(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、親水表面と撥水表面が交じり合った表面では、氷点付近からプラス雰囲気の湿り気の多い雪や、積雪後に日射により部分的に融雪した雪の場合、表面に発生した水が全面に水膜を形成せずに、親水部分のみを通路状に流水するため、滑雪性の機能は低いことがわかった。また、該発明を実現する為には、全体を撥水処理した後、凸部から撥水剤を拭き取り、更に選択的に該凸部を親水処理する等、複雑且つ高精度で工数の多い製造工程が必要となる為、製造コストの点から、市場に供給する製品としては現実的でない。
【0007】
また、特許文献2では、該発明の材料は光触媒性であり、光に当てることで親水性になるが、光が当たらない状況では親水性が発現しないため、夜間や光が当たり難い状況では、更に滑雪の機能は低い。
【0008】
このように、氷点付近からプラス雰囲気の湿り気の多い雪や、積雪後に日射により全体的/部分的に融けた雪に対する滑雪性が良好な材料はこれまで見出されていなかった。
【0009】
そこで本発明は、氷点付近からプラス雰囲気の湿り気の多い雪や、積雪後に日射により全体的/部分的に融雪した雪に対する滑雪性が良好な、フィルム又はシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが検討したところ、フィルム表面が粗い場合は雪に対してひっかかりが生じるため滑雪を阻害する場合があり、−2℃以上の気温や日射がある条件で水分を含む雪に対して滑雪性を高めるためには、フィルム/シートの表面粗さと親水性が一定のパラメーターであると非常に効果が高いことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0011】
本発明(1)は、
基材フィルム又はシートの着雪面となる表面の、X軸方向及びそれに
直交するY軸方向のそれぞれに対する算術平均粗さ(Ra)が0.50μm以下であり、粗さ曲面の最大山高さ(Rp)が4.0μm以下であり、最大高さ(Rz)が5.0μm以下であり、
前記表面の水接触300秒後の水接触角が40度以下であり、
(前記表面の水接触1秒後の水接触角)/(前記表面の水接触300秒後の水接触角)が1.2以上である
ことを特徴とする、滑雪用フィルム又はシートである。
本発明(2)は、
前記表面の光が当たらない条件での水接触300秒後の水接触角が40度以下である、前記発明(1)の滑雪用フィルム又はシートである。
本発明(3)は、
前記滑雪用フィルム又はシートの前記表面側に、無機系シリカを含む層を有する、前記発明(1)又は(2)の滑雪用フィルム又はシートである。
本発明(4)は、
前記滑雪用フィルム又はシートの前記表面側に、ベタイン構造を持つポリマーブラシを含む層を有する、前記発明(1)又は(2)の滑雪用フィルム又はシートである。
本発明(5)は、
帯電防止剤を含む、前記発明(1)〜(4)いずれかの滑雪用フィルム又はシートである。
本発明(6)は、
前記滑雪用フィルム又はシートの前記表面の反対側の面に、粘着層又は接着層を有する、前記発明(1)〜(5)いずれかの滑雪用フィルム又はシートである。
本発明(7)は、
急勾配箇所用である、前記発明(1)〜(6)いずれかの滑雪用フィルム又はシートである。
本発明(8)は、
振動箇所用である、前記発明(1)〜(7)いずれかの滑雪用フィルム又はシートである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、氷点付近からプラス雰囲気の湿り気の多い雪や、積雪後に日射により全体的/部分的に融雪した雪に対する滑雪性が良好な、フィルム又はシートを提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の難着雪・滑雪粘着フィルム又はシート(以下、単にフィルム又はシート、単にシート、若しくは、単にフィルム等と称する場合がある。)について具体的に説明するが、本発明は以下には何ら限定されない。
【0014】
<<フィルム又はシート>>
本形態に係るフィルム又はシートは、基材フィルム又はシートの少なくとも一方の表面の、任意のX軸方向(例えばMD方向)及びそれに
直交するY軸方向(例えばTD方向)のそれぞれに対する算術平均粗さ(Ra)が0.50μm以下であり、粗さ曲面の最大山高さ(Rp)が4.0μm以下であり、最大高さ(Rz)が5.0μmであり、同面の水接触300秒後の水接触角が40度以下であり、同面の水接触角経時変化(同面の水接触1秒後の水接触角/同面の水接触300秒後の水接触角)が1.2以上である。以下、本形態に係るフィルム又はシートの、具体的な構成、材質、物性、製造方法、用途について説明する。
