(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
板ガラス、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)などの電子ディスプレイ用の基板として使用するための板ガラスの製造における基本工程には、以下がある:(1)原材料を溶融する工程、(2)溶融物を清澄(精製)して、ガス状包有物を除去する工程、(3)清澄した溶融ガラスを撹拌して、化学的および熱的均一性を達成する工程、(4)均質化されたガラスを熱的に状態調節して、温度を低下させ、それゆえ、粘度を上昇させる工程、(5)冷却された溶融ガラスをガラスリボンに成形する工程、および(6)ガラスリボンから個々のガラス板を分割する工程。ダウンドロー・フュージョン法の場合、このガラスリボンは、「アイソパイプ」として知られている成形体を使用して形成されるのに対し、フロート法においては、この目的に溶融スズ浴が使用される。ガラス製造分野で公知の他の方法も使用されることがある。
【0004】
溶融ガラスを通る気泡の上昇速度はガラスの粘度と反比例するので、溶融ガラスをうまく清澄するためには、高温が必要である。すなわち、粘度が低いほど、上昇速度が速くなる。ガラスの粘度は温度と反比例する、したがって、温度が高いほど、粘度が低くなる。溶融ガラスは、限られた時間しか、清澄に使用される装置内にないので、気泡を溶融物に通して急速に上昇させることは非常に重要である。それゆえ、清澄器は、通常、できるだけ高温で作動され、したがって、溶融ガラスは低粘度である。しかしながら、溶融ガラスをリボンに成形するには、清澄中に使用される粘度よりもずっと高い粘度が必要である。それゆえ、清澄工程と成形工程の間に、溶融ガラスを熱的に状態調節(冷却)する必要がある。
【0005】
歴史的に、熱的状態調節は、溶融ガラスを、円形断面を有する導管に通すことによって行われてきた。この導管は、セラミック材料により取り囲まれ、金属枠により支持されており、溶融ガラスからの熱損失速度は、熱と流動の相当な不均一性が冷却プロセスの結果としてガラスに導入されるのを防ぐように、直接または間接加熱の使用により制御されてきた。溶融ガラスの高温および溶融ガラスの汚染を避ける必要があるために、導管の壁は、多くの場合、貴金属、例えば、白金族金属から形成されている。
【0006】
白金含有材料の価値のある特徴の中に、電気を通すときに熱を生じる能力がある。その結果、白金含有容器中を流れる、またはその中に保持される溶融ガラスは、ガラスと接触する容器の壁の長さに亘る2つ以上の位置の間で電流を流すことによって、加熱することができる。そのような加熱は、当該技術分野において、「直接加熱」または「直接抵抗加熱」として知られており、ここでは、その用語を使用している。この用法において、「直接」は、外部から印加される間接抵抗加熱または炎熱ではなく、容器自体からの加熱を意味する。
【0007】
直接抵抗加熱における主な難題は、電流の、容器の壁への導入と、そこからの除去である。このことは、電気的問題であるだけでなく、熱的問題でもある。何故ならば、伝導経路は、その伝導経路にホットスポットを生じる不安定な電流密度を引き起こし得るからである。これらのホットスポットは、含まれる金属の加速された酸化、または金属の融点への到達などにより、材料の早過ぎる破損を引き起こし得る。
【0008】
電流を容器の壁に導入する方法の1つは、導電性金属製フランジの使用によるものである。そのようなフランジの例が、例えば、特許文献1および2に見つけられる。本発明は、白金含有容器の壁に電流を導入するために使用されるフランジに関し、特に、そのフランジと溶融ガラスを移送する容器内の電流密度を確実に均一にすることに関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の詳細な説明において、制限ではなく説明の目的で、具体的な詳細を開示する例示の実施の形態が、本発明の完全な理解を与えるために述べられている。しかしながら、本開示の恩恵を受けた当業者には、本発明は、ここに開示された具体的な詳細から逸脱する他の実施の形態で実施してもよいことが明白であろう。さらに、本発明の説明を分かりにくくしないように、周知の装置、方法および材料の説明は省かれることがある。最後に、できるときはいつでも、同様の参照番号は同様の構成要素を称している。
【0020】
