(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリンダと、該シリンダの内部に摺嵌されたピストンと、該ピストンの外周面と前記シリンダの内周面との間に画成されて軸方向の前後に離隔配置されたピストン前室およびピストン後室と、前記ピストン前室および前記ピストン後室の少なくとも一方を高圧回路および低圧回路の少なくとも一方に切換えて前記ピストンを駆動する切換弁機構と、前記ピストンの後方に設けられ、圧油によって推力を発生させて前記ピストンの後退工程中に前記ピストンに当接して、前記ピストンに作用する圧油による制動力と協働して前記ピストンを前方へと付勢して増速する増速手段と、を備えることを特徴とする液圧式打撃装置。
【背景技術】
【0002】
この種の液圧式打撃装置としては、例えば特許文献1記載の技術が開示されている。同文献記載の液圧式打撃装置は、例えば
図8に例示するように、シリンダ100P、フロントヘッド300およびバックヘッド400Pを備え、シリンダ100P内にピストン200が摺嵌されている。
【0003】
フロントヘッド300は、シリンダ100の前側に配設され、ロッド310が前進後退可能に摺嵌される。フロントヘッド300の内部には、打撃室301が形成され、打撃室301内でロッド310の後端をピストン200の先端が打撃する。バックヘッド400Pは、シリンダ100の後側に配設され、バックヘッド400Pの内部に形成された後退室401P内をピストン200の後端部が前後に移動する。
【0004】
ピストン200は、中実の円筒体であり、その略中央に大径部201、202を有している。大径部201の前側には中径部203が、大径部202の後側には小径部204がそれぞれ設けられている。大径部201と202の略中央には、円環状のバルブ切換溝205が形成されている。ピストン中径部203の外径は、ピストン小径部204の外径よりも大きく設定されている。
これにより、後述するピストン前室110およびピストン後室111におけるピストン200の受圧面積、すなわち大径部201と中径部203の径差、および大径部202と小径部204の径差は、ピストン後室111側の方が大きくなっている(以下、受圧面積差という)。
【0005】
上記ピストン200が、シリンダ100の内部に摺嵌されることで、シリンダ100内にピストン前室110とピストン後室111とがそれぞれ画成されている。ピストン前室110は、ピストン前室通路120を介して高圧回路101に常時接続されている。一方、ピストン後室111は、後述する切換弁機構130の切換えによって、ピストン後室通路121を介して高圧回路101と低圧回路102とにそれぞれ交互に連通可能になっている。
【0006】
高圧回路101はポンプPに接続され、高圧回路101の途中部分に高圧アキュムレータ140が設けられている。低圧回路102はタンクTに接続され、低圧回路102の途中部分に低圧アキュムレータ141が設けられている。切換弁機構130は、シリンダ100Pの内外の適所に配設される公知の切換弁であり、後述するバルブ制御通路122から給排される圧油によって作動し、ピストン後室111を高圧と低圧とに交互に切換える。
【0007】
ピストン前室110とピストン後室111との間には、前方から後方に向けてそれぞれ所定間隔離隔して、ピストン前進制御ポート112、ピストン後退制御ポート113、および排油ポート114が設けられている。ピストン前進制御ポート112とピストン後退制御ポート113には、バルブ制御通路122から分岐した通路がそれぞれ接続されている。排油ポート114は、排油通路123を介してタンクTに接続されている。
【0008】
ピストン前進制御ポート112は、前側のショートストロークポート112a、および後側のロングストロークポート112bを有し、ショートストロークポート112aとバルブ制御通路122との間に設けられた可変絞り112cの操作によってショートストロークとロングストロークの間を無断階に切換え可能になっている。可変絞り112cを全開にするとショートストロークとなり、全閉にするとロングストロークとなる。
【0009】
この液圧式打撃装置は、ピストン前室110が高圧回路101に常時接続されているので、ピストン200は常時後方へと付勢され、ピストン後室111が切換弁機構130の作動により高圧回路101に接続されると受圧面積差によってピストン200は前進し、ピストン後室111が切換弁機構130の作動により低圧回路102に接続されるとピストン200は後退する。
【0010】
