特許第6463036号(P6463036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463036
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】間隔保持部材
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20190121BHJP
   E06B 3/66 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   C03C27/06 101E
   E06B3/66
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-168673(P2014-168673)
(22)【出願日】2014年8月21日
(65)【公開番号】特開2016-44097(P2016-44097A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】リチャード エドワード コリンズ
(72)【発明者】
【氏名】浅野 修
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−315668(JP,A)
【文献】 特開平11−314944(JP,A)
【文献】 特開2003−026453(JP,A)
【文献】 特開2000−54744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/06
E06B 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の板ガラス間の空隙部を減圧状態に保持する際に、前記一対の板ガラスの対向面に所定の間隔で設定された支持点の各々に設置される間隔保持部材であって、
前記一対の板ガラスの対向面に各別に当接する一方側の第1平面部および他方側の第2平面部を有する当接部材を複数備えるとともに、夫々の前記当接部材から一体に延出した突出片を複数備え、
前記複数の当接部材どうしが前記突出片によって互いに接続されており、
前記当接部材が前記一対の板ガラスの間に設置された状態で、複数の前記突出片が前記一対の板ガラスに離間し、
前記間隔保持部材に外接して高さ方向が前記第1平面部に垂直な仮想の円柱を設定したとき、前記第1平面部の総面積および前記第2平面部の総面積が、前記円柱の円形断面積の半分以下に設定してある真空複層ガラスパネル用の間隔保持部材。
【請求項2】
前記複数の突出片は、夫々、前記一対の板ガラスの面方向に突出する長さが前記当接部材における当該面方向の幅よりも小さい請求項1に記載の間隔保持部材。
【請求項3】
前記複数の当接部材が周方向に均等に配置されている請求項1又は2に記載の間隔保持部材。
【請求項4】
前記複数の突出片の組合せにより、前記複数の当接部材を内部に収容する環状の接続部が形成されている請求項1〜3の何れか一項に記載の間隔保持部材。
【請求項5】
前記環状の接続部が円環状に形成されている請求項に記載の間隔保持部材。
【請求項6】
一対の板ガラス間の空隙部を減圧状態に保持する際に、前記一対の板ガラスの対向面に所定の間隔で設定された支持点の各々に設置される間隔保持部材であって、
前記一対の板ガラスの対向面に各別に当接する一方側の第1平面部および他方側の第2平面部を有する当接部材を一つ備えるとともに、前記当接部材から一体に径方向外方に延出した複数の突出片を備え、
前記複数の突出片に支持され、前記当接部材から離間して前記当接部材の周囲を囲む状態に配置される環状部を備え、
前記当接部材が前記一対の板ガラスの間に設置された状態で、前記複数の突出片及び前記環状部が前記一対の板ガラスに離間し、
前記間隔保持部材に外接して高さ方向が前記第1平面部に垂直な仮想の円柱を設定したとき、前記第1平面部の総面積および前記第2平面部の総面積が、前記円柱の円形断面積の半分以下に設定してある真空複層ガラスパネル用の間隔保持部材。
【請求項7】
前記第1平面部の総面積および前記第2平面部の総面積が、前記円柱の円形断面積の4分の1以下に設定してある請求項1〜6の何れか一項に記載の間隔保持部材。
【請求項8】
前記第1平面部および前記第2平面部の少なくとも一方が円形状である請求項1〜の何れか一項に記載の間隔保持部材。
【請求項9】
