(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463629
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】抗菌性固体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A01N 33/12 20060101AFI20190128BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20190128BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20190128BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
A01N33/12 101
A01N25/10
A01P3/00
C02F1/50 510A
C02F1/50 532B
C02F1/50 532C
C02F1/50 532D
C02F1/50 532H
C02F1/50 532J
C02F1/50 540C
C02F1/50 550C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-510466(P2014-510466)
(86)(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公表番号】特表2014-517834(P2014-517834A)
(43)【公表日】2014年7月24日
(86)【国際出願番号】US2012037320
(87)【国際公開番号】WO2012154953
(87)【国際公開日】20121115
【審査請求日】2015年4月17日
【審判番号】不服2016-16339(P2016-16339/J1)
【審判請求日】2016年11月1日
(31)【優先権主張番号】61/484,558
(32)【優先日】2011年5月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518013914
【氏名又は名称】ネクスト サイエンス アイピー ホールディングス ピーティワイ エルティーディ
(74)【代理人】
【識別番号】100101281
【弁理士】
【氏名又は名称】辻永 和徳
(72)【発明者】
【氏名】ミンティ マシュー エフ
【合議体】
【審判長】
瀬良 聡機
【審判官】
佐藤 健史
【審判官】
木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/035118(WO,A1)
【文献】
特開2002−12503(JP,A)
【文献】
特開平5−117699(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0086576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の架橋されたポリマーネットワークに同伴された1種以上のイオン性の界面活性剤を含む固体殺菌剤であって、該ポリマーネットワークは無定形でスポンジ状の固体であり、少なくとも幾分かの0.85μm未満の直径を有する孔と、より大きい孔を含み、それらが曲がりくねった経路によって接続されている、固体殺菌剤。
【請求項2】
前記ポリマーネットワークが1種以上の高分子電解質を含む、請求項1記載の固体殺菌剤。
【請求項3】
前記ポリマーネットワークが本質的には高分子電解質から成る、請求項1記載の固体殺菌剤。
【請求項4】
1種以上の高分子電解質が吸湿性である、請求項2または3記載の固体殺菌剤。
【請求項5】
前記ポリマーネットワークが1種以上の高分子両性電解質を含む、請求項1記載の固体殺菌剤。
【請求項6】
該固体殺菌剤が活性な殺生物剤を含まない、請求項1から5のいずれか1項記載の固体殺菌剤。
【請求項7】
前記のより大きい孔が、10μmまでの直径を有する穴を少なくとも幾分含む、請求項1から6のいずれか1項記載の固体殺菌剤。
【請求項8】
該固体殺菌剤がフィルターとしての使用のために適合されている、請求項1から7のいずれか1項記載の固体殺菌剤。
【請求項9】
1種以上のタイプのバクテリアを含む水性液体を処理する方法であって、該水性液体を、請求項8記載のフィルタの上または中を通過させ、処理された水性液体を提供することを含む方法。