【0015】
<構成>
本形態に係るフィルムは、基材フィルム(以下、基材層等と称する場合がある。)を有し、通常、その一方の表面(着雪面となる表面側)に、コーティング層を更に有する。また、該コーティング層が設けられた面とは反対側(即ち、着雪面の反対の表面側)に、粘着層又は接着層を有していてもよい。なお、本形態においては、基材層と、コーティング層と、粘着層又は接着層と、を有するフィルムについて具体的に説明するが、これには限定されず、粘着層又は接着層/基材層/接着層/基材層/コーティング層等のように、更なる層を設けてもよいし、本発明の効果を阻害しない範囲内で、粘着層又は接着層を保護する剥離ライナー層等、その他の層が設けられていてもよい。また、基材層を、所定の性質を有する親水性樹脂からなる層とした場合には、コーティング層を設けずともよい場合がある。
【0016】
(基材層)
基材層としては、通常使用されるフィルムを適用可能である。
【0017】
本形態に係るフィルムは、特定の平滑面を有するため、コーティング層のベース層となる基材層としても平滑性を有することが望ましい。例えば、基材層自体において、算術平均粗さ(Ra)が0.50μm以下であり、粗さ曲面の最大山高さ(Rp)が4.0μm以下であり、最大高さ(Rz)が5.0μm以下であることが好ましい。通常のコーティング層は薄膜とするため、基材層において大きな凹凸面を設けてしまうと、該凹凸面の影響を受け、フィルム自体に凹凸が生じてしまい、本発明の効果を奏することが困難となる場合もある。また、基材層を親水性樹脂からなる層とし、コーティング層を設けない場合には、基材として上記の範囲を満たすことが必須となる。
【0018】
基材層の幅及び長さによって、フィルム全体の幅及び長さが決定されるが、これらはフィルムの用途に応じて適宜決定すればよく、何ら限定されない。また、基材層の厚みに関しても何ら限定されず、基材層の材質やフィルムの用途によって適宜決定すればよいが、例えば、1μm〜5mm、好ましくは50μm〜2mm等とすればよい。
【0019】
(コーティング層)
本形態におけるコーティング層は、通常、親水性を有する層である。即ち、基材層の上に更に該コーティング層を設けることで、所望の親水性を有するフィルムとすることが可能となる。また、コーティング層を設ける場合、フィルム全体として、算術平均粗さ(Ra)が0.50μm以下であり、粗さ曲面の最大山高さ(Rp)が4.0μm以下であり、最大高さ(Rz)が5.0μm以下とする必要がある。
【0020】
コーティング層の厚みとしては、コーティング層の材質等により適宜決定すればよいが、例えば、1nm〜100μm等とすればよい。
【0021】
(粘着層又は接着層)
本形態に係るフィルムは、着雪面となる面とは反対側の面に、粘着剤(粘着剤層)又は接着剤(接着剤層)を有していたり、フィルムの施工時に粘着剤又は接着剤を塗布したり、ボルト締め、金具で押さえたり、紐で縛りつける等、種々の方法で被着体に接合させる機構を有していることが好ましい。よって、本形態に係るフィルムは、粘着剤又は接着剤を必ずしも有している必要はない。なお、粘着剤(粘着剤層)又は接着剤(接着剤層)の厚さ(平均厚さ)は、用途等に応じて適宜変更可能である。なお、粘着剤又は接着剤の基材への適用形態は、層状、ドット状、線状、格子状等、求められる接着力等に応じ適宜決定すればよい。
【0022】
<材質>
基材の材質としては、特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレンブテン‐1共重合体、エチレンオクテン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体等のポリオレフィン系材料、ポリビニルアルコール系材料、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート等のポリエステル系材料、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド系材料、構造内に亜鉛、ナトリウム等の金属イオンをもつ各種アイオノマー系材料、ポリスチレン、スチレンイソプレン共重合体、スチレンブタジエン共重合体等のスチレン系材料、ポリウレタン系材料、塩ビ系材料、テトラフルオロエチレン、テトラフルオロプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル等のフッ素系材料、アセテート、セロファン等のセルロース系材料、PVA、アルミ、銅、銀、金、スズ、ステンレス等の金属等、各種材料の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
