特許第6463336号(P6463336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電波工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000002
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000003
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000004
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000005
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000006
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000007
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000008
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000009
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000010
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000011
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000012
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000013
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000014
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000015
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000016
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000017
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000018
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000019
  • 特許6463336-周波数信号発生装置 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463336
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】周波数信号発生装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 1/04 20060101AFI20190121BHJP
   H03B 28/00 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
   H03B1/04
   H03B28/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-507361(P2016-507361)
(86)(22)【出願日】2015年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2015001337
(87)【国際公開番号】WO2015136929
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2017年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2014-49392(P2014-49392)
(32)【優先日】2014年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162008
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 宣明
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
【審査官】 竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−219726(JP,A)
【文献】 特表平4−502092(JP,A)
【文献】 特開平8−97744(JP,A)
【文献】 特開2000−252750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 1/04−1/04
H03B 28/00
H03L 7/00−7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル信号からなる周期的な波形信号を出力する波形出力部と、
ディジタル信号からなるランダムノイズを発生するノイズ発生部と、
前記ノイズ発生部から出力された出力信号に対して、前記ランダムノイズにおける周波数スペクトラムの信号レベルを、前記波形信号の周波数から外れた周波数帯域に偏らせる処理を行うフィルタと、
前記波形出力部の出力信号と前記フィルタの出力信号とを加算する加算部と、
前記加算部にて得られたディジタル信号をアナログ信号に変換するための変換部と、を備えたことを特徴とする周波数信号発生装置。
【請求項2】
前記フィルタは、前記ノイズ発生部から出力されたディジタル値に対して移動平均処理を行う回路部であることを特徴とする請求項1記載の周波数信号発生装置。
【請求項3】
前記信号レベルが偏った周波数帯域を、前記波形信号の周波数からより一層はなれた位置に移動させるために、前記フィルタと前記加算部との間に、当該フィルタの出力における前記周波数帯域を移動するための帯域移動処理部が介在していることを特徴とする請求項1記載の周波数信号発生装置。
【請求項4】
前記帯域移動処理部は、前記フィルタに周波数帯域を移動させるための周波数信号を混合するように構成されていることを特徴とする請求項3記載の周波数信号発生装置。
【請求項5】
前記フィルタの出力を前記帯域移動処理部を通して前記加算部に入力する信号路と、前記フィルタの出力を前記帯域移動処理部を通さずに前記加算部に入力する信号路と、の間で切り替え可能な切替え部を備えたことを特徴とする請求項3記載の周波数信号発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル値群からなる波形データに基づいてアナログ波形を発生する装置の技術分野に関する
【背景技術】
【0002】
DDS(Direct Digital Synthesizer:ディジタル直接合成発振器)は、位相アキュムレータと、波形データメモリと、D/A(Digital/Analog)変換部と、を備え、任意の周波数のアナログ波形を得るものである。具体的には、周波数設定データに基づいて位相アキュムレータからアドレスが出力され、波形データメモリ内の波形データ(振幅データ)が前記アドレスに応じて読み出されてディジタル信号(ディジタル値群)からなる例えば正弦波が得られ、この正弦波をアナログ信号に変換する。
ところでDDSは、スプリアスの発生が避けられない。その要因として量子化雑音が挙げられ、またクロック周波数とDDS出力周波数との関係から発生する周期性誤差も起因する。そしてD/A変換部においては、各ディジタル信号の入力に対応するアナログ信号の出力のタイミングの時間間隔やアナログ値の大きさが厳密には一定ではなく、このこともスプリアスの要因になっている。
【0003】
このため従来から、例えば特許文献1に記載されているように、波形データメモリから読み出された波形データに擬似ランダムノイズ(雑音)を加算して前記スプリアスを拡散させる手法が知られている。しかしながらこの手法は、DDSの出力周波数近傍のフロアノイズのレベルが大きくなってS/N比が悪くなり、またスプリアスの改善効果も低いという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−97744号公報(段落0192〜0195)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、ディジタル値群からなる波形データに基づいてアナログ波形を発生する周波数信号発生装置において、スプリアスを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の周波数信号発生装置は、ディジタル信号からなる周期的な波形信号を出力する波形出力部と、
ディジタル信号からなるランダムノイズを発生するノイズ発生部と、
前記ノイズ発生部から出力された出力信号に対して、前記ランダムノイズにおける周波数スペクトラムの信号レベルを、前記波形信号の周波数から外れた周波数帯域に偏らせる処理を行うフィルタと、
前記波形出力部の出力信号と前記フィルタの出力信号とを加算する加算部と、
前記加算部にて得られたディジタル信号をアナログ信号に変換するための変換部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、波形出力部から出力されるディジタル信号からなる周期的な波形信号に対して、ディジタル信号からなるランダムノイズを加算するようにしているため、アナログ出力に現れるスプリアスが拡散される。そして前記ランダムノイズは、フィルタにより、周波数スペクトラムの信号レベルが前記波形信号の周波数から外れた周波数帯域に偏るように処理されている。従って、目的とする出力周波数(設定周波数)の近傍におけるフロアノイズのレベルを低く抑えることができると共に、高いスプリアスの抑制効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の周波数信号発生装置の第1の実施形態を示す回路図である。
