(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463358
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年1月30日
(54)【発明の名称】自動車のタイヤ空気圧監視システムにおける、ファジー論理に基づく決定支援方法
(51)【国際特許分類】
G01L 17/00 20060101AFI20190121BHJP
B60C 23/06 20060101ALI20190121BHJP
【FI】
G01L17/00 301G
B60C23/06 A
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-530827(P2016-530827)
(86)(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公表番号】特表2017-502261(P2017-502261A)
(43)【公表日】2017年1月19日
(86)【国際出願番号】FR2014052497
(87)【国際公開番号】WO2015071556
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】1361107
(32)【優先日】2013年11月14日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ピタ−ギル, ギジェルモ
(72)【発明者】
【氏名】サン−ループ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィン−ヴァイダウラ, ジョアン
【審査官】
大森 努
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−320923(JP,A)
【文献】
特表2010−521365(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0061100(US,A1)
【文献】
特開2004−058998(JP,A)
【文献】
米国特許第06118369(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 17/00
B60C 23/00−23/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車輪に取り付けられたタイヤのうちの少なくとも1つにおける空気圧不良の出現を推定する方法であって、前記推定は、前記車輪間の速度差の分析に基づく第1のアルゴリズム(3)と、前記車輪の速度のスペクトル分析に基づく第2のアルゴリズム(4)とに従った、前記車輪の角速度の分析に由来し、前記第1及び第2のアルゴリズムのそれぞれは、複数の車輪速度範囲のうちで規定された各速度範囲に対する各車輪の空気圧不足確率値(PT、PF)と、関連する前記速度範囲における前記車輪の走行時間に依存して供給された各確率値に関連する信頼係数(CT、CF)とを提供し、前記方法は、ファジー集合理論に基づく決定モジュール(1)を使用するものであり、前記ファジー集合理論の入力信号は、前記第1及び第2のアルゴリズムに由来する前記空気圧不足確率値(PT、PF)、及び前記関連する信頼係数(CT、CF)であり、前記決定モジュール(1)は、各車輪及び各アルゴリズムに関する全ての前記速度範囲を考慮に入れた、前記空気圧不良を示す頑健な確率値(PRST、PRSF)を提供することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1のアルゴリズム(3)に由来する確率値(PT、PF)及び関連する信頼係数(CT、CF)の各ペア、並びに前記第2のアルゴリズム(4)に由来する確率値(PT、PF)及び関連する信頼係数(CT、CF)の各ペアの、それぞれの前記信頼係数を統合して、所与の速度範囲及び所与の車輪に関する中間の頑健な確率値(PRT、PRF)を決定するために、第1のファジー論理プロセス(10、11、12)を用いて、前記第1及び第2のアルゴリズム(3、4)に由来する前記空気圧不足確率値(PT、PF)と前記関連する信頼係数(CT、CF)とを、マージするステップ(TIME、FREQ)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各車輪及び各アルゴリズムに関する全速度範囲を考慮に入れて、前記頑健な確率値(PRST、PRSF)を決定するための、前記各アルゴリズム(3、4)に関する前記中間の頑健な確率値の最大値を選択することである、選択のステップ(SPVT、SPVF)を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1及び第2のアルゴリズム(3、4)を用いて推定された、前記頑健な確率値(PRST、PRSF)をマージするステップ(MIXER)を含む方法であって、前記マージするステップは、各車輪に関するマージされた頑健な確率値(PNRT)を出力として提供する、第2のファジー論理プロセス(20、21、22)を利用することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
