特許第6463569号(P6463569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6463569
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】アイソレーターシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 21/02 20060101AFI20190128BHJP
【FI】
   B25J21/02
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-552093(P2018-552093)
(86)(22)【出願日】2018年1月5日
(86)【国際出願番号】JP2018000105
【審査請求日】2018年10月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004411
【氏名又は名称】日揮株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 威
【審査官】 松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭57−081338(JP,U)
【文献】 特開2015−226970(JP,A)
【文献】 特開2017−094473(JP,A)
【文献】 特開2017−039081(JP,A)
【文献】 特開2017−006882(JP,A)
【文献】 特開平09−168992(JP,A)
【文献】 特開2002−228242(JP,A)
【文献】 特開昭60−113079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 21/00 − 21/02
G21F 7/04
C12M 1/00
B01L 1/00
F24F 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部操作を実施するためのグローブを含む操作部を備え、外部から隔離された操作空間を構成するグローブボックスと、
前記グローブボックスに気体を取り込むための吸気口と、
前記グローブボックス内の気体の排気を行うための排気管に接続された排気口と、
前記排気口から排気管へ排気される気体の排気流量を、前記吸気口に設けられた差圧形成部により、当該操作空間とグローブボックスの外部との間に予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に調節する流量調節機構と、
前記グローブボックス内を、前記操作空間と、前記排気口が形成されたバッファー空間とに仕切ると共に、これら操作空間とバッファー空間とを連通させる連通口が形成された仕切り部材と、
前記吸気口を備え、前記バッファー空間に対してバッファー用気体を供給するバッファー側気体供給部と、を備え
前記バッファー側気体供給部は、前記操作空間を構成するグローブボックスからの前記操作部の脱落により破損開口が形成されたとき、前記バッファー用気体の供給を停止することにより、当該破損開口を通過する気体が予め設定された最低風速以上の風速で流れ込むようにする供給停止機構を備えることを特徴とするアイソレーターシステム。
【請求項10】
前記供給停止機構は、前記破損開口が形成された場合に、前記操作空間とグローブボックスの外部との差圧を測定するために設けられた差圧測定部により測定された前記差圧が、予め設定した大きさの負圧まで達したら、前記バッファー用気体の供給を停止することを特徴とする請求項1に記載のアイソレーターシステム。
【請求項11】
内部操作を実施するためのグローブを含む操作部を備え、外部から隔離された操作空間を構成するグローブボックスと、
前記グローブボックスに気体を取り込むための吸気口と、
前記グローブボックス内の気体の排気を行うための排気管に接続された排気口と、
前記排気口から排気管へ排気される気体の排気流量を、前記吸気口に設けられた差圧形成部により、当該操作空間とグローブボックスの外部との間に予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に調節する流量調節機構と、
前記グローブボックス内を、前記操作空間と、前記排気口が形成されたバッファー空間とに仕切ると共に、これら操作空間とバッファー空間とを連通させる連通口が形成された仕切り部材と、
前記吸気口を備え、前記バッファー空間に対してバッファー用気体を供給するバッファー側気体供給部と、
前記操作空間に操作空間用気体を供給する操作空間側気体供給部と、
前記連通口に設けられたフィルターと、を備え、