図2】ランダムノイズ生成部の一部の回路を示す回路図である。
図3】周波数信号発生装置の比較例を示す回路図である。
図4】ランダムノイズを重畳しないときにおけるDDSの出力の周波数スペクトラムである。
図5図4に示す周波数スペクトラムの一部を拡大した図である。
図6】ランダムノイズ生成部から出力されたランダムノイズの周波数スペクトラムである。
図7図3に示す比較例の回路を用いてランダムノイズを重畳したときにおけるDDSの出力の周波数スペクトラムである。
図8図7に示す周波数スペクトラムの一部を拡大した図である。
図9図6に示すランダムノイズをフィルタにより処理した後のランダムノイズの周波数スペクトラムである。
図10図1に示す実施形態の回路を用いてランダムノイズを重畳したときにおけるDDSのローパスフィルタの出力の周波数スペクトラムである。
図11図10に示す周波数スペクトラムの一部を拡大した図である。。
図12】本発明に用いられるフィルタの具体例を示す回路である。
図13図12に示すフィルタの移動平均を行う回路の一例を示す回路である。
図14】本発明の第2の実施形態を示す回路図である。
図15図14に示す帯域移動処理部のタイムチャートである。
図16】フィルタにより処理した後のランダムノイズに対して更に帯域移動処理を行った後の周波数スペクトラムである。
図17図14に示す実施形態の回路を用いてランダムノイズを重畳したときにおけるDDSのローパスフィルタの出力の周波数スペクトラムである。
図18図17に示す周波数スペクトラムの一部を拡大した図である。。
図19】本発明の第2の実施形態の変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の周波数信号発生装置をDDSに適用した実施形態である。1は、位相アキュムレータ、2は波形データメモリである。位相アキュムレータ1は加算部11とラッチ回路12とを備えている。加算部11には、DDSから出力される周波数信号について目的とする周波数を設定するための周波数設定データが入力される。周波数設定データを例えばNとすると、1番目のクロック信号によりラッチ回路12からNが出力され、後続のクロック信号により、ラッチ回路12から順次2N、3N、4N…が出力される。
【0010】
波形データメモリ2は、例えば正弦波を生成するための波形データ(波形の振幅値に相当するディジタル値群)が記憶されており、ラッチ回路12の出力信号をアドレスとして波形データが読み出される。従ってNの値に応じて、波形データにより特定される周波数信号の周波数が決まってくる。
位相アキュムレータ1及び波形データメモリ2は、周期的な波形信号を出力する波形出力部に相当する。
【0011】
3は、ランダムノイズ生成部であり、例えば擬似ランダムノイズ生成回路により構成される。本願では、ランダムノイズは、擬似ランダムノイズを含む。擬似ランダムノイズ生成回路としては、DDSに入力されるクロック信号例えば200MHzに同期してPN(Pseudo Noise)系列の信号を出力する回路を挙げることができ、例えばシフトレジスタとEx−OR(排他的論理和)回路とを組み合わせたM系列の発生回路、あるいはプリフィードペアのM系列を用いたGold系列を発生する回路などを挙げることができる。そしてこの例では、PN系列の信号である論理「1」、論理「0」からなる時系列信号に対して、論理「0」を「1」に変換し、論理「1」を「−1」に変換する論理値処理回路を、ランダムノイズ生成部3の中に設けている。従ってランダムノイズ生成部3は、PN系列発生回路と、PN系列発生回路の出力側に設けられた信号処理回路とを備えていることになる。図2に信号処理回路の一例を示しておく。
【0012】
PN系列の信号である論理「0」及び「1」を夫々「1」及び「−1」に変換する理由は、論理「0」及び「1」のデータの場合には、後述のフィルタ4に入力される入力値に0.5のオフセットが発生するためのである。このようにオフセットが発生すると、周波数信号発生装置の出力にもオフセット分に相当する直流成分が重畳されるという不具合が生じる。なお、PN系列の信号である論理「1」についてはそのまま出力し、論理「0」を「−1」に変換する処理を行うようにしてもよい。
