特許第6463675号(P6463675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6463675上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6463675
(24)【登録日】2019年1月11日
(45)【発行日】2019年2月6日
(54)【発明の名称】上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20190128BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20190128BHJP
   C07K 14/71 20060101ALI20190128BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190128BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190128BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190128BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20190128BHJP
【FI】
   G01N33/53 NZNA
   G01N33/574 A
   C07K14/71
   A61P43/00 111
   A61P35/00
   A61K45/00
   A61K31/5377
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-522950(P2015-522950)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2014066100
(87)【国際公開番号】WO2014203918
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年5月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-128714(P2013-128714)
(32)【優先日】2013年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599045903
【氏名又は名称】学校法人 久留米大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】東 公一
(72)【発明者】
【氏名】星野 友昭
(72)【発明者】
【氏名】服部 聡
(72)【発明者】
【氏名】伊東 恭悟
(72)【発明者】
【氏名】笹田 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠和
(72)【発明者】
【氏名】松枝 智子
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−531525(JP,A)
【文献】 特開2007−322211(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0280493(US,A1)
【文献】 東 公一,非小細胞肺癌患者における抗上皮成長因子受容体(EGFR)由来ペプチド抗体の解析,科学研究費補助金研究成果報告書,2009年,[ 検索日 2014.09.04] , インターネット<URL http://kaken.nii.ac.jp/pdf/2009/seika/mext/37104/19790571seika.pdf>,URL,http://kaken.nii.ac.jp/pdf/2009/seika/mext/37104/19790571seika.pdf
【文献】 Kawahara A et al.,A diagnostic algorithm using EGFR mutation-specific antibodies for rapid response EGFR-TKI treatment in patients with non-small cell lung cancer,Lung Cancer,2012年10月,78(1),39-44
【文献】 MAEMONDO, M et al.,Gefitinib or chemotherapy for non-small-cell lung cancer with mutated EGFR,The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE,2010年 6月24日,362(25),2380-2388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法であって、以下の工程を含む方法:
(1)患者からEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療前に採取された血液試料における、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の量を測定する工程;および
(2)測定した抗体量を基準値と比較する工程、
ここで、該抗体量が基準値より高い場合、該患者はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療効果が高いと予測される。
【請求項2】
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬がゲフィチニブである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
患者が非小細胞肺癌患者である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体が結合したビーズまたはプレートを用いて抗体の量を測定する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくは誘導体または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズを含む、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測するための診断用組成物。
【請求項6】
配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくは誘導体、前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズ、または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したプレートを含む、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測するためのキット。
【請求項7】
上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬を含む癌治療用組成物であって、請求項1〜4のいずれかに記載の方法によりEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療効果が高いと予測された患者に投与される、組成物
【請求項8】
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬がゲフィチニブである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
患者が非小細胞肺癌患者である、請求項7または8に記載の成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法、当該方法に用いられるペプチド、診断用組成物、およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
癌の発生および病態進展において、上皮成長因子受容体(EGFR)などのチロシンキナーゼの活性化が重要な役割を果たすことが判明し、それらを標的とする分子標的治療薬の研究、開発が進んでいる。特に、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR−TKI)の登場により、切除不能で従来の化学療法に抵抗性の非小細胞肺癌患者の予後が飛躍的に改善している。しかしながら、その臨床効果は個体間で一定ではなく、最初から治療抵抗性を示す患者が少なからず存在する。
【0003】
非小細胞肺癌患者の国内での年間罹患者数は約9万人(悪性腫瘍の中で第3位)、年間死亡者数は約6万5千人(悪性腫瘍の中で第1位)であり、進行期の非小細胞肺癌患者の約40%はEGFR−TKI治療の対象となるEGFR突然変異を有している。現在、EGFR−TKIであるゲフィチニブの治療効果を予測するためのバイオマーカーとしては、主として、EGFR遺伝子変異の解析が一般的に実施されている(非特許文献1,2、参照により本願明細書の一部となす)。こうした遺伝子変異の解析は、癌患者より採取した組織または細胞診検体を用いて通常行われるが、進行癌患者においては検体が少量しか採取できず、解析が困難な状況もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mitsudomi T, et al. Gefitinib versus cisplatin plus docetaxel in patients with non-small-cell lung cancer harbouring mutations of the epidermal growth factor receptor (WJTOG3405): an open label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010;11:121-8.
