含む成形体は、石灰質材料を含むスラリーを型枠に流し込み、オートクレーブ中で180℃程度の飽和水蒸気圧下で所定時間養生することで強度を向上させている。このオートクレーブ中での加熱を行なうことにより、石灰質材料とケイ酸質材料を含む組成物がオートクレーブ中で反応し、組成物中に結晶性のケイ酸カルシウム水和物が生成され、生成したケイ酸カルシウム水和物が成形体の強度向上に寄与する。
石灰質材料を含む成形体には、圧縮強度、耐衝撃性などの向上を目的として、補強繊維が含まれることが一般的である。
成型体中に結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成させる方法としては、(1)原料スラリーを型枠内に流し込み成形するか、加圧脱水成形するか、或いは、抄造成形することにより成形体を得た後、型枠内で、又は、脱型した成形体を、飽和水蒸気圧下でオートクレーブ養生する方法、(2)予め撹拌式オートクレーブ中に原料スラリーを投入し、加熱攪拌してスラリー中に結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成させる方法などがある。(2)の方法では、結晶性のケイ酸カルシウム水和物が生成したスラリーを型枠に流し込み、その後、加圧脱水して成形体を得る。
(2)の方法をとる場合には、スラリー中に耐アルカリ性ガラス繊維などを補強繊維として加えている場合も多い。
【0003】
例えば、建築材料としてのブロック、建築の外壁パネル等に利用されるオートクレーブ軽量気泡コンクリート(ALC)は、気泡を含むケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体である。その製造方法としては、スラリーを型枠内に流し込み、その後、型枠内でのスラリーのアルカリ化反応により発泡剤を発泡させて気泡を内包する成形体を形成する方法、硬化促進剤と発泡剤とを用いて発泡させたスラリーを型枠へ流し込み、硬化促進剤の作用により硬化させて気泡を内包する成形体を形成する方法などが挙げられる。いずれの方法をとった場合でも、気泡を内包する成形体は、強度向上のため、180℃程度のオートクレーブ中で水熱反応させる工程を経て最終製品を得ている。ALCの場合には、軽量で気泡を内包するため、必要な強度を得るために、特に補強繊維による補強が重要である。
補強繊維としては、180℃程度の温度で繊維形状を維持するため、耐熱性に優れた繊維を使用する必要がある。耐熱性補強繊維にとして、従来、アスベストが使用されていたが、安全性の問題から現在では使用が中止され、代わって、炭素繊維、アラミド繊維などが使用されている。いずれの補強繊維も耐熱性には優れるものの、高価であるため、補強繊維として、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの汎用で安価な合成繊維の使用が望まれている。しかしながら、加熱条件を考慮すれば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン維、ビニロン繊維などでは、180℃程度のオートクレーブ処理により溶融してしまい、期待される補強効果を得ることができないのが現状である。
【0004】
コンクリート成形体の強度向上の目的で、ポルトランドセメントにシリカフュームを添加し、蒸気養生を行なった後に、100℃〜400℃、好適には150℃〜400℃の条件で加熱養生を行ない、成形体内部に結晶性のケイ酸カルシウム水和物であるトバモライドを生成させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)
一方、ALCなどの成形体の製造に適する技術として、汎用の合成繊維が溶融しない温度条件において、結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成させる目的で、セメントなどの石灰質材料に対して、ケイ酸質材料としてのγ−CaSiOを用いる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−14447号公報
【特許文献2】特開2008−120641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、水/結合材比の極めて少ない高強度コンクリート成形体の製造を課題とするものであり、高エネルギーを必要とするなど、ALCなどの軽量成形体の製造には適用し難い技術である。
また、特許文献2に記載の方法により得られたケイ酸カルシウム水和物を含む成形体は、脱型強度の点でなお改良の余地があり、さらに組織が緻密化された成形体を、一般に用いられるポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維などの有機繊維を溶融しない温度条件で得る方法が切望されているのが現状である。
【0007】
上記問題点を考慮してなされた本発明の課題は、有機繊維を補強繊維として用いた場合においても、有機繊維を溶融しない加熱条件を適用することができ、緻密化された組織を有する結晶性のケイ酸カルシウム水和物が生成された成形体を製造しうるケイ酸カルシウム水和物含有成形体の製造方法を提供することにある。