図2に上述の信号処理回路の一例を示す。図2(a)では信号処理回路31は、1ビットの入力信号に対して下位に1ビットの論理「1」を付加する処理を行って、2の補数で表現される2ビットの信号を出力する。図2(b)では信号処理回路32はマルチプレクサからなり、マルチプレクサの一方の入力端及び他方の入力端に夫々2の補数で表現される2ビットの信号「01」、「11」が入力されている。マルチプレクサは、1ビットの信号である「0」が選択信号として入力されたときに他方の入力端の入力信号「11」が出力され、「1」が選択信号として入力されたときに一方の入力端の入力信号「01」が出力されるように構成されている。
【0013】
ランダムノイズ生成部3の出力側には、ノイズ処理用のフィルタ4が設けられている。このフィルタ4は、ランダムノイズ生成部3から出力されたランダムノイズの周波数スペクトラムの信号レベル(電力強度)を、DDSの設定周波数(出力周波数)から外れた周波数帯域に偏らせる処理を行うように構成されている。フィルタ4の具体的な構成例については後述する。
【0014】
図1中、5は加算部であり、加算部5は、波形データメモリ2から読み出されたディジタル信号(振幅値データ)、例えば32ビットのディジタル信号と、フィルタ4から出力される32ビットのディジタル信号(出力信号)と、を加算する。加算部5の出力側には、加算部5の出力値である加算値をアナログ信号に変換するD/A変換部6が設けられている。D/A変換部6の出力側には、D/A変換部6から得られるアナログの波形信号に含まれる高調波を除去して、歪の少ない波形を得るためのローパスフィルタ7が設けられている。
【0015】
更にローパスフィルタ7の出力側には、ハイパスフィルタ8が設けられている。ハイパスフィルタ8は、フィルタ4においてフィルタ処理をしたことに基づいて、設定周波数から離れた周波数帯域に存在するノイズを除去するためのものである。
【0016】
本発明の作用の理解を容易にするために、ランダムノイズを用いない場合、ランダムノイズを用いるが、フィルタ4を設けない場合(図3参照)、図1に示す回路を用いた場合について、この順で作用を説明する。
【0017】
図4は、波形データメモリ2から読み出されたディジタル信号にランダムノイズを加算しない場合(図3の回路からランダムノイズ生成部3及び加算部5を除いた回路)において、ローパスフィルタ7から得られた周波数信号(DDSの出力信号)の周波数スペクトラムである。クロック信号は200MHzである。この例では、DDSの出力信号の設定周波数は42MHzである。図5は、図4に示した周波数スペクトラムにおいて、設定周波数の近傍を拡大した図である。なお、図4を含む一連の周波数スペクトラムの図において、設定周波数に対応する信号レベルを0dBとしている。図4及び図5から分かるように、設定周波数の近傍にスプリアスが表れている。
【0018】
次に、波形データメモリ2から読み出されたディジタル信号にランダムノイズを加算した場合の周波数スペクトラムについて説明する。図6は、ランダムノイズ生成部3により生成されたランダムノイズの周波数スペクトラムである。図7は、図3の回路を用いてローパスフィルタ7から得られた周波数信号(DDSの出力信号)の周波数スペクトラムである。図8は、図7に示した周波数スペクトラムにおいて、設定周波数(42MHz)の近傍を拡大した図である。図7及び図8から分かるように、ランダムノイズを用いただけでは、フロアノイズのレベルが高く(フロアノイズが劣化し)、またスプリアス改善効果が低い。
【0019】
続いて、本発明の実施形態である図1に示す回路を用いた場合の周波数スペクトラムについて説明する。なお、この例では、図4の周波数スペクトラムを採取したときの回路に、ランダムノイズ生成部3、フィルタ4及び加算部5を追加した回路を用いている。またランダムノイズ生成部3から出力されたランダムノイズの周波数スペクトラムは、図6に示すものと同じである。図9は、フィルタ4から出力されたランダムノイズの周波数スペクトラムである。この例では、フィルタ4にて、図3に示す周波数スペクトラムの信号レベルを、42MHzよりも低い周波数帯域に偏らせる処理を行っている。図10は、図1に示す回路のローパスフィルタ7から得られた周波数信号の周波数スペクトラムである。図11は、図10に示した周波数スペクトラムにおいて、設定周波数(42MHz)の近傍を拡大した図である。
【0020】
図4と、図10及び図11と、を比較してわかるように、図1の回路によれば、スプリアスが10〜15dB程度改善されており、またDDSの設定周波数の近傍のフロアノイズも低減されている。フィルタ4によりランダムノイズの周波数スペクトラムを偏らせることにより低い周波数帯域において大きくなったフロアノイズは、その周波数帯域が前記設定周波数から大きく離れているため、簡単なフィルタ、例えばインダクタ及びコンデンサを組み合わせたLCフィルタなどにより除去できる。図1では、このようなフィルタとして、ローパスフィルタ7の出力側にハイパスフィルタを設けている。
【0021】