【非特許文献2】Maemondo M, et al. Gefitinib or chemotherapy for non-small-cell lung cancer with mutated EGFR. N Engl J Med. 2010;362:2380-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ゲフィチニブ治療前の非小細胞肺癌患者42人の血漿を用いて、EGFRのアミノ酸配列に由来する20merからなる60種類のペプチドに対する抗体(IgG)価を測定した。測定した抗体価とゲフィチニブ治療後の患者予後との相関を調べたところ、3種類のペプチド(EGFR41−60,EGFR61−80,EGFR481−500)が無増悪生存率(PFS)と有意に相関した。さらに、3種類のペプチド(EGFR41−60,EGFR481−500,EGFR881−900)が全生存率(OS)と有意に相関した。多変量解析において、これらの抗体価は、他の臨床病理学的因子(年齢、喫煙歴、EGFR遺伝子変異)に関わらず独立した予後規定因子であることが判明した。以上の結果から、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法であって、以下の工程:
(1)患者からEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療前に採取された血液試料における、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の量を測定する工程;および
(2)測定した抗体量を基準値と比較する工程、
ここで、該抗体量が基準値より高い場合、該患者はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療効果が高いと予測される、
を含む方法を提供する。
【0008】
別の態様において、本発明は、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその誘導体を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体が結合したビーズまたはプレートを提供する。
【0010】
別の態様において、本発明は、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体、または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズを含む、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測するための診断用組成物を提供する。
【0011】
別の態様において、本発明は、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体、または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズ若しくはプレートを含む、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測するためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を期待できる患者の選別を可能とし、当該治療薬の奏効率の向上や、不必要な治療による重篤な副作用の防止に寄与する。本発明は、従来の遺伝子変異解析と併用することにより、治療効果予測の精度をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、ゲフィチニブ治療の開始後におけるPFSおよびOSについてのカプラン−マイヤー解析を示す。
図2図2は、EGFRタンパク質のアミノ酸配列を示す。波線は、EGFR突然変異と相関するペプチドであるegfr_481_500、egfr_721_740、egfr_741_760、egfr_841_860、およびegfr_1001_1020を表す。囲み線は、生存(PFSあるいはOS)と相関するペプチドであるegfr_41_60、egfr_61_80、egfr_481_500、egfr_881_900を表す。
図3図3は、選択したペプチドに対する抗体価の高値群および低値群における、PFSおよびOSについてのカプラン−マイヤープロットを示す。抗体価の高値群および低値群は、中央値により定義した。
図4図4は、ペプチドに対する抗体量と臨床病理学的特徴(実線)または臨床病理学的特徴のみ(破線)を用いた、PFSおよびOSについてのROC曲線を示す。AおよびBのペプチド:EGFR481−500、EGFR41−60、およびEGFR61−80;CおよびDのペプチド:EGFR481−500およびEGFR41−60。