本発明の他の課題は、前記本発明の成形性の製造方法により得られた、緻密化された組織を有するケイ酸カルシウム水和物含有成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ケイ酸質材料として、非水硬性の材料であるCa−Mg−Si含有材料を用いることで、前記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の構成は以下に示すとおりである。
<1> 石灰質材料と、ケイ酸質材料と、モンチセライト(CaO・MgO・SiO)、アケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、前記石灰質材料とモンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種との総量を100質量部としたとき、モンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種の含有率が10質量部〜90質量部である水硬性組成物を調製する工程、及び、調製された水硬性組成物を型枠に流し込み、型枠ごと、又は、脱型した成形体を、温度110℃〜170℃のオートクレーブ内で加熱して、水硬性組成物内に結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成させる工程、を含む、ケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体の製造方法。
<2> 前記水硬性組成物が、さらに有機繊維を含有する、<1>に記載の成形体の製造方法。
<3> 前記有機繊維が、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維及びビニロン繊維からなる群より選択された少なくとも1種の有機繊維である、<>に記載の成形体の製造方法。
<4> 前記有機繊維の水硬性組成物に対する含有量が0.1容量%〜10容量%である、<>又は<>に記載の成形体の製造方法。
<5> 前記水硬性組成物内において生成した結晶性のケイ酸カルシウム水和物がトバモライトである<1>〜<4>のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
<6> 石灰質材料と、ケイ酸質材料と、モンチセライト(CaO・MgO・SiO)、アケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有し、前記石灰質材料とモンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種との総量を100質量部としたとき、モンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種の含有率が10質量部〜90質量部である水硬性組成物の硬化物であり、結晶性のケイ酸カルシウム水和物を含有する、オートクレーブ軽量気泡コンクリートである成形体。
<7> 前記水硬性組成物がさらにポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維及びビニロン繊維からなる群より選択された少なくとも1種の有機繊維を補強繊維として含み、前記有機繊維が溶融しない状態で含まれる、<6>に記載の成形体。
【0009】
本発明に使用されるCa−Mg−Si含有材料は、それ自体が水硬性を有さないことから、石灰質材料との併用については、従来ほとんど検討されていない。Ca−Mg−Si含有材料であるアケルマナイト(CaMgSi)については、水熱条件下における反応速度が検討された経緯はあるが〔浅賀喜与志ら:「石膏と石灰」No.202、pp.22−27(1986年)〕、常温養生下で生成するMg系ゲル状水和物がセメント硬化体やコンクリートの性能に悪影響を及ぼすと考えられているため、現在ではほとんど検討されていない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機繊維を補強繊維として用いた場合においても、有機繊維を溶融しない加熱条件を適用することができ、緻密化された組織を有する結晶性のケイ酸カルシウム水和物が生成された成形体を製造しうるケイ酸カルシウム水和物含有成形体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、緻密化された組織を有するケイ酸カルシウム水和物含有成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1−1〜実施例1−4の製造方法により得られた成形体におけるトバモライト生成量を、アケルマナイトを含まない比較例1におけるトバモライト生成量を1として、質量比で表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体の製造方法は、石灰質材料と、ケイ素質材料と、モンチセライト(CaO・MgO・SiO)、アケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)からなる群より選択される少なくとも1種と、を含有する水硬性組成物を調製する工程、及び、調製された水硬性組成物を型枠に流し込み、型枠ごと、又は、脱型した成形体を、温度110℃〜170℃のオートクレーブ内で加熱して、水硬性組成物内に結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成させる工程、を含む。