前記バッファー用気体は大気であり、前記操作空間用気体は不活性ガスであることと、
前記操作空間側気体供給部から供給される操作空間用気体の流量は、当該操作空間用気体が前記フィルターを通過する際に生じる圧力損失よりも、前記バッファー用気体が、前記バッファー側気体供給部の差圧形成部を通過する際に生じる圧力損失の方が大きくなる流量に設定されていることと、を特徴とするアイソレーターシステム。
【請求項13】
内部操作を実施するためのグローブを含む操作部を備え、外部から隔離された操作空間を構成するグローブボックスと、
前記グローブボックスに気体を取り込むための吸気口と、
前記グローブボックス内の気体の排気を行うための排気管に接続された排気口と、
前記排気口から排気管へ排気される気体の排気流量を、前記吸気口に設けられた差圧形成部により、当該操作空間とグローブボックスの外部との間に予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に調節する流量調節機構と、
各々、前記グローブボックスと接続自在な複数の反応容器が配置された操作室内に、これら反応容器の並び方向に沿って延伸されると共に、各反応容器の上方側に配置された走行路と、
前記走行路に支持された状態で、当該走行路に沿って移動自在に設けられた走行体と、
前記走行体から、前記グローブボックスを吊り下げ支持するための吊り下げ支持部と、を備え、
前記排気管は、前記排気口に接続され、前記グローブボックスの移動に伴って走行路に沿って移動する室内側排気管部と、複数の前記反応容器に対応して複数箇所に設けられ、前記グローブボックスを反応容器に接続した状態で、前記室内側排気管部の末端部を着脱自在に構成された接続ポート部が前記操作室の天井部に設けられると共に、当該接続ポート部から天井部の上面側に延伸された室外側排気管部と、を備えることを特徴とするアイソレーターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイソレーターシステムに設けられたグローブボックス内を排気する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人体や環境に影響を及ぼす物質を取り扱う際に、当該物質の外部への漏洩を防止するため、外部から隔離された操作空間内で物質の取り扱い(内部操作)を実施可能なグローブボックス(以下、「GB」とも記す)が知られている。
例えばGBの前面には、操作空間に向けて挿入されたグローブが接続され、このグローブに作業者が腕を挿入し、操作空間内での内部操作を行う。
【0003】
このとき、取り扱い物質の漏洩を防止するため、操作空間(GB内)は、外部の圧力よりも低い圧力(負圧)に保たれる。
GB内を負圧に保つ手法として、特許文献1、2にはGBの内外の差圧を検出した結果に基づいて、GB内の強制排気を行う強制排気手段(特許文献1)や排気系に設けられた排気弁(特許文献2)の制御を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−86183号公報
【特許文献2】特許第2537689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、GB内を負圧に保つ手法としては、当該GBの内外の差圧を検出した結果に基づいてGBからの排気を制御する手法が一般的である。
しかしながら、差圧の検出に基づく制御を実現するにあたっては、GB内外の差圧を高感度で検出し、応答性の良好な圧力調整弁を複数、設ける必要がある(特許文献1:圧力センサ41、42、第1の開閉弁13、第2の開閉弁22、特許文献2:差圧計16、負圧計18、給気弁22、排気弁26、バイパス弁32)。このため、GBの圧力制御機構が大掛かりとなり、装置コストが上昇する要因ともなる。
【0006】
また上述の制御手法においては、グローブの脱落などによりGBに大きな破損開口が形成されると、GB内外の圧力差が急速に小さくなるため、目標の差圧を確保しようとしてGBからの排気量を短時間で大幅に増加させる制御が行われる。
この結果、GBが配置されている操作室内が急激に減圧雰囲気となる圧力変動が発生してしまい、操作室が隣接するエリアに対する室間の差圧を適切に維持できなくなるおそれもある。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたものであり、簡素な構成で安定して操作空間内の圧力を負圧に保つことが可能なアイソレーターシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアイソレーターシステムは、内部操作を実施するためのグローブを含む操作部を備え、外部から隔離された操作空間を構成するグローブボックスと、