切換弁機構130は、ピストン前進制御ポート112がピストン前室110と連通してバルブ制御通路122に圧油が供給されると、ピストン後室通路121を高圧回路101に連通する位置に切換えられる。また、切換弁機構130は、ピストン後退制御ポート113が排油ポート114と連通して圧油がバルブ制御通路122からタンクTへと排出されると、ピストン後室通路121を低圧回路102に連通する位置へと切換えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、この種の液圧式打撃装置において、高出力化を図る方策としては、一打撃当たりの運動エネルギーを高める方策と、打撃数を増大して運動エネルギーの総和を大きくする方策とがある。本発明者は、これら方策のうち、打撃数を増大して運動エネルギーの総和を大きくする方策を採る場合に以下の問題点を見出した。
【0013】
ここで、
図8において、従来の液圧式打撃装置では、ピストン前進制御ポート112には、ロングストロークポート112bとショートストロークポート112aとが併設されていることを説明したが、ショートストローク化することによって、ロングストロークの設定よりも打撃数を増加することができる。
【0014】
図9に、従来の液圧式打撃装置におけるロングストロークとショートストロークのピストンストローク−速度線図を示す。
同図において、点線がロングストローク設定の線図であり、L1が全ストローク、L2がピストン後退加速区間(ピストンが後退を開始してから、ピストン前進制御ポートがピストン前室と連通してバルブが切換えられてピストン後室が高圧に切換えられるまで)、L3がピストン後退減速区間(ピストン後室が高圧に切換えられてピストンが後方ストロークエンドに到るまで)、Vlongが打撃点におけるピストン速度である。また、実線がショートストローク設定の線図であり、同様に、L1´が全ストローク、L2´がピストン後退加速区間、L3´がピストン後退減速区間、Vshortが打撃点におけるピストン速度である。
【0015】
図9に示すように、ショートストローク化によってストロークは短縮されるものの、ピストンを加速する区間も減少しており、結果として、ピストン速度は、VlongからVshortに低下していることがわかる。したがって、ショートストローク化によって得られる打撃数の増加分とピストン速度の低下分とを総合して勘案すると、必ずしも高出力化に繋がっているとはいえない。
【0016】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、打撃エネルギーを維持しながら、ピストンストロークをショートストローク化して打撃出力を増大可能な液圧式打撃装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る液圧式打撃装置は、シリンダと、該シリンダの内部に摺嵌されたピストンと、該ピストンの外周面と前記シリンダの内周面との間に画成されて軸方向の前後に離隔配置されたピストン前室およびピストン後室と、前記ピストン前室および前記ピストン後室の少なくとも一方を高圧回路および低圧回路の少なくとも一方に切換えて前記ピストンを駆動する切換弁機構と、前記ピストンの後方に設けられ、
圧油によって推力を発生させて前記ピストンの後退工程中に前記ピストンに当接して、前記ピストンに作用する圧油による制動力と協働して前記ピストンを前方へと付勢
して増速する
増速手段と
、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る液圧式打撃装置において、前記
増速手段は、前記ピストンの後退工程中に、前記ピストンに圧油による制動力が作用するタイミングで前記ピストンに当接することは好ましい
。
また、本発明の一態様に係る液圧式打撃装置において、前記
増速手段は、前記高圧回路から供給される圧油によって推力が発生する増速ピストンであることは好ましい
。
【0019】
本発明の一態様に係る液圧式打撃装置によれば、ピストンの後方に
増速手段を設け、
増速手段は、
圧油によって推力を発生させてピストンの後退工程中にピストンに当接し、ピストンに作用する圧油による制動力と協働してピストンを前方へと付勢
して増速するので、ピストンの後退ストロークが短縮されるとともにピストンの前進動作が加速される。そのため、ピストン速度が低下しないので高出力化が可能となる。したがって、本発明に係る液圧式打撃装置によれば、打撃エネルギーを維持しながら、ピストンストロークをショートストローク化して打撃出力を増大することができる。
【0020】
ここで、本発明の一態様に係る液圧式打撃装置において、前記
