(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軽質油、植物油、および動物油から選ばれる少なくとも1種を含有する燃料油、水、および界面活性剤を含有する油中水型(W/O)のエマルション燃料であって、カルボキシメチルセルロース塩および/またはポリ(メタ)アクリル酸塩と、ノニオン性界面活性剤を含有し、カルボキシメチルセルロース塩および/またはポリ(メタ)アクリル酸塩の含有量が、燃料油および水の合計に対して0.015〜1.0質量%であり、水相粒子の平均粒径が0.1〜1μmであるエマルション燃料。
【背景技術】
【0002】
軽質油等の燃料油が燃焼するとPM(煤塵)やNO
x等の環境汚染物質が発生し、これらの環境汚染物質排出量に対し、厳しい規制が設けられている。
【0003】
一方、燃料油と水を混合して製造するエマルション燃料は、燃焼時にPM、スモークやNO
xの発生が非常に少ないため、大気汚染防止に有効な燃料として近年期待されている。エマルション燃料には、燃料油中に水が分散している油中水型(W/O)と水中に燃料油が分散している水中油型(O/W)の2種類の型がある。エマルション燃料は、防錆、着火性、流動性、腐食性、粘度変化やバーナー燃焼時のミクロ爆発効果の面から油中水型(W/O)がほとんどである。
【0004】
油中水型(W/O)のエマルション燃料は、水滴の外側に油が存在するため着火しやすい特徴点を有しており、燃焼室内に噴霧された水粒子を含んだ油滴が、高温雰囲気で加熱されると表面から蒸発して燃焼を始めるとともに、内部の水が加熱され熱水または過熱蒸気の状態で急激に吹き出し、水粒子を取り巻く油を吹き飛ばして油滴を微粒化するミクロ爆発が起こる。
【0005】
このミクロ爆発により微粒化した油は空気との接触面積が増加するため局部的な不完全燃焼が抑制される。同時に水蒸気が触媒的に作用し、火炎中の遊離炭素と水蒸気との水性ガス反応が起き燃焼効率が高まるので、PM、スモークの発生量が減少するとともに、水の蒸発潜熱によりボイラーなど内燃機関の温度が下がり火炎温度が均一となることから、NO
xの発生も抑制できる。
【0006】
また、燃料油に水を混ぜることにより、同一量の燃料でも水の量だけ燃料油が減ることから、CO
2削減に直結するとともに、減った燃料油量に含有するN分(窒素含有化合物)、S分(硫黄含有化合物)も少なくなるので、NO
x、SO
xの発生も削減できる。
【0007】
油中水型(W/O)のエマルション燃料は、分散相(水)が連続相(燃料)よりも比重が高いため、エマルション作製後に重力により分散相(水)が沈降して分層するクリーミングが発生する。クリーミングは分散相と連続相の完全分離でなくエマルションが沈降して下層にたまる現象で、粒径が大きく粒径分布が広いと分散相(水)の粒子の沈降速度が速くなるため短時間で下層の水分量が多くなり、エマルション燃料の着火性が悪化したり燃焼効率が低下したりする。エマルション燃料のクリーミングを避けるためには、粒径分布が単分散性で粒径の細かい乳化粒子を作製することが実用上対策として必要である。クリーミングが発生したとき、完全に分離した油層の容積(O)、エマルション相(E)、クリーミングにより水分が多くなったエマルション下層(CE)のそれぞれの容積比、O/(O+E+CE)を上層相分離率、CE/(O+E+CE)を下層相分離率と規定すると相分離率が低い方が乳化安定性は良く安定である。また分散相(水)の分散安定性が悪いと経時で燃料油と水が分離し使用できなくなる(非特許文献1)。
【0008】
つまり、油中水型(W/O)のエマルション燃料のクリーミングを避け、乳化分散を安定させるためには、粒径分布がより単分散性で粒径の細かい乳化粒子を得ることが必要であり、そうすることで、燃料油と水との比率が一定に保たれた単一エマルションにすることが可能となる。
【0009】
