(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463644
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】生物繊維膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20190128BHJP
C08B 15/00 20060101ALI20190128BHJP
C12P 19/04 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
C12N1/20 Z
C08B15/00
C12P19/04 C
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-25334(P2015-25334)
(22)【出願日】2015年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-146778(P2016-146778A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2015年2月12日
【審判番号】不服2017-494(P2017-494/J1)
【審判請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】515134302
【氏名又は名称】嬌▲ぽん▼生技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】鄭成大
【合議体】
【審判長】
中島 庸子
【審判官】
小暮 道明
【審判官】
高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−187901(JP,A)
【文献】
特許第2641428(JP,B2)
【文献】
特開昭59−120159(JP,A)
【文献】
特開平11−117120(JP,A)
【文献】
特公平6−43443(JP,B2)
【文献】
嬌▲ぽん▼生技股▲分▼有限公司, 2013,URL,http://www.harvestbiotech.com.tw/product.html,[検索日:2016年1月8日]
【文献】
独立行政法人農畜産業振興機構,「酢酸菌によるセルロース合成と発酵ナノセルロース(NFBC)の大量生産」,2014年4月10日,URL,http://www.alic.go.jp/joho−s/joho07_000907.html,[検索日:2016年1月8日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量部割合で5:1:1〜4:1:1のマンニトール、ペプトン、酵母エキストラクトを有し、寒天を含有し、pH値が0.5〜6である培養液の中で、グルコンアセトバクター属の菌を24〜96時間培養することにより形成される生物繊維膜であって、
対向する第一の表層及び第二の表層と、
前記第一の表層と前記第二の表層の間に結合し、密度が前記第一の表層及び前記第二の表層の密度より小さい立体網状構造と、
を含み、
前記立体網状構造は、骨幹繊維及び層間繊維を有し、
前記骨幹繊維は、複数で存在して、互いに平行し、
前記層間繊維は、複数で存在して、隣接する任意の二つの前記骨幹繊維に織り合わされ、
前記骨幹繊維の直径は前記層間繊維の直径以上であり、
前記生物繊維膜の厚さは、24〜26μmであり、
前記生物繊維膜の生物繊維の直径は、20〜100nmであり、
前記生物繊維膜の単位面積ごとの含水量は、0.06〜0.14g/cm2であり、
前記生物繊維膜の単位面積ごとの生物繊維量は0.005〜0.008g/cm2である生物繊維膜。
【請求項2】
前記立体網状構造は、複数の生物繊維からなる請求項1に記載の生物繊維膜。
【請求項3】
前記骨幹繊維は、前記生物繊維膜の長さ方向または幅方向に伸びる請求項1に記載の生物繊維膜。
【請求項4】
活性成分または薬物をさらに含む請求項1に記載の生物繊維膜。
【請求項5】
前記活性成分は、保湿剤、美白成分、しわ防止成分、角質除去成分、成長因子または酵素である請求項4に記載の生物繊維膜。
【請求項6】
重量部割合で5:1:1〜4:1:1のマンニトール、ペプトン及び酵母エキストラクトを有し、寒天を含有し、pH値が0.5〜6である培養液を収容する容器を提供する工程と、
前記培養液で、グルコンアセトバクター属の菌を、24〜96時間培養する工程と、
を含む、