増速手段を作動させないときに、前記
増速手段を前記ピストンと当接しない位置まで退避させる作動選択手段を備えることは好ましい。
また、前記切換弁機構は、少なくとも前記ピストン後室を前記高圧回路と前記低圧回路とに交互に切換えて前記ピストンを駆動するように構成され、前記増速ピストンへの圧油供給通路は、前記ピストン後室に圧油を供給する通路から分岐して設けられていることは好ましい。
【0021】
また、本発明の一態様に係る液圧式打撃装置において、前記高圧回路から前記増速手段への圧油供給通路に、前記
増速手段に近接する位置に付勢アキュムレータを設けることは好ましい。
また、本発明の一態様に係る液圧式打撃装置において、前記圧油供給通路に、前記付勢アキュムレータよりも圧油供給源側であり、かつ、前記付勢アキュムレータに近接する位置に、前記
増速手段への圧油の供給のみを許容する方向規制手段を設けることは好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、打撃エネルギーを維持しながら、ピストンストロークをショートストローク化して打撃出力を増大することが可能な液圧式打撃装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施形態について図面を適宜参照しつつ説明する。全ての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付している。なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す各実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0025】
第一実施形態の液圧式打撃装置は、
図1に示すように、シリンダ100、フロントヘッド300およびバックヘッド400を備え、シリンダ100内にピストン200が摺嵌されている。
ピストン200は、中実の円筒体であり、その略中央に大径部201、202を有する。大径部201の前側には中径部203が、大径部202の後側には小径部204がそれぞれ設けられている。大径部201と202の略中央には、円環状のバルブ切換溝205が形成されている。
ピストン中径部203の外径は、ピストン小径部204の外径よりも大きく設定されている。これにより、後述するピストン前室110およびピストン後室111におけるピストン200の受圧面積、すなわち大径部201と中径部203の径差、および大径部202と小径部204の径差はピストン後室111側の方が大きくなっている。
【0026】
上記ピストン200は、シリンダ100の内部に摺嵌されることで、シリンダ100内にピストン前室110とピストン後室111とがそれぞれ画成されている。ピストン前室110は、ピストン前室通路120を介して高圧回路101に常時接続されている。一方、ピストン後室111は、後述する切換弁1300の切換えによって、ピストン後室通路121を介して高圧回路101と低圧回路102とにそれぞれ交互に連通可能になっている。
【0027】
高圧回路101はポンプPに接続され、高圧回路101の途中部分には高圧アキュムレータ140が設けられている。低圧回路102はタンクTに接続され、低圧回路102の途中部分には低圧アキュムレータ141が設けられている。切換弁機構130は、シリンダ100の内外の適所に配設される公知の切換弁であり、後述するバルブ制御通路122から給排される圧油によって作動し、ピストン後室111を高圧と低圧とに交互に切換える。
【0028】
ピストン前室110とピストン後室111との間には、前方から後方に向けてそれぞれ所定間隔離隔して、ピストン前進制御ポート112、ピストン後退制御ポート113、および排油ポート114が設けられている。ピストン前進制御ポート112とピストン後退制御ポート113には、バルブ制御通路122から分岐した通路がそれぞれ接続されている。排油ポート114は排油通路123を介してタンクTに接続されている。
【0029】
ピストン前進制御ポート112は、前側のショートストロークポート112a、および後側のロングストロークポート112bを有する。ピストン前進制御ポート112は、ショートストロークポート112aとバルブ制御通路122との間に設けられた可変絞り112bの操作によって、ショートストロークとロングストロークの間を無断階に切換え可能になっている。可変絞り112cを全開にするとショートストロークとなり、全閉にするとロングストロークとなる。
【0030】