図5図5は、PFS(A)およびOS(B)についてのラッソペナルティーを伴うコックス回帰のソリューションパスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、上皮成長因子受容体(EGFR)由来ペプチドとは、EGFRのアミノ酸配列(配列番号1)の一部からなるペプチドを意味する。本明細書中、「EGFRx−y」または「egfr_x_y」とは、配列番号1のアミノ酸位置xからyまでのアミノ酸配列からなるペプチドを意味する。例えば、「EGFR41−60」または「egfr_41_60」とは、配列番号1の41番目から60番目のアミノ酸配列からなるペプチドを意味する。本発明の方法は、EGFR41−60(LGTFEDHFLSLQRMFNNCEV:配列番号2)EGFR61−80(VLGNLEITYVQRNYDLSFLK:配列番号3)、EGFR481−500(FGTSGQKTKIISNRGENSCK:配列番号4)、およびEGFR881−900(MALESILHRIYTHQSDVWSY:配列番号5)から選択されるEGFR由来ペプチド(すなわち、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド)に対する抗体の量を測定することを含む。本発明の方法では、2種類以上のペプチドに対する抗体の量を測定してもよい。ある態様において、本発明の方法は、EGFR41−60(配列番号2)、EGFR61−80(配列番号3)、およびEGFR481−500(配列番号4)から選択されるEGFR由来ペプチドに対する抗体の量を測定することを含む。別の態様において、本発明の方法は、EGFR41−60(配列番号2)、EGFR481−500(配列番号4)、およびEGFR881−900(配列番号5)から選択されるEGFR由来ペプチド、好ましくはEGFR41−60(配列番号2)およびEGFR481−500(配列番号4)から選択されるEGFR由来ペプチドに対する抗体の量を測定することを含む。
【0015】
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(以下、EGFR−TKIとも称する)には、ゲフィチニブおよびエルロチニブが含まれる。好ましくは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬はゲフィチニブである。
【0016】
本発明の方法における患者には、非小細胞肺癌、脳神経膠芽腫、頭頸部扁平上皮癌、膵臓癌などEGFR−TKIにより治療効果の期待できる癌種の患者が含まれる。好ましくは、患者は、非小細胞肺癌患者である。
【0017】
患者の血液試料は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療を受ける患者から、当該治療前に採取される。EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療を受ける患者には、当該治療を受ける予定の患者および当該治療が選択肢として考えられる患者が含まれる。血液試料には、全血、血清および血漿が含まれる。好ましくは、血液試料は血清または血漿であり、より好ましくは血漿である。血液試料は、患者からの採取後、測定まで凍結保存してもよく、必要に応じて試薬等により処理してもよい。血液試料は、当業界にて知られる常套的方法によって調製することができる。
【0018】
抗体量は、当業界に知られるいずれの方法により測定してもよい。測定方法としては、ELISA法(Pedersen MK, et al., J Immunol Methods. 2006 Apr 20;311(1-2):198-206. Epub 2006 Mar 6.)、RIA法(Maruta T, et al., Immunol Invest. 2006;35(2):137-48.)、Luminex(登録商標)システムによる方法(Komatsu N, et al., Scand J Clin Lab Invest 64, 535-546, 2004)が挙げられる。測定する抗ペプチド抗体は、特に限定されないが、通常IgGである。
【0019】
Luminex(登録商標)システムによる方法は、微量(数マイクロリットル)の血液試料により高感度でハイスループットな解析が可能であるため、本発明に好適である。簡単に説明すると、EGFR由来ペプチドが結合したビーズに対して結合する、患者の血液試料中の抗体を蛍光等によって測定する。例えば、患者より採取した血液試料を必要に応じて希釈し、EGFR由来ペプチドが結合したビーズと共にインキュベートして、血液試料中の抗ペプチド抗体をビーズ上のEGFR由来ペプチドに結合させる。次いで、このビーズをビオチン化抗ヒトIgGと共にインキュベートして、ビーズに結合した抗ペプチド抗体に当該抗ヒトIgGを結合させる。さらに、ビーズをストレプトアビジン−PEとインキュベートして、ビーズに結合したPEの蛍光強度を測定することにより、抗ペプチド抗体の量を測定することができる。蛍光強度は、マルチプレックスビーズ懸濁アレイ(Luminex(登録商標)システム)により測定することができる。
【0020】