【請求項10】
該処理された水性液体が、摂取された時に無毒である、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
バクテリアは実際にいたる所で見い出され、かなりの量の病気と感染の原因となる。これらの微生物類を殺し、および/または排除するのは疾病への暴露と危険を抑えるために望ましい。
【0002】
多くの環境においてバクテリアは高濃度で存在しており、自己保存機構を発現し、したがって除去および/または根絶することは非常に難しい。それらはプランクトン、胞子およびバイオフィルムの形態で存在できる。
【0003】
バイオフィルムでは、バクテリアは表面と相互作用して、表面に接着した表面コロニーを形成し、成長を続ける。バクテリアは、菌体外多糖類(EPS)、および/または、細胞外多糖類(ECPS)高分子を製造する。これらは表面に付着し続け、多くの形式の攻撃に対して有効な防護壁を形成する。保護はたぶんマトリクス内の流路の小さな直径の結果と考えられる。これは下層のバクテリアへ輸送できる分子のサイズを制限し、EPS/ECPS高分子マトリクスの一部との相互作用を介して殺生物剤の消費を制限する。
【0004】
バクテリアはしばしば胞子を形成する。胞子は根絶の努力へのさらなる抵抗を提供する。この形態では、バクテリアは自分たちの周りに堅く、非透過性のタンパク質/多糖類シェルを作成し、バクテリアに有害な物質の攻撃を防ぐ。
【0005】
さらに、バイオフィルムまたは胞子形態中のバクテリアは、下方制御(down-regulated)(固着性:sessile)されて活発に分裂しない。これによりそれらは彼らのライフサイクルの活性時期、例えば細胞分裂の間にバクテリアを攻撃する抗菌剤の大多数の攻撃に対して抵抗性となる。
【0006】
高分子マトリクス(バイオフィルム)、シェル(胞子)、またはそれらの下方制御により与えられる保護のため、バイオフィルムおよび胞子状態のバクテリアは処理するのが非常に難しい。この形態のバクテリアを処理するために有効な殺生物剤および殺菌薬のタイプは、強酸性、酸化性、毒性であり、しばしばハロゲン原子、酸素原子、または両方を含んでいる。一般的な例としては濃縮漂白剤、フェノール性薬剤、強無機酸(例えばHC1)、過酸化水素、および同様のものがあげられる。一般的に、そのような化学物質の多量投与は、バイオフィルムまたは胞子に長時間(いくつかの状況では最大24時間)接触することが許容されている。これは多くの用途で非実用的である。
【0007】
最近開発された配合物は、感染した動物/人体組織に関する使用において、バイオフィルムを溶媒和し、まだ生きているバクテリアをリンス又は他の方法で感染組織から除去することを意図している。これらの配合物における、活性成分の濃度はバクテリアを殺すためには低過ぎ、その結果、消毒剤としての使用には適合しない。より最近では巨大分子マトリクスを崩壊することができるか、またはこれらのマトリクスに固有の防御をバイパスおよび/または無効にし、溶液内の殺菌薬成分の致死量を接触させバイオフィルムおよび固着状態のバクテリアを殺すことができる溶液が述べられている。前述の配合物と異なって、これらの溶液は消毒剤として使用できる。
【0008】
ほとんどの水の濾過は、紙、繊維、合成繊維などの材料で作られたフィルタを使用して行われる。清浄でない、バクテリアの存在する水が、制御されたポアサイズ、典型的には0.20マイクロメートルから0.45マイクロメートルのオーダーのポアを有する膜に通される。バクテリアがそれらを通り抜け、浄水の容器の中に入るのを防止するためにはこれらの膜は有効であるが、それらはバクテリアを弱めもしないし、無能にもしないし、殺しもしない。この後者の特性のため、そのような膜は細菌増殖に影響されやすくなる。その結果、バイオフィルムと胞子形成菌による汚染の危険を増加させ、クロッギング(clogging)のため流速は低下した。
【0009】
銀入りのセラミック・フィルタは、多孔性のセラミック基体を通り抜けるとき、バクテリアを殺すために銀の抗菌性を使用する。高い効力を達成するために、流量を低く保たなければならない。さらに、これらのフィルタにはクロッギングの高い傾向がある。最終的に、銀イオンはバイオフィルムおよび胞子形態のバクテリアを衰弱および死滅させるのに顕著な効果を生じない。
【0010】