請求項1〜5のいずれかに記載の生物繊維膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生物繊維膜に関し、詳しくは、皮膚に貼付する生物繊維膜に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療分野において、創傷治療に用いるドレッシング材の多くはカット綿またはガーゼを使用するが、それらのドレッシング材製品の抗菌性が好ましくないため、傷口の感染確率が高く、傷口にくっ付くことが起こりやすく、且つ、ドレッシング材を交換する場合は、はずし難いという欠点を有する。
【0003】
その後、不織布ドレッシング材がガーゼ及びカット綿に取って代わったが、不織布型のドレッシング材は優れた吸液機能及び湿潤環境を提供して傷口の修復に寄与する特性を有するが、不織布が吸収する液体または水分を漸次失った後、傷口にくっ付くことが起こりやすくなる。
【0004】
一方、現代人は基本的な生活での必要性のほか、さらに美容やケアを重視し、特に顔面部のケアは美容産業の訴求ポイントであるため、多くのパック製品が開発されている。現有技術のパックの種類は様々で、例えば、クレイパック、ピールオフ型パック及びシートパック等が挙げられる。
【0005】
クレイパックにはケア成分またはミネラルを含有するが、パックを使用した後は洗い流す必要があり、ケア成分が完全に皮膚に吸収されるのは困難であり、且つ、多くのミネラルを含むため、より多くの防腐剤を添加して細菌が湿潤なクレイで繁殖することを防止する必要がある。ピールオフ型パックの主要成分は、ポリマーゲル、水及びアルコールであり、表皮温度を上昇させることにより、皮膚の血液循環を促すが、ピールオフ型パックはパックが乾燥してから剥がさなければならないため、剥がす過程は敏感肌に損傷を与える恐れがあり、また当該ピールオフ型パックは乾燥を求めるため、保湿成分が添加されていないので、乾燥肌には向かない。また、シートパックは主に効果を有するエッセンスを吸着した単層シートであり、成分を調整することで各種の肌質をケアすることができ、使用した後に洗い流す必要はないが、洗浄効果を有しない。上記シートパックでは、多くは単層の不織布で作ったものを使用している。使用者がエッセンスを吸着した不織布を使用する場合、通常、不織布の中の水分が速やかに揮発することを考量して、濃度が高いエッセンスを使用することから、浪費に繋がるのみならず、水分が揮発する問題も解決できない。
【0006】
そのため、新たなドレッシング材製品を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
上記公知技術の欠陥に鑑みて、本発明は、グルコンアセトバクター属の菌により形成される生物繊維膜であって、対向する第一の表層及び第二の表層と、第一の表層と第二の表層の間に結合し、密度が第一の表層及び第二の表層の密度より小さい立体網状構造と、を含む生物繊維膜を提供する。
【0008】
一つ具体的な実施例において、立体網状構造は複数の生物繊維からなる。
【0009】
また、立体網状構造は、互いに平行する複数の骨幹繊維、及び隣接する任意の二つの骨幹繊維に織り合わされる層間繊維を有する。骨幹繊維及び層間繊維はいずれも生物繊維であり、且つ、骨幹繊維の直径は層間繊維の直径以上である。
【0010】
さらに、一つ具体的な実施例において、前記生物繊維膜は、活性成分または薬物をさらに含む。活性成分は保湿剤、美白成分、しわ防止成分、角質除去成分、成長因子(growth factors)または酵素(enzymes)であってもよい。
【0011】
本発明は、さらに、重量部割合で5:1:1〜4:1:1の炭素源、ペプトン及び酵母エキストラクトを有する培養液を収容する容器を提供する工程と、培養液で、グルコンアセトバクター属の菌を、24〜96時間培養する工程と、を含む生物繊維膜の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の生物繊維膜は、グルコンアセトバクター属の菌により形成される生物繊維膜であって、生物繊維膜における第一の表層と第二の表層の間に立体網状構造を有することにより、ドレッシング材の保湿性を上昇させ、より多くの活性成分を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の生物繊維膜の構造を示す模式図である。
【
図2A】
図2Aは本発明の生物繊維膜の立体網状構造の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図3A】