なお、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0013】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように推定される。
従来使用されていたシリカフュームなどの無定形シリカは、100℃以下の低温においても、ケイ素質材料中のSiOが溶解し、低温においてもケイ酸カルシウム水和物が生成するものの、100℃以下で一端生成した結晶性の低いケイ酸カルシウム水和物が、それ以上高い温度においても溶解度を支配するために、緻密で高強度の成形体を形成するために有用な結晶性のケイ酸カルシウム水和物を得ることが困難であった。本発明の成形体の製造方法では、常温では水和特性は示さず、α−石英に比較して、低温条件における溶解性が高いCa−Mg−Si含有材料を用いることで、従来のオートクレーブによる水熱条件に比較して、より低温でCa−Mg−Si含有材料が溶融して系中にSiOが供給されることで、緻密な構造を有する結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成しうるものと推定される。
このため、本発明の製造方法によれば、有機繊維が形状を保持しうる温度条件下で、石灰質材料を含む成形体内に緻密な結晶性のケイ酸カルシウム水和物が生成され、得られた成形体は十分な強度を発現し、且つ、補強繊維として、ポリエステル繊維など、特段の耐熱性を有しない有機繊維を使用することが可能となったものである。
【0014】
以下、本発明における工程及び使用される材料について順次説明する。
<石灰質材料と、ケイ酸質材料と、モンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種とを含有する水硬性組成物を調製する工程>
本工程では、まず、石灰質材料とケイ素質材料と、以下に詳述するケイ酸質材料とを含有する水硬性組成物を調製する。
【0015】
(石灰質材料)
本発明に用いられる石灰質材料は、石灰質を含有する材料であれば特に制限はなく、公知のセメント材料はいずれも用いることができる。また、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどを石灰質材料として用いることもできる。
本発明においては、成形後にオートクレーブによる養生を行うため、自硬性の材料であるセメント材料が好ましく、セメント材料としては、一般に用いられるポルトランドセメントが挙げられ、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩セメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色セメント、エコセメントなどから選ばれる少なくとも1種を好適に使用できる。
また、セメント以外の成分を含む材料、例えば、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどをポルトランドセメントに混合してなる混合セメントである高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメントから選ばれる材料も本発明の製造方法における石灰質材料として好適に使用できる。
石灰質材料は、水硬性組成物に1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(ケイ酸質材料)
本発明における水硬性組成物に用いうるケイ酸質材料は、α−石英を主成分とする材料であればいずれも本発明に使用しうる。例えば、α−石英を主成分とするケイ石微粉末、産業副産物として入手可能なシリカフューム、フライアッシュ、及び、ケイ酸質成分、ミネラル等を含む籾殻灰などが好適なものとして挙げられる。
ケイ酸質材料は、水硬性組成物に1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
石灰質材料とケイ酸質材料との混合比率は特に限定されるものではないが、セメント系材料等の石灰質材料10質量部〜90質量部に対してケイ酸質材料90質量部〜10質量部の比率の範囲で用いることができる。好ましくは、石灰質材料40質量部〜50質量部に対して、ケイ酸質材料60質量部〜50質量部の範囲である。
【0017】
(モンチセライト、アケルマナイト、及びメルビナイトからなる群より選択される少なくとも1種)
本発明における水硬性組成物は、モンチセライト(CaO・MgO・SiO)、アケルマナイト(2CaO・MgO・2SiO)、及びメルビナイト(3CaO・MgO・2SiO)からなる群より選択される少なくとも1種(Ca−Mg−Si含有材料)を含有する。