タイヤの空気圧不良を有する車輪の数に関する前記自動車の各状況の前記推定において、前記第1及び第2のアルゴリズム(3、4)のそれぞれの重みを表す開発パラメータ(TH、TL、FH、FL)の関数として、前記頑健な確率値(PRST、PRSF)のマージを重みづけするため、前記第2のファジー論理プロセスで使用されることを意図された、ファジーパラメータ(A、B、C、D)の関係を規定することであるステップを含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記マージされた各車輪に関する頑健な確率値(PNRT)が、前記自動車の各車輪の前記タイヤの空気圧状態を診断するために使用されることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
車輪間の速度差の分析に基づいて少なくとも1つのタイヤの空気圧不良の出現を推定する第1のアルゴリズム(3)と、車輪の速度のスペクトル分析に基づいて少なくとも1つの前記タイヤの空気圧不良の出現を推定する第2のアルゴリズム(4)を含むタイプの、自動車の車輪に取り付けられたタイヤの空気圧を監視するシステムであって、前記第1及び第2のアルゴリズムのそれぞれは、複数の前記車輪の速度範囲のうちで規定された各速度範囲に対する、前記自動車の各車輪の空気圧不足確率値(PT、PF)と、前記関連する速度範囲における前記車輪の走行時間に依存して供給された各確率値に関連する信頼係数(CT、CF)とを提供するように適合されており、前記システムは、ファジー集合理論に基づく決定モジュール(1)を含み、前記ファジー集合理論の入力信号は、前記第1及び第2のアルゴリズムに由来する前記空気圧不足確率値(PT、PF)並びに前記関連する信頼係数(CT、CF)であり、前記決定モジュール(1)は、各車輪及び各アルゴリズムに関する全速度範囲を考慮に入れた、前記空気圧不良を示す頑健な確率値(PRST、PRSF)を提供するように適合されている、ことを特徴とするシステム。
【請求項8】
前記決定モジュールが、前記第1及び第2のアルゴリズム(3、4)を用いて推定された、前記頑健な確率値(PRST、PRSF)をマージする手段(MIXER)を含み、前記マージする手段は、各車輪に関するマージされた頑健な確率値(PNRT)を出力として提供する、第2のファジー論理プロセス(20、21、22)を利用することを特徴とする、請求項7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪に取り付けられたタイヤの空気圧状態の診断の分野に関する。より具体的には、本発明は、タイヤの空気圧状態の間接的検出につながる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの空気圧不良状態、言い換えればタイヤの空気圧不足状態は、正常な圧力に比べてタイヤの圧力が低下していることによって特徴づけられ、空気圧不足の状況にはパンクが含まれると理解される。ところで、タイヤの空気圧不良状態は、特定の運転条件下においては、車両に乗車中の人員の安全を大変な危険に曝す、破裂の原因となり得る。破裂が発生しない場合であっても、空気圧不足には、車両の燃料消費の増大及びタイヤの摩耗率の増大という欠点がある。
【0003】
世界規模で採用されつつある規制が、全ての新車の自動車に、漸次タイヤ空気圧監視システム(TPMS)の装備を課しているのはこのためである。これらのシステムの大半は、タイヤ空気圧に関する情報をリアルタイムで当該自動車のエンジン管理ユニットまたは専用の計算ユニットに伝送するため、各タイヤに搭載された圧力センサを使用している。これは、例えば一時的にタイヤ空気圧に影響を与えがちである様々な動的現象のうちの、当該情報を処理し、考慮に入れるためである。当該システムは、空気圧不足の場合には、運転者に対して自動的に(例えばダッシュボード上の表示の形態で)警告メッセージを送るように設計されている。しかし、このタイプのシステムは、相対的に高価な計測機器をタイヤに組み込むことを必要とする。