エマルション燃料調製には、燃料と水の表面張力が異なるため、両者を結び付けるために表面張力または界面張力を低下させる乳化剤、すなわち界面活性剤が必要となってくる。油中水型(W/O)のエマルション燃料調製には、HLBが7以下の界面活性剤が適しており、代表的なノニオン系界面活性剤としては、脂肪酸エステル、アルキルフェノール、ポリプロピレングリコール、アミン、ひまし油や炭素超微粒子などが用いられ、経験的に単一の界面活性剤よりも2種類以上をブレンドした混合界面活性剤の方が乳化剤として優れていると言われており(非特許文献1)、具体的には、ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のノニオン系界面活性剤(特許文献1)、エチレンオキシド付加モル数が特定の範囲にあるポリオキシエチレン硬化ひまし油誘導体(特許文献2)、脂肪酸メチルエステル化合物、脂肪酸ジエタノールアミド等のノニオン系界面活性剤(特許文献3)等を用いることが提案されている。また、本出願人は、2鎖2親水基含有ノニオン性界面活性剤を用いる技術を提案している(特許文献4)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のエマルション燃料に使用される燃料油は、軽質油、植物油、および動物油から選ばれる少なくとも1種を含有する。
【0023】
軽質油としては、軽油、灯油、ガソリン、ナフサ等が挙げられる。
【0024】
植物油としては、ジャトロファ油、ナタネ油、大豆油、米ぬか油、綿実油、トウモロコシ油、パーム油、ヒマワリ油等が挙げられる。
【0025】
動物油としては、牛脂、豚脂、羊脂、鶏脂、魚油等が挙げられる。
【0026】
本発明のエマルション燃料は、燃料油と水との混合割合が、燃料油70〜95質量%、水5〜30質量%であることが好ましい。水が5質量%以上であると、PM、スモーク、NO
x等の環境汚染物質を低減しやすくなり、30質量%以下であると、熱損失によるエネルギー効率の低下を抑制しやすくなる。
【0027】
本発明のエマルション燃料において、界面活性剤としては、従来からエマルション燃料の水の分散安定性を高めるために用いられているノニオン性界面活性剤が使用できる。具体的には、アミド結合を有する脂肪酸アルカノールアミド、エステル結合を有する多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン(硬化)ひまし油脂肪酸エステル、エーテル結合を有するポリオキシアルキレングルコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、フェノール類のアルキレンオキシド付加物、フェノール類のホルマリン縮合物のアルキレンオキシド付加物、(硬化)ひまし油のアルキレンオキシド付加物、エステル結合およびエーテル結合を有する高級脂肪酸のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して用いることもできる。
【0028】
脂肪酸アルカノールアミドとしては、ヤシ油脂肪酸(モノ、ジ)エタノールアミド、パーム油脂肪酸(モノ、ジ)エタノールアミド、ラウリン酸(モノ、ジ)イソプロパノールアミド、オレイン酸(モノ、ジ)エタノールアミド、ステアリン酸(モノ、ジ)エタノールアミド、ラウリン酸(モノ、ジ)エタノールアミド等が挙げられる。
【0029】
多価アルコール脂肪酸エステルとしては、ソルビタン(モノ、ジ、トリ)オレエート、ソルビタン(モノ、ジ、トリ)ラウレート、ソルビタン(モノ、ジ、トリ)ステアレート、ソルビタン(モノ、ジ、トリ)パルミテート、(ポリ)グリセリンモノオレエート、(ポリ)グリセリンモノステアレート等が挙げられる。
【0030】
ポリオキシアルキレン(硬化)ひまし油脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレン(硬化)ひまし油(モノ、ジ、トリ)イソステアレート、ポリオキシエチレン(硬化)ひまし油(モノ、ジ、トリ)オレエート等が挙げられる。
【0031】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0032】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルエーテル等が挙げられる。
【0033】