抗体量の測定には、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド、またはその誘導体を用いることができる。本明細書において、ペプチドの誘導体とは、1または数個、好ましくは1または2個のアミノ酸残基の欠失、置換、または付加によりそのアミノ酸配列が改変されているが、血液試料中に存在する抗ペプチド抗体に対する反応性を維持するペプチドを意味する。ペプチドおよびその誘導体は、抗体による認識を損なわない範囲で、そのアミノ基やカルボキシル基が修飾されていてもよい。
【0021】
配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドまたはその誘導体は、ビーズまたはプレートに結合していてもよい。ペプチドおよび誘導体は、直接ビーズまたはプレートに結合していても、リンカーなどを介して間接的に結合していてもよい。ビーズとしては、例えばポリスチレンビーズおよび磁気ビーズが挙げられる。ビーズの大きさは、特に限定はされないが、例えば、直径が5〜7μmである。ビーズは、Luminex(登録商標)システムに使用可能なLuminex(登録商標)ビーズであってもよい。プレートとしては、ポリスチレン製のプレートが例示される。ウェルの数は、例えば6、24、96、および384であり、好ましくは96である。プレートは、ELISA法またはRIA法に慣用されるプレートであってよい。ペプチドまたは誘導体のビーズまたはプレートへの結合は、当業者が適宜実施できる。1つのビーズまたはプレートの1つのウェルに結合しているペプチドまたは誘導体は、1種類であっても、複数種類であってもよい。
【0022】
測定した抗体量は、基準値と比較される。基準値は、例えば、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療開始後一定期間内に疾患の進行した患者群および/または進行しなかった患者群の当該治療前の抗体量に基づき予め決定した値である。あるいは、基準値は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療開始前の患者群における抗体量の中央値であってもよい。
【0023】
本発明において、測定した抗体量が基準値より高い場合、当該患者はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療効果が高いと予測される。また、抗体量が多ければ多いほど、治療効果がより高いと予測することができる。本明細書において、「EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療効果が高い」とは、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療により、当該治療を行わなかった場合と比較して、全生存期間または無増悪生存期間が延長されることを意味する。
【0024】
ある態様において、本発明の方法は、EGFR41−60(配列番号2)、EGFR61−80(配列番号3)、およびEGFR481−500(配列番号4)から選択されるEGFR由来ペプチドに対する抗体の量を測定することを含み、測定した抗体量が基準値より高い場合、当該患者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療により、当該治療を行わなかった場合と比較して、無増悪生存期間が延長されると予測される。
【0025】
別の態様において、本発明の方法は、EGFR41−60(配列番号2)、EGFR481−500(配列番号4)、およびEGFR881−900(配列番号5)から選択されるEGFR由来ペプチド、好ましくはEGFR41−60(配列番号2)およびEGFR481−500(配列番号4)から選択されるEGFR由来ペプチドに対する抗体の量を測定することを含み、測定した抗体量が基準値より高い場合、当該患者は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療により、当該治療を行わなかった場合と比較して、全生存期間が延長されると予測される。
【0026】
本発明の診断用組成物は、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズを含む。本発明の診断用組成物は、本明細書に記載の、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法に従って使用される。本発明の診断用組成物はさらに、適当な担体および緩衝剤、等張化剤などの添加剤を含んでいてもよく、凍結乾燥状態で提供され用時調製されるものであってもよい。本発明の診断用組成物は、本発明の方法に沿った使用説明書ともに提供されてもよい。
【0027】