前記グローブボックスに気体を取り込むための吸気口と、
前記グローブボックス内の気体の排気を行うための排気管に接続された排気口と、
前記排気口から排気管へ排気される気体の排気流量を、前記吸気口に設けられた差圧形成部により、当該操作空間とグローブボックスの外部との間に予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に調節する流量調節機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記アイソレーターシステムは以下の特徴を備えていてもよい。
(a)前記排気流量は、グローブボックスからの前記操作部の脱落が発生した場合に、当該グローブボックスに形成される破損開口を通過する気体が、予め設定された最低風速以上の風速で流れ込むように設定されていること。または、前記排気流量は、前記予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に、グローブボックスの内容積が減少する場合の変動速度に相当する排気流量を加算した排気流量に設定されていること。
(b)前記差圧形成部は、フィルターであること。または、前記差圧形成部は、差圧調整弁であること。
(c)前記グローブボックスは外部からの気体の給気量が制限された操作室内に設けられ、前記吸気口は前記操作室内より気体を取り込み、前記排気管は、前記操作室の外部へ向けてグローブボックス内の気体の排気を行うこと。また、前記グローブボックスは操作室内に設けられ、前記排気管は、前記操作室の外部へ向けてグローブボックス内の気体の排気を行い、前記流量調節機構は、当該操作室の外部に設けられていること。
【0010】
(d)前記グローブボックス内を、前記操作空間と、前記排気口が形成されたバッファー空間とに仕切ると共に、これら操作空間とバッファー空間とを連通させる連通口が形成された仕切り部材と、
前記吸気口を備え、前記バッファー空間に対してバッファー用気体を供給するバッファー側気体供給部と、を備えたこと。
(e)(d)において、前記バッファー側気体供給部は、前記操作空間を構成するグローブボックスからの前記操作部の脱落により破損開口が形成されたとき、前記バッファー用気体の供給を停止することにより、当該破損開口を通過する気体が予め設定された最低風速以上の風速で流れ込むようにする供給停止機構を備えること。さらに、前記供給停止機構は、前記破損開口が形成された場合に、前記操作空間とグローブボックスの外部との差圧を測定するために設けられた差圧測定部により測定された前記差圧が、予め設定した大きさの負圧まで達したら、前記バッファー用気体の供給を停止すること。
(f)(d)において、前記操作空間に操作空間用気体を供給する操作空間側気体供給部と、前記連通口に儲けられたフィルターと、を備え、前記バッファー用気体は大気であり、前記操作空間用気体は不活性ガスであることと、前記操作空間側気体供給部から供給される操作空間用気体の流量は、当該操作空間用気体が前記フィルターを通過する際に生じる圧力損失よりも、前記バッファー用気体が、前記バッファー側気体供給部の差圧形成部を通過する際に生じる圧力損失の方が大きくなる流量に設定されていること。
【0011】
(g)各々、前記グローブボックスと接続自在な複数の反応容器が配置された操作室内に、これら反応容器の並び方向に沿って延伸されると共に、各反応容器の上方側に配置された走行路と、前記走行路に支持された状態で、当該走行路に沿って移動自在に設けられた走行体と、前記走行体から、前記グローブボックスを吊り下げ支持するための吊り下げ支持部と、を備えること。
(h)(g)において、前記排気管は、前記排気口に接続され、前記グローブボックスの移動に伴って走行路に沿って移動する室内側排気管部と、複数の前記反応容器に対応して複数箇所に設けられ、前記グローブボックスを反応容器に接続した状態で、前記室内側排気管部の末端部を着脱自在に構成された接続ポート部が前記操作室の天井部に設けられると共に、当該接続ポート部から天井部の上面側に延伸された室外側排気管部と、を備えること。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、グローブボックスの排気口からの気体の排気流量を、当該グローブボックスの吸気口に設けられた差圧形成部にて、予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に調節するので、簡素な構成により、グローブボックスの内部の圧力を負圧に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に係るアイソレーターシステムの構成図である。