陽イオン性の化合物(例えば第4級アンモニア化合物)や、銀および銅化合物などの殺菌剤、およびペプチドを含むコーティングを有する装置および物品が提供されうる。
これらのコーティングは、抵抗性の形態のバクテリアに対して効力が制限されて、有効な抗菌効果の非常に狭い領域を有している。一般に、これらのタイプのコーティングは、消毒よりもむしろバクテリアの表面接着を防ぐように設計されている。
【0011】
特定の溶出装置と物品は、湿り気にさらされるとゆっくり抗菌化合物を放出するように設計される。これらの固体は、典型的には抗菌剤により浸漬されており、時間がたつにつれて表面に進み、放出される。これらの装置と物品から溶出する溶液の濃度、および抵抗性の形態の細菌に対して採用される抗菌剤の効力は低い。そのような装置と物品の有用性は、抗菌剤のより急速な減少のために、液体が装置を通り抜けることになる状況でさらに低減される。
【0012】
固体材料は、細菌増殖を防いで、望ましくは固体材料と接触するかまたは近接するバクテリアを殺すことができるので望ましい。望ましくは、そのような固体材料は、フィルター、溶出装置およびコーティングのような様々な形態で有用であるが、そのような形態に制限するものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
消毒目的に有効な液体組成物は米国特許公開第2010/0086576 A1に記載されている。それ(約4≦pH≦6)らの組成物は中程度に高い強度(すなわち多量の浸透圧活性物質)および比較的低いpHの両者を有し、これらは界面活性剤とともに作用してバクテリアでの膜の漏出を引き起こし、細胞の融解を導く。組成物は、少なくとも部分的に、バイオフィルムの高分子マトリクス内でのイオン性架橋を中断するか、または破壊するように作用し、溶質および界面活性剤のマトリックスの通過を容易にし、その中に含まれるバクテリアおよび/またはそれにより保護されるものへの到達を容易にする。グラム陽性菌およびグラム陰性菌の幅広いスペクトルに対して致死性であることに加え、これらの液体組成物は、ウイルス、菌類、かびおよび酵母などの他の細菌に対しても致死性を示す。
【0014】
しかしながら、いくつかの最終用途ではそれらの効力を液体組成に提供する比較的高い濃度を利用できない。限定するものではないが、たとえばこれらの成分の遊離(結合されていない)種の高い濃度が容認できない用途、非常に多量の液体が消毒される必要がある用途、そのような成分が消費される用途があげられる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の固体材料は、非液体形態で前述の液体組成物により示されたものと同様のセットの特性の高浸透圧と界面活性剤利用性を獲得するように設計され、意図される。
【0016】
プランクトン、胞子およびバイオフィルム状態におけるバクテリアを死滅するために適合されたこれらの固体材料は、架橋された水可溶性の高分子電解質と同伴される界面活性剤を含んでいる。構成要素のこの組み合わせは、水性環境で使用された際に、固体材料とその近接する領域内の局所的な化学的挙動を許容し、先に説明した液体の消毒組成物の高浸透圧と高い界面活性剤濃度を模倣する。少なくともいくつかの実施態様では、固体材料は殺生物剤を含まず。特に活性抗菌剤を含まない。
【0017】
ある特定の態様では、液体または流動可能な高分子電解質を界面活性剤の存在下で架橋することによって、固体材料は調製される。
【0018】
また、上記の組成物を使用する方法も提供される。液体が固体材料を通り抜けるか、または近接して存在する時、どんなバクテリアまたは他の微生物も先に議論した局所的な化学条件の高浸透圧、比較的低いpH、および利用可能な界面活性剤に暴露される。この組み合わせは、細胞の融解に通じるバクテリア内の膜の漏洩を引き起こす。これらの特性は、細菌性バイオフィルムと胞子の防護をバイパスして、無効にする点において非常に効果的であり、いくつかの状態のどれでも固体材料がバクテリアを死滅させることを許容する。
【0019】
固体材料は液体を消毒するのに使用されることができ、濾過またはインサートの形態またはコーティングであり、接触した全てのバクテリアを殺すことによりバクテリアによる汚染を防止することができる。これらの目的を達成しつつ、その化学成分を処理された環境にほとんど排出ないし移送しないことは驚くべき利点である。さらに、環境に入るどんな化学成分も、比較的良性である。
【0020】