前記第1平面部および前記第2平面部の最大幅が前記第1平面部と前記第2平面部との間の高さ寸法以下に設定してある請求項1〜8の何れか一項に記載の間隔保持部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空複層ガラスパネルを製造する際に、一対の板ガラス間に多数配置されるガラスパネル用の間隔保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の板ガラスの周辺部を密閉し減圧した真空複層ガラスパネル(以下、単に「ガラスパネル」と称する)においては、板ガラスの外側から大気圧による圧縮力が作用する。このため、一対の板ガラスの間には高い圧縮強度を有する間隔保持部材が一定間隔で配置されている。このガラスパネルに対して衝撃や風などの外力が加わると、ガラスパネルが湾曲して一対の板ガラスどうしが面方向に沿って相対移動する。その結果、間隔保持部材が位置ずれし、あるいは破損する場合があり、更には、板ガラスの局部に荷重が集中して板ガラスが破損する場合もある。
【0003】
このため、例えば、特許文献1に記載の技術では、間隔保持部材が、高い圧縮強度を有するコア材と、このコア材の少なくとも一方の端部に軟質金属等の軟質材料からなる緩衝層を備えて構成されている。軟質材料は変形し易いため、間隔保持部材は相対移動する板ガラスに追随し易くなる。
【0004】
間隔保持部材は一対の板ガラス間に配置されるため、一対の板ガラス間において温度差が発生した場合には間隔保持部材を介して一方の板ガラスから他方の板ガラスに熱が移動する。こうした熱の移動は、ガラスパネルの一方の側の室温に影響を与えることから、極力少ない方が好ましい。板ガラスと間隔保持部材との間の熱流量は、両者の当接面積に比例する。そのため、特許文献1のように板ガラスとの当接面積が大きい間隔保持部材では、板ガラスとの間の熱流量が大きくなる。
【0005】
特許文献2に記載の技術では、間隔保持部材は、板ガラスと接触する部分が凸曲面形状に形成されている。凸曲面部は板ガラスとの接触面積が小さいため、板ガラスと間隔保持部材との間の熱流量は小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平10−507500号公報
【特許文献2】特開平11−349358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2では、間隔保持部材の凸曲面部と板ガラスとは点接触の状態で当接し当接点において圧力が大きくなるため、大気圧による圧縮応力に起因して板ガラスまたは間隔保持部材の破損が生じ易い。また、間隔保持部材の当接点の形状が凸曲面であるため、間隔保持部材を板ガラス間に設置する際に間隔保持部材が転んで位置ずれを起こし易い。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、真空複層ガラスパネルの間隔を安定的に保持しつつ、板ガラスとの間の熱流量を抑制できるガラスパネル用の間隔保持部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る真空複層ガラスパネル用の間隔保持部材の特徴構成は、一対の板ガラス間の空隙部を減圧状態に保持する際に、前記一対の板ガラスの対向面に所定の間隔で設定された支持点の各々に設置される間隔保持部材であって、前記一対の板ガラスの対向面に各別に当接する一方側の第1平面部および他方側の第2平面部を有する当接部材を少なくとも一つ備えるとともに、前記当接部材から一体に延出した突出片を備え、前記間隔保持部材に外接して高さ方向が前記第1平面部に垂直な仮想の円柱を設定したとき、前記第1平面部の総面積および前記第2平面部の総面積が、前記円柱の円形断面積の半分以下に設定してある点にある。
【0010】
本構成のように、当接部材が一対の板ガラスの対向面に各別に当接する第1平面部および第2平面部を備えることで、板ガラス間に間隔保持部材を設置する際の間隔保持部材の姿勢が安定なものとなる。また、当接部材の平面部が板ガラスに当接するため、大気圧による圧縮応力が分散され、板ガラスおよび間隔保持部材が破損し難いものとなる。
【0011】
さらに、本構成の間隔保持部材では、当接部材を一対のガラス間に設置する際に当接部材の姿勢を決定する突出片を当接部材から一体に延出した状態に備えている。よって、間隔保持部材のサイズは、当接部材から突出片が突き出た状態の全体形状によって決定される。本構成では、間隔保持部材に外接して高さ方向が第1平面部に垂直な仮想の円柱を設定した場合に、第1平面部の総面積および第2平面部の総面積を、前記円柱の円形断面積の半分以下に設定してある。つまり、当該間隔保持部材は、第1平面部および第2平面部が板ガラスに当接して当接部材の姿勢が維持されると共に、当接部材の設置時には当接部材から張り出した突出片が当接部材の姿勢を適切に設定するものであり、第1平面部および第2平面部の面積は、間隔保持部材の全体の面積に比べて小さく設定されている。このため、間隔保持部材を介して一方の板ガラスから他方の板ガラスに移動する熱量が少なくなり、断熱性に優れた真空複層ガラスを得ることができる。