【0004】
この第1のタイプのTPMSとは対照的に、間接的TPMSとして知られる第2のタイプのTPMSは、圧力センサを使用しないことによって特徴づけられており、所与の速度範囲に対する各タイヤの空気圧不足の確率を推定する好適なアルゴリズムと共に、当該車両の各車輪の速度の調査を踏まえた、当該速度範囲内で費やした時間に応じた当該確率に関連する信頼係数にも、依存する。当該確率は、所与の車輪が何パーセントの確率で空気圧不足状態になるかを表す。この値は、幾つかのサンプル期間にわたって、即時に計算される。信頼係数は、速度範囲の変更に必要な忘却係数を表す。
【0005】
第2のタイプの監視システムは、例えばABSセンサによって推定または計測された車輪の回転速度値に基づいて容易に実装され得るが、直接監視システムに比べて、正確性は低いものに留まる。実際、圧力センサを用いないため、空気圧不足の検出を示す誤認警報の回数が増大しがちである。これは、アルゴリズムによって推定される確率が、走行時間、学習プロセス、及びあらゆる状況におけるそれらの信頼度に依存するからである。
【0006】
より正確には、間接的監視システムは、車輪の回転半径または車輪の振動のどちらかの分析に基づく。車輪の半径は、各車輪間の速度差の調査に基づくアルゴリズムに依存する、間接的監視システムによって分析される。これから引き出される効果は、タイヤの空気圧不足が回転半径の変化を誘発し、したがって角速度の変化を誘発するという事実に依存する。したがって、車輪間の速度差が増大するとすぐに、空気圧不足の問題が報告される。例えば、車両の各車輪の空気圧状態を検出するための、車両の車輪の角速度の計測、計測された車輪の角速度の複数の比較基準の計算、及び計算された基準の分析を含む、こうした計算アルゴリズムを用いて、タイヤの空気圧状態を間接的に監視するシステムが、特許文献FR2927018から知られている。複数の動的現象が各車輪の回転半径間の不均質な変化を生じさせがちであり、それによってタイヤの不良状態を示す誤認警報の回数が増大するという点で、各車輪間の計測された角速度差の調査に基づくこれらの基準の有効性は、重要である。したがって当該アルゴリズムは、計測された各車輪の角速度の間の差異によって、車両に取り付けられた少なくとも1つのタイヤの空気圧不良状態が反映される確率が高くなることを確保するように設計されている。しかし、このアルゴリズムの性能は、空気の抜けた車輪の数次第である。したがって、こうしたアルゴリズムは、車両の状況が(1つの車輪の空気が抜ける)パンクに相当する場合には上手く機能するが、(1つより多い車輪の空気がゆっくりと抜ける)より広がった(diffuse)状況の場合には十分上手くは機能しない。
【0007】
一方、車輪の振動は、特定のモードを監視するための車輪の速度のスペクトルによる調査に依存するアルゴリズムに基づいて、間接的監視システムによって分析される。これから引き出される効果は、車輪の角速度信号のスペクトル的特性(例えば様々な周波数帯におけるエネルギー分布)が、タイヤの空気圧に依存するという事実によるところが大きい。したがって、監視されるモードが自身の限界を超過する場合には、システムによって空気圧不足の問題が推定される。こうしたアルゴリズムを用いてタイヤ空気圧の状態を間接的に検出するシステムは、例えば特許文献WO2012127139によって知られている。回転半径の分析に依存する前述のアルゴリズムとは対照的に、本アルゴリズムは車輪の角速度信号のスペクトル調査を使用し、(1つより多い車輪の空気がゆっくりと抜ける)より広がった状況の場合に上手く機能するが、(1つの車輪の空気が抜ける)パンクの場合には十分上手くは機能しない。
【0008】
こうして、間接的監視システムに用いられる2つの分析方法による各アルゴリズムの性能が、空気が抜けた車輪の数に依存することが判明した。
【0009】
特許文献US2007061100は、車輪の半径の分析及び車輪の振動の分析のそれぞれに基づいて上記の2つの分析方法を用いた、タイヤ空気圧監視システムについて記載する。2つの分析方法によるアルゴリズムの個々の欠点を補うため、そのシステムでは、各タイヤの空気圧状態の推定は、車輪の半径を分析する方法によるアルゴリズムの出力値、及び車輪の振動を分析する方法によるアルゴリズムの出力値の両方に基づいている。より正確には、各確率値が、出力値と名目値との差分を示し、累積確率分布関数であるように、車輪の半径を分析する方法を用いるアルゴリズムの出力値から得られた第1の空気圧不足確率値、及び、車輪の振動を分析する方法を用いるアルゴリズムの出力値から得られた第2の空気圧不足確率値が、各タイヤに関して計算される。