様々な実施態様の以下の説明の理解を助けるために、以下に特定の定義を提供する。
前後のテキストが明らかに反対の意図を示さない限り、以下の定義が適用されるこことを意図する:
「細菌」は、すべてのタイプの微生物を意味し、たとえばバクテリア、ウイルス、菌類、ウイルス様体、プリオン、および同様のものを包含するが、これらに限定されない。
「抗菌剤」は1以上の細菌の数を90%(1 log)より多く低減する能力を有する物質を意味する。
「活性抗菌剤」は例えば細菌の細胞分裂のようなライフサイクルの活性の間のみ、またはその期間に主として有効な抗菌剤を意味する。
「バイオフィルム」は、細菌のコミュニティーを意味し、特にはバクテリアと菌類のコミュニティーを意味し、自己発生高分子マトリクス中にあるかまたはそれにより守られているコミュニティーメンバーにより表面に付着している。
「滞留時間」は、抗菌剤の細菌性バイオフィルムとの接触が許容されている時間を意味する。
「生物学的に適合している」は、哺乳類種の体表面または哺乳類種の体内における顕著な長期の有害な効果を示さないことを意味する。
「生物分解」は、酵素によるか、または化学的もしくは物理的な生体内のプロセスによる、より小さい化学種への変化を意味する。
「高分子電解質」は、水中で解離ができる電解質基を含む複数のモノマーからのポリマーを意味する。
「強高分子電解質」は電解質基が、3≦pH≦9で水中で完全に解離する高分子電解質をいう。
「弱高分子電解質」は、約2から約10までの解離定数を有する高分子電解質をいい、強高分子電解質の基が完全に解離される範囲内のpHで部分的に解離する。
「高分子両性電解質」は、いくらかのモノマーが陽イオン性電解質基を含み、他のモノマーが陰イオン性電解質基を含む高分子電解質である。
【0021】
本明細書において、pH値は、適切に較正された電極を使用する、任意の種々の電位差測定技法により得られる値をいう。
【0022】
具体的に言及する全ての特許および/または公開特許公報の関連部分は、本明細書中に参考として援用される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
殺菌薬固体材料は最小2つの構成要素、架橋されたポリマネットワーク、および少なくとも1つの同伴された界面活性剤を含むことができる:
ここで一般に、それぞれが生物学的に適合していると認められる。
組成物のある態様は、活性な殺生物剤を含まない。これらおよび他の実施態様では、ポリマーと界面活性剤の特性、および固体材料からそれらが放出される濃度は、通常の使用の間に毒性限界を超えないと認められるようにされる。
【0024】
固体材料は、高い効力でプランクトン様、およびバクテリアの細胞に致命的であり、容易に消費されないで、また顕著な量の表面積を微生物相互作用に提供して、処理される溶液の中で毒性を発生しない。固体材料はほとんどの条件(例えば、適度の温度と溶質濃度)下で特に水に可溶性でないが、高分子電解質鎖は少なくとも親水性であり、固体材料が水媒体に浸漬されない設定条件で使用される場合に望ましくは吸湿性であり、いくらか湿り気(特に水)があるときに、固体材料がいくぶん膨潤されることを可能としている。
【0025】
本発明の固体材料は、適切に機能するためにいくぶんかの量の水または湿度を必要とする。さまざまな方法でこれを決定または定義することができる。高分子電解質は局所化された液体電荷相互作用ができなければならない(少なくとも2個の水分子が電解質基に接触しているか、または非常に近くにあることを意味している)。あるいはまた、十分な水が電解質の電荷を活性化するために存在していなければならない、および/または細菌増殖を可能にすることができるくらい水が存在していなければならない。非限定的な例として、ガス状または液体の水が直接固体材料に適用されるか、または他の間接的な手段、例えば、息また環境大気に含まれた水蒸気または凝縮水から得られることができる。
【0026】
抗菌性材料は固体であるので、それ自体は真の意味でのpHを持たない。しかしながら使用に際して適切な抗菌力を確実にするために、固体材料が分散された任意の水性組成物の局所的なペーハーは、好ましくは約7より低い。低いpH値(例えば、約6.5以下、約6.0以下、約5.5以下、約5.0以下、約4.5以下、およびさらには約4.0以下)が固体材料の効力の増加と相関すると信じられている。しかしこの効果は直線的ではないと思われ、効力の増大はある特定のヒドロニウム・イオン濃度に漸近的であるかもしれない。理論によって拘束されることを願わないが、酸性陽子(すなわち、ヒドロニウム・イオン)はバイオフィルムの高分子マトリクス中のイオン性架橋を破壊することにかかわっているかもしれない。
