(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記センサ出力をアナログ的に補正する場合には、前記2次側制御回路の閉じた制御ループに、前記2次側制御回路からの前記振動子の利得の温度変化の2乗に反比例するセンサ出力の補正を行うために、前記振動子の利得の温度変化に反比例する前記1次側制御回路の前記出力に基づく第1オフセット値と、前記2次側制御回路からの前記振動子の利得の温度変化に反比例するセンサ出力の補正を行うために、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、前記第1オフセット値および前記第2オフセット値の加算量を調整することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項1に記載の振動型角速度センサ。
前記センサ出力をデジタル的に補正する場合には、前記振動子の利得の温度変化に反比例する前記1次側制御回路の前記出力を量子化するとともに、量子化した前記1次側制御回路の前記出力に対して、温度変化による前記センサ出力の誤差を0または略0にする前記オフセット値を、前記2次側制御回路に加算することによって、前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項1に記載の振動型角速度センサ。
各温度において、前記センサ出力の誤差が0または略0になる前記オフセット値を予め算出するとともに、算出された各温度における前記オフセット値と、各温度における量子化された前記1次側制御回路の前記出力との関係式を多項式近似により求め、求められた前記関係式に基づいて、前記オフセット値を、前記2次側制御回路に加算することによって、デジタル的に前記センサ出力の補正を行うように構成されている、請求項6に記載の振動型角速度センサ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
(第1実施形態)
まず、
図1を参照して、第1実施形態による振動型角速度センサ100の構成について説明する。この第1実施形態では、振動型角速度センサ100のセンサ出力をアナログ的に処理することにより、補正を行う例について説明する。
【0022】
図1に示すように、振動型角速度センサ100は、振動子1と、振動子1を駆動する閉じた制御ループを有する1次側制御回路2と、1次側制御回路2により駆動された振動子1の振動を検出して出力する閉じた制御ループを有する2次側制御回路3とを備えている。ここで、第1実施形態では、振動子1は、リング型の振動子1からなる。
【0023】
1次側制御回路2は、増幅回路21と、同期検波回路22と、ループフィルタ23と、変調回路24と、駆動回路25と、PLL(Phase Locked Loop)回路(位相同期回路)26と、基準信号生成回路27とを含む。そして、振動子1、増幅回路21、同期検波回路22、ループフィルタ23、変調回路24および駆動回路25が、この順で接続されており、閉じた制御ループを構成している。なお、ループフィルタ23は、たとえば積分フィルタからなる。なお、ループフィルタ23は、本発明の「1次側ループフィルタ」の一例である。
【0024】
2次側制御回路3は、増幅回路31と、同期検波回路32と、加算回路33と、ループフィルタ34と、変調回路35と、駆動回路36と、増幅回路37とを含む。そして、振動子1、増幅回路31、同期検波回路32、加算回路33、ループフィルタ34、変調回路35および駆動回路36が、この順で接続されており、閉じた制御ループを構成している。なお、加算回路33は、オペアンプを用いた一般的な加減算回路により構成されている。また、ループフィルタ34は、たとえば積分フィルタからなる。また、ループフィルタ34の出力が、増幅回路37に入力される。そして、増幅回路37から出力された信号が、振動型角速度センサ100のセンサ出力として、外部に出力される。なお、ループフィルタ34は、本発明の「2次側ループフィルタ」の一例である。
【0025】
また、振動型角速度センサ100には、1次側制御回路2からの出力(ループフィルタ23からの出力)が入力される加減算量調整回路4が設けられている。加減算量調整回路4は、温度に依存する1次側制御回路2のループフィルタ23の出力の大きさを調整して、調整した出力(第1オフセット値)を、2次側制御回路3の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路4において、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、第1オフセット値の加算量の調整が行われる。
【0026】
また、振動型角速度センサ100には、温度に依存しない一定の信号が入力される加減算量調整回路5が設けられている。加減算量調整回路5は、一定の信号の大きさを調整して、調整した一定の信号(一定の第2オフセット値)を、2次側制御回路3の加算回路33に入力するように構成されている。たとえば、加減算量調整回路5において、ポテンショメータ(ボリューム抵抗)などを用いて分圧することにより、第2オフセット値の加算量の調整が行われる。
【0027】