フェノール類のアルキレンオキシド付加物としては、フェノール、クレゾール、ブチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、ドデシルフェノール、ナフトール、ベンジル化フェノール、パラクミルフェノール、スチレン化フェノール、ビスフェノールAなどのフェノール性水酸基を有する化合物のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0034】
フェノール類のホルマリン縮合物のアルキレンオキシド付加物としては、フェノール、アルキルフェノール、ベンジル化フェノール、スチレン化フェノールなどのフェノール性水酸基を有する化合物のホルマリン縮合物(重合度1.5〜6)のアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0035】
(硬化)ひまし油のアルキレンオキシド付加物としては、ポリオキシエチレン(硬化)ひまし油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(硬化)ひまし油等が挙げられる。
【0036】
エステル結合およびエーテル結合を有する高級脂肪酸のアルキレンオキシド付加物としては、ポリオキシエチレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリン酸エステル等が挙げられる。
【0037】
本発明のエマルション燃料における燃料油が、例えば植物油の場合には、ノニオン性界面活性剤としてはエステル結合を有する多価アルコール脂肪酸エステルや、ポリオキシアルキレン硬化ひまし油脂肪酸エステルを併用すると、植物性油と同様にエステル結合を有することから親和性が高く、好適である。
【0038】
また、燃料油が軽質油の場合には、アミド結合を有する化合物と、エステル結合および/またはエーテル結合を有する化合物との組み合わせとなるように、ノニオン性界面活性剤を適宣組み合わせることで、極性物質成分に対しても分散状態を安定的に維持するよう有効に作用し好適である。このようなノニオン性界面活性剤としては、例えば脂肪酸アルカノールアミド、多価アルコール脂肪酸エステルなどが好適である。
【0039】
本発明のエマルション燃料において、界面活性剤の配合量は、燃料油の種類や水との混合割合が影響し、例えば水の比率が増加するとノニオン性界面活性剤も多く配合するが、通常は燃料油および水の合計量に対して、0.01〜2質量%が好ましい。
【0040】
また、燃焼させた際に発生するNO
x発生量にも留意して界面活性剤を配合する必要がある。NO
x発生は燃料油中のN分(窒素含有化合物)が燃焼過程で酸化されるフュエルNO
xと、燃焼空気中のN
2が高温高圧下で酸素と結合してできるサーマルNO
xとに大別される。NO
x発生量は燃焼効率、空気供給量、燃焼炉内温度などに影響を受け、サーマルNO
x発生量はその影響が顕著である。フュエルNO
x発生量は窒素含有化合物がエマルション燃料中に多量に含有されていると増加するが、少量の場合には与える影響も小さい。したがって窒素含有化合物であるアミド結合を有するノニオン性界面活性剤を配合する場合には、アミド結合を有する界面活性剤のエマルション燃料中の割合が、燃料油および水の合計量に対して1質量%以下となるようにすることが好ましい。
【0041】
通常、エマルション燃料の保管温度に関しては、室温で保管することが一般的であるが、例えば、ボイラーや発電機等の近くに燃料タンクがある場合や亜熱帯や熱帯の地域で保管する場合など、温度が40〜60℃の高温にまで達した状態で保管する場合もある。また燃料油の中でも植物油、動物油は融点が高い場合や、常温での粘度が高い場合があり、このような燃料油を使用する際は、輸送に負荷がかからない粘度にするため、例えば40〜60℃でエマルション燃料を保管する必要がある。エマルションのクリーミングは高温であるほど促進されるため、40〜60℃でもクリーミングを抑え均一なエマルション状態を長時間保つ安定なエマルション燃料を製造することが重要である。
【0042】
安定なエマルション燃料を得るために、界面活性剤(乳化剤)および添加剤の含有量を増加させるとPM、スモークおよびNO
xの増加・コスト増加に繋がるため、界面活性剤(乳化剤)と添加剤の含有量は燃料に対して合計で1質量%以下となるようにすることが好ましい。
【0043】