フィルムへは各種添加剤を添加、もしくは塗布することができる。好ましくは、フェノールやアミン類等の酸化防止剤又はベンゾフェノン類等の紫外線吸収剤を添加したポリエチレンテレフタレートや、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、ポリフッ化ビニリデンが挙げられ、中でも耐候性と加工性の両立においてポリフッ化ビニリデンが特に好ましい。
【0024】
コーティング層は、親水性を有する材料を含むものであれば特に限定されないが、粒径が3〜100nmの無機系シリカを含む層、又は、ベタイン構造を持つポリマーブラシからなる層、のいずれかであることが好適である。これらのコーティング層を含み、且つ、前述の所定の粗さであるフィルムを滑雪用とすることで、本発明の効果をより高めることが可能となる。
【0025】
コーティング層を、無機シリカを含む層とする場合、無機シリカは、シリカ粒子径が3〜100nmであることが好適である。また無機シリカを別の層(通常は基材表面)に付着させる際、その付着方法は特に限定されないが、溶媒としてメタノールやイソプロパノール等のアルコールによって基材表面を一部溶解若しくは膨潤させて有機基材との密着性を高める方法、シリカと有機系界面活性剤から成る分散液により密着性を高める方法、水酸基等の極性基を含む有機又は無機系プライマーを基材へ塗布する方法等が挙げられる。
【0026】
コーティング層を、ベタイン構造を持つポリマーブラシからなる層とする場合、このようなポリマーブラシとしては、スルホキシベタイン、カルボキシベタイン、ホスホリルベタイン等を含むものが好適である。なお、基材密着部位として更にトリシラノール基やアルコキシシリル基等を含むことが更に好適である。なお、これらのポリマーブラシの重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、5,000〜1,000,000であり、トリシラノール基やアルコキシシリル基等を含む場合には10,000〜100,000とすることが好適である。またこのようなポリマーブラシを別の層(通常は基材表面)に付着させる際、その付着方法は特に限定されないが、例えば、基材を真空蒸着法、スパッタリング法、化学蒸着法等でシリカ蒸着させることで強固にコーティングと基材とを共付着させることができる。
【0027】
粘着層又は接着層を形成するための粘着剤又は接着剤は、貼付対象により適宜選択すればよい。例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系、シリコーン系粘着剤が挙げられる。
【0028】
なお、上述した各層は、本発明の効果を阻害しない範囲内で、適宜公知の添加剤を含有していてもよい。
【0029】
ここで、本形態に係るフィルムは、帯電防止剤を含有していてもよい。帯電防止剤としては特に限定されず、ポリオレフィンポリエーテルコポリマー、酸化スズを挙げることができる。この場合、帯電防止剤は、フィルムのいずれかの層(基材層やコーティング層)又は全体に含有していてもよい。具体的な例としては、フィルムの着雪面となる表面付近(例えば、コーティング層のみ)に帯電防止剤が存在する形態が挙げられる。なお、このような帯電防止剤の含有量は、特に限定されないが、フィルム全体に対して0.1〜35質量%、基材層に対して0.1〜35質量%、又は、コーティング層に対して0.01〜3質量%、等とすればよい。
【0030】
<物性>
本形態に係るフィルムの、着雪面となる表面の物性について以下に述べる。
【0031】
同面における算術平均粗さ(Ra)は、0.50μm以下であるが、0.45μm以下であることがより好適である。下限値は特に限定されないが、例えば、0.0001μmである。
【0032】
同面における粗さ曲面の最大山高さ(Rp)は、4.0μm以下であるが、3.5μm以下であることがより好適である。下限値は特に限定されないが、例えば、0.0001μmである。
【0033】
同面における最大高さ(Rz)は、5.0μm以下であるが、4.0μm以下であることがより好適である。下限値は特に限定されないが、例えば、0.0001μmである。