【0012】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記第1平面部の総面積および前記第2平面部の総面積が、前記円柱の円形断面積の4分の1以下に設定してある点にある。
【0013】
本構成のごとく、第1平面部の総面積および第2平面部の総面積を、前記円柱の円形断面積の4分の1以下に設定することで、板ガラスと間隔保持部材との間を流れる熱量がより少なくなり、真空複層ガラスの断熱性が向上する。
【0014】
さらに、第1平面部および第2平面部の面積が上記円柱の円形断面積の半分以下の場合に比べてさらに狭くなる本構成の場合には、板ガラスの表面との当接による当接部材の姿勢の拘束が弱くなる。よって、例えば、板ガラスが風圧等により曲げられ、一対の板ガラスどうしが板ガラスの平面方向に沿って相対変位する場合には、当接部材が傾斜変形し、あるいは転がるように姿勢変化して板ガラスどうしの相対変位をより許容し易くする。
【0015】
ただし、間隔保持部材の材料の圧縮強度が間隔保持部材に作用する圧縮応力よりも低い場合には、間隔保持部材が破損する虞がある。このため、第1平面部の総面積および第2平面部の総面積は、間隔保持部材に作用する圧縮応力が間隔保持部材の圧縮強度を下回る範囲において設定される。
【0016】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記当接部材を一つ備え、前記突出片に支持されて前記当接部材の周囲を囲む状態に配置される環状部を備えた点にある。
【0017】
本構成の如く、突出片に支持されて当接部材の周囲を囲む状態に環状部が配置されていると、間隔保持部材を板ガラスの面上に設置する際に、当接部材が転ぶように姿勢変化しても、環状部が板ガラスの表面に当接して当接部材の配置姿勢を適切に設定することができる。このため、当接部材の第1平面部および第2平面部が一対の板ガラスの対向面に確実に当接し、間隔保持部材の設置性が向上する。
【0018】
また、環状部は当接部材から一体に延出する突出片によって支持されているが、この突出片は、当接部材の所定の部位から突出する片状の部材である。よって、間隔保持部材の全体の重量と比較して突出片の重量比率はそれ程大きなものではない。そのため、本実施形態の間隔保持部材は、環状部を支持する構成でありながら、間隔保持部材の重量分布を中央の当接部材の側に多く残し、間隔保持部材を板ガラスの表面に設置する際に、当接部材が転がるように姿勢変化するのを有効に防止することができる。
【0019】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記当接部材を複数備え、前記突出片によって互いに接続されて構成されている点にある。
【0020】
本構成の如く、間隔保持部材が複数の当接部材を備えることで、板ガラスと当接する第1平面部および第2平面部が複数形成される。このため、間隔保持部材を板ガラス間に設置する際に間隔保持部材の姿勢が安定し倒れるような姿勢変化が生じ難くなる。
【0021】
尚、突出片によって接続される当接部材の個数および配置位置は任意である。よって、当接部材を形成する材料の圧縮強度等に応じて、これら個数や配置位置を任意に設定することができる。
【0022】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記突出片の組合せにより、前記複数の当接部材を内部に収容する環状の接続部が形成されている点にある。
【0023】
本構成のように、夫々の当接部材から一体に延出する接続部を環状に形成することにより、間隔保持部材を板ガラスの上に載置する際に間隔保持部材どうしが絡まる不具合を防止することができる。その結果、間隔保持部材の設置効率が向上する。
【0024】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記環状の接続部が円環状に形成されている点にある。
【0025】