したがって、各タイヤの空気圧状態の推定が、第1及び第2の空気圧不足確率値の積から計算される。しかし、2つの異なる分析方法によるアルゴリズムに由来する様々な確率値をマージする当該方法は、最適ではない。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一目的は、車輪速度を分析する上記の2つの方法を用いてアルゴリズムから得られたデータをマージすることと、2つのアルゴリズムの性能を考慮に入れることによって、特に車輪の速度範囲に依存して、空気が抜けた状態の推定の頑健性を改善することとを可能にする、自動車の車輪に取り付けられた少なくとも1つのタイヤの空気圧不良の出現をリアルタイムで推定する方法を提示することである。
【0011】
この目的のため、本発明は、自動車の車輪に取り付けられたタイヤのうちの少なくとも1つにおける空気圧不良の出現を推定する方法に関連する。前期推定は、車輪間の速度差の分析に基づく第1のアルゴリズムと、車輪の速度のスペクトル分析に基づく第2のアルゴリズムとに従った、車輪の角速度の分析に由来し、第1及び第2のアルゴリズムのそれぞれは、複数の車輪速度範囲のうちで規定された各速度範囲に対する各車輪の空気圧不足確率値と、関連する速度範囲における車輪の走行時間に依存して提供された各確率値に関連する信頼係数とを提供し、前記方法は、ファジー集合理論に基づく決定モジュールを使用することを特徴とし(ファジー集合理論の入力信号は、第1及び第2のアルゴリズム並びに各速度範囲に適用された関連する信頼係数に由来する空気圧不足確率値である)、前記決定モジュールは、各車輪及び各アルゴリズムに関する全速度範囲を考慮に入れた、前記圧力不良を示す頑健な確率値を出力として提供する。
【0012】
有利には、当該方法には、第1のアルゴリズムに由来する確率値及び関連する信頼係数の各ペア、並びに、第2のアルゴリズムに由来する確率値及び関連する信頼係数の各ペアの、それぞれの信頼係数を統合して、所与の速度範囲及び所与の車輪に関する中間の頑健な確率値を決定するために、第1のファジー論理プロセスを用いて、第1及び第2のアルゴリズムに由来する空気圧不足確率値と関連する信頼係数とを、マージするステップが含まれる。
【0013】
好ましくは、当該方法には、各車輪及び各アルゴリズムに関する全速度範囲を考慮に入れて、前記頑健な確率値を決定するために、各アルゴリズムに関する中間の頑健な確率値の最大値を選択することである、選択のステップが含まれる。
【0014】
有利には、当該方法には、第1及び第2のアルゴリズムを用いて推定された、頑健な確率値をマージするステップが含まれ、前記マージするステップは、各車輪に関するマージされた頑健な確率値を出力として提供するように、第2のファジー論理プロセスを利用する。
【0015】
有利には、当該方法には、タイヤの空気圧不良を有する車輪の数に関する車両の各状況の推定において、第1及び第2のアルゴリズムのそれぞれの重みを表す開発(development)パラメータの関数として頑健な確率値のマージを重みづけするため、第2のファジー論理プロセスで使用されることを意図された、ファジーパラメータとの関係を規定することである、ステップが含まれる。
【0016】
有利には、マージされた各車輪に関する頑健な確率値は、車両の各車輪のタイヤの空気圧状態を診断するために使用される。
【0017】
本発明はまた、自動車の車輪に取り付けられたタイヤの空気圧を監視するシステムであって、車輪間の速度差の分析に基づいて少なくとも1つのタイヤの空気圧不良の出現を推定する第1のアルゴリズムと、車輪の速度のスペクトル分析に基づいて少なくとも1つのタイヤの空気圧不良の出現を推定する第2のアルゴリズムとを含むタイプである、システムにも関連する。第1及び第2のアルゴリズムのそれぞれは、複数の車輪速度範囲のうちで規定された各速度範囲に対する、車両の各車輪の空気圧不足確率値と、関連する速度範囲における車輪の走行時間に依存して提供された、各確率値に関連する信頼係数とを提供するように適合され、前記システムは、ファジー集合理論に基づく決定モジュールを含むことを特徴とし(ファジー集合理論の入力信号は、第1及び第2のアルゴリズム並びに関連する信頼係数に由来する空気圧不足確率値である)、前記決定モジュールは、各車輪及び各アルゴリズムに関する全速度範囲を考慮に入れた、前記空気圧不良を示す頑健な確率値を出力として提供するように適合されている。
【0018】
有利には、当該決定モジュールには、第1及び第2のアルゴリズムを用いて推定された、頑健な確率値をマージする手段が含まれ、前記マージする手段は、各車輪に関するマージされた頑健な確率値を出力として提供する、第2のファジー論理プロセスを利用する。