【0034】
なお、これらの表面粗さは、ISO 4287−1997(JIS B 0601−2001)に準拠し、微細形状測定機SURFCORDER ET 4000A(小坂研究所)を用いて、任意の1断面にて測定した数値である。
【0035】
また、同面における表面の水接触300秒後の水接触角は40度以下であるが、35度以下であることがより好適である。
【0036】
なお、本形態に係るフィルムは、光がない条件(夜間、積雪により表面への光が届かない条件)でも、同面における表面の水接触300秒後の水接触角が40度以下であることが好適である。このように、本形態に係るフィルムは、通常の光触媒材料や光触媒や光応答性材料等と異なり、光環境下でなくとも、所定の性質を有するよう構成することができる。
【0037】
更に、同面における、水接触角経時変化{(同面の水接触1秒後の水接触角)/(同面の水接
触300秒後の水接触角)}は1.2以上である。
【0038】
なお、これらの水接触角は、次に示す方法によって求められたものである。
【0039】
先ず、フィルムを3cm角サイズに裁断し試験片とし、同サイズのステンレス板に当該試験片を両面テープで貼付の後、23℃環境で2時間静置する。静置後、自動接触角計DM−501(協和界面科学製)を用い、水10μLにて液滴法、経時変化方式にて水接触1秒後と300秒後の水接触角を測定する。水接触角の経時変化率は、水接触1秒後の水接触角を、水接
触300秒後の水接触角で除すことにより求める。
【0040】
本形態に係るフィルムは、上記全ての性質を満たすことにより、以下のような作用機序に基づいて、湿雪に対して特に優れた滑雪性を有する。
【0041】
本形態に係るフィルムによれば、着雪後、親水表面は溶けた雪に含まれる水分がフィルム表面に薄く濡れ広がり、水膜を形成する。その水膜によって雪との界面の摩擦を低下させ、滑雪させることが可能となる。仮に水膜形成が不均一の場合、水膜が形成されていない箇所が滑雪のブレーキとなり得るため、雪から生じた水をいかにして効率よく表面に拡散させるかが重要となる。また、通常、親水性を向上させるためには、凹凸面を形成させ親水面の表面積を増大させることが考えられるが、本形態に係るフィルムに関しては、このような凹凸面が取っ掛かりとなり、滑雪の移動を抑制してしまうことが想定される。更に、水の拡散を考慮した際に、初期の接触角以上に水の接触角経時変化が重要となり、水の接触角経時変化が上記の範囲内であるため、より効率よく濡れ広がることができるといえる。
【0042】
なお、X軸方向及びY軸方向の双方が上記の粗さ規定を満たすため、施工方向を選ばないことから、一方向に延びる様な構造物はもとより、斜面同士が交わる様な複雑な形状の構造物への施工においても安定した滑雪性を発揮することができる。
【0043】
以上説明したように、本形態に係るフィルム又はシートは、滑雪方向(X軸)の粗さが小さいのみならず、Y軸の粗さも同様に小さくなっている。なお、従来の技術では、一方向の滑雪に着目するのみであり、滑雪性が発現する方向とは直角の方向(Y軸)の粗さについてまで着目されてこなかった。本形態に係るフィルム又はシートは、表面の水接触角を所定のものとし、且つ、X軸及びY軸の双方の粗さを所定の範囲とすることで、濡れ広がりを容易にし、滑雪性を非常に良好とすることができる。
【0044】
(塗装との差)
ここで、通常、塗装は塗り替え作業を伴い、塗装箇所の取り外しが困難な場合、その多くは現地塗装を必要とする。屋外で塗装をすると、塗料に含まれる有機溶剤が大気放出されてしまい安全・環境配慮がなされないこと、塗料が乾く前に砂埃や毛くず等で塗面が汚染され本来の機能が発現できない場合があること、塗装は作業に技術を要し、作業者による塗装の差が生じること、通常塗装は下塗り、中塗り、上塗り塗装等を必要とし、乾燥を含めた施工に時間を要すこと、構造物由来の凹凸形状に沿う様に塗装される為、砂壁状の外壁や粗い表面や目地の様な凹凸を拾ってしまい、滑雪阻害になる可能性がある。
一方、本形態の滑雪用フィルム又はシートであれば現地施工、貼り替え作業が容易なことから短時間で滑雪用フィルム又はシートを施工することができる。また、通常、滑雪用フィルム又はシートは工場にて製造される為に品質が安定していることから、施工者による差が出にくい。
【0045】
<製造方法>