フロントヘッド300は、シリンダ100の前側に配設され、ロッド310が前進後退可能に摺嵌される。フロントヘッド300の内部に形成された打撃室301内で、ロッド310の後端をピストン200の先端が打撃する。
バックヘッド400は、シリンダ100の後側に配設されている。バックヘッド400の内部には、後退室401およびその後方に加圧室402が形成されている。後退室401の内径は、ピストン小径部204が前後移動する際に影響が無いように設定され、加圧室402の内径は、後退室401の内径よりも径大に設定されている。後退室401と加圧室402の境界には端面403が形成されている。
【0031】
加圧室402には、付勢手段
(増速手段)として増速ピストン410が摺嵌されている。増速ピストン410は、前側の小径部411および後側の大径部412を有する。小径部411と大径部412との境界には段付面413が形成されている。加圧室402の内径に大径部412が摺接し、端面403と段付面413とが当接することによって加圧室402内の大径部412の後側に液圧室が画成され、液圧室は、加圧通路404によって高圧回路101に常時接続されている。
【0032】
一般的な液圧式打撃装置においては、ピストン200とロッド310の打撃界面、すなわち、ピストン中径部203とロッド310の後端部の外径は同じ寸法に設定されている。その理由は、ピストン200がロッド310を打撃して発生する応力波の伝達効率を高めるためであり、同様の理由で、本実施形態では、増速ピストン410の小径部411の外径がピストン小径部204の外径と略同径に設定されている。
【0033】
次に、本実施形態の液圧式打撃装置の動作、および増速ピストン410の作動状態について
図2を参照しつつ説明する。なお、
図2では、回路が高圧接続されている部分を太い実線および網掛けにて示している。
【0034】
本実施形態の液圧式打撃装置は、ピストン前室110が常時高圧接続されているので、ピストン200は常時後方へと付勢され、ピストン後室111が切換弁機構130の作動により高圧接続されると、上記受圧面積差によってピストン200は前進し、ピストン後室111が切換弁機構130の作動により低圧接続されるとピストン200は後退する。
【0035】
切換弁機構130は、ピストン前進制御ポート112がピストン前室110と連通してバルブ制御通路122に圧油が供給されると、ピストン後室通路121を高圧回路101に連通する位置に切換え、ピストン後退制御ポート113が排油ポート114と連通して圧油がバルブ制御通路122からタンクTへと排出されると、ピストン後室通路121を低圧回路102に連通する位置へと切換える。なお、ピストン前進制御ポートの設定は、上記可変絞り112cを全閉としたロングストロークである。
【0036】
ここで、本実施形態の液圧式打撃装置の打撃機構は、従来の液圧式打撃装置に対して、バックヘッド400に増速ピストン410を設けた点に特徴がある。
すなわち、
図2において、同図(d)に示す、ピストン200がロッド310を打撃すると同時に、切換弁機構130のパイロット室(不図示)は、バルブ制御通路122および排油通路123を経て低圧に接続されるため内部のスプールが切換り、ピストン後室通路121を低圧回路102に連通することでピストン後室111が低圧となるのでピストン200は後退動作を開始する。(同図(a)参照)
【0037】
更にピストン200が後退するとピストン前進制御ポート112が開いて切換弁機構130が切換り、ピストン後室111が高圧になるタイミングでピストン200が増速ピストン410に当接する。このとき、ピストン200には、前室110と後室111の受圧面積差による推力(「通常推力」とする)に、上記増速ピストン410による推力(「加算推力」とする)が合算して作用する(同図(b)参照)。換言すれば、増速ピストン410は、ピストン200の後退工程中にピストン200に当接して、ピストン200に作用する圧油による通常推力(制動力)と協働してピストン200を前方へと付勢する加算推力をピストン200に与える。
【0038】
その後もピストン200は慣性によって後退を続けるが、上述の通常推力と加算推力とが合算してピストン200に作用するため、ピストン200は、通常の後方ストロークエンドよりも前方の位置で後退から前進に転じる。この間に加圧室402から排出された圧油は高圧アキュムレータ140に蓄圧される(同図(c)参照)。
【0039】