【0019】
非限定的な例として示される後述の本発明の具体的実施形態の記載を読み、添付図面を参照することで、本発明の他の具体的特徴及び利点が明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明による推定方法で用いられる、ファジー論理ベースの決定モジュールの一般構造を示す。
【
図2】当該決定モジュールによって実行される、第1の(いわゆる前処理の)段階で実行される、第1のファジー論理プロセスの演算を示す。
【
図3】当該決定モジュールによって実行される、第2の(いわゆるマージする)段階で実行される、第2のファジー論理プロセスの演算を示す。
【0021】
したがって、必要とされているのは、車輪間の角速度差を分析する方法及び車輪速度をスペクトル分析する方法を用い、2つのアルゴリズムのそれぞれによって各タイヤ及び各速度範囲に関して提供される確率値及び信頼値を考慮に入れて、タイヤのうちの1つが空気圧不良状態を有しているかどうかという問いに答えることによって、車両の車輪に取り付けられた少なくとも1つのタイヤの空気圧不良の出現を、頑健に特徴づけることである。本発明によると、ファジー集合の数学的理論に基づく、ファジー論理のこの特徴づけへの貢献は、特に関連があることが示されている。実際、特に、以下で詳述するファジー論理プロセスで使用される関数は、単純な直線分及び基礎的計算操作であるという点で、確率的論理に比べて、実行するのにより簡便で費用がより少ないという便益が提供されている。さらに、各サンプリング時期における、4つの車輪及び2つのアルゴリズムの全ての速度範囲にわたる確率値及び信頼値に適合することが可能なように、これによって、タイヤのうちの1つが空気圧不良状態を有しているかどうかという問いに対する様々な程度の応答が可能になる。同様に、限られた数の開発パラメータを含むファミリー(family)は、幾分厳格な論理を具体化することによって、同一の決定モジュールが異なる決定の有効性の条件に適合することを可能にする。決定モジュールの開発のために限られた数のパラメータを用いることは、とりわけ時間の節約という点で、特に有利である。なぜならば、決定モジュールの開発を、車両の全ての車輪及び両方のアルゴリズムに適用することが必要だからである。
【0022】
したがって、1つのタイヤの空気圧不良の出現を推定するための本発明による方法には、ファジー集合理論に基づく決定モジュール1が用いられる。ファジー集合理論の演算の一般構造は、
図1に関連して示される。決定モジュール1は、車輪間の速度差の分析に基づいて第1のアルゴリズム3を、及び車輪速度のスペクトル分析に基づいて第2のアルゴリズム4を実行する、タイヤ空気圧の間接的監視のためのシステム2に由来するデータを、入力信号として受領する。特に、決定モジュール1は、一方では、第1のアルゴリズム3に由来する、空気圧不足確率値PT及びこれらの確率値PTに関連付けられた信頼係数値CTを受領する。そして他方では、第2のアルゴリズム4に由来する、確率値PF及びこれらの確率値PFに関連付けられた信頼係数値CFを受領する。2つのアルゴリズムによって提供された信頼係数値は、関連する各速度範囲内における走行時間を考慮に入れる。したがって、車両が所与の速度範囲内で走行している場合、当該速度範囲内の車輪の空気圧不足確率値に関連付けられた信頼係数は増大し、他の確率値に関連付けられた信頼係数は減少する。決定モジュールはまた、入力として、決定モジュール開発パラメータP1、P2、P3、P4及びP5を受領する。
【0023】
より正確には、決定モジュール1の入力は以下のとおりである。
PTij=第1のアルゴリズム3に由来するパンクの確率、iは1から4まで変化し(各車輪に1つの記号)、jはv1からvnまで変化する(速度範囲ごとに1つの記号)。
PFij=第2のアルゴリズム4に由来するパンクの確率、iは1から4まで変化し(各車輪に1つの記号)、jはv1からvnまで変化する(速度範囲ごとに1つの記号)。
CTij=速度範囲vj内の走行時間に依存する、PTijに関連する信頼係数。
CFij=速度範囲vj内の走行時間に依存する、PFijに関連する信頼係数。
【0024】
入力データが、直接マージするには大きすぎる分量であることを考慮し、解決すべき問題を単純化するため、2つのアルゴリズムに由来するデータを正しくマージする目的で、決定モジュール1は、前もって当該データの前処理段階(
図1の「処理する」部分)を実行する。2つのアルゴリズムに由来する確率値と信頼係数とを処理するため、この前処理段階には、確率値と信頼値とを(即ち一方では変数PTとCTとを、また他方では変数PFとCFとを)マージすることであり、