【0027】
より強い酸性の局所的な環境に加えて、高い局所的なオスモル濃度条件も効力を増加させると信じられている。従って、高分子電解質のより大きい濃度、界面活性剤のより大きい濃度、より短い連鎖長(例えば、C
10以下、典型的にはC
8以下、一般的にはC
6以下)の界面活性剤、および極性基の周囲のより小さい側基を有する界面活性剤のそれぞれが、より望ましい。
【0028】
分散された際の局所的濃度が少なくとも中程度に効果的な溶質濃度(浸透圧)となるよう固体材料が提供される時、界面活性剤成分の致死性が増大および/または向上される。(生物学的用途では、約0.3Osmである0.9%(重量による)の食塩水は適度の浸透圧を持つと典型的に考えられている。一方約0.9Osmである3%(重量による)の食塩水は浸透圧が高いと一般に考えられている。)理論によって拘束されることを願わないが、より高い浸透圧は、より高いオスモル濃度を細菌細胞壁に加えることができる。それは界面活性剤による破壊への感受性を増加させる。一般に、局所的なオスモル濃度(浸透圧)はポリマーネットワーク中に存在している電解質の数とタイプに比例して増加する。局所的なオスモル濃度とは固体材料に含まれる液体を意味する。これは物品中で場所によって異なっているかもしれないが、高い局所的なオスモル濃度を全体にわたり提供できる固体材料が好ましい。
【0029】
固体材料のバルクを形成する高分子電解質は、望ましくは少なくともいくらか水可溶性であるが、架橋された後には本質的に水不溶性である。特性のこの組み合わせを有する高分子電解質の部分的な非制限的リストとしては、ポリナトリウムスチレンスルホン酸塩のような強高分子電解質、およびポリアクリル酸、ペクチン、カラゲナン、さまざまなアルギン酸塩、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルキトサン、およびカルボキシメチルセルロースのような弱高分子電解質があげられる。潜在的に有用な高分子両性電解質としては、アミノ酸およびベタインタイプの架橋されたネットワークがあげられる。例としては、ナトリウムアクリレートと、トリメチルメタアクリロイルオキシエチルアンモニウム ヨウ化物、2−ヒドロキシエチルメタ−アクリレート、または1−ビニル−3(3−スルホプロピル)イミダゾリウムベタインに基づくヒドロゲルがあげられる。水中で完全(またはほとんど完全に)に解離し、および/または効力のために望まれる比較的低い局所的なペーハーを提供する電解質基を有する高分子材料が好ましい。
【0030】
電解質を含む側基を有するモノマーを高密度で有する高分子電解質も好ましい。理論によって拘束されることを望まないが、高分子電解質の多くの酸性または極性の側基は、先に説明した液体組成物の高浸透圧溶液と同等に機能すると信じられている。
【0031】
架橋の機構としては化学的な高温自己架橋(すなわち脱水熱架橋)、および照射(例えば、電子ビームまたはガンマ線)による架橋があげられるが、これらに限定されない。
高分子電解質がいったん選択されると、当業者は、適切な架橋機構を認識して、選択することができる。
【0032】
別のオプションは、重合プロセス自体の間に架橋することである。たとえば隣接するスルホン酸基を縮合することによりスルホニル架橋を得ることができる。
【0033】
架橋方法にかかわらず、熱伝導型の型内に置かれた水溶液中のポリマー(または、重合可能なモノマー)を架橋し、急速凍結と引き続く凍結乾燥を行うことによって固体材料が形成される事ができる。一般に、得られたスポンジ状の材料はそれが形成された型の形状を有する。このプロセスの潜在的利点は、重合および/または架橋工程で使用される全ての危険または望ましくない前駆物質を取り除くための、容易な手段を提供するということである。このタイプのプロセスから得られる固体は、しばしばスポンジ状の外観を持ち、比較的大きい孔がまがりくねった経路によって接続されている。しばしば、約0.22μm未満、約0.45μm未満、約0.80μm未満、および約0.85μm未満の孔が望ましい(エンドトキシン、バクテリア、および胞子の直径に基づいている)。これらおよび他の用途については、少なくともいくぶんか大きい孔(例えば、1μm、2μm、5μm、10μm、50μmまたは100μm)を有する固体材料が使用できる。