図2】グローブ脱落時における前記GBの作用図である。
図3】吸気口側に差圧調整弁が設けられたGBの構成図である。
図4】操作室内に排気を行うアイソレーターシステムの構成図である。
図5】他の実施の形態に係るアイソレーターシステムの構成図である。
図6】グローブ脱落時における、他の実施の形態に係るGBの作用図である。
図7】複数の反応容器に対して着脱自在に構成されたGBの構成図である。
図8】反応容器への接続前のGBである。
図9】反応容器への接続後のGBである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態として、例えば中間生成物や最終生成物を生成するための反応を進行させる反応容器4に対し、原材料の投入を行うグローブボックス(GB)11を備えたアイソレーターシステムの構成例について、図1、2を参照しながら説明する。反応容器4が設けられている操作室3は、隣接エリアとの差圧を維持する目的などから、外部からの気体(例えば空気)の給気量が制限されている。
GB11は、例えば金属製の筐体の前面に、ガラス製のパネル部(不図示)を設けた構造となっていて、外部空間から隔離された操作空間10を形成する。
【0015】
作業者に対向して配置されるGB11の前面には、グローブ14が気密に取り付けられている。グローブ14は、操作空間10内で内部操作を実施するための操作部に相当する。
前記グローブ14に加えて、GB11に設けられる操作部の他の例として、例えば操作空間10の側面に、GB11における物の搬入出を行うための搬入出バッグが取り付けられるバッグインポートを備えていてもよい(搬入出バッグ、バッグインポートは不図示)。
【0016】
GB11の底面には、反応容器4側に設けられた受入管41と接続可能に構成され、原材料の投入が行われる投入管15が設けられている。投入管15は、GB11の底板を貫通するように設けられ、その下端部には受入管41と締結可能なフランジが設けられている。一方、投入管15の上端部は操作空間10内に挿入されている。
【0017】
例えばGB11の上面には、操作室3内の気体(例えば空気)を操作空間10に取り込むための吸気口12と、操作空間10内の気体(例えば空気)を排気するための排気口13とが設けられている。
吸気口12には、本実施の形態の差圧形成部を構成するフィルター121が設けられている。差圧形成部(フィルター121)は、GB11の内部(操作空間10)と外部(操作室3)との間に予め設定された差圧を生じさせる機能を有する。
【0018】
吸気口12に設けられるフィルター121には、上述の差圧形成部としての機能に加え、操作空間10内への粉じんや異物混入の防止などの目的に応じて、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルターなどのパーティクル・フィルターや、より目の粗いメッシュフィルターなどを選択することができる。
【0019】
また、排気口13には、操作空間10内の取り扱い物質(本例では中間生成物や最終生成物を生成するための原材料)の漏洩を防止するためのフィルター131が設けられると共に、排気口13の出口側には排気管21が接続されている。
例えば排気管21は、操作室3の天井部31を貫通して操作室3の外部へ延伸され、排気ファンなどからなる不図示の排気機構に接続されている。
【0020】
操作室3の上面側へ引き出された排気管21には、排気口13から排気管21へ排気される気体の排気流量を調節する流量調節機構22が介設されている。流量調節機構22は、開度を調節可能なダンパーなどにより構成され、排気管21に設けられた流量計221にて排気流量を測定した結果に基づいて、実際の排気流量が予め設定された目標の排気流量(目標流量)に近づくように、コントローラー222によって開度調節が行われる。
【0021】
上述の構成を備えたアイソレーターシステムにおいて、流量調節機構22によって調節される気体の排気流量については、例えば以下の3つの観点から目標流量が設定されている。
1つ目の観点としては、吸気口12に設けられた差圧形成部であるフィルター121にて、予め設定された差圧を生じさせる目標流量である。
【0022】
GB11(操作空間10)内へ取り込まれた後、排気口13を介して排気管21へ排気される気体の流れに沿った圧力の変化をみると、気体は、操作室3内にて圧力が最も高く、排気管21の下流端の排気機構(不図示)への流入部にて最も圧力が低くなる。
このとき、吸気口12に差圧形成部であるフィルター121を設けると、フィルター121にて差圧が生じ、操作室3内の圧力よりも、操作空間10内の圧力の方が低い負圧の状態を維持することができる。