Ca−Mg−Si含有材料は、合成により入手可能である。合成方法の一例を挙げれば、出発材料として、炭酸カルシウム(CaCO)、二酸化ケイ素(SiO)、及び酸化マグネシウム(MgO)を用い、所定のモル比となるように原料をそれぞれ混合した後、モンチセライトは1450℃、アケルマナイト及びメルビナイトは1420℃で2時間焼成することにより合成可能となる。その際、昇温速度は30分で所定の温度となるように調製することが好ましい。
また、Ca−Mg−Si含有材料は、産業副産物である製鋼スラグから容易に得ることができる。
Ca−Mg−Si含有材料は、水硬性組成物中に1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
本発明に用いられる水硬性組成物にCa−Mg−Si含有材料を含有させる場合には、既述の石灰質材料の一部をCa−Mg−Si含有材料に置き換えることで含有させる。
石灰質材料とCa−Mg−Si含有材料との混合物の総量を100質量部としたとき、該混合物の総量に対してCa−Mg−Si含有材料を10質量部〜90質量部の範囲で含有することが好ましく、20質量部〜80質量部の範囲で含有することがより好ましく、さらに好ましくは、20質量部〜60質量部の範囲である。以下、石灰質材料とCa−Mg−Si含有材料との混合物の総含有量を「石灰質系材料総量」と称することがある。
Ca−Mg−Si含有材料の含有量は、石灰質系材料総量とケイ酸質材料との含有比率に応じて適宜選択されるが、例えば、石灰質系材料総量とケイ酸質材料との比率(質量比)が1:1の場合には、石灰質系材料総量を100質量部としたとき、その10質量部〜90質量部をCa−Mg−Si含有材料とすることが好ましく、10質量部〜80質量部とすることがより好ましく、20質量部〜70質量部とすることが特に好ましい。
【0019】
(水硬性組成物の水/粉体比)
既述の石灰質材料、ケイ酸質材料、Ca−Mg−Si含有材料、及び水を混合して水硬性組成物を調製することができる。
水硬性組成物の水と粉体との比率(以下、水/粉体比と称する)は、通常、0.2〜0.9程度から選ばれる。ここで、粉体とは、石灰質材料、ケイ酸質材料、及びCa−Mg−Si含有材料を指し、水硬性組成物に所望により含まれる骨材などは、水/粉体比における粉体には包含されない。
水硬性組成物の調製は、上記粉体、水、及び以下に述べる、所望により併用する添加剤を混合することにより行なわれ、混合は公知のミキサーなどを用いて行なうことができる。
【0020】
(水硬性組成物に用いられる添加剤)
本発明における水硬性組成物は、目的に応じて、例えば、化学混和剤、減水剤、増粘剤等の混和剤を適宜含有してもよい。また、硬化促進材、反応調整剤、遅延剤等を使用してもよい。
成形体を形成するための水硬性組成物においては、水、石灰質材料、ケイ酸質材料、Ca−Mg−Si含有材料、化学混和剤などの各種添加剤の配合量を適宜調整することで得られる成形体の強度や物性を調整することもできる。
【0021】
(補強繊維)
成形体の強度、靱性を向上させるため、水硬性組成物は補強繊維を含有してもよい。
補強繊維としては、一般には、繊維の直径が1mm以下の補強材を指し、金網、鉄筋などの補強材とは区別されている。
補強繊維には特に制限はなく、本発明に使用しうる補強繊維としては、例えば、スチール繊維等の金属繊維、各種の繊維状の軽量骨材、セラミックス繊維、炭素繊維等の無機繊維、耐熱性のアラミド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維等の有機繊維等が挙げられる。なかでも、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維等が好ましく、経済性 及び靱性がより向上し、さらに、パネル等の成形体とした場合の釘打ち性が改良されるという観点からは、ポリプロピレン繊維、及びポリエチレン繊維が好ましい。
本発明においては、後述するように、オートクレーブ内での処理が、温度110℃〜170℃という温度条件にて行なわれるために、通常のオートクレーブ処理においては使用が困難であったポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維及びビニロン繊維から選ばれる有機繊維を用いた場合でも、オートクレーブ養生により当該有機繊維の形状が保持される。このため、特に耐熱性を有しないポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維及びビニロン繊維から選ばれる有機繊維を補強繊維として用いることができ、軽量で靱性に優れた成形体を安価に得ることができるのも本発明の特徴の一つである。
補強繊維の形状、サイズは、必要に応じて適宜選択されるが、一般的には、例えば、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維のような有機繊維の場合、直径:数μm〜数百μm、長さ:5mm〜50mm程度であり、無機繊維の場合には、直径:5μm〜20μm、長さ:20mm〜40mm程度である、短繊維が用いられる。
補強繊維としては、上記短繊維のみならず、パネルなどの薄板状の成形体を製造する場合には、補強繊維として、連続繊維を使用してもよい。