ここと、特許請求の範囲に使用されるように、「貴金属」という用語は、白金族金属またはその合金を意味する。他の白金族金属に制限せずに、白金、粒子安定化(grain-stabilized)白金、白金合金、または粒子安定化白金合金が含まれることが特に興味深い。非限定的例としては、その用語は、80質量%の白金と20質量%のロジウムの合金などの、白金−ロジウム合金を含む。
【0021】
ここと、特許請求の範囲に使用されるように、「楕円断面」という用語は、長円、卵形、またはレーストラック(すなわち、その断面の周囲は、曲線、例えば、半球により、または各端部に曲線、例えば、各端部に4分の1円を有する直線部分により、各端部で接続された平行な直線側部を有する)の形状を有する断面を意味する。「楕円導管」は、導管の長さに対して垂直な楕円断面を有する導管である。楕円導管は、長断面軸および短断面軸を備え、その長断面軸は、導管断面の最大寸法に沿って導管を二等分し、短断面軸は最短断面に沿って導管を二等分する。
【0022】
図1の例示の装置10において、矢印12により表されるバッチ材料が、炉または溶融器14に供給され、溶融されて、第1の温度T
1で溶融ガラス16を形成する。T
1は特定のガラス組成に依存するが、非限定的としてのLCD適応ガラスについて、T
1は1500℃を超え得る。その溶融ガラスは、溶融器14から結合導管18を通って清澄導管(または「清澄器」)20に流れる。清澄器20から、ガラスは、結合導管24を通って撹拌容器22に流れて、混合され、均質化され、撹拌容器22から結合導管26を通って送達容器28に、その後、下降管30に流れる。次いで、溶融ガラスは、入口34を通って、成形体32に向けることができる。
図1に示されたフュージョン・ダウンドロー法の場合、成形体32に送達された溶融ガラスは、成形体32の収束する成形面上を流れ、別々の流れが互いに接合され、または融合されて、ガラスリボン36を形成する。次いで、このリボンを冷却し、分割して、個々のガラス板を形成することができる。
【0023】
清澄器20では、溶融ガラスは、T
1より高い第2の温度T
2に加熱される。例えば、T
1は一例として1500℃であることがあるのに対し、T
2は、T
1より少なくとも100℃高くて差し支えない。T
2の比較的高い温度のために、溶融ガラスの粘度が低下し、それによって、溶融材料中の気泡をより容易に除去することが可能になる。さらに、より高い温度のために、バッチ材料を通じて溶融ガラスに入った清澄剤(例えば、溶融ガラス中に含まれる多価酸化物材料)中に含まれる酸素が放出される。その放出された酸素は溶融ガラス中に気泡を形成し、これが、実質的に核形成サイトとして働く。すなわち、溶融ガラス中の溶存ガスは、酸素の気泡中に移行し、気泡を成長させる。この気泡の成長からもたらされる浮力の増加により、溶融ガラスからのその自由表面を通じての気泡の除去が促進される。
【0024】
溶融器14は、典型的に、耐火材料(例えば、セラミックレンガ)から形成されるが、結合導管18、24、26、清澄器20、撹拌容器22、送達容器28、下降管30および入口34などの、溶融ガラスを搬送するための様々な容器を含む、下流システムの大半は全て、典型的に、導電性貴金属、通常は、白金または白金ロジウム合金などの白金合金から形成される。先に記載されたように、溶融ガラスは極めて高温であり、したがって、長期間に亘り少なくとも1600℃を超える温度に耐えることのできる高温金属が必要である。さらに、その金属は、耐酸化性である、または酸素との接触を減少させるために遮蔽されるべきであり、その酸化は、貴金属構成部材が経験する高温により加速され得る。その上、溶融ガラスは極めて腐食性であり、よって、貴金属はガラスからの攻撃に対して比較的耐性であるべきであり、その攻撃は容器の材料によるガラスの汚染をもたらし得る。周期表の白金族(白金、ロジウム、イリジウム、パラジウム、ルテニウムおよびオスミウム)を含む金属が、この目的にとって特に有用であり、白金は、他の白金族金属よりもより容易に加工されるので、多くの高温プロセスでは白金または白金合金容器が利用される。しかしながら、白金は高価であるので、これらの容器のサイズを最小にするためにあらゆる努力が行われている。
【0025】
図2Aは、点線38により表された楕円断面、特に
図2Aの場合には、「レーストラック」の断面形状を有する、結合導管26などの結合導管の実施の形態の斜視図である。レーストラックにより意味されるのは、2つの直線部分により接続された、長い寸法の端部に2つの円形部分を有する形状である。使用中、溶融ガラス16は、
図2Bに示されるように、入口端40を通って導管に入り、内部通路42に沿って移動し、出口端44を通って出る。