ピストン200が前進に転じた直後は、高圧アキュムレータ140に蓄圧された圧油が加圧室402に供給される。そのため、ピストン200は増速ピストン410に付勢されて速やかに加速する。やがて、上記段付面413が端面403に当接して増速ピストン410の前方ストロークエンドに達すると、ピストン200は、増速ピストン410と離れて通常推力のみで前進してロッド310を打撃する(同図(d)参照)。以下、上述のサイクルが繰り返される。
【0040】
図3に、本実施形態の液圧式打撃装置におけるピストンストローク−速度線図を示す。同図では、参考として、本実施形態の増速ピストン410を有しない場合も破線で表示している。
【0041】
図3において、ピストン200が後退して増速ピストン410に当接するまで(
図2(a)から(b))は、L2区間のV<0領域に相当し、ピストン200が増速ピストン410と当接して後方ストロークエンドまで後退するまで(
図2(c))は、LB3区間のV<0領域に相当し、ピストン200が前進に転じてから増速ピストン410と離れるまでは、LB3区間のV>0領域に相当し、ピストン200が通常の推力で前進してロッド310を打撃するまで(
図2(d))は、L2区間のV>0領域に相当する。
【0042】
ここで、増速ピストン410を備えない従来のピストンストローク−速度線図は、
図9におけるロングストロークの線図と同じプロファイルであり、表示についても
図9と同様に点線を用い、各ストロークはL1〜L3である。
【0043】
図3に示すように、本実施形態の液圧式打撃装置においては、ピストン200が増速ピストン410と当接している区間以外は、ロングストローク仕様の打撃機構として作動しており、ピストン200がロッド310を打撃する際の速度V1および後退時の最大速度V2に変化がないことがわかる。
【0044】
すなわち、本実施形態の増速ピストン410の有無による差異は、ピストン200が増速ピストン410と当接している区間のストロークのみであり、この当接している区間のストロークがL3からLB3へと短縮している。そのため、全体のストロークがL1からLB1へとショートストローク化している。
【0045】
このように、本実施形態の増速ピストン410は、ピストン後退行程の一部分、すなわち、減速後退〜後方ストロークエンド〜加速前進のLB3区間工程のみ、ピストン後室111の受圧面積を一時的に拡大する機構と言える。
ピストン200の減速後退時に受圧面積が拡大することで制動力が増大して短時間でピストン200は後退動作を停止する。この時、後室111と加圧室402から排出される圧油が高圧アキュムレータ140に蓄圧される時間も短縮される。
【0046】
そして、ピストン200は前進動作に転じるが、引き続き受圧面積が拡大した状態が維持されるので、高圧アキュムレータ140に蓄圧された圧油が放出され、後室111と加圧室402に圧油が供給される時間も短縮されてピストン200の前進加速度は増大する。
【0047】
このように、本実施形態の液圧式打撃装置によれば、増速ピストン410を備えない液圧式打撃装置に比べ、高圧アキュムレータ140による運動エネルギーの回収・放出時間を短縮することでストロークを短縮していることがわかる。
【0048】
ピストンの質量をm
p、増速ピストン410の質量をm
bとする。従来の液圧式打撃装置でピストン200が
図3のL3区間の速度V
2からゼロに至る後退減速行程において、この間に高圧アキュムレータ140がピストン200に作用する力をF
p、作用する時間をT
pとすると、ピストン200に作用する力積と運動量の変化は、
−m
pV
p=F
p・T
p
一方、増速ピストンを追加した本発明の液圧式打撃装置でピストン200が
図3のLB3区間の速度V
2からゼロに至る後退減速行程において、この間に高圧アキュムレータ140がピストン200及び増速ピストン410に作用する力をF
b、作用する時間をT
bとすると、ピストン200とピストン410に作用する力積と運動量の変化は、
−(m
p+m
b)V
p=F
b・T
b
ここで、m
b=a・m
pと置くと、
−(m
p+m
b)V
p=−(1+a)m
p・V
p=(1+a)F
p・T
p=F
b・T
b
∴ T
b=(1+a)(F
p/F
b)T
p
ここで、ピストン200の前室110と後室111の受圧面積差をA
p、増速ピストン410大径部412の受圧面積をA
b、油圧をΔPとすると、
F
p=A
p・ΔP
F
b=(A
p+A
b)ΔP
∴T
b=(1+a)A
p/(A
p+A
b)T
p
因みに、従来の液圧式打撃装置のL3区間の前進加速行程の所要時間、並びに本発明の液圧打撃装置のLB3区間の前進加速行程の所要時間は同様に各々T
p、T
bとなる。
【0049】