フィルムの製造方法は特に限定されず、例えば(1)基材層となるフィルム又はシート材料に、コーティング剤を付着(塗布、吹付け、蒸着等)させる工程、その後、乾燥(特に溶剤を使用している場合)及び/又は硬化(例えば、UV硬化のようなエネルギー硬化)する工程、(2)親水性樹脂を少なくとも1種類以上用いて押出法、又は共押出法、等で得ることができる。なお、コーティング剤とは、上述したコーティング層を形成する成分を、必要に応じて適宜の媒体(例えばエタノール等)に分散又は溶解させた剤である。
【0046】
また、必要に応じて、塗布、吹付け、蒸着等により接着剤又は粘着剤を付着させ、接着剤層又は粘着剤層を形成する工程を設けてもよい。
【0047】
フィルム又はシート材料に、コーティング剤、粘着剤又は粘着剤を付着させるに際して、フィルム又はシート材料の表面処理(例えば、コロナ放電による表面処理等)を実施してもよい。
【0048】
<用途>
本形態に係るフィルムは、あらゆる物品及び構造物(例えば、家屋、道路、信号、街灯、標識、屋外広告、架線、鉄塔、鉄道車両、乗用車、飛行機、船舶、ビル、ダム、トンネル、橋梁、農材、ソーラーパネル、ビニールハウス等)の滑雪用として使用することができる。また、本形態に係るフィルムは、急勾配箇所用として好適に使用することができる。なお、急勾配箇所とは、物品又は構造物において、例えば静置状態で勾配14°以上となる箇所を示す。この14°の勾配は、一般的な家屋のスレート屋根(3寸:16.7°)や瓦屋根(4寸:21.8°)よりもゆるい勾配にあたるが、雪国では、雪を滑雪させることを目的とした場合は、更に急な勾配である30°以上の勾配の屋根(急勾配屋根)が用いられる。ただし、急勾配屋根のデメリットとしては、(1)屋根面の角度が高いので、突風や台風時に、その力を受けやすくなる、(2)屋根面積が広くなるので、施工価格が高くなる、(3)急勾配で作業ができる職人も限られてくるので、人件費が高騰する、等が挙げられる。本形態に係るフィルムは、勾配が低い部分(例えば、30°未満の勾配となる部分)に本形態のシートを配置した場合であっても、適切にシート上に積もった雪(特に湿雪)を滑雪することができるため、上記のようなデメリットを解消できる。更に、14°以上の勾配としても本形態のフィルムは湿雪に対する滑雪性に優れるため、トンネルのアーチ、家屋の屋根部材、橋梁用のアーチリブや斜材上に配置するのに好適に使用可能である。ここで、本形態に係るフィルムは、振動箇所用として好適に使用することができる。振動箇所とは、通常の使用形態において振動が生じ得る箇所であり、特には風や車両往来等の外的要因を起因とする振動が生じる箇所を示す。更に振動箇所として、急勾配箇所でない箇所(勾配が14°未満の箇所)にも好適に使用することができる。また、電線等に本形態に係るフィルムを設置する場合、風や車両往来等の外的要因を起因とする振動を受けるが、そのような微細な振動でも滑雪性を有するため好適に使用可能である。
【0049】
<特に好適な形態>
本形態に係るフィルムの最も好適な形態は、
厚み50μm〜2mmの平滑な基材を有し、該基材の少なくとも一方の表面(着雪面となる表面側)にコーティング層を有し、且つ、該コーティング層を有する面であり、着雪面となる表面側の、X軸方向及びそれに
直交するY軸方向のそれぞれに対する算術平均粗さ(Ra)が0.50μm以下であり、粗さ曲面の最大山高さ(Rp)が4.0μm以下であり、最大高さ(Rz)が5.0μm以下であり、
前記表面の水接触300秒後の水接触角が40度以下であり、
(前記表面の水接触1秒後の水接触角)/(前記表面の水接触300秒後の水接触角)が1.2以上である、滑雪用フィルム又はシートである。
一方、該コーティング層が設けられた面とは反対側(即ち、着雪面の反対の表面側)に、シリコーン系又はアクリル系の粘着層又は接着層を20〜500μm厚で有し、粘着剤には任意で剥離シートを有し、シート状又はロール状で提供するものである。
【実施例】
【0050】
次に、実施例及び比較例により、本発明のフィルム又はシートについてより詳細に説明するが、本発明はこれらには何ら限定されない。
【0051】
<<試験片の製造>>
<使用原材料>
・親水コーティング剤(1)
シリカ含有コーティング、中央自動車工業製エクセルピュアBD−P01
・親水コーティング剤(2)
シリカ含有コーティング、スケッチ製スーパーグラスバリア
・親水コーティング剤(3)
親水性ポリマーブラシ、大阪有機化学工業製LAMBIC780W
・親水コーティング剤(4)
ベタイン系ポリマー、大阪有機化学工業製RAMレジン−3000
・親水コーティング剤(5)
シリカ含有コーティング、トレードサービス製AD−TechCOAT K504PAK50