【0026】
実際には、導管は多種多様な寸法を有して差し支えない。例えば、導管の長さLは、フィートで表される程度、例えば、3〜12フィート(約3.7メートル)であり得、導管は、楕円導管の長軸Laに沿った、15〜30インチ(約76センチメートル)程度の幅Aおよび楕円容器の短軸Saに沿った、6〜9インチ(約23センチメートル)の高さBを有し得る。幅Aおよび高さBは、その導管の公称の外寸を表す。構築を容易にするために、導管は、複数の楕円セグメント、例えば、各々が1フィート(約0.3メートル)の長さを有するセグメントから組み立てることができる。しかしながら、先の寸法は、例示のみであり、具体的な寸法は、溶融ガラスの堆積および流動要件を含む、その導管が取り付けられるシステムに依存する。
【0027】
楕円導管の幅対高さ比(A/B比)は2から6の範囲に設定してよい。この範囲は、溶融ガラスが導管を通過するときに、溶融ガラスの低い損失水頭をもたらす。重要なことには、等価伝熱率および等価温度勾配と流量グラジエントについて、円形断面を有する導管は、3.3のA/B比を有する楕円導管よりも、2.5倍長い必要があるであろう。その上、そのような円形導管は、楕円導管より16倍大きい損失水頭を有するであろう。当業者の知るところでは、貴金属システムの熱膨張を管理し、建物の床面積を最小にする上で、長さは重要である。また、損失水頭は、均一なガラス流量を管理する上で重要な変数であり、これは、事実上全ての成形方法に関連し、特に、ダウンドロー・フュージョン成形法に関連する。
【0028】
例示の実施の形態によれば、楕円導管は、少なくとも3メートル長であり、溶融ガラスの制御冷却のような熱的状態調節を行う場合、(1)少なくとも800キログラム/時(約1800ポンド/時)の速度で流動し、導管の入口面と出口面との間で少なくとも30℃/メートルの平均速度で冷える溶融ガラスで満たされる。導管の短断面軸の長さに沿うよりも、長断面軸の長さに沿う導管の壁により多くの熱を加えることによって、(a)導管の中心と、(b)導管の短軸および導管の壁の交差点との間における出口面での溶融ガラスの計算温度差は、入口面で均一な温度分布を仮定すると、約15℃以下にすることができる。
【0029】
貴金属結合導管を通じた第1の容器と第2の容器との間の非加熱伝達(すなわち、溶融ガラス材料に熱エネルギーが加えられない場合)において、溶融ガラスは、その結合導管に進入した際に直ちに冷え始める。しかしながら、溶融ガラスが流路に沿った特定の地点で所定の最低温度未満に冷えないように、溶融ガラスが冷える速度を制御することが望ましい。それゆえ、結合導管を、過剰な熱損失を補うように加熱することが好ましい。溶融器と清澄器との間の結合導管の場合におけるようないくつかの場合、導管が伝導と対流により失うよりも多くの熱エネルギーを導管に供給することによって、ガラスが清澄器に入る前に、清澄器に流れる溶融ガラスの温度が上昇させられる。この加熱は、通常、先に要約したような直接加熱方法により行われるが、外部熱源を使用しても差し支えない。溶融ガラスの流量を初期の流量よりも増加させた場合、所定の温度に関する加熱要件が増える。これには、例えば、加熱の時間をより長くし、溶融ガラスが適切な温度であることを確実にするために、結合導管の長さを長くすることが必要かもしれない。より長い導管を形成するために使用される白金の量が増えるので、結果として、加工費が上昇するであろう。さらに、典型的な製造環境において、追加の床面積の利用可能性が大抵限られており、材料費にかかわらず、構成要素を長くするという選択肢は問題となる。
【0030】
代わりの手法は、直接加熱された結合導管について、このことは、直接加熱される構成要素を通る電流フローを増加させることを意味する。この電流は、交流(AC)または直流(DC)であって差し支えないが、大抵、AC電流である。しかしながら、増加した電流フローは、容器に電流を供給する電気フランジアセンブリが容器と接触する地点と、フランジアセンブリ自体の内部の両方にホットスポットを生じさせることが分かった。フランジアセンブリと導管とが接触する位置でのホットスポットは、溶融ガラスの不均一な加熱をもたらし得、フランジアセンブリ内のホットスポットは、加速された酸化または溶融を誘発すること、およびフランジアセンブリの早まった破損などにより、フランジアセンブリの完全性を損ない得る。さらに、早まった破損を避けるために、電気フランジアセンブリを積極的に冷却してもよいが、フランジの未冷却温度が使用される材料の特定の閾値を超えた場合、冷却システムの破損が壊滅的になり得る。