【0034】
固体材料の架橋密度は重要な役割を果たして、特にはより高い架橋密度を有する固体材料は、おそらくポリマーのネットワーク中のより長い平均自由行程のため、より長い期間の間、より高い界面活性剤濃度を維持する傾向がある。
【0035】
固体材料は、固体材料の付近にあるかまたは接触しているバクテリアの細胞膜を遮るかまたは破壊するに十分な量の界面活性剤を含んでいる。この量はたとえば、バイオフィルムが処理される領域にすでに存在しているかどうか(およびそのバイオフィルムが強固であるかどうか、タンパク質のタイプおよび高分子マトリクスの質量に関連する要因)、バクテリアの種、1以上のタイプのバクテリアが存在しているかどうか、局所的環境内での界面活性剤の溶解性を始めとするさまざまな要素に基づいて、大きく変動する。一般に、界面活性剤成分は固体材料の、最低で0.03%、最高で約10%、15%または17.5%(すべて重量による)を構成する。
【0036】
本質的に、水中で界面活性特性を発揮する全ての物質が使用できる。ただし何らかのタイプのイオン性電荷を有するものが、より優れた抗微生物効果を有すると予想される。なぜなら、そのような電荷はバクテリアと接触した時により効果的な細胞膜破壊を引き起こし、最終的に細胞の漏出と融解に至ると考えられるからである。このタイプの殺微生物プロセスは、細胞分裂の過程を含まないか、または伴わないので、殺菌薬プロセスのこのタイプは固着しているバクテリアさえ殺す。陽イオン性の界面活性剤が最も好ましく、次いで両性、陰イオン性、非イオン性の順番である。
【0037】
潜在的に有用な陰イオン性の界面活性剤としては、ナトリウム セノデオキシコレート、N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩、リチウム硫酸ドデシル、1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩、ナトリウムコール酸水和物、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ナトリウムグリコデオキシコレート、ラウリル硫酸ナトリウム、および米国特許6,610,314に記載されるアルキルリン酸化合物があげられるが、これらに限定されない。潜在的に有用な陽イオン界面活性剤としては、ヘキサデシルピリジニウム塩化物一水和物およびヘキサデシルトリメチル−臭化アンモニウムがあげられ、後者が好ましい。ただしこれらに限定はされない。潜在的に有用な非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレングリコールドデシルエーテル、N−デカノイル−N−メチルグルカミン、ジギトニン、n−ドデシル B−D−マルトシド、オクチルB−D−グルコピラノシド、オクチルフェノール エトキシレート、ポリオキシエチレン(8)イソオクチル フェニル エーテル、ポリオキシエチレンソルビタン モノラウレート、およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートがあげられるが、これらに限定はされない。潜在的に有用な両性イオン界面活性剤としては、3−[(3−コールアミドプロピル) ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパン スルホネート、 3−[(3−コールアミドプロピル) ジメチルアンモニオ]−1−プロパン スルホネート、, 3−(デシルジメチルアンモニオ) プロパン スルホネート 分子内塩、および N−ドデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−l−プロパン スルホネートがあげられるが、これらに限定はされない。他の潜在的に役に立つ物質としては、興味のある者は例えば、米国特許4,107,328と、および6,953,772および米国特許公開2007/0264310を始めとするさまざまなソースを参照できる。
【0038】
架橋が起こる時(または、上で議論した同時の重合および縮合のタイプの場合では重合の時)に、望ましくは、界面活性剤はポリマーネットワーク中に存在している。そうでない場合には、架橋された重合体物品またはフィルムは界面活性剤が確実に同伴されるために後処理されなければならない。これを達成するための可能な方法は、1種以上の界面活性剤を含む水溶液中への物品またはフィルムの浸漬と、引き続く乾燥(熱または凍結)または真空による余分な水分の除去である。