ここで、第1実施形態では、センサ出力をアナログ的に補正する場合には、2次側制御回路3の閉じた制御ループ(2次側制御回路3のループフィルタ34の入力)に、温度に依存する1次側制御回路2の出力(ループフィルタ23の出力)に基づく第1オフセット値と、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量をそれぞれ加減算量調整回路4および加減算量調整回路5により調整することによって、センサ出力(2次側制御回路3からの出力)の補正が行われる。そして、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と、1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストーク(信号交差)により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差とを低減するように、第1オフセット値および第2オフセット値を決定して加算することにより、センサ出力の補正が行われる。なお、補正の詳細な説明は、後述する。
【0028】
次に、
図1および
図2を参照して、増幅回路(21、31)、同期検波回路(22、32)、ループフィルタ(23、34)、変調回路(24、35)、および、駆動回路(25、36)から出力される信号について説明する。
【0029】
図2に示すように、1次側制御回路2では、振動子1から出力された信号が、増幅回路21によって増幅されて信号Aにされる。なお、増幅回路21によって増幅された信号Aは、正弦波形状を有する。また、基準信号生成回路27において、基準信号(同期信号)が生成されるとともに、生成された同期信号が、同期検波回路22および変調回路24に出力される。なお、生成された同期信号は、2次側制御回路3(
図1参照)の同期検波回路32および変調回路35にも出力される。さらに、生成された同期信号は、PLL回路26に出力される。
【0030】
そして、PLL回路26に入力された信号と同じ位相を有する信号が、PLL回路26から同期検波回路22に入力される。そして、増幅回路21によって増幅された信号Aが、PLL回路26から出力された信号に基づいて、同期検波回路22によって検波されて信号Bにされる。その後、同期検波回路22から出力された信号Bは、ループフィルタ23によって積分されて、一定の大きさVの信号Cにされる。その後、信号Cは、基準信号生成回路27において生成された同期信号に基づいて、変調回路24によって、パルス状の信号Dにされる。そして、変調回路24によってパルス状にされた信号Dが、駆動回路25に入力されるとともに、駆動回路25から出力される信号により、振動子1が振動される。なお、2次側制御回路3における信号も、1次側制御回路2における信号と同様である。
【0031】
次に、
図1、
図3および
図4を参照して、振動型角速度センサ100の角速度を検出する動作について説明する。
【0032】
まず、1次側制御回路2(
図1参照)の駆動回路25から出力される信号により、
図3に示すように、振動子1にcos2θモードの1次振動(
図3の点線参照)が発生する。ここで、振動子1に1次振動が発生している状態で、振動子1に対して垂直な軸(紙面に垂直な軸)を中心に角速度Ωが生じた場合、コリオリ力fcが発生する。これにより、
図4に示すように、振動子1にsin2θモードの2次振動(
図4の点線参照)が発生する。そして、この2次振動によって2次側制御回路3の増幅回路31から生じる信号を0にするように、2次側制御回路3の駆動回路36(
図1参照)から振動子1に信号(電圧)が入力(印加)される。そして、この信号の大きさが、検出された角速度に対応したセンサ出力となる。
【0033】
次に、
図1を参照して、振動型角速度センサ100のセンサ出力の補正について詳細に説明する。
【0034】
まず、補正の対象となる振動型角速度センサ100の出力の誤差について説明する。振動型角速度センサ100の出力の誤差としては、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号によって生じる振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差と、1次側制御回路2からの影響(クロストーク)に起因して発生する振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差とが存在する。2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号の成分(エラー成分)は、温度依存性を有しない一定値であるとする。なお、一般的に、フィードバック回路(帰還回路)では、各回路からの出力信号は、各回路に入力される入力信号をフィードバックゲインで除した値(出力信号=入力信号×1/(フィードバックゲイン))により表される。
【0035】
図1における信号経路1(経路1、振動子1から出力された信号)で発生したエラー成分(V
In_CE1:CEは、Constant Errorの略語)は、2次側制御回路3の閉じた制御ループの帰還動作によって、下記の式(2)に示す出力誤差V
Out_CE1を生じさせる。
【数3】
【0036】
ここで、G
SDは、駆動回路36における利得(Secondary Drive Amplifier Gain)であり、温度に依存しない値である。また、G