本構成の如く、環状の接続部を円環状にすることで、間隔保持部材の外形が全て一定の曲率を持つこととなり、間隔保持部材を板ガラスの表面に載置する際に、特定の一つの間隔保持部材の接続部が、隣接する他の間隔保持部材の接続部の内側に突入する機会が少なくなる。よって、間隔保持部材どうしの絡まりをより確実に防止することができる。
【0026】
また、間隔保持部材は小さいとはいえ、個々の間隔保持部材を視認することは可能である。ただし、夫々の間隔保持部材の向きが様々な方向に自転している場合でも、間隔保持部材の全体形状が円形であれば、各々の間隔保持部材の向きは視認し難くなる。よって、夫々の間隔保持部材の配置位置さえ適切であれば、個々の間隔保持部材は整然と配列されていると認識され、視覚上好ましいものとなる。
【0027】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記第1平面部および第2平面部の少なくとも一方が円形状である点にある。
【0028】
本構成の如く、第1平面部および第2平面部の少なくとも一方が円形状であると、一対の板ガラスが平面方向に沿って相対変位する際に、当接部材が板ガラスに対して転がるように姿勢変化する際の転がり方向による特性の変化が生じない。このため、間隔保持部材は板ガラスどうしの相対移動の方向に拘らず、適切に傾斜変形あるいは転がり姿勢をとり易くなる。これにより、間隔保持部材の配置方向に拘らず何れの方向に対しても板ガラスどうしの相対移動を許容することができる。
【0029】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記当接部材が前記一対の板ガラスの間に設置された状態で、前記突出片が前記板ガラスに離間する点にある。
【0030】
本構成の如く、突出片が板ガラスに離間する構成であると、突出片を介して一対の板ガラス間に熱流が発生しないため、真空複層ガラスパネルの断熱性をより確実に維持することができる。
【0031】
本発明に係る間隔保持部材の他の特徴構成は、前記第1平面部および前記第2平面部の最大幅が前記第1平面部と前記第2平面部との間の高さ寸法以下に設定された点にある。
【0032】
本構成の如く、第1平面部および第2平面部の最大幅が第1平面部と第2平面部との間の高さ寸法以下に設定されると、ガラスパネルが衝撃や風圧などで曲り変形し、一対の板ガラスどうしが面方向に相対移動した場合に、当接部材が一対の板ガラスどうしの間でより傾斜し易くなる。すなわち、当接部材の第1平面部および第2平面部と板ガラスとの当接状態が維持されたまま、当接部材の中間領域が板ガラスの面方向に沿って略S字状に変形易くなり、あるいは当接部材が一対の板ガラスの間で転がるように姿勢変化し易くなることで、一対の板ガラスどうしがより柔軟に相対移動できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係るガラスパネルの一例の外観を示す一部切り欠き斜視図
図2】本発明に係る間隔保持部材の斜視図
図3】本発明に係るガラスパネルの一例の要部縦断面図
図4】本発明に係わる間隔保持部材の平面図
図5図4のV−V矢視断面図
図6図4のVI−VI矢視断面図
図7】本発明に係る間隔保持部材の作用説明図
図8】本発明に係る間隔保持部材の作用説明図
図9】間隔保持部材の変形例を示す図
図10】第2実施形態の間隔保持部材の平面図
図11図10のXI−XI矢視断面図
図12】間隔保持部材の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、真空複層ガラスパネル10(以下、「ガラスパネル10」と称する)は、一対の板ガラス1、2の対向面1A,2Aの間に、複数のスペーサ3(間隔保持部材の一例)を配置して、内部に空隙部4が形成される。一対の板ガラス1、2の対向面1A,2Aの周辺部には、低融点ガラスや、鉛、スズ、インジウムなどを含む金属等の封止材5が融着配置され、気密に封止されたのち空隙部4の内部が減圧状態に維持される。複数のスペーサ3は、対向面1A,2Aに所定の間隔で設定された支持点6の夫々に設置される。
【0035】
ガラスパネル10は、以下のようにして組み立てられる。図1に示すように、一対の板ガラス1、2の対向面1A,2Aの支持点6の夫々にスペーサ3を配置して空隙部4を形成し、板ガラス1、2の周囲どうしを、低融点ガラスや、鉛、スズ、インジウムなどを含む金属等の封止材5によって封止して一体化する。その後、一対の板ガラス1,2の一方に設けた吸引孔から空隙部4の気体を吸引し、吸引孔を封止することでガラスパネル10が形成される(図3)。
【0036】