すなわち、本発明の液圧式打撃装置は、ピストン200が増速ピストン410と当接して制動を受けて停止し、前進に転じて加速するLB3区間の局面におけるサイクルタイム2T
bは、増速ピストン410を備えない従来の液圧式打撃装置のL3区間のサイクルタイム2T
pに対して2(1+a)A
p/(A
p+A
b)T
pとなるので、ショートストローク化が可能である。そして、ピストン200に対する増速ピストン410の質量比aが小さいほど、また、増速ピストン410の受圧面積A
bが大きいほどショートストローク化が可能となる。
なお、このショートストローク化は、高圧アキュムレータ140よる運動エネルギーの回収・放出によって行われるので追加の動力は必要としない。また、実際の装置を設計する際には、ピストン200に対する増速ピストン410の質量比aは無視し得るほど小さく、すなわち増速ピストン410の質量m
bを可能な限り小さく設定することが好ましい。
【0050】
さらに、本実施形態の液圧式打撃装置では、ショートストローク化してもピストン200がロッド310を打撃する際の速度V1は変化しない。そのため、1打撃当たりの打撃エネルギーを減ずることなく打撃数を増加させるので、打撃機構の高出力化が可能となる。
【0052】
次に、本発明の
第二実施形態について
図4を参照しながら説明する。
同図に示すように、この
第二実施形態は、バックヘッド400において、後退室401と加圧室402の境界(つまり端面403)よりも前方に、その内径が増速ピストン小径部411の外径と摺接する隔壁405を形成し、隔壁405の加圧室402側に切換室405aを設けている。切換室405aには切換通路406が接続されており、切換通路406と加圧通路404とは、切換弁機構420を介して高圧回路101と低圧回路102のいずれかに連通するようになっている。それ以外の構成は、上記第一実施形態と同じである。
【0053】
この
第二実施形態によれば、切換弁機構420が
図4に示す位置にある状態では、増速ピストン410を前述した通りに作動させて打撃機構をショートストローク化することが可能である。これに対し、切換弁機構420を
図4に示す位置から
図4の下方に図示する状態へと切り替えると、切換室405aに圧油が供給されるため、増速ピストン410は後方ストロークエンドまで退避し、ピストン200と当接しないようにして通常のストロークで打撃機構を作動させることが可能である。すなわち、この変形例の追加構成部分は、増速ピストン410の作動選択手段(オンオフスイッチ)として機能する。
【0054】
次に、本発明の
第三実施形態について
図5を参照しながら説明する。
同図に示すように、
第三実施形態においては、加圧室402は、加圧通路407を介してピストン後室通路121に接続されている。それ以外の構成は第一実施形態と同じである。
【0055】
この
第三実施形態によれば、増速ピストン410への圧油供給通路である加圧通路407は、ピストン後室111に圧油を供給するピストン後室通路121から分岐して設けられているので、加圧室402および後室111への圧油の給排が同期して行われる。そのため、前述した増速ピストン410が作動するタイミングをピストン200の後退減速行程開始タイミングに正確に一致させることができる。したがって、ピストン200が減速を開始する前にピストン200と増速ピストン410が衝突してエネルギーが無駄に消費されることはない。
【0056】
次に、本発明の
第四実施形態について
図6を参照しながら説明する。
同図に示すように、
第四実施形態においては、加圧室402と高圧回路101を接続する加圧通路404´に、加圧室402に近接して付勢アキュムレータ142が設けられている。それ以外の構成は第一実施形態と同じである。
【0057】
ここで、例えば、
図1に示した第一実施形態の液圧式打撃装置において、ピストン200が、その後退工程中に増速ピストン410に当接し、ピストン200に作用する圧油による制動力と増速ピストン410に作用する前方への推力とが協働してピストン200を前方へと付勢することで、ピストンストロークを短縮するというものである。そのため、ピストン200が増速ピストン410に当接する際は衝撃を伴う。
【0058】
それ故、第一実施形態の液圧式打撃装置において、ピストン200が後退して増速ピストン410に衝突すると、その衝撃は加圧室402の圧油を介して加圧通路404に伝搬して切換弁機構130に達するところ、切換弁機構130に圧油の衝撃が作用すると切換弁機構130の作動が不安定となる場合がある。
それに対して、
図6に示すように、この