【0023】
そこで、内部操作の実施中に維持すべき操作空間10内の圧力設定値などに基づき、GB11の外部(操作室3)の圧力と、操作空間10内の圧力との圧力差に対応する差圧を、フィルター121にて生じさせることが可能な排気流量が目標流量として設定される。
前記フィルター121にて生じさせる差圧の一例として、50〜200Paの範囲内の100Paの差圧(パーティクルの捕集などにより差圧が増大する前の初期値)が生じるように目標流量の設定を行う場合を例示することができる。なお、目標流量は、操作空間10の容積や吸気口12の開口面積などによって変化するので、一概に特定することは困難である。
【0024】
2つ目の観点は、GB11の損傷時における取り扱い物質の漏洩を防止することが可能な目標流量である。
例えば金属製の筐体からなるGB11の場合は、GB11の前面に取り付けられるグローブ14がその取り付け口から脱落したり、GB11の側面に設けられたバッグインポートから搬入出バッグが外れたりして、比較的大きな開口(破損開口110)が形成される可能性もある。
【0025】
破損開口110が形成されると、操作室3と操作空間10内との差圧が殆どなくなり、例えば微粒子状の取り扱い物質や、取り扱い物質から発生したガスが操作空間10内から操作室3へ流出する流れが形成されてしまうおそれも生じる。
そこで、このような破損開口110が形成された場合であっても、排気口13を介して破損開口110内の気体の排気を継続することにより、操作室3側から操作空間10内に向けて、所定の最低風速以上の速さで流れ込む気流が形成されるように目標流量を設定してもよい。
【0026】
破損開口110を介して流れ込む気体の最低風速としては、例えば0.4〜1.0m/sの範囲内の0.5m/sを例示することができる。この最低風速に破損開口110(グローブ14取り付け口やバッグインポート)の開口面積を乗じることにより、目標流量を特定することができる。
なお、グローブ14やバッグインポートの脱落のように、最も大きな破損開口110が発生するおそれのある事象を想定して排気流量を設定しておくことにより、より小さな破損開口110が発生する事象が発生した場合であっても、当該破損開口110に流れ込む気体の流速を所定の最低風速以上に保つことができる。
【0027】
3つ目の観点は、内部操作の実施に伴う操作空間10内圧力の上昇防止である。例えば、取り付け口を介して外部側に引き出していたグローブ14を操作空間10内に挿入する場合や、操作空間10内に設けたシリンダ状の昇降機構(不図示)を上昇させる場合など、GB11における内部操作には、操作空間10の内容積の変動を伴うものがある。
【0028】
このとき、操作空間10内の排気流量を超える速度で内容積の変動が発生すると、操作空間10内の圧力が上昇して、陽圧になってしまうおそれもある。
そこで操作空間10の内容積の変化を伴う内部操作を想定し、当該内容積の変化速度よりも大きな排気流量を目標流量として設定することにより、内部操作に起因する操作空間10内の圧力上昇を抑えることができる。
【0029】
以上に説明した3つの観点で求められる目標流量が互いに異なる場合には、最も大きな目標流量を採用して排気流量の調節を行うことにより、操作空間10内の負圧維持、破損開口110形成時の気体の流出防止、内容積の変化を伴う内部操作実施時における操作空間10内の負圧維持の各作用を奏することができる。
【0030】
なお、GB11において、これらの全ての観点を満足するように目標流量の設定を行うことは必須の要件ではない。GB11に要求される機能に応じて少なくとも第1の観点(操作空間10内を負圧に保つための差圧形成)を満足するように、目標流量の設定が行われていればよい。
【0031】
以上に説明した構成を備えるアイソレーターシステムの作用について説明する。
内部操作の実施にあたっては、流量調節機構22により、排気流量の調節を行いながら、原材料の投入などが行われる反応容器4の受入管41に投入管15を接続し、外部から隔離された操作空間10を形成する(図1)。このとき、受入管41を介して反応容器4との間の気体の出入りが発生する場合は、当該気体の出入りを踏まえて排気風量の調節を行ってもよい。操作空間10の形成に伴い、操作室3内の気体が吸気口12を介して操作空間10内に取り込まれると共に、フィルター121にて予め設定した差圧が生じることにより、操作空間10内は操作室3に対して負圧の状態に保たれる。
【0032】
しかる後、作業者がグローブ14やバッグインポートなどの操作部、その他、操作空間10内に設けられた機器などを用いて必要な内部操作を実行する。