図3A及び3Bは、それぞれ、本発明の生物繊維膜の500倍で拡大したSEM写真、及び従来生物繊維膜の500倍で拡大したSEM写真である。
【
図3B】
図3A及び3Bは、それぞれ、本発明の生物繊維膜の500倍で拡大したSEM写真、及び従来生物繊維膜の500倍で拡大したSEM写真である。
【
図4】本発明の生物繊維膜及び市販の従来生物繊維膜の浸透性試験結果であり、その中、
図4(a)は本発明の生物繊維膜の試験結果であり、
図4(b)は市販の従来生物繊維膜の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、特定の具体的な実施例で本発明の実施形態を説明し、当業者は本明細書が開示する内容から本発明の他の利点及び効果を容易に理解できる。
【0015】
本明細書が図面で示す構造、割合、大きさ等は、いずれも明細書が開示する内容に合わせて、当業者の理解に供するものであり、本発明の実施できる限定条件を限定するものではなく、技術上の実質的な意味を有さず、本発明が奏しうる効果及び達成できる目的に影響しない限り、任意の構造の修正、割合関係の改変、または大きさの調整は、いずれも本発明が開示する技術内容の範囲内である。同時に、本明細書が記載する「第一」、「第二」、「上」及び「一」等の用語は、単に記載の便宜上用いるものに過ぎず、本発明の実施できる範囲を限定するものではなく、その相対関係の改変または調整は、実質的に技術内容を変更しない限り、本発明の実施できる範疇内である。
【0016】
本明細書における技術用語である「平行」とは、複数の骨幹繊維が同じ方向、例えば、生物繊維膜の長さ方向または幅方向で伸びる形態である。
【0017】
本発明は、グルコンアセトバクター属の菌により形成される生物繊維膜であって、対向する第一の表層及び第二の表層と、第一の表層と第二の表層の間に結合し、密度が第一の表層及び第二の表層の密度より小さい立体網状構造と、を含む生物繊維膜を提供する。
【0018】
本発明の生物繊維膜は微生物の培養から得るものである。本発明は、グルコンアセトバクター属の菌により、マンニトール、ペプトン(peptone)、酵母エキストラクト(yeast extract)及び寒天を有する培養液の中で形成される生物繊維膜は、複数の立体三次元に絡め合って結合する生物繊維を有することを見出した。
【0019】
生物繊維膜を生産する具体的な実施例においては、菌種の発酵培養から始まり、まず、培養液を提供し、培養液を容器に置き、且つ、培養液の成分はゼラチン、アラビアゴム、寒天等の公知組成から選ばれるものを含み、培養液はさらに炭素源(例えばマンニトール、グルコースまたはその組合せ等)、他の成分(例えばペプトン及び酵母エキストラクト)を有し、且つ、炭素源、ペプトン及び酵母エキストラクトの重量部割合は5:1:1〜4:1:1の間であってもよい。次に、培養液を酸性、例えばpH値0.5〜6の間に調整し、且つ、開始微生物濃度範囲は10
2〜10
5菌数/mlに調整し、25〜28℃で24〜96時間静置培養し、又、扁平状の容器を使用できるため、前記立体網状構造は扁平膜状であり、その後、24時間〜72時間で取り出し、本発明の生物繊維膜が得られた。
【0020】
検出したところ、生物繊維膜の厚さは、少なくとも20μm、例えば20〜30μm、または、例えば20〜26μmまたは24〜26μmであり、本発明の生物繊維膜の生物繊維の直径は、約20〜100nmである。又、生物繊維膜の単位面積ごとの生物繊維量は0.005〜0.008g/cm
2である。
【0021】
図1が示すように、本発明の生物繊維膜1は、対向する第一の表層10a及び第二の表層10bと、第一の表層10aと第二の表層10bの間に結合する立体網状構造101を含む。
【0022】
なお、
図2Aに示すように、第二の表層10bから立体網状構造101が伸びており、布膜である繊維12の上で結合している。
【0023】
図に示すように、立体網状構造101は、第二の表層10bから布膜の繊維12まで伸びて、且つ、立体網状構造101は複数の生物繊維からなる。具体的には、立体網状構造101は互いに平行する複数の骨幹繊維101a及び隣接する任意の二つの骨幹繊維101aに織り合わされる層間繊維101bを有することで、水平方向及び垂直方向で隣接する任意の二つの骨幹繊維101aを連接し、三次元立体網状構造101を形成する。骨幹繊維101a及び層間繊維101bはいずれも生物繊維であり、且つ、図に示すように、骨幹繊維101aの直径は層間繊維101bの直径以上である。
【0024】