本発明のキットは、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体、または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズ若しくはプレートを含む。本発明のキットは、本明細書に記載の、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測する方法に従って使用される。キットは、例えば、ELISA法、RIA法、またはLuminex(登録商標)システムによる方法を実施するためのキットである。キットはさらに、ブロッキング液、洗浄液、希釈液、検出用抗体、対照試料、プレート、および本発明の方法に沿った使用説明書などを含んでも良い。
【0028】
本発明に用いられるペプチドおよび誘導体は、抗体による認識を損なわない範囲で、そのアミノ基やカルボキシル基が修飾されていてもよい。本発明に用いるペプチドおよびその誘導体は、通常のペプチド合成方法により製造することができる(Peptide Synthesis, Interscience, New York,1966; The Proteins, Vol2, Academic Press Inc.,New York, 1976;ペプチド合成、丸善(株)、1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)、1985;医薬品の開発続 第十四巻・ペプチド合成、広川書店、1991)。
【0029】
別の態様において、本発明は、上皮成長因子受容体(EGFR)チロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測するためのデータを収集する方法であって、以下の工程:
(1)患者からEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療前に採取された血液試料における、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の量を測定する工程;および
(2)測定した抗体量を基準値と比較する工程、
ここで、該抗体量が基準値より高い場合、該患者はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療効果が高いと予測される、
を含む方法を提供する。
【0030】
別の態様において、本発明は、癌を治療する方法であって、以下の工程:
(1)患者からEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療前に採取された血液試料における、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体の量を測定する工程;
(2)測定した抗体量を基準値と比較する工程;および
(3)該抗体量が基準値より高かった患者をEGFRチロシンキナーゼ阻害薬により治療する工程、
を含む方法を提供する。
【0031】
別の態様において、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測するための診断用組成物の製造のための、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズの使用を提供する。
【0032】
別の態様において、本発明は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果を予測するためのキットの製造のための、配列番号2〜5から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその誘導体、または前記ペプチド若しくは誘導体が結合したビーズ若しくはプレートの使用を提供する。
【0033】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、如何なる意味においても本発明は以下の実施例により限定されない。
【実施例】
【0034】
1.材料および方法
(1)患者、治療、および試料の回収
本研究では、ゲフィチニブによる治療を受けた42例の非小細胞肺癌(NSCLC)患者を、2006年1月〜2008年12月、単一の施設(日本、久留米市、久留米大学附属病院)においてスクリーニングした。年齢、性別、組織像、喫煙の状態、全身状態(PS)、病期、および治療法を含めた患者の臨床病理学的特徴の詳細は、臨床経過について知らされていない独立の審査者によるカルテ審査から得た(表1)。進行したNSCLCのため、いずれの患者も、毎日1回、経口によりゲフィチニブ(250mg)を投与された。記録した患者の特徴には、性別、年齢、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)による全身状態(PS)、腫瘍組織像、喫煙歴、先行の化学療法、およびEGFR突然変異の種類が含まれた。腫瘍縮小効果(tumor response)は、コンピュータ断層撮影(CT)を介して調べ、RECIST(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)に従い評価した。縮小効果は、最初の記録から少なくとも4週間(完全奏功または部分奏功の場合)または6週間(疾患安定の場合)後に確認した。PFS(無増悪生存期間)は、EGFR−TKI治療の開始日から疾患進行日または最終診療日までを計算した。本研究はまた、ヘルシンキ宣言の条項も遵守する。本研究は、久留米大学の治験審査委員会による承認を受けた。