このとき、当該内部操作が操作空間10の内容積の変動を伴うものであったとしても、排気口13からの気体の排気流量が、操作空間10内を負圧に保つ既述の排気流量に、当該内容積が減少する場合の変動速度に相当する排気流量を加算した排気流量に設定されていることにより、操作空間10内を負圧の状態に維持することができる。
ここで排気流量は、例えば流量調節機構22の二次側の圧力が一定に保たれているとき、操作室3と流量調節機構22の二次側との圧力差と各フィルター121、131や排気管21、流量調節機構22にて生じる圧力損失とがバランスする排気流量となっている。
【0033】
次いで、図2に示すように、グローブ14などの操作部の脱落が発生し、破損開口110が形成されたとする。この場合には、差圧が大きい吸気口12側よりも、破損開口110側から気体が流入し易くなり、操作空間10内の圧力が上昇し、フィルター121の圧力損失がほとんどなくなる。このため、何らの調節も行われない場合は、破損開口110形成前のフィルター121の圧力損失分が、フィルター131や排気管21、流量調節機構22側で生じるバランスとなるように排気流量は上昇する。
【0034】
しかしながら本例のアイソレーターシステムにおいては、流量調節機構22は、操作空間10内の圧力上昇に伴う排気流量の上昇を抑えて、当該排気流量を一定に保つ方向に流量調節を実行する。
この結果、破損開口110を介して流れ込む気体の流速を所定の最低風速(例えば0.5m/s)に維持し、操作空間10内で取り扱っている物質の流出を抑えることができる。
【0035】
そしてこのとき、本例のGB11においては、破損開口110の形成の前後で、排気口13からの排気流量は一定に保たれているので、操作室3内に大きな圧力変動は引き起こされない。
【0036】
本実施の形態に係るアイソレーターシステムによれば、以下の効果がある。GB11の排気口13からの気体の排気流量を、当該GB11の吸気口12に設けられた差圧形成部(フィルター121)にて、予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に調節するので、簡素な構成により、GB11の内部の圧力を負圧に維持することができる。
【0037】
ここで吸気口12に設けられる差圧形成部は、図1、2を用いて説明したフィルター121のみにより構成する場合に限定されない。例えば図3に示すように、フィルター121に加えて、ダンパーなどからなる差圧調整弁122を設けてもよい。また、フィルター121の設置を省略し、吸気口12に差圧調整弁122のみを設けた構成としてもよい(図示省略)。
【0038】
また、図1、2に示すように、操作室3の外部に引き出された排気管21に流量調節機構22を設けることにより、メンテナンス作業者が操作室3内に入らずに済むので、流量調節機構22のメンテナンスが容易となる。
但し、操作室3の外部に排気管21を延伸することは必須の要件ではない。例えば図4に示すように、操作室3内に設けた排気ファン23に排気管21を接続し、排気口13から排気された気体を操作室3に戻す構成を採用してもよい。
【0039】
次に、図5、6を参照しながら、第2の実施の形態に係るアイソレーターシステムについて説明する。以下に説明する各図において、図1〜4を用いて説明したGB11と共通の構成要素には、これらの図で使ったものと共通の符号を付してある。
【0040】
本例のGB11は、操作空間10内を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持するにあたり、不活性ガスの消費量を低減する場合などに適用することができる。
GB11は、仕切り部材18によってその内部が操作空間10とバッファー空間10aとに仕切られている一方、これら操作空間10とバッファー空間10aとの間は、連通口181を介して連通している。本例において、仕切り部材18には、フィルター182が設けられ、操作空間10内の取り扱い物質がバッファー空間10a側に進入しないようになっている。
【0041】
仕切り部材18には既述のグローブ14や投入管15が設けられている一方、吸気口12に替えて、当該操作空間10に操作空間用気体である不活性ガス(本例では窒素ガス)を供給する操作空間側気体供給部17が設けられている。
例えば操作空間側気体供給部17は、窒素貯留部や流量調節部を含む窒素ガス供給部171と、開閉弁172が介設された窒素ガス供給管173とを含み、窒素ガス供給管173の末端部が操作空間10内に挿入されている。
【0042】
そして本例のGB11においては、差圧形成部である例えばフィルター121が設けられた吸気口12は、バッファー空間10a側に設けられている。さらに、当該吸気口12には、開閉ダンパーなどからなる供給停止機構161が設けられ、吸気口12を介した気体の取り込みを停止することが可能となっている。