図2Bは生物繊維膜1の側面写真を示し、生物繊維膜1は、互いに平行するまたは生物繊維膜1の長さ方向もしくは幅方向に伸びる複数の骨幹繊維101aと、骨幹繊維101aに織り合わされる層間繊維101bとを有し、この実施例において、生物繊維膜1の厚さは20〜30μmである。また、図に示すように、立体網状構造の密度は生物繊維膜1の両表層の密度より小さく、活性成分または薬物は両表層の間に付着し、保湿効果を提供できる。
【0025】
また、生物繊維膜の製造では、基材を使用し、膜体を一時的にまたは恒久的に結合できるが、いずれにせよ、この製造方法は、上述した容器内で扁平状立体網状構造をひっくり返す工程を省略できる。例えば、
図2Aの実施例においては、布膜を基材として使用する。
【0026】
図3A及び
図3Bは、それぞれ、本発明の生物繊維膜の500倍で拡大したSEM写真、及び従来生物繊維膜の500倍で拡大したSEM写真を示す。
【0027】
図3Aに示すように、本発明の生物繊維膜の表面は平坦であり、図面で示す条状物は膜体下方の布膜基材の繊維であり、本発明の生物繊維膜の表面は非常に平坦である。しかし、
図3Bに示す従来生物繊維膜の表面は多くのしわを有する。そのため、生物繊維膜と皮膚の付着性がよくないため、感触に影響し、薬物または活性成分の吸収がよくないという問題を起こす。
【0028】
本発明の生物繊維膜の単位面積ごとの生物繊維量及び含水量試験
本発明の生物繊維膜を、5cmx5cmのサイズに切断し、全部で16片のサンプルを作った後、60℃で10分間ベーク乾燥し、ベーク乾燥したサンプルの乾燥重量を測る。サンプルの面積を各サンプルの乾燥重量で割って、求められた生物繊維膜の単位面積ごとの生物繊維量は0.005〜0.008g/cm
2である。
【0029】
さらに、それらのサンプルを水に5分間浸して、それらのサンプルの湿重量を測り、単位面積ごとの含水量を測る際は、下記式で算出する。
単位面積ごとの含水量=(湿重量−乾燥重量)/サンプル面積
【0030】
検出したところ、本発明の生物繊維膜の単位面積ごとの含水量は0.06〜0.14g/cm
2であった。
【0031】
それに対して、市販の従来生物繊維膜の単位面積ごとの生物繊維量は、通常、0.001g/cm
2にとどまり、含水量は0.04g/cm
2にとどまる。したがって、本発明の生物繊維膜はより多くの水分または活性成分を有し、更なる保湿効果を有する。
【0032】
本発明の生物繊維膜の浸透性試験
本発明の生物繊維膜及び市販の従来生物繊維膜を、それぞれ底材の上に設置し、次に、本発明の生物繊維膜及び市販の従来生物繊維膜に、等量の染色されたエッセンスを滴下し、10秒後、底材の浸透状況を目視で観察した。
【0033】
図4に示すように、
図4(a)は本発明の生物繊維膜の試験結果であり、
図4(b)は市販の従来生物繊維膜の試験結果である。その中、市販の従来生物繊維膜は、エッセンスを滴下した時、そのエッセンスの拡散効果は良くなく、10秒後にはエッセンスを底材まで自然に効果的に浸透させることができなかった。それに対して、本発明の生物繊維膜は優れたエッセンス拡散性及び顕著的な浸透性を有する。
【0034】
以上のように、本発明の生物繊維膜は皮膚に貼付し、特にパックとして使用できるため、生物繊維膜はさらに活性成分または薬物を含んでもよい。菌種の発酵培養終了前に、活性成分または薬物を立体網状構造上に投下し、生物繊維膜の製作が完成したら、活性成分または薬物は膜体内に含まれる。活性成分の実例には、保湿剤、美白成分、しわ防止成分、角質除去成分、成長因子(growth factors)または酵素(enzymes)が含まれる。薬物はマッサージ薬物であってもよく、クリーム状または液体であってもよく、例えばマッサージまたはストレス解消用精油等であってもよい。本発明の生物繊維膜が立体網状構造を有するため、活性成分または薬物は簡単に露出することはなく、本発明の生物繊維膜が体表または皮膚上に付着した後、人力マッサージまたは他の接触装置により生物繊維膜に加圧することで、活性成分または薬物の放出に寄与でき、さらに、加温することにより活性成分または薬物の放出に寄与できる。
【0035】
上記実施例は例示的に本発明の原理及びその効果を説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。当業者は本発明の主旨及び範疇に違反しない限り、上記実施例を改変できる。本発明の権利保護範囲は、特許請求の範囲の通りである。
【符号の説明】
【0036】
1 生物繊維膜
10a 第一の表層
10b 第二の表層
101 立体網状構造
101a 骨幹繊維
101b 層間繊維
12 繊維