本発明のエマルション燃料には、カルボキシメチルセルロース塩および/またはポリ(メタ)アクリル酸塩が配合される。これらのアニオン性水溶性高分子を配合することで、界面活性剤の使用量が少なくても水の分散安定性に優れ、安定なエマルション状態が維持されるとともに、40〜60℃の高温下においても安定なエマルション状態を維持できる。したがって、高温な使用環境下でも安定した燃焼が維持でき、その結果、燃焼効率が保たれ、PM、スモーク、NO
x等の環境汚染物質の発生を抑え、内燃機関が排出するガスがもたらす環境負荷の低減あるいは排出ガスを浄化する装置への負荷低減にも繋がる。
【0044】
カルボキシメチルセルロース塩としては、分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法で測定されるポリエチレンオキサイド換算の重量平均分子量として、例えば、1×10
4〜5×10
6、好ましくは2×10
5〜2×10
6、さらに好ましくは2×10
5〜2×10
6程度の範囲から適当に選択できる。エーテル化度は、例えば、0.3〜2.7、好ましくは0.6〜2.6、さらに好ましくは0.78〜2.5、特に0.8〜1.5程度である。塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、リチウム等)、アンモニウム塩、アミン塩(トリエチルアミン、アルカノールアミン等)等が使用できる。中でも、ナトリウム塩としたカルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましく、例えば、工業品としてはダイセルファインケム製のCMCダイセル(登録商標)、日本製紙製のサンローズ(登録商標)、第一工業製薬製のセロゲン(登録商標)、ニチリン化学工業製のキッコレート(登録商標)等が挙げられる。
【0045】
カルボキシメチルセルロース塩の1質量%水溶液の粘度は、温度25℃にて、例えば、100〜15000mPa・s、好ましくは200〜8000mPa・s、特に1000〜5000mPa・s程度である。
【0046】
カルボキシメチルセルロース塩の含有量は、燃料油および水の合計量に対して0.001〜1質量%が好ましい。この範囲内であると、界面活性剤の使用量が少なくても水の分散安定性に優れ、40〜60℃の高温下においても安定なエマルション状態を維持できる。
【0047】
ポリ(メタ)アクリル酸塩としては、重量平均分子量が1,000〜100万、好ましくは2000〜50万のものを用いることができる。ポリ(メタ)アクリル酸塩の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、リチウム等)、アンモニウム塩、アミン塩(トリエチルアミン、アルカノールアミン等)等が使用できる。具体的にはポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸アンモニウム、およびメタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体、マレイン酸−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、でんぷん−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体等の塩も用いることができる。
【0048】
ポリ(メタ)アクリル酸塩の含有量は、燃料油および水の合計量に対して0.001〜1質量%が好ましい。この範囲内であると、界面活性剤の使用量が少なくても水の分散安定性に優れ、40〜60℃の高温下においても安定なエマルション状態を維持できる。
【0049】
本発明のエマルション燃料には、コハク酸イミド化合物を含有することが好ましい。コハク酸イミド化合物をカルボキシメチルセルロース塩、ポリ(メタ)アクリル酸塩と併用すると、エンジン内の気化器や燃料噴射装置、吸気弁など吸気系統へのデポジット(堆積物)の付着を抑制または除去する作用を有するとともに、コハク酸イミド化合物は、連続相である燃料油と分散相である水粒子の界面付近で、コハク酸イミド化合物のアミノ基の塩基性部位と、水に溶解しているカルボキシメチルセルロース塩、ポリ(メタ)アクリル酸塩のカルボキシル基との静電相互作用によって、界面付近でイオンコンプレックス様の凝集膜を形成し水粒子を安定させる作用を有するため、より水の分散安定性に優れ、より安定なエマルション状態が維持されるとともに、40〜60℃の高温下においてもより安定なエマルション状態を維持できると考えられる。したがって、高温な使用環境下でもより安定した燃焼が維持でき、その結果、燃焼効率が保たれ、PM、スモーク、NO