図2および図4図6に示すように、スペーサ3は、当接部材7を複数(図では4つ)備え、当該当接部材7を一対の板ガラス1、2どうしの間に設置する際に当接部材7の姿勢を決定する突出片8を当接部材7から一体に延出した状態に備える。当接部材7が突出片8によって互いに接続されて構成されている。
【0037】
当接部材7は、略円柱状に形成されており、板ガラス1,2の板面に当接する第1平面部7Aと第2平面部7Bとを有する。第1平面部7Aおよび第2平面部7Bは円形状に形成されている。四つの当接部材7は平面視において例えば十字状に形成された突出片8によって互いに接続されている。
【0038】
スペーサ3(当接部材7および突出片8)は、板ガラス1,2の板面から作用する圧力に耐え得る強度を有し、かつ、焼成やベーキング等の高温のプロセスに耐え、ガラスパネル10の製造後、容易にガスを放出しない材料によって形成されている。硬質の金属材料やセラミック材料が望ましく、具体的には、鉄、タングステン、ニッケル、クロム、チタン、モリブデン、炭素鋼、クロム鋼、ニッケル鋼、ステンレス鋼、ニッケルクロム鋼、マンガン鋼、クロムマンガン鋼、クロムモリブデン鋼、珪素鋼、ニクロム、ジュラルミン等の金属材料や、コランダム、アルミナ、ムライト、マグネシア、イットリア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等のセラミック材料が挙げられる。
【0039】
スペーサ3は、フォトレジストエッチングによって作製することができる。例えば、ステンレス鋼板の両表面に図4の平面形状のフォトマスクを形成し、各面を化学的にエッチングする。このとき、フォトマスクの端縁から処理液が回り込むため、フォトマスク直下のステンレス鋼も腐食し、いわゆる「アンダーカット」が生じる。十字部分のフォトマスク下の領域においてもアンダーカットが生じるが、ステンレス鋼が完全に除去されずに突出片8が形成される。
【0040】
このように、スペーサ3において当接部材7と突出片8とが同材料で一体的に作製されるため、ガラスパネルを製造するプロセスにおいてスペーサ3の形状は確実に維持される。また、突出片8は当接部材7に比べて厚みが小さいことから、当接部材7よりも変形し易い。
【0041】
スペーサ3は、板ガラス1,2の平面方向の最大幅W1(図4)が約500μmであって、従来のスペーサとほぼ同じである。また、当接部材7の高さH(図6)も従来のスペーサとほぼ同じ、例えば約200μmである。
【0042】
板ガラス1と板ガラス2との間に温度差がある場合、板ガラス1と板ガラス2との間でスペーサ3を介した熱移動が生じる。板ガラス1,2とスペーサ3との間の熱流量は、スペーサ3が板ガラス1,2に当接する面積に比例する。このため、熱流量を小さくするには、スペーサ3が板ガラス1,2に当接する面積を小さくする必要がある。そこで、本実施形態では、スペーサ3に外接し、板ガラス1に垂直な方向に高さ方向を有する仮想の円柱Pを設定したとき、第1平面部7Aの面積S1の総面積および第2平面部7Bの面積S1の総面積が、円柱Pの円形断面積Sの半分以下に設定されている。
【0043】
図4には、第1平面部7Aと第2平面部7Bとが同じ大きさの円形状である当接部材7を四つ連結した例を示す。この場合、円柱Pの円形断面積Sは、「S=π(W1/2)2=πW12/4」となり、当接部材7の第1平面部7Aの総面積は「S1×4=π(W2/2)2×4=πW22」となる。ここで、第1平面部7Aの総面積が円柱Pの円形断面積Sの半分以下であればよいから、πW22≦(πW12/4)×(1/2)との関係を満たすよう、W2はW1の1/2√2(約1/3)以下に設定される。
【0044】
このように、第1平面部7Aの面積S1の総面積(第2平面部7Bの面積S1の総面積)を、円柱Pの円形断面積Sの半分以下に設定することで、スペーサ3を介して一方の板ガラス1から他方の板ガラス2に移動する熱量が少なくなり、断熱性に優れた真空複層ガラスを得ることができる。
また、スペーサ3は、当接部材7から一体に延出した突出片8によって当接部材7どうしが連結され、当接部材7どうしの位置関係が拘束される。当接部材7どうしが連結されることでスぺーサ3は平面的に広がりを持った形状となり易く、スペーサ3を設置する際の姿勢が非常に安定したものとなる。
【0045】
尚、当接部材7の平面部7A,7Bは、板ガラス1,2に当接して、板ガラス1,2から作用する大気圧に基づく圧縮応力を受け止める。これにより、板ガラス1,2およびスペーサ3に応力集中が作用するのを緩和して板ガラス1,2およびスペーサ3の破損を防止する。
【0046】