水硬性組成物に用いられる補強繊維については、魚本健人、「コンクリート工学」Vol.26、No.4、pp37−42(1988年)、小林一輔著:「繊維補強コンクリート― 特性と応用―」オーム社、1981年.6月刊、等に詳細に記載されており、これら文献に記載される補強繊維もまた、本発明の製造方法に目的に応じて使用し得る。
【0022】
補強繊維を用いる場合の含有量は、目的に応じて選択されるが、通常、水硬性組成物全量に対して有機繊維を0.1容量%〜10容量%程度含有することが好ましく、0.5容量%〜2容量%程度含有することがより好ましい
【0023】
本発明に係る水硬性組成物を、オートクレーブ軽量気泡コンクリート(ALC)の作製に用いる場合には、水硬性組成物は、発泡剤を含有する。
発泡剤としては、金属アルミニウム、界面活性剤などが挙げられる。発泡剤の水硬性組成物における含有量は、ALCの使用目的に応じて、一般的な水硬性組成物に使用される範囲内で適宜調整することができる。
例えば、発泡剤として金属アルミニウム粉末を用い場合、金属アルミニウムは石灰質材料中のCa(OH)と反応して水素ガスを発生させ、成形体内に気泡を内包させることにより、成形体を軽量化することができる。
【0024】
<水硬性組成物を用いて成形体作製し、温度110℃〜170℃のオートクレーブ内で加熱して、水硬性組成物内に結晶性のケイ酸カルシウム水和物を生成させる工程>
前工程により調製された水硬性組成物により成形体を作製する。成形体の作製は常法により行われ、特に制限はない。
例えば、水硬性組成物をプレス成形するか、水硬性組成物を型枠に流し込み、型枠ごと、次工程であるオートクレーブ処理を行うか、又は、型枠から脱型した成形体をオートクレーブ処理してもよい。
オートクレーブ処理は、飽和水蒸気圧下で、温度110℃〜170℃のオートクレーブ内で加熱することにより行われる水熱処理であり、この工程において、水硬性組成物を用いて形成された成形体内に結晶性のケイ酸カルシウム水和物であるトバモライトが生成される。
オートクレーブ処理における加熱温度は、110℃〜170℃であり、110℃〜160℃が好ましく、140℃〜150℃がより好ましい。また、加熱時間は、好ましくは4時間以上であり、加熱時間の上限には特に制限はなく、加熱時間をより長くすること、例えば24時間以上とすることが効果の観点からはより好ましいが、実際の製造工程及び生産効率などを考慮すると8時間前後が最も好ましい。
【0025】
本発明によれば、水硬性組成物がCa−Mg−Si含有材料を含有するため、通常は180℃以上で行わないと生成されない結晶性のケイ酸カルシウム水和物が、上記の如き温度条件で効率よく生成され、緻密な結晶構造を有する成形体が得られる。また、上記温度条件では、例えば、水硬性組成物内に所望により配合されるポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維などの如き有機繊維が溶融することなく、得られた成形体において補強繊維としての機能を維持することができる。
なお、オートクレーブ処理に先だって、さらに、水硬性組成物を用いて形成された成形体を、40℃〜80℃程度で蒸気養生を行う工程を実施してもよい。
【0026】
本発明の製造方法により形成される成形体を、既述のような気泡を内在するALCに使用する場合には、軽量な壁材や内装材として有用な軽量パネルとして使用することができる。ALCを、更に高強度の耐力用パネルとして用いる場合には、常法により、水硬性組成物のスラリーを型枠に注入する前に、型枠内の所定の位置に、金属製などの補強部材である補強筋マットを固定することができる。補強筋マットが金属製の場合には、耐久性向上の観点から、防錆処理した補強筋マットを用いることが好ましい。
【0027】
本発明の製造方法によれば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維などの特に耐熱性を有しない有機繊維を用いた場合であっても、これらの有機繊維を溶融しない加熱条件を適用することができ、緻密化された組織を有する結晶性のケイ酸カルシウム水和物が形成された成形体を製造しうるため、コンクリート成形体、ALCなどに応用することができる。従って、本発明の製造方法は、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ビニロン繊維などの有機繊維を補強繊維として利用する成形体の形成に好適に使用される。
【0028】
<成形体>
前記本発明の製造方法により得られた、本発明の成形体は、結晶性のケイ酸カルシウム水和物を含有する成形体である。
本発明の成形体は、水硬性組成物に含まれたCa−Mg−SiO含有材料の機能により、補強繊維として有機繊維を用いた場合においても、該有機繊維を溶融させない温度条件のオートクレーブ養生を適用でき、結晶性のケイ酸カルシウム水和物を有することから、緻密な組成を有することになり、強度に優れた成形体となる。
本発明の成形体は、水硬性組成物に更に補強繊維として有機繊維を含む場合であっても、オートクレーブ養生後に、有機繊維がその形状を保持するために、強度のみならず、靱性にも優れた成形体となるために、本発明の成形体は、パネルなどの成形体のみならず、オートクレーブ軽量気泡コンクリート(ALC)など、種々の用途に応用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。なお、以下、特に断らないかぎり、「%」は「質量%」を。「部」は、「質量部」をそれぞれ表す。