【0035】
血清または血漿は、ゲフィチニブ治療を受けたNSCLC患者から、ゲフィチニブ治療前に回収した。説明同意文書は、全ての対象から得た。血清または血漿を得たら、使用まで−80度で凍結した。
【0036】
(2)EGFR突然変異解析
EGFR遺伝子の突然変異は、エクソン19(E746−A750del)および21(L858R)において、既報のとおりペプチド核酸−ロックト核酸(PNA−LNA)PCRクランプ(22)により調べた。略述すると、ゲノムDNAを、QIAamp DNA Microキット(QIAGEN)を用いてパラフィン包埋した組織から精製した。使用したPCRプライマーは、Invitrogen Inc.に委託して合成させた。PNAクランプのプライマーおよびLNAの突然変異体プローブは、それぞれ、FASMEC(日本、神奈川県)およびIDT(Coralville、IA)から購入した。PNA−LNA PCRクランプは、SDS−7500 System(Applied BioSystems)を用いて行った。
【0037】
(3)EGFR由来ペプチドおよびEGFR由来ペプチドに対して反応性のある抗体量の測定
図2に示すように、EGFRタンパク質の配列から設計した60種類の異なる20merのペプチドを合成し、Sigma Aldrichから購入した。ペプチドは、既報のとおり(23)、DMSOにより溶解した。EGFR由来ペプチドに特異的な抗体量は、既報のとおり(24)、Luminex(登録商標)システムを用いるマルチプレックスビーズ懸濁アレイを介して測定した。略述すると、100μlの希釈した血漿を、EGFR由来ペプチドが結合したxMAPビーズ(Luminex Corp.、Austin、TX)と共に、プレートシェーカー上の96ウェルフィルタープレート(MABVN1250;Millipore Corp.、Bedford、MA)内で、室温で2時間インキュベートした。2時間後、プレートをT−PBSにより洗浄し、100μlのビオチン化ヤギ抗ヒトIgG(BA−3080;Vector Laboratories、Burlingame、CA)と共に、プレートシェーカー上で、室温において1時間インキュベートした。洗浄の後、100μlのストレプトアビジン−PEをウェルへと添加し、プレートを、プレートシェーカー上で、室温で30分間インキュベートした。結合したビーズを3回洗浄した後、100μlのPBSを各ウェルに添加した。各試料50μlずつを用いて、Luminex(登録商標)システムでビーズ上の蛍光を検出した。抗体量は、蛍光強度により表し、値は、既報のとおり(24)、蛍光強度単位(FIU)により示した。試料希釈アッセイから得たFIUの線形曲線が5〜10,000FIUであった(データ非提示)ため、カットオフレベルは10FIUに設定した。60種類の異なるペプチドの各々に対して反応性のある抗体の量を測定した。
【0038】
(4)統計学的解析
60種類の異なるペプチドの各々に対して反応性のある抗体量が突然変異状態と相関するかについて調べた。この目的のため、ウィルコクソン順位和検定を用いて、60種類のペプチドの各々に対して反応性のある抗体量の中央値を、EGFRの突然変異体(delE746−A750およびL858R)と野生型とで比較した。PFS(無増悪生存期間)は、ゲフィチニブ治療の開始日から疾患進行日までの期間として定義した。OS(全生存期間)は、ゲフィチニブ治療の開始日から、死因に関わらず死亡日までの期間として定義した。PFSまたはOSを決定できなかった患者は、最終診療日を観察打ち切りとして取り扱った。次に、60種類の異なるペプチドの各々に対して反応性のある抗体量がPFSまたはOSと相関するかについて調べた。説明変数としての各ペプチドに対して反応性のある抗体量、突然変異状態、喫煙の状態、性別、および全身状態と共に、コックスの比例ハザードモデルを適用した。また、60種類の異なるペプチドの各々に対して反応性のある抗体量が腫瘍縮小効果と関連するかどうかを、ロジスティック回帰を適用することにより調べ、CR(完全奏功)およびPR(部分奏功)を奏功するとみなした。60種類のペプチドを用いたため、困難な多重度の問題が生じた。本発明者らは、偽発見率(FDR)を5%のレベルに制御する、PFS(OSまたは腫瘍縮小効果)と有意に相関するペプチドを同定した。
【0039】