図1のTIMEとFREQのブロックに相当する、第1のステップが含まれる。これを行うため、決定モジュール1は、この第1のステップにおいて、それぞれ第1のアルゴリズム3及び第2のアルゴリズム4に由来する確率値と信頼値とをマージするために下記と同じように実装された、第1のファジー論理プロセスを使用する。
【0025】
この第1のステップで使用される第1のファジー論理プロセスは、
図2に示す既知の3つのファジー論理段階(ファジー化、条件、及び非ファジー化)を使用する。
【0026】
ブロックTIME及びFREQのそれぞれの処理の間、入力としてファジー論理プロセスに提出されたそれぞれの関連する確率値と信頼値PTとCT、PFとCFは、まず対応する言語変数を得るために変換される。したがって、変数Pは入力として提供される確率値に対応する言語変数であり、変数Tは入力として提供される確率値に関連する信頼係数値に対応する言語変数である。当該言語変数は、0と1の間の数値を有する。当該値は、言語的な能記(signifier)に関連付けられた、確率値と信頼値とが一致するパーセンテージに相当する。
【0027】
値P1及びP2それぞれの開発パラメータXもまた、それぞれブロックTIME及びFREQを処理するための入力として供給される。当該パラメータは、0と1の間の値を有し、モデルを様々なアルゴリズム及び車輪に適用することができるようにするものでなくてはならない。当該パラメータは、好ましくは、様々な速度範囲に対して一定である。
【0028】
したがって、ブロックTIME及びFREQのそれぞれの処理の間、入力数値P、T、及びXは、ファジー化10を受け、次いで推論エンジン11に提出される。推論エンジン11は、確率値と関連する信頼値とをマージするという問題を解決することを視野に入れ、条件に応じてルールの選択と適用を実行する。推論エンジン11によって実行された処理の結果は、いわゆる頑健な確率値(それぞれブロックTIMEの出力においてはPRT、ブロックFREQの出力においてはPRF)に対応する変数値P
TRUEを生み出すように、非ファジー化12を受ける。
【0029】
図2の実施形態によると、ファジー化10に関連して、例えばPTij=0.6の場合、当該値は、横軸
図P上に位置し、したがって、それぞれが0と1の間の値を有し、それぞれ高確率値、中確率値及び低確率値に対応する、3つの対応する言語変数PH、PM、PLが得られる。
図2の例によると、横軸
図P上に位置する値0.6は、PHが0%、PLが20%、PMが80%に相当する。ファジー化を受ける各確率値に関して、常にPH+
PL+PM=100%である。
【0030】
同様に、引き続き
図2の実施形態によると、例えばCTij=0.5の場合、当該値は、横軸
図T上に位置し、したがって、それぞれが0と1の間の値を有し、それぞれ高信頼水準及び低信頼水準に対応する、2つの対応する言語変数TH及びTLが得られる。
図2の例によると、横軸
図T上に位置する値0.5によって、TH=50%及びTL=50%がもたらされる。
【0031】
したがって、ファジー化10の終了に際しては、各入力確率値PTij、PFijは、それぞれ、言語変数PH、PL及びPMに対応する3つの値によって表され、各関連する信頼係数値CTij及びCFijは、それぞれ、言語変数TH及びTLに対応する2つの値によって表される。
【0032】
これらの言語変数PH、PL、PM並びにTH及びTLは、次いで、信頼係数と確率とをマージし、それによって、(PTij、CTij)及び(PFij、CFij)の各ペアのそれぞれに関して、非ファジー化12に必要な3つの新しい言語変数を得ることを可能にし、確率及び信頼性を表すこれら言語変数間の直接的かつ簡素な関係を生み出すように、推論エンジン11に提出される。H、M及びLは、それぞれ高、中、低の頑健な確率水準に対応する。
【0033】
例えば、言語変数H、M及びLを決定するために、言語変数PH、PL、PM並びにTH及びTL間の関係を確立するルールは、以下のタイプである。
H=min[PH,TH]
M=max(min[PH,TL],min[PM,TH])
L=max(min[PM,TL],min[PL,TH],min[PL,TL])
【0034】
推論エンジン11内で適用された条件のお蔭で得られたこれらの変数H、M及びLは、それぞれ、ブロックTIMEの出力における(PTij、CTij)の各ペアに関してPRT、ブロックFREQの出力における(PFij、CFij)の各ペアに関してPRFである、頑健な確率P
TRUEを計算するため、非ファジー化を受ける。より正確には、
図2の実施形態によると、横座標P