SR(T)は、振動子1における利得(Secondary Resonator Gain)である。この振動子1の利得(ゲイン)G
SR(T)は、温度に依存して変動する値である。また、G
SR(T)(=G
PR(T)、後述する式(7)参照)=G
R(T)である。また、CE
1は、温度に依存しない一定値である。すなわち、振動子1からの出力誤差V
Out_CE1は、振動子1に入力されるエラー信号V
In_CE1を、駆動回路36における利得G
SDおよび振動子1における利得G
SR(T)により除した値となる。このように、振動子1からの出力誤差V
Out_CE1は、温度に依存する利得G
SR(T)(G
R(T))を含んでいるため、温度に依存して変動する値となる。
【0037】
信号経路2(経路2、同期検波回路32から出力された信号)で発生したエラー成分(V
In_CE2)も、上記経路1と同様に、下記の式(3)に示す出力誤差V
Out_CE2を生じさせる。
【数4】
【0038】
ここで、G
SPは、増幅回路31における利得(Secondary Pick off Amplifier Gain)であり、温度に依存しない値である。また、CE
2は、温度に依存しない一定値である。すなわち、同期検波回路32からの出力誤差V
Out_CE2は、同期検波回路32に入力されるエラー信号V
In_CE2を、駆動回路36における利得G
SD、振動子1における利得G
SR(T)および増幅回路31における利得G
SPにより除した値となる。この出力誤差V
Out_CE2も、上記出力誤差V
Out_CE1と同様、温度に依存する利得G
SR(T)(G
R(T))を含んでいるため、温度に依存して変動する値となる。
【0039】
信号経路3(経路3、駆動回路36から出力された信号)で発生したエラー成分(V
In_CE3)は、下記の式(4)に示す出力誤差V
Out_CE3を生じさせる。
【数5】
【0040】
ここで、CE
3は、温度に依存しない一定値である。すなわち、駆動回路36からの出力誤差V
Out_CE3は、駆動回路36に入力されるエラー信号V
In_CE3を、駆動回路36における利得G
SDにより除した値となる。なお、駆動回路36における利得G
SDは、上記したように、温度に依存しない値であるため、出力誤差V
Out_CE3(式(4))は、温度に依存しない値となる。
【0041】
次に、振動型角速度センサ100の出力誤差のうち、1次側制御回路2からの影響(クロストーク)に起因して発生する振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差について説明する。振動型角速度センサ100では、振動型角速度センサ100を構成する同一の素子内に1次側制御回路2(1次振動)と2次側制御回路3(2次振動)とが存在するとともに、各回路の電気的な信号経路も極めて接近しているため、1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストーク(信号交差)が生じる。ここで、クロストークとして、1次側制御回路2(駆動回路25)の駆動信号V
PD、および、1次側制御回路2(ループフィルタ23)の出力信号V
PPが、2次側制御回路3の経路1および経路3に、ある一定比率で加わった場合を想定する。なお、経路2は、1次側制御回路2と2次側制御回路3とを構成する同一の素子の外部の電子回路上の経路であるため、クロストークは生じない。
【0042】
1次側制御回路2(ループフィルタ23)の出力信号V
PPから、経路1へのクロストークによって生じる出力誤差V
Out_PP_E1は、経路1へのクロストーク比率をαとした場合、下記の式(5)により表される。
【数6】
【0043】
ここで、出力信号V
PP=V
SET/G
PPで表される。なお、V
SETは、交流信号(振動子1)の振幅量を一定値に設定する電圧(温度に依存しない値)であり、G
PPは、増幅回路21における利得(Primary Pick off Amplifier Gain)(温度に依存しない値)である。すなわち、出力信号V
PPは、温度に依存しない値である。このため、上記式(5)における右辺のα・V
PP/G
SDを温度に依存しない一定値PPE
1としている。なお、上記式(5)により表される、1次側制御回路2の出力信号V
PPから経路1へのクロストークに起因する出力誤差V
Out_PP_E1は、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により生じる誤差である上記式(2)と同様の特性(G
R(T)に反比例(∝1/G
R(T)))となる。これは、1次側制御回路2の制御ループと、2次側制御回路3の制御ループとの類似性が高いことに起因する。なお、制御ループが類似するとは、制御ループを構成する回路ブロックが同一であり、温度特性を有する他の回路ブロックを含まないことを意味する。また、同一の回路ブロックの特性が異なっていても(たとえば、増幅回路の増幅率が異なっていても)、同一であるとみなされる。
【0044】
1次側制御回路2の出力信号V
PPから経路3へのクロストークによって生じる出力誤差V
Out_PP_E3も、上記式(4)と同様に、下記の式(6)により表される。この出力誤差V