x等の環境汚染物質の発生を抑え、内燃機関が排出するガスがもたらす環境負荷の低減あるいは排出ガスを浄化する装置への負荷低減にも繋がる。
【0050】
コハク酸イミド化合物としては、アルキルまたは(ポリ)アルケニルコハク酸イミドが挙げられ、アルキルまたは(ポリ)アルケニル無水コハク酸とアミンを反応させて得ることができるものである。即ち、例えば末端に二重結合を有するオレフィン、炭素数2〜6のオレフィンを重合して得られるポリオレフィンと、無水マレイン酸との反応により、まずアルキルまたは(ポリ)アルケニルコハク酸無水物を合成する。このものは適宜水添等の還元をしてもよい。次にこのようにして得られたアルキルまたは(ポリ)アルケニルコハク酸無水物をアンモニア、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン、アミノエチルピペラジン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、 およびペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミンの如きイミド化剤と反応させ、所望のアルキルまたは(ポリ)アルケニルコハク酸イミドを得ることができる。アルキルまたは(ポリ)アルケニル基は数平均分子量150以上10000以下であることが好ましい。アルキル基としては、例えば、ドデシル基、オクタデシル基、イソオクタデシル基、ポリ(イソ)ブテニル基またはポリイソブテニル基を水添したものが挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、イソオクタデセニル基等が挙げられる。ポリアルケニル基としては、例えば、ポリ(イソ)ブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられ、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させた数平均分子量500以上5000以下であるポリ(イソ)ブテニル基、ポリイソブテニル基が好ましい。中でも具体的には、ヘキサデセニルコハク酸イミド、オクタデセニルコハク酸イミド、イソオクタデセニルコハク酸イミド等のアルケニルコハク酸イミド、ポリアルケニル基の数平均分子量が300以上3000以下であるポリアルケニルコハク酸イミドが好ましく、特に全塩基価が20〜150mgKOH/gの(N−ポリアルキレンポリアミン)ポリ(イソ)ブテニルコハク酸イミド、(N−ポリアルキレンポリアミン)ポリイソブテニルコハク酸イミドが好ましい。これらは単独で使用してもよく、また2種以上を混合して用いることもできる。また希釈剤として鉱物油等で希釈されている工業品を用いてもよく、例えば、BASF製のKerocom、Dover Chemical製のDOVERSPERSE、Tianhe Chemicals製のT154A、東邦化学工業製のPD−98等が挙げられる。
【0051】
コハク酸イミド化合物の含有量は、燃料油および水の合計量に対して0.5質量%以下が好ましく、0.001〜0.3質量%がより好ましく、0.01〜0.1質量%が特に好ましい。
【0052】
本発明のエマルション燃料には、本発明の効果を損なわない範囲内において、その他の添加剤を配合することができる。このようなその他の添加剤としては、防錆剤、腐食防止剤、燃焼温度降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。
【0053】
燃料油、水、界面活性剤、添加剤を乳化する方法は、特に限定されない。例えば、燃料油に界面活性剤を混合してから、水を徐々に添加する方法、水に界面活性剤を混合してから、燃料油に添加する方法、水、燃料油、界面活性剤を一括混合する方法のいずれの方法でもよい。このとき、カルボキシメチルセルロース塩、ポリ(メタ)アクリル酸塩は予め水に添加、溶解しておくのが好ましい。また、コハク酸イミド化合物は予め燃料油に添加、溶解しておくのが好ましい。