ここで、フィルタ4の具体的な回路の一例を図12及び図13に示す。この例ではフィルタ4は、図12に示すように移動平均化回路を10段直列に接続して構成されている。各段の移動平均化回路は9−n(nは1から10までの整数)は、図13に示すように、連続した8個のディジタル値からなるディジタル値群を平均化し、1クロック信号毎にディジタル値群の先頭のディジタル値を、1個後のディジタル値にシフトするように構成されている。例えばクロック信号により順次d0、d1、d2…d7、d8、d9、d10…のようにディジタル値が入力される場合、あるクロック信号により、d0〜d7までの8個のディジタル値からなるディジタル値群について平均化し、次のクロック信号によりd1〜d8までのディジタル値群について平均化し、更に次のクロック信号によりd2〜d9までのディジタル値群について平均化するという処理となる。
【0022】
図13は、1段目の移動平均化回路を示しており、ランダムノイズ生成部3から出力される2ビットのディジタル値が入力される。d0〜d7は、クロック信号によりランダムノイズ生成部3から出力されたディジタル値を示している。Dは、1クロック信号ごとに入力値を遅延させて出力する遅延回路であり、1段目の遅延回路Dに入力されたディジタル信号は、7個のクロック信号が移動平均化回路に入力されたときに、最終段の遅延回路Dから出力される。Aは加算回路である。
【0023】
一般的な移動平均化回路では、最終段の加算部Aの後段にディジタル値に1/8を掛け算する回路、即ちディジタル値を「8」で割り算するまるめ処理を行うまるめ処理回路が設けられている。8個の連続した時系列データを「8」で割ることにより、前記8個のディジタル値の平均値が得られる。これに対して、本実施の形態に用いるフィルタとしての移動平均化回路は、ランダムノイズの周波数スペクトルの信号レベルを周波数の低い帯域に偏らせるためのものであるから、最終段の加算部Aから得られた8個のデータの加算値を「8」で割らなくとも、目的とする信号を得ることができる。そして8個のデータの加算値を「8」で割らないことにより、ノイズとしての信号レベルを必要なレベルとすることができる
本願の明細書及び特許請求の範囲において、「移動平均化回路」とは、このようにまるめ処理を行わない回路も含まれ、またまるめ処理を行う回路も含まれる。まるめ処理を行わない場合(8個のデータの加算値を「8」で割らない場合)には、移動平均化回路にて3ビット分だけディジタル値が増えるので、ランダムノイズ生成部3から2ビットのディジタル値が入力され、5ビットのディジタル値が出力される。
【0024】
図12に示す10段の移動平均化回路9−nは、ディジタル値のビット数を除いては、いずれも図13に示した回路と同じ回路が用いられており、ディジタル値のビット数が1段毎に3ビットずつ増えていくので、10段目の移動平均化回路9−10からは、32ビットのディジタル値が出力されることになる。図12及び図13において括弧内の数字はビット数を表している。
【0025】
移動平均化回路における移動平均の対象となるサンプル数は、8個に限られるものではないし、移動平均化回路の段数も10段に限られるものではない。なお、図9の周波数スペクトラムを得るときに用いたフィルタ4は、まるめ処理を行わない移動平均化回路を複数段直列に接続して構成しているが、移動平均の対象となるサンプル数及び移動平均化回路の接続段数は、図12及び図13の例とは異なっている。
【0026】
ランダムノイズ生成部3にて生成されたノイズの周波数スペクトラムは広い帯域に分布しており、このためDDSの設定周波数が存在する領域にもノイズが発生してしまい、フロアノイズが悪化してしまう。フィルタ4の役割は、広い帯域に分布するノイズの周波数スペクトラムに対して、DDSの設定周波数が存在する領域及びその近傍のノイズのエネルギーを低くすることにある。従って、フィルタ4は、FIR(Finite impulse response)フィルタを用いてもよいし、あるいはIIR(Infinite impulse response)フィルタなどを用いても良い。
【0027】
FIRフィルタあるいは移動平均化回路を用いた場合には、平均化する対象となる1グループのデータ値の数が多いほど、ローパスフィルタ特性は、低い周波数に偏ることから、DDSの設定周波数に応じて前記データ値の数を選択すればよい。またFIRフィルタを用いる場合には、各タップ(各段)に乗算される重みづけ係数を調整して、周波数特性を調整してもよい。
【0028】
図1に示されているDDSの動作の全体をまとめると、位相アキュムレータ1から周波数設定データに応じてアドレスが出力され、このアドレスにより波形データメモリ2から例えば正弦波データである波形データ(波形の振幅値に相当するディジタル値群)が出力される。一方ランダムノイズ生成部3から擬似ランダムノイズであるPN系列の信号が出力され、ランダムノイズ生成部3内に含まれる信号処理部にて、この信号の論理「0」が「1」に変換され、論理「1」が「−1」に変換される。そしてフィルタ4にてランダムノイズの周波数スペクトラムの信号レベル(電力強度)を、DDSの設定周波数から外れた周波数帯域に偏らせる処理が行われ、処理後のランダムノイズと前記波形データとが加算される。次いで加算値をD/A変換部6にてアナログ信号に変換し、アナログ信号をローパスフィルタ7及びハイパスフィルタ8を通過させて、DDSの出力である周波数信号が得られる。