【0039】
ある特定の実施態様では、界面活性剤が組成物における唯一の抗菌剤であることができ、特には組成物缶は活性抗菌剤を含まない。
【0040】
界面活性剤に加えて、1種以上のイオン化合物(塩)は、高浸透圧の局所領域を作り出す能力を高めるために固体材料に組み入れられることができる。
【0041】
どの程度達成にされるかにかかわらず、固体材料の周りの局所的な浸透圧は少なくとも適度に高いか、少なくとも約0.1Osmのオスモル濃度がほとんどの用途のために好ましい。約0.1Osmよりも大きな局所的なオスモル濃度を作り出す固体材料は、向上した殺菌作用を有するだろう。バクテリアに加えられる浸透圧の増加は抗微生物効果を高めるのである。
【0042】
さまざまな添加物と助剤が、固体材料の効力に悪影響を与えることなく、特定の最終用途用途における使用に適合するように加えることができる。たとえば、皮膚軟化剤、殺菌剤、芳香剤、顔料、染料、研磨剤、漂白剤、保存料(例えば、酸化防止剤)、および同様のものがあげられるがこれらに限定されない。特定の添加物の個性と性質に応じて、固体材料の生産の間のさまざまな時期にそれを加えることができる。
【0043】
固体材料は効力のために活性抗菌剤の包含を必要としないが、そのような材料はある特定の実施態様では含まれている。たとえば1以上の漂白剤、さまざまなフェノール類、アルデヒド類、四級アンモニウム化合物などが加えられることができる。
【0044】
前述のように、バイオフィルム中に存在しているバクテリアはEPS/ECPS高分子マトリクスにより提供されたいくつかの固有の保護を導く。理論によって拘束されることは願わないが、固体材料(並びに使用中における固体材料のすぐ周囲を囲む領域)の高い浸透圧と若干酸性な性質は、材料の中を通るかまたは近くを通る全てのバイオフィルムの高分子マトリクス中のイオン性架橋を妨げて、その結果、以前では保護されたバクテリアへの、より良いアクセスを可能にする。さらに、固体材料の内部および周囲に提供される高浸透圧は、幾分かがEPSで消費されるとはいえ、利用可能なイオンの量を増やす。これらのイオンは、供給された後に、界面活性剤成分によってバクテリア細胞膜が破壊され易くなるため、バイオフィルム内に残り、バクテリアを殺すことを助ける。
【0045】
したがって、ポリマーネットワーク中に同伴された1種以上の界面活性剤を含む固体材料は、それが高効率で無毒の殺菌薬であることを許容する特性と属性の組み合わせを有する:
1)固体材料に接触した水性液体の局所的(その中および/または非常に近傍の領域)pHとして7未満、望ましくは6未満を提供する能力;
2)ポリマーのネットワークは親水性であり、固体材料が少なくとも幾分かの時間非浸漬状態で使用されることが意図される場合には、おそらく吸湿性でさえある;
3)固体材料に接触した水性液体の局所的(その中および/または非常に近傍の領域)な浸透圧として少なくとも約0.1Osmのオスモル濃度を提供する能力;
4)固体材料に接触するか、または近くにあるバクテリアの細胞壁を破壊するに十分である1以上の界面活性剤の濃度;および
5)ポリマーネットワークの架橋密度は材料からの界面活性剤の損失の速度を大いに遅くするほど大きい。
【0046】
固体材料は活性な殺微生物効果を示し、抵抗性の形態にあるバクテリアに対してより大きな殺微生物効果を示し、急速には消費されず、処理される媒体中に毒性物質を発現しない。
【0047】
固体材料はさまざまな中間形状および最終形状を有することができ、たとえば蒸気および液体を透過性であるスポンジ状の固体であることができ、成型、押出または蒸着されたシート、押出されたファイバーまたは糸であることができるが、これらに限定されない。一旦特定の形状にされると、材料は希望の形状を提供するためにさらに加工されるかまたは操作されることができる。たとえばシート製品は、特定の幾何学形状の膜を提供するために巻かれたり折り重ねられることができる。したがって、材料が製造された形状で使用されるか、または熱成形、機械的な成形、ラミネーション、粒状化、粉砕などにより後加工することができ、これらも本願発明の範囲内と認められる。
【0048】