【0031】
フランジアセンブリにおけるホットスポットの一因は、フランジアセンブリを電流源に結合する電極と繋がったライン上の位置でのフランジアセンブリの高い電流密度に起因する。すなわち、フランジアセンブリは、典型的に、フランジ本体から延在し、フランジアセンブリに電流を供給するケーブルまたは母線に結合するタブすなわち電極を備えている。その結果、電極がフランジ本体と交わる位置の近くの電流密度は、典型的に、フランジアセンブリの他の位置よりもずっと高い。より大きい加熱要求に対処するために、フランジアセンブリに供給される電流を増加させる場合、電極近くの領域(電流が電極からフランジ本体に分配される場所)におけるフランジ本体の高い電流密度により、フランジ本体を構成する材料の急激な酸化によってフランジ本体の早まった破損を生じるのに十分に高い温度がフランジ本体に生じ得る。もしくは、極端な場合、電流フローは、電極および/またはフランジ本体を加熱し、溶融するのに十分なこともある。
【0032】
図2Bは、直接抵抗加熱システムの一部を示しており、例示の金属容器(例えば、導管)、ここでは、電流を外壁46に印加する2つのフランジアセンブリ48が取り付けられた外壁46を有する、撹拌容器を送達容器に結合する導管26を描写している。導管26は、直接加熱の例示の使用を表しており、フランジアセンブリ48は、溶融ガラスを保持または搬送するために利用されるどのような他の導電性金属容器または導管に使用しても差し支えないことに留意すべきである。
【0033】
フランジアセンブリが2つしか示されていないが、実際には、フランジアセンブリが電気的に連通している外壁の様々な区域に電流を供給するために、どの特定の容器または導管に、3つ以上のフランジアセンブリを使用しても差し支えない。容器または導管が中を通って延在するフランジ本体の中央開口は、容器または導管の断面形状、すなわち、容器または導管の周囲の形状に相補的な形状を有する。
【0034】
図2Bによれば、第1と第2のフランジアセンブリ48が電源50に結合されており、ここで、フランジアセンブリ間で、容器(例えば、導管)を通って電流が流れる。この電流は、第1のフランジアセンブリを通り、容器の壁に入り、第1のフランジアセンブリから間隔が置かれた第2のフランジアセンブリを通って引き出される。これらのフランジアセンブリ間の距離は、容器への加熱要件により決まり、当業者により容易に決定される。容器の外壁46を通る電流により、容器と、その中を搬送される溶融ガラスが加熱される。
図2Bには示されていないが、使用中、容器の壁および少なくともフランジアセンブリの部分は、通常、容器または導管からの熱損失を制御するために断熱耐火材料の厚い層により取り囲まれている。
【0035】
図3は、
図2の単独のフランジアセンブリ48の実施の形態の構造をより詳しく示している。図に示すように、フランジアセンブリ48は、2つの環52、54を含むフランジ本体部分48aを備え、ここで、最内環52は、白金族金属を含む高温耐熱金属(すなわち、ここに用いたように、少なくとも1400℃、好ましくは少なくとも1500℃、より好ましくは少なくとも1600℃を超える温度で動作できる金属)から形成される。例えば、最内環52は、少なくとも80質量%の白金を含んでよく、残りは、もしあれば、ロジウムまたはイリジウムの1つ以上である。一例として、最内環52は、90質量%の白金および10質量%のロジウムからなっていて差し支えない。
【0036】
フランジ本体部分48aの温度は、溶融ガラス搬送導管からの増加する距離の関数として低下するので、最外環材料に要求される温度耐性は、最内環材料に要求される温度耐性ほど高くない。それゆえ、費用を節約するために、最外環54は、高い溶融温度を一般に有するが、内側環52の白金含有材料ほど全く高価ではない材料から形成してよい。
【0037】
特定の実施の形態によれば、フランジ本体部分48aの最外環54はニッケルから形成される。例えば、最外環54は、白金および白金合金と比べた場合、低コストで容易に入手できる、ニッケル200またはニッケル201などの、工業的に純粋なニッケル(例えば、少なくとも99.0質量%のニッケル)から形成してよい。電力用フランジアセンブリ48に使用する場合、ニッケルは、電気抵抗、熱伝導性、耐酸化性、白金およびロジウムによる溶解度、機械加工性、価格、および他の高温材料が適合するのに難点を有するであろう多くの形態と形状における利用可能性の優れた組合せを提供する。フランジアセンブリ48は、頸部分、すなわち、フランジ本体部分48aを、電源50に通じるバスに結合する環54から延在する電極56をさらに備えている。