【0054】
乳化混合機としては、特に限定されない。例えば、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼、アンカー翼、リボン翼などを有する撹拌混合機や超音波ホモジナイザー、撹拌ホモジナイザーによる高速攪拌分散機、高速回転剪断型攪拌機、高圧噴射式乳化分散機などが挙げられる。また、これらの装置を組合せて予備乳化的工程を経て乳化したり、循環させることにより効率的に乳化しても構わない。
【0055】
このような乳化方法によって、粒径分布が単分散性で粒径が細かく、クリーミングが抑えられ、乳化層の上層下層の相分離率が低く、水分離がほとんどなく、燃焼状態が良い良質なエマルション燃料が得られる。本発明のエマルション燃料は、水相粒子の平均粒径が0.1〜1μmとされている。このようにエマルションを微細化・単分散性化することによって、エマルション粒子のクリーミング、合一が抑制され、乳化層の上層下層の相分離率が低く、水分離がほとんどない、高温であってもエマルションの安定性が高く、燃焼効率も向上する。
【0056】
ここで平均粒径は、市販のレーザー回折・動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折・動的光散乱法による粒度分布の測定値から、平均径(重量(体積)基準分布の平均径)として求めることができる。また、単分散性になっているかの指標は、動的光散乱(DLS)における多分散指数(polydispersity index、PDI)により評価した。PDIが0の時が、粒径の分布がない理想的なエマルション燃料を表すが、本発明では0.1から0.4の間のPDIを有するエマルション燃料を単分散性とし、0.5より大きいPDIを有するエマルション燃料は多分散性であるとした。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
1.エマルション燃料の調製
実施例および比較例において、燃料油、界面活性剤、および添加剤として次のものを用いた。
(燃料油)
灯油(分離状態を分かりやすく示すためにオイルオレンジSS(東京化成工業製)を
0.001wt%/V添加した)
軽油(分離状態を分かりやすく示すためにオイルオレンジSS(東京化成工業製)を
0.001wt%/V添加した)
ジャトロファ油
(界面活性剤)
界面活性剤A:ソルビタンモノオレエート
界面活性剤B:グリセリンモノオレエート
界面活性剤C:ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド
界面活性剤D:ポリオキシエチレン(7.5)ひまし油
界面活性剤E:ポリオキシエチレン(4)ポリオキシプロピレン(3)ラウリルエー
テル
界面活性剤F:ポリオキシエチレン(20)硬化ひまし油トリイソステアレート
界面活性剤G:ポリオキシエチレン(30)硬化ひまし油トリイソステアレート
(添加剤)
アニオン性水溶性高分子:カルボキシメチルセルロースナトリウム(日本製紙製 サン
ローズ(登録商標)F350HC−4、略号:CMC)、カルボキシメチルセルロース
ナトリウム(和光純薬製、略号:CMC試薬)、ポリアクリル酸アンモニウム(和光純
薬製、ポリアクリル酸アンモニウム溶液70〜110、分子量約1万、蒸発残分
42.8%、略号:PAA)
コハク酸イミド化合物:(N−ポリアルキレンポリアミン)ポリ(イソ)ブテニルコハ
ク酸イミド(東邦化学工業製 PD−98ANH、ポリ(イソ)ブテニル基の平均分子
量1000、有姿全塩基価50.2mgKOH/g、略号:PIBSI)
【0058】
<実施例1〜17、比較例1〜13>
表1〜表4に示す配合比で、界面活性剤、コハク酸イミド化合物を配合する場合は燃料油に溶解し、CMC、PAAを配合する場合は水道水に溶解してから、燃料油へ徐々に添加混合した。
【0059】
なお、界面活性剤、添加剤の配合量は、界面活性剤、CMC、PIBSIに関しては有姿、PAAに関しては蒸発残分を有効成分濃度として換算して配合した。
【0060】
乳化方法