TRUE及び縦座標H/M/Lを有し、頂点1及び、各底辺を有する3つの三角形を有する図が規定される。各底辺がカバーする横軸のパーセンテージは互いに重なり、例えば[−50%,50%]、[0%,100%]及び[50%,150%]であり、それぞれ言語変数L、M及びHに対応する。言語変数Lに対応する第1の三角形は、次いで既定の変数Lの値に相当する高さまで、満たされる。
図2に示すように、同様に、言語変数Mに対応する第2の三角形が既定の変数Mの値に相当する高さまで満たされ、最後に言語変数Hに相当する第3の三角形が既定の変数Hの値に相当する高さまで満たされる。次いで、頑健な確率P
TRUEの計算は、こうして得られたエリアの重心cdgを決定することに存する。重心cdgの横座標P
TRUEは、所与の速度範囲及び所与の車輪に関する頑健な確率の数値を提供する。したがって、ブロックTIME及びFREQの出力において、中間の頑健な確率値、それぞれ、ブロックTIMEの入力における(PTij,CTij)の各ペアに関してはPRT、ブロックFREQの入力における(PFij,CFij)の各ペアに関してはPRFが、得られる。信頼係数値は、有利には、実施されたファジー論理プロセスのお蔭で統合されている。処理されるべき変数の数は、有利には、半減される。
【0035】
所与の速度範囲及び所与の車輪に関する、2つのアルゴリズムのそれぞれの中間の頑健な確率値の決定を導く、確率値と信頼値とをマージするこの第1のステップに続いて、前処理段階として、それぞれブロックTIME及びFREQに由来する中間の頑健な確率値PRT及びPRFに基づいて、速度範囲を選択する、
図1のブロックSPVT及びSPVFに対応するステップが実施される。
【0036】
速度範囲を選択するステップは、確率値と関連する信頼値とをマージする関数によって作り出された、中間の頑健な確率値の最大値を選択することにある。言い換えれば、ブロックSPVTの出力においてはPRSTi=max(PRTij)であり、ブロックSPVFの出力においてはPRSFi=max(PRFij)である。実際、決定モジュール1の目的は、タイヤ空気圧の問題を検出することである。また、ある速度範囲に関してタイヤ空気圧の問題を示す中間の頑健な確率が発生するだけで、十分と考えられる。なぜならば速度範囲は相互に独立しているからである。さらに、第1の及び第2のアルゴリズムによって推定されたように、既に確率値とマージされた信頼係数値には、各速度範囲における走行時間が考慮に入れられる。したがって、このマージのお蔭で、ブロックTIME及びFREQの出力において、所与の速度範囲及び、低信頼係数を持つものと共に、高信頼係数に相当する速度範囲の所与の車輪に関する、中間の頑健な確率が常に存在する。したがって、中間の頑健な確率が非常に信頼性の高いものである速度範囲が、少なくとも1つ存在する。
【0037】
このステップにおいて、第2のアルゴリズム4に由来するデータを用いて後輪用のブロックFREQに2つの異なるファジー論理プロセスが用いられている場合、ブロックSPVFに向けられた開発パラメータP3は、重みづけパラメータとしての役割を果たし得る。
【0038】
したがって、決定モジュール1によって用いられた2つのアルゴリズム3及び4に由来するデータを前処理する段階は、中間の頑健な確率の最大値を選択することによって、有利には各速度範囲における走行時間を考慮に入れつつ、各アルゴリズムに、所与の車輪に関する頑健な確率、それぞれPRSTi及び
PRSFiを提供することを可能にする。
【0039】
次いで、各アルゴリズム及び各車輪に由来する頑健な確率値PRSTとPRSFとをマージするための第2のファジー論理プロセスを使用して、決定モジュール1によって、マージする段階(
図1の「マージする」)が実施される。
図1のブロックMIXERで実施されたこのマージする段階は、
図3に関連してより詳細に記載される。したがって、第2のファジー論理プロセスにおいて推論エンジン21内で使用されるファジーパラメータA、B、C、Dとの関係を規定することにある、
図3のパラメータ生成器ブロック5に対応する第1のステップが、当該マージする段階には含まれる。当該ステップでは、車両の状況、より正確には、パラメータ生成器ブロック5への入力として提供された、各アルゴリズム及び各車輪の頑健な確率(それぞれPRST及びPRSF)に由来する、タイヤ空気圧の問題を有する車輪の数が考慮に入れられる。当該ステップでは、4つのパラメータTL、TH、FL及びFHを組み合わせ、それによって、タイヤ空気圧の問題が存在しない状況の推定における第1のアルゴリズム3の重み、タイヤ空気圧の問題が存在する状況の推定における第1のアルゴリズム3の重み、タイヤ空気圧の問題が存在しない状況の推定における第2のアルゴリズム4の重み、及び最後にタイヤ空気圧の問題が存在する状況の推定における第2のアルゴリズム4の重みを、それぞれ適応させることを可能にするパラメータ生成器ブロック5への入力として提供された、開発パラメータP4もまた考慮に入れられる。