【0038】
図3の実施の形態において、フランジアセンブリ48は、電源接続が非対称となるように電極56をただ1つだけ備えている。結果として、最内環52の周りの電流密度は不均一であろう。したがって、フランジ本体部分48aは、最内環52の周りの電流密度の均一性を増加させる働きをするノッチ60を最内環52にさらに備えてもよい。しかしながら、後の実施の形態が示すように、そのような非対称は要求されず、ノッチは存在しなくてもよい。
【0039】
図3のフランジアセンブリの断面図を図解する
図4に示されるように、環52および54は、それぞれ、異なる厚さ、t
52およびt
54を有する。すなわち、フランジ本体の厚さは、導管26から外方に離れるつれて変化する。これらの厚さを選択する上で、数多くの検討事項が関与する。第一に、先に論じたように、直接抵抗加熱の主要目的は、容器または導管内の溶融ガラスに熱エネルギーを供給することであって、容器の壁に電流を供給するフランジを加熱することではない。したがって、フランジ内の電流密度は、エネルギー損失を最小にするために、容器壁内の電流密度よりも小さいべきである。第二に、電流密度は、フランジの部分が過熱され、それによって損傷を受けないように制御されるべきである。これは、使用中により高い周囲温度を経験するフランジアセンブリのそれらの部分にとって特別な問題である。
【0040】
環の厚さを選択する出発点として、一定の厚さを有する単独材料から構成されるフランジアセンブリは、導管からの距離が減少すると共に線形に増加する電流密度を有する、すなわち、電流密度は、フランジ本体の外縁で最小であり、内縁で最大であることを留意することができる。この作用を相殺するために、フランジ本体の厚さは、導管の壁からの距離が小さくなるにつれて増加させるべきである。温度の観点からは、周囲温度は通常、導管26から外方に移動するにつれて低下し、それゆえ、電流密度は、フランジの外側に向かって高くなり得、そこでは、過熱による損傷の機会が少ない。このことにより、導管の壁からの距離が増加するにつれて、厚さが小さくなるフランジ本体につながる。導管壁から離れたフランジの外側部分の減少した厚さは、特に、高価な白金含有材料の場合、フランジアセンブリを構成するために使用される材料の量を最小にするのにも望ましい。
【0041】
さらに別の要因に、特に複数のタイプの材料が使用されている場合、フランジアセンブリを構成する材料の抵抗率がある。抵抗率が高いほど、同じ電流密度での直接加熱効果がより大きくなる。また、フランジ本体の最外環が、周方向電流フローに対する抵抗率が低くなるように、その最外環が相当な厚さを有することが望ましいことがある。より詳しくは、特定の実施の形態において、最外環の周囲の計算電流密度における変動(すなわち、モデル化された電流密度変動)は、50%未満である。
【0042】
これらの電気の検討事項に加え、フランジアセンブリのニッケル含有構成要素への作動温度の影響も考慮する必要がある。一般論として、フランジアセンブリのニッケル含有構成要素に適した温度は、(1)フランジアセンブリ自体の水冷での通常動作において約600℃未満、(2)空冷での約800℃未満、および(3)非冷却(受動的冷却のみ)で約1000℃未満である。約600℃以下では、ニッケルは、3年以上のフランジアセンブリの耐用期間を達成できるように十分に低い酸化速度を有する。約1000℃では、可使耐用期間は30日未満である。約800℃での耐用期間は、これらの値の間であり、いくつかの用途にとって、特に、ニッケルをこれらの温度に曝露することで、空冷を使用できる場合に、許容されるであろう。空冷は、大抵、水冷よりも複雑ではなくすことができる。
【0043】
より一般に、導管の壁からの距離が増加するにつれて、耐火断熱において温度が低下する。導管から離れる方向におけるフランジ本体の増加程度により(例えば、より大きい直径のフランジ本体)、温度が同様に低下する。導管壁からのある距離で、フランジ本体の温度は約1000℃の温度未満に低下する。この位置を過ぎると、フランジ本体の材料に、ニッケルを安全に使用できる。ニッケルの温度制限、例えば、長い耐用期間では約600℃、中間の耐用期間では約800℃、または短期間では約1000℃を、任意の条件下で超えた場合、フランジ本体部分48aの内側部分に使用した高温金属とニッケルとの間の接合部は、導管壁からより大きい距離まで移動させなければならない。接合部の外方への移動は、もちろん、高温金属、それゆえ高コスト金属がより大きい半径まで広がらなければならないので、上昇する材料費に対して釣り合わせるべきである。