Out_PP_E3=PPE
3は、温度に依存しない一定値である。
【数7】
【0045】
1次側制御回路2(駆動回路25)の駆動信号V
PDから、経路1へのクロストークによって生じる出力誤差V
Out_PD_E1は、クロストーク比率をβとした場合、下記の式(7)により表される。
【数8】
【0046】
ここで、駆動信号V
PD=V
SET/(G
PR(T)・G
PP)で表される。なお、G
PR(T)は、振動子1における利得(Primary Resonator Gain)であり、温度に依存して変動する値である。また、G
PR(T)=G
SR(T)=G
R(T)である。また、PDE
1は、温度に依存しない一定値である。この式(7)は、温度に依存するG
R(T)の二乗に反比例する式であるので、出力誤差V
Out_PD_E1は、温度に依存する利得G
R(T)の二乗に反比例した値となる。
【0047】
駆動信号V
PDから経路3へのクロストークによって生じる出力誤差V
Out_PD_E3は、下記の式(8)により表される。この式(8)中のPDE
3は、温度に依存しない一定値である。この式(8)により規定される、駆動信号V
PDから経路3へのクロストークに起因する出力誤差V
Out_PD_E3は、式(5)と同様、G
R(T)に反比例した値になり、温度に依存した値となる。
【数9】
【0048】
振動型角速度センサ100のセンサ出力には、上記式(2)〜(8)の誤差が積算されるため、全てを足し合わせた誤差は、下記の式(9)により表される。なお、A、BおよびCは、温度に依存しない一定値(係数)である。
【数10】
【0049】
次に、上記した式(9)で表される振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差V
Out_Total_Errorに対して、センサ出力をアナログ的に補正する場合について、具体的に説明する。
【0050】
まず、2次側制御回路3のループフィルタ34の入力(経路2)に、温度に依存しない一定の信号に基づくV
In_Const_Corr(第2オフセット値)が加算される。この場合、振動型角速度センサ100のセンサ出力V
Out_Const_Corrは、下記の式(10)により表される。
【数11】
【0051】
ここで、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値をループフィルタ34の入力に加算した場合、上記式(10)に示すように、センサ出力V
Out_Const_Corrは、温度に依存する利得G
R(T)に反比例した値となる。なお、上記式(10)中のpは、一定値である。そして、上記式(10)中のpと、上記式(9)中の第2項であるB/G
R(T)のBとの大きさが等しく(p=−B)なるように、V
In_Const_Corr(第2オフセット値)を加減算量調整回路5により調整することにより、上記式(9)の第2項であるB/G
R(T)がキャンセルされる。すなわち、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値を調整してループフィルタ34の入力に加算することによって、上記式(9)の温度に依存する利得G
R(T)の二乗に反比例した項をキャンセルすることが可能となる。
【0052】
また、温度に依存する1次側制御回路2のループフィルタ23の出力V
AGCは、下記の式(11)により表される。なお、ループフィルタ23の出力V
AGCは、上記温度に依存しない1次側制御回路2(ループフィルタ23)の出力信号V
PPとは異なり、閉じた制御ループを考慮したループフィルタ23の出力であり、温度に依存する値となる。
【数12】
【0053】
ここで、第1実施形態によるアナログ的な補正では、上記した温度に依存しない一定の信号に基づくV
In_Const_Corr(第2オフセット値)に加えて、出力V
AGCにある比率qを乗じた値(第1オフセット値)を、2次側制御回路3のループフィルタ34の入力(経路2)に加算する。この第1オフセット値を加えた場合の振動型角速度センサ100のセンサ出力V
Out_AGC_Corrは、下記の式(12)により表される。
【数13】
【0054】
ここで、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値をループフィルタ34の入力に加算した場合、上記式(12)に示すように、センサ出力V
Out_AGC_Corrは、温度に依存する利得G
R(T)の二乗に反比例した値となる。なお、上記式(12)中のrは、一定値である。そして、上記式(12)中のrと、上記式(9)中のG
R(T)の二乗を含む第1項のA/G
R2(T)のAとの大きさが等しく(r=−A)なるように、qを加減算量調整回路4により調整することにより、上記式(9)の第1項であるA/G
R2(T)がキャンセルされる。すなわち、振動型角速度センサ100のセンサ出力は、センサ出力の補正を行わない場合には、本来のセンサ出力に、上記式(9)で表される誤差が加えられた値になる一方、第1実施形態では、第1オフセット値(式(12)に相当)および第2オフセット値(式(10)に相当)が加算されることにより、振動型角速度センサ100のセンサ出力は、本来のセンサ出力に一定値Cが加算された値となる。
【0055】