固体の殺微生物剤の非限定的な一つの潜在的使用例はフィルタであり、その中を通るか、その上を通るかまたはそのそばを通る蒸気または液体の流路に置かれるフィルタ(または、ろ過装置の一部)として使用される。そのような材料は、流路がその中を通るか、その上を通るかまたはそのそばを通るようにされるために、種々の方法で容器内に入れられ、シールされ、または接着される。
【0049】
フィルタは内部にトラップされた界面活性剤を有するスポンジ状の固体(例えば先に説明したような凍結乾燥プロセスにより形成できる)として提供することができる。水はスポンジ状の固体を通り抜けるかまたは通過させることができ、フィルタ装置として作用し、エレメントを通り過ぎる全てのバクテリアを殺菌することができる。
【0050】
そのようなフィルタは大きな流速を有することができる。なぜなら、それは活性な殺微生物特性を有し、バクテリアがフィルタを通過するのを防止するための非常に小さいポアサイズに依存する現在の殺菌フィルタよりも大きいポアサイズを有することができるからである。より大きい孔は、そのようなフィルタがクロッギングに影響されにくいことを意味し、その結果、使用可能なライフサイクルを長くする。したがって、得られる濾過装置は、プランクトンおよびバクテリアの細胞に対して高い殺菌作用を有し、高い液体流速量を可能とし、クロッギングに影響されにくく、摂取時に無毒の消毒された水を製造する。
【0051】
スポンジ状の無定形の形態以外のものとして、さらに構造化された形態、例えば、本発明の固体抗菌性材料から提供された糸を組み込んで製造された布帛(織布または不織布)もろ過用途に使用できる。
【0052】
水の濾過に加えて、本発明の固体材料の他の潜在的用途としては、エアフィルタ、臭気制御物品(例えば、ソックス等の衣服および靴インサートなど)、プール用水処理物品、消毒ワイプ、鉱山廃棄物プールバリア(バクテリア活性による酸性物質の漏出を防ぐ)、包帯、加湿器灯心要素(humidifier wicking elements)、おしめおよび女性の衛生用品および同様のものなどの個人用物品があげられるがこれらに限定されない。
【0053】
また、本発明の固体材料は保護された表面の細菌による汚染の防止のために、殺菌性表面被覆または外部表面層として使用できる。この様に、材料は、材料の表面と接触した全ての形態のバクテリアを殺すだろう。そのようなコーティングの潜在的な最終用途としては以下のものが挙げられるが、これらに限定されない;クーラー表面、冷蔵庫内部、ドリップパン(例えば、冷蔵庫、除湿装置など)、食物貯蔵容器、気管切開チューブ、一時的または永久的な移植用医療機器の外部表面、医療機器(例えば、流体ライン、付属品、ジョイント、容器、カバーなど)の接触表面、試薬ビン、電話およびリモコン(例えば、ボタン)の表面、1人以上の患者との接触が意図とされる医療機器(例えば、血液測定用カフ、聴診器、車椅子、車輪付き担架など)、衛生器具、パイプおよびトラップ、レクリエーショナルビークルの貯水槽およびタンク、シャワー壁およびその構成要素、水筒、飲料ディスペンサおよび移送ライン、赤ん坊の食事用具(例えば、ボトル、ニップルなど)、乳首、おしゃぶり、おもちゃ、遊び場および運動器具、アウトドア用具(例えば、テント、ボートカバー、寝袋など)、および同様のもの。
【0054】
上記の説明から明らかなように、固体材料は多くの異なった物理的な形状を取ることができ、さまざまな装置に使用できる。その構成要素はさまざまな材料から提供されることができ、ポリマーネットワークは種々の方法で架橋することができる。したがって、当業者は構成要素の機能が最も重要であり、具体的な種類や処理の方法が最も重要な事項ではないことを理解している。発展し続けている化学とポリマー科学の分野においては、同様の機能性を提供する、本出願時点で知られていなかった追加オプションを提供することが予期される。(非限定的な例として、ここに記載された界面活性剤は殺菌作用を提供するための主要な構成要素と説明される;しかしながら、「界面活性剤」の定義に完全にフィットしなくても、同じ機能機構を提供する荷電されたかまたは極性を有する側基を有するタイプの新たに開発された化合物は、固体材料で役に立つことが合理的に予想される。)
【0055】
本発明の様々な実施態様が提供されたが、これらは例として提示されたもので、何らかの制限を与えるものではない。以下の請求項とそれらの等価物は、本発明の方法と組成物の範囲を定義し、これらは上記の例示の実施態様により制限されない。