本実施形態は、複数の当接部材7を突出片8によって連結し、ある程度面状に広がった形状を呈している。そのため、スペーサ3をガラス1,2の表面の上に載置する際にはそれ自体で安定的な姿勢を維持することができる。その分、図4乃至図6に示すように、個々の当接部材7については、第1平面部7Aおよび第2平面部7Bの最大幅W2が、当接部材7の高さH、即ち、第1平面部7Aと前記第2平面部7Bとの間の寸法以下に設定されている。
【0047】
図7に、板ガラス1,2間に設置されたスペーサ3を示す。当接部材7において最大幅W2が高さH以下であると、ガラスパネル10が風圧などで曲り変形し、一対の板ガラス1,2どうしが面方向に相対移動した場合に、当接部材7も当該移動方向に沿って傾斜変形したり、転がり姿勢に変化し易くなる。つまり、当該当接部材7は一対の板ガラス1,2を面方向に沿って相対移動させ易くする。その結果、ガラスパネル10が曲り変形した場合等に、スペーサ3が位置ずれしたり、スペーサ3または板ガラス1,2が破損する不具合を防止することができる。なお、突出片8は一対の板ガラス1,2に離間している。
【0048】
図2に示す如く、突出片8は当接部材7よりも厚みおよび幅が小さい例えば棒状に形成されている。よって、突出片8は当接部材7よりも変形し易く、当接部材7の変形や転がり姿勢の変化に干渉することはない。
【0049】
図2或いは図4に示す如く、第1平面部7Aと第2平面部7Bとは円形状に形成してある。このため、一対の板ガラス1,2が平面方向に沿って相対変位する際に、当接部材7が板ガラス1,2に対して転がるように姿勢変化する際の転がり方向による特性の変化が生じない。このため、スペーサ3は板ガラス1,2どうしの相対移動の方向に拘らず、適切に傾斜変形あるいは転がり姿勢をとり易くなる。このように、本実施形態のスペーサ3であれば、スペーサ3を配置にスペーサ3の配置方向の制限を受けず、スペーサ3の設置作業が容易となり、しかもスペーサ3の配置方向に拘らず何れの方向に対しても板ガラス1,2どうしの相対移動を許容することができる。
【0050】
〔第1実施形態のスペーサの変形例〕
図9に基づいて、第1実施形態のスペーサ3の変形例を説明する。図9には、「A」〜「D」の4タイプのスペーサ3の形状が示されている。
「A」は、夫々の当接部材7から一体に延出する突出片8を中央側で交差させて複数の当接部材7どうしを接続したものである。
「B」は、周方向に隣接する当接部材7どうしが突出片8によって連結され、複数の当接部材7が環状に接続されたものである。
「C」は、夫々の当接部材7から一体に延出する突出片8の組合せにより、複数の当接部材7を内部に収容する環状の接続部11が形成されたものである。
「D」は、環状の接続部12から内側に複数の突出片8を延出させ、夫々の突出片8に当接部材7を設けたものである。環状の接続部12は円環状でなくてもよく、例えば多角形状に形成してもよい。
【0051】
なお、図9では当接部材7の数が3〜6のスペーサ3の例を示したが、当接部材7が複数の場合には2又は7以上でもよい。また、図9の「A」〜「D」では、いずれも当接部材7を周方向に均等に配置しており、スペーサ3の異方性を極力なくすように構成している。
【0052】
「C」および「D」のように、複数の当接部材7を内部に収容する環状の接続部11(12)が形成されていると、スペーサ3を板ガラス1,2の表面に設置する際に複数のスペーサ3の当接部材7どうしが絡み合う不具合を防止することができる。その結果、スペーサ3の配置効率が向上する。
【0053】
スペーサ3の熱流量を小さく維持するためには、スペーサ3において板ガラス1,2に対する当接面積が小さい方が好ましい。ただし、この当接面積を決定するためには、スペーサ3の材料の圧縮強度を考慮する必要がある。
【0054】
スペーサ3が板ガラスに対して正方配列され、各スペーサ3が当接領域Aを有し、配列されたスペーサ3の間の距離がλであるとすると、各スペーサ3に作用する圧縮応力σは、σ=qλ2/Aとなる。ここで、qは大気圧(105Nm-2)である。
例えば、スペーサ3が円筒状の当接部材7のみで構成され、当接領域Aの半径aが0.25mm、スペーサ3の間隔λが20mmであると、当接領域Aは、A=πa2=2.0×10-72となり、各スペーサ3にかかる力は40Nとなる。したがって、各スペーサ3には、約200Mpa(σ=40/(2.0×10-7))の圧縮応力が作用する。
【0055】