なお、式(9)のCは、温度に依存しない一定値であるため、補正上問題にならない。また、上記式(9)における係数A、BおよびCは、各温度における補正前(補償前)の振動型角速度センサ100のセンサ出力を計測(実測)するとともに、計測されたデータを最小二乗法による多項式近似することによって算出される。なお、係数A、BおよびCの算出は、振動型角速度センサ100ごと(製品ごと)に算出される。
【0056】
このように、第1実施形態では、式(9)の第1項であるA/G
R2(T)(温度に依存する利得G
R(T)の二乗に反比例した項)を0にするように、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値の加算量を調整するとともに、式(9)の第2項であるB/G
R(T)(温度に依存する利得G
R(T)に反比例した項)を0にするように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的にセンサ出力の補正が行われる。
【0057】
すなわち、
図5に示すように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算により、振動型角速度センサ100のセンサ出力の誤差の1/G
R(T)に比例(温度に依存する利得G
R(T)に反比例した項)する成分(式(9)の第2項)がキャンセルされることにより、温度に依存する特性を有していたセンサ出力(
図5の点線)が、略一定(
図5の実線)になる。しかしながら、
図6に示すように、略一定にされたセンサ出力でも、微視的には、温度に依存する特性(
図6の点線)を有する。そこで、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値の加算により、振動型角速度センサ100のセンサ出力の1/G
R2(T)に比例(温度に依存する利得G
R(T)の二乗に反比例した項)する成分(式(9)の第1項)もキャンセルすることにより、センサ出力が温度に依存しない略一定(
図6の実線)になる。その結果、補正の精度を高めることが可能になる。また、振動型角速度センサ100のセンサ出力をアナログ的に補正する場合、デジタル的(信号が離散値)に補正する場合と異なり、信号が連続値であるので、振動型角速度センサ100のセンサ出力がステップ状に変化するのを抑制する(センサ出力を連続値にする)ことが可能になる。
【0058】
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。なお、以下では、Q値(振動の状態を示す無次元数)は、概ね温度に反比例した特性を有するものとして、説明している。
【0059】
第1実施形態では、上記のように、2次側制御回路3の閉じた制御ループに、温度に依存する1次側制御回路2の閉じた制御ループの出力に基づくオフセット値(第1オフセット値)を加算することにより、2次側制御回路3からのセンサ出力の補正を行うように構成することによって、1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストークに起因する誤差(特に振動子1の利得(ゲイン)の二乗に反比例する誤差)を低減するようにセンサ出力の補正を行うことができる。
【0060】
また、2次側制御回路3の閉じた制御ループに、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づくオフセット値(第1オフセット値)を加算することにより、センサ出力の補正を行うように構成することによって、温度センサを用いることなく、1次側制御回路2の制御ループの利得の温度特性(振動型角速度センサ100自身の温度特性)を2次側制御回路3の閉じた制御ループに温度情報として直接反映させることができる。これにより、温度センサを用いることに起因する温度センサと振動型角速度センサ100との温度特性の相違およびヒステリシス差などの誤差要因も発生しないとともに、温度センサによって間接的に測定された温度に基づいてオフセット値を加算する場合と比べて、より実際の振動型角速度センサ100の温度特性に即した補正を行うことができる。その結果、温度センサを用いなくても補正が可能で、かつ、補正の精度を高めることができる。
【0061】
また、第1実施形態では、上記のように、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と、1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストークにより2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差とを含むセンサ出力の誤差を低減するように、オフセット値(第1オフセット値、第2オフセット値)を決定して加算することにより、センサ出力の補正を行うように構成する。これにより、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号に起因する誤差と、クロストークに起因する誤差との両方の誤差が補正により低減されるので、一方の誤差のみを低減する場合と異なり、補正の精度をより高めることができる。
【0062】