解析結果の説明として、臨床病理学的特徴のみを用いるよりも正確な患者の予後予測に有用なペプチドの同定を試みた。患者数より多いペプチドを用いたため標準的な多変量コックス回帰(多重回帰)を適用することができなかったが、これは本研究における極めて困難な問題であった。影響が大きい観察を回避するため、本発明者らは、各ペプチドに対して反応性のある抗体量をlog(ペプチドに対する抗体量+1)により変換し、ゼロ平均および単位標準偏差へと標準化した。本発明者らは、ラッソ型のペナルティーによるコックス回帰(25、26)を適用した。ラッソ法は有用であり、高次元データを解析するのによく用いられるようになりつつある。ラッソ法の注目すべき特徴は、疎らさである。すなわち、PFS(OS)と相関しないペプチドの回帰係数であれば、ゼロとして評価しうる。この特徴に基づき、本発明者らは、患者の予後予測に有用であると期待されるいくつかのペプチドを同定した。選択されたペプチドに対して反応性のある抗体量が患者の予後予測に実際に有用であるかを調べるために、コックス回帰解析および時間依存的ROC解析(27)を適用した。臨床病理学的特徴のみによるコックス回帰ならびに各ペプチドに対して反応性のある抗体量と臨床病理学的特徴の両方によるコックス回帰を介して、ROC曲線下面積(AUC)を危険性スコアについて評価した。ブートストラップ法による1000回の反復についてのP値を計算してAUCの同等性を検定することにより、AUCを比較した。統計学的解析は、R version 2.13ソフトウェアおよびSAS version 9.3ソフトウェア(SAS Institute、Cary、NC)により実施した。
【0040】
2.結果
(1)患者の特徴および生存解析
42例の患者の臨床学的特徴を、表1に示す。25例(59%)の患者が女性であり、24例(57%)が非喫煙者であり、全患者の年齢の中央値は63.5歳(範囲:38〜82歳)であった。38例(90%)の患者が腺がんを有し、34例(80%)は全身状態良好であり(Eastern Cooperative Oncology Groupによる評定尺度が0)、15例の患者(32%)には第一選択の化学療法としてEGFR−TKI治療が施された。EGFR突然変異の種類について述べると、8例の患者がエクソン19に欠失を有し、13例の患者がエクソン21にL858Rミスセンス突然変異を有し、21例の患者が野生型を有していた。
【0041】
解析の時点において、追跡期間の中央値は、418日間(範囲:16〜1532日間)であった。PFSの中央値は、201日間(範囲:11〜1379日間)であり、OSの中央値は、418日間(範囲:16〜1532日間)であった。ゲフィチニブ治療の開始後におけるPFSおよびOSについてのカプラン−マイヤー解析を、図1に示す。ログランク検定により、ゲフィチニブ治療の結果として、EGFR突然変異を有する患者におけるPFSは、突然変異を有さない患者におけるPFSより有意に延長された(中央値347日に対して54日、P=0.0029)(図1A)が、これら2つの患者群のOSの間には有意差が認められない(それぞれ、中央値314日に対して128日、P=0.1095)(図1B)ことが明らかとなった。突然変異を有する患者と野生型の患者との間におけるこのPFSの相違は、いずれの種類のEGFR突然変異についても明らかであった(図1C、D)。
【0042】
(2)EGFR由来ペプチドに対する抗体量とゲフィチニブによる治療を受けたNSCLC患者におけるEGFR突然変異との間の相関
本発明者らはまず、60種類の異なるペプチドの各々に対して反応性のある抗体が、NSCLC患者に由来する血漿または血清において、Luminex(登録商標)システムによって定量可能であるかを調べた(表3、図3Aおよび3B)。各ペプチドに対して反応性のある抗体量がEGFR突然変異と相関するかについて解析し、エクソン21の突然変異を有する患者では、ペプチドegfr_481_500、egfr_721_740、egfr_741_760に対する抗体量が、エクソン21の突然変異を有さない患者におけるより有意に高いことを見出した(egfr_481_500についてP=0.017;egfr_721_740についてP=0.036;egfr_741_760についてP=0.007)。これらの3つのペプチドにおいて、エクソン21の突然変異を有する患者における抗ペプチド抗体量の中央値は、エクソン21の突然変異を有さない患者における抗ペプチド抗体量の中央値の約2倍であった(表3)。一方、egfr_841_860に対する抗体量は、エクソン19に欠失を有する患者では、欠失を有さない患者より有意に低かった(P=0.047)。egfr_1001_1020に対する抗体量は、エクソン19に欠失を有する患者において有意に高かった。その他のペプチドに対して反応性のある抗体量は、EGFR突然変異との相関を有さなかった。
【0043】
(3)EGFR由来ペプチドに対する抗体量とゲフィチニブにより治療したNSCLC患者における生存との間の関係
さらに、抗ペプチド抗体量が、ゲフィチニブによる治療後のNSCLC患者のPFSおよびOSと十分に相関するかどうかを調べた。本発明者らは、全ペプチドのうちの多くのp値が5%未満であり、コックス回帰において38種類および32種類のペプチドのp値が5%未満であり、さらにFDRを5%のレベルに制御しても、PFSについて有意な35種類のペプチドおよびOSについて有意な20のペプチドが同定されることを見出した(表4)。本発明者らはまた、各ペプチドに対する抗体量が腫瘍縮小効果(CRまたはPR)と相関するかについても調べた。ロジスティック回帰解析により、いずれのペプチドに対する抗体量も腫瘍縮小効果とは相関しないことが示された(データ非提示)。