【0029】
上述実施形態によれば、波形データメモリ2から出力されるディジタル信号に対して、ランダムノイズを加算している。そして前記ランダムノイズは、フィルタ4により、周波数スペクトラムの信号レベルがDDSの設定周波数から外れた周波数帯域に偏るように処理されている。従って、DDSにおける設定周波数(出力周波数)の近傍におけるフロアノイズのレベルを低く抑えることができると共に、高いスプリアスの抑制効果が得られる。
[第2の実施形態]
第1の実施形態におけるDDSの設定周波数は42MHzであるが、前記設定周波数を例えば21MHzとした場合においても、図9の周波数スペクトラムを得るために使用したフィルタ4をそのまま用いると、設定周波数の近傍のフロアノイズのレベルが高くなる懸念がある。そこで第2の実施形態では、フィルタ4から出力されるノイズ信号の周波数スペクトラムにおいて偏っている帯域を、設定周波数よりも高域側でありかつ十分離れている帯域に移動する処理を行う。
【0030】
図14は、第2の実施形態の回路を示し、フィルタ4の出力側に、帯域移動処理部40を設けている。帯域移動処理部40は、入力データが入力される一方の入力端子と、−1を乗算する乗算部401を通して入力データが入力される他方の入力端子と、を含むマルチプレクサ402を備え、トグル信号により一方の入力端子に入力された値と他方の入力端子に入力された値とが交互に出力される。
図15は、帯域移動処理部40のタイムチャートであり、入力データ(フィルタ4の出力データ)であるd1、d2、…について一つ置きに−1が掛け算されており、言い換えれば一つ置きにディジタル値の極性が反転している。即ち、クロック信号の周波数fsの1/2の周波数で、振幅が「−1」と「1」からなる周波数信号が入力データに混合(ミキシング)されていることになる。クロック信号の周波数は例えば200MHzであるから、概略的な言い方をすれば、ノイズの周波数スペクトラムにおいてフィルタ4により偏った部分が100MHzのところに移動する。
【0031】
図16は、帯域移動処理部40から出力されたランダムノイズの周波数スペクトラムである。帯域移動処理部40に入力する前における、フィルタ4から出力されたノイズの周波数スペクトラムは、図9に示すものと同じである。図17は、図1に示す回路のローパスフィルタ7から得られた周波数信号の周波数スペクトラムである。図18は、図17に示した周波数スペクトラムにおいて、設定周波数(21MHz)の近傍を拡大した図である。この結果からわかるように、フィルタ4を用いただけでは、DDSの設定周波数の近傍のフロアノイズが大きくなる懸念がある場合であっても、帯域移動処理部40を用いることにより、このような懸念が払拭される。
【0032】
ところでフィルタ4の規模を大きくすれば、ノイズの帯域を限られた領域、例えば10MHzにだけ分布させることが可能であるが、帯域移動処理部40を用いれば、フィルタ4の構成を大規模なものとせずに簡素な構成で済む利点がある。
【0033】
また例えば200MHzのクロック信号のタイミングに基づいて、「0」、「1」、「0」、「−1」、の並びが繰り返されるデータ列を作成して、フィルタ4のデータにミキシングすれば、周波数スペクトラムの偏った部分が50MHzのところに移動する。フィルタ4の出力にミキシングする周波数信号は、ミキシング処理用として別のDDSを用いて、その周波数を図1に示すDDSの設定周波数に応じて任意に設定してもよい。更にまた、フィルタ4としては、ランダムノイズの周波数スペクトラムにおいて、設定周波数よりも高い帯域にエネルギーを偏らせ(図9では低い帯域に偏らせている)、エネルギーが偏っている部分(エネルギーがほかの帯域よりも高くなっている部分)の帯域を、帯域移動処理部40によって例えば低くシフトさせるようにしてもよい。
【0034】
このようにフィルタ4と帯域移動処理部40とを組み合わせれば、DDSの設定周波数に応じて、適切な周波数スペクトラムを持ったランダムノイズを得て、波形信号に重畳することができる。
更にまた、図19に示すように切り替え部50を設けて、フィルタ4の出力を帯域移動処理部40を通して加算部5に入力するモードと、帯域移動処理部40を通さずに加算部5に入力するモードと、を選択できるようにしてもよい。このような構成によれば、DDSのより一層広い設定周波数に対して、スプリアスを低減することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19