【0040】
さらに、車両の状況に応じて各アルゴリズム3及び4から得られた頑健な確率、それぞれ%TIME及び%FREQ、の重みを確立する関係は、例えば以下の方式によって規定され得る。
− 第1のアルゴリズム3によって推定された、タイヤ空気圧の問題を有する車輪が0個:%TIME=0.5及び%FREQ=0.5、
− 第1のアルゴリズム3によって推定された、タイヤ空気圧の問題を有する車輪が1個または2個:%TIME=0.5+PROB/2及び%FREQ=0.5−PROB/2、
− 第
1のアルゴリズム3によって推定された、タイヤ空気圧の問題を有する車輪が1個または4個:%TIME=0.5−PROB/2及び%FREQ=0.5+PROB/2、
であって、PROBは第1のアルゴリズム3に由来する、確率値PTijの最大値である。
【0041】
次いで、以下の関係が規定される。
A=TH*(%TIME)+FH*(%FREQ)
B=TL*(%TIME)+FL*(%FREQ)
C=TL*(%TIME)+FH*(%FREQ)
D=TH*(%TIME)+FL*(%FREQ)
【0042】
これらの関係によって、第2のファジー論理プロセスの実行に必要なファジーパラメータA、B、C及びDが提供される。例えば、車両がパンクしている(1つの車輪の空気が抜けている)状況にある場合、各アルゴリズムの頑健な確率の重みを確立する上記の関係によると、第1のアルゴリズム3の重みは第2のアルゴリズム4の重みよりも大きい。この場合、ファジーなパラメータA、B、C、Dの値は、第1のアルゴリズム3の重みを表す開発パラメータ、即ちパラメータTL及びTHによって、より強く重みづけられる。
【0043】
次いで、第1及び第2のアルゴリズム3及び4を用いて推定された頑健な確率PRSTとPRSFとをマージするために、第2のファジー論理プロセスが実行され得る。前処理段階で用いられる第1のファジー論理プロセスについて、当該プロセスは、
図3に示すように既知の3つのファジー論理段階(ファジー化、条件、及び非ファジー化)を使用する。
【0044】
したがって、ファジー論理プロセスへの入力として呈出された頑健な確率値PRST及びPRSFは、まず、対応する言語変数(それぞれT及びF)を得るために変換される。当該2つの変数は、2つのレベル(高及び低)に分けられる。したがって、各変数は2つの言語値、それぞれ「空気の抜けた車輪」の状況に関する「高」の値Thigh、Fhigh、及び「空気が抜けていない車輪」の状況に関する「低」の値Tlow、Flowを取ることができる。したがって、これら2つの言語値の使用によって、簡素及び直接的な条件を用いて、2つの可能な状況を処理することが可能になる。
【0045】
したがって、ファジー化ステップ20の後、4つの言語値Thigh、Tlow、Fhigh、及びFlowが、推論エンジン21に対して提出され、これによって、4つの新しい条件値を得るために、当該4つの言語値をマージすることが可能になる。
C1=MIN(Thigh,Fhigh)
C2=MIN(Tlow,Flow)
C3=MIN(Tlow,Fhigh)
C4=MIN(Thigh,Flow)
【0046】
パラメータ生成器ブロック5内で計算された4つのファジーパラメータと4つの条件値とをマージした結果生じる各車輪に関するマージされた頑健な確率値PNRTを出力として供給するように、推論エンジン21によって実行された処理の結果が、非ファジー化ステップ22に提出される。実施の一例は、平均を使うことである。
【0047】
この各車輪に関するマージされた頑健な確率値PNRTは、検出速度を必要に応じて適合させることを可能にするように、頑健な確率値に従ってタイヤ空気圧不良を検知または非検知する都度、各車輪に関するカウンター信号PNTを増加または減少することによって、各車輪に対する頑健な確率値PNRTを処理するように設計された、
図1のブロックPHASEに提供される。次いで、各車輪に関するカウンター信号PNTは、関係する車輪のタイヤ空気圧の状態と、継続時間、即ち経時的な総累積値に関するという点で入力信号の積分を表す当該タイヤ空気圧の出力信号とを、監視するように設計された制御用積分器(車輪1つにつき、制御用積分器1つ)によって、ブロックPHASEの出力において使用される。関連する制御用積分器の出力信号を介して1つの車輪にタイヤ空気圧不良が検出された場合、全体警報が作動される。