【0044】
(4)患者の予後予測に有用なペプチドの同定
前述のとおり、多くのペプチドに対する抗体量がPFSおよび/またはOSと有意に相関した。多くのペプチドに対する抗体量が、中程度または高度に相関していた(データ非提示)。これにより、比較的少数のペプチドに対する抗体量であっても、患者の予後予測に有用な規則の構築に十分でありうることが示唆された。ラッソペナルティーを伴うコックス回帰から、本発明者らは、egfr_41_60、egfr_61_80、およびegfr_481_500に対する抗体量がPFSに対して比較的大きな効果を及ぼし、egfr_41_60、egfr_481_500、およびegfr_881_900に対する抗体量がOSに対して比較的大きな効果を及ぼすことを見出した(PFSおよびOSについてのソリューションパス(solution path)を、それぞれ図5Aおよび5Bに示す)。PFSについての予測規則を構築するため、egfr_41_60、egfr_61_80、およびegfr_481_500に対する抗体量を用いた。また、egfr_41_60に対する抗体量およびegfr_881_900に対する抗体量は強く相関していた(スピアマンの順位相関係数は、0.71であり、P<0.001あった)ため、本発明者らは、OSについてはegfr_41_60およびegfr_481_500に対する抗体量を用いた。表2Aには、交絡因子となる可能性があるPS、年齢、性別、および喫煙の状態について調整した、egfr_41_60、egfr_61_80、およびegfr_481_500に対する抗体量を用いたPFSについてのコックス回帰の結果を示した。3つのペプチド全てが、臨床病理学的特徴とは独立した有意な予後規定因子であることが見出された(egfr_41_60についてはP=0.001であり、egfr_61_80についてはP=0.020であり、egfr_481_500についてはP=0.028であった)。表2Bには、egfr_41_60およびegfr_481_500に対する抗体量を用いたOSについてのコックス回帰の結果を示した。いずれのペプチドに対する抗体量も、臨床病理学的特徴とは独立した有意な予後規定因子であることが見出された(egfr_41_60についてはP=0.018であり、egfr_481_500についてはP=0.027であった)。選択したペプチドに対する抗体量の限界効果を把握するため、図3Aおよび図3Bのそれぞれに、選択したペプチドに対する抗体量の高値群および低値群における、PFSおよびOSについてのカプラン−マイヤープロットを示す(臨床病理学的特徴による影響については調整していない)。また、時間依存的ROC解析を用いて、臨床病理学的特徴にペプチドに対する抗体量を追加することにより、患者の予後予測が改善されるかを調べた。図4Aおよび4Bは、ペプチドに対する抗体量と臨床病理学的特徴、および臨床病理学的特徴のみを用いて、表2A(PFSに関する)および表2B(OSに関する)に示すコックス回帰により評価した、1年間および2年間の危険性スコアのROC曲線を示す。ROC曲線は、1年間および2年間のPFSについての診断が実質的に改善されることを示す(AUCの比較についてP<0.001)。OSについても、1年間および2年間の時間依存的ROC曲線のAUCが、ペプチドに対する抗体量を追加することにより、臨床病理学的特徴のみの場合より有意に大きくなった(P<0.001)(図4Cおよび4D)。したがって、時間依存的ROC解析は、臨床病理学的特徴にペプチドに対する抗体量を追加することにより、PFSとOSのいずれについても、より正確な患者の予後予測が可能となることを示した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2A】
【0047】
【表2B】
【0048】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【表3-8】
【表3-9】
【表3-10】
【表3-11】
【表3-12】
【0049】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【0050】
参考文献
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【配列表フリーテキスト】
【0051】
配列番号1:ヒトEGFR
配列番号2:EGFR由来ペプチド(EGFR41−60)
配列番号3:EGFR由来ペプチド(EGFR61−80)
配列番号4:EGFR由来ペプチド(EGFR481−500)
配列番号5:EGFR由来ペプチド(EGFR881−900)
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]