また、第1実施形態では、上記のように、1次側制御回路2および2次側制御回路3は、それぞれ、閉じた制御ループ内に、ループフィルタ23およびループフィルタ34を含み、ループフィルタ34の入力に、温度に依存するループフィルタ23の出力に基づくオフセット値(第1オフセット値)を加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成する。ここで、閉じた制御ループにおける出力は、ループフィルタ23(34)の出力に対応する。そして、ループフィルタ23(34)の出力は、閉じた制御ループの帰還動作によって温度に依存する振動子1の利得(ゲイン)に反比例する。また、振動子1の利得には、Q値(振動の状態を示す無次元数)が含まれる。そして、Q値は、上記のように、概ね温度に反比例した特性を有する。その結果、ループフィルタの出力は、温度に比例した特性を有する。第1実施形態では、この点に着目して、ループフィルタ34の入力に、温度に依存するループフィルタ23の出力に基づくオフセット値(第1オフセット値)を加算することによりセンサ出力の補正を行うことによって、温度に比例した特性を有するループフィルタ23の出力を温度情報として利用することができるので、温度センサを用いることなく、補正を行うことができる。
【0063】
また、第1実施形態では、上記のように、センサ出力をアナログ的に補正する場合には、2次側制御回路3の閉じた制御ループに、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値と、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することによって、センサ出力の補正を行うように構成する。ここで、2次側制御回路3の閉じた制御ループに、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値を加算した場合、2次側制御回路3の出力は、閉じた制御ループの帰還動作によって温度の一乗に比例した特性(Q値に反比例(∝1/Q
S)した特性)を有する。なお、Q
Sは、2次側制御回路3による振動子1のQ値である。これは、2次側制御回路3の制御ループに何らかの値が加算された場合、2次側制御回路3の出力は、温度の一乗に比例した特性(1/Q
Sに比例した特性)を有することを意味する。また、1次側制御回路2の出力も同様に、閉じた制御ループの帰還動作によって温度に比例した特性(Q値に反比例(∝1/Q
P)した特性)を有するため、加算値の1/Q
Sに比例した出力特性を有する2次側制御回路3の閉じた制御ループに、1/Q
Pに比例した特性を有する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値を加算することによって、2次側制御回路3の出力は、温度の二乗に比例(Q値の二乗に反比例(∝1/(Q
P・Q
S))した特性を有するものとなる。なお、Q
Pは、1次側制御回路2による振動子1のQ値である。すなわち、温度の二乗に対応する第1オフセット値と温度の一乗に対応する第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することにより、センサ出力の補正を行うことによって、温度の一乗に比例(振動子1の利得の一乗に反比例)した補正のみならず、温度の二乗に比例(振動子1の利得の二乗に反比例)した補正も行うことができるので、温度の一乗のみに比例した補正を行う場合と比べて、補正の精度をさらに高めることができる。
【0064】
また、第1実施形態では、上記のように、1次側制御回路2および2次側制御回路3は、それぞれ、ループフィルタ23およびループフィルタ34を含み、ループフィルタ34の入力に、温度に依存するループフィルタ23の出力に基づく第1オフセット値と、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算するとともに、第1オフセット値および第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的にセンサ出力の補正を行うように構成する。これにより、閉じた制御ループを有する2次側制御回路3の出力であるループフィルタ34の出力に、容易に、温度の二乗(振動子1の利得の二乗)に対応する第1オフセット値および温度の一乗(振動子1の利得の一乗)に対応する第2オフセット値の両方を反映させることができる。
【0065】
また、第1実施形態では、上記のように、振動子1の温度に依存する利得をG
R(T)とし、A、BおよびCを温度に依存しない一定値とした場合に、2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストークにより2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差の合計V
Out_Total_Errorは、上記の式(9)で表され、式(9)の第1項であるA/G
R2(T)(温度の二乗に比例する項)を0にするように、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づく第1オフセット値の加算量を調整するとともに、式(9)の第2項であるB/G