【0030】
〔実施例1−1〜1−4、比較例1〕
(水硬性組成物)
以下の処方で水硬性組成物(セメント組成物)を調製した。
材料としては、石灰質材料としてポルトランドセメント(研究用ポルトランドセメント、以下、「OPC」と称することがある)を、ケイ酸質材料としてケイ石微粉末(主成分:α−石英、粉末度ブレーン(Blaine)比表面積 3300cm・g−1)、Ca−Mg−Si含有材料としてアケルマナイト(粉末度ブレーン比表面積3000cm・g−1)を、それぞれ用いた。
使用した各材料の物性などを下記表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
ポルトランドセメント(OPC)とケイ石微粉末の質量比が5:5であり、水/粉体比0.5である水硬性組成物を調製した。
このとき、下記表2に示すように、OPC(全粉体中0.5)の一部を、Ca−Mg−Si含有材料により置き換えて水硬性組成物を調製した。置き換える比率(質量比)は、10質量部から40質量部までとした。
また、OPCをCa−Mg−Si含有材料により置き換えなかった水硬性組成物を比較例1とした。
【0033】
【表2】
【0034】
上記水硬性組成物(A−0〜A−40)のうち水を除いた各材料をミキサー中で30秒間攪拌し、その後水を加え、さらに、ミキサーにより3分間練り混ぜで、水硬性組成物を得た。
この水硬性組成物を鋼製型枠により、サイズ:2cm×2cm×13cmの直方体に成形し、成形体を20℃で24時間蒸気養生を行った。次に、成形体をオートクレーブ処理した。オートクレーブ処理による水熱養生(オートクレーブ養生)は、温度150℃で8時間実施した。
【0035】
得られた成形体における結晶性のケイ酸カルシウム水和物であるトバモライトの生成状態を以下の方法で確認した
得られた成形体を、デシケータ内で20℃、RH11%の環境下において恒量となるまで乾燥を行った。
その後、成形体を90μm以下に粉砕し、粉末X線回折法(以下、XRDとも称する)により、反応生成物であるトバモライトの同定を行った。
X線源はCu−Kα、管電圧40kV、管電流30mAとして、5°〜70°の範囲を走査速度0.2°/minにて分析を行った。また、浸漬試験終了後のトバモライトの同定は、走査速度0.2°/minにて、トバモライト(002)面ピーク強度を用いた
ピーク面積は、アルミナを内部標準として、トバモライトの002面のピーク面積を求めた。
【0036】
結果を図1に示す。図1におけるトバモライト生成量は、アケルマナイトを含まない比較例1における生成量を1として、それに対する質量比を表したグラフである。即ち、図1のグラフの横軸は、各実施例を表し、縦軸は、比較例1で得た成形体におけるトバモライト生成量を1としたときの、各実施例により得られた成形体におけるトバモライト生成量の質量比を表す。
図1に示すように、アケルマナイトを含有する成形体は、比較例1で得た成形体に比べて、トバモライトの生成量が向上していることがわかる。その結果、実施例1−1〜1−4で得た成形体は、強度に優れたものとなる。
【0037】
〔実施例2−1〜2−4、比較例2〕
実施例1−1〜1−4で成形体の作製に用いた水硬性組成物に対し、それぞれ長さ30mmの市販のコンクリート補強用ポリプロピレン繊維(φ0.6 mm 長さ30 mm、密度0.91 g/cm、引張強度0.47 GPa、弾性係数15 GPa)を、単位体積あたり1容量%含有させ、十分に混合して、補強繊維入りの水硬性材料を調製する。得られた補強繊維入り水硬性組成物を用いた以外は、実施例1−1〜1−4と同様の条件で成形体を形成し、実施例1−1〜1−4と同様にしてオートクレーブ養生を8時間実施して、実施例2−1〜2−4の成形体を得る。
【0038】
オートクレーブより取り出して放冷した各成形体を、JISA 1106(2006年)に規定する曲げ強度試験に準じる方法により中央部で折り、折れた成形体の断面を目視で観察する。
目視での観察によれば、いずれの成形体においても、折れた断面にポリプロピレン繊維が確認された。
このことから、アケルマナイトの置き換え率に拘わらず、実施例2−1〜2−4の成形体においては、ポリプロピレン繊維の残存が確認され、本発明の成形体の製造方法によれば、ポリプロピレン繊維を補強繊維として用いた場合であっても、オートクレーブ養生後においても繊維の形状が維持されることがわかる。このことから、本発明の製造方法により得られた補強繊維として有機繊維を含む成形体は、補強繊維の形状が維持され、強度のみならず靱性にも優れた形成体となることがわかる。
【0039】
比較のため、実施例2−1で用いたポリプロピレン繊維入りの水硬性組成物を、成形後、オートクレーブにおける養生温度を180℃、処理時間を8時間としとてオートクレーブ養生し、比較例2の成形体を得た。
得られた比較例2の成形体を、実施例2−1と同様にして冷却し、折ったところ、折れた断面にはポリプロピレン繊維の存在は目視によっては認められず、オートクレーブ養生において補強繊維の形状が保持されなかったものと推定される。
図1