【0044】
実際に、導管壁から離れる(導管に対して垂直な)方向におけるフランジ本体のサイズおよびそのフランジ本体を構成するリングの厚さを選択するのに関与する様々な要因を考慮するために、コンピュータモデリングが典型的に使用される。そのようなモデル化は、特定の導体特性および形状について電流フローを計算する市販のまたは特注ソフトウェアパッケージ、並びに熱流量をモデル化し、特定の材料特性および熱源/ヒートシンクの位置に関する温度分布を計算するパッケージを使用して行うことができる。例えば、そのような分析を使用すると、
図4の環の厚さの適切な関係は、t
54>t
52であることが分かった。ここで、内側環52は、90質量%の白金および10質量%のロジウムから製造され、外側環54並びに電極56は、ニッケル200/201から製造された。もちろん、他の関係を使用しても差し支えない。
【0045】
フランジアセンブリ48を構成するために使用される環および電極は、典型的に、電極56と外側環54には、平らな金属板、例えば、ニッケル200、ニッケル201、ニッケル600またはニッケル601から、内側環52には、白金ロジウム合金板(例えば、90質量%の白金および10質量%のロジウム)から製造される。環の間の接合部は典型的に溶接される。これらの溶接部は、接合部を過熱し破損させ得る局部的に高い電流密度を生じる得る凹角を避けるために隅肉をつけても差し支えない。最内環52は、通常は溶接により、導管26の外壁46に接合される。重ねて、凹角を避けるために、隅肉をつけても差し支えない。最内環52の厚さは、典型的に、外壁46の厚さより大きいが、所望であれば、最内環に他の厚さを使用しても差し支えない、例えば、最内環の厚さを、外壁46の厚さ以下にしても差し支えない。
【0046】
環52および54に加え、
図3および4のフランジアセンブリは、1つ以上の冷却ブロック62を含んでもよい。冷却ブロック62は、外側環54と同じ材料から製造されてもよいが、冷却ブロックは、予想される温度制約が許せば、異なる材料から形成されても差し支えない。いくつかの実施の形態において、電極56と、この電極に電流を供給する母線64との間の接合部は、
図4に示されるような冷却ブロック62を含んでもよい。
図4は、電極56、母線64および冷却ブロック62を描写しており、冷却流体68を冷却ブロック62の内部の通路に供給するための入口65と出口67を示している。この冷却流体は、液体、例えば、水、または気体、例えば、空気であり得、急激に酸化および/または溶融する温度より低い温度にブロック(および母線接続)を維持するためにブロック内の冷却通路を通して循環させてもよい。導管26内の溶融ガラスの温度は1400℃を超えることがあるので、母線構成要素の急激な酸化を防ぐために、相当な冷却が必要かもしれない。代案として、冷却ブロック62の外部に冷却管を取り付けても差し支えない。
【0047】
電力用フランジアセンブリの上述した構成要素へのニッケルの使用は、高温で作動させた場合、高レベルの耐酸化性を示すことが分かった。ニッケル含有フランジアセンブリは、例えば、より低温のシステムによく使用される銅含有フランジアセンブリよりも、わずかしか冷却を必要としないであろう。したがって、一般に、ニッケル含有フランジを使用する場合、直接抵抗加熱をそれほど必要としない。同様に、直接抵抗加熱におけるこの減少により、直接加熱システムに電力を供給するのに必要な電源の容量に関する資本コストおよび電気の運転費が減少する。
【0048】
これらの機能的利益に加え、ニッケルを含む環を1つ以上使用すると、フランジアセンブリの費用が著しく低減する。何故ならば、銅含有フランジアセンブリにおいて、そうでなければ、白金または白金合金が使用されるであろう場所に、ニッケルが使用されるからである。すなわち、銅のより低い温度耐性は、白金−銅フランジが、銅にとって安全な作動環境を提供するために、白金が、加熱される導管からさらに広がる必要があることを意味する。ニッケルと白金の価格はある期間の間で変動するが、大雑把に言って、白金は、ニッケルの少なくとも400倍も高価であり、ときには、1800倍以上も高価なこともある。
【0049】
図3および4の実施の形態に示されるように、内側の白金含有環52は、結合導管26の周りに配置され、その周囲に接合されている。内側の白金含有環52は、その環を貫通する導管26の断面形状38と実質的に同じ形状を有する外周を有するであろう。それゆえ、導管の断面形状が楕円である場合、最内環52の外周も楕円であろう。例えば、最内環52は、導管の断面寸法に対して、比例して拡大された寸法を有してよい。