吸気口12、供給停止機構161は、バッファー空間10aにバッファー用気体(本例では空気)を供給するバッファー側気体供給部16に相当する。
【0043】
供給停止機構161は、差圧測定部163を用いて操作空間10の内外の差圧を測定した結果に基づき、コントローラー162により開閉動作が実施される。コントローラー162は、操作室3に対する操作空間10内の差圧が、予め設定した大きさの負圧まで達したら、供給停止機構161を閉止して、バッファー空間10aへの気体(バッファー用気体)の取り込みを停止するように供給停止機構161の動作制御を行う。
なお、コントローラー162は、必ずしも開度調整機能を備える必要はない。また、圧力を調整する手動ダンパーと、閉止だけを行う蓋を用いてバッファー用気体の取り込みを停止してもよい。これとは反対に、手動でダンパーの開度調整を行い、当該ダンパーの閉止動作だけは自動で行う構成を採用してもよい。
【0044】
ここで、排気口13らの排気流量は、図1、2を用いて説明した第1の実施の形態に係るGB11と同様に、例えば既述の3つの観点(操作空間10内の負圧形成、破損開口110形成時に操作空間10に流れ込む気体の流速確保、内容積変動を伴う内部操作実施時の操作空間10内の負圧維持)からの目標流量の設定が行われている。
【0045】
さらに本例のGB11において、操作空間側気体供給部17から供給される操作空間用気体(窒素ガス)の流量は、操作空間用気体が仕切り部材18に設けられたフィルター182を通過する際に生じる圧力損失よりも、吸気口12から取り込まれるバッファー用気体(空気)が、バッファー側気体供給部16に設けられたフィルター(差圧形成部)121を通過するに際に生じる圧力損失の方が大きくなる流量に設定されている。
【0046】
上述の流量設定により、吸気口12のフィルター121側で生じる差圧により、操作空間10、バッファー空間10a内の圧力を、操作室3に対して負圧に維持することができる。そして、不活性ガスである操作空間用気体の供給量を少量に抑えることにより、操作空間10内の圧力は、バッファー空間10a側の圧力に近づき、操作空間10内を不活性ガスで満たしつつ、当該操作空間10内を負圧に維持することができる。
【0047】
以下、第2の実施の形態に係るアイソレーターシステムの作用について説明する。
内部操作の実施にあたっては、流量調節機構22により、排気流量の調節を行いながら、反応容器4の受入管41に投入管15を接続し、外部から隔離された操作空間10を形成する(図5)。次いで、操作空間側気体供給部17より予め設定した流量の不活性ガスを導入し、操作空間10内を不活性ガス雰囲気とする。
【0048】
吸気口12側から取り込まれる気体(バッファー用気体)がフィルター121を通過する際に生じる差圧が、操作空間10内の不活性ガス(操作空間用気体)が連通口181のフィルター182を通過する際に生じる差圧よりも大きくなるように、各気体の流量が調節されているので、操作空間10内は操作室3に対して負圧の状態に保たれる。
【0049】
しかる後、作業者は必要な内部操作を実行する。このとき、当該内部操作が操作空間10の内容積の変動を伴うものであったとしても、排気口13からの気体の排気流量を、操作空間10内を負圧に保つ既述の排気流量(不活性ガスの供給流量に対応する排気流量分を含む)に、当該内容積が減少する場合の変動速度に相当する排気流量を加算した排気流量に設定しておくことで、操作空間10内を負圧の状態に維持することができる点は、第1の実施の形態と同様である。
【0050】
次に、図6に示すように、グローブ14などの操作部の脱落発生に伴い、破損開口110が形成された場合を考える。この場合には、差圧測定部163により、操作室3と操作空間10との間の差圧の低下が検出され、当該差圧が予め設定した大きさの負圧まで達したら、吸気口12側の供給停止機構161を閉止する動作が実行される。
【0051】
この結果、吸気口12側からのバッファー用気体の取り込みが停止され、GB11に流入する気体は、破損開口110を介した操作空間10内への気体の流入のみとなる。次いで、操作空間10、バッファー空間10a内の圧力が上昇するので、何らの調節も行われない場合は、破損開口110の形成に伴って失われたフィルター121の圧力損失をフィルター131や排気管21、流量調節機構22側で補うため排気流量は上昇する。
【0052】
しかしながら本例のアイソレーターシステムにおいては、流量調節機構22が、操作空間10内の圧力上昇に伴う排気流量の上昇を抑えて、当該排気流量を一定に保つ方向に流量調節を実行する。