A:上記混合物を攪拌ホモジナイザー(プライミクス社製ホモミクサーMARKII 2.5型)を用いて25℃、10000rpmの回転数で10分間、高速撹拌して乳化した。
【0061】
B:上記Aの高速攪拌で乳化後、さらに卓上超微粒化試験機(吉田機械興業製、NM2−L100)を用いて100MPa、5Passの条件で高圧高剪断撹拌により乳化した。
【0062】
得られた実施例1〜17、比較例1〜13の各エマルション燃料について、粒径分布(平均粒径、単分散性)、顕微鏡観察、安定性評価(分離水量、上層下層相分離率)、燃焼評価(NO
x減少率、スモーク濃度減少率)の評価、測定を行った。
【0063】
2.粒径分布(平均粒径、単分散性)
次の方法でエマルション燃料中における水相粒子の平均粒径を25℃で測定した。動的光散乱(DLS、ゼータ電位粒径測定システム、大塚電子製)法により重量分布を平均粒径として算出した。単分散性は多分散指数(PDI)により評価した。結果を表1〜表4に示す。
図1には実施例1の乳化直後、50℃に保存した1日後、4日後の粒径分布のヒストグラムを示す。
【0064】
その結果、実施例1〜17は、乳化直後においてすべての平均粒径が約200〜500nm、PDIが0.2〜0.4の単分散性となった。実施例1の50℃1日後、4日後の平均粒径及び多分散指数の値は、1日後の平均粒径190nm、PDI0.20、4日後の平均粒径163nm、PDI0.20で、乳化直後とほとんど変化なく、燃料として使用可能で均一な状態が保たれていた。
【0065】
一方、比較例1は、乳化後まもなく分離しはじめたため粒径測定はできなかった。比較例2〜9の乳化直後は、実施例と同様の平均粒径及び多分散指数となった。さらに比較例2の経時安定性を観察するため、50℃1日後及び4日後の粒径分布を測定しようとしたが、油相分離、クリーミングが進行し、エマルション相が存在しなかったため測定できなかった。なお、比較例3〜9でも50℃4日後には分離水や上層下層の相分離が認められた。
【0066】
つまり、比較例1〜9のエマルション燃料は、乳化−燃焼の連続供給であれば燃料としての使用は可能であるものの、50℃で保存すると不安定で燃料としては使用できないと考えられる。また、比較例10〜13は、平均粒径が400〜800nm程度のやや大きな粒径であり、PDIは1を超えた多分散性であった。
【0067】
3.顕微鏡観察
実施例1、7、8、比較例1、2について、乳化直後、50℃に保存した1日後、4日後の光学顕微鏡観察(カールツァイス製、Axio Imager.A2m)を行った。倍率は1600倍で観察した。結果を
図2に示す。
【0068】
その結果、実施例1では、乳化直後でかなり細かい粒子が観察され、50℃1日後、4日後でもその粒径を維持しており、平均粒径の測定結果と一致した。
【0069】
一方、比較例1は、乳化直後は、ある程度細かい粒子が存在しているが、30分ほどで分離したため、その際の顕微鏡観察をしたところ、かなり大きな粒子に合一しており、クリーミングと合一が短時間でおこり、分離してしまったと考えられる。比較例2の乳化直後は、実施例1に比べて僅かに大きな粒径が観察され、50℃1日後では、エマルション相は存在しないため、クリーミングしたエマルション下層(CE)の観察を行ったところ、かなり大きな粒子が観察された。実施例7と実施例8を比較すると、CMC含量の一部をPIBSIに置き換えたことで、水粒子はより細かく、より単分散性で安定であることが確認された。この粒子の安定化はアニオン性水溶性高分子が寄与して界面の膜を強固にして、さらにコハク酸イミド化合物によって相互作用し、界面の膜をより強くする相乗効果が働いたためと考えられる。
【0070】
4.安定性評価(分離水量、上層下層相分離率)
得られたエマルション燃料を50mL目盛り付きの栓付きメスシリンダーに50mL移して25℃または50℃の恒温器内で静置し、1日後、4日後の分離水量および上層下層相分離率を計測した。分離水量、上層下層相分離率から次の基準で安定性を評価した。
【0071】
相分離率は、完全に分離した油相の容積(O)、エマルション相(E)、クリーミングして水分が多くなったエマルション下層(CE)のそれぞれの容積比、O/(O+E+CE)を上層相分離率、CE/(O+E+CE)を下層相分離率とし、百分率(%)に換算した。