R(T)(温度の一乗に比例する項)を0にするように、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値の加算量を調整することによって、アナログ的にセンサ出力の補正を行うように構成する。これにより、センサ出力の誤差の1次(温度の一乗、振動子1の利得の一乗)の成分と2次(温度の二乗、振動子1の利得の二乗)の成分との両方を、消去することができるので、補正の精度を確実に高めることができる。なお、一定値Cが残存するものの、Cは温度に依存しない一定値であるため、温度変化によるセンサ出力の誤差に影響を及ぼすことはないことから、補正上は問題とならない。
【0066】
また、第1実施形態では、上記のように、振動子1は、リング型の振動子1である。ここで、リング型の振動子1は、対称的な形状を有するので、1次側制御回路2による振動モードと、2次側制御回路3による振動モードとが類似する。このため、振動型角速度センサ100をリング型の振動子1により構成することにより、振動モードの差異の影響を考慮する必要がないので、容易に、センサ出力の補正を行うことができる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、
図7を参照して、第2実施形態による振動型角速度センサ101の構成について説明する。第2実施形態では、1次側制御回路2のループフィルタ23の出力をデジタル的に処理することにより、補正を行う例について説明する。
【0068】
図7に示すように、振動型角速度センサ101は、振動子1と、1次側制御回路2と、2次側制御回路3と、AD変換回路6と、補正演算処理部7と、DA変換回路8とを備えている。なお、振動子1、1次側制御回路2および2次側制御回路3の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0069】
また、AD変換回路6は、1次側制御回路2のループフィルタ23から出力される温度に依存するアナログ信号が入力されるとともに、アナログ信号をデジタル信号に変換(量子化)して、補正演算処理部7に出力するように構成されている。そして、第2実施形態では、補正演算処理部7は、量子化した1次側制御回路2の出力(AD変換回路6からの出力)に対して、温度変化によるセンサ出力の誤差を0または略0にするオフセット値を、DA変換回路8に出力するように構成されている。また、DA変換回路8は、オフセット値をアナログ信号に変換して、2次側制御回路3のループフィルタ34の入力に加算するように構成されている。これにより、振動型角速度センサ101は、センサ出力の補正を行うように構成されている。
【0070】
次に、
図7および
図8を参照して、センサ出力をデジタル的に補正する場合について具体的に説明する。
【0071】
まず、2次側制御回路3の加算回路33に入力されるオフセット値(補正値)をスイープ(様々な値に変化)させながら、振動型角速度センサ101のセンサ出力を計測することにより、振動型角速度センサ101のセンサ出力の誤差(上記式(9)により規定された誤差に対応する誤差)が0または略0になる、各温度(T1、T2・・・、
図8参照)におけるオフセット値(y1、y2・・・、
図8参照)を探索する。すなわち、式(9)により表された2次側制御回路3を構成する回路ブロックから生じるエラー信号により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差と、1次側制御回路2から2次側制御回路3へのクロストーク(信号交差)により2次側制御回路3の閉じた制御ループに生じるセンサ出力の誤差とを低減するように、各温度におけるオフセット値を探索する。また、各温度(T1、T2・・・)に対するAD変換回路6により量子化された1次側制御回路2(ループフィルタ23)からの出力(x1、x2・・・)を計測する。その結果、
図8に示すように、各温度に対するセンサ出力の誤差が0または略0になるオフセット値(y)と、そのときの量子化された1次側制御回路2(ループフィルタ23)からの出力(x)が得られる。
【0072】
次に、各温度における量子化された1次側制御回路2(ループフィルタ23)からの出力をxとし、オフセット値をyとして、
図8に示されるデータを最小二乗法による多項式近似して、下記の式(13)(l、m、nは、一定値の係数)を求める(算出する)。第2実施形態では、下記の式(13)に示すように、2次の多項式を用いている。
【数14】
【0073】
その結果、各温度におけるオフセット値と、各温度における量子化された1次側制御回路2の出力との関係式(式(13))が予め(実際の振動型角速度センサ101の使用の前に)求められる。なお、関係式の算出は、振動型角速度センサ101ごと(製品ごと)に行われる。そして、実際に振動型角速度センサ101が使用される場合において、振動型角速度センサ101では、量子化された1次側制御回路2の出力(x)に対して、上記の式(13)を用いて補正演算処理部7においてソフトウェアにより演算し、得られたオフセット値yを2次側制御回路3に加算することにより、補正が行われる。すなわち、センサ出力をデジタル的に補正する場合には、関係式(式(13))を用いて常時演算が行われ、量子化された1次側制御回路2の出力に対応して補正が常時行われる。
【0074】