このため、仮にスペーサ3の材料の圧縮強度がスペーサ3に作用する圧縮応力(上記例の約200Mpa)よりも低い場合には、スペーサ3が破壊されてしまう虞がある。したがって、板ガラスに対するスペーサ3の当接領域A(当接面積の合計)は、スペーサ3に作用する圧縮応力がスペーサ3の材料の圧縮強度を下回る範囲に設定する必要がある。
【0056】
板ガラス1,2の面方向の変位に対して当接部材7が少ない塑性変形で転がる(傾く)ためには、夫々の当接部材7の最大幅W2は小さい方が好ましい。スペーサ3の当接面積の合計がスペーサ3の破壊が起きない範囲で最小に設定されていると仮定した場合には、当接部材7の数が増すほどに夫々の当接部材7の最大幅W2が小さくなる。したがって、ガラスパネルの衝撃抵抗を向上させるには、当接部材7の数が多い方が好ましい。
【0057】
一方、スペーサ3の当接面積の合計がスペーサの破壊が起きない範囲で最小に設定されていると仮定すると、当接部材7の数を増やすことで、当接部材7どうしの間隔は狭くなる。このため、当接部材7どうしの間の領域も熱流が生じることとなり、スペーサ3において熱流領域が大きくなり易い。したがって、スペーサ3に熱流領域を大きくしないためには、当接部材7の数は少ない方が好ましい。
【0058】
〔第2実施形態〕
図10および図11に示すように、本実施形態のスペーサ3は当接部材7を一つ備える。当接部材7の周囲を囲む状態に環状部9が配置されており、当接部材7から一体に延出する突出片8に環状部9が支持されている。
【0059】
本実施形態では、スペーサ3に外接する仮想の円柱Pを設定したとき、第1平面部7Aの面積S1(第2平面部7Bの面積S1)が、円柱Pの板ガラス1の面方向に沿った円形断面積Sの4分の1以下に設定されている。
【0060】
図10の場合では、第1平面部7Aの最大幅W2がスペーサ3の最大幅W1の半分以下に設定されている。したがって、第1平面部7Aの面積S1は断面積Sの4分の1以下になる。
【0061】
当接部材7において、第1平面部7Aおよび第2平面部7Bの最大幅W2が当接部材7の高さH(第1平面部7Aと第2平面部7Bとの間の寸法)以下に設定されている。このため、一対の板ガラス1,2が相対移動すると、当接部材7は対向面1A(2A)の方向に沿って傾斜変形するか転がり姿勢となって板ガラス1,2の相対移動に追従する。
【0062】
一つの当接部材7は、高さHが最大幅W2以上であるため、板ガラス1,2の表面に設置する際に転び易い形状であると言える。しかし、当接部材7の外周側に環状部9を備えると、当接部材7が転ぶように姿勢変化しても、環状部9が板ガラス1,2の表面に当接して当接部材7の配置姿勢を適切に設定することができる。よって、スペーサ3を板ガラス1,2の面上に設置する際に、当接部材7の第1平面部7Aおよび第2平面部7Bが一対の板ガラス1,2の対向面に確実に当接し、スペーサ3の設置性が向上する。
【0063】
また、環状部9は当接部材7から一体に延出する突出片8によって支持されているが、この突出片8は、当接部材7の所定の部位から突出する片状の部材である。よって、スペーサ3の全体の重量と比較して突出片8の重量比率はそれ程大きなものではない。本実施形態のスペーサ3は、環状部9を支持する構成でありながら、スペーサ3の重量分布を中央の当接部材7の側に多く残し、スペーサ3を板ガラス1,2の表面に設置する際に、当接部材7が転がるように姿勢変化するのを有効に防止することができる。
【0064】
〔他の実施形態〕
〈1〉第1平面部7Aおよび第2平面部7Bの形状は、例えば図12に示すように楕円状に形成してもよい。この場合、個々の当接部材7については、紙面の左右方向に変形し或いは転び易い構成となる。しかし、二つの当接部材7どうしの左右の間隔を広くとり、スペーサ3の全体の形状を左右方向に長く形成することで、変形特性において異方性のないスペーサ3を得ることができる。
〈2〉当接部材7の形状は、円柱状の他、角柱状でもよい。
〈3〉スペーサ3は、エッチング処理以外に、レーザー等の手段による切断やプレス加工による打ち抜きによって所定の寸法に加工してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1,2 板ガラス
1A,2A 対向面
3 スペーサ(間隔保持部材)
4 空隙部
6 支持点
7 当接部材
7A 第1平面部
7B 第2平面部
8 突出片
9 環状部
11 接続部
12 接続部
H 高さ(第1平面部と第2平面部との間の寸法)
P 仮想の円柱
S 面積
S1 第1平面部の面積
W2 最大幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12