第四実施形態においては、付勢アキュムレータ142が高圧アキュムレータ140よりも加圧室402に近接して設けられているので、ピストン200と増速ピストン410とが衝突して加圧室402の圧油に衝撃が伝搬した場合、付勢アキュムレータ142は高圧アキュムレータ140よりも効果的に衝撃を緩衝する。そのため、切換弁機構130の作動に悪影響を及ぼすことはない。また、増速ピストン410の変位により加圧室402の容積が急激に変動した場合、付勢アキュムレータ142は高圧アキュムレータ140よりも低い管路抵抗でその分の油の吸収・放出を行うことができる。
【0059】
次に、本発明の
第五実施形態について
図7を参照しながら説明する。
ここで、全ての油圧回路において、通路面積は大きいほど圧力損失が少なくなり油圧効率が向上するところ、
図1に示した第一実施形態の液圧式打撃装置において、高圧通路121と後室111の受圧面積の関係と、加圧通路404と加圧室402の受圧面積の関係とに着目すると、仮に、高圧通路121と加圧通路404の通路面積を同じに設定した場合、受圧面積に対する通路面積は、加圧通路404側の方が小さいことが見て取れる。
【0060】
受圧面積に対して通路面積が小さいということは圧力損失が大きいということである。すなわち、高圧通路121に対して加圧通路404は相対的に圧力損失が大きいといえる。このように、第一実施形態において、増速ピストン410側の圧力損失が相対的に大きいことから、ピストン200と増速ピストン410が一体となって前進する局面では、本発明の増速作用が充分に発揮されないおそれがあるものの、その対策として通路面積を大きくすることはコスト的にもレイアウト的にも限界がある。
【0061】
そこで、この
第五実施形態においては、
図7に示すように、加圧室402と高圧回路101を接続する加圧通路404´´に、加圧室402に近接して付勢アキュムレータ142を設けており、さらに、付勢アキュムレータ142の上流側(すなわち、圧油の供給源であるポンプP側)には、加圧室402側への圧油の供給のみを許容する方向規制手段として逆止弁143を設けている。それ以外の構成は第一実施形態と同じである。
【0062】
第五実施形態によれば、逆止弁143を設けることによって、油の加圧通路404''への逆流を抑えることができ、付勢アキュムレータ142の利用効率が飛躍的に高まる。そのため、本発明の増速作用が発揮されるための圧油の供給源として、付勢アキュムレータ142がより積極的にその役割を担うことが可能となる。したがって、加圧通路404´´は、圧力損失を考慮する必要がなくなり、通路面積を小さく設定することができる。また、逆止弁143によって付勢アキュムレータ142の利用効率が向上することによって、前述した加圧室402内の圧油の衝撃緩衝作用も効果的に行われるようになる。
【0063】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して説明したが、本発明に係る液圧式打撃装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しなければ、その他の種々の変形や各構成要素を変更することが許容されることは勿論である。
【0064】
例えば、ピストンは、中実に限定されず、ピストンの軸心部に貫通穴または止まり穴が形成されていてもよい。また、ピストンの前後の大径部は、同じ外径ではなく径差を設けてもよい。さらに、増速ピストンの小径部の外径を、ピストン中径部の外径と揃えなくてもよい。また、ピストンが増速ピストンと当接するタイミングは、ピストン後室が高圧に切り換わるタイミングに対して多少前後してもよい。
【0065】
また、上記実施形態に係る液圧式打撃装置は、ピストン前室を常時高圧とするとともに、ピストン後室を高低圧に切り替えてピストンを前進後退させる、いわゆる「後室高低圧切換え式」の液圧式打撃装置を例に説明したが、これに限定されない。
【0066】
つまり、本発明に係る液圧式打撃装置は、ピストン前室とピストン後室をそれぞれ交互に高圧と低圧とに切り替えてピストンを前進後退させる、いわゆる「前後室高低圧切換え式」の液圧式打撃装置にも適用可能であり、また、ピストン後室を常時高圧とするとともに、ピストン前室を高圧と低圧とに切り替えてピストンを前進後退させる、いわゆる「前室高低圧切換え式」の液圧式打撃装置にも適用可能である。
【0067】
なお、
図5に示した
第三実施形態の液圧式打撃装置については、ピストン後室を高圧と低圧とに切換える「後室高低圧切換え式」または上記「前後室高低圧切換え式」の液圧式打撃装置に適用した時のみ、その作用効果である後室との同期機能が発揮される。