・親水コーティング剤(6)
フルオロエチレン・ビニルエーテル交互共重合体ポリマー、旭硝子製ルミフロンLF200
・親水化剤(1)
メチルシリケートオリゴマー、三菱ケミカル製MS56S
・親水塗料(1)
アクリル系塗料、関西ペイント製ラク雪塗料(ブラック)
・光触媒セルフクリーニングシート(1)
酸化チタン系シート、きもと製ラクリーンFT2
【0052】
<実施例1>
トーシン式スリッター機CPN−160Y型((株)東伸)と、コロナ放電処理装置P515(PILLAR TECHNOLOGIES INC.)を使用し、ライン速度8m/min.、0.9kWにてPETフィルム ルミラーS10(東レ株式会社 厚み100μm)を片面コロナ処理(易接着処理)した。このコロナ処理面にフィルムアプリケーターで親水コーティング剤(1)を塗工し3分静置の後、80℃×5分加熱乾燥させて溶媒を除去し、23℃、50%RHで1週間熟成させ、コーティング厚500nmの実施例1に係るサンプルを得た。
<実施例2>
コーティングに親水コーティング剤(2)を用いた以外は実施例1と同様にし、実施例2に係るサンプルを得た。なお、親水コーティング剤(2)は、帯電防止剤を含有する(親水コーティング剤の固形分全量に対して0.05質量%)。
<実施例3>
コーティングに親水コーティング剤(3)を用いた以外は実施例1と同様にし、実施例3に係るサンプルを得た。
<実施例4>
コーティングに親水コーティング剤(4)を用いた以外は実施例1と同様にし、実施例4に係るサンプルを得た。
<実施例5>
コーティングに親水コーティング剤(5)を用い、加熱乾燥を行わず23℃、50%RH雰囲気下で1週間熟成させたこと以外は実施例1と同様にし、実施例5に係るサンプルを得た。
<比較例1>
塗料に親水塗料(1)を用い、80℃×10分加熱乾燥させて溶媒を除去し、更に完全に残留溶媒を除去する為に40℃で1週間熟成させた以外は実施例1と同様にし、比較例1に係るサンプルを得た。
<比較例2>
光触媒セルフクリーニングシート(1)の表面保護フィルムを除去することで、比較例2に係るサンプルを得た。
<比較例3>
熱エンボスにより得られた凹凸形状を有するポリカーボネートフィルム(旭硝子製カーボグラスフィルムC110C、凹凸間隔60μm、凹凸高さ60μm、)を用いた以外は実施例3と同様にし、比較例3に係るサンプルを得た。
<比較例4>
コーティングに親水コーティング剤(6)と親水化剤(1)を固形分比(質量比)100:3の割合で混合し、更に架橋剤としてコロネートHXを添加して混合した液を用いたこと、40℃で1週間熟成後、更に23℃50%RHで1週間放置し、親水化剤を部分加水分解反応させたこと以外は実施例1と同様にし、比較例4に係るサンプルを得た。
【0053】
【表1】
【0054】
<<評価>>
<試験方法>
(滑雪試験)
試験片を幅10cm、長さ30cmのサイズに裁断した。同じサイズの試験用ステンレス板に当該試験片を両面テープで貼付の後、水平な台の上で温度+3℃環境下にて2時間冷却した。冷却後、同環境で2時間馴染ませた雪氷防災研究センター新庄雪氷環境実験所雪氷防災実験棟の人工降雪機で得た人工雪降雪A(降雪条件:−10℃、特徴:天然の降雪結晶に近い樹枝状に枝分かれした結晶構造)(密度:225±85kg/m
3)を、篩を使用して平均高さ3cmになるようにのせた。その後、ステンレス板の短辺が水平面に対して平行となり、且つ、ステンレス板の長辺と水平面とのなす角度が14°となるようにステンレス板を配置し、人工雪降雪Aが滑るまでの時間を計測した。なお、常に基準サンプルとして、一般的に滑雪性が優れるとされているPTFEフィルムを並べて同条件で試験実施した。
【0055】
<評価手法>
(滑雪試験)
サンプル設置時からサンプル上の積雪がサンプル面積の9/10以上滑雪するまでにかかった時間について、撮影画像で、基準サンプル(PTFEフィルム)と比較
判定基準:早い場合「○」、同等の場合「△」、遅い場合「×」
【0056】
<評価結果>
下記表2に結果を示す。
【0057】
【表2】
【解決手段】基材フィルム又はシートの着雪面となる表面の、X軸方向及びそれに直行するY軸方向のそれぞれに対する算術平均粗さ(Ra)が0.50μm以下であり、粗さ曲面の最大山高さ(Rp)が4.0μm以下であり、最大高さ(Rz)が5.0μm以下であり、表面の水接触300秒後の水接触角が40度以下であり、(表面の水接触1秒後の水接触角)/(表面の水接触角300秒後の水接触角)が1.2以上である、滑雪用フィルム又はシート。