この結果、破損開口110を介して流れ込む気体の流速が所定の最低風速(例えば0.5m/s)に維持され、操作空間10内で取り扱っている物質の流出を抑えることができる。
【0053】
そして本例のGB11においても、破損開口110の形成の前後で、排気口13からの排気流量が一定に保たれるので、操作室3内に大きな圧力変動は引き起こされない。
【0054】
既述のように、本例のGB11は、バッファー空間10aにバッファー用気体を導入して操作空間10内を負圧に維持することから、操作空間10とバッファー空間10aとの間の連通口181に設けるフィルター182はできるだけ圧力損失の小さいものを選ぶことが好ましい。この観点で、当該連通口181にフィルター182を設けることは必須ではなく、操作空間10側の取り扱い物質のバッファー空間10a側への進入を防止する必要がない場合には、連通口181のみを設けてもよい。
また、操作空間側気体供給部17を設けて操作空間用気体を供給することも必須ではなく、操作空間10内には気体の導入を行わない構成としてもよい。
【0055】
次いで、図7、8を参照しながら、複数の反応容器4間でGB11を移動自在に構成したアイソレーターシステムの例について説明する。
図7に示す例では、既述の受入管41を含む各反応容器4の上部側が操作室3内に挿入された状態で、複数の反応容器4が並べて配置されている。
【0056】
これら反応容器4の上方側に位置する操作室3の天井部31には、反応容器4の並び方向に沿って延伸されるように、例えば2本1組のレール状の走行路51が配置されている。図8に示すように、これらの走行路51には、例えば車輪と車軸とからなる走行体52が移動自在に配置され、この走行体52の車軸には、GB11を吊り下げ支持するための吊り下げ支持部53が取り付けられている。
上記構成により、GB11は走行路51に沿って操作室3内を自由に移動させることが可能となっている(図7)。
【0057】
また図8に示すように、GB11からの気体の排気を行う排気管21は、GB11側に取り付けられた室内側排気管部211と、天井部31の上面側に延伸された状態で固定配置された室外側排気管部212とに分割されている。
この結果、GB11側の室内側排気管部211は、吊り下げ支持部53に支持されたGB11と共に、操作室3内を移動することができる。
【0058】
一方、図7に示すように、操作室3の天井部側には、各反応容器4の配置位置に対応して、複数の室外側排気管部212が固定配置されている。そして、これら室外側排気管部212には、各々、既述の流量調節機構22や流量計221、コントローラー222が設けられている(図7においては流量調節機構22のみを図示)。
さらに、操作室3の天井部には、各室外側排気管部212に対して、室内側排気管部211の末端部を着脱することが可能な接続ポート部213が配置されている。
【0059】
以上に説明した構成により、内部操作を実施する対象の反応容器4に向けてGB11を移動させ(図8)、投入管15を反応容器4に接続すると共に、室内側排気管部211の末端部を室外側排気管部212に接続することにより(図7、9)、図1、2や図5、6などで説明したアイソレーターシステムを形成することができる。
【0060】
このとき、複数の反応容器4に対応させて、流量調節機構22を備えた複数の室外側排気管部212を操作室3側に固定配置しておくことにより、GB11と共に移動可能に構成した流量調節機構22の制御機構などを設置せずに済み、GB11の軽量化、省コストに寄与する。
また、室外側排気管部212の下流側に設けられる排気機構を共通化することなどにより、排気ファンなどの電動機を複数台設ける必要がなく、電動機の切り替えが不要となるメリットもある。
【符号の説明】
【0061】
10 操作空間
10a バッファー空間
11 グローブボックス(GB)
110 破損開口
12 吸気口
121 フィルター
122 差圧調整弁
13 排気口
14 グローブ
22 流量調節機構
3 操作室
4 反応容器
41 受入管

【要約】
【課題】簡素な構成で安定して操作空間内の圧力を負圧に保つことが可能なアイソレーターシステムを提供する。
【解決手段】アイソレーターシステムは、内部操作を実施するための操作空間を構成すると共に、グローブ14と、気体を取り込むための吸気口12と、排気を行うための排気管21に接続された排気口13が設けられたグローブボックス11を備え、流量調節機構22は、排気管21へ排気される気体の排気流量を、吸気口12に設けられた差圧形成部121により、操作空間10とグローブボックス11の外部との間に予め設定した差圧を生じさせることが可能な排気流量に調節する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9