【0072】
分離水量、上層下層相分離率から次の基準で安定性を評価した。結果を表1〜表4に示す。
図3には灯油または軽油エマルション燃料の分離水、相分離状況の代表写真を示す。
評価基準(分離水量)
◎:分離なし
○:水滴
△:0.1〜1ml未満
×:1ml以上
【0073】
評価基準(上層下層相分離率)
◎:3%未満
〇:3〜10%未満
△:10〜20%未満
×:20%以上
【0074】
その結果、灯油エマルション燃料である実施例1〜10は、比較例1〜6の25℃、50℃1日後、4日後と比べてクリーミングが抑えられ、分離水量が少なく、上層下層相分離率も低い。
図3からも実施例1は良好なエマルション相(E)を形成しているのに対して、比較例1、2は明らかに油相分離(O)、クリーミング(CE)が進行した。
【0075】
実施例1〜10は比較例1と比べて界面活性剤添加量を約1/6〜1/12に減らしているが、カルボキシメチルロースナトリウム、ポリアクリル酸アンモニウム、さらにコハク酸イミド化合物を配合することにより単分散性で粒径も細かくなり、クリーミングが抑えられ、上層下層相分離率が低く、水分離もほとんどなく、50℃の高温下においても安定なエマルション燃料であった。
【0076】
軽油エマルション燃料である実施例11〜14も、比較例7〜9に比べて、灯油エマルション燃料と同様にクリーミングが抑えられ、分離水量が少なく、上層下層相分離率も低い。
図3からも実施例11は比較例7よりも明らかに油相分離(O)、クリーミング(CE)が抑えられている。また、ジャトロファ油エマルション燃料である実施例15〜17も、比較例10〜13に比べて水分離量が少なく乳化安定性が向上している。
【0077】
このように、本発明のエマルション燃料は、界面活性剤の使用量が少なくても単分散性で粒径が細かく、クリーミングが抑えられ、乳化層の上層下層の相分離率が低く、水分離がほとんどない安定なエマルション状態が維持されるとともに、高温での安定性も高い高品質なエマルション燃料であることが認められた。
【0078】
5.燃焼評価(NO
x減少率、スモーク濃度減少率)
市販のディーゼルエンジン「デンヨー小型ディーゼルエンジン発電機:DA−3100SS−IV 水冷4サイクル渦流室式」を用い燃焼試験を行い、排ガス中のNO
x濃度を測定した。燃焼試験には50℃に保存した1日後の実施例1〜17および比較例6、7、10、11のエマルション燃料を用い、実施例品はそのまま、比較例品は再乳化した後、燃料タンクに供給し燃焼したときのNO
x発生を、軽油のみ、灯油のみ、またはジャトロファ油のみ燃焼したときを100%とした場合の減少率で示した。なお、一般にNO
x発生量は水の比率が増加すると低減される傾向にある。またスモーク濃度に関してもスモークメータによる測定を行い、同様に燃料油のみ燃焼したときを100%とした場合の減少率で示し評価した。結果を表1〜表4に示す。
【0079】
その結果、灯油エマルション燃料である実施例1〜10及び軽油エマルション燃料である実施例11〜14のNO
x発生量はいずれも燃料油のみを燃焼したときと比べて20〜25%の減少率を示し、スモーク濃度も80〜85%の減少率を示した。また、ジャトロファ油エマルションである実施例15〜17のNO
x発生量は、いずれも燃料油のみを燃焼したときと比べて40〜50%の高い減少率を示し、スモーク濃度も80〜85%の減少率を示した。
【0080】
一方、比較例品は平均粒径や50℃に保存した1日後の乳化安定性が不良であったため、代表として比較例6、7、10、11のみを再乳化した後に燃焼試験したが、NO
x発生量はいずれも燃料油のみを燃焼したときと比べて19〜41%の減少率を示し、スモーク濃度も74〜83%の減少率を示し、減少率としては、やや低い結果となった。
【0081】
このように、本発明のエマルション燃料は、NO
x、スモーク、PM等の環境汚染物質の発生を抑え、安定的な燃焼が可能となるため、ボイラーなどの外燃機関やエンジンなどの内燃機関が排出するガスがもたらす環境負荷の低減あるいは排出ガスを浄化する装置への負荷低減にも繋がると考えられる。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】