【0050】
図3によれば、点線66は、電極を通り、フランジアセンブリ48を二等分する対称軸を表す。
図3の実施の形態において、対称軸66は、導管26の短断面軸Saと一致する。フランジの典型的な取付配置において、対称軸66は垂直軸を表す。しかしながら、フランジアセンブリは、電極56が垂直に向けられるように配置される必要はなく、したがって、対称軸66は垂直である必要はない。図示されるように、導管26の長断面軸La上にある最外環54の全幅W1は、電極56と反対の結合導管26の底部側の最外環54の全幅W2より広く、ここで、W2は、幅W1から90度の角度ずれた幅である。すなわち、
図3および4に示されたW1は、W2より広い。
図4は、
図3のフランジアセンブリの断面図を示している。寸法W2は、外側環54の底部の概略の全幅であり、寸法W2を決定する目的のために、ノッチ60は無視されている(したがって、W2は、W1から90度ずらされた最外環54の最も狭い幅である)ことに留意すべきである。
【0051】
いくつかの実施の形態において、最外環54自体が多数の環を備えてもよいことに留意すべきである。例えば、最外環54は、異なる厚さの複数のニッケル含有環を含むニッケル含有環であってもよい。ニッケルは、例えば、白金などの他の金属との合金にしてもよい。
【0052】
図5および6は、ニッケル含有最外環54を備えたフランジアセンブリ48の別の実施の形態を示しているが、ここでは、白金含有環52は、結合導管26の周りに配置された2つの白金含有環52aおよび52bを含み、最も内側の白金含有環52aは、溶接などによって、結合導管26に接合されている。電極56を通る対称軸66に沿った最も内側のまたは第1の白金含有環52aの幅は、いくつかの実施の形態において、実質的に等しい。すなわち、最内環52aの幅W3は、いくつかの実施の形態において、実質的に変動しない。他の実施の形態において、最内環52aの幅W3は変動してもよい。その上、第2の中間の白金含有環52bの幅は、
図5の実施の形態に示されるように、電極の配置が非対称である(例えば、電極が1つだけしか使用されない)場合、環52bを通る電流密度をより均一にするのに役立つように、ノッチ60を含んでもよいことを除いて、実質的に変動しなくてもよい。
【0053】
その上、
図6に示されるように、最も内側の白金含有環52aの厚さt
52aが、第2の中間の白金含有環52bの厚さt
52bよりも厚いことが好ましい。最外環54(例えば、ニッケル含有環54)の厚さt
54は、t
54>t
52a>t
52bとなるように、最も内側の白金含有環52aの厚さt
52aより厚く、第2の中間の白金含有環52bの幅t
52bよりも厚い。
【0054】
図7および8は、フランジアセンブリ48のさらに別の実施の形態を示しており、ここでは、白金含有環52は、結合導管26の周りに配置された3つの白金含有環52a、52bおよび52cを備えており、最も内側の第1の白金含有環52aは、溶接などによって、結合導管26に接合されている。第1のすなわち最も内側の白金含有環52aは導管26の壁に直接結合されている。第2の中間の白金含有環52bは、最も内側の白金含有環52aに周りに位置しており、その周囲に接合されており、第3の外側の白金含有環52cは、第2の中間の白金含有環52bの周りに配置されており、その周囲に接合されている。最も内側の白金含有環52aの幅W3aは、変動しないように構成してもよい。同様に、第2の中間の白金含有環52bの幅W3bは、変動しないように構成してもよい。幅W3cも、随意的なノッチ60の影響を除いて、実質的に変動しないように構成してもよい。図示されたフランジアセンブリ48がただ1つの電極56を備えている、
図7の実施の形態において、外側の白金含有環52cは、必要に応じて、電流密度の均一性を改善するために、ノッチ60を備えてもよい。したがって、白金含有環52の全幅(W3=W3a+W3b+W3c)は、変動しないように構成してもよい。その上、最外環54の厚さt
54は、第1のまたは最も内側の白金含有環52aの厚さt
52aより厚く、厚さt
52aは、第2の中間の白金含有環52bの厚さt
52bより厚く、第2の中間の白金含有環52bの厚さt
52bは、第3の外側の白金含有環52cの厚さt
52cよりも厚く、したがって、t
54>t
52a>t
52b>t
52cとなる。個々の白金含有環(すなわち、52a、52b、52c)の各々は均一な厚さを有するように構成してよい。