なお、第2実施形態では、1次側制御回路2の出力を量子化(デジタル化)して、センサ出力をデジタル的に補正しているが、振動型角速度センサ101のセンサ出力は、第1実施形態と同様に、アナログである。これにより、振動型角速度センサ101の出力後にAD変換器を配置することが可能になる。ここで、AD変換器は、振動型角速度センサ101の用途に応じて、分解能や変換速度などの要求性能について最適なものを選択することができる(選択の幅が広い)ので、センサ出力がデジタルである場合よりも、振動型角速度センサ101の汎用性を高くすることが可能になる。
【0075】
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0076】
第2実施形態では、上記のように、センサ出力をデジタル的に補正する場合には、温度に依存する1次側制御回路2の出力を量子化するとともに、量子化した1次側制御回路2の出力に対して、温度変化によるセンサ出力の誤差を0または略0にするオフセット値を、2次側制御回路3に加算することによって、センサ出力の補正を行うように構成する。これにより、温度変化によるセンサ出力の誤差を0または略0にするオフセット値を、2次側制御回路3に加算するだけでセンサ出力の補正を行うことができるので、温度に依存する1次側制御回路2の出力に基づくオフセット値以外のオフセット値を加算する場合と異なり、振動型角速度センサ101の構成を簡略化することができる。
【0077】
また、第2実施形態では、上記のように、センサ出力の誤差が0または略0になるオフセット値を予め算出するとともに、算出された各温度におけるオフセット値と、各温度における量子化された1次側制御回路2の出力との関係式を多項式近似により求め、求められた関係式に基づいて、オフセット値を、2次側制御回路3に加算することによって、デジタル的にセンサ出力の補正を行うように構成する。これにより、デジタル的に補正を行う場合に、多項式の次数を高めることにより、センサ出力の誤差がより0に近づくようにオフセット値を算出することができるので、補正の精度をさらに高めることができる。また、第1実施形態のように、アナログ的に補正する場合の式(1)の一定値Cが残存する場合と異なり、一定値Cを除去するための回路などを別途設ける必要がないので、この点でも、振動型角速度センサ101の構成を簡略化することができる。
【0078】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0079】
たとえば、上記第1および第2実施形態では、リング型の振動子が用いられる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、振動子が対称的な形状を有していればよく、円盤型、カップ型(ワイングラス型)、八角形型などの振動子を用いてもよい。
【0080】
また、上記第1および第2実施形態では、振動子、増幅回路、同期検波回路、ループフィルタ、変調回路および駆動回路により閉じた制御ループが構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、増幅回路、同期検波回路、ループフィルタ、変調回路および駆動回路からなる構成以外の構成により制御ループが構成されていてもよい。
【0081】
また、上記第1および第2実施形態では、ループフィルタとして積分フィルタが用いられる例を示したが、たとえば、積分フィルタ以外のループフィルタを用いてもよい。
【0082】
また、上記第1実施形態では、2次側制御回路の閉じた制御ループに、温度に依存する1次側制御回路の出力に基づく第1オフセット値と、温度に依存しない一定の信号に基づく第2オフセット値とを加算する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、2次側制御回路の閉じた制御ループに第1オフセット値のみを加算するようにしてもよい。この場合、第1オフセット値と第2オフセット値との両方を加算する場合と比べて補正の精度は低下するものの、ある程度の補正は可能である。
【0083】
また、上記第1実施形態では、式(9)の第1項であるA/G
R2(T)(温度に依存する利得G
R(T)の二乗に反比例した項)をキャンセルする(0にする)ように第1オフセット値の加算量を調整するとともに、式(9)の第2項であるB/G
R(T)(温度に依存する利得G
R(T)に反比例した項)をキャンセルする(0にする)ように、第2オフセット値の加算量を調整する例を示したが、式(9)の第1項および第2項を完全にキャンセルしなくてもよい(0にしなくてもよい)。すなわち、本発明では、式(9)の第1項であるA/G
R2(T)を略0にするように、第1オフセット値の加算量を調整するとともに、式(9)の第2項であるB/G
R(T)を略0にするように、第2オフセット値の加算量を調整してもよい。
【0084】
また、上記第2実施形態では、センサ出力の誤差が略0になるオフセット値と、各温度における量子化された1次側制御回路の出力との関係式を2次の多項式近似により求める例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、1次の多項式、または、3次以上の多項式を用いてもよい。これにより、センサ出力の誤差をより0に近づけるようなオフセット値を求めることができるので、補正の精度を向上させることが可能になる。