【0055】
本開示の教示に基づいて、結合導管26の壁からの減少する距離の関数として、フランジ本体部分48aの白金含有部分の増加する厚さを提供するために、複数の個々の白金含有環を用いてもよいことが明白なはずである。しかしながら、先の実施の形態の共通する特徴は、フランジ本体がその周りに配置される容器(例えば、結合導管)の周りの角度位置に対して、最も外側の(例えば、ニッケル含有)環54の変動する全幅である。フランジ本体の周りに角度的に移動するにつれて1つまたは複数の最外環に変動する幅を使用することにより、結合導管とフランジとの接合部およびフランジアセンブリ自体の内部で電流密度をより均一にする働きをする質量勾配が提供される。
【0056】
図9に示された別の実施の形態において、対称軸66に沿って横たわる電極56を備えたフランジアセンブリ48が示されている。すなわち、電極56は、導管26の長断面軸に沿って横たわっている。導管26が短断面軸Saに対して垂直に向けられていると仮定すると、電極56は、導管26の側部から横方向で外方に突出している。白金含有最内環52は、例えば、
図7および8に関して記載されたように、複数の白金含有環を備えてもよいことを理解すべきである。ノッチ60は、もし存在すれば、対称軸66上の、電極56と反対に位置している。
図9の実施の形態において、最も内側の白金含有環52の幅W3は、変動しないように構成してもよい(ノッチ60を含む最も内側の白金含有環52の部分を除いて)。他方で、最外環54は、最外環の幅が角度により変動するように構成されている。それゆえ、短断面軸Saに平行な方向で最外環54に亘りとられた幅W1は、短断面軸Saに対して垂直な方向の最外環54の幅とは異なるであろう。
【0057】
図10に示されたさらに別の実施の形態において、フランジアセンブリ48は、第1の電極56aおよび第1の電極56aから180度に位置する第2の電極56bを備えている。電流は、
図10のフランジアセンブリ48に対称に入れられて出されるので、白金含有環52はノッチを備えていない。何故ならば、電極56a、56bの対称配置により、白金含有環52の周りにより均一な電流密度が与えられるからである。
図5および7の実施の形態について、類似の構成が存在し、多数の電極の対称配置により、白金含有環にノッチが必要なくなることを理解すべきである。
図10の2つの電極の対称配置により、2つの電極の中間に白金含有環52を配置することが可能になることも観察されるはずである。すなわち、
図10のフランジアセンブリ48は、2つの対称軸66および70を含み、これら2つの対称軸は垂直である。追加の電極を使用してもよいことをさらに理解すべきである。例えば、4つの電極の対称配置を使用してもよく、ここで、各電極は、フランジの対称軸に沿って配置される。例えば、それらの電極は、2つの電極が第1の対称軸66に沿って互いに反対に配置されるのに対し(例えば、0°と180°)、他の2つの電極は、第2の対称軸70に沿って互いに反対に配置される(例えば、90°と270°)。最も内側の白金含有環52の幅W3は、変動しないように構成してもよい。他方で、最外環54は、最外環の幅が角度で変動するように構成されている。
【0058】
先に述べたように、フランジアセンブリ48を結合導管26に関して記載してきたが、ここに記載されたフランジは、容器内を流れる材料を加熱するために直接抵抗加熱が適用される、非円形断面形状(すなわち、楕円形状)を有する他の導電性容器に使用してもよい。
【0059】
先の実施の形態の各々において、フランジ自体の直接の能動的な冷却が行われないことに留意すべきである。例えば、いくつかの従来の電気フランジに使用されているようなフランジの周囲に適用される能動的冷却はない。実際に、いくつかのフランジアセンブリの設計とは異なり、ここに記載されたフランジアセンブリの属性は、能動的冷却を行える、フランジアセンブリ48の周囲に配置された導管を備えないように構成してよく、それによって、高電流の近傍における冷却流体の漏れに関連する危険性がなくなるであろう。
【0060】
本発明の上述した実施の形態、特に、どの「好ましい」実施の形態も、単に、実施の可能な例であり、単に、本発明の原理を明白に理解するために述べられたことを強調しておく。本発明の精神および原理から実質的に逸脱せずに、本発明の上述した実施の形態に多くの変更および改変を行ってよい。そのような改変および変更の全ては、本開示および本発明の範囲内でここに含まれる、以下の特許請求の範囲により保護されることが意図されている。